物理/波の性質

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(版間での差分)
(波の重ね合わせの原理)
(波面と波面の形 )
 
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=  波の性質=
=  波の性質=
波には色々あるが、この節では波に共通する性質を学ぶ。<br/>
波には色々あるが、この節では波に共通する性質を学ぶ。<br/>
 +
参考文献;
*[[wikibooks_ja:高等学校理科_物理I_波/波の性質|ウィキブックス(高等学校理科_物理I_波/波の性質)]]
*[[wikibooks_ja:高等学校理科_物理I_波/波の性質|ウィキブックス(高等学校理科_物理I_波/波の性質)]]
-
で学んでください。<br/>
 
-
このテキストでは、分子レベルの運動とのかかわりを補足して、波の性質を述べます。
 
== 波の次元  ==
== 波の次元  ==
張った弦の振動のように、一次元空間を伝わる波を一次元の波、<br/>
張った弦の振動のように、一次元空間を伝わる波を一次元の波、<br/>
-
水面のような2次元の空間を伝わる波を'''2次元の波'''、 <br/>  
+
水面のような2次元の空間を伝わる波を'''2次元の波'''<br/>  
空中や水中を伝わる音のように、3次元空間を伝わる波を'''3次元の波'''という。
空中や水中を伝わる音のように、3次元空間を伝わる波を'''3次元の波'''という。
-
==波面と波面の形 ==$W(t)$
+
 
-
波線・波面; 波の山をつないだ図形や波の谷をつないだ図形のこと。<br/>  
+
==波面と波面の形 ==
 +
波線・波面; 波の山をつないだ連続する図形や波の谷をつないだ連続図形のこと。<br/>  
2次元の波では曲線になり'''波線'''という。<br/>
2次元の波では曲線になり'''波線'''という。<br/>
3次元の波では曲面になり'''波面'''という。 <br/> <br/> 
3次元の波では曲面になり'''波面'''という。 <br/> <br/> 
-
波面が平面になる3次元の波を[[wikipedia_ja:平面波 |'''平面波''']]という。 <br/>  
+
波面が平面になる3次元の波を[[wikipedia_ja:平面波 |'''平面波''']]という。 <br/>
また波面が球面になる3次元の波を[[wikipedia_ja:球面波 |'''球面波''']]という。  <br/>
また波面が球面になる3次元の波を[[wikipedia_ja:球面波 |'''球面波''']]という。  <br/>
-
一様で、方向性のない3次元の媒体中の一点に変位を与え波を発生させると、 <br/>
+
2次元の波で、波線が直線になるものを2次元の平面波、波線が円になるものを2次元の球面波と便宜的に呼ぼう。<br/>
 +
一様で、方向性のない3次元の媒体中の一点に方向性の無い変位を与え波を発生させると、 <br/>
この点波源から全く同じ性質の波が、あらゆる方向に伝わっていくので、<br/>
この点波源から全く同じ性質の波が、あらゆる方向に伝わっていくので、<br/>
波面は球面になる。<br/>
波面は球面になる。<br/>
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ある時刻tにおける波面$W(t)$を、その微小時間 $\delta t(>0)$後に観測すると、<br/>
ある時刻tにおける波面$W(t)$を、その微小時間 $\delta t(>0)$後に観測すると、<br/>
その位置を少し変えている。その波面を$W(t+\delta t)$ とかく。<br/>
その位置を少し変えている。その波面を$W(t+\delta t)$ とかく。<br/>
-
時刻 t の波面の一点 P から、
+
時刻 t の波面の一点 P から、<br/>
-
この波面に直行する直線をひき、波面$W(t+\delta t)$ との交点を P' とすると、P' は波面$W(t)$上の一点Pが進行した場所と考えられる。<br/>
+
この波面に直行する直線をひき、波面$W(t+\delta t)$ との交点を P' とすると、<br/>
-
波の PP'間における平均速度は、 $\frac{PP'}{\delta t}$ である。<br/>
+
P' は波面$W(t)$上の一点Pが進行した場所と考えられる。<br/>
-
$\lim_{\delta t \to 0}$ をとると、波面の一点Pにおける、時刻tの瞬時速度が得られる。
+
波の PP'間における平均速度は、 $\frac{\vec{PP'}}{\delta t}$ である。<br/>
 +
$\lim_{\delta t \to 0}$ をとると、波面の一点Pにおける、時刻tの波の瞬時速度が得られる。
-
== 波の発生の仕組みと連続波とパルス波、縦と横波 ==
+
== 波の発生の仕組み及び連続波とパルス波、縦波と横波 ==
変位に対して、もとに戻ろうとする力が生じる物質(注)では、 <br/>  
変位に対して、もとに戻ろうとする力が生じる物質(注)では、 <br/>  
ある場所にわずかな、変位が与えられると <br/>  
ある場所にわずかな、変位が与えられると <br/>  
-
元の位置に戻ろうとして振動を生じ(波源) <br/>  
+
元の位置に戻ろうとして振動を生じ('''波源''') <br/>  
これが隣接する媒質に力を与えて隣接部に振動をおこし、 <br/>  
これが隣接する媒質に力を与えて隣接部に振動をおこし、 <br/>  
物質(媒質)全体に振動が伝わっていく。<br/>  
物質(媒質)全体に振動が伝わっていく。<br/>  
これが波である。<br/> 
これが波である。<br/> 
-
(注)変位に対して復元力の働く性質のことを弾性といい、
 
-
弾性が原因でおこる波を弾性波という。 
 
===連続波とパルス波  ===
===連続波とパルス波  ===
波源の振動の持続回数により、2種類の波がおこる。<br/>
波源の振動の持続回数により、2種類の波がおこる。<br/>
49 行: 49 行:
====縦波  ====
====縦波  ====
圧縮・膨張に対する復元力を持つ媒質では、波源が急激に変位すると、<br/> 
圧縮・膨張に対する復元力を持つ媒質では、波源が急激に変位すると、<br/> 
-
その変位方向の2つの隣接部分の一方は、圧縮され密になり、他方は膨張し租になる。<br/> 
+
その変位方向の2つの隣接部分の一方$A_1$は、圧縮され(密度が大きくなり)、圧力は上がる。<br/> 
-
すると圧縮側の圧力がその隣接部分の圧力より高くなり、その部分を圧縮する。<br/> こうして圧力の高い部分が媒質の振動方向の片側を伝わっていく。<br/> 
+
すると、$A_1$と隣接する波源の変位方向の部分$A_2$は<br/>
-
他方、媒質の変位により、膨張した側では、圧力がその隣接部分より小さくなり、<br/>隣接部分からおされて圧縮され圧力を回復していくが、隣接部分は圧力を下げる。<br/>こうして、圧力の低い部分が、媒質の振動方向の逆側を伝わっていく。<br/> 
+
$A_1$部分の媒質からの圧力を受けて圧縮され、圧力をあげる。<br/>
-
この波は、媒質の振動が波の進行方向と平行なので、<br/> 
+
このとき、$A_1$部分は膨張し、密度を下げる。<br/>
-
'''縦波'''(longitudinal waves)という。 <br/> 
+
このメカニズムにより、密度の振動が伝搬していく。
 +
 
 +
他方、波源の変位により、膨張し密度を下げた側でも同じメカニズムで、媒質の粗密の振動が、波源の変位方向(向きは逆)に伝搬していく。<br/>
 +
 
 +
この波は、媒質の粗密(圧力)の振動が波の進行方向と平行なので、<br/> 
 +
'''縦波'''(longitudinal wave)という。 <br/> 
 +
'''粗密波'''(compression wave)とも呼ばれる。
==== 横波 ====
==== 横波 ====
-
媒質が横ずれに対して復元力を持つ場合では、別のタイプの波が生じる。<br/> 
+
媒質が、横ずれに対して復元力を持つ場合では、別のタイプの波が生じる。<br/> 
-
この場合、波源が変位したとき、<br/> 
+
この場合、波源となる媒質部分が移動したとき、<br/> 
-
波源は、変位方向と直角(上下と表現する)の隣接部分と引き合って、引きずる。<br/>
+
波源は、変位方向と直角(上下と表現する)の隣接部分を引きずる。<br/> 
このため、波源の左右への振動により、<br/> 
このため、波源の左右への振動により、<br/> 
上下にある隣接部分もやや遅れて引きずられて
上下にある隣接部分もやや遅れて引きずられて
-
左右に振動しこれが媒質全体に伝わっていく。<br/> 
+
その位置を左右に振動させ、これが媒質の上下方向の全体に伝わっていく。<br/> 
この波の進行方向(上下)と、媒質の振動方向(左右)は直交するので、<br/> 
この波の進行方向(上下)と、媒質の振動方向(左右)は直交するので、<br/> 
-
'''横波'''(transverse waves)という。<br/> 
+
'''横波'''(transverse wave)という。<br/> 
-
気体や液体は、横ずれに対して復元力を持たないため、横波は発生しない。
+
張った弦の振動が横波の例である。<br/> 
 +
気体や液体の内部では、横ずれに対して復元力がないため横波は発生しない。
====横波でも縦波でもない波====
====横波でも縦波でもない波====
70 行: 77 行:
====弾性波====
====弾性波====
-
=====弾性波=====
 
媒質の変位により生じる波を'''弾性波'''と呼ぶ。
媒質の変位により生じる波を'''弾性波'''と呼ぶ。
-
縦波、横波は弾性波である。
 
=====弾性波を生じない物質=====
=====弾性波を生じない物質=====
2章で述べたように、かたい固体を理想化して、全く変形しない固体を考えて、剛体と名付けた。<br/> 
2章で述べたように、かたい固体を理想化して、全く変形しない固体を考えて、剛体と名付けた。<br/> 
-
剛体では、圧縮、変形が起こらないので、剛体の中には波は発生しない。
+
現実の固い物質を理想化した剛体は、<br/>
 +
どんなに外力を加えても圧縮、変形が起こらないので、剛体の中には波は発生しない。
=====現実の物質は弾性波を生じる=====
=====現実の物質は弾性波を生じる=====
-
現実の物質は圧力をかければ、程度の差はあるが、圧縮し、元のもどろうとする力が発生するので、縦波はおこる。
+
現実の物質は圧力をかければ、<br/>
 +
程度の差はあるが、圧縮し、元のもどろうとする力が発生するので、縦波はおこる。
=====弾性波でない波=====
=====弾性波でない波=====
-
光や電波は電磁波という波の一種だが、媒質はない。<br/>
+
光や電波は[[wikipedia_ja:電磁波 |'''電磁波''']]という波の一種だが、真空中でもこの波は発生する。<br/>
-
真空中でもこの波は発生する。
+
したがって、波の媒質はなく、弾性波ではない。<br/>
あえて言えば、電磁波では、真空という空間が媒質で、<br/>  
あえて言えば、電磁波では、真空という空間が媒質で、<br/>  
-
電気的な空間のゆがみ(電場、磁場)の振動が伝搬して起こる<br/> 
+
空間の電気的なゆがみ(電場、磁場と呼ぶ。次章を参照のこと)の<br/>
-
横波と考えられる(電磁波については10章で学ぶ)。<br/>
+
振動が伝搬して起こると考えられる。<br/> 
 +
この歪みは電磁波の進行方向と直交する方向におこるため、電磁波は横波である。<br/>
次の記事も参考に。
次の記事も参考に。
*[[wikipedia_ja:縦波と横波|ウィキペディア(縦波と横波)]]
*[[wikipedia_ja:縦波と横波|ウィキペディア(縦波と横波)]]
91 行: 99 行:
媒質が空気である波は音(あるいは音波)であり、縦波である。  <br/>  
媒質が空気である波は音(あるいは音波)であり、縦波である。  <br/>  
媒質が水の場合は水面波や水中の音波となる。 <br/>  
媒質が水の場合は水面波や水中の音波となる。 <br/>  
-
水面のさざ波や小さな波('''水面波''')は、<br/>
+
'''水面波'''は、<br/>
-
水の表面張力や重力が、ずれに対する復元力になるので,横波の成分をもつ。<br/>
+
水面を伝わる、さざ波や小さな波のことである。<br/> 
 +
この波は、水面の上昇や下降時に、水の表面張力や重力が復元力として働くため生じる。<br/>
ところが、ある場所の水面が上下振動しても、 <br/>  
ところが、ある場所の水面が上下振動しても、 <br/>  
その鉛直下方にある水は殆ど膨張・圧縮されないので、 <br/>  
その鉛直下方にある水は殆ど膨張・圧縮されないので、 <br/>  
水面上昇時には隣接する水面下の水が流れ込み、下降時には、鉛直下方の水が隣接する水面の下方に押し出され、<br/> 
水面上昇時には隣接する水面下の水が流れ込み、下降時には、鉛直下方の水が隣接する水面の下方に押し出され、<br/> 
-
波の進行方向する方向と平行の振動が起こる(注)。<br/>  
+
波の進行方向する方向と平行の振動が起こる。<br/>  
-
こうして水の表面の水粒子は波が通過するとき、上下の振動に、<br/>
+
こうして水の表面部分は波が通過するとき、上下の振動に、<br/>
-
波の進行方向と平行な振動を合成した、円形(あるいは楕円形)の振動をする。<br/>
+
波の進行方向と平行な振動を合成した、円形の振動をする。<br/>
従って、縦波でも横波でもない。 <br/><br/>
従って、縦波でも横波でもない。 <br/><br/>
-
 
