物理/極限と微分
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2015年2月19日 (木) 07:06時点における版
目次 |
極限と微分
本テキストで使う数学について、紹介する。
集合
集合論の初歩の知識は前提にして記述するので、
なじみのない方は、下記を参考に、
集合の素朴な定義、集合の表記法、集合の和集合や共通集合、集合の包含関係
などについて学習してほしい。
実数の連続性と極限
実数の連続性は、色々な極限の存在の根拠を与えるもので、
実数の持つ最も重要な性質の一つである。
上界、下界と有界集合
${\bf R}$を、全ての実数を要素とする集合とし、
$A$をその部分集合とする。
実数$u$が$A$の上界(upper bound)とは、
任意の$a \in A$に対して、$a \leq u$がなりたつこと。
実数$l$が$A$の下界(lower bound)とは、
任意の$a \in A$に対して、$l \leq a$がなりたつこと。
$U_A$を$A$の上界をすべて集めた集合、
$L_A$を$A$の上界をすべて集めた集合とする。
$U_A$が空集合$\emptyset$でない(すなわち、$A$の上界が少なくとも一つ存在する)とき、
$A$は上に有界であるといい、
$L_A\neq \emptyset$の時、$A$は下に有界であるという。
上に有界で、下にも有界な集合($\subset {\bf R})$は、有界という。
実数の連続の公理と上限、下限
$A \subset {\bf R}$とする。
実数の連続性の公理
もし、$U_A \neq \emptyset$ならば、$U_A$は、最小元を持つ。
もし、$L_A \neq \emptyset$ならば、$L_A$は、最大元を持つ。
上限と下限の定義
$U_A$の最小元を$A$の上限(supremum)あるいは最小上界(least upper bound)という。
また、$L_A$の最大元を$A$の下限(infimum)あるいは最大下界(greatest lower bound)という。
命題1
$u$が$A(\subset {\bf R})$ の上限となるための必要十分条件は、
ⅰ)$u$は$A$の上界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$a \leq u$
ⅱ)$x<u$である任意の$x$は$A$の上界ではない。すなわち、$x<a$となる$a\in A$が存在。
ⅲ)$A$が最大値を持つ場合には、上限は最大値と一致する。
同様に、$l$が$A$ の下限となるための必要十分条件は、
ⅰ)$l$は$A$の下界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$l\leq a$
ⅱ)$l<x$である任意の$x$は$A$の下界ではない。すなわち、$a<x$となる$a\in A$が存在。
ⅲ)$A$が最小値を持つ場合には、下限は最小値と一致する。
$A$ の上限を$\sup A$、下限を$\inf A$と書く。
証明は、上限、下限の定義から、明らかなので省略する。
例;$A=(0,1)$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。
これらは、ともに$A$の要素でないので、
上限1は$A$の最大元(最大値)ではなく、下限0は$A$の最小元(最小値)ではない。
$A=[0,1]$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。
これらは、ともに$A$の要素なので、
上限は最大限であり、下限は最小限となる。
命題2
$A \subset B \subset {\bf R}$で、$B$は有界集合とする。
このとき、$\inf B \leq \inf A \leq \sup A \leq \sup B$
証明は容易である。
関数$y=f(x)$が連続でない時は、区間上で最大値や最小値を取らないことがある。
この場合も考慮して、最大値を上限に、最小値を下限に置き換えて、
$m(f;V_i)=\inf\{f(x)\mid x\in V_i\},M(f;V_i)=\sup \{f(x)\mid x\in V_i\}$で定義すれば、
有界関数に対して、これらは常に定義され、今までの議論はすべて成り立つ。
実数列の極限
極限の性質
内積とノルム
内積とノルムは物理学では良くつかわれるので
本テキストで必要となる命題と証明を紹介する。
以下では、
$\vec a,\vec b,\vec c$は、すべて同じ次元(2か3)のベクトルとし、 $\alpha$は実数とする。
なお、全ての命題は、4次元以上のベクトルに対しても成り立つが省略する(注参照)。
座標成分表示が必要な命題では、直交座標系表示を用いる。
(注)n次元(>3)も含めた一般のn次元ベクトルの内積は、後述の命題2
ノルムと内積の定義
ベクトル$\vec a$のノルムとは、
$\|\vec a\|:=\sqrt{\sum_{i}a_{i}^2}$のことで、
ベクトルの長さ(大きさ)を表す。
ベクトル$\vec a,\vec b$の内積とは
$ \vec a \cdot \vec b:=\|\vec{a}\|\|\vec{b}\|\cos\theta$
ここで、$\theta$は、ベクトル$\vec a,\vec b$のなす角($0\le \theta \le \pi$ )である。
この定義から、
$\vec a \cdot \vec a=\|\vec{a}\|^2 $
であることが分かる。
内積とノルムの性質
命題1
$\vec a \cdot \vec b =\vec b \cdot \vec a$
証明;内積の定義から明らか。
命題2
