物理/熱と熱現象(3)熱力学の第二法則

提供: Internet Web School

UNIQ5743aef2268e41ab-MathJax-2-QINU2 による版

目次

熱と熱現象(3) 熱力学の第二法則

第二種永久機関の失敗やカルノーの熱機関の効率の研究から,
熱力学の第2法則が認識されるようになり、やがて熱現象の基本原理として認められた。

 熱機関と効率 

熱機関とは、熱エネルギーを利用して外部に仕事をおこない続ける機関である。
1)高温の熱源(注参照)からの熱エネルギーで、
シリンダー内の気体や液体(作業物質という)を加熱・膨張(液体の場合は気化)させ、
作業物質の膨張する力で、シリンダーにはめたピストンを押し出し、外部への仕事をさせる。
2)この作業物質を、低温熱源で冷却・収縮させて元の状態に戻す(気化した液体の場合液体に戻す)。
この時、シリンダーにはめたピストンは作業物質の収縮力により、引き込まれる。
この時もピストンは外部に仕事をする。 こうして、ピストンは1往復してもとの位置に戻る。1往復をサイクルという。
3)これを繰り返し、サイクル運動を続ける。

最初に発明された熱機関は、蒸気機関であった。

初期の熱機関は大きな熱エネルギーを使いながら取出す仕事は小さく、効率が大変悪かった。
効率のよい熱機関を作るにはどうすればよいか。
効率はどこまで上げられるか。
高温の熱源から受け取った熱エネルギーを, すべて外部への仕事に変換出来ないだろうか(熱力学の第一法則には違反しない)。
これらは重大な関心事になった。
この問題を根本的に解決したのはカルノーであった。
彼は、このような機関は不可能であること、
彼の考案したカルノー機関が理論上の最大効率機関であることを、
のちに熱力学の第2法則として確立される原理を発見しこれを利用して証明した。 (注)考えている系に接触して系と熱の授受を行うが、
熱容量が大変大きく、この熱の授受で温度がほとんど変化しない外部系のこと。熱浴ともいう。

準静的過程  

カルノー機関は、後述するように
4つの過程で1サイクルをなして元に戻り、
この間に高温熱源から得た熱エネルギーの一部を仕事に変える熱機関である。
このサイクルを繰り返し、熱エネルギーをもらいながら、その一部を仕事に変える。
これら4つの過程は、
いずれも
系の全体は静止(マクロの物体として静止)にきわめて近く、
さらには熱平衡にも極めて近い状態を保ちながら変化させ、
その変化速度をどんどん遅くして行きときの、極限の過程を考えている。
これを準静的過程(quasi-static process) という。
この過程は、
「マクロには静止し、熱平衡を保ちながら、無限の時間をかけて状態変化していく過程」
と考えられる。
熱平衡の系は温度や圧力などの状態量が定まるので、この過程は状態量の推移で 正確に記述できることになる。

しかし、厳密には、常に静止し、熱平衡状態を完全に保つならば
系は力学的にも熱的にも全く変化は起こるはずがない。
そのため、準静的過程は、厳密には矛盾を含む表現であり、もちろん実現不可能である。
マクロな観測では検出できない程度の非平衡状態を持ちながら、長時間かけて変化していく過程と考えればよいだろう。
この過程を想定した系の挙動は、大変簡潔となり、
しかも仮想の挙動は、必要な時間をかけて、ゆっくり状態変化させれば任意の精度で実現できるので、
熱機関の挙動や効率を調べるのに大変有用である。
カルノーの熱機関の研究では、要の概念になっている。
準静的に系を変化させるには、
系には無限小(注1を参照のこと)の力や
無限小の仕事、熱エネルギーを与える必要がある(注2を参照のこと)。

(注1)すでに説明したように、
どんな正の実数より小さく、どんな負の実数よりも大きい数のこと。
もちろん、実数の中にはこのような数は存在しない。
物理学ではこの数を自由に使ってきたが、厳密性を重んじる数学では否定してきた。
しかし、近年、実数に無限小の数を加えた、数の体系が合理的に導入された。
無限小の数はたくさんあり、これと実数を集めた数の体系では、実数と同じ4則演算ができる。
無限小の数を用いると、微積分学は、収束や極限といった煩わしい手順をとらないで 再構築できる。
微積分の発見当初は、直感的に無限小の数を利用していたが、厳密性がなく、
現在は、収束と極限概念に基づく微積分が広く使われている。
無限小を利用した微積分学の再構築は、超準解析と呼ばれる。

