物理/光と光波
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(→フェルマー原理に基づく、光の直進、反射の法則、屈折の法則の証明) |
(→レンズの作る像) |
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2016年7月24日 (日) 16:36時点における版
目次 |
光と光波
可視光と呼ばれる、目に見える光は、1つの媒質中では、粒子のように直進する(注参照)。
しかし、同時に、回折や干渉という波としての性質も示す。
光の(粒子と波動の)二重性という。
そこで長い間、光の粒子説と波動説が対立してきた。
19世紀における電磁気学の発展により電磁波が発見され、
可視光は周期がある帯域の中にある電磁波であることが分かった。
電磁波については、次章で簡単な紹介をする。
こうして最終的には、光は波であることで決着したかに思われたが、
20世紀になって、光を粒子と考えなければ、説明がつかない
光の光電効果がみつかった。
現代の物理学では、原子レベルの微粒子はすべて、同時に波動の性質をもち、
マクロレベルで観測される2重性の原因であると理解されている。
これらについては6章で簡単に説明する。
(注)単に光というときは、
可視光のほかに赤外線、紫外線を含める。
光の伝わり方
光の速さ
光速の測定
フィゾーの実験(外部リンク)
真空中の光速
真空中では全ての波長の光の速さは同一である。
現代の物理学では
真空中の光の速さcは最も基本的な物理定数であり、
$c=2.99792458\times 10^{8}m/s $
である。
物質中の光速
物質中では光は遅くなる。
例えば、空気中では、少し遅くなるだけだが、
水中ではおよそ$2.25\times 10^{8}m/s $であり、かなり遅くなる。
また同じ物質中でも、光は波長によって、速さが多少変わる。
これを利用して白色光の分光ができる(プリズム、虹など。後述)。
可視光と物体の色
可視光の波長
可視光の真空中での波長は、
一番長い赤色で $770nm=7.70\times 10^{-7}m$ 程度で
一番短い紫色が $380nm=3.80\times 10^{-7}m$ 程度である。
物体の色
太陽光は全ての波長の可視光を同じように含む。
このためは太陽光は、白色光とよばれ、色合いの感覚を与えない光である。
この光が物体にあたると、その一部は吸収され、残りは、反射したり、透過する。
我々の目に入る光は反射光と透過光であり、その波長により見える色が決まる。
赤く見える物体は、赤色をよく反射・透過し、その他の色をたくさん吸収する。
赤色LED照明のように、特定の波長しか出さない光の下で、物体をみると、
あらゆる物体が、濃淡は異なるが光源と同じ色に見える。
光の反射と屈折
光も波なので、「4.1 波の性質」で説明したホイヘンスの原理が成立つ。
光を平面波と考えれば、反射の法則や屈折にかんするスネルの法則は、「波の性質」で述べたように
ホイヘンスの原理を用いて証明できる。
反射の法則
反射は、反射境界面の法線(注参照)と入射光線を含む平面内で起こり、
入射角と反射角は等しい。
反射法則が関係する自然現象や反射法則を利用した道具はたくさんある。
スネルの法則
媒質1から媒質2に進入する光の屈折は、その光と境界面(注1参照)の交点に立てた境界面の法線(注2参照)と入射光線を含む平面内で起こる。
媒質1中の光速を $c_1$ 、媒質2中の光速を $c_2$ とすると、
媒質1から媒質2に光が進入するときの入射角 $\theta_1$ と屈折角 $\theta_2$ の間には
$\frac{\sin{\theta_1}}{\sin{\theta_2}}=\frac{c_1}{c_2} \qquad (1)$
が成立つ。
但し、入射角が0[ラジアン]のときは、屈折角も0[ラジアン] であり、$\frac{0}{0}=\frac{c_1}{c_2} $ とみなす。
この定理を前提にして、次の屈折率の定義を与える。
定義;
$n_{12}:= \frac{c_1}{c_2}\qquad \qquad (2)$