$\vec a \cdot \vec b =\sum_{i}a_ib_i$
ここで$a_1,b_1$はそれぞれ$\vec a,\vec b$のx座標成分、同様に、添え字2はy座標成分、3はz座標成分
直交座標系はどんなものでも良い。しかしすべてのベクトルは同じ座標系で座標成分表示しなければならない。
証明
次の三角形の余弦定理を利用する。
三角形の第2余弦定理;
図のような$\triangle {ABC}$を考える。
頂点A,B,Cの対辺の長さをそれぞれ$a,b,c$とし、$\angle{ACB}=\theta$とする。
すると、$c^2=a^2+b^2-2ab\cos\theta$
余弦定理の証明;頂点$A$から対辺$BC$におろした垂線の足を$H$とする。
ピタゴラスの定理により、
$c^2=\overline{BH}^2+\overline{AH}^2$。$\qquad$ 右辺の第2項に、再び、ピタゴラスの定理を適用して、
$=\overline{BH}^2+(b^2-\overline{CH}^2)$ $\qquad$ $\overline{BH}=a-\overline{CH}$を代入すると、
$=(a-\overline{CH})^2+(b^2-\overline{CH}^2)=a^2+b^2-2a\overline{CH}$,$\quad$ $\overline{CH}=b\cos\theta$なので、代入すると
$=a^2+b^2-2ab\cos\theta$
証明終わり。
命題2の証明
ベクトル$\vec a $と$\vec b $を、
始点が点$C$である有向線分で表現し、その終点を$B$,$C$で表す。
すると$\vec a=\vec{CB}$, $\vec b=\vec{CA}$である。
ベクトル$\vec c=\vec a-\vec b$を導入すると、
$\vec c=\vec a-\vec b=\vec{CB}-\vec{CA}=\vec{CB}+\vec{AC}=\vec{AB}$
3角形$\triangle {ABC}$を考え、第2余弦定理を適用しよう。
$\angle{ACB}=\theta$とおく。すると、
$\|\vec c\|^2=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\|\vec a\|\|\vec b\|\cos{\theta}$
$=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\vec a \cdot \vec b$が得られる。
この式を変形して$\vec a \cdot \vec b$だけを左辺に置くと、
$\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec c\|^2)/2$ 。
$\vec c=\vec{AB}=\vec{AC}+\vec{CB}=-\vec b+\vec a$なので、
$\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec a-\vec b\|^2)/2 $
この右辺を、ベクトルの直交座標成分で表すと、次式が得られる。
$\vec a \cdot \vec b=(\sum_{i}a_i^2+\sum_{i}b_i^2-\sum_{i}(a_i-b_i)^2 )/2 $
$=\sum_{i}a_i b_i$
命題2の証明終わり。
命題3
$(\vec a +\vec b) \cdot \vec c =\vec a \cdot \vec c+\vec b \cdot \vec c$
証明
ある一つの直交座標系をさだめ、両辺を、命題(2)を利用して、座標成分であらわす。両辺が等しいことが分かる。
系; $\vec a \cdot (\vec b+\vec c) =\vec a \cdot \vec b+\vec a \cdot \vec c$
証明;命題1を利用して、左辺の項の順番を入れ替え、命題3を適用し、再び命題1を用いればよい。
命題4
$(\alpha \vec a)\cdot \vec b =\vec a \cdot (\alpha \vec b)=\alpha (\vec a \cdot \vec b)$
が成り立つ。
証明
同様に、3つの式を、座標成分表示すれば、みな等しいことが、簡単に分かる。
命題5
$\|\vec a \cdot \vec b\| \leq \|\vec a\|\|\vec b\|$
$0\leq |\cos\theta|\leq 1$なので内積の定義から、ただちに分かる。
命題6 ノルムの三角不等式
$\|\vec a + \vec b\| \leq \|\vec a\| + \|\vec b\|$
証明
$\|\vec a + \vec b\|^2=(\vec a + \vec b)\cdot (\vec a + \vec b)$
命題3を使って計算すると、
$=\vec a \cdot \vec a +\vec b \cdot \vec b +2\vec a \cdot \vec b$
命題5より、
$\leq \vec a \cdot \vec a +\vec b \cdot \vec b +2\|\vec a\|\|\vec b\|
=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2+2\|\vec a\|\|\vec b\|=(\|\vec a\|+\|\vec b\|)^2$
故に$\|\vec a + \vec b\|^2 \leq (\|\vec a\|+\|\vec b\|)^2$
両辺の平方根をとれば所要の不等式を得る。
ベクトル積
本節での全ての命題で、
