物理/剛体の回転運動と釣合い

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物理力学剛体の回転運動と釣合い

目次

☆☆剛体の回転運動

ある点の周りの力のモーメント$\vec N$ が、その点をとおる、あらゆる回転軸にかんする回転力を表現していることがわかった。
この節では力$F$と運動量の変化の関係をあたえるニュートンの運動方程式(第2法則)を変形して、
回転力$\vec N$にかんする方程式を導く。
またその応用として、剛体のつり合い条件を求める。

剛体の内部力についての仮定

直交右手座標系$O-xyz$ を定める。原点 $O$ は、考察に都合のよい点を選ぶ。

剛体を$N$個の(質点と考えてよい)微小部分$P^i(i=1 \cdots N)$に分け、
その質量を$m_i$、位置ベクトルを$\vec{r}^i(x_i,y_i,z_i)$とする。
$P_i$が外部から受ける力を$\vec {F}^i$、
$P_i$ が剛体の他の部分$P_j(j\neq i)$ から受ける力(内力)を$\vec {F}^{ij}$とおく。
後者は、剛体が変形しないよう、剛体の原子間に働かせる力に起因する。
この原子間の力は、原子の電荷による電気力と、
原子同士が接近しすぎたときに作用する量子力学的力により生じる。
作用・反作用の法則(運動の第3法則)から、$\vec F^{ij}=-\vec F^{ji}$ 。
さらに、剛体の2点間に働く内力の方向は、
その2点を結ぶ直線の方向と同じだと、仮定する。

各質点のニュートンの運動方程式  

各質点ごとに、ニュートンの運動方程式を立てると、
$m_i\frac{d^2\vec r^i}{dt^2}=\vec F^i+\sum_{j\neq i}\vec F^{i,j} \quad (i=1 \cdots N)$
これを変形して
$\vec F^i=m_i\frac{d^2\vec r^i}{dt^2}-\sum_{j\neq i}\vec F^{i,j} \quad (i=1 \cdots N)$ $\qquad (1)$ 
この式から、
力$\vec F^i$の回転力$\vec N^i=\vec r^i \times \vec F^i$にかんする式を導こう。

$\vec N^i=\vec r^i \times \vec F^i$にかんする式の誘導

式(1)の両辺に左側から、$\vec r^i$ のベクトル積を施すと、
$\vec N^i=\vec r^i \times \vec F^i =\vec r^i \times (m_i\frac{d^2\vec r^i}{dt^2}-\sum_{j\neq i}\vec F^{i,j}) $ $(i=1 \cdots N) $
ベクトル積の性質3と性質4により、
$=m_i\vec r^i \times \frac{d^2\vec r^i}{dt^2}-\sum_{j\neq i}\vec r^i \times\vec F^{i,j}$ $\qquad (2)$
ここで、ベクトル積の性質8より
$\frac{d}{dt}(\vec r^i \times \frac{d \vec r^i}{dt}) = \frac{d \vec r^i}{dt} \times \frac{d \vec r^i}{dt} +\vec r^i \times \frac{d^2\vec r^i}{dt^2} =\vec r^i \times \frac{d^2\vec r^i}{dt^2}$
なので、 $\vec N^i=m_i\frac{d}{dt}(\vec r^i \times \frac{d \vec r^i}{dt}) -\sum_i\vec r^i\times \vec F^{i,j}
= \frac{d}{dt}(\vec r^i \times m_i\frac{d \vec r^i}{dt}) -\sum_{j\neq i}\vec r^i\times \vec F^{i,j} \qquad (3)$
質点$P_i$の運動量を$\vec P^i$と書くと、
$P^i=m_i\vec v^i=m_i\frac{d\vec r^i}{dt}$なので、
$\vec N^i=\frac{d}{dt}(\vec r^i \times \vec P^i) -\sum_{j\neq i} \vec r^i \times \vec F^{i,j}   $
定義;角運動量(運動量のモーメントともいう)
質点の位置ベクトルを$\vec r$、運動量を$\vec p$と書くとき、
$\vec l=\vec r \times \vec p$を,この質点の角運動量と呼ぶ。
これを用いると、
$\vec N^i=\frac{d\vec l^i}{dt}-\sum_{j\neq i} \vec r^i \times \vec F^{i,j} $

