物理/熱と熱現象(4)熱力学の第二法則とエントロピー

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目次

 熱力学の第2法則とエントロピー 

 熱力学の第2法則 

次の同等な原理を、熱力学の第2法則という。
これらは、カルノーの研究や永久機関の失敗を経て、自然の基本法則として認められるようになった。

トムソンの原理
ただ一つの熱源から熱を吸収して、それを全て仕事に変え、それ以外の変化は残さないサイクル機関は存在しない。

クラウジウスの原理
他には何の変化も残さず、低温の物体から高温の物体に熱を移すことは出来ない。

高温物体を低温物体に接触させると、高温物体から低温物体に熱が移動し、
しばらくすると、熱平衡状態になる。
この過程が不可逆であると主張するのが、クラウジウスの原理である。
質点や質点系の運動は、すべて、理想条件下で(熱としてエネルギーが失われなければ)、可逆である。
熱現象は、次節で説明するように、膨大な個数の分子の熱運動が原因であるが、
こうした膨大な個数の分子の運動は、不可逆になるという不思議なことが、
自然界で起こっている。

命題;
上記の2つの原理は同値である。
証明;
(1)まず、トムソンの原理(T)が不成立UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-44-QINUと仮定する。すると、
クラウジウスの原理(C)が不成立UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-45-QINUであることを示そう。
UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-46-QINU が示せれば、対偶命題である UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-47-QINU が言える。
仮定 UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-48-QINU から、
ある一つの熱源から熱 UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-49-QINU を吸収し、それを全て仕事 UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-50-QINU に変え,それ以外に何の痕跡も残さないサイクル機関が存在する。
この熱源より温度の低い熱源を用意し、
この2つの熱源を用いたカルノー機関を、この仕事 UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-51-QINU を全て用いて逆行させる。
すると低温熱源から ある熱量 UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-52-QINU が吸収され、
高温熱源に、UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-53-QINU の熱が放出される。
この2つの過程をあわせると、
低温熱源は、熱量 UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-54-QINU を失い、 高温熱源は、UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-55-QINU の熱を吸収し、他には何の変化もない。
クラウジウスの原理は不成立(UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-56-QINU)。

(2)UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-57-QINU を示す。
ある低温物体からある高温物体に、他には何の変化も残さず、熱(UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-58-QINU と書く)を移すことができるとする。
この高温物体から、熱 UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-59-QINU を吸収して、
その一部を仕事Wに転化し、残りUNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-60-QINUをこの低温物体に放出する
カルノー機関を一サイクル運転する。
両過程を合計すると、
高温物体の熱収支は零、
低温物体は UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-61-QINU の熱を吸収(UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-62-QINU の熱を放出)し、仕事 UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-63-QINU を生み出している。
故に、トムソンの原理は不成立。

(注)サイクル機関であることがポイントである。
気体の準静的な等温膨張では、
気体はただ一つの熱源から熱を吸収し、それをすべて仕事に変える。
しかし気体の体積は大きくなり、サイクル運転はできない。

 不可逆過程とエントロピー

 不可逆変化と具体例

可逆過程とは、外界に変化を残さずに最初の状態に戻せる過程のことであったが、現実の殆どの変化は可逆ではない。
例えば
・高温物体と低温物体の接触による熱移動。高温物体への熱移動は起こらない。(熱力学の第2法則)
・理想気体の真空への自由膨張
・非静的な熱現象
・摩擦による熱発生

 不可逆な熱機関の効率

命題
効率最高のサイクル熱機関は、可逆である。
証明;
この機関を一サイクル運転する。
高温熱源から UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-64-QINU の熱を吸収し、UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-65-QINU の熱を低温熱源に放出するとする。
一サイクル後の熱媒体の状態は最初の状態と一致するので、
熱力学の第一法則から、外部への仕事は UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-66-QINU 
この機関の効率 UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-67-QINU がカルノー機関と同じなので
カルノー機関を一サイクル動かして高温熱源から UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-68-QINU の熱を吸収したとき、
低温熱源に放出する熱は UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-69-QINU 、外部への仕事は W と一致する。
そこで、仕事 W を使ってカルノー機関を逆行運転すると、
低温熱源から熱 UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-70-QINU の熱を吸収し、高温熱源に熱 UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-71-QINU を放出する。
2つの熱源はともに元に戻り、外部への仕事もなく、系の状態は元に戻った。
従って、効率最高のサイクル熱機関は可逆である。

この命題から、次の命題が得られる。
命題
不可逆過程をふくむサイクル熱機関の効率は、カルノー機関の効率よりも常に小さい(カルノーの第2定理)。

 エントロピー

高温UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-72-QINU熱源と低温UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-73-QINU熱源を用いた可逆なサイクル熱機関の効率 UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-74-QINU は、
UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-75-QINUであった。
ここで UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-76-QINU は高温熱源が放出する熱量、UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-77-QINU 低温熱源の吸収する熱量。
これより、 UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-78-QINU
が成立する。
高温熱源UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-79-QINUと低温熱源UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-80-QINUを用いた不可逆過程の熱機関では
効率が可逆機関より低いので、
UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-81-QINU
が成立する。
このことから、エントロピー  UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-82-QINU という重要な概念が導入された。

エントロピーの定義

定義;系のエントロピーの変化量
  熱力学的な系が、絶対温度Tの熱源から熱量 UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-83-QINU を準静的 に吸収するとき、
  系のエントロピーは UNIQ28cf7aee59b0beba-MathJax-84-QINU 変化したという。
 

エントロピーは系の状態量

エントロピーの増大法則

熱はエントロピーが増大する方向に移行する(エントロピー増大則)。

エントロピーについては以下を参照のこと。

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