(注2)系の体積を準静的に変えるには、系の圧力と無限小異なる外力を作用させる。
外力が無限小だけ小さい場合には、系は、無限にゆっくりと膨張し、
無限小だけ大きいと、無限にゆっくりと圧縮する。

系に準静的に熱を与えるには、系の温度と無限小だけ異なる熱源と接触させればよい。

準静的という概念を用いると、すでに述べたいくつかの命題の表現が簡潔になる。
例えば、
「1.2.3.1 系の体積を変えるために外から加える仕事について」の命題は次のように記述できる。
命題;
圧力Pの系を、外部から力$P+\epsilon$ ($\epsilon$は無限小)を加えて準静的に体積を無限小dV変化させる時、
外力の行う仕事は $W=-(P+\epsilon)dV$ である。
無限小の積 $\epsilon dV$ は、 $ PdV$ に比べ、無視できるほど小さいので、 仕事は、$W=-PdV$ としても良い。

 可逆過程

ある過程が、外界に何の変化も残さずに、無限小のエネルギーで逆の過程をたどって、 元の状態に戻すことができる時、可逆過程(reversible process)という(注を参照のこと)。
詳しくは、

(注)可逆過程であることが示せれば、
摩擦がなく、必要な場合には、外界と孤立した状態を作れるならば、
いくらでも小さなエネルギーを用いて、時間はかかるが、逆の過程をたどらせることができる。

準静的過程と可逆過程の関係  

命題;準静的で摩擦のない過程は、可逆である。
証明;
系に準静的な変化をさせるためには、
ⅰ)系の圧力$p$と無限小異なる圧力$p+\epsilon$($\epsilon$は無限小)を外部からかけて、
無限にゆっくりと体積変化をさせるか、
ⅱ)系の温度と無限小異なる外部熱源と接触させる
必要がある。
準静的な過程は、これらを組み合わせた過程である。
そこで、準静的過程が可逆である事を示すには、上記の2つがいずれも可逆であることを示せばよい。
ⅰ)は、体積変化の際に摩擦がなければ、可逆である。
系の圧力Pと無限小だけ異なる圧力 $P+\epsilon$ を外部から、かける。
摩擦がなければ、系は無限にゆっくりと体積を変える。
$\epsilon$が正ならば準静的な圧縮、負ならば準静的な膨張である。
微小な体積変動量を$\delta V$とすると、この間外力のなす仕事は $-(P+\epsilon)\delta V$である。
次に$\epsilon$の符号を変え$-\epsilon$とすると、逆の体積変化がおこるので、
その量が$-\delta V$になるまでこの外圧を保ち、
$-\delta V$ に達したら、外圧を気体の圧力 $P$ と等しくにして変化を止める。
この間に外力のなす仕事は $(P-\epsilon)\delta V$ である。
すると、系は元の状態に戻り、
しかも外力のなす仕事は無限小($-2\epsilon\delta V$) なので、外部に何の影響も残していない。
従ってこの過程は可逆である。
ⅱ)は可逆である。
何故なら、
系を、系の温度と無限小量だけ温度の高い熱源に接触させ、
熱エネルギーを非常にゆっくりと系に移動させたとする。
次に、系に無限小の熱エネルギーを与えて系の温度を熱源より無限小高くすれば、 熱エネルギーは、系から熱源にむけて流れ、もとの状態に戻すことができる。
従ってこの過程は可逆である。

命題;準静的でなくても可逆の過程は存在する。
何故なら、ニュートン力学に支配される運動は可逆である。
例えば、摩擦のない理想的環境下の振り子運動は、同じ振動を永遠に続けるので 可逆である。
しかし、物体として動いており、準静的でない。

カルノー機関、カルノーサイクル

カルノー機関で気体の状態(気圧pと体積V)がどのように変化していくかを図に示す。
この図を参考に説明を読んでください。

カルノーが発見した熱機関は、
①準静的な等温膨張
$\quad$高温熱源の温度 $T_h$ と等しい温度の理想気体(nモルとする)を
$\quad$高温熱源に接触させ、準静的に等温膨張させる。
$\quad$この間、気体の温度は一定$T_h$で、状態量 Vとpは $pV=nRT_h$ を満たしながら
$\quad$図の状態1$(V_1,p_1))$から状態2$(V_2,p_2)$まで変化する。
$\quad$この曲線を $C_{1,2}$ と記す。pはVの関数として $p=\frac{nRT_h}{V}$ と表せる。
$\quad$この時作業物質は外部に仕事 $W_{1,2}$ をする。
$\quad$その仕事と等しい熱エネルギーが高音熱源から気体に流れる。

