物理/解析入門(1)実数の性質、連続関数、導関数と微分

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(版間での差分)
( 微分係数の意味)
( 8.2 解析入門(1)実数の性質、連続関数、導関数と微分)
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= 8.2 解析入門(1)実数の性質、連続関数、導関数と微分 =
+
=「9.1 多変数解析学」 =
-
== 序 ==
+
== ==
-
一変数関数の解析学を紹介する。<br/>
+
本章の冒頭の偏微分の導入部については下記の本も参考にしてください。<br/>
-
解析学は実数の連続性と極限の概念を用いる無限算法(微分、積分)を扱う<br/>
+
*[[wikibooks_ja:解析学基礎/多変数関数の微積分|多変数関数の微積分]]
-
数学の基幹分野の一つである。<br/>
+
それ以降の内容については、ウィキブックスには殆どないため、<br/>
-
高校でならう解析学の概略だけを知りたい方は、以下の教科書で学習してください。<br/>
+
このテクストで今後叙述する予定です。<br/>
-
(1)関数や方程式の知識<br/>
+
==多変数の実数値関数の微分  ==
-
*[[wikibooks_ja:高等学校数学I/方程式と不等式|高等学校数学I/方程式と不等式(ウィキブックス)]]
+
${\bf R^n}=\{(x_1,x_2,,,x_n)  \mid x_i\in{\bf R},i=1,2,\cdots n\}$ の開区間 <br/>
-
*[[wikibooks_ja:高等学校数学I/二次関数|高等学校数学I/二次関数(ウィキブックス)]]
+
$I^n=\prod_{i=1}^{n}(a_i,b_i)$上で定義された実関数 $y=f(x_1,x_2,,,x_n)$ を考える。<br/>
-
$\quad$物理学では、指数関数をはじめ色々な関数をよく使う。<br/>
+
一変数関数の議論から類推するために<br/>
-
$\quad$これについては下記の本に要約が説明されている。<br/>
+
以後、$\vec{x}:=(x_1,x_2,,,x_n)$とおき、 $y=f(\vec{x})$ と書くこともある。<br/>
-
*[[wikibooks_ja:高等学校数学II/いろいろな関数|高等学校数学II/いろいろな関数(ウィキブックス)]]
+
$I^n \,$上で定義された実数値関数 $\ y=f(\vec{x})=f(x_1,x_2,,,x_n)\,$ の微分について説明する。<br/>
-
<br/>
+
一変数の微分から類推すると<br/>
-
指数関数や対数関数の上記の本の解説は不十分なので、<br/>
+
微小なベクトル $\vec h=(h_1,h_2,,,h_n)$ を考え、極限<br/>
-
興味ある方は、本テキストの
+
$\lim_{\vec h \to 0,\vec h\neq 0}\frac{f(\vec x + \vec h)-f(\vec x)}{{\bf h} }$<br/>
-
*[[物理/ 8章の指数関数と対数関数付録#指数関数と対数関数|「8.3 8章の付録 指数関数と対数関数」]]<br/>
+
が存在するとき、関数fは微分可能と定義することが考えられる。<br/>
-
をご覧ください。
+
しかし残念ながら、<br/>
-
 
+
$\vec h$はn次元ベクトルなので、割り算は不可能でありこの定義は無効である。
-
(2)ネイピア数 e の理解に必要な数学<br/>
+
===偏微分===
-
微分や積分で重要な役割を演じる実数にネイピア数eがある。<br/>
+
関数$f$ の変数 $\vec{x}$ の第i成分 $x_i$ だけを変数とし、<br/>
-
本テキストでも頻繁に登場する。<br/>
+
他の変数は任意の実数に固定$\Bigl(x_j = a_j \quad (j\neq i)\Bigr)$して得られる関数<br/>
-
この数は、$\lim_{n\to \infty}(1+\frac{1}{n})^{n}$ で定義される。<br/>
+
$\phi_{x_j=a_j,j\neq i}(x_i)\triangleq f(a_1,a_2,,,a_{i-1},x_i,a_{i+1},,,a_n) $<br/>
-
この極限が存在し、2と3の間の数になることを証明するには、2項定理が必要になる。<br/>
+
を考える。<br/>
-
これについては<br/>
+
この関数は、一変数なので、任意の点$x_i $ での微分係数 <br/>
-
*[[wikibooks_ja:初等整数論/パスカルの三角形|初等整数論/パスカルの三角形(ウィキブックス)]]
+
$\frac{d\phi_{x_j=a_j,j\neq i}}{dx_i}(x_i)\triangleq \lim_{ h \to 0, h\neq 0}\frac{\phi_{x_j=a_j,j\neq i}(x_i+h)-\phi_{x_j=a_j,j\neq i}(x_i)}{\bf h}$<br/>
-
問題1<br/>
+
$=\lim_{ h \to 0, h\neq 0}\frac{ f(a_1,a_2,,,a_{i-1},x_{i}+h,a_{i+1},,,a_n)-f(a_1,a_2,,,a_{i-1},x_{i},a_{i+1},,,a_n)}{\bf h}$<br/>
-
${}_5C_0,\quad {}_5C_1,\quad {}_5C_2,\quad {}_5C_3,\quad {}_5C_4,\quad {}_5C_5$ は、いくつか?<br/><br/>
+
を考えることができる。<br/><br/>
-
(3)微分・積分<br/>
+
定義(偏微分)<br/>
-
物理の学習には微分と積分が必須である。<br/>
+
もし、一変数関数 $\phi_{x_j=a_j,j\neq i}(x_i)=f(a_1,a_2,,,a_{i-1},x_i,a_{i+1},,,a_n)$ が、ある点$x_i=a_i$で微分可能ならば、<br/>
-
関数の微分は、極限を利用して定義される。<br/>
+
関数fは、点$\vec a = (a_1.a_2,,,,a_n)$で,$x_i$ について'''偏微分可能'''であると言い,<br/>
-
極限がよくわからない場合には、高等学校数学III/極限(ウィキブックス)を概略理解してから、<br/>
+
$\frac{\partial f}{\partial x_i}(\vec a) \triangleq \frac{d\phi_{x_j=a_j,j\neq i}}{dx_i}(a_i)$<br/>
-
高等学校数学II 微分・積分の考え(ウィキブックス)に進むと良いだろう。
+
を、$f(\vec{x})$ の 点$\vec a$ での変数 $x_i$  についての'''偏微分係数'''という。<br/><br/>
-
*[[wikibooks_ja:高等学校数学II 微分・積分の考え|高等学校数学II 微分・積分の考え(ウィキブックス)]]
+
'''定義(偏導関数)'''<br/>
-
*[[wikibooks_ja:高等学校数学III/極限|高等学校数学III/極限(ウィキブックス)]]
+
$f(\vec{x})$  がどの点$\vec{x}$でも $x_i$ に関して偏微分可能であるならば、<br/>
-
*[[wikibooks_ja:高等学校数学III/微分法|高等学校数学III/微分法(ウィキブックス)]]
+
任意の点$x_i$ にその点の偏微分係数$\frac{d\phi^i}{dx_i}(x_i)$を対応させると、新しい関数が得られる。<br/>
-
*[[wikibooks_ja:高等学校数学III/積分法|高等学校数学III/積分法(ウィキブックス)]]
+
これを、$f(\vec{x})$  の $x_i$ に関する偏導関数といい、記号<br/>
-
問題2<br/>
+
$f_{x_{i}}(\vec{x}),\quad D_{x_i}f(\vec{x}),\quad \frac{\partial f}{\partial x_i} (\vec{x}),\quad \partial f/\partial x_i$<br/>
-
問題<br/>
+
などで表示する。<br/><br/>
-
問題<br/>
+
*[[wikipedia_ja:偏微分 |ウィキペディア(偏微分)]]
-
問題<br/>
+
以後、簡単のために2変数 x.y の関数に限定して議論する。
-
問題<br/>
+
定理(合成関数の微分)<br/>
-
問題<br/>
+
$R^2$ から $R$ への関数$f(x,y)$ と<br/>
-
問題<br/>
+
$R$ から $R$ への関数$g(t)$ の合成関数 <br/>
-
問題<br/>
+
$h(x,y)=g(f(x,y))$ <br/>
-
問題<br/>
+
を考える。<br/>
-
問題<br/>
+
もし、$f(x,y)$ が $(x_0,y_0)$ で、xに関して偏微分可能で,<br/>
-
問題<br/>
+
$\qquad g(t)$ が、$t_0=f(x_0,y_0)$ において微分可能ならば、<br/>
-
問題<br/>
+
$h(x,y)=g(f(x,y)$ は $(x_0,y_0)$ で、xに関して偏微分可能であり,<br/>
-
問題<br/>
+
$h_{x}(x_0,y_0)=g'(t_0)f_{x}(x_0,y_0)  \qquad \qquad ()$<br/>
-
問題<br/>
+
-
問題<br/>
+
-
問題<br/>
+
-
問題<br/>
+
-
(3)大学教養課程程度の解析学の基礎<br/>
+
-
*[[wikibooks_ja:解析学基礎|解析学基礎(ウィキブックス)]]
+
-
この節は、解析学の基礎(実数の連続性とリーマン積分)について、さらに知りたい方のために書かれている。<br/>
+
-
厳密さをかなり重視し、程度は大学専門課程の入り口に相当する。<br/><br/>
+
-
多変数関数の解析学については次章の「9章 物理数学2」で紹介する。
+
-
 
