物理/極限と微分

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目次

極限と微分

集合

集合論の初歩の知識は前提にして記述するので、
なじみのない方は、下記を参考に、
集合の素朴な定義、集合の表記法、集合の和集合や共通集合、集合の包含関係
などについて学習してほしい。

実数の連続性と極限

実数の連続性は、色々な極限の存在の根拠を与えるもので、
実数の持つ最も重要な性質の一つである。

上界、下界と有界集合

${\bf R}$を、全ての実数を要素とする集合とし、
$A$をその部分集合とする。
実数$u$が$A$の上界(upper bound)とは、
任意の$a \in A$に対して、$a \leq u$がなりたつこと。
実数$l$が$A$の下界(lower bound)とは、
任意の$a \in A$に対して、$l \leq a$がなりたつこと。
$U_A$を$A$の上界をすべて集めた集合、
$L_A$を$A$の上界をすべて集めた集合とする。
$U_A$が空集合$\emptyset$でない(すなわち、$A$の上界が少なくとも一つ存在する)とき、
$A$は上に有界であるといい、
$L_A\neq \emptyset$の時、$A$は下に有界であるという。
上に有界で、下にも有界な集合($\subset {\bf R})$は、有界という。

実数の連続の公理と上限、下限

$A \subset {\bf R}$とする。
実数の連続性の公理
もし、$U_A \neq \emptyset$ならば、$U_A$は、最小元を持つ。
もし、$L_A \neq \emptyset$ならば、$L_A$は、最大元を持つ。

上限と下限の定義
$U_A$の最小元を$A$の上限(supremum)あるいは最小上界(least upper bound)という。
また、$L_A$の最大元を$A$の下限(infimum)あるいは最大下界(greatest lower bound)という。

命題1
$u$が$A(\subset {\bf R})$ の上限となるための必要十分条件は、
ⅰ)$u$は$A$の上界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$a \leq u$   
ⅱ)$x<u$である任意の$x$は$A$の上界ではない。すなわち、$x<a$となる$a\in A$が存在。
ⅲ)$A$が最大値を持つ場合には、上限は最大値と一致する。
同様に、$l$が$A$ の下限となるための必要十分条件は、
ⅰ)$l$は$A$の下界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$l\leq a$   
ⅱ)$l<x$である任意の$x$は$A$の下界ではない。すなわち、$a<x$となる$a\in A$が存在。
ⅲ)$A$が最小値を持つ場合には、下限は最小値と一致する。

$A$ の上限を$\sup A$、下限を$\inf A$と書く。

証明は、上限、下限の定義から、明らかなので省略する。
例;$A=(0,1)$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。
これらは、ともに$A$の要素でないので、
上限1は$A$の最大元(最大値)ではなく、下限0は$A$の最小元(最小値)ではない。
$A=[0,1]$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。
これらは、ともに$A$の要素なので、
上限は最大限であり、下限は最小限となる。

命題2
$A \subset B \subset {\bf R}$で、$B$は有界集合とする。
このとき、$\inf B \leq \inf A \leq \sup A \leq \sup B$
証明は容易である。

命題3
$A \subset {\bf R}$で、$A$は有界集合とする。
$s:=\inf A,\quad S:=\sup A,\quad d(A):=\sup_{x,y\in A}(x-y)$とおくと、
$S-s=d(A)$
証明
1)$d(A)\leq S-s$を示す。
下限と上限の定義から、任意の$a,b\in A$に対して、$s \leq a,b \leq S$
これより、$|a-b| \leq S-s$。故に$d(A)=\sup_{a,b\in A}(a-b)\leq S-s$
2)$S-s\leq d(A)$を示す。
$d(A)<S-s $だと仮定する。
この仮定から矛盾が生じれば、誤謬法により、2)が成立することが分かる。
仮定により、ある十分に小さい正数$\epsilon$を取れば、
$d(A)<S-s-\epsilon=(S-\frac{1}{2}\epsilon)-(s+\frac{1}{2}\epsilon)\qquad (1) $
が成り立つ。
$S-\frac{1}{2}\epsilon$はAの最小上界$S$より小さいのでAの上界ではない。
そのため、ある$a_{0}\in A$が存在して
$S-\frac{1}{2}\epsilon < a_{0} \qquad \qquad (2)$
$s+\frac{1}{2}\epsilon$は、同様に、Aの下界ではないので、ある$b_{0}\in A$が存在して
$b_{0}<s+\frac{1}{2}\epsilon \qquad \qquad (3)$
式(1),(2),(3)から、
$d(A)<a_{0}-b_{0}$
これは、$d(A)=\sup_{a,b\in A}(a-b)$と矛盾する。
証明終わり。

