物理/エネルギーと保存則(その2)

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物理力学エネルギーと保存則(その2) 物理力学エネルギーと保存則(2)

目次

運動量と保存則

運動量と力積 (momentum or linear momentum and Impulse)

質点に力$\vec{F}(t)$が作用しているとする。
運動の第2法則$\vec{F}(t)=\frac{d\vec{p}(t)}{dt}$ の両辺を
時間に関して$t_1$から $t_2$まで積分してみよう。ここで$\vec{p}(t)=m\vec{v}(t)$は質点の運動量。
すると、
$\int_{t_1}^{t_2}\vec{F}(t)dt=\vec{p}(t_2)-\vec{p}(t_1)$
となる。
質点に作用する力を時間で積分した$\int_{t_1}^{t_2}\vec{F}(t)dt$を力積と呼ぶ。
力積は、運動量の変化に等しい。

質点系の運動量は、質点系の各質点の運動量の和で定義する。
質点系の場合も、各質点の力積の和(質点系の力積)は質点系の運動量の変化に等しいことが、
運動の第2法則から導ける。

運動量保存則

質点の場合、それに作用する外力の総和が零ならば、運動量は保存される(一定である)。
次のように質点系にも拡張できる。
運動量保存則( law of conservation of momentum )
質点系に作用する外力のベクトル和が零ならば、
内力(質点系内の質点間に働く力)があっても、
運動量は保存される。
証明;
質点系の質点数をN個とする。
質点系の各質点の位置を$\vec{r_i}$、質量を$m_i $とし、
質点$m_i$ に作用する外力を$\vec{f_i}$、
$m_i$ に、質点系の他の質点$m_j $から作用する内力を
$\vec{f_{ij}}$とする($i,j=1 \ldots N$)。
すると、各質点に対して、運動の第2法則により、
$\frac{d\vec{p}_i(t)}{dt}=\vec{f_i}+\sum_{j\neq i}\vec{f_{ij}} $ 
上の式を$i=1 \ldots N$について加え合わせると、
$\frac{d}{dt} \sum_i{\vec{p}_i(t)} =\sum_{i}(\vec{f_i}+\sum_{j\neq i}\vec{f_{ij}})$
$=\sum_{i}\vec{f_i}+\sum_{i}\sum_{j\neq i}\vec{f_{ij}}$
外力のベクトル和が零という仮定から、
$=\sum_{i}\sum_{j\neq i}\vec{f_{ij}}$
$=\sum_{i<j}(\vec{f_{ij}}+\vec{f_{ji}})$
上式の$\sum_{i<j}$は、すべての異なる$i<j$の組み合わせに関して和をとる意味である。
作用反作用の法則により、$ \vec{f_{ij}}+\vec{f_{ji}}=0$なので、
$\sum_{i<j}(\vec{f_{ij}}+\vec{f_{ji}})=0$
故に、
$\frac{d}{dt} \sum_i{\vec{p}_i(t)} =0 $
が得られる。
$\sum_i{\vec{p}_i(t)}$は時不変であり、保存される事が示された。

 保存則と座標系

質点系の運動量が保存されるか否かは、慣性系の選び方には無関係である。

命題;
質点系が、ある慣性系(原点O)からみて運動量を保存する(時不変)ならば、
他の慣性系からみても、運動量は保存する。
証明
質点系の各質点$P_i$の質量を$m_i $、
慣性系(原点O)からみた、位置ベクトルを$\vec{OP_i}=\vec{r_i}(t)$ とし、
運動量が時不変とする。
すなわち、
$\sum_{i}m_i \frac{d\vec{r_i}(t)}{dt}=$一定
他の慣性系(原点O')から観測した各質点の位置ベクトルを $\vec{r'_i}=\vec{r'_i}(t)$ とかくと、
$\vec{r_i}(t)=\vec{OP_i}=\vec{OO'}+\vec{O'P_i}=\vec{OO'}+\vec{r'_i}(t)$
慣性系(原点O)からみた他の慣性系の原点は、等速度($\vec u$) で運動するので、
原点O'の時刻tの位置ベクトルは
$\vec{OO'(t)}=\vec{OO'(0)}+\vec{u}t$
故に、
$\vec{r_i}(t)=\vec{OO'(0)}+\vec{u}t+\vec{r'_i}(t)$
ここで$O'(t)$ は、時刻tの原点O' を表す。
故に
$\sum_{i}m_i \frac{d\vec{r'_i}(t)}{dt} =\sum_{i}m_i \frac{d(\vec{r_i}(t)-\vec{u})}{dt}$
$=\sum_{i}m_i\frac{d\vec{r_i}(t)}{dt}-\sum_{i}m_i \vec{u}$
上の式の第1項は仮定により時間不変、第2項も時不変なので、
慣性系(原点O')からみた、質点系も運動量は保存される。

