物理/物理数学(1) ベクトル・ベクトル空間と解析学
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==三角関数の加法定理 == | ==三角関数の加法定理 == | ||
- | + | == ベクトルの内積、ノルムと行列、ベクトル空間== | |
- | + | ベクトルの内積とノルム、行列、ベクトル空間は物理学で良くつかわれるので簡単に紹介する。<br/> | |
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以下では、<br/> | 以下では、<br/> | ||
$\vec a,\vec b,\vec c$は、すべて同じ次元(2か3)のベクトルとし、 $\alpha$は実数とする。<br/> | $\vec a,\vec b,\vec c$は、すべて同じ次元(2か3)のベクトルとし、 $\alpha$は実数とする。<br/> | ||
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座標成分表示が必要な命題では、直交座標系表示を用いる。<br/> | 座標成分表示が必要な命題では、直交座標系表示を用いる。<br/> | ||
(注)n次元(>3)も含めた一般のn次元ベクトルの内積は、後述の命題2 | (注)n次元(>3)も含めた一般のn次元ベクトルの内積は、後述の命題2 | ||
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===ノルムと内積の定義=== | ===ノルムと内積の定義=== | ||
ベクトル$\vec a$のノルムとは、<br/> | ベクトル$\vec a$のノルムとは、<br/> | ||
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両辺の平方根をとれば所要の不等式を得る。<br/> | 両辺の平方根をとれば所要の不等式を得る。<br/> | ||
- | == ベクトル積 == | + | === ベクトル積 === |
- | + | 本項の全ての命題で、<br/> | |
$ \vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$は3次元ベクトル<br/> | $ \vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$は3次元ベクトル<br/> | ||
$\alpha$を実数とする。<br/><br/> | $\alpha$を実数とする。<br/><br/> | ||
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$ \quad (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$も、これと同じように計算する。<br/>これら両式を整頓すると、同じものであることが分かる。<br/> | $ \quad (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$も、これと同じように計算する。<br/>これら両式を整頓すると、同じものであることが分かる。<br/> | ||
命題7の証明終わり。<br/> | 命題7の証明終わり。<br/> | ||
- | ==数ベクトル空間${\bf R^n}$ == | + | |
+ | ===行列と行列式 === | ||
+ | ===数ベクトル空間${\bf R^n}$ === | ||
[[wikipedia_ja:数ベクトル空間 |ウィキペディア(数ベクトル空間)]] | [[wikipedia_ja:数ベクトル空間 |ウィキペディア(数ベクトル空間)]] | ||
- | == 関数の連続性 | + | |
+ | == 解析学入門== | ||
+ | 一変数関数の解析学を紹介する。 | ||
+ | 多変数関数の解析学については「9章 物理数学2」で紹介する。 | ||
+ | ===実数の連続性と極限 === | ||
+ | 実数の連続性は、色々な極限の存在の根拠を与えるもので、<br/> | ||
+ | 実数の持つ最も重要な性質の一つである。 | ||
+ | ====上界、下界と有界集合==== | ||
+ | ${\bf R}$を、全ての実数を要素とする集合とし、<br/> | ||
+ | $A$をその部分集合とする。<br/> | ||
+ | 実数$u$が$A$の'''上界'''(upper bound)とは、<br/> | ||
+ | 任意の$a \in A$に対して、$a \leq u$がなりたつこと。<br/> | ||
+ | 実数$l$が$A$の'''下界'''(lower bound)とは、<br/> | ||
+ | 任意の$a \in A$に対して、$l \leq a$がなりたつこと。<br/> | ||
+ | $U_A$を$A$の上界をすべて集めた集合、<br/> | ||
+ | $L_A$を$A$の上界をすべて集めた集合とする。<br/> | ||
+ | $U_A$が空集合$\emptyset$でない(すなわち、$A$の上界が少なくとも一つ存在する)とき、<br/> | ||
+ | $A$は'''上に有界'''であるといい、<br/> | ||
+ | $L_A\neq \emptyset$の時、$A$は'''下に有界'''であるという。<br/> | ||
+ | 上に有界で、下にも有界な集合($\subset {\bf R})$は、'''有界'''という。 | ||
+ | |||
+ | ====実数の連続の公理と上限、下限==== | ||
+ | $A \subset {\bf R}$とする。<br/> | ||
+ | 実数の連続性の公理<br/> | ||
+ | もし、$U_A \neq \emptyset$ならば、$U_A$は、最小元を持つ。<br/> | ||
+ | もし、$L_A \neq \emptyset$ならば、$L_A$は、最大元を持つ。<br/><br/> | ||
+ | 上限と下限の定義<br/> | ||
+ | $U_A$の最小元を$A$の'''上限(supremum)'''あるいは'''最小上界(least upper bound)'''という。<br/> | ||
+ | また、$L_A$の最大元を$A$の'''下限(infimum)'''あるいは'''最大下界(greatest lower bound)'''という。<br/><br/> | ||
+ | |||
+ | 命題1<br/> | ||
+ | $u$が$A(\subset {\bf R})$ の上限となるための必要十分条件は、<br/> | ||
+ | ⅰ)$u$は$A$の上界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$a \leq u$ <br/> | ||
+ | ⅱ)$x<u$である任意の$x$は$A$の上界ではない。すなわち、$x<a$となる$a\in A$が存在。<br/> | ||
+ | ⅲ)$A$が最大値を持つ場合には、上限は最大値と一致する。<br/> | ||
+ | 同様に、$l$が$A$ の下限となるための必要十分条件は、<br/> | ||
+ | ⅰ)$l$は$A$の下界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$l\leq a$ <br/> | ||
+ | ⅱ)$l<x$である任意の$x$は$A$の下界ではない。すなわち、$a<x$となる$a\in A$が存在。<br/> | ||
+ | ⅲ)$A$が最小値を持つ場合には、下限は最小値と一致する。<br/><br/> | ||
+ | $A$ の上限を$\sup A$、下限を$\inf A$と書く。<br/><br/> | ||
+ | 証明は、上限、下限の定義から、明らかなので省略する。<br/> | ||
+ | 例;$A=(0,1)$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。<br/> | ||
+ | これらは、ともに$A$の要素でないので、<br/> | ||
+ | 上限1は$A$の最大元(最大値)ではなく、下限0は$A$の最小元(最小値)ではない。<br/> | ||
+ | $A=[0,1]$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。<br/> | ||
+ | これらは、ともに$A$の要素なので、<br/> | ||
+ | 上限は最大限であり、下限は最小限となる。<br/> | ||
+ | |||
+ | 命題2<br/> | ||
+ | $A \subset B \subset {\bf R}$で、$B$は有界集合とする。<br/> | ||
+ | このとき、$\inf B \leq \inf A \leq \sup A \leq \sup B$<br/> | ||
+ | 証明は容易である。<br/><br/> | ||
+ | |||
+ | 関数$y=f(x)$が連続でない時は、区間上で最大値や最小値を取らないことがある。<br/> | ||
+ | この場合も考慮して、最大値を上限に、最小値を下限に置き換えて、<br/> | ||
+ | $m(f;V_i)=\inf\{f(x)\mid x\in V_i\},M(f;V_i)=\sup \{f(x)\mid x\in V_i\}$で定義すれば、<br/> | ||
+ | 有界関数に対して、これらは常に定義され、今までの議論はすべて成り立つ。 | ||
+ | |||
+ | ====実数列の極限 ==== | ||
+ | *[[wikipedia_ja:極限 |ウィキペディア(極限)]] | ||
+ | ===== 極限の性質===== | ||
+ | |||
+ | === 関数の連続性 === | ||
関数の連続性の定義;<br/> | 関数の連続性の定義;<br/> | ||
実数値関数 $f(x)$ がある点''' $x_0$で連続'''であるとは、<br/> | 実数値関数 $f(x)$ がある点''' $x_0$で連続'''であるとは、<br/> | ||
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$I$ に属するそれぞれの点において連続であることを言う。<br/> | $I$ に属するそれぞれの点において連続であることを言う。<br/> | ||
- | == | + | === 一変数の実数値関数とベクトル値関数の微分 === |