②準静的な断熱膨張とそれによる冷却
$\quad$気体を熱源から離し、準静的に断熱膨張させる。
$\quad$準静的な断熱膨張なので状態量は $pV^{\gamma}=p_2V_2^{\gamma}$ を満たしながら、
$\quad$状態2$(V_2,p_2)$から状態3$(V_3,p_3)$まで大変ゆっくりと移動する。
$\quad$この曲線を $C_{2,3}$ と記す。pはVの関数として $p=\frac{p_2V_2^{\gamma}}{V^{\gamma}}$ と表せる。
$\quad$この間、気体は外部に仕事 $W_{2,3}$ をする。
$\quad$この仕事だけ気体は内部エネルギーを失い温度を下げる。
③準静的な等温圧縮
$\quad$気体の温度が低温熱源の温度 $T_l$ に等しくなったら、
$\quad$気体を低温熱源に接触させて、
$\quad$今まで取り出した仕事の一部を用いて気体を準静的に圧縮して行く。
$\quad$準静的な等温圧縮なので、状態量は $pV=nRT_l$ を満たしながら $\quad$図の状態3$(V_3,p_3)$から状態4$(V_4,p_4)$まで大変ゆっくりと移動する。
$\quad$この曲線を $C_{3,4}$ と記す。pはVの関数として $p=\frac{nRT_l}{V}$ と表せる。
$\quad$圧縮によって気体の温度が低温熱源より無限小上がると、
$\quad$熱エネルギーが気体から低温熱源に流れ、気体は低温熱源と等しい温度を保つ(等温圧縮)。
④準静的な断熱圧縮とそれに伴う加熱
$\quad$・状態図の状態4まで等温圧縮されたら気体を低温熱源から離し、
$\quad$・今まで取り出した仕事の一部を用いて準静的に断熱圧縮して、
$\quad$図の状態4$(V_4,p_4)$から状態1$(V_1,p_1)$まで移動させる。
$\quad$気体の温度は体積と圧力で決まるので、状態1に戻った時の気体の温度は $T_h$ に等しい。
$\quad$実は断熱圧縮で初めの状態に戻るように $V_3$ は決めておく。
$\quad$・外部から仕事を受け、気体の内部エネルギーは増大し温度は上昇していく。
$\quad$・この間、気体の状態量は $pV^{\gamma}=p_4V_4^{\gamma}$ を満たしながら、大変ゆっくりと移動する。
$\quad$この曲線を $C_{4,1}$ と記す。pはVの関数として $p=\frac{p_4V_4^{\gamma}}{V^{\gamma}}$ と表せる。
という、摩擦のない準静的な4つの過程からなるサイクルをくりかえす装置である。
カルノー機関と呼ばれる。
この機関のサイクルを、カルノーサイクル
という。
(注)カルノーはなぜこのような機関を考えついたのか?
彼は、熱を仕事に変える(動力を発生させる)には、高温から低温への熱の移動と熱移動を媒介する作業物質が伴うということに気づく。
また、温度差がある時は、熱は自動的に高温側から低温側に移ってしまい、
仕事を取出すことなくエネルギーを失ってしまう。
しかし、温度差がなくても、
物体の体積を変化させると熱を移動させることが出来ることに着目。
(例えば、熱源と等しい温度の気体を熱源と接触させ、
ゆっくりと体積を大きくしてゆくと、気体の温度は熱源と同じだが、
熱源から気体に熱が流れて行く。)
また連続的に動力を得るには、同じ動作を反復して行うことも必要。
このためには、気体の温度と体積を元の状態に戻す必要がある。
そこで、最高効率の熱機関を作るために、
まず、高温、低温の2つの熱源を用意し、
高温熱源から低温熱源への熱移動を、
たえず、温度差でなく、気体の体積変化を通して起こさせることを思いついた。
まず高温熱源から気体への熱移動を、気体の膨張だけで起こすため、
気体を高温熱源と同じ温度にしてから、接触させ、気体の体積をゆっくり膨張させる。
こうすると気体は高温熱源と同じ温度を保ち、温度差による熱移動は起こらず、
体積変化による熱移動だけが起こる。
(体積を急に変えると気体内で温度差が生じ、これによる熱移動が起きてしまう)
次に、気体から低温熱源に熱を、温度差でなく、気体の体積変化で移す移すには、
この段階で、低温熱源と接触させるわけにいかない。
当時、断熱膨張で、温度が下がることが知られていたので、
ゆっくりと断熱状態で体積を増加させ、
低温熱源と等しい温度になったら、低温熱源に接触させる。
さらに気体の体積を元の体積に等しくなるよう圧縮し、温度を高温熱源に上げる時も、
温度差による熱移動が生じないよう、
準静的な等温圧縮をし(この時気体から低温熱源に熱移動)、次に準静的な断熱圧縮をすることを考え付いたと思われる。

