物理/運動法則の応用1

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(版間での差分)
(ページの作成: =運動法則の応用(2)質点系の運動と回転力 = この節では複数の質点が集まって作る質点系と、硬くて形を変えない質点系である…)
(運動法則の応用(2)質点系の運動と回転力)
 
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=運動法則の応用(2)質点系の運動と回転力  =
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= 運動法則の応用(1)質点の運動 =
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この節では複数の質点が集まって作る質点系と、硬くて形を変えない質点系である剛体を回転させる力について、考察する。
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==  質点系の運動==
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2個以上の質点が集まって出来ている系を質点系という。<br/>
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質点系というときは、各質点は密集していても、離れ離れでも良い。互いに固着しようが、自由に動けようが構わない。<br/>
+
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すべての物質は、分子の集合と考えたり、細分化して極小部分に分け、それらの集合と考えれば、十分な精度で、質点系とみなすことができる。<br/>
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そのため質点系の運動の法則を、ニュートンの運動法則から導出すれば、その応用範囲は非常に広い。
+
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===  質点系の運動と重心===
+
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系の任意の2つの質点間には作用・反作用の法則を満たす力が働いていてもよい。<br/>
+
運動の3法則、万有引力の法則と力の法則を用いると、分子から銀河まであらゆる物体の運動を求めることが出来きる。<br/>
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この力を質点系の”内力”という。  <br/>
+
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質点系の各質点に外部から力(外力という)が加わる時、この質点系はどんな運動をするだろうか。<br/>
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質点系の各質点の位置を$\vec{r_i}$、質量を$m_i $とし、<br/>
+
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質点$m_i$ に作用する外力を$\vec{f_i}$、<br/>
+
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$m_i$ に、他の質点$m_j $から作用する内力を$\vec{f_{ij}}$とする($i,j=1 \ldots N$)。<br/>
+
-
すると、各質点に対して、運動の第2法則により、<br/>
+
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$d (m_i \vec{v_i})/dt=\vec{f_i}+\sum_{j\neq i}\vec{f_{ij}} $  $\qquad$ ここで$\vec{v_i}=d\vec{r_i}/dt$、<br/>
+
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各ベクトルを自由ベクトルとみなして$i=1 \ldots N$について加え合わせると、$\vec{f_{ij}}+\vec{f_{ji}}=0$なので、<br/>
+
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$\frac{d^2}{dt^2} \sum_i{ m_i \vec{r_i}} =\frac{d}{dt} \sum_i{ m_i \vec{v_i}} =\sum_i{\vec{f_i}}  $    <br/>
+
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が得られる。<br/>
+
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質点系の全質量$M= \sum_i{m_i} $と質点系に働く全外力$\vec{F}= \sum_i{\vec{f_i}} $を用いて書きなおすと、<br/>
+
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$M\frac{d^2}{dt^2}(\sum_i{ m_i \vec{r_i}}/M)= \vec{F} $  <br/>
+
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質点系の重心$\vec{R}$を $\quad \vec{R}=\sum_i{ m_i \vec{r_i}}/M $ で定義すると、<br/>
+
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$M\frac{d^2}{dt^2}\vec R= \vec{F} $  <br/>
+
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この式は、力$\vec{F}$をうける質量$M$の質点の運動方程式と同じである。<br/>
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以下の解説も参考にしてください。
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*[[wikipedia_ja:質点|ウィキペディア(質点系の力学)]]
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====複雑にみえる運動も重心の運動をみれば簡単である  ====
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体操選手の運動は、跳躍などで空中をまいながら、回転や体の屈伸、ひねりなどを行う。大変複雑で美しい。<br/>
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しかし、導出した質点系の重心の運動法則から、体の重心の運動は、投射体の運動であり、放物線をえがいて移動することが分かる。<br/>
+
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空中に飛び出た瞬間の重心の位置と速度(速さと方向・向き)で、その軌跡は完全に決まってしまうのである。
+
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==  剛体の運動とつり合い==
+
その正しさは地上の物体や人工衛星、惑星の運動などで確かめられている。<br/>
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===  剛体===
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しかし、もっとはるかかなたの宇宙でもこれ等の法則は正しいのだろうか。<br/>
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天体観測は、世界各地で行われ、年々新しい発見がされているが、現在のところ、この理論が間違っていることを示す観測結果は、得られていない。<br/>
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そこで、これらの法則は宇宙の全体を支配しているものと、現在は信じられている。<br/>
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剛体(Rigid body)とは、<br/>
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運動の3法則からはエネルギー保存則や運動量保存則などの重要な保存則を導く事が出来る。<br/>
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質点系であって、それらの、どの2質点の間の距離も変わらない,特殊な質点系のことを言う。<br/>
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これらの保存則は、色々な運動を調べるとき、大変役立つ。これらについては次節で学ぶ。
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どの2質点の間の距離も変わらなければ変形は起こらない。<br/>
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固くて変形しにくい物体を理想化した概念である。<br/>
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===  剛体の運動 ===
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==  質点の色々な運動==
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剛体は変形しない質点系なので、その運動は、重心の運動と、重心の周りの回転運動を合成したものになる。<br/>
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最初に最も簡単な運動から考える。<br/>
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重心の運動は前の節で説明したように、質点の運動と同じように簡単に扱える。<br/>
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それは質点とみなせる物体の運動である。
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重心の周りの回転運動について解析するには、少し難しい数学が必要になる。<br/>
+
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*[[wikipedia_ja:剛体の力学|ウィキペディア(剛体の力学)]]を参照のこと。
+
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このテキストでは、固定軸の周りの回転運動を中心に、 剛体運動の初歩と釣合の条件について学ぶ。<br/>
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===固定軸のまわりの回転運動 ===
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=== 質点の落体運動===
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地球上の物体は高いところから落とすと、時間とともに速度を増しながら落下する。<br/>
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質点とみなせる物体の落下運動を、運動法則と力の法則を用いて、解析しよう。<br/>
 +
質点の質量を$m$とすると、そこに作用する[[物理/力学(2)_力と運動の法則#.E3.80.80.E5.9C.B0.E7.90.83.E3.81.AE.E9.87.8D.E5.8A.9B.E3.81.A8.E9.87.8D.E5.8A.9B.E5.8A.A0.E9.80.9F.E5.BA.A6.E3.80.80|重力による力]]は、<br/>
 +
真下(厳密には地球の[[wikipedia_ja:重心|重心]];後で学ぶ)の方向・向きに大きさ$Mg$である。<br/>
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落下の向きを負にした落下方向の一次元座標を考えると、重力加速度は$-g$で、質点$m$に作用する力は$-mg$である。<br/>
 +
落下の加速度を$\alpha$と置くと、運動の第2法則より$m\alpha=-mg$.<br/>
 +
ゆえに質点の落下加速度$\alpha$は負の重力加速度$-g$に等しい。<br/>
 +
$t$で微分して$-g$となる関数は$-gt+c$なので、質点の速度は$-gt+c$である。<br/>
 +
ここでcは定数で、初期時刻0における質点の速度であり、初期速度と呼ばれる。<br/>
 +
微分して$-gt+c$となる関数を求めれば質点の位置$x(t)=-\frac{1}{2}gt^{2}+ ct + d$が得られる。<br/>
 +
ここで、$d$は定数で初期時刻0での質点の位置(高さ)である。<br/>
 +
これはガリレオが明らかにした落体法則である。<br/>
 +
参考文献;
 +
*[[wikibooks_ja:高等学校理科_物理I_運動とエネルギー#.E3.83.8B.E3.83.A5.E3.83.BC.E3.83.88.E3.83.B3.E6.96.B9.E7.A8.8B.E5.BC.8F|ウィキブックス(高等学校理科 物理I 運動とエネルギーの2.4.1 ニュートン方程式)]]
 +
*[[wikibooks_ja:高等学校理科_物理I_運動とエネルギー#.E7.AD.89.E5.8A.A0.E9.80.9F.E5.BA.A6.E7.9B.B4.E7.B7.9A.E9.81.8B.E5.8B.95|ウィキブックス(高等学校理科 物理I 運動とエネルギーの1.8 等加速度直線運動)]]
-
剛体が、剛体の中を通る固定軸の周りを回転する運動(車輪の回転など)を考える。<br/>
+
=== 投射体の運動===
-
応用も考え、回転軸は重心を通らなくてもよいように一般化しておく。<br/>
+
質点を地面に対して角度$\theta$(ラジアン)、速さ$u$で投げたときの、質点はどのような運動を行うだろうか。<br/>
-
(注)なお、軸が動かないようにするためには軸受が必要である。<br/>
+
ガリレオは、慣性法則と落体の法則を組み合わせて利用して、放物線を描いて飛ぶことを発見した。<br/>
-
工夫しても回転時に軸は軸受から多少の摩擦力を受け、回転にブレーキがかかる。<br/>
+
ニュートン力学を用いれば、運動の第2法則と質点に働く力(重力)から、以下のように、この運動を導ける。<br/>
-
しかし、これは無視出来るほど小さいと仮定する。<br/>
+
====適切な座標系をいれる====
-
すると軸が受ける力は、軸の変動を防ぎ、固定軸の周りの運動に限定させる作用を持ち、<br/>
+
質点が投げ出された場所を原点とし、飛んでいく方向に地面と水平に引いた半直線をx軸の正の側に、地面と直角で上方に向かう半直線をy軸の正の側とする座標を定める。図参照。
-
回転を遅める作用は持たないことになる。
+
====質点に作用する力を求める====
-
====回転運動の表示法 ====
+
空気抵抗を無視すれば、質点に作用する力は、地球からの重力だけである。この力は、質点の質量を$M$,重力加速度を$g$とすると、質点の位置に関係なく常に、$\vec F=(o,-Mg)$である。
-
固定軸まわりの剛体の運動はどのように表示したらよいだろうか。<br/>
+
-
・剛体の位置を表す変数;回転角<br/>
+
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剛体が幾ら回転したか分かるように、剛体の、回転軸上にない一点$P_s$に印を付ける。<br/>
+
-
次に、角度を測る基準線をきめるため、座標系を決めよう。<br/>
+
-
$P_s$から固定軸へ垂線をひき、その足を原点$O$とし,固定軸をz座標とする(静止した)3次元直交座標$O-xyz$を考える。<br/>
+
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剛体が固定軸の周りを回転すると、印$P_s$はxy平面上を、原点$O$を中心に円を描いて動くことになる。<br/>
+
-
その位置ベクトル$\vec{OP_s}$がx軸の正方向となす角度$\phi$を、回転角と呼ぶ。図参照。<br/>
+
-
但し、x軸から反時計回りの角を正にする。<br/>
+
-
また一回転した後ならば、一回転の角$2\pi$を加え、逆周りに一回転した後なら$2\pi$を引き、<br/>
+
-
角度だけでなく回転数も分かるようにする。<br/>
+
-
回転角が指定されると、点$P_s$の位置が決まる。<br/>
+
-
それだけでなく剛体は変形しないので、剛体のすべての点の位置がきまる。<br/>
+
-
そこで回転角$\phi$の時間変化$\phi=\phi (t)$を明らかにすれば、剛体の回転運動は定まる。<br/>
+
-
固定軸のまわりの回転運動において回転角の果たし役割は、質点の運動において質点の位置が果たし役割に対応していることが分かる。<br/>
+
-
・回転の角速度と角加速度<br/>
+
-
$\phi=\phi (t)$を時間で微分した$d\phi (t)/dt$を回転の角速度と呼ぶ。<br/>
+
-
直観的には、時刻$t$の瞬間の、回転の速さ(回転角の時間に対する変化率)を表す。<br/>
+
-
さらにもう一回時間微分した$d^2\phi (t)/dt^2$を回転の角加速度と呼ぶ。<br/>
+
-
====回転力(トルク) ====
+
====運動の第2法則から質点の運動方程式をつくる====
-
質点の運動に倣って、剛体に作用する力によって、その位置(=回転角)がどう変化するかの法則を導出したい。<br/>
+
質点の位置ベクトルを$\vec r=(x,y)$で表すと<br/>
-
しかし、剛体の回転の場合、ある方向の力は、剛体の回転に全く関係しない。
+
運動方程式は、$M(d^2/dt^2)\vec{r(t)}=\vec F$である。<br/>
-
例えば、回転軸から放射状にでる半直線方向の力は全く回転の変化に寄与しない。<br/>
+
座標成分表示すると<br/>
-
そこで剛体の回転を変化させる力とはなにかという問題から考察する必要が起こる。<br/>
+
$M(d^2/dt^2)x(t)=0$,$\quad$  $M(d^2/dt^2)y(t)=-Mg$
-
質点運動における力の定義(力と運動量の変化の関係)や力と仕事の関係など力の係っている式のなかから、<br/>
+
====運動の初期状態の指定====
-
剛体の回転運動に容易に拡張出来るものを選び、その式から、回転に関する力を求めることを試みる。<br/>
+
投げ上げた瞬間を時刻$t=0$とおくと、質点の初期位置は$\vec{r}(0)=(0,0)$,$\quad$ 初期速度は$\vec{v}(0)=(u\cos{\theta},u\sin{\theta})$
-
力の定義からは、回転運動への拡張を、推測することは難しい。<br/>
+
-
力と仕事の関係の考察をしてみよう。
+
-
=====力と仕事の関係からの考察 =====
+
====運動方程式を初期状態を使って解く====
-
適当な直交座標系をさだめ、ベクトルは、座標成分で表示する。<br/>
+
(1)x成分の式を解く<br/>
-
質点に、一定の力$\vec F=(F_x,F_y,F_z)$を作用させて、x軸方向に変位させる。<br/>
+
$M(d^2/dt^2)x(t)=0$は、$M(d/dt)v_{x}(t)=0$なので$(d/dt)v_{x}(t)=0$。$\quad$  tで微分して零となるtの関数は定数なので$a$と書くと、$v_{x}(t)=a$<br/>
-
質点はこの軸の上でしか動けないように拘束され、摩擦はないと仮定する。<br/>
+
速度の定義より、$(d/dt)x(t)=v_{x}$なので、$(d/dt)x(t)=a$.$\quad$ $t$で微分して$a$となるのは$at+b$(bは未知定数)なので、$x(t)=at+b$<br/>
-
質点の変位ベクトルは一次元の変数$x$を使って$\vec s=(x,0,0)$と表せる。<br/>
+
初期条件から、$a=v_{x}(0)=u\cos{\theta}$,$\quad$ また$x(0)=a0+b=0$なので$b=0$。<br/>
-
すると力のなす仕事は、$W=\vec F \cdot (x,0,0)=F_{x}x$である。 <br/>
+
故に、$x(t)=(u\cos{\theta})t$
-
逆に物体に一定の力を加え、x軸上で$x$だけ変位させた時の仕事$W$が分かれば、質点を動かした力は<br/>
+
-
$F_x=W/x$<br/>で求められる。<br/>
+
-
$F_y,F_z$は、質点をx軸上で動かすことには全く寄与せず、<br/>
+
-
x軸に拘束された質点を動かす力は、$F_x$なのである。<br/>
+
-
固定軸まわりの回転もその変位は一次元の変数である回転角度で表わせるので、<br/>
+
-
これに倣って、<br/>
+
-
$W/$回転した角度 <br/>
+
-
を、回転にかんする力であると考える。これを回転力と呼ぶ。'''トルク'''ともいう。<br/>
+
-
この方針を実行して回転力を具体的に求めよう。<br/>
+
(2)y成分の式を解く   <br/>
 +
$M(d^2/dt^2)y(t)=-Mg$は、$(d/dt)v_{y}(t)=-g$ $\quad$ tで微分して$-g$となる関数は$-gt+c$(cは未知定数)なので、<br/>
 +
$v_{y}(t)=-gt+c$ $\quad$故に$(d/dt)y(t)=-gt+c$  <br/>
 +
tで微分して$-gt+c$となる関数は、$-\frac{1}{2}gt^2+ct+d$なので、$y(t)=-\frac{1}{2}g^2t+ct+d$   <br/>
 +
初期速度の条件から、$c=-g0+c=v_{y}(0)=u\sin{\theta}$ $\quad$ $d=-\frac{1}{2}g0+c0+d=y(0)=0$   <br/>
 +
故に、$y(t)=-\frac{1}{2}gt^2+(u\sin{\theta})t$<br/>
-
=====剛体に力を加え微小角動かす時の、力のなす仕事の算出 =====
+
(3)運動の軌跡(xとyとの関係式)を求める   <br/>
-
図4.1のように剛体の任意の一点$P(x,y,z)$を考える。<br/>
+
$x(t)$の式から$t=x(t)/(u\cos{\theta})$  <br/>
-
z座標の上方からxy平面を見下ろしているので、z座標は点になり$O$と書いてある。<br/>
+
これを$y(t)=-\frac{1}{2}gt^2+(u\sin{\theta})t$に代入すると<br/>
 +
$y(t)=(-g/2u^2\cos^2{\theta})x^2(t)+(\tan{\theta})x(t)$<br/>
 +
これは上に凸な[[wikipedia_ja:放物線|放物線]]である。<br/>
 +
参考文献は
 +
*[[wikibooks_ja:高等学校理科 物理I 運動とエネルギー|ウィキブックス(高等学校理科 物理I 運動とエネルギー)]]の2.4.1 ニュートン方程式
-
[[File:GENPHY00010004 fig4-1.jpg|right|frame|図4.1 ☆☆キャプションはココに書いて下さい☆☆]]
+
===  惑星運動===
 +
前述のようにケプラーは、火星と太陽の観測データをユークリッド幾何学を巧みに利用して分析し次の惑星運動の3法則を発見した。
 +
*[[wikipedia_ja:ケプラーの法則|ウィキペディア(ケプラーの3法則)]]
 +
====惑星運動の3法則を運動の第2法則と万有引力の法則から導く====
 +
この3法則は、運動の第2法則と万有引力の法則から導くことが出来るが少し難しい数学が必要である。大学で学ぶ。<br/>
 +
惑星の軌道を太陽を中心とする円運動に限定すると、高校の数学の知識で3法則を導ける。<br/>
 +
この場合ケプラーの第一法則は、仮定から、明白なので、第二法則から始める。
 +
=====ケプラーの第2法則の導出 =====
 +
[[File:GENPHY00010004 fig4-0d.jpg|right|frame|図 惑星の位置座標]]
-
まず一点$P(x,y,z)$に力$\vec F=(F_{x},F_{y},F_{z})$が作用して、微小角$\Delta\theta$だけ回転したときの<br/>
 