このテキストを理解するための必要最小限のことを記述する。<br/> | このテキストを理解するための必要最小限のことを記述する。<br/> | ||
以下の文献も必要に応じて参考にしてください。<br/> | 以下の文献も必要に応じて参考にしてください。<br/> | ||
344 行: | 348 行: | ||
*[[wikibooks_ja:物理数学I ベクトル解析|ウィキブックス(物理数学I ベクトル解析)]] | *[[wikibooks_ja:物理数学I ベクトル解析|ウィキブックス(物理数学I ベクトル解析)]] | ||
- | === 実数値関数の微分 | + | ==== 実数値関数の微分 ==== |
実数の開区間$I=(a,b)$上で定義された実数値関数$y=f(x)$を考える。<br/> | 実数の開区間$I=(a,b)$上で定義された実数値関数$y=f(x)$を考える。<br/> | ||
定義;微分可能性<br/> | 定義;微分可能性<br/> | ||
359 行: | 363 行: | ||
- | ==== 微分係数の意味 | + | ===== 微分係数の意味 ===== |
(1)$\frac{f(s+h)-f(s)}{h}$は、区間$[s,s+h]$における関数値の平均変化率である。<br/> | (1)$\frac{f(s+h)-f(s)}{h}$は、区間$[s,s+h]$における関数値の平均変化率である。<br/> | ||
その極限である微分係数$f'(s)$は、関数値の$s$における瞬間的な変化率と考えられる。<br/> | その極限である微分係数$f'(s)$は、関数値の$s$における瞬間的な変化率と考えられる。<br/> | ||
412 行: | 416 行: | ||
ゆえに、$\lim_{h \to 0,h\neq 0}|f(s+h)-f(s)|=0$<br/> | ゆえに、$\lim_{h \to 0,h\neq 0}|f(s+h)-f(s)|=0$<br/> | ||
これは、関数が$s$で連続であることの定義そのものである。 | これは、関数が$s$で連続であることの定義そのものである。 | ||
- | ====導関数の性質==== | + | =====導関数の性質===== |
(1)$f,g$が$I=(a,b)$上で定義された、微分可能な実数値関数ならば<br/> | (1)$f,g$が$I=(a,b)$上で定義された、微分可能な実数値関数ならば<br/> | ||
$\alpha f+\beta g$、$fg(s):=f(s)g(s)$は微分可能で<br/> | $\alpha f+\beta g$、$fg(s):=f(s)g(s)$は微分可能で<br/> | ||
419 行: | 423 行: | ||
(2) $(fg)'=f'g+fg'$<br/> | (2) $(fg)'=f'g+fg'$<br/> | ||
証明は、微分の定義式と極限の性質から容易に導ける。 | 証明は、微分の定義式と極限の性質から容易に導ける。 | ||
- | ===ベクトル値関数の微分=== | + | ====ベクトル値関数の微分==== |
実数の開区間$I=(a,b)$上で定義され,n次元の実ベクトル($\in {\bf R^n}$)に | 実数の開区間$I=(a,b)$上で定義され,n次元の実ベクトル($\in {\bf R^n}$)に | ||
値をとる関数$\vec f$を考える。<br/> | 値をとる関数$\vec f$を考える。<br/> | ||
426 行: | 430 行: | ||
導関数の線形性の性質も成り立つ。<br/> | 導関数の線形性の性質も成り立つ。<br/> | ||
- | ==== ベクトル値関数の微分とその成分関数の微分の関係==== | + | ===== ベクトル値関数の微分とその成分関数の微分の関係===== |
関数値$\vec f(s)$は${\bf R^n}$の要素なので<br/> | 関数値$\vec f(s)$は${\bf R^n}$の要素なので<br/> | ||
$\vec f(s)=(f_1(s),f_2(s),\cdots f_n(s))$<br/> | $\vec f(s)=(f_1(s),f_2(s),\cdots f_n(s))$<br/> | ||
437 行: | 441 行: | ||
この時、${\vec f}'(s)=({f_1}'(s),{f_2}'(s)\cdots {f_n}'(s))$<br/> | この時、${\vec f}'(s)=({f_1}'(s),{f_2}'(s)\cdots {f_n}'(s))$<br/> | ||
- | ====ベクトル積の微分 | + | =====ベクトル積の微分 ===== |
命題<br/> | 命題<br/> | ||
$ \vec{a(t)} $ と $\vec{b(t)} $は、開区間I上で定義され、 | $ \vec{a(t)} $ と $\vec{b(t)} $は、開区間I上で定義され、 | ||
501 行: | 505 行: | ||
$\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec b(t+\delta t) -\vec b(t)}{\delta t} | $\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec b(t+\delta t) -\vec b(t)}{\delta t} | ||
=\frac{d\vec b(t)}{dt}$ | =\frac{d\vec b(t)}{dt}$ | ||
- | ==== $C^{1}$級の関数==== | + | ===== $C^{1}$級の関数===== |
$I=(a,b)$上の関数 $f$ が連続的微分可能(continuously differentiable)であるとは,<br/> | $I=(a,b)$上の関数 $f$ が連続的微分可能(continuously differentiable)であるとは,<br/> | ||
$I$上で導関数 $f'$ が存在して、しかも$f'$ が$I$上で連続であることをいう。<br/> | $I$上で導関数 $f'$ が存在して、しかも$f'$ が$I$上で連続であることをいう。<br/> | ||
507 行: | 511 行: | ||
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==リーマン積分と可積分条件== | ==リーマン積分と可積分条件== |
2016年11月16日 (水) 15:32時点における版
目次 |
物理数学
本テキストで使う数学について、紹介する。
集合
集合論の初歩の知識は前提にして記述するので、
なじみのない方は、下記を参考に、
集合の素朴な定義、集合の表記法、集合の和集合や共通集合、集合の包含関係
などについて学習してほしい。
三角関数の加法定理
ベクトルの内積、ノルムと行列、ベクトル空間
ベクトルの内積とノルム、行列、ベクトル空間は物理学で良くつかわれるので簡単に紹介する。
以下では、
$\vec a,\vec b,\vec c$は、すべて同じ次元(2か3)のベクトルとし、 $\alpha$は実数とする。
なお、全ての命題は、4次元以上のベクトルに対しても成り立つが省略する(注参照)。
座標成分表示が必要な命題では、直交座標系表示を用いる。
(注)n次元(>3)も含めた一般のn次元ベクトルの内積は、後述の命題2
ノルムと内積の定義
ベクトル$\vec a$のノルムとは、
$\|\vec a\|:=\sqrt{\sum_{i}a_{i}^2}$のことで、
ベクトルの長さ(大きさ)を表す。
ベクトル$\vec a,\vec b$の内積とは
$ \vec a \cdot \vec b:=\|\vec{a}\|\|\vec{b}\|\cos\theta$
ここで、$\theta$は、ベクトル$\vec a,\vec b$のなす角($0\le \theta \le \pi$ )である。
この定義から、
$\vec a \cdot \vec a=\|\vec{a}\|^2 $
であることが分かる。
内積とノルムの性質
命題1
$\vec a \cdot \vec b =\vec b \cdot \vec a$
証明;内積の定義から明らか。
命題2
$\vec a \cdot \vec b =\sum_{i}a_ib_i$
ここで$a_1,b_1$はそれぞれ$\vec a,\vec b$のx座標成分、同様に、添え字2はy座標成分、3はz座標成分
直交座標系はどんなものでも良い。しかしすべてのベクトルは同じ座標系で座標成分表示しなければならない。
証明
次の三角形の余弦定理を利用する。
三角形の第2余弦定理;
図のような$\triangle {ABC}$を考える。
頂点A,B,Cの対辺の長さをそれぞれ$a,b,c$とし、$\angle{ACB}=\theta$とする。
すると、$c^2=a^2+b^2-2ab\cos\theta$
余弦定理の証明;頂点$A$から対辺$BC$におろした垂線の足を$H$とする。
ピタゴラスの定理により、
$c^2=\overline{BH}^2+\overline{AH}^2$。$\qquad$ 右辺の第2項に、再び、ピタゴラスの定理を適用して、
$=\overline{BH}^2+(b^2-\overline{CH}^2)$ $\qquad$ $\overline{BH}=a-\overline{CH}$を代入すると、
$=(a-\overline{CH})^2+(b^2-\overline{CH}^2)=a^2+b^2-2a\overline{CH}$,$\quad$ $\overline{CH}=b\cos\theta$なので、代入すると
$=a^2+b^2-2ab\cos\theta$
証明終わり。
命題2の証明
ベクトル$\vec a $と$\vec b $を、
始点が点$C$である有向線分で表現し、その終点を$B$,$C$で表す。
すると$\vec a=\vec{CB}$, $\vec b=\vec{CA}$である。
ベクトル$\vec c=\vec a-\vec b$を導入すると、
$\vec c=\vec a-\vec b=\vec{CB}-\vec{CA}=\vec{CB}+\vec{AC}=\vec{AB}$
3角形$\triangle {ABC}$を考え、第2余弦定理を適用しよう。
$\angle{ACB}=\theta$とおく。すると、
$\|\vec c\|^2=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\|\vec a\|\|\vec b\|\cos{\theta}$