+
-
== 実数の連続性と極限  ==
+
-
実数の連続性は、様々な極限の存在に根拠を与えるもので、<br/>
+
-
実数の持つ最も重要な性質といってもよい。<br/>
+
-
=== 上界、下界と有界集合===
+
-
${\bf R}$を、全ての実数を要素とする集合とし、<br/>
+
-
$A$をその部分集合(A \subset R)とする。<br/>
+
-
実数$u$が$A$の'''上界'''(upper bound)とは、<br/>
+
-
任意の$a \in A$に対して、$a \leq u$がなりたつこと$\Bigl((\forall{a})(a\in A \to a \leq u)\Bigr)$<br/>
+
-
実数$l$が$A$の'''下界'''(lower bound)とは、<br/>
+
-
任意の$a \in A$に対して、$l \leq a$がなりたつこと。<br/>
+
-
$U_A$を$A$の上界をすべて集めた集合$\Bigl(\{u \in R|(\forall{a})(a\in A \to a\leq u)\}\Bigr)$<br/>
+
-
$L_A$を$A$の下界をすべて集めた集合とする。<br/>
+
-
$U_A$が空集合$\emptyset$でない(すなわち、$A$の上界が少なくとも一つ存在する)とき、<br/>
+
-
$A$は'''上に有界'''であるといい、<br/>
+
-
$L_A\neq \emptyset$の時、$A$は'''下に有界'''であるという。<br/>
+
-
上に有界で、下にも有界な集合($\subset {\bf R})$は、'''有界'''という。
+
-
 
+
-
=== 実数の連続の公理と上限、下限===
+
-
$A \subset {\bf R}$とする。<br/><br/>
+
-
'''実数の連続性の公理'''<br/>
+
-
もし、$U_A \neq \emptyset$ならば、$U_A$は、最小元を持つ。<br/>
+
-
もし、$L_A \neq \emptyset$ならば、$L_A$は、最大元を持つ。<br/><br/>
+
-
上限と下限の定義<br/>
+
-
$U_A$の最小元を$A$の'''上限(supremum)'''あるいは'''最小上界(least upper bound)'''という。<br/>
+
-
また、$L_A$の最大元を$A$の'''下限(infimum)'''あるいは'''最大下界(greatest lower bound)'''という。<br/><br/>
+
-
 
+
-
命題1<br/>
+
-
$u$が$A(\subset {\bf R})$ の上限となるための必要十分条件は、<br/>
+
-
ⅰ)$u$は$A$の上界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$a \leq u$   <br/>
+
-
ⅱ)$x<u$である任意の$x$は$A$の上界ではない。すなわち、$x<a$となる$a\in A$が存在<br/>
+
-
である。<br/>
+
-
同様に、$l$$A$ の下限となるための必要十分条件は、<br/>
+
-
ⅰ)$l$は$A$の下界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$l\leq a$   <br/>
+
-
ⅱ)$l<x$である任意の$x$は$A$の下界ではない。すなわち、$a<x$となる$a\in A$が存在<br/>
+
-
である。<br/>
+
-
$A$ の上限を$\sup A$、下限を$\inf A$と書く。<br/>
+
-
さらに、<br/>
+
-
$A$が最大値を持つ場合には、Aの上限はAの最大値と一致し、<br/>
+
-
$A$が最小値を持つ場合には、Aの下限はAの最小値と一致する。<br/><br/>
+
-
証明は、上限、下限の定義から、明らかなので省略する。<br/>
+
-
例;$A=(0,1)$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。<br/>
+
-
これらは、ともに$A$の要素でないので、<br/>
+
-
上限1は$A$の最大元(最大値)ではなく、下限0は$A$の最小元(最小値)ではない。<br/>
+
-
$A=[0,1]$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。<br/>
+
-
これらは、ともに$A$の要素なので、<br/>
+
-
上限は最大限であり、下限は最小限となる。<br/>
+
-
 
+
-
命題2<br/>
+
-
$A \subset B \subset {\bf R}$で、$B$は有界集合とする。<br/>
+
-
このとき、$\inf B \leq \inf A \leq \sup A \leq \sup B$<br/>
+
-
証明は容易である。<br/><br/>
+
-
 