しかし、質点系の運動エネルギーが保存されるか否かは、一般に慣性系の選び方に依存する。
これに関しては以下の命題が成り立つ。
命題
ある慣性系 $\Sigma(O)$ からみて、 質点系 $\{m_i\}_{i}$ の
運動量と運動エネルギーが保存されるならば、
他の慣性系 $\Sigma '(O')$ からみても、
運動量と運動エネルギーは保存される。
証明
運動量の保存は、慣性系によらない性質であることは、前命題で証明済みであるので、
この条件のもとで、
運動エネルギーの保存は慣性系によらないことを証明する。
慣性系 $\Sigma(O)$ からみた、
慣性系 $\Sigma '(O')$ の原点 O' の時刻tの位置ベクトル $\vec{OO'(t)}$は、
ある速度ベクトル $\vec u$ を用いて、
$\vec{OO'(t)}=\vec{OO'(0)}+t\vec u$ と表せる。
すると各質点の、両観測系から見た速度ベクトルには
$\vec{v_i}(t)=\frac{d\vec{r}_i(t)}{dt}=\frac{d(\vec{OO'(t)}+\vec{r'}_i(t))}{dt}=\vec u +\vec{v'}_i(t) \qquad (1)$
慣性系 $\Sigma '$ からみた質点系の運動エネルギーE’は
$E'(t):=\frac{1}{2}\sum_i m_i \|\vec{v'}_i(t)\|^2$
$=\frac{1}{2}\sum_i m_i \|\vec{v_i}(t)- \vec u \|^2=\frac{1}{2}\sum_i m_i (\vec{v_i}(t)- \vec u )\cdot (\vec{v_i}(t)- \vec u )$
$=\frac{1}{2}\sum_i m_i \left( \vec{v_i}(t)\cdot\vec{v_i}(t)+\vec u \cdot \vec u-2\vec{u} \vec{v_i}(t)\right)$
$=\frac{1}{2}\sum_i m_i \|\vec{v_i}(t)\|^2 +\frac{1}{2}\sum_i m_i \|\vec u\|^2 -\vec{u}\sum_i m_i \vec{v_i}(t)$
上式の第1項と3項は、仮定より時不変、第2項は定数なので、
$E'(t)$ は時不変であることが示された。

エネルギーの単位

1Nの力で物体を1m動かしたとき、力は1J(ジュール)の仕事をしたという。
1[J]=1[N・m]

衝突の問題への応用

物理学で衝突とは、広い意味では、2つの物体が近づき力をおよぼしあう現象を指す。
通常扱う衝突は、2つの物体が互いに近づき接触し、
その瞬間に互いに相手から非常に大きな力を受け、運動に変化をおこす現象である。
この力は撃力と呼ばれる。
作用・反作用の法則として確立しているように、
この2つの撃力は大きさと方向は同じだが向きは逆の力である。
撃力はきわめて短時間に大きく変化するため、測定することは困難である。
そこで、力を測定しなくても、運動変化についてどこまでいえるか、考察しよう。

衝突時に起こる変化

2物体の強度や粘性、反発特性や衝突時の相対速度により下記のような現象が起こる。
(1)衝突時に粉々に砕け散る、
(2)反発し互いに撃力を及ぼしあい運動方向や速さを変え互いに遠ざかっていく、
(3)2物体は反発しないでくっつき、一体になって運動する