$=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\vec a \cdot \vec b$が得られる。
この式を変形して$\vec a \cdot \vec b$だけを左辺に置くと、
$\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec c\|^2)/2$ 。
$\vec c=\vec{AB}=\vec{AC}+\vec{CB}=-\vec b+\vec a$なので、
$\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec a-\vec b\|^2)/2 $
この右辺を、ベクトルの直交座標成分で表すと、次式が得られる。
$\vec a \cdot \vec b=(\sum_{i}a_i^2+\sum_{i}b_i^2-\sum_{i}(a_i-b_i)^2 )/2 $
$=\sum_{i}a_i b_i$
命題2の証明終わり。
命題3
$(\vec a +\vec b) \cdot \vec c =\vec a \cdot \vec c+\vec b \cdot \vec c$
証明
ある一つの直交座標系をさだめ、両辺を、命題(2)を利用して、座標成分であらわす。両辺が等しいことが分かる。
系; $\vec a \cdot (\vec b+\vec c) =\vec a \cdot \vec b+\vec a \cdot \vec c$
証明;命題1を利用して、左辺の項の順番を入れ替え、命題3を適用し、再び命題1を用いればよい。
命題4
$(\alpha \vec a)\cdot \vec b =\vec a \cdot (\alpha \vec b)=\alpha (\vec a \cdot \vec b)$
が成り立つ。
証明
同様に、3つの式を、座標成分表示すれば、みな等しいことが、簡単に分かる。
命題5
$\|\vec a \cdot \vec b\| \leq \|\vec a\|\|\vec b\|$
$0\leq |\cos\theta|\leq 1$なので内積の定義から、ただちに分かる。
命題6 ノルムの三角不等式
$\|\vec a + \vec b\| \leq \|\vec a\| + \|\vec b\|$
証明
$\|\vec a + \vec b\|^2=(\vec a + \vec b)\cdot (\vec a + \vec b)$
命題3を使って計算すると、
$=\vec a \cdot \vec a +\vec b \cdot \vec b +2\vec a \cdot \vec b$
命題5より、
$\leq \vec a \cdot \vec a +\vec b \cdot \vec b +2\|\vec a\|\|\vec b\|
=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2+2\|\vec a\|\|\vec b\|=(\|\vec a\|+\|\vec b\|)^2$
故に$\|\vec a + \vec b\|^2 \leq (\|\vec a\|+\|\vec b\|)^2$
両辺の平方根をとれば所要の不等式を得る。
ベクトル積
本項の全ての命題で、
$ \vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$は3次元ベクトル
$\alpha$を実数とする。
命題1. $ \quad \vec{a} $ を, $\vec{c} $と垂直な成分$ \vec{a_\perp}$ と,平行な成分$\vec{a_\parallel}$ の和に分解するとき、
$\quad \vec{a} \times \vec{c}= \vec{a_\perp} \times \vec{c}$
$\quad \vec{a_\parallel} \times \vec{c}= 0$
証明;ベクトル積の定義から、容易に示せる。
2つのベクトルの作る平行四辺形の面積と方向・向きを考えれば良い。
命題2.$ \quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}$
証明;2つのベクトルを入れ替えても、それらが作る平行四辺形の面積は変わらず、この四辺形に直交する直線の方向も変わらない。
しかし、ベクトル積の向きは、逆向きになる。
ベクトル積の定義から、$\quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}$ が示せた。
命題3
$(\alpha\vec{a})\times \vec{b}= \alpha(\vec{a} \times \vec{b})= \vec{a}\times (\alpha\vec{b})$
証明;実数$\alpha$ が正、零、負の場合に分けて考える。
いずれの場合にも,
ベクトル積の定義とベクトルと実数の積の命題から、容易に証明できる。
命題4.$ \quad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}$
証明;
この証明には少し工夫が必要である。
ベクトル積の命題の中でも、もっとも大切なものなので、詳しく説明しよう。
① $ \vec{a}, \vec{b}$ と$\quad \vec{c}\quad$ が直交する場合。図参照のこと
・議論をやさしくするため、ベクトルを、空間の原点$O$ を始点とする有向線分で代表させる。
・$ \vec{c}$ と直交し$O$ を通る平面を$H$とする。
・仮定より$ \vec{a},\quad \vec{b}$は、ともに平面$H$上のベクトルである。
・$\vec{a} \times \vec{c} ,\quad \vec{b} \times \vec{c}$も、
ベクトル積の定義により、共に$ \vec{c}$ と直交するので、$H$上のベクトルである。
これら四つのベクトルはすべて平面$H$上にあるので、今後の議論はこの平面上で進める。
ⅰ)$\vec{a} \times \vec{c}, \vec{b} \times \vec{c}$ の張る平行四辺形は,
$\vec{a}, \vec{b}$の張る平行四辺形を、$\| \vec{c}\|$倍し,原点周りに90度回転したものになることを、示そう。
・$\vec{a} \times \vec{c} $は、ベクトル積の定義から、$ \vec{a}$ と直交する。
そのため、$\vec{a}$ を平面$H$上で、原点まわりに、90度右回りか、左回りすれば、方向と向きが一致する。
・$\vec{b} \times \vec{c} $も、同様に考え、$\vec{b}$ を平面$H$上で、原点まわりに、90度右回りか、左回りすれば、方向と向きが一致することが分かる。
・どちら周りの回転になるかは、ベクトル積の定義によって決まるが、
後者の回転の向きが、前者の回転の向きと一致することが分かる。
・$\vec{a}\times \vec{c}$ の大きさは、
$\|\vec{a}\times \vec{c}\|=\|\vec{a}\|\|\vec{c}\|\cos(\pi/2)=\|\vec{a}\|\|\vec{c}\|$ なので、$\vec{a}$ の大きさの$\|\vec{c}\|$倍になる。
同様に、$\vec{b}\times \vec{c}$ の大きさは、$\vec{a}$ の大きさの$\|\vec{c}\|$倍になる。
・以上の結果より、所望の結果は示された。
ⅱ)$ \qquad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}$を示そう。
・ ⅰ)と同じ議論により、
$(\vec{a}+ \vec{b}) \times \vec{c}$は$\vec{a}, \vec{b}$の張る平行四辺形の対角線を、原点周りに90度、同じ向きに回転させ、$\|\vec{c}\|$倍させたものであることが分かる。
・すると、ⅰ)で示したことから、$(\vec{a}+ \vec{b}) \times \vec{c}$は
$\vec{a} \times \vec{c}, \vec{b} \times \vec{c}$ の張る平行四辺形の対角線$\vec{a} \times \vec{c}+\vec{b} \times \vec{c}$ に等しいことが分かる。
・以上で①が示せた。
② 一般の場合。
命題1より、$\perp$ を$\vec{c}$と垂直な成分を表すとすると、 $ (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= (\vec{a}+ \vec{b})_\perp \times \vec{c} \qquad \qquad \qquad $(1)
$(\vec{a}+ \vec{b})_\perp =\vec{a}_\perp +\vec{b}_\perp$なので、(1)式は、
$ = (\vec{a}_\perp +\vec{b}_\perp) \times \vec{c}$
①より、
$ = \vec{a}_\perp \times \vec{c}+\vec{b}_\perp\times \vec{c}=\vec{a} \times \vec{c}+\vec{b} \vec{c}$ $ \qquad $ 命題4の証明終わり。
命題4の系
$ \quad \vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= \vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c}$
$ \quad (\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}$
証明;
命題2より、
$\vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= -\left((\vec{b}+ \vec{c})\times \vec{a}\right) $ 命題3から
$=\left(-(\vec{b}+ \vec{c})\right)\times \vec{a}$
命題4より、
$= -(\vec{b} \times \vec{a}+ \vec{c} \times \vec{a})$
再び命題2より、
$=\vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c} \quad $前半の証明終わり
命題2より、
$ (\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=(\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{d}+\vec{c})\times \vec{d}$
