物理/エネルギーと保存則

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物理力学エネルギーと保存則

質点や質点の集まりの運動を調べるときに有用な
各種の保存法則が、運動の法則から導かれる。
導出の仕方が理解できると、力学への理解が深まる。

目次

エネルギー

物質の持っている仕事をする能力をエネルギーという。
この規定は抽象的で具体例を知らないと、良く分からないだろう。
その方たち向けに簡単に説明する。
人間が地表の石(質量m)を、非常にゆっくりと高さhまで持ち上げたとする。
この時、人間が石に行った仕事は、上向きの力(㎎+無限に小さい正の力)でhだけ動かしたのでmghとなる。 何故なら、上に移動させるため加えた小さい正の力は無限に小さく出来るので無視出来るから。
上に持ち上げられた物体は、支えをなくせば、引力㎎に引かれて落下運動する。
これを利用して、直接この石に仕事をさせることができる。
例えば、石に紐をつけ、延ばした紐の他端に動かしたい物体をつけて、石を自由にすれば、
石は物体を力㎎で引っ張りながら、地表まで落ちる。
この時物体はhだけ移動するので、石が物体に行う仕事はmghとなる。
このようにhの高さに持ち上げられた石は、仕事をする能力を持つ。
その量はmghで、最初人間が石に対して行った仕事に等しい。
位置に依存して有する能力なので、石は、位置エネルギーを持つという。
仕事量も表したい時には、「石の位置エネルギーはmgh」と表現する。

また、地表からhの高さに持ち上げられた石は、
支えをなくして自由にすると落下運動を行う。
運動物体は仕事をする能力を持つ。
何故なら、運動している物体は他の物体に接触すると力を与えて動かし、
仕事をするからである。
速度が速いほど、この能力は増す。
この場合の「仕事する能力」は、運動に基因するので、運動エネルギーという。
従って、位置エネルギーは直接に仕事をする能力だけでなく、
運動エネルギーという形態に変化する能力ももつ。
石は落下するに従って位置エネルギーをへらし、運動エネルギーは増していく(速度が速くなるため)。
こうして人間の行った仕事は、
石の位置エネルギーになり、
それは仕事をしたり、
運動エネルギーなど他のエネルギーに変換され、
その後仕事にも変換できる。
これ等の過程でエネルギーは保存されるのか、
工夫したら、最初に人間の行った仕事より多くの仕事が得られのではないか。
この節では、このようなエネルギーの問題を調べる。

運動エネルギー(kinetic energy)

運動している粒子は、それを止めようとする物体に力を与え、動かすことが出来る。
運動している粒子は,運動に起因する何らかのエネルギーを持っていると考えられる。
止まった段階ではこのエネルギーは零になるので、
運動している粒子の持つエネルギーの量は、止まるまでに使った仕事で計れる。

質量$m$の粒子が速度$\vec v$で運動しているとき、
止まるまでになす仕事を求めてみる。
速度方向をx軸とする座標$O-x$をとる。
力が作用しなければ、粒子はx軸の上をx正方向にむかって、速さ$v:=\|\vec v\|$で等速直線運動を続ける。
この粒子が原点を通過する瞬間(t=0)から、x軸方向の力$ F=-f、f>0$(負の向き)を、止まるまで与え続ける。この間、粒子は、作用反作用の法則により、$ F=f、f>0$の力で、止めようとする物体を押し返しながら、止まるまで仕事をし続ける。
止まるまでの距離を求めるため、運動法則を用いる。
この粒子の運動方程式は
$m\frac{d^2}{dt^2}x(t)=-f \qquad (1) $,
ここで、$x(0)=0,v(0)=v$(初期条件)$\qquad (2)$
(1)式の両辺を$m$で割り、$v(t):=\frac{d}{dt}x(t)$を代入すると、
$\frac{d}{dt}v(t)=-\frac{f}{m}$
この方程式を満たし、初期条件(2)を満たす関数$v$は、
$v(t)=-\frac{f}{m}t+v \qquad \qquad (3)$
この式から、粒子が停止する時刻は
$t_1=\frac{mv}{f}$
このときの粒子の位置は、
$\frac{d}{dt}x(t)=-\frac{f}{m}t+v \qquad (4) $
を解いて、停止時刻でのxを求めればよい。
初期条件式(2)を満たす(4)式の解は
$x(t)=-\frac{f}{2m}t^2+vt \qquad (4) $
故に、止まる位置は
$x(t_1)=-\frac{f}{2m}{t_1}^2+vt_1=\frac{mv^2}{2f}$
粒子が止まるまで,なした仕事は、
$W=f \frac{mv^2}{2f}= \frac{mv^2}{2}$
以上の考察より、粒子の運動エネルギーを次のように決める。
定義;
質量$m$、速度$\vec v$の質点の運動エネルギーを、
$\frac{mv^2}{2}$  
で定める。

仕事エネルギー定理(Work-energy theorem)

質点に力を与えて運動させたとき、力のなした仕事は質点の運動エネルギーの増加に等しいことが証明できる。
外力のなした仕事(エネルギー)が、質点のエネルギーに転嫁するのである。
これは、仕事エネルギー定理と呼ばれる重要な定理である。
以下にその証明をしよう。

質量$m$の質点が力 $\vec F(t)$を受けて運動している(注参照のこと)。
力は時間に関して連続であるか、区分的に連続(不連続点が有限個しかない)と仮定する。
空間には適当に原点Oを定め、適切な直交座標$O-x_{1}x_{2}x_{3}$をいれる。
時刻$t$ の質点の位置 $P(t)$ を位置ベクトルを$\vec{x}(t):=\vec{OP(t)}$で表わすと、その速度は $\vec{v}(t)=\frac{d\vec{x}}{dt}(t)$

注)
万有引力や電磁気力は、場所によって変化するので、
位置ベクトル$\vec x$にいる質点の受ける力は$\vec{G}(\vec x)$である。
すると、時刻$t$に質点の受ける力は時間の関数$\vec{F}(t):=\vec{G}(\vec{x}(t))$となる。
また人為的に時間により力を変えて物体の運動を制御することもある。
この定理は、この場合にも適用できるような記述にした。

定理の証明に利用する命題を用意する。
補題
時刻$t^{1}$から $t^{2}$までに力の行う仕事Wは
$W=\int_{t^{1}}^{t^{2}}(\vec{F}\cdot \vec{v})(t)dt (=\int_{t^{1}}^{t^{2}}\vec{F}(t)\cdot \frac{d\vec{x}(t)}{dt}dt) $
である。
ここで$(\vec{F}\cdot \vec{v})(t):=\vec{F}(t)\cdot \vec{v}(t)$
力が一定のときは、
$W=\int_{t^{1}}^{t^{2}}\vec F \cdot \frac{d\vec{x}(t)}{dt}dt =\vec F \cdot \int_{t^{1}}^{t^{2}}\frac{d\vec{x}(t)}{dt}dt=\vec F \cdot (\vec{x}(t^{2})-\vec{x}(t^{1}))$
となり、力のなす仕事の定義と一致する。
証明;
前節の「連続な力の場のなす仕事」の命題の証明で、
パラメータpとして、時間tをとり、
力$\vec{F}(\vec{x}(t))$を,改めて$\vec{F}(t)$とおけば、
全く同じように証明できる。
しかし、その証明はやや難しかいので、別の証明を与える。
時刻 $t^1$ から $t\in [t^{1},t^{2}]$ までに力のなす仕事を $W(t)$ とかくと、
時刻$t\in (t^{1},t^{2})$ から微小時間 $\delta t(\neq 0)$ ($(t+\delta t)\in (t^{1},t~{2})$)の間に力のなす仕事を $\delta W(t)$ とかけば $\delta W(t)=W(t+\delta t)-W(t)$ が成り立つ。
力が(区分的)連続なので、それを2回積分した軌道は(区分的に)滑らかな連続曲線になるので、
この短い時間の間は、
力は時刻 $t$ での値 $\vec{F}(t)$ に等しく、
質点の軌道は、有向線分 $\overrightarrow{P(t),P(t+\delta t)}=\vec{x}(t+\delta t)-\vec{x}(t)$ に等しい
とみなしてよい。
すると力のなす仕事の定義から、
$\delta W(t)=W(t+\delta t)-W(t)=\vec{F}(t) \cdot (\vec{x}(t+\delta t)-\vec{x}(t))$ 
が得られる。
両辺を $\delta t$ で割ると、
$\frac{W(t+\delta t)-W(t)}{\delta t}=\vec{F}(t) \cdot \frac{\vec{x}(t+\delta t)-\vec{x}(t)}{\delta t}$ 
が得られる。
ベクトル値関数$\vec{x}(t)$は、有限個の点を除いて微分可能で、その導関数は連続なので、
右辺は$\delta t$を零に近づけるとき、極限をもつ。
したがって、最悪でも、有限個のtを除いて $W(t)$ は微分可能で、
$\frac{dW}{dt}(t)=\lim_{\delta t \to 0}\frac{W(t+\delta t)-W(t)}{\delta t} =\lim_{\delta t \to 0}\vec{F}(t) \cdot \frac{\vec{x}(t+\delta t)-\vec{x}(t)}{\delta t}=\vec{F}(t) \cdot \frac{d\vec{x}}{dt}(t)$
故に、W(t) は $\vec{F}(t) \cdot \frac{d\vec{x}}{dt}(t)$ の不定積分
$\int \vec{F}(t) \cdot \frac{d\vec{x}}{dt}(t)dt$
で表される。
よく知られた定積分と不定積分の関係から
$W(t^2)-W(t^1)=\int_{t^1}^{t_2}\vec{F}(t) \cdot \frac{d\vec{x}}{dt}(t)dt$
$W=W(t^2)-W(t^1)$ なので所望の結果が得られた。          証明終わり。



