物理/速度・加速度・ベクトル

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目次

質点の運動の表し方 

高校では主に質点 (大きさがなく重さだけがある点状の物体)の運動を学び、 
その法則を明らかにします。

なぜ質点の運動から、学ぶのか

大きさのある物体は、物体の箇所によって位置がことなる。また大きさのある物体は変形する。
このため、その位置を表すのが難しい。
さらに運動も平行移動だけでなく回転などを行い複雑となる。
質点は、大きさのない点なので位置は明確で、その場所を簡単に表示できる。しかも変形も回転もない。
このため、その取り扱いは、大きさのある物体に比べて、格段に、易しくなる。
しかし、重さがあって大きさのない、仮想の物質である質点の運動法則など何の役にも立たないと思う人もいるでしょう。
ところが、応用範囲は結構広いのです。
例えば、地球の公転運動(太陽の周りの回転)は、地球を質点とみなして解析してもほぼ正しい。
さらに、大きさを考慮して解析しなければならない物体の運動も、質点の運動法則を利用して解明できる。
これには高校数学より高度な数学を必要とする。
そこで、大きさのある物体の運動は主に、大学で学ぶ。

質点の運動を数式で表すにはどうするか?

我々が住む世界は、3次元空間 であり、縦、横、高さという3つの方向がある。この空間には距離という概念がある。
。また時間のいう時の経過が存在する。この世界の物質は運動していて、その場所を時間とともに変える。
1章の4節で紹介したように近代の力学は、
運動を質点の位置の時間変化と考え、質点の位置や速度を正確に測定し、それらの変化の法則を明らかにして、数式で正確にあらわすという方法で発展した。
まず、時間と距離の測り方から紹介する。

時間と距離の測り方

時間は時計で正確に測れる。
詳しくはウィキペディア(時間) の4.1 ニュートン力学での時間
を参照のこと。

また距離(あるいは長さ)は、距離の原器を使って正確に測れる。
詳しくは、

空間の点の位置の表現 

 位置ベクトルとベクトル 

3次元空間の適当な点$O$をとり、原点と呼ぶ。
空間の任意の点$P$に対し,原点$O$と点$P$を結ぶ線分を引き、$O$から点$P$にむけ向きをいれる。
この向きを図示するため、点$P$に向きを示す矢印を付ける。
この向き付きの線分を点$P$を表す位置ベクトルといい、$\overrightarrow{OP}$で表現する。図参照。
位置ベクトル$\overrightarrow{OP}$の端の点$O$をベクトルの始点、端点$P$をベクトルの終点と呼ぶ。
位置ベクトル$\overrightarrow{OP}$の終点は$P$なので、この位置ベクトルを点$P$と同一視する。
すると、点の位置は、その位置ベクトルで表示出来ることになる。
物理学では、位置ベクトル以外にも、速度や、加速度、力などの、大きさと方向、向きを持つ量が沢山登場する。

ベクトルと演算の数学的定義

3次元の空間の線分を考える。
線分は長さと方向をもつが、この方向に向きを付けたものを有向線分という。
有向線分は向きを示すため、その向きの矢印を付けて表す。
点$O$から$P$にむけ向きの入った有向線分では、

矢の根元のほうの端点$O$を始点、矢印の先のほうの端点$P$を終点と呼ぶ。
この有向線分を$\overrightarrow{OP}$と書く。
2つの有向線分が、平行移動で重ね合わせが出来るとき(すなわち、長さと方向・向きが等しい時)同一であるとみなした時、
有向線分をベクトルあるいは3次元ベクトルという。
言い換えると、長さと方向・向きの等しい有向線分の全体が、一つのベクトルに対応する。
厳密には、有向線分$\overrightarrow{OP}$によって決まるベクトルは、
別の記号で(例えば($\overrightarrow{OP}$)などと)書くべきだが、
簡略化のため、単に$\overrightarrow{OP}$と書く。
有向線分と見るときは、有向線分$\overrightarrow{OP}$と明示する。
線分$OP$は、$O=P$ならば、長さは零で、方向も向きも持たないが、
$\overrightarrow{PP}$($\overrightarrow{OO}$と同じ)をベクトルとして認め、零ベクトルと名付け、$\vec{0}$で表す。
すなわち、任意の点$P$に対して、$\overrightarrow{PP}=\vec{0}$とみなす。