再び命題2より、
$ =\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}$
$\quad$証明終わり。
命題5.$\quad (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3})$ を
それぞれ大きさ(長さ)1で互いに直交し、右手系をなす、ベクトル(右手系をなす正規直交基底)とする。
この時、
$ \quad \vec{e_1} \times \vec{e_2} = \vec{e_3}, \quad
\vec{e_2} \times \vec{e_3} = \vec{e_1}, \quad
\vec{e_3} \times \vec{e_1} = \vec{e_2}$
証明;ベクトル積と$(e_1,e_2,e_3)$ の定義から明らかである。
命題6.ベクトル$\vec a, \vec b$を,命題5で用いた基底$ (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3})$ で決まる座標の座標成分で表示しておく。
すると$\vec a \times \vec b=(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x)$
証明;$\vec a=a_x\vec{e_x}+a_y\vec{e_y}+a_z\vec{e_z}$,
$\vec b=b_x\vec{e_x}+b_y\vec{e_y}+b_z\vec{e_z}$と表せるので、
$\vec a \times \vec b=(a_x\vec{e_x}+a_y\vec{e_y}+a_z\vec{e_z})\times \vec b$
命題3の系から
$=a_x\vec{e_x}\times \vec b
+a_y\vec{e_y}\times \vec b
+a_z\vec{e_z}\times \vec b$ $\qquad$ (1)
式(1)の第1項
$a_x\vec{e_x}\times \vec b$
に
$\vec b=b_x\vec{e_x}+b_y\vec{e_y}+b_z\vec{e_z}$
を代入して、命題3の系を使って変形すると、
$a_x\vec{e_x}\times \vec b
=a_x\vec{e_x}\times b_x\vec{e_x}
+a_x\vec{e_x}\times b_y\vec{e_y}
+a_x\vec{e_x}\times b_z\vec{e_z}$ $\qquad$ (2)
命題4と命題5を使うと、
$a_x\vec{e_x}\times b_x\vec{e_x}
=a_x b_x\vec{e_x}\times \vec{e_x}
=\vec 0$ 。
同様の計算を行うと、
$a_x\vec{e_x}\times b_y\vec{e_y}
=a_x b_y\vec{e_x}\times \vec{e_y}
=a_x b_y\vec{e_z}$
$a_x\vec{e_x}\times b_z\vec{e_z}
=a_x b_z\vec{e_x}\times \vec{e_z}
=-a_x b_z\vec{e_y}$
式(2)にこれらを代入して、
$a_x\vec{e_x}\times \vec b
=a_x b_y\vec{e_z} - a_x b_z\vec{e_y} $ $\qquad$ (3)
式(1)の第2項、第3項も同様に計算すると、
$a_y\vec{e_y}\times \vec b
=a_y b_z\vec{e_x} - a_y b_x\vec{e_z} $ $\qquad$ (4)
$a_z\vec{e_z}\times \vec b
=a_z b_x\vec{e_y} - a_z b_y\vec{e_x} $ $\qquad$ (5)
式(3),(4),(5) を、式 (1)に代入すると、
$\vec a \times \vec b
=a_x b_y\vec{e_z} - a_x b_z\vec{e_y}
+a_y b_z\vec{e_x} - a_y b_x\vec{e_z}
+a_z b_x\vec{e_y} - a_z b_y\vec{e_x}$
$ =(a_y b_z - a_z b_y)\vec{e_x}
+(a_z b_x - a_x b_z)\vec{e_y}
+(a_x b_y - a_y b_x)\vec{e_z}$
命題6の証明終わり。
命題7の証明;
$ \quad (\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$を証明しよう。
残りも、同様に証明出来るので各自試みてください。
右手系をなす一つの直交座標を決める。
3つのベクトルを、この座標の成分で表示して、命題6と内積の命題を使えば、左右が等しいことが証明できる。
概略をスケッチしよう。
$ \quad (\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}
=(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x)
\cdot (c_x,c_y,c_z)
=(a_yb_z-a_zb_y)c_x+(a_zb_x-a_xb_z)c_y+(a_xb_y-a_yb_x)c_z$
$ \quad (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$も、これと同じように計算する。
これら両式を整頓すると、同じものであることが分かる。
命題7.
$(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b} =(\vec{b} \times \vec{c})\cdot\vec{a}$
証明
$(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$を証明しよう。
残りも、同様に証明出来るので各自試みてください。
右手系をなす一つの直交座標を決める。
3つのベクトルを、この座標の成分で表示して、命題6と内積の命題を使えば、左右が等しいことが証明できる。
概略をスケッチしよう。
$(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}
=(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x)
\cdot (c_x,c_y,c_z)
=(a_yb_z-a_zb_y)c_x+(a_zb_x-a_xb_z)c_y+(a_xb_y-a_yb_x)c_z$
$ \quad (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$も、これと同じように計算する。
これら両式を整頓すると、同じものであることが分かる。
命題7の証明終わり。
行列と行列式
数ベクトル空間${\bf R^n}$
解析学入門
一変数関数の解析学を紹介する。 多変数関数の解析学については「9章 物理数学2」で紹介する。
実数の連続性と極限
実数の連続性は、色々な極限の存在の根拠を与えるもので、
実数の持つ最も重要な性質の一つである。
上界、下界と有界集合
${\bf R}$を、全ての実数を要素とする集合とし、
$A$をその部分集合とする。
実数$u$が$A$の上界(upper bound)とは、
任意の$a \in A$に対して、$a \leq u$がなりたつこと。
実数$l$が$A$の下界(lower bound)とは、
任意の$a \in A$に対して、$l \leq a$がなりたつこと。
$U_A$を$A$の上界をすべて集めた集合、
$L_A$を$A$の上界をすべて集めた集合とする。
$U_A$が空集合$\emptyset$でない(すなわち、$A$の上界が少なくとも一つ存在する)とき、
$A$は上に有界であるといい、
$L_A\neq \emptyset$の時、$A$は下に有界であるという。
上に有界で、下にも有界な集合($\subset {\bf R})$は、有界という。
実数の連続の公理と上限、下限
$A \subset {\bf R}$とする。
実数の連続性の公理
もし、$U_A \neq \emptyset$ならば、$U_A$は、最小元を持つ。
もし、$L_A \neq \emptyset$ならば、$L_A$は、最大元を持つ。
上限と下限の定義
$U_A$の最小元を$A$の上限(supremum)あるいは最小上界(least upper bound)という。
また、$L_A$の最大元を$A$の下限(infimum)あるいは最大下界(greatest lower bound)という。
命題1
$u$が$A(\subset {\bf R})$ の上限となるための必要十分条件は、
ⅰ)$u$は$A$の上界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$a \leq u$
ⅱ)$x<u$である任意の$x$は$A$の上界ではない。すなわち、$x<a$となる$a\in A$が存在。
ⅲ)$A$が最大値を持つ場合には、上限は最大値と一致する。
同様に、$l$が$A$ の下限となるための必要十分条件は、
ⅰ)$l$は$A$の下界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$l\leq a$
ⅱ)$l<x$である任意の$x$は$A$の下界ではない。すなわち、$a<x$となる$a\in A$が存在。
ⅲ)$A$が最小値を持つ場合には、下限は最小値と一致する。
$A$ の上限を$\sup A$、下限を$\inf A$と書く。
証明は、上限、下限の定義から、明らかなので省略する。
例;$A=(0,1)$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。
これらは、ともに$A$の要素でないので、
上限1は$A$の最大元(最大値)ではなく、下限0は$A$の最小元(最小値)ではない。
$A=[0,1]$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。
これらは、ともに$A$の要素なので、
上限は最大限であり、下限は最小限となる。
命題2
$A \subset B \subset {\bf R}$で、$B$は有界集合とする。
このとき、$\inf B \leq \inf A \leq \sup A \leq \sup B$
証明は容易である。
関数$y=f(x)$が連続でない時は、区間上で最大値や最小値を取らないことがある。
この場合も考慮して、最大値を上限に、最小値を下限に置き換えて、