仕事エネルギー定理
$W=\frac{1}{2}m\|v(t^{2})\|^2 - \frac{1}{2}m\|v(t^{1})\|^2 $
すなわち力がなした仕事は、運動エネルギーの変化量に等しい。
証明
運動の第2法則から、$\vec{F}(t)=m\frac{d\vec v(t)}{dt}$なので、
$W=\int_{[t^{1},t^{2}]}(\vec{F}\cdot \vec{v})(t)dt =\int_{[t^{1},t^{2}]}(m\frac{d\vec v}{dt} \cdot \vec{v})(t)dt=m\int_{[t^{1},t^{2}]}(\frac{d\vec v}{dt} \cdot \vec{v})(t)dt$
ここで、
$\frac{d(\vec{v} \cdot \vec{v})}{dt}(t)=2(\frac{d\vec v}{dt} \cdot \vec{v})(t)$(「8章の8.3 積分」のベクトル値関数の微分参照のこと)なので
$=\frac{m}{2}\int_{[t^{1},t^{2}]}\frac{d(\vec{v} \cdot \vec{v})}{dt}(t)dt$
ここで、被積分関数$\frac{d(\vec{v} \cdot \vec{v})}{dt}(t)$の
原始関数は$\vec{v} \cdot \vec{v}$なので、
$=\frac{m}{2}[(\vec{v} \cdot \vec{v})(t)]_{t^{1}}^{t^{2}}$
$=\frac{m}{2}\|\vec{v}(t^{2})\|^2-\frac{m}{2}\|\vec{v}(t^{1})\|^2$
証明終わり。

力 $\vec F(t)$ が重力とそれ以外の外力$\vec f(t)$ の和のばあいの仕事エネルギー定理を考えよう。
鉛直上方を$x_3$(z)軸とする3次元直交座標系 $O-x_1x_2x_3$をとり、
重力加速度の大きさを $g$ とかくと 、重力加速度は$\vec g=(0,0,-g)$ なので、
$\vec F(t)=m\vec g +\vec f(t)$
これを仕事エネルギー定理
$\int_{t^{1}}^{t^{2}}(\vec{F}\cdot \vec{v})(t)dt=\frac{m}{2}\|\vec{v}(t^{2})\|^2-\frac{m}{2}\|\vec{v}(t^{1})\|^2$
に代入して、式の整理をすると
$\int_{t^{1}}^{t^{2}}(\vec{f}\cdot \vec{v})(t)dt =\left(\frac{m}{2}\|\vec{v}(t^{2})\|^2+mgx_3(t^{2}) \right) -\left(\frac{m}{2}\|\vec{v}(t^{1})\|^2+mgx_3(t^{1}) \right)$
これで次の重要な系が得られた。
系;外力が重力とそれ以外の力$\vec f(t)$のとき、
$\vec f(t)$が、時刻 $t^{1}$ から $t^{2}$ の間になす仕事$W_f=\int_{t^{1}}^{t^{2}}(\vec{f}\cdot \vec{v})(t)dt$ は
$W_f=\left(\frac{m}{2}\|\vec{v}(t^{2})\|^2+mgx_3(t^{2}) \right) -\left(\frac{m}{2}\|\vec{v}(t^{1})\|^2+mgx_3(t^{1}) \right)$

保存力と位置エネルギー

力の場

質点がどこにあろうが、その位置$\vec x$に応じて力$\vec{F}(\vec x)$が作用するとする(注1)。
このような空間を力の場という。
力が位置の連続関数のとき、連続な力の場という。

保存力と保存力場

連続な力の場$\vec{F}(\vec x)$から力を受け 質点が任意の点$P$から任意の点$Q$ まで動くとき、
力の行う仕事が移動経路に関係なく2点$P$、$Q$だけで決まるならば、
この力の場を保存力場という。
保存力場の力を保存力(conservative force ) という。

移動経路としては、区分的に滑らかな曲線(注2参照)に限定する。
(注1)例えば、地球からの万有引力が作用する空間など。
(注2)曲線$\vec{C}$を、
$[0,1]$で定義された連続で、しかも
有限個の点を除いて微分可能で導関数が連続な
ベクトル値関数の軌跡で表すことが出来ることをいう。


位置エネルギー 

保存力は次のように言いかえることができる。
物体にかかる力 $ \vec{F}(\vec x) $ に逆らって、
力 $-\vec{F}(\vec x)+\delta$($\delta$は無限小)を加えて、
物体をQ点からP点に非常にゆっくり動かす時、
この力$-\vec{F}(\vec x) $の行う仕事が
移動経路に関係なく2点の位置だけで決まる時、
力 $ \vec{F} $を保存力という。
ここで力 $ -\vec{F} $は、物体に作用する力 $ \vec{F} $とつり合いをとるための力であり、
力 $ \delta $は、力がつりあって静止している物体を、
移動経路に沿って、Q点からP点まで
無限にゆっくりと動かすのに必要な、無限に小さい力である。
このため $\delta$ のなす仕事は零とみなせる。

この時、力 $ -\vec{F} $がなす仕事を、
Q 点を基準とした P 点でのこの物体の
ポテンシャルエネルギー(potential energy)(あるいは位置エネルギー)と言う。
記号では、基準点も分かるように$U_{Q}(P)$などと書く。
これは、場の力が物体をP点からQ点まで動かす時の、
場の力の行う仕事と等しい。
$U_{Q}(P)$は、力の場の定義されている領域中の任意の2点Q、Pにたいして決まるので
$U$は、この領域上の2変数関数である。保存力場$ \vec{F} $からきまるポテンシャル関数と呼ぼう。

を参照のこと。
命題;ポテンシャル関数の性質
保存力場の異なる任意の3点$P,Q,R$を考える。
各点からみた他の点のポテンシャルエネルギーには次の関係が常に成り立つ。
ⅰ)$U_{P}(Q)+U_{Q}(R)=U_{P}(R)$
ⅱ)$U_{P}(Q)=-U_{Q}(P)$
証明は、図のような経路にそって力の行う仕事の
間の関係を考えれば、簡単に出来る。

力の場が保存的である必要十分条件

命題
$\Omega$を空間${\bf R^3}$の領域(注参照)とする。
領域$\Omega$の一点$O$を原点にした、直交座標系$O-x_{1}x_{2}x_{3}$を決める。
次の2条件は同値である。
(1)$\Omega$の連続な力の場
$\vec{F}(\vec x),(\vec x\in \Omega)$が
保存力場である。
(2)$\Omega$上で定義され実数に値を取る$C^1$級関数$U(\vec x)$が存在して
$\vec{F}_i=-\frac{\partial U}{\partial x_i} ,(i=1,2,3)  \qquad \qquad (1)$
が$\Omega$上で成り立つ。
記述を簡略化するため、Uの勾配(gradient)
$\mathrm{grad}U(\vec x):=(\frac{\partial U}{\partial x_1}(\vec x), \frac{\partial U}{\partial x_2}(\vec x),\frac{\partial U}{\partial x_3}(\vec x))$
を導入すると、
$\vec{F}=-\mathrm{grad}U$が$\Omega$上で成り立つ。

ここで$\frac{\partial U}{\partial x_1}(\vec x)$は、

$U(\vec x)$を、独立変数の第1成分 $x_1:=(\vec x)_1$の関数とみるため
他の変数は固定して、$V_1(x_1):=U(x_1,x_2,x_3)$という実変数で実数値の関数を考え、
$x_1$で微分したものを表す。記号で表示すると、
$\frac{\partial U}{\partial x_1}(\vec x):=\frac{dV_1}{dx_1}(x_1)$
関数Uの$\vec x$ における第1座標$x_1$に関する偏微分係数という。
他の座標に関する偏微分係数も同様に定義する。
関数$\frac{\partial U}{\partial x_i}$は
変数$\vec x$に、その点の$x_i$についての偏微分係数$\frac{\partial U}{\partial x_i}(\vec x)$を対応させるもので、
$x_i$についての偏導関数と呼ばれる。
$U(\vec x)$が$C^1$級とは、
全ての偏導関数$\frac{\partial U}{\partial x_i}、(i=1,2,3)$が存在し、
しかも連続関数となることをいう。
多変数関数の連続性や微分については、
「第8章 物理数学」の「極限と微分」で要点を説明してある。
(注)空間が力の場となるには、それを作り出す物体が必要。
例えば、地球の周りに出来る重力場は、地球が作りだしている。
この重力場は3次元空間から、地球の存在する場所を除いた空間部分に出来る。
この部分を領域と呼ぶことにする。
領域の数学的に厳密な定義は、このテキストの程度をこえるので、 省略する。
地球は地球周辺の物体より、質量が桁違いに大きいので、
物体と引きあっても殆ど動かないため、
重力場の領域は時間に関係なく定まる。