実数列の収束と極限、極限の性質 

順番に並んだ実数の列
$a_1,a_2,,,a_n,,,,,$
を実数列といい、
実数列$\{a_n\}_{n=1}^{\infty},\{a_n\}_{n\in {\bf N}}, \{a_n\}$
などとも書く。ここで${\bf N}$は、すべての自然数を要素とする集合である。

有界な単調数列は収束する

定義;単調数列
実数列$\{a_n\}$が単調増加とは$a_i\leq a_{i+1},(i=1,2,3,,,,)$がなりたつこと。
実数列$\{a_n\}$が単調減少とは$a_i\geq a_{i+1},(i=1,2,3,,,,)$がなりたつこと。
実数列$\{a_n\}$が単調とは、単調増加か単調減少のこと。
実数列の単調収束定理
1)上に有界な単調増加の実数列$\{a_n\}$は収束し、
その極限は$\sup_{n\in {\bf N}}a_n$に等しい。
2)下に有界な単調減少の数列$\{a_n\}$は収束し、
その極限は$\inf_{n\in {\bf N}}a_n$に等しい。
証明;
1)。上に有界な数列は、実数の連続の公理から、
上限$s=\sup_{n\in {\bf N}}a_n$を持つ。
上限の定義から、どんなに小さい正数$\epsilon$を選んでも、
$s-\epsilon < a_{n_{0}}\leq s$をみたす数列の要素$a_{n_{0}}$が存在する。
数列は単調増加なので、$n\geq n_{0}$ならば$a_{n_{0}}\leq a_n \leq s$.
ゆえに、任意の正数$\epsilon$にたいして、ある番号$n_0$が存在して、
任意の$ n\geq n_{0}$にたいして、
$s-\epsilon < a_{n_{0}}\leq a_n \leq s$
が言えた。ゆえに、この数列はsに収束する。
2)の証明も同様に行えるので省略。

コーシー数列は収束する

コーシー実数列の定義
実数列$\{a_n\}$がコーシー列とは、
どんなに小さい正数$\epsilon$を選んでも、
ある番号$n_0$が存在して、
$m,n \geq n_{0}$ならば、$|a_m-a_n|<\epsilon$
となること。