ベクトルは、始点がどこであっても良いので、
対応する有向線分のなかで、都合の良い点$P$を始点にする有向線分を選び、
その始点$P$と終点$Q$を用いて$\overrightarrow{PQ}$で表すこともある。
ベクトル$\vec{A}$の大きさ(ノルム)とは、対応する有向線分$\overrightarrow{PQ}$の長さのことで、$\|\vec{A}\|$で表す。

平面上の有向線分を考えれば、2次元ベクトルも同じように定義できる。
2つのベクトルの和の定義
2つのベクトル$\vec{A}$とベクトル$\vec{B}$の和を、次のように定義する。
・$\vec{A}$を表す有向線分$\overrightarrow{OP}$と$\vec{B}$を表す有向線分$\overrightarrow{PQ}$を用いて、
有向線分$\overrightarrow{OQ}$に対応するベクトルを、ベクトル$\vec{A}$とベクトル$\vec{B}$の和という。
すなわち、$\vec{A}+\vec{B}=\overrightarrow{OP}+\overrightarrow{PQ}=\overrightarrow{OQ}$
$\vec{A}$とベクトル$\vec{B}$を始点の同じ、有向ベクトル$\overrightarrow{OP}$ と$\overrightarrow{OQ}$で表すと、
これを2辺とする平行四辺形$OPRQ$の対角線$OR$に向きを付けた$\overrightarrow{OR}$の表すベクトルは、
$\vec{A}+\vec{B}$であることは容易に分かる。
定義をもとに考察すると、
$\vec{A}+\vec{B}=\vec{B}+\vec{A}$ ; 交換法則  
$(\vec{A}+\vec{B})+\vec{C}=\vec{A}+(\vec{B}+\vec{C})$ ;結合法則 
$\vec{A}+\vec{0}=\vec{A}$ であることが分かる。
逆ベクトルの定義 
ベクトル$\vec{A}$に対し、その逆ベクトル$-\vec{A}$とは、
$\vec{A}$を加えると$\vec{0}$になる、ベクトルのことである。
どんな$\vec{A}$も、逆ベクトルを一つ、そして一つだけ持つ。
それは、$\vec{A}$と大きさ、方向が同じで、向きが逆のベクトルである。
証明は容易。
以後、$\vec{A}+(-\vec{B})$を、$\vec{A}-\vec{B}$で表す。
ベクトルの実数倍の定義
$a$を任意の実数とする。
$\vec{A}$が零ベクトルでない時、その$a$倍、$a\vec{A}$は次のように定義する。
・$a$が正数のとき;$a\vec{A}$は、$\vec{A}$と方向・向きは同じで、大きさが$a$倍であるベクトルで定義する。
・$a=0$のとき;$0\vec{A}=\vec{0}$で定義する。
・$a< 0$のとき;$a\vec{A}=-(-a)\vec{A}$
$\vec{A}=\vec{0}$のときは、$a\vec{0}=\vec{0}$とする。
すると次の諸規則が証明できる。
$a(\vec{A}+\vec{B})=a\vec{A}+a\vec{B}$
$(a+b)\vec{A}=a\vec{A}+b\vec{A}$
$(ab)\vec{A}=a(b\vec{A})$

 位置の座標とベクトルの座標成分表示 

ベクトルの記号(例えば$\vec{A}$)を用いた力学の法則の表示や演算は、ベクトル記号のまま扱うと、大変簡潔で、見通しが良い。
しかし、ベクトル記号のままでは、具体的な問題で、質点がどこにいるか、その速度は、どの方向で、いくらか、などを求めたいときには、大変である。
ベクトルを図示し、図を使って、ベクトル演算をしなければならなくなるからである。
平面の場合でさえ、ベクトルを正確に図示することはできず、手間も大変である。
3次元空間では、平面である紙の上には、正確に書くことは出来ない。

そこで点$P$の位置、位置ベクトル$\overrightarrow{OP}$やその他のベクトルを、いくつかの数字が順番に並んだ、数字の組で表わす方法が考えだされた。
図ではなく数字を使って位置やベクトルを表せるなら、数学で知られた色々な計算方法が利用でき、具体的な計算は飛躍的に進化する。
点の位置をいくつかの数字の組で表示するのは座標表示と呼ばれ、
ベクトルをいくつかの数字の組で表現することはベクトルの座標成分表示と呼ばれる。
色々な座標を使った表示法がみつかっている。
最も広く利用されている方法を説明しよう。