証明;
(1)ならば(2)を示す。

この領域の任意の点$P(x_1,x_2,x_3)$(x_iはPの座標)の、原点からみた、ポテンシャルエネルギー
$U(P)=\int_{C(O \to P)}-\vec{F}(\vec y)\cdot \vec{dy}$
を定める。この値は経路$C(O\to P)$に関係なくきまる。
1)$\frac{\partial U}{\partial x_1}(\vec x)=-{\vec F}_{1}(\vec x)$を示す。
$\vec{e_1}:=(1,0,0)$とおき、Uの偏微分を定義に従って計算する。
$\frac{\partial U}{\partial x_1}(\vec x) =\lim_{\delta \to 0,\delta\neq 0}\frac{U(x_1+\delta,x_2,x_3)-U(x_1,x_2,x_3)}{\delta}$
ここで、
$U(x_1+\delta,x_2,x_3)-U(x_1,x_2,x_3)$
は、その経路に無関係にさだまるので、
質点を力$-\vec F$で第一座標に平行に$\delta$動かすときの仕事に等しい。 この向き付き経路を、ベクトル値関数で表示すると$\{{\vec x}(t)=\vec x+t\vec{e_1}\mid 0\leq t\leq \delta\}$である。
すると、力の場の命題で述べたように、この仕事は
$-\int_{0}^{\delta}{\vec F}(\vec{x}(t))\cdot \frac{d\vec{x}(t)}{dt}dt$
に等しい。
$\frac{d\vec{x}(t)}{dt}=\vec{e_1}$であり、
${\vec F}(\vec{x}(t))\cdot \frac{d\vec{x}(t)}{dt}={\vec F}_1(\vec{x}(t))$となるので
$=-\int_{0}^{\delta}{\vec F}_1(\vec{x}(t))dt$
故に、$U(x_1+\delta,x_2,x_3)-U(x_1,x_2,x_3) =-\int_{0}^{\delta}{\vec F}_1(\vec{x}(t))dt$

$\lim_{\delta \to 0,\delta\neq 0}\frac{U(x_1+\delta,x_2,x_3)-U(x_1,x_2,x_3)}{\delta}=-\frac{1}{\delta}\int_{0}^{\delta}{\vec F}_1(\vec{x}(t))dt $
ここで、${\vec F}_1(\vec x+t\vec{e_1})$はtの連続関数なので、
$|t|$が十分小さければ、${\vec F}_1(\vec x)$にいくらでも近くなる。
そこで、区間$[0,\delta]$での平均値
$\frac{1}{\delta}\int_{0}^{\delta}{\vec F}_1(\vec{x}(t))dt$は、
$\delta$が零に収束するとき、${\vec F}_1(\vec x)$に収束する。
これで(2)が証明できた。
(2)を仮定して(1)を示す。
任意の2点$P,Q\in \Omega$に対し、それを結ぶPからQへの区分的に滑らかな曲線
${\vec C}:=\{{\vec x}(t)\mid 0\leq t\leq 1\},{\vec x}(0)=P,{\vec x}(1)=Q$
を選んだとき、これに沿って力の成す仕事
$W_{\vec C}=\int_{\vec C}{\vec F}(\vec x) \cdot \vec{dx} =-\int_{\vec C}\mathrm{grad}U(\vec x)\cdot \vec{dx} \qquad \qquad (2)$
が、曲線に依存しないことを示せば良い。
${\vec C}:=\{{\vec x}(t)\mid 0\leq t\leq 1\}$ なので 式(2)$=-\int_{0}^{1}\mathrm{grad}U(\vec x(t))\cdot \frac{d\vec{x}(t)}{dt}dt$
補題;
$\frac{dU(\vec x(t))}{dt}=\mathrm{grad}U(\vec x(t))\cdot \frac{d\vec{x}(t)}{dt}$
これは、多変数の場合の合成関数の微分公式である。本テキストの「8章 物理数学」 で説明してある。
これを用いると、 式(2)$=-\int_{0}^{1}\frac{dU(\vec x(t))}{dt}dt$
$\frac{dU(\vec x(t))}{dt}$の原始関数は$U(\vec x(t))$なので、
この定積分は
$=-[U(\vec x(t))]_{0}^{1}=-U(\vec x(1))+U(\vec x(0))=-U(Q)+U(P)$
この値は経路に依存しないので、保存力であることが示された。
証明終わり。


 保存力の十分条件 

万有引力で作られる力の場などは、保存力場である。
これを示すため、もう少し一般の力の場が、保存力場であることを示す命題を述べる。

命題;
領域$\Omega$を3次元空間から原点を取り除いた領域とする。
この領域で定義された力の場
${\vec F}(\vec x)=h(\|\vec x\|)\frac{\vec x}{\|\vec x\|}$
は保存力場である。但し、関数$h$は、実変数の実数値連続関数とする。
証明;
hは連続関数なので、
任意の正数xに対して、定積分$\int_{0}^{x}h(x)dx$が存在する。
そこで関数$H(x):=\int_{0}^{x}h(x)dx$を導入する。
この関数Hを微分すると関数hが得られる。
$U(\vec x):=-H(\|x\|)$という多変数関数を定義すると,
合成関数の微分公式より、
$\frac{\partial U}{\partial x_i}$ $=-\frac{dH}{dy}(\|\vec{x} \|)\frac{\partial \|\vec{x}\|}{\partial x_i}$
$=-h(\|\vec x\|)\frac{x_i}{\|\vec x\|}=-{\vec F}_i(\vec x)$
すでに証明した「力の場が保存的である必要十分条件」中の命題により、
保存力場であることが証明された。

複数の星が作る万有引力場 

今までは、保存力場が不変であり、その場の中も質点が受ける力の性質について考えてきた。
このような限定をつけても応用範囲はかなりある。
例えば、太陽の周りの惑星の運動などでは、太陽の質量が大きく、惑星からの万有引力を受けてもほとんど動かない。
このため太陽の作る万有引力場(保存力場)のなかの惑星運動の解析は有用である。
ところが、質量に大差がない複数の星が万有引力で互いに引き合いながら運動する場合には、
関与する星はすべて万有引力により運動するため、適用不可である。
そこでこれらにも適用できるよう若干理論を拡張しよう。
星の個数をNとし、質量$m_i$(i=1,2,,,N) の質点とみなし、質点$m_i$と略称する。
適切な慣性系を選び、各質点$m_i$ の位置ベクトルを $\vec{r^i}$(i=1,2,,,N)とおくと、
質点 $m_i$ が受ける万有引力 $\vec{F_G^i}$ は、
$\vec{F_G^i}=\sum_{j,j\neq i}Gm_{i}m_{j}\|\vec{r^j}-\vec{r^i}\|^{-3/2}$

補題
(1)$\frac{\partial }{\partial \vec{r^i}}\left(\frac{1}{\|\vec{r^j}-\vec{r^i}\|}\right) :=\left(\frac{\partial }{\partial {r^i}_1}\|\vec{r^j}-\vec{r^i}\|^{-1}, \frac{\partial }{\partial {r^i}_2}\|\vec{r^j}-\vec{r^i}\|^{-1}, \frac{\partial }{\partial {r^i}_3}\|\vec{r^j}-\vec{r^i}\|^{-1}\right)^T$
$=\frac{\vec{r^j}-\vec{r^i}}{\|\vec{r^j}-\vec{r^i}\|^3}$
ここで、${r^i}_k$(k=1,2,3)はベクトル $\vec{r^i}$ の第k成分のこと。


力学的エネルギーと力学的エネルギー保存則

力学的エネルギーは、運動エネルギーと位置エネルギー(ポテンシャル・エネルギー)の総称である。

力学的エネルギー保存則(kinetic energy and conservation of kinetic energy )
保存力場から力をうけて運動している質点mの
運動エネルギーと(任意の固定した基準点Oからみた)ポテンシャル・エネルギーの和は
保存される。
証明。
任意の時刻$t_1$から時刻 $t_2 (>0)$の間に力の行う仕事は
仕事エネルギー定理から
$W(t_1,t_2)=\frac{m\|\vec v(t_2)\|^2}{2}-\frac{m\|\vec v(t_1)\|^2}{2}$
他方で、この力は保存力なので、
この仕事は、この場から決まるポテンシャル関数Uを用いて、
$W(t_1,t_2)=U_{\vec{x}(t_2)}(\vec{x}(t_1))$
この式の右辺は、ポテンシャル関数の命題を適用すると、
任意の固定した基準点Oからのポテンシャル・エネルギーを用いて、
$=U_{O}(\vec{x}(t_1))-U_{O}(\vec{x}(t_2))$
故に
$\frac{m\|\vec{v}(t_2)\|^2}{2}-\frac{m\|\vec{v}(t_1)\|^2}{2} =U_{O}(\vec{x}(t_1))-U_{O}(\vec{x}(t_2))$
式を整頓すると、
$\frac{m\|\vec{v}(t_2)\|^2}{2}+U_{O}(\vec{x}(t_2)) =\frac{m\|\vec{v}(t_1)\|^2}{2}+U_{O}(\vec{x}(t_1))$
証明終わり。