定理(コーシー)
実数列$\{a_n\}$に対して
収束する $\Leftrightarrow$ コーシー列である。
証明;
(=>)実数列$\{a_n\}$が極限$s$に収束すると仮定する。 どんなに小さい正数$\epsilon$を選んでも、
ある番号$n_0$が存在して、
$n \geq n_{0}$ならば$|a_n-s|<\frac{\epsilon}{2}$
そこで、$m,n \geq n_{0}$ならば、$|a_m-a_n|\leq |a_m-s|+|s-a_n|<\epsilon$
ゆえに、コーシー列である。
(<=)実数列$\{a_n\}$がコーシー列とする。
(1)数列は有界
何故なら、正数1に対して、ある番号$n_0$が存在して、
$m,n \geq n_{0}$ならば、$|a_m-a_n|<1$
これより、$m \geq n_{0}$ならば、$|a_m-a_{n_{0}}|<1$
これより、$a_{n_{0}}-1<a_m<a_{n_{0}}+1$
すると数列の全ての要素は
$M:=\max{a_1,a_2,,,a_{n_{0}-1},a_{n_{0}}+1$
以下となり上に有界である。
下に有界であることも、同様にして分かる。
(2)任意の自然数$n$に対して、$s_n:=\inf_{k\geq n}a_k$は存在し、
数列$\{s_n\}$は極限$s=\lim_{n\to \infty}s_n$に収束する。
理由;数列$\{ a_{n+k}\}_k$は有界なので、
実数の連続性の公理から、その下限$s_n:=\inf_{k\geq n}a_k$は存在する。
「実数の連続の公理と上限」の項の命題2から、数列$\{s_n\}$は、単調増加である。
単調収束定理からこの数列は極限$s=\lim_{n\to \infty}s_n$に収束する。 (3)任意の自然数$n$に対して、$S_n:=\sup_{k\geq n}a_k$は存在し、
数列$\{S_n\}$は単調減少で極限$S=\lim_{n\to \infty}S_n$に収束する。
この命題は(2)と全く同じ考えで出来るので省略する。
(4)$s \leq S$である。
理由;任意の自然数nに対して
$s_n:=\inf_{k\geq n}a_k$なので、$s_n\leq a_{n+k},(k=0,1,2,,,,)$
$S_n:=\sup_{k\geq n}a_k$なので$a_{n+k} \leq S_n,(k=0,1,2,,,,)$
故に$s_n\leq S_n,(n=1,2,,,,)$
$s_n \leq s_{n+k} \leq S_{n+k},(k=0,1,2,,,,)$
kについて極限をとると、$s_n \leq S,(n=1,2,3,,,,)$
nについて極限をとると、$s \leq S$
(5)$S=s==\lim_{n\to \infty}a_n$
数列$\{a_n\}$がコーシー列なので、
任意の正数$\epsilon$をとると、自然数$n_{0}$が存在して
全ての$m,n \geq n_{0}$にたいして$|a_m-a_n|<\epsilon$
これより、$sup_{m,n\geq n_0}(a_n-b_m)\leq \epsilon$
一方,「実数の連続の公理と上限、下限」の命題3から、
$S_{n_0}-s_{n_0}=sup_{m,n\geq n_0}(a_n-b_m)$
故に、$S_{n_0}-s_{n_0}\leq \epsilon$
数列$\{S_n\}$は単調減少、数列$\{s_n\}$は、単調増加なので
$S-s=\lim_{n\to \infty}(S_n-s_n)\leq S_{n_0}-s_{n_0}\leq \epsilon$
故に$S-s=0$
また$s_{n}\leq a_n \leq S_{n},(n=1,2,3,,,,)$なので、
$ \lim_{n\to \infty}a_n=s=S$が示せた。
   

関数の連続性

関数の連続性の定義;
実数値関数 $f(x)$ がある点 $x_0$で連続であるとは、
$x$が$x_0$ に限りなく近づくならば、$f(x)$ が $f(x_0)$ に限りなく近づく
ことを言う。
$\lim_{x\to x_0} f(x) = f(x_0)$と記す。

これはイプシロン-デルタ論法(ε-δ論法)を用いれば次のように定式化できる。
(小さな)正の数 ε が任意に与えられたとき、
(小さな)正の数 δ をうまくとってやれば、
$x_0$ と δ 以内の距離にあるどんな $x$ に対しても、
$f(x)$ と $f(x)$ の差が ε より小さいようにすることができる。

関数 $f(x)$ がある区間$I$ で連続であるとは、
$I$ に属するそれぞれの点において連続であることを言う。

実数値関数とベクトル値関数の微分

このテキストを理解するための必要最小限のことを記述する。
以下の文献も必要に応じて参考にしてください。
一冊では不十分な内容なので色々あげてある。

実数値関数の微分

実数の開区間$I=(a,b)$上で定義された実数値関数$y=f(x)$を考える。
定義;微分可能性
関数$f$が$s\in I$で微分可能であるとは、極限
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f(s)}{h}=c \qquad \qquad (1)$
が存在することである。
この時$c$を$f$の$s$における微分係数あるいは導値といい、
$f'(s)、\frac{df}{dt}(s)、(Df)(s)$
などと書く。
$I=(a,b)$の各点で$f$が微分可能であるとき、$f$は微分可能関数(あるいは 微分可能)という。
この時、任意の$s\in I$に対して、$f'(s)$が定まるので、
関数$f'$が定まる。これを$f$の${\bf 導関数}$(derivative)という。