 直交座標を用いる表示 

空間に定めた原点$O$をとおる、縦と横と高さ方向の直交する3つの直線を引く。
各直線上の原点から単位の距離にある点(原点の両側にある)の一方に+1を、他方にー1を振る。
他の点にも、原点からの距離に+-符合(原点に関して、+1と同じ側の点には+)をつけた数字(実数)を割り振る。
このように、各点に数字が割り振られた直線に、数字が増大する向きに矢印をつける。
この直線を数直線と呼び、各点に割り振られた数字をこの点の座標と呼ぶ。図_数直線参照。
縦(手前と奥)方向の数直線をx軸、横(左右)方向の数直線をy軸、高さ(上下)方向の数直線をz軸と呼ぶ。
任意の点$P$の位置や3次元ベクトルは、これ等の数直線を利用して、以下のようにして、3つの実数の組で表示できる。
(1)点の位置の座標表示 
任意の点$P$から、x軸に下ろした垂線の足の座標$P_{x}$, y軸に下ろした垂線の足の座標$P_{y}$,z軸に下ろした垂線の足の座標$P_{z}$を求める。
$P_{x}$、$P_{y}$、$P_{z}$をそれぞれ、点Pのx座標、y座標、z座標と呼ぶ。 点$P$にたいして3つの数字の組$(P_{x},P_{y}, P_{z})$が、唯一つ定まる。これを点$P$の座標と呼ぶ。
ここで、数字は、x座標、y座標、z座標の順序で並べなければならない。
逆に3つの実数の組$(a_{x},a_{y}, a_{z})$に対して、それを座標にもつ点$P$が、唯一つ決まる。図_座標表示を参照のこと。

(2)ベクトルの座標成分表示  
・ベクトルは平行移動しても同じものなので、平行移動して、始点を原点とするベクトル$\vec{OP}$を考える。
位置ベクトルは、初めから始点が原点に固定された束縛ベクトルなので移動しなくて良い。  
・ベクトル$\vec{OP}$の終点$P$の座標$(P_{x},P_{y},P_{z})$を、ベクトル$\vec{OP}$の座標成分表示という。位置ベクトル$\vec{OP}$では、その成分表示は、点$P$の座標と同じである。
・このように、すべてのベクトルにひと組の数字の組が定まること、逆に3つの実数の組を与えると、唯一つのベクトルが決まることが分かるであろう。

x軸、y軸、z軸は、座標を決めるときに使われるので、座標軸と呼ばれる。


紹介した座標表示法では、3本の軸は直交するようにとってあるので、それを明示したいときは直交という形容をつけて、直交座標成分、直交座標軸などと呼ぶ。

(3)ベクトルと、その直交座標成分表示の関係について  
x軸上に、長さが1で、正の向き(座標の増加する向きのこと)の有向線分をとり、これによって決まるベクトルを$\vec{e_x}$とおく。
同様に、y軸上の長さ1で正の向きの有向線分に対応するベクトルを$\vec{e_y}$,
z軸上に、長さ1で正の向きの有向線分に対応するベクトルを$\vec{e_z}$とおく。
すると、任意のベクトル$\vec A$は、その直交座標成分$(A_x,A_y,A_z)$を用いて、
$\vec A=A_x\vec{e_x}+A_y\vec{e_y}+A_z\vec{e_z}$ と表せることが、簡単に証明できる。
このように、どんなベクトルも、3つのベクトル$\vec{e_x},\vec{e_y},\vec{e_z}$を用いて表示できるので、
これらを順番に並べた
$(\vec{e_x},\vec{e_y},\vec{e_z})$を、3次元空間の基底と呼ぶ。直交していることを明示したいときは、直交基底という。
さらに、基底ベクトルの大きさが1にとってあるので、これを明示したいときには、正規直交基底と呼ぶ。
逆に、直交基底$\vec{e_x},\vec{e_y},\vec{e_z}$が与えられると、直交座標系が決まるので、
任意のベクトル$\vec A$は、その座標成分$(A_x,A_y,A_z)$を用いて、$\vec A=A_x\vec{e_x}+A_y\vec{e_y}+A_z\vec{e_z}$
と表せる。

