物理/剛体と回転力
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剛体がz軸の周りを微小角Δθ回転して、点P(x,y,z)がQに移動したとする。<br/> | 剛体がz軸の周りを微小角Δθ回転して、点P(x,y,z)がQに移動したとする。<br/> | ||
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平面上の物体のP点に、平面内の力を作用させ、この平面内の一点Oの周りを回転させる問題を考える。 <br/> | 平面上の物体のP点に、平面内の力を作用させ、この平面内の一点Oの周りを回転させる問題を考える。 <br/> | ||
この平面にOを原点とする2次元の直交右手座標をいれる。 <br/> | この平面にOを原点とする2次元の直交右手座標をいれる。 <br/> |
2018年6月23日 (土) 04:38時点における版
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剛体と回転力
この節では、硬くて形を変えない質点系である剛体を回転させる力について考察する。
剛体の運動と回転
剛体
剛体(Rigid body)とは、
質点系であって、それらの、どの2質点の間の距離も変わらない,特殊な質点系のことを言う。
どの2質点の間の距離も変わらなければ変形は起こらない。
固くて変形しにくい物体を理想化した概念である。
剛体の運動
剛体は変形しない質点系なので、その運動は、重心の運動と、重心の周りの回転運動を合成したものになる。
重心の運動は前の節で説明したように、質点の運動と同じように簡単に扱える。
重心の周りの回転運動について解析するには、少し難しい数学が必要になる。
- ウィキペディア(剛体の力学)を参照のこと。
このテキストでは、固定軸の周りの回転運動を中心に、 剛体運動の初歩と釣合の条件について学ぶ。
固定軸のまわりの回転運動
剛体が、剛体の中を通る固定軸の周りを回転する運動(車輪の回転など)を考える。
応用も考え、回転軸は重心を通らなくてもよいように一般化しておく。
(注)なお、軸が動かないようにするためには軸受が必要である。
工夫しても回転時に軸は軸受から多少の摩擦力を受け、回転にブレーキがかかる。
しかし、これは無視出来るほど小さいと仮定する。
すると軸が受ける力は、軸の変動を防ぎ、固定軸の周りの運動に限定させる作用を持ち、
回転を遅める作用は持たないことになる。
回転運動の表示法
固定軸まわりの剛体の運動はどのように表示したらよいだろうか。
・剛体の位置を表す変数;回転角
剛体が幾ら回転したか分かるように、剛体の、回転軸上にない一点Psに印を付ける。
次に、角度を測る基準線をきめるため、座標系を決めよう。
Psから固定軸へ垂線をひき、その足を原点Oとし,固定軸をz座標とする(静止した)3次元直交座標O−xyzを考える。
剛体が固定軸の周りを回転すると、印Psはxy平面上を、原点Oを中心に円を描いて動くことになる。
その位置ベクトル→OPsがx軸の正方向となす角度ϕを、回転角と呼ぶ。図参照。
但し、x軸から反時計回りの角を正にする。
また一回転した後ならば、一回転の角2πを加え、逆周りに一回転した後なら2πを引き、
角度だけでなく回転数も分かるようにする。
回転角が指定されると、点Psの位置が決まる。
それだけでなく剛体は変形しないので、剛体のすべての点の位置がきまる。
そこで回転角ϕの時間変化ϕ=ϕ(t)を明らかにすれば、剛体の回転運動は定まる。
固定軸のまわりの回転運動において回転角の果たし役割は、質点の運動において質点の位置が果たし役割に対応していることが分かる。
・回転の角速度と角加速度
ϕ=ϕ(t)を時間で微分したdϕ(t)/dtを回転の角速度と呼ぶ。
直観的には、時刻tの瞬間の、回転の速さ(回転角の時間に対する変化率)を表す。
さらにもう一回時間微分したd2ϕ(t)/dt2を回転の角加速度と呼ぶ。
剛体に作用する力の回転力(トルク)
質点の運動に倣って、剛体に作用する力によって、その位置(=回転角)がどう変化するかの法則を導出したい。
しかし、剛体の回転の場合、ある方向の力は、剛体の回転に全く関係しない。
例えば、回転軸から放射状にでる半直線方向の力は全く回転の変化に寄与しない。
そこで剛体の回転を変化させる力とはなにかという問題から考察する必要が起こる。
質点運動における力の定義(力と運動量の変化の関係)や力と仕事の関係など力の係っている式のなかから、
剛体の回転運動に容易に拡張出来るものを選び、その式から、回転に関する力を求めることを試みる。
力の定義からは、回転運動への拡張を、推測することは難しい。
力と仕事の関係の考察をしてみよう。
力と仕事の関係からの考察
適当な直交座標系をさだめ、ベクトルは、座標成分で表示する。
質点に、一定の力→F=(Fx,Fy,Fz)を作用させて、x軸方向に変位させる。
質点はこの軸の上でしか動けないように拘束され、摩擦はないと仮定する。
質点の変位ベクトルは一次元の変数xを使って→s=(x,0,0)と表せる。
すると力のなす仕事は、W=→F⋅(x,0,0)=Fxxである。
逆に物体に一定の力を加え、x軸上でxだけ変位させた時の仕事Wが分かれば、質点を動かした力は
Fx=W/x
で求められる。
Fy,Fzは、質点をx軸上で動かすことには全く寄与せず、
x軸に拘束された質点を動かす力は、Fxなのである。
固定軸まわりの回転もその変位は一次元の変数である回転角度で表わせるので、
これに倣って、
W/回転した角度
を、回転にかんする力であると考える。これを回転力と呼ぶ。トルクともいう。
この方針を実行して回転力を具体的に求めよう。
剛体に力を加え微小角動かす時の、力のなす仕事の算出
図4.1のように剛体の任意の一点P(x,y,z)を考える。
z座標の上方からxy平面を見下ろしているので、z座標は点になりOと書いてある。
まず一点P(x,y,z)に力→F=(Fx,Fy,Fz)が作用して、z座標軸を回転軸として微小角Δθだけ回転したときの
仕事ΔWを計算し回転力を求めよう。
P点から回転軸(z軸)に垂線を下ろし、その足をO′=(0,0,z)とする。
