物理/熱と熱現象(3)熱力学の第二法則

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目次

熱と熱現象(3) 熱力学の第二法則

熱力学の第2法則 

第二種永久機関の失敗やカルノーの熱機関の効率の研究から, 熱力学の第2法則が、熱現象の基本原理として採用された。

 熱機関と効率 

熱機関とは、熱エネルギーを利用して外部に仕事をおこない続ける機関である。
1)高温の熱源からの熱エネルギーで、
シリンダー内の気体や液体(作業物質という)を加熱・膨張(液体の場合は気化)させ、
作業物質の膨張する力で、シリンダーにはめたピストンを押し出し、外部への仕事をさせる。
2)この作業物質を、低温熱源で冷却・収縮させて元の状態に戻す(気化した液体の場合液体に戻す)。
この時、シリンダーにはめたピストンは作業物質の収縮力により、引き込まれる。
この時もピストンは外部に仕事をする。 こうして、ピストンは1往復してもとの位置に戻る。1往復をサイクルという。
3)これを繰り返し、サイクル運動を続ける。

初期の熱機関は効率が大変悪かった。
効率のよい熱機関を作るにはどうすればよいか。
効率はどこまで上げられるか。
高温の熱源から受け取った熱エネルギーを, すべて外部への仕事に変換出来ないだろうか(熱力学の第一法則には違反しない)。
これらは喫緊の関心事になった。
この問題を根本的に解決したのはカルノーであった。
彼は、このような機関は不可能であること、
熱機関の最大効率は、高温熱源と低温熱源で決まること発見した。

準静的過程  

カルノーサイクルの4つの過程は、
いずれも 系の全体は静止(マクロの物体として静止)にきわめて近く、 さらには熱平衡にも極めて近い状態を保ちながら、
変化させ、その変化速度をどんどん遅くして行きときの、極限の過程を考えている。 これを準静的過程(quasi-static process) という。
この過程は、
「マクロには静止し、熱平衡を保ちながら、無限の時間をかけて状態変化していく過程」
と考えられる。
熱平衡のある系は温度や圧力などの状態量がさだまるので、この過程は状態量の推移で 正確に記述できることになる。

しかし、厳密には、常に静止し、熱平衡状態を完全に保つならば系は
力学的にも熱的にも全く変化は起こることはない。
そのため、準静的過程は、厳密には矛盾を含む表現であり、もちろん実現不可能である。
マクロな観測では検出できない程度の非平衡状態を持ちながら、長時間かけて変化していく過程と考えればよいだろう。
この過程を想定した系の挙動は、大変簡潔となり、
しかも仮想の挙動は、必要な時間をかけて、ゆっくり状態変化させれば任意の精度で実現できるので、
熱機関の挙動や効率を調べるのに大変有用である。
カルノーの熱機関の研究では、要の概念になっている。
準静的に系を変化させるには、
系には無限小(注1を参照のこと)の力や
無限小の仕事、熱エネルギーを与える必要がある(注2を参照のこと)。

(注1)すでに説明したように、
どんな正の実数より小さく、どんな負の実数よりも大きい数のこと。
もちろん、実数の中にはこのような数は存在しない。
物理学ではこの数を自由に使ってきたが、厳密性を重んじる数学では否定してきた。
しかし、近年、実数に無限小の数を加えた、数の体系が合理的に導入された。
無限小の数はたくさんあり、これと実数を集めた数の体系では、実数と同じ4則演算ができる。
無限小の数を用いると、微積分学は、収束や極限といった煩わしい手順をとらないで 再構築できる。
微積分の発見当初は、直感的に無限小の数を利用していたが、厳密性がなく、
現在は、収束と極限概念に基づく微積分が広く使われている。
無限小を利用した微積分学の再構築は、超準解析と呼ばれる。

(注2)系の体積を準静的に変えるには、系の圧力と無限小異なる外力を作用させる。
外力が無限小だけ小さい場合には、系は、無限にゆっくりと膨張し、
無限小だけ大きいと、無限にゆっくりと圧縮する。

系に準静的に熱を与えるには、系の温度と無限小だけ異なる熱源と接触させればよい。

準静的という概念を用いると、すでに述べたいくつかの命題の表現が簡潔になる。
例えば、
「1.2.3.1 系の体積を変えるために外から加える仕事について」の命題は次のように記述できる。
命題;
圧力Pの系を、準静的に体積を無限小dV変化させる時、
力の行う仕事は W=ーPdV である。

今後、カルノー機関の4つの過程はすべて摩擦のない準静的な過程であると仮定する。

 可逆過程

ある過程が、外界に何の変化も残さずに、無限小のエネルギーで逆の過程をたどって、 元の状態に戻すことができる時、可逆過程(reversible process)という。
詳しくは、