-
ガラスやピアノの弦などの固体をたたくとその場所の変形・振動が周りに伝わり、横波が発生する。
 
固体は曲げやずれに対する復元力を持つので横波を起こすが、 <br/>  
固体は曲げやずれに対する復元力を持つので横波を起こすが、 <br/>  
-
わずかとはいえ、圧縮・膨張して、強い復元力を生じるため、縦波も起こす。 <br/>  
+
わずかとはいえ、圧縮・膨張して、強い復元力を生じるため、縦波も起こす。 <br/> 
-
[[wikipedia_ja:地震波|地震波]]は地殻の波だが <br/>  
+
例えば、[[wikipedia_ja:地震波|地震波]]は地殻の波だが <br/>  
最初に到達するP波は縦波で、 <br/>  
最初に到達するP波は縦波で、 <br/>  
遅れて到達するS波は横波である。 <br/>  
遅れて到達するS波は横波である。 <br/>  
110 行: 117 行:
===波形の数式による表示  ===
===波形の数式による表示  ===
-
波は、任意の位置 $\vec x$ と任意の時刻 $t$   における,<br/> 
+
まず、<br/>
-
媒質の平衡状態(波がない静止状態)からの変位量であらわせる。<br/> 
+
波がなく平衡状態にある媒質が静止してみえる慣性系を選び、<br/>
-
==== 変位量について  ====
+
時刻原点は考察に都合のよいものを選択する。<br/>
-
波は、媒質を連続体としてみれば、<br/> 
+
この座標系で表示した場所xと時間tにおける媒質の変位量を数式で表示すればよい。<br/>
-
媒質の一部の振動が、隣接する媒質の振動を引き起こし、<br/> 
+
波を数式表示すると、数学を利用して、波の色々な性質を知ることができる。<br/>
-
次々と媒質の振動が伝搬していく現象である(注1参照)。<br/> 
+
====変位量について====
-
この波を数式で表すには、<br/>
+
波の変位量 $y(x,t)$ としては、幾つかのものが考えられ、どれを選択するかは、なかなか難しい問題である。<br/><br/>
-
任意の場所と時間における媒質の圧力や密度、巨視的な位置の変化量などを
+
縦波では、<br/>
-
数式で表示すればよい。<br/>
+
・時刻tにおける場所xでの、媒質の密度や圧力の平衡状態からの変化量を変位量とする。<br/>
-
これらの変化量を、変位量という。<br/>
+
・平衡状態でxにあった媒質の時刻tにおける位置の変化量を、変位量に取る。<br/>
-
波を数式表示すると、数学を利用して、波の色々な性質を知ることができる。<br/><br/>
+
また、媒質の位置そのものでなく、
-
(注1)微視的にみれば、<br/> 
+
場所xの時刻tでの媒質の速度を変位量としてとる。<br/>
-
媒質は膨大な数の分子からできており、
+
等々。<br/><br/>
-
波は、これらの分子の運動(注2参照)が次々と隣接する分子の運動を引き起こし、<br/>運動が伝搬する現象である。<br/>
+
横波では、<br/>
-
しかし膨大な数(注3参照)の個々の分子の、<br/>
+
・波がないとき位置座標xにあった媒質が時刻tでいくら変位したかを変位量とする。<br/>
-
運動を時間的に追うことは不可能であろう。<br/>
+
・光を含む電磁波は、真空を媒質とする横波で、場所xと時刻tでの、波の進行方向とは垂直な空間の電気的な歪み(3次元ベクトル)が、変位量になる。次章で述べる。<br/>
-
また我々が知りたいのは、<br/>
+
等々。<br/><br/>
-
媒質の個々の分子の運動の平均的な結果として生じる、<br/>
+
波の性質を調べるとき、何を変位量として選ぶかに依存する概念(例えば反射における自由端や固定端)があるので、変位量に注意する必要がある(後述)。<br/><br/>
-
波の圧力や密度<br/>
+
 