→O′Pの長さをr、x軸となす角をθ(ラジアン)と置く。
この角度は、
剛体につけた印の位置ベクトル→OPsがx軸となす回転角ϕと
このベクトルと→O′P(をxy平面に平行移動したベクトル)の間の角の和である。
後者は、剛体なので、運動しても変わらない定数である。そこで、θ=ϕ+定数,と書ける。
剛体がz軸の周りを微小角Δθ回転して、点Pが図の点Qに移動したとする。
すると角∠OPQはほぼ直角(=π/2)で→PQの長さPQは、PQ≈r(Δθ)。
→PQのx成分とy成分は、図4-1中に示したように、それぞれ、−QR≈−PQ∗y/r、PR≈PQ∗x/r。
PQ≈r(Δθ)を代入すると、
→PQx≈−y(Δθ)、
→PQy≈x(Δθ)、
→PQz≈0
故に、
→PQ≈(−y(Δθ),x(Δθ),0)(1)
点P(x,y,z)に作用する力→F=(Fx,Fy,Fz)が、物体を→PQだけ動かしたので、
その仕事は、ΔW=→F⋅→PQ(内積)。
この右辺を内積の性質を用いて座標成分で表すと、
Fx∗(−y)Δθ+FyxΔθ+Fz∗0
=(xFy−yFx)∗Δθ
z軸まわりの回転力の導出
ゆえに、力→Fのz軸まわりの回転力(トルク)T→ezはΔW/Δθ=xFy−yFx
に等しい。
これより、ΔW=T→ezΔθが得られる。
この式と、直線上に拘束された質点の運動における、力と仕事の関係式( 節 項)と対比させると、
T→ez は、拘束された直線の上を動かすときに、働いた力の成分が対応し、
Δθ は、変位量 に対応していることが分かる。
z軸まわりの回転力(トルク)の性質
(1)力→Fのz軸まわりの回転力は,→Fzには関係しない。
言いかえるとz軸を固定軸とする剛体にz軸の方向の力を加えても、z軸の周りの回転は起こらない。
(2)剛体の1点P(x,y,z)に作用する力→Fを考える。
点P(x,y,z)からz軸に下ろした垂線の足をO′(0,0,z)と書く。
力→Fを、,
→O′P方向の成分→Frと、
z軸まわりの回転によりPの描く、O′を中心とする回転円の(左回りの)接線方向の成分→Ft
および、これら2成分に直交する成分(z軸と平行)
に分解する(図参照)。この時、
・力→Frのz軸まわりの回転力は、零である。
すなわち、動径方向の力は回転に寄与しない。
・力→Fのz軸まわりの回転力は、→Ftのz軸まわりの回転力に等しい。
数式で表すと、xFy−yFx=x(Ft)y−y(Ft)x
(3)剛体に作用する力の作用点を、力の作用線上で動かす限り、回転力は変化しない。
ここで、力の作用線とは、力の作用点を通り、力の方向と重なる直線のこと。
これらはいずれも直観と合致する。
証明は、試みてほしい。
他の軸の周りの回転力
力→Fのx軸、y軸まわりの回転力も同様に計算できる。結果は、
x軸まわりの回転力;yFz−zFy=y(Ft)z−z(Ft)y
y軸まわりの回転力;zFx−xFz=z(Ft)x−x(Ft)z
原点まわりの力のモーメント
位置ベクトル→r=(x,y,z)の剛体の点Pに作用する力→Fの原点まわりの力のモーメントを、
→N=(x軸まわりのトルク、y軸まわりのトルク、z軸まわりのトルク)で定義する。
数式で書くと、
→N=(yFz−zFy,zFx−xFz,xFy−yFx),
ベクトル積と回転による変位と力のモーメントのベクトル積表示
以上の結果は、ベクトル積(vector product)を用いると簡潔、正確に表現でき、
回転運動の性質を調べるのが容易になる。
定義 ベクトル積
3次元ベクトル→a,→b のベクトル積 →a×→b とは、
(1) 3次元ベクトルであり,
(2) 大きさは →a,→b を2辺とする平行四辺形の面積に等しい。
(3) 方向はこの四辺形に垂直で、向きは、(→a,→b,→a×→b)が右手系をなすように定めたものである。
→a と →b のなす角を θ とかくと、(2)の条件は、
‖
と書ける。
ベクトル積はクロス積あるいは外積とも呼ばれる。
ベクトル積に関して以下の8つの命題が成り立つ。
ベクトル積にかんする命題
以下に述べる全ての命題で、
\vec{a}, \vec{b}, \vec{c}は3次元ベクトル
\alphaは実数とする。
命題1.
\quad \vec{a} を, \vec{c} と垂直な成分 \vec{a_\perp} と,平行な成分\vec{a_\parallel} の和に分解するとき、
\quad \vec{a} \times \vec{c}= \vec{a_\perp} \times \vec{c}
\quad \vec{a_\parallel} \times \vec{c}= 0
命題2.
\quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}
命題3
(\alpha\vec{a})\times \vec{b}= \alpha(\vec{a} \times \vec{b})= \vec{a}\times (\alpha\vec{b})
命題4.
\quad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}
命題4の系
\quad \vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= \vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c}
\quad (\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}
命題5.
\quad (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3}) を
それぞれ大きさ(長さ)1で互いに直交し、右手系をなす、ベクトル(右手系をなす正規直交基底)とする。
この時、
\quad \vec{e_1} \times \vec{e_2} = \vec{e_3}, \quad
\vec{e_2} \times \vec{e_3} = \vec{e_1}, \quad
\vec{e_3} \times \vec{e_1} = \vec{e_2}
命題6.
