会社法・企業倫理/自然と真理
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概要
混迷の途にある時は決まって「原点回帰」といわれる.現代のような困窮時にこそ,物事の真理に基づいた的確な判断や原理・原則を重視した対応が必要である.
経済,事業経営,生き方など実に多種多様な分野にわたる「真理」「原理・原則」「法則」などといったものは,誰かの思いつきや閃きだけで定められたものではなく,多くの人間の長期間にわたるさまざまな失敗や成功の積み重ねや体験,多角的な考察の結果に基づいて,それらを体系的に万人にわかりやすく実際的にまとめあげられたものである.
これらの概念は,英語では Principle, Rule と表現され,「事実に基づく人間の知的認識や約束事」を意味する. 日本語の辞書では「真理」とは「誠の道理、知識と事実が一致していること」,「原理・原則」とは「多くの事実に共通する普遍的な決まりごと,根本の理法」とある. これらについて意義を尊重し,謙虚に従うことの重要性がある.
辞書において,「経」は「一定の守るべき道徳や良識の枠、物事の正しい筋道を通すこと」,「済」は「金銭の貸借やモノの取引の決済、決着をきちんとつけること」,経営の「営」の意は「才覚を発揮して良い仕事をすること」,そして「管理 (Management)」は「あらゆる手法を駆使して問題を巧みに処理し,所期の目的を達成すること」とある.
好ましい経済や経営の原点として,ある種の道徳的規範と自主規律の重要性,事業経営において「利益確保という目的のためには手段を許さず」といったことは許されない. 正しい勤労とは,ただ肉体だけを惰性的に動かすだけでなく,頭を用いて効率的・合理的に働くこと,仕事 (Work) と作業 (Job) とは異なること,等の必要性を示唆する [r1].
自然権と自然法
自然権とは,人間が社会の仕組みに頼ることなく,自然状態(政府ができる以前の状態,法律が制定される以前の状態)の段階より,生まれながらに持つ不可譲の権利のことである [w1]. 人権はその代表的なものとされている. 今日の通説では,人類の普遍的価値である「人間の自由と平等」を中心とする基本的人権,及びそれを基調とした現代政治理論において,もっとも基本的な概念・原理であるとされている. ただしその由来については,神が個々の人間に付与したとする考えと,人間の本性に由来する考えが存在する.
自然権は「権利」という以上に,なんらかの法を前提せざるをえないが,それは実定法を超えた自然法によって認められたものと考えられていた. 自然権および天賦人権の思想は現世の君主の不当な支配や国家の不当な権力行使に対する抵抗権や革命権の根拠となり,また,自由権・平等権・所有権などの人権主張の根拠として,近代市民革命や近代憲法の成立期に大きな機能を営んだ [r2].
法というものは人間が実際に社会生活の必要上から社会規範として作り出したものであり,その時代と社会の実情に応じてその内容もさまざまである. 現実に人間社会で定立され行われている法を実定法という. これに対し,人間が人間である以上,人間社会が人間社会である以上,人間の法定立行為に基づかなくとも,時代を超え場所を超え普遍的に妥当する正しい法が存在する,という考え方,この法が自然法である. これは古代ギリシアの昔から,21世紀の今日でも一部にあり,この考え方を「自然法論」あるいは「自然法思想」という.
自然法論者に共通しているのは,自然法はその普遍的な正しさと妥当性ゆえに実定法より高次元の規範であり,実定法の基本原理としてそれに妥当の根拠または基準を与えるものだと考えることである. したがって,「自然法に反する実定法は全て無効」という帰結になるから,自然法論は悪法批判に有効な理論根拠を提供する [r2].
自然の法則と真理
経営を行う上では,宇宙や大自然の法則や真理をどのように考え,理解するのかという「宇宙観」を正しく自覚・確立し,それをベースにした上で,経営哲学や経営理念を決定していくことが非常に重要である. これは,経営上の諸問題や環境問題等を解決する上で最も大切なこととなろう.
「宇宙観」とは,宇宙の法則や真理をどのように考え,理解し,それに順応してどのようにして人生や経営を行うのかという考え方のことを言う. 宇宙観を確立する上で一般に認められていると考えられる代表的な宇宙の法則(真理)には,例えば,次のようなものがある [r3].