運動量と保存則

運動量と力積 (momentum or linear momentum and Impulse)

質点に力$\vec{F}(t)$が作用しているとする。
運動の第2法則$\vec{F}(t)=\frac{d\vec{p}(t)}{dt}$ の両辺を
時間に関して$t_1$から $t_2$まで積分してみよう。ここで$\vec{p}(t)=m\vec{v}(t)$は質点の運動量。
すると、
$\int_{t_1}^{t_2}\vec{F}(t)dt=\vec{p}(t_2)-\vec{p}(t_1)$
となる。
質点に作用する力を時間で積分した$\int_{t_1}^{t_2}\vec{F}(t)dt$を力積と呼ぶ。
力積は、運動量の変化に等しい。

質点系の運動量は、質点系の各質点の運動量の和で定義する。
質点系の場合も、各質点の力積の和(質点系の力積)は質点系の運動量の変化に等しいことが、
運動の第2法則から導ける。

運動量保存則

質点の場合、それに作用する外力の総和が零ならば、運動量は保存される(一定である)。
次のように質点系にも拡張できる。
運動量保存則( law of conservation of momentum )
質点系に作用する外力のベクトル和が零ならば、
内力(質点系内の質点間に働く力)があっても、
運動量は保存される。
証明;
質点系の質点数をN個とする。
質点系の各質点の位置を$\vec{r_i}$、質量を$m_i $とし、
質点$m_i$ に作用する外力を$\vec{f_i}$、
$m_i$ に、質点系の他の質点$m_j $から作用する内力を
$\vec{f_{ij}}$とする($i,j=1 \ldots N$)。
すると、各質点に対して、運動の第2法則により、
$\frac{d\vec{p}_i(t)}{dt}=\vec{f_i}+\sum_{j\neq i}\vec{f_{ij}} $ 
上の式を$i=1 \ldots N$について加え合わせると、
$\frac{d}{dt} \sum_i{\vec{p}_i(t)} =\sum_{i}(\vec{f_i}+\sum_{j\neq i}\vec{f_{ij}})$
$=\sum_{i}\vec{f_i}+\sum_{i}\sum_{j\neq i}\vec{f_{ij}}$
外力のベクトル和が零という仮定から、
$=\sum_{i}\sum_{j\neq i}\vec{f_{ij}}$
$=\sum_{i<j}(\vec{f_{ij}}+\vec{f_{ji}})$
上式の$\sum_{i<j}$は、すべての異なる$i<j$の組み合わせに関して和をとる意味である。
作用反作用の法則により、$ \vec{f_{ij}}+\vec{f_{ji}}=0$()なので、
$\sum_{i<j}(\vec{f_{ij}}+\vec{f_{ji}})=0$
故に、
$\frac{d}{dt} \sum_i{\vec{p}_i(t)} =0 $
が得られる。
$\sum_i{\vec{p}_i(t)}$は時不変であり、保存される事が示された。

保存力と位置エネルギー

力の場

質点がどこにあろうが、その位置$\vec x$に応じて力$\vec{F}(\vec x)$が作用するとする(注1)。
このような空間を力の場という。
力が位置の連続関数のとき、連続な力の場という。

保存力と保存力場

連続な力の場$\vec{F}(\vec x)$から力を受け 質点が任意の点$P$から任意の点$Q$ まで動くとき、
力の行う仕事が移動経路に関係なく2点$P$、$Q$だけで決まるならば、
この力の場を保存力場という。
保存力場の力を保存力(conservative force ) という。

移動経路としては、区分的に滑らかな曲線(注2参照)に限定する。
(注1)例えば、地球からの万有引力が作用する空間など。
(注2)曲線$\vec{C}$を、
$[0,1]$で定義された連続で、しかも
有限個の点を除いて微分可能で導関数が連続な
ベクトル値関数の軌跡で表すことが出来ることをいう。


位置エネルギー 

保存力は次のように言いかえることができる。
物体にかかる力 $ \vec{F}(\vec x) $ に逆らって、
力 $-\vec{F}(\vec x)+\delta$($\delta$は無限小)を加えて、
物体をQ点からP点に非常にゆっくり動かす時、
この力$-\vec{F}(\vec x) $の行う仕事が
移動経路に関係なく2点の位置だけで決まる時、
力 $ \vec{F} $を保存力という。
ここで力 $ -\vec{F} $は、物体に作用する力 $ \vec{F} $とつり合いをとるための力であり、
力 $ \delta $は、力がつりあって静止している物体を、
移動経路に沿って、Q点からP点まで
無限にゆっくりと動かすのに必要な、無限に小さい力である。
このため $\delta$ のなす仕事は零とみなせる。

この時、力 $ -\vec{F} $がなす仕事を、
Q 点を基準とした P 点でのこの物体の
ポテンシャルエネルギー(potential energy)(あるいは位置エネルギー)と言う。
記号では、基準点も分かるように$U_{Q}(P)$などと書く。
これは、場の力が物体をP点からQ点まで動かす時の、
場の力の行う仕事と等しい。
$U_{Q}(P)$は、力の場の定義されている領域中の任意の2点Q、Pにたいして決まるので
$U$は、この領域上の2変数関数である。保存力場$ \vec{F} $からきまるポテンシャル関数と呼ぼう。

を参照のこと。
命題;ポテンシャル関数の性質
保存力場の異なる任意の3点$P,Q,R$を考える。
各点からみた他の点のポテンシャルエネルギーには次の関係が常に成り立つ。
ⅰ)$U_{P}(Q)+U_{Q}(R)=U_{P}(R)$
ⅱ)$U_{P}(Q)=-U_{Q}(P)$
証明は、図のような経路にそって力の行う仕事の
間の関係を考えれば、簡単に出来る。

力の場が保存的である必要十分条件

命題
$\Omega$を空間${\bf R^3}$の領域(注参照)とする。
領域$\Omega$の一点$O$を原点にした、直交座標系$O-x_{1}x_{2}x_{3}$を決める。
次の2条件は同値である。
(1)$\Omega$の連続な力の場
$\vec{F}(\vec x),(\vec x\in \Omega)$が
保存力場である。
(2)$\Omega$上で定義され実数に値を取る$C^1$級関数$U(\vec x)$が存在して
$\vec{F}_i=-\frac{\partial U}{\partial x_i} ,(i=1,2,3)  \qquad \qquad (1)$
が$\Omega$上で成り立つ。
記述を簡略化するため、Uの勾配(gradient)
$\mathrm{grad}U(\vec x):=(\frac{\partial U}{\partial x_1}(\vec x), \frac{\partial U}{\partial x_2}(\vec x),\frac{\partial U}{\partial x_3}(\vec x))$
を導入すると、
$\vec{F}=-\mathrm{grad}U$が$\Omega$上で成り立つ。

ここで$\frac{\partial U}{\partial x_1}(\vec x)$は、

$U(\vec x)$を、独立変数の第1成分 $x_1:=(\vec x)_1$の関数とみるため
他の変数は固定して、$V_1(x_1):=U(x_1,x_2,x_3)$という実変数で実数値の関数を考え、
$x_1$で微分したものを表す。記号で表示すると、
$\frac{\partial U}{\partial x_1}(\vec x):=\frac{dV_1}{dx_1}(x_1)$
関数Uの$\vec x$ における第1座標$x_1$に関する偏微分係数という。
他の座標に関する偏微分係数も同様に定義する。
関数$\frac{\partial U}{\partial x_i}$は
変数$\vec x$に、その点の$x_i$についての偏微分係数$\frac{\partial U}{\partial x_i}(\vec x)$を対応させるもので、
$x_i$についての偏導関数と呼ばれる。
$U(\vec x)$が$C^1$級とは、
全ての偏導関数$\frac{\partial U}{\partial x_i}、(i=1,2,3)$が存在し、
しかも連続関数となることをいう。
多変数関数の連続性や微分については、
「第8章 物理数学」の「極限と微分」で要点を説明してある。
(注)空間が力の場となるには、それを作り出す物体が必要。
例えば、地球の周りに出来る重力場は、地球が作りだしている。
この重力場は3次元空間から、地球の存在する場所を除いた空間部分に出来る。
この部分を領域と呼ぶことにする。
領域の数学的に厳密な定義は、このテキストの程度をこえるので、 省略する。
地球は地球周辺の物体より、質量が桁違いに大きいので、
物体と引きあっても殆ど動かないため、
重力場の領域は時間に関係なく定まる。