を媒質1に対する媒質2の屈折率(相対的屈折率)という。
命題1
光の媒質 i 中の速さを $c_i$ 、
媒質 i に対する、媒質 j の屈折率を
$n_{ij}:=\frac{c_i}{c_j}$ とする(i,j=1,2,3)。
このとき、任意のk(=1,2,3)に対して
$n_{ij}=n_{kj}/n_{ki}\qquad \qquad (3)$
が成立する。
証明;
$n_{ij}=\frac{c_i}{c_j}=\frac{c_i}{c_k}\frac{c_k}{c_j}=\frac{1}{n_{ki}}n_{kj}$
(注1)2つの媒質が接する境界面は、今後すべて、滑らかであり、
十分狭い範囲に限定すると、平面とみなせると仮定する。
(注2)平面の法腺とは、その平面と直交する直線のこと。平面の法腺ベクトルとは、この平面と直交する長さ1のベクトルのこと(直交して長さ1のベクトルは2つあるが、考察に都合のよいほうを用いる)。
全反射
水中から大気との境界(水面)に入射角$\theta_2$で入射した光は、
一部は屈折して、屈折角(水面の垂線との角度のこと)$\theta_1$で
大気中に進入する。
残りは、水中に反射される。
このとき、スネルの屈折の法則から、
$\frac{\sin{\theta_1}}{\sin{\theta_2}}=\frac{c_1}{c_2} \gt 1$
ここで、$c_2$ は水中での光速、$\quad c_1$ は大気中での光速。$c_2 \lt c_1$
そこで、入射角$\theta_2$が大きくなっていくと、屈折角$\theta_1$ は90度($\sin{\theta_1}=1$)になる。
このときの入射角は$\frac{1}{\sin{\theta_2}}=\frac{c_1}{c_2} $
を満たす。変形して、
$\sin{\theta_2}=\frac{c_2}{c_1} $
$\theta_2=\sin^{-1}{\frac{c_2}{c_1}} \qquad \qquad (4)$
で与えられる。
この入射角を臨界角という。
臨界角より大きな入射角では、光は屈折できなくなり、すべて反射するようになる。
全反射という。
全反射の場合にも、反射の法則は成り立つ。
全反射の利用
白色光の分光
屈折率(絶対屈折率)
真空中の光速cを物質中の光速$c_1$(より正確には位相速度)で割った値 $n_1:=\frac{c}{c_1} \lt 1$ を、その物質の屈折率(refractive index)という(注参照)。
光が真空中からこの物質に入射するときの屈折率に等しい(スネルの法則)。
相対屈折率と区別するため、絶対屈折率ともいう。
$n_{12}=\frac{c_1}{c_2}=\frac{c}{c_2}/\frac{c}{c_1}=n_2/n_1$
反射と屈折のときの光の位相の変化
媒質Ⅰを進んできた光が、媒質Ⅱとの境界平面に当たると、
一部は反射し、残りは、媒質Ⅱに屈折して侵入する。
反射波と屈折波の方向・向きは、フェルマーの原理により与えられる(反射の法則とスネルの法則)。
光の位相は、反射と屈折の際、どのように変化するだろうか。
光が境界面に垂直な方向から進んできた場合
議論を簡単にするため、光(進入波)が媒質Ⅰ中を速さ $c_1$ で進み境界面に垂直に当たる(入射角0[ラジアン])場合を考える。
一部の光は境界面で反射する。反射の法則から、反射波の反射角は0[ラジアン]で、逆向きに同じ速さで進行する。残りの波は屈折して媒質Ⅱの中を進む(屈折波という)が、屈折角も0[ラジアン]である。
この速さは媒質Ⅱに固有の速さであり、 $c_2$ で表す。
光波を数式で表すため座標系を導入する。
進入波の進む直線(境界平面と直交)を $x$ 軸にとり、その原点は境界上の点とし、点正方向は媒質ⅠからⅡに向かう向きとする。光波の変位量をy で表す。
光の振動数 $\nu$ は反射や屈折で不変なので、進入波 $y_1$、反射波 $y_{1}'$、屈折波(透過波) $y_2$ は、次のように表示できる(4.1 波の性質の命題4.4の系)
。
