物理/電流と磁場
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目次 |
「 5.4 電流と磁場 」
この節では静止した電荷でなく動く電荷の性質をしらべる。
電流
電荷の流れを電流(electric current)という。
多くの場合は、導体中の多数の自由電子が動いて電流となる。
電解液(イオン溶液ともいう)では、正負のイオンが動いて電流となる。
電流によって電荷は移動し、後に学ぶように、磁界を発生する。
(注)電流中の電子の動きについてRT;
電流の方向・向き
電流の方向・向きは、正の電荷の流れる方向・向きで定める。
電子が移動する電流のばあい、電流の方向・向きとは逆に電子は動いている。
電流の強さ
導体(電流の流れる物質のこと)からできた線を導線という。
導線を流れる電流の正の向きを定めておく。
導線のある断面をながれる電流の強さとは、その断面を一秒間に通過する電荷量のことをいう。
ただし、電流の正の向きの逆向きに通過する電荷については、電荷量にマイナス符号をつける。
すると、逆向き電流の大きさは負になる。
電流ベクトル
電流は、強さと流れる方向・向きを持つので、ベクトルで表せる。
強さIの電流が、単位ベクトル$\vec n$ の方向・向きに流れているとき、
電流ベクトルを、
$\vec I=I\vec n \qquad \qquad \qquad \qquad (1)$
で定義する。
命題1;
電流$\vec I=I\vec n$と、同じ大きさで逆向きの電流は
$-\vec I=-I\vec n=I(-\vec n)$
で表せる。
直流電流・電圧と交流電流・電圧
導線を流れる電流は、方向は導線の方向に常に流れるが、向きと大きさは変化することもある。
時間がたっても向きも強さも変化しない電流のことを狭義の直流電流(あるいは、定常電流という)、
ある固定点から見た電圧が、時間がたっても正負も強さも変化しないとき、(狭義の)直流電圧という
。
単に向きだけを変えない電流を(広義の)直流電流、同じく正負を変えない電圧を、(広義の)直流電圧という。
これに反して、時間とともに向きを変える電流、正負を変える電圧を、それぞれ、(広義の)交流電流、交流電圧という。
さらに、電流や電圧の大きさが時間とともに正弦波状に変化するとき、その波形が正弦波になるとき、(狭義の)交流電流、交流電圧という。以下を参照のこと。
定常電流の保存則
実験によると、一本の導線を通過する定常電流の強さは、導線上のどの断面をとっても同じ値をとる。
これを定常電流の保存則という。
☆☆ 電流密度を用いた電流保存則
導線の断面全体を通過する電荷量は分かっても、
導線の表面近くを沢山通るのか、中心部を沢山通るのかは分からない。
断面の各点(位置ベクトルx)の微小部分を通過する、単位面積当たりの電荷量が分かれば、
電流が導線のどの部分に沢山流れるかが分かる。
定義
導線の位置ベクトル $\vec x$ の電流密度 $\vec{i}(\vec x)$ とは、
その方向・向きは、その地点を通過する電流の方向・向きで、
大きさが $i:=|\vec{i}(\vec x)|=\lim_{|S| \to 0}\frac{I_S}{|S|}$
で与えられるベクトルである。
ここで、S は点$\vec x$ をとおり電流の方向と直交する平面上の、点$\vec x$を含む微小領域、
|S| はその面積、$I_S$ は、領域Sを一秒間に通過する電荷量である。
$\frac{I_S}{|S|}$ は領域S上での単位面積当たりの電流の強さを表す。
電流密度を用いると、導線の断面を通過する電流の強さは、次のようにして求められる。
命題
導線上の任意の断面を $S$ とする。
その断面を通過する電流の強さ $I$ は、電流密度を用いて
$I=\int_{S}\vec{i}(x) \cdot \vec{n}(x)dS(x)$
と表せる。
ここで、$\vec{n}(x)$ は、点 $x (\in S)$ におけるSの法線(注参照)。
(注)$\vec{n}(x)$の向きは、
面Sのどちら側からSを貫く電流を正にするかをきめ(通常は、電流の向きにとる)、
この向きと90度以内になる法線の向きにとる。
オームの法則
オームの法則
金属導線の2点A,B間の電圧$V_{B}(A)$(BからみたAの電位)は、
AからBに流れる電流の大きさ$I_{A}(B)$に正比例する
という、経験的に確かめられた法則がある。
式で書くと、
