物理/質点の運動の表し方 

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目次

質点の運動の表し方 

まず、質点 (大きさがなく重さだけがある点状の物体)の運動を学び、 
その法則を明らかにします。

なぜ質点の運動から、学ぶのか

大きさのある物体は、物体の箇所によって位置がことなる。また大きさのある物体は変形する。
このため、その位置を表すのが難しい。
さらに運動も平行移動だけでなく回転などを行い複雑となる。
質点は、大きさのない点なので位置は明確で、その場所を簡単に表示できる。しかも変形も回転もない。
このため、その取り扱いは、大きさのある物体に比べて、格段に、易しくなる。
しかし、重さがあって大きさのない、仮想の物質である質点の運動法則など何の役にも立たないと思う人もいるでしょう。
ところが、応用範囲は結構広いのです。
例えば、地球の公転運動(太陽の周りの回転)は、地球を質点とみなして解析してもほぼ正しい。
さらに、大きさを考慮して解析しなければならない物体の運動も、質点の運動法則を利用して解明できる。
これには高校数学より高度な数学を必要とする。
そこで、大きさのある物体の運動は主に、大学で学ぶ。

質点の運動を数式で表すにはどうするか?

我々が住む世界は、3次元空間 であり、縦、横、高さという3つの方向がある。この空間には距離という概念がある(注参照)。
また時間という時の経過が存在する。
。 この世界の物質は運動していて、その場所を時間とともに変える。
1章の4節で紹介したように近代の力学は、
運動を質点の位置の時間変化と考え、質点の位置や速度を正確に測定し、それらの変化の法則を明らかにして、数式で正確にあらわすという方法で発展した。
まず、時間と距離の測り方から紹介する。
(注)空間について、もう少し詳しく知りたい方は、
「8章、物理数学」の「平面と空間のベクトル」を御覧ください。

時間と距離の測り方

時間は時計で正確に測れる。
詳しくはウィキペディア(時間) の4.1 ニュートン力学での時間
を参照のこと。

また距離(あるいは長さ)は、距離の原器を使って正確に測れる。
詳しくは、

空間の点の位置の表現 

 位置ベクトルとベクトル 

3次元空間$S^3$の適当な点$O$をとり、原点と呼ぶ。
空間の任意の点$P$に対し,原点$O$と点$P$を結ぶ線分を引き、$O$から点$P$にむけ向きをいれる。
この向きを図示するため、点$P$に向きを示す矢印を付ける。
この向き付きの線分(有向線分)を点$P$を表す位置ベクトルといい、$\overrightarrow{OP}$で表現する。図参照。
これは、点Oから見た点Pの位置を、向きのついた線分[OP]の方向・向きと、線分の長さを用いて表示するものである。
始点が違った有向線分$\overrightarrow{QR}$でも、
$\overrightarrow{OP}$と方向・向きと大きさが等しければ、
点Oから、$\overrightarrow{QR}$の示す方向・向きと大きさの点は、
同じく点Pとなるので、始点の違いを無視出来る。
そこで、有向線分$\overrightarrow{OP}$と始点は異なるが、
方向・向きと大きさの等しい有向線分の全体を纏めて、
ベクトル$[\vec{OP}]$と呼ぶ。
これは、有向線分を平行移動して得られる有向線分をすべて集めて出来る集合である。
通常、表示を簡潔にするため、
有向線分と同じ記号$\vec{OP}$を使う。
ベクトル演算では、
そのベクトルに属す便利な有向線分を選んで、有向線分としての演算を行い、
得られた有向線分をベクトルとみなせばよい。

有向線分$\overrightarrow{OP}$の矢の根元に当たる端点$O$を有向線分の始点、 矢先の端点$P$を有向線分の終点と呼ぶ。
位置ベクトル$\overrightarrow{OP}$は、始点がOの有向線分と考えると、 その終点が$P$なので点$P$と同一視する。
すると、点の位置は、その位置ベクトルで表示出来ることになる。
物理学では、位置ベクトル以外にも、
速度や、加速度、力などは、大きさと方向、向きを持つ量なのでベクトルである。
物理学では、ある程度のベクトルの知識が必要である。
以下に、ベクトルについて、簡単に紹介する。
まったくベクトルについて学習してない方は次の文献をご覧ください。