微分係数の意味

(1)$\frac{f(s+h)-f(s)}{h}$は、区間$[s,s+h]$における関数値の平均変化率である。
その極限である微分係数$f'(s)$は、関数値の$s$における瞬間的な変化率と考えられる。
(2)2次元空間(平面のこと)に直交座標座標系$O-xy$をいれ、
関数$y=f(x)$のグラフ$G=\{(x,y)\mid x\in I,y=f(x)\}$を書く。
すると、
$f'(s)$が存在することは、$x=s$においてグラフ$G$が接線をもつことと同等であり、
接線の方程式は
$y=f'(s)(x-s)+f(s)$である。
これは、接線の定義からただちに分かる。
(3)$h$を零に近づけていったときの極限の意味をさらに深めるため
微分可能の定義を、それと同等の別の表現に変換しよう。
(1)式の右辺の定数を左辺に移行すると
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f(s)-ch}{h}=0$
次に、
$o_{s}(h):=\frac{f(s+h)-f(s)-ch}{h}\qquad \qquad (2)$
という、変数hの関数を定義する。
すると関数$f$が$s\in I$で微分可能で、微分係数が$c$である必要十分条件は
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}o_{s}(h)=0$
である。
(2)式を変形すると
$f(s+h)=f(s)+ch+o_{s}(h)h$
ゆえに次の命題が証明できた。
命題;
次の3つの条件は同等である。
1)関数$f$は$s\in I$で微分可能で、微分係数は$c$である
2)関数$f$は、
$f(s+h)=f(s)+ch+o_{s}(h)h \qquad \qquad (3)$
と表現できる。
ここで、$o_{s}(h)$は
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}o_{s}(h)=0 \qquad \qquad (4)$
を満たす関数

3) 関数$f$は、
$s$の近傍の点$x$で $f(x)=f(s)+c(x-s)+\left(o_{s}(x-s)\right)(x-s) \qquad \qquad (3)$
ここで、$o_{s}(x-s)$は
$\lim_{x \to s,x\neq s}o_{s}(x-s)=0 \qquad \qquad (4)$
を満たす関数

この定理の3)により、
「関数が$s$で微分可能であり、微分係数がcであること」は、
「この関数が$s$の近傍の点$x$で直線$y=f(s)+c(x-s)$で近似でき、
誤差$|f(x)-(f(s)+c(x-s))|=|\left(o_{s}(x-s)\right)(x-s)| $が,
$x$を$s$に近づけていくとき、$h=x-s$より高次で0に収束する(注参照)
ことと同等であることが分かる。
(注)$\lim_{h\to 0,h\neq 0}\frac{o_{s}(h)h}{h}=0$ 命題の系;関数が$s$で微分可能であれば、$s$で連続である。
証明;命題の2)を用いると、
$f(s+h)=f(s)+ch+o_{s}(h)h $
この式から、$|f(s+h)-f(s)|=|(c+o_{s}(h))h|$
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}o_{s}(h)=0$なので$\lim_{h \to 0,h\neq 0}|(c+o_{s}(h))h|=0$。
ゆえに、$\lim_{h \to 0,h\neq 0}|f(s+h)-f(s)|=0$
これは、関数が$s$で連続であることの定義そのものである。

導関数の性質

(1)$f,g$が$I=(a,b)$上で定義された、微分可能な実数値関数ならば
$\alpha f+\beta g$、$fg(s):=f(s)g(s)$は微分可能で
それらの導関数の間には、
$(\alpha f+\beta g )'=\alpha f'+\beta g'$(線形性)ここで$\alpha,\beta$は任意の実数。
(2) $(fg)'=f'g+fg'$
証明は、微分の定義式と極限の性質から容易に導ける。

