物理/惑星の運動(2)
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☆☆惑星の運動(2)
2.3節の惑星運動の項では、
惑星の軌道を円と仮定すると、
運動の第1、第2法則のもとでは、
ケプラーの法則と万有引力の法則が同等であることを示した。
この節では軌道について仮定せず、
運動の第1、第2法則のもとで、
万有引力の法則と惑星に関するケプラーの3法則が同等であることを導く。
ニュートンの運動の第一、第二法則による惑星の運動方程式の導出
他の惑星の影響を無視して、太陽と一つの惑星の二体からなる系をある慣性系から観測する。(注1と注2を参照のこと)
太陽の質量をM、惑星の質量をmとする。
この二体を、ともに質点であるとみなし、位置はそれぞれの重心とする。
この系には、系外から力が作用しないため、、
系の重心は等速直線運動をする。
従って、この重心を原点とする回転しない座標系も慣性系となる。
今後はこの慣性系で観測する。
2体の重心は太陽の重心と一致するという近似を行う
太陽の質量は惑星の質量より圧倒的大きいため二体の重心は太陽の重心とほぼ一致する。
そこで議論を簡単にするため、このテキストでは2体の重心は太陽の重心と一致し、太陽は不動であると仮定する。
興味のある読者は、この仮定をしないで、惑星と太陽の運動を解析してみてほしい。
議論は殆ど同じように進められます。
(注1)慣性系の存在はニュートン力学(古典力学)の大前提であり、運動法則の第一法則としてまとめられている。
太陽系の重心に原点を取り、恒星系に対して回転しない座標系は慣性系に近いことが現在分かっている。
慣性系からみた質点系の運動は、テキストの2.3 で、その導入部分を説明している。
(注2)他の惑星の影響を無視し、太陽と当該惑星の2体を質点とみなしても、
他の惑星からの影響の少ない地球などの惑星の運動は、かなり正確に予測できることが知られている。
正確にするには二体ではなく他の惑星も考慮した多体問題として論じなければならないが、解析は非常に難しくなる。
そこで太陽Sを原点Oとする慣性座標系を考える。
任意の時刻 t の惑星Ptの位置ベクトル→OPtを→r(t)とかく。
惑星が太陽からうける力(万有引力の法則を仮定しないと未知)を仮に→fと書くと、
惑星の運動は、ニュートンの第2法則から次の微分方程式で形式的には記述されが、
力が未知なので、この方程式は解を持ち得ない。
Md2→rdt2(t)=→f
運動の第1、第2法則と万有引力の法則からケプラーの3法則を導く
ケプラーの第1法則の導出
微分方程式を解いて、惑星軌道の極座標表示を求める
極座標表示の惑星軌道を、直交座標表示に変換
惑星は平面上を運動する
不動の太陽の位置O,時刻tの惑星の位置P(t0)とP(t0)を始点とした初速ベクトル→v0を含む
平面Hを考える。
この平面と直交する一つのベクトル→hを考え、
式(1)の両辺の左側からベクトル積として作用させる。
→h×(Md→vdt(t))= →h×(−GMm‖
ベクトル積の性質から
左辺は
\ \vec h \times \Bigl(M\frac{d \vec{v}}{dt}(t)\Bigr)=\ M\vec h \times \Bigl(\frac{d \vec{v}}{dt}(t)\Bigr)=\ M\vec h \times \Bigl(\frac{d^2 \vec{r}}{dt^2}(t)\Bigr)
=\ M\Bigl(\frac{d^2 \vec h \times\vec{r}}{dt^2}(t)\Bigr)(注1をみよ)
右辺は
\ \vec h \times \Bigl(-\frac{GMm}{\|\vec{r}(t)\|^{2}}\frac{\vec{r}(t)}{\|\vec{r}(t)\|}\Bigr) = -\frac{GMm}{\|\vec{r}(t)\|^{3}}\vec h \times \vec{r}(t)
なので、
\ M\Bigl(\frac{d^2 \vec h \times\vec{r}}{dt^2}(t)\Bigr) = -\frac{GMm}{\|\vec{r}(t)\|^{3}}\vec h \times \vec{r}(t)
が得られる。
故に
\ \Bigl(\frac{d^2 \vec h \times\vec{r}}{dt^2}(t)\Bigr) = -\frac{Gm}{\|\vec{r}(t)\|^{3}}\vec h \times \vec{r}(t)\qquad \qquad (4)
\vec hをベクトル積として初期条件に作用させると
\vec h \times \vec{r}(t_0) = \vec h \times \vec{r_0}=0,
\frac{d \vec h \times \vec{r}}{dt}(t_0) =\vec h \times \frac{d\vec{r}}{dt}(t_0) =\vec h \times \vec{v_0} = 0
故に、
\vec h \times \vec{r}(t_0) = 0,
\frac{d \vec h \times \vec{r}}{dt}(t_0) = 0\qquad \qquad (5)
tの関数\vec{x}\triangleq \vec h \times \vec{r}を考えると、
式(4),(5)は
\ \Bigl(\frac{d^2 \vec{x}}{dt^2}(t)\Bigr) = -\frac{Gm}{\|\vec{r}(t)\|^{3}}\vec{x}(t)\qquad \qquad (4')
\vec{x}(t_0) = 0,\quad \frac{d \vec{x}}{dt}(t_0) = 0\qquad \qquad \qquad (5')