自然の法則
例えば,地球が太陽の周りを周っていること,四季があること等. 自然法則を重視するのは,インド哲学や仏教哲学では,最も重視される内容の一つである. これは,環境問題等を考える上では,基本的な方向性を示すであろう.
ダーウィンの進化論
我々の生命は,生命の誕生から今まで,36億年間一度も絶滅することなく,進化を続けながら生きて,生き続けてきている. 単細胞から多細胞へ,そして魚類・両生類・哺乳類などを経て,現在の人間に進化してきた.
適者生存の法則
いうまでもなく,自然環境に適応できたもののみが生き残ってきたわけで,適応できなかった生物は絶滅してしまった.
因果律(因縁果の法則)
過去の原因と縁が結びあって現在の結果が生じ,現在の因と縁が結びあって将来の結果が生じるという法則. 因果律を重視するのは,西洋的な科学的な考え方を始めとして,インド哲学や仏教哲学でも最も重視される内容の一つである. また,この因果律は人生を支配する最も重要な法則である.
種々の法則・原則
マーフィーの法則
- 「人間は誰でも間違いをし,失敗もするが,それには必ず要因が内在し.いつか表面化する」
- 「失敗の最たるものは,失敗を自覚しないことである」
- 「白い象になってはいけない(白象とは無用の長物を意味し,事業経営における無駄の排除の重要性を説く)」
- 「自然は隠れた欠陥に絶えず加担し,最悪の時ほど、次なる不幸が追い討ちをかける」
パーキンソンの法則
- 「仕事の量は,完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」
- 「支出の額は,収入の額に達するまで膨張する」
引き寄せの法則
- 「人が何かをしたいと強く念じ,必ず成功すると信じ,確信をもって行動に移せば,不思議なことに,何かに引き寄せられて,必ず実現する」
ハインリッヒの法則
- 労働災害における経験則の一つ.「1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり,その背景には300の異常が存在する」
KISSの原則
- "Keep it simple, stupid" (シンプルにしておけ!この間抜け),もしくは、"Keep it short and simple" (簡潔に単純にしておけ)という経験的な原則の略語である.
収穫逓減の法則
- 「土地・労働・資本の投入から得られる収穫は,それらの投入量の増加に従って増えるが,その増え方は徐々に小さくなる」
希少性の原理
- 資源やそれからつくられる財やサービスの供給が,人間の欲望に対して相対的に希少であるという原理.この希少性のゆえに資源,財貨,サービスの合理的な社会配分が常に問題となり,経済学上の主要な命題となってきた.
セイの法則
- 「供給はそれ自身の需要を創造する」
正しい事業経営と組織の運営原則
事業組織とは,事業の真の目的が,上記の原理・原則の定義からも理解できるように,旧来の生業・家業、自社の営利を企むだけの虚業の存在であってはならない. 社会共有のモノ・カネ・ヒトなどといった諸資源を,才覚ある者が,社会公共に益するために活用することを期待され信託を受けている. 「この事」を成すための「事業」であり,社会の発展,消費者のニーズに積極的に応え貢献すべき「慈業」であるべきである.
従って,公害の発生や放漫経営による赤字経営,特定経営役員や大口株主だけの巨額の利得,ましてや収益の秘匿や脱税,本来の事業目的以外のマネーゲームなどへの傾注,コンプライアンス・マネージメントの軽視などといった不正な行為は許されるものではない. 正しい目的を達成するために機能する組織でなければならず,組織の強大化が弊害となり機能が麻痺してはならない.
正しい事業組織とは,(1)正当で建設的・前進(2)共通・同一目的達成(3)協力・協調(4)ルール(5)有能な意図的同士の集積体,であるべき,である.
参考文献
- [r1] 芦屋 暁 (2012)『混迷の今こそ重視すべき真理と原則(時局レポート)』株式会社東京商工リサーチ, 2012.07.20
- [r2] Seesaawiki 『実定法と自然法』2012.03.06
- [r3] 岩崎 勇『宇宙観と経営①』BBIQモーニングビジネススクールWeb版, 2012.06.04
関連項目
- [w1] 自然権 (Wikipedia)
- [w2] 自然法 (Wikipedia)
- [w3] 実定法 (Wikipedia)
- [w4] 真理 (Wikipedia)