物理/物理数学(1) ベクトル・ベクトル空間と解析学
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(→実数値関数とベクトル値関数の微分) |
(→実数値関数とベクトル値関数の微分) |
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333 行: | 333 行: | ||
== 実数値関数とベクトル値関数の微分 == | == 実数値関数とベクトル値関数の微分 == | ||
+ | このテキストを理解するための必要最小限のことを記述する。<br/> | ||
+ | 以下の文献も必要に応じて参考にしてください。<br/> | ||
+ | 一冊では不十分な内容なので色々あげてある。 | ||
+ | *[[wikibooks_ja:高等学校数学II 微分・積分の考え|ウィキブックス(高等学校数学II 微分・積分の考え)]] | ||
+ | *[[wikibooks_ja:高等学校数学III 微分法|ウィキブックス(高等学校数学III 微分法)]] | ||
+ | *[[wikibooks_ja:物理数学I 解析学|ウィキブックス(物理数学I 解析学)]] | ||
+ | *[[wikibooks_ja:物理数学I ベクトル解析|ウィキブックス(物理数学I ベクトル解析)]] | ||
+ | |||
=== 実数値関数の微分 === | === 実数値関数の微分 === | ||
実数の開区間I=(a,b)上で定義された実数値関数y=f(x)を考える。<br/> | 実数の開区間I=(a,b)上で定義された実数値関数y=f(x)を考える。<br/> | ||
定義;微分可能性<br/> | 定義;微分可能性<br/> | ||
関数fがs∈Iで微分可能であるとは、極限<br/> | 関数fがs∈Iで微分可能であるとは、極限<br/> | ||
- | $\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f( | + | $\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f(s)}{h}=c \qquad \qquad (1)$<br/> |
が存在することである。<br/> | が存在することである。<br/> | ||
この時cをfのsにおける微分係数あるいは導値といい、<br/> | この時cをfのsにおける微分係数あるいは導値といい、<br/> | ||
346 行: | 354 行: | ||
この時、任意のs∈Iに対して、f′(s)∈Iが定まるので、<br/> | この時、任意のs∈Iに対して、f′(s)∈Iが定まるので、<br/> | ||
関数f′が定まる。これをfの導関数(derivative)という。<br/> | 関数f′が定まる。これをfの導関数(derivative)という。<br/> | ||
- | + | ||
+ | ==== 微分係数の意味 ==== | ||
+ | f(s+h)−f(s)hは、区間[s,s+h]における関数値の平均変化率である。<br/> | ||
+ | hを零に近づけていったときの極限の意味を正確に理解するために<br/> | ||
+ | 微分可能の定義を、それと同等の別の表現に変換しよう。<br/> | ||
+ | (1)式の右辺の定数を左辺に移行すると<br/> | ||
+ | limh→0,h≠0f(s+h)−f(s)−chh=0<br/> | ||
+ | 次に、<br/> | ||
+ | os(h):=f(s+h)−f(s)−chh(2)<br/> | ||
+ | という、変数hの関数を定義する。<br/> | ||
+ | すると関数fがs∈Iで微分可能で、微分係数がcである必要十分条件は<br/> | ||
+ | limh→0,h≠0os(h)=0<br/> | ||
+ | である。<br/> | ||
+ | (2)式を変形すると<br/> | ||
+ | f(s+h)=f(s)+ch+os(h)h<br/> | ||
+ | ゆえに次の命題が証明できた。<br/> | ||
+ | 命題;<br/> | ||
+ | 次の2つ条件は同等である。<br/> | ||
+ | 1)関数fはs∈Iで微分可能で、微分係数はcである<br/> | ||
+ | 2)関数fは、<br/> | ||
+ | f(s+h)=f(s)+ch+os(h)h(3)<br/> | ||
+ | と表現できる。<br/> | ||
+ | ここで、os(h)は<br/> | ||
+ | limh→0,h≠0os(h)=0(4)<br/> | ||
+ | を満たす関数<br/><br/> | ||
+ | 3) 関数fは、<br/> | ||
+ | sの近傍の点xで | ||
+ | f(x)=f(s)+c(x−s)+(os(x−s))(x−s)(3)<br/> | ||
+ | ここで、os(x−s)は<br/> | ||
+ | limx→s,x≠sos(x−s)=0(4)<br/> | ||
+ | を満たす関数<br/><br/> | ||
+ | |||
+ | この定理の3)により、<br/> | ||
+ | 「関数がsで微分可能であり、微分係数がcであること」は、<br/> | ||
+ | 「この関数がsの近傍の点xで直線y=f(s)+c(x−s)で近似でき、<br/> | ||
+ | 誤差|f(x)−(f(s)+c(x−s))|=|(os(x−s))(x−s)|が,<br/> | ||
+ | xをsに近づけていくとき、h=x−sより高次で0に収束する<br/> | ||
+ | ことと同等であることが分かる。<br/> | ||
+ | このことから、この直線は、sで関数(のグラフ)に接することが分かる。 | ||
+ | |||
+ | ====導関数の性質==== | ||
(1)f,gがI=(a,b)上で定義された、微分可能な実数値関数ならば<br/> | (1)f,gがI=(a,b)上で定義された、微分可能な実数値関数ならば<br/> | ||
αf+βg、fg(s):=f(s)g(s)は微分可能で<br/> | αf+βg、fg(s):=f(s)g(s)は微分可能で<br/> | ||
それらの導関数の間には、<br/> | それらの導関数の間には、<br/> | ||
(αf+βg)′=αf′+βg′(線形性)ここでα,βは任意の実数。<br/> | (αf+βg)′=αf′+βg′(線形性)ここでα,βは任意の実数。<br/> | ||
- | (fg)′=f′g+fg′<br/> | + | (2) (fg)′=f′g+fg′<br/> |
- | + | 証明は、微分の定義式と極限の性質から容易に導ける。 | |
- | + | ||
- | + | ||
===ベクトル値関数の微分=== | ===ベクトル値関数の微分=== | ||
実数の開区間I=(a,b)上で定義され,n次元の実ベクトル(∈Rn)に | 実数の開区間I=(a,b)上で定義され,n次元の実ベクトル(∈Rn)に | ||
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導関数の線形性の性質も成り立つ。<br/> | 導関数の線形性の性質も成り立つ。<br/> | ||
==== ベクトル値関数の微分とその成分関数の微分の関係==== | ==== ベクトル値関数の微分とその成分関数の微分の関係==== | ||
- | + | 関数値→f(s)はRnの要素なので<br/> | |
→f(s)=(f1(s),f2(s),⋯fn(s))<br/> | →f(s)=(f1(s),f2(s),⋯fn(s))<br/> | ||
- | + | と表示できる。<br/> | |
- | すると→f | + | すると→fのn個の成分関数<br/> |
fi,(i=1,2,⋯n)<br/> | fi,(i=1,2,⋯n)<br/> | ||
が得られる。<br/> | が得られる。<br/> | ||
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====ベクトル積の微分 ==== | ====ベクトル積の微分 ==== | ||
命題<br/> | 命題<br/> | ||
- | $ | + | →a(t) と →b(t)は、開区間I上で定義され、 |
- | →a(t)×→b(t) | + | 微分可能なベクトル値関数とする。すると、<br/> |
+ | →a(t)×→b(t) は微分可能で、<br/> | ||
ddt(→a(t)×→b(t))=(ddt→a(t))×→b(t)+→a(t)×(ddt→b(t)) | ddt(→a(t)×→b(t))=(ddt→a(t))×→b(t)+→a(t)×(ddt→b(t)) | ||
証明<br/> | 証明<br/> |
2015年2月17日 (火) 15:59時点における版