-
仕事$\Delta W$を計算し回転力を求めよう。<br/>
 
-
$P$点から回転軸(z軸)に垂線を下ろし、その足を$O'=(0,0,z)$とする。<br/>
 
-
$\vec{O'P}$の長さを$r$、x軸となす角を$\theta$(ラジアン)と置く。<br/>
 
-
この角度は、<br/>
 
-
剛体につけた印の位置ベクトル$\vec{OP_s}$がx軸となす回転角$\phi$と<br/>
 
-
このベクトルと$\vec{O'P}$(をxy平面に平行移動したベクトル)の間の角の和である。<br/>
 
-
後者は、剛体なので、運動しても変わらない定数である。そこで、$\theta=\phi+$定数,と書ける。<br/>
 
-
剛体がz軸の周りを微小角$\Delta\theta$回転して、点$P$が図の点$Q$に移動したとする。<br/>
 
-
すると角$\angle OPQ$はほぼ直角(=$\pi /2$)で$\vec{PQ}$の長さ$PQ$は、$PQ=r(\Delta\theta)$。<br/>
 
-
$\vec{PQ}$のx成分とy成分は、図4-1中に示したように、それぞれ、$-QR=-PQ*y/r$、$PR=PQ*x/r$。<br/>
+
第二法則は、太陽と惑星を結ぶ動径の単位時間に掃く面積が一定であることを主張する。円運動のばあい、これは等速円運動であることと同じである。<br/>
-
$PQ=r(\Delta\theta)$を代入すると、<br/>
+
そこで等速円運動であることを導こう。<br/>
-
$\vec{PQ}_x=-y(\Delta\theta)$、$\vec{PQ}_y=x(\Delta\theta)$、$\vec{PQ}_z=0$<br/>
+
太陽と惑星は質点として扱い、質量をそれぞれ$M,m$とする。<br/>
-
点$P(x,y,z)$に作用する力$\vec{F}=(F_{x},F_{y},F_{z})$が、物体を$\vec{PQ}$だけ動かしたので、<br/>
+
-
その仕事は、$\Delta W=\vec{F} \cdot \vec{PQ}$(内積)。<br/>
+
-
この右辺を内積の性質を用いて座標成分で表すと、<br/>
+
-
$F_{x}*(-y)\Delta\theta+F_{y} x\Delta\theta+F_{z}* 0$<br/>
+
-
$=(xF_{y}-yF_{x})*\Delta\theta$ <br/>
+
-
=====z軸まわりの回転力の導出 =====
+
惑星の軌道面をxy平面にし、太陽をその原点にとる。円運動の半径を$r$,
-
ゆえに、力$\vec{F}$のz軸まわりの回転力(トルク)$T_\vec{e_z}$$\Delta W/\Delta\theta=xF_{y}-yF_{x}$
+
太陽と時刻$t$における惑星を結ぶ線分が、x軸となす角度を$\theta =\theta(t)$とおく。
-
に等しい。<br/>
+
-
これより、$\Delta W=T_\vec{e_z}\Delta\theta$が得られる。<br/>
+
-
この式と、直線上に拘束された質点の運動における、力と仕事の関係式(  節  項)と対比させると、<br/>
+
-
$T_\vec{e_z}$ は、拘束された直線の上を動かすときに、働いた力の成分が対応し、<br/>
+
-
$\Delta\theta$ は、変位量   に対応していることが分かる。<br/>
+
-
=====z軸まわりの回転力(トルク)の性質=====
 
-
(1)力$\vec{F}$のz軸まわりの回転力は,$\vec{F}_z$には関係しない。<br/>
+
惑星Pの位置;$\vec{r}(t)=r(\cos\theta(t),\sin\theta(t))$ <br/>
-
言いかえるとz軸を固定軸とする剛体にz軸の方向の力を加えても、z軸の周りの回転は起こらない。<br/>
+
惑星の速度;$\vec{v}(t)=d\vec{r}(t)/dt=r(d\cos\theta(t)/dt,d\sin\theta(t)/dt)$   <br/>
-
(2)剛体の1点$P(x,y,z)$に作用する力$\vec F$を考える。<br/>
+
$=r(- \sin\theta(t)\frac{d\theta(t)}{dt},\cos\theta(t)\frac{d\theta(t)}{dt})$
-
$P(x,y,z)$からz軸に下ろした垂線の足を$O'(0,0,z)$と書く。
+
=$ r \frac{d\theta(t)}{dt}(- \sin\theta(t), \cos\theta(t)) $ <br/>
-
力$\vec F$を、,
+
-
$\vec{O'P}$方向の成分$\vec F_r$と、<br/>
+
-
z軸まわりの回転により$P$の描く、$O'$を中心とする回転円の(左回りの)接線方向の成分$\vec F_t$<br/>
+
-
および、これら2成分に直交する成分(z軸と平行)<br/>
+
-
に分解する(図参照)。この時、<br/>
+
-
・力$\vec F_r$のz軸まわりの回転力は、零である。<br/>
+
-
すなわち、動径方向の力は回転に寄与しない。  <br/>
+
-
・力$\vec F$のz軸まわりの回転力は、$\vec F_t$のz軸まわりの回転力に等しい。<br/>
+
-
数式で表すと、$xF_{y}-yF_{x}=x(F_t)_{y}-y(F_t)_{x}$<br/>
+
-
(3)剛体に作用する力の作用点を、力の作用線上で動かす限り、回転力は変化しない。<br/>
+
-
ここで、力の作用線とは、力の作用点を通り、力の方向と重なる直線のこと。<br/>
+
-
<br/>これらはいずれも直観と合致する。<br/>
+
-
証明は、試みてほしい。
+
-
=====他の軸の周りの回転力=====
+
惑星の加速度;$\vec{\alpha}(t)=d\vec{v}(t)/dt=r(d^2\theta(t)/dt^2)(-\sin\theta(t),\cos\theta(t))$   <br/>
-
$\vec{F}$のx軸、y軸まわりの回転力も同様に計算できる。結果は、<br/>
+
$+r(d\theta(t)/dt)(-\cos\theta(t)\frac{ d\theta(t)}{dt},-\sin\theta(t)\frac{ d\theta(t)}{dt} )$  <br/>
-
x軸まわりの回転力;$yF_{z}-zF_{y}=y(F_t)_{z}-z(F_t)_{y}$<br/>
+
$= r(d^2\theta(t)/dt^2)(-\sin\theta(t),\cos\theta(t))-r( \frac{d\theta(t)}{dt})^2( \cos\theta(t), \sin\theta(t)) $ <br/>
-
y軸まわりの回転力;$zF_{x}-xF_{z}=z(F_t)_{x}-x(F_t)_{z}$
+
惑星に働く力;万有引力の法則より、太陽の方向に向いた、大きさ$GMm/r^2$の力なので<br/>
 +
$\vec{F}(t)=-(GMm/r^2)(\cos\theta(t),\sin\theta(t))$  <br/>
 +
と表せる。<br/>
 +
この力が、惑星の運動を変化させ、上述の加速度を生じさせたのだから、運動の第2法則$\quad m\vec{\alpha}(t)=\vec{F}(t)\quad$より、<br/>
 +
$mr(d^2\theta(t)/dt^2)(-\sin\theta(t),\cos\theta(t))-mr( \frac{d\theta(t)}{dt})^2( \cos\theta(t), \sin\theta(t)$  <br/>
 +
$ =-(GMm/r^2)(\cos\theta(t),\sin\theta(t))$  <br/>
 +
変形すると、<br/>
 +
$mr(d^2\theta(t)/dt^2)(-\sin\theta(t),\cos\theta(t))$  <br/>
 +
$ =(mr(\frac{d\theta(t)}{dt})^2-GMm/r^2)( \cos\theta(t), \sin\theta(t)) \qquad ------ \qquad    (1)$ <br/>
 +
$(-\sin\theta(t),\cos\theta(t))$ と$( \cos\theta(t), \sin\theta(t))$は直交するベクトルなので、(1)式が成立する必要十分条件は、 <br/>
 +
$d^2\theta(t)/dt^2=0 \qquad ------ \qquad    (2)$, <br/>
 +
$mr(\frac{d\theta(t)}{dt})^2-GMm/r^2=0  \qquad ------ \qquad    (3)$ <br/>
 +
である。<br/>
 +
(2)式から、角速度$\omega(t)=\frac{d\theta(t)}{dt}=\omega_{0}$(定数)が<br/>
 +
(3)式から、$mr(\frac{d\theta(t)}{dt})^2=GMm/r^2$が<br/>
 +
得られる。<br/>
 +
これらより、惑星は等角速度<br/>
 +
$\Large{\omega_{0}=\pm\sqrt{GM/r^3}}$  $\qquad ------ \qquad $  (4)<br/>
 +
で太陽の周りを回転することが分かり、ケプラーの第2法則が得られた。
-
=====原点まわりの力のモーメント=====
+
=====ケプラーの第3法則の導出 =====
-
位置ベクトル$\vec r=(x,y,z)$の剛体の点$P$に作用する力$\vec F$の原点まわりの力のモーメントを、<br/>
+
惑星が太陽の周りを一周する時間$T$(周期という)は、$T=2\pi/\omega_0$なので、(4)式より、<br/>
-
$\vec N=($x軸まわりのトルク、y軸まわりのトルク、z軸まわりのトルク$)$で定義する。<br/>
+
$T=2\pi/\sqrt{GM/r^3}=2\pi\sqrt{r^3/GM}$,<br/>
-
数式で書くと、<br/>
+
故に$T^2=4\pi^2r^3/GM$,
-
$\vec N=(yF_{z}-zF_{y},zF_{x}-xF_{z},xF_{y}-yF_{x})$,<br/>
+
$T^2/r^3=4\pi^2/GM$<br/>
 +
これは軌道が円の場合のケプラーの第3法則である。
-
=====ベクトル積と力のモーメントのベクトル積表示=====
+
====万有引力の法則を,ケプラーの法則と運動の第2法則から導く====
-
以上の結果は、ベクトル積(クロス積ともいう)を用いると簡潔、正確に表現でき、<br/>  
+
惑星が太陽の周りを円運動しているとき、太陽が惑星に及ぼしている力を計算する。<br/>
-
回転運動の性質を調べるのが容易になる。<br/>
+
ケプラーの第2法則より、円運動する惑星は角速度一定である。これを$\omega_0$とする。<br/>
-
3次元ベクトル$\vec a,\vec b$ のベクトル積$\vec a \times \vec b$とは、3次元ベクトルであり,<br/>
+
太陽の位置を原点とし円の半径を$r$とすると、この惑星の加速度は$\vec{\alpha}(t)=-r( d\theta(t)/dt)^2( \cos\theta(t), \sin\theta(t)) =-r\omega_0^2( \cos\theta(t), \sin\theta(t))$ 。これは、太陽にむかう大きさ$r\omega_0^2$のベクトル。<br/>
-
大きさは$\vec a,\vec b$ を2辺とする平行四辺形の面積に等しく、<br/>
+
運動の第2法則より、惑星に働く力$\vec F$は、太陽の方向に、大きさ$mr\omega_0^2$  <br/>
-
方向はこの四辺形に垂直で、向きは、$(\vec a,\vec b,\vec a \times \vec b)$が右手系をなすように定めたものである。<br/>
+
ここで、$m$ は惑星の慣性質量である。<br/>
-
すると、ベクトル積に関して以下の8つの命題が成り立つ。<br/>
+
$\omega_0^2$を$r$の関数で表すためケプラーの第3法則と用いる。<br/>
 +
惑星の公転周期$T$と円の半径$r$の間には$T^2/r^3=C,\quad C$;定数<br/>
 +
$T=2\pi/\omega_0$なので
 +
$(2\pi/\omega_0)^2/r^3=C \quad $∴$\omega_0^2=4\pi^2/(Cr^{3})$<br/>
 +
それゆえ、力の大きさは<br/>
 +
$mr\omega_0^2=\frac{4\pi^2}{C} \frac{m}{r^2}$<br/>
 +
さらに、太陽の質量$M$が$k$倍になると、質量$M$の太陽が$k$個あり、それぞれが惑星に上記の力を与えると考えられる。<br/>
 +
すると惑星に働く力は$k$倍になるので力の比例部分$\frac{4\pi^2}{C}$は太陽の質量$M$に比例することが分かる。<br/>
 +
比例定数を$G$とおくと、$\frac{4\pi^2}{C}=GM$    <br/>
 +
従って惑星に働く力の大きさは、太陽の方向に、
 +
$GM\frac{m}{r^2}=G\frac{mM}{r^2}$<br/>
 +
これは万有引力の法則である。<br/>
 +
(注)この式は万有引力の法則の式と同じだが、質量$m$は、慣性質量であり、対称性から太陽の質量$M$も慣性質量と考えられる。<br/>
 +
しかしニュートンは重力を生む質量は、慣性質量と完全には一致しない可能性もあると考え、重力質量という概念を生みだしと思われる。<br/>
 +
既述のように、多くの実験の結果、両質量は同一であると考えられている。<br/>
 +
重量質量を使わず、慣性質量だけを用いても、ニュートン力学を構成することが出来る。これを提唱する物理学者もいる。<br/>
 +
それには万有引力の法則のかわりに、次の法則を採用すればよい。<br/>
 +
外力が働かないときは、どんな2質点も、お互いに相手に向かって,
 +
加速度運動して近ずく。両者の加速度は、両者の距離の2乗$r^2$に反比例し、それぞれの慣性質量の比に反比例する。<br/>
 +
式で書くと、<br/>
 +
質点1の慣性質量と加速度の大きさを$m_1$,$\alpha_1$  <br/>
 +
質点2の慣性質量と加速度の大きさを$m_2$,$\alpha_2$ <br/>
 +
とすると、$m_1\alpha_1=m_2\alpha_2$、$m_1\propto 1/r^2$,$m_2 \propto 1/r^2$ <br/>
 +
この法則と運動法則により2質点間に働く力(万有引力)を求めると、<br/>
 +
ニュートンの万有引力の法則と同じ式だが、質量は慣性質量になり、<br/>
 +
重量質量を用いずニュートン力学が構成できる。<br/>
-
======ベクトル積にかんする命題    ======
+
=== 振り子と単振動 ===
-
以下に述べる全ての命題で、<br/>
+
-
$ \vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$は3次元ベクトル<br/>
+
-
$\alpha$は実数とする。<br/>
+
-
命題1.<br/>
+
-
$ \quad \vec{a} $ を, $\vec{c} $と垂直な成分$ \vec{a_\perp}$ と,平行な成分$\vec{a_\parallel}$ の和に分解するとき、 <br/>
+
-
$\quad \vec{a} \times \vec{c}= \vec{a_\perp} \times \vec{c}$  <br/>
+
-
$\quad \vec{a_\parallel} \times \vec{c}= 0$  <br/><br/>
+
-
命題2.<br/>
+
*[[wikipedia_ja:自由振動|ウィキペディア(単振動)]]の「振り子」の項を見てください。
-
$ \quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}$  <br/>
+
-
<br/>
+
-
命題3 <br/>
+
-
$(\alpha\vec{a})\times \vec{b}= \alpha(\vec{a} \times \vec{b})= \vec{a}\times (\alpha\vec{b})$ <br/>
+
-
命題4.<br/>
+
===  質点のつり合い===
-
$ \quad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}$ <br/><br/>
+
質点に力F1,,Fnが作用し、質点が静止したまま(あるいは等速直線運動)であるとき、それらの力は釣り合っているという。<br/>
-
命題4の系  <br/>  
+
釣り合いの条件は、F1+    +Fn=0です(運動の第2法則と力の合成則から導出できる)。
-
$ \quad \vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= \vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c}$<br/>
+
-
$ \quad (\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}$<br/><br/>
+
-
命題5. <br/>
+
==仕事とエネルギー==
-
$\quad (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3})$ を<br/>
+
-
それぞれ大きさ(長さ)1で互いに直交し、[[wikipedia_ja:右手系|右手系]]をなす、ベクトル(右手系をなす正規直交基底)とする。<br/>
+
-
この時、<br/>
+
-
$ \quad  \vec{e_1} \times \vec{e_2} = \vec{e_3}, \quad
+
-
\vec{e_2} \times \vec{e_3} = \vec{e_1}, \quad
+
-
\vec{e_3} \times \vec{e_1} = \vec{e_2}$<br/> <br/>
+
-
命題6.<br/>
+
===仕事===
-
ベクトル$\vec a, \vec b$を,命題5で用いた基底$ (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3})$ で決まる座標の座標成分で表示しておく。<br/>
+
物体に力を加えて動かす時、力はこの物体に仕事をするという。<br/>
-
すると$\vec a \times \vec b=(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x)$ <br/>
+
仕事(の量)は力の大きさと動かした距離の積に比例する。<br/>
-
<br/>
+
正確には、加えられる力$\vec F$ が一定で、<br/>
 +
力の向きに対して角度$\theta$[rad] だけ傾いている直線上を $\vec s$ 移動したとき、<br/>
 +
''仕事W'' は、<br/>
 +
$W=\|\vec F\|\|\vec s\| \cos\theta$    <br/>  
 +
で定義する。<br/>
 +
ここで任意のヴェクトル$\vec a$に対して、$\|\vec{a}\|$はその大きさ$\sqrt{\sum_{i}a_i^2}$を表す。<br/>
-
命題7.<br/>
 