-
あるいは、巨視的には体積を無視できるが、膨大な数の分子で構成される媒質の微小部分の位置の巨視的な変化量<br/>
+
-
なので、個々の分子の軌道を求める必要もない。<br/>
+
-
(注2)ある位置を中心にした振動であることが多いが、<br/>
+
-
波の表面波のように、円運動に近い動きの場合もある。<br/>
+
-
しかもこれらの運動に熱運動が加わっているため、分子の運動は複雑である。<br/>
+
-
いづれにしても、媒質自体(それを構成している分子たち)は、波と一緒に動くのではない。<br/>
+
-
(注3)気体でも標準状態(一気圧、0℃)では1$cm^3$ の中に、<br/>
+
-
約 $10^{19}$ 個の分子がある。<br/>
+
-
一辺が$\frac{1}{100}$mmの微小な立方体(正6面体)中にさえ、 $10^{10}$ 個の分子がある。<br/><br/>
+
-
==== ☆☆ある点での圧力、密度の意味  ====
+
(注)気体や液体(流体と総称する)の縦波における媒質の位置変化量について;<br/>
-
ある点pでの圧力とか密度というのは、本来は粒子(原子・分子)からなる物質を <br/> 
+
平衡状態で、座標xの場所にある流体が、<br/>
-
[[wikipedia_ja:連続体力学 |連続体]]とみなして定義した概念で、現実の理想化である。 <br/> 
+
波の到来でその位置をどのように変えるか決定することは、ミクロ(微視的)には出来ない。<br/>
-
物質を連続体とみなせば、 <br/> 
+
なぜならば、<br/>
-
ある点pの圧力 $P(p)$ とは、 <br/> 
+
座標 $\vec x$ の場所にある流体や固体とは、その点にある分子ではなく
-
p点を含む微小平面 $H(p)$ での圧力を $P_{H(p)}$, 面積を $|S_{H(p)}|$ と書くとき、 <br/> 
+
<br/>
-
$P(p):=\lim_{|S_{H(p)}|\to 0}P_{H(p)}$ <br/> 
+
(マクロな観測では一点とみなせる)座標xを中心とする微小体積の中にある膨大な数の流体や固体分子全体をさす。<br/>
-
である。 <br/> 
+
固体の場合には、これらの分子たちは、<br/>
-
しかし、現実には、あらゆる物質は原子・分子から構成されている粒子系であり、連続体ではない。 <br/> 
+
それぞれが決まった位置の周りを熱運動等で振動するだけで塊を形成している。<br/>
-
圧力は3章4節の気体の分子運動論で説明したように、<br/>
+
波がきてもこの塊が塊を保ったまま動くだけなので、<br/>
-
膨大な個数の気体分子が、熱運動で壁にぶつかり反射するときの、<br/> 
+
マクロな観測では、波が到来しても、点 $\vec x$ にあた媒質が点として移動するように見える。<br/>
-
単位時間、単位面積当たり力積の和できまる(注1参照)。<br/> 
+
この場合には、波の変位量として、位置変化量を採用できる。<br/>
-
乱雑・無規則な衝突の壁にあたえる力は、<br/> 
+
しかし、流体の場合、ある時点で、xの周辺にいる分子たちは<br/>
-
少数の気体分子の場合には、時間的変動が大きく、<br/> 
+
波が来ない平衡状態でも、熱運動のためやがて拡散して<br/>
-
その平均値である圧力は意味を持たない。<br/> 
+
ばらばらに四散してしまう。<br/>
-
しかし、膨大な個数の分子の壁への衝突では、<br/> 
+
水中にインクを静かに垂らしてもやがて拡散してしまうように。<br/>
-
時間的な変動が打ち消され、殆ど一様な力となるため平均値は意味を持ち、<br/> 
+
しかし、マクロ(巨視的)には、波が来た瞬間のごく短時間には、まだ塊の状態で動くとみなして、位置変化を変位量とすることができる。<br/>
-
巨視的な測定もできる。<br/> 
+
-
そのため、$|S_{H(p)}|$を零に近づけていくと、$P_{H(p)}$ が決められなくなり、<br/> 
+
-
$\lim_{|S_{H(p)}|\to 0}P_{H(p)}$<br/> 
+
-
は、不可能である。<br/> 
+
-
現実には、圧力が意味を持つ最小の面積(注2参照)での圧力で近似値を定める。<br/><br/>  
+
-
また、ある点pの時刻tでの密度とは、<br/>
+
-
時刻tのおけるp点の周りの単位体積当たりの質量のことである。<br/>
+
-
場所によって密度に粗密があるときは、<br/>
+
-
時刻tで、p点に非常に近い微小体積 $V(p)$ の媒質の質量 <br/>
+
-
$m_{V(p)}(t)$ を,その体積で割ったもの $\frac{m_{V(p)}(t)}{|V(p)|}$ として定義する。<br/>
+
-
ここで、 $|V(p)|$ は $V(p)$ の体積である。<br/>
+
-
物質を連続体と考えるので、体積を零にしていくときの極限 <br/>
+
-
$\lim_{|V(p)|\to 0}\frac{m_{V(p)}(t)}{|V(p)|}$  <br/>
+
-
が、その点における媒質の密度である。<br/>
+
-
しかし、実際の媒質は、微視的に見れば、<br/>
+
-
連続体ではなく膨大な数の分子からなる系なので、<br/>
+
-
分子の大きさのレベルの体積を考えると、その中に分子がいることは殆どなく、<br/>
+
-
密度は殆ど至る所で零になる。<br/>
+
-
また分子のいる場所では密度が非常に大きくなる。<br/>
+
-
また、時刻がわずかに変わるだけでも、分子の運動のためこの場所が乱雑に変動する。<br/>
+
-
したがって、密度という概念が意味を持つには、ある程度以上の体積の媒質を必要とする。<br/><br/>
+
-
(注1)気体の圧力Pは、単位時間、単位面積当たりの力積の和である。<br/>
+
-
厳密には、点pの時刻tでの圧力 $P(p,t)$ とは、<br/>
+
-
時刻tから $t+\delta t$ の間に、<br/>
+
-
pを含むある平面のpを含む面素 $H(p)$ へ分子が与える力積の合計値を<br/>
+
-
$I(H(p),\delta t)$ とかくと、<br/>
+
-
$P(p,t):=\lim_{\delta t\to 0}\lim_{|H(p)|\to 0}\frac{I(H(p),\delta t)}{|\delta t||H(p)|}$  <br/>
+
-
ここで、 $|H(p)|$ は面積を表す。<br/>
+
-
(注2)圧力や密度が意味を持つ面や体積の目安は、<br/>
+
-
分子が互いに衝突するまでに運動する距離(平均自由行程)lを一辺とする<br/>
+
-
正方形と立方体で与えられる。<br/>
+
-
標準状態(一気圧、0℃)の気体では、 $l\approx 10^{-6}cm$ である。<br/>
+
-
また、圧力が意味をもつ時間の目安は、<br/>
+
-
分子が互いに衝突までの平均時間で与えられ、<br/>
+
-
標準状態の気体で $10^{-10}s$ 程度である。<br/>
+
-
これよりはるかに長い時間を周期とし、<br/>
+
-
lよりはるかに大きい波長をもつ波を扱う場合には、<br/>
+
-
圧力や密度は、各瞬間に、各点で定義できると考えてよい。<br/><br/>
+
-
====一次元波動の波形の数式表示 ====
+
====一次元波動の波形の数式表示====
3次元の波では、<br/> 
3次元の波では、<br/> 
その波形は、独立変数が4つ(3次元空間の場所と時間)で、数式の扱いは難しくなり、<br/> 
その波形は、独立変数が4つ(3次元空間の場所と時間)で、数式の扱いは難しくなり、<br/> 
207 行: 167 行:
同様に球面波は、波源からあらゆる方向に<br/> 
同様に球面波は、波源からあらゆる方向に<br/> 
速度も振動の仕方も全く同じ一次元波が放射されるので、<br/> 
速度も振動の仕方も全く同じ一次元波が放射されるので、<br/> 
-
ひとつの一次元波を解析すればよい。<br/> <br/> 
+
ひとつの一次元波を解析すればよい。<br/>  
===== 初期時刻の波形の表示  =====
===== 初期時刻の波形の表示  =====
時刻の原点(初期時刻)を考察しやすいように選ぶ。<br/>
時刻の原点(初期時刻)を考察しやすいように選ぶ。<br/>
222 行: 182 行:
===== 時刻tの波形の表示  =====
===== 時刻tの波形の表示  =====
-
式(1)で与えられる波がx軸の正方向に速度 $v$ で進行しているとき(注参照)、<br/>
+
式(1)で与えられる波がx軸上を速度 $v$ で進行しているとき(注参照)、<br/>
-
任意の時刻tの波形はどのように表示されるだろうか。<br/>
+
任意の時刻tの波形はどのように表示されるだろうか。<br/><br/>
-
命題 4.1<br/>
+
'''命題4.1'''<br/>
時刻0の波形を、<br/>
時刻0の波形を、<br/>
$y=f(x)\qquad \qquad (2)$<br/>
$y=f(x)\qquad \qquad (2)$<br/>
とする。<br/>
とする。<br/>
-
この波が、x軸の正方向に速度 $v$ で進行するとき、<br/>
+
この波が、x軸上を速度 $v$ で進行するとき、<br/>
その波は、<br/>
その波は、<br/>
$y=f(x-vt)$<br/>
$y=f(x-vt)$<br/>
234 行: 194 行:
証明;<br/>
証明;<br/>
任意の時刻tの波形を $y=g(x,t)$ とかく。
任意の時刻tの波形を $y=g(x,t)$ とかく。
-
この波形は、式(2)の波形をx軸の正方向に $vt$ 平行移動したものであるから、<br/>
+
この波形は、式(2)の波形をx軸に沿って $vt$ 平行移動したものであるから、<br/>
式(2)の波形のxでの変位量$f(x)$は、<br/>
式(2)の波形のxでの変位量$f(x)$は、<br/>
時刻tの波形では、 $x+vt$  の位置になっている。<br/>
時刻tの波形では、 $x+vt$  の位置になっている。<br/>
242 行: 202 行:
$y=g(x,t)=f(x-vt)\qquad \qquad (3)$<br/>
$y=g(x,t)=f(x-vt)\qquad \qquad (3)$<br/>
これが、速度vでx軸の正方向に進む1次元の波の一般形である。<br/>
これが、速度vでx軸の正方向に進む1次元の波の一般形である。<br/>
-
(注)vが負の時は、x軸の負の方向に進む。<br/>
+
(注)vが負の時は、x軸の負の方向に進む。<br/><br/>
=== 単振動と正弦波 ===
=== 単振動と正弦波 ===
248 行: 208 行:
正弦関数にしたがって振動する単振動である。<br/>
正弦関数にしたがって振動する単振動である。<br/>
媒質の任意の一点を固定し、その点の時刻tの変位yが正弦関数<br/>
媒質の任意の一点を固定し、その点の時刻tの変位yが正弦関数<br/>
-
$y=A\sin(\omega t+\theta)\qquad \qquad (4)$<br/>
+
$y=A\sin(\omega t+\theta)\qquad (\omega \neq 0)\qquad \qquad (4)$<br/>
で表せるとき、この点は、単振動を行うという。<br/>
で表せるとき、この点は、単振動を行うという。<br/>
2章の力学で、[[wikipedia_ja:フックの法則 |フックの法則]](注参照)を満たす「ばね」につながれた<br/>
2章の力学で、[[wikipedia_ja:フックの法則 |フックの法則]](注参照)を満たす「ばね」につながれた<br/>
254 行: 214 行:
[[wikipedia_ja:自由振動|ウィキペディア(自由振動)]] の 1 単振動 参照。<br/>
[[wikipedia_ja:自由振動|ウィキペディア(自由振動)]] の 1 単振動 参照。<br/>
媒質の復元力がフックの法則を満たすならば、<br/>
媒質の復元力がフックの法則を満たすならば、<br/>
-
外力を受けて変位した場所は単振動を起こし、これが媒質全体に伝搬していく。
+
外力を受けて変位した場所は単振動を起こし、この単振動が媒質全体に伝搬していく。<br/>
-
(注)フックの法則;復元力は変位量に正比例する。
+
(注)フックの法則;復元力は変位量に正比例するという経験則。
====単振動の振動数、周期と角速度 ====
====単振動の振動数、周期と角速度 ====
式(4)中の <br/>
式(4)中の <br/>
$\quad$ $A$ は、変位の絶対値の最大値を表すので、振幅(amplitude)、<br/>
$\quad$ $A$ は、変位の絶対値の最大値を表すので、振幅(amplitude)、<br/>
$\quad$ $\omega t+\theta$ は、振動の位置を表す角で、位相(phase)あるいは位相角,<br/>
$\quad$ $\omega t+\theta$ は、振動の位置を表す角で、位相(phase)あるいは位相角,<br/>
-
$\quad $ $\omega$ は単位時間あたりの角度の変化量をあらわすので、角速度(angular velocity)<br/>
+
$\quad $ $\omega$ は単位時間あたりの位相角の変化量をあらわすので、角速度(angular velocity)<br/>
-
と呼ばれる。<br/>
+
$\quad$ $|\omega|$ は、角振動数<br/>
-
定義
+
と呼ばれる。<br/><br/>
-
$T:=\frac{2\pi}{\omega} \qquad \qquad (5)$ <br/>
+
'''定義'''<br/>
 +
$T:=\frac{2\pi}{|\omega|} \qquad \qquad (5)$ <br/>
を、式(4)で表される単振動の周期という。<br/>
を、式(4)で表される単振動の周期という。<br/>
-
$\nu=\frac{\omega}{2\pi} \qquad \qquad (6)$<br/>
+
$\nu=\frac{|\omega|}{2\pi} \qquad \qquad (6)$<br/>
を、単振動の振動数という。<br/><br/>
を、単振動の振動数という。<br/><br/>
-
この定義から、次の命題は明らかである。<br/>
+
この定義から、次の命題は明らかである。<br/><br/>
-
命題<br/>
+
'''命題4.2'''<br/>
$T=\frac{1}{\nu} \quad \nu=\frac{1}{T} \qquad \qquad (7)$<br/><br/>
$T=\frac{1}{\nu} \quad \nu=\frac{1}{T} \qquad \qquad (7)$<br/><br/>
周期と振動数の意味<br/>
周期と振動数の意味<br/>
-
$\quad$ $\sin\left(\omega (t+T)+\theta\right)=\sin\left(\omega (t+\frac{2\pi}{\omega})+\theta\right)$<br/>
+
任意の時刻tから時間がT経過して、時刻t+Tになるとき、<br/>
-
$\quad$ $=\sin (\omega t+2\pi+\theta)=\sin (\omega t+\theta)$<br/>
+
位相角が $\omega T=\omega \frac{2\pi}{|\omega|} =\pm 2\pi$ だけ進むので、<br/>ちょうど一回振動して元の変位に戻っている。<br/>
-
$\quad$なので、周期は波が一回振動して元に戻るまでの時間である。<br/>
+
周期Tは波が一回振動して元に戻るまでの時間(>0)である。<br/>
-
$\quad$ また、振動数は、振動運動が単位時間当たりに繰り返される回数であることが分かる。<br/>
+
また、振動数は、振動運動が単位時間当たりに繰り返される回数(>0)であることが分かる。<br/>
-
$\quad$但し、$\omega \lt 0$ のときは、T と ν を負数にして$\omega \gt 0$ の時と区別したものになっている。<br/><br/>
+
*[[wikipedia_ja:振動数|ウィキペディア(振動数)]]
*[[wikipedia_ja:振動数|ウィキペディア(振動数)]]
*[[wikipedia_ja:角速度|ウィキペディア(角速度)]]
*[[wikipedia_ja:角速度|ウィキペディア(角速度)]]
281 行: 241 行:
==== 正弦波 ====
==== 正弦波 ====
波形が正弦関数であらわせる連続波を'''正弦波'''という。<br/>
波形が正弦関数であらわせる連続波を'''正弦波'''という。<br/>
 +
媒質の復元力がフックの法則に従うならば、波源の振動も、それが伝搬した波に振動も、三角関数に従うため、正弦波が生じる。<br/>
 +
また、復元力がフックの法則を満たさない場合でも、<br/>
 +
変位量が小さい、振幅の小さい波では、復元力はほぼフックの法則に従うので、正弦波にちかい波が生じる。<br/>
 +
そのため、正弦波は最も基本的な波といえる。<br/>
振幅が $A(\gt 0)$ の正弦波の初期時刻 t=0 の波形は,一般に<br/>
振幅が $A(\gt 0)$ の正弦波の初期時刻 t=0 の波形は,一般に<br/>
-
$y=f(x)=A\sin (kx+\theta)$<br/>
+
$y=f(x)=A\sin (kx+\theta)  \qquad \qquad (8)$<br/>
と書ける。<br/>
と書ける。<br/>
ここで、$\theta$ は、初期時刻t=0の原点x=0での変位の位相であり、<br/>
ここで、$\theta$ は、初期時刻t=0の原点x=0での変位の位相であり、<br/>
'''初期位相'''という。<br/>
'''初期位相'''という。<br/>
-
この波はx が $\frac{2\pi}{k}$ だけ変わると同じ値になるので、<br/>
+
k は正、負両方になりえるので'''波数ベクトル'''(wave number vector),省略して波数という。(注参照)<br/>
-
波長は $\lambda=\frac{2\pi}{k}$ <br/>
+
隣り合う山の距離(隣り合う、等位相の点の距離)を、'''波長'''と呼ぶ。<br/><br/>
-
k を'''波数ベクトル'''(wave number vector),省略して波数という。<br/>
+
-
この波がx軸の正方向に速度vで進む(注参照)とき、その波は、命題4.1により<br/>
+
式(8)で波形が表される波はx が $\pm \frac{2\pi}{|k|}$ だけ変わると同じ値(等位相)になるので、<br/>
 +
波長は $\lambda=\frac{2\pi}{|k|}$ <br/>
 +
この波がx軸上を速度vで進むとき、その波は、命題4.1により<br/>
$y=f(x-vt)=A\sin \left(k(x-vt)+\theta\right)
$y=f(x-vt)=A\sin \left(k(x-vt)+\theta\right)
-
=A\sin \left(kx-kvt+\theta\right)\qquad \qquad (5)$<br/>
+
=A\sin \left(kx-kvt+\theta\right)\qquad \qquad (9)$<br/>
ここで、 <br/>
ここで、 <br/>
-
$\omega:=kv\qquad \qquad (6)$ <br/>
+
$\omega:=kv\qquad \qquad (10)$ <br/>
と置くと、<br/>
と置くと、<br/>
-
$y=f(x-vt)=A\sin \left(kx-\omega t+\theta\right)\qquad \qquad (7)$<br/>
+
$y=f(x-vt)=A\sin \left(kx-\omega t+\theta\right)\qquad \qquad (11)$<br/>
-
(注) $v\lt 0$ のときは、x軸の負方向に速さ $|v|$ で進む。<br/>
+
-
命題4.2<br/>
+
 
-
1次元の正弦波の波形は、<br/>
+
'''命題4.3'''<br/>
-
$y=A\sin \left(kx-\omega t+\theta\right)\qquad \qquad (8)$<br/>
+
1次元の正弦波の波形が、
 +
x軸上を $v=\frac{\omega}{k}$ の速度で進むならば<br/>
 +
$y=A\sin \left(kx-\omega t+\theta\right)\qquad \qquad (12)$<br/>
と表せる。<br/>
と表せる。<br/>
ここで、<br/>
ここで、<br/>
309 行: 275 行:
$\quad $ $\theta$ は,波の初期位相<br/>
$\quad $ $\theta$ は,波の初期位相<br/>
である。<br/>
である。<br/>
-
この波は、x軸の正方向に、 $v=\frac{\omega}{k}$ の速度で進む。<br/>
 