常微分方程式(4')を初期条件(5')のもとで解くと、
\vec{x}\triangleq \vec h \times \vec{r}\equiv 0
が得られる。(注2参照)
これよりベクトル\vec{r}(t)は,常にベクトル\vec{h}と直交し、
平面H上にあることが証明された。
(注1)
(注2)証明をみれば明らかなように、
惑星に働く力が、太陽と惑星を結ぶ直線と同じ方向(求心力あるいが遠心力)でありさえすれば、
惑星は平面上を運動する。
惑星の角運動量は保存される
式(1)の両辺に、左側から\vec{r}(t)をベクトル積として作用させると、
\vec{r}(t)\times \ \frac{d^{2} \vec{r}}{dt^2}(t)=-\vec{r}(t)\times \frac{Gm}{\|\vec{r}(t)\|^{2}}\frac{\vec{r}(t)}{\|\vec{r}(t)\|} \qquad \qquad (a)
ここで、ベクトル積の性質から
\quad \frac{d}{dt}\Bigl(\vec{r}\times \frac{d \vec r}{dt}\Bigr)=\frac{d \vec r}{dt}\times \frac{d \vec{r}}{dt}+\vec{r}\times \ \frac{d^{2} \vec{r}}{dt^2}
\quad =\vec{r}\times \ \frac{d^{2} \vec{r}}{dt^2}
\quadまた右辺は
\quad -\vec{r}(t)\times \frac{Gm}{\|\vec{r}(t)\|^{2}}\frac{\vec{r}(t)}{\|\vec{r}(t)\|} = 0(注参照)
なので、式(a)は、
\frac{d}{dt}\Bigl(\vec{r}\times \frac{d \vec r}{dt}\Bigr)=0
となる。
(注)万有引力でなく、惑星に作用する力の向きが原点向きであるか、それと逆向きという条件だけで良い。
\frac{d \vec r}{dt}=\vec v(速度ベクトル)なので、上式は
\frac{d}{dt}\Bigl(\vec{r}\times \vec v \Bigr)=0\qquad \qquad (b)
あるいは、惑星の運動量\vec p=m\vec vを用いて
\frac{d}{dt}\Bigl(\vec{r}\times \vec p \Bigr)=0\qquad \qquad (c)
となる。この2式から、
\vec{r}\times \vec v と\vec{r}\times \vec p
は、ともに時不変(時間が経過しても一定値)であることが分かる。
定義(角運動量)
\vec{r}(t)\times \vec{p}(t) を、(原点からみた)惑星の時刻tにおける角運動量という。
すると上述したことから、次の法則が証明された。
角運動量の保存法則
求心力、ないし遠心力(力の向きが原点向きか、その逆向き)だけを受けて運動する質点の角運動量は保存される。
ケプラーの第2法則の導出
上述したことから惑星は平面上を動くので、
位置ベクトルと運動量ベクトルが、xy平面に載る様な正規直交右手系xyzを選べる。
この座標系のもとで座標表示すると
\vec{r(t)}\times \vec p(t)=\bigl(r_{1}(t),r_{2}(t),0)\bigr)\times \bigl(p_{1}(t),p_{2}(t),0\bigr)
=\bigl(0,0,r_{1}(t)p_{2}(t)-r_{2}(t)p_{1}(t)\bigr)
他方、ベクトル\vec{r}(t) と ベクトル\vec{p}(t)のなす劣角(180度以下のほうの角)を\theta(t)とすると
この2つのベクトルと直交するz方向の\vec{r}(t)\times \vec{p}(t) の成分は
ベクトル積の定義から、
\|\vec{r}(t)\| \times \| \vec{p}(t) \| \sin \theta(t)
なので、
\|\vec{r}(t)\| \times \| \vec{p}(t) \| \sin \theta(t) \qquad \qquad \qquad (6)
が、時不変であることが分かる。
惑星質量は一定なので
式(6)から
\|\vec{r}(t)\| \times \| \vec{v}(t) \| \sin \theta(t)/2 \qquad \qquad \qquad (7)
が、時不変であることが分かる。
式(7)は動径OP(t)が時刻tの瞬間に単位時間あたりに掃く面積を表すので、惑星の面積速度と呼ばれる。
系 ケプラーの第2法則
求心力、ないし遠心力(力の向きが原点向きか、その逆向き)だけを受けて運動する質点の面積速度は一定である。従って、
「惑星の動径(惑星と太陽とを結ぶ線分)が単位時間に描く面積(面積速度)は、一定である」
ケプラーの第1法則の導出
惑星の運動方程式(1)を解いて惑星の軌道を求めよう。
求心力の下での運動を扱うには、極座標が都合がよい。
惑星運動の微分方程式の極座標表示
そこで惑星の位置ベクトルを、x軸の正の部分のつくる半直線を角度の基準とする極座標で
\vec{r}(t)=r(t)\bigl(\cos \theta (t),\sin \theta (t)\bigr)
と表す。
この式を時間tで微分すると
\dot{\vec{r}}(t)={\dot r}(t)\bigl(\cos \theta (t),\sin \theta (t)\bigr)