目次[非表示] |
物理数学
本テキストで使う数学について、紹介する。
集合
集合論の初歩の知識は前提にして記述するので、
なじみのない方は、下記を参考に、
集合の素朴な定義、集合の表記法、集合の和集合や共通集合、集合の包含関係
などについて学習してほしい。
実数の連続性と極限
実数の連続性は、色々な極限の存在の根拠を与えるもので、
実数の持つ最も重要な性質の一つである。
上界、下界と有界集合
Rを、全ての実数を要素とする集合とし、
Aをその部分集合とする。
実数uがAの上界(upper bound)とは、
任意のa∈Aに対して、a≤uがなりたつこと。
実数lがAの下界(lower bound)とは、
任意のa∈Aに対して、l≤aがなりたつこと。
UAをAの上界をすべて集めた集合、
LAをAの上界をすべて集めた集合とする。
UAが空集合∅でない(すなわち、Aの上界が少なくとも一つ存在する)とき、
Aは上に有界であるといい、
LA≠∅の時、Aは下に有界であるという。
上に有界で、下にも有界な集合(⊂R)は、有界という。
実数の連続の公理と上限、下限
A⊂Rとする。
実数の連続性の公理
もし、UA≠∅ならば、UAは、最小元を持つ。
もし、LA≠∅ならば、LAは、最大元を持つ。
上限と下限の定義
UAの最小元をAの上限(supremum)あるいは最小上界(least upper bound)という。
また、LAの最大元をAの下限(infimum)あるいは最大下界(greatest lower bound)という。
命題1
uがA(⊂R) の上限となるための必要十分条件は、
ⅰ)uはAの上界。すなわち任意のa∈Aにたいしてa≤u
ⅱ)x<uである任意のxはAの上界ではない。すなわち、x<aとなるa∈Aが存在。
ⅲ)Aが最大値を持つ場合には、上限は最大値と一致する。
同様に、lがA の下限となるための必要十分条件は、
ⅰ)lはAの下界。すなわち任意のa∈Aにたいしてl≤a
ⅱ)l<xである任意のxはAの下界ではない。すなわち、a<xとなるa∈Aが存在。
ⅲ)Aが最小値を持つ場合には、下限は最小値と一致する。
A の上限をsupA、下限をinfAと書く。
証明は、上限、下限の定義から、明らかなので省略する。
例;A=(0,1)のとき、supA=1,infA=0。
これらは、ともにAの要素でないので、
上限1はAの最大元(最大値)ではなく、下限0はAの最小元(最小値)ではない。
A=[0,1]のとき、supA=1,infA=0。
これらは、ともにAの要素なので、
上限は最大限であり、下限は最小限となる。
命題2
A⊂B⊂Rで、Bは有界集合とする。
このとき、infB≤infA≤supA≤supB
証明は容易である。
関数y=f(x)が連続でない時は、区間上で最大値や最小値を取らないことがある。
この場合も考慮して、最大値を上限に、最小値を下限に置き換えて、
m(f;Vi)=inf{f(x)∣x∈Vi},M(f;Vi)=sup{f(x)∣x∈Vi}で定義すれば、
有界関数に対して、これらは常に定義され、今までの議論はすべて成り立つ。
実数列の極限
極限の性質
内積とノルム
内積とノルムは物理学では良くつかわれるので
本テキストで必要となる命題と証明を紹介する。
以下では、
→a,→b,→cは、すべて同じ次元(2か3)のベクトルとし、 αは実数とする。
なお、全ての命題は、4次元以上のベクトルに対しても成り立つが省略する(注参照)。
座標成分表示が必要な命題では、直交座標系表示を用いる。
(注)n次元(>3)も含めた一般のn次元ベクトルの内積は、後述の命題2
ノルムと内積の定義
ベクトル→aのノルムとは、
‖のことで、
ベクトルの長さ(大きさ)を表す。
ベクトル\vec a,\vec bの内積とは
\vec a \cdot \vec b:=\|\vec{a}\|\|\vec{b}\|\cos\theta
ここで、\thetaは、ベクトル\vec a,\vec bのなす角(0\le \theta \le \pi )である。
この定義から、
\vec a \cdot \vec a=\|\vec{a}\|^2
であることが分かる。
内積とノルムの性質
命題1
\vec a \cdot \vec b =\vec b \cdot \vec a
証明;内積の定義から明らか。
命題2
\vec a \cdot \vec b =\sum_{i}a_ib_i
ここでa_1,b_1はそれぞれ\vec a,\vec bのx座標成分、同様に、添え字2はy座標成分、3はz座標成分
直交座標系はどんなものでも良い。しかしすべてのベクトルは同じ座標系で座標成分表示しなければならない。
証明
次の三角形の余弦定理を利用する。
三角形の第2余弦定理;
図のような\triangle {ABC}を考える。
頂点A,B,Cの対辺の長さをそれぞれa,b,cとし、\angle{ACB}=\thetaとする。
すると、c^2=a^2+b^2-2ab\cos\theta
余弦定理の証明;頂点Aから対辺BCにおろした垂線の足をHとする。
ピタゴラスの定理により、
c^2=\overline{BH}^2+\overline{AH}^2。\qquad 右辺の第2項に、再び、ピタゴラスの定理を適用して、
=\overline{BH}^2+(b^2-\overline{CH}^2) \qquad \overline{BH}=a-\overline{CH}を代入すると、
=(a-\overline{CH})^2+(b^2-\overline{CH}^2)=a^2+b^2-2a\overline{CH},\quad \overline{CH}=b\cos\thetaなので、代入すると
=a^2+b^2-2ab\cos\theta
証明終わり。
命題2の証明
ベクトル\vec a と\vec b を、
始点が点Cである有向線分で表現し、その終点をB,Cで表す。
すると\vec a=\vec{CB}, \vec b=\vec{CA}である。
ベクトル\vec c=\vec a-\vec bを導入すると、
\vec c=\vec a-\vec b=\vec{CB}-\vec{CA}=\vec{CB}+\vec{AC}=\vec{AB}
3角形\triangle {ABC}を考え、第2余弦定理を適用しよう。
\angle{ACB}=\thetaとおく。すると、
\|\vec c\|^2=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\|\vec a\|\|\vec b\|\cos{\theta}
=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\vec a \cdot \vec bが得られる。
この式を変形して\vec a \cdot \vec bだけを左辺に置くと、
\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec c\|^2)/2 。
\vec c=\vec{AB}=\vec{AC}+\vec{CB}=-\vec b+\vec aなので、
\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec a-\vec b\|^2)/2
この右辺を、ベクトルの直交座標成分で表すと、次式が得られる。
\vec a \cdot \vec b=(\sum_{i}a_i^2+\sum_{i}b_i^2-\sum_{i}(a_i-b_i)^2 )/2
=\sum_{i}a_i b_i
命題2の証明終わり。
命題3
(\vec a +\vec b) \cdot \vec c =\vec a \cdot \vec c+\vec b \cdot \vec c
証明
ある一つの直交座標系をさだめ、両辺を、命題(2)を利用して、座標成分であらわす。両辺が等しいことが分かる。
系; \vec a \cdot (\vec b+\vec c) =\vec a \cdot \vec b+\vec a \cdot \vec c
証明;命題1を利用して、左辺の項の順番を入れ替え、命題3を適用し、再び命題1を用いればよい。
命題4
(\alpha \vec a)\cdot \vec b =\vec a \cdot (\alpha \vec b)=\alpha (\vec a \cdot \vec b)
が成り立つ。
証明
同様に、3つの式を、座標成分表示すれば、みな等しいことが、簡単に分かる。
命題5
\|\vec a \cdot \vec b\| \leq \|\vec a\|\|\vec b\|
0\leq |\cos\theta|\leq 1なので内積の定義から、ただちに分かる。
命題6 ノルムの三角不等式
\|\vec a + \vec b\| \leq \|\vec a\| + \|\vec b\|
証明
\|\vec a + \vec b\|^2=(\vec a + \vec b)\cdot (\vec a + \vec b)
命題3を使って計算すると、
=\vec a \cdot \vec a +\vec b \cdot \vec b +2\vec a \cdot \vec b