(証明)<br/>
(証明)<br/>
-
式(7)より、<br/>
+
波の速度$v$ とおくと、波数kの波は、式(9)より、<br/>
-
$y=A\sin \left(kx-\omega t+\theta\right)$<br/>
+
$y=A\sin \left(k(x-vt)+\theta\right)
-
が得られる。<br/>
+
=A\sin \left(kx-kvt+\theta\right)\qquad \qquad $<br/>
-
式(6)から、$\omega=kv$ なので、$v=\frac{\omega}{k}$<br/>
+
と書ける。<br/>
-
証明終わり。<br/><br/>
+
$v=\frac{\omega}{k}$ を代入すれば、式(12)が得られる。
 +
<br/>
 +
証明終わり。
===== 周期的な波の波長、振動数、周期、速度の関係  =====
===== 周期的な波の波長、振動数、周期、速度の関係  =====
-
命題4.3<br/>
+
'''命題4.4'''<br/>
正弦波の<br/>
正弦波の<br/>
波長を$\lambda$、波数をk、周期を $T$ 、振動数を $\nu$、角速度を $\omega$ とかくと、次の関係が成立つ。<br/>
波長を$\lambda$、波数をk、周期を $T$ 、振動数を $\nu$、角速度を $\omega$ とかくと、次の関係が成立つ。<br/>
-
(1) $T=\frac{1}{\nu},\quad \nu=\frac{1}{T},\quad T=\frac{2\pi}{\omega},\quad \nu=\frac{\omega}{2\pi},\quad \omega=2\pi \nu $<br/>
+
(1) $T=\frac{1}{\nu},\quad \nu=\frac{1}{T},\quad T=\frac{2\pi}{|\omega|},\quad \nu=\frac{|\omega|}{2\pi},\quad |\omega|=2\pi \nu $<br/>
-
(2) $\lambda=\frac{2\pi}{k}\quad $<br/>
+
(2) $\lambda=\frac{2\pi}{|k|}\quad $<br/>
-
(3) $v=\frac{\omega}{k}$、$v=\lambda \nu$<br/><br/>
+
(3) $v=\frac{\omega}{k}$、$|v|=\lambda \nu$<br/><br/>
-
略証;<br/>
+
証明;<br/>
(1) 一秒間に $\nu$ 回振動すれば、一回の振動にかかる時間(T)は $\frac{1}{\nu}$。<br/>
(1) 一秒間に $\nu$ 回振動すれば、一回の振動にかかる時間(T)は $\frac{1}{\nu}$。<br/>
これより、最初の2つの等式が成立つ。<br/>
これより、最初の2つの等式が成立つ。<br/>
-
一回の振動に要する時間Tは、位相角が2π進む時間でもあるので、$T=\frac{2\pi}{\omega}$。<br/>
+
一回の振動に要する時間T(>0)は、位相角が $\pm 2\pi$ 変わる時間でもあるので、<br/>
-
一秒間に $\nu$ 回振動する波は、その間に位相角が $2\pi \nu $ 進むので、
+
$T=\frac{2\pi}{|\omega|}$。<br/>
 +
一秒間に $\nu$ 回振動する波は、その間に位相角が $2\pi \nu $ 進むので、<br/>
$\omega=2\pi \nu $<br/>
$\omega=2\pi \nu $<br/>
-
(2) 波数がkである正弦波は、一般に次の式(8)で記述できる。<br/>
+
(2) 波数がkである正弦波は、一般に次の式(13)で記述できる。<br/>
-
$y=A\sin (kx-\omega t+\theta)\qquad \qquad (8)$<br/>
+
$y=A\sin (kx-\omega t+\theta)\qquad \qquad (13)$<br/>
波を波長 $\lambda$だけ、x軸に沿って移動させても、波形は一致するので、<br/>
波を波長 $\lambda$だけ、x軸に沿って移動させても、波形は一致するので、<br/>
$A\sin (kx-\omega t+\theta)=A\sin \left( k(x+\lambda)-\omega t+\theta \right) $<br/>
$A\sin (kx-\omega t+\theta)=A\sin \left( k(x+\lambda)-\omega t+\theta \right) $<br/>
-
これより、$k\lambda $ は、$2\pi$ の整数(n)倍。<br/>
+
これより、$|k|\lambda $ は、$2\pi$ の整数(n)倍。<br/>
-
波長より短い距離を移動させても、波形は一致しないので、 $n=1$ か $n=-1$。<br/>
+
波長より短い距離を移動させても、波形は一致しないので、 $n=1$ 。<br/>
-
kが正数のとき波長も正数なので、$n=1$<br/>
+
ゆえに、$|k|\lambda =2\pi$<br/>
-
ゆえに、$k\lambda =2\pi$<br/>
+
(3) $y=A\sin (kx-\omega t+\theta)=A\sin \left(k(x-\frac{\omega}{k}t)+\theta\right)$<br/>
(3) $y=A\sin (kx-\omega t+\theta)=A\sin \left(k(x-\frac{\omega}{k}t)+\theta\right)$<br/>
この波の位相角が $\theta$ である位置xは、<br/>
この波の位相角が $\theta$ である位置xは、<br/>
時間とともに $x=\frac{\omega}{k}t$に従って動く。<br/>
時間とともに $x=\frac{\omega}{k}t$に従って動く。<br/>
これより、波の速度は $v=\frac{\omega}{k}$ 。  <br/>
これより、波の速度は $v=\frac{\omega}{k}$ 。  <br/>
-
 $v=\frac{\omega}{k}=\frac{\omega}{2\pi}\frac{2\pi}{k}$ <br/>
+
 $|v|=\frac{|\omega|}{|k|}=\frac{|\omega|}{2\pi}\frac{2\pi}{|k|}$ <br/>
-
$\quad$ (1)と(2)の等式から、<br/>
+
$\quad$ (1)と(2)で示した等式から、<br/>
-
$=\nu \lambda$<br/><br/>
+
$\quad$ $=\nu \lambda$<br/><br/>
-
命題4.4<br/>
+
(注)この命題で得られた関係から、<br/>
 +
波数kと角速度 $\omega$ の符号を同時に変えても、他の定数は全く変化はない。<br/>
 +
従って、波数kは正負どちらを選んでもよいことが分かる。<br/>
 +
それに合わせて$\omega$の符号を選び、初期位相角を変えればよい。<br/>
 +
通常は、波数kは正に選ぶ。<br/>
 +
このことは、<br/>
 +
正弦関数が$ \sin(x)=\sin(-x \pm \pi)$ を満たすことから、直接導ける<br/>
 +
実際、<br/>
 +
$\sin\left(k(x-\frac{\omega}{k}t)+\theta \right)
 +
=\sin\left(-k(x-\frac{-\omega}{-k}t)-\theta \pm \pi \right) $ <br/>
 +
系;<br/>
 +
正弦波は、命題4.4の関係を利用すると、次のように色々な表現ができる。<br/>
 +
(1)$y=A\sin \left(k(x-vt)+\theta\right)\qquad \qquad (9)$<br/>
 +
(2)$y=A\sin \left(\omega (\frac{x}{v}-t)+\theta\right)$<br/>
 +
(3)$y=A\sin \left(2\pi \nu (t-\frac{x}{v})+{\theta}'\right)$<br/>
 +
$\qquad$ ここで、${\theta}'$ は適切に選んだ初期位相角。
 +
<br/><br/>
 +
 
 +
'''命題4.5'''<br/>
任意の場所xで、正弦波を観測すると、<br/>
任意の場所xで、正弦波を観測すると、<br/>
単振動を行う。<br/>
単振動を行う。<br/>
359 行: 344 行:
であり、単振動であることが分かる。証明終わり。<br/>
であり、単振動であることが分かる。証明終わり。<br/>
-
===波の伝搬速度 ===
+
====波の波長と周波数の関係  ====
-
今までは、波形が式(8)で表せるときの、波の速度などについて考えた。<br/>
+
波の速度の大きさが、媒質の性質だけで決まり、波長や振動数で変わらないので、<br/>
-
そこでは、波数kや位相角の角速度ωは既知であるとした。<br/>
+
命題4.4 より、$|v|=\frac{|\omega|}{|k|}=2\pi \frac{\nu}{|k|}=constant$(定数)<br/>
-
それでは、具体的な媒質の波のkやωはどのような値になるのだろうか。<br/>
+
これより、次の命題が成立つ。<br/><br/>
-
また、媒質のある場所が外力を受け振動を始め、<br/>
+
'''命題4.6'''<br/>
-
その振動が波として広がっていく様子はどのようになるのだろうか。<br/>
+
 2つの波の波数の絶対値|k|が等しい(あるいは波長$\lambda$の等しい)ことと<br/>
-
これらを調べるには、<br/>
+
振動数$\nu$(あるいは周期$T$)が等しいこと<br/>
-
質点(系)を対象にしたニュートン力学を<br/>
+
は同等である。<br/>
-
連続体に適用できるように工夫し、<br/>
+
-
連続体の運動方程式を導くことが必要になる。<br/>
+
-
どのような工夫をするのだろうか。<br/>
+
-
気体や水や固体などの媒質を小さな部分に分割して,それら分割部分の<br/>
+
-
平衡状態からの変位と隣接する分割部分から受ける力の関係を求め、<br/>
+
-
ニュートンの運動法則を適用する。<br/>
+
-
これにより、波動方程式と呼ばれる波の運動方程式を導出するのである。<br/>
+
-
電磁波の運動方程式は、電磁気学の法則(マクスウェル方程式)を用いて得られる。<br/>
+
===波の重ね合わせの原理とその応用===
-
波動方程式から波の伝搬速度や波の伝搬の様子や、波形などが求められる。<br/>
+
-
波の伝搬速度は、<br/>
+
-
媒質(平衡点からの変位と復元力の関係)と縦波か横波かで決まり、<br/>
+
-
振幅や振動数には無関係であることがわかる。<br/>
+
-
これらについては、「4.4 弾性波の力学的考察」で簡単に紹介する。<br/>
+
-
 
+
-
===波の重ね合わせの原理===
+
後述(4.4弾性波の力学的考察)するように、<br/>
後述(4.4弾性波の力学的考察)するように、<br/>
波の運動方程式である波動方程式は[[wikipedia_ja:線形性|'''線形性''']] をもつので、<br/>
波の運動方程式である波動方程式は[[wikipedia_ja:線形性|'''線形性''']] をもつので、<br/>
399 行: 370 行:
周期や振幅の異なるいくつかの正弦波を重ね合わせたものと考えることができる。<br/>
周期や振幅の異なるいくつかの正弦波を重ね合わせたものと考えることができる。<br/>
これについては大学の専門課程で学ぶ(フーリエ解析と呼ばれる)。
これについては大学の専門課程で学ぶ(フーリエ解析と呼ばれる)。
 +
==== 干渉 ====
 +
一般に出会った2つの波の変位がともに正(負)ならば、<br/>
 +
重ね合わせの原理より、合成波の変位の絶対値は、一層大きくなり、強めあう。<br/>
 +
また一方の変位が正で他方が負の時は、合成波の変位の絶対値は小さくなり、弱めあう。<br/>
 +
2つ(以上)の波が重なり合って強めあったり弱めあったりする現象を'''波の干渉'''という。<br/>
 +
様々な干渉現象は、波の重ね合わせの原理によって分析できる。
 +
*[[wikipedia_ja:干渉 (物理学)|ウィキペディア(波の干渉)]]
 +
=====2つの波源からでる同一の振動数をもつ球面波の干渉=====
 +
2つの波源からでる同一の振動数をもつ球面波の干渉を考察しよう。(注1参照のこと)<br/>
 +
命題4.6 により、両者の波長は等しい。<br/>
 +
2つの波源を含むひとつの平面上で考える(あるいは、2次元の球面波を考える)。<br/>
 +
 +
[[File:GENPHY00010401-02.jpg|right|frame|図 2つの波源から出た同波長、同位相の波の干渉(ウィキペディアより)]]
 +
ある瞬間に、2つの波の山と山(緑と赤の円の交点)、谷と谷が重なり合った場所では<br/>
 +
合成波は時間とともに大きく変動する。<br/>
 +
このような点(無数にある)を、合成波の'''腹'''という。<br/>
 +
一方の波の山と他方の波の谷が重なる場所では、合成波の変位は少ない(注2を参照のこと)。<br/>
 +
このような点(無数にある)を、合成波の'''節'''という。<br/><br/>
 +
(注1)球面波は、波面が球(2次元波の時は円)となる波である。<br/>
 +
この波は、波源からあらゆる方向に初期位相と波長と振動数が等しい(従って速さも等しい)波が放射される。<br/>
 +
波源から離れるに従い、波は広がっていくので、振幅は減少していく。<br/>
 +
しかし、減衰の仕方は方向によらず、同じである。(4.4節を参照のこと)。<br/>
 +
2次元の球面波(波面が同心円状の波)は、水面に小石を落とした時に発生する。<br/>
 +
波源で方向性のある波を発生しても、<br/>
 +
波源から十分離れた場所では球面波とみなしてもよいことが多い。
 +
 +
(注2)2つの波は振動数が同じなので、<br/>
 +
2つの波の山と山が重なる点では、時間が進むにつれ、<br/>
 +
同時に変位は0になり、次に、同時に谷になる。<br/>
 +
こうして、合成波は腹の地点で大きな振幅で振動する。<br/>
 +
2つの波の谷と谷が重なる点でも、同様に、合成波の振動は大きくなる。<br/>
 +
他方、一方の山と他方の谷が重なる点では、<br/>
 +
時間が経過しても絶えず正負が打ち消しあう関係にあるので、<br/>
 +
振動の振幅は小さくなる。<br/>
 +
 +
=====2つの波源からの距離を用いた腹と節の条件式=====
 +
'''命題4.7''' <br/>
 +
2つの波源が同一周期で同一波長$\lambda$の波を生むとする。<br/>
 +
2つの波源の初期時刻における位相角が等しいと仮定する。<br/>
 +
(1)両波源からの距離が $l_1$ と $l_2$ の点が合成波の腹になる条件は<br/>
 +
$|l_1-l_2|=m \lambda \quad (m=0,1,2,,,,),\qquad \qquad (14)$<br/>
 +
(2)両波源からの距離が $l_1$ と $l_2$ の点が合成波の節になる条件は<br/>
 +
$|l_1-l_2|=(m+\frac{1}{2} )\lambda \quad (m=0,1,2,,,,),\qquad \qquad (15)$<br/>
 +
証明;<br/>
 +
(1);両者の行程の差は、$|l_1-l_2|$ であり、これが0か波長の自然数倍のとき、<br/>片方の波が山(谷)ならば、他方も山(谷)になり、波は強めあう。<br/>
 +
(2);両者の行程の差が $\frac{1}{2}$ 波長か、それに波長の整数倍を加えたとき、<br/>
 +
半波長分位相が異なるので、片方が山の時、他方は谷となり弱めあう。<br/>
 +
証明終わり。<br/><br/>
==== 定常波と進行波====
==== 定常波と進行波====
定常波(standing waveまたはstationary wave)とは、<br/>
定常波(standing waveまたはstationary wave)とは、<br/>
-
初期位相、振幅、波長と速度の絶対値が同じで<br/>
 