衝突時に成立すること

衝突前後の極めて短時間の運動変化を調べるのが目的なので、
2物体に外部から働く力は無視出来る。
なぜならばこの間の撃力の力積は大きく運動変化を起こすが、
外部力の力積は極小で、それによる運動変化は無視出来るから。
この仮定の下では、衝突時に何が起ころうと成り立つ事実がある。

運動量の保存

2つの物体は、それぞれ質点系である。
そこで、2物体を纏めた一つの質点系を考える。
衝突時の撃力は、上述のように両物体に色々な変化を起こす。
しかしそれらすべての変化の原因となる、
撃力による質点間の力の急変にも作用反作用の法則は成り立つ。
従って、衝突により、物体が粉々に成ろうとも、
すべての質点の運動量の和は、不変である。式で書くと
$\vec{P}:=\sum_{i}\vec{p}_i=\sum_{i}m_{i}\vec{v}_i$($\vec{P}$は一定)$\quad (2)$

2粒子の衝突後の運動は一般には、求めることはできない

2つの質点(質点とみなせる物体)の衝突に限定して、考察する。

質点は大きさを持たないので、衝突時に壊れることはない。
すると、
衝突時に撃力が働き反発しあって互いに遠ざかるか、
合体して一つの粒子となり運動するか
のいづれかである。

粒子が運動量・速度を変えるのは衝突の間だけ

各質点には衝突の瞬間の撃力以外に力は作用しないと仮定しているので、 衝突前も衝突後も運動量(速度)一定で運動する。変化は衝突撃力の作用して瞬間に起こる。

一体化するか、反発しあって互いに遠ざかるかは、粒子の性質に依存 

衝突の瞬間に一体化するか反発しあって互いに遠ざかるかは、
2粒子の反発係数によりきまる。
反発係数が0ならば一体化する。
したがって、運動量の保存だけでは2質点の衝突後の運動は決まらない。

衝突時に一体化する場合

衝突直前の粒子$m_1,m_2$の運動量を$\vec{p}_1,\vec{p}_2$
一体になった粒子の運動量を$\vec{P}$とおくと
運動量保存の法則により
$\vec{P}=\vec{p}_1+\vec{p}_2 $
これより、衝突後の速度は$\vec v=\frac{\vec{P}}{m_1+m_2}$

反発しあって互いに遠ざかる場合  

衝突前の両粒子の運動量が分かっているとき、
衝突後の2粒子の運動量を、運動量保存則から求めることが出来るだろうか?
求めたい数は衝突後の両粒子の運動量なので、6つである。

運動量保存則からは、各座標成分ごとの3つの式ができる。
方程式の個数が未知数の個数よりすくないので、変数の値は決められない(方程式は解けない)。
未知数とそれらの間に成り立つ方程式の数を同じにするため、 衝突時の条件を付けてみよう。

弾性衝突   

2つの粒子の運動エネルギーの和が、衝突時に保存される衝突を弾性衝突という。
エネルギー保存は一つの関係式しか与えないので、まだ2つ方程式が足りない。
残り2つの方程式は衝突の際の撃力に関する知識が必要になるので、
一般的には議論出来ない。

弾性衝突で撃力の方向が分かる場合

この場合には衝突後の運動の方向がわかり、
これを式で表すと、2つの保存則の方程式と連立させて、
衝突後の2粒子の運動量を其々求めることが出来る。
例として、
両粒子が同じ直線上を運動し、正面から衝突する場合を考える。
この時撃力は、この直線と同じ方向に働く。
すると衝突後も粒子はこの直線上を運動する。
この直線をx座標に選べば、粒子の位置はx座標だけで表せる。
速度(運動量)もx座標方向となるので、x座標成分が変数となる。
(注)速度(運動量)の他の座標成分は全て零となる。
すると衝突後の2粒子の運動量は、それぞれの粒子の運動量のx座標成分が未知数となる。
この2つの未知数に対して、
運動量保存則のx座標成分の式と運動エネルギー保存の式の2つの方程式が得られる。
一次方程式と2次方程式の連立方程式なので、容易に解ける。