命題5より、
\leq \vec a \cdot \vec a +\vec b \cdot \vec b +2\|\vec a\|\|\vec b\|
=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2+2\|\vec a\|\|\vec b\|=(\|\vec a\|+\|\vec b\|)^2
故に\|\vec a + \vec b\|^2 \leq (\|\vec a\|+\|\vec b\|)^2
両辺の平方根をとれば所要の不等式を得る。
ベクトル積
本節での全ての命題で、
\vec{a}, \vec{b}, \vec{c}は3次元ベクトル
\alphaを実数とする。
命題1. \quad \vec{a} を, \vec{c} と垂直な成分 \vec{a_\perp} と,平行な成分\vec{a_\parallel} の和に分解するとき、
\quad \vec{a} \times \vec{c}= \vec{a_\perp} \times \vec{c}
\quad \vec{a_\parallel} \times \vec{c}= 0
証明;ベクトル積の定義から、容易に示せる。
2つのベクトルの作る平行四辺形の面積と方向・向きを考えれば良い。
命題2. \quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}
証明;2つのベクトルを入れ替えても、それらが作る平行四辺形の面積は変わらず、この四辺形に直交する直線の方向も変わらない。
しかし、ベクトル積の向きは、逆向きになる。
ベクトル積の定義から、\quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a} が示せた。
命題3
(\alpha\vec{a})\times \vec{b}= \alpha(\vec{a} \times \vec{b})= \vec{a}\times (\alpha\vec{b})
証明;実数\alpha が正、零、負の場合に分けて考える。
いずれの場合にも,
ベクトル積の定義とベクトルと実数の積の命題から、容易に証明できる。
命題4. \quad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}
証明;
この証明には少し工夫が必要である。
ベクトル積の命題の中でも、もっとも大切なものなので、詳しく説明しよう。
① \vec{a}, \vec{b} と\quad \vec{c}\quad が直交する場合。図参照のこと
・議論をやさしくするため、ベクトルを、空間の原点O を始点とする有向線分で代表させる。
・ \vec{c} と直交しO を通る平面をHとする。
・仮定より \vec{a},\quad \vec{b}は、ともに平面H上のベクトルである。
・\vec{a} \times \vec{c} ,\quad \vec{b} \times \vec{c}も、
ベクトル積の定義により、共に \vec{c} と直交するので、H上のベクトルである。
これら四つのベクトルはすべて平面H上にあるので、今後の議論はこの平面上で進める。
ⅰ)\vec{a} \times \vec{c}, \vec{b} \times \vec{c} の張る平行四辺形は,
\vec{a}, \vec{b}の張る平行四辺形を、\| \vec{c}\|倍し,原点周りに90度回転したものになることを、示そう。
・\vec{a} \times \vec{c} は、ベクトル積の定義から、 \vec{a} と直交する。
そのため、\vec{a} を平面H上で、原点まわりに、90度右回りか、左回りすれば、方向と向きが一致する。
・\vec{b} \times \vec{c} も、同様に考え、\vec{b} を平面H上で、原点まわりに、90度右回りか、左回りすれば、方向と向きが一致することが分かる。
・どちら周りの回転になるかは、ベクトル積の定義によって決まるが、
後者の回転の向きが、前者の回転の向きと一致することが分かる。
・\vec{a}\times \vec{c} の大きさは、
\|\vec{a}\times \vec{c}\|=\|\vec{a}\|\|\vec{c}\|\cos(\pi/2)=\|\vec{a}\|\|\vec{c}\| なので、\vec{a} の大きさの\|\vec{c}\|倍になる。
同様に、\vec{b}\times \vec{c} の大きさは、\vec{a} の大きさの\|\vec{c}\|倍になる。
・以上の結果より、所望の結果は示された。
ⅱ) \qquad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}を示そう。
・ ⅰ)と同じ議論により、
(\vec{a}+ \vec{b}) \times \vec{c}は\vec{a}, \vec{b}の張る平行四辺形の対角線を、原点周りに90度、同じ向きに回転させ、\|\vec{c}\|倍させたものであることが分かる。
・すると、ⅰ)で示したことから、(\vec{a}+ \vec{b}) \times \vec{c}は
\vec{a} \times \vec{c}, \vec{b} \times \vec{c} の張る平行四辺形の対角線\vec{a} \times \vec{c}+\vec{b} \times \vec{c} に等しいことが分かる。
・以上で①が示せた。
② 一般の場合。
命題1より、\perp を\vec{c}と垂直な成分を表すとすると、 (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= (\vec{a}+ \vec{b})_\perp \times \vec{c} \qquad \qquad \qquad (1)
(\vec{a}+ \vec{b})_\perp =\vec{a}_\perp +\vec{b}_\perpなので、(1)式は、
= (\vec{a}_\perp +\vec{b}_\perp) \times \vec{c}
①より、
= \vec{a}_\perp \times \vec{c}+\vec{b}_\perp\times \vec{c}=\vec{a} \times \vec{c}+\vec{b} \vec{c} \qquad 命題4の証明終わり。
命題4の系
\quad \vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= \vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c}
\quad (\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}
証明;
命題2より、
\vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= -\left((\vec{b}+ \vec{c})\times \vec{a}\right) 命題3から
=\left(-(\vec{b}+ \vec{c})\right)\times \vec{a}
命題4より、
= -(\vec{b} \times \vec{a}+ \vec{c} \times \vec{a})
再び命題2より、
=\vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c} \quad 前半の証明終わり
命題2より、
(\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=(\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{d}+\vec{c})\times \vec{d}
再び命題2より、
=\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}
\quad証明終わり。
命題5.\quad (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3}) を
それぞれ大きさ(長さ)1で互いに直交し、右手系をなす、ベクトル(右手系をなす正規直交基底)とする。
この時、
\quad \vec{e_1} \times \vec{e_2} = \vec{e_3}, \quad
\vec{e_2} \times \vec{e_3} = \vec{e_1}, \quad
\vec{e_3} \times \vec{e_1} = \vec{e_2}
証明;ベクトル積と(e_1,e_2,e_3) の定義から明らかである。
命題6.ベクトル\vec a, \vec bを,命題5で用いた基底 (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3}) で決まる座標の座標成分で表示しておく。