$V_{B}(A) =RI_{A}(B) \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad (1)$
これをオームの法則という(注参照)。
ここで、比例定数R($\gt 0$)を「2点A,B間の導線の電気抵抗」という。
抵抗と略して呼んだり、値であることを強調して、抵抗値と呼ぶことがある。
また、混同の恐れがないときは、
単に$V =RI$ と書く。
この場合には、電圧は電流の下流側から見た電圧であることに注意する必要がある。
オームの法則は、回路計算など電気工学分野で最も重要な法則の一つである。
もっと詳しく知りたい方は、以下を参照のこと。
(注)$V_{B}(A)$が負(Aの電位がBの電位より低い)とき、$I_{A}(B)$は負数になる。
$I_{B}(A)=-I_{A}(B)\gt 0$なので
大きさが|$I_{A}(B)$|の電流がBからAに流れることを表す。
抵抗の図による表示
電気回路では、抵抗がRの導線は、
ギザギザ線の部分に全抵抗が集中し、他の直線部分は抵抗が零であると約束して、
図のように表示される。
複数の抵抗の直列接続と並列接続の抵抗値
命題;
それぞれの抵抗が$R_1$と$R_2$の2本の導線を直列につなぐと、
接続後の導線全体の抵抗は、$R=R_1 + R_2$である。
電気抵抗の単位
オームの法則、式(1)を用いて、抵抗の単位が導入できる。
定義;抵抗の単位オーム
1アンペアの電流が流れるときの電位差が1ボルトのなる抵抗を1Ohm(オーム)という。
単位オームは、記号でΩと記す。オームは、他の単位で組み立てることができる。
例えば、式(1)からは、$Ω=\frac{V}{A}$
電気抵抗率と電気伝導率
実験により、抵抗Rは導線の長さをl、断面積をSとしたとき、
$R=\rho\frac{l}{S} \qquad \qquad (1)$
ここで比例定数$\rho$は、電気抵抗率(electrical resistivity)といい導体に固有の定数である(形状には無関係)。
電気抵抗率は、単に抵抗率ともいう。
抵抗率の逆数を電気伝導率という。
各種の導線の抵抗率の比較については下記を参照のこと。
☆☆近接作用の立場からのオームの法則の変形 RT
電流が作る磁場
電流は磁場をつくる。
エルステッドは1820年に電流は方位磁針を動かす磁場を作り出すことを発見。
本節では電流は直流電流に限定する。
しかし、ゆっくりと変動する電流にたいしても、近似的に同様の性質が成り立つ。
無限に長い直線導線に電流Iを流す時にできる磁場$ \vec{H} $
実験によると、無限に長い直線導線に流れる電流Iはまわりの空間に磁場を作る。
このとき、電流から距離 $r(\gt 0)$の点Pの磁場$ \vec{H(P)} $ は、
①大きさは、$H(P)^{[A/m]}=\frac{I^{[A]}}{2\pi r^{[m]}}\qquad \qquad \qquad \qquad ()$
②方向は「導線とP点を含む平面に垂直な直線の方向」で、
向きは
「右ねじを電流に重ね、
このねじの進行方向が電流の方向と一致するように、ねじを回転する向き」である。
アンペールの研究
アンペールは、
任意の形状の電流の作る磁場について詳しい実験と考察を行った。
この過程で、次の2つの重要な事実を発見した。
磁場の重ね合わせの原理
電流$I_1$ がP点に作る作る磁場を$\vec{H_1(P)}$,
電流$I_2$ がP点に作る作る磁場を$\vec{H_2(P)}$ とすると、
2つの電流$I_1$と $I_2$ が同時に流れた時にP点に作る磁場は$ \vec{H_1(P)}+\vec{H_2(P)}$
環状の電流は磁石のようにふるまう
電流が流れている環状の線が作る磁場は、環の大きさに比べて十分離れたところでは、
この環を縁とする板磁石のつくる磁場と同じになる。
アンペールの法則
アンペールは,実験で明らかにした以上の事実から、定常電流がつくる磁場に関して、
非常に重要な次の法則を導いた。
アンペールの法則;
ある閉じた回路に沿って、1Wbの磁荷を一周させるとき、
磁場がこの単位磁荷にする仕事は、その回路を貫く電流の総和Iに等しい。
ただし、電流Iの正の向きは、電流Iと重ねておいた右ねじを、磁荷が閉路を一周するときの回転方向に回すときの、
ねじの進行方向にとる。
なお、下記の記事も参照のこと。
この記述中の「閉じた経路にそって磁場の大きさを足し合わせた値」は、