+
-
=== 実数列の極限 ===
+
-
実数列$\bigl(x_{n}\bigr)_{n \in N}$とは、<br/>
+
-
xが、自然数全体のなす集合Nから実数全体の作る集合Rへの写像であることと定義する。<br/>
+
-
論理記号で書けば、$(\forall n \in N)(x_{n} \in R)$<br/><br/>
+
-
定理1;<br/>
+
-
1) 単調増加で上に有界な数列$\bigl(x_{n}\bigr)_{n\in N}$(注参照)は収束する(極限値を持つ)。<br/>
+
-
2)単調減少で下に有界な数列は収束する。<br/>
+
-
(注)数理論理学における論理の数学的モデルの一つであり、命題論理を拡張した[[wikipedia_ja:一階述語論理|一階述語論理]]で表現すると、<br/>
+
-
$(\exists{U\in R} )(\forall{m} \in N)(\forall{n} \in N)(
+
-
  m\lt n \to x(m) \leq x_{n} \leq U)$ <br/><br/>
+
証明<br/>
証明<br/>
-
1)だけ示す。<br/>
+
yを $ y_0 $ に固定して考えると、一変数関数の合成関数の微分になるので、合成関数の微分公式を適用すればよい。<br/><br/>
-
$A \triangleq \{x_{n}|n\in N \}$とおくと、仮定からAは上に有界な集合なので、<br/>実数の連続性から上限(最小上界)$u$ を持つ。<br/>
+
==== 平均値の定理  ====
-
この $u$ が数列xの極限であることを示そう。<br/>
+
定理<br/>
-
任意の小さい正数 $ \epsilon$ をとると、$u-\epsilon$ は集合Aの上界ではなくなるので <br/>
+
f(x,y) を <br/>
-
$(\exists{m}\in N)\bigl(x(m) \gt u-\epsilon \bigr) $<br/>
+
$(x_0,y_0)$ の[[wikipedia_ja:開|開]]で[[wikipedia_ja:凸集合|凸]]な近傍 U 上で、xについて偏微分可能とする。<br/>
-
数列は単調増加なので、$(\forall{n})\bigl(n \gt m \to x_{n} \gt u-\epsilon \bigr) \qquad \qquad \qquad  (1)$<br/>
+
もし$(x,y)$ を近傍Uの点ならば<br/>
-
他方、$u$ は数列xの上界なので、<br/>
+
$x_0$ と $x$ の間の $\xi$ が存在して、<br/>
-
$(\forall{n})\bigl(n\in N \to u \geq x_{n}\bigr) \qquad \qquad \qquad (2)$<br/>
+
$f(x,y) - f(x,y_0)-\bigl(f(x_0,y) - f(x_0,y_0) \bigr)= (x-x_0)\bigl(f_{x}(\xi,y)-f_{x}(\xi,y_0)\bigr) \qquad  ()$ <br/>
-
式(1)と(2)から、<br/>
+
(注)例えば、中心$(x_0,y_0)$、半径rの小さな開球体$S_{r}(x_0,y_0)\triangleq \{(x,y)\in R^2 | \|(x,y) - (x_0,y_0) \| \lt r\} $ など。 <br/>  
-
どんなに小さな正数 $ \epsilon$ をとってもある自然数mが定まり、<br/>
+
証明 <br/>
-
それより大きな自然数n に対して、$x_{n} \in [u-\epsilon,u+\epsilon]$ が示せた。<br/>
+
$ \phi(x)\triangleq f(x,y) - f(x,y_0)$ とおくと、<br/>
-
収束の定義から、数列xが$u$に収束することが示せた。<br/>
+
式()の左辺$ = \phi(x) - \phi(x_0)$<br/>
-
2)の証明も同様である。<br/><br/>
+
$\quad \phi(x) $ は、$x_0$ の近傍で微分可能なので、[[wikipedia_ja:平均値の定理|平均値の定理]]から、<br/>
-
数列$(x_{n})_{n \in N}$ の項の中から番号の小さい順に次々と無限個を取り出すことにより、<br/>
+
$\quad x_0$ と $x$ の間の $\xi$ が存在して、<br/>
-
新しい数列が得られる。<br/>
+
$= (x-x_0){\phi}'(\xi) = (x-x_0)\bigl(f_{x}(\xi,y)-f_{x}(\xi,y_0)\bigr) $<br/><br/>
-
このようにして作られる新しい数列を、元の数列の部分列という。<br/>
+
定理 <br/>
-
定義1 '''部分列'''<br/>
+
f(x,y) を <br/>
-
自然数の集合NからNの中への狭義の単調増加関数 $n; N \to N $ を用いて(注参照)<br/>
+
$(x_0,y_0)$ の[[wikipedia_ja:開|開]]で[[wikipedia_ja:凸集合|凸]]な近傍 U 上で、xについて偏微分可能とする。<br/>
-
数列 $(x_{n})_{n \in N}$ からつくる数列 $(x_{n(k)})_{k\in N}$ を、数列 $(x_{n})_{n \in N}$ の部分列という。<br/>
+
もし$(x,y)=(x_0+h,y_0+k)$ を近傍Uの点ならば<br/>
-
(注)$n; N \to N $ が狭義単調増加とは、任意の自然数kと、それより大きい全ての自然数lに対して$n(k)\lt n(l)$
+
$f(x,y) = f(x_0,y_0) + hf_{x}(x_0 + h\theta,y) + kf_{y}(x_0,y_0+ k\theta)$<br/>を満たす、$\theata=\theta(h,k) \in (0,1)$ が存在する。<br/>
-
<br/><br/>
+
-
定理2<br/>
+
-
有界な数列 $(x_{n})_{n \in N}$ は、収束する部分列をもつ。<br/>
+
証明<br/>
証明<br/>
-
数列が有界なので、2つの実数l,uが存在して、全ての自然数nに対し、<br/>
+
$ g(t) \triangleq f(x_0+ht,y) + f(x_0,y_0+kt) $ というtの関数を導入する。<br/>
-
$ x_n \in [l,u] $ <br/>
+
-
閉区間$I_0\triangleq [l,u] $ の中に、数列の無限個の項が含まれているので、<br/>
+
-
この区間を2等分した区間のいずれかには、数列の無限個の項が含まれる。<br/>
+
-
その区間を $I_1=[l_1,u_1]$ と書く。(注参照)<br/>
+
-
すると この区間は $[l_1,u_1] \subset [l,u] \quad $,長さは $u_1-l_1=\frac{1}{2}(u-l)$ <br/>
+
-
この区間 $I_1$ を2等分しても、いずれかの部分区間は、数列の無限の項を含む。<br/>
+
-
そこでその部分区間を $I_2=[l_2,u_2]$ とする。 $I_2 \subset I_1$、$|I_2|=\frac{1}{2^2}(u-l)$ <br/>
+
-
これを続けると閉区間の縮小列 $I_n=[l_n,u_n]$ を得る(n=1,2,3,4,,,,)。
+
すると、<br/>
すると、<br/>
-
数列 $\bigl(l_n  \bigr)_{n\in N}$ は単調増加で有界な数列、<br/>
+
$g(1)-g(0) = f(x,y)+f(x_0,y)-\bigl(f(x_0,y)+f(x_0,y_0) \bigr)$ <br/>
-
数列 $\bigl(u_n  \bigr)_{n\in N}$ は単調減少で有界な数列、<br/>
+
$\qquad \qquad =f(x,y) - f(x_0,y_0)$ <br/>
-
定理1から、どちらの数列も収束する。<br/>
+
関数 $g(t)$ は、閉区間[0,1] を含む開区間上で微分可能なので、<br/>
-
しかも、$ 0 \lt u_n -l_n \lt \frac{1}{2^n}(u-l)$ なので<br/>
+
一変数の微分可能関数の平均値の定理から、<br/>
-
それぞれの極限を $l_{\infty}$ ,$u_{\infty}$ とかくと、$l_{\infty} = u_{\infty}$ <br/>
+
ある数 $\theta \in (0,1)$ が存在して、<br/>
-
この点を $x_{\infty}$ とかく。<br/>
+
$g(1)-g(0) = g'(\theta)(1-0) = g'(\theta) \qquad \qquad (a)$<br/>
-
・最後に、$x_{\infty}$ に収束する、$(x_{n})_{n \in N}$ の部分列を選び出そう。<br/>
+
故に、$ f(x,y) - f(x_0,y_0) = g(1)-g(0) = g'(\theta)$<br/>
-
部分区間$I_1$ の中には数列$(x_{n})_{n \in N}$の無限の項があるので、その中で最小の項順$n(1)$を選び、部分列の初項$x_{n(1)}$ に選ぶ。<br/>
+
$\qquad $ 関数gの微分は,一変数関数の合成関数の微分公式から<br/>
-
$I_2$ には$I_1$のなかの数列$(x_{n})_{n \in N}$の項が無限に含まれるので、<br/>
+
$\qquad g'(t) = f_{x}(x_0+ht,y)h + f_{y}(x_0,y_0+kt)\qquad (b)$<br/>
-
その中で、項順mが $n(1)\lt m$ を満たすものも無限にある。<br/>
+
(a)(b) から<br/>
-
その中で最小の項順のものを選び、第2項 $x_{n(2)}$ とする。<br/>
+
$ f(x,y) - f(x_0,y_0) = f_{x}(x_0+h\theta,y)h + f_{y}(x_0,y_0+k\theta)k  \qquad (b)$<br/>
-
すると、$x_{n(2)} \in I_2  \quad n(1)\lt n(2) $<br/>
+
証明終わり<br/><br/>
-
これを繰り返すと任意の自然数iに対して<br/>
+
==== 高階偏微分 ====
-
$x_{n(i)} \in I_i $ であって、$n(i-1)\lt n(i)$ である,<br/>
+
(1)二階偏微分<br/>
-
数列$ \bigl( x_{n(i)}\bigr)_{i \in N}$を得る。<br/>
+
定義 二階偏微分<br/>
-
この数列が元の数列の部分列であり、$\lim_{i \to \infty}x_{n(i)}= x_{\infty}$<br/>であることは明らかである。<br/>
+
-
(注)2つの部分区間のどちらも無限個の項を含むときは、どちらの部分区間を採用してもよい。<br/><br/>
+
-
数列が収束するための条件を求めるためには、コーシー列という概念が必要になる。<br/>
+
次は、大変有用な定理である。<br/>
-
定義<br/>
+
定理<br/>
-
実数列$\bigl(x_{n}\bigr)_{n=1}^{\infty}$が'''コーシー列'''(または'''基本列''')とは<br/>
+
${\bf R^n}$の開集合Uで定義された実数値関数fに対し、<br/>
-
任意の$ \epsilon\gt 0$ に対して、$ n_0 \in N$ が存在して、<br/>
+
点$\textbf{a} \in U$ の近傍W(注参照)で<br/>
-
$ m, n \geq n_0 (\in N )$ ならば $|x_{m}-x_{n}| \lt \epsilon $ となること。<br/>
+
$ \qquad \qquad f_{x_i,x_j} \ f_{x_j,x_i}$<br/>
 +
が共に存在し、$\textbf{a}$において共に連続ならば、<br/>
 +
$ \qquad \qquad f_{x_i,x_j}(\textbf{a}) = f_{x_j,x_i}(\textbf{a})$<br/>
-
定理3<br/>
+
===方向微分===
-
(1)実数列 $\bigl(x_n \bigr)_{n\in N}$ がコーシー列ならば、収束する。<br/>
+
$\vec{e_i}$ を直交座標系の$x_i$座標軸の正方向の方向・向きを持つ単位長さのベクトルとする(第i直交座標ベクトルと呼ぼう)。<br/>
-
(2)逆に、$\bigl(x_n \bigr)_{n\in N}$ が収束するならば、コーシー列である。<br/>
+
多変数関数$y=f(x_1,x_2,,,x_n)$の、点$\vec x = (x_1,x_2,,,x_n)$での偏微分係数 $\frac{\partial f}{\partial x_i}(x)$ は、<br/>
-
証明<br/>
+
$\vec x $ を、第i座標(座標ベクトル$\vec{e}_i$)に平行に無限に小さい距離移動させるときの、関数fの変化率とみなせる。<br/>
-
(1)を証明する。<br/>
+
式で書くと<br/>
-
ⅰ)$\bigl(x_n \bigr)_{n\in N}$ がコーシー列ならば、有界である。<br/>
+
$\frac{\partial f}{\partial x_i}(x)  
-
∵ コーシー列なので、$ \epsilon = 1$ のとき、$ n_0 \in N$ が存在して、<br/>
+
= \lim_{h\to 0,h\neq 0}\frac{f(\vec x + h\vec{e}_i)-f(\vec x )}{h}$<br/>
-
$ m \geq n_0 (\in N )$ ならば $|x_{m}-x_{n_0}| \lt 1 $ <br/>
+
-
故に、この数列の全ての項は、<br/>
+
-
$l\triangleq min\{x_1,x_2,x_3,,,,x_{n_0}-1 \}$$u\triangleq max\{x_1,x_2,x_3,,,,x_{n_0}+1 \}$ の間にある。<br/>
+
-
ⅱ)$\bigl(x_n \bigr)_{n\in N}$ がコーシー列ならば、収束する。<br/>
+
-
∵ <br/>
+
-
数列がコーシー列なので,<br/>
+
-
任意の正数 $ \epsilon$ に対して、ある自然数 $n_0$ が存在して、<br/>
+
-
$m, n \geq n_0$ ならば、$ |x_m-x_n| \lt \epsilon$<br/>
+
-
また、コーシー列は有界なので、定理2から、収束する部分列 $(x_{n(k)})_{k\in N}$ を持つ。<br/>
+
-
この極限値を $a$ とおくと、<br/>
+
-
$n(k_0) \geq n_0$ を満たす或る番号 $k_0 $ が定まって、$ k \geq k_0$ なる任意のkに対して<br/>
+
-
$|a - x_{n(k)}| \lt \epsilon $ <br/>
+
-
すると任意の $n \bigl(\geq n(k_0)\bigr)$ に対して、<br/>
+
-
$|a - x_n| \leq |a - x_{n(k_0)}|+ |x_{n(k_0)}-x_n| \lt 2\epsilon $<br/>
+
-
故に、元の数列は $a$ に収束する。<br/>
+
-
(2)の証明は簡単なので、略す。
+
-
証明終わり。<br/><br/>
+
-
収束に関連するさらなる情報は下記を参照のこと。
+
-
*[[wikipedia_ja:極限 |ウィキペディア(極限)]]
+
-
==== 定理の応用;ネイピア数 e ====
+
-
次の命題は、高等学校数学III/微分法(ウィキブックス)では証明せず利用しているものである。<br/><br/>
+
-
'''命題'''<br/>
+
-
数列 $\{x_{n}\}_{n=1}^{\infty}\triangleq  \{(1+\frac{1}{n})^{n}\}_{n=1}^{\infty}$ は、<br/>
+
-
2より大きく3より小さい実数 e に収束する。<br/>
+
-
$\lim_{n\to \infty}(1+\frac{1}{n})^{n}= e$<br/>
+
-
この e をネイピア数と呼ぶ。<br/><br/>
+
-
練習問題<br/>
+
-
上の命題を証明してください。<br/>
+
-
ヒント;<br/>
+
-
$(1+\frac{1}{n})^{n}$ を2項展開して、nとともに単調に増大すること、<br/>
+
-
常に2と3の間の実数であることを示せばよい。<br/><br/>
+
-
解答は、8.3 8章の付録の [[物理/8章の付録#問の解答|問の解答]]
+
-
 