平均値の定理

ロールの定理
$f$を有界閉区間$I=[a,b],(b>a)$で定義された実数値関数とする。
$f$が$I=[a,b]$で連続、開区間$(a,b)$で微分可能,しかも$f(a)=f(b)$ならば、
$f'(\xi)=0$を満たす$\xi\in (a,b)$が存在する。
証明;


平均値の定理
$f$を有界閉区間$I=[a,b],(b>a)$で定義された実数値関数とする。
$f$が$I=[a,b]$で連続で、開区間$(a,b)$で微分可能ならば、
ある数$\xi\in (a,b)$が存在して、
$f(b)-f(a)=f'(\xi)(b-a)$
証明;


系;$f$が$I=(a,b)$上で定数$\Leftrightarrow$ $I$上で恒等的に$f'(t)=0$



ベクトル値関数の微分

実数の開区間$I=(a,b)$上で定義され,n次元の実ベクトル($\in {\bf R^n}$)に 値をとる関数$\vec f$を考える。
定義;微分可能性
実数値関数の場合と同じである。

導関数の線形性の性質も成り立つ。

ベクトル値関数の微分とその成分関数の微分の関係

関数値$\vec f(s)$は${\bf R^n}$の要素なので
$\vec f(s)=(f_1(s),f_2(s),\cdots f_n(s))$
と表示できる。
すると$\vec f$のn個の成分関数
$f_i,(i=1,2,\cdots n)$
が得られる。
命題;
$\vec f$が$s\in I$で微分可能$\Leftrightarrow$$f_i(i=1,2,\cdots n)$が$s\in I$で微分可能。
この時、${\vec f}'(s)=({f_1}'(s),{f_2}'(s)\cdots {f_n}'(s))$

ベクトル積の微分

命題
$ \vec{a(t)} $ と $\vec{b(t)} $は、開区間I上で定義され、 微分可能なベクトル値関数とする。すると、
$ \quad \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$ は微分可能で、
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}) =(\frac{d}{dt}\vec{a(t)} )\times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times (\frac{d}{dt}\vec{b(t)})$ 証明
すでにこのテキストで紹介した、ベクトル値関数の微分の定義
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}) =\lim_{\delta t \to 0} (\vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}- \vec{a(t)} \times \vec{b(t)})/\delta t$ $\qquad $ (1)  
を用いて証明する。
この極限が存在し、
$\frac{d}{dt}\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times \frac{d}{dt}\vec{b(t)}$
になることを示せば命題は証明できたことになる。
極限の計算が進むよう、右辺の式の分母は変形しよう。
関数の積の微分公式の証明と同じ技巧を用いる。
$ \vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)} - \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$  
$ = \vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)} -\vec a(t)\times \vec{b(t+\delta t)} +\vec a(t)\times \vec{b(t+\delta t)} - \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$  
ベクトル積の命題3を利用すると、 
$ = \left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right) \times \vec b\left(t+\delta t\right) +\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right) $

この式を式(1)の右辺の分子の項に代入し整頓すると
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}) =\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec a(t+\delta t)\times \vec b(t+\delta t)- \vec a(t) \times \vec b(t)} {\delta t}$  
$=\lim_{\delta t \to 0} \frac{\left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right) \times \vec b\left(t+\delta t\right) +\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right) } {\delta t} $
ベクトル積の命題4を使い、
$=\lim_{\delta t \to 0}\left( \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t} \times \vec b\left(t+\delta t\right) + \vec a(t)\times \frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)} {\delta t} \right)$
極限の命題を使って、
$=\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t} \times \lim_{\delta t \to 0}\vec b(t+\delta t) + \vec a(t)\times \lim_{\delta t \to 0}\frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)}{\delta t} $
式中の極限は、$\vec a,\vec b$が、微分可能なので存在し、
$\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t} =\frac{d\vec a(t)}{dt}$
$\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec b(t+\delta t) -\vec b(t)}{\delta t} =\frac{d\vec b(t)}{dt}$