 ① 高温熱源から熱をもらいながら準静的に等温膨張

温度 $T_h$ を保ちながら理想気体は準静的に膨張するので
この過程のどの時状態でも状態方程式 $pV=nRT_h=constant$(定数)をみたす。
(V,p)はこの双曲線上を、状態1から状態2まで、非常にゆっくりと移動していく。
従って、$p_1V_1=p_2V_2 \qquad \qquad \qquad (1)$
この時気体がおこなう仕事を求めよう。
今、この線上の一状態$(V,p)$から、$(V+dV,p+dp)$(dV,dpは無限小)まで膨張する間に
気体のする仕事は、すでに証明したように、$pdV$ 
故に状態1から状態2まで膨張する間に気体のする仕事は
$W_{1,2}=\int_{V_1}^{V_2}p dV$(注を参照のこと)
$\quad$ 状態方程式から、$p=\frac{nRT_h}{V}$ なので
$=\int_{V_1}^{V_2} \frac{nRT_h}{V}dV=nRT_h\int_{V_1}^{V_2} \frac{1}{V}dV$
$\quad$ $\frac{1}{V}$ の原始関数(微分すると$\frac{1}{V}$になる関数)は
$\quad \log_{e}V$なので、良く知られた微積分学の基本定理から
$=nRT_h[\log_{e}V]_{V_1}^{V_2}$
$=nRT_h(\log_{e}V_2-\log_{e}V_1)=nRT_h\log_{e}\frac{V_2}{V_1}\qquad (2)$
温度が変化しないので、理想気体の内部エネルギーは変化していないので、
熱力学の第一法則から、
気体のした仕事と同量の熱エネルギーを高温熱源からもらっていることが分かる。
$Q_h=W_{1,2}=nRT_h\log_{e}\frac{V_2}{V_1}\qquad \qquad (3)$

(注) 準静的な膨張時の気体の仕事とグラフ面積
・ 図のように、
曲線$C_{1,2}$とV軸、両側のV軸の垂線という4本の線で囲まれた領域Rを考える。

ファイル:GENPHY00010303-02.jpg
図 準静的な膨張時の気体の仕事

・ Rの面積Sは、気体が温度 $T_h$ を保ちながら、
体積を $V_1$ から $V_2$ まで準静的に増加させるとき、
気体が外部になす仕事に等しい事が以下のようにしてわかる。
(ⅰ) V軸の区間$[V_1,V_2]$をn等分し、
n個の小区間$\{[V^i,V^{i+1}]\}_{i=0}^{n-1},(V^{i+1}-V^i=\frac{V^2-V^1}{n})$ にわける。ここで $V^0=V_1,\quad V^n=V_2$
(ⅱ) 各小区間 $[V^i,V^{i+1}]$ を底辺とし、
高さが $p(V^i)=\frac{nRT_h}{V^i}$の角柱(面積$p(V^i)\frac{V^2-V^1}{n}$)によって、
領域Rを近似する。
等分数nが十分大きければ、
R の面積 S は、n個の角柱の面積和 
$S_n:=\sum_{i=0}^{n-1}p(V^i)(V^{i+1}-V^i) $ 
とほとんど等しくなる。
$S\approx S_n:=\sum_{i=0}^{n-1}p(V^i)(V^{i+1}-V^i)\qquad \qquad (a)$
関数 $p=p(v)$ が連続関数ならば、
$S=\lim_{n\to \infty}S_n\qquad \qquad (b)$ 
となる(8章 物理数学 8.3 積分)。
(ⅲ) 定積分の定義から、 
$\int_{V_1}^{V_2}p(V)dV=\lim_{n\to \infty}S_n=\lim_{n\to \infty}\sum_{i=0}^{n-1}p(V^i)(V^{i+1}-V^i)$
なので、式(b)から、
$S=\int_{V_1}^{V_2}p(V)dV \qquad \qquad (c)$
(ⅳ) $[V^i,V^{i+1}]$ を底辺とし、
高さが $p(V^i)=\frac{nRT_h}{V^i}$の角柱の面積 $p(V^i)\frac{V^2-V^1}{n}$ は、
nが大きい時、すでに示したように、
圧力が$p(V^i)$ である気体を、微小体積 $\frac{V^2-V^1}{n}$ 変化させた時
気体が外部にする仕事にほぼ等しい。
従って、$S_n$ は、
気体が体積を $V_1$ から $V_2$ まで膨張させるときに
外部にする仕事にほぼ等しくなる。
nを増加させるほど両者は近づき、
$S=\lim_{n\to \infty}S_n$
は気体が外部にする仕事 $W_{1,2}$ に一致する。
故に、式(c)から
$W_{1,2}=S=\int_{V_1}^{V_2}p(V)dV \qquad \qquad (d)$