すると\vec a \times \vec b=(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x)
証明;\vec a=a_x\vec{e_x}+a_y\vec{e_y}+a_z\vec{e_z},
\vec b=b_x\vec{e_x}+b_y\vec{e_y}+b_z\vec{e_z}と表せるので、
\vec a \times \vec b=(a_x\vec{e_x}+a_y\vec{e_y}+a_z\vec{e_z})\times \vec b
命題3の系から
=a_x\vec{e_x}\times \vec b
+a_y\vec{e_y}\times \vec b
+a_z\vec{e_z}\times \vec b \qquad (1)
式(1)の第1項
a_x\vec{e_x}\times \vec b
に
\vec b=b_x\vec{e_x}+b_y\vec{e_y}+b_z\vec{e_z}
を代入して、命題3の系を使って変形すると、
a_x\vec{e_x}\times \vec b
=a_x\vec{e_x}\times b_x\vec{e_x}
+a_x\vec{e_x}\times b_y\vec{e_y}
+a_x\vec{e_x}\times b_z\vec{e_z} \qquad (2)
命題4と命題5を使うと、
a_x\vec{e_x}\times b_x\vec{e_x}
=a_x b_x\vec{e_x}\times \vec{e_x}
=\vec 0 。
同様の計算を行うと、
a_x\vec{e_x}\times b_y\vec{e_y}
=a_x b_y\vec{e_x}\times \vec{e_y}
=a_x b_y\vec{e_z}
a_x\vec{e_x}\times b_z\vec{e_z}
=a_x b_z\vec{e_x}\times \vec{e_z}
=-a_x b_z\vec{e_y}
式(2)にこれらを代入して、
a_x\vec{e_x}\times \vec b
=a_x b_y\vec{e_z} - a_x b_z\vec{e_y} \qquad (3)
式(1)の第2項、第3項も同様に計算すると、
a_y\vec{e_y}\times \vec b
=a_y b_z\vec{e_x} - a_y b_x\vec{e_z} \qquad (4)
a_z\vec{e_z}\times \vec b
=a_z b_x\vec{e_y} - a_z b_y\vec{e_x} \qquad (5)
式(3),(4),(5) を、式 (1)に代入すると、
\vec a \times \vec b
=a_x b_y\vec{e_z} - a_x b_z\vec{e_y}
+a_y b_z\vec{e_x} - a_y b_x\vec{e_z}
+a_z b_x\vec{e_y} - a_z b_y\vec{e_x}
=(a_y b_z - a_z b_y)\vec{e_x}
+(a_z b_x - a_x b_z)\vec{e_y}
+(a_x b_y - a_y b_x)\vec{e_z}
命題6の証明終わり。
命題7の証明;
\quad (\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}を証明しよう。
残りも、同様に証明出来るので各自試みてください。
右手系をなす一つの直交座標を決める。
3つのベクトルを、この座標の成分で表示して、命題6と内積の命題を使えば、左右が等しいことが証明できる。
概略をスケッチしよう。
\quad (\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}
=(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x)
\cdot (c_x,c_y,c_z)
=(a_yb_z-a_zb_y)c_x+(a_zb_x-a_xb_z)c_y+(a_xb_y-a_yb_x)c_z
\quad (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}も、これと同じように計算する。
これら両式を整頓すると、同じものであることが分かる。
命題7.
(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b} =(\vec{b} \times \vec{c})\cdot\vec{a}
証明
(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}を証明しよう。
残りも、同様に証明出来るので各自試みてください。
右手系をなす一つの直交座標を決める。
3つのベクトルを、この座標の成分で表示して、命題6と内積の命題を使えば、左右が等しいことが証明できる。
概略をスケッチしよう。
(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}
=(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x)
\cdot (c_x,c_y,c_z)
=(a_yb_z-a_zb_y)c_x+(a_zb_x-a_xb_z)c_y+(a_xb_y-a_yb_x)c_z
\quad (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}も、これと同じように計算する。
これら両式を整頓すると、同じものであることが分かる。
命題7の証明終わり。
関数の連続性
関数の連続性の定義;
実数値関数 f(x) がある点 x_0で連続であるとは、
xがx_0 に限りなく近づくならば、f(x) が f(x_0) に限りなく近づく
ことを言う。
\lim_{x\to x_0} f(x) = f(x_0)と記す。
これはイプシロン-デルタ論法(ε-δ論法)を用いれば次のように定式化できる。
(小さな)正の数 ε が任意に与えられたとき、
(小さな)正の数 δ をうまくとってやれば、
x_0 と δ 以内の距離にあるどんな x に対しても、
f(x) と f(x) の差が ε より小さいようにすることができる。
関数 f(x) がある区間I で連続であるとは、
I に属するそれぞれの点において連続であることを言う。
実数値関数とベクトル値関数の微分
このテキストを理解するための必要最小限のことを記述する。
以下の文献も必要に応じて参考にしてください。
一冊では不十分な内容なので色々あげてある。
実数値関数の微分
実数の開区間I=(a,b)上で定義された実数値関数y=f(x)を考える。
定義;微分可能性
関数fがs\in Iで微分可能であるとは、極限
\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f(s)}{h}=c \qquad \qquad (1)
が存在することである。
この時cをfのsにおける微分係数あるいは導値といい、
f'(s)、\frac{df}{dt}(s)、(Df)(s)
などと書く。
I=(a,b)の各点でfが微分可能であるとき、fは微分可能関数(あるいは
微分可能)という。
この時、任意のs\in Iに対して、f'(s)\in Iが定まるので、
関数f'が定まる。これをfの{\bf 導関数}(derivative)という。
微分係数の意味
\frac{f(s+h)-f(s)}{h}は、区間[s,s+h]における関数値の平均変化率である。
hを零に近づけていったときの極限の意味を正確に理解するために
微分可能の定義を、それと同等の別の表現に変換しよう。
(1)式の右辺の定数を左辺に移行すると
\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f(s)-ch}{h}=0
次に、
o_{s}(h):=\frac{f(s+h)-f(s)-ch}{h}\qquad \qquad (2)
という、変数hの関数を定義する。
すると関数fがs\in Iで微分可能で、微分係数がcである必要十分条件は
\lim_{h \to 0,h\neq 0}o_{s}(h)=0
である。
(2)式を変形すると
f(s+h)=f(s)+ch+o_{s}(h)h
ゆえに次の命題が証明できた。
命題;
次の2つ条件は同等である。
1)関数fはs\in Iで微分可能で、微分係数はcである
2)関数fは、
f(s+h)=f(s)+ch+o_{s}(h)h \qquad \qquad (3)
と表現できる。
ここで、o_{s}(h)は
\lim_{h \to 0,h\neq 0}o_{s}(h)=0 \qquad \qquad (4)
を満たす関数
3) 関数fは、
sの近傍の点xで
f(x)=f(s)+c(x-s)+\left(o_{s}(x-s)\right)(x-s) \qquad \qquad (3)
ここで、o_{s}(x-s)は
\lim_{x \to s,x\neq s}o_{s}(x-s)=0 \qquad \qquad (4)
を満たす関数
