物理/熱とエネルギー

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物理熱とエネルギー

目次

解説

この章では、熱に関する理論を学ぶ。これは熱力学とよばれる。熱力学は熱機関の発明・改良のなかから生まれ発展した。力学、電磁気学とならんで古典物理学の柱となっている。
 あらゆる物質は、膨大な数の原子・分子から構成され、これらは、絶えず無秩序の運動(熱運動という)を行っている。この運動が全ての熱現象の本質である。
しかしこの章では、原子・分子の運動に立ち入らずに物体を連続体として考えたマクロな熱現象を支配する法則を調べ、次章でそれらを原子・分子の運動から考察する。

 温度

物体が熱いとか冷たいという感覚を定量化した概念。熱平衡という概念を利用して温度を数値化する。これによって初めて熱現象の正確な法則を調べることが出来るようになった。
それではどのようにして数値化するのか。 次に述べる熱平衡という概念と熱力学の第0法則を利用する。

 熱平衡(熱力学的平衡ともいう)

2つの物体を接触させると、最初のうちは、熱いほうはだんだん冷たくなり、冷たいほうはだんだん熱くなるが、十分に時間がたつと、この変化は無くなる。この時2つの物体は熱平衡に達したという。

 熱力学の第0法則

経験や実験によって、物体AとB、BとCがそれぞれ熱平衡ならば、AとCも熱平衡にあることが知られている。

 2つの物質の温度が等しいとは?

2つの物体を接触させても、両者の熱さや冷たさに変化がおこらない(すなわち熱平衡にある)とき、2つの物体の温度は等しいという。熱力学の第0法則により、AとB、AとCが同じ温度ならば、BとCも同じ温度になり、温度はきちんと定義できるのである。

 温度の数量化の方法

 熱膨張 

物質(固体、液体、気体)は温度上昇にともなって長さや体積が膨張する。その理由は物質を構成している分子や原子の熱運動が大きくなって、互いに離れていくためである。

 寒暖によって変化する物質の性質を利用した温度の数値化 

物質の暖かさの度合いによって変化する性質(体積とか電気抵抗など)を利用して、温度を数値化出来る。
 例えば水銀は温度上昇に伴い体積が増えるので水銀柱は温度の上昇で高くなる。そこで、一気圧のもとで、氷がとけて水と共存しているとき、これと水銀計を接触させ熱平衡状態になったときの水銀柱の高さに0度(水の融点の温度)、1気圧のもとで沸騰している水と熱平衡になっている水銀柱の高さに100度(水の沸点温度)をふり、その間を100等分すると、水銀温度計による摂氏温度が得られる。℃で表す。
 水の融点の温度を32度、沸点を212度としその間を180等分した温度は華氏温度と言い、°F で表す。

 理想気体による温度と熱力学的温度

水銀柱を用いた温度は、水銀の膨張の仕方が温度によって異なるため正確ではない。
  正確な温度計測には、温度による膨張の仕方が一定である理想気体(実際にはそれにきわめて近い気体)を用いた温度が使われる。
この温度は、気体温度と呼ばれる。
気体温度では、水の融点温度が273.15度になる絶対温度[K]が使われる。
後で理由を学ぶが、摂氏温度t[℃]と絶対温度T[K]は、
T[K]=(t+ 273.15 )[℃] という関係にある。
全ての物体の温度はT>=0である。

理想気体という架空の物質を使うことなく、熱力学的に温度を定めることも出来る。
理想気体で決めた絶対温度と同一になる。これについては大学で学ぶ。

 熱

温度の高い物体を低い物体に接すると前者は冷えて行き、後者は暖まって行く。長い間この原因は不明であった。
 熱の素(熱素、カロリック)という物質が、温度の高いものには沢山ありこれが温度の低い物体に移動するというカロリック説が一時は有力であった。

 カロリック説の否定、熱は熱運動エネルギーの流れ

しかしこれは誤りであり、前者から後者へ(分子・原子の熱運動エネルギー)が移動しているためであると分かった。この移行するエネルギーを熱という。

現在、熱とは、

 熱量の単位

熱はエネルギーの一形態(エネルギーの流れ)なので、エネルギーと同じくジュールJが単位となる。

 熱の3つの伝わり方

①熱伝導 ウィキペディア(熱伝導) ②熱の対流  ウィキペディア(対流) ③放射(輻射)ウィキペディア(熱放射)