弾性衝突の一般論

弾性粒子の衝突は、物理学で重要な役割を果たしている。
原子物理学では、原子の衝突の実験が行われるが、弾性衝突の概念が基本になっている。
この条件で、衝突後の2粒子の運動量をどこまで推察できるか考察する。
以下衝突の起こる時刻を、t=0にとる。
衝突時にだけ、粒子の速度と運動量変化が起こるので
衝突前(t<0)の粒子の速度を$\vec{v}(-)$ 運動量を$\vec{p}(-)$,
衝突後(t>0)の粒子の速度を$\vec{v}(+)$ 運動量を$\vec{p}(+)$,
などと書く。

 実験・観測と考察に都合のよい慣性系の選択

実験室系

衝突する2粒子の質量を$m_1,m_2$とし、
質点$m_2$が原点に静止するような慣性座標系Sを定める(注参照)。
実験室系(laboratory system)とよぶ。
通常の物理実験では一方の粒子を固定し、それを標的に他の粒子をあてるので、
この名がついている。
この系は慣性系なので、あらゆる力学の法則が成り立つ。
(注)$m_2$粒子は衝突前、等速度運動をしているので、
衝突前には、この粒子の位置を原点とし等速度で並進し、
衝突後もこの速度で並進する座標系をとればよい。
この系からみれば、$m_2$は衝突前は止まって見える。
この系は、地上に固定した慣性系に対して等速度並進運動する系なので慣性系である。
証明は、「1.3 ガリレイ変換とガリレイの相対性原理」にある。

このS系からみた、質点$m_i$の時刻tでの位置ベクトルと速度、運動量を、それぞれ
$\vec{r^i}(t), \quad \vec{v^i}(t), \quad \vec{p^i}(t) \quad$(i=1,2)
と記す。

S系で観測する衝突前の運動   

衝突前の時刻t(<0)の質点$m_2$の位置ベクトルと速度はともに零なので、
$\vec{r^2}(-)=0,\quad \vec{v^2}(-)=0,\quad \vec{p^2}(-)=0$
また質点$m_1$は衝突前に等速度で運動しているので、この速度を$\vec v^1(-)$と書くと
$\vec{p^1}(-)=m_1 \vec{v^1(-)} \quad \qquad     (1)$
質点系の運動量は、
$\vec{P}(-):=\vec{p^1}(-)+\vec{p^2}(-)=\vec{p^1}(-)=m_1 \vec{v^1(-)} \quad $

S系で観測する衝突後の運動   

2粒子系の運動量$\vec P$(各質点の運動量$\vec P^i,(i=1,2)$の和)は保存されるので、

$\vec P=\vec{P(-)}=m_1\vec{v^1}(-) \qquad \qquad     (1')$

でPを決めると、
$\vec P=\vec{P(-)}=\vec{P(+)}=m_1\vec v^1(t)+m_2\vec v^2(t) $ (tは任意の時刻)$\quad (2)$
この式から、衝突後の2つの質点の速度や運動量そのものは求めることはできない。
しかし、それらの満たすべき性質について、もっと知ることが出来ないだろうか。
この系から観測している限り、これを見つけるのは難しい。

2粒子の重心は等速直線運動をする  

「2.3 質点の運動中の質点系の運動」に記載した通り、
S系でみた時刻tの2質点系の重心は、位置ベクトル
$\vec{R}(t):=\frac{m_1\vec{r^1}(t)+m_2\vec{r^2}(t)}{m_1+m_2}$
で定義された点である。
S系からみた重心の速度は
$\vec{V}:=\vec{V}(t)=\frac{d\vec{R}(t)}{dt}=\frac{m_1\vec{v^1}(t)+m_2\vec{v^2}(t)}{M}$
$=\frac{\vec P}{M}=\frac{m_1\vec{v^1}(-)}{M} \qquad \qquad (3)$