-
進行方向が互いに逆向きの2つの波が重なり合うことによってできる波で、<br/>
 
波形が進行せずその場に止まって振動しているようにみえる波動のことである。<br/>
波形が進行せずその場に止まって振動しているようにみえる波動のことである。<br/>
定在波(ていざいは)ともいう。(下記のウィキペディアの記事の冒頭より)。<br/>
定在波(ていざいは)ともいう。(下記のウィキペディアの記事の冒頭より)。<br/>
-
命題 4.5<br/>
+
 
-
初期位相、波長$\lambda$,振幅A、速さ(速度の絶対値)vが同じで<br/>
+
'''命題4.8''' <br/>
-
進行方向が互いに逆向きの2つの波が重なり合うと、<br/>
+
2つの波を考える。<br/>
-
波形が進行せずその場に止まって振動しているようにみえる波動となる。<br/>
+
もし両者の<br/>
 +
振幅$A_i(i=1,2)$が等しく、波数ベクトル$k_i(i=1,2)$が等しく、<br/>
 +
速度$v_i(i=1,2)$が逆向き($v_1=-v_2$)<br/>
 +
ならば、<br/>
 +
この2つの波が重なると定常波となる。<br/>
証明;<br/>
証明;<br/>
 +
2つの波の共通の振幅をA,波数ベクトルをkとかくと、
命題4.4 より、<br/>
命題4.4 より、<br/>
-
初期位相$\theta$、波長$\lambda$、振幅A が同じで速さvの波は、進行方向によって<br/>
+
$y_1=A\sin {\left(k(x-vt)+\alpha \right) }$ (x軸の正方向に進行)<br/>
-
$y_1=A\sin {\left(\frac{2\pi}{\lambda}(x-vt)+\theta\right) }$(正方向に進行)<br/>
+
$y_2=A\sin {\left(k(x+vt)+\beta \right) }$ (x軸の負方向に進行)<br/>
-
$y_2=A\sin {\left(\frac{2\pi}{\lambda}(x+vt)+\theta\right) }$(負方向に進行)<br/>
+
で表せる。<br/>
で表せる。<br/>
両者が重なるときの波形は、重ね合わせの原理から、<br/>
両者が重なるときの波形は、重ね合わせの原理から、<br/>
$y=y_1 +y_2$<br/>
$y=y_1 +y_2$<br/>
-
$=A\sin {\left(\frac{2\pi}{\lambda}(x-vt)+\theta\right)}+A\sin {\left(\frac{2\pi}{\lambda}(x+vt)+\theta\right)}$<br/>
+
$=A\sin {\left(k(x-vt)+\alpha \right)}+A\sin {\left(k(x+vt)+\beta \right)}$<br/>
-
三角関数の加法定理(注参照)を用いて、式を計算すると、<br/>
+
$\quad$ 三角関数の加法定理(注参照)を用いて、式を簡略化するために、<br/>
-
$y=2A\cos {vt}\sin {(\frac{2\pi}{\lambda})x}$<br/>
+
$\quad$ $\gamma:=\frac{\alpha + \beta}{2}$、$\delta:=\frac{\alpha - \beta}{2}$ という変数を導入すると、<br/>
 +
$\quad$ $\alpha=\gamma + \delta $、$\beta=\gamma - \delta $ と表現される。<br/>
 +
$\quad$ これらを、上式に代入して、計算を進めると、<br/>
 +
$y=A\sin {\left(k(x-vt)+ \gamma + \delta \right)}+A\sin {\left(k(x+vt)+ \gamma - \delta \right)}$<br/>
 +
$=A\sin {\left((kx+ \gamma)-(kvt - \delta) \right)}+A\sin {\left(kx+\gamma)+(kvt- \delta) \right)}$<br/>
 +
$\quad$ $a:=kx+ \gamma$、$b:=kvt - \delta$ とおくと、<br/>
 +
$y=A\sin{(a-b)} + A\sin{(a+b)}$<br/>
 +
$\quad$ 三角関数の加法定理を適用すると<br/>
 +
$=A\left( (\sin{a} \cos{b}-\sin{b}\cos{a})+ (\sin{a} \cos{b}+\sin{b}\cos{a}) \right)$<br/>
 +
$=2A\sin{a} \cos{b}=2A\cos{(kvt - \delta)}\sin{(kx+ \gamma)} $<br/>
を得る。<br/>
を得る。<br/>
-
これは、速度0で、振幅 $2A\cos {vt}$ が時間によって変わる、波長$\lambda$の波である。<br/>
+
これは波数ベクトルkで、速度が0で、その振幅が $2A\cos{(kvt - \delta)}$(時間とともに振動する)で与えられる定常波である。<br/>
証明終わり。<br/>
証明終わり。<br/>
-
定常波とその腹と節については
+
'''定常波とその腹と節'''については
*[[wikipedia_ja:定常波|ウィキペディア(定常波)]]
*[[wikipedia_ja:定常波|ウィキペディア(定常波)]]
-
をみてください。</br>
+
定常でない波は'''進行波'''という。<br/>
-
定常でない波は'''進行波'''という。
+
 
(注)<br/>
(注)<br/>
-
[[wikipedia_ja:三角関数の公式の一覧|三角関数の公式の一覧(ウィキペディア)]の加法定理を参照のこと<br/>
+
三角関数の加法定理については、<br/>
 +
[[wikipedia_ja: 三角関数の公式の一覧|ウィキペディア(三角関数の公式の一覧)]]を参照のこと。<br/>
-
==== 干渉 ====
+
====媒質の端における波の反射、固定端と自由端 ====
-
2つ(以上)の波が重なり合って強めあったり弱めあったりする現象で、<br/>
+
-
波の重ね合わせの原理によって分析できる。
+
-
*[[wikipedia_ja:干渉 (物理学)|ウィキペディア(波の干渉)]]
+
-
====媒質の端における波の反射、固定端と自由端 (RT)====
+
波が媒質の終端に達するとそこで反射し、逆方向にすすむ。<br/>
波が媒質の終端に達するとそこで反射し、逆方向にすすむ。<br/>
-
固定端では、媒質は固定されているので平衡状態からの変位は生じない。<br/>
 
-
自由端では媒質は自由に動けるので、圧縮や変形をおこさない。<br/>
 
-
この条件をみたす波動方程式の解を求めると反射波を求めることができる(大学で学ぶ)。<br/>
 
反射した波の形は、自由端と固定端では異なる。<br/>
反射した波の形は、自由端と固定端では異なる。<br/>
-
後続の進行波と反射波の合成波が実際に観測される波の形である。<br/>
+
実際に観測される波の形は後続の進行波と反射波の合成波である。<br/>
-
実際に観測されるのは合成波であり、固定端では節となり、自由端では腹となる。
+
===== 固定端と自由端 =====
 +
波の変位量が0に固定されてしまう終端を、'''固定端'''という。<br/>
 +
反対に、波の変位量の拘束が与えられず自由な値を取れる終端を、'''自由端'''という。<br/>
 +
例えば、<br/>
 +
両端を固定して張った弦のある場所に力を与えて振動を起こさせると、横波が起こる。<br/>
 +
横波の変位量は、弦の位置の(巨視的な)変化量である。<br/>
 +
弦の両端は固定されているので、位置は変化できず、固定端になる。<br/>
 +
媒質の終端が固定されておらず、その部分の媒質が自由に動ける場合が自由端になる。<br/>
 +
縦波では、どのような場合に固定端になるのだろうか。<br/>
 +
この場合には、波の変位量として、何を選んでいるかで、<br/>
 +
同じ端でも固定端にもなり、自由端にもなる。<br/>
 +
円管の中の空気の振動(音)を例にして考える。<br/>
 +
円管の中の空気のことを、'''気柱'''(「4.2 音と音波」で詳述)という。<br/>
 +
もし、波長が気柱の直径に比べて大きい時には、<br/>
 +
気柱の波は円管に沿って進む平面波と考えられる。<br/>
 +
そこで、気柱を進行する平面波を考えて、<br/>
 +
閉鎖端と開放端が固定端なのか自由端なのか、考えてみよう。<br/>
 +
菅の一方の端Aは壁でふさがれており、他方の端Bは、大気に開放されているとする。<br/>
 +
[[File:GENPHY00010401-03.pdf|right|frame|図 気柱の定常波]]
 +
<br/>
 +
閉鎖端A;<br/>
 +
波の変位量として、気体の位置変化をとるときには、<br/>
 +
閉鎖端では、空気は動けず変位量は常に零なので固定端となる。<br/>
 +
ここで波が反射すると、合成波はA端を節とする定常波になる。<br/>
 +
ところが、気体の密度・圧力を変位量に選ぶと、<br/>
 +
A端では、密度の高い(圧力が大きい)波が進行してきても、<br/>
 +
端が塞がれているため、空気が外部にもれず、<br/>
 +
波の密度(圧力)に合わせて密度(圧力)は変動する。<br/>
 +
波の変位量が自由に変動できるので、自由端になる。<br/>
 +
ここで波が反射すると、その合成波はA端を腹とする定常波になる。<br/>
 +
開放端B<br/>
 +
B端では気圧が大気圧に等しくなるように管内の空気は自由に出入りする。<br/>
 +
気柱の中の波がB端に達すると、この気圧を大気圧に維持するため、大気との間に空気が出入りし、<br/>
 +
B端が波源となり気柱に反射波が生じる。<br/>
 +
この合成波はB端で大気圧に維持される定常波である。<br/>
 +
そこで、波の変位量として密度・圧力をとるときには、B端は固定端となり、節となる。<br/>
 +
他方、気体の位置変化を変位量としてとると、<br/>
 +
B端では気体が自由に動けるため、自由端となり、定常波の腹となる。<br/>
 +
図参照のこと。<br/><br/>
 +
従って、'''管の端の開閉より、波の変位量を考慮した、固定端、自由端の区別が、波の性質を考えるときは、重要な概念になる。'''
 +
 
 +
===== 固定端での波の反射と合成波 =====
 +
進行波がx軸上を $v=\frac{\omega}{k}$ の速度で進む正弦波<br/>
 +
$y_1=A\sin \left(kx-kv t+\theta\right)\qquad \qquad (12)$<br/>
 +
を例に、反射波を求める。<br/>
 +
 
 +
固定端では、<br/>
 +
波の変位量(横波では位置変化、縦波では密度・圧力変化)を零にするため媒質に、<br/>
 +
波の周期と等しく振動する力を与え続ける。<br/>
 +
このため固定端を波源となる波が発生し、媒質中を伝わる。<br/>
 +
この波は、振動数が進行波と等しく、逆向きに進行するので、<br/>
 +
$y_2=B\sin \left(kx+kv t+\theta\right)$、(注参照)<br/>
 +
固定端で,$y_1+y_2 \equiv 0$ となるには、$A=B$<br/>
 +
すると命題4.5 より<br/>
 +
合成波$y_1+y_2$ は定常波となり、その固定端は節になる。<br/>
 +
(注)命題4.6 より、振動数が等しければ波数kも等しいことが分かる。
 +
===== 自由端 での波の反射と合成波 =====
 +
この場合には、波は何の障害もなく、自由端の変位量を変化させる。<br/>
 +
このため、自由端は波の振動に合わせて、同位相、同振幅で振動する波源となり、<br/>
 +
進行波と同振幅、同位相、同周期(振動数)の波を、逆方向に放出する。<br/>
 +
すると命題4.5 より、<br/>
 +
その合成波は定常波となり。自由端は、その腹になることが分かる。<br/>
 +
 
 +
なお、反射については
*[[wikipedia_ja:反射|ウィキペディア(反射)]]
*[[wikipedia_ja:反射|ウィキペディア(反射)]]
を参照のこと。
を参照のこと。
 +
====2つの媒質の境界における波の反射と透過====
===波面の進行にかんするホイヘンスの原理 ===
===波面の進行にかんするホイヘンスの原理 ===
==== ホイヘンスの原理 ====
==== ホイヘンスの原理 ====
-
*[[wikibooks_ja:高等学校理科_物理I_波/波の性質|ウィキブックス(高等学校理科 物理I 波)]]の5.2 ホイヘンスの原理
+
1678年 C.ホイヘンスが唱えた原理で、波の波面がどのように進行するかを説明するもの。<br/>
-
 