+
このように考えると、点$\vec x = (x_1,x_2,,,x_n)$を、座標ベクトル$\vec{e}_i$に平行ではなく、<br/>
-
 
+
任意に指定するベクトル$\vec a$に平行に微小量動かすときの関数fの変化率を考えることもできることが分かるだろう。<br/><br/>
-
== 関数とその連続性 ==
+
'''定義 方向微分'''<br/>
-
=== 関数の定義 ===
+
関数$y=f(x_1,x_2,,,x_n)$の、点$\vec x = (x_1,x_2,,,x_n)$での,$\vec a$ 方向の微分係数とは、<br/>
-
ある範囲内の任意の数値をとりえる文字を'''変数'''という。<br/>
+
$\lim_{h\to 0,h\neq 0}\frac{f(\vec x + h\vec a)-f(\vec x )}{h}$<br/>
-
2つの変数x、yがあって、xの値を定めれば、ある規則により、yの値が決まるようになっているとき、<br/>
+
のことで、<br/>
-
'''yはxの関数'''といい、<br/>
+
$\frac{\partial f}{\partial \vec{a}}(x),\quad f_{\vec a}(x),\quad D_{\vec a}(x)$<br/>
-
xにより決まるyの値を、 関数記号 f,g などを用いて、y=f(x) ,y=g(x) などと書く。
+
などと書く。<br/><br/>
-
<br/>
+
-
変数xは独立変数、yは従属変数という。<br/><br/>
+
-
実は、或るものに何かを対応させるという操作は社会に満ち溢れてる。<br/>
+
-
人々に名前を付ける、あるスーパーで売っている各食品に100g当たりの価格やカロリー量を対応させて表示する等。<br/>
+
-
そこで広くこうした場合にも対応できるように、上記の関数の概念を拡張する。<br/>
+
-
定義<br/>
+
-
2つの非空の集合A、Bを考える。<br/>
+
-
集合Aの非空の部分集合 $A_1$ の各要素に対して、<br/>
+
-
集合 B の一つの要素を定める規則を関数という。<br/>
+
-
この規則により  $A_1$ の任意の要素 a に対応するBの要素bを、<br/>
+
-
この規則を表す関数記号(例えば)fを用いて、b=f(a) と表す(注1参照のこと)。<br/>
+
-
$A_1$ を関数fの定義域、Bを関数fの値域(注2参照)という。<br/>
+
-
スーパーの例では、そのスーパーで扱っている商品の種類の集合をAとし、<br/>
+
-
食品という商品の部分集合を $A_1$ <br/>
+
-
各食品に100g当たりのエネルギーを対応させる規則を、<br/>
+
-
100gあたりのカロリー関数f、<br/>
+
-
値域Bは自然数の集合(円)とすればよい。<br/><br/>
+
-
(注1)この定義は若干不明瞭である。厳密には、<br/>
+
-
関数fは、直積集合 $A_1\times B$ の部分集合 f であって、<br/>
+
-
任意の $a(\in A_1)$ に対して、唯一のB の要素 b が存在して、$<a,b>\in f$ を満たすものと定義する。<br/>
+
-
この唯一のbのことを、f(a) と書く。<br/>
+
-
(注2)本によっては 値域をBの部分集合 $\{f(a)|a\in A_1\}$ で定義することもあるので注意が必要である。 
+
-
===== 開集合と閉集合 =====
+
-
=== 関数の連続性===
+
-
(1) 定義域が全空間に等しい関数の連続性<br/>
+
-
定義域が、n次元実空間 $R^n \quad (n;自然数)$ に一致する関数を考える。<br/>
+
-
実数値関数 $f(x)$ がある点''' $a (\in R^n)$で連続'''であるとは、<br/>
+
-
$x$が$a$ に限りなく近づくならば、$f(x)$ $f(a)$ に限りなく近づく<br/>
+
-
ことを言う。<br/>
+
-
$\lim_{x\to a} f(x) = f(a)$と記す。<br/>
+
-
 