 直交座標系には右手系と左手系の2種類がある 

(1)3次元空間の場合;
空間に一つの直交座標系をとる。
3つの座標軸のうち、一つの座標軸の正負を逆にした座標系をつくる。たとえばz軸の正負を逆にしてみよう。
右手の親指、人差し指、中指をそれぞれ直角になるように延ばし、親指をx軸の正部分に、人差し指をy軸の正部分に重ねる。
すると中指はz軸と重なるが、
片方の座標系では、向きまで一致する。
もう一方の座標系では、向きは逆になってしまう。
一致するほうの座標系を右手系、逆向きの座標系を左手系とよぶ。図参照。
x軸やy軸の向きを変える場合でも全く同じことが起こることを確かめてほしい。

(2)平面の場合;
x軸を原点を中心に90度だけ反時計回りに回転してx軸とy軸を重ねたときb、向きまで一致する座標系を右手系といい、逆向きになる時左手系という。

(3)物理では右手系を用いる。
どちらの座標系を使っても、あらゆることが、同じように議論できるが、
どちらの座標系を使っているかで法則の表現が違ったり、
2種の座標系を混在させて使うと過ちになるなど、
不具合が生じてしまうので、
物理の世界では、右手系を使うことにしている。
直交座標系については、 ウィキペディア(直交座標系)
を参照のこと。

色々な座標

ベクトルを実数の組で表示する、座標表示の方法は、色々考案されている。
それは、運動の種類に応じて、使いやすい座標と使いにくい座標があるからである。 直交座標は最も多く使われるが、円運度や楕円運動では極座標が便利である。


極座標については、ウィキペディア(極座標系)
その他の座標系も含む色々な座標系についてはウィキペディア(座標)
を参照のこと。
(注)座標系をつかい、数字の計算で図形等の性質を調べることは16世紀にデカルトが見つけた偉大な方法である。
この方法が、運動を法則を解明する時に、不可欠の役割を果たしている。

物理で利用するベクトルの演算についての注意

数学で扱うベクトルは、文字通り、大きさと方向・向きの等しいベクトルは皆同じものとみなし、平行移動したり、ベクトル同士の演算も自由にできる。自由ベクトルと呼ばれる。
ところが位置ベクトルは始点を原点に固定して考えるので、数学で習うベクトルと違う。
力も大きさと方向・向きを持つのでベクトルだが、作用する場所が変われば、その効果もまったく異なる。すなわち、ベクトルの始点がどこにあるかが、重要なベクトルである。そこで平行移動や始点の異なるベクトルの和は許さない。このようなベクトルは束縛ベクトルという。物理に現れるベクトルは束縛ベクトルであることが良く起こるので、物理的意味を考えて、数学を利用する必要がある。
自由ベクトルについて詳しくない方は次の文献をご覧ください。

質点の速度と加速度

空間に原点を決め、質点の位置Pを時間の関数として$\vec{OP}=\vec{r(t)} $と表わせば、質点の動き方がわかるので、その速度や加速度(速度の増加の仕方)も計算できる。
位置ベクトルは必要ならば座標系を定め座標成分表示しておく。
例えば、xyz直交座標系ならば、$\vec{OP}=(x(t),y(t),z(t))$,
極座標系ならば$\vec{OP}=(r(t),\theta(t),\phi(t))$という形で表せる。

速度 

質点の速度は、質点の位置が単位時間あたり幾ら変化するかを表わす。大きさと方向・向きを持つのでベクトルである。

平均速度

任意の時刻$t$における質点の位置が$\vec{r(t)} $で表される時、 
時刻$t$と時刻$s$の間の平均の速度は、 $(\vec{r(s)}- \vec{r(t)})/(s-t)$ で定義する。平均速度はベクトルである。(注意)$s$は$t$の前後どちらでもよい。 
ベクトル$\vec{r(t)} $ を直交座標系xyzにかんして座標表示し、$(x(t),\,y(t),\,z(t)) $ と表すと、
平均の速度は、$((x(s)-x(t))/(s-t),\,(y(s)-y(t))/(s-t),\,(z(s)-z(t))/(s-t)) $ となる。