 比熱と熱容量 

物体の温度を1℃(=1K)上昇させるのに必要な熱量をその物体の熱容量という。単位はJ/℃ あるいはJ/Kである。
 詳しくは物質の体積を一定に保ったまま温度を1Kあげるのに必要な熱量(定積熱容量)と圧力を一定に保ったまま1K上げるのに必要な熱量(定圧熱容量)がある。

物質1gあたりの熱容量を、その物質の比熱と呼ぶ。単位はJ/K・g。これも正確には定積比熱と定圧比熱がある。


 気体の熱的性質

 気体の圧力 

膨大な数の気体分子は激しく動き回っていて、気体中におかれた物体の面に常に多数が衝突して跳ね返っている。この時物体の面は気体分子から力を受ける。
 単位面積の面に働く力を気体の圧力という。詳しくは次章で学ぶ。

 ボイルの法則 

一定の質量$m$の気体は、温度t℃を一定に保った状態では、
  その圧力$p$と体積$V$の積$pV$は一定(温度と質量だけの関数f(t,m))になる
  という、ボイルの法則が近似的に成り立つことが実験等で確かめられている。
質量が1モルの気体については、
$pV=R(t+273)\quad $,ここで$R$は気体定数とよばれ$R=8.3145J/K・mol$
が、近似的に成り立つ。

 シャルルの法則 

気体の圧力Pを一定に保った状態では、その体積Vと温度tの間には 次のシャルルの法則が近似的に成り立つことが実験等で確かめられている。
  なお、この解説中のT[K]は、t℃ + 273.15 のことである。

 ボイル・シャルルの法則 

ボイルの法則とシャルルの法則から、それらを統合した次の法則が証明できる。

なお、この解説中のkは、気体の量を1モルにしておけば、気体の種類に関係なく決まる定数である。気体定数と呼ばれ、Rと書かれる。
  そこで1モルの理想気体では、PV=RT (T=t+273.15)が成立する。 この法則によれば圧力Pが有限の理想気体はT=0KではV=0になってしまうが、実在の気体では、Tが小さくなると液化してしまう。この法則はあくまで近似法則である。
(注)モル(mole)とは、分子量にグラムをつけた量であり、グラム分子ともいう。
1モルの物質は、その物質の種類によらず同じ個数の分子からできている。 この個数Nをアボガドロ数という。$N=6.02 \times 10^{23}$である。


気体定数は、実測によると R=8.31[J/Mol*K] である。詳しくは

なお、気体を構成する分子の間に相互作用がない仮定した理想気体では、分子運動論からこの法則を導ける。次章で学ぶ。

 理想気体を用いた絶対温度の計測 

理想気体を用いると、PとVを計測すれば、ボイル・シャルルの法則により、絶対温度Tが簡単に求められる。 

熱力学の第1法則 

永久機関への多くの挑戦はことごとく失敗に終わる

外部からエネルギーを受け取ることなく、仕事を行い続ける装置ができればエネルギー問題など発生しない。次の記事にあるように18~19世紀、多くの科学者や技術者がこれに挑んだが誰も成功しなかった。この多くの実践の結果、現在では、永久機関は不可能であること、それは熱力学の第一法則と第2法則が自然の法則で、永久機関はそれに反するからであると、理解されている。

 物質の内部エネルギー 

物質を構成している原子や分子は、その物質は静止していても、熱運動による運動エネルギーを持ち、さらに分子間・原子間に働く電気力による位置エネルギーを持っている。これらの和を物質の内部エネルギーという。
理想気体の場合は分子間の力は働かないため位置エネルギーは0なので内部エネルギーは気体分子の熱運動のエネルギーの和である。

 熱力学の第一法則 

閉鎖された空間(外部との物質や熱、仕事のやり取りがない)では、エネルギーの総量に変化はないということを示している。

第一法則中の気体のする仕事について

圧力Pの気体が、熱をもらいながら、一定圧力でゆっくりと体積をΔVだけ増加させるとき、この気体が外部になした仕事は、P×ΔVとなる。次の説明を読んで、その理由を考えよう。