+
-
これはイプシロン-デルタ論法(ε-δ論法)を用いれば次のように定式化できる。<br/>
+
-
任意の(小さな)正の数 ε 与えられたとき、<br/>
+
-
(小さな)正の数 δ をうまくとってやれば、<br/>
+
-
$a$ と δ 以内の距離にあるどんな $x$ に対しても、<br/>
+
-
$f(a)$ と $f(x)$  の差が ε より小さくなる。<br/>
+
-
(2) 定義域Dが全空間$ R^n \quad (n;自然数 $ の真の部分集合である関数の連続性<br/>
+
-
定義<br/>
+
-
D を n次元空間$ R^n $ の部分集合、<br/>
+
-
関数fを、定義域Dの実数値関数とする。<br/>
+
-
関数fが、点 $ a (\in D)$ で連続とは<br/>
+
-
Dの中の点$x$が$a$ に限りなく近づくならば、$f(x)$ が $f(a)$ に限りなく近づく<br/>
+
-
ことを言う(注参照)。<br/>
+
-
$\lim_{x\to a,x\in D} f(x) = f(a)$ と記す。<br/>
+
-
関数 $f(x)$ が'''連続'''であるとは、<br/>
+
-
$D$ のすべての点で連続であることを言う。<br/><br/>
+
-
(注)ε-δ論法を用いれば次のように述べることができる。<br/>
+
-
任意の正数εに対して、ある正数δが存在して、<br/>
+
-
$a$ と δ 以内の距離にあるどんなDの中の点$x$ に対しても、<br/>
+
-
$f(a)$ と $f(x)$  の差が ε より小さくなる。<br/><br/>
+
-
連続関数は多くの重要な性質を持つ。<br/>
+
-
その一つを紹介する。<br/>
+
命題<br/>
命題<br/>
-
有界閉区間 $I=[a,b]$ 上で連続な関数fは、この上で最大値と最小値をとる。
+
(1) $\vec{e_i}$ 方向の微分は、$\vec{e_i}$ 座標軸($x_i$座標軸)に関する偏微分である。<br/>
 +
ここで、$\vec{e_i}$ は$x_i$座標軸の正方向向きの単位長さのベクトル。<br/>
 +
式で書くと、<br/>
 +
$\frac{\partial f}{\partial \vec{e_i}}(x) = \frac{\partial f}{\partial x_i}(x) $<br/>
 +
(2)$\alpha$ を任意の実数とすると<br/>
 +
$\frac{\partial f}{\partial \alpha \vec{e_i}}(x) = \alpha \frac{\partial f}{\partial x_i}(x) $<br/>
-
== 一変数の実数値関数とベクトル値関数の微分 ==
+
===微分(全微分) ===
-
このテキストを理解するための必要最小限のことを記述する。<br/>
+
この§も、2変数関数で説明する。<br/>
-
以下の文献も必要に応じて参考にしてください。<br/>
+
二変数関数の微分可能性をどう定義したらよいだろうか?<br/>
-
一冊では不十分なので色々あげておく。
+
一変数関数の微分の場合、それと同等の条件はいくつか知られているが、<br/>
-
*[[wikibooks_ja:高等学校数学II 微分・積分の考え|ウィキブックス(高等学校数学II 微分・積分の考え)]]
+
その中で二変数関数に容易に拡張できるものを採用するのが自然である。<br/>
-
*[[wikibooks_ja:高等学校数学III 微分法|ウィキブックス(高等学校数学III 微分法)]]
+
[[物理/解析入門(1)実数の性質、連続関数、導関数と微分#微分係数の意味|1.4.1.1  微分係数の意味]] の命題の<br/>
-
*[[wikibooks_ja:物理数学I 解析学|ウィキブックス(物理数学I 解析学)]]
+
条件 3)が、それに該当する。<br/>
-
*[[wikibooks_ja:物理数学I ベクトル解析|ウィキブックス(物理数学I ベクトル解析)]]
+
    <br/>
-
 
+
定義1;微分可能性(全微分可能性)<br/>
-
=== 実数値関数の微分 ===
+
関数f(x,y)が、或る開集合上Uじょうで定義されているとする。<br/>
-
実数の開区間$I=(a,b)$上で定義された実数値関数$y=f(x)$を考える。<br/>
+
fが 点$(x_0,y_0)\in U$ で微分可能とは、<br/>
-
定義;微分可能性<br/>
+
ある定数$c_1,\ c_2$が存在して、<br/>
-
関数$f$が$s\in I$で微分可能であるとは、極限<br/>
+
$f(x,y) = f(x_0,y_0) + c_{1}(x-x_0) + c_{2}(y-y_0) + \delta(x,y;x_o,y_0)$<br/>
-
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f(s)}{h}=c \qquad \qquad (1)$<br/>
+
ここで、$\lim_{(x,y)\to (x_0,y_0)}\delta(x,y;x_o,y_0)/\|(x,y)^{t}-(x_0,y_0) \|_{2} = 0 $ <br/>
-
が存在することである。<br/>
+
(注)$\|(x,y)\|_{2} \triangleq \sqrt{x^2 + y^2}$ は、<br/>
-
この時$c$を$f$の$s$における微分係数あるいは導値といい、<br/>
+
ノルムの条件と呼ばれる次の3つの条件を満たし、<br/>
-
$f'(s)\frac{df}{dt}(s)(Df)(s)$<br/>
+
ユークリッドノルムあるいは2‐ノルムと呼ばれる。<br/>
-
などと書く。<br/>
+
1)$\|(x,y)\|_{2} \geq 0. \|(x,y)\|_{2}=0 ならば (x,y)=(0,0)$ <br/>
-
$I=(a,b)$の各点で$f$が微分可能であるとき、$f$は'''微分可能関数'''(あるいは
+
2)$\|(x,y)+(x',y')\|_{2} \leq \|(x,y)\|_{2}+\|(x',y')\|_{2}<br/>
-
微分可能)という。<br/>
+
3)任意の実数$\alpha$に対し、$\|\alpha (x,y)\|_{2}=|\alpha|\|(x,y)\|_{2}<br/>
-
この時、任意の$s\in I$に対して、$f'(s)\in I$が定まるので、<br/>
+
ノルム条件を満たし、ノルムと呼ばれるものには、<br/>
-
関数$f'$が定まる。これを$f$の${\bf 導関数}$(derivative)という。<br/>
+
p‐ノルム($p \geq 1); $\|(x,y)\|_{p}\triangleq (|x|^{p}+|y|^{p})^{\frac{1}{p}}$<br/>
 +
$\infty-ノルム$$\|(x,y)\|_{\infty}\triangleq max(|x|,|y|)$<br/>
命題<br/>
命題<br/>
-
関数 $f$ が微分可能ならば、連続である。
+
\|(x,y)\|_{1} \geq \|(x,y)\|_{2} \geq \|(x,y)\|_{\infty} \geq \frac{1}{2}\|(x,y)\|_{1}<br/>
 +
-
==== 微分係数の意味  ====
 
-
(1)$\frac{f(s+h)-f(s)}{h}$は、区間$[s,s+h]$における関数値の平均変化率である。<br/>
 
-
その極限である微分係数$f'(s)$は、関数値の$s$における瞬間的な変化率と考えられる。<br/>
 
-
(2)2次元空間(平面のこと)に直交座標座標系$O-xy$をいれ、<br/>
 
-
関数$y=f(x)$のグラフ$G=\{(x,y)\mid x\in I,y=f(x)\}$を書く。<br/>
 
-
すると、<br/>
 
-
$f'(s)$が存在することは、$x=s$においてグラフ$G$が接線をもつことと同等であり、<br/>
 
-
接線の方程式は<br/>
 
-
$y=f'(s)(x-s)+f(s)$である。<br/>
 
-
これは、[[wikipedia_ja:接線 |接線]]の定義からただちに分かる。<br/>
 
-
(3)$h$を零に近づけていったときの極限の意味をさらに深めるため<br/>
 
-
微分可能の定義を、それと同等の別の表現に変換しよう。<br/>
 
-
(1)式の右辺の定数を左辺に移行すると<br/>
 
-
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f(s)-ch}{h}=0$<br/>
 
-
次に、<br/>
 
-
$\epsilon_{s}(h):=\frac{f(s+h)-f(s)-ch}{h}\qquad \qquad (2)$<br/>
 
-
という、変数hの関数を定義する。<br/>
 
-
すると関数$f$が$s\in I$で微分可能で、微分係数が$c$である必要十分条件は<br/>
 
-
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\epsilon_{s}(h)=0$<br/>
 
-
である。<br/>
 
-
(2)式を変形すると<br/>
 
-
$f(s+h)=f(s)+ch+\epsilon_{s}(h)h$<br/>
 
-
ゆえに次の命題が証明できた。<br/>
 
-
命題;<br/>
 
-
次の4つの条件は同等である。<br/>
 
-
1)関数$f$は$s\in I$で微分可能で、微分係数は$c$である<br/>
 
-
2)関数$f$は、<br/>
 
-
$f(s+h)=f(s)+ch+\epsilon_{s}(h)h  \qquad \qquad (3)$<br/>
 
-
と表現できる。<br/>
 
-
ここで、$\epsilon_{s}(h)$は<br/>
 
-
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\epsilon_{s}(h)=0  \qquad \qquad (4)$<br/>
 