-
$(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b} =(\vec{b} \times \vec{c})\cdot\vec{a}$  <br/>
 
-
命題8. <br/>
+
特に、この式において$\theta=0$(すなわち $\cos\theta = 1$)とすると<br/>
-
$ \quad \vec{a(t)} $ $\vec{b(t)} $を,$t$にかんして微分可能な、ベクトルに値をとる関数とする。すると、<br/>
+
「加えられる力が一定であり力の方向が運動の方向と一致している場合」になり、<br/>
-
$ \quad \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$ は、$t$にかんして微分可能で、<br/>
+
$W=\|\vec F\|\|\vec s\| $ である。<br/>
-
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}) =(\frac{d}{dt}\vec{a(t)} )\times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times (\frac{d}{dt}\vec{b(t)})$<br/><br/>
+
また、$\theta=\pi/2$($\cos\theta = 0$)のとき、$W = 0$となる。<br/>
 +
すなわち、力が運動の方向と直角方向にはたらいている場合、その力は仕事をしない。 <br/>
-
これらの証明は、後節で扱う。
+
$W=\|\vec F\|(\|\vec s\| \cos\theta)$と表現すると、<br/>
-
ベクトル積に関しては以下を参照のこと。
+
仕事は、力の方向に$\|\vec s\| \cos\theta$だけ動かしたときの仕事に等しいことが分かる。<br/>
-
*[[wikipedia_ja:クロス積|ウィキペディア(クロス積)]]
+
-
====== 力のモーメントのベクトル積表示   ======
+
$W=(\|\vec F\| \cos\theta)\|\vec s\|$と表現すると、<br/>
-
ベクトル積の命題6を用いると、<br/>
+
仕事は、<br/>
-
位置ベクトル$\vec r$の点に作用する$\vec F$ の<br/>
+
大きさ$\|\vec F\| \cos\theta$ の$\vec s$方向の力を加えて、$\vec s$だけ動かしたときの仕事に等しい<br/>
-
原点まわりの力のモーメントは、$\vec N = \vec r \times \vec F$    <br/>
+
ことが分かる。
-
x軸まわりの回転力(トルク)は、$\vec N \cdot \vec e_x $ と表せることが分かる。<br/>
+
-
y軸とz軸周りの回転力も、それぞれ <br/>
+
-
$\vec N \cdot \vec e_y $ ,$\quad \vec N \cdot \vec e_z $
+
-
表せる。
+
-
===== 力のモーメントの性質    =====
 
-
もっと一般に、どんな軸の周りの回転力も、$\vec N$ から得られる。<br/>
 
-
定理;<br/>
 
-
$\vec e$を、原点を始点とする大きさ1の任意のベクトルとする。<br/>
 
-
すると、<br/>
 
-
$\quad$    $\vec N \cdot \vec e$は、力$\vec{F}$の$\vec e$軸の周りの回転力になる。式で書くと、$T_{\vec e}=\vec N \cdot \vec e $ <br/>
 
-
この式を、回転力の定義に基づいて言い換えると、<br/>
 
-
力$\vec{F}$のもとで、剛体を$\vec e$軸の右まわりに角度$\phi$だけ回転させたとき、
 
-
$\vec{F}$のなす仕事$W$は、$W=T_{\vec e} \phi=(\vec N \cdot \vec e) \phi$ <br/>
 
-
証明;<br/>
 
-
9つに分けて示す。<br/>
 
-
ⅰ)準備 <br/>
 
-
図のように、剛体の点 $P$ から、$\vec e$ 軸に垂線を下ろし、その足を $Q$ とする。<br/>
 
-
力 $\vec F$ のもとで、剛体が $\vec e$ を固定軸にして、<br/>
 
-
微小時間に、微小角$\delta \phi$ だけ回転したとする。<br/>
 
-
このとき、$P$ が移った先を、$P'$ とする。<br/>
 
-
ⅱ)回転角 $\delta \phi$ が微小なので、<br/>
 
-
この回転中の $P$ の軌跡(円弧の微小部分)は、有向線分$\vec{PP'}$ で精度高く、近似できる。<br/>
 
-
ⅲ)この間に力 $\vec F$ がなした仕事 $\delta W$ は、$\delta W=\vec{PP'} \cdot \vec F$    <br/>
 
-
この仕事を、回転角$\delta \phi$で割ると、力の $\vec e$ 軸周りの回転力が得られる。そこで、$\vec{PP'}$ を、この定理で与えられている諸量を使って表現し、これを用いて、仕事を計算しよう。<br/>
 
-
ⅳ)有向線分$\vec{PP'}$の方向を求める。<br/>
 
-
$\vec{PP'}$ は、$\vec e$ 軸と垂直で$Q$ を通る平面$H$上にあり、<br/>
 
-
$Q$を中心とする円の弧の微小部分をなすので、線分$QP$ と直交する。$\vec{PP'}\perp QP$
 
-
<br/>
 
-
また、$\vec e$ 軸と垂直で$Q$ を通る平面$H$上にあるので、
 
-
$\vec{PP'}$は$\vec e$ 軸とも直交し、従って線分$OQ$と直交する。$\vec{PP'}\perp OQ$
 
-
<br/>
 
-
ゆえに、$\vec{PP'}$ は、3点O,Q,Pを通る平面 $OQP$ と直交する。<br/>
 
-
すると、$\vec{PP'}$ は、平面 $OQP$ 上のすべての線分と直交する。<br/>
 
-
ゆえに、$\vec{PP'}\perp \vec e$,$\quad \vec{PP'}\perp \vec{OP}$ <br/>
 
-
これで、$\vec{PP'}$ の方向は、求まった。<br/>
 
-
ⅴ)有向線分$\vec{PP'}$ の向き <br/>
 
-
点 $P$ は、$\vec e$ 軸の周りを右周りに回転するので、その向きは、
 
-
$\vec e \times \vec{OP}$ と同じ向きである。<br/>
 
-
ⅵ)$\vec{PP'}$ の大きさ。<br/>
 
-
$\vec{PP'}$は、 $Q$ を中心とする、半径 $\| \vec{QP} \|$ の円弧の一部なので、
 
-
その中心角$\delta \phi$ を用いて、$\| \vec{PP'}\|=\|\vec{QP}\|\delta \phi$  <br/>
 
-
ⅶ)ⅳ)、ⅴ)、ⅵ)から 
 
-
$\vec{PP'}=\frac {\vec e \times \vec r}{\|\vec e \times \vec r \|}\|\vec{QP}\|\delta \phi$    <br/> 
 
-
ⅷ)$\vec{PP'}=\vec e \times \vec r \delta \phi$が成り立つ。<br/>
 
-
なぜなら、<br/>
 
-
$\|\vec e \times \vec r \|= \|\vec e \|\|\vec r \|\sin \theta =\|\vec r \|\sin \theta =\| \vec{QP} \| $ ,ここで $\theta$ は$\vec e$ と$\vec r$ の間の角。
 
-
<br/>
 
-
この式をⅶ)で得られた式に代入すれば、所望の結果が得られる。<br/>
 
-
ⅸ)$\delta W=\vec{PP'} \cdot \vec F
 
-
=(\vec e \times \vec r \delta \phi) \cdot \vec F
 
-
=(\vec e \times \vec r) \cdot \vec F \delta \phi
 
-
=(\vec r \times \vec F)\cdot \vec e \delta \phi$  <br/>
 
-
ⅹ)$ T_\vec e = \frac{\delta W}{\delta \phi} =(\vec r \times \vec F)\cdot \vec e =\vec N \cdot \vec e $  <br/>
 