$ \vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$は3次元ベクトル
$\alpha$を実数とする。
命題1. $ \quad \vec{a} $ を, $\vec{c} $と垂直な成分$ \vec{a_\perp}$ と,平行な成分$\vec{a_\parallel}$ の和に分解するとき、
$\quad \vec{a} \times \vec{c}= \vec{a_\perp} \times \vec{c}$
$\quad \vec{a_\parallel} \times \vec{c}= 0$
証明;ベクトル積の定義から、容易に示せる。
2つのベクトルの作る平行四辺形の面積と方向・向きを考えれば良い。
命題2.$ \quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}$
証明;2つのベクトルを入れ替えても、それらが作る平行四辺形の面積は変わらず、この四辺形に直交する直線の方向も変わらない。
しかし、ベクトル積の向きは、逆向きになる。
ベクトル積の定義から、$\quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}$ が示せた。
命題3
$(\alpha\vec{a})\times \vec{b}= \alpha(\vec{a} \times \vec{b})= \vec{a}\times (\alpha\vec{b})$
証明;実数$\alpha$ が正、零、負の場合に分けて考える。
いずれの場合にも,
ベクトル積の定義とベクトルと実数の積の命題から、容易に証明できる。
命題4.$ \quad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}$
証明;
この証明には少し工夫が必要である。
ベクトル積の命題の中でも、もっとも大切なものなので、詳しく説明しよう。
① $ \vec{a}, \vec{b}$ と$\quad \vec{c}\quad$ が直交する場合。図参照のこと
・議論をやさしくするため、ベクトルを、空間の原点$O$ を始点とする有向線分で代表させる。
・$ \vec{c}$ と直交し$O$ を通る平面を$H$とする。
・仮定より$ \vec{a},\quad \vec{b}$は、ともに平面$H$上のベクトルである。
・$\vec{a} \times \vec{c} ,\quad \vec{b} \times \vec{c}$も、
ベクトル積の定義により、共に$ \vec{c}$ と直交するので、$H$上のベクトルである。
これら四つのベクトルはすべて平面$H$上にあるので、今後の議論はこの平面上で進める。
ⅰ)$\vec{a} \times \vec{c}, \vec{b} \times \vec{c}$ の張る平行四辺形は,
$\vec{a}, \vec{b}$の張る平行四辺形を、$\| \vec{c}\|$倍し,原点周りに90度回転したものになることを、示そう。
・$\vec{a} \times \vec{c} $は、ベクトル積の定義から、$ \vec{a}$ と直交する。
そのため、$\vec{a}$ を平面$H$上で、原点まわりに、90度右回りか、左回りすれば、方向と向きが一致する。
・$\vec{b} \times \vec{c} $も、同様に考え、$\vec{b}$ を平面$H$上で、原点まわりに、90度右回りか、左回りすれば、方向と向きが一致することが分かる。
・どちら周りの回転になるかは、ベクトル積の定義によって決まるが、
後者の回転の向きが、前者の回転の向きと一致することが分かる。
・$\vec{a}\times \vec{c}$ の大きさは、
$\|\vec{a}\times \vec{c}\|=\|\vec{a}\|\|\vec{c}\|\cos(\pi/2)=\|\vec{a}\|\|\vec{c}\|$ なので、$\vec{a}$ の大きさの$\|\vec{c}\|$倍になる。
同様に、$\vec{b}\times \vec{c}$ の大きさは、$\vec{a}$ の大きさの$\|\vec{c}\|$倍になる。
・以上の結果より、所望の結果は示された。
ⅱ)$ \qquad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}$を示そう。
・ ⅰ)と同じ議論により、
$(\vec{a}+ \vec{b}) \times \vec{c}$は$\vec{a}, \vec{b}$の張る平行四辺形の対角線を、原点周りに90度、同じ向きに回転させ、$\|\vec{c}\|$倍させたものであることが分かる。
・すると、ⅰ)で示したことから、$(\vec{a}+ \vec{b}) \times \vec{c}$は
$\vec{a} \times \vec{c}, \vec{b} \times \vec{c}$ の張る平行四辺形の対角線$\vec{a} \times \vec{c}+\vec{b} \times \vec{c}$ に等しいことが分かる。
・以上で①が示せた。
② 一般の場合。
命題1より、$\perp$ を$\vec{c}$と垂直な成分を表すとすると、 $ (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= (\vec{a}+ \vec{b})_\perp \times \vec{c} \qquad \qquad \qquad $(1)
$(\vec{a}+ \vec{b})_\perp =\vec{a}_\perp +\vec{b}_\perp$なので、(1)式は、
$ = (\vec{a}_\perp +\vec{b}_\perp) \times \vec{c}$
①より、