ベクトル\vec a, \vec bを,命題5で用いた基底 (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3}) で決まる座標の座標成分で表示しておく。
すると\vec a \times \vec b=(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x)
命題7.
(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b} =(\vec{b} \times \vec{c})\cdot\vec{a}
命題8.
\quad \vec{a(t)} と \vec{b(t)} を,tにかんして微分可能な、ベクトルに値をとる関数とする。すると、
\quad \vec{a(t)} \times \vec{b(t)} は、tにかんして微分可能で、
\quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}) =(\frac{d}{dt}\vec{a(t)} )\times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times (\frac{d}{dt}\vec{b(t)})
これらの証明は、
物理数学の1.4節(ベクトル積)で扱う。
ベクトル積に関しては以下を参照のこと。
- [[wikipedia_ja:クロス積|ウィキペディア(クロス積)]
軸周りの微小回転による変位のベクトル積表示
補題
剛体がz軸の周りを微小角\Delta\theta回転して、点P(x,y,z)がQに移動したとする。
すると
\vec{PQ}\approx \Delta\theta \vec{e_z} \times \vec{r}
ここで、\vec{r}:=(x,y,z);点Pの位置ベクトル
何故ならば、
「剛体に力を加え微小角動かす時の、力のなす仕事の算出」の項の式(1)から、
\vec{PQ}\approx(-y(\Delta\theta),x(\Delta\theta),0)
ベクトル積の定義から、所望の結果を得る。
同様にして、x軸まわりとy軸周りの微小回転による変位は、それぞれ、
\Delta\theta \vec{e_x} \times \vec{r} \quad 、\Delta\theta \vec{e_y} \times \vec{r}
で近似できる。
力のモーメントのベクトル積表示
ベクトル積の命題6を用いると、
位置ベクトル\vec rの点に作用する\vec F の
原点まわりの力のモーメントは、\vec N = \vec r \times \vec F
x軸まわりの回転力(トルク)は、\vec N \cdot \vec e_x と表せることが分かる。
y軸とz軸周りの回転力も、それぞれ
\vec N \cdot \vec e_y ,\quad \vec N \cdot \vec e_z で
表せる。
2次元の場合のベクトル積
平面上の物体のP点に、平面内の力を作用させ、この平面内の一点Oの周りを回転させる問題を考える。
この平面にOを原点とする2次元の直交右手座標をいれる。
力の作用点Pの位置ベクトルを\vec{OP}=(x,y)、力を\vec F=(f_1,f_2)と座標表示する。
すでに説明したように、
O点周りの、力\vec Fの回転力は\quad xf_2-yf_1\quadである。
そこで、\quad (x,y)\times (f_1,f_2):=xf_2-yf_1 \quadと定義する。
すると、 3次元のベクトル積の命題から
\left((x,y,0)\times (f_1,f_2,0)\right)_3=(x,y)\times (f_1,f_2)
という関係が成り立つことが分かる。
定義;2次元ベクトルのベクトル積
2つの2次元ベクトル\vec{a}(a_1,a_2),\quad \vec{b}(b_1,b_2)のベクトル積\vec{a}\times \vec{b}とは、
\left((a_1,a_2,0)\times (b_1,b_2,0)\right)_3=a_1b_2-a_2b_1
のことである。
3次元ベクトルの場合はベクトル積は再び3次元ベクトルになるが、2次元ベクトルのベクトル積は2次元でなく1次元であることが異なる。
しかし、2次元ベクトル積に対しても、3次元のベクトル積のもつ多くの性質が成り立つ。
命題;2次元ベクトル積の性質
任意の2次元ベクトル\vec{a}(a_1,a_2),\quad \vec{b}(b_1,b_2),\quad \vec{c}(c_1,c_2)と
任意の実数\alphaに対して、以下の性質が成り立つ。
性質1.
\quad \vec{a} を, \vec{c} と垂直な成分 \vec{a_\perp} と,平行な成分\vec{a_\parallel} の和に分解するとき、
\quad \vec{a} \times \vec{c}= \vec{a_\perp} \times \vec{c}
\quad \vec{a_\parallel} \times \vec{c}= 0
性質2.
\quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}
性質3
\quad (\alpha\vec{a})\times \vec{b}= \alpha(\vec{a} \times \vec{b})= \vec{a}\times (\alpha\vec{b})
性質4.
\quad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}
性質4の系
\quad \vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= \vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c}
\quad (\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}
性質5.
\quad (\vec{e_1},\vec{e_2} を
それぞれ大きさ(長さ)1で互いに直交し、右手系をなす、ベクトル(右手系をなす正規直交基底)とする。
この時、
\quad \vec{e_1} \times \vec{e_2} = 1
性質6.
