物理/電気と磁気(2) 電流と磁界

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物理10章 電気と磁気(2) 電流と磁界

目次

電流と磁界

この節では静止した電荷でなく動く電荷の性質をしらべる。

電流

電荷の流れを電流という。
多くの場合は、導体中の自由電子が動いて電流となる。
電解液(イオン溶液ともいう)では、正負のイオンが動いて電流となる。
電流によって電荷は移動し、後に学ぶように、磁界を発生する。

定常電流

時間がたっても変化せず、一定に流れる電流のこと。この章では、単に電流といえば定常電流をさす

電流の向きと大きさの単位

電流の向きは、正の電荷の流れる向きと定める。
電子が移動する電流のばあい、電流の向きとは逆に電子は動いている。
電流の大きさ(略して電流)は、平行電流が及ぼしあう力(後に学ぶ)によって定められ、アンペア[A]という単位でよばれる。

電流が作る磁界

電流は磁界をつくる。エルステッドは1820年に電流は方位磁針を動かす磁界を作り出すことを発見。

無限に長い直線導線に電流Iを流す時にできる磁界 \vec{H}

実験によると、任意の点Pの磁界 \vec{H(P)} は、大きさは、電流の大きさ I に比例、電流からP点までの距離 r に反比例し、 
向きは、導線とP点を含む平面に直角で、右ねじの進行方向を電流の方向と一致させたときの、ねじの回転する方向である。

アンペールの研究 

アンペールは、詳しい実験と考察により、任意の形状の電流の作る磁界に関するアンペールの法則を明らかにした。
この過程で、実験により、次の重要な原理を発見した。

磁界の重ね合わせの原理

電流 I_1 がP点に作る作る磁界を \vec{H_1(P)},電流 I_2 がP点に作る作る磁界を \vec{H_2(P)} とすると、
2つの電流 I_1と  I_2 が同時に流れた時にP点に作る作る磁界は \vec{H_1(P)+H_2(P)}

環状の電流は磁石のようにふるまう

電流が流れている環状の線が作る磁場は、環の大きさに比べて十分離れたところでは、この環を縁とする板磁石のつくる磁界と同じになる。

アンペールの法則

アンペールは,実験で明らかにした以上の事実から、次のような重要な法則を導いた。

この記述中の「閉じた経路にそって磁場の大きさを足し合わせ」た値は、この経路にそって1Wbの磁荷を一周するとき磁荷が磁界から受ける仕事と同じ値である。
この値がこの閉路を貫く電流 I に等しくなる、というのがアンペールの法則である。 
この電流 I の向きは、電流の向きに進む右ねじの回転方向が、磁荷が閉路を一周するときの回転方向と一致するように定める。
なお、アンペールの法則の導出は少し難しいので、高校では扱わない。

アンペールの法則の応用

アンペールの法則を用いると、対称性をもついろいろな電流の作る磁界が、実験をしなくても、数式の計算だけで求められる。

 無限に長い直線導線に電流Iを流す時にできる磁界 \vec{H}  

直線電流から無限に離れた点の磁界は零と仮定してよい。 直線電流を軸とした回転で対称な現象なので、 \vec{H} は、導線からの距離 r が等しい場所の電界は、この軸の周りの回転で一致するため、大きさはすべて等しい。この値を H(r)と書く。
任意の点Pに電流 I がつくる磁界を \vec{H_I}とすると重ね合わせの原理から、同じ大きさの電流を逆に流すとき、P点の磁界は \vec{H_{-I}} = -\vec{H_I}。 これを上下逆にしてながめると、対称性から \vec{H_I} とおなじにみえなければならないので、 \vec{H_I}は、P点を始点として、 \vec{O(P)P} と直交したベクトルである(ここでO(P)はP点から直線電流におろした垂線の足)。
さらに直線状の導線から距離r_1r_2にある長さlの線分を対辺とする長方形にアンペールの法則を用いると「\vec{ H_I}のIと平行な成分」は電流からの距離に無関係な値になることが分かる。無限遠点では零なので、どこでも零であることが分かる。ゆえに磁界は電流と直交。
その向きは、「電流と垂直に交わり、かつ、電流を中心とする半径 r の円」の接線の、(電流の方向に進む)右ねじの回転方向である。従って、この円に沿って1Wbの磁荷を一周させるとき、磁荷の受ける仕事は、 2\pi r H(r) となる。アンペールの法則から、  I=2\pi r H(r) ∴ H(r)=I/2 \pi r

