物理/静磁気と静磁場

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$\Large{5.3 静磁気と静磁場}$ 

古代ギリシアでは、鉄を引き寄せる石として磁石はすでに知られていた。
磁石は互いに引き合ったり反発したりする。
このような現象の根源となるものを磁気という。

目次

磁石について

磁石はN極とS極という2種の磁極を対で持つ磁気双極子である。
2つの磁石のS極どうしを近づけたり、N極どうしを近づけると反發し、
S極とN極を近づけると引き合う。
電荷と同じような性質をもつのである。
そこで、かっては、静電気にならって、S極には負の磁荷が、N極には正の磁荷があり、
これにより磁気作用が現れると考えられた。
磁荷の間にも、次項で説明するように、クーロンの法則が成り立ち、
磁荷は電荷と極めて類似した性質を持つ。
しかし両者には、決定的な違いがある。
それは、正の磁荷や負の磁荷が、
現在まで、単独では自然界に発見されず、実験でも作り出せていないことである。
例えば、磁石を、N極とS極に分けようと切断しても、
N極のあるほうの切断面にS極が、S極のほうの切断面にはN極が現れてしまう。

磁荷と電荷の決定的違い

そこで現在では、次の仮説が正しいと考えられている。

仮説 どのような物体中にも、
N極だけ、あるいはS極だけの磁荷(単磁荷という)は存在せず、
必ず同じ大きさの正負の磁荷が対になって存在する。
従って、どんな物体でも、物体全体の磁荷は零になる。

電磁気学は、この仮説のもとに、理論が作られている。
詳しくは

磁気双極子

正負の同量の磁極の対を磁気双極子という。
磁石も磁気双極子である。
静磁気現象は、多数の磁気双極子のつくる磁場の 研究である。
一つの磁気双極子がつくる磁場は、 「1.3.4.7  電気双極子」の作る電場と全く同じように議論できる。


磁荷や磁気現象の根源について

それでは、なぜ単独磁荷は存在しないのか、
そもそも磁荷とは何者で、なぜ磁気現象は起こるのか。
また磁気現象と電気現象の間には、どのような関係があるのだろうか。
これらの疑問の解明への道は、エルステッドの実験で開かれた。

磁気現象の根源

エルステッドは、方位磁石を水平に置き、
この真上に、この磁針と平行になるように導線を南北方向に水平にはり、
導線に南から北に向かう電流を流すと、
磁針が少し回転し、N極(正の磁荷)の磁針が西の方に移動するのを発見した。

ファイル:GENPHY00010503-01.pdf
図 エルステッドの実験

電流は磁場を作るという事実が明らかになった。
これが契機となり、電流の磁気作用が詳しく研究され、
電荷の運動(電流)が磁気現象の根源であると認識されるようになった。
電流の磁気作用については、
次項「5.4 電流と磁場」で説明する。
磁石も原子の中の電荷(電子)の運動が原因であることが分かった。
物質を構成する各原子はその電子の運動により磁場を作る(仮に原子磁石と呼ぶ)が、
通常は、この方向が各原子でバラバラなため、互いに打ち消し合って、
物質は磁場を持たない。
しかし、何らかの条件が整うと各原子磁石の磁場の方向が略揃い、物質が磁場を作る。
これが磁石である。

磁荷のクーロン則

S極どうしやN極どうしの磁荷は反発し合い、異種の磁荷どうしは引き合う。
そこで、電荷にならってN極の磁荷の大きさは正、S極の磁荷の大きさは負の数で表すように決めた。
単磁荷は存在しないが、対になる磁荷の影響を小さくしたクーロンの実験により、
磁荷間の力についても、電荷間に働くクーロン力と同じ形の力が働くことが分かった。

磁荷のクーロン法則
位置ベクトル $\vec {r_1}$ にある磁荷 $m_1$ に、
位置ベクトル $\vec {r_2}$ にある磁荷 $m_2$ が及ぼす力 $\vec{F_{1,2}}$ は
$\vec{F_{1,2}}=k_m \frac{m_1m_2}{r^2}\frac{\vec {r_1}-\vec {r_2}}{r}\qquad \qquad \qquad \qquad (1)$
ここで $r=\|\vec {r_1}-\vec {r_2} \| \qquad $(磁荷間の距離) 
$\qquad k_m=\frac{10^7}{(4\pi)^2}=6.33\times 10^4[Nm^2/Wb^2]\qquad (2)$
は比例定数。これは、次のように表されることが多い。
$k_m=\frac{1}{4\pi \mu_0 }\qquad \qquad \qquad \qquad (3)$
ここで、
$\mu_0=\frac{1}{4\pi k_m}=\frac{4\pi}{10^7}=1.257\times 10^{-6}[Wb^2/Nm^2]\quad (4)$

