物理/熱と熱現象

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目次

熱と熱現象

「今日は熱いね」、「寒いね」は日常生活でありふれた言葉である。
  物を燃やして暖をとる。気温が高ければ、クーラーで空気を冷やす。
  発電所では、物を燃やして、水を沸騰させ蒸気に変えて、この圧力で発電機をまわす。
  日常の生活は、温度や熱の現象に取り囲まれている。
  この節では、原子・分子の運動に立ち入らずに物体を連続体として考えて、
  マクロな熱現象を支配する法則を調べる。
但し、熱現象の根源は原子・分子運動の理解なくして不可能なので、この部分だけは、例外的に原子・分子運動に言及する。
  次の節では、気体の熱現象を、それらを構成する膨大な個数の原子・分子の運動から考察する。

 温度

温度とは、物体が温かいとか冷たいという感覚を定量化した概念である。
温度が正確に数値で表せるようになって、初めて熱現象の正確な法則を調べることが出来るようになった。
それではどのようにして数値化するのか。
次に述べる熱平衡という概念と熱力学の第0法則が決定的役割を果たす。

 熱運動、熱の移動と熱平衡

熱運動

自然界の全ての物質の中では、
これらを構成する全ての分子・原子が絶えずバラバラ、無秩序に振動運動(気体では直進運動)を行っている。
この運動を熱運動という。
この運動が、すべての熱現象の源である。
熱運動が激しい物体ほど触ると熱いと感じる。それは激しく動く分子が皮膚の分子に激しく衝撃を与えるためである。
あまり激しいと皮膚の分子が破壊され、火傷をする。

熱の移動と熱量、熱平衡

全ての物体は長時間、放置すると全体が一様の温かさ(冷たさ)になり、変化がなくなる。 また、熱い物体と冷たい物体を接触させると、
熱い物体は冷えていき、冷たい方は熱くなっていき、やがて両者は同じ熱さになって変化は無くなる。
熱さ(寒さ)が一様になり、変化がなくなった状態を、熱平衡に達したという。 外部と孤立した状態にある物質(あるいは幾つかの物質)は、十分な時間がたつと、熱平衡にたっする。これは、自然界の法則である(注)。
なぜこうなるのか。 18世紀には、熱の元の熱素(カロリック)が熱い方の物体から冷たい方の物体に流れるためと考えられた。
しかし、これは過ちであることが分かった(後述する)。
この理由を分子・原子の運動から考えてみよう。
熱い物体を構成している分子・原子のほうが、冷たい物質の分子・原子より激しく熱運動している。
両者を接触させると、接触面で両者の分子が衝突する。
すると、高温で激しく運動している分子たちのほうが熱運動のエネルギーを失い熱運動が穏やかになっていき温度を下げ、
他方がこのエネルギーを貰い熱運動が激しくなり暖かくなっていくと推測される。
実際、力学の項で説明した2粒子の衝突(弾性衝突)の考えを適用して解析すると、
このことが証明できる。(本テキストでは扱わない)
熱い物体から冷たい物体へのエネルギーの流れを熱の移動という。
この流れたエネルギーをと言い、その大きさを熱量という。
十分に時間がたつと、2物体間の熱の流れは無くなる。
(注)物体外部に温度が変わっていく熱源があり、それと接していれば、熱平衡には達しない。

熱量の保存法則 

熱い物体と冷たい物体を接触させたとき、 熱い物体から流れ出る熱量は、冷たい物体に流れ込む熱量に等しい。
これを熱量の保存法則という。

 熱力学の第0法則

経験や実験によって、
物体AとB、BとCがそれぞれ熱平衡ならば、AとCも熱平衡にあることが知られている。

 2つの物質の温度が等しいとは?

2つの物体を接触させても、両者の冷温に変化がおこらない(すなわち熱平衡にある)とき、
2つの物体の温度は等しいという。
熱力学の第0法則により、AとB、AとCが同じ温度ならば、BとCも同じ温度になり、
熱平衡のとき温度が等しいと決めることは、不都合を起こさないことが保証される。
物体Aと物体Bを接触させたとき、AからBに熱が流れるとき、
Aの温度はBの温度より高いという。
経験により、
①Aの温度がBの温度より高く、Bの温度がCの温度より高ければ、Aの温度はCの温度より高い
②A の温度が B の温度より高く、A' が A と温度が等しく、B' が B と温度が等しいならば、A' は B' より温度が高い
③どんな2つの物体でも、温度は等しいか、あるいはいづれか一方が他方より温度が高い
ということが知られている。
熱力学の第0法則と上記①~③により、温度は数値と同じ順序関係をもつので、温度を数値で表すことは合理的であることが分かる。