この定理の3)により、
「関数がsで微分可能であり、微分係数がcであること」は、
「この関数がsの近傍の点xで直線y=f(s)+c(x-s)で近似でき、
誤差|f(x)-(f(s)+c(x-s))|=|\left(o_{s}(x-s)\right)(x-s)| が,
xをsに近づけていくとき、h=x-sより高次で0に収束する
ことと同等であることが分かる。
このことから、この直線は、sで関数(のグラフ)に接することが分かる。
導関数の性質
(1)f,gがI=(a,b)上で定義された、微分可能な実数値関数ならば
\alpha f+\beta g、fg(s):=f(s)g(s)は微分可能で
それらの導関数の間には、
(\alpha f+\beta g )'=\alpha f'+\beta g'(線形性)ここで\alpha,\betaは任意の実数。
(2) (fg)'=f'g+fg'
証明は、微分の定義式と極限の性質から容易に導ける。
ベクトル値関数の微分
実数の開区間I=(a,b)上で定義され,n次元の実ベクトル(\in {\bf R^n})に
値をとる関数\vec fを考える。
定義;微分可能性
実数値関数の場合と同じである。
導関数の線形性の性質も成り立つ。
ベクトル値関数の微分とその成分関数の微分の関係
関数値\vec f(s)は{\bf R^n}の要素なので
\vec f(s)=(f_1(s),f_2(s),\cdots f_n(s))
と表示できる。
すると\vec fのn個の成分関数
f_i,(i=1,2,\cdots n)
が得られる。
命題;
\vec fがs\in Iで微分可能\Leftrightarrowf_i(i=1,2,\cdots n)がs\in Iで微分可能。
この時、{\vec f}'(s)=({f_1}'(s),{f_2}'(s)\cdots {f_n}'(s))
ベクトル積の微分
命題
\vec{a(t)} と \vec{b(t)} は、開区間I上で定義され、
微分可能なベクトル値関数とする。すると、
\quad \vec{a(t)} \times \vec{b(t)} は微分可能で、
\quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}) =(\frac{d}{dt}\vec{a(t)} )\times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times (\frac{d}{dt}\vec{b(t)})
証明
すでにこのテキストで紹介した、ベクトル値関数の微分の定義
\quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)})
=\lim_{\delta t \to 0}
(\vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}- \vec{a(t)} \times \vec{b(t)})/\delta t \qquad (1)
を用いて証明する。
この極限が存在し、
\frac{d}{dt}\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times \frac{d}{dt}\vec{b(t)}
になることを示せば命題は証明できたことになる。
極限の計算が進むよう、右辺の式の分母は変形しよう。
関数の積の微分公式の証明と同じ技巧を用いる。
\vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}
- \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}
= \vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}
-\vec a(t)\times \vec{b(t+\delta t)}
+\vec a(t)\times \vec{b(t+\delta t)}
- \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}
ベクトル積の命題3を利用すると、
= \left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right)
\times
\vec b\left(t+\delta t\right)
+\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right)
この式を式(1)の右辺の分子の項に代入し整頓すると
\quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)})
=\lim_{\delta t \to 0}
\frac{\vec a(t+\delta t)\times \vec b(t+\delta t)- \vec a(t) \times \vec b(t)}
{\delta t}
=\lim_{\delta t \to 0}
\frac{\left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right)
\times
\vec b\left(t+\delta t\right)
+\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right) }
{\delta t}
ベクトル積の命題4を使い、
=\lim_{\delta t \to 0}\left(
\frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t}
\times
\vec b\left(t+\delta t\right)
+
\vec a(t)\times \frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)}
{\delta t}
\right)
極限の命題を使って、
=\lim_{\delta t \to 0}
\frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t}
\times
\lim_{\delta t \to 0}\vec b(t+\delta t)
+
\vec a(t)\times
\lim_{\delta t \to 0}\frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)}{\delta t}
式中の極限は、\vec a,\vec bが、微分可能なので存在し、
\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t}
=\frac{d\vec a(t)}{dt}
\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec b(t+\delta t) -\vec b(t)}{\delta t}
=\frac{d\vec b(t)}{dt}
多変数の実数値関数の微分
偏微分
C^{1}級の関数
微分(全微分)
定義1;微分可能(全微分可能ともいう)、導値(微分係数)、導関数
定理1;
微分可能ならば、偏微分可能
定理2
C^{1}級の関数は微分可能
リーマン積分と可積分条件
この節は、区間上で定義された関数のリーマン積分の初歩を述べる。
具体的には、リーマン積分の定義とリーマン積分が存在する(可積分)条件
について、数学的厳密性を保つように記述する。
参考記事
区間上の関数のリーマン和
区間V=[a,b]で定義され、実数に値をとる関数y=f(x)を考える。
この区間の分割
\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,n\},x_0=a,x_n=b
と、その代表点\xi_i\in V_i(i=1,2,,,n)に関する、y=f(x)のリーマン和とは、
I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=
\sum_i f(\xi_i)v(V_i)=\sum_i f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})
で定義する。
リーマン和の意味
リーマン和は、
y=f(x)のグラフを、棒グラフで近似したときの
棒グラフの作る面積(各角柱の面積和)であることが分かる。図参照。
y=f(x)のグラフとx軸、および2直線x=a、x=bで囲まれる部分の面積を近似している。
リーマン可積分
分割を細かくしていくとき、
分割の仕方や代表点の選び方に関係なく
リーマン和がある一定値に収束するとする。
すると、この値は
y=f(x)のグラフとx軸、および2直線x=a、x=bで囲まれる部分の面積
と考えられる。
定義;
\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,n\}の大きさd(\Delta)とは、