この経路にそって1Wbの磁荷が一周するとき、
磁場(の力)がこの磁荷にする仕事と同じ値である。
なお、アンペールの法則の導出は難しいので、本テキストでは説明しない。
アンペールの法則の応用
アンペールの法則を用いると、対称性をもついろいろな電流の作る磁場が、
実験をしなくても、数式の計算だけで求められる。
以下に例を示す。
無限に長い直線導線に電流Iを流す時にできる磁場$ \vec{H} $ RT
直線電流から無限に離れた点の磁場は零と仮定してよい。
直線電流のつくる磁場は、電流に関する対称性から、
導線からの距離 r が等しい場所では、大きさはすべて等しい。この値を$ H(r)$と書く。
電流Iが、任意の点Pにつくる磁場$ \vec{H_I}$は、
Pを通り電流Iと直交する平面上にあることが
重ね合わせの原理から、
同じ大きさの電流を逆に流すときのP点の磁場は$ \vec{H_{-I}} = -\vec{H_I}$であることが分かる。
P点から直線電流におろした垂線の足をO(P)とかく。
電流の正の向きを逆にして考えると、$ \vec{H_{-I}}$ は $ \vec{H_I}$ とおなじにみえなければならないので、
$ \vec{H_I}$は、P点を始点とし、$ \vec{O(P)P} $と直交したベクトルであることが分かる。
さらに直線状の導線と平行で、距離$r_1$と$r_2$にある長さ$l$の線分を対辺とする長方形に
アンペールの法則を用いると「$\vec{ H_I}$のIと平行な成分」は
電流からの距離に無関係な値になることが分かる。
無限遠点では零なので、どこでも零であることが分かる。ゆえに磁場は電流と直交。
その方向は、「電流と垂直に交わり、かつ、電流を中心とする半径 r の円」の接線の方向で、
向きは、右ねじを電流に重ねて置き、このねじが電流の方向に進む回転の向きに等しい。
従って、この円に沿って1Wbの磁荷を一周させるとき、
磁荷の受ける仕事は、$ 2\pi r H(r) $となる。
故にアンペールの法則から、
$ I=2\pi r H(r)$ ∴$ H(r)=I/2 \pi r$
ソレノイドの作る磁場
円筒形の長い中空の筒に導線を一様に密にまいたコイルをソレノイドという。1mあたりn巻きしているとする。これに電流Iを流した時にできる磁場を求めよう。
厳密な解は難しいので、近似解をアンペールの法則から求めよう。
コイルを流れる電流はコイルの各場所で右ねじの方向の磁場を発生させる。これらがある場所では強めあい、他の場所では弱めあって、現実の磁場が出来る。
ソレノイドの外側の側面の近くの磁場は、反対側の側面の電流のつくる磁場と弱めあい、ほぼ零。
=
ソレノイドの内側の磁場はつよめあうので大きい。ソレノイドが、その軸のまわりの回転に関して対称なので、磁場の方向はソレノイド軸と平行で、磁場の大きさは、軸からの距離の等しいところでは同じ。
さらに軸からの距離に関係なく同じ大きさ(Hと書く)であることが、アンペールの法則から、次のように証明できる。
軸に平行で、軸からの距離$ r_1$と軸からの距離$ r_2$の長さlの線分を対辺とする、ソレノイド内部の長方形を考えろ。これにそって1Wbの磁荷を動かす時に磁荷の受けるエネルギーは、この長方形を貫く電流の大きさ零に等しい。これより導ける。
内側の磁場の大きさは、H=nI。
何故なら、ソレノイドの軸と平行で長さがlの2本の線分
(一方はソレノイドの外側で側面に近いもの、他方はソレノイド内部)
を対辺とする長方形を考え、これにアンペールの法則を適用すれば、
これを一周する1Wbの磁荷のうける仕事=Hl,
これがこの長方形を貫く電流総和=nlI に等しい。
もっと一般の電流の作る磁場
アンペールの法則から直接計算するのは難しい。
アンペールの法則と磁場の重ね合わせの原理から、
磁場計算に大変都合のよい、ビオ・サバールの法則がえられる。
これについては大学で学ぶ。興味のある方は
をご覧ください。
磁界が電流に及ぼす力
アンペールは、電流は磁石に力を与えるので、(作用・反作用の原理から)磁石は電流に力を与えるはずであると考えた。
さらに電流は磁石と同じ作用を持つので、電流は電流に力を及ぼすと考え、実験で次の事実を明らかにした。
2本の平行な直線状の電流が及ぼしあう力
2本の平行な導線に、それぞれ電流$I_1,I_2$を流すと、それらの電流の単位長さあたりには、次のような力$ \vec{F}$が働く。
大きさは$F = k\frac{I_1 ,I_2}{R}$, , ,(1)