 温度の数量化の方法

熱平衡状態にある物体はどの箇所も同じ熱さ・冷たさで、変化がないので、その物体の温度がきまる。温度を数値で表すには、冷温によって変化する物質の性質を利用する。

 熱膨張 

物質(固体、液体、気体)は温度上昇にともなって長さや体積が膨張する。
その理由は物質を構成している分子・原子の熱運動が大きくなって、
分子間の距離が、平均すると大きくなっていくためである。

電気抵抗

[1]


 冷温によって変化する物質の性質を利用した温度の数値化 

物質の暖かさの度合いによって変化する性質(体積とか電気抵抗など)を利用して、温度を数値化出来る。
例えば水銀は温度上昇に伴い体積が増えるので水銀柱は温度の上昇で高くなる。
そこで、一気圧のもとで、氷がとけて水と共存しているとき、これと水銀計を接触させ熱平衡状態になったときの水銀柱の高さに0度(水の融点の温度)、
1気圧のもとで沸騰している水と熱平衡になっている水銀柱の高さに100度(水の沸点温度)をふり、
その間を100等分すると、水銀温度計による摂氏温度が得られる。℃で表す。
  水の融点の温度を32度、沸点を212度としその間を180等分した温度は華氏温度と言い、°F で表す。

熱のカロリック説について 

物体の温度が変わるのは熱の出入りによるのであろうとする考えは古くからあったが、
熱の正体はわからなかった。
  かっては、熱の素(熱素、カロリック)という物質が、温度の高いものには沢山あり, これが温度の低い物体に移動するという
カロリック説が有力であった。

 カロリック説の否定、熱は熱運動エネルギーの流れ

しかし、これは誤りであり、前者から後者へ(分子・原子の)熱運動のエネルギーが移動しているためであると分かった。

この移行するエネルギーをという。
熱について、さらに知りたい方は次を参照のこと。

 熱量の単位

熱の正体が不明の時代に、熱量の単位として、カロリーが次のように定義された。
1気圧のもとで、水1gの温度を14.5℃から15.5℃にあげるのに要する熱量を 1カロリーという。
その後、熱はエネルギーの一形態(エネルギーの流れ)であることがわかり、その単位はエネルギーの単位と同じくジュールJでも表すようになった。

熱量の2つの単位の関係、熱の仕事当量  

ジュールは、実験により、1カロリーは約4Jであることを明らかにした。 その後の詳しい実験により、現在では 1カロリー=4.1855J であるとされている。この値を熱の仕事当量という。

 熱の移動 

熱エネルギーの移動には、熱伝導、対流、熱放射の3つがある。
現実の熱の移動では、この3つが組み合わさっていることが多い。

熱伝導

物質の移動を伴わずに熱エネルギー(分子の熱運動のエネルギー)が物体内部を高温側から低温側に移動する現象である。

対流

気体や液体などの流体中に何らかの原因で温度の不均一が生じたとき
温度の高い部分は膨張し密度が低くなり、温度の低い部分は収縮して密度が高くなるため、
重力によって温度の高い部分が上方に, 温度の低い部分が下方に移動することで、
熱エネルギーが移動することをいう。
また高温や低温の気体や液体を、機械(エアコン、ポンプ等)で移動させる熱の伝達も、対流と呼ぶことがある。
そこで密度差に起因する対流を自然対流、
機械的に生じる対流を強制対流という。

熱放射

物体はその温度に応じてその表面から色々な波長の電磁波を放射する。
そのエネルギーや波長の分布は物体の種類と温度で決まる。
こうして物体は熱運動エネルギーの一部を電磁波のエネルギーとして放出する。
これを熱放射という。 この電磁波が他の物体にあたると、一部が吸収され、この物体の熱エネルギーが増加する。
こうして熱エネルギーが移動する。
この放射・吸収による熱伝達は物体間が真空であっても起こり得るが、
熱伝導や対流は熱を伝える物質(気体、液体、固体など)がないと起こらない。 必要ならば、以下の記事も参考のこと。 ① 熱伝導(ウィキペディア)
② 対流(ウィキペディア)
③ 熱放射(ウィキペディア)

