物理/極限と微分

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目次

極限と微分

集合

集合論の初歩の知識は前提にして記述するので、
なじみのない方は、下記を参考に、
集合の素朴な定義、集合の表記法、集合の和集合や共通集合、集合の包含関係
などについて学習してほしい。

実数の連続性と極限

実数の連続性は、色々な極限の存在の根拠を与えるもので、
実数の持つ最も重要な性質の一つである。

上界、下界と有界集合

${\bf R}$を、全ての実数を要素とする集合とし、
$A$をその部分集合とする。
実数$u$が$A$の上界(upper bound)とは、
任意の$a \in A$に対して、$a \leq u$がなりたつこと。
実数$l$が$A$の下界(lower bound)とは、
任意の$a \in A$に対して、$l \leq a$がなりたつこと。
$U_A$を$A$の上界をすべて集めた集合、
$L_A$を$A$の上界をすべて集めた集合とする。
$U_A$が空集合$\emptyset$でない(すなわち、$A$の上界が少なくとも一つ存在する)とき、
$A$は上に有界であるといい、
$L_A\neq \emptyset$の時、$A$は下に有界であるという。
上に有界で、下にも有界な集合($\subset {\bf R})$は、有界という。

実数の連続の公理と上限、下限

$A \subset {\bf R}$とする。
実数の連続性の公理
もし、$U_A \neq \emptyset$ならば、$U_A$は、最小元を持つ。
もし、$L_A \neq \emptyset$ならば、$L_A$は、最大元を持つ。

上限と下限の定義
$U_A$の最小元を$A$の上限(supremum)あるいは最小上界(least upper bound)という。
また、$L_A$の最大元を$A$の下限(infimum)あるいは最大下界(greatest lower bound)という。

命題1
$u$が$A(\subset {\bf R})$ の上限となるための必要十分条件は、
ⅰ)$u$は$A$の上界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$a \leq u$   
ⅱ)$x<u$である任意の$x$は$A$の上界ではない。すなわち、$x<a$となる$a\in A$が存在。
ⅲ)$A$が最大値を持つ場合には、上限は最大値と一致する。
同様に、$l$が$A$ の下限となるための必要十分条件は、
ⅰ)$l$は$A$の下界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$l\leq a$   
ⅱ)$l<x$である任意の$x$は$A$の下界ではない。すなわち、$a<x$となる$a\in A$が存在。
ⅲ)$A$が最小値を持つ場合には、下限は最小値と一致する。

$A$ の上限を$\sup A$、下限を$\inf A$と書く。

証明は、上限、下限の定義から、明らかなので省略する。
例;$A=(0,1)$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。
これらは、ともに$A$の要素でないので、
上限1は$A$の最大元(最大値)ではなく、下限0は$A$の最小元(最小値)ではない。
$A=[0,1]$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。
これらは、ともに$A$の要素なので、
上限は最大限であり、下限は最小限となる。

命題2
$A \subset B \subset {\bf R}$で、$B$は有界集合とする。
このとき、$\inf B \leq \inf A \leq \sup A \leq \sup B$
証明は容易である。

命題3
$A \subset {\bf R}$で、$A$は有界集合とする。
$s:=\inf A,\quad S:=\sup A,\quad d(A):=\sup_{x,y\in A}(x-y)$とおくと、
$S-s=d(A)$
証明
1)$d(A)\leq S-s$を示す。
下限と上限の定義から、任意の$a,b\in A$に対して、$s \leq a,b \leq S$
これより、$|a-b| \leq S-s$。故に$d(A)=\sup_{a,b\in A}(a-b)\leq S-s$
2)$S-s\leq d(A)$を示す。
$d(A)<S-s $だと仮定する。
この仮定から矛盾が生じれば、誤謬法により、2)が成立することが分かる。
仮定により、ある十分に小さい正数$\epsilon$を取れば、
$d(A)<S-s-\epsilon=(S-\frac{1}{2}\epsilon)-(s+\frac{1}{2}\epsilon)\qquad (1) $
が成り立つ。
$S-\frac{1}{2}\epsilon$はAの最小上界$S$より小さいのでAの上界ではない。
そのため、ある$a_{0}\in A$が存在して
$S-\frac{1}{2}\epsilon < a_{0} \qquad \qquad (2)$
$s+\frac{1}{2}\epsilon$は、同様に、Aの下界ではないので、ある$b_{0}\in A$が存在して
$b_{0}<s+\frac{1}{2}\epsilon \qquad \qquad (3)$
式(1),(2),(3)から、
$d(A)<a_{0}-b_{0}$
これは、$d(A)=\sup_{a,b\in A}(a-b)$と矛盾する。
証明終わり。

実数列の収束と極限、極限の性質 

順番に並んだ実数の列
$a_1,a_2,,,a_n,,,,,$
を実数列といい、
実数列$\{a_n\}_{n=1}^{\infty},\{a_n\}_{n\in {\bf N}}, \{a_n\}$
などとも書く。ここで${\bf N}$は、すべての自然数を要素とする集合である。

数列の収束と極限

定義
実数列$\{a_n\}_{n=1}^{\infty}$が実数$c$に収束するとは、
nを大きくしていくとき$a_n$が$c$に限りなく近づいていくこと(一致してもよい)。
厳密に述べると、
どんなに小さい正数$\epsilon$を選んでも、
それに対応する自然数$n_{\epsilon}$が存在して、
$n\geq n_{\epsilon}$というどのような自然数nに対しても、
$|c-a_n|<\epsilon$
が成立すること。
この時、$c$を数列$\{a_n\}_{n}$の極限といい、$c=\lim_{n\to \infty}a_n$と記す。