ここで、$M:=m_1+m_2$は、質点系の質量である。

質点系の重心は、衝突にかかわらず、速度$\vec{V}$で、等速直線運動を続けることが分かった。

 重心系 

2粒子の重心に張り付けた並進運動する座標系$S'$(原点は重心位置にとる)を定める。
重心系(center-of-mass system)という。
重心は衝突にかかわらずS系からみて等速度で運動するので、
この系は慣性系となる。
この系からみると、衝突前後の2粒子の運動は非常に単純になり、
衝突現象を解明しやすくなる。

 S'系からみた質点系の衝突 

この系からみた、時刻tの質点$m_i$の位置,速度、運動量を
$\vec{r'^i}(t) \quad,\vec{v'^i}(t),\quad \vec{p'^i}(t)$
と記す。
S'系も慣性系なので、この系から見た質点系の運動量は保存される。 これを時不変のベクトル$\vec P'$ で表す。
S系の原点を$O$、時刻tのS'系の原点を$O'(t)$と書くと、
S系とS'系からの位置の観測値の間にはガリレイ変換

$\vec{r}(t)=\vec{OO'}(t) +\vec{r'}(t) \qquad \quad \qquad \qquad (4)$


ここで、$\frac{d\vec{OO'}(t)}{dt}=\vec V $
が成り立つ。
式(4)の両辺をtで微分すると、

$\vec{v}(t)=\vec{V} +\vec{v'}(t)=\frac{m_1\vec{v^1}(-)}{M} +\vec{v'}(t) qquad \quad (5)$

この関係を、質点$m_i$の位置、速度に適用すると
$\vec{r^i}(t)=\vec{OO'}(t)$ $ +\vec{r^i}'(t)$
$\vec{v^i}(t)=\vec{V} +\vec{v^i}'(t)$
を得る。ゆえに
$\vec{p^i}(t)=m_i\vec{v^i}(t)=m_i\vec{V} +m_i\vec{v^i}'(t)$
$=m_i\vec{V} +\vec{p^i}'(t)\qquad \quad \qquad \qquad (6)$
すると、i について和をとると
$\vec P=\vec{p^1}(t)+\vec{p^2}(t)=M\vec{V} +\vec{P'}$
$=\vec P+\vec{P'}$
故に、 $\vec{P'}=0$
これで、S'系からみた2質点系の運動量が常に零であること が分かった。
さらに式(6)に、式(3)($\vec{V}=\frac{m_1\vec{v^1}(-)}{M}$)を代入すると、
$\vec{p^i}(-)=m_i\frac{m_1\vec{v^1}(-)}{M}+\vec{p^i}'(-)$
この式は、i=1の時、式(1)から、
$m_1\vec{v^1}(-)=m_1\frac{m_1\vec{v^1}(-)}{M}+\vec{p^1}'(-)$
整頓すると
$\vec{p^1}'(-)=\frac{m_1m_2}{M} \vec{v^1}(-)$
これらを纏めて次の命題が得られる。
命題1
慣性系Sからみて、粒子$m_2$は原点に静止し、
粒子$m_1$が速度$\vec{v^1}(-)$で、等速直線運動をして、
時刻t=0で、粒子$m_2$に衝突するとする。
すると、
(1)この2粒子の重心はS系から見て
$\vec{V}=\frac{\vec P}{M}=\frac{m_1\vec{v^1}(-)}{M} \qquad \qquad (3)$
で等速直線運動を行い、重心を原点とし並進運動する重心系S'は慣性系である。
(2)運動する質点の速度を慣性系S系とS'系で観測すると、それらの間には、
$\vec{v}(t)=\vec{V} +\vec{v'}(t)\qquad \quad \qquad \qquad (5)$
(3)$\vec{p^1}'(-)=-\vec{p^2}'(-)=\frac{m_1m_2}{M}\vec{v^1}(-)$
(4)この2粒子系の運動量PをS系とS'系から観測すると、衝突前後で変わらず
$\vec P=\vec{P(-)}=\vec{P(+)}=m_1 \vec{v^1(-)}$
$\vec{P'}=\vec{P'(-)}=\vec{P'(+)}=0$  
従って、任意のtに対して、
$\vec{p^1}'(t)=-\vec{p^2}'(t) \qquad \quad \qquad \qquad (7)$
$\vec{v^2}'(t)=-\frac{m_1}{m_2}\vec{v^1}'(t)\qquad \quad \qquad \qquad (7') $
さらに運動エネルギーの保存から次の命題が得られる。
命題2
重心系S'系で観測すると、
両質点の運動量の大きさは、衝突前後で変わらず(時不変)、しかも相等しい。
式で書くと、任意のtに対して
$\|\vec{p^1}'(t)\|=\|\vec{p^2}'(t)\| =\frac{m_1m_2}{M}\|\vec{v^1}(-)\|$(一定)$\qquad (8)$
故に
$\|\vec{v^1}'(t)\| =\frac{m_2}{M}\|\vec{v^1}(-)\|\qquad \quad \qquad \qquad (9) $
$\|\vec{v^2}'(t)\|=\frac{m_1}{M}\|\vec{v^1}(-)\|\qquad \quad \qquad \qquad (10) $