この分割で得られた小区間の長さの、最大値で定義する。
記号で書くと
d(\Delta)=max\{x_{i}-x_{i-1} \mid i=1,2,,,n\}
定義;リーマン可積分
fを、有界閉区間V上で定義され、実数の値をとる関数とする。
もし、ある実数Iが存在して、
どんな分割\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,,n\} と
代表点\xi_i\in V_i(i=1,2,\cdots ,n)であっても、
\lim_{d(\Delta) \to 0}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=I
が成り立つ時、
fはV上で(リーマン)可積分であるという。
このとき、I をfのV上での(リーマン)積分といい、
I=\int_{V}f=\int_{V} f(x)dx
などと書く。
リーマン積分の命題
命題1 線形性
命題2 積分の単調性
命題3 平均値定理
命題4 三角不等式
命題5 積分区間に関する加法性
リーマン和の不足リーマン和と過剰リーマン和による評価
リーマン和を、代表点の選び方を変えて求めるとその値は変化する。
そこで、その最小値と最大値を求め、差を計算する。
もしこの差が分割を細かくしていくと零に収束するならば、可積分となろう。
以下、この方針で議論を進める。
Vを分割して得られた小区間V_i=[x_{i-1},x_i]を考える。
関数y=f(x)をこの小区間上に限定した時、
関数は、この区間上の点で最大値と最小値をとると仮定する(注参照)。
関数の最大値max\{f(x)\mid x\in V_i\}と最小値min\{f(x)\mid x\in V_i\}を、
それぞれ、m(f;V_i),M(f;V_i)と書く。
(注) 区間上で最大値、最小値を取らない関数では、
有界な関数でありさえすれば、最大値、最小値と殆ど同じ命題をもち、常に存在する
上限、下限に置き換えれば以後の、議論は成り立つ。
上限、下限については「不足リーマン和の上限と過剰リーマン和の下限」で説明する。
すると、V_iの任意の点\xi に対して、
m(f;V_i)\leq f(\xi) \leq M(f;V_i)
故に、
補題1
ⅰ)どのような代表点\{\xi_i\}_{i}, (\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n)に対しても
I_{m}(f,\Delta):=I^{f,\Delta}(\xi_{1}^m,,,\xi_{n}^m)
=\sum_i m(f;V_i)v(V_i)
\leq
I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\sum_i f(\xi_i)v(V_i)
\leq
\sum_i M(f;V_i)v(V_i)
=I_{M}(f,\Delta)=I^{f,\Delta}(\xi_{1}^M,,,\xi_{n}^M) \qquad (1)
そこで、I_{m}(f,\Delta)を\Delta)に関するfの不足リーマン和、I_{M}(\Delta)を過剰リーマン和と呼ぶ。
ⅱ)I_{m}(f,\Delta)=\min_{\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n}I^{f,\Delta}(\xi_{1}^M,,,\xi_{n}^M)
I_{M}(f,\Delta)=\max_{\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n}I^{f,\Delta}(\xi_{1}^M,,,\xi_{n}^M)
証明は明らかなので省略。
分割の細分とリーマン和の評価式
定義;分割の細分
Vの分割{\Delta}'が分割\Deltaの細分というのは、
\Deltaの分点の集合\{x_0,x_1,,,,x_n\}が、
{\Delta}'の分点の集合\{x'_0,x'_1,,,,x'_{n'}\}に真に含まれることと定義する。
記号でかけば、\{x_0,x_1,,,,x_n\}\subset \{x'_0,x'_1,,,,x'_{n'}\},
\{x_0,x_1,,,,x_n\}\neq \{x'_0,x'_1,,,,x'_{n'}\}。
記号では、\Delta \leq {\Delta}'と記す。
補題2
\Delta \leq {\Delta}'という分割に対し、
I_{m}(f,\Delta)
\leq I_{m}(f,\Delta')
\leq I_{M}(f,\Delta')
\leq I_{M}(f,\Delta) \qquad (2)
が成り立つ。
(証明)
\Deltaの小区間V_i=[x_{i-1},x_i]が分割{\Delta}'では、
\{V'_j=[x_{i-1},x'_j],V'_{j+1}=[x'_j,x_i]\}の2つに分割されたとする。
すると、区間上の関数の最大値と最小値の定義から、
m(f;V_i) \leq m(f;V'_j) \quad m(f;V_i) \leq m(f;V'_{j+1})
M(f;V_i) \geq M(f;V'_j) \quad M(f;V_i) \geq M(f;V'_{j+1})
これらから、命題は成立することが分かる。
不足リーマン和の上限と過剰リーマン和の下限
補題2から、分割の細分を繰り返していくと、その分割に対応する、
不足リーマン和は、広義増加(増加するか、同じ値にとどまる)し、
過剰リーマン和は、広義減少する。
分割を細かくしていったとき、これらの極限が一致すれば、補題1から、
リーマン和の極限値は、代表点に無関係に、定まることになる。
そこで色々な分割に対応する不足リーマン和のなかの最大値と
過剰リーマン和の最小値を求めることが、重要になる。
しかし一般にはこれらは存在しないことが示せる。
そこで最大値に近い命題を持つ上限と最小値に近い下限という概念を利用する。
2つの分割の共通の細分
分割\Deltaの分点の集合\{x_j \mid j=1,2,,,m\}と、
分割{\Delta}' の分点の集合\{x'_j \mid j=1,2,,,n\}の
和集合\{x_j \mid j=1,2,,,m\} \cup \{x'_j \mid j=1,2,,,n\}を分点とする分割を\Delta \vee {\Delta}'と書く。
すると新しい分割は
\Delta \leq \Delta\vee {\Delta}' \qquad と
{\Delta}' \leq \Delta\vee {\Delta}' \quad
を満たす。
これを用いると、
不足リーマン和の上限\mathscr{s}(f)と
過剰リーマン和の下限\mathscr{S}(f)が存在することが証明できる。
補題5
fを区間V=[a,b]で定義され実数値をとる有界関数
すなわち、\{f(x)\mid x\in V\}が{\bf R}の有界部分集合となる関数とする。
V=[a,b]の分割を全て集めて作った集合を\mathscr{D}(V)と書く。
すると、
ⅰ)任意の\Delta,{\Delta}'\in \mathscr{D}(V)に対して、
I_m(f,\Delta) \leq I_M(f,{\Delta)}')
ⅱ)集合\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}は上に有界、
集合\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}は下に有界
ⅲ)\mathscr{s}(f):=\sup\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}と
\mathscr{S}(f):=\inf\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}は存在し、
\mathscr{s}(f) \leq \mathscr{S}(f)
証明;
ⅰ)\Delta \leq \Delta\vee {\Delta}' なので、補題2から、
I_m(f,\Delta)
\leq I_m(f,\Delta\vee {\Delta}')
\leq I_M(f,\Delta\vee {\Delta}')
\leq I_M(f,{\Delta}')
ⅱ)1)で証明した不等式で、分割{\Delta}' は固定する。
すると全ての分割 \Deltaに対して、I_m(f,\Delta) \leq I_M(f,{\Delta)}')なので
集合\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}は、上界I_M(f,{\Delta)}')を持ち、上に有界である。
後者も同様にして下に有界であることが示せる。
ⅲ)従って、実数の連続性の公理から、
集合\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}は上限\mathscr{s}(f)をもち、