瞬間速度(略して速度)とベクトル値関数の微分

落下する物体は時々刻々速さを増し、一定の速さに留まることはない。
そのような運動の速度を正確にとらえようとして、ガリレオは、平均速度をとる時間間隔t-sを無限に小さくした時の、平均速度を考えた(微分学の始まり)。
これを瞬間速度という。物理学では、単に速度と言えば、瞬間速度のことをいう。
高校の数学で学ぶ微分を、ベクトルに値をとる関数に拡張すると、時刻$t$の速度$\vec{v(t)} $は、
$\vec{v(t)}=\frac{d\vec{r(t)}}{dt}=\lim_{s \to t}(\vec{r(s)}- \vec{r(t)})/(s-t)$
で表せる。
ベクトル$\vec{r(t)} $ をxyz直交座標の成分で表示($\vec{r(t)}=(x(t),y(t),z(t)) $)すると、上記の速度は、
$\vec{v(t)}=\lim_{s \to t}(\vec{r(s)}- \vec{r(t)})/(s-t)$
$= \lim_{s \to t}(x(s)-x(t))/(s-t),\,(y(s)-y(t))/(s-t),\,(z(s)-z(t))/(s-t))$ 
$=(\lim_{s \to t}(x(s)-x(t))/(s-t),\,\lim_{s \to t}(y(s)-y(t))/(s-t),\,\lim_{s \to t}(z(s)-z(t))/(s-t))$
$=(\frac{dx(t)}{dt},\,\frac{dy(t)}{dt},\,\frac{dz(t)}{dt}) $
と表せる。
速度については、下記の記事も参考のこと。
ウィキペディア(速度)

瞬間速度(略して速度)とベクトル値関数の微分

落下する物体は時々刻々速さを増し、一定の速さに留まることはない。
そのような運動の速度を正確にとらえようとして、ガリレオは、平均速度をとる時間間隔$s-t$を無限に小さくした時の、平均速度を考えた(微分学の始まり)。
これを瞬間速度という。物理学では、単に速度と言えば、瞬間速度のことをいう。
高校の数学で学ぶ微分を、ベクトルに値をとる関数に拡張すると、時刻$t$の速度$\vec v(t) $は、
$\vec v(t)=\frac{d\vec r(t)}{dt}=\lim_{s \to t}(\vec r(s)- \vec r(t))/(s-t)$
で表せる。
ベクトル$\vec r(t) $ をxyz直交座標の成分で表示($\vec r(t)=(x(t),y(t),z(t)) $)すると、上記の速度は、
$\vec v(t)=\lim_{s \to t}(\vec r(s)- \vec r(t))/(s-t)$
$= \lim_{s \to t}(x(s)-x(t))/(s-t),\,(y(s)-y(t))/(s-t),\,(z(s)-z(t))/(s-t))$ 
$=(\lim_{s \to t}(x(s)-x(t))/(s-t),\,\lim_{s \to t}(y(s)-y(t))/(s-t),\,\lim_{s \to t}(z(s)-z(t))/(s-t))$
$=(\frac{dx(t)}{dt},\,\frac{dy(t)}{dt},\,\frac{dz(t)}{dt}) $
と表せる。
速度については、下記の記事も参考のこと。
ウィキペディア(速度)

極限と微分について解説

極限と微分についての基本事項をまだ学んでいない方むけに、要点のみを記載する。
瞬間速度を求めるとき、$s,t$間の平均速度$\vec{r(s)}- \vec{r(t)})/(s-t)$に対して$ \lim_{s \to t}$という操作を行った。
この操作を極限をとるという。
また、ベクトルに値をとる関数$\vec r=\vec r(t)$に対して
$\lim_{s \to t}(\vec r(s)- \vec r(t))/(s-t)$ をもとめる操作を、
関数を微分するとか、関数の微分をとるという。
ここでは、極限と微分について、その基礎を紹介する。
 
(1)変数と関数  
色々な値をとりえる文字を、変数という。
変数のとり得る値の範囲は、定めておく。
この範囲が、実数のときは実変数、複素数のときは複素変数、ベクトルのときはベクトル変数などと、明示することがある。
2つの変数$x,y$のあいだに、
$x$の値が決まると、それに対応して$y$の値が一つ決まる時、
$y$は$x$の関数であるという。
$y$が$x$の関数であっても、$x$のとり得る範囲の一部に対しては$y$の値が定まらない場合もある。
この場合も考慮して、$y$の値がきまる$x$の値の全体(集合)を、この関数の定義域という。
多くの関数は、その定義域は、変数$x$の取り得る範囲と一致しており、
すべての$x$の値に対して、$y$の値が対応している。