$m(f;V_i)=\inf\{f(x)\mid x\in V_i\},M(f;V_i)=\sup \{f(x)\mid x\in V_i\}$で定義すれば、
有界関数に対して、これらは常に定義され、今までの議論はすべて成り立つ。
実数列の極限
極限の性質
関数の連続性
関数の連続性の定義;
実数値関数 $f(x)$ がある点 $x_0$で連続であるとは、
$x$が$x_0$ に限りなく近づくならば、$f(x)$ が $f(x_0)$ に限りなく近づく
ことを言う。
$\lim_{x\to x_0} f(x) = f(x_0)$と記す。
これはイプシロン-デルタ論法(ε-δ論法)を用いれば次のように定式化できる。
(小さな)正の数 ε が任意に与えられたとき、
(小さな)正の数 δ をうまくとってやれば、
$x_0$ と δ 以内の距離にあるどんな $x$ に対しても、
$f(x)$ と $f(x)$ の差が ε より小さいようにすることができる。
関数 $f(x)$ がある区間$I$ で連続であるとは、
$I$ に属するそれぞれの点において連続であることを言う。
一変数の実数値関数とベクトル値関数の微分
このテキストを理解するための必要最小限のことを記述する。
以下の文献も必要に応じて参考にしてください。
一冊では不十分な内容なので色々あげてある。
実数値関数の微分
実数の開区間$I=(a,b)$上で定義された実数値関数$y=f(x)$を考える。
定義;微分可能性
関数$f$が$s\in I$で微分可能であるとは、極限
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f(s)}{h}=c \qquad \qquad (1)$
が存在することである。
この時$c$を$f$の$s$における微分係数あるいは導値といい、
$f'(s)、\frac{df}{dt}(s)、(Df)(s)$
などと書く。
$I=(a,b)$の各点で$f$が微分可能であるとき、$f$は微分可能関数(あるいは
微分可能)という。
この時、任意の$s\in I$に対して、$f'(s)\in I$が定まるので、
関数$f'$が定まる。これを$f$の${\bf 導関数}$(derivative)という。
微分係数の意味
(1)$\frac{f(s+h)-f(s)}{h}$は、区間$[s,s+h]$における関数値の平均変化率である。
その極限である微分係数$f'(s)$は、関数値の$s$における瞬間的な変化率と考えられる。
(2)2次元空間(平面のこと)に直交座標座標系$O-xy$をいれ、
関数$y=f(x)$のグラフ$G=\{(x,y)\mid x\in I,y=f(x)\}$を書く。
すると、
$f'(s)$が存在することは、$x=s$においてグラフ$G$が接線をもつことと同等であり、
接線の方程式は
$y=f'(s)(x-s)+f(s)$である。
これは、接線の定義からただちに分かる。
(3)$h$を零に近づけていったときの極限の意味をさらに深めるため
微分可能の定義を、それと同等の別の表現に変換しよう。
(1)式の右辺の定数を左辺に移行すると
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f(s)-ch}{h}=0$
次に、
$o_{s}(h):=\frac{f(s+h)-f(s)-ch}{h}\qquad \qquad (2)$
という、変数hの関数を定義する。
すると関数$f$が$s\in I$で微分可能で、微分係数が$c$である必要十分条件は
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}o_{s}(h)=0$
である。
(2)式を変形すると
$f(s+h)=f(s)+ch+o_{s}(h)h$
ゆえに次の命題が証明できた。
命題;
次の3つの条件は同等である。
1)関数$f$は$s\in I$で微分可能で、微分係数は$c$である
2)関数$f$は、
$f(s+h)=f(s)+ch+o_{s}(h)h \qquad \qquad (3)$
と表現できる。
ここで、$o_{s}(h)$は
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}o_{s}(h)=0 \qquad \qquad (4)$
を満たす関数
3) 関数$f$は、
$s$の近傍の点$x$で
$f(x)=f(s)+c(x-s)+\left(o_{s}(x-s)\right)(x-s) \qquad \qquad (3)$
ここで、$o_{s}(x-s)$は
$\lim_{x \to s,x\neq s}o_{s}(x-s)=0 \qquad \qquad (4)$
を満たす関数
この定理の3)により、
「関数が$s$で微分可能であり、微分係数がcであること」は、
「この関数が$s$の近傍の点$x$で直線$y=f(s)+c(x-s)$で近似でき、
誤差$|f(x)-(f(s)+c(x-s))|=|\left(o_{s}(x-s)\right)(x-s)| $が,
$x$を$s$に近づけていくとき、$h=x-s$より高次で0に収束する(注参照)
ことと同等であることが分かる。
(注)$\lim_{h\to 0,h\neq 0}\frac{o_{s}(h)h}{h}=0$
命題の系;関数が$s$で微分可能であれば、$s$で連続である。
証明;命題の2)を用いると、
$f(s+h)=f(s)+ch+o_{s}(h)h $
この式から、$|f(s+h)-f(s)|=|(c+o_{s}(h))h|$
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}o_{s}(h)=0$なので$\lim_{h \to 0,h\neq 0}|(c+o_{s}(h))h|=0$。
ゆえに、$\lim_{h \to 0,h\neq 0}|f(s+h)-f(s)|=0$
これは、関数が$s$で連続であることの定義そのものである。
導関数の性質
(1)$f,g$が$I=(a,b)$上で定義された、微分可能な実数値関数ならば
$\alpha f+\beta g$、$fg(s):=f(s)g(s)$は微分可能で
それらの導関数の間には、
$(\alpha f+\beta g )'=\alpha f'+\beta g'$(線形性)ここで$\alpha,\beta$は任意の実数。
(2) $(fg)'=f'g+fg'$
証明は、微分の定義式と極限の性質から容易に導ける。
ベクトル値関数の微分
実数の開区間$I=(a,b)$上で定義され,n次元の実ベクトル($\in {\bf R^n}$)に
値をとる関数$\vec f$を考える。
定義;微分可能性
実数値関数の場合と同じである。
導関数の線形性の性質も成り立つ。
ベクトル値関数の微分とその成分関数の微分の関係
関数値$\vec f(s)$は${\bf R^n}$の要素なので
$\vec f(s)=(f_1(s),f_2(s),\cdots f_n(s))$
と表示できる。
すると$\vec f$のn個の成分関数
$f_i,(i=1,2,\cdots n)$
が得られる。
命題;
$\vec f$が$s\in I$で微分可能$\Leftrightarrow$$f_i(i=1,2,\cdots n)$が$s\in I$で微分可能。
この時、${\vec f}'(s)=({f_1}'(s),{f_2}'(s)\cdots {f_n}'(s))$
ベクトル積の微分
命題
$ \vec{a(t)} $ と $\vec{b(t)} $は、開区間I上で定義され、
微分可能なベクトル値関数とする。すると、
$ \quad \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$ は微分可能で、
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}) =(\frac{d}{dt}\vec{a(t)} )\times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times (\frac{d}{dt}\vec{b(t)})$
証明
すでにこのテキストで紹介した、ベクトル値関数の微分の定義
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)})
=\lim_{\delta t \to 0}
(\vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}- \vec{a(t)} \times \vec{b(t)})/\delta t$ $\qquad $ (1)
を用いて証明する。
この極限が存在し、
$\frac{d}{dt}\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times \frac{d}{dt}\vec{b(t)}$
になることを示せば命題は証明できたことになる。
極限の計算が進むよう、右辺の式の分母は変形しよう。
関数の積の微分公式の証明と同じ技巧を用いる。
$ \vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}
- \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$
$ = \vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}
-\vec a(t)\times \vec{b(t+\delta t)}
+\vec a(t)\times \vec{b(t+\delta t)}
- \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$
ベクトル積の命題3を利用すると、
$ = \left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right)
\times
\vec b\left(t+\delta t\right)
+\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right) $
この式を式(1)の右辺の分子の項に代入し整頓すると
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)})
=\lim_{\delta t \to 0}
\frac{\vec a(t+\delta t)\times \vec b(t+\delta t)- \vec a(t) \times \vec b(t)}
{\delta t}$
$=\lim_{\delta t \to 0}