\quad \vec{a(t)} と \vec{b(t)} を,tにかんして微分可能な、ベクトルに値をとる関数とする。すると、
\quad \vec{a(t)} \times \vec{b(t)} は、tにかんして微分可能で、
\quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)})
=(\frac{d}{dt}\vec{a(t)} )\times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times (\frac{d}{dt}\vec{b(t)})
力のモーメントの性質
もっと一般に、どんな軸の周りの回転力も、\vec N から得られる。
定理;
\vec eを、原点を始点とする大きさ1の任意のベクトルとする。
すると、
\quad \vec N \cdot \vec eは、力\vec{F}の\vec e軸の周りの回転力になる。式で書くと、T_{\vec e}=\vec N \cdot \vec e
この式を、回転力の定義に基づいて言い換えると、
力\vec{F}のもとで、剛体を\vec e軸の右まわりに角度\phiだけ回転させたとき、
\vec{F}のなす仕事Wは、W=T_{\vec e} \phi=(\vec N \cdot \vec e) \phi
証明;
9つに分けて示す。
ⅰ)準備
図のように、剛体の点 P から、\vec e 軸に垂線を下ろし、その足を Q とする。
力 \vec F のもとで、剛体が \vec e を固定軸にして、
微小時間に、微小角\delta \phi だけ回転したとする。
このとき、P が移った先を、P' とする。
ⅱ)回転角 \delta \phi が微小なので、
この回転中の P の軌跡(円弧の微小部分)は、有向線分\vec{PP'} で精度高く、近似できる。
ⅲ)この間に力 \vec F がなした仕事 \delta W は、\delta W=\vec{PP'} \cdot \vec F
この仕事を、回転角\delta \phiで割ると、力の \vec e 軸周りの回転力が得られる。そこで、\vec{PP'} を、この定理で与えられている諸量を使って表現し、これを用いて、仕事を計算しよう。
ⅳ)有向線分\vec{PP'}の方向を求める。
\vec{PP'} は、\vec e 軸と垂直でQ を通る平面H上にあり、
Qを中心とする円の弧の微小部分をなすので、線分QP と直交する。\vec{PP'}\perp QP
また、\vec e 軸と垂直でQ を通る平面H上にあるので、
\vec{PP'}は\vec e 軸とも直交し、従って線分OQと直交する。\vec{PP'}\perp OQ
ゆえに、\vec{PP'} は、3点O,Q,Pを通る平面 OQP と直交する。
すると、\vec{PP'} は、平面 OQP 上のすべての線分と直交する。
ゆえに、\vec{PP'}\perp \vec e,\quad \vec{PP'}\perp \vec{OP}
これで、\vec{PP'} の方向は、求まった。
ⅴ)有向線分\vec{PP'} の向き
点 P は、\vec e 軸の周りを右周りに回転するので、その向きは、
\vec e \times \vec{OP} と同じ向きである。
ⅵ)\vec{PP'} の大きさ。
\vec{PP'}は、 Q を中心とする、半径 \| \vec{QP} \| の円弧の一部なので、
その中心角\delta \phi を用いて、\| \vec{PP'}\|=\|\vec{QP}\|\delta \phi
ⅶ)ⅳ)、ⅴ)、ⅵ)から
\vec{PP'}=\frac {\vec e \times \vec r}{\|\vec e \times \vec r \|}\|\vec{QP}\|\delta \phi
ⅷ)\vec{PP'}=\vec e \times \vec r \delta \phiが成り立つ。
なぜなら、
\|\vec e \times \vec r \|= \|\vec e \|\|\vec r \|\sin \theta =\|\vec r \|\sin \theta =\| \vec{QP} \| ,ここで \theta は\vec e と\vec r の間の角。
この式をⅶ)で得られた式に代入すれば、所望の結果が得られる。
ⅸ)\delta W=\vec{PP'} \cdot \vec F
=(\vec e \times \vec r \delta \phi) \cdot \vec F
=(\vec e \times \vec r) \cdot \vec F \delta \phi
=(\vec r \times \vec F)\cdot \vec e \delta \phi
ⅹ) T_\vec e = \frac{\delta W}{\delta \phi} =(\vec r \times \vec F)\cdot \vec e =\vec N \cdot \vec e
定理の証明終わり。
(注)剛体が固定軸の周りでなく、自由に回転するときでも、
ある瞬間には、ある軸の周りの回転になっている。
力のモーメントは、どんな軸周りの回転力の情報も含んでいることが証明されたので、
回転運動一般に有効な概念であることが分かる。
剛体の複数個所に作用する力の回転力とベクトル積表示
次に剛体の多くの点に力を加えたときの回転力を求めよう。
力の作用点をP_i(x_i,y_i,z_i)、その位置ベクトルを\vec{r_i}、力を\vec{F^i}\quad (i=1,2,,,n)とする。
これらの力のもとで剛体がz軸まわりを\Delta\thetaだけ微小回転するときの、各力のなす仕事の合計は、
(\sum_{i=1}^{n}(x_{i}(\vec F^i)_{y}-y_{i}(\vec F^i)_{x})*\Delta\theta
従って、作用点P_i(x_i,y_i,z_i)の力\vec{F^i}\quad (i=1,2,,,n)の全体がもつz軸まわりの回転力は、
T_\vec{e_z}=\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_z} =\sum_{i=1}^{n}(x_{i}(F_{i})_{y}-y_{i}(F_{i})_{x}) \quad ここでT^i_\vec{e_z}は力\vec F^i のz軸まわりの回転力。
同様に、x軸まわりとy軸まわりの回転力も、それぞれ
T_{\vec e_x}=\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_x} =\sum_{i=1}^{n}(y_{i}(F^i)_{z}-z_{i}(F^i)_{y})