$x$は、関数の定義域のなかのどの値も代入できるので、独立変数と呼ばれる。
$y$は、$x$の値が決まると自動的に値がきまるので従属変数と呼ばれる。
 

(2)変数と関数の記号
変数は$x,y$以外にも、必要に応じて色々なものが使われる。
例えば、とり得る値が時間(time)である実変数は、それを表すため$t$が使われる。
また、とり得る値が位置ベクトルである、ベクトル変数は$\vec r$が良く使われる。
$x$の関数$y$のことを、関数記号$f$を用いて、$y=f(x)$と書く。
関数記号はこれ以外にも$g,F$など、必要に応じて、色々な文字が使われる。
物理学では、従属変数が何か明示でき、記号数を減らせるという理由で、
従属変数の記号を関数記号に用いる。
例えば独立変数が時間$t$で従属変数が位置ベクトル$\vec r$である関数は、$\vec r=\vec r(t)$と書く。
  
(3)関数の極限
独立変数と従属変数が実数や複素数、3次元ベクトルの値をとる時のように、2つの値の間の距離が定義されているとき、極限の概念が重要な役割を果たす。
定義:関数の極限 
関数$y=f(x)$において、独立変数$x$が、$a$と異なる値をとりながら$a$に限りなく近づくとき、
それに対応する従属変数の値$f(x)$が、ある一つの値$b$に限りなく近づくとき、
$b$を、$x$が$a$に限りなく近づくときの関数$y=f(x)$の極限(あるいは極限値)という。 

これを、$\lim_{x \to a}f(x)=b$と記号で表示する。
あるいは、$x\rightarrow a$のとき $f(x)\rightarrow b$ とも書く。

(注)この極限の定義は直観的すぎて正確には分からない。正確にしてほしいという方に
どんなに小さい正数$\epsilon$をとっても、
(十分小さい)適当な正数$\delta$をとれば、
$\|x-a\|\lt\delta$,$x\neq a$ならば、常に、$\|f(x)-b\| <\epsilon$が成り立つ時、
$b$を、$x$が$a$に限りなく近づくときの関数$y=f(x)$の極限(あるいは極限値)といい、
記号では、$\lim_{x \to a}f(x)=b$と表す。

の中の関数の極限を参照のこと
 

(4)関数の極限の性質
今後は、表現を短くするため、 
$a$に限りなく近づく」ことを、
単に「$a$に限りなく近づく」と書く。
$\alpha,\beta$は任意の実数とする。
関数$y=f(x)$と$y=g(x)$は、$x$が$a$と異なる値をとりながら$a$に限りなく近づく時、極限を持つ
と仮定する。
この時以下の性質が成り立つ。
性質ⅰ)線形性
$y=\alpha f(x)+\beta g(x)$も、$x$が$a$と異なる値をとりながら$a$に限りなく近づく時極限を持ち
$\lim_{x \to a}(\alpha f(x)+\beta b g(x)=\alpha \lim_{x \to a}f(x)+\beta \lim_{x \to a}g(x)$  
性質ⅱ)
$y=f(x)g(x)$は、$x$が$a$と異なる値をとりながら$a$に限りなく近づく時、極限を持ち、
$\lim_{x \to a} f(x) g(x)=\lim_{x \to a} f(x)\lim_{x \to a} g(x)$  性質ⅲ)
$\lim_{x \to a} g(x) \neq 0$ならば、
$y=f(x)/g(x)$は、$x$が$a$と異なる値をとりながら$a$に限りなく近づく時、極限を持ち、
$\lim_{x \to a} f(x)/g(x)=\lim_{x \to a} f(x)/\lim_{x \to a} g(x)$ 
 
(5)ベクトルに値をとる関数の極限
$x$を実変数とする。実変数のベクトル値関数 $\vec y=\vec f(x)$において、独立変数$x$が、$a$と異なる値をとりながら$a$に限りなく近づくとき、
それに対応する従属変数の値$\vec f(x)$が、限りなく、ある一つのベクトル$\vec b$に近づくとき、
$\vec b$を、$x$が限りなく$a$に近づく時の関数$\vec f(x)$の極限といい、
$\lim_{x \to a}\vec f(x)=\vec b$と記号で表示する。
  