-
定理の証明終わり。<br/> <br/>
 
-
(注)剛体が固定軸の周りでなく、自由に回転するときでも、<br/>
 
-
ある瞬間には、ある軸の周りの回転になっている。<br/>
 
-
力のモーメントは、どんな軸周りの回転力の情報も含んでいることが証明されたので、<br/> 
 
-
回転運動一般に有効な概念であることが分かる。<br/>
 
-
====剛体の複数個所に作用する力の回転力 ====
+
*[[wikipedia_ja:仕事 (物理学)|ウィキペディア(仕事)]]を参照のこと。<br/>
-
次に剛体の多くの点に力を加えたときの回転力を求めよう。<br/>
+
-
力の作用点を$P_i(x_i,y_i,z_i)$、力を$\vec{F^i}\quad (i=1,2,,,n)$とする。<br/>
+
-
これらの力のもとで剛体がz軸まわりを$\Delta\theta$だけ微小回転するときの、各力のなす仕事の合計は、<br/>
+
-
$(\sum_{i=1}^{n}(x_{i}(\vec F^i)_{y}-y_{i}(\vec F^i)_{x})*\Delta\theta$ <br/>
+
-
従って、作用点$P_i(x_i,y_i,z_i)$の力$\vec{F^i}\quad (i=1,2,,,n)$の全体がもつz軸まわりの回転力は、<br/>
+
-
$T_\vec{e_z}=\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_z} =\sum_{i=1}^{n}(x_{i}(F_{i})_{y}-y_{i}(F_{i})_{x}) \quad $ ここで$T^i_\vec{e_z}$は力$\vec F^i $のz軸まわりの回転力。<br/>
+
-
同様に、x軸まわりとy軸まわりの回転力も、それぞれ<br/>
+
===仕事の内積を用いた表現===  
-
$T_{\vec e_x}=\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_x} =\sum_{i=1}^{n}(y_{i}(F^i)_{z}-z_{i}(F^i)_{y})$ <br/>
+
内積は、仕事の記述や計算に便利な数学の概念である。
-
$T_{\vec e_y}=\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_y} =\sum_{i=1}^{n}(z_{i}(F^i)_{x}-x_{i}(F^i)_{z})$ <br/>
+
====内積の定義と仕事の内積表現====
-
力$\vec F^i $の原点周りに力のモーメント$\vec N^i$は$\vec N^i=(T^i_{\vec e_x},T^i_{\vec e_y},T^i_{\vec e_z})$で定義した。<br/>
+
ベクトル$\vec a,\vec b$の内積$ \vec a \cdot \vec b $は、$\|\vec{a}\|\|\vec{b}\|
-
全ての力の原点周りの力のモーメントも、同様に<br/>
+
\cos\theta$で定義する。<br/>
-
$\vec N=(T_{\vec e_x},T_{\vec e_y},T_{\vec e_z})$で定義する。すると、<br/>
+
ここで、$\theta$は、ベクトル$\vec a,\vec b$のなす角($0\le \theta \le \pi$ )である。
-
$\vec N=(\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_x},\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_y},\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_z})=\sum_{i=1}^{n}N^i$<br/>
+
-
全ての力の原点周りの力のモーメント$\vec N$も、上述の定理と同様の定理(定理の系と呼ぶ)が成り立つ。<br/>
+
-
定理の系 <br/>
+
-
$\vec N$を剛体に作用する全ての力のモーメントとし、<br/>
+
-
$\vec e$を、原点を始点とする大きさ1の任意のベクトルとする。<br/>
+
-
すると、<br/>
+
-
$\quad$    $\vec N \cdot \vec e$は、力$\vec{F}$の$\vec e$軸の周りの回転力になる。<br/>
+
-
式で書くと、$T_{\vec e}=\vec N \cdot \vec e $ <br/>
+
-
この式を、回転力の定義に基づいて言い換えると、<br/>
+
-
力$\vec{F^i}\quad (i=1,2,,, n) $のもとで、剛体を$\vec e$軸の右まわりに角度$\phi$だけ回転させたとき、<br/>
+
-
これらの力のなす仕事$W$は、$W=T_{\vec e} \phi=(\vec N \cdot \vec e) \phi$ <br/><br/>
+
-
この系は、内積の性質を使えば、定理から、容易に導かれる。<br/>
+
-
===== 質点系に作用する重力のモーメント    =====
+
-
n個の質点系を考える。<br/>
+
-
第i質点の質量を$m_i$、位置ベクトルを$\vec{r_{i}}$とする。<br/>
+
-
鉛直上方をz軸の正方向とする直交座標系$0-xyz$をいれる。<br/>
+
-
この質点系に作用する重力の原点周りのモーメント$\vec N$を求めよう。<br/>
+
-
第i質点に働く重力は、<br/>
+
-
$\vec{f^{i}}=(0,0,-m_{i}g)$<br/>
+
-
なので、<br/>
+
-
$\vec N=\sum_{i=1}^{n}\vec{r_{i}} \times \vec{f^{i}}
+
-
=\sum_{i=1}^{n}\vec{r_{i}} \times (0,0,-m_{i}g)$<br/>
+
-
$=\sum_{i=1}^{n}(m_{i}\vec{r_{i}} \times (0,0,-g))
+
-
=(\sum_{i=1}^{n}m_{i}\vec{r_{i}}) \times (0,0,-g))$<br/>
+
-
すでに学んだことから、この質点系の重心は、<br/>
+
-
$\vec{R}=\frac{\sum_{i=1}^{n}m_{i}\vec{r_{i}})}{M}$ <br/>
+
-
であった。ここで、 $M=\sum_{i=1}^{n}m_{i}$ 。<br/>
+
-
これを用いて、モーメントを書きなおすと、<br/>
+
-
$\vec N=M \vec{R} \times (0,0,-g)=\vec{R} \times (0,0,-Mg)$<br/>
+
-
となる。<br/>
+
-
これは、質点系の重心の位置に質点系の全質量が集中している時の、
+
-
原点周りの重力のモーメントに等しい。<br/>
+
-
====回転運動の方程式 ====
+
*[[wikibooks_ja:高等学校数学B ベクトル|ウィキブックス(高等学校数学B ベクトル)]] の1.1.6~ 1.1.8を参照のこと。<br/>
-
$\vec N$ が、あらゆる回転軸にかんする回転力を表現していることがわかった。<br/>
+
ウィキブックスでは2次元のベクトルを中心にして説明しているが、<br/>
-
力$F$と運動量の変化の関係をあたえるニュートンの運動方程式(第2法則)を変形して、<br/>
+
3次元ベクトルの場合にも、成り立つように修正することは容易である。<br/>
-
回転力$\vec N$にかんする方程式を導こう。<br/>
+
例えば、ベクトル$\vec a = (a _1,a _2,a_3)$の長さは、$\|\vec a\|= \sqrt {a _1^2 +a _2^2+a _3^2}$,<br/>
-
直交右手座標系$O-xyz$ を定める。原点 $O$ は、考察対象に都合のよい点を選ぶ。<br/>
+
ベクトルの内積は、この長さを使えば、全く同じ式で良い。
 +
===== 内積を使った 仕事の表現=====
-
剛体を$N$個の(質点と考えてよい)微小部分$P^i(i=1 \cdots N)$に分け、<br/>
+
内積 $\cdot $を用いると、<br/>
-
その質量を$m_i$、位置ベクトルを$\vec{r}^i(x_i,y_i,z_i)$とする。<br/>
+
物体に力$\vec{F}$を加えて、$\vec{PQ}$(P点からQ点まで)動かした時の力のなす仕事は、<br/>
-
$P_i$が外部から受ける力を$\vec {F}^i$、<br/>
+
$ W=\vec{F}\cdot\vec{PQ} $と表せる。<br/>
-
$P_i$ が剛体の他の部分$P_j(j\neq i)$ から受ける力(内力)を$\vec {F}^{ij}$とおく。<br/>
+
-
後者は、剛体が変形しないよう、剛体の原子間に働かせる力に起因する。<br/>
+
-
この原子間の力は、原子の電荷による電気力と、<br/>
+
-
原子同士が接近しすぎたときに作用する量子力学的力により生じる。<br/>
+
-
作用・反作用の法則(運動の第3法則)から、$\vec F^{ij}=-\vec F^{ji}$ 。<br/>
+
-
さらに、剛体の2点間に働く内力の方向は、<br/>
+
-
その2点を結ぶ直線の方向と同じだと、仮定する。<br/>
+
-
=====各質点のニュートンの運動方程式  =====
+
-
各質点ごとに、ニュートンの運動方程式を立てると、<br/>
+
-
$m_i\frac{d^2\vec r^i}{dt^2}=\vec F^i+\sum_{j\neq i}\vec F^{i,j} \quad (i=1 \cdots N)$ <br/>これを変形して<br/>
+
-
$\vec F^i=m_i\frac{d^2\vec r^i}{dt^2}-\sum_{j\neq i}\vec F^{i,j} \quad (i=1 \cdots N)$  $\qquad      (1)$ <br/>
+
-
この式から、<br/>
+
-
力$\vec F^i$の回転力$\vec N^i=\vec r^i \times \vec F^i$にかんする式を導こう。<br/>
+
-
=====$\vec N^i=\vec r^i \times \vec F^i$にかんする式の誘導  =====
+
===== 内積の性質=====
-
式(1)の両辺に左側から、$\vec r^i$ のベクトル積を施すと、<br/>
+
仕事は、前述のように内積で表現できるので、内積の性質を調べておくと、仕事について考察する時に役に立つ。<br/>
-
$\vec N^i=\vec r^i \times \vec F^i
+
$\vec a,\vec b,\vec c$が、すべて同じ次元(2か3)のベクトルとし、 $\alpha$は実数とする。<br/>
-
=\vec r^i \times (m_i\frac{d^2\vec r^i}{dt^2}-\sum_{j\neq i}\vec F^{i,j})
+
-
$  $(i=1 \cdots N) $  <br/>
+
-
ベクトル積の性質3と性質4により、<br/>
+
-
$=m_i\vec r^i \times \frac{d^2\vec r^i}{dt^2}-\sum_{j\neq i}\vec r^i \times\vec F^{i,j}$  $\qquad      (2)$  <br/>
+
-
ここで、ベクトル積の性質8より<br/>
+
-
$\frac{d}{dt}(\vec r^i \times \frac{d \vec r^i}{dt})
+
-
= \frac{d \vec r^i}{dt} \times \frac{d \vec r^i}{dt}
+
-
+\vec r^i \times \frac{d^2\vec r^i}{dt^2}
+
-
=\vec r^i \times \frac{d^2\vec r^i}{dt^2}$ <br/>
+
-
なので、
+
-
$\vec N^i=m_i\frac{d}{dt}(\vec r^i \times \frac{d \vec r^i}{dt})
+
-
-\sum_i\vec r^i\times \vec F^{i,j}    <br/>
+
-
= \frac{d}{dt}(\vec r^i \times m_i\frac{d \vec r^i}{dt})
+
-
-\sum_{j\neq i}\vec r^i\times \vec F^{i,j}      \qquad    (3)$   <br/>
+
-
質点$P_i$の運動量を$\vec P^i$と書くと、<br/>
+
-
$P^i=m_i\vec v^i=m_i\frac{d\vec r^i}{dt}$なので、<br/>
+
-
$\vec N^i=\frac{d}{dt}(\vec r^i \times \vec P^i)
+
-
-\sum_{j\neq i} \vec r^i \times \vec F^{i,j}   $ <br/>
+
-
定義;'''角運動量'''(運動量のモーメントともいう)<br/>
+
-
質点の位置ベクトルを$\vec r$、運動量を$\vec p$と書くとき、<br/>
+
-
$\vec l=\vec r \times \vec p$を,この質点の角運動量と呼ぶ。<br/>
+
-
これを用いると、<br/>
+
-
$\vec N^i=\frac{d\vec l^i}{dt}-\sum_{j\neq i} \vec r^i \times \vec F^{i,j} $
+
-
<br/>
+
-
===== 回転の運動方程式の導出  =====
+
(1)$\vec a \cdot \vec b =\vec b \cdot \vec a$ <br/>
-
故に、<br/>
+
(2)$\vec a \cdot \vec b =\sum_{i}a_ib_i$ <br/>
-
$\vec N=\sum_i\vec N^i=\frac{d\sum_i \vec l^i}{dt}-\sum_i \sum_{j\neq i} \vec r^i \times \vec F^{i,j} \qquad    (4) $ <br/>
+
ここで$a_1,b_1$はそれぞれ$\vec a,\vec b$のx座標成分、同様に、添え字2はy座標成分、3はz座標成分<br/>
-
ここで、<br/>
+
直交座標系はどんなものでも良い。しかしすべてのベクトルは同じ座標系で座標成分表示しなければならない。<br/>
-
$\sum_i \sum_{j\neq i} \vec r^i \times \vec F^{i,j}=\sum \sum_{i<j}\vec r^i \times \vec F^{i,j}+\sum \sum_{i>j}\vec r^i \times \vec F^{i,j} \qquad  (5)$ <br/>
+
(3)$(\vec a +\vec b) \cdot \vec c =\vec a \cdot \vec c+\vec b \cdot \vec c$   <br/>
-
式(4)の右辺の第2項の上付き添え字i,jを、それぞれ、j'と i'でおきかえられるので、<br/>
+
(4)$(\alpha \vec a)\cdot \vec b =\vec a \cdot (\alpha \vec b)=\alpha (\vec a \cdot \vec b)$ <br/>
-
$ \sum \sum_{i>j}\vec r^i \times \vec F^{i,j}
+
が成り立つ。 <br/>
-
=\sum \sum_{j'>i'}\vec r^{j'} \times \vec F^{j',i'}$ <br/>
+
-
内力は作用反作用の法則が適用できると仮定しているので、<br/>
+
-
$\vec F^{j',i'}=-\vec F^{i',j'}$ 。この式を上の式の右辺に代入すると、<br/>
+
-
$ \sum \sum_{i>j}\vec r^i \times \vec F^{i,j}
+
-
=-\sum \sum_{j'>i'}\vec r^{j'} \times \vec F^{i',j'}$ <br/>
+
-
この式の右辺の和をとる変数i',j' を  i,j におきかえると、<br/>
+
-
$\sum \sum_{i>j}\vec r^i \times \vec F^{i,j}=-\sum \sum_{i<j}\vec r^{j} \times \vec F^{i,j}$ <br/>
+
-
この式を、式(5)の右辺の第2項に代入して整頓すると、<br/>
+
-
$\sum_i \sum_{j\neq i} \vec r^i \times \vec F^{i,j}
+
-
=\sum \sum_{i<j}(\vec r^i - \vec r^{j}) \times \vec F^{i,j}$ <br/>
+
-
さらに、内力に関する第2の仮定により、$\vec r^i - \vec r^{j}$ と$\vec F^{i,j}$は同じ方向なので、ベクトル積の定義より、この項は、零となることが分かる。<br/>
+
-
故に、式(4)の右辺の第2項は零となり、<br/>
+
-
$\vec N=\frac{d\sum_i \vec l^i}{dt} \qquad (6) $  <br/>
+
-
が得られる。全角運動量を$\vec L =\sum_i \vec l^i $とおけば、<br/>
+
-
式(6)は、次のように書ける。<br/>
+
-
'''命題;回転運動の関するオイラーの運動方程式'''<br/>
+
(証明) <br/>
-
剛体の内力に上述の2つの仮定を付ける。このとき、<br/>
+
(1)は、内積の定義から明らか。 <br/>
-
剛体に作用する全ての外部力の原点周りの力のモーメント$\vec N=\sum_i\vec N^i=\sum_i\vec r^i \times \vec F^i$と、<br/>
+
(2);次の三角形の余弦定理を利用する。<br/>
-
全角運動量$\vec L =\sum_i \vec l^i =\sum_i \vec r^i \times \vec p^i$の間には、<br/>
+
三角形の[[wikipedia_ja:余弦定理|第2余弦定理]];<br/>
-
$\vec N=\frac{d\vec L}{dt} \qquad    $     (7)<br/>   <br/>
+
図のような$\triangle {ABC}$を考える。<br/>
-
この命題の導出までは詳しく述べたが、本テキストではこれ以上は深入りしない。<br/>
+
頂点A,B,Cの対辺の長さをそれぞれ$a,b,c$とし、$\angle{ACB}=\theta$とする。<br/>
-
この先にも興味がある方は、次の記事をご覧ください。
+
すると、$c^2=a^2+b^2-2ab\cos\theta$<br/>
-
*[[wikipedia_ja:オイラーの運動方程式 |ウィキペディア(オイラーの運動方程式)]]
+
余弦定理の証明;頂点$A$から対辺$BC$におろした垂線の足を$H$とする。<br/>
 +
[[wikipedia_ja:ピタゴラスの定理 |ピタゴラスの定理]]により、<br/>
 +
$c^2=\overline{BH}^2+\overline{AH}^2$。$\qquad$ 右辺の第2項に、再び、ピタゴラスの定理を適用して、<br/>
 +
$=\overline{BH}^2+(b^2-\overline{CH}^2)$ $\qquad$ $\overline{BH}=a-\overline{CH}$を代入すると、<br/>
 +
$=(a-\overline{CH})^2+(b^2-\overline{CH}^2)=a^2+b^2-2a\overline{CH}$,$\quad$ $\overline{CH}=b\cos\theta$なので、代入すると<br/>
 +
$=a^2+b^2-2ab\cos\theta$  <br/>
 +
証明終わり。<br/>
 +
(2)の証明  <br/>
 +
ベクトル$\vec a $と$\vec b $を、<br/>
 +
始点が点$C$である有向線分で表現し、その終点を$B$,$C$で表す。<br/>
 +
すると$\vec a=\vec{CB}$, $\vec b=\vec{CA}$である。<br/>
 +
ベクトル$\vec c=\vec a-\vec b$を導入すると、<br/>
 +
$\vec c=\vec a-\vec b=\vec{CB}-\vec{CA}=\vec{CB}+\vec{AC}=\vec{AB}$<br/>
 +
3角形$\triangle {ABC}$を考え、第2余弦定理を適用しよう。<br/>
 +
$\angle{ACB}=\theta$とおく。すると、<br/>
 +
$\|\vec c\|^2=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\|\vec a\|\|\vec b\|\cos{\theta}$<br/>
 +
$=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\vec a \cdot \vec b$が得られる。<br/>
 +
この式を変形して$\vec a \cdot \vec b$だけを左辺に置くと、<br/>
 +
$\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec c\|^2)/2$ 。<br/>
 +
$\vec c=\vec{AB}=\vec{AC}+\vec{CB}=-\vec b+\vec a$なので、<br/>
-
====  固定軸の周りの剛体の回転運動の方程式====
+
$\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec a-\vec b\|^2)/2 $  <br/>
-
回転運動の運動方程式から、任意の軸の周りの回転運動の方程式が簡単に導出できる。<br/>
+
この右辺を、ベクトルの直交座標成分で表すと、次式が得られる。 <br/>
-
z軸周りの場合を例にとり、説明する。<br/>
+
$\vec a \cdot \vec b=(\sum_{i}a_i^2+\sum_{i}b_i^2-\sum_{i}(a_i-b_i)^2 )/2 $<br/>$=\sum_{i}a_i b_i$ <br/>
-
z軸周りの回転力は$T_{\vec e_z}=\vec N \cdot \vec e_z$なので、<br/>
+
(2)の証明終わり。 <br/>
-
回転運動の方程式から<br/>
+
(性質3)の証明;ある一つの直交座標系をさだめ、両辺を、性質()を利用して、座標成分であらわす。両辺が等しいことが分かる。<br/>
-
$T_{\vec e_z}=\vec N \cdot \vec e_z
+
(性質4)の証明;同様に、3つの式を、座標成分表示すれば、みな等しいことが、簡単に分かる。
-
=\frac{d\vec L}{dt} \cdot \vec e_z$<br/>
+
-
この式の右辺に,$L=\sum_i \vec r^i \times \vec p^i$ を代入すると<br/>
+
-
右辺<br/>
+
-
$=\frac{d\sum_i \vec r^i \times \vec p^i}{dt}\cdot \vec e_z \qquad微分の加法性から  <br/>
+
-
$=(\sum_i \frac{d \vec r^i \times \vec p^i}{dt})\cdot \vec e_z \qquad$ 内積の加法性から <br/>
+
-
$=\sum_i(\frac{d \vec r^i \times \vec p^i}{dt}\cdot \vec e_z)  \qquad$ ベクトル積の性質8から  <br/>
+
-
$=\sum_i(\frac{dr^i}{dt}\times \vec p^i+\vec r^i \times \frac{d\vec p^i}{dt})\cdot \vec e_z$  $\qquad \vec p^i=m_i\frac{d\vec r^i}{dt} $を代入し、ベクトル積の性質を用いると、 <br/>
+
-
$=\sum_i(\vec r^i \times \frac{d^2 \vec r^i}{dt^2})\cdot \vec e_z$<br/>
+
-
故に、<br/>
+
-
$T_{\vec e_z}=\sum_i(m_i\vec r^i \times \frac{d^2 \vec r^i}{dt^2})\cdot \vec e_z\qquad (1) $<br/>
+
-
剛体はz軸の周りを回転するので、<br/>
+
-
その各点$P_i$(位置ベクトル$\vec r^i=\vec{OP_i}$)は、<br/>
+
-
z軸と直交する平面上を、z軸を中心とする円を描いて運動する。<br/>
+
-
この拘束条件を考慮して、<br/>
+
-
時刻$t$の位置ベクトル$\vec r^i(t)$の座標成分を書きなおすと、<br/>
+
-
$\vec r^i(t)=(x^i,y^i,z^i)=(\hat{r}_i\cos\theta_i(t),\hat{r}_i\sin\theta_i(t),z^i) \qquad (2)$<br/>
+
-
ここで$\hat{r}_i$は、点$P_i$とz軸との距離、<br/>
+
-
$\theta(t)$は、$\vec r^i(t)$をxy平面に正射影した像がx軸となす角度である。図参照。<br/>
+
-
剛体につけておいた印$P_s$の位置ベクトル$\vec{OP_s}$を<br/>
+
-
xy平面に正射影した像がx軸となす角(回転角)$\phi$を用いると、<br/>
+
-
$\theta_i(t)=\phi(t)+\phi_i \qquad (3)$<br/>
+
-
($\phi_i$は、$P_i$ごとに決まる、定数)と書ける。<br/>
+
-
式(1)の右辺を、式(2)を利用して、変形すると、<br/>
+
====物体が曲線運動するときの仕事量の求め方====  
-
$=\sum_i m_i\left((\hat{r}_i\cos\theta_i(t),\hat{r}_i\sin\theta_i(t),z^i)
+
力を受けた時の物体の運動は直線とは限らないが、運動の軌跡を細かく区切って眺めると、線分に近いので、物体の変位は、ごく短い線分をつなぎ合わせたものと考える。すると各線分毎に仕事を計算しそれをたせば、全体の仕事量を求めることができる。
-
\times
+
-
\hat{r}_i(-\cos\theta_i\dot{\theta_i}^2-\sin\theta_i\ddot{\theta_i},
+
-
-\sin \theta_i \dot{\theta_i}^2 +\cos \theta_i\ddot{\theta_i},                  0) \right)\cdot \vec e_z  $<br/>
+
-
$=\sum_i m_i\hat{r}_i\left((\hat{r}_i\cos\theta_i(t),\hat{r}_i\sin\theta_i(t),
+
-
z^i)
+
-
\times
+
-
(-\cos\theta_i\dot{\theta_i}^2-\sin\theta_i\ddot{\theta_i},
+
-
-\sin \theta_i \dot{\theta_i}^2 +\cos \theta_i\ddot{\theta_i},                  0) \right)_3$  <br/>
+
-
ベクトル積の性質6より、<br/>
+
-
$=\sum_i m_i\hat{r}_i$ <br/>
+
-
$\left(\hat{r}_i\cos\theta_i(t)
+
-
(-\sin\theta_i(t)\dot{\theta_i}(t)^2
+
-
+\cos\theta_i(t)\ddot{\theta_i}(t))
+
-
-\hat{r}_i\sin\theta_i(t)
+
-
(-\cos\theta_i(t)\dot{\theta_i}(t)^2
+
-
-\sin \theta_i(t)\ddot{\theta_i}(t) \right)$<br/>
+
-
$=\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2\ddot{\theta_i}(t)$<br/>
+
-
ここで、$\theta_i(t)=\phi(t)+\phi_i$を代入すると<br/>
+
-
$=(\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2)\ddot{\phi}(t)$<br/>
+
-
以上により、<br/>
+
-
$T_{\vec e_z}=\vec N \cdot \vec e_z$ <br/>
+
-
$=(\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2)\ddot{\phi}(t)$<br/>
+
-
が得られた。
+
-
$I=\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2$とおくと、この式は<br/>
+
-
$T_{\vec e_z}=I \ddot{\phi}(t) \qquad (4)$ <br/>
+
-
と書ける。ここで$I$を、'''剛体の軸まわりの慣性モーメント'''と呼ぶ。<br/>
+
-
これがz軸を固定軸とする剛体の回転運動の運動方程式である。<br/>
+
-
原点を始点とする任意の回転軸$\vec{e},\|\vec{e}\|=1$まわりの回転の方程式も同様に得られる。<br/>
+
-
この方程式の変数$\phi$ は、一次元のスカラーなので、<br/>
+
===エネルギー===
-
質点がなめらかに拘束され、直線上を運動するときの運動方程式<br/>
+
物質の持っている仕事をする能力をエネルギーという。
-
$F=m\ddot{x}$<br/>
+
*[[wikipedia_ja:エネルギー|エネルギー(ウィキペディア)]]の自然科学の項を参照のこと。
-
と、対比させる。すると、<br/>
+
-
質点に作用する力 $F$  <===> 剛体に作用する回転力$T_{\vec e}=\vec N \cdot \vec e$<br/>
+
-
質点の質量 $m$     <===> 剛体の$\vec{e}$軸まわりの慣性モーメント<br/>$ \qquad \qquad \qquad  \qquad \qquad \qquad I=\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2$、$\hat{r}_i$は質量$m_i$と$\vec{e}$軸を延長した直線との距離<br/>
+
-
質点の位置変数 $x(t)$  <===> 剛体の$\vec{e}$軸周りの回転角変数$\phi(t)$<br/>
+
-
質点の速度 $\dot{x}=\frac{dx(t)}{dt}$ <===>剛体の$\vec{e}$軸周りの角速度$\dot{\phi}(t)$;<br/>
+
-
質点の運動量 $m\dot{x}$ <===>  剛体の角運動量$I\dot{\phi}$;<br/>
+
-
運動方程式$F=m\ddot{x}$ <===> $T_{\vec e}=I\ddot{\phi}$
+
-
という、対応関係があることが分かる。<br/>
+
===仕事の単位===
-
この節で得た固定軸まわりの回転運動の方程式から、<br/>
+
仕事の定義$W=\|\vec F\|\|\vec s\| \cos\theta$から、仕事の単位は、力の大きさ$\|\vec F\|$の単位と長さ$\|\vec s\|$の単位を掛けたものになる($ \cos\theta$ は無単位なので )<br/>
-
もし$\vec N=0$ ならば、任意の軸まわりの回転力が零なので、<br/>
+
MKSA単位系では、力の大きさの単位は$N$(ニュートン)、長さの単位は$m$(メートル)なので、仕事の単位は$Nm$ となる。<br/>
-
剛体の任意の軸まわりの角加速度が零、角速度が一定となることが分かる。<br/>
+
これを$J$(ジュール)と呼ぶ。$J=Nm$である。
-
 