$y_1=y_1(t,x)=A_1 \sin \left(2\pi \nu (t-\frac{x}{c_1})\right) \quad(x \leq 0)$(注参照)
$y_{1}'=y_{1}'(t,x)=A_{1}' \sin \left(2\pi \nu (t+\frac{x}{c_1})-\delta_1\right)\quad(x\leq 0)$
$y_2=y_2(t,x)=A_2 \sin \left(2\pi \nu (t-\frac{x}{c_2})\right)\quad(x\geq 0)$
ここで、$A_1,A_{1'},A_2 \gt 0$
(注) x=0 の点で、$y_1$ の位相が零となる時刻を、時刻原点に選べばよい。
仮定;媒質Ⅰ($x\leq 0$)における合成波と透過波の接続条件
媒質Ⅰ($x\leq 0$)には、進入波と反射波の合成波$y_1+y_{1}'$ ができ、
媒質Ⅱ($x\geq 0$)には屈折波 $y_2$ が生じる。
この2つの波は、媒質境界($x=0$)で接するが、それぞれの変位量は常に一致する。すなわち
$(y_1+y_{1}')(t,0)=y_2(t,0)\quad $(すべての時刻tで)$\qquad \qquad(5)$
さらに滑らかに接続する。式で書くと、
$\frac{\partial(y_1+y_{1}')}{\partial x}(t,0)=\frac{\partial y_2}{\partial x}(t,0)\qquad \qquad(6)$
命題2
合成波と透過波が接続条件 式(5)、式(6) を満たすとき、反射波と透過波の初期位相は次の条件を満たす。
(1)もし、 $c_1 \gt c_2$ ならば、
$\delta_1 =\pi,\quad \delta_2 =0$
このとき、反射波と透過波の振幅は、
$A_{1}'=\frac{c_1-c_2}{c_1+c_2}A_1\quad$,$A_{2}=\frac{2c_2}{c_1+c_2}A_1$
(2)もし、 $c_1 \lt c_2$ ならば、
$\delta_1 =0,\quad \delta_2 =0$
このとき、反射波と透過波の振幅は、
$A_{1}'=\frac{c_2-c_1}{c_1+c_2}A_1\quad$,$A_{2}=\frac{2c_2}{c_1+c_2}A_1$
☆☆一般の場合
入射角が0ラジアンでない一般の場合にも、
入射波、反射波と透過波の位相と振幅にかんする、同種の関係がなりたつ。
この場合には、接続条件のほかに、反射の法則を仮定する必要がある。
屈折の法則は仮定しなくてよい。
得られた関係から、屈折の法則がいえる。
光の干渉と回折
光は波長が非常に短いのであまりはっきりした干渉をおこさず、直進するようにみえる。
そのため、光の粒子説も唱えられた。
ヤングの干渉実験
1805年ころトマス・ヤングは、
光源からの光を平行な2つのスリットを通すと衝立上に干渉縞を生じることを示した。
光の波動性を示す現象である。
何故干渉縞ができるのか
図は、スリットの入っている高さh$(h_1\leq h \leq h_2$で、実験装置の水平断面を書いたものである。
左の壁の2つのスリット $S_1,\quad S_2$ に入ってくる光は、
同一光源からでた、同一位相の波長 $\lambda$ の光である。
スリットの幅は微小で、断面図では点とみなせ、$S_1$ と$S_1$ が波源となり、
同一の波長と初期位相の球面波が放射される。
スリットの壁と距離lのところに、壁と平行にスクリーンを置いてある。
$S_1$ と$S_1$ が波源となり出た光が干渉して、
あるところでは強めあい、他のところでは弱めあうため、スクリーン上に干渉縞が見える。
このとき、 干渉縞が目視できるように、$\frac{\lambda}{d}l$ を大きな値になるようにしておく(理由は後程明らかになる)。
このためには、スリット間隔dをなるべく小さくし、スクリーンとの距離lは大きくする必要がある。
図のスクリーン上の任意の一点(実際は、ある長さの縦線)Pをとる。
命題;
(1)$S_{2}P-S_{1}P = m\lambda \quad (m=0,\pm 1,\pm 2,,,,)\qquad \qquad (7)$