極限の性質 

命題
$\alpha ,\beta$を任意の実数とし、
実数列$\{a_n\}_{n=1}^{\infty}$と実数列$\{b_n\}_{n=1}^{\infty}$は収束すると仮定する。
このとき、以下の諸性質がある。
(1)実数列$\{\alpha a_n+\beta b_n\}_{n=1}^{\infty}$は収束し、
$\lim_{n\to \infty}(\alpha a_n+\beta b_n) =\alpha\lim_{n\to \infty}a_n +\beta \lim_{n\to \infty}b_n$
(2)実数列$\{ a_n b_n\}_{n=1}^{\infty}$は収束し、
$\lim_{n\to \infty}a_n b_n=\lim_{n\to \infty}a_n\lim_{n\to \infty} b_n=$
これらの性質は、極限への収束の定義から明らかである。


有界な単調数列は収束する

定義;単調数列
実数列$\{a_n\}$が単調増加とは$a_i\leq a_{i+1},(i=1,2,3,,,,)$がなりたつこと。
実数列$\{a_n\}$が単調減少とは$a_i\geq a_{i+1},(i=1,2,3,,,,)$がなりたつこと。
実数列$\{a_n\}$が単調とは、単調増加か単調減少のこと。
実数列の単調収束定理
1)上に有界な単調増加の実数列$\{a_n\}$は収束し、
その極限は$\sup_{n\in {\bf N}}a_n$に等しい。
2)下に有界な単調減少の数列$\{a_n\}$は収束し、
その極限は$\inf_{n\in {\bf N}}a_n$に等しい。
証明;
1)。上に有界な数列は、実数の連続の公理から、
上限$s=\sup_{n\in {\bf N}}a_n$を持つ。
上限の定義から、どんなに小さい正数$\epsilon$を選んでも、
$s-\epsilon < a_{n_{0}}\leq s$をみたす数列の要素$a_{n_{0}}$が存在する。
数列は単調増加なので、$n\geq n_{0}$ならば$a_{n_{0}}\leq a_n \leq s$.
ゆえに、任意の正数$\epsilon$にたいして、ある番号$n_0$が存在して、
任意の$ n\geq n_{0}$にたいして、
$s-\epsilon < a_{n_{0}}\leq a_n \leq s$
が言えた。ゆえに、この数列はsに収束する。
2)の証明も同様に行えるので省略。

収束する部分列

定義;
数列$\{b_n\}_{n=1}^{\infty}$が
数列$\{a_n\}_{n=1}^{\infty}$の部分列$\{b_n\}_{n=1}^{\infty}$であるとは、
全ての自然数を要素とする集合${\bf N}$から、${\bf N}$への 関数$g$が存在して、
$b_n=a_{g(n)},(n=1,2,3,,,)$となること。
ここで、$g$は $i \leq g(i)\leq g(i+1),(i=1,2,3,,,)$をみたすものとする。

ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理
有界な実数列$\{x_n\}_{n=1}^{\infty}$は収束する部分列を持つ。

証明;
数列の各項$x_n$を要素とする集合$\{x_1,x_2,x_3,,, \}$は有界集合なので、
実数の連続性の公理から、
上限$b:=sup\{x_n\mid n=1,2,3,,,\}$と
下限$a:=sup\{x_n\mid n=1,2,3,,,\}$をもつ。
$I:=[a,b]$という閉区間を考えると、数列の全ての要素はこの区間に含まれる。
1)閉区間Iを2等分し部分列の最初の項をきめる。
閉区間Iを2等分して
2つの閉区間$[a,\frac{a+b}{2}],[\frac{a+b}{2},b]$に分ける。
どちらかの区間には数列$\{x_n\}_{n=1}^{\infty}$の項が無限に沢山含まれる。
それを$I_1=[a_1,b_1]$と表現する。
数列$\{x_n\}_{n=1}^{\infty}$の中で
$I_1$に含まれる、最も番号の小さいもの$x_g(1)$を取り出す。$g(1)\geq 1$である。
2)この手順を繰り返し部分列を作る。
次に$I_1$を2等分する。このどちらかの区間に数列$\{x_n\}_{n=1}^{\infty}$の項が無限に沢山含まれる。
そこで、数列要素を無限に多く含む方の区間を選び、$I_2=[a_2,b_2]$と表現する。
$\{n\in {\bf N}\mid a_n\in I_2$のなかで、$g(1)$より大きいもののなかで最小のもの$g(2)$を取り出す。
これを無限に続けていくと、 数列$\{x_{g(i)}\}_{i=1}^{\infty}$が得られる。
ここで、作り方から、
$\quad g$は${\bf N}$から${\bf N}$への狭義の増加関数なので数列$\{x_i\}_{i=1}^{\infty}$の部分列。
$\quad a_i\leq x_{g(i)}\leq b_i,(i=1,2,3,,,,,)$、すなわち$x_{g(i)}\in I_i,(i=1,2,3,,,)$
$\quad a_1\leq a_2 \leq \cdots\leq a_n\leq \cdots\leq b_n \leq \cdots\leq b_2\leq b_1$
$\quad d(I_i)=b_i-a_i=\frac{b-a}{2^i}$
である。
$y_i:=x_{g(i)},(i=1,2,3,,,)$とおく。
3)部分列$\{y_i\}_{i=1}^{\infty}$は収束する
$a_i\leq x_{g(i)}=y_i \leq b_i,(i=1,2,3,,,,,) \qquad (1)$
数列$\{a_i\}_{i=1}^{\infty}$は有界な単調増加数列、
数列$\{b_i\}_{i=1}^{\infty}$は有界な単調減少数列
なので、単調収束定理により、
其々極限$s:=\lim_{i\to \infty}a_n$と$S:=\lim_{i\to \infty}b_n$に収束する。
$S-s\leq b_i-a_i=\frac{b-a}{2^i}$がすべての自然数iに対してなるたつので
$S=s \qquad \qquad (2)$
式(1)と(2)から、
$\lim_{i\to \infty}y_i=s=S$