証明;
(1)ならば(2)を示す。

この領域の任意の点$P(x_1,x_2,x_3)$(x_iはPの座標)の、原点からみた、ポテンシャルエネルギー
$U(P)=\int_{C(O \to P)}-\vec{F}(\vec y)\cdot \vec{dy}$
を定める。この値は経路$C(O\to P)$に関係なくきまる。
1)$\frac{\partial U}{\partial x_1}(\vec x)=-{\vec F}_{1}(\vec x)$を示す。
$\vec{e_1}:=(1,0,0)$とおき、Uの偏微分を定義に従って計算する。
$\frac{\partial U}{\partial x_1}(\vec x) =\lim_{\delta \to 0,\delta\neq 0}\frac{U(x_1+\delta,x_2,x_3)-U(x_1,x_2,x_3)}{\delta}$
ここで、
$U(x_1+\delta,x_2,x_3)-U(x_1,x_2,x_3)$
は、その経路に無関係にさだまるので、
質点を力$-\vec F$で第一座標に平行に$\delta$動かすときの仕事に等しい。 この向き付き経路を、ベクトル値関数で表示すると$\{{\vec x}(t)=\vec x+t\vec{e_1}\mid 0\leq t\leq \delta\}$である。
すると、力の場の命題で述べたように、この仕事は
$-\int_{0}^{\delta}{\vec F}(\vec{x}(t))\cdot \frac{d\vec{x}(t)}{dt}dt$
に等しい。
$\frac{d\vec{x}(t)}{dt}=\vec{e_1}$であり、
${\vec F}(\vec{x}(t))\cdot \frac{d\vec{x}(t)}{dt}={\vec F}_1(\vec{x}(t))$となるので
$=-\int_{0}^{\delta}{\vec F}_1(\vec{x}(t))dt$
故に、$U(x_1+\delta,x_2,x_3)-U(x_1,x_2,x_3) =-\int_{0}^{\delta}{\vec F}_1(\vec{x}(t))dt$

$\lim_{\delta \to 0,\delta\neq 0}\frac{U(x_1+\delta,x_2,x_3)-U(x_1,x_2,x_3)}{\delta}=-\frac{1}{\delta}\int_{0}^{\delta}{\vec F}_1(\vec{x}(t))dt $
ここで、${\vec F}_1(\vec x+t\vec{e_1})$はtの連続関数なので、
$|t|$が十分小さければ、${\vec F}_1(\vec x)$にいくらでも近くなる。
そこで、区間$[0,\delta]$での平均値
$\frac{1}{\delta}\int_{0}^{\delta}{\vec F}_1(\vec{x}(t))dt$は、
$\delta$が零に収束するとき、${\vec F}_1(\vec x)$に収束する。
これで(2)が証明できた。
(2)を仮定して(1)を示す。
任意の2点$P,Q\in \Omega$に対し、それを結ぶPからQへの区分的に滑らかな曲線
${\vec C}:=\{{\vec x}(t)\mid 0\leq t\leq 1\},{\vec x}(0)=P,{\vec x}(1)=Q$
を選んだとき、これに沿って力の成す仕事
$W_{\vec C}=\int_{\vec C}{\vec F}(\vec x) \cdot \vec{dx} =-\int_{\vec C}\mathrm{grad}U(\vec x)\cdot \vec{dx} \qquad \qquad (2)$
が、曲線に依存しないことを示せば良い。
${\vec C}:=\{{\vec x}(t)\mid 0\leq t\leq 1\}$ なので 式(2)$=-\int_{0}^{1}\mathrm{grad}U(\vec x(t))\cdot \frac{d\vec{x}(t)}{dt}dt$
補題;
$\frac{dU(\vec x(t))}{dt}=\mathrm{grad}U(\vec x(t))\cdot \frac{d\vec{x}(t)}{dt}$
これは、多変数の場合の合成関数の微分公式である。本テキストの「8章 物理数学」 で説明してある。
これを用いると、 式(2)$=-\int_{0}^{1}\frac{dU(\vec x(t))}{dt}dt$
$\frac{dU(\vec x(t))}{dt}$の原始関数は$U(\vec x(t))$なので、
この定積分は
$=-[U(\vec x(t))]_{0}^{1}=-U(\vec x(1))+U(\vec x(0))=-U(Q)+U(P)$
この値は経路に依存しないので、保存力であることが示された。
証明終わり。


 保存力の十分条件 

万有引力で作られる力の場などは、保存力場である。
これを示すため、もう少し一般の力の場が、保存力場であることを示す命題を述べる。

命題;
領域$\Omega$を3次元空間から原点を取り除いた領域とする。
この領域で定義された力の場
${\vec F}(\vec x)=h(\|\vec x\|)\frac{\vec x}{\|\vec x\|}$
は保存力場である。但し、関数$h$は、実変数の実数値連続関数とする。
証明;
hは連続関数なので、
任意の正数xに対して、定積分$\int_{0}^{x}h(x)dx$が存在する。
そこで関数$H(x):=\int_{0}^{x}h(x)dx$を導入する。
この関数Hを微分すると関数hが得られる。
$U(\vec x):=-H(\|x\|)$という多変数関数を定義すると,
合成関数の微分公式より、
$\frac{\partial U}{\partial x_i}$ $=-\frac{dH}{dy}(\|\vec{x} \|)\frac{\partial \|\vec{x}\|}{\partial x_i}$
$=-h(\|\vec x\|)\frac{x_i}{\|\vec x\|}=-{\vec F}_i(\vec x)$
すでに証明した「力の場が保存的である必要十分条件」中の命題により、
保存力場であることが証明された。

複数の星が作る万有引力場 

今までは、保存力場が不変であり、その場の中も質点が受ける力の性質について考えてきた。
このような限定をつけても応用範囲はかなりある。
例えば、太陽の周りの惑星の運動などでは、太陽の質量が大きく、惑星からの万有引力を受けてもほとんど動かない。
このため太陽の作る万有引力場(保存力場)のなかの惑星運動の解析は有用である。
ところが、質量に大差がない複数の星が万有引力で互いに引き合いながら運動する場合には、
関与する星はすべて万有引力により運動するため、適用不可である。
そこでこれらにも適用できるよう若干理論を拡張しよう。
星の個数をNとし、質量$m_i$(i=1,2,,,N) の質点とみなし、質点$m_i$と略称する。
適切な慣性系を選び、各質点$m_i$ の位置ベクトルを $\vec{r^i}$(i=1,2,,,N)とおくと、
質点 $m_i$ が受ける万有引力 $\vec{F_G^i}$ は、
$\vec{F_G^i}=\sum_{j,j\neq i}Gm_{i}m_{j}\|\vec{r^j}-\vec{r^i}\|^{-3/2}$

補題
(1)\frac{\partial }{\partial \vec{r^i}}\frac{1}{\|\vec{r^j}-\vec{r^i}\|}

=$\frac{\partial }{\partial \vec{r^i}_1}\frac{1}{\|\vec{r^j}-\vec{r^i}\|}, \frac{\partial }{\partial \vec{r^i}_2}\frac{1}{\|\vec{r^j}-\vec{r^i}\|}, \frac{\partial }{\partial \vec{r^i}_3}\frac{1}{\|\vec{r^j}-\vec{r^i}\|})^T$
$=\frac{\vec{r^j}-\vec{r^i}}{\|\vec{r^j}-\vec{r^i}\|^3} ==力学的エネルギーと力学的エネルギー保存則== 力学的エネルギーは、運動エネルギーと位置エネルギー(ポテンシャル・エネルギー)の総称である。

力学的エネルギー保存則(kinetic energy and conservation of kinetic energy )
保存力場から力をうけて運動している質点mの
運動エネルギーと(任意の固定した基準点Oからみた)ポテンシャル・エネルギーの和は
保存される。
証明。
任意の時刻$t_1$から時刻 $t_2 (>0)$の間に力の行う仕事は
仕事エネルギー定理から
$W(t_1,t_2)=\frac{m\|\vec v(t_2)\|^2}{2}-\frac{m\|\vec v(t_1)\|^2}{2}$
他方で、この力は保存力なので、
この仕事は、この場から決まるポテンシャル関数Uを用いて、
$W(t_1,t_2)=U_{\vec{x}(t_2)}(\vec{x}(t_1))$
この式の右辺は、ポテンシャル関数の命題を適用すると、
任意の固定した基準点Oからのポテンシャル・エネルギーを用いて、
$=U_{O}(\vec{x}(t_1))-U_{O}(\vec{x}(t_2))$
故に
$\frac{m\|\vec{v}(t_2)\|^2}{2}-\frac{m\|\vec{v}(t_1)\|^2}{2}