+
伝播する波動の波面Wの各点pから初期位相の同じ球面状の二次波(素元波)が出ていると考える。この二次波の位相が同量だけ微小進んだ時の波面$S_p$の包絡面(注1参照)を,次の波面$\tilde{W}$とする。<br/>
-
あるいは
+
これを繰返して、波面の進行を求めることができる(注2参照)。<br/>
 +
波は波面に垂直方向に進行するので、波の進行方向も求まる。<br/>
 +
ホイヘンスは、この原理を用いて、波の反射や屈折現象を説明した。<br/>
 +
*[[wikibooks_ja:高等学校理科_物理I_波/波の性質|ウィキブックス(高等学校理科 物理I 波)]]の5.2 ホイヘンスの原理<br/>
 +
で学んでください。<br/>
 +
ホイヘンスの原理の修正やその正しさの証明などの解説は以下をご覧ください。<br/>
*[[wikipedia_ja:ホイヘンス=フレネルの原理|ウィキペディア(ホイヘンス=フレネルの原理)]]
*[[wikipedia_ja:ホイヘンス=フレネルの原理|ウィキペディア(ホイヘンス=フレネルの原理)]]
-
を 参照のこと。</br>
+
(注1)面$\tilde{W}$が2次波の包絡面とは、$\tilde{W}$のどの点qも、ある2次波の波面$S_p$ と接していること。<br/>
-
この原理を用いると、波面の進行の仕方が分かり、以下の反射、屈折の法則が導ける。</br>
+
(注2)波面の各点が波源となる球面波の微小時間後の包絡面は<br/>
 +
波の進行方向だけでなく、逆向きにもできてしまう。<br/>
 +
これを避けるため、波面の各点が波源となって発生するのは球面波でなく、<br/>
 +
その一部(進行方向の半球だけ)などの修正が考えられた。
-
====反射の法則 ====
+
====平面波の反射の法則 ====
-
反射の法則;平面状の壁にあたった波は、反射する。この時、波の入射角と反射角は一致する。
+
平面状の鏡や壁にあたった波は、反射する。<br/>
 +
===== 入射角と反射角  =====
 +
鏡に当たる波を入射波、反射して出ていく波を反射波という。 <br/> 
 +
入射波の進行方向と鏡の垂線(注参照)が作る角度を入射角という。 <br/> 
 +
反射角も同様に定義する。<br/> <br/> 
 +
(注)鏡の垂線とは、鏡と直交する直線のこと。すなわち、鏡のうえの、どんな直線とも直交する直線のこと。
 +
 
 +
===== '''反射の法則'''  =====
 +
 
 +
'''反射の法則'''<br/>
 +
波の入射角と反射角は一致する。<br/><br/> 
 +
水面などのように、2つの媒質の平面状の境界では<br/> 
 +
波の一部が反射して、同一媒質中を進行し、<br/>
 +
他は、進行方向を変えて他の媒質に進入する(屈折という)。<br/>
 +
この場合にも反射については、同じ法則が成立つ。<br/>
 +
反射法則は、波の速さが同一媒質中では変わらないことから、<br/>
 +
ホイヘンスの原理を用いて証明できる。<br/>
*[[wikipedia_ja:反射|ウィキペディア(反射)]]
*[[wikipedia_ja:反射|ウィキペディア(反射)]]
-
この法則を、ホイヘンスの原理から導いてみよう。
+
 
====屈折にかんするスネルの法則 ====
====屈折にかんするスネルの法則 ====
*[[wikipedia_ja:スネルの法則|ウィキペディア(スネルの法則)]]
*[[wikipedia_ja:スネルの法則|ウィキペディア(スネルの法則)]]
-
この法則を、ホイヘンスの原理から導いてみよう。
+
この法則を、ホイヘンスの原理から導いてください。
-
==== 回折 ====
+
-
波がその進行方向にある障害物の背後に回り込んで伝わっていく現象のことを、回折という。
+
-
*[[wikipedia_ja:干渉 (回折)|ウィキペディア(回折)]]
+
-
=== 波のエネルギー===
+
==== 回折 ====
-
弦の振動で生じる横波の正弦波を例に、波のエネルギーを考える。
+
波がその進行方向にある障害物の背後に回り込んで伝わっていく現象のことを、回折という。<br/>
-
==== 単振動のエネルギー ====
+
多数の波源の干渉(重ね合わせ)の結果おこる現象である。<br/> 
-
正弦波を固定点で観測すると、媒質の単振動が得られろ。質量m、ばね定数kの単振動する質点の力学的エネルギーは、
+
従って干渉と回折は本質は同じ現象で、単に波源の数の大小の違いである。<br/> 
-
${{E=K+U=\frac{1}{2}kC^2}}$
+
その境界もはっきり定められない。
-
詳しくは
+
この現象もホイヘンスの原理と重ね合わせの原理で説明できる。<br/>
-
*[[wikipedia_ja:自由振動|ウィキペディア(自由振動)]] の1.4 調和振動子のエネルギー  を参照のこと。
+
例えば、壁に小さな穴が開いていると、<br/>
-
==== 波のエネルギー ====
+
平面波が壁に進入したとき、この穴の部分の媒質が振動し、新たな一つの波源となり、壁の向こう側に球面波を作る。<br/>
-
 
+
こうして壁の影にも波は回り込む。<br/>
-
電磁波(真空を媒質とする波)のエネルギーについては大学で学ぶ。
+
他方、壁に垂直方向に進む平面波が大きな壁の穴に達すると、穴の各点が同一初期位相の波源となる。<br/>
 +
この波源の波は重ね合わせると<br/>
 +
進入波と垂直方向の壁側の地点では、(伝達時間の差から)位相が少しづつ違う波の和となり、殆ど変位を生じない。<br/>
 +
一方、進入波の進行方向の壁の向こう側では、ある程度壁から離れると、各波源から来る波の位相が
 +
ほぼ等しくなるため、波は強めあう。<br/>
 +
このため、平行波は、穴を通り抜け、まっすぐ進行する。<br/>
 +
[[wikibooks_ja:高等学校理科 物理I 波/波の性質|ウィキブックス(高等学校理科 物理I 波/波の性質)]]の「5.4 回折」を参照のこと。

2022年3月7日 (月) 09:56 時点における最新版

目次

波の性質

波には色々あるが、この節では波に共通する性質を学ぶ。
参考文献;

波の次元

張った弦の振動のように、一次元空間を伝わる波を一次元の波、
水面のような2次元の空間を伝わる波を2次元の波
   空中や水中を伝わる音のように、3次元空間を伝わる波を3次元の波という。

波面と波面の形 

波線・波面; 波の山をつないだ連続する図形や波の谷をつないだ連続図形のこと。
   2次元の波では曲線になり波線という。
3次元の波では曲面になり波面という。 
 
  波面が平面になる3次元の波を平面波という。 
また波面が球面になる3次元の波を球面波という。  
2次元の波で、波線が直線になるものを2次元の平面波、波線が円になるものを2次元の球面波と便宜的に呼ぼう。
一様で、方向性のない3次元の媒体中の一点に方向性の無い変位を与え波を発生させると、 
この点波源から全く同じ性質の波が、あらゆる方向に伝わっていくので、
波面は球面になる。
この球面波を波源から十分離れた場所で観測すると、
観測点の近くの限定された空間内では、平面波とみなせる。 
  

波の進行方向 と速度

ある時刻tにおける波面$W(t)$を、その微小時間 $\delta t(>0)$後に観測すると、
その位置を少し変えている。その波面を$W(t+\delta t)$ とかく。
時刻 t の波面の一点 P から、
この波面に直行する直線をひき、波面$W(t+\delta t)$ との交点を P' とすると、
P' は波面$W(t)$上の一点Pが進行した場所と考えられる。
波の PP'間における平均速度は、 $\frac{\vec{PP'}}{\delta t}$ である。
$\lim_{\delta t \to 0}$ をとると、波面の一点Pにおける、時刻tの波の瞬時速度が得られる。

波の発生の仕組み及び連続波とパルス波、縦波と横波 

変位に対して、もとに戻ろうとする力が生じる物質(注)では、 
   ある場所にわずかな、変位が与えられると 
   元の位置に戻ろうとして振動を生じ(波源) 
   これが隣接する媒質に力を与えて隣接部に振動をおこし、 
   物質(媒質)全体に振動が伝わっていく。
   これが波である。
 

連続波とパルス波

波源の振動の持続回数により、2種類の波がおこる。
波源が連続的に振動し続ける場合には、
波源から連続的に波が生み出され、媒質全体に伝わって行くので、
連続する波がが生じる。連続波という。
また波源が一回の振動で変位がなくなる場合には、
一つの山(ないし谷)の波が波源から放出され、媒質の中を伝わっていく。
パルス波という。

縦波と横波

媒質がどのような変形に対して復元力を持つかに応じて、異なった形の波動が生じる。

縦波

圧縮・膨張に対する復元力を持つ媒質では、波源が急激に変位すると、
  その変位方向の2つの隣接部分の一方$A_1$は、圧縮され(密度が大きくなり)、圧力は上がる。
  すると、$A_1$と隣接する波源の変位方向の部分$A_2$は
$A_1$部分の媒質からの圧力を受けて圧縮され、圧力をあげる。
このとき、$A_1$部分は膨張し、密度を下げる。
このメカニズムにより、密度の振動が伝搬していく。

他方、波源の変位により、膨張し密度を下げた側でも同じメカニズムで、媒質の粗密の振動が、波源の変位方向(向きは逆)に伝搬していく。

この波は、媒質の粗密(圧力)の振動が波の進行方向と平行なので、
  縦波(longitudinal wave)という。 
  粗密波(compression wave)とも呼ばれる。

横波

媒質が、横ずれに対して復元力を持つ場合では、別のタイプの波が生じる。
  この場合、波源となる媒質部分が移動したとき、
  波源は、変位方向と直角(上下と表現する)の隣接部分を引きずる。
  このため、波源の左右への振動により、
  上下にある隣接部分もやや遅れて引きずられて その位置を左右に振動させ、これが媒質の上下方向の全体に伝わっていく。
  この波の進行方向(上下)と、媒質の振動方向(左右)は直交するので、
  横波(transverse wave)という。
  張った弦の振動が横波の例である。
  気体や液体の内部では、横ずれに対して復元力がないため横波は発生しない。

横波でも縦波でもない波

横波でも縦波でもない波もある。後述する水面の波が、その例である。 
 

弾性波

媒質の変位により生じる波を弾性波と呼ぶ。

弾性波を生じない物質

2章で述べたように、かたい固体を理想化して、全く変形しない固体を考えて、剛体と名付けた。
  現実の固い物質を理想化した剛体は、
どんなに外力を加えても圧縮、変形が起こらないので、剛体の中には波は発生しない。

現実の物質は弾性波を生じる

現実の物質は圧力をかければ、
程度の差はあるが、圧縮し、元のもどろうとする力が発生するので、縦波はおこる。

弾性波でない波

光や電波は電磁波という波の一種だが、真空中でもこの波は発生する。
したがって、波の媒質はなく、弾性波ではない。
あえて言えば、電磁波では、真空という空間が媒質で、
   空間の電気的なゆがみ(電場、磁場と呼ぶ。次章を参照のこと)の
振動が伝搬して起こると考えられる。
  この歪みは電磁波の進行方向と直交する方向におこるため、電磁波は横波である。
次の記事も参考に。

波の例

身の回りには色々な波が良く見られる。 
   媒質が空気である波は音(あるいは音波)であり、縦波である。  
   媒質が水の場合は水面波や水中の音波となる。 
   水面波は、
水面を伝わる、さざ波や小さな波のことである。
  この波は、水面の上昇や下降時に、水の表面張力や重力が復元力として働くため生じる。
ところが、ある場所の水面が上下振動しても、 
   その鉛直下方にある水は殆ど膨張・圧縮されないので、 
   水面上昇時には隣接する水面下の水が流れ込み、下降時には、鉛直下方の水が隣接する水面の下方に押し出され、
  波の進行方向する方向と平行の振動が起こる。
   こうして水の表面部分は波が通過するとき、上下の振動に、
波の進行方向と平行な振動を合成した、円形の振動をする。
従って、縦波でも横波でもない。

固体は曲げやずれに対する復元力を持つので横波を起こすが、 
   わずかとはいえ、圧縮・膨張して、強い復元力を生じるため、縦波も起こす。 
  例えば、地震波は地殻の波だが 
   最初に到達するP波は縦波で、 
   遅れて到達するS波は横波である。 
   地表へは、地震波は下方から到達するので、縦波のP波は上下動、横波のS波は横揺れになる。 

波形の数式による表示

まず、
波がなく平衡状態にある媒質が静止してみえる慣性系を選び、
時刻原点は考察に都合のよいものを選択する。
この座標系で表示した場所xと時間tにおける媒質の変位量を数式で表示すればよい。
波を数式表示すると、数学を利用して、波の色々な性質を知ることができる。

変位量について

波の変位量 $y(x,t)$ としては、幾つかのものが考えられ、どれを選択するかは、なかなか難しい問題である。

縦波では、
・時刻tにおける場所xでの、媒質の密度や圧力の平衡状態からの変化量を変位量とする。
・平衡状態でxにあった媒質の時刻tにおける位置の変化量を、変位量に取る。
また、媒質の位置そのものでなく、 場所xの時刻tでの媒質の速度を変位量としてとる。
等々。

横波では、
・波がないとき位置座標xにあった媒質が時刻tでいくら変位したかを変位量とする。
・光を含む電磁波は、真空を媒質とする横波で、場所xと時刻tでの、波の進行方向とは垂直な空間の電気的な歪み(3次元ベクトル)が、変位量になる。次章で述べる。
等々。