$ = \vec{a}_\perp \times \vec{c}+\vec{b}_\perp\times \vec{c}=\vec{a} \times \vec{c}+\vec{b} \vec{c}$ $ \qquad $ 命題4の証明終わり。
命題4の系
$ \quad \vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= \vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c}$
$ \quad (\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}$
証明;
命題2より、
$\vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= -\left((\vec{b}+ \vec{c})\times \vec{a}\right) $ 命題3から
$=\left(-(\vec{b}+ \vec{c})\right)\times \vec{a}$
命題4より、
$= -(\vec{b} \times \vec{a}+ \vec{c} \times \vec{a})$
再び命題2より、
$=\vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c} \quad $前半の証明終わり
命題2より、
$ (\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=(\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{d}+\vec{c})\times \vec{d}$
再び命題2より、
$ =\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}$
$\quad$証明終わり。
命題5.$\quad (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3})$ を
それぞれ大きさ(長さ)1で互いに直交し、右手系をなす、ベクトル(右手系をなす正規直交基底)とする。
この時、
$ \quad \vec{e_1} \times \vec{e_2} = \vec{e_3}, \quad
\vec{e_2} \times \vec{e_3} = \vec{e_1}, \quad
\vec{e_3} \times \vec{e_1} = \vec{e_2}$
証明;ベクトル積と$(e_1,e_2,e_3)$ の定義から明らかである。
命題6.ベクトル$\vec a, \vec b$を,命題5で用いた基底$ (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3})$ で決まる座標の座標成分で表示しておく。
すると$\vec a \times \vec b=(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x)$
証明;$\vec a=a_x\vec{e_x}+a_y\vec{e_y}+a_z\vec{e_z}$,
$\vec b=b_x\vec{e_x}+b_y\vec{e_y}+b_z\vec{e_z}$と表せるので、
$\vec a \times \vec b=(a_x\vec{e_x}+a_y\vec{e_y}+a_z\vec{e_z})\times \vec b$
命題3の系から
$=a_x\vec{e_x}\times \vec b
+a_y\vec{e_y}\times \vec b
+a_z\vec{e_z}\times \vec b$ $\qquad$ (1)
式(1)の第1項
$a_x\vec{e_x}\times \vec b$
に
$\vec b=b_x\vec{e_x}+b_y\vec{e_y}+b_z\vec{e_z}$
を代入して、命題3の系を使って変形すると、
$a_x\vec{e_x}\times \vec b
=a_x\vec{e_x}\times b_x\vec{e_x}
+a_x\vec{e_x}\times b_y\vec{e_y}
+a_x\vec{e_x}\times b_z\vec{e_z}$ $\qquad$ (2)
命題4と命題5を使うと、
$a_x\vec{e_x}\times b_x\vec{e_x}
=a_x b_x\vec{e_x}\times \vec{e_x}
=\vec 0$ 。
同様の計算を行うと、
$a_x\vec{e_x}\times b_y\vec{e_y}
=a_x b_y\vec{e_x}\times \vec{e_y}
=a_x b_y\vec{e_z}$
$a_x\vec{e_x}\times b_z\vec{e_z}
=a_x b_z\vec{e_x}\times \vec{e_z}
=-a_x b_z\vec{e_y}$
式(2)にこれらを代入して、
$a_x\vec{e_x}\times \vec b
=a_x b_y\vec{e_z} - a_x b_z\vec{e_y} $ $\qquad$ (3)
式(1)の第2項、第3項も同様に計算すると、
$a_y\vec{e_y}\times \vec b
=a_y b_z\vec{e_x} - a_y b_x\vec{e_z} $ $\qquad$ (4)
$a_z\vec{e_z}\times \vec b
=a_z b_x\vec{e_y} - a_z b_y\vec{e_x} $ $\qquad$ (5)
式(3),(4),(5) を、式 (1)に代入すると、
$\vec a \times \vec b