第一法則の応用

第1種永久機関の不可能性

熱力学の第一法則から、第1種永久機関が不可能であることを論証してください。 以下についてはインターネットで検索して調べよう。

定圧変化と定積変化による内部エネルギーの比較

等温変化と断熱変化

気体の定積モル比熱と定圧モル比熱

熱力学の第2法則 

第二種永久機関の失敗や後述のカルノー機関の研究から,次の熱力学の第2法則が、熱現象の基本原理として採用された。いくつかの異なった定式化があるが、いずれも等価であることが示せる。

および

 熱機関と効率 

熱機関とは、高温の熱源から熱エネルギーをもらってシリンダー内の気体(作業物質という)を膨張(この時外部に仕事をする)させ、あまった熱を低温熱源に与えて作業物質を冷却・収縮させて元の状態に戻すことで、シリンダーにはめたピストンを往復運動(1往復をサイクルという)させ、外部に仕事をさせる機械のことである。 高温の熱源から受け取った熱エネルギーをすべて外部への仕事に変換することは、できるであろうか。できなければ最大効率はいくらで、どのような熱機関で実現できるのか。この問題を解決したのはカルノーである。

カルノー機関、カルノーサイクル

カルノーが発見した最大効率の熱機関は、①作業物質の温度を高温熱源と等しくしてから、高温熱源と接触させ熱平衡を保ったまま高温熱源から熱をもらい非常にゆっくりと作業物質を膨張させる(この時外部に仕事をする)②作業物質を熱源から離し、作業物質をゆっくりと断熱膨張(この時も外部に仕事)させて作業物質の温度を下げ、③低温の熱源の温度にひとしくなったら、作業物質を低温熱源に接触させ、今まで取り出した仕事の一部を用いて、作業物質をゆっくり圧縮して熱平衡を保ったまま作業物質の熱を低温熱源にもどし④さらに、低温熱源から作業物質を離して、今まで取り出した仕事の一部を用いて、断熱圧縮して、作業物質の温度を上げ、もとの状態に戻す、
という4つの過程からなる装置であり、カルノー機関という。この機関のサイクルを、カルノーサイクル という。

 可逆過程と可逆機関

外界に変化を残さずに、元の状態に戻すことのできる変化を、可逆変化という。但し、もどすときの経路は、最初の変化の逆を辿る必要はない。詳しくは、

カルノー機関は準静的なので、最初の経路で得た仕事を全て使って、最初の経路を逆に辿り元の状態に戻せるので、可逆機関である。

カルノーの定理

熱力学の第2法則を用いると、カルノーの定理「この機関の効率は作業物質によらず同じであり、両熱源の温度だけで決まる」、「カルノー機関より高効率な熱機関は存在しない」ことが論証できる。

熱力学的絶対温度

カルノー機関の効率が両熱源の温度の関数であることを用いて熱力学的絶対温度(作業物質の特性を全く使わない温度)が定義できる。これらの詳細については大学で学ぶ。

不可逆過程とエントロピー

不可逆変化と具体例

可逆過程とは、外界に変化を残さずに最初の状態に戻せる過程のことであったが、現実の殆どの変化は可逆ではない。例えば高温物体から低温物体への熱の移動は、両者を接触させればおこるが、この逆の変化は起こらず、熱移動は不可逆過程である。他の例も考えてみてください。

不可逆な熱機関の効率

不可逆過程をふくむ熱機関の効率は、カルノー機関の効率よりも常に小さい(カルノーの第2定理)。これも熱力学の第2法則から導ける。

エントロピー

高温熱源$T_1$と低温熱源$T_2$を用いたカルノーサイクルでは、 ${{\frac{Q_1}{T_1}=\frac{Q_2}{T_2} }}$ が成立する。 高温熱源$T_1$と低温熱源$T_2$を用いた不可逆過程の熱機関では ${{\frac{Q_1}{T_1}<\frac{Q_2}{T_2} }}$ が成立する。 このことから、エントロピー ${{\frac{Q}{T}}$ という重要な概念が導入された。これ以上は難しいので大学で学ぶことになりますが、興味のある方は以下を参照のこと。

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