 回転の運動方程式の導出 

故に、
$\vec N=\sum_i\vec N^i=\frac{d\sum_i \vec l^i}{dt}-\sum_i \sum_{j\neq i} \vec r^i \times \vec F^{i,j} \qquad (4) $
ここで、
$\sum_i \sum_{j\neq i} \vec r^i \times \vec F^{i,j}=\sum \sum_{i<j}\vec r^i \times \vec F^{i,j}+\sum \sum_{i>j}\vec r^i \times \vec F^{i,j} \qquad (5)$
式(4)の右辺の第2項の上付き添え字i,jを、それぞれ、j'と i'でおきかえられるので、
$ \sum \sum_{i>j}\vec r^i \times \vec F^{i,j} =\sum \sum_{j'>i'}\vec r^{j'} \times \vec F^{j',i'}$
内力は作用反作用の法則が適用できると仮定しているので、
$\vec F^{j',i'}=-\vec F^{i',j'}$ 。この式を上の式の右辺に代入すると、
$ \sum \sum_{i>j}\vec r^i \times \vec F^{i,j} =-\sum \sum_{j'>i'}\vec r^{j'} \times \vec F^{i',j'}$
この式の右辺の和をとる変数i',j' を i,j におきかえると、
$\sum \sum_{i>j}\vec r^i \times \vec F^{i,j}=-\sum \sum_{i<j}\vec r^{j} \times \vec F^{i,j}$
この式を、式(5)の右辺の第2項に代入して整頓すると、
$\sum_i \sum_{j\neq i} \vec r^i \times \vec F^{i,j} =\sum \sum_{i<j}(\vec r^i - \vec r^{j}) \times \vec F^{i,j}$
さらに、内力に関する第2の仮定により、$\vec r^i - \vec r^{j}$ と$\vec F^{i,j}$は同じ方向なので、ベクトル積の定義より、この項は、零となることが分かる。
故に、式(4)の右辺の第2項は零となり、
$\vec N=\frac{d\sum_i \vec l^i}{dt} \qquad (6) $
が得られる。全角運動量を$\vec L =\sum_i \vec l^i $とおけば、
式(6)は、次のように書ける。

命題;回転運動の関するオイラーの運動方程式
剛体の内力に上述の2つの仮定を付ける。このとき、
剛体に作用する全ての外部力の原点周りの力のモーメント$\vec N=\sum_i\vec N^i=\sum_i\vec r^i \times \vec F^i$と、
全角運動量$\vec L =\sum_i \vec l^i =\sum_i \vec r^i \times \vec p^i$の間には、
$\vec N=\frac{d\vec L}{dt} \qquad $ (7)

この命題の導出までは詳しく述べたが、本テキストではこれ以上は深入りしない。
この先にも興味がある方は、次の記事をご覧ください。

角運動量の保存則

固定軸の周りの剛体の回転運動の方程式

回転運動の運動方程式から、任意の軸の周りの回転運動の方程式が簡単に導出できる。
z軸周りの場合を例にとり、説明する。
z軸周りの回転力は$T_{\vec e_z}=\vec N \cdot \vec e_z$なので、
回転運動の方程式から
$T_{\vec e_z}=\vec N \cdot \vec e_z =\frac{d\vec L}{dt} \cdot \vec e_z$
この式の右辺に,$L=\sum_i \vec r^i \times \vec p^i$ を代入すると
右辺
$=\frac{d\sum_i \vec r^i \times \vec p^i}{dt}\cdot \vec e_z \qquad$ (微分の加法性から)
$=(\sum_i \frac{d \vec r^i \times \vec p^i}{dt})\cdot \vec e_z \qquad$ (内積の加法性から)
$=\sum_i(\frac{d \vec r^i \times \vec p^i}{dt}\cdot \vec e_z) \qquad$ (ベクトル積の性質8から)
$=\sum_i(\frac{dr^i}{dt}\times \vec p^i+\vec r^i \times \frac{d\vec p^i}{dt})\cdot \vec e_z$ $\qquad \vec p^i=m_i\frac{d\vec r^i}{dt} $を代入し、ベクトル積の性質を用いると、
$=\sum_i(\vec r^i \times \frac{d^2 \vec r^i}{dt^2})\cdot \vec e_z$
故に、
$T_{\vec e_z}=\sum_i(m_i\vec r^i \times \frac{d^2 \vec r^i}{dt^2})\cdot \vec e_z\qquad (1) $
剛体はz軸の周りを回転するので、
その各点$P_i$(位置ベクトル$\vec r^i=\vec{OP_i}$)は、
z軸と直交する平面上を、z軸を中心とする円を描いて運動する。
この拘束条件を考慮して、
時刻$t$の位置ベクトル$\vec r^i(t)$の座標成分を書きなおすと、
$\vec r^i(t)=(x^i,y^i,z^i)=(\hat{r}_i\cos\theta_i(t),\hat{r}_i\sin\theta_i(t),z^i) \qquad (2)$
ここで$\hat{r}_i$は、点$P_i$とz軸との距離、
$\theta(t)$は、$\vec r^i(t)$をxy平面に正射影した像がx軸となす角度である。図参照。
剛体につけておいた印$P_s$の位置ベクトル$\vec{OP_s}$を
xy平面に正射影した像がx軸となす角(回転角)$\phi$を用いると、
$\theta_i(t)=\phi(t)+\phi_i \qquad (3)$
($\phi_i$は、$P_i$ごとに決まる、定数)と書ける。