(6)ベクトル値関数の極限の性質 
ⅰ)線形性  
$\alpha,\beta$は任意の実数で、
関数$\vec y=\vec f(x)$と$\vec y=\vec g(x)$は、$x$が$a$と異なる値をとりながら$a$に限りなく近づく時、極限を持つ
と仮定する。すると
$\vec y=\alpha \vec f(x)+\beta \vec g(x)$も、$x$が$a$と異なる値をとりながら$a$に限りなく近づく時極限を持ち
$\lim_{x \to a}(\alpha f(x)+\beta b g(x)=\alpha \lim_{x \to a}f(x)+\beta \lim_{x \to a}g(x)$ 
ⅱ)ある直交座標系を定め、ベクトルを第一成分(x軸成分)、第2成分(y軸成分)、第3成分(z軸成分)で表示する。この時、
$\lim_{x \to a}\vec f(x)=\vec b$であることの必要十分条件は
すべてのi=1,2,3に対して$\lim_{x \to a}f_i(x)= b_i$

 

これ等の性質は、実数値関数の場合にも成り立つ。
証明は各自試みてください。 
ベクトル値関数の場合も、全く同じように証明できる。 
 

(7)微分可能と導関数
実変数ベクトル値関数$\vec y=\vec f(x)$が  
$x=a$において微分可能とは、 
$x$が$a$と異なる値をとりながら$a$に限りなく近づく時、 
実変数ベクトル値関数$\frac{f(x)-f(a)}{x-a}$が、極限を持つこと。 
この極限$\lim_{x \to a} \frac{f(x)-f(a)}{x-a}$を  
関数 $\vec y=\vec f(x)$の$x=a$における微分係数といい、 
記号では$\vec {f'}(a)$あるいは$\frac{d\vec f}{dx}(a)$などと書く。 
  性質     
実変数ベクトル値関数$\vec y=\vec f(x)$を、直交座標系XYZの成分で、
$\vec f(x)=(f_1(x),f_2(x),f_3(x))$と表示しておく。
関数$\vec y=\vec f(x)$が  
$x=a$において微分可能のとき、
$x=a$における微分係数$\vec {f'}(a)$を、直交座標系XYZの成分で表示すると、
$\vec {f'}(a)=(f_1'(x),f_2'(x),f_3'(x))$
(8)微分係数の幾何学的意味 
接線の傾き。
接点
関数の接線は、接点の近くで、この関数を近似する。

(9)導関数と微分  
今後は、関数$\vec y=\vec f(x)$を、単に$\vec f(x)$と書くこともある。
この記法では、$x$が独立変数、$\vec f(x)$が、対応する従属変数の値を表す。
実変数ベクトル値関数$\vec f(x)$において、
$x$の任意の値$x=a$に対して、微分係数$\vec {f'}(a)$が存在するならば、
$a$に$\vec {f'}(a)$を対応させると、実変数ベクトル値関数が得られる。
この関数を関数$\vec y=\vec f(x)$の導関数といい、
$\vec y'$、$\vec f'(x)$、$\frac{d\vec f}{dx}$などと書く。
関数$\vec f(x)$の導関数$\vec {f'}(x)$を求めることを、 $\vec f(x)$を$x$について微分するという。

(10)微分の性質
1) 線形性、
実数値関数の場合;
ベクトル値関数に場合;
2)2つの実数値関数の積の微分
3)2つのベクトル値関数の内積の微分
4)2つの実数値関数の合成関数の微分
5)ベクトル値関数と実数値関数の合成関数の微分
6)2つの実数値関数の商の微分


初等関数の導関数   
  物理学で良く使う関数の導関数だけ紹介する。  
  ・$y=x^n$
  ・$y=sin x$
  ・$y=cos x$
・$y=x^a$ $(a\neq 0)$
・$y=log_a x$ $(a>0,a\neq 1)$
・自然数$e$と自然対数  
接線
  微分可能関数は任意の点の近くで接線で近似できること。