\frac{\left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right)
\times
\vec b\left(t+\delta t\right)
+\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right) }
{\delta t}
$
ベクトル積の命題4を使い、
$=\lim_{\delta t \to 0}\left(
\frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t}
\times
\vec b\left(t+\delta t\right)
+
\vec a(t)\times \frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)}
{\delta t}
\right)$
極限の命題を使って、
$=\lim_{\delta t \to 0}
\frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t}
\times
\lim_{\delta t \to 0}\vec b(t+\delta t)
+
\vec a(t)\times
\lim_{\delta t \to 0}\frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)}{\delta t}
$
式中の極限は、$\vec a,\vec b$が、微分可能なので存在し、
$\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t}
=\frac{d\vec a(t)}{dt}$
$\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec b(t+\delta t) -\vec b(t)}{\delta t}
=\frac{d\vec b(t)}{dt}$
$C^{1}$級の関数
$I=(a,b)$上の関数 $f$ が連続的微分可能(continuously differentiable)であるとは,
$I$上で導関数 $f'$ が存在して、しかも$f'$ が$I$上で連続であることをいう。
$I=(a,b)$上で連続的微分可能である関数を$C^{1}$級関数という。
リーマン積分と可積分条件
この節は、区間上で定義された関数のリーマン積分の初歩を述べる。
具体的には、リーマン積分の定義とリーマン積分が存在する(可積分)条件
について、数学的厳密性を保つように記述する。
参考記事
区間上の関数のリーマン和
区間$V=[a,b]$で定義され、実数に値をとる関数$y=f(x)$を考える。
この区間の分割
$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,n\},x_0=a,x_n=b$
と、その代表点$\xi_i\in V_i(i=1,2,,,n)$に関する、$y=f(x)$のリーマン和とは、
$I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=$
$\sum_i f(\xi_i)v(V_i)=\sum_i f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$
で定義する。
リーマン和の意味
リーマン和は、
$y=f(x)$のグラフを、棒グラフで近似したときの
棒グラフの作る面積(各角柱の面積和)であることが分かる。図参照。
$y=f(x)$のグラフとx軸、および2直線$x=a$、$x=b$で囲まれる部分の面積を近似している。
リーマン可積分
分割を細かくしていくとき、
分割の仕方や代表点の選び方に関係なく
リーマン和がある一定値に収束するとする。
すると、この値は
$y=f(x)$のグラフとx軸、および2直線$x=a$、$x=b$で囲まれる部分の面積
と考えられる。
定義;
$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,n\}$の大きさ$d(\Delta)$とは、
この分割で得られた小区間の長さの、最大値で定義する。
記号で書くと
$d(\Delta)=max\{x_{i}-x_{i-1} \mid i=1,2,,,n\}$
定義;リーマン可積分
$f$を、有界閉区間$V$上で定義され、実数の値をとる関数とする。
もし、ある実数$I$が存在して、
どんな分割$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,,n\} $と
代表点$\xi_i\in V_i(i=1,2,\cdots ,n)$であっても、
$\lim_{d(\Delta) \to 0}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=I$
が成り立つ時、
$f$は$V$上で(リーマン)可積分であるという。
このとき、$I$ を$f$の$V$上での(リーマン)積分といい、
$I=\int_{V}f=\int_{V} f(x)dx$
などと書く。
リーマン積分の命題
命題1 線形性
命題2 積分の単調性
命題3 平均値定理
命題4 三角不等式
命題5 積分区間に関する加法性
リーマン和の不足リーマン和と過剰リーマン和による評価
リーマン和を、代表点の選び方を変えて求めるとその値は変化する。
そこで、その最小値と最大値を求め、差を計算する。
もしこの差が分割を細かくしていくと零に収束するならば、可積分となろう。
以下、この方針で議論を進める。
$V$を分割して得られた小区間$V_i=[x_{i-1},x_i]$を考える。
関数$y=f(x)$をこの小区間上に限定した時、
関数は、この区間上の点で最大値と最小値をとると仮定する(注参照)。
関数の最大値$max\{f(x)\mid x\in V_i\}$と最小値$min\{f(x)\mid x\in V_i\}$を、
それぞれ、$m(f;V_i),M(f;V_i)$と書く。
(注) 区間上で最大値、最小値を取らない関数では、
有界な関数でありさえすれば、最大値、最小値と殆ど同じ命題をもち、常に存在する
上限、下限に置き換えれば以後の、議論は成り立つ。
上限、下限については「不足リーマン和の上限と過剰リーマン和の下限」で説明する。
すると、$V_i$の任意の点$\xi$ に対して、
$m(f;V_i)\leq f(\xi) \leq M(f;V_i)$
故に、
補題1
ⅰ)どのような代表点$\{\xi_i\}_{i}, (\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n)$に対しても
$I_{m}(f,\Delta):=I^{f,\Delta}(\xi_{1}^m,,,\xi_{n}^m)
=\sum_i m(f;V_i)v(V_i)$
$\leq
I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\sum_i f(\xi_i)v(V_i)$
$\leq
\sum_i M(f;V_i)v(V_i)
=I_{M}(f,\Delta)=I^{f,\Delta}(\xi_{1}^M,,,\xi_{n}^M) \qquad (1)$
そこで、$I_{m}(f,\Delta)$を$\Delta)$に関する$f$の不足リーマン和、$I_{M}(\Delta)$を過剰リーマン和と呼ぶ。
ⅱ)$I_{m}(f,\Delta)=\min_{\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n}I^{f,\Delta}(\xi_{1}^M,,,\xi_{n}^M)$
$I_{M}(f,\Delta)=\max_{\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n}I^{f,\Delta}(\xi_{1}^M,,,\xi_{n}^M)$
証明は明らかなので省略。
分割の細分とリーマン和の評価式
定義;分割の細分
$V$の分割${\Delta}'$が分割$\Delta$の細分というのは、
$\Delta$の分点の集合$\{x_0,x_1,,,,x_n\}$が、
${\Delta}'$の分点の集合$\{x'_0,x'_1,,,,x'_{n'}\}$に真に含まれることと定義する。
記号でかけば、$\{x_0,x_1,,,,x_n\}\subset \{x'_0,x'_1,,,,x'_{n'}\},
\{x_0,x_1,,,,x_n\}\neq \{x'_0,x'_1,,,,x'_{n'}\}$。
記号では、$\Delta \leq {\Delta}'$と記す。
補題2
$\Delta \leq {\Delta}'$という分割に対し、
$I_{m}(f,\Delta)
\leq I_{m}(f,\Delta')
\leq I_{M}(f,\Delta')
\leq I_{M}(f,\Delta) \qquad (2)$
が成り立つ。
(証明)
$\Delta$の小区間$V_i=[x_{i-1},x_i]$が分割${\Delta}'$では、
$\{V'_j=[x_{i-1},x'_j],V'_{j+1}=[x'_j,x_i]\}$の2つに分割されたとする。
すると、区間上の関数の最大値と最小値の定義から、
$m(f;V_i) \leq m(f;V'_j)$ $\quad m(f;V_i) \leq m(f;V'_{j+1})$
$M(f;V_i) \geq M(f;V'_j)$ $\quad M(f;V_i) \geq M(f;V'_{j+1})$
これらから、命題は成立することが分かる。
不足リーマン和の上限と過剰リーマン和の下限
補題2から、分割の細分を繰り返していくと、その分割に対応する、
不足リーマン和は、広義増加(増加するか、同じ値にとどまる)し、
過剰リーマン和は、広義減少する。
分割を細かくしていったとき、これらの極限が一致すれば、補題1から、
リーマン和の極限値は、代表点に無関係に、定まることになる。
そこで色々な分割に対応する不足リーマン和のなかの最大値と
過剰リーマン和の最小値を求めることが、重要になる。
しかし一般にはこれらは存在しないことが示せる。
そこで最大値に近い命題を持つ上限と最小値に近い下限という概念を利用する。
2つの分割の共通の細分
分割$\Delta$の分点の集合$\{x_j \mid j=1,2,,,m\}$と、
分割${\Delta}'$ の分点の集合$\{x'_j \mid j=1,2,,,n\}$の
和集合$\{x_j \mid j=1,2,,,m\} \cup \{x'_j \mid j=1,2,,,n\}$を分点とする分割を$\Delta \vee {\Delta}'$と書く。