+
*[[wikipedia_ja:ジュール|ジュール(ウィキペディア)]]
-
=====剛体の回転の運動エネルギー  =====
+
-
剛体の各微小部分(質量$m_i$)の速度を $v_i$と書くと、<br/>
+
-
その運動エネルギーは $\frac{1}{2}m_i {v_i}^2,(i=1 \cdots n)$なので、<br/>
+
-
剛体全体の運動エネルギーは、$K=\sum_{i}\frac{1}{2}m_i {v_i}^2$ <br/>
+
-
回転運動している各微小部分の速度は、$v_i=\hat{r}_i\dot{\phi}$と書けるので、<br/>$K=\sum_{i}\frac{1}{2}m_i {\hat{r}_i}^2 {\dot{\phi} }^2=\frac{1}{2}I{\dot{\phi} }^2,\qquad (5)$ <br/>
+
-
=====物理振り子=====
+
-
剛体は、重心を通らない水平軸の周りで、重力の作用を受け振動する。<br/>
+
-
これを物理振り子、あるいは実体振り子という。<br/>
+
-
*[[wikipedia_ja:振り子 |ウィキペディア(振り子)]]
+
-
水平回転軸をx軸とし、鉛直上方をz軸の正方向とし、yz平面が剛体の重心を通る座標系を考え、<br/>
+
-
回転軸とこの平面の交点を原点$O$、重心を$G$と記す。図参照。<br/>
+
-
回転はなめらかで摩擦力は無視できるとする。<br/>
+
-
すると、回転軸から、この剛体が受ける力は、剛体をこの軸に支える作用を持つだけで、剛体の振動に何の影響も与えない。<br/>
+
-
そこで、剛体にかかる力は、重力だけと考えて良い。<br/>
+
-
重力の原点周りの力のモーメント$\vec N$は、<br/>
+
-
剛体の重心$\vec R$に、剛体の全質量$M$があるとしたときの<br/>
+
-
重力の原点周りのモーメントに等しいことが分かっている。
+
-
故に、<br/>
+
-
$\vec N=\vec R \times (0,0,-Mg)=(-R_{2}Mg,R_{1}Mg,0)$<br/>
+
-
x軸まわりの力のモーメントは、<br/>
+
-
$\vec N \cdot \vec e_{x}=-R_{2}Mg=-Mg\|\vec{OG}\|\sin\phi$<br/>
+
-
従って、回転の運動方程式は<br/>
+
-
$I\frac{d^{2}\phi}{dt^2}=-Mg\|\vec{OG}\|\sin\phi$<br/>
+
-
ここで$I$は、軸まわりの、振り子の慣性質量。
+
-
 
+
-
=====剛体の慣性モーメントの計算(一次元の剛体) =====
+
-
剛体$V$は、ごく細く、まっすぐな棒で,<br/>
+
-
長さ$l$、質量密度(単位長さあたりの質量)は一定で$\rho$とする。<br/>
+
-
棒の左端から$l_1$の場所$O$を通り、棒に直交する軸まわりの慣性モーメントを具体的に計算しよう。<br/>
+
-
$O$を原点とし、棒と同じ方向の数直線を考え、これを座標系として採用。<br/>
+
-
$V=[a=-{l_1},b=l-l_1]$と表現する。<br/>
+
-
剛体$V$の慣性モーメントは、<br/>
+
-
剛体を質点とみなせるほど細かい部分$V_i=[x_{i-1},x_i],(i=1,2,,,n)$に分割して、<br/>
+
-
各$V_i$の質量$m_i$と、$V_i$と$O$との距離$\hat{r}_i$を用いて、<br/>
+
-
$I=\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2$で定義した。但し$x_0=a,x_n=b$<br/>
+
-
 
+
-
======'''剛体の分割と慣性モーメントの近似式・リーマン和''' ======
+
-
 
+
-
$V_i$の質量$m_i$は、$V_i$の長さ$x_i-x_{i-1}$に質量密度$\rho$を掛ければ得られるので<br/>
+
-
$m_i=\rho (x_i-x_{i-1})$であり、<br/>
+
-
$I=\sum_i \rho (\hat{r}_i)^2(x_i-x_{i-1})$<br/>
+
-
と書ける。<br/>
+
-
しかし、剛体$V=[a,b]$をいくら細かく分割しても、<br/>
+
-
各小区間$V_i=[x_{i-1},x_i]$は大きさ(長さ)をもつので、<br/>
+
-
原点との距離$\hat{r}_i$は、一つに定まらない。<br/>
+
-
そこで、各小区間$V_i$から、代表点$\xi_i$を選びだし、その点の原点からの距離$|\xi_i|$、($\xi_i$絶対値)を、$\hat{r}_i$とみなす。<br/>
+
-
すると、慣性モーメント$I$の式は<br/>
+
-
$\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2=\sum_i \rho(\xi_i)^2(x_i-x_{i-1})$<br/>
+
-
で近似される。<br/>
+
-
 
+
-
そこで、この分割を<br/>
+
-
$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,,n\} $
+
-
と表し、
+
-
$I^{\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$<br/>
+
-
で,慣性モーメントの近似式を表すことにする。<br/>
+
-
すると、<br/>
+
-
 
+
-
'''慣性モーメントの近似式'''は、<br/>
+
-
$I^{\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\sum_{i=1}^{n}\rho(\xi_i)^2(x_i-x_{i-1})\qquad  (1)$<br/>
+
-
と書ける。<br/>
+
-
この値は分割の仕方と分割小区間の代表点$\xi_i(\in V_i)$の選び方によって変化する。<br/>
+
-
$V_i$の中で、原点に最も近い点${{\xi}^m}_i(\in V_i)(i=1,2\cdots,n)$にとると<br/>
+
-
最小値
+
-
$I_{m}(\Delta):=\sum_{i=1}^{n}\rho({{\xi}^m}_i)^2(x_i-x_{i-1})$<br/>
+
-
をとり、<br/>
+
-
$V_i$の中で、原点に最も遠い点${{\xi}^M}_i(\in V_i)(i=1,2\cdots,n)$にとると<br/>
+
-
最大値 $I_{M}(\Delta):=\sum_{i=1}^{n}\rho({{\xi}^M}_i)^2(x_i-x_{i-1})$<br/>
+
-
を取る。<br/>
+
-
関数$y=f(x)=\rho x^2$を使って表現すれば、<br/>
+
-
$I^{\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\sum_{i=1}^{n}f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$<br/>
+
-
であり、$I_{m}(\Delta)\leq I^{\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)\leq I_{M}(\Delta)$を満たす。<br/>
+
-
質量密度が場所で変わるときは、、関数は$y=f(x)=\rho(x) x^2$になり、<br/>
+
-
剛体の重心を求めるときは、後述するように、別の関数が現れる。<br/>
+
-
そこで、数学の分野では、一般の関数$y=f(x)$にたいして<br/>
+
-
$I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\sum_{i=1}^{n}f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})\qquad (2)$<br/>
+
-
を求め、分割$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,,n\} $と$V_i$の代表点$\xi_i,(i=1,2,,,n)$に関する関数$y=f(x)$の'''リーマン和'''と呼ぶ。<br/>
+
-
その最小値$I_{m}(f,\Delta)$と最大値$I_{M}(\Delta)$も,同様に定義される。<br/><br/>
+
-
$I_{m}(f,\Delta)\leq I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)\leq I_{M}(\Delta)\qquad (3)$
+
-
慣性モーメントの近似式(1)は、関数$y=f(x)=\rho(x) x^2$にたいするリーマン和である。
+
-
 
+
-
======慣性モーメントの近似式の意味 ======
+
-
今後、関数$y=f(x)$は、$V=[a,b]$で定義された有界関数として、
+
-
議論を進める。<br/>
+
-
有界関数とは、十分大きな正数$M$を選べば、<br/>
+
-
$V=[a,b]$の全ての点$x$に対して、$|f(x)| \leq M$となること。<br/>
+
-
$y=f(x)=\rho x^2$を代入すれば、考察対象の剛体の慣性モーメントの話になる。<br/>
+
-
リーマン和<br/>
+
-
$I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\sum_{i=1}^{n}f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$<br/>
+
-
は、$y=f(x)$のグラフを、棒グラフで近似したときの棒グラフの作る面積(各角柱の面積和)であることが分かる。図参照。<br/>
+
-
また、$I_{m}(f,\Delta)$は一点鎖線でしめす、小さいほうの長方形の和であり、<br/>
+
-
$I_{Mm}(f,\Delta)$は点線でしめす、大きいほうの長方形の和である。
+
-
 
+
-
 
+
-
$I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$は、$y=f(x)$のグラフとx軸およびy軸と平行な直線$x=a$、$x=b$で囲まれる部分の面積$S$を近似している。<br/>
+
-
また、$I_{m}(f,\Delta)\leq S \leq I_{Mm}(f,\Delta)  \qquad (4)  $<br/>
+
-
であり、<br/>
+
-
$I_{m}(f,\Delta)$は面積を下から評価し、<br/>
+
-
$I_{M}(f,\Delta)$は面積を上から評価していることがわかる。<br/>
+
-
分割を限りなく細かくしていくとき、<br/>
+
-
リーマン和が分割や代表点の選び方に関係ない数に収束するならば、<br/>
+
-
その極限値は、<br/>
+
-
$y=f(x)$のグラフとx軸およびy軸と平行な直線$x=a$、$x=b$で囲まれる部分の面積<br/>
+
-
と考えられる。<br/>
+
-
もし、分割$\Delta$を細かくしていくとき<br/>
+
-
$I_{m}(f,\Delta)$と$I_{M}(f,\Delta)$が同じ値に収束することが示せれば、<br/>
+
-
(3)式と(4)式から、リーマン和は、関数のグラフの作る面積$S$に収束することが分かった。
+
-
 
+
-
======可積分の定義と積分 ======
+
-
「分割を細かくしていくとき、リーマン和が収束する」ということは、<br/>
+
-
面積を決める上で決定的に重要がことなので、<br/>
+
-
可積分という名を付けて、数学的に厳密に定義する。
+
-
このためにはまず、分割の大きさを定める必要がある。<br/>
+
-
'''定義:分割の大きさ'''<br/>
+
-
分割 $\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,,n\} $の大きさとは、<br/>
+
-
$d(\Delta):=max_{i=1,2,\cdots n}(x_i-x_{i-1})$<br/>
+
-
 
+
-
'''定義:可積分と積分'''<br/>
+
-
$f$を、有界閉区間$V$上で定義され、実数の値をとる関数とする。<br/>
+
-
 
+
-
もし、ある実数$I$が存在して、<br/>
+
-
どんな分割$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,,n\} $と代表点$\xi_i\in V_i(i=1,2,\cdots ,n)$であっても、<br/>
+
-
$\lim_{d(\Delta) \to 0}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=I$<br/>
+
-
が成り立つ時、<br/>
+
-
$f$は$V$上で(リーマン)可積分であるという。<br/>
+
-
このとき、$I$ を$f$の$V$上での(リーマン)積分といい、<br/>
+
-
$I=\int_{V}f=\int_{V} f(x)dx$<br/>
+
-
などと書く。
+
-
 
+
-
====== 積分の性質 ======
+
-
定理(積分の線形性)<br/>
+
-
$f, g \quad$を、区間$I$上で定義された、任意の実数値関数であり、<br/>
+
-
$c, d \quad$を任意の実数とする。<br/>
+
-
このとき、<br/>
+
-
(1)$f,\quad g \quad$が$I$上で可積分ならば、$cf+dg \quad$も$I$上で可積分<br/>
+
-
(2)このとき、$ \int_{I}(cf+dg)=c\int_{I}f+d\int_{I}g $<br/><br/>
+
-
 
+
-
証明;リーマン和の定義から、区間$I$の任意の分割$\Delta=\{I_1,,,,I_n\} $と
+
-
分割区間の任意の代表点$\xi\in V_i(i=1,2,,,,n) $($\xi$は$V_i$に含まれる意)に対して、<br/>
+
-
$S(cf+dg,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n})
+
-
=cS(f,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n})
+
-
+dS(g,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n})    \qquad (1)$<br/>
+
-
$f,\quad g \quad$は可積分なので、その定義から、<br/>
+
-
$\lim_{d(\Delta) \to 0}S(f,\Delta,\{\xi_i\})=\int_{I}f $<br/>
+
-
$\lim_{d(\Delta) \to 0}S(g,\Delta,\{\xi_i\})=\int_{I}g $<br/>
+
-
(1)式の両辺の極限$\lim_{d(\Delta) \to 0}$ をとろう。 <br/>
+
-
右辺の極限<br/>
+
-
$=\lim_{d(\Delta) \to 0}
+
-
\left(cS(f,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n})
+
-
+dS(g,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n}\right)  $ <br/>
+
-
極限の性質から、<br/>
+
-
$=c\lim_{d(\Delta) \to 0}S(f,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n})
+
-
+d\lim_{d(\Delta) \to 0}S(g,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n} $ <br/>
+
-
$=c\int_{I}f+d\int_{I}g $<br/>
+
-
従って(1)式の左辺の極限$ \int_{I}(cf+dg)$ も存在して、右辺の極限と一致する。
+
-
証明終わり。<br/><br/>
+
-
======慣性モーメントの計算(1)リーマン和の極限を求める方法======
+
-
$V$は、先述の、ごく細い一様な質量密度$\rho=M/l$のまっすぐな棒で、<br/>
+
-
座標系を入れて、$V=[a=-{l_1},b=l-l_1]$と表現しておく。<br/>
+
-
原点を通りこの棒と直交する軸のまわりの(この棒の)慣性モーメントを、<br/>
+
-
リーマン和の極限を取って求めよう。<br/>
+
-
区間$V=[-{l_1},l-l_1]$をn($\geq 2$)等分して得られる点列,<br/>
+
-
${x^n }_0=-l_1, {x^n }_1={-l_1}+l/n,  {x^n }_i={-l_1}+i(l/n),,,{x^n }_n=l-{l_1}$<br/>
+
-
を分点とする分割を${\Delta}^n$と記す。すると、<br/>
+
-
${x^n }_i-{x^n }_{i-1}=l/n,\quad(i=1,2,,,n)$, $d({\Delta}^n)=l/n$であり、<br/>
+
-
${\Delta}^n=\{{V^n}_j=[{x^n}_{j-1},{x^n}_j] \mid j=1,2,,,n\}$  <br/>
+
-
$\{{\Delta}^n \mid n=2,3,,,\}$という分割の列は、<br/>
+
-
$\lim_{n\to\infty} d({\Delta}^n)=\lim_{n\to\infty}\frac{l}{n}=0$を満たす。<br/>
+
-
$y=f(x)=\rho x^2$がリーマン可積分であることを認めれば、<br/>
+
-
可積分の定義から、どんな代表点${{\xi}^n}_j\in {V^n}_j$を選んでも、<br/>
+
-
$\lim_{n\to \infty}I^{f,{\Delta}^n}({{\xi}^n}_1,{{\xi}^n}_2,,,{{\xi}^n}_n)=I$となる。<br/>
+
-
 
