会社法・企業倫理/環境へ与えるインパクト

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目次

概要

20世紀は一般的に「大量生産・大量消費・大量廃棄」の時代であったと言われている. しかし地球上に存在する資源には限界があり,21世紀の今日,企業は資源をより効果的かつ効率的に 使用することにより「資源生産性」を向上させる必要がある [r1]

企業経営は「サステナビリティ(=持続可能性)」に配慮し実施しなければならない. サステナビリティの概念は非常に広い. 企業を対象にした研究(T. Dyllick and K. Hockerts, 2002 [r2]) によれば,サステナビリティには以下の3つの重要な要素がある.

  • トリプル・ボトムラインにおける経済・環境・社会の側面の統合・調整する
  • 短期的・長期的な側面を統合・調整する
  • 収入を消費し,資本(経済資本、自然資本、社会資本)を消費しない

また,サステナビリティの概念の拡張として以下の3つの軸を示している.

  • 経済的サステナビリティ(Economic Sustainability)
  • 環境的サステナビリティ(Environmental Sustainability)
  • 社会的サステナビリティ(Social Sustainability)

本章では,サステナビリティとは「現在の経済的利益に偏重した成長・発展するのではなく, 現在・将来の環境や社会的な側面を配慮することにより,将来的にも継続して経済的成長・発展させること」 と定義する [r1]

今後さらなる大きな成長をするであろう新興国企業において,「環境」と「経済」を両立することができる コスト・マネジメント手法の適用可能性について検討したい.

  • Note : 生産物には、製造段階、使用中、廃棄時、リユース時など、様々な段階で環境に配慮すべき事項が存在する。それらをどのようなファクタで測るのか?

企業活動と環境問題の基本的視点

今日,企業は, (1)地球全体からのマクロ的側面から: 地球温暖化・資源枯渇問題やアフリカ・アジア等の貧困問題など, また他方では, (2)個々の企業からのミクロ的側面から: 工場等の廃棄物問題や職場環境・製品の品質問題など, あらゆる環境・社会問題に対して対策を行う社会的使命を課されている [r3]

その社会的使命を達成できなければ,将来的に企業は社会的価値を喪失し,存在意義さえ失うかも知れない. 現在,欧州・米国・日本等におけるグローバル企業を中心に,環境対策の社会的責任(Corporate Social Responsibility:CSR) に対応する活動に対し,活動結果・成果を環境報告書,CSR報告書,サステナビリティ報告書として発行している.

企業活動と環境問題の基本的視点に関して,最初に「地球環境問題の深刻化」,具体的には地球温暖化問題,廃棄物・リサイクル問題, 化学物質管理問題が挙げられる.これらの問題に対応して,政府による環境規制,市場のステークホルダー による環境意識の高まり,ならびに,海外市場のグリーン化の進展が図られた. 上記の通り,企業活動のグローバル化の進展と,企業を取り巻く市場競争の激化により,環境配慮への(コスト)シフトは不可避な 状況にある.ここで特筆すべきポイントは「企業経営にとって環境対応はチャンスであり,リスクでもある」という事実である.

環境対応をチャンスに変える

  • 企業価値の向上
  • 環境ビジネスの創造
  • 新規商品,サービスの提供
  • 環境パフォーマンスによる競争力強化
  • 環境配慮による経営効率の向上

環境対応のリスク

  • 環境対応コストは市場で回収困難
  • ステークホルダーへの情報提供不足により,環境対応に関する適切な評価が得られない
  • 環境基準が国際市場と不整合である
  • 異分野連携や新規参入を阻害する既存社会システム
  • 人材,資金等の制約により,そもそも環境対応が困難な状況にある

環境対策コストと管理手法

企業経営における環境対策に係るリスクを極小化し,かつチャンスを極大化するような経営システム の構築が必至である.以上の見解にもとづき,持続可能な社会における企業の環境対策における 「コスト・マネジメント」について考察する.