すると新しい分割は
$\Delta \leq \Delta\vee {\Delta}' \qquad $ と
${\Delta}' \leq \Delta\vee {\Delta}' \quad $
を満たす。
これを用いると、
不足リーマン和の上限$\mathscr{s}(f)$と
過剰リーマン和の下限$\mathscr{S}(f)$が存在することが証明できる。
補題5
$f$を区間$V=[a,b]$で定義され実数値をとる有界関数
すなわち、$\{f(x)\mid x\in V\}$が${\bf R}$の有界部分集合となる関数とする。
$V=[a,b]$の分割を全て集めて作った集合を$\mathscr{D}(V)$と書く。
すると、
ⅰ)任意の$\Delta,{\Delta}'\in \mathscr{D}(V)$に対して、
$I_m(f,\Delta) \leq I_M(f,{\Delta)}')$
ⅱ)集合$\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は上に有界、
集合$\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は下に有界
ⅲ)$\mathscr{s}(f):=\sup\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$と
$\mathscr{S}(f):=\inf\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は存在し、
$\mathscr{s}(f) \leq \mathscr{S}(f)$
証明;
ⅰ)$\Delta \leq \Delta\vee {\Delta}'$ なので、補題2から、
$I_m(f,\Delta)
\leq I_m(f,\Delta\vee {\Delta}')
\leq I_M(f,\Delta\vee {\Delta}')
\leq I_M(f,{\Delta}') $
ⅱ)1)で証明した不等式で、分割${\Delta}'$ は固定する。
すると全ての分割 $\Delta$に対して、$I_m(f,\Delta) \leq I_M(f,{\Delta)}')$なので
集合$\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は、上界$I_M(f,{\Delta)}')$を持ち、上に有界である。
後者も同様にして下に有界であることが示せる。
ⅲ)従って、実数の連続性の公理から、
集合$\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は上限$\mathscr{s}(f)$をもち、
集合$\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は下限$\mathscr{S}(f)$をもつ。
上限は、上界の中の最小値なので、
$\mathscr{s}(f)\leq I_M(f,{\Delta}')$
この式は任意の${\Delta}'$について成立するので、
$\mathscr{s}(f)$は、集合$\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$の下界である。
下限$\mathscr{S}(f)$は、下界のなかの最大値なので$\mathscr{s}(f) \leq \mathscr{S}(f)$を得る。
分割を細かくしていくときの不足リーマン和と、過剰リーマン和の極限
定理(ダルブー;Darboux)
$V=[a,b]$
$f$を、$V$で定義され、実数に値を取る有界関数とする。
このとき、
ⅰ)$\lim_{d(\Delta) \to 0}I_m(f,\Delta)=\mathscr{s}(f)$
ⅱ)$\lim_{d(\Delta) \to 0}I_M(f,\Delta)=\mathscr{S}(f)$
証明;
ⅰ)を示す。( ⅱ)は同じようにして証明できるので略す)
これを示すには、
どんなに小さい正の実数$\epsilon$に対しても、それに応じた小さい正の実数$\delta_{\epsilon}$を適切に選べば、
分割の大きさが$\delta_{\epsilon}$より小さい、どんな分割$\Delta$も、
$\mathscr{s}(f)-I_m(f,\Delta)<\epsilon$
であることを示せばよい。
以下に、数段階に分けて、これを証明する。
$\quad 1)
$上限の命題(補題3)から、
ある分割
$D=\{{V^D}_i=[{x^D}_{i-1},{x^D}_i] \mid i=1,2,,,n\}in \mathscr{D}(V)$
が存在して、
$\mathscr{s}(f)-I_m(f,D)<\frac{\epsilon}{2} \qquad (1)$
今後この$D$を使って、証明を進める。
$\quad 2)$
分割$D$の小区間${V^D}_i$の長さ$({x^D}_i-{x^D}_{i-1})(i=1,2,,,n)$の
最小値を$e$とおくと
$e=min_{i=1}^{n}({x^D}_i-{x^D}_{i-1})$
$e$に比べて非常に小さい大きさを持つ分割、
$\Delta=\{V^{\Delta}_i=[{x^{\Delta}}_{i-1},{x^{\Delta}}_i] \mid i=1,2,,,N\}$、
$d(\Delta)=max_{i=1,2,,,N}({x^{\Delta}}_i-{x^{\Delta}}_{i-1}) \ll e$
を考える。
もし、$D \leq \Delta$ならば補題2より、
$I_m(f,D) \leq I_m(f,\Delta)$、
すると$\mathscr{s}(f)-I_m(f,\Delta)\leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,D) \leq
\frac{\epsilon}{2}\leq \epsilon$
通常、分割$\Delta$は、$D$の細分になっていない。
この場合は、高々(n-1)個の$\Delta$の小区間が、$D$の小区間には含まれず、
$D$の分点${x^D}_i(i=1,2,,,n-1)$をまたぐことになる。図参照のこと。
議論を簡単にするため、
$D$の分点${x^D}_i(i=1,2,,,n-1)$が全て、$\Delta$の小区間によって跨がれている
と仮定し、議論を進める。
他のケースでも、証明はおなじようにできるので、
このように仮定しても何の問題も起こらない。
$D$の分点${x^D}_i$を跨ぐ$\Delta$の小区間を$V^{\Delta}_{m_i}$とする(i=1,2,,,n-1)。
$\quad 3)$
2つの分割$D、\Delta$から${\Delta}':=D \vee \Delta$を作る。
すると
${\Delta}'=\{V^{\Delta}_1,V^{\Delta}_2,,,,,,,,,V^{\Delta}_{m_{1}-1},$
$\qquad \quad [x^{\Delta}_{m_{1}-1},x^{D}_1],[x^{D}_1,x^{\Delta}_{m_{1}}],$
$\qquad \quad V^{\Delta}_{m_{1}+1},V^{\Delta}_{m_{1}+2},,,,,,,,,V^{\Delta}_{m_{2}-1},$
$\qquad \quad [x^{\Delta}_{m_{2}-1},x^{D}_2],[x^{D}_2,x^{\Delta}_{m_{2}}],$
$\qquad \quad V^{\Delta}_{m_{2}+1},V^{\Delta}_{m_{2}+2},,,V^{\Delta}_{m_{3}-1},$
$\qquad \quad ,,,,,,,,,$
$\qquad \quad V^{\Delta}_{m_{n-1}+1},V^{\Delta}_{m_{n-1}+2},,,,,,,,,V^{\Delta}_N\} \qquad (2)$
と書ける。
$\Delta \leq {\Delta}'$で、 $D \leq {\Delta}'$ なので、
$I_m(f,\Delta) \leq I_m(f,{\Delta}')$, $\quad I_m(f,D) \leq I_m(f,{\Delta}')$
後者の式から、
$0 \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,{\Delta}') \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,D)$
この式と(1)式から、
$0 \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,{\Delta}')<\frac{\epsilon}{2}$
そこで、
「$d(\Delta) \to 0 $ならば、$I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)<\frac{\epsilon}{2}$
が示せれば、
$0 \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,\Delta)$
$=(\mathscr{s}(f)-I_m(f,{\Delta}')+(I_m(f,{\Delta}'-I_m(f,\Delta)\leq \epsilon$
が示され、証明が終わる。
$\quad 4)$
$I_{m}(f,\Delta)=\sum_{i=1}^{N} m(f;V^{\Delta}_i)v(V^{\Delta}_i)$
であり、
(2)式から、
$I_m(f,{\Delta}')$
$=\sum_{i\notin \{m_1,m_2,,,,m_{n-1}\}} m(f;V^{\Delta}_i)v(V^{\Delta}_i)$
$+\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])v([x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])$
$+\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])v([x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])$
なので、
$I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)$
$=\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])v([x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])$