+
-
そこで、代表点を${{\xi}^n}_j={x^n}_j=-l_1+j(l/n) \quad (n=2,,,),(j=1,2,,,,n)$と選ぶ。<br/>
+
-
関数$y=f(x)=\rho x^2$を用いると、
+
-
分割$\Delta^n$を用いた慣性モーメントの近似値は次のようになる。<br/>
+
-
$I^{f,{\Delta}^n}({x^n}_1,{x^n}_2,,,,{x^n}_n)
+
-
=\sum_j f({x^n}_j)1/n
+
-
=\sum_j f(-{l_1}+j(1/n))\frac{l}{n}
+
-
=\rho\sum_{j=1}^{n} (-{l_1}+j(1/n))^2\frac{l}{n}  $  <br/>
+
-
ここで、
+
-
$\sum_{j=1}^{n} j=\frac{1}{2}n(n+1),\quad \sum_{j=1}^{n} j^2=\frac{1}{6}n(n+1)(2n+1)$(注参照)を利用して、この式を計算すると、<br/>
+
-
$=\rho l ({l_1}^2-{l_1}l\frac{n+1}{n}+\frac{l^2}{6} \frac{n+1}{n} \frac{2n+1}{n})$<br/>
+
-
$\rho=M/l$なので、<br/>
+
-
$=M({l_1}^2-{l_1}l\frac{n+1}{n}+\frac{l^2}{6} \frac{n+1}{n} \frac{2n+1}{n})$<br/>
+
-
故に、<br/>
+
-
$I=\lim_{n\to \infty}I^{f,{\Delta}^n}({x^n}_1,{x^n}_2,,,,{x^n}_n)
+
-
=\frac{M}{3}(l^2-3{l_1}l+3{l_1}^2)$<br/><br/>
+
-
+
-
(注)$S_{1}:=\sum_{j=1}^{n} j=\frac{1}{2}n(n+1)$の証明<br/>
+
-
$(j+1)^{2}-j^{2}=2i+1$  なので、両辺のj=1,2,,,n に関する和を取る。<br/>
+
-
左辺の和は$\sum_{j=1}^{n}((j+1)^{2}-j^{2})=(n+1)^{2}-1$<br/>
+
-
右辺の和は$\sum_{j=1}^{n}(2j+1)=2\sum_{j=1}^{n}j+n=2S_{1}+n$<br/>
+
-
故に、$(n+1)^{2}-1=2S_{1}+n$
+
-
$(n+1)^{2}-1-n=2S_{1}$  $S_{1}=\frac{1}{2}\left((n+1)^{2}-1-n\right)=\frac{1}{2}n(n+1)$<br/>
+
-
$S_{2}:=\sum_{j=1}^{n} j^2=\frac{1}{6}n(n+1)(2n+1)$の略証<br/>
+
-
$(j+1)^{3}-j^{3}=3j^2+3j+1$なので、この両辺のj=1,2,,,nに関する和を取る。<br/>
+
-
左辺の和は$(n+1)^{3}-1$、右辺の和は$3S_{2}+3S_{1}+n$,故に$3S_{2}+3S_{1}+n=(n+1)^{3}-1$<br/>
+
-
 
+
-
 
+
-
======慣性モーメントの計算(2)原始関数を利用する方法======
+
-
積分可能な関数の積分をリーマン和の極限から求める計算は煩雑であり、複雑な形状の剛体の慣性モーメントを求めるにはふさわしくない。<br/>
+
-
次の定理が強力な計算法を提供する。<br/>
+
-
 
+
-
定理<br/>
+
-
$V=[a,b]$を数直線上の区間、<br/>
+
-
$f$を$V$上可積分な実数値関数<br/>
+
-
とする。<br/>
+
-
もし$F$が、<br/>
+
-
$V$上で微分可能で<br/>
+
-
全ての$V$の点$x$で、$\frac{d}{dx}F(x)=f(x)$<br/>
+
-
を満たす関数ならば(注参照)、<br/>
+
-
$\int_{[a,b]}f=F(b)-F(a)$<br/>
+
-
上記の条件を満たす関数$F$を、$f$の'''原始関数'''という。<br/>
+
-
(注)関数$F$は、$V$上でしか定義されていないので、<br/>
+
-
端点$a,b$では、通常の微分は定義できない。そこで、<br/>
+
-
$\frac{d}{dx}F(a):=\lim_{h \to 0,h\geq 0}\frac{F(a+h)-F(a)}{h}$  <br/>
+
-
$\frac{d}{dx}F(b):=\lim_{h \to 0,h\leq 0}\frac{F(b+h)-F(b)}{h}$  <br/>
+
-
と定義する。<br/>
+
-
証明;<br/>
+
-
区間$[a,b]$の任意の分割<br/>
+
-
$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i]\mid 1 \leq i \leq n,x_0=a,x_n=b\}$<br/>
+
-
に対して、<br/>
+
-
代表点を$\xi_i\in V_i$($\xi_i$は$V_i$の点の意)とすると、
+
-
$f$のリーマン和は<br/>
+
-
$I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$<br/>
+
-
$=\sum_i f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$ <br/>
+
-
小区間$V_i=[x_{i-1},x_i]$での関数$F$の平均勾配<br/>
+
-
$\frac{F(x_i)-F(x_{i-1})}{x_i-x_{i-1}}$<br/>
+
-
は、平均値の定理により、<br/>
+
-
$V_i=[x_{i-1},x_i]$の中のある一点$\eta_i$における$y=F(x)$の接線の勾配<br/>
+
-
$\frac{d}{dt}F(\eta_i)$に等しので、<br/>
+
-
$\frac{F(x_i)-F(x_{i-1})}{x_i-x_{i-1}}=\frac{d}{dt}F(\eta_i)=f(\eta_i)$<br/>
+
-
故に、$f(\eta_i)(x_i-x_{i-1})=F(x_i)-F(x_{i-1})$<br/>
+
-
そこで、各小区間$V_i$の代表点を$\eta_i,(i=1,2,,,n)$と選べば、<br/>
+
-
$I^{f,\Delta}(\eta_1,,,\eta_n)$<br/>
+
-
$=\sum_i f(\eta_i)(x_i-x_{i-1})$ <br/>
+
-
$=\sum_{i=1}^{n}\left(F(x_i)-F(x_{i-1})\right)$<br/>
+
-
$=F(x_n)-F(x_0)=F(b)-F(a)$<br/>
+
-
$f$は可積分なので、
+
-
$\int_{[a,b]}f=\lim_{d(\Delta)\to 0}I^{f,\Delta}(\eta_1,,,\eta_n)$<br/>
+
-
$=\lim_{d(\Delta)\to 0}(F(b)-F(a))=F(b)-F(a)$<br/>
+
-
証明終わり。<br/><br/>
+
-
さて、慣性モーメントを求めたい剛体では、<br/>
+
-
$f(x)=\rho x^2$なので、その原始関数は、<br/>
+
-
$F(x)=\frac{1}{3}\rho x^3$<br/>
+
-
従って、慣性モーメントは、定理を適用して、<br/>
+
-
$I=\int_{[a,b]}\rho x^2=\frac{1}{3}\rho (b^3-a^3)$<br/>
+
-
$\rho=M/l$,$a=-l_1,b=l-l_1$を代入して、整頓すると、<br/>
+
-
$=\frac{M}{3}(l^2-3l_{1}l+3{l_1}^2)$
+
-
======  重心の計算への応用 ======
+
-
質量密度が場所により変わる、長さ$l$のごく細い棒$V$の重心を求めてみよう。<br/>
+
-
考えやすくするため、
+
-
棒の一端を原点にし、他端がx軸の正の位置にくるように座標系$O-x$をいれる。<br/>
+
-
この座標系で剛体は$V=[0,l]$と書ける。
+
-
$V$を小区間$V_i=[{x^n}_{i-1},{x^n}_{i}],i=1,2.\cdots,n),{x^n}_n=0,{x^n}_n=l$に分割(分割$\Delta$と記す)し、これらの小区間を質点とみなせば、その重心は、<br/>
+
-
$\vec{R}=\sum_i{ m_i \vec{r_i}}/M $ <br/>
+
-
で定義された(1.1.1節参照)。ここで$m_i $ は第i質点の質量、$M=\sum_{i} m_i$、
+
-
$\vec{r_i}$は第i質点の位置ベクトル。 <br/>
+
-
ベクトルを座標成分表示すると、この問題では一次元なので、
+
-
$R=\sum_{i} m_i r_i/M $、$M=\sum_{i} m_i$ <br/>
+
-
しかし、実際には $V_i$は、質点ではないので、
+
-
位置ベクトルは、定まらない。<br/>
+
-
またその質量も密度が一定ならば、$m_i=\rho ({x^n}_{i}- {x^n}_{i-1})$できまるが、<br/>
+
-
密度が変化するならば、定まらない。<br/>
+
-
そこで、各小区間 $V_i$の代表点$\xi_i (\in V_i)$を選び<br/>
+
-
$m_i=\rho(\xi_i)({x^n}_{i}- {x^n}_{i-1})$,$r_i=\xi_i $<br/>
+
-
で近似する。<br/>
+
-
すると分割$\Delta$と代表点$\{\xi_i\}_{i=1}^{n}$に対応する、
+
-
質量$M$と重心$G$の近似値は、それぞれ<br/>
+
-
$M^{\rho,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$<br/>
+
-
$=\sum_i \rho(\xi_i)v(V_i)=\sum_i \rho(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$ <br/>
+
-
<br/>
+
-
 
+
-
$G^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$<br/>
+
-
$=\sum_i f(\xi_i)v(V_i)=\sum_i f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$ <br/>
+
-
ここで、$f(x)=\frac{1}{M}\rho(x)x$<br/>
+
-
もし、関数$\rho(x)$が積分可能ならば、分割$\Delta$を細かくしていけば
+
-
$M=\lim_{d(\Delta) \to 0}M^{\rho,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$<br/>
+
-
$=\int_{[0,l]}\rho$<br/>
+
-
もし関数$\rho$の原始関数$P$が存在する($\rho(x)=\frac{dP(x)}{dx}$)ならば<br/>
+
-
$=P(l)-P(0)$<br/>
+
-
もし関数$f(x)$も積分可能ならば、分割$\Delta$を細かくしていけば
+
-
$G=\lim_{d(\Delta) \to 0}G^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$<br/>
+
-
$=\int_{[0,l]}f$<br/>
+
-
もし関数$f$の原始関数$F$が存在する($f(x)=\frac{dF(x)}{dx}$)ならば<br/>
+
-
$=F(l)-F(0)$<br/>
+
-
例;$\rho(x)=\rho_0$ならば、$P(x)=\rho_0 x$なので  $M=\rho_0 l$<br/>
+
-
また、$f(x)=\frac{1}{M}\rho_{0}x$となるので$F(x)=\frac{1}{2M}\rho_{0}x^2$
+
-
となり、$G=F(l)-F(0)=\frac{l}{2}$<br/>
+
-
例;$\rho(x)=x$ならば、$P(x)=\frac{x^2}{2}$なので  $M=\frac{l^2}{2}$<br/>
+
-
このとき$f(x)=\frac{1}{M}\rho(x)x=\frac{1}{M}x^2$なので<br/>
+
-
$F(x)=\frac{1}{3M}l^3$である。$G=F(l)-F(0)=\frac{2l}{3}$<br/>
+
-
 
+
-
===== 2次元以上の物体の慣性モーメントについて =====
+
-
====  てこの原理と力のモーメント====
+
-
図のように剛体の棒の中間に支点$O$があり、<br/>
+
-
この点をとおり、図面に垂直な軸の周りを自由に回転する装置を梃子(てこ)と呼ぶ。
+
-
=====てこの原理=====
+
-
梃子の端$A_1$に力$\vec{f^1}$が作用し、他端$A_2$に力$\vec{f^2}$が作用して、<br/>
+
-
つりあう(静止し続ける)とき、2つの力の間にはどのような関係があるだろうか。<br/>
+
-
棒は軽くて無視できるとして考察する。<br/>
+
-
軸周りに静止し続けるということは、<br/>
+
-
固定軸まわりの運動方程式(1.4.3.5節)から、<br/>
+
-
梃子に働く外力$\vec{f^1}, \vec{f^2}$の、回転軸まわり回転力が零であることを意味する。<br/>
+
-
$O$を原点、回転軸をz軸,梃子の棒をx軸とする、直交座標系$O-xyz$を導入すると、<br/>
+
-
$\vec{OA_1}=(-l_1,0,0),\quad \vec{OA_2}=(l_2,0,0)$<br/>
+
-
$\vec{f^1}=({f^1}_x,{f^1}_y,{f^1}_z),\quad
+
-
\vec{f^2}=({f^2}_x,{f^2}_y,{f^2}_z)$<br/>
+
-
と表現できる。<br/>
+
-
そこで、1.4.3.2.3節(z軸まわりの回転力の導出)から<br/>
+
-
z軸まわりのトルク(回転力)は
+
-
$T_{\vec{e_z}}=-l_{1}{f^1}_y+l_{2}{f^2}_y$<br/>
+
-
となる。<br/>
+
-
従って<br/>
+
-
'''つりあい条件は、'''<br/>
+
-
'''$l_{1}{f^1}_y=l_{2}{f^2}_y$ '''  <br/>
+
-
これを'''てこの原理'''という。<br/>
+
-
$l_{2}$ を$l_{1}$に比べて、非常に大きくとれば、<br/>
+
-
少しの力${f^2}_y$で非常に大きな力${f^1}_y$と釣り合わせることが出来ることが分かる。<br/>
+
-
てこの原理については、
+
-
*[[wikipedia_ja:てこ|ウィキペディ(てこ)]]
+
-
も参照のこと。
+
-
 
+
-
====  剛体に働く力の作用線====
+
-
力が作用する点を着力点といい、<br/>
+
-
着力点を通り力のベクトルと方向が等しい直線を、力の作用線という。<br/>
+
-
剛体に働く力は、その着力点をかえると、一般には、剛体の運動への効果が異なってしまう。<br/>
+
-
しかし、力のベクトル和と、力のモーメント和が不変となるように力の着力点を移動したり力の合成をすることは、<br/>
+
-
剛体の運動には全く影響がでないので、許される。<br/>
+
-
例えば、力の着力点をその作用線にそってうごかしたり、<br/>
+
-
同じ着力点をもつ複数の力を、それらのベクトル和に置き換えることは許される。。
+
-
<br/>
+
-
 