 ② 準静的な断熱膨張とそれによる冷却

準静的な断熱膨張で気体の状態変数は
$pV^{\gamma}=p_{2}V_{2}^{\gamma}=constant$
を満たしながら、図の状態2から状態3まで、非常にゆっくりと移動していく。
従って $p_2V_{2}^{\gamma}=p_3V_{3}^{\gamma}\qquad \qquad (4)$
この過程でも体積は増加するので、気体は外部に正の仕事をする。
この量は、最初の過程の時と全く同じように考えれば、次のようになることが分かる。
$W_{2,3} =\int_{V_2}^{V_3}pdV =p_{2}V_{2}^{\gamma}\int_{V_2}^{V_3} {V^{-\gamma}}dV$
$\quad$この非積分関数の原始関数は $\frac{1}{1-\gamma}V^{1-\gamma}$ なので、
$=p_{2}V_{2}^{\gamma}[\frac{1}{1-\gamma}V^{1-\gamma}]_{V_2}^{V_3} =\frac{p_{2}V_{2}^{\gamma}}{1-\gamma}(\frac{1}{V_{3}^{\gamma-1}}-\frac{1}{V_{2}^{\gamma-1}})$
$\quad$ $p_{2}V_{2}^{\gamma}=p_{3}V_{3}^{\gamma}$ なので
$=\frac{p_{3}V_{3}^{\gamma}}{1-\gamma}\frac{1}{V_{3}^{\gamma-1}} -\frac{p_{2}V_{2}^{\gamma}}{1-\gamma}\frac{1}{V_{2}^{\gamma-1}} =\frac{1}{1-\gamma}(p_3V_3-p_2V_2)=\frac{1}{\gamma-1}(p_2V_2-p_3V_3)$
$\quad$$p_2V_2=nRT_h,\quad p_3V_3=nRT_l$ なので、
$W_{2,3}=\frac{nR(T_h-T_l)}{\gamma-1}\qquad \qquad (5)$
断熱変化なので、気体の受け取った熱量は
$Q_2=0 \qquad \qquad \qquad (6)$

 ③ 低温熱源に熱を与えながら準静的に等温圧縮

①の場合と同様に出来る。
等温圧縮なので、この過程中、
状態量は $pV=nRT_l $を満たしながら図の状態3から状態4まで曲線$C_{3,4}$上をゆっくり移動する。
従って、$p_3V_3=p_4V_4\qquad \qquad \qquad (7)$
この間、気体は、外から
$W_{3,4}=nRT_l\log_{e}\frac{V_3}{V_4}\qquad \qquad (8)$
だけ仕事をしてもらい、
それと同量の熱エネルギー $\quad Q_l=nRT_l\log_{e}\frac{V_3}{V_4}\qquad \qquad (9)$
を低温熱源に与える。

 ④ 準静的な断熱圧縮とそれに伴う加熱 

②準静的な断熱圧縮 と全く同じようにしてできる。
気体が外から仕事をしてもらい、
図の状態4から状態1まで準静的に断熱圧縮する。
従って、$p_4V_{4}^{\gamma}=p_1V_{1}^{\gamma}\qquad \qquad \qquad (10)$
この時外から気体がしてもらう仕事は、
$W_{4,1}=\frac{nR(T_h-T_l)}{\gamma-1}\qquad \qquad (11)$
なお、断熱変化なので、気体が受け取る熱量は
$Q_4=0\qquad \qquad \qquad (12)$
気体の内部エネルギーは、外から受けた仕事だけ増加するので、温度も上昇していく。
状態1に戻ったら、1サイクルは終りで、