コーシー数列は収束する

コーシー数列の定義
実数列$\{a_n\}$がコーシー列とは、
どんなに小さい正数$\epsilon$を選んでも、
ある番号$n_0$が存在して、
$m,n \geq n_{0}$ならば、$|a_m-a_n|<\epsilon$
となること。

定理(コーシー)
実数列$\{a_n\}$に対して
数列が収束する $\Leftrightarrow$ コーシー列である。
証明;
(=>)実数列$\{a_n\}$が極限$s$に収束すると仮定する。 どんなに小さい正数$\epsilon$を選んでも、
ある番号$n_0$が存在して、
$n \geq n_{0}$ならば$|a_n-s|<\frac{\epsilon}{2}$
そこで、$m,n \geq n_{0}$ならば、$|a_m-a_n|\leq |a_m-s|+|s-a_n|<\epsilon$
ゆえに、コーシー列である。
(<=)実数列$\{a_n\}$がコーシー列とする。
1)数列は有界
何故なら、正数1に対して、ある番号$n_0$が存在して、
$m,n \geq n_{0}$ならば、$|a_m-a_n|<1$
これより、$m \geq n_{0}$ならば、$|a_m-a_{n_{0}}|<1$
これより、$a_{n_{0}}-1<a_m<a_{n_{0}}+1$
すると数列の全ての要素は
$M:=\max{a_1,a_2,,,a_{n_{0}-1},a_{n_{0}}+1}$
以下となり上に有界である。
下に有界であることも、同様にして分かる。
2)収束する部分列の存在
数列が有界なので、ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理より、
収束する部分列$\{y_i:=x_{g(i)}\}_{i=1}^{\infty}$がある。
その極限を$s:=\lim_{i\to \infty}y_i$とおく。
3)$s:=\lim_{n\to \infty}a_n$を示す。
数列$\{a_n\}$がコーシー列なので、
どんなに小さい正数$\epsilon$をとっても、
ある番号$n_0$が存在して、$m,n\geq n_0$である自然数m、nに対して
$|a_m-a_n|\leq \epsilon$
$s=\lim_{i\to \infty}y_i$なので
ある番号$i_0$が存在して$j\geq i_0$である自然数$j$に対して、
$|y_j-s|\leq \epsilon$

すると、$i_1:=\min{i\in {\bf N}\mid g(i)\geq n_0,i\geq i_0}$とおくと、
$n\geq g(i_1)$である自然数nに対して
$|a_n-s|\leq |a_n-a_{g(i_1)}|+|a_{g(i_1)}-s|\leq 2\epsilon$
故に数列$\{a_n\}$は収束しその極限がsであることが証明された。

閉区間の中の数列の極限    

命題;
収束する実数列$\{a_n\}$の各項$a_n$が閉区間$I=[a,b]$に含まれれば、
その極限$x_0:=\lim_{n\to \infty}a_n$も$I$に含まれる。
証明
もし$x_0\notin [a,b]$とすると、$x_0>b$ か $x_0<a$である。
前者のとき、$\epsilon:=\frac{x_0-b}{2}$とえらぶと、
$x_0:=\lim_{n\to \infty}a_n$なので、
ある番号から先はすべて$|x_0-a_n|<\epsilon$,
これより$a_n >b$,$a_n\notin I$
となり$a_n\in I_n \subset I$に矛盾してしまう。
後者の場合も、同様に、矛盾が生じる。

関数の連続性

関数の連続性の定義;
実数の区間$I$で定義された実数値あるいはベクトル値の関数 $f(x)$ が
ある点 $x_0\in I$で連続であるとは、
$x\in I$が$x_0$ に限りなく近づくならば、$f(x)$ が $f(x_0)$ に限りなく近づく
ことを言う。
$\lim_{x\to x_0} f(x) = f(x_0)$と記す。

これはイプシロン-デルタ論法(ε-δ論法)を用いれば次のように定式化できる。
(小さな)正の数 ε が任意に与えられたとき、
(小さな)正の数 δ を適切にえらべば、
$x_0$ と δ 以内の距離にあるどんな $x\in I$ に対しても、
$f(x_0)$ と $f(x)$ の差が ε より小さいようにすることができる。
記号でかくと
$(|x-x_0|<\delta,x\in I) \implies |f(x)-f(x_0)|<\epsilon$
(注)関数がn次元空間${\bf R^n}$の区間$I^n$で定義され
関数値がベクトルのときも、関数の連続性の定義は変わらない。
この場合には、$|\bullet|$は$\bullet$のノルムを表す。