集合\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}は下限\mathscr{S}(f)をもつ。
上限は、上界の中の最小値なので、
\mathscr{s}(f)\leq I_M(f,{\Delta}')
この式は任意の{\Delta}'について成立するので、
\mathscr{s}(f)は、集合\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}の下界である。
下限\mathscr{S}(f)は、下界のなかの最大値なので\mathscr{s}(f) \leq \mathscr{S}(f)を得る。
分割を細かくしていくときの不足リーマン和と、過剰リーマン和の極限
定理(ダルブー;Darboux)
V=[a,b]
fを、Vで定義され、実数に値を取る有界関数とする。
このとき、
ⅰ)\lim_{d(\Delta) \to 0}I_m(f,\Delta)=\mathscr{s}(f)
ⅱ)\lim_{d(\Delta) \to 0}I_M(f,\Delta)=\mathscr{S}(f)
証明;
ⅰ)を示す。( ⅱ)は同じようにして証明できるので略す)
これを示すには、
どんなに小さい正の実数\epsilonに対しても、それに応じた小さい正の実数\delta_{\epsilon}を適切に選べば、
分割の大きさが\delta_{\epsilon}より小さい、どんな分割\Deltaも、
\mathscr{s}(f)-I_m(f,\Delta)<\epsilon
であることを示せばよい。
以下に、数段階に分けて、これを証明する。
\quad 1)
上限の命題(補題3)から、
ある分割
D=\{{V^D}_i=[{x^D}_{i-1},{x^D}_i] \mid i=1,2,,,n\}in \mathscr{D}(V)
が存在して、
\mathscr{s}(f)-I_m(f,D)<\frac{\epsilon}{2} \qquad (1)
今後このDを使って、証明を進める。
\quad 2)
分割Dの小区間{V^D}_iの長さ({x^D}_i-{x^D}_{i-1})(i=1,2,,,n)の
最小値をeとおくと
e=min_{i=1}^{n}({x^D}_i-{x^D}_{i-1})
eに比べて非常に小さい大きさを持つ分割、
\Delta=\{V^{\Delta}_i=[{x^{\Delta}}_{i-1},{x^{\Delta}}_i] \mid i=1,2,,,N\}、
d(\Delta)=max_{i=1,2,,,N}({x^{\Delta}}_i-{x^{\Delta}}_{i-1}) \ll e
を考える。
もし、D \leq \Deltaならば補題2より、
I_m(f,D) \leq I_m(f,\Delta)、
すると\mathscr{s}(f)-I_m(f,\Delta)\leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,D) \leq
\frac{\epsilon}{2}\leq \epsilon
通常、分割\Deltaは、Dの細分になっていない。
この場合は、高々(n-1)個の\Deltaの小区間が、Dの小区間には含まれず、
Dの分点{x^D}_i(i=1,2,,,n-1)をまたぐことになる。図参照のこと。
議論を簡単にするため、
Dの分点{x^D}_i(i=1,2,,,n-1)が全て、\Deltaの小区間によって跨がれている
と仮定し、議論を進める。
他のケースでも、証明はおなじようにできるので、
このように仮定しても何の問題も起こらない。
Dの分点{x^D}_iを跨ぐ\Deltaの小区間をV^{\Delta}_{m_i}とする(i=1,2,,,n-1)。
\quad 3)
2つの分割D、\Deltaから{\Delta}':=D \vee \Deltaを作る。
すると
{\Delta}'=\{V^{\Delta}_1,V^{\Delta}_2,,,,,,,,,V^{\Delta}_{m_{1}-1},
\qquad \quad [x^{\Delta}_{m_{1}-1},x^{D}_1],[x^{D}_1,x^{\Delta}_{m_{1}}],
\qquad \quad V^{\Delta}_{m_{1}+1},V^{\Delta}_{m_{1}+2},,,,,,,,,V^{\Delta}_{m_{2}-1},
\qquad \quad [x^{\Delta}_{m_{2}-1},x^{D}_2],[x^{D}_2,x^{\Delta}_{m_{2}}],
\qquad \quad V^{\Delta}_{m_{2}+1},V^{\Delta}_{m_{2}+2},,,V^{\Delta}_{m_{3}-1},
\qquad \quad ,,,,,,,,,
\qquad \quad V^{\Delta}_{m_{n-1}+1},V^{\Delta}_{m_{n-1}+2},,,,,,,,,V^{\Delta}_N\} \qquad (2)
と書ける。
\Delta \leq {\Delta}'で、 D \leq {\Delta}' なので、
I_m(f,\Delta) \leq I_m(f,{\Delta}'), \quad I_m(f,D) \leq I_m(f,{\Delta}')
後者の式から、
0 \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,{\Delta}') \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,D)
この式と(1)式から、
0 \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,{\Delta}')<\frac{\epsilon}{2}
そこで、
「d(\Delta) \to 0 ならば、I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)<\frac{\epsilon}{2}
が示せれば、
0 \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,\Delta)
=(\mathscr{s}(f)-I_m(f,{\Delta}')+(I_m(f,{\Delta}'-I_m(f,\Delta)\leq \epsilon
が示され、証明が終わる。
\quad 4)
I_{m}(f,\Delta)=\sum_{i=1}^{N} m(f;V^{\Delta}_i)v(V^{\Delta}_i)
であり、
(2)式から、
I_m(f,{\Delta}')
=\sum_{i\notin \{m_1,m_2,,,,m_{n-1}\}} m(f;V^{\Delta}_i)v(V^{\Delta}_i)
+\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])v([x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])
+\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])v([x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])
なので、
I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)
=\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])v([x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])
+\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])v([x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])
-\sum_{i\in \{m_1,m_2,,,,m_{n-1}\}} m(f;V^{\Delta}_i)v(V^{\Delta}_i)
関数はV上で有界なので、適切に正の実数Mを選ぶと、xがVの要素ならば
|f(x)|\leq Mが成立する。
すると|m(f;[x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])|, |m(f;[x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])|
\leq M
が成り立つ。また
v(V^{\Delta}_{m_k})
=v([x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])+v([x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])で、