ここでR は平行線間の距離、kは正の比例定数。Fの単位は[N/m]
力$\vec{F}$の向きは、
$I_1$と$I_2$が同じ向きならば相手の電流から引力をうけ、相手の導線へおろした向きつき垂線とおなじ向き、
電流の向きが異なるならば斥力で、相手の導線へおろした向きつき垂線と逆の向きとなる。
この事実にもとずいて、次のように、電流の単位が定められる。
電流と電荷の単位
電流の単位 アンペア(A)
1mの間隔の2本の直線状の電線に、等しい大きさの電流を流したとき、
それぞれの電線の1mあたりに、$2 \times 10^{-7} N/m $ の力が作用する時、
この電流(の大きさ)を1アンペア(A)と決める。
すると(1)式より、$2 \times 10^{-7}[N/m] = k\frac{1[A^2]}{1[m]}$,
故に比例定数は、$k=2\times 10^{-7}[N/A^2]=\frac{\mu _0}{2 \pi}$。
ここで、$\mu _0= 4 \pi\times 10^{-7}[N/A^2]$は真空の透磁率とよばれる。
電荷の単位 クーロン(C)
1アンペアの電流によって1秒間に運ばれる電荷量を1クーロン(1C)という。
電気素量
電気素量は、$ e = 1.6\times 10^{-19}[C] $
その計測法については以下を参照のこと。
平行電流に働く力の近接作用による表現
電流$I_1$は、電流$I_2$が作った磁界から力を受けると考え、1mあたりに働く力の大きさFを、$F = \frac{\mu _0}{2 \pi}\frac{I_1 ,I_2}{R}= I_1 \mu_0 \frac{I_2}{2 \pi R} $と変形。直線電流$I_2$が作る磁界は、電流$I_1$のところでは、大きさが$ H_{I_2}{(R)}=I/2 \pi R$ であり、$I_1$と直交している。そのため$F = I_1 \mu_0 {H_{I_2}{(R)}}=I_1 \mu_0 {H_{I_2}{(R)}}\sin(\pi/2)$ と書ける。
磁束密度と磁束
$ \vec{B} = \mu_0 \vec{H}$ で、磁束密度という変量を導入する。すると、磁束密度$\vec{B}$と直交する電流 I には1mあたり、 $F = I|\vec{B}|= I|\vec{B}| \sin(\pi/2)$ の力が働く。
9章で学んだ磁力線の本数を、$\vec{B}$と直交する単位面積(1㎡)あたりB(=$|\vec{B}|$)本書くとする。すると、磁力線と直交する面積 S には、$ \Phi=BS $ 本の磁力線が貫くことになる。つらぬく磁力線の総本数$ \Phi $ を磁束と呼ぶ。
点Pでの磁束密度$\vec{B(P)}$は、その点での磁力線の方向と磁束の密度を表す。
磁束密度については
を参照のこと。
磁界中の電流がうける力
① 磁界が同じならば、それが何によって作られたものであるかに関係なく同じ力をうけるはずである。
したがって磁界$H$に直行する電流$I$の受ける力は、
1mあたり$F=\mu_0IH=IB$の大きさで、
向きは、電流の向きから磁界の向きへと右ねじを回す時のねじの進行方向。
② それでは、磁界と電流が直交しないときに受ける力はどうなるのだろうか。
実験によると磁界と電流が平行ならば、電流は磁界から力を受けないことが確かめられる。
これら2つの事実から、電流と磁界のなす角度を$\theta$ とすると、
磁界中の電流に働く、単位長さ当たりの、力$ \vec{F}$は、
大きさが$F=\mu_0IH\sin\theta=IB\sin\theta$
向きは、電流の向きから磁界の向きへと右ねじを回す時のねじの進行方向,のベクトル
であることが示せる。
ベクトル積またはクロス積
電流が磁界から受ける力$ \vec{F}$は、以下の、ベクトル積(クロス積とも呼ばれる)を使うと正確に、簡単に記述できる。
これを用いると、磁界から電流の受ける力は,1mあたり、
$ \vec{F}=\mu_0\vec{I}\times\vec{H}=\vec{I}\times\vec{B} \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad $ (10-1)
ここで、 $ \vec{I}$ は、大きさが$I$で、方向が電流の方向と一致するベクトルで、電流ベクトルと呼ばれる。
ベクトル積の性質