式(1)の右辺を、式(2)を利用して、変形すると、
$T_{\vec e_z}=\sum_i m_i\{ (\hat{r}_i\cos\theta_i(t),\quad \hat{r}_i\sin\theta_i(t),\quad z^i)\times $
$ \hat{r}_i(-\cos\theta_i\dot{\theta_i}^2-\sin\theta_i\ddot{\theta_i},\quad -\sin \theta_i \dot{\theta_i}^2 +\cos \theta_i\ddot{\theta_i},\quad 0)\} \cdot \vec e_z$
$=\sum_i m_i\hat{r}_i \{ (\hat{r}_i\cos\theta_i(t),\quad \hat{r}_i\sin\theta_i(t),\quad z^i) \times (-\cos\theta_i\dot{\theta_i}^2-\sin\theta_i\ddot{\theta_i},\quad -\sin \theta_i \dot{\theta_i}^2 +\cos \theta_i\ddot{\theta_i},\quad 0) \}_3$
ここで、$\{\qquad \}_3$は、括弧内のベクトルの$x_3$座標成分(z座標成分)を表す。

ベクトル積の性質6より、
$=\sum_i m_i\hat{r}_i$
$\left(\hat{r}_i\cos\theta_i(t) (-\sin\theta_i(t)\dot{\theta_i}(t)^2 +\cos\theta_i(t)\ddot{\theta_i}(t)) -\hat{r}_i\sin\theta_i(t) (-\cos\theta_i(t)\dot{\theta_i}(t)^2 -\sin \theta_i(t)\ddot{\theta_i}(t) \right)$
$=\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2\ddot{\theta_i}(t)$
ここで、$\theta_i(t)=\phi(t)+\phi_i$を代入すると
$=(\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2)\ddot{\phi}(t)$
以上により、
$T_{\vec e_z}=\vec N \cdot \vec e_z$ 
$=(\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2)\ddot{\phi}(t)$
が得られた。 $I=\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2$とおくと、この式は
$T_{\vec e_z}=I \ddot{\phi}(t) \qquad (4)$
と書ける。ここで$I$を、剛体の軸まわりの慣性モーメントと呼ぶ。
これがz軸を固定軸とする剛体の回転運動の運動方程式である。
原点を始点とする任意の回転軸$\vec{e},\|\vec{e}\|=1$まわりの回転の方程式も同様に得られる。

この方程式の変数$\phi$ は、一次元のスカラーなので、
質点がなめらかに拘束され、直線上を運動するときの運動方程式
$F=m\ddot{x}$
と、対比させる。すると、
質点に作用する力 $F$  <===> 剛体に作用する回転力$T_{\vec e}=\vec N \cdot \vec e$
質点の質量 $m$     <===> 剛体の$\vec{e}$軸まわりの慣性モーメント
$ \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad I=\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2$、$\hat{r}_i$は質量$m_i$と$\vec{e}$軸を延長した直線との距離
質点の位置変数 $x(t)$  <===> 剛体の$\vec{e}$軸周りの回転角変数$\phi(t)$
質点の速度 $\dot{x}=\frac{dx(t)}{dt}$ <===>剛体の$\vec{e}$軸周りの角速度$\dot{\phi}(t)$;
質点の運動量 $m\dot{x}$ <===> 剛体の角運動量$I\dot{\phi}$;
運動方程式$F=m\ddot{x}$ <===> $T_{\vec e}=I\ddot{\phi}$

という、対応関係があることが分かる。
この節で得た固定軸まわりの回転運動の方程式から、
もし重心まわりの力のモーメント$\vec N=0$ ならば、重心を通る任意の軸まわりの回転力が零なので、
重心を通る任意の軸まわりの角加速度が零、角速度が一定となることが分かる。
命題
次の3条件は同等である。
(1)剛体は釣り合っている。
(2)剛体に作用する力のベクトル和が零で、重心の周りの力のモーメントNが零である。
(3)剛体に作用する力のベクトル和が零で、ある点の周りの力のモーメントNが零である。

剛体の回転の運動エネルギー  

剛体の各微小部分(質量$m_i$)の速度を $v_i$と書くと、
その運動エネルギーは $\frac{1}{2}m_i {v_i}^2,(i=1 \cdots n)$なので、
剛体全体の運動エネルギーは、$K=\sum_{i}\frac{1}{2}m_i {v_i}^2$
回転運動している各微小部分の速度は、$v_i=\hat{r}_i\dot{\phi}$と書けるので、
$K=\sum_{i}\frac{1}{2}m_i {\hat{r}_i}^2 {\dot{\phi} }^2=\frac{1}{2}I{\dot{\phi} }^2,\qquad (5)$