波の性質を調べるとき、何を変位量として選ぶかに依存する概念(例えば反射における自由端や固定端)があるので、変位量に注意する必要がある(後述)。


(注)気体や液体(流体と総称する)の縦波における媒質の位置変化量について;
平衡状態で、座標xの場所にある流体が、
波の到来でその位置をどのように変えるか決定することは、ミクロ(微視的)には出来ない。
なぜならば、
座標 $\vec x$ の場所にある流体や固体とは、その点にある分子ではなく 、
(マクロな観測では一点とみなせる)座標xを中心とする微小体積の中にある膨大な数の流体や固体分子全体をさす。
固体の場合には、これらの分子たちは、
それぞれが決まった位置の周りを熱運動等で振動するだけで塊を形成している。
波がきてもこの塊が塊を保ったまま動くだけなので、
マクロな観測では、波が到来しても、点 $\vec x$ にあた媒質が点として移動するように見える。
この場合には、波の変位量として、位置変化量を採用できる。
しかし、流体の場合、ある時点で、xの周辺にいる分子たちは
波が来ない平衡状態でも、熱運動のためやがて拡散して
ばらばらに四散してしまう。
水中にインクを静かに垂らしてもやがて拡散してしまうように。
しかし、マクロ(巨視的)には、波が来た瞬間のごく短時間には、まだ塊の状態で動くとみなして、位置変化を変位量とすることができる。

一次元波動の波形の数式表示

3次元の波では、
  その波形は、独立変数が4つ(3次元空間の場所と時間)で、数式の扱いは難しくなり、
  図示は不可能である。
一次元の波では、その波形の数式表示は簡潔である。
  しかし、その応用範囲は広い。
  たとえば、
  張った弦や糸の振動などは一次元の横波である。
  また、3次元空間の平面波も進行方向をx軸にえらべば、
  この軸の上を伝わる一次元波動とみなせる。
  同様に球面波は、波源からあらゆる方向に
  速度も振動の仕方も全く同じ一次元波が放射されるので、
  ひとつの一次元波を解析すればよい。
  

 初期時刻の波形の表示

時刻の原点(初期時刻)を考察しやすいように選ぶ。
波の進行方向をx軸の正方向にとる。
波の変位量(縦波では媒質の圧力や巨視的な位置の変位量、横波では、媒質の巨視的な位置の変化量)をy軸にとる。
一例として、後述する正弦波の波形を図示する。
実線は時刻tでの波形、
点線は、その微小時間後の時刻$t+\Delta t$の波形である。
波は、x軸の正方向に進行している。

  • 図 正弦波の波形

一般の波の初期時刻における波形が
$y=f(x)\qquad \qquad (1)$
と数式表示されるとする。

 時刻tの波形の表示

式(1)で与えられる波がx軸上を速度 $v$ で進行しているとき(注参照)、
任意の時刻tの波形はどのように表示されるだろうか。

命題4.1
時刻0の波形を、
$y=f(x)\qquad \qquad (2)$
とする。
この波が、x軸上を速度 $v$ で進行するとき、
その波は、
$y=f(x-vt)$
で表せる。
証明;
任意の時刻tの波形を $y=g(x,t)$ とかく。 この波形は、式(2)の波形をx軸に沿って $vt$ 平行移動したものであるから、
式(2)の波形のxでの変位量$f(x)$は、
時刻tの波形では、 $x+vt$  の位置になっている。
数式で書くと
$f(x)=g(x+vt,t)$ 
$x$ に $x-vt$ を代入すると
$y=g(x,t)=f(x-vt)\qquad \qquad (3)$
これが、速度vでx軸の正方向に進む1次元の波の一般形である。
(注)vが負の時は、x軸の負の方向に進む。

単振動と正弦波 

媒質の振動のうちもっとも基本的なものは、
正弦関数にしたがって振動する単振動である。
媒質の任意の一点を固定し、その点の時刻tの変位yが正弦関数
$y=A\sin(\omega t+\theta)\qquad (\omega \neq 0)\qquad \qquad (4)$
で表せるとき、この点は、単振動を行うという。
2章の力学で、フックの法則(注参照)を満たす「ばね」につながれた
おもりの運動は単振動することを学んだ。
ウィキペディア(自由振動) の 1 単振動 参照。
媒質の復元力がフックの法則を満たすならば、
外力を受けて変位した場所は単振動を起こし、この単振動が媒質全体に伝搬していく。
(注)フックの法則;復元力は変位量に正比例するという経験則。

単振動の振動数、周期と角速度 

式(4)中の 
$\quad$ $A$ は、変位の絶対値の最大値を表すので、振幅(amplitude)、
$\quad$ $\omega t+\theta$ は、振動の位置を表す角で、位相(phase)あるいは位相角,
$\quad $ $\omega$ は単位時間あたりの位相角の変化量をあらわすので、角速度(angular velocity)
$\quad$ $|\omega|$ は、角振動数
と呼ばれる。

定義
$T:=\frac{2\pi}{|\omega|} \qquad \qquad (5)$ 
を、式(4)で表される単振動の周期という。
$\nu=\frac{|\omega|}{2\pi} \qquad \qquad (6)$
を、単振動の振動数という。

この定義から、次の命題は明らかである。

命題4.2
$T=\frac{1}{\nu} \quad \nu=\frac{1}{T} \qquad \qquad (7)$

周期と振動数の意味
任意の時刻tから時間がT経過して、時刻t+Tになるとき、
位相角が $\omega T=\omega \frac{2\pi}{|\omega|} =\pm 2\pi$ だけ進むので、
ちょうど一回振動して元の変位に戻っている。
周期Tは波が一回振動して元に戻るまでの時間(>0)である。
また、振動数は、振動運動が単位時間当たりに繰り返される回数(>0)であることが分かる。

正弦波 

波形が正弦関数であらわせる連続波を正弦波という。
媒質の復元力がフックの法則に従うならば、波源の振動も、それが伝搬した波に振動も、三角関数に従うため、正弦波が生じる。
また、復元力がフックの法則を満たさない場合でも、
変位量が小さい、振幅の小さい波では、復元力はほぼフックの法則に従うので、正弦波にちかい波が生じる。
そのため、正弦波は最も基本的な波といえる。
振幅が $A(\gt 0)$ の正弦波の初期時刻 t=0 の波形は,一般に
$y=f(x)=A\sin (kx+\theta) \qquad \qquad (8)$
と書ける。
ここで、$\theta$ は、初期時刻t=0の原点x=0での変位の位相であり、
初期位相という。
k は正、負両方になりえるので波数ベクトル(wave number vector),省略して波数という。(注参照)
隣り合う山の距離(隣り合う、等位相の点の距離)を、波長と呼ぶ。

式(8)で波形が表される波はx が $\pm \frac{2\pi}{|k|}$ だけ変わると同じ値(等位相)になるので、
波長は $\lambda=\frac{2\pi}{|k|}$ 
この波がx軸上を速度vで進むとき、その波は、命題4.1により
$y=f(x-vt)=A\sin \left(k(x-vt)+\theta\right) =A\sin \left(kx-kvt+\theta\right)\qquad \qquad (9)$
ここで、 
$\omega:=kv\qquad \qquad (10)$ 
と置くと、
$y=f(x-vt)=A\sin \left(kx-\omega t+\theta\right)\qquad \qquad (11)$


命題4.3
1次元の正弦波の波形が、 x軸上を $v=\frac{\omega}{k}$ の速度で進むならば
$y=A\sin \left(kx-\omega t+\theta\right)\qquad \qquad (12)$
と表せる。
ここで、
$\quad $ $A(\gt 0)$ は波の振幅、
$\quad $ $k$ は波の波数(ベクトル)、
$\quad $ $\omega$ は,波の角速度
$\quad $ $\theta$ は,波の初期位相
である。
(証明)
波の速度$v$ とおくと、波数kの波は、式(9)より、
$y=A\sin \left(k(x-vt)+\theta\right) =A\sin \left(kx-kvt+\theta\right)\qquad \qquad $
と書ける。
$v=\frac{\omega}{k}$ を代入すれば、式(12)が得られる。
証明終わり。

周期的な波の波長、振動数、周期、速度の関係

命題4.4
正弦波の
波長を$\lambda$、波数をk、周期を $T$ 、振動数を $\nu$、角速度を $\omega$ とかくと、次の関係が成立つ。
(1) $T=\frac{1}{\nu},\quad \nu=\frac{1}{T},\quad T=\frac{2\pi}{|\omega|},\quad \nu=\frac{|\omega|}{2\pi},\quad |\omega|=2\pi \nu $
(2) $\lambda=\frac{2\pi}{|k|}\quad $
(3) $v=\frac{\omega}{k}$、$|v|=\lambda \nu$

証明;
(1) 一秒間に $\nu$ 回振動すれば、一回の振動にかかる時間(T)は $\frac{1}{\nu}$。
これより、最初の2つの等式が成立つ。
一回の振動に要する時間T(>0)は、位相角が $\pm 2\pi$ 変わる時間でもあるので、
$T=\frac{2\pi}{|\omega|}$。
一秒間に $\nu$ 回振動する波は、その間に位相角が $2\pi \nu $ 進むので、
$\omega=2\pi \nu $
(2) 波数がkである正弦波は、一般に次の式(13)で記述できる。
$y=A\sin (kx-\omega t+\theta)\qquad \qquad (13)$
波を波長 $\lambda$だけ、x軸に沿って移動させても、波形は一致するので、
$A\sin (kx-\omega t+\theta)=A\sin \left( k(x+\lambda)-\omega t+\theta \right) $
これより、$|k|\lambda $ は、$2\pi$ の整数(n)倍。
波長より短い距離を移動させても、波形は一致しないので、 $n=1$ 。
ゆえに、$|k|\lambda =2\pi$
(3) $y=A\sin (kx-\omega t+\theta)=A\sin \left(k(x-\frac{\omega}{k}t)+\theta\right)$
この波の位相角が $\theta$ である位置xは、
時間とともに $x=\frac{\omega}{k}t$に従って動く。
これより、波の速度は $v=\frac{\omega}{k}$ 。  
 $|v|=\frac{|\omega|}{|k|}=\frac{|\omega|}{2\pi}\frac{2\pi}{|k|}$ 
$\quad$ (1)と(2)で示した等式から、
$\quad$ $=\nu \lambda$

(注)この命題で得られた関係から、
波数kと角速度 $\omega$ の符号を同時に変えても、他の定数は全く変化はない。
従って、波数kは正負どちらを選んでもよいことが分かる。
それに合わせて$\omega$の符号を選び、初期位相角を変えればよい。
通常は、波数kは正に選ぶ。
このことは、
正弦関数が$ \sin(x)=\sin(-x \pm \pi)$ を満たすことから、直接導ける
実際、
$\sin\left(k(x-\frac{\omega}{k}t)+\theta \right) =\sin\left(-k(x-\frac{-\omega}{-k}t)-\theta \pm \pi \right) $
系;
正弦波は、命題4.4の関係を利用すると、次のように色々な表現ができる。
(1)$y=A\sin \left(k(x-vt)+\theta\right)\qquad \qquad (9)$
(2)$y=A\sin \left(\omega (\frac{x}{v}-t)+\theta\right)$
(3)$y=A\sin \left(2\pi \nu (t-\frac{x}{v})+{\theta}'\right)$
$\qquad$ ここで、${\theta}'$ は適切に選んだ初期位相角。

命題4.5
任意の場所xで、正弦波を観測すると、
単振動を行う。
証明;
命題4から、正弦波は $y=A\sin \left(\frac{2\pi}{\lambda}(x-vt)+\theta\right) $
で表される。
この式で、xを固定し、tの関数 $h(t)$ としてみると
$y=h(t)=A\sin \left(-v\frac{2\pi}{\lambda}t+(\frac{2\pi}{\lambda}x+\theta)\right) $
この式で、$-v\frac{2\pi}{\lambda}$ を $k$で、
$\frac{2\pi}{\lambda}x+\theta$ を $\phi$ で表すと、
$y=h(t)=A\sin ((kt+\phi) $
であり、単振動であることが分かる。証明終わり。

波の波長と周波数の関係

波の速度の大きさが、媒質の性質だけで決まり、波長や振動数で変わらないので、
命題4.4 より、$|v|=\frac{|\omega|}{|k|}=2\pi \frac{\nu}{|k|}=constant$(定数)
これより、次の命題が成立つ。

命題4.6
 2つの波の波数の絶対値|k|が等しい(あるいは波長$\lambda$の等しい)ことと
振動数$\nu$(あるいは周期$T$)が等しいこと
は同等である。

波の重ね合わせの原理とその応用

後述(4.4弾性波の力学的考察)するように、
波の運動方程式である波動方程式は線形性 をもつので、
次のような波の重ね合わせが出来る。
媒質のある場所に、1つの波が来たときの変位$ y_1$ と他の波が来たときの変位を$ y_2$ とすると、
この2つの波がこの場所に同時に来た時の媒質の変位は$ y=y_1+y_2$となる。
これを波の重ね合わせの原理という(注参照)。
重ね合わせて出来る波を合成波という。
この原理は、多くの波の現象の分析・解析に応用できる。
(注)数式を用いて正確に述べると次のようになる。
一つの波を $y_1=y_1(x,t)$、他の波を $y_2=y_2(x,t)$ とすると、
この二つの波が同時に起きて出来る波 $y=y(x,t)$ は
$y=y(x,t)=y_1(x,t)+y_2(x,t)$ 

 複雑な形の波 

一般の複雑な形の波は、
周期や振幅の異なるいくつかの正弦波を重ね合わせたものと考えることができる。
これについては大学の専門課程で学ぶ(フーリエ解析と呼ばれる)。