T_{\vec e_y}=\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_y} =\sum_{i=1}^{n}(z_{i}(F^i)_{x}-x_{i}(F^i)_{z})
力\vec F^i の原点周りに力のモーメント\vec N^iは\vec N^i=(T^i_{\vec e_x},T^i_{\vec e_y},T^i_{\vec e_z})で定義した。
全ての力の原点周りの力のモーメントも、同様に
\vec N=(T_{\vec e_x},T_{\vec e_y},T_{\vec e_z})で定義する。すると、
\vec N=(\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_x},\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_y},\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_z})=\sum_{i=1}^{n}N^i
=\sum_{i=1}^{n}\vec{r_i}\times \vec{f^i}
全ての力の原点周りの力のモーメント\vec Nも、上述の定理と同様の定理(定理の系と呼ぶ)が成り立つ。
定理の系
\vec Nを剛体に作用する全ての力のモーメントとし、
\vec eを、原点を始点とする大きさ1の任意のベクトルとする。
すると、
\quad \vec N \cdot \vec eは、力\vec{F}の\vec e軸の周りの回転力になる。
式で書くと、T_{\vec e}=\vec N \cdot \vec e
この式を、回転力の定義に基づいて言い換えると、
力\vec{F^i}\quad (i=1,2,,, n) のもとで、剛体を\vec e軸の右まわりに角度\phiだけ回転させたとき、
これらの力のなす仕事Wは、W=T_{\vec e} \phi=(\vec N \cdot \vec e) \phi
この系は、内積の性質を使えば、定理から、容易に導かれる。
質点系に作用する重力のモーメント
質点に作用する重力を表示するため、次のような重力ベクトル\vec gを導入する。
\vec gの方向・向きは鉛直下方で
大きさは、\|\vec g\|:=g(gは重力加速度)。
すると質量mの質点に作用する重力はm\vec gで表せる。
n個の質点系を考える。
空間の任意の点Oを原点に定める。
第i質点の質量をm_i、点Oから見た位置ベクトルを\vec{r_{i}}とする。
この質点系に作用する重力の原点周りのモーメント\vec Nを求めよう。
命題
質点系m_i,(i=1,2,,,n)に作用する重力の原点周りのモーメント\vec Nは、
その重心\vec Rに全質量M:=\sum_{i=1}^{n}m_iが集まったときの重力M\vec gの原点周りのモーメントに等しい。
式で書くと、
\vec N:=\sum_{i=1}^{n}\vec{r_{i}}\times m_{i}\vec g=\vec R \times
M\vec g
証明;
第i質点に働く重力は、\vec{f^{i}}=m_{i}\vec g
なので、
\vec N=\sum_{i=1}^{n}\vec{r_{i}} \times \vec{f^{i}}
=\sum_{i=1}^{n}\vec{r_{i}} \times m_{i}\vec g
=\sum_{i=1}^{n}m_{i}\vec{r_{i}} \times \vec g
=(\sum_{i=1}^{n}m_{i}\vec{r_{i}}) \times \vec g
すでに学んだことから、この質点系の重心は、
\vec{R}=\frac{\sum_{i=1}^{n}m_{i}\vec{r_{i}}}{M}
であった。ここで、 M=\sum_{i=1}^{n}m_{i} 。
これを用いて、モーメントを書きなおすと、
\vec N=M \vec{R} \times \vec{g} =\vec{R} \times M\vec{g}
となる。証明終わり。
てこの原理と剛体の釣り合い
図のように剛体の棒の中間に支点Oがあり、
この点をとおり、図面に垂直な軸の周りを自由に回転する装置を梃子(てこ)と呼ぶ。
てこは、重いものをもちあげる道具として紀元前5000年ころから使われていた。
てこの原理
てこの棒の太さは、(長さに比べ非常に小さく)無視でき、
単位長さあたりの質量は一定で、\rhoとする。
このてこが
支点から距離l_1にある棒の端P_1に力\vec{f_1}を受け、
支点から距離l_2にある反対側の端P_2に力\vec{f_2}を受けて、
つりあっている(水平に静止し続ける)。
竿の両端P_1、P_2\quadを通り、P_1からP_2にむけた向きをつけた地面と水平な数直線をx_1軸(x軸のこと)とし、
回転軸をx_2軸(y軸のこと)にとり、支点Oを通る鉛直線に、下方に向かう向きをいれ、x_3軸(z軸のこと)にする。
x_2軸(y軸)の向きは、直交座標系O-x_{1}x_{2}x_{3}が右手系になるようにとる。図参照。
次の命題が成立する。
命題。てこの原理
l_1 (\vec{f_1})_3+\frac{l_1}{2}l_1\rho g=l_2 (\vec{f_2})_3+\frac{l_2}{2}l_2\rho g
\quad (1)
竿の重さを無視できるときは
l_1 (\vec{f_1})_3=l_2 (\vec{f_2})_3 \qquad \qquad (2)
が成り立つ。
この式から、
もしl_1<<l_2ならば、
P_2に加える小さな力(\vec{f_2})_3が、P_1では非常に大きな力(\vec{f_1})_3になることが分かる。
も参照のこと。
経験から、てこの原理(式(2))は相当昔から知られていたと思われる。
ギリシャ時代には、
アリストテレスや
アルキメデスが、
この原理を述べ、論証を試みている。
アリストテレスは動力学的に論証したが、
当時の動力学は現代からみると間違いで、てこの原理の証明も誤っている。
アルキメデスは、
てこがつりあう条件の中から最も単純で直感的にも明らかと思われる性質をいくつか取り出し、
それらを正しいと仮定した。そしてこれらの性質だけを用いて梃子の原理を厳密に証明した。
現代でもこの方法で、てこの原理を証明する本が多い。
しかし、力学の基本法則以外の仮定が付加されるので、
本テキストではこの方法は採用しない。
てこの原理の証明
今までの回転力の議論から、梃子がつりあっているときは、
x_2(y)軸まわりの回転力が零であることが予想される。
このことをまづ論証する。
その準備のため、