  • [[wikibooks_ja:高等学校数学B ベクトル|ウィキブックス(高等学校数学B ベクトル)]

2つのベクトルの和

定義;2つのベクトル$\vec{A}$とベクトル$\vec{B}$の和を、次のように定義する。
・$\vec{A}$を表す有向線分$\overrightarrow{OP}$と$\vec{B}$を表す有向線分$\overrightarrow{PQ}$を用いて、
有向線分$\overrightarrow{OQ}$に対応するベクトルを、ベクトル$\vec{A}$とベクトル$\vec{B}$の和という。ベクトル和の図参照。
すなわち、
$\vec{A}+\vec{B}=\overrightarrow{OP}+\overrightarrow{PQ}=\overrightarrow{OQ}$;
ベクトル$\vec{A}$と$\vec{B}$を
始点の同じ有向ベクトル$\overrightarrow{OP}$ と$\overrightarrow{OR}$で表すと、
これを2辺とする平行四辺形$OPQ'R$の対角線$OQ'$に向きを付けた$\overrightarrow{OQ'}$の表すベクトルは、
$\vec{A}+\vec{B}$に等しいことが容易に分かる。ベクトル和の図参照のこと。
ベクトル和の定義から、
必要ならば適切に平行移動しユークリッド幾何の知識を使うと、
$\vec{A}+\vec{B}=\vec{B}+\vec{A}$ ; 交換法則 
$(\vec{A}+\vec{B})+\vec{C}=\vec{A}+(\vec{B}+\vec{C})$ ;結合法則 
零ベクトル 
$P=Q$という特殊な場合、$\overrightarrow{PQ}=\overrightarrow{PP}$は、
P点から見たQ点の位置(同じ位置)であることを示すので、有向線分として認める。
このように長さが0で一点に退化した有向線分は
平行移動で互いに移ることが出来るので,
同一とみなして、零ベクトルと呼ぶ。
$\vec 0=[\overrightarrow{PP}]:=\{\vec{QQ}\mid Q\in S^3\}$;零元の存在
すると
$\vec{A}+\vec{0}=\vec{A}$ であることが、容易に証明できる。
逆ベクトル 
ベクトル$\vec{A}$に対し、その逆ベクトル$-\vec{A}$とは、
$\vec{A}$を加えると$\vec{0}$になる、ベクトルのことである。
どんな$\vec{A}$も、逆ベクトルを一つ、そして一つだけ持つ。;逆元の存在
それは、$\vec{A}$と大きさ、方向が同じで、向きが逆のベクトルである。
証明は容易。
以後、$\vec{A}+(-\vec{B})$を、$\vec{A}-\vec{B}$で表す。
ベクトルの実数倍
$a$を任意の実数とする。
$\vec{A}$が零ベクトルでない時、その$a$倍、$a\vec{A}$は次のように定義する。
・$a$が正数のとき;$a\vec{A}$は、$\vec{A}$と方向・向きは同じで、大きさが$a$倍であるベクトルで定義する。
・$a=0$のとき;$0\vec{A}=\vec{0}$で定義する。
・$a< 0$のとき;$a\vec{A}=-(-a)\vec{A}$
$\vec{A}=\vec{0}$のときは、$a\vec{0}=\vec{0}$とする。
このように定義すると、
ベクトルの実数倍がベクトルとして定まる。
次の諸規則が証明できる。
$a(\vec{A}+\vec{B})=a\vec{A}+a\vec{B}$
$(a+b)\vec{A}=a\vec{A}+b\vec{A}$
$(ab)\vec{A}=a(b\vec{A})$
$1\vec{A}=\vec{A}$