$C^{1}$級の関数

$I=(a,b)$上の関数 $f$ が連続的微分可能(continuously differentiable)であるとは,
$I$上で導関数 $f'$ が存在して、しかも$f'$ が$I$上で連続であることをいう。
$I=(a,b)$上で連続的微分可能である関数を$C^{1}$級関数という。


多変数の実数値関数の微分

${\bf R^n}=\{(x_1,x_2,,,x_n) \mid x_i\in{\bf R},i=1,2,\cdots n\}$ の開区間 $I^n=\prod_{i=1}^{n}(a_i,b_i)$上で定義された実関数$y=f(x_1,x_2,,,x_n)$ を考える。 一変数関数の議論から類推しやすくするため、以後
${\bf x}:=(x_1,x_2,,,x_n)$とおき、$y=f({\bf x})$と書くこともある。
この上で定義された実数値関数$y=f({\bf x})=f(x_1,x_2,,,x_n)$の微分について説明する。
最初に思いつくのは、一変数のときと同じ定義をもちいることであり
$\lim_{{\bf h} \to 0,{\bf h}\neq 0}\frac{f({\bf s}+{\bf h})-f({\bf s})}{{\bf h} }=c$
が存在するときsで微分可能と定義すること。
しかし、
${\bf h}$はn次元ベクトルなので割り算は不可能。

方向微分

そこで、${\bf e}\in {\bf R^n}、{\bf e}\neq 0$を用いて、
この方向にそって$h=t{\bf e}$が零に近づく($t \to 0$)ときの
関数値の瞬間的変化率を考える。

定義;${\bf e}$方向の微分可能性
関数$f$が${\bf s}\in I^n$で${\bf e}$方向に微分可能であるとは、極限
$\lim_{t \to 0,\neq 0}\frac{f({\bf s}+t{\bf e})-f({\bf s})}{t}=c \qquad \qquad (1)$
が存在することである。
この時$c$を$f$の${\bf s}$における${\bf e}$方向の微分係数あるいは${\bf e}$方向の導値といい、
$\frac{\partial f}{\partial{\bf e} }({\bf s})、(D_{\bf e}{f)({\bf s})$
などと書く。
$I^n=\prod_{i}(a_i,b_i)$の各点で$f$が${\bf e}$方向に微分可能であるとき、 $f$は${\bf e}$方向に微分可能関数という。
この時、任意の${\bf s}\in I^n$に対して、$\frac{\partial f}{\partial{\bf e} }({\bf s})$が定まるので、
関数$\frac{\partial f}{\partial{\bf e} }$が定まる。 これを$f$の${\bf e}$方向の${\bf 導関数}$という。

偏微分

${\bf R^n}$の自然基底${\bf e_1}=(1,0,\cdots 0),,,,,{\bf e_n}=(0,0,,,1)$を、
方向に選んだときの方向微分は、良くつかわれる。
定義;偏微分
関数$f$が${\bf s}\in I^n$で${\bf e_i}$方向に微分可能であるとき、
$f$は、${\bf s}\in I^n$で第i座標$x_i$にかんして偏微分可能という。
$(D_{\bf e_i}({\bf s})$を, $f$の ${\bf s}$における $x_i$ についての偏微分係数といい、
$\frac{\partial f}{\partial x_i}({\bf s}),f_{x_{i}},(D_if)({\bf s})$ などと書く。

$C^{1}$級の関数

$I^n=\prod_{i=1}{n}(a_i,b_i)$上の関数 $f$ が連続的微分可能(continuously differentiable)であるとは,
$I$上ですべての偏導関数 $\fraca{\partial f}{\partial x_i},(i=1,2,,,n)$ が存在して、しかも$I$上で連続であることをいう。
$I^n$上の$C^{1}$級関数という。
$f\in C^{1}(I^n)$と記す。

微分(全微分) 

定義1;微分可能(全微分可能ともいう)、導値(微分係数)、導関数
定理1;
微分可能ならば、偏微分可能

定理2
$C^{1}$級の関数は微分可能

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