論理的思考法/帰納的推論

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帰納法

簡単な例を考える.

ある過多な飲酒僻がある人が,友人に自分が泥酔する原因はアルコールにあるのではないと主張し,自身の体を使って以下の実験を行った.

  • 日曜 ウイスキーの水割りを多量に飲用した
  • 月曜 ウォッカのオンザロックを多量に飲用した
  • 火曜 ブランデーと炭酸水を多量に飲用した
  • 水曜 ワインとミネラルウォーターを多量に飲用した
  • 木曜 ジントニックと炭酸水を多量に飲用した
  • 金曜 テキーラとミネラルウォーターを多量に飲用した
  • 土曜 リキュールとミネラルウォーターを多量に飲用した

当然ながら,この人物は1週間毎日泥酔した.そして,日曜日に自分が飲用したものには全て水が共通している. よって自分が泥酔する原因は水であると主張した.


この人物の主張の正当性は別にして,推論法には演繹推論によらない 帰納法がある. 既知の事実を確認するのではなく,未知の現象を解析するには,有効な手段である.実際,科学の発見の大多数は,既知の事実から演繹推論によって 導き出した結論ではなく,実験を繰り返したり,何回も経験した事実の観察を通して得られたものである. このため,帰納法を推論手段として,適切に用いることは,重要である.

「帰納(きのう、英: Induction、希: επαγωγή(エパゴーゲー))とは、個別的・特殊的な事例から一般的・普遍的な規則・法則を見出そうとする論理的推論の方法のこと。演繹においては前提が真であれば結論も必然的に真であるが、帰納においては前提が真であるからといって結論が真であることは保証されない。 」(Wikipedia)


数学的帰納法は 帰納法という名前ではあるが演繹推論である. これは自然数についての基本的な公理 「自然数の任意の空でない集合は 最小元をもつ」(ペアノの公理)によって命題を証明する.

自然数$n$についての命題$P[n]$について

  1. $P[1]$が成り立つ
  2. 「$P[k]$ならば$P[k+1]$である」が任意の自然数$k$について成り立つ

という条件から  任意の自然数$k$について$P[k]$が成り立つ というものである.

これの正当性は以下による.

結論「任意の自然数$k$について$P[k]$が成り立つ」 の否定を仮定すると

 「ある自然数$k$が存在して$P[k]$が成り立たたない」

となる.

すると $P[k]$が成り立たない自然数$k$全部の集合を$L$とすると 上の仮定から$L$には少なくとも一つそのような自然数$k$ が属するから空集合ではない.

(ペアノの公理)から$L$には最小元$k_0$が存在する. $P[1]$が成り立っているから$1$は$L$には属さず$k_0$とは異なる. よって$1 \lt k_0$ である.これから$2 \leq k_0$ であり,

$1 \leq k_0-1$ が導かれ, $k_0-1$は自然数である,

しかも

$k_0-1 \lt k_0$  

である. ここでもし$P[k_0-1]$が成り立たないとすると $k_0-1$は$L$に属することになる. 

しかし$k_0-1 \lt k_0$であるから $k_0$は$L$の最小元であることに矛盾する.

従って $P[k_0-1]$ が成り立っている.

すると,帰納法の条件2から$P[(k_0-1)+1]$ すなわち$P[k_0]$が成り立つ. 

これは$k_0$が$L$の元であることに矛盾する.

この矛盾は結論「任意の自然数$k$について$P[k]$が成り立つ 」の否定を仮定したことによる.

よって 任意の自然数$k$について$P[k]$が成り立つ 


   

帰納法の利用

帰納法は様々な場面に使われている. 例えば2020年1月頃から世界的に流行している新型コロナウイルス の災禍について,日本や台湾などが他国と比較して感染による死亡者が少ないことについての結核予防のBCG注射を国民全員に施していることが原因とする主張が国内で数多くみられた。またその主張の正当性の根拠になりうる研究資料も公表されている.


BCGワクチン接種義務の制度化が新型コロナウイルスの拡散率を低下させる可能性を示唆 (京都大学)

BCGと新型コロナウイルス感染症の問題 (結核研究所 副所長 慶長直人,生体防御部部長 土方美奈子)


上記に述べられているように「BCGを定期接種している国では,新型コロナウイルス感染者あるいは死亡者が少ないように見えるとい う統計的な観察」 は2020年7月時点の世界の感染状況を正しく反映している.

前述の「前提が真である」が成り立っている,

この推論が正しいのかどうかは現時点(2020年12月)では不明である。 統計上はBCG注射との高い相関がみられるが, 一方これらの国は高度な医療制度があり国民の衛生意識や日頃から風邪をひいた際にはマスクを常用して他者への感染を防ぐ努力をするなど規範意識が高い.これらが起因しているかもしれない. 既に述べたように「結論が真である」ことは保証されない.

しかしながら,米国,イギリスの製薬会社がワクチン製造で最終的な治験の成功を公表し,日本でそれらの接種が近々行われる 状況にあるとは言っても,上記の推論が正しければ今後の日本の対応に有用な情報を提供している. 帰納法は未知の現象を解析するには有効な手段である.

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