v(V^{\Delta}_i)\leq d(\Delta)
なので
|I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)|\leq 2M\sum_{i\in \{m_1,m_2,,,,m_{n-1}\}} v(V^{\Delta}_i)\leq 2M(n-1)d(\Delta)
そこで、
\delta_{\epsilon}=\frac{\epsilon}{4Mn}
と選べば、
d(\Delta)\leq \delta_{\epsilon}をみたすどのような分割\Deltaも、
0\leq I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)|\leq \frac{\epsilon}{2}
を満たすことが証明できた。証明終わり。
可積分条件
定理;可積分条件
V=[a,b]
fを、Vで定義され、実数に値を取る有界関数とする。
次の条件のうち1つが成立すれば、残り2つは成立する(互いに同値という)。
ⅰ)fはV上で(リーマン)可積分
ⅱ)\lim_{d(\Delta) \to 0}(I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta))=0
ⅲ)\mathscr{S}(f)=\mathscr{s}(f)
証明
ⅰ)を仮定する。ⅱ)が成立することを示そう。
fの積分値を\alphaとおくと、可積分の定義から、
任意の\epsilon>0に対して、\delta>0が存在して、
d(\Delta)<\deltaである任意の分割と、その分割の任意の代表点\xi_i,(i=1,2,,,)に対し,
|I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)-\alpha |<\frac{1}{2}\epsilon
が成立する。
変形すると
\alpha-\frac{1}{2}\epsilon
<I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)
<\alpha+\frac{1}{2}\epsilon \qquad (1)
ここで、補題1のⅱ)から、
\inf_{\{\xi_i\}}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n) =I_{m}(f,\Delta)
\sup_{\{\xi_i\}}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n) =I_{M}(f,\Delta)
なので、
(1)式から、
\alpha-\frac{1}{2}\epsilon
\leq
I_{m}(f,\Delta)
\leq
I_{M}(f,\Delta)
\leq
\alpha+\frac{1}{2}\epsilon
これより、任意の\epsilon>0に対して、\delta>0が存在して、
d(\Delta)<\delta \implies (0\leq I_{M}(f,\Delta)-I_{m}(f,\Delta)\leq \epsilon)
ⅱ)が示せた。
ⅱ)を仮定する。 ⅲ)が成り立つことを示す。
I_{m}(f,\Delta)
\leq
\mathscr{s}(f):=\sup_{\Delta}I_{m}(f,\Delta)
\leq
\mathscr{S}(f):=\inf_{\Delta}I_{M}(f,\Delta)
\leq
I_{M}(f,\Delta)
なので、
0
\leq
\mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f)
\leq
I_{M}(f,\Delta)-I_{m}(f,\Delta)
故に、分割を細かくしていき、極限をとると、
0
\leq
\mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f)
\leq
\lim_{d(\Delta)\to 0}(I_{M}(f,\Delta)-I_{m}(f,\Delta))
ⅱ)が成立するので、
=0
ⅲ)が示せた。
ⅲ)を仮定する。 \alpha=\mathscr{S}(f)=\mathscr{s}(f)とおく。
ⅰ)が成り立つことを示そう。
補題1のⅰ)から、どのような分割\Deltaと、その代表点\{\xi_i\}_{i}, (\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n)に対しても
I_{m}(f,\Delta)
\leq
I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)
\leq
I_{M}(f,\Delta)
ここで、ダルブーの定理から、
\lim_{d(\Delta) \to 0}I_{m}(f,\Delta)=\mathscr{s}(f)=\alpha,
\lim_{d(\Delta) \to 0}I_{M}(f,\Delta)=\mathscr{S}(f)=\alpha
が成り立つので、
\lim_{d(\Delta) \to 0}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\alpha
が成り立つ。
ⅰ)が示せた。
区分的に連続(有限個の点を除いて連続)な閉区間上の関数は積分可能
色々な関数のグラフを書くとつながっているところを、跳んでいるところが出来る。
y=Xのグラフはずっとつながっている。
関数y=f(x)を、
x<0のとき f(x)=0, 0\leq xのとき f(x)=1
で定義すると、
x=0のところでそのグラフは跳んでいる。
連続や不連続は関数の非常に重要な性質であり、
それを調べることはとても豊かな知識をもたらす。
定理
有界閉区間上V=[a,b]で定義され、実数に値を取る連続関数fは、V上で可積分である。
略証;
有界閉区間上の連続関数は一様連続なので、
任意の\epsilon>0に対して、\delta>0が存在して、
|x-x'|\leq \deltaを満たすVの任意の2点に対して、
|f(x)-f(x')|< \frac{\epsilon}{b-a}
が成立する。
V=[a,b]の分割\Deltaを細かくして、
d(\Delta)<\delta
を満たすようにする。
すると、その分割によって得られた小区間V_i(i=1,2,,,n)の長さは、
全て\deltaより小さくなるので、
\sup \{f(x)\mid x\in V_i\}-\inf\{f(x)\mid x\in V_i\}<\frac{\epsilon}{b-a}
M(f;V_i),m(f;V_i)の定義から
M(f;V_i)-m(f;V_i)<\frac{\epsilon}{b-a}, (i=1,2,,,n)
これを用いると、
I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta)=\sum_{i=1}^{n} M(f;V_i)v(V_i)-\sum_i m(f;V_i)v(V_i)
=\sum_i(M(f;V_i)- m(f;V_i))v(V_i)
\leq
\sum_i \frac{\epsilon}{b-a}v(V_i)
=\frac{\epsilon}{b-a}\sum_{i=1}^{n}v(V_i)
=\frac{\epsilon}{b-a}(b-a)
=\epsilon
故に、
任意の\epsilon>0に対して、\delta>0が存在して、
d(\Delta)<\deltaを満たす任意の分割\Deltaにたいして、
I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta)\leq \epsilonが示せた。
\mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f)\leq
I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta)
なので
\mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f)\leq \epsilon
が任意の\epsilon>0にたいして成立する。故に
\mathscr{S}(f)=\mathscr{s}(f)
可積分条件のⅲ)が示せた。証明終わり。
定理の系;有界閉区間上で定義され、区分的に連続な(有限個の不連続点をもつ)実数値関数fは積分可能である。
証明は容易なので略す。
ベクトル値関数の場合
ベクトル値関数\vec fの場合も、リーマン和とリーマン可積分の定義は実数値関数の場合と変わらない。
可積分条件については、
座標系をいれ、関数の各座標成分\vec{f}_x,\vec{f}_y,\vec{f}_zを考える。ここで、\vec{f}_x(t):=\vec{f}(t)_xである。他も同様。
すると区分的連続なベクトル値関数の各成分は区分的連続なので積分可能となり、
\vec fの積分可能性が示せる。