+r(t){\dot \theta} (t)\bigl(-\sin \theta (t),\cos \theta (t)\bigr)
\qquad 但し、\dot{\vec{r}}(t)\triangleq \frac{d\vec{r}}{dt}(t)
さらにtで微分すると
\ddot{\vec{r}}(t)
=\ddot {r}(t)\bigl(\cos \theta (t),\sin \theta (t)\bigr)
+\dot{r}(t)\dot{\theta} (t)\bigl(-\sin \theta (t),\cos \theta (t)\bigr)
+\dot{r}(t)\dot{\theta} (t)\bigl(-\sin \theta (t),\cos \theta (t)\bigr)
+r(t)\ddot{\theta} (t)\bigl(-\sin \theta (t),\cos \theta (t)\bigr)
-r(t)\dot{\theta}^{2}(t)\bigl(\cos \theta (t),\sin \theta (t) \bigr)
=\bigl(\ddot {r}(t)-r(t)\dot{\theta}^{2}(t)\bigr)\bigl(\cos \theta (t),\sin \theta (t)\bigr)
+\bigl(2\dot{r}(t)\dot{\theta} (t) +r(t)\ddot{\theta} (t) \bigr)\bigl(-\sin \theta (t),\cos \theta (t)\bigr)
故に
\ddot{\vec{r}}(t)
=\bigl(\ddot {r}(t)-r(t)\dot{\theta}^{2}(t)\bigr)\bigl(\cos \theta (t),\sin \theta (t)\bigr)
+\bigl(2\dot{r}(t)\dot{\theta} (t) +r(t)\ddot{\theta} (t) \bigr)\bigl(-\sin \theta (t),\cos \theta (t)\bigr) \qquad \qquad \qquad (8)
が得られた。
惑星に働く万有引力を、この極座標で表示すると
-\frac{GM}{\|\vec{r}(t)\|^{2}}\frac{\vec{r}(t)}{\|\vec{r}(t)\|}
=-\frac{GM}{|r(t)|^{2}}(\cos \theta (t),\sin \theta (t)\bigr) \qquad (9)
式(8),(9)を惑星の運動方程式
\ddot{\vec r}(t)=-\frac{GM}{\|\vec{r}(t)\|^{2}}\frac{\vec{r}(t)}{\|\vec{r}(t)\|}
に代入すると
\bigl(\ddot {r}(t)-r(t)\dot{\theta}^{2}(t)\bigr)\bigl(\cos \theta (t),\sin \theta (t)\bigr)
+\bigl(2\dot{r}(t)\dot{\theta} (t) +r(t)\ddot{\theta} (t) \bigr)\bigl(-\sin \theta (t),\cos \theta (t)\bigr)
= -\frac{GM}{|r(t)|^{2}}(\cos \theta (t),\sin \theta (t)\bigr)
右辺を左辺に移行すると
\bigl(\ddot {r}(t)-r(t)\dot{\theta}^{2}(t)+\frac{GM}{|r(t)|^{2}}\bigr)\bigl(\cos \theta (t),\sin \theta (t)\bigr)
+\bigl(2\dot{r}(t)\dot{\theta} (t) +r(t)\ddot{\theta} (t) \bigr)\bigl(-\sin \theta (t),\cos \theta (t)\bigr)\equiv 0
\bigl(\cos \theta (t),\sin \theta (t)\bigr)と\bigl(-\sin \theta (t),\cos \theta (t)\bigr)は直交ベクトルなので、この式から
\ddot {r}(t)-r(t)\dot{\theta}^{2}(t)+\frac{GM}{|r(t)|^{2}}\equiv 0 \qquad \qquad (10)
2\dot{r}(t)\dot{\theta} (t) +r(t)\ddot{\theta} (t) \equiv 0 \qquad \qquad (11)
が得られる。
命題;惑星運動の微分方程式の極座標表示
太陽の位置Oを原点、x軸の正の部分の半直線を角の基準線とする極座標で
惑星の運動方程式を表現すると
\ddot {r}-r\dot{\theta}^{2}=-\frac{GM}{|r|^{2}}\qquad \qquad (12)
r^2\dot{\theta} = h \quad (任意の定数) \qquad \qquad (13)
となる。
証明
式(12)は式(10)から明らか。
式(13)の左辺をtで微分すると
\frac{d r^2\dot{\theta}}{dt}=r^2\ddot{\theta} + 2r\dot{r}\dot{\theta}
=r\bigl(r\ddot{\theta} + 2\dot{r}\dot{\theta}\bigr)
\qquad 式(11)から
= 0
左辺の時間微分が零なので、左辺は任意の定数hに等しい。
証明終わり。 \qquad \qquad \qquad \qquad \Box
(注)式(13)は面積速度が一定であることを表現している。
先に、このことは証明してあるが、その別証明である。