剛体を膨大な個数Nの質点が互いに強固に結合した質点系と考える。
それらの質点に
以下に説明するように番号(i=0,1,2,,,N-1)をふり、第i番目の質点の質量をm_i、位置ベクトルを\vec{r_i}とおく。
梃子がつりあっているときは、各質点は静止している。
ニュートンの第2法則と力の合成則により、
各質点に作用する外部力と内部力のベクトル和は零である。
(1)質点に働く外力
てこの両端P_1,P_2と支点に作用する力と重力が外力となる。
点P_1の質点に番号1をふり、その質量をm_1と書く。
質点m_1に力\vec{f_1}が作用する。
その位置ベクトル\vec{OP_1}を\vec{r_1}と記す。
力\vec{f_2}が作用する質点をm_2とおく。
その位置ベクトルを\vec{OP_2}=\vec{r_2}とする。
梃子の支点が梃子に及ぼす力\vec{f}_0が作用する質点をm_0とする。
その位置ベクトルは、\vec{r_0}=\vec 0である。
その他の質点には、適当に番号(3からN-1まで)を振る。
質点m_i,(i=3,4,,,N-1)の位置ベクトルを\vec{OP_i}=\vec{r_i}とおく。
また各質点m_iに作用する重力は{m_i}g\vec{e_3}={m_i}g(0,0,1)である。
(2)内部力
質点m_iが、質点m_jから受ける内部力を\vec{f_{i,j}}と書く。(i,j=0,1,,,N-1.i\neq j)。
質点m_iとm_jの間の相互力にも作用・反作用の法則が成り立つので、\vec{f_{i,j}}=-\vec{f_{j,i}}。
さらに剛体では、その2質点間に働く力は、両質点を結ぶ直線の方向に働くと仮定してよい。言い換えると\vec{f_{i,j}} \parallel \vec{P_iP_j}=(\vec{r_j}-\vec{r_i})。
(3)各質点に働く力の合力
各質点m_iに作用する力の総和を\vec{F}_iと置くと、
次の式が成り立つ。
\vec 0=\vec{F}_i
=\vec{f}_i+m_{i}g\vec{e_3}
+\sum_{j=0,1,,,N-1,j\neq i}\vec{f_{i,j}},(i=0,1,2) \quad \quad (3)
\vec 0=\vec{F}_i
=m_{i}g\vec{e_3}
+\sum_{j,j\neq i}\vec{f_{i,j}},(i=3,,,,N-1 ) \quad \quad (4)
(4) 仮想仕事の原理
釣りあっている梃子に無限に小さい力を加え、
てこを回転軸(x_2軸)まわりに微小角\delta \theta動かす時の
各質点の外力のなす仕事の総和は零である。
各質点の変位ベクトルを\delta \vec{r_i}とかくと、
0=\sum_{i=0}^{N-1}(\vec{f_i}+m_{i}g\vec{e_3})\cdot\delta \vec{r_i}
=\sum_{i=0}^{N-1}
(\vec{f_i}+m_{i}g\vec{e_3})\cdot \left( \delta \theta \vec{e_2}\times \vec{r_i}
\right)
=\delta \theta \sum_{i=0}^{N-1}\vec{e_2}\cdot
\left(\vec{r_i}\times (\vec{f_i}+m_{i}g\vec{e_3})\right)\qquad \qquad (5)
ここで、\vec{f_i}=0,\quad (i=3,4,,,,N-1)
証明;
各質点に作用する合力\vec{F_i} はすべて零ベクトルなので、
0=\sum_{i=0}^{N-1}\vec{F_i}\cdot \delta \vec{r_i}
合力を(3)に従って表現すると、
=\sum_{i=0}^{N-1}
(\vec{f_i}+m_{i}g\vec{e_3}+\sum_{j\neq i}\vec{f_{i,j}})\cdot\delta \vec{r_i}
なので、\sum_{i=0}^{N-1}\sum_{j\neq i}\vec{f_{i,j}}\cdot\delta \vec{r_i}=0を示せば,式(5)の最初の等式が示せる。
x_2軸まわりに微小角\delta \theta動かす時のてこの点P(位置ベクトル\vec{OP}=\vec r)の変位\quad \delta \vec rは「1.2.7.2 軸周りの微小回転による変位のベクトル積表示」の命題により、
\delta \vec r=\delta \theta \vec{e_2} \times \vec{r}
なので、
\sum_{i=0}^{N-1}\sum_{j\neq i}\vec{f_{i,j}}\cdot \delta \vec{r_i}
=\sum_{i=0}^{N-1}\sum_{j\neq i}\vec{f_{i,j}}\cdot
(\delta \theta \vec{e_2} \times \vec{r_i})
=\delta \theta \left(\sum \sum_{i<j}
\vec{f_{i,j}}\cdot ( \vec{e_2} \times \vec{r_i})
+\sum \sum_{i>j}
\vec{f_{i,j}}\cdot ( \vec{e_2} \times \vec{r_i}) \right)\quad (6)
和をとるときに使う変数は、どの変数名を使っても、和は同じになるので、
上式の括弧( )内の第2項の変数名\quad i,\quad j \quad を
\quad j ',\quad i ' \quad に置き換えると、
\sum \sum_{i>j}
\vec{f_{i,j}}\cdot ( \vec{e_2} \times \vec{r_i})
=\sum \sum_{j '>i '}
\vec{f_{j ',i '}}\cdot ( \vec{e_2} \times \vec{r_{j '}})
=\sum \sum_{i'<j'}
\vec{f_{j',i'}}\cdot ( \vec{e_2} \times \vec{r_{j'}})
内部力が作用反作用の法則を満たすことから
=\sum \sum_{i'<j'}
(-\vec{f_{i',j'}})\cdot ( \vec{e_2} \times \vec{r_{j'}})
内積とベクトル積のスカラー倍の性質を使って変形すると、
=-\sum \sum_{i'<j'}
\vec{f_{i',j'}}\cdot ( \vec{e_2} \times \vec{r_{j'}})
=\sum \sum_{i'<j'}
\vec{f_{i',j'}}\cdot \left( \vec{e_2} \times (-\vec{r_{j'}}) \right)