 ⑤ 1回のサイクルあたりの熱と仕事の授受 

・ 1サイクルで気体が外部にした仕事 $W$ は
$W=W_{1,2}+W_{2,3}-W_{3,4}-W_{4,1}$
$=nRT_h\log_{e}\frac{V_2}{V_1}+\frac{nR(T_h-T_l)}{\gamma-1}$
$-nRT_l\log_{e}\frac{V_3}{V_4}-\frac{nR(T_h-T_l)}{\gamma-1}$
$=nRT_h\log_{e}\frac{V_2}{V_1}-nRT_l\log_{e}\frac{V_3}{V_4}$

ファイル:GENPHY00010303-03.jpg
図. 1サイクルあたりに気体がする仕事

故に
$W=nRT_h\log_{e}\frac{V_2}{V_1}-nRT_l\log_{e}\frac{V_3}{V_4}\qquad \qquad (13)$

これは、図のように、4本の状態遷移腺で囲まれた領域Rの面積Sに等しい。
・ 一回のサイクルで気体が熱源から受け取った総熱量 Q は
$Q=Q_h-Q_l=nRT_h\log_{e}\frac{V_2}{V_1}-nRT_l\log_{e}\frac{V_3}{V_4} =W\qquad (14)$

・ 高温熱源から気体に流れ出た熱エネルギー$Q_h=W_{1,2}=nRT_h\log_{e}\frac{V_2}{V_1}$は、
$W=nRT_h\log_{e}\frac{V_2}{V_1}-nRT_l\log_{e}\frac{V_3}{V_4}$が外部への仕事に転化し、
残りの$nRT_l\log_{e}\frac{V_3}{V_4}=Q_l$ が低温熱源に吸収されたことになる。

ファイル:GENPHY00010303-04.jpg
図. 1サイクルでの気体の熱・仕事の授受
 

図を参照のこと。

カルノー機関の効率  

カルノー機関の効率$\kappa$(気体のなす仕事/気体が高温熱源から受け取った熱量)は
$\kappa=\frac{nRT_h\log_{e}\frac{V_2}{V_1}-nRT_l\log_{e}\frac{V_3}{V_4}}{nRT_h\log_{e}\frac{V_2}{V_1} }=1-\frac{T_l}{T_h}\frac{\log_{e}V_3/V_4}{\log_{e}V_2/V_1}\quad (15)$
ここで、次の重要な補題が成り立つ。
補題;$\frac{V_2}{V_1}=\frac{V_3}{V_4}$
証明;
$p_1V_1=p_2V_2 \qquad \qquad \qquad (1)$
$p_2V_{2}^{\gamma}=p_3V_{3}^{\gamma}\qquad \qquad (4)$
$p_3V_3=p_4V_4\qquad \qquad \qquad (7)$
$p_4V_{4}^{\gamma}=p_1V_{1}^{\gamma}\qquad \qquad \qquad (10)$
なので、これらの4式の左辺の積は、右辺の積に等しい。
$p_1 V_1 p_2 V_{2}^{\gamma}p_3 V_3 p_4V_{4}^{\gamma}=p_2 V_2 p_3 V_{3}^{\gamma} p_4 V_4 p_1V_{1}^{\gamma} $
両辺を$p_1 p_2 p_3 p_4 V_1 V_2 V_3 V_4$ で割ると、
$\frac{V_{2}^{\gamma-1}}{V_{1}^{\gamma-1}}=\frac{V_{3}^{\gamma-1}}{V_{4}^{\gamma-1}}$
これより、所望の結果を得る。

この補題を式(15)
$\kappa=1-\frac{T_l}{T_h}\frac{\log_{e}V_3/V_4}{\log_{e}V_2/V_1}$ に適用して、
$\kappa=1-\frac{T_l}{T_h}\qquad \qquad \qquad (16)$
を得る。
かくして、次の命題が得られた。

命題;
カルノー機関の効率 $\kappa$ は、
$\kappa=1-\frac{T_l}{T_h}\qquad \qquad \qquad (16)$
で与えられる。

また、この補題を利用すると、
$Q_l=-nRT_l\log_{e}\frac{V_3}{V_4}=-nRT_l\log_{e}\frac{V_2}{V_1}$
なので、
一回のサイクルで気体が受け取る実質の総熱量 Q は
$Q=Q_h-Q_3=nRT_h\log_{e}\frac{V_2}{V_1}-nRT_l\log_{e}\frac{V_3}{V_4} =nR(T_h-T_l)\log_{e}\frac{V_2}{V_1}\qquad \qquad(17)$
また、
$\frac{Q_l}{Q_h}=\frac{T_l}{T_h}\qquad \qquad \qquad(18) $
これより、
$\kappa=1-\frac{T_l}{T_h}=1-\frac{Q_l}{Q_h}\qquad \qquad \qquad(19) $