$ \vec{a},\qquad \vec{b},\qquad \vec{c}$を2次元あるいは3次元ベクトルとする。
性質0.$ \vec{a} $ を, $ \qquad \vec{b} $と垂直な成分$ \vec{a_\perp}$ と,
平行な成分$\vec{a_\parallel}$ の和に分解するとき、
$\qquad \qquad \qquad \vec{a} \times \vec{c}= (\vec{a_\perp}+\vec{a_\parallel})\times \vec{c}=\vec{a_\perp} \times \vec{c}$
性質1.$ \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}$
性質2.$ (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}$
性質3.$(e_1,e_2,e_3)$ をそれぞれ長さ1で互いに直交し、右手系をなす、ベクトルとする。この時、
$\qquad \qquad \qquad e_1 \times e_2 = e_3, \qquad e_2 \times e_3 = e_1, \qquad e_3 \times e_1 = e_2$
性質0の証明;ベクトル積の定義から明らかである。
性質1の証明;ベクトル積の定義から明らかである。
性質2の証明;① $ \vec{a},\qquad \vec{b}$ と$ \qquad \vec{c}$ が直交する場合。
$\vec{a} \times \vec{c} $は、$ \vec{a} $を、$\vec{c} $と垂直な平面H内で90度回転(右ねじを$\vec{a}$から$\vec{c}$へ回した時の進行方向)して、長さを$c=|\vec{c}|$倍したベクトル。$\vec{b} \times \vec{c} $は、同じ平面H内で$ \vec{b} $を、同じ方向に、90度回転して、長さを$c=|\vec{c}|$倍したベクトル。$ (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}$も、同じ平面内を同じ向きに90度回転し、長さを$c=|\vec{c}|$倍したベクトル。従って$ \vec{a}$と$\vec{b}$から作られる平行四辺形と$\vec{a}\times \vec{c} $ と$\vec{b}\times \vec{c} $からつくられる平行四辺形は相似となり、$ (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}$が示せる。
② 一般の場合。
性質0より、$\perp$ を$ \qquad \vec{c}$と垂直な成分を表すとすると、 $ (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= (\vec{a}+ \vec{b})_\perp \times \vec{c} \qquad \qquad \qquad $(1)
$(\vec{a}+ \vec{b})_\perp =\vec{a}_\perp +\vec{b}_\perp$なので、(1)式は、
$ = (\vec{a}_\perp +\vec{b}_\perp) \times \vec{c}$,①より、
$ = \vec{a}_\perp \times \vec{c}+\vec{b}_\perp\times \vec{c}=\vec{a} \times \vec{c}+\vec{b} \vec{c}$。証明終わり。
性質3の証明;ベクトル積と$(e_1,e_2,e_3)$ の定義から、明らかである。
ローレンツ力
磁界中では電流は力を受ける事が分かった。電流とは運動する電荷なので、運動する電荷は磁界から力を受けることになる。
それでは、速度$\vec{v}$ で運動する電荷$e$はどのような力を受けるのだろうか。
電流に働く力から、この力を導こう。
導線の断面積をS[$m^2$]とし、そこを電荷$e(\gt 0)$が、電流方向に速さ v[$m/s$]で運動(実際には電荷$-e$
の自由電子が、電流と逆方向に速さvで運動)しているとする。自由電子の密度をn[個/$m^3$]とする。
電流 I と電荷の速さ v との関係
電流が$I[A]$なので、定義から導線のある断面を通過する電荷量は毎秒$I[C/s]$,
他方、その断面を通過する電荷の個数は毎秒$Svn$個である。
∴ $I=Svne$