証明;
弾性衝突では、系の運動エネルギーT'は保存されるので、
$T':=\frac{1}{2}(\frac{\|\vec{p^1}'(t)\|^2}{m_1}+\frac{\|\vec{p^2}'(t)\|^2}{m_2})$(全てのtに対して)
また式(6)から$\|\vec{p^1}'(t)\|^2=\|\vec{p^2}'(t)\|^2$
なので、
$T':=\frac{1}{2}(\frac{\|\vec{p^1}'(t)\|^2}{m_1}+\frac{\|\vec{p^1}'(t)\|^2}{m_2})$ $=\frac{1}{2}\frac{m_1+m_2}{m_1 m_2}\|\vec{p^1}'(t)\|^2$
故に、
$\|\vec{p^1}'(t)\|^2=2\frac{m_1m_2}{M}T'$
$=\|\vec{p^2}'(t)\|^2$
ここで、
$T'= \frac{1}{2}(\frac{\|\vec{p^1}'(-)\|^2}{m_1}+\frac{\|\vec{p^2}'(-)\|^2}{m_2})$
$=\frac{1}{2}(\frac{1}{m_1}+\frac{1}{m_2})\|\vec{p^1}'(-)\|^2$
$=\frac{1}{2}\frac{M}{m_1m_2}\|\frac{m_1m_2}{M}\vec{v^1}(-)\|^2$
$=\frac{1}{2}\frac{m_1m_2}{M}\|\vec{v^1}(-)\|^2$
なので、運動量の大きさに関する所要の式を得る。
運動量の定義から速度の大きさに関する式が得られる。証明終わり。
(注)S'系での時刻tでの運動エネルギー
T'(t)$:=\frac{1}{2} (\|\vec{v^1}'(t)\|^2+(\|\vec{v^2}'(t)\|^2)$を、
速度のガリレイ変換である式(5)を用いて変形し、
ノルムの2乗を内積で表現し、内積計算すると
$T'(t)=T(t)-\frac{M}{2}\|\vec{V}\|^2$
$=\frac{1}{2}m_1\|\vec{v^1}(-)\|^2-\frac{M}{2}\|\vec{V}\|^2 $
$=\frac{1}{2}\frac{m_1m_2}{M}\|\vec{v^1}(-)\|^2$
が得られる。
この証明法は、S'系でも運動エネルギーが保存されることが同時に証明されるメリットがある。

これらの命題から、S'系からみると、  
(1)2質点は衝突前はある直線上を互いに原点にむかって、
同じ大きさの運動量の持って接近し、
衝突後は(一般には向きを変えた)ある直線上を、
同じ大きさの運動量をもって互いに遠ざかること、 
(2)弾性衝突の場合、それぞれの粒子は、衝突後も速度の大きさは変えないこと
が分かった。
ただし、衝突後どの方向に飛びさるかは、運動量保存と運動エネルギー保存だけでは 決まらない。