ならば、点Pに明るい縦縞が現れる(2つの波が強めあう、すなわち同位相である)。
(1')$S_{2}P-S_{1}P \fallingdotseq d\sin{\theta}$ なので、
$d\sin{\theta} = m\lambda \quad (m=0,\pm 1,\pm 2,,,,)\qquad \qquad (8)$
ならば、点Pに明るい縦縞が現れる。
(2)$S_{2}P-S_{1}P = (m+\frac{1}{2})\lambda \quad (m=0,\pm 1,\pm 2,,,,)\qquad \qquad (9)$
ならば、点Pに暗い縦縞が現れる(2つの波が弱めあう、すなわち逆位相である)。
(2')$d\sin{\theta} = (m+\frac{1}{2})\lambda \quad(m=0,\pm 1,\pm 2,,,,)\qquad \qquad (10)$
ならば、点Pに暗い縦縞が現れる。
証明;
(1)と(2)はほとんど自明。
$S_{2}P-S_{1}P \fallingdotseq d\sin{\theta}$ を示せば証明は終わる。
d が小さく、lは大きいので、2つの光線$S_1 P$、$S_2 P$は平行とみなせ、
スクリーン壁の垂線となす角 $\theta_1$ は $\theta_2$ と殆ど等しい。
そこで、両角は等しく、$\theta$ とする。
点$S_1$ から、線分$S_2P$ に垂線を引き、その足をHとする。
すると、$\angle S_{2}S_{1}H =\theta$であり、 $S_{2}H =d\sin{\theta}$が言える。
$S_{1}P \fallingdotseq HP$
なので
$S_{2}P-S_{1}P \fallingdotseq (S_{2}H+HP)-HP =S_{2}H =d\sin{\theta}$
証明終わり。
複数の波長の可視光がまざった光の場合
太陽光のようにいくつもの波長の混ざった光の場合、 波長によって、縞模様の出る位置が変わるため、いろいろな色の縞模様が連続して現れる。
薄膜による干渉
光の波長$\lambda$程度の薄い膜(薄膜)では、
$\quad$膜の上面で反射する光と、
$\quad$上面を屈折して膜中に入り膜下面で反射し、膜の上面を屈折して出てきた光が干渉する。
膜の上方の媒質Ⅰの絶対屈折率を $n_1$,膜の下方の媒質Ⅱの絶対屈折率を $n_2$,
膜の媒質の絶対屈折率を$n (\gt n_1 ,n_2)$、膜の厚さdが一様とするとき、
2本の光線が強めあう条件を求めよう。
空中から膜に向かう光は単一波長$\lambda$の平面波と仮定する。
この光の一本の光線が、入射角 $\theta$ で膜中に入るとする。屈折角を$\theta_1$とする。
スネルの法則から、$\theta_1=\frac{\theta}{n} \qquad \qquad (a)$。
この光は膜下面Bで入射角$\theta_1$で反射し、再び膜中を進み、膜の上面Cに達し、
一部は入射角$\theta_1$で空中に出る。
この屈折角$\theta_2$ は、スネルの法則から $\theta_2=n\theta_1$。
式(a)から、$\theta_2=\theta$。この屈折光の波長は$\lambda$ に戻っている。
空中から膜に向かう光は平行光線なので、直接点Cで反射する光腺もある。
この反射角も $\theta$ なので、両者は、全く直線上を進む。
膜中にいったん入りC点から媒質Ⅰに出てきた波が、
この反射光より波長の整数倍だけ遅れる場合には、位相が同一で強めあい、
波長の整数倍+半波長 だけ遅れていれば弱めあう。
この条件を求めよう。
図のAGは平面波の一つの波面で、同位相角である。
Gを通った光線が膜との境界Cに到達したとき、
Aを通った光線は、屈折して膜中に入り図のH点に達しているとする。
ホイヘンスの原理から、CHは屈折波の波面(同位相)である。
$\angle AHC=\frac{\angle R}{2}$
「1.1.3 光の反射と屈折」の命題2から、 $n \gt n_1 $ なので、