 熱容量と比熱 

物体の温度を1℃上昇させるのに必要な熱量をその物体の熱容量という。単位はJ/℃ である。
固体や液体は温度が1℃ 増えても、体積や圧力に殆ど変化がないので、 この定義で十分だが、気体の場合には体積や圧力変化を無視できない。
そこで、 物質の体積を一定に保ったまま温度を1℃ あげるのに必要な熱量(定積熱容量)と
圧力を一定に保ったまま1℃ 上げるのに必要な熱量(定圧熱容量)を考える。

物質1gあたりの熱容量を、その物質の比熱(あるいはg比熱)と呼ぶ。単位は$\frac{J}{℃\cdot g}$
これも正確には定積比熱と定圧比熱がある。

物質1モルあたりの比熱をモル比熱という。

熱運動と気体、液体、固体

物質は一般に、その熱的状態に応じて、気体、液体、固体の形態をとる。
なぜだろうか?
すでに説明したように自然界の全ての物質を構成する分子・原子は熱運動を行っている。
もしこれらの粒子間に引力が働かなければ、それぞれがかってに飛んでいってしまい、気体となるだろう。
他方、各原子は正の電荷をもつ原子核と負の電荷をもつ電子からなり、
これらの電荷のため分子間力が働き、分子は互いに引き合い塊を作ろうとする。「6章 原子・電子・原子核」を参照のこと。
高温で各粒子(分子・原子)の熱運動が激しいと、
各粒子は電気的結合を逃れて自由に不規則に飛んでいってしまい、気体になる。
温度が下がって熱運動が小さくなっていくとやがて、電気的結合力のほうが優位となり、互いに近接した状態(液体)になる。
さらに温度が下がると圧倒的に分子・原子間力が優位となり、物質は固く結合して固体となる。
固体の中では各分子・原子は熱運動がないときに収まるべき場所を中心にして、
それぞれ勝手に振動(熱運動)している。
このように物質は、熱運動のエネルギーの大きさにより、固体から液体、液体から気体、固体から気体、あるいはこの逆の変化を行う。これを相転移という。

融解熱

昇華熱と気化熱

昇華は固体から気体への状態変化、気化(蒸発)は液体から気体への状態変化である。

 気体の熱的性質

 気体の圧力 

膨大な数の気体分子は激しく動き回っていて、気体中におかれた物体の面に常に多数が衝突して跳ね返っている。
この時物体の面は気体分子から力を受ける。
  単位面積の面に働く力を気体の圧力という。詳しくは次節で学ぶ。

 ボイルの法則 

質量$m$の気体は、温度t℃を一定に保った状態では、
  その圧力 $p$ と 体積 $V$ の積 $pV$ は一定 $\left(温度と質量だけの関数mf(t)\right)$ になる
  という、 ボイルの法則  が近似的に成り立つことが実験等で確かめられている。
記号で書くと、 $pV=mf(t)$
この法則の正確さは気体の種類によって異なるが、気体の密度が小さいときには、 どの気体でもかなり正確に成り立つ。

 シャルルの法則 

気体の圧力$p$を一定に保った状態では、
温度$t^{\circ}C$の気体の体積$V(t)$は
$V(t) \quad =\quad V(0)(1+\frac{t}{273.15})=V(0)\frac{273.15+t}{273.15}$
を近似的に満たすことが実験等で確かめられている。
ここで$V(0)$は0℃における体積である。
この法則が正確に成り立つ気体では、ー273.15℃より低い温度が存在すると仮定すると、体積が負となるという矛盾が生じる。
そこで、温度の最低値は―273.15℃であることが推測される。
温度t℃にたいして、
T:=t + 273.15
で決まる値を絶対温度という。単位はケルビン(K)である。 次の解説も参照のこと。

理想気体

高温、低圧の気体は、その種類のかかわらず、
かなり正確にボイルの法則、シャルルの法則を満たす。そこで、
任意の温度、圧力でも両法則を満たす理想的な気体を考え、理想気体とよぶ。
現実には理想気体は存在しないが、ヘリウムは、分子間力が極めて小さいため、理想気体に近い特性をもつ。

 ボイル・シャルルの法則 

ボイルの法則とシャルルの法則から、それらを統合したボイル・シャルルの法則が証明できる。
ボイル・シャルルの法則 質量nモル(ウィキペディア)の理想気体に対して $pV=nR(t+273.15)=nRT$
ここで、R は普遍気体定数とよばれ、$R=8.3145[J/K\cdot mol]$である。
以下も参照のこと。