$+\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])v([x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])$
$-\sum_{i\in \{m_1,m_2,,,,m_{n-1}\}} m(f;V^{\Delta}_i)v(V^{\Delta}_i)$
関数は$V$上で有界なので、適切に正の実数$M$を選ぶと、$x$が$V$の要素ならば
$|f(x)|\leq M$が成立する。
すると$|m(f;[x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])|, |m(f;[x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])|
\leq M$
が成り立つ。また
$v(V^{\Delta}_{m_k})
=v([x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])+v([x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])$で、
$v(V^{\Delta}_i)\leq d(\Delta) $
なので
$|I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)|\leq 2M\sum_{i\in \{m_1,m_2,,,,m_{n-1}\}} v(V^{\Delta}_i)\leq 2M(n-1)d(\Delta)$
そこで、
$\delta_{\epsilon}=\frac{\epsilon}{4Mn}$
と選べば、
$d(\Delta)\leq \delta_{\epsilon}$をみたすどのような分割$\Delta$も、
$0\leq I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)|\leq \frac{\epsilon}{2}$
を満たすことが証明できた。証明終わり。
可積分条件
定理;可積分条件
$V=[a,b]$
$f$を、$V$で定義され、実数に値を取る有界関数とする。
次の条件のうち1つが成立すれば、残り2つは成立する(互いに同値という)。
ⅰ)$f$は$V$上で(リーマン)可積分
ⅱ)$\lim_{d(\Delta) \to 0}(I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta))=0$
ⅲ)$\mathscr{S}(f)=\mathscr{s}(f)$
証明
ⅰ)を仮定する。ⅱ)が成立することを示そう。
$f$の積分値を$\alpha$とおくと、可積分の定義から、
任意の$\epsilon>0$に対して、$\delta>0$が存在して、
$d(\Delta)<\delta$である任意の分割と、その分割の任意の代表点$\xi_i,(i=1,2,,,)$に対し,
$|I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)-\alpha |<\frac{1}{2}\epsilon$
が成立する。
変形すると
$\alpha-\frac{1}{2}\epsilon
<I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)
<\alpha+\frac{1}{2}\epsilon \qquad (1) $
ここで、補題1のⅱ)から、
$\inf_{\{\xi_i\}}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n) =I_{m}(f,\Delta)$
$\sup_{\{\xi_i\}}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n) =I_{M}(f,\Delta)$
なので、
(1)式から、
$\alpha-\frac{1}{2}\epsilon
\leq
I_{m}(f,\Delta)
\leq
I_{M}(f,\Delta)
\leq
\alpha+\frac{1}{2}\epsilon$
これより、任意の$\epsilon>0$に対して、$\delta>0$が存在して、
$d(\Delta)<\delta \implies (0\leq I_{M}(f,\Delta)-I_{m}(f,\Delta)\leq \epsilon)$
ⅱ)が示せた。
ⅱ)を仮定する。 ⅲ)が成り立つことを示す。
$I_{m}(f,\Delta)
\leq
\mathscr{s}(f):=\sup_{\Delta}I_{m}(f,\Delta)
\leq
\mathscr{S}(f):=\inf_{\Delta}I_{M}(f,\Delta)
\leq
I_{M}(f,\Delta)$
なので、
$0
\leq
\mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f)
\leq
I_{M}(f,\Delta)-I_{m}(f,\Delta)$
故に、分割を細かくしていき、極限をとると、
$0
\leq
\mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f)
\leq
\lim_{d(\Delta)\to 0}(I_{M}(f,\Delta)-I_{m}(f,\Delta))$
ⅱ)が成立するので、
$=0$
ⅲ)が示せた。
ⅲ)を仮定する。 $\alpha=\mathscr{S}(f)=\mathscr{s}(f)$とおく。
ⅰ)が成り立つことを示そう。
補題1のⅰ)から、どのような分割$\Delta$と、その代表点$\{\xi_i\}_{i}, (\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n)$に対しても
$I_{m}(f,\Delta)
\leq
I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)
\leq
I_{M}(f,\Delta)$
ここで、ダルブーの定理から、
$\lim_{d(\Delta) \to 0}I_{m}(f,\Delta)=\mathscr{s}(f)=\alpha$,
$\lim_{d(\Delta) \to 0}I_{M}(f,\Delta)=\mathscr{S}(f)=\alpha$
が成り立つので、
$\lim_{d(\Delta) \to 0}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\alpha$
が成り立つ。
ⅰ)が示せた。
区分的に連続(有限個の点を除いて連続)な閉区間上の関数は積分可能
色々な関数のグラフを書くとつながっているところを、跳んでいるところが出来る。
$y=X$のグラフはずっとつながっている。
関数$y=f(x)$を、
$x<0$のとき $f(x)=0$, $0\leq x$のとき $f(x)=1$
で定義すると、
$x=0$のところでそのグラフは跳んでいる。
連続や不連続は関数の非常に重要な性質であり、
それを調べることはとても豊かな知識をもたらす。
定理
有界閉区間上$V=[a,b]$で定義され、実数に値を取る連続関数$f$は、V上で可積分である。
略証;
有界閉区間上の連続関数は一様連続なので、
任意の$\epsilon>0$に対して、$\delta>0$が存在して、
$|x-x'|\leq \delta$を満たす$V$の任意の2点に対して、
$|f(x)-f(x')|< \frac{\epsilon}{b-a}$
が成立する。
$V=[a,b]$の分割$\Delta$を細かくして、
$d(\Delta)<\delta$
を満たすようにする。
すると、その分割によって得られた小区間$V_i(i=1,2,,,n)$の長さは、
全て$\delta$より小さくなるので、
$\sup \{f(x)\mid x\in V_i\}-\inf\{f(x)\mid x\in V_i\}<\frac{\epsilon}{b-a}$
$M(f;V_i),m(f;V_i)$の定義から
$M(f;V_i)-m(f;V_i)<\frac{\epsilon}{b-a}, (i=1,2,,,n)$
これを用いると、
$I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta)=\sum_{i=1}^{n} M(f;V_i)v(V_i)-\sum_i m(f;V_i)v(V_i)$
$=\sum_i(M(f;V_i)- m(f;V_i))v(V_i)
\leq
\sum_i \frac{\epsilon}{b-a}v(V_i)
=\frac{\epsilon}{b-a}\sum_{i=1}^{n}v(V_i)
=\frac{\epsilon}{b-a}(b-a)
=\epsilon$
故に、
任意の$\epsilon>0$に対して、$\delta>0$が存在して、
$d(\Delta)<\delta$を満たす任意の分割$\Delta$にたいして、
$I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta)\leq \epsilon$が示せた。
$\mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f)\leq
I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta)$
なので
$\mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f)\leq \epsilon$
が任意の$\epsilon>0$にたいして成立する。故に
$\mathscr{S}(f)=\mathscr{s}(f)$
可積分条件のⅲ)が示せた。証明終わり。
定理の系;有界閉区間上で定義され、区分的に連続な(有限個の不連続点をもつ)実数値関数$f$は積分可能である。
証明は容易なので略す。
ベクトル値関数の場合
ベクトル値関数$\vec f$の場合も、リーマン和とリーマン可積分の定義は実数値関数の場合と変わらない。
可積分条件については、
座標系をいれ、関数の各座標成分$\vec{f}_x,\vec{f}_y,\vec{f}_z$を考える。ここで、$\vec{f}_x(t):=\vec{f}(t)_x$である。他も同様。
すると区分的連続なベクトル値関数の各成分は区分的連続なので積分可能となり、
$\vec f$の積分可能性が示せる。