物理振り子

剛体は、重心を通らない水平軸の周りで、重力の作用を受け振動する。
これを物理振り子、あるいは実体振り子という。

水平回転軸をx軸とし、鉛直上方をz軸の正方向とし、yz平面が剛体の重心を通る座標系を考え、
回転軸とこの平面の交点を原点$O$、重心を$G$と記す。図参照。
回転はなめらかで摩擦力は無視できるとする。
すると、回転軸から、この剛体が受ける力は、剛体をこの軸に支える作用を持つだけで、剛体の振動に何の影響も与えない。
そこで、剛体にかかる力は、重力だけと考えて良い。
重力の原点周りの力のモーメント$\vec N$は、
剛体の重心$\vec R$に、剛体の全質量$M$があるとしたときの
重力の原点周りのモーメントに等しいことが分かっている。 故に、
$\vec N=\vec R \times (0,0,-Mg)=(-R_{2}Mg,R_{1}Mg,0)$
x軸まわりの力のモーメントは、
$\vec N \cdot \vec e_{x}=-R_{2}Mg=-Mg\|\vec{OG}\|\sin\phi$
従って、回転の運動方程式は
$I\frac{d^{2}\phi}{dt^2}=-Mg\|\vec{OG}\|\sin\phi$
ここで$I$は、軸まわりの、振り子の慣性質量。


剛体の慣性モーメントの計算(一次元の剛体) 

剛体$V$は、ごく細く、まっすぐな棒で,
長さ$l$、質量密度(単位長さあたりの質量)は一定で$\rho$とする。
棒の左端から$l_1$の場所$O$を通り、棒に直交する軸まわりの慣性モーメントを具体的に計算しよう。
$O$を原点とし、棒と同じ方向の数直線を考え、これを座標系として採用。
$V=[a=-{l_1},b=l-l_1]$と表現する。
剛体$V$の慣性モーメントは、
剛体を質点とみなせるほど細かい部分$V_i=[x_{i-1},x_i],(i=1,2,,,n)$に分割して、
各$V_i$の質量$m_i$と、$V_i$と$O$との距離$\hat{r}_i$を用いて、
$I=\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2$で定義した。但し$x_0=a,x_n=b$

剛体の分割と慣性モーメントの近似式・リーマン和 

$V_i$の質量$m_i$は、$V_i$の長さ$x_i-x_{i-1}$に質量密度$\rho$を掛ければ得られるので
$m_i=\rho (x_i-x_{i-1})$であり、
$I=\sum_i \rho (\hat{r}_i)^2(x_i-x_{i-1})$
と書ける。
しかし、剛体$V=[a,b]$をいくら細かく分割しても、
各小区間$V_i=[x_{i-1},x_i]$は大きさ(長さ)をもつので、
原点との距離$\hat{r}_i$は、一つに定まらない。
そこで、各小区間$V_i$から、代表点$\xi_i$を選びだし、その点の原点からの距離$|\xi_i|$、($\xi_i$絶対値)を、$\hat{r}_i$とみなす。
すると、慣性モーメント$I$の式は
$\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2=\sum_i \rho(\xi_i)^2(x_i-x_{i-1})$
で近似される。

そこで、この分割を
$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,,n\} $ と表し、 $I^{\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$
で,慣性モーメントの近似式を表すことにする。
すると、

慣性モーメントの近似式は、
$I^{\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\sum_{i=1}^{n}\rho(\xi_i)^2(x_i-x_{i-1})\qquad (1)$
と書ける。
この値は分割の仕方と分割小区間の代表点$\xi_i(\in V_i)$の選び方によって変化する。
$V_i$の中で、原点に最も近い点${{\xi}^m}_i(\in V_i)(i=1,2\cdots,n)$にとると
最小値 $I_{m}(\Delta):=\sum_{i=1}^{n}\rho({{\xi}^m}_i)^2(x_i-x_{i-1})$
をとり、
$V_i$の中で、原点に最も遠い点${{\xi}^M}_i(\in V_i)(i=1,2\cdots,n)$にとると
最大値 $I_{M}(\Delta):=\sum_{i=1}^{n}\rho({{\xi}^M}_i)^2(x_i-x_{i-1})$
を取る。
関数$y=f(x)=\rho x^2$を使って表現すれば、
$I^{\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\sum_{i=1}^{n}f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$
であり、$I_{m}(\Delta)\leq I^{\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)\leq I_{M}(\Delta)$を満たす。
質量密度が場所で変わるときは、、関数は$y=f(x)=\rho(x) x^2$になり、
剛体の重心を求めるときは、後述するように、別の関数が現れる。
そこで、数学の分野では、一般の関数$y=f(x)$にたいして
$I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\sum_{i=1}^{n}f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})\qquad (2)$
を求め、分割$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,,n\} $と$V_i$の代表点$\xi_i,(i=1,2,,,n)$に関する関数$y=f(x)$のリーマン和と呼ぶ。
その最小値$I_{m}(f,\Delta)$と最大値$I_{M}(\Delta)$も,同様に定義される。