 位置の座標とベクトルの座標成分表示 

ベクトルの記号(例えば$\vec{A}$)を用いた力学の法則の表示や演算は、ベクトル記号のまま扱うと、大変簡潔で、見通しが良い。
しかし、ベクトル記号のままでは、具体的な問題で、質点がどこにいるか、その速度は、どの方向で、いくらか、などを求めたいときには、大変である。
ベクトルを図示し、図を使って、ベクトル演算をしなければならなくなるからである。
平面の場合でさえ、ベクトルを正確に図示することはできず、手間も大変である。
3次元空間では、平面である紙の上には、正確に書くことは出来ない。

そこで点$P$の位置、位置ベクトル$\overrightarrow{OP}$やその他のベクトルを、いくつかの数字が順番に並んだ、数字の組で表わす方法が考えだされた。
図ではなく数字を使って位置やベクトルを表せるなら、数学で知られた色々な計算方法が利用でき、具体的な計算は飛躍的に進化する。
点の位置をいくつかの数字の組で表示するのは座標表示と呼ばれ、
ベクトルをいくつかの数字の組で表現することはベクトルの座標成分表示と呼ばれる。
色々な座標を使った表示法がみつかっている。
最も広く利用されている方法を説明しよう。

 直交座標を用いる表示 

空間に定めた原点$O$をとおる、縦と横と高さ方向の直交する3つの直線を引く。
各直線上の原点から単位の距離にある点(原点の両側にある)の一方に+1を、他方にー1を振る。
他の点にも、原点からの距離に+-符合(原点に関して、+1と同じ側の点には+)をつけた数字(実数)を割り振る。
このように、各点に数字が割り振られた直線に、数字が増大する向きに矢印をつける。
この直線を数直線と呼び、各点に割り振られた数字をこの点の座標と呼ぶ。図_数直線参照。
縦(手前と奥)方向の数直線をx軸、横(左右)方向の数直線をy軸、高さ(上下)方向の数直線をz軸と呼ぶ。
任意の点$P$の位置や3次元ベクトルは、これ等の数直線を利用して、以下のようにして、3つの実数の組で表示できる。
(1)点の位置の座標表示 
任意の点$P$から、x軸に下ろした垂線の足の座標$P_{x}$, y軸に下ろした垂線の足の座標$P_{y}$,z軸に下ろした垂線の足の座標$P_{z}$を求める。
$P_{x}$、$P_{y}$、$P_{z}$をそれぞれ、点Pのx座標、y座標、z座標と呼ぶ。 点$P$にたいして3つの数字の組$(P_{x},P_{y}, P_{z})$が、唯一つ定まる。これを点$P$の座標と呼ぶ。
ここで、数字は、x座標、y座標、z座標の順序で並べなければならない。
逆に3つの実数の組$(a_{x},a_{y}, a_{z})$に対して、それを座標にもつ点$P$が、唯一つ決まる。図_座標表示を参照のこと。

(2)ベクトルの座標成分表示  
・ベクトルは平行移動しても同じものなので、平行移動して、始点を原点とするベクトル$\vec{OP}$を考える。
位置ベクトルは、初めから始点が原点に固定された束縛ベクトルなので移動しなくて良い。  
・ベクトル$\vec{OP}$の終点$P$の座標$(P_{x},P_{y},P_{z})$を、ベクトル$\vec{OP}$の座標成分表示という。
位置ベクトル$\vec{OP}$では、その成分は、点$P$の座標成分と同じである。
・このように、すべてのベクトルにひと組の数字の組が定まること、
逆に3つの実数の組を与えると、唯一つのベクトルが決まることが分かるであろう。