変数 i'、 j' を変数 i、j に変えると
=\sum \sum_{i<j}
\vec{f_{i,j}}\cdot \left( \vec{e_2} \times (-\vec{r_j})\right)
故に
\sum \sum_{i>j}
\vec{f_{i,j}}\cdot ( \vec{e_2} \times \vec{r_i})
=\sum \sum_{i<j}
\vec{f_{i,j}}\cdot \left( \vec{e_2} \times (-\vec{r_j})\right)
この式を式(6)に代入し、内積とベクトル積の性質を使って整頓すると、
\sum_{i=0}^{N-1}\sum_{j\neq i}\vec{f_{i,j}}\cdot \delta \vec{r_i}
=\delta \theta \sum \sum_{i<j}
\vec{f_{i,j}}\cdot \left( \vec{e_2} \times (\vec{r_i}-\vec{r_j})\right)
ベクトル積の命題7から、
=\delta \theta \sum \sum_{i<j}
\vec{e_2} \cdot \left( (\vec{r_i}-\vec{r_j})\times \vec{f_{i,j}}\right)
\vec{f_{i,j}} \parallel (\vec{r_i}-\vec{r_j})なので
(\vec{r_i}-\vec{r_j})\times \vec{f_{i,j}}=0
故に、
\sum \sum_{i>j}
\vec{f_{i,j}}\cdot ( \vec{e_2} \times \vec{r_i})=0
所望の結果がえられたので、式(5)の最初の等式
0=\sum_{i=0}^{N-1}
(\vec{f_i}+m_{i}g\vec{e_3})\cdot\delta \vec{r_i}\quad が証明できた。
\delta \vec{r_i}=\delta \theta \vec{e_2} \times \vec{r_i}を代入すると
0=\sum_{i=0}^{N-1}
(\vec{f_i}+m_{i}g\vec{e_3})\cdot \left( \delta \theta \vec{e_2} \times \vec{r_i} \right)
が得られる。
さらに、内積とベクトル積の性質を使い、変形すると
0=\delta \theta \sum_{i=0}^{N-1}
\vec{e_2} \cdot \left(\vec{r_i} \times (\vec{f_i}+m_{i}g\vec{e_3}) \right)
これで式(5)をすべて示した。仮想仕事の原理の証明終わり。
(注1)ここまでの議論は、梃子の形状や各質点に働く外力\vec{f_i}=0,\quad (i=3,4,,,N-1)という仮定は、全く使用していない。
従ってこの命題は任意の剛体で成り立つ。
(注2)静止している剛体では、\sum_{i=0}^{N-1}(\vec{r_i} \times (\vec{f_i}+m_{i}g\vec{e_3})=0であることが、仮想仕事の原理を使わず、直接証明できる。後述する。
(5)てこの原理 の証明
仮想仕事の原理から
0=\sum_{i=0}^{N-1}\vec{e_2}\cdot
\left(\vec{r_i}\times (\vec{f_i}+m_{i}g\vec{e_3})\right)
内積とベクトル積の性質を利用して
=\sum_{i=0}^{N-1}\vec{e_2}\cdot (\vec{r_i}\times \vec{f_i})
+\sum_{i=0}^{N-1}\vec{e_2}\cdot (\vec{r_i}\times m_{i}g\vec{e_3})
この式に\vec{r_0}=\vec 0,\vec{f_i}=\vec 0(i=3,4,,,N-1)を
代入し変形すると
=\sum_{i=1}^{2}\vec{e_2}\cdot (\vec{r_i}\times \vec{f_i})
+\sum_{i=0}^{N-1}\vec{e_2}\cdot (\vec{r_i}\times m_{i}g\vec{e_3})
故に、
0=\sum_{i=1}^{2}\vec{e_2}\cdot (\vec{r_i}\times \vec{f_i})
+\sum_{i=0}^{N-1}\vec{e_2}\cdot (gm_{i}\vec{r_i}\times \vec{e_3}) \qquad (7)
上式の第2項を、ベクトル積の性質7を用いて変形すると、
\sum_{i=0}^{N-1}\vec{e_2}\cdot (gm_{i}\vec{r_i}\times \vec{e_3})
=\sum_{i=0}^{N-1}\left(gm_{i}\vec{r_i}\cdot (\vec{e_3}\times \vec{e_2})\right)
=-\sum_{i=0}^{N-1}(gm_{i}\vec{r_i}\cdot \vec{e_1})
=-g(\sum_{i=0}^{N-1}m_{i}\vec{r_i})\cdot \vec{e_1}
これを式(7)も右辺に代入すると
0=\sum_{i=1}^{2}\vec{e_2}\cdot (\vec{r_i}\times \vec{f_i})
-g(\sum_{i=0}^{N-1}m_{i}\vec{r_i})\cdot \vec{e_1} \qquad \qquad (8)
上式の第2項の和 \sum_{i=0}^{N-1}m_{i}\vec{r_i} を、
支点からみて、
P_1側の質点についての和\sum_{i,\vec{r_i})_1<o}と、
P_2側の質点についての和\sum_{i, (\vec{r_i})_1>o}と
真上にある質点についての和 \sum_{i, (\vec{r_i})_1=o} に分ける。
すると、
\sum_{i=0}^{N-1}m_{i}\vec{r_i}
=\sum_{i, (\vec{r_i})_1<o}m_{i}\vec{r_i}
+\sum_{i, (\vec{r_i})_1>o}m_{i}\vec{r_i}
+\sum_{i, (\vec{r_i})_1=o}m_{i}\vec{r_i}
この右辺の第1項は、支点からみて梃子のP_1側の部分の質量M_{-}と
その部分の重心
\vec{R_{-}}:=\frac{\sum_{i,(\vec{r_i})_1<o}m_{i}\vec{r_i}}{M_{-}}を用いて
\sum_{i,(\vec{r_i})_1<o}m_{i}\vec{r_i}=M_{-}\vec{R_{-}}
同様に、第2項は、支点からみて梃子のP_2側の部分の質量M_{+}と