=U_{O}(\vec{x}(t_1))-U_{O}(\vec{x}(t_2))$
式を整頓すると、
$\frac{m\|\vec{v}(t_2)\|^2}{2}+U_{O}(\vec{x}(t_2)) =\frac{m\|\vec{v}(t_1)\|^2}{2}+U_{O}(\vec{x}(t_1))$
証明終わり。
*[[wikipedia_ja:力学的エネルギー|ウィキペディア(力学的エネルギー)]] *[[wikipedia:Kinetic_energy|ウィキペディア(Kinetic_energy)]] in English *[[wikipedia_ja:力学的エネルギー保存の法則|ウィキペディア(力学的エネルギー保存の法則)]] *[[wikipedia:Conservation_of_energy#Mechanics|ウィキペディア(Conservation_of_energy#Mechanics)]] in English ==運動量と保存則== ===運動量と力積 (momentum or linear momentum and Impulse) === 質点に力$\vec{F}(t)$が作用しているとする。
運動の第2法則$\vec{F}(t)=\frac{d\vec{p}(t)}{dt}$ の両辺を
時間に関して$t_1$から $t_2$まで積分してみよう。ここで$\vec{p}(t)=m\vec{v}(t)$は質点の運動量。
すると、
$\int_{t_1}^{t_2}\vec{F}(t)dt=\vec{p}(t_2)-\vec{p}(t_1)$
となる。
質点に作用する力を時間で積分した$\int_{t_1}^{t_2}\vec{F}(t)dt$を力積と呼ぶ。
力積は、運動量の変化に等しい。 *[[wikibooks_ja:高等学校理科 物理II 力と運動|ウィキブックス(高等学校理科 物理Ⅱ)]] の1.1.2 運動量と力積
質点系の運動量は、質点系の各質点の運動量の和で定義する。
質点系の場合も、各質点の力積の和(質点系の力積)は質点系の運動量の変化に等しいことが、
運動の第2法則から導ける。 ===運動量保存則=== 質点の場合、それに作用する外力の総和が零ならば、運動量は保存される(一定である)。
次のように質点系にも拡張できる。
'''運動量保存則'''( law of conservation of momentum )
質点系に作用する外力のベクトル和が零ならば、
内力(質点系内の質点間に働く力)があっても、
運動量は保存される。
証明;
質点系の質点数をN個とする。
質点系の各質点の位置を$\vec{r_i}$、質量を$m_i $とし、
質点$m_i$ に作用する外力を$\vec{f_i}$、
$m_i$ に、質点系の他の質点$m_j $から作用する内力を
$\vec{f_{ij}}$とする($i,j=1 \ldots N$)。
すると、各質点に対して、運動の第2法則により、
$\frac{d\vec{p}_i(t)}{dt}=\vec{f_i}+\sum_{j\neq i}\vec{f_{ij}} $ 
上の式を$i=1 \ldots N$について加え合わせると、
$\frac{d}{dt} \sum_i{\vec{p}_i(t)} =\sum_{i}(\vec{f_i}+\sum_{j\neq i}\vec{f_{ij}})$
$=\sum_{i}\vec{f_i}+\sum_{i}\sum_{j\neq i}\vec{f_{ij}}$
外力のベクトル和が零という仮定から、
$=\sum_{i}\sum_{j\neq i}\vec{f_{ij}}$
$=\sum_{i<j}(\vec{f_{ij}}+\vec{f_{ji}})$
上式の$\sum_{i<j}$は、すべての異なる$i<j$の組み合わせに関して和をとる意味である。
作用反作用の法則により、$ \vec{f_{ij}}+\vec{f_{ji}}=0$()なので、
$\sum_{i<j}(\vec{f_{ij}}+\vec{f_{ji}})=0$
故に、
$\frac{d}{dt} \sum_i{\vec{p}_i(t)} =0 $
が得られる。
$\sum_i{\vec{p}_i(t)}$は時不変であり、保存される事が示された。
*[[wikipedia_ja:運動量保存の法則|ウィキペディア(運動量保存の法則)]] ==エネルギーの単位== 1Nの力で物体を1m動かしたとき、力は1J(ジュール)の仕事をしたという。
1[J]=1[N・m] =衝突の問題への応用= 物理学で衝突とは、広い意味では、2つの物体が近づき力をおよぼしあう現象を指す。
通常扱う衝突は、2つの物体が互いに近づき接触し、
その瞬間に互いに相手から非常に大きな力を受け、運動に変化をおこす現象である。
この力は撃力と呼ばれる。
作用・反作用の法則として確立しているように、
この2つの撃力は大きさと方向は同じだが向きは逆の力である。
撃力はきわめて短時間に大きく変化するため、測定することは困難である。
そこで、力を測定しなくても、運動変化についてどこまでいえるか、考察しよう。
=== 衝突時に起こる変化 === 2物体の強度や粘性、反発特性や衝突時の相対速度により下記のような現象が起こる。
(1)衝突時に粉々に砕け散る、
(2)反発し互いに撃力を及ぼしあい運動方向や速さを変え互いに遠ざかっていく、
(3)2物体は反発しないでくっつき、一体になって運動する
==衝突時に成立すること== 衝突前後の極めて短時間の運動変化を調べるのが目的なので、
2物体に外部から働く力は無視出来る。
なぜならばこの間の撃力の力積は大きく運動変化を起こすが、
外部力の力積は極小で、それによる運動変化は無視出来るから。
この仮定の下では、衝突時に何が起ころうと成り立つ事実がある。 ===運動量の保存=== 2つの物体は、それぞれ質点系である。
そこで、2物体を纏めた一つの質点系を考える。
衝突時の撃力は、上述のように両物体に色々な変化を起こす。
しかしそれらすべての変化の原因となる、
撃力による質点間の力の急変にも作用反作用の法則は成り立つ。
従って、衝突により、物体が粉々に成ろうとも、
すべての質点の運動量の和は、不変である。式で書くと
$\vec{P}:=\sum_{i}\vec{p}_i=\sum_{i}m_{i}\vec{v}_i$($\vec{P}$は一定)$\quad (2)$ ==2粒子の衝突後の運動は一般には、求めることはできない== 2つの質点(質点とみなせる物体)の衝突に限定して、考察する。
質点は大きさを持たないので、衝突時に壊れることはない。
すると、
衝突時に撃力が働き反発しあって互いに遠ざかるか、
合体して一つの粒子となり運動するか
のいづれかである。
== 粒子が運動量・速度を変えるのは衝突の間だけ == 各質点には衝突の瞬間の撃力以外に力は作用しないと仮定しているので、 衝突前も衝突後も運動量(速度)一定で運動する。変化は衝突撃力の作用して瞬間に起こる。 ==一体化するか、反発しあって互いに遠ざかるかは、粒子の性質に依存 == 衝突の瞬間に一体化するか反発しあって互いに遠ざかるかは、
2粒子の[[wikipedia_ja:反発係数 |反発係数]]によりきまる。
反発係数が0ならば一体化する。
したがって、運動量の保存だけでは2質点の衝突後の運動は決まらない。 == 衝突時に一体化する場合 == 衝突直前の粒子$m_1,m_2$の運動量を$\vec{p}_1,\vec{p}_2$
一体になった粒子の運動量を$\vec{P}$とおくと
運動量保存の法則により
$\vec{P}=\vec{p}_1+\vec{p}_2 $
これより、衝突後の速度は$\vec v=\frac{\vec{P}}{m_1+m_2}$ == 反発しあって互いに遠ざかる場合  == 衝突前の両粒子の運動量が分かっているとき、
衝突後の2粒子の運動量を、運動量保存則から求めることが出来るだろうか?
求めたい数は衝突後の両粒子の運動量なので、6つである。
運動量保存則からは、各座標成分ごとの3つの式ができる。
方程式の個数が未知数の個数よりすくないので、変数の値は決められない(方程式は解けない)。
未知数とそれらの間に成り立つ方程式の数を同じにするため、 衝突時の条件を付けてみよう。 ===弾性衝突   === 2つの粒子の運動エネルギーの和が、衝突時に保存される衝突を弾性衝突という。
エネルギー保存は一つの関係式しか与えないので、まだ2つ方程式が足りない。
残り2つの方程式は衝突の際の撃力に関する知識が必要になるので、
一般的には議論出来ない。 ===弾性衝突で撃力の方向が分かる場合=== この場合には衝突後の運動の方向がわかり、
これを式で表すと、2つの保存則の方程式と連立させて、
衝突後の2粒子の運動量を其々求めることが出来る。
例として、
両粒子が同じ直線上を運動し、正面から衝突する場合を考える。
この時撃力は、この直線と同じ方向に働く。
すると衝突後も粒子はこの直線上を運動する。
この直線をx座標に選べば、粒子の位置はx座標だけで表せる。
速度(運動量)もx座標方向となるので、x座標成分が変数となる。
(注)速度(運動量)の他の座標成分は全て零となる。
すると衝突後の2粒子の運動量は、それぞれの粒子の運動量のx座標成分が未知数となる。
この2つの未知数に対して、
運動量保存則のx座標成分の式と運動エネルギー保存の式の2つの方程式が得られる。
一次方程式と2次方程式の連立方程式なので、容易に解ける。 ===弾性衝突の一般論 === 弾性粒子の衝突は、物理学で重要な役割を果たしている。
原子物理学では、原子の衝突の実験が行われるが、弾性衝突の概念が基本になっている。
この条件で、衝突後の2粒子の運動量をどこまで推察できるか考察する。
以下衝突の起こる時刻を、t=0にとる。
衝突時にだけ、粒子の速度と運動量変化が起こるので
衝突前(t<0)の粒子の速度を$\vec{v}(-)$ 運動量を$\vec{p}(-)$,
衝突後(t>0)の粒子の速度を$\vec{v}(+)$ 運動量を$\vec{p}(+)$,
などと書く。 ==== 実験・観測と考察に都合のよい慣性系の選択==== =====実験室系===== 衝突する2粒子の質量を$m_1,m_2$とし、
質点$m_2$が原点に静止するような慣性座標系Sを定める(注参照)。
実験室系(laboratory system)とよぶ。
通常の物理実験では一方の粒子を固定し、それを標的に他の粒子をあてるので、
この名がついている。
この系は慣性系なので、あらゆる力学の法則が成り立つ。
(注)$m_2$粒子は衝突前、等速度運動をしているので、
衝突前には、この粒子の位置を原点とし等速度で並進し、
衝突後もこの速度で並進する座標系をとればよい。
この系からみれば、$m_2$は衝突前は止まって見える。
この系は、地上に固定した慣性系に対して等速度並進運動する系なので慣性系である。
証明は、「1.3 ガリレイ変換とガリレイの相対性原理」にある。