数列の極限を用いた連続性の表現

命題
関数$f$は
n次元の開区間$I^n=\prod_{i=1}^{n}[a_i,b_i]:=\{(x_1,x_2,,,x_n)\mid x_i\in [a_i,b_i],(i=1,2,,,n)\}$で定義され、
m次元ベクトルに値を取る関数とする。
すると任意の$a\in I^n$に対して、次の(1)と(2)は同値である。
(1)$\lim_{x\to a} f(x) = f(a)$
(2)$x_n\in I^n,(n=1,2,3,,,,)$を$a\in I^n$に収束する任意の点列とすると
$\lim_{n\to \infty}f(x_n)=f(a)$
証明
(1)ならば(2)を示す。
(1)を仮定したとき、
任意の$\epsilon>0$に対して、ある番号$n_0$が存在し、
任意の自然数$n(\geq n_0)$に対して、$\|f(a)-f(x_n)\|<\epsilon$を示せばよい。
仮定から、この$\epsilon$に対して、正数$\delta$が存在して、
$\|a-x\|<\delta$を満たす任意の$x\in I^n$に対して
$\|f(a)-f(x)\|<\epsilon \quad \qquad (1)$
$x_n\in I^n,(n=1,2,3,,,,)$は$a\in I^n$に収束するので、
ある番号$n_0$が存在して,$n\geq n_0$である任意の自然数nに対して、
$\|a-x_n\|<\delta$
故に、式(1)から$\|f(a)-f(x_n)\|<\epsilon$
(2)ならば(1)を示す。
背理法を用いる。
(1)が成り立たないと仮定する。
すると、ある$\epsilon>0$が存在して、
どんなに小さい正数$\delta>0$に対しても、
$|x-a|<\delta$、$\|f(a)-f(x)\|\geq \epsilon$
を満たす$x\in I^n$が存在する。
そこで、任意の自然数nに対して、
$|x-a|<\frac{1}{n}$、$\|f(a)-f(x)\|\geq \epsilon$
をみたす$x\in I^n$を一つ選び、$x_n$とおく(n=1,2,3,,,,)。
数列$\{x_n\}_{n=1}^{\infty}$を作ると、
この数列は明らかに$a$に収束する。
ところが$\|f(a)-f(x_n)\|\geq \epsilon,(n=1,2,3,,,)$
なので、関数値のつくる数列$\{f(x_n)\}_{n=1}^{\infty}$
は$f(a)$に収束しない。
これは条件(2)に反し、矛盾である。 証明終わり。

連続関数の性質

命題1.有界閉区間$I=[a,b]$で定義された実数値の連続関数$f$は有界である。
但し、$f$が有界とは$\{f(x)\mid x\in I\}$が有界集合のこと。
証明;
上に有界でないと仮定して矛盾が生じることを示せば良い。
下に有界でない場合も全く同じように証明できる。
fが上に有界でないので、任意の自然数nにたいして、
$f(x_n)\geq n$となる点$x_n\in I$が存在する。
数列$\{x_n\}_{n=1}^{\infty}$は有界なので
ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理から、
収束する部分列$\{x_{g(i)}\}_{i=1}^{\infty}$が存在する。
その極限を$\xi$とおく。
すると関数値から作られる数列$\{f(x_{g(i)})\}_{i=1}^{\infty}$は、
関数の連続性から、収束し$f(\xi)=\lim_{i\to \infty}f(x_{g(i)})$
ところが、$f(x_{g(i)})\geq g(i)\geq i$なので、
この極限は存在せず無限大に発散。矛盾が生じる。 証明終わり。


命題2
$f$は、有界閉区間$I=[a,b]$で定義された実数値の連続関数とする。
すると、$f$は、I上で最大値と最小値を持つ。
証明;
1)命題1から$f$は有界関数なので、${\bf R(f)}:=\{f(x) \mid x\in I\}$は実数からなる有界集合。
実数の連続性の公理から、${\bf R(f)}$の下限と上限$m:=\inf {\bf R(f)},M:=\sup{\bf R(f)}$が存在。
2)Mは$f$のI上の最大値、
Mが${\bf R(f)}$の上界なので任意のIの要素xに対して$f(x)\leq M$。
$f(\xi)=M$となる$\xi\in I$が存在することを証明すれば良い。以下に、これを示す。
1)任意の自然数nにたいして$M-\frac{1}{n}$は${\bf R(f)}$の上界でなくなるので、
$M-\frac{1}{n}<f(x_n)$を満たす$x_n\in I$が存在する。
これらの数の作る数列$\{x_n\}_{n=1}^{\infty}$は、有界なので、
ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理から、
収束する部分列$\{x_{g(i)}\}_{i=1}^{\infty}$が存在する。
この極限を$\xi:=\lim_{i\to \infty}x_{g(i)}$とおく。
ここで、部分列は閉区間$I$のなかにあるので、すでに証明した命題から、 $\xi\in I$
そこで関数の連続性から、
$\xi\in I \qquad \qquad (1)$
数列$\{f(x_{g(i)})\}_{i=1}^{\infty}$は収束し、その極限は
$f(\xi)=\lim_{i\to \infty}f(x_{g(i)}) \qquad \qquad (2)$
ところが、全ての自然数nに対して、$M-\frac{1}{n}<f(x_n)\leq M$,$g(n)\geq n$なので
$M-\frac{1}{i}<f(x_{g(i)})\leq M,(i=1,2,3,,,)$
この式のiについての極限をとると
$\lim_{i\to \infty}f(x_{g(i)})=M$
この式と式(2)から、
$f(\xi)=M  \qquad \qquad (3)$
式(1)と式(3)から、Mが最大値であることが示せた。
証明終わり。

実数値関数とベクトル値関数の微分

このテキストを理解するための必要最小限のことを記述する。
以下の文献も必要に応じて参考にしてください。
一冊では不十分な内容なので色々あげてある。

実数値関数の微分

実数の開区間$I=(a,b)$上で定義された実数値関数$y=f(x)$を考える。
定義;微分可能性
関数$f$が$s\in I$で微分可能であるとは、極限
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f(s)}{h}=c \qquad \qquad (1)$
が存在することである。
この時$c$を$f$の$s$における微分係数あるいは導値といい、
$f'(s)、\frac{df}{dt}(s)、(Df)(s)$
などと書く。
$I=(a,b)$の各点で$f$が微分可能であるとき、$f$は微分可能関数(あるいは 微分可能)という。
この時、任意の$s\in I$に対して、$f'(s)$が定まるので、
関数$f'$が定まる。これを$f$の${\bf 導関数}$(derivative)という。