+
-
====  剛体のつり合い====
+
-
いくつかの力が作用し、剛体が静止したままであるか、<br/>
+
-
重心$G$が等速直線運動(静止も含む)を続け、<br/>
+
-
重心の周りの回転が変化しない(回転しないままか、同じ回転を続ける)場合に、<br/>
+
-
剛体(に作用している力)は釣り合っているという。<br/>
+
-
重心が等速直線運動を行うのは、<br/>
+
-
剛体に作用する外力のベクトル和が0になることであり、その場合に限る。<br/>
+
-
これについては、「1.1.1  質点系の運動と重心」で説明した。<br/>
+
-
重心周りの回転が変化しないのは、重心まわりの外力のモーメントの総和が0になることであり、この場合に限る。これについては、「1.2.3.5 固定軸の周りの剛体の回転運動の方程式」で説明した。<br/>
+
-
定理;剛体のつり合い<br/>
+
-
剛体に、外力$\vec{F^1},\vec{F_2},,,,\vec{F_n}$がはたらいている。<br/>
+
-
このとき、次の条件は同等である。<br/>
+
-
ⅰ)剛体は釣り合っている。<br/>
+
-
ⅱ)外力のベクトル和が零で、重心$G$まわりの外力のモーメントの和が零。<br/>
+
-
ⅲ)外力のベクトル和が零で、任意の固定点$P$まわりの外力のモーメントの和が零。<br/>
+
-
証明;条件ⅰ)とⅱ)が同等であることは、すでに、説明した。<br/>
+
-
条件ⅱ)とⅲ)の同等性を示そう。<br/>
+
-
外力の和が零であるという条件の下で、<br/>
+
-
「任意の固定点$P$まわりの外力のモーメントの和$\vec N_{P}$は常に等しい」<br/>
+
-
ことを示せば良い。<br/>
+
-
外力$\vec{F^i}$の作用点を$\vec {P_i}(i=1,2,\cdots n)$とする。<br/>
+
-
すると、<br/>
+
-
$P$まわりの外力のモーメントの和$\vec N_{P}$は<br/>
+
-
$\vec N_{P}=\sum_{i=1}^{n}\vec{PP_i}\times \vec{F^i} \qquad \qquad (1)$
+
-
 
+
-
任意の点$Q$まわりの外力のモーメントの和$\vec N_{Q}$は<br/>
+
-
$\vec N_{Q}=\sum_{i=1}^{n}\vec{QP_i}\times \vec{F^i} \qquad \qquad (2)$<br/>
+
-
 
+
-
$\vec{PP_i}=\vec{PQ}+\vec{QP_i}$を(1)式に代入すると<br/>
+
-
$\vec N_{P}=\sum_{i=1}^{n}\vec{PP_i}\times \vec{F^i}
+
-
=\sum_{i=1}^{n}(\vec{PQ}+\vec{QP_i})\times \vec{F^i}$<br/>
+
-
ベクトル積の性質から、<br/>
+
-
$=\sum_{i=1}^{n}(\vec{PQ}\times \vec{F^i}+\vec{QP_i}\times \vec{F^i})
+
-
=\vec{PQ}\times \sum_{i=1}^{n}\vec{F^i}+\sum_{i=1}^{n}\vec{QP_i}\times \vec{F^i}$<br/>
+
-
仮定と(2)式から、<br/>
+
-
$=\vec{PQ}\times 0 + \vec N_{Q}=\vec N_{Q}$<br/>
+
-
故に、$\vec N_{P}=\vec N_{Q}$<br/>
+
-
証明終わり。  
+
-
 
+
-
==  気体と液体の圧力 ==
+
-
この節では気体や液体を、<br/>
+
-
分子や原子という粒子から構成されるという微視的立場でなく、<br/>
+
-
巨視的に捉え空間的に滑らかな連続体であるとみなす。<br/>
+
-
連続体の内部の微小部分に働く力を考え、其の釣合いについて考え、<br/>
+
-
圧力の性質を導く。
+
-
 
+
-
=== 気体や液体とは何か。===
+
-
*[[wikipedia_ja:気体 |ウィキペディア(気体)]]
+
-
*[[wikipedia_ja:液体 |ウィキペディア(液体)]]
+
-
=== 気体と液体の特徴===
+
-
気体と液体は体積の変化には抵抗するが、<br/>
+
-
形の変化には、抵抗しない。(ただし非常に速い変化には抵抗する)。<br/>
+
-
但し、気体の体積変化への抵抗は小さく、液体は非常に大きい。<br/>
+
-
=== 静止気体と液体の圧力===
+
-
気体や液体は、その表面または内部に任意の面を考えると、その面で2分される部分は、<br/>
+
-
互いに他を押している。それらは大きさ・方向は等しく、逆向きである(作用反作用の法則)<br/>
+
-
単位面積当たりのこの力を'''応力'''とよぶ。<br/>
+
-
その発生は、重力の存在と前述の気体や液体の特徴(形の変化に抵抗しない)に起因する。<br/>
+
-
この力の性質を、気体・液体の特徴から導こう。
+
-
====応力は面に垂直に働く ====
+
-
説明は便宜上、液体の語で述べる。<br/>
+
-
命題1:<br/>
+
-
静止した液体(気体)の表面あるいは内部に任意のなめらかな面(注参照)を考える。<br/>
+
-
この面上の応力は、常にこの面に直角に働く。<br/>
+
-
面と常に直角に働く応力を、'''圧力'''と呼ぶ。<br/>
+
-
(注)面のどの一点においても、その点にごく近い面の部分だけをみれば、平面とみなせる曲面のこと。
+
-
理由;<br/>
+
-
もし、ある面上のある一点$P$の周辺の微小面部分(Sと書く)で、押し合う力がこの面と平行な成分を持つとする。<br/>
+
-
Sは仮定より、平面(の一部)と考えてよい。<br/>
+
-
 
+
-
図のように、面部分Sとそれと平行な平面の一部S’から作られる、<br/>
+
-
非常に薄い液体の板状部分Vを考える。<br/>
+
-
 
+
-
するとVがSを通して液体から受ける力の総和$\vec F_S$は、面Sと平行な成分をもつ。<br/>
+
-
面SとS’は、非常に近いので、<br/>
+
-
Sを挟んで押し合う力と、S’を挟んで押し合う力は、単位面積当たり、ほぼ等しいと考えてよい。<br/>
+
-
すると、VがS’を通して液体から受ける力$\vec F_{S'}$は、<br/>
+
-
Sを通して受ける力と大きさと方向はほぼ同じで、逆向きになる。<br/>
+
-
$\vec F_{S'}$の面Sと平行な成分も、$\vec F_S$のSと平行な成分と大きさはおなじで、逆向きになる。<br/>
+
-
液体は自由に形を変えられるので、VのS面とS’面は逆方向に動いてしまい、<br/>
+
-
静水という条件に反してしまう。<br/>
+
-
従って、<br/>
+
-
「ある面上のある一点$P$の周辺の微小面部分Sで、押し合う力がこの面と平行な成分を持つ」<br/>
+
-
という仮定はあり得ないことが示された。<br/><br/>
+
-
 
+
-
命題2<br/>
+
-
どの面にも直角に働く応力(圧力)は、どの点でも面の方向によらず一定の強さ(大きさ)をもつ。<br/>
+
-
証明;<br/>
+
-
液体中の任意の点を$O$とする。<br/>
+
-
$O$を原点とする、直交右手系$O-xyz$を定める。<br/>
+
-
$O$を通る任意の面$H$をとる。<br/>
+
-
$O$点における、<br/>
+
-
この面における圧力$p$とxy平面における圧力$p_z$、yz平面、zx平面における圧力$p_x,p_y$<br/>
+
-
が等しいことを示そう。<br/>
+
-
平面$H$と平行で$O$点の近くを通る平面$H'$が<br/>
+
-
x軸、y軸、z軸と交わる点をそれぞれ、<br/>
+
-
$A(\alpha a,0,0),B(0,\alpha b,0),C(0,0,\alpha c)$とおく。図参照。<br/>
+
-
四面体$OABC$の外部の液体が、<br/>
+
-
$\triangle{OBC}$を押す力を$\vec F^x$,$\triangle{OCA}$を押す力を$\vec F^y$,$\triangle{OAB}$を押す力を$\vec F^z$,$\triangle{ACB}$を押す力を$\vec F$<br/>
+
-
とおく。<br/>
+
-
四面体内の液体が静止しているので、<br/>
+
-
$\vec F^x+\vec F^y +\vec F^z+\vec F=0 \qquad  (1) $<br/>
+
-
が成り立つ。<br/>
+
-
この式を圧力で表示しよう。<br/>
+
-
$\lim_{\alpha \to 0}\frac{\|\vec F^x\|}{|\triangle{OBC}|}=p_x$なので、<br/>
+
-
$\alpha $が十分小さければ<br/>
+
-
$\|\vec F^x\|=|\triangle{OBC}| p_x=\frac{1}{2}|\alpha b \alpha c|p_x$<br/>
+
-
故に、$2\vec F^x=\vec{OB}\times \vec{OC}p_x=\alpha b \alpha c p_x\vec{e_x}$<br/>
+
-
同様に$2\vec F^y=\vec{OC}\times \vec{OA}p_y=\alpha c \alpha a p_y\vec{e_y}$、<br/>
+
-
$2vec F^z=\vec{OA}\times \vec{OB}p_z=\alpha a \alpha b p_z\vec{e_z}$<br/>
+
-
$2\vec F=\vec{AC}\times \vec{AB}p=p(-\alpha a,0,\alpha c)\times (-\alpha a,\alpha b,0)$<br/>
+
-
これらを(1)式に代入して<br/>
+
-
$p_x\vec{e_x}+p_y\vec{e_y}+p_z\vec{e_z}+\vec{AC}\times \vec{AB}p=0    \quad  (2)$<br/>
+
-
これを計算すると、<br/>
+
-
$\left({\alpha}^{2}bc(p_x-p),{\alpha}^{2}ca(p_y-p),{\alpha}^{2}ab(p_z-p)\right)=0$<br/>
+
-
これより、$p=p_x=p_y=p_z$   証明終わり。<br/>
+
-
 
+
-
命題3<br/>
+
-
ⅰ)一様な重力のもとで静止している気体・液体内では、同一水平面上での圧力の大きさは一定である。 <br/>
+
-
ⅱ)もし液体の密度$\rho$が圧力によって変化しないならば、 <br/>
+
-
深さ$l_1$の水平面$H_1$上の圧力$p_1$と  <br/>
+
-
深さ$l_2 \quad(l_2>l_1)$の水平面$H_2$上の圧力$p_2$には  <br/>
+
-
次の関係が成り立つ。 <br/>
+
-
$p_2=p_1+\rho g(l_2-l_1)$  <br/><br/>
+
-
 
+
-
図示した液体部分$V$が静止しているので、$V$に作用する力の総和が零になっている。<br/>
+
-
このことから、この命題は容易に証明できる。<br/>
+
-
 
+
-
命題4 アルキメデスの原理<br/>
+
-
*[[wikipedia_ja:アルキメデスの原理|ウィキペディア(アルキメデスの原理)]] 
+
-
 
+
-
 
+
-
====気体の圧力と大気圧====
+
-
気体は圧力が増すと縮むので、命題3のⅱ)の結論は成立しない。<br/>
+
-
大気は静止していると仮定し、地表の大気圧から高度zでの大気圧を求めてみよう。
+
-
地表の一点を原点とし、鉛直上方をz軸の正方向になる座標$O-xyz$をいれる。<br/>
+
-
図のように、下底面が高さ$z$、上底面が高さ$z+h$の、単位断面積の角柱$V$を考える。<br/>
+
-
その部分の気体が受ける力の和は零となるので、<br/>
+
-
次式が成り立つ。<br/>
+
-
$p(z+h)+mg=p(z)  \qquad \qquad (1)$<br/>
+
-
ここで<br/>
+
-
・$p(z)$は高さ$z$の地点の大気圧(命題3のⅰ)から、高度が同じ水平面上で圧力は一定)、<br/>
+
-
・$m$は$V$の質量。$V$の体積$h$と平均質量密度$\rho$の積。<br/>
+
-
圧力が大きいと空気は縮み質量密度は高くなるので、両者の関係を求めねばならない。<br/>
+
-
空気体積の変動にともなう温度変化がないとすると、<br/>
+
-
ボイルの法則(3章1節 熱とエネルギー参照)から、<br/>
+
-
$p\frac{V}{m}=c$($c$は温度だけに依存する数)<br/>
+
-
質量密度$\rho=\frac{m}{V}$を代入すると、<br/>
+
-
$\frac{p}{\rho}=c$,ゆえに、$\rho=\frac{p}{c}$<br/>
+
-
$\frac{1}{c}$を、$c$とおくと、<br/>
+
-
$\rho=cp  \qquad \qquad  (2)$<br/>
+
-
この質量密度と圧力の関係を用いると、<br/>
+
-
$m=h\rho \approx hcp(z)$(hが小さいほど差は少なくなる)<br/>
+
-
この式を(1)式に代入して、<br/>
+
-
$p(z+h)+cgp(z)h\approx p(z) $、変形すると <br/>
+
-
$\frac{p(z+h)-p(z)}{h} \approx -cgp(z) $。これより<br/>
+
-
$\frac{dp(z)}{dz}=\lim_{h\to 0}\frac{p(z+h)-p(z)}{h}= -cgp(z) $<br/>
+
-
を得る。これを積分して<br/>
+
-
$p(z)=p_{0}e^{-cgz}$<br/>
+
-
を得る。<br/>
+
-
ここで$p_{0}$は、地表での圧力、$e$は[[wikipedia_ja:ネイピア数 |ネイピア数]]である。<br/>
+
-
地表での質量密度が$\rho_{0}$ならば,(2)式から、<br/>
+
-
$c=\frac{\rho_{0}}{p_{0}}$
+
-
 
+
-
=== 圧力の単位      ===
+
-
圧力は、単位面積当たりの力なので、その単位は面積の単位$m^2$と力の単位$N$から得られる。<br/>
+
-
$Pa=N/m^2=kg\cdot m^{-1}\cdot s^{-2}$<br/>
+
-
が圧力の単位で、パスカルと呼ばれる。
+

2015年2月5日 (木) 08:52 時点における最新版

目次

運動法則の応用(1)質点の運動

運動の3法則、万有引力の法則と力の法則を用いると、分子から銀河まであらゆる物体の運動を求めることが出来きる。

その正しさは地上の物体や人工衛星、惑星の運動などで確かめられている。
しかし、もっとはるかかなたの宇宙でもこれ等の法則は正しいのだろうか。
天体観測は、世界各地で行われ、年々新しい発見がされているが、現在のところ、この理論が間違っていることを示す観測結果は、得られていない。
そこで、これらの法則は宇宙の全体を支配しているものと、現在は信じられている。

運動の3法則からはエネルギー保存則や運動量保存則などの重要な保存則を導く事が出来る。
これらの保存則は、色々な運動を調べるとき、大変役立つ。これらについては次節で学ぶ。

質点の色々な運動

最初に最も簡単な運動から考える。
それは質点とみなせる物体の運動である。

質点の落体運動

地球上の物体は高いところから落とすと、時間とともに速度を増しながら落下する。
質点とみなせる物体の落下運動を、運動法則と力の法則を用いて、解析しよう。
質点の質量を$m$とすると、そこに作用する重力による力は、
真下(厳密には地球の重心;後で学ぶ)の方向・向きに大きさ$Mg$である。
落下の向きを負にした落下方向の一次元座標を考えると、重力加速度は$-g$で、質点$m$に作用する力は$-mg$である。
落下の加速度を$\alpha$と置くと、運動の第2法則より$m\alpha=-mg$.
ゆえに質点の落下加速度$\alpha$は負の重力加速度$-g$に等しい。
$t$で微分して$-g$となる関数は$-gt+c$なので、質点の速度は$-gt+c$である。
ここでcは定数で、初期時刻0における質点の速度であり、初期速度と呼ばれる。
微分して$-gt+c$となる関数を求めれば質点の位置$x(t)=-\frac{1}{2}gt^{2}+ ct + d$が得られる。
ここで、$d$は定数で初期時刻0での質点の位置(高さ)である。
これはガリレオが明らかにした落体法則である。
参考文献;

投射体の運動

質点を地面に対して角度$\theta$(ラジアン)、速さ$u$で投げたときの、質点はどのような運動を行うだろうか。
ガリレオは、慣性法則と落体の法則を組み合わせて利用して、放物線を描いて飛ぶことを発見した。
ニュートン力学を用いれば、運動の第2法則と質点に働く力(重力)から、以下のように、この運動を導ける。

適切な座標系をいれる

質点が投げ出された場所を原点とし、飛んでいく方向に地面と水平に引いた半直線をx軸の正の側に、地面と直角で上方に向かう半直線をy軸の正の側とする座標を定める。図参照。

質点に作用する力を求める

空気抵抗を無視すれば、質点に作用する力は、地球からの重力だけである。この力は、質点の質量を$M$,重力加速度を$g$とすると、質点の位置に関係なく常に、$\vec F=(o,-Mg)$である。

運動の第2法則から質点の運動方程式をつくる

質点の位置ベクトルを$\vec r=(x,y)$で表すと
運動方程式は、$M(d^2/dt^2)\vec{r(t)}=\vec F$である。
座標成分表示すると
$M(d^2/dt^2)x(t)=0$,$\quad$ $M(d^2/dt^2)y(t)=-Mg$

運動の初期状態の指定

投げ上げた瞬間を時刻$t=0$とおくと、質点の初期位置は$\vec{r}(0)=(0,0)$,$\quad$ 初期速度は$\vec{v}(0)=(u\cos{\theta},u\sin{\theta})$