このS系からみた、質点$m_i$の時刻tでの位置ベクトルと速度、運動量を、それぞれ
$\vec{r^i}(t), \quad \vec{v^i}(t), \quad \vec{p^i}(t) \quad$(i=1,2)
と記す。
======S系で観測する衝突前の運動   ====== 衝突前の時刻t(<0)の質点$m_2$の位置ベクトルと速度はともに零なので、
$\vec{r^2}(-)=0,\quad \vec{v^2}(-)=0,\quad \vec{p^2}(-)=0$
また質点$m_1$は衝突前に等速度で運動しているので、この速度を$\vec v^1(-)$と書くと
$\vec{p^1}(-)=m_1 \vec{v^1(-)} \quad \qquad     (1)$
質点系の運動量は、
$\vec{P}(-):=\vec{p^1}(-)+\vec{p^2}(-)=\vec{p^1}(-)=m_1 \vec{v^1(-)} \quad $ ======S系で観測する衝突後の運動   ====== 2粒子系の運動量$\vec P$(各質点の運動量$\vec P^i,(i=1,2)$の和)は保存されるので、
$\vec P=\vec{P(-)}=m_1\vec{v^1}(-) \qquad \qquad     (1')$
でPを決めると、
$\vec P=\vec{P(-)}=\vec{P(+)}=m_1\vec v^1(t)+m_2\vec v^2(t) $ (tは任意の時刻)$\quad (2)$
この式から、衝突後の2つの質点の速度や運動量そのものは求めることはできない。
しかし、それらの満たすべき性質について、もっと知ることが出来ないだろうか。
この系から観測している限り、これを見つけるのは難しい。 ======2粒子の重心は等速直線運動をする  ====== 「2.3 質点の運動中の質点系の運動」に記載した通り、
S系でみた時刻tの2質点系の重心は、位置ベクトル
$\vec{R}(t):=\frac{m_1\vec{r^1}(t)+m_2\vec{r^2}(t)}{m_1+m_2}$
で定義された点である。
S系からみた重心の速度は
$\vec{V}:=\vec{V}(t)=\frac{d\vec{R}(t)}{dt}=\frac{m_1\vec{v^1}(t)+m_2\vec{v^2}(t)}{M}$
$=\frac{\vec P}{M}=\frac{m_1\vec{v^1}(-)}{M} \qquad \qquad (3)$
ここで、$M:=m_1+m_2$は、質点系の質量である。
質点系の重心は、衝突にかかわらず、速度$\vec{V}$で、等速直線運動を続けることが分かった。 ====== 重心系 ====== 2粒子の重心に張り付けた並進運動する座標系$S'$(原点は重心位置にとる)を定める。
重心系(center-of-mass system)という。
重心は衝突にかかわらずS系からみて等速度で運動するので、
この系は慣性系となる。
この系からみると、衝突前後の2粒子の運動は非常に単純になり、
衝突現象を解明しやすくなる。 ====== S'系からみた質点系の衝突 ====== この系からみた、時刻tの質点$m_i$の位置,速度、運動量を
$\vec{r'^i}(t) \quad,\vec{v'^i}(t),\quad \vec{p'^i}(t)$
と記す。
S'系も慣性系なので、この系から見た質点系の運動量は保存される。 これを時不変のベクトル$\vec P'$ で表す。
S系の原点を$O$、時刻tのS'系の原点を$O'(t)$と書くと、
S系とS'系からの位置の観測値の間にはガリレイ変換
$\vec{r}(t)=\vec{OO'}(t) +\vec{r'}(t) \qquad \quad \qquad \qquad (4)$
ここで、$\frac{d\vec{OO'}(t)}{dt}=\vec V $
が成り立つ。
式(4)の両辺をtで微分すると、
$\vec{v}(t)=\vec{V} +\vec{v'}(t)=\frac{m_1\vec{v^1}(-)}{M} +\vec{v'}(t) qquad \quad (5)$
この関係を、質点$m_i$の位置、速度に適用すると
$\vec{r^i}(t)=\vec{OO'}(t)$ $ +\vec{r^i}'(t)$
$\vec{v^i}(t)=\vec{V} +\vec{v^i}'(t)$
を得る。ゆえに
$\vec{p^i}(t)=m_i\vec{v^i}(t)=m_i\vec{V} +m_i\vec{v^i}'(t)$
$=m_i\vec{V} +\vec{p^i}'(t)\qquad \quad \qquad \qquad (6)$
すると、i について和をとると
$\vec P=\vec{p^1}(t)+\vec{p^2}(t)=M\vec{V} +\vec{P'}$
$=\vec P+\vec{P'}$
故に、 $\vec{P'}=0$
これで、S'系からみた2質点系の運動量が常に零であること が分かった。
さらに式(6)に、式(3)($\vec{V}=\frac{m_1\vec{v^1}(-)}{M}$)を代入すると、
$\vec{p^i}(-)=m_i\frac{m_1\vec{v^1}(-)}{M}+\vec{p^i}'(-)$
この式は、i=1の時、式(1)から、
$m_1\vec{v^1}(-)=m_1\frac{m_1\vec{v^1}(-)}{M}+\vec{p^1}'(-)$
整頓すると
$\vec{p^1}'(-)=\frac{m_1m_2}{M} \vec{v^1}(-)$
これらを纏めて次の命題が得られる。
'''命題1''':
慣性系Sからみて、粒子$m_2$は原点に静止し、
粒子$m_1$が速度$\vec{v^1}(-)$で、等速直線運動をして、
時刻t=0で、粒子$m_2$に衝突するとする。
すると、
(1)この2粒子の重心はS系から見て
$\vec{V}=\frac{\vec P}{M}=\frac{m_1\vec{v^1}(-)}{M} \qquad \qquad (3)$
で等速直線運動を行い、重心を原点とし並進運動する重心系S'は慣性系である。
(2)運動する質点の速度を慣性系S系とS'系で観測すると、それらの間には、
$\vec{v}(t)=\vec{V} +\vec{v'}(t)\qquad \quad \qquad \qquad (5)$
(3)$\vec{p^1}'(-)=-\vec{p^2}'(-)=\frac{m_1m_2}{M}\vec{v^1}(-)$
(4)この2粒子系の運動量PをS系とS'系から観測すると、衝突前後で変わらず
$\vec P=\vec{P(-)}=\vec{P(+)}=m_1 \vec{v^1(-)}$
$\vec{P'}=\vec{P'(-)}=\vec{P'(+)}=0$  
従って、任意のtに対して、
$\vec{p^1}'(t)=-\vec{p^2}'(t) \qquad \quad \qquad \qquad (7)$
$\vec{v^2}'(t)=-\frac{m_1}{m_2}\vec{v^1}'(t)\qquad \quad \qquad \qquad (7') $
さらに運動エネルギーの保存から次の命題が得られる。
'''命題2''';
重心系S'系で観測すると、
両質点の運動量の大きさは、衝突前後で変わらず(時不変)、しかも相等しい。
式で書くと、任意のtに対して
$\|\vec{p^1}'(t)\|=\|\vec{p^2}'(t)\| =\frac{m_1m_2}{M}\|\vec{v^1}(-)\|$(一定)$\qquad (8)$
故に
$\|\vec{v^1}'(t)\|

\frac{m_2}{M}\|\vec{v^1}(-)\|\qquad \quad \qquad \qquad (9) $
$\|\vec{v^2}'(t)\|=\frac{m_1}{M}\|\vec{v^1}(-)\|\qquad \quad \qquad \qquad (10) $
証明;
弾性衝突では、系の運動エネルギーT'は保存されるので、
$T':=\frac{1}{2}(\frac{\|\vec{p^1}'(t)\|^2}{m_1}+\frac{\|\vec{p^2}'(t)\|^2}{m_2})$(全てのtに対して)
また式(6)から$\|\vec{p^1}'(t)\|^2=\|\vec{p^2}'(t)\|^2$
なので、
$T':=\frac{1}{2}(\frac{\|\vec{p^1}'(t)\|^2}{m_1}+\frac{\|\vec{p^1}'(t)\|^2}{m_2})$ $=\frac{1}{2}\frac{m_1+m_2}{m_1 m_2}\|\vec{p^1}'(t)\|^2$
故に、
$\|\vec{p^1}'(t)\|^2=2\frac{m_1m_2}{M}T'$
$=\|\vec{p^2}'(t)\|^2$
ここで、
$T'

\frac{1}{2}(\frac{\|\vec{p^1}'(-)\|^2}{m_1}+\frac{\|\vec{p^2}'(-)\|^2}{m_2})$
$=\frac{1}{2}(\frac{1}{m_1}+\frac{1}{m_2})\|\vec{p^1}'(-)\|^2$
$=\frac{1}{2}\frac{M}{m_1m_2}\|\frac{m_1m_2}{M}\vec{v^1}(-)\|^2$
$=\frac{1}{2}\frac{m_1m_2}{M}\|\vec{v^1}(-)\|^2$
なので、運動量の大きさに関する所要の式を得る。
運動量の定義から速度の大きさに関する式が得られる。証明終わり。
(注)S'系での時刻tでの運動エネルギー
T'(t)$:=\frac{1}{2} (\|\vec{v^1}'(t)\|^2+(\|\vec{v^2}'(t)\|^2)$を、
速度のガリレイ変換である式(5)を用いて変形し、
ノルムの2乗を内積で表現し、内積計算すると
$T'(t)=T(t)-\frac{M}{2}\|\vec{V}\|^2$
$=\frac{1}{2}m_1\|\vec{v^1}(-)\|^2-\frac{M}{2}\|\vec{V}\|^2 $
$=\frac{1}{2}\frac{m_1m_2}{M}\|\vec{v^1}(-)\|^2$
が得られる。
この証明法は、S'系でも運動エネルギーが保存されることが同時に証明されるメリットがある。