$I_{m}(f,\Delta)\leq I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)\leq I_{M}(\Delta)\qquad (3)$ 慣性モーメントの近似式(1)は、関数$y=f(x)=\rho(x) x^2$にたいするリーマン和である。

慣性モーメントの近似式の意味 

今後、関数$y=f(x)$は、$V=[a,b]$で定義された有界関数として、 議論を進める。
有界関数とは、十分大きな正数$M$を選べば、
$V=[a,b]$の全ての点$x$に対して、$|f(x)| \leq M$となること。
$y=f(x)=\rho x^2$を代入すれば、考察対象の剛体の慣性モーメントの話になる。
リーマン和
$I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\sum_{i=1}^{n}f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$
は、$y=f(x)$のグラフを、棒グラフで近似したときの棒グラフの作る面積(各角柱の面積和)であることが分かる。図参照。
また、$I_{m}(f,\Delta)$は一点鎖線でしめす、小さいほうの長方形の和であり、
$I_{Mm}(f,\Delta)$は点線でしめす、大きいほうの長方形の和である。


$I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$は、$y=f(x)$のグラフとx軸およびy軸と平行な直線$x=a$、$x=b$で囲まれる部分の面積$S$を近似している。
また、$I_{m}(f,\Delta)\leq S \leq I_{Mm}(f,\Delta)  \qquad (4)  $
であり、
$I_{m}(f,\Delta)$は面積を下から評価し、
$I_{M}(f,\Delta)$は面積を上から評価していることがわかる。
分割を限りなく細かくしていくとき、
リーマン和が分割や代表点の選び方に関係ない数に収束するならば、
その極限値は、
$y=f(x)$のグラフとx軸およびy軸と平行な直線$x=a$、$x=b$で囲まれる部分の面積
と考えられる。
もし、分割$\Delta$を細かくしていくとき
$I_{m}(f,\Delta)$と$I_{M}(f,\Delta)$が同じ値に収束することが示せれば、
(3)式と(4)式から、リーマン和は、関数のグラフの作る面積$S$に収束することが分かった。

可積分の定義と積分 

「分割を細かくしていくとき、リーマン和が収束する」ということは、
面積を決める上で決定的に重要がことなので、
可積分という名を付けて、数学的に厳密に定義する。 このためにはまず、分割の大きさを定める必要がある。
定義:分割の大きさ
分割 $\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,,n\} $の大きさとは、
$d(\Delta):=max_{i=1,2,\cdots n}(x_i-x_{i-1})$

定義:可積分と積分
$f$を、有界閉区間$V$上で定義され、実数の値をとる関数とする。

もし、ある実数$I$が存在して、
どんな分割$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,,n\} $と代表点$\xi_i\in V_i(i=1,2,\cdots ,n)$であっても、
$\lim_{d(\Delta) \to 0}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=I$
が成り立つ時、
$f$は$V$上で(リーマン)可積分であるという。
このとき、$I$ を$f$の$V$上での(リーマン)積分といい、
$I=\int_{V}f=\int_{V} f(x)dx$
などと書く。

 積分の性質 

定理(積分の線形性)
$f, g \quad$を、区間$I$上で定義された、任意の実数値関数であり、
$c, d \quad$を任意の実数とする。
このとき、
(1)$f,\quad g \quad$が$I$上で可積分ならば、$cf+dg \quad$も$I$上で可積分
(2)このとき、$ \int_{I}(cf+dg)=c\int_{I}f+d\int_{I}g $

証明;リーマン和の定義から、区間$I$の任意の分割$\Delta=\{I_1,,,,I_n\} $と 分割区間の任意の代表点$\xi\in V_i(i=1,2,,,,n) $($\xi$は$V_i$に含まれる意)に対して、
$S(cf+dg,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n}) =cS(f,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n}) +dS(g,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n}) \qquad (1)$
$f,\quad g \quad$は可積分なので、その定義から、
$\lim_{d(\Delta) \to 0}S(f,\Delta,\{\xi_i\})=\int_{I}f $
$\lim_{d(\Delta) \to 0}S(g,\Delta,\{\xi_i\})=\int_{I}g $
(1)式の両辺の極限$\lim_{d(\Delta) \to 0}$ をとろう。
右辺の極限
$=\lim_{d(\Delta) \to 0} \left(cS(f,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n}) +dS(g,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n}\right) $
極限の性質から、
$=c\lim_{d(\Delta) \to 0}S(f,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n}) +d\lim_{d(\Delta) \to 0}S(g,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n} $
$=c\int_{I}f+d\int_{I}g $
従って(1)式の左辺の極限$ \int_{I}(cf+dg)$ も存在して、右辺の極限と一致する。 証明終わり。