その部分の重心\vec{R_{+}} を用いて、
\sum_{i,(\vec{r_i})_1>o}m_{i}\vec{r_i}=M_{+}\vec{R_{+}}
となる。梃子の真上の部分の質量は無視できるので、第3項は0としてよい。
故に
\sum_{i=0}^{N-1}m_{i}\vec{r_i}=M_{-}\vec{R_{-}}+M_{+}\vec{R_{+}}
この式を式(8)に代入すると、
0=\sum_{i=1}^{2}\vec{e_2}\cdot (\vec{r_i}\times \vec{f_i})
-g(M_{-}\vec{R_{-}}+M_{+}\vec{R_{+}})\cdot \vec{e_1}
P_2 側の部分を左辺に移行すると、
-\vec{e_2}\cdot (\vec{r_2}\times \vec{f_2})+gM_{+}\vec{R_{+}}\cdot \vec{e_1}
=\vec{e_2}\cdot (\vec{r_1}\times \vec{f_1})-gM_{-}\vec{R_{-}}\cdot \vec{e_1}
\quad (9)
これまでは
天秤の棒の条件(太さは無視でき、単位長さ当たりの質量は一定で\rho)
を使わず議論してきたが、ここでこの条件を使う。
すると、
\vec{r_1}=(-l_1,0,0),\quad \vec{r_2}=(l_2,0,0)
M_1=\rho l_1,\quad \vec{R_{-}}=(-\frac{l_1}{2},0.0)
M_2=\rho l_2,\quad \vec{R_{+}}=(\frac{l_2}{2},0.0)
ここで均質な棒の重心はその中点になる事実を用いた。
これらを式(9)に代入して、ベクトル積と内積の計算を実行すると、
l_2 (\vec{f_2})_3+\frac{l_2}{2}l_2\rho g =
l_1 (\vec{f_1})_3+\frac{l_1}{2}l_1\rho g
を得る。
梃子の原理の証明終わり。
剛体の釣り合い
剛体は、静止しているか、等速度で並進運動しているとき、釣り合っているという。
剛体を膨大な数の質点m_i, (i=1,2,,,,N)が、強固に結合した質点系と考えると、
釣り合い条件とは、
すべての質点が静止しているか、すべての質点が同じ速度で直線運動していることを意味する。
この時次の命題が成立する。
命題 剛体の釣り合いの必要条件
剛体がつりあっているならば、剛体に作用するすべての外力のベクトル和は零で、
剛体に作用するすべての外力の、任意の点の周りの力のモーメントは零である。
この条件を式で書こう。
剛体を質点系\{m_i\}_{i=1}^{n} とみなし、
各質点m_iの位置ベクトルを\vec{r_i}、
それに作用する外力の合力を\vec{f_i}とすると、
\sum_{i=1}^{n}\vec{f_i}=\vec 0 \qquad \qquad (10)
\vec N:=\sum_{i=1}^{n}\vec{r_i} \times \vec{f_i}=\vec 0\qquad \qquad (11)
証明
剛体の各質点は静止(あるいは全てが等速直線運動)しているので、
各質点m_iに作用する力の合力\vec{F_i}は零でなければならない。
式(10)を示そう。
\vec 0=\sum_{i=1}^{n}\vec{F_i}
\vec{F_i}=\vec{f_i}+\sum_{j, j\neq i}\vec{f_{i,j}}を代入すると、
=\sum_{i=1}^{n}\vec{f_i} + \sum_{i=1}^{n}\sum_{j, j\neq i}\vec{f_{i,j}}
=\sum_{i=1}^{n}\vec{f_i} + \sum \sum_{i<j}(\vec{f_{i,j}}+\vec{f_{j,i}})
作用・反作用の法則により\vec{f_{i,j}}+\vec{f_{j,i}}=\vec 0なので、
=\sum_{i=1}^{n}\vec{f_i}
式(10)が証明できた。
式(11)をしめそう。
\vec{F_i}=\vec{f_i}+\sum_{j, j\neq i}\vec{f_{i,j}}=\vec 0
すると、
\sum_{i=1}^{n}\vec{r_i}\times \vec{F_i}=\vec 0
\vec{F_i}=\vec{f_i}+\sum_{j, j\neq i}\vec{f_{i,j}}を代入して、ベクトル積の性質を使うと、
\vec 0=\sum_{i=1}^{n}\vec{r_i}\times \vec{f_i}
+\sum_{i=1}^{n}\vec{r_i}\times \vec{f_{i,j}}
=\vec N + \sum_{i=1}^{n}\vec{r_i}\times \vec{f_{i,j}}
この式の第2項が零であれば、\vec N =\vec 0 が証明される。
すでに前節で示したように、
\sum_{i=1}^{n}\vec{r_i}\times \vec{f_{i,j}}
=(\sum \sum_{i<j}+\sum \sum_{i>j})\vec{r_i}\times \vec{f_{i,j}}
=\sum \sum_{i<j}\vec{r_i}\times \vec{f_{i,j}}
+\sum \sum_{i<j}\vec{r_j}\times \vec{f_{j,i}}
\vec{f_{j,i}}=-\vec{f_{i,j}}を第2項に代入すると、
=\sum \sum_{i<j}\vec{r_i}\times \vec{f_{i,j}}
-\sum \sum_{i<j}\vec{r_j}\times \vec{f_{i,j}}
=\sum \sum_{i<j}(\vec{r_i}-\vec{r_j})\times \vec{f_{i,j}}
(\vec{r_i}-\vec{r_j}) \parallel \vec{f_{i,j}}なので、ベクトル積の性質から、
=\vec 0
故に\sum_{i=1}^{n}\vec{r_i}\times \vec{f_{i,j}}=\vec 0 が示せた。
命題の証明終わり。
次節(2.6 剛体の回転運動と釣合い)で、この命題の逆も正しいことを示す。
命題の系
命題において、質点m_iに作用する外力が、重力とその他の力の和
\vec{f_i}=m_{i}\vec g+\vec{F_i}で表せるとき
剛体の釣合の条件は
\sum_{i=1}^{n}\vec{F_i}=-M\vec g、
\sum_{i=1}^{n}\vec{r_i}\times \vec{F_i}=-\vec{R}\times M\vec{g}
である。
証明は簡単なので省略する。