カルノーの定理

カルノー機関が最大効率の熱機関であることをカルノーは証明した。
  これをカルノーの定理という。
  カルノーはこの考察の過程で、熱力学の第2法則の原型に気付いた。
  この仮説を用いて、カルノーの定理を証明した。
 

カルノー機関は可逆機関 

摩擦のない準静的は過程は可逆であることは、すでに示した。
  カルノー機関は4つの過程からなるサイクルを繰り返す。
  この4つの過程はいずれも摩擦のない準静的な過程なので、可逆である。
また、一つの過程から次の過程に移る時も温度差の無い移行なので準静的である。
そのためカルノーサイクルも可逆である。
そこで、カルノーサイクルで得た仕事をもちいて
外部に何も痕跡を残さず、
状態1=>状態4=>>状態3=>状態2=>状態1
と、サイクルを逆に運転し、元の状態に戻すことができる(注1を参照のこと)。
これを逆行運転とよび、通常の運転を順行運転という。
カルノーサイクルは、 例えば、第一の過程は、
状態1$(V_1,p_1,T_h)$にある気体を高温$T_h$の熱源に接触させ、
準静的に等温膨張させ、状態2($(V_2,p_2,T_h)$ に移すものであった。
この間,気体は外部へ
$W_{1,2}=\int_{V_1}^{V_2}p(V) dV=nRT_h\log_{e}\frac{V_2}{V_1}$の仕事をし、
これと同量の熱量 $Q_h=W_{1,2}$ を高音熱源から奪う。
これを、準静的に元の状態に戻すには、
気体の圧力より無限小だけ大きい圧力を気体に加え、
準静的に等温圧縮する。
気体の状態は、曲線 $C_{1,2}$ 上を、
状態2から状態1へ向かって無限にゆっくり逆行して、状態1に戻る。
この間の任意の状態 $(V,p)$ で体積を 微小量dV 変えるには、
外力は $-pdV$ の仕事をするので(注2を参照のこと)、
状態1に戻すまでに外力がする仕事は、
$W_{2,1}=\int_{V_2}^{v_1}-p(V)dV=\int_{V_1}^{v_2}p(V)dV=W_{1,2}$
となり、順行時に気体が外部になした仕事$W_{1,2}$と一致する。
この順行時の仕事を何らかの方法でためておけば、
これを使って逆行させることが出来ることが分かった。
この間、気体温度は一定$T_h$で内部エネルギーは変化しないので、
この仕事に等しい熱量が気体から高音熱源に流れることが分かる(熱力学の第一法則より)。
そこで、順行の時、気体がした仕事を保存しておき、
これを利用して気体を圧縮すれば、
気体は元の状態に戻り、この間気体が外部にした仕事は零で、
高温熱源の熱の授受もない。

(注1)すでに説明したように、準静的な過程は、厳密には論理矛盾を含む過程である。
準静的過程の振る舞いは、
これをいくらでも精度よく近似する、
論理矛盾のない過程が存在することを保証することに意義を持つと言えよう。
そのため、可逆であるとは、
順行運転時に取出した仕事以外に、たとえどんな小さなエネルギーを加えても、
サイクルを逆にたどって元の状態に戻すことができる事を示す。
(注2)この時気体のなす仕事は、すでに証明したように $pdV$ である。
外力は気体の圧力と逆向きで同じ大きさ(正の無限小だけ大きい)なので、
その仕事は $-pdV$ である。

カルノー機関より効率のよい機関が存在したら、どうなるか? 