C点で反射した瞬間に、反射波は半波長分位相変化。
他方の光線はHBを進みBで反射しBCを進み、C点で屈折して媒質Ⅰ中にでる。
$n \gt n_2$ なのでB点での反射は位相を変えない。
そこで、HB+BCの間に、$m+\frac{1}{2},\quad (m=0,1,2,3,,,)$ 個の波があれば
、
膜中に入り、C点で屈折して再び媒質Ⅰ中に出た瞬間の光線は、波長の整数倍だけ
反射光に遅れることになり強めあう。
補題
ユークリッド幾何学を利用すると
HB+BC=HI
CI= 2d $\quad$ (dは膜の厚さ)
$\angle ABD=\angle HIC$
が示せる。
$\quad$ ここで、点Iは直線ABとC点を通る平行膜の垂線との交点。
光線ABの入射角 $\angle ABD$を $\theta$ とかくと、
HB+BC=HI$=CI\cos{\angle HIC}=2d\cos{\theta}$
膜中の光線の波長は、媒質Ⅰ中での波長 $\lambda$ を用いて、
$\frac{n_1}{n} \lambda$ なので2光線が強めあう条件は
$2d\cos{\theta}=(m+\frac{1}{2})\frac{n_1}{n} \lambda,\quad (m=0,1,2,3,,,)\qquad (11)$
弱めあう条件は
$2d\cos{\theta}=m\frac{n_1}{n} \lambda,\quad (m=1,2,3,,,)\qquad (12)$
白色光では、たとえ平面波であっても、いろいろな波長が混ざっているため、
現象は複雑になる。
この光のもとでシャボンや油膜をみると、式(11)を満たす波長の光が強めあい、
それと波長の近い色もそれに次いで強めあうので、
それらが混合した色合いに見える。
幕の厚さが異なっても色合いが変わり、
また反射面が平面でないため、場所によって入射角が異なり、強めあう色が変わる。
一層ではなく多層薄膜でも同様の現象が起こる。
興味がある方は下記の記事をどうぞ。
回折
回折は、本質的には、干渉と同じ現象。
回折は2つではなく多くの波源からの波の干渉を扱う。
回折格子
格子状のスリットによる回折を利用して干渉縞を作ることができる。
偏光
幾何光学
光の波長は大変短く、巨視的には光線は直進するように見える(注参照)。
そこで光の進む軌跡(光線)を直線として扱い、
幾何学・数学を利用して光の性質を調べる方法が幾何光学である。
このときの指導原理にフェルマーの原理がある。
(注)日常生活でも、雲間からさす太陽光や小さな穴からさしこむ太陽光などで確認できる。
フェルマーの原理と反射と屈折の法則
フェルマーの原理
この原理は、
「任意の2点A,B($A \neq B$)を通る光は、
その間を、通過にかかる時間を最小にする経路(最短時間経路)にそって進む」
というもの(注参照のこと)。
フェルマーの原理を用いて反射や屈折現象を説明できる。
(注)多少厳密にいえば、通過に要する時間が極小値をとる経路。
厳密にいえば、2点を通過するあらゆる滑らかな曲線のうち、
それに沿った通過時間が、停留値をとる曲線にそって光は進行する。
言い方を変えると、その曲線の周辺の曲線に沿って進むとき、早く着くような曲線がないこと。
この原理に従って経路を厳密に求めるには、
多くの場合変分法という方法が必要になる。
本テキストでは、変分法を使わない範囲で、フェルマーの原理を利用する。
フェルマー原理に基づく、光の直進、反射の法則、屈折の法則の証明
(1)直進性
命題4.1; 均質な媒質中では、光は直進する。
均質な媒質では光の速さは一定なので、最短経路が最短時間経路になる。
2点を結ぶ最短経路は直線なので、光は直進する。
(2)反射の法則
命題4.2
光の入射角と反射角は等しい。
直進性の場合と殆ど同じように証明できる。
(3)屈折の法則
図のように、媒質 i での光速を $c_i \qquad (i=1,2)$ として、
媒質1の点$A(x_1,y_1)$から出て、媒質2の点$B(x_2,y_2)$ を通る光を考える。
入射角を $\theta_1$、反射角を $\theta_2$、光が媒質2に入射する点を $P(x,0)$ とする。