微分係数の意味

(1)$\frac{f(s+h)-f(s)}{h}$は、区間$[s,s+h]$における関数値の平均変化率である。
その極限である微分係数$f'(s)$は、関数値の$s$における瞬間的な変化率と考えられる。
(2)2次元空間(平面のこと)に直交座標座標系$O-xy$をいれ、
関数$y=f(x)$のグラフ$G=\{(x,y)\mid x\in I,y=f(x)\}$を描く。
すると、
$f'(s)$が存在することは、$x=s$においてグラフ$G$が接線をもつことと同等であり、
接線の方程式は
$y=f'(s)(x-s)+f(s)$である。
これは、接線の定義からただちに分かる。
(3)$h$を零に近づけていったときの極限の意味をさらに深めるため
微分可能の定義を、それと同等の別の表現に変換しよう。
(1)式の右辺の定数を左辺に移行すると
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f(s)-ch}{h}=0$
次に、
$o_{s}(h):=\frac{f(s+h)-f(s)-ch}{h}\qquad \qquad (2)$
という、変数hの関数を定義する。
すると関数$f$が$s\in I$で微分可能で、微分係数が$c$である必要十分条件は
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}o_{s}(h)=0$
である。
(2)式を変形すると
$f(s+h)=f(s)+ch+o_{s}(h)h$
ゆえに次の命題が証明できた。
命題
次の3つの条件は同等である。
1)関数$f$は$s\in I$で微分可能で、微分係数は$c$である
2)関数$f$は、
$f(s+h)=f(s)+ch+o_{s}(h)h \qquad \qquad (3)$
と表現できる。
ここで、$o_{s}(h)$は$\quad \lim_{h \to 0,h\neq 0}o_{s}(h)=0 \qquad \qquad (4)\quad $
を満たす関数
3) 関数$f$は、
$s$の近傍の点$x$で $f(x)=f(s)+c(x-s)+\left(o_{s}(x-s)\right)(x-s) \qquad \qquad (3)$
ここで、$o_{s}(x-s)$は
$\lim_{x \to s,x\neq s}o_{s}(x-s)=0 \qquad \qquad (4)$
を満たす関数

この定理の3)により、
「関数が$s$で微分可能であり、微分係数がcであること」は、
「この関数が$s$の近傍の点$x$で直線$y=f(s)+c(x-s)$で近似でき、
誤差$|f(x)-(f(s)+c(x-s))|=|\left(o_{s}(x-s)\right)(x-s)| $が,
$x$を$s$に近づけていくとき、$h=x-s$より高次で0に収束する(注参照)
ことと同等であることが分かる。
(注)$\lim_{h\to 0,h\neq 0}\frac{o_{s}(h)h}{h}=0$
命題の系;関数が$s$で微分可能であれば、$s$で連続である。
証明;命題の2)を用いると、
$f(s+h)=f(s)+ch+o_{s}(h)h $
この式から、$|f(s+h)-f(s)|=|(c+o_{s}(h))h|$
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}o_{s}(h)=0$なので$\lim_{h \to 0,h\neq 0}|(c+o_{s}(h))h|=0$。
ゆえに、$\lim_{h \to 0,h\neq 0}|f(s+h)-f(s)|=0$
これは、関数が$s$で連続であることの定義そのものである。

導関数の性質

命題1;
$f,g$が$I=(a,b)$上で定義された微分可能な実数値関数で、 $\alpha,\beta$は任意の実数とする。
(1)線形性
$\alpha f+\beta g$は微分可能で
その導関数は、
$(\alpha f+\beta g )'=\alpha f'+\beta g'$
(2) 積の微分
$fg(s):=f(s)g(s)$は微分可能で
$(fg)'=f'g+fg'$
で与えられる。
証明は、微分の定義式と極限の性質から容易に導ける。
命題2;合成関数の微分
$g$が$I_1=(a_1,b_1)$上で定義され、$I_2=(a_2,b_2)$の中に値をとり、
$f$が$I_2=(a_2,b_2)$上で定義され、$I_3=(a_3,b_3)$の中に値をとる、
微分可能な関数とする。
すると、合成関数$f\circ g(s):=f(g(s))$は$I_1$上で微分可能で
$(f\circ g)'=f'(g)g'$

平均値の定理

ロールの定理
$f$を有界閉区間$I=[a,b],(b>a)$で定義された実数値関数とする。
$f$が$I=[a,b]$で連続、開区間$I^{\circ}=(a,b)$で微分可能,しかも$f(a)=f(b)$ならば、
$f'(\xi)=0$を満たす$\xi\in (a,b)$が存在する。
証明;
「関数の連続性」の命題2から、閉区間上の連続関数は最大値Mと最小値mをもつ。
すると、$m \leq f(a)=f(b)\leq M$
1)$m =f(a)=f(b)=M$の場合
I上で$f\equiv f(a)$
すると、$f'\equiv 0$なのでこの定理は成り立つ。
2)$f(a)=f(b)<M$の場合
$f(\xi)=M$となる数$\xi\in (a,b)$が存在する。
$a<\xi+h<b$をみたす、絶対値が十分小さい数$h$にたいして
$f(\xi+h)\leq f(\xi)=M $なので、$f(\xi+h)-f(\xi)\leq 0$
$h$が正のとき
$\frac{f(\xi+h)-f(\xi)}{h}\leq 0   \qquad \qquad (1)$
$h$が負のとき
$\frac{f(\xi+h)-f(\xi)}{h}\geq 0 \qquad \qquad (2) $
関数は、$\xi\in (a,b)$で微分可能なので、
$\lim_{h\to 0,h>0}\frac{f(\xi+h)-f(\xi)}{h}=\lim_{h\to 0,h<0}\frac{f(\xi+h)-f(\xi)}{h}=f'(\xi)$
ところが式(1)から
$\lim_{h\to 0,h>0}\frac{f(\xi+h)-f(\xi)}{h} \leq 0$
式(2)から
$\lim_{h\to 0,h>0}\frac{f(\xi+h)-f(\xi)}{h} \geq 0$
なので
$f'(\xi)=0$
3)$f(a)=f(b)>m$の場合
2)と同様に証明できる。
証明終わり。