運動方程式を初期状態を使って解く

(1)x成分の式を解く
$M(d^2/dt^2)x(t)=0$は、$M(d/dt)v_{x}(t)=0$なので$(d/dt)v_{x}(t)=0$。$\quad$  tで微分して零となるtの関数は定数なので$a$と書くと、$v_{x}(t)=a$
速度の定義より、$(d/dt)x(t)=v_{x}$なので、$(d/dt)x(t)=a$.$\quad$ $t$で微分して$a$となるのは$at+b$(bは未知定数)なので、$x(t)=at+b$
初期条件から、$a=v_{x}(0)=u\cos{\theta}$,$\quad$ また$x(0)=a0+b=0$なので$b=0$。
故に、$x(t)=(u\cos{\theta})t$

(2)y成分の式を解く   
$M(d^2/dt^2)y(t)=-Mg$は、$(d/dt)v_{y}(t)=-g$ $\quad$ tで微分して$-g$となる関数は$-gt+c$(cは未知定数)なので、
$v_{y}(t)=-gt+c$ $\quad$故に$(d/dt)y(t)=-gt+c$
tで微分して$-gt+c$となる関数は、$-\frac{1}{2}gt^2+ct+d$なので、$y(t)=-\frac{1}{2}g^2t+ct+d$   
初期速度の条件から、$c=-g0+c=v_{y}(0)=u\sin{\theta}$ $\quad$ $d=-\frac{1}{2}g0+c0+d=y(0)=0$   
故に、$y(t)=-\frac{1}{2}gt^2+(u\sin{\theta})t$

(3)運動の軌跡(xとyとの関係式)を求める   
$x(t)$の式から$t=x(t)/(u\cos{\theta})$
これを$y(t)=-\frac{1}{2}gt^2+(u\sin{\theta})t$に代入すると
$y(t)=(-g/2u^2\cos^2{\theta})x^2(t)+(\tan{\theta})x(t)$
これは上に凸な放物線である。
参考文献は

惑星運動

前述のようにケプラーは、火星と太陽の観測データをユークリッド幾何学を巧みに利用して分析し次の惑星運動の3法則を発見した。

惑星運動の3法則を運動の第2法則と万有引力の法則から導く

この3法則は、運動の第2法則と万有引力の法則から導くことが出来るが少し難しい数学が必要である。大学で学ぶ。
惑星の軌道を太陽を中心とする円運動に限定すると、高校の数学の知識で3法則を導ける。
この場合ケプラーの第一法則は、仮定から、明白なので、第二法則から始める。

ケプラーの第2法則の導出 
図 惑星の位置座標


第二法則は、太陽と惑星を結ぶ動径の単位時間に掃く面積が一定であることを主張する。円運動のばあい、これは等速円運動であることと同じである。
そこで等速円運動であることを導こう。
太陽と惑星は質点として扱い、質量をそれぞれ$M,m$とする。

惑星の軌道面をxy平面にし、太陽をその原点にとる。円運動の半径を$r$, 太陽と時刻$t$における惑星を結ぶ線分が、x軸となす角度を$\theta =\theta(t)$とおく。


惑星Pの位置;$\vec{r}(t)=r(\cos\theta(t),\sin\theta(t))$
惑星の速度;$\vec{v}(t)=d\vec{r}(t)/dt=r(d\cos\theta(t)/dt,d\sin\theta(t)/dt)$
$=r(- \sin\theta(t)\frac{d\theta(t)}{dt},\cos\theta(t)\frac{d\theta(t)}{dt})$ =$ r \frac{d\theta(t)}{dt}(- \sin\theta(t), \cos\theta(t)) $

惑星の加速度;$\vec{\alpha}(t)=d\vec{v}(t)/dt=r(d^2\theta(t)/dt^2)(-\sin\theta(t),\cos\theta(t))$
$+r(d\theta(t)/dt)(-\cos\theta(t)\frac{ d\theta(t)}{dt},-\sin\theta(t)\frac{ d\theta(t)}{dt} )$
$= r(d^2\theta(t)/dt^2)(-\sin\theta(t),\cos\theta(t))-r( \frac{d\theta(t)}{dt})^2( \cos\theta(t), \sin\theta(t)) $
惑星に働く力;万有引力の法則より、太陽の方向に向いた、大きさ$GMm/r^2$の力なので
$\vec{F}(t)=-(GMm/r^2)(\cos\theta(t),\sin\theta(t))$
と表せる。
この力が、惑星の運動を変化させ、上述の加速度を生じさせたのだから、運動の第2法則$\quad m\vec{\alpha}(t)=\vec{F}(t)\quad$より、
$mr(d^2\theta(t)/dt^2)(-\sin\theta(t),\cos\theta(t))-mr( \frac{d\theta(t)}{dt})^2( \cos\theta(t), \sin\theta(t)$
$ =-(GMm/r^2)(\cos\theta(t),\sin\theta(t))$
変形すると、
$mr(d^2\theta(t)/dt^2)(-\sin\theta(t),\cos\theta(t))$
$ =(mr(\frac{d\theta(t)}{dt})^2-GMm/r^2)( \cos\theta(t), \sin\theta(t)) \qquad ------ \qquad (1)$

$(-\sin\theta(t),\cos\theta(t))$ と$( \cos\theta(t), \sin\theta(t))$は直交するベクトルなので、(1)式が成立する必要十分条件は、
$d^2\theta(t)/dt^2=0 \qquad ------ \qquad (2)$,
$mr(\frac{d\theta(t)}{dt})^2-GMm/r^2=0 \qquad ------ \qquad (3)$
である。
(2)式から、角速度$\omega(t)=\frac{d\theta(t)}{dt}=\omega_{0}$(定数)が
(3)式から、$mr(\frac{d\theta(t)}{dt})^2=GMm/r^2$が
得られる。
これらより、惑星は等角速度
$\Large{\omega_{0}=\pm\sqrt{GM/r^3}}$ $\qquad ------ \qquad $ (4)
で太陽の周りを回転することが分かり、ケプラーの第2法則が得られた。

ケプラーの第3法則の導出 

惑星が太陽の周りを一周する時間$T$(周期という)は、$T=2\pi/\omega_0$なので、(4)式より、
$T=2\pi/\sqrt{GM/r^3}=2\pi\sqrt{r^3/GM}$,
故に$T^2=4\pi^2r^3/GM$, $T^2/r^3=4\pi^2/GM$
これは軌道が円の場合のケプラーの第3法則である。

万有引力の法則を,ケプラーの法則と運動の第2法則から導く

惑星が太陽の周りを円運動しているとき、太陽が惑星に及ぼしている力を計算する。
ケプラーの第2法則より、円運動する惑星は角速度一定である。これを$\omega_0$とする。
太陽の位置を原点とし円の半径を$r$とすると、この惑星の加速度は$\vec{\alpha}(t)=-r( d\theta(t)/dt)^2( \cos\theta(t), \sin\theta(t)) =-r\omega_0^2( \cos\theta(t), \sin\theta(t))$ 。これは、太陽にむかう大きさ$r\omega_0^2$のベクトル。
運動の第2法則より、惑星に働く力$\vec F$は、太陽の方向に、大きさ$mr\omega_0^2$
ここで、$m$ は惑星の慣性質量である。
$\omega_0^2$を$r$の関数で表すためケプラーの第3法則と用いる。
惑星の公転周期$T$と円の半径$r$の間には$T^2/r^3=C,\quad C$;定数
$T=2\pi/\omega_0$なので $(2\pi/\omega_0)^2/r^3=C \quad $∴$\omega_0^2=4\pi^2/(Cr^{3})$
それゆえ、力の大きさは
$mr\omega_0^2=\frac{4\pi^2}{C} \frac{m}{r^2}$
さらに、太陽の質量$M$が$k$倍になると、質量$M$の太陽が$k$個あり、それぞれが惑星に上記の力を与えると考えられる。
すると惑星に働く力は$k$倍になるので力の比例部分$\frac{4\pi^2}{C}$は太陽の質量$M$に比例することが分かる。
比例定数を$G$とおくと、$\frac{4\pi^2}{C}=GM$
従って惑星に働く力の大きさは、太陽の方向に、 $GM\frac{m}{r^2}=G\frac{mM}{r^2}$
これは万有引力の法則である。
(注)この式は万有引力の法則の式と同じだが、質量$m$は、慣性質量であり、対称性から太陽の質量$M$も慣性質量と考えられる。
しかしニュートンは重力を生む質量は、慣性質量と完全には一致しない可能性もあると考え、重力質量という概念を生みだしと思われる。
既述のように、多くの実験の結果、両質量は同一であると考えられている。
重量質量を使わず、慣性質量だけを用いても、ニュートン力学を構成することが出来る。これを提唱する物理学者もいる。
それには万有引力の法則のかわりに、次の法則を採用すればよい。
外力が働かないときは、どんな2質点も、お互いに相手に向かって, 加速度運動して近ずく。両者の加速度は、両者の距離の2乗$r^2$に反比例し、それぞれの慣性質量の比に反比例する。
式で書くと、
質点1の慣性質量と加速度の大きさを$m_1$,$\alpha_1$  
質点2の慣性質量と加速度の大きさを$m_2$,$\alpha_2$ 
とすると、$m_1\alpha_1=m_2\alpha_2$、$m_1\propto 1/r^2$,$m_2 \propto 1/r^2$ 
この法則と運動法則により2質点間に働く力(万有引力)を求めると、
ニュートンの万有引力の法則と同じ式だが、質量は慣性質量になり、
重量質量を用いずニュートン力学が構成できる。

振り子と単振動

質点のつり合い

質点に力F1,,Fnが作用し、質点が静止したまま(あるいは等速直線運動)であるとき、それらの力は釣り合っているという。
釣り合いの条件は、F1+ +Fn=0です(運動の第2法則と力の合成則から導出できる)。

仕事とエネルギー

仕事

物体に力を加えて動かす時、力はこの物体に仕事をするという。
仕事(の量)は力の大きさと動かした距離の積に比例する。
正確には、加えられる力$\vec F$ が一定で、
力の向きに対して角度$\theta$[rad] だけ傾いている直線上を $\vec s$ 移動したとき、
仕事W は、
$W=\|\vec F\|\|\vec s\| \cos\theta$    
で定義する。
ここで任意のヴェクトル$\vec a$に対して、$\|\vec{a}\|$はその大きさ$\sqrt{\sum_{i}a_i^2}$を表す。


特に、この式において$\theta=0$(すなわち $\cos\theta = 1$)とすると
「加えられる力が一定であり力の方向が運動の方向と一致している場合」になり、
$W=\|\vec F\|\|\vec s\| $ である。
また、$\theta=\pi/2$($\cos\theta = 0$)のとき、$W = 0$となる。
すなわち、力が運動の方向と直角方向にはたらいている場合、その力は仕事をしない。

$W=\|\vec F\|(\|\vec s\| \cos\theta)$と表現すると、
仕事は、力の方向に$\|\vec s\| \cos\theta$だけ動かしたときの仕事に等しいことが分かる。

$W=(\|\vec F\| \cos\theta)\|\vec s\|$と表現すると、
仕事は、
大きさ$\|\vec F\| \cos\theta$ の$\vec s$方向の力を加えて、$\vec s$だけ動かしたときの仕事に等しい
ことが分かる。


仕事の内積を用いた表現

内積は、仕事の記述や計算に便利な数学の概念である。

内積の定義と仕事の内積表現

ベクトル$\vec a,\vec b$の内積$ \vec a \cdot \vec b $は、$\|\vec{a}\|\|\vec{b}\| \cos\theta$で定義する。
ここで、$\theta$は、ベクトル$\vec a,\vec b$のなす角($0\le \theta \le \pi$ )である。

ウィキブックスでは2次元のベクトルを中心にして説明しているが、
3次元ベクトルの場合にも、成り立つように修正することは容易である。
例えば、ベクトル$\vec a = (a _1,a _2,a_3)$の長さは、$\|\vec a\|= \sqrt {a _1^2 +a _2^2+a _3^2}$,
ベクトルの内積は、この長さを使えば、全く同じ式で良い。

内積を使った 仕事の表現

内積 $\cdot $を用いると、
物体に力$\vec{F}$を加えて、$\vec{PQ}$(P点からQ点まで)動かした時の力のなす仕事は、
$ W=\vec{F}\cdot\vec{PQ} $と表せる。

内積の性質

仕事は、前述のように内積で表現できるので、内積の性質を調べておくと、仕事について考察する時に役に立つ。
$\vec a,\vec b,\vec c$が、すべて同じ次元(2か3)のベクトルとし、 $\alpha$は実数とする。

(1)$\vec a \cdot \vec b =\vec b \cdot \vec a$
(2)$\vec a \cdot \vec b =\sum_{i}a_ib_i$ 、
ここで$a_1,b_1$はそれぞれ$\vec a,\vec b$のx座標成分、同様に、添え字2はy座標成分、3はz座標成分
直交座標系はどんなものでも良い。しかしすべてのベクトルは同じ座標系で座標成分表示しなければならない。
(3)$(\vec a +\vec b) \cdot \vec c =\vec a \cdot \vec c+\vec b \cdot \vec c$   
(4)$(\alpha \vec a)\cdot \vec b =\vec a \cdot (\alpha \vec b)=\alpha (\vec a \cdot \vec b)$
が成り立つ。

(証明)
(1)は、内積の定義から明らか。
(2);次の三角形の余弦定理を利用する。
三角形の第2余弦定理;
図のような$\triangle {ABC}$を考える。
頂点A,B,Cの対辺の長さをそれぞれ$a,b,c$とし、$\angle{ACB}=\theta$とする。
すると、$c^2=a^2+b^2-2ab\cos\theta$
余弦定理の証明;頂点$A$から対辺$BC$におろした垂線の足を$H$とする。
ピタゴラスの定理により、
$c^2=\overline{BH}^2+\overline{AH}^2$。$\qquad$ 右辺の第2項に、再び、ピタゴラスの定理を適用して、
$=\overline{BH}^2+(b^2-\overline{CH}^2)$ $\qquad$ $\overline{BH}=a-\overline{CH}$を代入すると、
$=(a-\overline{CH})^2+(b^2-\overline{CH}^2)=a^2+b^2-2a\overline{CH}$,$\quad$ $\overline{CH}=b\cos\theta$なので、代入すると
$=a^2+b^2-2ab\cos\theta$
証明終わり。
(2)の証明  
ベクトル$\vec a $と$\vec b $を、
始点が点$C$である有向線分で表現し、その終点を$B$,$C$で表す。
すると$\vec a=\vec{CB}$, $\vec b=\vec{CA}$である。
ベクトル$\vec c=\vec a-\vec b$を導入すると、
$\vec c=\vec a-\vec b=\vec{CB}-\vec{CA}=\vec{CB}+\vec{AC}=\vec{AB}$
3角形$\triangle {ABC}$を考え、第2余弦定理を適用しよう。
$\angle{ACB}=\theta$とおく。すると、
$\|\vec c\|^2=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\|\vec a\|\|\vec b\|\cos{\theta}$
$=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\vec a \cdot \vec b$が得られる。
この式を変形して$\vec a \cdot \vec b$だけを左辺に置くと、
$\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec c\|^2)/2$ 。
$\vec c=\vec{AB}=\vec{AC}+\vec{CB}=-\vec b+\vec a$なので、

$\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec a-\vec b\|^2)/2 $
この右辺を、ベクトルの直交座標成分で表すと、次式が得られる。
$\vec a \cdot \vec b=(\sum_{i}a_i^2+\sum_{i}b_i^2-\sum_{i}(a_i-b_i)^2 )/2 $
$=\sum_{i}a_i b_i$
(2)の証明終わり。
(性質3)の証明;ある一つの直交座標系をさだめ、両辺を、性質(2)を利用して、座標成分であらわす。両辺が等しいことが分かる。
(性質4)の証明;同様に、3つの式を、座標成分表示すれば、みな等しいことが、簡単に分かる。

物体が曲線運動するときの仕事量の求め方

力を受けた時の物体の運動は直線とは限らないが、運動の軌跡を細かく区切って眺めると、線分に近いので、物体の変位は、ごく短い線分をつなぎ合わせたものと考える。すると各線分毎に仕事を計算しそれをたせば、全体の仕事量を求めることができる。

エネルギー

物質の持っている仕事をする能力をエネルギーという。

仕事の単位

仕事の定義$W=\|\vec F\|\|\vec s\| \cos\theta$から、仕事の単位は、力の大きさ$\|\vec F\|$の単位と長さ$\|\vec s\|$の単位を掛けたものになる($ \cos\theta$ は無単位なので )。
MKSA単位系では、力の大きさの単位は$N$(ニュートン)、長さの単位は$m$(メートル)なので、仕事の単位は$Nm$ となる。
これを$J$(ジュール)と呼ぶ。$J=Nm$である。