命題4.3(スネルの法則)
入射角 $\theta_1$ と反射角 $\theta_2$ の間には
$\frac{\sin{\theta_1}}{\sin{\theta_2}}=\frac{c_1}{c_2}$
という関係が成立つ。
但し、$\theta_1=0$ の時は、$\theta_2=0$ であり、$\frac{0}{0}=\frac{c_1}{c_2}$ とみなす。
証明;媒質1中の光の経路長は $l_1=\sqrt{(x-x_1)^2+y_{1}^2}$
$\qquad $ 媒質2中の光の経路長は $l_2=\sqrt{(x_2-x)^2+y_{2}^2}$
通過にかかる時間は、 $t=t(x)=\frac{l_1}{c_1}+\frac{l_2}{c_2}$
これを最小にするxが満たす(必要)条件は
$t'(x)=\frac{dt}{dx}(x)=0$
これを計算すると、
$\frac{1}{c_1}\frac{x-x_1}{l_1}=\frac{1}{c_2}\frac{x_2-x}{l_2}$
を得る(注を参照のこと)。
ここで、 $\frac{x-x_1}{l_1}=\sin{\theta_1}$、 $\frac{x_2-x}{l_2}=\sin{\theta_2}$ なので、
$\frac{1}{c_1}\sin{\theta_1}=\frac{1}{c_2}\sin{\theta_2}$
この式から所望の結果が得られる。証明終わり。
(注)$\frac{dl_1}{dx}(x)=\frac{d}{dx}\left((x-x_1)^2+y_{1}^2\right)^{\frac{1}{2}}$
$\quad$ 合成関数の微分法則を用いて計算すると、
$=\frac{1}{2}\left((x-x_1)^2+y_{1}^2\right)^{-\frac{1}{2}}\frac{d}{dx}\left((x-x_1)^2+y_{1}^2\right)=\frac{1}{2l_1}2(x-x_1)=\frac{x-x_1}{l_1}$
故に、$\frac{dl_1}{dx}(x)=\frac{x-x_1}{l_1}$
同様にして
$\frac{dl_2}{dx}(x)=-\frac{x_2-x}{l_2}$
$0=t'(x)=\frac{dt}{dx}(x)=\frac{1}{c_1}\frac{x-x_1}{l_1}-\frac{1}{c_2}\frac{x_2-x}{l_2}$
虚像
物体の各点から出た光線束(注参照)が、
レンズを通過したときや反射鏡で反射したとき,
一点に集まらないとする。
この場合、この光線束は像を作らないが
その光線束を逆向きに延長すると一点に集まるとすると、
あたかも、その点から光が出ているように見える。
この像を虚像という。
(注)点光源からは、一般には光線はある範囲の方向のすべてに向けて放射される。
これらの光線をまとめたものを光線束という。
光をあてられた物体の各点からは、ある範囲にわたって、反射光線が放射される。
レンズによる虚像
後述の「レンズ」の項で、レンズの虚像がどのようなときできるかを説明する。
屈折による虚像
2つの媒質が平面状の境界で接触(例;水と大気。水面が境界面)しているとき、
一方の媒質中の物体を、他の媒質中にいる人間が見ると、
物体の任意の点Pから出た光が、屈折して人間の目に入ってくる。
P点から出た光線の作るP点の像は、
実際のP点ではなく、
両目に入ってくる光線を逆に伸ばして、交わるところにできる。
これも虚像である。
レンズ
レンズとは、ガラスなど透明な物質を、両面が曲面(一方は平面でもよい)となるように形成し、両面を磨いたもの。
周りの媒質との光の屈折率の違いを利用して、レンズ両面で光を屈折させて、
光線束(多数の光線の集まり)を収束させたり、発散させたりする、光学部品である。
望遠鏡、顕微鏡、メガネ等々に利用され、大変重要な道具である。
通常、単にレンズといえば、両面が球面の一部をなす、球面レンズを指す。
それ以外の曲面を持つものは、非球面レンズといわれる。
乱視用メガネが卑近な例である。
しかし、非球面レンズは正確に製作することが難しいため、