=a_x b_y\vec{e_z} - a_x b_z\vec{e_y}
+a_y b_z\vec{e_x} - a_y b_x\vec{e_z}
+a_z b_x\vec{e_y} - a_z b_y\vec{e_x}$
$ =(a_y b_z - a_z b_y)\vec{e_x}
+(a_z b_x - a_x b_z)\vec{e_y}
+(a_x b_y - a_y b_x)\vec{e_z}$
命題6の証明終わり。
命題7の証明;
$ \quad (\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$を証明しよう。
残りも、同様に証明出来るので各自試みてください。
右手系をなす一つの直交座標を決める。
3つのベクトルを、この座標の成分で表示して、命題6と内積の命題を使えば、左右が等しいことが証明できる。
概略をスケッチしよう。
$ \quad (\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}
=(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x)
\cdot (c_x,c_y,c_z)
=(a_yb_z-a_zb_y)c_x+(a_zb_x-a_xb_z)c_y+(a_xb_y-a_yb_x)c_z$
$ \quad (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$も、これと同じように計算する。
これら両式を整頓すると、同じものであることが分かる。
命題7.
$(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b} =(\vec{b} \times \vec{c})\cdot\vec{a}$
証明
$(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$を証明しよう。
残りも、同様に証明出来るので各自試みてください。
右手系をなす一つの直交座標を決める。
3つのベクトルを、この座標の成分で表示して、命題6と内積の命題を使えば、左右が等しいことが証明できる。
概略をスケッチしよう。
$(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}
=(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x)
\cdot (c_x,c_y,c_z)
=(a_yb_z-a_zb_y)c_x+(a_zb_x-a_xb_z)c_y+(a_xb_y-a_yb_x)c_z$
$ \quad (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$も、これと同じように計算する。
これら両式を整頓すると、同じものであることが分かる。
命題7の証明終わり。
数ベクトル空間${\bf R^n}$
関数の連続性
関数の連続性の定義;
実数値関数 $f(x)$ がある点 $x_0$で連続であるとは、
$x$が$x_0$ に限りなく近づくならば、$f(x)$ が $f(x_0)$ に限りなく近づく
ことを言う。
$\lim_{x\to x_0} f(x) = f(x_0)$と記す。
これはイプシロン-デルタ論法(ε-δ論法)を用いれば次のように定式化できる。
(小さな)正の数 ε が任意に与えられたとき、
(小さな)正の数 δ をうまくとってやれば、
$x_0$ と δ 以内の距離にあるどんな $x$ に対しても、
$f(x)$ と $f(x)$ の差が ε より小さいようにすることができる。
関数 $f(x)$ がある区間$I$ で連続であるとは、
$I$ に属するそれぞれの点において連続であることを言う。
実数値関数とベクトル値関数の微分
このテキストを理解するための必要最小限のことを記述する。
以下の文献も必要に応じて参考にしてください。
一冊では不十分な内容なので色々あげてある。
実数値関数の微分
実数の開区間$I=(a,b)$上で定義された実数値関数$y=f(x)$を考える。
定義;微分可能性
関数$f$が$s\in I$で微分可能であるとは、極限
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f(s)}{h}=c \qquad \qquad (1)$
が存在することである。
この時$c$を$f$の$s$における微分係数あるいは導値といい、
$f'(s)、\frac{df}{dt}(s)、(Df)(s)$
などと書く。
$I=(a,b)$の各点で$f$が微分可能であるとき、$f$は微分可能関数(あるいは
微分可能)という。
この時、任意の$s\in I$に対して、$f'(s)\in I$が定まるので、
関数$f'$が定まる。これを$f$の${\bf 導関数}$(derivative)という。
微分係数の意味
(1)$\frac{f(s+h)-f(s)}{h}$は、区間$[s,s+h]$における関数値の平均変化率である。
その極限である微分係数$f'(s)$は、関数値の$s$における瞬間的な変化率と考えられる。
(2)2次元空間(平面のこと)に直交座標座標系$O-xy$をいれ、
関数$y=f(x)$のグラフ$G=\{(x,y)\mid x\in I,y=f(x)\}$を書く。
すると、
$f'(s)$が存在することは、$x=s$においてグラフ$G$が接線をもつことと同等であり、
接線の方程式は
$y=f'(s)(x-s)+f(s)$である。
これは、接線の定義からただちに分かる。
(3)$h$を零に近づけていったときの極限の意味をさらに深めるため
微分可能の定義を、それと同等の別の表現に変換しよう。