-
を満たす関数<br/>
 
-
3)関数$f$は、<br/>
 
-
$f(s+h)=f(s)+ch+\delta(s,h)\qquad \qquad (5)$<br/>
 
-
と表現できる。<br/>
 
-
ここで、$\delta(s,h)$は<br/>
 
-
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{\delta(s,h)}{h} = 0  \qquad \qquad (6)$<br/>
 
-
を満たす関数。[[wikipedia_ja:ランダウの記号 |ランダウの記号]]では、$\delta(s,h)=o(h),(h\to 0)$<br/>
 
-
3') 関数$f$は、<br/>
 
-
$s$の近傍の点$x$で
 
-
$f(x)=f(s)+c(x-s)+\epsilon_{s}(x-s)\cdot (x-s)  \qquad \qquad (3')$<br/>
 
-
ここで、$\epsilon_{s}(x-s)$は<br/>
 
-
$\lim_{x \to s,x\neq s}\epsilon_{s}(x-s)=0  \qquad \qquad (4')$<br/>
 
-
を満たす関数<br/>
 
-
証明<br/>
 
-
条件1)から条件2)はすでに説明した。<br/>
 
-
条件2)から条件3)は、$\delta(s,h)\triangleq \epsilon_{s}(h)h$ と置けば良い。<br/>
 
-
条件3)から条件1)は容易に導ける。<br/><br/>
 
-
この定理の3)あるいは4)により、<br/>
 
-
「関数が$s$で微分可能であり、微分係数がcであること」は、<br/>
 
-
「この関数が$s$の近傍の点$x$で直線$y=f(s)+c(x-s)$で近似でき、<br/>
 
-
誤差$|f(x)-(f(s)+c(x-s))|=|\left(\epsilon_{s}(x-s)\right)(x-s)| $が,<br/>
 
-
$x$を$s$に近づけていくとき、$h=x-s$より高次で0に収束する(注参照)<br/>
 
-
ことと同等であることが分かる。<br/>
 
-
(注)$\lim_{x\to s,x\neq s}\frac{\epsilon_{s}(x-s)\cdot (x-s)}{x-s}=0$<br/><br/>
 
-
命題の系;関数が$s$で微分可能であれば、$s$で連続である。<br/>
 
-
証明;命題の2)を用いると、<br/>
 
-
$f(s+h)=f(s)+ch+\epsilon_{s}(h)h $<br/>
 
-
この式から、$|f(s+h)-f(s)|=|(c+\epsilon_{s}(h))h|$<br/>
 
-
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\epsilon_{s}(h)=0$なので$\lim_{h \to 0,h\neq 0}|(c+\epsilon_{s}(h))h|=0$。<br/>
 
-
ゆえに、$\lim_{h \to 0,h\neq 0}|f(s+h)-f(s)|=0$<br/>
 
-
これは、関数が$s$で連続であることの定義そのものである。
 
-
==== 導関数の性質====
+
導値(微分係数)、導関数<br/>
-
'''定理1(線形性)'''<br/>
+
定理1;<br/>
-
$f,g$が$I=(a,b)$上で定義された、微分可能な実数値関数で、
+
微分可能ならば、偏微分可能<br/><br/>
-
$\alpha,\beta$が任意の実数ならば<br/>
+
定理2<br/>
-
$\alpha f+\beta g$、$fg(s):=f(s)g(s)$は微分可能で<br/>
+
$C^{1}$級の関数は微分可能<br/>
-
$(\alpha f+\beta g )'=\alpha f'+\beta g'$<br/><br/>
+
-
証明は、微分の定義式と極限の性質から容易に導ける。<br/>
+
-
'''定理2 (積の導関数)'''<br/>
+
-
2つの関数$f,g$が微分可能ならば、それらの積 $fg$ も微分可能で<br/>
+
-
$(fg)'=f'g+fg'$<br/>
+
-
'''定理3(商の導関数)'''<br/>
+
-
'''定理4 (合成関数の導関数)'''<br/>
+
-
 
+
-
==== 三角関数、指数関数の微分 ====
+
-
==== 対数関数、逆三角関数の微分 ====
+
-
==== 平均値の定理  ====
+
-
平均値の定理(へいきんちのていり、英: mean-value theorem)または有限増分の定理とは、<br/>
+
-
実函数に対して有界な領域上の積分に関わる大域的な値を、微分によって定まる局所的な値として実現する点が領域内に存在することを主張する。<br/>
+
-
平均値の定理にはいくつかバリエーションがあるが、単に 「平均値の定理」 と言った場合は、ラグランジュの平均値の定理と呼ばれる微分に関する平均値の定理のことを指す場合が多い。
+
-
 
+
-
平均値の定理は微積分学の他の定理の証明(例えば、テイラーの定理、微分積分学の基本定理)にしばしば利用される、大変有用なものである(ウィキペディア;平均値の定理 より)。
+
-
===== ロルの定理  =====
+
-
平均値の定理の準備として、ロルの定理を用いる。<br/>
+
-
この定理自体も有用である。
+
-
*[[wikipedia_ja:ロルの定理|ウィキペディア(ロルの定理)]]
+
-
===== 平均値の定理  =====
+
-
*[[wikipedia_ja:平均値の定理|ウィキペディア(平均値の定理)]]
+
-
 
+
-
==== テイラー展開とテイラーの定理====
+
-
微分可能な関数 $f(x)$ の導関数 $f'(x) (あるいは\frac{df(x)}{dx})$ が微分可能ならば、<br/>
+
-
その導関数 $(f')'(x) (あるいは\frac{d^{2}f(x)}{dx^2})$ が考えられる。<br/>
+
-
これをfの2階の導関数という。<br/>
+
-
例えば、変数tの関数 $f(t)$ が時刻tの質点の位置とすると、<br/>
+
-
その導関数は速度、2階導関数は加速度を表すことを第2章の力学で学んだ。<br/>
+
-
さらに高階の微分が可能な関数を考え、その性質を考察しよう。<br/>
+
-
==== テイラー展開とテイラーの定理====
+
-
微分可能な関数 $f(x)$ の導関数 $f'(x) (あるいは\frac{df(x)}{dx})$ が微分可能ならば、<br/>
+
-
その導関数 $(f')'(x) (あるいは\frac{d^{2}f(x)}{dx^2})$ が考えられる。<br/>
+
-
これをfの2階の導関数という。<br/>
+
-
例えば、変数tの関数 $f(t)$ が時刻tの質点の位置とすると、<br/>
+
-
その導関数は速度、2階導関数は加速度を表すことを第2章の力学で学んだ。<br/>
+
-
さらに高階の微分が可能な関数を考え、その性質を考察しよう。<br/>
+
-
===== テイラー展開とテイラーの定理 =====
+
-
テイラー展開、テイラー級数についての入門書は
+
-
*[[wikibooks_ja:解析学基礎/テイラー級数|解析学基礎/テイラー級数(ウィキブックス)]]
+
-
より高度なテイラーの定理などは以下の記事を。但し証明はない。
+
-
*[[wikipedia_ja:テイラー展開 |ウィキペディア(テイラー展開)]]
+
-
*[[wikipedia_ja:テイラーの定理 |ウィキペディア(テイラーの定理)]]
+
-
 
+
-
==== $C^{1}$級の関数====
+
-
$I=(a,b)$上の関数 $f$ が連続的微分可能(continuously differentiable)であるとは,<br/>
+
-
$I$上で導関数 $f'$ が存在して、しかも$f'$ が$I$上で連続であることをいう。<br/>
+
-
$I=(a,b)$上で連続的微分可能である関数を$C^{1}$級関数という。<br/>
+
-
 