なお、この解説中の$K$は、nR のことである。

この法則によれば理想気体は$T=0^{\circ}K$ではV=0になってしまうが、
実在の気体では、Tが小さくなると液化(あるいは固化)してしまう。この法則はあくまで近似法則である。
気体定数については

を参照のこと。
なお、気体を構成する分子の間に相互作用がない仮定した気体では、分子運動論からこの法則を導ける。次節で学ぶ。
(注)モル(mole)とは、分子量にグラムをつけた量であり、グラム分子ともいう。
例えば酸素の分子量は32なので、酸素の1モル(質量)とは32gである。
1モルの物質は、その物質の種類によらず同じ個数の分子からできている。
この個数Nをアボガドロ数という。$N=6.02 \times 10^{23}$である。
殆どの1モルの気体は、実測すると、一気圧、0℃では、体積は22.4リットルになる。

ボイル・シャルルの法則の証明

ボイルの法則とシャルルの法則から、 一モルの気体に対して$pv=RT$を示せばよい。
ボイルの法則より、気体の温度をt℃ とすると、
$p_t v_t =1^{[mol]}f(t)\qquad \qquad (1)$
と書ける。ここで気体は1モルの質量だがこの単位を[mol]と書いた。
0℃では、$p_0 v_0 =f(0) \qquad \qquad (2)$
この気体を圧力は変えず、温度をt℃の変化させると、その体積 $v_t$ は式(1)から
$p_0 v_t =1^{[mol]}f(t) \qquad \qquad (3)$
他方、シャルルの法則から、
$v_t = v_0\frac{273.15+t}{273.15}\qquad \qquad (4)$
が成り立つ。
式(4)を式(3)に代入すると
$p_0 v_0\frac{273.15+t}{273.15} =f(t)$
上式に式(2)を代入すると
$f(0)\frac{273.15+t}{273.15} =f(t)$
ここで、$R:=\frac{f(0)}{273.15}\qquad \qquad (5)$
という定数を導入すると
$f(t)=R(273.15+t)=RT$(Tは絶対温度)
次に、1モルの気体は、一気圧(101325パスカル=101325$N/m^2$)、0℃(=273.15[K])で体積が約22.4リットル(=0.0224$[m^3]$)なので,
式(2)から
$f(0)=101325 \times 0.0224[N\cdot m/mol]$
ゆえに
$R=\frac{f(0)[N\cdot m/mol]}{273.15[K]}=\frac{101325 \times 0.0224}{273.15}=8.3093[J/K\cdot mol]$
普遍気体定数は$R=8.3145[J/K\cdot mol]$なのでほぼ正しい値が得られた。

 理想気体を用いた温度の計測と絶対温度

水銀柱を用いた温度は、水銀の膨張の仕方が温度によって異なるため正確ではない。
  正確な温度計測には、温度による膨張の仕方が一定である理想気体(実際にはそれにきわめて近い気体)を用いた温度が使われる。
この温度は、気体温度と呼ばれる。
気体温度では、水の融点温度が273.15度、沸点温度が373.15度になる絶対温度[K]が使われる。
この決め方から、摂氏温度t[℃]と絶対温度T[K]は、
T[K]=(t+ 273.15 )[℃]
という関係にあることが分かる。
全ての物体の温度はT>=0である。
理想気体という架空の物質を使うことなく、熱力学的に温度を定めることも出来る。
理想気体で決めた絶対温度と同一になる。これについては大学で学ぶ。

☆☆ 状態方程式

この項では、熱現象を考察する対象の、物体あるいはいくつかの物体の集合を、系と呼ぶ。
この項(状態方程式 )で扱う系は、すべて、一様で等方的であり、静止し、熱平衡状態にあるとする。
定義;
熱平衡状態にある物体の熱的性質を規定する物理量を、一般に、熱力学的状態変数という。
経験法則;全ての熱力学的状態変数は、
p(圧力)、T(絶対温度)、V(体積)のうちの任意の2つを独立変数とする関数になる。