カルノー機関と同じ温度の高温$T_h$熱源から、同じ量の熱$Q_h$を吸収し、
  その一部$Q'_l$を、カルノー機関の低温$T_h$熱源と同じ温度の低温熱源に放出し、
  仕事を発生させる、別の方式のサイクル運転する熱機関を考える。
  この機関は、熱媒体や、熱を仕事に変える過程に工夫を凝らし、
  カルノー機関で取出す仕事
  $W=nRT_h\log_{e}\frac{V_2}{V_1}-nRT_l\log_{e}\frac{V_3}{V_4} \quad (13)$
より、多くの仕事 $W'(>W)$ を取り出せるとしよう。
  このような機関を、「夢の機関」と言おう。
  もし「夢の機関」が存在したら何が起こるだろうか。
  熱の媒質は、サイクル運転の開始時と一サイクル終了時では同じ状態なので、
  熱力学の第一法則を用いると
  この間に熱媒体が得た熱量($Q_h-Q'_l$)は、
  熱の媒質がこの間、外部になした仕事$W'(>W)$に等しいこと $Q_h-Q'_l=W'>W$ が分かる。
  故に、
  $Q'_l=Q_h-W'<Q_h-W=Q_l \qquad \qquad \qquad (a)$
  この「夢の機関」の一サイクルを順行運転する。すると、この間
  高温熱源の放出熱量;$Q_h$
  低温熱源の吸収熱量;$Q'_l(<Q_l)$
  外部にする仕事;$W'(>W)$
  (1)一つの熱源から取出した熱をすべて仕事に変えることができるbr/> カルノー機関は、一サイクルを逆行運転すると
低温熱源から、$Q_l(>Q'_l)$ の熱を吸収し、高温熱源に $Q_h$ の熱を放出する。
この間、外から仕事 $W(<W')$ を受ける。 
そこで、カルノー機関を逆行運転し、
「夢の機関」で低温熱源が吸収した熱量 $Q'_l$ をすべて、高温熱源に戻すとしよう。
この逆行サイクルで
低温熱源は、熱量 $Q'_l$ を放出する。
高温熱源が吸収する熱量 $\tilde{Q_h}$ は、
$Q'_l<Q_l$ なので $Q_h$ より小さくなる。
$\tilde{Q_h}<Q_h$
同様に、この間外から受ける仕事$\tilde{W}$は,Wより小さくなる。
故に
$\tilde{W}<W<W'$
そこで最初は「夢の機関」を一サイクル順行し、
次に、カルノー機関の一サイクルを逆行することを、
一サイクルとする機関をつくれば、
この機関の一サイクルで
高温熱源は、$Q_h-\tilde{Q_h}(>)$ の熱を放出し
高温熱源は、熱の授受は零であり、
外部にする仕事は $W'-\tilde{W}>0$(高温熱源の失った熱量に等しい)。
すなわち、高温熱源から取出した熱をすべて仕事に変え、
低温熱源には何の痕跡も残さないことができることになる。
(注)今までに導出した式を用いると正確な値が導けるが省略する。

(2)低温熱源から、高温熱源にエネルギーを使わず熱を移せる
今度は、「夢の機関」の一サイクルの順行で取出した仕事をすべて使って、
カルノー機関の一サイクルを逆行させることを一サイクルとする機関を考える。
前項と同じように考えると、この機関を一サイクル順行運転すると、
低温熱源から、エネルギーを全く使わず、高温熱源に熱を移すことができることになる。

 熱力学の第2法則 
熱力学的絶対温度

カルノー機関の効率が両熱源の温度の関数であることを用いて熱力学的絶対温度(作業物質の特性を全く使わない温度)が定義できる。
これらの詳細については本テキストでは扱わない。

熱力学の第2法則 

いくつかの異なった定式化があるが、いずれも等価であることが示せる。 トムソンの原理
クラジウスの原理

および

不可逆過程とエントロピー

不可逆変化と具体例

可逆過程とは、外界に変化を残さずに最初の状態に戻せる過程のことであったが、現実の殆どの変化は可逆ではない。例えば高温物体から低温物体への熱の移動は、両者を接触させればおこるが、この逆の変化は起こらず、熱移動は不可逆過程である。他の例も考えてみてください。

不可逆な熱機関の効率

不可逆過程をふくむ熱機関の効率は、カルノー機関の効率よりも常に小さい(カルノーの第2定理)。
これも熱力学の第2法則から導ける。

エントロピー

高温熱源$T_1$と低温熱源$T_2$を用いたカルノーサイクルでは、
$\frac{Q_1}{T_1}=\frac{Q_2}{T_2} $
が成立する。
高温熱源$T_1$と低温熱源$T_2$を用いた不可逆過程の熱機関では
$\frac{Q_1}{T_1}<\frac{Q_2}{T_2} $
が成立する。
このことから、エントロピー  $\frac{Q}{T}$ という重要な概念が導入された。
熱はエントロピーが増大する方向に移行する(エントロピー増大則)。
これ以上は、本テキストだは扱わないが、興味のある方は以下を参照のこと。

個人用ツール