磁荷の単位

磁荷のクーロンの法則、式(2)に基づき、
真空中に同じ大きさの磁荷A,Bを1m離して置いたときに、
  $6.33 \times 10^4[N] $の力を及ぼし合うとき、
  磁荷の大きさを1Wb(1ウェーバ)ときめる。

磁場と磁力線

電荷の場合と全く同じように、磁荷の間の力を近接作用としてとらえる。
  すると、磁荷によって周りの空間は磁気的に歪み(磁場あるいは磁界という)、
  ここに他の磁荷を置くと、その点の磁場によって力を受けると考えられる。
  各点Pにおける磁場$\vec{H}_P$は、
  その点に置いた磁荷が受ける、単位磁荷(1Wb)当たりの磁気力で定義する。
  従って、点Pに置いた磁荷 m の受ける力は、
  $\vec F=m \vec{H}_P\qquad \qquad \qquad \qquad (5)$
  で表せる(注参照)。
  この式から明らかなように、磁場の単位は[N/Wb] となる。
(注)点Pの電荷qが電場から受ける力は$\vec F=q \vec{E}_P$だった。全く同じ形式である。
   ● 磁力線:N極の磁荷を正の電荷に対応させて考えると、
  電場に対応して電気力線を考えたように、磁場にたいして磁力線を考えることができる。

磁場に対するガウスの法則

電荷のクーロン法則から、
電場のガウスの法則が導き出された。
磁荷についても同じ形のクーロン法則がなりたつので、
磁場$\vec H$に対しても同様な議論をすると、
次のようなガウスの法則が導かれる。 

  磁場に関するガウスの法則
任意の形状の立体Vの表面Sを貫いて出ていく磁力線の総数=0$\qquad \qquad (6)$

証明
電場のガウスの法則の場合と完全に同じ議論により、
任意の形状の立体Vの表面Sを貫いて出ていく磁力線の総数=立体V内部の総磁荷/$\mu_0$
V内部の磁荷の総和は常にゼロなので、(6)式が成立する。

静磁荷の作る静磁場は保存力場

磁石のような磁気双極子のつくる静磁場は、
静電力場と同じ議論ができて、保存力場であることが分かる。
空間に基準点を決めれば、
この点から見た空間の各点の磁位(ポテンシャルエネルギー)も、
電位と全く同じように定められる。
(注)電流がつくる磁場は保存力場にならない。
磁場は、必ず保存力場になる電場とは決定的な違いがある。
これについては、次項「5.4 電流と磁場」で説明する。

磁性体RT

通常の物質は磁気をもたない。
各原子磁石の方向がばらばらで磁力が打ち消し合っているからである。
磁界Hの中に物質をおいたらどうなるであろうか?  
全ての物質は磁界内で磁化する。次の3つの磁化の仕方がある。

 常磁性 

ある物質では、多くの原子磁石が磁界からの力によって動き、向きがある程度揃う。
このため磁界の上流側にはS極(-)が、下流側にはそれと同量のN極(+)が現れる。
この磁極の出現で、物質内には、外部の磁界Hと逆方向の磁界H'が発生してHを打ち消し、
物質内の磁界は小さくなる。これを常磁性  という。

 強磁性 

もっと原子磁石の方向が揃う物質では、
物質内に強いS極、N 極が現れH'が大きくなり、
物質内ではHと逆方向の磁界となる。
強磁性 という。
強磁性の物質を強い磁界に置き磁化させ、外部の磁界をとりさると、
原子磁石の向きがある程度揃ったままに留まり磁石ができる。

 反磁性 

大部分の物質では、磁界Hをかけても原子磁石の向きが殆ど変わらず、
電子の円電流を貫く磁束が変わるため、
電磁誘導により磁束の変化を妨げる起電力が生じて円電流が変化するため
磁界H の上流側に弱いN極、下流側に同量のS極が現れる。
これを反磁性 という。

 物質の透磁率

 磁界と磁束密度

磁束密度と物質の透磁率

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