平均値の定理
$f$を有界閉区間$I=[a,b],(b>a)$で定義された実数値関数とする。
$f$が$I=[a,b]$で連続で、開区間$I^{\circ}=(a,b)$で微分可能ならば、
ある数$\xi\in (a,b)$が存在して、
$f(b)-f(a)=f'(\xi)(b-a)$
(注)平均値の定理は非常に便利な定理だが、
ベクトル値関数では一般に成立しない。間違って使わないように。
証明;
関数gを次式で定義する。
$g(x):=f(x)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a}(x-a)$
すると、
$g$は$I=[a,b]$で連続で、開区間$I^{\circ}=(a,b)$で微分可能
$g(a)=g(b)=f(a)$
$g$はロールの定理の仮定を満たす。
そこでロールの定理から、
$g'(\xi)=0$を満たす$\xi\in (a,b)$が存在する。
gの定義から
$g'(\xi)=f'(\xi)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a}$
故に、
$0=f'(\xi)-\frac{f(b)-f(a)}{b-a}$
が得られる。この式を整頓すると
$f(b)-f(a)=f'(\xi)(b-a)$
証明終わり。

系;$f$が$I=(a,b)$上で定数$\Leftrightarrow$ $I$上で恒等的に$f'(t)=0$

テイラー展開

関数の最大・最小と極大・極小

初等関数の微分

$\frac{df}{dt}=f$ となる関数$f(x)=e^x$ 
$f(x)=a^x$(a>0)の導関数
対数関数の導関数   
三角関数の導関数   

ベクトル値関数の微分

実数の開区間$I=(a,b)$上で定義され,n次元の実ベクトル($\in {\bf R^n}$)に 値をとる関数$\vec f$を考える。
定義;微分可能性
実数値関数の場合と同じである。

導関数の線形性の性質も成り立つ。

ベクトル値関数の微分とその成分関数の微分の関係

関数値$\vec f(s)$は${\bf R^n}$の要素なので
$\vec f(s)=(f_1(s),f_2(s),\cdots f_n(s))$
と表示できる。
すると$\vec f$のn個の成分関数
$f_i,(i=1,2,\cdots n)$
が得られる。
命題;
$\vec f$が$s\in I$で微分可能$\Leftrightarrow$$f_i(i=1,2,\cdots n)$が$s\in I$で微分可能。
この時、${\vec f}'(s)=({f_1}'(s),{f_2}'(s)\cdots {f_n}'(s))$

ベクトル積の微分

命題
$ \vec{a}(t) $ と $\vec{b}(t) $は、開区間I上で定義され、 3次元のベクトルに値をとる微分可能な関数とする。すると、
$ \quad \vec{a}(t) \times \vec{b}(t)$ は微分可能で、
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a}(t) \times \vec{b}(t)) =(\frac{d}{dt}\vec{a}(t) )\times \vec{b}(t)+\vec{a}(t)\times (\frac{d}{dt}\vec{b}(t))$ 証明
すでにこのテキストで紹介した、ベクトル値関数の微分の定義
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a}(t) \times \vec{b}(t)) =\lim_{\delta t \to 0} (\vec{a}(t+\delta t)\times \vec{b}(t+\delta t)- \vec{a}(t) \times \vec{b}(t))/\delta t$ $\qquad $ (1)  
を用いて証明する。
この極限が存在し、
$\frac{d}{dt}\vec{a}(t) \times \vec{b}(t)+\vec{a}(t)\times \frac{d}{dt}\vec{b}(t)$
になることを示せば命題は証明できたことになる。
極限の計算が進むよう、右辺の式の分母は変形しよう。
関数の積の微分公式の証明と同じ技巧を用いる。
$ \vec{a}(t+\delta t)\times \vec{b}(t+\delta t) - \vec{a}(t) \times \vec{b}(t)$  
$ = \vec{a(}t+\delta t)\times \vec{b}(t+\delta t) -\vec{a}(t)\times \vec{b}(t+\delta t) +\vec a(t)\times \vec{b}(t+\delta t) - \vec{a}(t) \times \vec{b}(t)$  
ベクトル積の命題3を利用すると、 
$ = \left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right) \times \vec b\left(t+\delta t\right) +\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right) $

この式を式(1)の右辺の分子の項に代入し整頓すると
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a}(t) \times \vec{b}(t)) =\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec a(t+\delta t)\times \vec b(t+\delta t)- \vec a(t) \times \vec b(t)} {\delta t}$  
$=\lim_{\delta t \to 0} \frac{\left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right) \times \vec b\left(t+\delta t\right) +\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right) } {\delta t} $
ベクトル積の命題4を使い、
$=\lim_{\delta t \to 0}\left( \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t} \times \vec b\left(t+\delta t\right) + \vec a(t)\times \frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)} {\delta t} \right)$
極限の命題を使って、
$=\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t} \times \lim_{\delta t \to 0}\vec b(t+\delta t) + \vec a(t)\times \lim_{\delta t \to 0}\frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)}{\delta t} $
式中の極限は、$\vec a,\vec b$が、微分可能なので存在し、
$\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t} =\frac{d\vec a(t)}{dt}$
$\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec b(t+\delta t) -\vec b(t)}{\delta t} =\frac{d\vec b(t)}{dt}$