 干渉 

一般に出会った2つの波の変位がともに正(負)ならば、
重ね合わせの原理より、合成波の変位の絶対値は、一層大きくなり、強めあう。
また一方の変位が正で他方が負の時は、合成波の変位の絶対値は小さくなり、弱めあう。
2つ(以上)の波が重なり合って強めあったり弱めあったりする現象を波の干渉という。
様々な干渉現象は、波の重ね合わせの原理によって分析できる。

2つの波源からでる同一の振動数をもつ球面波の干渉

2つの波源からでる同一の振動数をもつ球面波の干渉を考察しよう。(注1参照のこと)
命題4.6 により、両者の波長は等しい。
2つの波源を含むひとつの平面上で考える(あるいは、2次元の球面波を考える)。

図 2つの波源から出た同波長、同位相の波の干渉(ウィキペディアより)

ある瞬間に、2つの波の山と山(緑と赤の円の交点)、谷と谷が重なり合った場所では
合成波は時間とともに大きく変動する。
このような点(無数にある)を、合成波のという。
一方の波の山と他方の波の谷が重なる場所では、合成波の変位は少ない(注2を参照のこと)。
このような点(無数にある)を、合成波のという。

(注1)球面波は、波面が球(2次元波の時は円)となる波である。
この波は、波源からあらゆる方向に初期位相と波長と振動数が等しい(従って速さも等しい)波が放射される。
波源から離れるに従い、波は広がっていくので、振幅は減少していく。
しかし、減衰の仕方は方向によらず、同じである。(4.4節を参照のこと)。
2次元の球面波(波面が同心円状の波)は、水面に小石を落とした時に発生する。
波源で方向性のある波を発生しても、
波源から十分離れた場所では球面波とみなしてもよいことが多い。

(注2)2つの波は振動数が同じなので、
2つの波の山と山が重なる点では、時間が進むにつれ、
同時に変位は0になり、次に、同時に谷になる。
こうして、合成波は腹の地点で大きな振幅で振動する。
2つの波の谷と谷が重なる点でも、同様に、合成波の振動は大きくなる。
他方、一方の山と他方の谷が重なる点では、
時間が経過しても絶えず正負が打ち消しあう関係にあるので、
振動の振幅は小さくなる。

2つの波源からの距離を用いた腹と節の条件式

命題4.7 
2つの波源が同一周期で同一波長$\lambda$の波を生むとする。
2つの波源の初期時刻における位相角が等しいと仮定する。
(1)両波源からの距離が $l_1$ と $l_2$ の点が合成波の腹になる条件は
$|l_1-l_2|=m \lambda \quad (m=0,1,2,,,,),\qquad \qquad (14)$
(2)両波源からの距離が $l_1$ と $l_2$ の点が合成波の節になる条件は
$|l_1-l_2|=(m+\frac{1}{2} )\lambda \quad (m=0,1,2,,,,),\qquad \qquad (15)$
証明;
(1);両者の行程の差は、$|l_1-l_2|$ であり、これが0か波長の自然数倍のとき、
片方の波が山(谷)ならば、他方も山(谷)になり、波は強めあう。
(2);両者の行程の差が $\frac{1}{2}$ 波長か、それに波長の整数倍を加えたとき、
半波長分位相が異なるので、片方が山の時、他方は谷となり弱めあう。
証明終わり。

定常波と進行波

定常波(standing waveまたはstationary wave)とは、
波形が進行せずその場に止まって振動しているようにみえる波動のことである。
定在波(ていざいは)ともいう。(下記のウィキペディアの記事の冒頭より)。

命題4.8 
2つの波を考える。
もし両者の
振幅$A_i(i=1,2)$が等しく、波数ベクトル$k_i(i=1,2)$が等しく、
速度$v_i(i=1,2)$が逆向き($v_1=-v_2$)
ならば、
この2つの波が重なると定常波となる。
証明;
2つの波の共通の振幅をA,波数ベクトルをkとかくと、 命題4.4 より、
$y_1=A\sin {\left(k(x-vt)+\alpha \right) }$ (x軸の正方向に進行)
$y_2=A\sin {\left(k(x+vt)+\beta \right) }$ (x軸の負方向に進行)
で表せる。
両者が重なるときの波形は、重ね合わせの原理から、
$y=y_1 +y_2$
$=A\sin {\left(k(x-vt)+\alpha \right)}+A\sin {\left(k(x+vt)+\beta \right)}$
$\quad$ 三角関数の加法定理(注参照)を用いて、式を簡略化するために、
$\quad$ $\gamma:=\frac{\alpha + \beta}{2}$、$\delta:=\frac{\alpha - \beta}{2}$ という変数を導入すると、
$\quad$ $\alpha=\gamma + \delta $、$\beta=\gamma - \delta $ と表現される。
$\quad$ これらを、上式に代入して、計算を進めると、
$y=A\sin {\left(k(x-vt)+ \gamma + \delta \right)}+A\sin {\left(k(x+vt)+ \gamma - \delta \right)}$
$=A\sin {\left((kx+ \gamma)-(kvt - \delta) \right)}+A\sin {\left(kx+\gamma)+(kvt- \delta) \right)}$
$\quad$ $a:=kx+ \gamma$、$b:=kvt - \delta$ とおくと、
$y=A\sin{(a-b)} + A\sin{(a+b)}$
$\quad$ 三角関数の加法定理を適用すると
$=A\left( (\sin{a} \cos{b}-\sin{b}\cos{a})+ (\sin{a} \cos{b}+\sin{b}\cos{a}) \right)$
$=2A\sin{a} \cos{b}=2A\cos{(kvt - \delta)}\sin{(kx+ \gamma)} $
を得る。
これは波数ベクトルkで、速度が0で、その振幅が $2A\cos{(kvt - \delta)}$(時間とともに振動する)で与えられる定常波である。
証明終わり。

定常波とその腹と節については

定常でない波は進行波という。

(注)
三角関数の加法定理については、
ウィキペディア(三角関数の公式の一覧)を参照のこと。

媒質の端における波の反射、固定端と自由端 

波が媒質の終端に達するとそこで反射し、逆方向にすすむ。
反射した波の形は、自由端と固定端では異なる。
実際に観測される波の形は後続の進行波と反射波の合成波である。

固定端と自由端

波の変位量が0に固定されてしまう終端を、固定端という。
反対に、波の変位量の拘束が与えられず自由な値を取れる終端を、自由端という。
例えば、
両端を固定して張った弦のある場所に力を与えて振動を起こさせると、横波が起こる。
横波の変位量は、弦の位置の(巨視的な)変化量である。
弦の両端は固定されているので、位置は変化できず、固定端になる。
媒質の終端が固定されておらず、その部分の媒質が自由に動ける場合が自由端になる。
縦波では、どのような場合に固定端になるのだろうか。
この場合には、波の変位量として、何を選んでいるかで、
同じ端でも固定端にもなり、自由端にもなる。
円管の中の空気の振動(音)を例にして考える。
円管の中の空気のことを、気柱(「4.2 音と音波」で詳述)という。
もし、波長が気柱の直径に比べて大きい時には、
気柱の波は円管に沿って進む平面波と考えられる。
そこで、気柱を進行する平面波を考えて、
閉鎖端と開放端が固定端なのか自由端なのか、考えてみよう。
菅の一方の端Aは壁でふさがれており、他方の端Bは、大気に開放されているとする。
ファイル:GENPHY00010401-03.pdf
閉鎖端A;
波の変位量として、気体の位置変化をとるときには、
閉鎖端では、空気は動けず変位量は常に零なので固定端となる。
ここで波が反射すると、合成波はA端を節とする定常波になる。
ところが、気体の密度・圧力を変位量に選ぶと、
A端では、密度の高い(圧力が大きい)波が進行してきても、
端が塞がれているため、空気が外部にもれず、
波の密度(圧力)に合わせて密度(圧力)は変動する。
波の変位量が自由に変動できるので、自由端になる。
ここで波が反射すると、その合成波はA端を腹とする定常波になる。
開放端B
B端では気圧が大気圧に等しくなるように管内の空気は自由に出入りする。
気柱の中の波がB端に達すると、この気圧を大気圧に維持するため、大気との間に空気が出入りし、
B端が波源となり気柱に反射波が生じる。
この合成波はB端で大気圧に維持される定常波である。
そこで、波の変位量として密度・圧力をとるときには、B端は固定端となり、節となる。
他方、気体の位置変化を変位量としてとると、
B端では気体が自由に動けるため、自由端となり、定常波の腹となる。
図参照のこと。

従って、管の端の開閉より、波の変位量を考慮した、固定端、自由端の区別が、波の性質を考えるときは、重要な概念になる。

固定端での波の反射と合成波

進行波がx軸上を $v=\frac{\omega}{k}$ の速度で進む正弦波
$y_1=A\sin \left(kx-kv t+\theta\right)\qquad \qquad (12)$
を例に、反射波を求める。

固定端では、
波の変位量(横波では位置変化、縦波では密度・圧力変化)を零にするため媒質に、
波の周期と等しく振動する力を与え続ける。
このため固定端を波源となる波が発生し、媒質中を伝わる。
この波は、振動数が進行波と等しく、逆向きに進行するので、
$y_2=B\sin \left(kx+kv t+\theta\right)$、(注参照)
固定端で,$y_1+y_2 \equiv 0$ となるには、$A=B$
すると命題4.5 より
合成波$y_1+y_2$ は定常波となり、その固定端は節になる。
(注)命題4.6 より、振動数が等しければ波数kも等しいことが分かる。

自由端 での波の反射と合成波

この場合には、波は何の障害もなく、自由端の変位量を変化させる。
このため、自由端は波の振動に合わせて、同位相、同振幅で振動する波源となり、
進行波と同振幅、同位相、同周期(振動数)の波を、逆方向に放出する。
すると命題4.5 より、
その合成波は定常波となり。自由端は、その腹になることが分かる。

なお、反射については

を参照のこと。

2つの媒質の境界における波の反射と透過

波面の進行にかんするホイヘンスの原理 

 ホイヘンスの原理 

1678年 C.ホイヘンスが唱えた原理で、波の波面がどのように進行するかを説明するもの。
伝播する波動の波面Wの各点pから初期位相の同じ球面状の二次波(素元波)が出ていると考える。この二次波の位相が同量だけ微小進んだ時の波面$S_p$の包絡面(注1参照)を,次の波面$\tilde{W}$とする。
これを繰返して、波面の進行を求めることができる(注2参照)。
波は波面に垂直方向に進行するので、波の進行方向も求まる。
ホイヘンスは、この原理を用いて、波の反射や屈折現象を説明した。

で学んでください。
ホイヘンスの原理の修正やその正しさの証明などの解説は以下をご覧ください。

(注1)面$\tilde{W}$が2次波の包絡面とは、$\tilde{W}$のどの点qも、ある2次波の波面$S_p$ と接していること。
(注2)波面の各点が波源となる球面波の微小時間後の包絡面は
波の進行方向だけでなく、逆向きにもできてしまう。
これを避けるため、波面の各点が波源となって発生するのは球面波でなく、
その一部(進行方向の半球だけ)などの修正が考えられた。

平面波の反射の法則 

平面状の鏡や壁にあたった波は、反射する。

入射角と反射角

鏡に当たる波を入射波、反射して出ていく波を反射波という。 
  入射波の進行方向と鏡の垂線(注参照)が作る角度を入射角という。 
  反射角も同様に定義する。
 
  (注)鏡の垂線とは、鏡と直交する直線のこと。すなわち、鏡のうえの、どんな直線とも直交する直線のこと。

反射の法則

反射の法則
波の入射角と反射角は一致する。

  水面などのように、2つの媒質の平面状の境界では
  波の一部が反射して、同一媒質中を進行し、
他は、進行方向を変えて他の媒質に進入する(屈折という)。
この場合にも反射については、同じ法則が成立つ。
反射法則は、波の速さが同一媒質中では変わらないことから、
ホイヘンスの原理を用いて証明できる。

屈折にかんするスネルの法則 

この法則を、ホイヘンスの原理から導いてください。

 回折 

波がその進行方向にある障害物の背後に回り込んで伝わっていく現象のことを、回折という。
多数の波源の干渉(重ね合わせ)の結果おこる現象である。
  従って干渉と回折は本質は同じ現象で、単に波源の数の大小の違いである。
  その境界もはっきり定められない。 この現象もホイヘンスの原理と重ね合わせの原理で説明できる。
例えば、壁に小さな穴が開いていると、
平面波が壁に進入したとき、この穴の部分の媒質が振動し、新たな一つの波源となり、壁の向こう側に球面波を作る。
こうして壁の影にも波は回り込む。
他方、壁に垂直方向に進む平面波が大きな壁の穴に達すると、穴の各点が同一初期位相の波源となる。
この波源の波は重ね合わせると
進入波と垂直方向の壁側の地点では、(伝達時間の差から)位相が少しづつ違う波の和となり、殆ど変位を生じない。
一方、進入波の進行方向の壁の向こう側では、ある程度壁から離れると、各波源から来る波の位相が ほぼ等しくなるため、波は強めあう。
このため、平行波は、穴を通り抜け、まっすぐ進行する。
ウィキブックス(高等学校理科 物理I 波/波の性質)の「5.4 回折」を参照のこと。

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