一個の電荷が磁界から受ける力
従って、電流ベクトル$\vec{I}$ と電荷の速度ベクトル$\vec{v}$ の間には、$\vec{I}=Sne\vec{v}$
(10-1)式の右辺に、上式を代入すると、
$ \vec{F}=Sne\vec{v}\times\vec{B} $
これが導線1mの受ける力であるが、導線1m中には電荷は$Sn$個あるので、一個の電荷(速度$\vec{v}$)の受ける力は、
$ \vec{f}=e\vec{v}\times\vec{B} $
ローレンツの法則
電界$ \vec{E} \ $,磁束密度 $ \vec{B} \ $の中を、速度$ \vec{v} \ $で運動する電荷 q は、
$ \vec{f}=q(\vec{E}+\vec{v}\times\vec{B}) $ の力を受ける。これをローレンツの法則という。
電荷に働く電磁気的な力は、必ずローレンツの法則を満たすことが実験で確かめられている。
次の解説を参照のこと。
一様な静磁界のなかの荷電粒子の運動
一様な磁界(磁束密度$\vec{B}$が一定)の中で、電荷 q はどのように運動するか、調べよう。但し重力の影響は無視する。
電荷の時刻tでの位置を$\vec{r(t)}$,その時の速度を$\vec{v(t)}$
、加速度を$\vec{\alpha(t)}$とおくと、粒子の運動方程式は
$m\vec{\alpha}=m*d\vec{v}/{dt}= q\vec{v(t)}\times\vec{B}\qquad \qquad \qquad $ (1)
磁界に垂直に電荷を速さvで入射する。
「上式の右辺で表される電荷の受ける力」の方向は電荷の速度ベクトル$\vec{v(t)}$ と磁界$\vec{B}$ の双方に垂直で、右ねじを速度ベクトルから磁界のほうに回した時のねじの進行方向である。電荷は受ける力の方向に向きを変えるので、絶えず磁界に垂直な方向に向きを変える。従って、電荷は磁界と垂直な1つの平面上を向きをかえながら進行する。
この間電荷は、進行方向に直角の力を受け続けるので、電荷は磁界からエネルギーを受け取らない。従って、運動エネルギー保存則より、電荷の速さは入射時の速さvを保持する。
したがって、電荷は進行方向と直角の方向に、大きさが一定qvBの力を受け続けて等速 v で運動するので、曲がり方も絶えず一様となり、等速vで円軌道を描くことが分かる。この半径を r と書くと、「2章 力学(1) 速度、加速度とヴェクトル」の「2.2.2.3 等速円運動の加速度」の式から、加速度の大きさは$\alpha={v^2}/{r}$であり、また、(1)式の両辺のベクトルの大きさが等しいことから$m\alpha= qvB$なので、半径は$r=mv/(qB)$ である。
磁界中を動く導体に発生する起電力
導体は膨大な個数の正電荷(原子核)と負電荷(電子)を持っている。導体を磁界中で動かすとこれらの電荷は、磁界中を動くことになり、磁界からローレンツ力を受ける。
大部分の電荷はお互いにしっかり結合して金属を構成しているため動かないが、自由電子は自由にうごけるので、磁界からうける力の方向に移動する。
こうして、磁界中を動く導体には、起電力(電気を流す力)が発生する。
磁界中を動く導体の棒に発生する電界
導体の棒を磁界中で動かすと起電力が発生し、自由電子は移動する。自由電子が貯まって行く側は負に帯電し、反対側は自由電子が少なくなるので、正に帯電していく。
すると導体内に電界が発生し急速に強くなっていく。それに伴い導体内の自由電子は、この電界から、ローレンツ力と逆向きで、急速に増加する力を受けるので、瞬時に2つの力がつりあい、自由電子の移動が止まり、平衡状態になる。
一様で一定の磁界(磁束密度$\vec{B}$)中を、これと垂直に長さlの導体の棒を速度$\vec{v}$で平行移動させる場合に、平衡状態の電界$\vec{E}$を求めよう。
平衡状態では電荷にかかる2つの力の合力は零なので、$\vec{E}(-e)-e\vec{v}\times \vec{B}=0$が成立する。
両辺を -e で割れば、$\vec{E} +\vec{v}\times \vec{B}=0$
ゆえに、$ E = |\vec{E}|$
とおくと、$ E = |\vec{v}\times \vec{B}|=vB\sin(\pi/2)=vB$
ゆえに、$ E = vB$。これが導体の棒に発生する電界である。棒の長さを
$l$とすると、棒の両端間の電圧は、$ V=El=vBl $である。