内積の微分

命題
$ \vec{a}(t)$ と $\vec{b}(t) $は、
開区間I上で定義され、n次元のベクトルに値をとる、
微分可能な関数とする。すると、
$(\vec{a}\cdot \vec{b})(t):=\vec{a(t)}\cdot\vec{b(t)} $は,微分可能な実数値関数で、
$\frac{d(\vec{a}\cdot \vec{b})}{dt}(t) =\frac{d\vec{a}}{dt}(t)\cdot \vec{b}(t) +\vec{a}(t) \cdot \frac{d\vec{b}}{dt}(t)$
証明は、ベクトル積の場合と同様に行えばよい。

$C^{1}$級の関数

開$I=(a,b)$上の関数 $f$ が連続的微分可能(continuously differentiable)であるとは,
$I$上で導関数 $f'$ が存在して、しかも$f'$ が$I$上で連続であることをいう。
$I=(a,b)$上で連続的微分可能である関数を$C^{1}$級関数という。


多変数の実数値関数の微分

${\bf R^n}=\{(x_1,x_2,,,x_n) \mid x_i\in{\bf R},i=1,2,\cdots n\}$ の開区間 $I^n=\prod_{i=1}^{n}(a_i,b_i)$上で定義された実関数$y=f(x_1,x_2,,,x_n)$ を考える。 一変数関数の議論から類推しやすくするため、以後
${\bf x}:=(x_1,x_2,,,x_n)$とおき、$y=f({\bf x})$と書くこともある。
この上で定義された実数値関数$y=f({\bf x})=f(x_1,x_2,,,x_n)$の微分について説明する。
最初に思いつくのは、一変数のときと同じ定義をもちいることであり
$\lim_{{\bf h} \to 0,{\bf h}\neq 0}\frac{f({\bf s}+{\bf h})-f({\bf s})}{{\bf h} }=c$
が存在するときsで微分可能と定義すること。
しかし、
${\bf h}$はn次元ベクトルなので割り算は不可能。

方向微分

そこで、${\bf p}\in {\bf R^n}、{\bf p}\neq 0$を用いて、
この方向にそって$h=t{\bf p}$が零に近づく($t \to 0$)ときの
関数値の瞬間的変化率を考える。

定義;${\bf p}$方向の微分可能性
関数$f$が${\bf s}\in I^n$で${\bf p}$方向に微分可能であるとは、極限
$\lim_{t \to 0,\neq 0}\frac{f({\bf s}+t{\bf p})-f({\bf s})}{t}=c \qquad \qquad (1)$
が存在することである。
この時$c$を$f$の${\bf s}$における${\bf p}$方向の微分係数あるいは${\bf p}$方向の導値といい、
$\frac{\partial f}{\partial{\bf p} }({\bf s})、(D_{\bf p}f)({\bf s})$
などと書く。
$I^n=\prod_{i}(a_i,b_i)$の各点で$f$が${\bf p}$方向に微分可能であるとき、 $f$は${\bf p}$方向に微分可能関数という。
この時、任意の${\bf s}\in I^n$に対して、$\frac{\partial f}{\partial{\bf p} }({\bf s})$が定まるので、
関数$\frac{\partial f}{\partial{\bf p} }$が定まる。 これを$f$の${\bf p}$方向の${\bf 導関数}$という。

偏微分

${\bf R^n}$の自然基底${\bf e_1}=(1,0,\cdots 0),,,,,{\bf e_n}=(0,0,,,1)$を、
方向に選んだときの方向微分は、良くつかわれる。
定義;偏微分
関数$f$が${\bf s}\in I^n$で${\bf e_i}$方向に微分可能であるとき、
$f$は、${\bf s}\in I^n$で第i座標$x_i$にかんして偏微分可能という。
方向微分係数$D_{\bf e_i}({\bf s})$を,
$f$の ${\bf s}$における $x_i$ についての偏微分係数といい、
$\frac{\partial f}{\partial x_i}({\bf s}),f_{x_{i}}({\bf s}),(D_if)({\bf s})$ などと書く。

$C^{1}$級の関数

$I^n=\prod_{i=1}^{n}(a_i,b_i)$上の関数 $f$ が連続的微分可能(continuously differentiable)であるとは,
$I^n$上ですべての偏導関数 $\frac{\partial f}{\partial x_i},(i=1,2,,,n)$ が存在して、しかも$I^n$上で連続であることをいう。
連続的微分可能な関数を$C^{1}$級関数という。
n次元開区間$I^n$上の$C^{1}$級関数を全て集めた、(関数)集合を$C^{1}(I^n)$と記す。
定理; $I^n$をn次元開区間
$f$を$I^n$で定義されたn変数の実関数
とする。
もし$f\in C^{1}(I^n)$ならば、
(1)${\bf p}$をn次元の零でない任意のベクトルとすると
$f$は$I^n$上で${\bf p}$方向に微分可能
(2)$(D_{\bf p}f)({\bf s}) =\sum_{i=1}^{n} p_{i}\frac{\partial f}{\partial x_i}({\bf s})$
ここで、$p_{i}$は ${\bf p}$の第i成分。
証明
次元が増えると数式にして書くのに工夫が必要となり複雑になるので、
$n=2$の場合に証明するが、高次でも証明の方法は同じである。
$\lim_{t \to 0,t \neq 0}\frac{f({\bf s}+t{\bf p})-f({\bf s})}{t} =\sum_{i=1}^{2}p_i \frac{\partial f}{\partial x_i}$
を示せばよい。
上式の左辺の分子を
$\Delta(t):=f({\bf s}+t{\bf p})-f({\bf s})$とおく。
すると $\lim_{t \to 0,t \neq 0}\frac{\Delta(t)}{t}=\sum_{i=1}^{2}p_i \frac{\partial f}{\partial x_i}$ を示せばよい。
$\Delta(t)$を次のように変形する。
$\Delta(t)=f(s_1+tp_1,s_2+tp_2)-f(s_1,s_2)$
$=\left(f(s_1+tp_1,s_2+tp_2)-f(s_1,s_2+tp_2)\right) +\left(f(s_1,s_2+tp_2)-f(s_1,s_2)\right) \qquad \qquad (1)$