準静的過程と可逆過程の関係  

命題;準静的で摩擦のない過程は、可逆である。
証明;
系に準静的な変化をさせるためには、
ⅰ)系の圧力と無限小異なる圧力を外部からかけて、
無限にゆっくりと体積変化をさせるか、
ⅱ)系の温度と無限小異なる外部熱源と接触させる
必要がある。
準静的な過程は、これらを組み合わせた過程である。
そこで、準静的過程が可逆である事を示すには、上記の2つがいずれも可逆であることを示せばよい。
ⅰ)は、体積変化の際に摩擦がなければ、可逆である。
系の圧力Pと無限小だけ異なる圧力 $P+\epsilon$ を外部から、かける。
摩擦がなければ、系は無限にゆっくりと体積を変える。
体積変動量を$\delta V$とすると、この間外力のなす仕事は $-P\delta V$である。
次に外圧を $P-\epsilon$ に変えると、逆の体積変化がおこるので、
その量が$-\delta V$になるまでこの外圧を保ち、
$-\delta V$ に達したら、外圧を $P$ にして変化を止める。
この間に外力のなす仕事は $-P\delta V$ である。
すると、系は元の状態は戻り、
しかも外力のなす仕事は合計0なので、外部に何の影響も残していない。
従ってこの過程は可逆である。
ⅱ)は可逆である。
何故なら、
系を、系の温度と無限小量だけ温度の高い熱源に接触させ、
熱エネルギーを非常にゆっくりと系に移動させたとする。
次に、系に無限小の熱エネルギーを与えて系の温度を熱源より無限小高くすれば、 熱エネルギーは、系から熱源にむけて流れ、もとの状態に戻すことができる。
従ってこの過程は可逆である。

命題;準静的でなくても可逆の過程は存在する。
何故なら、ニュートン力学に支配される運動は可逆である。
例えば、摩擦のない理想的環境下の振り子運動は、同じ振動を永遠に続けるので 可逆である。
しかし、物体として動いており、準静的でない。

カルノー機関、カルノーサイクル

カルノーが発見した熱機関は、
①作業物質として理想気体(nモルとする)の温度を高温熱源の温度 $T_2$ と等しくしてから、準静的な等温膨張をさせる。 この時作業物質は外部に仕事をする。
その仕事と等しい熱エネルギーが高音熱源から気体に流れる。 ②気体を熱源から離し、準静的に断熱膨張させる。 この間も、作業物質は外部に仕事をする。 この仕事だけ気体は内部エネルギーを失い温度を下げる。 ③気体の温度が低温熱源の温度 $T_1$ に等しくなったら、作業物質を低温熱源に接触させ、今まで取り出した仕事の一部を用いて、気体を準静的に等温圧縮して行く。 圧縮によって作業物質の温度が、低温熱源より無限小大きくなると熱エネルギーが気体から低温熱源に流れて行く。
準静的な断熱圧縮をすると①の初めの温度と体積に戻るような、体積になるまで続ける。 ④低温熱源から作業物質を離して、今まで取り出した仕事の一部を用いて、 準静的に断熱圧縮して、気体の温度と体積を①の初めの温度と体積に戻す
という4つの過程からなるサイクルをくりかえす装置であり、 カルノー機関と呼ばれる。
この機関のサイクルを、カルノーサイクル という。

最初の過程の気体の仕事

カルノーの定理

熱力学の第2法則を用いると、
カルノーの定理「この機関の効率は作業物質によらず同じであり、両熱源の温度だけで決まる」、
「カルノー機関より高効率な熱機関は存在しない」
ことが論証できる。

カルノーの定理の証明  
熱力学的絶対温度

カルノー機関の効率が両熱源の温度の関数であることを用いて熱力学的絶対温度(作業物質の特性を全く使わない温度)が定義できる。
これらの詳細については本テキストでは扱わない。

熱力学の第2法則 

いくつかの異なった定式化があるが、いずれも等価であることが示せる。 トムソンの原理
クラジウスの原理

および

不可逆過程とエントロピー

不可逆変化と具体例

可逆過程とは、外界に変化を残さずに最初の状態に戻せる過程のことであったが、現実の殆どの変化は可逆ではない。例えば高温物体から低温物体への熱の移動は、両者を接触させればおこるが、この逆の変化は起こらず、熱移動は不可逆過程である。他の例も考えてみてください。

不可逆な熱機関の効率

不可逆過程をふくむ熱機関の効率は、カルノー機関の効率よりも常に小さい(カルノーの第2定理)。
これも熱力学の第2法則から導ける。

エントロピー

高温熱源$T_1$と低温熱源$T_2$を用いたカルノーサイクルでは、
$\frac{Q_1}{T_1}=\frac{Q_2}{T_2} $
が成立する。
高温熱源$T_1$と低温熱源$T_2$を用いた不可逆過程の熱機関では
$\frac{Q_1}{T_1}<\frac{Q_2}{T_2} $
が成立する。
このことから、エントロピー  $\frac{Q}{T}$ という重要な概念が導入された。
熱はエントロピーが増大する方向に移行する(エントロピー増大則)。
これ以上は、本テキストだは扱わないが、興味のある方は以下を参照のこと。

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