+
-
=== ベクトル値関数の微分===
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実数の開区間$I=(a,b)$上で定義され,n次元の実ベクトル($\in {\bf R^n}$)に
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値をとる関数$\vec f$を考える。<br/>
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定義;微分可能性<br/>
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実数値関数の場合と同じである。<br/>
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導関数の線形性の性質も成り立つ。<br/>
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==== ベクトル値関数の微分とその成分関数の微分の関係====
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関数値$\vec f(s)$は${\bf R^n}$の要素なので<br/>
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$\vec f(s)=(f_1(s),f_2(s),\cdots f_n(s))$<br/>
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と表示できる。<br/>
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すると$\vec f$のn個の成分関数<br/>
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$f_i,(i=1,2,\cdots n)$<br/>
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が得られる。<br/>
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命題;<br/>
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$\vec f$が$s\in I$で微分可能$\Leftrightarrow$$f_i(i=1,2,\cdots n)$が$s\in I$で微分可能。<br/>
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この時、${\vec f}'(s)=({f_1}'(s),{f_2}'(s)\cdots {f_n}'(s))$<br/>
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==== ベクトル積の微分 ====
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命題<br/>
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$ \vec{a(t)} $ と $\vec{b(t)} $は、開区間I上で定義され、
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微分可能なベクトル値関数とする。すると、<br/>
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$ \quad \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$ は微分可能で、<br/>
+
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$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}) =(\frac{d}{dt}\vec{a(t)} )\times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times (\frac{d}{dt}\vec{b(t)})$
+
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証明<br/>
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すでにこのテキストで紹介した、ベクトル値関数の微分の定義<br/>
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$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)})
+
-
=\lim_{\delta t \to 0}
+
-
(\vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}- \vec{a(t)} \times \vec{b(t)})/\delta t$ $\qquad $  (1)  <br/>
+
-
を用いて証明する。<br/>
+
-
この極限が存在し、<br/>
+
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$\frac{d}{dt}\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times \frac{d}{dt}\vec{b(t)}$<br/>
+
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になることを示せば命題は証明できたことになる。<br/>
+
-
極限の計算が進むよう、右辺の式の分母は変形しよう。<br/>
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関数の積の微分公式の証明と同じ技巧を用いる。<br/>
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$ \vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}
+
-
  - \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$  <br/>
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-
$  = \vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}
+
-
    -\vec a(t)\times \vec{b(t+\delta t)}
+
-
    +\vec a(t)\times \vec{b(t+\delta t)}
+
-
  - \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$  <br/>
+
-
ベクトル積の命題3を利用すると、 <br/>
+
-
$  = \left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right)
+
-
    \times
+
-
    \vec b\left(t+\delta t\right)
+
-
    +\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right)  $
+
-
 
+
-
この式を式(1)の右辺の分子の項に代入し整頓すると<br/>
+
-
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)})
+
-
=\lim_{\delta t \to 0}
+
-
\frac{\vec a(t+\delta t)\times \vec b(t+\delta t)- \vec a(t) \times \vec b(t)}
+
-
    {\delta t}$   <br/>
+
-
$=\lim_{\delta t \to 0}
+
-
\frac{\left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right)
+
-
    \times
+
-
    \vec b\left(t+\delta t\right)
+
-
    +\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right)    }
+
-
    {\delta t}
+
-
$ <br/>
+
-
ベクトル積の命題4を使い、<br/>
+
-
$=\lim_{\delta t \to 0}\left(
+
-
    \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t}
+
-
    \times
+
-
    \vec b\left(t+\delta t\right)
+
-
    +
+
-
    \vec a(t)\times \frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)}
+
-
    {\delta t}
+
-
\right)$ <br/>
+
-
極限の命題を使って、<br/>
+
-
$=\lim_{\delta t \to 0}
+
-
    \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t}
+
-
    \times
+
-
    \lim_{\delta t \to 0}\vec b(t+\delta t)
+
-
    +
+
-
    \vec a(t)\times
+
-
    \lim_{\delta t \to 0}\frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)}{\delta t}
+
-
$ <br/>
+
-
式中の極限は、$\vec a,\vec b$が、微分可能なので存在し、 <br/>
+
-
$\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t}
+
-
=\frac{d\vec a(t)}{dt}$  <br/>
+
-
$\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec b(t+\delta t) -\vec b(t)}{\delta t}
+
-
=\frac{d\vec b(t)}{dt}$
+

2017年11月13日 (月) 16:30時点における版

目次

「9.1 多変数解析学」 

本章の冒頭の偏微分の導入部については下記の本も参考にしてください。

それ以降の内容については、ウィキブックスには殆どないため、
このテクストで今後叙述する予定です。

多変数の実数値関数の微分

${\bf R^n}=\{(x_1,x_2,,,x_n) \mid x_i\in{\bf R},i=1,2,\cdots n\}$ の開区間
$I^n=\prod_{i=1}^{n}(a_i,b_i)$上で定義された実関数 $y=f(x_1,x_2,,,x_n)$ を考える。
一変数関数の議論から類推するために
以後、$\vec{x}:=(x_1,x_2,,,x_n)$とおき、 $y=f(\vec{x})$ と書くこともある。
$I^n \,$上で定義された実数値関数 $\ y=f(\vec{x})=f(x_1,x_2,,,x_n)\,$ の微分について説明する。
一変数の微分から類推すると
微小なベクトル $\vec h=(h_1,h_2,,,h_n)$ を考え、極限
$\lim_{\vec h \to 0,\vec h\neq 0}\frac{f(\vec x + \vec h)-f(\vec x)}{{\bf h} }$
が存在するとき、関数fは微分可能と定義することが考えられる。
しかし残念ながら、
$\vec h$はn次元ベクトルなので、割り算は不可能でありこの定義は無効である。

偏微分

関数$f$ の変数 $\vec{x}$ の第i成分 $x_i$ だけを変数とし、
他の変数は任意の実数に固定$\Bigl(x_j = a_j \quad (j\neq i)\Bigr)$して得られる関数
$\phi_{x_j=a_j,j\neq i}(x_i)\triangleq f(a_1,a_2,,,a_{i-1},x_i,a_{i+1},,,a_n) $
を考える。
この関数は、一変数なので、任意の点$x_i $ での微分係数 
$\frac{d\phi_{x_j=a_j,j\neq i}}{dx_i}(x_i)\triangleq \lim_{ h \to 0, h\neq 0}\frac{\phi_{x_j=a_j,j\neq i}(x_i+h)-\phi_{x_j=a_j,j\neq i}(x_i)}{\bf h}$
$=\lim_{ h \to 0, h\neq 0}\frac{ f(a_1,a_2,,,a_{i-1},x_{i}+h,a_{i+1},,,a_n)-f(a_1,a_2,,,a_{i-1},x_{i},a_{i+1},,,a_n)}{\bf h}$
を考えることができる。

定義(偏微分)
もし、一変数関数 $\phi_{x_j=a_j,j\neq i}(x_i)=f(a_1,a_2,,,a_{i-1},x_i,a_{i+1},,,a_n)$ が、ある点$x_i=a_i$で微分可能ならば、
関数fは、点$\vec a = (a_1.a_2,,,,a_n)$で,$x_i$ について偏微分可能であると言い,
$\frac{\partial f}{\partial x_i}(\vec a) \triangleq \frac{d\phi_{x_j=a_j,j\neq i}}{dx_i}(a_i)$
を、$f(\vec{x})$ の 点$\vec a$ での変数 $x_i$  についての偏微分係数という。

定義(偏導関数)
$f(\vec{x})$  がどの点$\vec{x}$でも $x_i$ に関して偏微分可能であるならば、
任意の点$x_i$ にその点の偏微分係数$\frac{d\phi^i}{dx_i}(x_i)$を対応させると、新しい関数が得られる。
これを、$f(\vec{x})$  の $x_i$ に関する偏導関数といい、記号
$f_{x_{i}}(\vec{x}),\quad D_{x_i}f(\vec{x}),\quad \frac{\partial f}{\partial x_i} (\vec{x}),\quad \partial f/\partial x_i$
などで表示する。