1)$f(s_1+tp_1,s_2+tp_2)-f(s_1,s_2+tp_2)$の変形をする。
$g(u):=f(s_1+up_1,s_2+tp_2)$という関数を考える。
定義域は$D_g:=\{u\in{\bf R} \mid a_1<s_1+up_1<b_1\}$で、0を含む開区間である。
すると、$g(t)=f(s_1+tp_1,s_2+tp_2),g(0)=f(s_1,s_2+tp_2)$なので、

$f(s_1+tp_1,s_2+tp_2)-f(s_1,s_2+tp_2)=g(t)-g(0)\qquad \qquad (2)$

2)関数$g$は$D_g$上で微分可能であることを示す。
任意の$u\in D_g$をとる。
$D_g$は開区間なので、絶対値が小さい実数$\delta \neq 0$をとると,
$u+\delta \in D_g$

$\frac{g(u+\delta)-g(u)}{\delta} \qquad \qquad (3)$

の極限$\lim_{\delta \to 0,\delta\neq 0}$が存在することを言えば良い。
式(3)を関数fに戻して表現しよう。
式(3)$=\frac{f\left((s_1+up_1)+p_1\delta,s_2+tp_2\right) -f(s_1+up_1,s_2+tp_2)}{\delta}$
もし$p_1=0$ならば式(3)$=0$
$p_1\neq 0$ならば
式(3)$=p_1\frac{f\left((s_1+up_1)+p_1\delta,s_2+tp_2\right) -f(s_1+up_1,s_2+tp_2)}{p_1\delta}$
fは偏微分可能なので
$\lim_{\delta \to 0,\delta\neq 0}p_1\frac{f\left((s_1+up_1)+p_1\delta,s_2+tp_2\right) -f(s_1+up_1,s_2+tp_2)}{p_1\delta}=p_1\frac{\partial f}{\partial x_1}(s_1+up_1,s_2+tp_2)$
故にgは微分可能で、
$g'(u)=p_1\frac{\partial f}{\partial x_1}(s_1+up_1,s_2+tp_2)$
従って、$p_1$が何であっても

$g'(u)=p_1\frac{\partial f}{\partial x_1}(s_1+up_1,s_2+tp_2)\qquad\qquad (4)$
となることが分かった。
3)$g(t)-g(0)$に平均値の定理する。
関数gは$D_g$上で微分可能なので、連続でもある。
そこで区間$[0,t]$(t>0の場合) $[t,0]$(t<0の場合)で平均値の定理を適用すると、
$g(t)-g(0)=g'(\lambda t)t$を満たす$\lambda\in (0,1)$が存在する。
式(4)から、
$g(t)-g(0)=tp_1\frac{\partial f}{\partial x_1}(s_1+\lambda tp_1,s_2+tp_2)$
式(2)から、
$g(t)-g(0)=f(s_1+tp_1,s_2+tp_2)-f(s_1,s_2+tp_2)$なので
$f(s_1+tp_1,s_2+tp_2)-f(s_1,s_2+tp_2)=tp_1\frac{\partial f}{\partial x_1}(s_1+\lambda tp_1,s_2+tp_2)$
この式を、式(1)に代入すると
$\Delta(t) =tp_1\frac{\partial f}{\partial x_1}(s_1+\lambda tp_1,s_2+tp_2) +\left(f(s_1,s_2+tp_2)-f(s_1,s_2)\right) $
故に
$\frac{\Delta(t)}{t} =p_1\frac{\partial f}{\partial x_1}(s_1+\lambda tp_1,s_2+tp_2)+\frac{f(s_1,s_2+tp_2)-f(s_1,s_2)}{t} \qquad\qquad (5)$

定理の仮定から、関数$f$は$C^i$級なので、その偏導関数は連続になるので
式(5)の第1項はt->0のとき$p_1\frac{\partial f}{\partial x_1}(s_1,s_2)$に収束する。
式(5)の第2項は,
$p_2\neq 0$の時、
$\frac{f(s_1,s_2+tp_2)-f(s_1,s_2)}{t} =p_2\frac{f(s_1,s_2+tp_2)-f(s_1,s_2)}{p_2t}$なので、
t->0のとき$p_2\frac{\partial f}{\partial x_2}(s_1,s_2)$に収束する。
$p_2= 0$の時は
$f(s_1,s_2+tp_2)-f(s_1,s_2)=0$なので式(5)の第2項は0となり、
その極限も0である。
従ってこの場合も$p_2\frac{\partial f}{\partial x_2}(s_1,s_2)$に収束する。
故に
$\lim_{t \to 0,t \neq 0}\frac{\Delta(t)}{t}=\sum_{i=1}^{2}p_i \frac{\partial f}{\partial x_i}$
が示せた。証明終わり。

微分(全微分) 

定義1;微分可能(全微分可能ともいう)、導値(微分係数)、導関数
定理1;
微分可能ならば、偏微分可能

定理2
$C^{1}$級の関数は微分可能

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