(1)式の右辺の定数を左辺に移行すると
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f(s)-ch}{h}=0$
次に、
$o_{s}(h):=\frac{f(s+h)-f(s)-ch}{h}\qquad \qquad (2)$
という、変数hの関数を定義する。
すると関数$f$が$s\in I$で微分可能で、微分係数が$c$である必要十分条件は
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}o_{s}(h)=0$
である。
(2)式を変形すると
$f(s+h)=f(s)+ch+o_{s}(h)h$
ゆえに次の命題が証明できた。
命題;
次の3つの条件は同等である。
1)関数$f$は$s\in I$で微分可能で、微分係数は$c$である
2)関数$f$は、
$f(s+h)=f(s)+ch+o_{s}(h)h \qquad \qquad (3)$
と表現できる。
ここで、$o_{s}(h)$は
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}o_{s}(h)=0 \qquad \qquad (4)$
を満たす関数
3) 関数$f$は、
$s$の近傍の点$x$で
$f(x)=f(s)+c(x-s)+\left(o_{s}(x-s)\right)(x-s) \qquad \qquad (3)$
ここで、$o_{s}(x-s)$は
$\lim_{x \to s,x\neq s}o_{s}(x-s)=0 \qquad \qquad (4)$
を満たす関数
この定理の3)により、
「関数が$s$で微分可能であり、微分係数がcであること」は、
「この関数が$s$の近傍の点$x$で直線$y=f(s)+c(x-s)$で近似でき、
誤差$|f(x)-(f(s)+c(x-s))|=|\left(o_{s}(x-s)\right)(x-s)| $が,
$x$を$s$に近づけていくとき、$h=x-s$より高次で0に収束する(注参照)
ことと同等であることが分かる。
(注)$\lim_{h\to 0,h\neq 0}\frac{o_{s}(h)h}{h}=0$
命題の系;関数が$s$で微分可能であれば、$s$で連続である。
証明;命題の2)を用いると、
$f(s+h)=f(s)+ch+o_{s}(h)h $
この式から、$|f(s+h)-f(s)|=|(c+o_{s}(h))h|$
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}o_{s}(h)=0$なので$\lim_{h \to 0,h\neq 0}|(c+o_{s}(h))h|=0$。
ゆえに、$\lim_{h \to 0,h\neq 0}|f(s+h)-f(s)|=0$
これは、関数が$s$で連続であることの定義そのものである。
導関数の性質
(1)$f,g$が$I=(a,b)$上で定義された、微分可能な実数値関数ならば
$\alpha f+\beta g$、$fg(s):=f(s)g(s)$は微分可能で
それらの導関数の間には、
$(\alpha f+\beta g )'=\alpha f'+\beta g'$(線形性)ここで$\alpha,\beta$は任意の実数。
(2) $(fg)'=f'g+fg'$
証明は、微分の定義式と極限の性質から容易に導ける。
ベクトル値関数の微分
実数の開区間$I=(a,b)$上で定義され,n次元の実ベクトル($\in {\bf R^n}$)に
値をとる関数$\vec f$を考える。
定義;微分可能性
実数値関数の場合と同じである。
導関数の線形性の性質も成り立つ。
ベクトル値関数の微分とその成分関数の微分の関係
関数値$\vec f(s)$は${\bf R^n}$の要素なので
$\vec f(s)=(f_1(s),f_2(s),\cdots f_n(s))$
と表示できる。
すると$\vec f$のn個の成分関数
$f_i,(i=1,2,\cdots n)$
が得られる。
命題;
$\vec f$が$s\in I$で微分可能$\Leftrightarrow$$f_i(i=1,2,\cdots n)$が$s\in I$で微分可能。
この時、${\vec f}'(s)=({f_1}'(s),{f_2}'(s)\cdots {f_n}'(s))$
ベクトル積の微分
命題
$ \vec{a(t)} $ と $\vec{b(t)} $は、開区間I上で定義され、
微分可能なベクトル値関数とする。すると、
$ \quad \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$ は微分可能で、
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}) =(\frac{d}{dt}\vec{a(t)} )\times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times (\frac{d}{dt}\vec{b(t)})$
証明
すでにこのテキストで紹介した、ベクトル値関数の微分の定義
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)})
=\lim_{\delta t \to 0}
(\vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}- \vec{a(t)} \times \vec{b(t)})/\delta t$ $\qquad $ (1)
を用いて証明する。
この極限が存在し、