 S系からみた質点系の運動 

S'系からみた弾性衝突にかんする知見を、S系で解釈してS系での衝突に関する知見を得よう。
これには両系からみた粒子の速度の関係式(5)をもとに、
速度の関係を図示して幾何学の知識を使うと見通しが大変良い。

有向線分$\overrightarrow{QQ'}=\vec{V}=\frac{m_1}{M}\vec{v^1}(-)$を定める。
すると、
S系から見た速度$\vec v$を、始点Qの有向線分$\overrightarrow{QP}$で表現すると、
S'系からみた速度は、式(5)より、$\vec v'=\overrightarrow{Q'P}$で与えられる。
図1参照のこと。 命題2から
S'系からみると、質点$m_1$の速度の大きさは、常に(衝突の前も後も)
$\|\vec{v^1}'(t)\| =\frac{m_2}{M}\|\vec{v^1}(-)\|\qquad \quad \qquad \qquad (9) $
そこで、Q'点を中心とし、半径$\frac{m_2}{M}\|\vec{v^1}(-)\|$の球面$S_1$を考えると、
質点$m_1$の速度は、S'系からみると衝突前も後も、この球面上のある点Pを用いて
$\vec v'=\overrightarrow{Q'P}$であらわせる。
これをS系からみると速度は$\vec v=\overrightarrow{QP}$
同様に
S'系からみると、質点$m_2$の速度の大きさは、常に
$\|\vec{v^2}'(t)\| =\frac{m_1}{M}\|\vec{v^1}(-)\|\qquad \quad \qquad \qquad (10) $
なので、
Q'点を中心とし、半径$\frac{m_1}{M}\|\vec{v^1}(-)\|$の球面$S_2$ 上の点が、質点$m_2$の速度を表す。
$\|\overrightarrow{QQ'}\|=\frac{m_1}{M}\|\vec{v^1}(-)\|$なので、球面$S_2$は、点Qを含む。

幾何学的考察

図2をもとに説明する。

球面$S_1$と直線$QQ'$の交点(2個)のうち、
線分$QQ'$上にあるものを$P_{m_1}^{head}$, 線分$QQ'$の外部の点を$P_{m_1}^{-}$,
球面$S_2$と直線$QQ'$の交点(2個)のうち、
Q点を$P_{m_2}^{-}$、Q点と異なる点を、$P_{m_2}^{head}$と書く。

すると、
$\overrightarrow{QP_{m_1}^{-}}=\overrightarrow{QQ'}+\overrightarrow{Q'P_{m_1}^{-}} =\frac{m_1}{M}\vec{v^1}(-)+\frac{m_2}{M}\vec{v^1}(-)=\vec{v^1}(-)$
なので、点$P_{m_1}^{-}$は衝突前の質点$m_1$の速度を表す。
すなわち、S系からみた速度は$\vec{v^1}(-)=\overrightarrow{QP_{m_1}^{-}}$
S'系からみた速度は$\vec{v^1}'(-)=\overrightarrow{Q'P_{m_1}^{-}}=\frac{m_2}{M}\vec{v^1}(-)$


衝突後の2質点の速度
衝突後の2質点の、S'からみた速度は命題1、命題2で明らかにしたように $\|\vec{v^1}'(t)\| =\frac{m_2}{M}\|\vec{v^1}(-)\|\qquad \quad \qquad \qquad (9) $
$\vec{v^2}'(t)=-\frac{m_1}{m_2}\vec{v^1}'(t)\qquad \quad \qquad \qquad (7')$
をみたす。
そのため、$m_1$の衝突後の速度を表す点
$P_{m_1}(i.e.\overrightarrow{Q'P_{m_1}}=\vec{v^1}'(+))$は
球面$S_1$上の点である。
逆に球面$S_1$上の点は$m_1$の衝突後に実現可能な速度を表す点である。
直線$P_{m_1}Q'$と球面$S_2$との交点のうち、
Q'からみて$P_{m_1}$と反対側の点を$P_{m_2}$とかく。
すると式(7')から、$\vec{v^2}'(+)=\overrightarrow{Q'P_{m_2}}$
$\vec{v^1}(+)=\overrightarrow{QP_{m_1}}$と$\vec{v^1}(-)\propto \vec V=\overrightarrow{QQ'}$のなす角$\theta_1:=\angle{P_{m_1}QQ'}$は
衝突によって質点$m_1$が変えた進行角なので、$m_1$の散乱角という。
$\vec{v^2}(+)=\overrightarrow{QP_{m_2}}$と$\vec{v^1}(-)$のなす角$\theta_2:=\angle{P_{m_2}QQ'}$は$m_2$の散乱角という。
三角形$\triangle {P_{m_1}QP_{m_2}}$を考える。
$\vec V$はこの三角形の中を通るので、
$\theta_1+2\theta_1+\angle{QP_{m_1}P_{m_2}}$は三角形$\triangle {P_{m_1}QP_{m_2}}$の内角の和となり、
$\theta_1+2\theta_2+\angle{QP_{m_1}P_{m_2}}=\pi \qquad \qquad (11)$