慣性モーメントの計算(1)リーマン和の極限を求める方法

$V$は、先述の、ごく細い一様な質量密度$\rho=M/l$のまっすぐな棒で、
座標系を入れて、$V=[a=-{l_1},b=l-l_1]$と表現しておく。
原点を通りこの棒と直交する軸のまわりの(この棒の)慣性モーメントを、
リーマン和の極限を取って求めよう。
区間$V=[-{l_1},l-l_1]$をn($\geq 2$)等分して得られる点列,
${x^n }_0=-l_1, {x^n }_1={-l_1}+l/n, {x^n }_i={-l_1}+i(l/n),,,{x^n }_n=l-{l_1}$
を分点とする分割を${\Delta}^n$と記す。すると、
${x^n }_i-{x^n }_{i-1}=l/n,\quad(i=1,2,,,n)$, $d({\Delta}^n)=l/n$であり、
${\Delta}^n=\{{V^n}_j=[{x^n}_{j-1},{x^n}_j] \mid j=1,2,,,n\}$  
$\{{\Delta}^n \mid n=2,3,,,\}$という分割の列は、
$\lim_{n\to\infty} d({\Delta}^n)=\lim_{n\to\infty}\frac{l}{n}=0$を満たす。
$y=f(x)=\rho x^2$がリーマン可積分であることを認めれば、
可積分の定義から、どんな代表点${{\xi}^n}_j\in {V^n}_j$を選んでも、
$\lim_{n\to \infty}I^{f,{\Delta}^n}({{\xi}^n}_1,{{\xi}^n}_2,,,{{\xi}^n}_n)=I$となる。

そこで、代表点を${{\xi}^n}_j={x^n}_j=-l_1+j(l/n) \quad (n=2,,,),(j=1,2,,,,n)$と選ぶ。
関数$y=f(x)=\rho x^2$を用いると、 分割$\Delta^n$を用いた慣性モーメントの近似値は次のようになる。
$I^{f,{\Delta}^n}({x^n}_1,{x^n}_2,,,,{x^n}_n) =\sum_j f({x^n}_j)1/n =\sum_j f(-{l_1}+j(1/n))\frac{l}{n} =\rho\sum_{j=1}^{n} (-{l_1}+j(1/n))^2\frac{l}{n} $
ここで、 $\sum_{j=1}^{n} j=\frac{1}{2}n(n+1),\quad \sum_{j=1}^{n} j^2=\frac{1}{6}n(n+1)(2n+1)$(注参照)を利用して、この式を計算すると、
$=\rho l ({l_1}^2-{l_1}l\frac{n+1}{n}+\frac{l^2}{6} \frac{n+1}{n} \frac{2n+1}{n})$
$\rho=M/l$なので、
$=M({l_1}^2-{l_1}l\frac{n+1}{n}+\frac{l^2}{6} \frac{n+1}{n} \frac{2n+1}{n})$
故に、
$I=\lim_{n\to \infty}I^{f,{\Delta}^n}({x^n}_1,{x^n}_2,,,,{x^n}_n) =\frac{M}{3}(l^2-3{l_1}l+3{l_1}^2)$

(注)$S_{1}:=\sum_{j=1}^{n} j=\frac{1}{2}n(n+1)$の証明
$(j+1)^{2}-j^{2}=2i+1$ なので、両辺のj=1,2,,,n に関する和を取る。
左辺の和は$\sum_{j=1}^{n}((j+1)^{2}-j^{2})=(n+1)^{2}-1$
右辺の和は$\sum_{j=1}^{n}(2j+1)=2\sum_{j=1}^{n}j+n=2S_{1}+n$
故に、$(n+1)^{2}-1=2S_{1}+n$ $(n+1)^{2}-1-n=2S_{1}$ $S_{1}=\frac{1}{2}\left((n+1)^{2}-1-n\right)=\frac{1}{2}n(n+1)$
$S_{2}:=\sum_{j=1}^{n} j^2=\frac{1}{6}n(n+1)(2n+1)$の略証
$(j+1)^{3}-j^{3}=3j^2+3j+1$なので、この両辺のj=1,2,,,nに関する和を取る。
左辺の和は$(n+1)^{3}-1$、右辺の和は$3S_{2}+3S_{1}+n$,故に$3S_{2}+3S_{1}+n=(n+1)^{3}-1$


慣性モーメントの計算(2)原始関数を利用する方法

積分可能な関数の積分をリーマン和の極限から求める計算は煩雑であり、複雑な形状の剛体の慣性モーメントを求めるにはふさわしくない。
次の定理が強力な計算法を提供する。