東アジアを例とする新興国企業におけるコスト・マネジメントは,現在まで主に「原価低減」のみに とどまっている.原価の中でも特に労務費(人件費)削減に関心が集まる.しかしながら,人件費カットは 長期的・将来的に見れば,企業に持続的な経済成長をもたらさない. また新興国企業は現在急速な成長をとげる一方,エネルギー・資源枯渇問題,大量の廃棄物問題など,多くの 地球環境・社会問題に直面している [r1]

今後は,“ヒト(の削減)”よりも“モノ(の流れ)”に注目し,原材料の使用量削減かつ有効利用を行うことで, 資源生産性を向上させる必要がある.つまり原材料は“資源”であり,原材料の使用量を削減することは原材料費 の削減と地球資源の有効利用の双方を両立することになるから,経済的にも環境的にも有益と考えられる.

企業は原価低減のみを行うのではなく、より対象範囲を広げたコスト・マネジメントを行う必要 がある。すなわち、利益に結びつかない廃棄物(ロス)を発見することで、廃棄物の削減、そ れに伴うエネルギー・資源の有効利用を行う活動が必要となり、その結果、「環境」と「経済」 の両立へとつながるのである。

具体例:環境管理会計の体系

近年,管理会計の1分野である「環境管理会計」が脚光を浴びている. 環境管理会計の位置づけについて「企業は,営利追求組織である以上,経済活動と隔離された 環境マネジメントツールだけでは,持続的な環境保全活動は行えない. 環境保全と経済活動を結びつける手段が必要である.この手段を提供するものが環境管理会計である」 という提唱がある [r4]

環境と経済を両立する手段として、6つの環境管理会計手法が存在する. その体系を図1に示す(國部,2001 [r5]).

図1 環境管理会計の体系
出所)國部 (2011) 『環境経営意思決定を支援する会計システム』中央経済社

マテリアルフローコスト会計(MFCA)

環境と経済の両立を目指した環境管理会計に関する理論・事例研究が進んでいる. コスト・マネジメント的視点から見ると,測定ツールとしてマテリアルフローコスト会計(MFCA)が代表的な 手法としてあげられる.MFCAは B. Wagnerらが開発した環境管理会計手法である [r6]

MFCAの基本的な考え方として「ライフサイクル・コスティング」がある. これは,企業で生じるコストに加えて製品の使用・廃棄段階で生じるコストも計算し,これには, 環境負荷による社会的コストも含めて,製品の一生涯におけるトータルなコストを把握することである.

MFCAとは,企業活動の現場においてマテリアルのフローを物量ベースと金額ベースで追跡し, 工程から生じる製品と廃棄物をどちらも一種の製品とみなしてコスト計算する手法である. MFCAの基本パターンを図2に示す(中嶌・國部 (2008) [r7]).

図2 マテリアルフローコストの会計の基本パターン
出所)中嶌・國部 (2008) 『マテリアルフローコスト会計(第2版)』日本経済新聞出版社

伝統的な原価計算では,廃棄物は「何kg相当の物体」として理解されていただけだが, MFCAを導入することによって,その物体は「何円相当」であることが明らかとなる. 原価のうち何円を「捨てているのか」という金額が明らかになることで, 企業にとっては廃棄物削減のための(上限も含めた)予算や対策も立てやすくなる. このように,廃棄物の価値を金額で適切に評価し,経営者に対して廃棄物削減を動機づける点に MFCAの特徴がある.

参考文献

  • [r1] 岡 照二 (2011)『持続可能な社会における東アジア企業のコスト・マネジメント手法の展開』関西大学 経済・政治研究所 第193回産業セミナー (2011年11月16日)
  • [r2] Dyllick, T and Hockerts, K. (2002), Beyond the Business Case for Corporate Sustainability, Business Strategy and the Environment, 11,(2), pp.130-141.
  • [r3] 森 晶寿 編(2009)『東アジアの経済発展と環境政策』ミネルヴァ書房.
  • [r4] 経済産業省(2008)『マテリアルフローコスト会計手法導入ガイド(Ver.2)』経済産業省.
  • [r5] 國部克彦編(2011)『環境経営意思決定を支援する会計システム』中央経済社.
  • [r6] Wagner, B. and Enzler, S. (Eds.)(2006), Material Flow Management: Improving Cost Efficiency and Environmental Performance, Physica-Verlag.
  • [r7] 中嶌道靖・國部克彦(2008)『マテリアルフローコスト会計(第2版)』日本経済新聞出版社.

関連項目

演習課題

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