等速円運動の速度

質点が$xy$ 平面上の原点 O を中心とする半径 $r$の円上を等速$v$で運動するとする。
質点の角速度$\omega$は、$\omega=v/r$(ラジアン/単位時間)である。
時刻$t$の質点の位置ベクトル$\vec{r(t)} $の$x,y$座標を$(x(t),\ y(t))$、極座標を(r、$\theta(t))$と書くと、
$x(t)=r\cos(\theta(t)),\qquad y(t)=r\sin(\theta(t))$
$\theta(t)=\omega t + \theta_0$
 ここで$ \theta_0$ は、時刻0における質点の位相角である。
これらを時間tで微分すると、速度のx成分とy成分
$\dot{x(t)}=-r\sin(\theta(t))\dot{\theta(t)}$
$\dot{y(t)}=r\cos(\theta(t))\dot{\theta(t)}$
が得られる。
但し、$\dot{x(t)}$ は、関数$x(t)$ を時間変数$t$で微分したことを意味する記法で、
$\dot{x(t)}=\frac{dx(t)}{dt}$ ということである。
$\dot{\theta(t)}=\omega $なので 
速度ベクトルは$\vec{v(t)}=(\dot{x(t)},\dot{y(t)})=(-r\sin(\theta(t))\omega ,r\cos(\theta(t))\omega)$,
このベクトルは、質点の位置ベクトル$\vec{r(t)}=(x(t),y(t))=(r\cos(\theta(t)),r\sin(\theta(t)))$
と直交している。
何故なら、$\vec{r(t)}$の傾きは$\tan(\theta(t))$、$\vec{v(t)}$の傾きは$-\frac{1}{\tan(\theta(t))}$なので、傾きの積が-1となるからである。
関連事項については次の記事を参照のこと。
ウィキペディア(円運動)

加速度

質点の加速度は、速度が単位時間あたり幾ら変化するかを表わす、ベクトルである。   
速度と同じように平均加速度と瞬間加速度が考えられるが、単に加速度といえば瞬間加速度のことである。

平均加速度

任意の時刻$t$における質点の速度が$\vec{v(t)}= \dot{\vec{r(t)}}$で表される時、
時刻$t$と時刻$s$の間の平均の加速度は、
$(\vec{v(s)}- \vec{v(t)})/(s-t)=(\dot{\vec{r(s)}}- \dot{\vec{r(t)}})/(s-t)$
で定義する。平均加速度はベクトルである。

瞬間加速度、略して加速度

落下する物体は、速度を増すが、その増し方も絶えず増加する。
そのような運動の速度の増加の仕方を正確にとらえるためには、平均加速度をとる時間間隔s-tを無限に小さくした時の、平均加速度を考える必要がある。
これを時刻$t$における瞬間加速度というが、物理学では、単に加速度と言えば、瞬間加速度のことをいう。
数式を用いると、時刻$t$の加速度$\vec{\alpha(t)} $は、
$\vec{\alpha(t)}=d\vec{v(t)}/{dt}$
$\vec{v(t)}= d\vec{r(t)}/dt$なので、
$\vec{\alpha(t)}=d^2\vec{r(t)}/dt^2$ と書ける。 加速度については、下記の記事も参照のこと。
ウィキペディア(加速度)

等速円運動の加速度

質点が xy 平面上で原点 O を中心とする半径 r の円上を等速で運動するとき、加速度はどうなるか?
速度ベクトルは$\vec{v(t)}=(\dot{x(t)},\dot{y(t)})=(-r\sin(\theta(t))\omega ,r\cos(\theta(t))\omega)$ であった。すると加速度は$\vec{\alpha(t)}=\frac{d\vec{v(t)}}{dt}=-r\omega^2(\cos(\theta(t)),\sin(\theta(t)))=\frac{v^2}{r}(-\frac{\vec{r(t)}}{r})$ となる。すなわち大きさが$\frac{v^2}{r}$で向きは、質点の位置から運動の中心である原点Oに向いた、ベクトルである。
以下の記事も参考にしてください。
ウィキペディア(円運動)

時間、長さ、速度、加速度の単位

色々な単位系があるが、通常はSI国際単位系が用いられる。
この単位系では時間や長さ等、基本的なものを基本単位として定める。
その他の速度や加速度、力等の単位は、それぞれの定義や物理法則を利用して、基本単位を用いて組み立てる。
これらはSI組み立て単位と呼ばれる。

例えば、速度の定義は、
$\vec{v(t)}=\frac{d\vec{r(t)}}{dt}=\lim_{s \to t}(\vec{r(s)}- \vec{r(t)})/(s-t)$
なので、単位は距離の単位$m$(メートル)を時間の単位$s$(秒)で割った、$m/s$ である。
加速度の単位は、その定義が
$\vec{\alpha(t)}=d\vec{v(t)}/{dt}$
なので、$m/s^2$ である。

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