等温圧縮率と体積膨張率  

熱容量と比熱

熱力学の基本法則  

蒸気機関の発明とその効率を上げる試みと考察と、
永久機関の試みが失敗に終わっている事実から、
熱力学の基本法則が発見された。

永久機関への挑戦の失敗

外部からエネルギーを受け取ることなく、仕事を行い続ける装置ができればエネルギー問題など発生しない。
次の記事にあるように18~19世紀、多くの科学者や技術者がこれに挑んだが誰も成功しなかった。
最初は、外部から何も受け取ることなく、仕事を外部に取り出すことができる機関を作ろうとした(第一種の永久機関)。
その試みは失敗続きだった。
やがて熱も含めたエネルギーの保存則(熱力学の第一法則)が認識され、
それに反する試みなので、失敗したのだとわかった。
次には、エネルギー保存則に反しない永久機関を作ろうとした。
ある熱源から熱エネルギーを取り出しこれを仕事に変換し、
仕事によって発生した熱をすべて熱源に回収する装置が考えられた。
これができれば、熱源から取出した仕事は、再び熱エネルギーとなり熱源に返されるので、
熱源の熱エネルギーは失われず、永久に仕事が取り出せる(第2種永久機関)。
しかし多くの試みはすべて失敗であった。
この結果、熱力学の第2法則が認識されるようになった。
現在では、熱力学の第一法則と第2法則が自然の基本法則であり、
永久機関はこれに反するため不可能であると理解されている。

熱力学の第1法則  

力学の分野では、
「2.4.3 力学的エネルギーと力学的エネルギー保存則」で説明したように
質点系に作用する力のなす仕事は、
この質点系の力学エネルギーの増加に等しく、
(力を生み出した機構と質点系全体では)エネルギーは保存されることが分かっている。
力学現象だけでなく、摩擦など熱エネルギーの移動の伴う現象でも
力学的エネルギーと熱現象に伴うエネルギーを合計すると、
エネルギーが保存されることを法則として認めたものが、
熱力学の第一法則である。
この法則を理解するのは物質の内部エネルギーについて理解する必要がある。

 物質の内部エネルギー 

物体が静止している時は、巨視的に観測できるその運動エネルギーは零である。
しかし、その物質を構成している個々の分子・原子は、熱運動をおこなっているため、巨視的手段では観測できないが、運動エネルギーを持つ。
さらに保存力である分子間力で互いに引き合っているためポテンシャル(位置)エネルギーを持っている。
これらの和を物質の内部エネルギーという(注参照)。
理想気体の場合、分子間力は働かないため位置エネルギーは0となり、内部エネルギーは各気体分子の熱運動のエネルギーの和である。
(注)互いに引き合っている物質を引き離すには、
それらに力を加えて強制的に動かす必要がある。
分子間力は保存力であり、引き離す力のなす仕事は、
その経路に関係なく、それら物質の初期位置と最終位置だけで決まる。
これが分子間力による(初期状態から最終状態を見た)ポテンシャル(位置)エネルギーである。
通常は互いに無限に離れた状態のポテンシャル・エネルギーを零と定める。
なお、万有引力は、電磁気的な分子間力にくらべて、圧倒的に小さく、
それによる位置エネルギーは無視できる。

閉鎖された空間(外部との物質や熱、仕事のやり取りがない)では、エネルギーの総量に変化はないということを示している。

広義の熱力学の第一法則   

ある系が、あるる変化を行うとき、
その系の最後のエネルギーE'と最初のエネルギーEとの差E'-Eは、
その系に外部からくわえた仕事の総量 W と 外から加えた熱の総量 Q の和に等しい。
E'-E =W + Q  

系のエネルギーとは、系を分子の集まりと考えたときの、力学的エネルギーの総和である。剛体の場合には、剛体としての力学的エネルギーと内部エネルギーの和となる。

熱力学の第一法則(静止した熱平衡系における第一法則)  

静止した系は巨視的な運動エネルギーはゼロで、重力による位置エネルギーはいっていなので E'-E は 系の内部エネルギーの差U'ーU に等しくなる。 そこで、この場合の第一法則は U'ーU =W + Q  

気体の体積を変える力がなす仕事について

熱力学の第一法則の適用に際して、しばしば、気体に圧力をかけて、圧縮(膨張)するとき、この圧力がなす仕事Wを求める必要が生じる。

命題;
圧力Pの気体を、その圧力よりほんのわずか($\epsilon $)だけ異なる圧力をかけて 、ゆっくりと微小体積 $\delta V$ だけ、圧縮($\epsilon >0$の時)あるいは膨張($\epsilon < 0$の時) させた時、体積を変えるために外から加える仕事は $(P+\epsilon)\delta V$となる。