ソレノイドの作る磁界

円筒形の長い中空の筒に導線を一様に密にまいたコイルをソレノイドという。1mあたりn巻きしているとする。これに電流Iを流した時にできる磁界を求めよう。 
厳密な解は難しいので、近似解をアンペールの法則から求めよう。
コイルを流れる電流はコイルの各場所で右ねじの方向の磁界を発生させる。これらがある場所では強めあい、他の場所では弱めあって、現実の磁界が出来る。
ソレノイドの外側の側面の近くの磁界は、反対側の側面の電流のつくる磁界と弱めあい、ほぼ零。
ソレノイドの内側の磁界はつよめあうので大きい。ソレノイドが、その軸のまわりの回転に関して対称なので、磁界の方向はソレノイド軸と平行で、磁界の大きさは、軸からの距離の等しいところでは同じ。
さらに軸からの距離に関係なく同じ大きさ(Hと書く)であることが、アンペールの法則から、次のように証明できる。
軸に平行で、軸からの距離 r_1と軸からの距離 r_2の長さlの線分を対辺とする、ソレノイド内部の長方形を考えろ。これにそって1Wbの磁荷を動かす時に磁荷の受けるエネルギーは、この長方形を貫く電流の大きさ零に等しい。これより導ける。
内側の磁界の大きさは、H=nI。 何故なら、ソレノイドの軸と平行で長さがlの2本の線分(一方はソレノイドの外側で側面に近いもの、他方はソレノイド内部)を対辺とする長方形を考え、これにアンペールの法則を適用すれば、これを一周する1Wbの磁荷のうける仕事=Hl,これがこの長方形を貫く電流総和=nlI に等しい。

もっと一般の電流の作る磁界

アンペールの法則から直接計算するのは難しい。アンペールの法則と磁界の重ね合わせの原理から、磁界計算に大変都合のよい、ビオ・サバールの法則がえられる。これについては大学で学ぶ。興味のある方は

をご覧ください。

磁界が電流に及ぼす力

アンペールは、電流は磁石に力を与えるので、(作用・反作用の原理から)磁石は電流に力を与えるはずであると考えた。
さらに電流は磁石と同じ作用を持つので、電流は電流に力を及ぼすと考え、実験で次の事実を明らかにした。

2本の平行な直線状の電流が及ぼしあう力

2本の平行な導線に、それぞれ電流I_1,I_2を流すと、それらの電流の単位長さあたりには、次のような力 \vec{F}が働く。
大きさはF = k\frac{I_1 ,I_2}{R}, , ,(1)
ここでR は平行線間の距離、kは正の比例定数。Fの単位は[N/m]
\vec{F}の向きは、
I_1I_2が同じ向きならば相手の電流から引力をうけ、相手の導線へおろした向きつき垂線とおなじ向き、
電流の向きが異なるならば斥力で、相手の導線へおろした向きつき垂線と逆の向きとなる。
この事実にもとずいて、次のように、電流の単位が定められる。

電流の単位アンペア[A]

等しい強さの2本の平行な直線状の電流を1m 離しておいた時、それぞれの平行線に1mあたり、2 \vartimes 10^{-7}  N/m の力が作用する時1Aと決める。
すると(1)式より、2 \vartimes 10^{-7}[N/m] = k\frac{1[A^2]}{1[m]}, 故に比例定数は、k=2\vartimes 10^{-7}[N/A_2]=\frac{\mu _0}{2 \pi}。ここで、\mu _0= 4 \pi\vartimes 10^{-7}[N/A^2]は真空の透磁率とよばれる。