x軸、y軸、z軸は、座標を決めるときに使われるので、座標軸と呼ばれる。


紹介した座標表示法では、3本の軸は直交するようにとってあるので、それを明示したいときは直交という形容をつけて、直交座標成分、直交座標軸などと呼ぶ。

(3)ベクトルと、その直交座標成分表示の関係について  
x軸上に、長さが1で、正の向き(座標の増加する向きのこと)の有向線分をとり、これによって決まるベクトルを$\vec{e_x}$とおく。
同様に、y軸上の長さ1で正の向きの有向線分に対応するベクトルを$\vec{e_y}$,
z軸上に、長さ1で正の向きの有向線分に対応するベクトルを$\vec{e_z}$とおく。
すると、任意のベクトル$\vec A$は、その直交座標成分$(A_x,A_y,A_z)$を用いて、
$\vec A=A_x\vec{e_x}+A_y\vec{e_y}+A_z\vec{e_z}$
と表せることが、簡単に証明できる。
このように、どんなベクトルも、3つのベクトル$\vec{e_x},\vec{e_y},\vec{e_z}$を用いて表示できるので、
これらを順番に並べた
$(\vec{e_x},\vec{e_y},\vec{e_z})$を、3次元空間の基底と呼ぶ。
直交していることを明示したいときは、直交基底という。
さらに、基底ベクトルの大きさが1にとってあるので、
これを明示したいときには、正規直交基底と呼ぶ。
逆に、
直交基底$\vec{e_x},\vec{e_y},\vec{e_z}$が与えられると、
直交座標系が決まる。

 直交座標系には右手系と左手系の2種類がある 

(1)3次元空間の場合;
空間に一つの直交座標系をとる。
3つの座標軸のうち、一つの座標軸の正負を逆にした座標系をつくる。たとえばz軸の正負を逆にしてみよう。
右手の親指、人差し指、中指をそれぞれ直角になるように延ばし、親指をx軸の正部分に、人差し指をy軸の正部分に重ねる。
すると中指はz軸と重なるが、
片方の座標系では、向きまで一致する。
もう一方の座標系では、向きは逆になってしまう。
一致するほうの座標系を右手系、逆向きの座標系を左手系とよぶ。図参照。
x軸やy軸の向きを変える場合でも全く同じことが起こることを確かめてほしい。

(2)平面の場合;
x軸を原点を中心に90度だけ反時計回りに回転してx軸とy軸を重ねたときb、向きまで一致する座標系を右手系といい、逆向きになる時左手系という。

(3)物理では右手系を用いる。
どちらの座標系を使っても、あらゆることが、同じように議論できるが、
どちらの座標系を使っているかで法則の表現が違ったり、
2種の座標系を混在させて使うと過ちになるなど、
不具合が生じてしまうので、
物理の世界では、右手系を使うことにしている。
直交座標系については、 ウィキペディア(直交座標系)
を参照のこと。

色々な座標

ベクトルを実数の組で表示する、座標表示の方法は、色々考案されている。
それは、運動の種類に応じて、使いやすい座標と使いにくい座標があるからである。 直交座標は最も多く使われるが、円運度や楕円運動では極座標が便利である。


極座標については、ウィキペディア(極座標系)
その他の座標系も含む色々な座標系についてはウィキペディア(座標)
を参照のこと。
(注)座標系をつかい、数字の計算で図形等の性質を調べることは16世紀にデカルトが見つけた偉大な方法である。
この方法が、運動を法則を解明する時に、不可欠の役割を果たしている。

座標表示の欠点

座標系を定めて位置を数値化すのため、当然のことながら、
位置を表示する数値は座標系に依存する。
このため、異なる座標系で表現したいときには、正しい数値にするため、
場合によってはかなり複雑な変換をする必要が起こる。
ベクトル表示は、座標を用いないので、この種の煩わしさは無い。

物理で利用するベクトルの演算についての注意

数学で扱うベクトルは、文字通り、大きさと方向・向きの等しいベクトルは皆同じものとみなし、平行移動したり、ベクトル同士の演算も自由にできる。自由ベクトルと呼ばれる。
ところが
力は大きさと方向・向きを持つのでベクトルだが、作用する場所が変われば、その効果もまったく異なる。すなわち、ベクトルの始点がどこにあるかが、重要なベクトルである。そこで平行移動や始点の異なるベクトルの和は許さない。このようなベクトルは束縛ベクトルという。
物理に現れるベクトルは束縛ベクトルであることが良く起こるので、
物理的意味を考えて、数学を利用する必要がある。

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