特殊な目的以外にはあまり使われない。
本テキストでは、今後、レンズといえば、球面レンズをさす。
レンズの種類
レンズには一枚だけで構成される単レンズ、
光軸(注参照)を一致させた2枚以上の単レンズからなる、複合レンズがある。
単レンズには、凸レンズ、凹レンズなどがある。
(注)光軸(略して軸);レンズの両面はそれぞれ球の表面であるが、
その2つの球の中心を通る直線(レンズの対称軸)を光軸という。
球面レンズは、軸の周りをどんな角度回転させても一致する(回転体。
詳しくは、
凸レンズと凹レンズ
ふちより中央が厚い形状にしたレンズを凸レンズ(convex lens)という。 ふちより中央が薄いレンズを凹レンズ(conncave lens)という
レンズによる屈折
レンズの性質を調べる時、次のような前提(約束事)が良く使われる。
本テキストでも、これを使う。
(1)レンズの軸を水平になるように書く(x軸にとる)。
(2)物体(光源)とレンズ面との距離 $s_1$ は、物体がレンズの左側にある時、正とする。
(3)像のレンズとの距離 $$ は、像がレンズの右側(光線の進行方向)にあるとき、正とする。
負のときは、レンズの左側、光源のある側に見える虚像を表す。
(4)球の表面の曲率半径 $r$ とは、球の半径Rに正負の符号をつけたもの。
$\qquad$ 球の中心が表面の右側にある時、正に定め($r=R$)、
$\qquad$ 球の中心が表面の左側にある時、負に定める($r=-R$)。
図参照のこと。
(5)単レンズは薄く、その厚さ d による誤差は無視できる。
レンズの作る像
明るい物体を、凸レンズを通して、紙などにあてると、上下、左右が逆の像が見える。
物体から四方に出た光線が凸レンズで収束させられて、紙に当たって像を作ったのである。
このように実際に、集まった光線で作る像を実像という。
しかし、凸レンズを物体に近づけすぎると、収束しきれず、
発散光線となり、 実像はできない。
しかしレンズを通った後のすべての光線の進路(直線)を逆にたどると
物体と同じ側の(ほぼ)一点で交わり、そこに物体の像があるように見える。
これを、虚像という。
また、凹レンズでは、レンズ通過後、発散し、虚像を作る。
補題
レンズの左側の面の曲率半径を $r_1$ 、
右側の面の曲率半径を $r_2$ とする。すると、
レンズが凸である必要十分条件は、$ r_1 \lt r_2$
レンズが凹である必要十分条件は、$ r_1 \gt r_2$
である。
証明
いずれのレンズに対しても、次の命題が成立つ。
命題4.4
(1)光軸上の点光源から出た、光軸に近いあらゆる光線は、
(球面)レンズで屈折し、レンズの光軸のある点に、ほぼ集まり、像を作るか、発散して虚像を作る。
光源とそれぞれの光線のレンズ面までの距離を $s_1$ 、
レンズ面から像までの距離 $s_2$ との間には、
$\frac{1}{s_1} + \frac{1}{s_2} = \frac{1}{f} \qquad \qquad (13)$
という関係が成立つ。
$\quad$ ここでfはレンズの焦点距離という(注参照のこと)。
(2)レンズの焦点距離fは、
レンズの屈折率n(=空中の光速/レンズ中の光速)、
レンズの左面(光源に面した面)の曲率半径 $r_1$と
レンズの右面(光源と反対側の面)の曲率半径 $r_2$ を用いて
$\frac{1}{f}=(n-1)(\frac{1}{r_1}-\frac{1}{r_2})\qquad \qquad (14)$
で表せる。
証明は、スネルの屈折の法則を利用する。
この節の末尾の付録で証明する。
定義;光軸とレンズからの距離がfである、光軸上の2点を焦点という。
この2つを区別したいときは、左側の焦点を前側焦点、
右側の焦点を後側焦点と呼ぶ。
系1;凸レンズは、
(1)光軸と平行な近軸光軸を、屈折させて焦点に集める。
(2)焦点を通る近軸光線は、レンズで屈折後、軸と平行な光線になる。
系2;凹レンズは、
(1)光軸と平行な近軸光線を、屈折させて焦点に虚像を作る。
(2)レンズの左側から、レンズの右側の焦点を目指す近軸光線は、レンズで屈折して
軸と平行な光線になる。