正面衝突のとき;
2粒子が真正面から衝突し、両者の散乱角が零となるときは、
$P_{m_1}^{head}$が粒子$m_1$の速度を与える点で
$P_{m_2}^{head}$が粒子 $m_2$の速度を与える点である。
故に、この場合、$\vec{v^1}(+)=\overrightarrow{QP_{m_1}^{head}}=\frac{m_1-m_2}{M}\vec{v^1}(-)$
$\vec{v^2}(+)=\overrightarrow{QP_{m_2}^{head}}=\frac{2m_1}{M}\vec{v^1}(-)$

$m_1>m_2$の場合

このケースでは、点Qは球面$S_1$の外部になる。
Q点から、球面$S_1$に一つの接線を引き、接点を$P_{m_1}^{max}$とし、
$\vec{Q'P_{m_2}^{max}}=-\frac{m_1}{m_2}\vec{Q'P_{m_1}^{max}}$となる点$P_{m_2}^{max}\in S_2$を決める。
角$\angle{P_{m_1}^{max}QQ'}$は、$m_1$の最大の散乱角になることは、図から容易にわかる。
そこで、$\theta_{1}^{max}(:=\angle{P_{m_1}^{max}QQ'})$とかく。
この角度は、図から、
$\sin \theta_{1}^{max} =\frac{\| \vec{Q'P_{m_1}^{max}} \|}{\|\vec{QQ'}\|} =\frac{m_2}{m_1}$
を満たす。
この時の$m_2$の散乱角を求めよう。
直線$P_{m_1}Q'$と球面$S_2$の交点のうち、$P_{m_1}$からの距離の大きいほうを$P_{m_2}^{max}$とおく。
すると、接線の性質から、角$\angle {QP_{m_1}^{max}P_{m_2}^{max}}=\pi/2$
式(11)から、$\theta_{1}^{max}+2\theta_2=\pi /2$
故に、$\theta_2=\frac{\pi /2-\theta_{1}^{max}}{2},\quad $$\theta_{1}^{max}={\sin}^{-1}(m_2/m_1)$

正面衝突の場合は
粒子$m_1$が粒子$m_2$に与える激力は、粒子$m_1$の衝突前の速度の方向なので、散乱角は零となる。
このため、衝突後の粒子$m_i$の速度を表す点は、図の$P_{m_1}^{head}$となり、
$\vec{v^1}(+)=\vec{QP_{m_1}^{head}}=\frac{m_1-m_2}{M}\vec{v^1}(-)$
$\vec{v^2}(+)=\vec{QP_{m_2}^{head}}=\frac{2m_1}{M}\vec{v^1}(-)$

$m_1<m_2$の場合

このとき、Q点は球面$S_1$の内部になるので、S系からみても$m_1$の速度は衝突後、あらゆる方向をとりえる。図参照。
従って、この場合には、散乱角については、式(11)しか言えない。
$0 \leq \angle{QP_{m_1}P_{m_2}} \leq \pi \quad $なので、式(11)から、
$0 \leq \theta_1+2\theta_2 \leq \pi$

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