$\frac{d}{dt}\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times \frac{d}{dt}\vec{b(t)}$
になることを示せば命題は証明できたことになる。
極限の計算が進むよう、右辺の式の分母は変形しよう。
関数の積の微分公式の証明と同じ技巧を用いる。
$ \vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}
- \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$
$ = \vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}
-\vec a(t)\times \vec{b(t+\delta t)}
+\vec a(t)\times \vec{b(t+\delta t)}
- \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$
ベクトル積の命題3を利用すると、
$ = \left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right)
\times
\vec b\left(t+\delta t\right)
+\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right) $
この式を式(1)の右辺の分子の項に代入し整頓すると
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)})
=\lim_{\delta t \to 0}
\frac{\vec a(t+\delta t)\times \vec b(t+\delta t)- \vec a(t) \times \vec b(t)}
{\delta t}$
$=\lim_{\delta t \to 0}
\frac{\left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right)
\times
\vec b\left(t+\delta t\right)
+\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right) }
{\delta t}
$
ベクトル積の命題4を使い、
$=\lim_{\delta t \to 0}\left(
\frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t}
\times
\vec b\left(t+\delta t\right)
+
\vec a(t)\times \frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)}
{\delta t}
\right)$
極限の命題を使って、
$=\lim_{\delta t \to 0}
\frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t}
\times
\lim_{\delta t \to 0}\vec b(t+\delta t)
+
\vec a(t)\times
\lim_{\delta t \to 0}\frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)}{\delta t}
$
式中の極限は、$\vec a,\vec b$が、微分可能なので存在し、
$\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t}
=\frac{d\vec a(t)}{dt}$
$\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec b(t+\delta t) -\vec b(t)}{\delta t}
=\frac{d\vec b(t)}{dt}$
$C^{1}$級の関数
$I=(a,b)$上の関数 $f$ が連続的微分可能(continuously differentiable)であるとは,
$I$上で導関数 $f'$ が存在して、しかも$f'$ が$I$上で連続であることをいう。
$I=(a,b)$上で連続的微分可能である関数を$C^{1}$級関数という。
多変数の実数値関数の微分
${\bf R^n}=\{(x_1,x_2,,,x_n) \mid x_i\in{\bf R},i=1,2,\cdots n\}$
の開区間
$I^n=\prod_{i=1}^{n}(a_i,b_i)$上で定義された実関数$y=f(x_1,x_2,,,x_n)$
を考える。
一変数関数の議論から類推しやすくするため、以後
${\bf x}:=(x_1,x_2,,,x_n)$とおき、$y=f({\bf x})$と書くこともある。
この上で定義された実数値関数$y=f({\bf x})=f(x_1,x_2,,,x_n)$の微分について説明する。
最初に思いつくのは、一変数のときと同じ定義をもちいることであり
$\lim_{{\bf h} \to 0,{\bf h}\neq 0}\frac{f({\bf s}+{\bf h})-f({\bf s})}{{\bf h} }=c$
が存在するときsで微分可能と定義すること。
しかし、
${\bf h}$はn次元ベクトルなので割り算は不可能。
方向微分と偏微分
そこで、${\bf h_0}\in {\bf R^n}$を用いて、
微分(全微分)
定義1;微分可能(全微分可能ともいう)、導値(微分係数)、導関数
定理1;
微分可能ならば、偏微分可能
定理2
$C^{1}$級の関数は微分可能