定理
$V=[a,b]$を数直線上の区間、
$f$を$V$上可積分な実数値関数
とする。
もし$F$が、
$V$上で微分可能で
全ての$V$の点$x$で、$\frac{d}{dx}F(x)=f(x)$
を満たす関数ならば(注参照)、
$\int_{[a,b]}f=F(b)-F(a)$
上記の条件を満たす関数$F$を、$f$の原始関数という。
(注)関数$F$は、$V$上でしか定義されていないので、
端点$a,b$では、通常の微分は定義できない。そこで、
$\frac{d}{dx}F(a):=\lim_{h \to 0,h\geq 0}\frac{F(a+h)-F(a)}{h}$
$\frac{d}{dx}F(b):=\lim_{h \to 0,h\leq 0}\frac{F(b+h)-F(b)}{h}$
と定義する。
証明;
区間$[a,b]$の任意の分割
$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i]\mid 1 \leq i \leq n,x_0=a,x_n=b\}$
に対して、
代表点を$\xi_i\in V_i$($\xi_i$は$V_i$の点の意)とすると、 $f$のリーマン和は
$I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$
$=\sum_i f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$
小区間$V_i=[x_{i-1},x_i]$での関数$F$の平均勾配
$\frac{F(x_i)-F(x_{i-1})}{x_i-x_{i-1}}$
は、平均値の定理により、
$V_i=[x_{i-1},x_i]$の中のある一点$\eta_i$における$y=F(x)$の接線の勾配
$\frac{d}{dt}F(\eta_i)$に等しので、
$\frac{F(x_i)-F(x_{i-1})}{x_i-x_{i-1}}=\frac{d}{dt}F(\eta_i)=f(\eta_i)$
故に、$f(\eta_i)(x_i-x_{i-1})=F(x_i)-F(x_{i-1})$
そこで、各小区間$V_i$の代表点を$\eta_i,(i=1,2,,,n)$と選べば、
$I^{f,\Delta}(\eta_1,,,\eta_n)$
$=\sum_i f(\eta_i)(x_i-x_{i-1})$
$=\sum_{i=1}^{n}\left(F(x_i)-F(x_{i-1})\right)$
$=F(x_n)-F(x_0)=F(b)-F(a)$
$f$は可積分なので、 $\int_{[a,b]}f=\lim_{d(\Delta)\to 0}I^{f,\Delta}(\eta_1,,,\eta_n)$
$=\lim_{d(\Delta)\to 0}(F(b)-F(a))=F(b)-F(a)$
証明終わり。

さて、慣性モーメントを求めたい剛体では、
$f(x)=\rho x^2$なので、その原始関数は、
$F(x)=\frac{1}{3}\rho x^3$
従って、慣性モーメントは、定理を適用して、
$I=\int_{[a,b]}\rho x^2=\frac{1}{3}\rho (b^3-a^3)$
$\rho=M/l$,$a=-l_1,b=l-l_1$を代入して、整頓すると、
$=\frac{M}{3}(l^2-3l_{1}l+3{l_1}^2)$

重心の計算 

質量密度が場所により変わる、長さ$l$のごく細い棒$V$の重心を求めてみよう。
考えやすくするため、 棒の一端を原点にし、他端がx軸の正の位置にくるように座標系$O-x$をいれる。
この座標系で剛体は$V=[0,l]$と書ける。 $V$を小区間$V_i=[{x^n}_{i-1},{x^n}_{i}],i=1,2.\cdots,n),{x^n}_n=0,{x^n}_n=l$に分割(分割$\Delta$と記す)し、これらの小区間を質点とみなせば、その重心は、
$\vec{R}=\sum_i{ m_i \vec{r_i}}/M $
で定義された(1.1.1節参照)。ここで$m_i $ は第i質点の質量、$M=\sum_{i} m_i$、 $\vec{r_i}$は第i質点の位置ベクトル。
ベクトルを座標成分表示すると、この問題では一次元なので、 $R=\sum_{i} m_i r_i/M $、$M=\sum_{i} m_i$
しかし、実際には $V_i$は、質点ではないので、 位置ベクトルは、定まらない。
またその質量も密度が一定ならば、$m_i=\rho ({x^n}_{i}- {x^n}_{i-1})$できまるが、
密度が変化するならば、定まらない。
そこで、各小区間 $V_i$の代表点$\xi_i (\in V_i)$を選び
$m_i=\rho(\xi_i)({x^n}_{i}- {x^n}_{i-1})$,$r_i=\xi_i $
で近似する。
すると分割$\Delta$と代表点$\{\xi_i\}_{i=1}^{n}$に対応する、 質量$M$と重心$G$の近似値は、それぞれ
$M^{\rho,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$
$=\sum_i \rho(\xi_i)v(V_i)=\sum_i \rho(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$