平行電流に働く力の近接作用による表現

電流I_1は、電流I_2が作った磁界から力を受けると考え、1mあたりに働く力の大きさFを、F = \frac{\mu _0}{2 \pi}\frac{I_1 ,I_2}{R}= I_1 \mu_0 \frac{I_2}{2 \pi R} と変形。直線電流I_2が作る磁界の大きさは電流I_1のところでは H_{I_2}{(R)}=I/2 \pi R であることが分かっているので、F =  I_1 \mu_0  {H_{I_2}{(R)}} 。そこで \vec{B} = \mu_0  \vec{H} で、磁束密度という変量を導入すると、F =  I_1  |\vec{B_{I_2}{(R)}}| = I_1  B_{I_2}{(R)} が得られる。

磁界中の電流がうける力

① 磁界が同じならば、それが何によって作られたものであるかに関係なく同じ力をうけるはずである。
したがって磁界Hに直行する電流Iの受ける力は、
1mあたりF=\mu_0IH=IBの大きさで、
向きは、電流の向きから磁界の向きへと右ねじを回す時のねじの進行方向。
② それでは、磁界と電流が直交しないときに受ける力はどうなるのだろうか。
実験によると磁界と電流が平行ならば、電流は磁界から力を受けないことが確かめられる。
これら2つの事実から、電流と磁界のなす角度を\theta とすると、
磁界中の1mの導線の電流に働く力 \vec{F}は、
大きさが、F=\mu_0IH\sin\theta=IB\sin\theta
向きは、電流の向きから磁界の向きへと右ねじを回す時のねじの進行方向,のベクトル
であることが示せる。

ベクトル積またはクロス積

電流が磁界から受ける力 \vec{F}は、以下の、ベクトル積(クロス積とも呼ばれる)を使うと正確に、簡単に記述できる。

これを用いると、磁界から電流の受ける力は,1mあたり、
 \vec{F}=\mu_0\vec{I}\times\vec{H}=\vec{I}\times\vec{B}  \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad   (10-1)
ここで、  \vec{I} は、大きさがIで、方向が電流の方向と一致するベクトルで、電流ベクトルと呼ばれる。

ローレンツ力

磁界中では電流は力を受ける事が分かった。電流とは運動する電荷なので、運動する電荷は磁界から力を受けることになる。
それでは、速度\vec{v} で運動する電荷eはどのような力を受けるのだろうか。 
電流に働く力から、この力を導こう。
導線の断面積をS[m^2]とし、そこを電荷e(\gt 0)が、電流方向に速さ v[m/s]で運動(実際には電荷 -e の自由電子が、電流と逆方向に速さvで運動)しているとする。自由電子の密度をn[個/m^3]とする。

電流 I と電荷の速さ v との関係

電流がI[A]なので、定義から導線のある断面を通過する電荷量は毎秒I[C/s], 他方、その断面を通過する電荷の個数は毎秒Svn個である。 ∴ I=Svne  

一個の電荷が磁界から受ける力

従って、電流ベクトル\vec{I} と電荷の速度ベクトル\vec{v} の間には、\vec{I}=Sne\vec{v} 
(10-1)式の右辺に、上式を代入すると、  \vec{F}=Sne\vec{v}\times\vec{B}
これが導線1mの受ける力であるが、導線1m中には電荷はSn個あるので、一個の電荷(速度\vec{v})の受ける力は、
 \vec{f}=e\vec{v}\times\vec{B}

ローレンツの法則

電界 \vec{E} \ ,磁束密度  \vec{B} \ の中を、速度 \vec{v} \ で運動する電荷 e は、  \vec{f}=e(\vec{E}+\vec{v}\times\vec{B})  の力を受ける。これをローレンツの法則という。 次の解説を参照のこと。

磁界中を動く導線と誘導起電力

磁界中を動く導線と電界

磁束密度と物質の透磁率

物質の透磁率

磁界と磁束密度

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