以後、簡単のために2変数 x.y の関数に限定して議論する。 定理(合成関数の微分)
$R^2$ から $R$ への関数$f(x,y)$ と
$R$ から $R$ への関数$g(t)$ の合成関数 
$h(x,y)=g(f(x,y))$ 
を考える。
もし、$f(x,y)$ が $(x_0,y_0)$ で、xに関して偏微分可能で,
$\qquad g(t)$ が、$t_0=f(x_0,y_0)$ において微分可能ならば、
$h(x,y)=g(f(x,y)$ は $(x_0,y_0)$ で、xに関して偏微分可能であり,
$h_{x}(x_0,y_0)=g'(t_0)f_{x}(x_0,y_0) \qquad \qquad ()$
証明
yを $ y_0 $ に固定して考えると、一変数関数の合成関数の微分になるので、合成関数の微分公式を適用すればよい。

 平均値の定理 

定理
f(x,y) を
$(x_0,y_0)$ のな近傍 U 上で、xについて偏微分可能とする。
もし$(x,y)$ を近傍Uの点ならば
$x_0$ と $x$ の間の $\xi$ が存在して、
$f(x,y) - f(x,y_0)-\bigl(f(x_0,y) - f(x_0,y_0) \bigr)= (x-x_0)\bigl(f_{x}(\xi,y)-f_{x}(\xi,y_0)\bigr) \qquad ()$
(注)例えば、中心$(x_0,y_0)$、半径rの小さな開球体$S_{r}(x_0,y_0)\triangleq \{(x,y)\in R^2 | \|(x,y) - (x_0,y_0) \| \lt r\} $ など。
証明
$ \phi(x)\triangleq f(x,y) - f(x,y_0)$ とおくと、
式()の左辺$ = \phi(x) - \phi(x_0)$
$\quad \phi(x) $ は、$x_0$ の近傍で微分可能なので、平均値の定理から、
$\quad x_0$ と $x$ の間の $\xi$ が存在して、
$= (x-x_0){\phi}'(\xi) = (x-x_0)\bigl(f_{x}(\xi,y)-f_{x}(\xi,y_0)\bigr) $

定理 
f(x,y) を
$(x_0,y_0)$ のな近傍 U 上で、xについて偏微分可能とする。
もし$(x,y)=(x_0+h,y_0+k)$ を近傍Uの点ならば
$f(x,y) = f(x_0,y_0) + hf_{x}(x_0 + h\theta,y) + kf_{y}(x_0,y_0+ k\theta)$
を満たす、$\theata=\theta(h,k) \in (0,1)$ が存在する。
証明
$ g(t) \triangleq f(x_0+ht,y) + f(x_0,y_0+kt) $ というtの関数を導入する。
すると、
$g(1)-g(0) = f(x,y)+f(x_0,y)-\bigl(f(x_0,y)+f(x_0,y_0) \bigr)$
$\qquad \qquad =f(x,y) - f(x_0,y_0)$
関数 $g(t)$ は、閉区間[0,1] を含む開区間上で微分可能なので、
一変数の微分可能関数の平均値の定理から、
ある数 $\theta \in (0,1)$ が存在して、
$g(1)-g(0) = g'(\theta)(1-0) = g'(\theta) \qquad \qquad (a)$
故に、$ f(x,y) - f(x_0,y_0) = g(1)-g(0) = g'(\theta)$
$\qquad $ 関数gの微分は,一変数関数の合成関数の微分公式から
$\qquad g'(t) = f_{x}(x_0+ht,y)h + f_{y}(x_0,y_0+kt)k \qquad (b)$
式(a)、(b) から
$ f(x,y) - f(x_0,y_0) = f_{x}(x_0+h\theta,y)h + f_{y}(x_0,y_0+k\theta)k \qquad (b)$
証明終わり

 高階偏微分

(1)二階偏微分
定義 二階偏微分

次は、大変有用な定理である。
定理
${\bf R^n}$の開集合Uで定義された実数値関数fに対し、
点$\textbf{a} \in U$ の近傍W(注参照)で
$ \qquad \qquad f_{x_i,x_j} \ f_{x_j,x_i}$
が共に存在し、$\textbf{a}$において共に連続ならば、
$ \qquad \qquad f_{x_i,x_j}(\textbf{a}) = f_{x_j,x_i}(\textbf{a})$

方向微分

$\vec{e_i}$ を直交座標系の$x_i$座標軸の正方向の方向・向きを持つ単位長さのベクトルとする(第i直交座標ベクトルと呼ぼう)。
多変数関数$y=f(x_1,x_2,,,x_n)$の、点$\vec x = (x_1,x_2,,,x_n)$での偏微分係数 $\frac{\partial f}{\partial x_i}(x)$ は、
点$\vec x $ を、第i座標(座標ベクトル$\vec{e}_i$)に平行に無限に小さい距離移動させるときの、関数fの変化率とみなせる。
式で書くと
$\frac{\partial f}{\partial x_i}(x) = \lim_{h\to 0,h\neq 0}\frac{f(\vec x + h\vec{e}_i)-f(\vec x )}{h}$

このように考えると、点$\vec x = (x_1,x_2,,,x_n)$を、座標ベクトル$\vec{e}_i$に平行ではなく、
任意に指定するベクトル$\vec a$に平行に微小量動かすときの関数fの変化率を考えることもできることが分かるだろう。

定義 方向微分
関数$y=f(x_1,x_2,,,x_n)$の、点$\vec x = (x_1,x_2,,,x_n)$での,$\vec a$ 方向の微分係数とは、
$\lim_{h\to 0,h\neq 0}\frac{f(\vec x + h\vec a)-f(\vec x )}{h}$
のことで、
$\frac{\partial f}{\partial \vec{a}}(x),\quad f_{\vec a}(x),\quad D_{\vec a}(x)$
などと書く。

命題
(1) $\vec{e_i}$ 方向の微分は、$\vec{e_i}$ 座標軸($x_i$座標軸)に関する偏微分である。
ここで、$\vec{e_i}$ は$x_i$座標軸の正方向向きの単位長さのベクトル。
式で書くと、
$\frac{\partial f}{\partial \vec{e_i}}(x) = \frac{\partial f}{\partial x_i}(x) $
(2)$\alpha$ を任意の実数とすると
$\frac{\partial f}{\partial \alpha \vec{e_i}}(x) = \alpha \frac{\partial f}{\partial x_i}(x) $

微分(全微分) 

この§も、2変数関数で説明する。
二変数関数の微分可能性をどう定義したらよいだろうか?
一変数関数の微分の場合、それと同等の条件はいくつか知られているが、
その中で二変数関数に容易に拡張できるものを採用するのが自然である。

1.4.1.1  微分係数の意味 の命題の

条件 3)が、それに該当する。
    
定義1;微分可能性(全微分可能性)
関数f(x,y)が、或る開集合上Uじょうで定義されているとする。
fが 点$(x_0,y_0)\in U$ で微分可能とは、
ある定数$c_1,\ c_2$が存在して、
$f(x,y) = f(x_0,y_0) + c_{1}(x-x_0) + c_{2}(y-y_0) + \delta(x,y;x_o,y_0)$
ここで、$\lim_{(x,y)\to (x_0,y_0)}\delta(x,y;x_o,y_0)/\|(x,y)^{t}-(x_0,y_0) \|_{2} = 0 $
(注)$\|(x,y)\|_{2} \triangleq \sqrt{x^2 + y^2}$ は、
ノルムの条件と呼ばれる次の3つの条件を満たし、
ユークリッドノルムあるいは2‐ノルムと呼ばれる。
1)$\|(x,y)\|_{2} \geq 0. \|(x,y)\|_{2}=0 ならば (x,y)=(0,0)$ 
2)$\|(x,y)+(x',y')\|_{2} \leq \|(x,y)\|_{2}+\|(x',y')\|_{2}
3)任意の実数$\alpha$に対し、$\|\alpha (x,y)\|_{2}=|\alpha|\|(x,y)\|_{2}
ノルム条件を満たし、ノルムと呼ばれるものには、
p‐ノルム($p \geq 1); $\|(x,y)\|_{p}\triangleq (|x|^{p}+|y|^{p})^{\frac{1}{p}}$
$\infty-ノルム$;$\|(x,y)\|_{\infty}\triangleq max(|x|,|y|)$
命題
\|(x,y)\|_{1} \geq \|(x,y)\|_{2} \geq \|(x,y)\|_{\infty} \geq \frac{1}{2}\|(x,y)\|_{1}
導値(微分係数)、導関数
定理1;
微分可能ならば、偏微分可能

定理2
$C^{1}$級の関数は微分可能