$G^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$
$=\sum_i f(\xi_i)v(V_i)=\sum_i f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$
ここで、$f(x)=\frac{1}{M}\rho(x)x$
もし、関数$\rho(x)$が積分可能ならば、分割$\Delta$を細かくしていけば $M=\lim_{d(\Delta) \to 0}M^{\rho,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$
$=\int_{[0,l]}\rho$
もし関数$\rho$の原始関数$P$が存在する($\rho(x)=\frac{dP(x)}{dx}$)ならば
$=P(l)-P(0)$
もし関数$f(x)$も積分可能ならば、分割$\Delta$を細かくしていけば $G=\lim_{d(\Delta) \to 0}G^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$
$=\int_{[0,l]}f$
もし関数$f$の原始関数$F$が存在する($f(x)=\frac{dF(x)}{dx}$)ならば
$=F(l)-F(0)$
例;$\rho(x)=\rho_0$ならば、$P(x)=\rho_0 x$なので $M=\rho_0 l$
また、$f(x)=\frac{1}{M}\rho_{0}x$となるので$F(x)=\frac{1}{2M}\rho_{0}x^2$ となり、$G=F(l)-F(0)=\frac{l}{2}$
例;$\rho(x)=x$ならば、$P(x)=\frac{x^2}{2}$なので $M=\frac{l^2}{2}$
このとき$f(x)=\frac{1}{M}\rho(x)x=\frac{1}{M}x^2$なので
$F(x)=\frac{1}{3M}l^3$である。$G=F(l)-F(0)=\frac{2l}{3}$


剛体の釣り合い(再論)

剛体が釣合うときどのような条件が成立するかについては、前節2.5(剛体と回転力)の「1.3 てこの原理と剛体の釣り合い」で論じたが、
この条件があれば、逆に、剛体は釣り合うことを論じる。
理解しやすくするため、ある程度重複することはいとわず説明する。

剛体に働く力の作用線

力が作用する点を着力点といい、
着力点を通り力のベクトルと方向が等しい直線を、力の作用線という。
剛体に働く力は、その着力点をかえると、一般には、剛体の運動への効果が異なってしまう。
しかし、力のベクトル和と、力のモーメント和が不変となるように力の着力点を移動したり力の合成をすることは、
剛体の運動には全く影響がでないので、許される。
例えば、力の着力点をその作用線にそってうごかしたり、
同じ着力点をもつ複数の力を、それらのベクトル和に置き換えることは許される。

剛体のつり合い

いくつかの力が作用し、剛体が静止したままであるか、
重心$G$が等速直線運動(静止も含む)を続け、
重心の周りの回転が変化しない(回転しないままか、同じ回転を続ける)場合に、
剛体(に作用している力)は釣り合っているという。
重心が等速直線運動を行うのは、
剛体に作用する外力のベクトル和が0になることであり、その場合に限る。
これについては、3節(質点の運動と質点系)の「2.1 質点系の運動と重心」で説明した。
重心周りの回転が変化しないのは、重心まわりの外力のモーメントの総和が0になることであり、この場合に限る。これについては、本節の前項「1.5 固定軸の周りの剛体の回転運動の方程式」で説明した。
定理;剛体のつり合い
剛体に、外力$\vec{F^1},\vec{F_2},,,,\vec{F_n}$がはたらいている。
このとき、次の条件は同等である。
ⅰ)剛体は釣り合っている。
ⅱ)外力のベクトル和が零で、重心$G$まわりの外力のモーメントの和が零。
ⅲ)外力のベクトル和が零で、任意の固定点$P$まわりの外力のモーメントの和が零。
証明;条件ⅰ)とⅱ)が同等であることは、すでに、説明した。
条件ⅱ)とⅲ)の同等性を示そう。
外力の和が零であるという条件の下で、
「任意の固定点$P$まわりの外力のモーメントの和$\vec N_{P}$は常に等しい」
ことを示せば良い。
外力$\vec{F^i}$の作用点を$\vec {P_i}(i=1,2,\cdots n)$とする。
すると、
$P$まわりの外力のモーメントの和$\vec N_{P}$は
$\vec N_{P}=\sum_{i=1}^{n}\vec{PP_i}\times \vec{F^i} \qquad \qquad (1)$

任意の点$Q$まわりの外力のモーメントの和$\vec N_{Q}$は
$\vec N_{Q}=\sum_{i=1}^{n}\vec{QP_i}\times \vec{F^i} \qquad \qquad (2)$

$\vec{PP_i}=\vec{PQ}+\vec{QP_i}$を(1)式に代入すると
$\vec N_{P}=\sum_{i=1}^{n}\vec{PP_i}\times \vec{F^i} =\sum_{i=1}^{n}(\vec{PQ}+\vec{QP_i})\times \vec{F^i}$
ベクトル積の性質から、
$=\sum_{i=1}^{n}(\vec{PQ}\times \vec{F^i}+\vec{QP_i}\times \vec{F^i}) =\vec{PQ}\times \sum_{i=1}^{n}\vec{F^i}+\sum_{i=1}^{n}\vec{QP_i}\times \vec{F^i}$
仮定と(2)式から、
$=\vec{PQ}\times 0 + \vec N_{Q}=\vec N_{Q}$ 
故に、$\vec N_{P}=\vec N_{Q}$ 
証明終わり。

 

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