略証;簡単な場合にこれを示そう。
図のようにピストンによる気体の圧縮・膨張を考える。

次の説明を読んで、その理由を考えよう。

第一法則の応用

第1種永久機関の不可能性

熱力学の第一法則から、第1種永久機関が不可能であることを論証してください。

気体の断熱自由膨張 

熱力学の第2法則 

第二種永久機関の失敗やカルノーの熱機関の効率の研究から,熱力学の第2法則が、熱現象の基本原理として採用された。

 熱機関と効率 

熱機関とは、
高温の熱源から熱エネルギーをもらってシリンダー内の気体(作業物質という)を膨張(この時外部に仕事をする)させ、
あまった熱を低温熱源に与えて作業物質を冷却・収縮させて元の状態に戻すことで、
シリンダーにはめたピストンを往復運動(1往復をサイクルという)させ、外部に仕事をさせる機械のことである。
高温の熱源から受け取った熱エネルギーを, すべて外部への仕事に変換することは出来るであろうか。
できなければ最大効率はいくらで、どのような熱機関で実現できるのか。
この問題を解決したのはカルノーである。

カルノー機関、カルノーサイクル

カルノーが発見した最大効率の熱機関は、
①作業物質の温度を高温熱源と等しくしてから、高温熱源と接触させ熱平衡を保ったまま高温熱源から熱をもらい非常にゆっくりと作業物質を膨張させる(この時外部に仕事をする)
②作業物質を熱源から離し、作業物質をゆっくりと断熱膨張(この時も外部に仕事)させて作業物質の温度を下げ、
③低温の熱源の温度にひとしくなったら、作業物質を低温熱源に接触させ、今まで取り出した仕事の一部を用いて、作業物質をゆっくり圧縮して熱平衡を保ったまま作業物質の熱を低温熱源にもどし
④さらに、低温熱源から作業物質を離して、今まで取り出した仕事の一部を用いて、断熱圧縮して、作業物質の温度を上げ、もとの状態に戻す、
という4つの過程からなる装置であり、カルノー機関という。
この機関のサイクルを、カルノーサイクル という。

準静的過程  
 可逆過程と可逆機関

外界に変化を残さずに、元の状態に戻すことのできる変化を、可逆変化という。但し、もどすときの経路は、最初の変化の逆を辿る必要はない。詳しくは、

カルノー機関は準静的なので、最初の経路で得た仕事を全て使って、最初の経路を逆に辿り元の状態に戻せるので、可逆機関である。

準静的過程と可逆過程の関係  
カルノーの定理

熱力学の第2法則を用いると、
カルノーの定理「この機関の効率は作業物質によらず同じであり、両熱源の温度だけで決まる」、
「カルノー機関より高効率な熱機関は存在しない」
ことが論証できる。

カルノーの定理の証明  
熱力学的絶対温度

カルノー機関の効率が両熱源の温度の関数であることを用いて熱力学的絶対温度(作業物質の特性を全く使わない温度)が定義できる。
これらの詳細については本テキストでは扱わない。

熱力学の第2法則 

いくつかの異なった定式化があるが、いずれも等価であることが示せる。 トムソンの原理
クラジウスの原理

および

不可逆過程とエントロピー

不可逆変化と具体例

可逆過程とは、外界に変化を残さずに最初の状態に戻せる過程のことであったが、現実の殆どの変化は可逆ではない。例えば高温物体から低温物体への熱の移動は、両者を接触させればおこるが、この逆の変化は起こらず、熱移動は不可逆過程である。他の例も考えてみてください。

不可逆な熱機関の効率

不可逆過程をふくむ熱機関の効率は、カルノー機関の効率よりも常に小さい(カルノーの第2定理)。
これも熱力学の第2法則から導ける。

エントロピー

高温熱源$T_1$と低温熱源$T_2$を用いたカルノーサイクルでは、
$\frac{Q_1}{T_1}=\frac{Q_2}{T_2} $
が成立する。
高温熱源$T_1$と低温熱源$T_2$を用いた不可逆過程の熱機関では
$\frac{Q_1}{T_1}<\frac{Q_2}{T_2} $
が成立する。
このことから、エントロピー  $\frac{Q}{T}$ という重要な概念が導入された。
熱はエントロピーが増大する方向に移行する(エントロピー増大則)。
これ以上は、本テキストだは扱わないが、興味のある方は以下を参照のこと。

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