これらの命題から、S'系からみると、  
(1)2質点は衝突前はある直線上を互いに原点にむかって、
同じ大きさの運動量の持って接近し、
衝突後は(一般には向きを変えた)ある直線上を、
同じ大きさの運動量をもって互いに遠ざかること、 
(2)弾性衝突の場合、それぞれの粒子は、衝突後も速度の大きさは変えないこと
が分かった。
ただし、衝突後どの方向に飛びさるかは、運動量保存と運動エネルギー保存だけでは 決まらない。 ====== S系からみた質点系の運動 ====== S'系からみた弾性衝突にかんする知見を、S系で解釈してS系での衝突に関する知見を得よう。
これには両系からみた粒子の速度の関係式(5)をもとに、
速度の関係を図示して幾何学の知識を使うと見通しが大変良い。
有向線分$\overrightarrow{QQ'}=\vec{V}=\frac{m_1}{M}\vec{v^1}(-)$を定める。
すると、
S系から見た速度$\vec v$を、始点Qの有向線分$\overrightarrow{QP}$で表現すると、
S'系からみた速度は、式(5)より、$\vec v'=\overrightarrow{Q'P}$で与えられる。
図1参照のこと。 命題2から
S'系からみると、質点$m_1$の速度の大きさは、常に(衝突の前も後も)
$\|\vec{v^1}'(t)\| =\frac{m_2}{M}\|\vec{v^1}(-)\|\qquad \quad \qquad \qquad (9) $
そこで、Q'点を中心とし、半径$\frac{m_2}{M}\|\vec{v^1}(-)\|$の球面$S_1$を考えると、
質点$m_1$の速度は、S'系からみると衝突前も後も、この球面上のある点Pを用いて
$\vec v'=\overrightarrow{Q'P}$であらわせる。
これをS系からみると速度は$\vec v=\overrightarrow{QP}$
同様に
S'系からみると、質点$m_2$の速度の大きさは、常に
$\|\vec{v^2}'(t)\| =\frac{m_1}{M}\|\vec{v^1}(-)\|\qquad \quad \qquad \qquad (10) $
なので、
Q'点を中心とし、半径$\frac{m_1}{M}\|\vec{v^1}(-)\|$の球面$S_2$ 上の点が、質点$m_2$の速度を表す。
$\|\overrightarrow{QQ'}\|=\frac{m_1}{M}\|\vec{v^1}(-)\|$なので、球面$S_2$は、点Qを含む。
======幾何学的考察 ====== 図2をもとに説明する。
球面$S_1$と直線$QQ'$の交点(2個)のうち、
線分$QQ'$上にあるものを$P_{m_1}^{head}$, 線分$QQ'$の外部の点を$P_{m_1}^{-}$,
球面$S_2$と直線$QQ'$の交点(2個)のうち、
Q点を$P_{m_2}^{-}$、Q点と異なる点を、$P_{m_2}^{head}$と書く。
すると、
$\overrightarrow{QP_{m_1}^{-}}=\overrightarrow{QQ'}+\overrightarrow{Q'P_{m_1}^{-}} =\frac{m_1}{M}\vec{v^1}(-)+\frac{m_2}{M}\vec{v^1}(-)=\vec{v^1}(-)$
なので、点$P_{m_1}^{-}$は衝突前の質点$m_1$の速度を表す。
すなわち、S系からみた速度は$\vec{v^1}(-)=\overrightarrow{QP_{m_1}^{-}}$
S'系からみた速度は$\vec{v^1}'(-)=\overrightarrow{Q'P_{m_1}^{-}}=\frac{m_2}{M}\vec{v^1}(-)$
'''衝突後の2質点の速度'''
衝突後の2質点の、S'からみた速度は命題1、命題2で明らかにしたように $\|\vec{v^1}'(t)\| =\frac{m_2}{M}\|\vec{v^1}(-)\|\qquad \quad \qquad \qquad (9) $
$\vec{v^2}'(t)=-\frac{m_1}{m_2}\vec{v^1}'(t)\qquad \quad \qquad \qquad (7')$
をみたす。
そのため、$m_1$の衝突後の速度を表す点
$P_{m_1}(i.e.\overrightarrow{Q'P_{m_1}}=\vec{v^1}'(+))$は
球面$S_1$上の点である。
逆に球面$S_1$上の点は$m_1$の衝突後に実現可能な速度を表す点である。
直線$P_{m_1}Q'$と球面$S_2$との交点のうち、
Q'からみて$P_{m_1}$と反対側の点を$P_{m_2}$とかく。
すると式(7')から、$\vec{v^2}'(+)=\overrightarrow{Q'P_{m_2}}$
$\vec{v^1}(+)=\overrightarrow{QP_{m_1}}$と$\vec{v^1}(-)\propto \vec V=\overrightarrow{QQ'}$のなす角$\theta_1:=\angle{P_{m_1}QQ'}$は
衝突によって質点$m_1$が変えた進行角なので、$m_1$の散乱角という。
$\vec{v^2}(+)=\overrightarrow{QP_{m_2}}$と$\vec{v^1}(-)$のなす角$\theta_2:=\angle{P_{m_2}QQ'}$は$m_2$の散乱角という。
三角形$\triangle {P_{m_1}QP_{m_2}}$を考える。
$\vec V$はこの三角形の中を通るので、
$\theta_1+2\theta_1+\angle{QP_{m_1}P_{m_2}}$は三角形$\triangle {P_{m_1}QP_{m_2}}$の内角の和となり、
$\theta_1+2\theta_2+\angle{QP_{m_1}P_{m_2}}=\pi \qquad \qquad (11)$
正面衝突のとき;
2粒子が真正面から衝突し、両者の散乱角が零となるときは、
$P_{m_1}^{head}$が粒子$m_1$の速度を与える点で
$P_{m_2}^{head}$が粒子 $m_2$の速度を与える点である。
故に、この場合、$\vec{v^1}(+)=\overrightarrow{QP_{m_1}^{head}}=\frac{m_1-m_2}{M}\vec{v^1}(-)$
$\vec{v^2}(+)=\overrightarrow{QP_{m_2}^{head}}=\frac{2m_1}{M}\vec{v^1}(-)$
======$m_1>m_2$の場合 ====== このケースでは、点Qは球面$S_1$の外部になる。
Q点から、球面$S_1$に一つの接線を引き、接点を$P_{m_1}^{max}$とし、
$\vec{Q'P_{m_2}^{max}}=-\frac{m_1}{m_2}\vec{Q'P_{m_1}^{max}}$となる点$P_{m_2}^{max}\in S_2$を決める。
角$\angle{P_{m_1}^{max}QQ'}$は、$m_1$の最大の散乱角になることは、図から容易にわかる。
そこで、$\theta_{1}^{max}(:=\angle{P_{m_1}^{max}QQ'})$とかく。
この角度は、図から、
$\sin \theta_{1}^{max} =\frac{\| \vec{Q'P_{m_1}^{max}} \|}{\|\vec{QQ'}\|} =\frac{m_2}{m_1}$
を満たす。
この時の$m_2$の散乱角を求めよう。
直線$P_{m_1}Q'$と球面$S_2$の交点のうち、$P_{m_1}$からの距離の大きいほうを$P_{m_2}^{max}$とおく。
すると、接線の性質から、角$\angle {QP_{m_1}^{max}P_{m_2}^{max}}=\pi/2$
式(11)から、$\theta_{1}^{max}+2\theta_2=\pi /2$
故に、$\theta_2=\frac{\pi /2-\theta_{1}^{max}}{2},\quad $$\theta_{1}^{max}={\sin}^{-1}(m_2/m_1)$

正面衝突の場合は
粒子$m_1$が粒子$m_2$に与える激力は、粒子$m_1$の衝突前の速度の方向なので、散乱角は零となる。
このため、衝突後の粒子$m_i$の速度を表す点は、図の$P_{m_1}^{head}$となり、
$\vec{v^1}(+)=\vec{QP_{m_1}^{head}}=\frac{m_1-m_2}{M}\vec{v^1}(-)$
$\vec{v^2}(+)=\vec{QP_{m_2}^{head}}=\frac{2m_1}{M}\vec{v^1}(-)$ ======$m_1<m_2$の場合 ====== このとき、Q点は球面$S_1$の内部になるので、S系からみても$m_1$の速度は衝突後、あらゆる方向をとりえる。図参照。
従って、この場合には、散乱角については、式(11)しか言えない。
$0 \leq \angle{QP_{m_1}P_{m_2}} \leq \pi \quad $なので、式(11)から、
$0 \leq \theta_1+2\theta_2 \leq \pi$

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