物理/気体・液体の圧力
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気体・液体の圧力
この節では気体や液体を、
分子や原子という粒子から構成されるという微視的立場でなく、
巨視的に捉え空間的に滑らかな連続体であるとみなす。
連続体の内部の微小部分に働く力を考え、其の釣合いについて考え、
静止した気体・液体の圧力(詳しくは静止圧力)の性質を導く。
気体や液体とは何か
気体と液体の特徴
気体と液体は体積の変化には抵抗するが、
形の変化には、抵抗しない。(ただし非常に速い変化には抵抗する)。
但し、気体の体積変化への抵抗は小さく、液体は非常に大きい。
静止した気体と液体の圧力
静止した気体や液体は、その表面または内部に任意の面を考えると、その面で2分される。
それらは、境界面を通して互いに他を押している。その2力は大きさ・方向は等しく、逆向きである(作用反作用の法則)
単位面積当たりのこの力を応力とよぶ。
その発生は、重力の存在と前述の気体や液体の特徴(形の変化に抵抗しない)に起因する。
この力の性質を、気体・液体の特徴から導こう。
応力は面に垂直に働く
説明は便宜上、液体の語で述べる。
命題1:
静止した液体(気体)の表面あるいは内部に任意のなめらかな面(注参照)を考える。
この面上の応力は、常にこの面に直角に働く。
面と常に直角に働く応力を、圧力と呼ぶ。
(注)面のどの一点においても、その点にごく近い面の部分だけをみれば、平面とみなせる曲面のこと。
理由;
もし、ある面上のある一点$P$の周辺の微小面部分(Sと書く)で、押し合う力がこの面と平行な成分を持つとする。
Sは仮定より、平面(の一部)と考えてよい。
図のように、面部分Sとそれと平行な平面の一部S’から作られる、
非常に薄い液体の板状部分Vを考える。
するとVがSを通して液体から受ける力の総和$\vec F_S$は、面Sと平行な成分をもつ。
面SとS’は、非常に近いので、
Sを挟んで押し合う力と、S’を挟んで押し合う力は、単位面積当たり、ほぼ等しいと考えてよい。
すると、VがS’を通して液体から受ける力$\vec F_{S'}$は、
Sを通して受ける力と大きさと方向はほぼ同じで、逆向きになる。
$\vec F_{S'}$の面Sと平行な成分も、$\vec F_S$のSと平行な成分と大きさはおなじで、逆向きになる。
液体は自由に形を変えられるので、VのS面とS’面は逆方向に動いてしまい、
静水という条件に反してしまう。
従って、
「ある面上のある一点$P$の周辺の微小面部分Sで、押し合う力がこの面と平行な成分を持つ」
という仮定はあり得ないことが示された。
定義;どの面を考えても直角に働く応力を圧力と呼ぶ。
圧力の性質
命題2
どの面にも直角に働く応力(圧力)は、どの点でも面の方向によらず一定の強さ(大きさ)をもつ。
証明;
液体中の任意の点を$O$とする。
$O$を原点とする、直交右手系$O-xyz$を定める。
$O$を通る任意の面$H$をとる。
$O$点における、
この面における圧力$p$とxy平面における圧力$p_z$、yz平面、zx平面における圧力$p_x,p_y$
が等しいことを示そう。
平面$H$と平行で$O$点の近くを通る平面$H'$が
x軸、y軸、z軸と交わる点をそれぞれ、
$A(\alpha a,0,0),B(0,\alpha b,0),C(0,0,\alpha c)$とおく。図参照。
四面体$OABC$の外部の液体が、
$\triangle{OBC}$を押す力を$\vec F^x$,$\triangle{OCA}$を押す力を$\vec F^y$,$\triangle{OAB}$を押す力を$\vec F^z$,$\triangle{ACB}$を押す力を$\vec F$
とおく。
四面体内の液体が静止しているので、
$\vec F^x+\vec F^y +\vec F^z+\vec F=0 \qquad (1) $
が成り立つ。
この式を圧力で表示しよう。
$\lim_{\alpha \to 0}\frac{\|\vec F^x\|}{|\triangle{OBC}|}=p_x$なので、
$\alpha $が十分小さければ
$\|\vec F^x\|=|\triangle{OBC}| p_x=\frac{1}{2}|\alpha b \alpha c|p_x$
故に、$2\vec F^x=\vec{OB}\times \vec{OC}p_x=\alpha b \alpha c p_x\vec{e_x}$
同様に$2\vec F^y=\vec{OC}\times \vec{OA}p_y=\alpha c \alpha a p_y\vec{e_y}$、
$2vec F^z=\vec{OA}\times \vec{OB}p_z=\alpha a \alpha b p_z\vec{e_z}$
$2\vec F=\vec{AC}\times \vec{AB}p=p(-\alpha a,0,\alpha c)\times (-\alpha a,\alpha b,0)$
これらを(1)式に代入して
$p_x\vec{e_x}+p_y\vec{e_y}+p_z\vec{e_z}+\vec{AC}\times \vec{AB}p=0 \quad (2)$
これを計算すると、
$\left({\alpha}^{2}bc(p_x-p),{\alpha}^{2}ca(p_y-p),{\alpha}^{2}ab(p_z-p)\right)=0$
これより、$p=p_x=p_y=p_z$ 証明終わり。
命題3
一様な重力のもとで静止している気体・液体内では、同一水平面上での圧力の大きさは一定である。
図示した液体部分$V$が静止しているので、$V$に作用する力の総和が零になっている。
#ref(fig-GENPHY00010207Q-01.jpg)
このことから、この命題は容易に証明できる。
水圧の性質
水は圧力によってほとんど密度を変えない。
すると次の命題が有用である。
命題4
もし液体の密度$\rho$が圧力によって変化しないならば、
深さ$l_1$の水平面$H_1$上の圧力$p_1$と
深さ$l_2 \quad(l_2>l_1)$の水平面$H_2$上の圧力$p_2$には
次の関係が成り立つ。
$p_2=p_1+\rho g(l_2-l_1)$
図示した液体部分$V$が静止しているので、$V$に作用する力の総和が零になっている。
このことから、この命題は容易に証明できる。
命題5 アルキメデスの浮力の原理
物体Wを比重$\rho[kg/m^3]$の水(液体)に入れ、水没した部分Aの体積をV$[m^3]$とする。
この時、
(1) この物体Wの重量は、ρVg[N]である。ここでg[N/kg]は重力加速度
(2) 物体は取り除き、物体の水没していた部分Aを、
これと同じ形で周りの水(液体)と同じ比重の剛体A'で入れ替える。
図参照
- ref(fig-GENPHY00010207-01.jpg)
剛体の重心を$G_{A'}$とおく。これを浮心と呼ぶ。
物体Wに働く水圧の合計(浮力$\vec B$,buoyancy)は
この物体の運動・釣合を問題とする場合には、
$G_{A'}$に作用する鉛直上向きで、大きさρVgの力($=-\rho V\vec g$)とみなせる。
証明
物体Wを水に入れた時と、剛体A'を入れた時の
水面の高さは同じになり、A と A'は重なる。
A(とA')の水中の表面を微小部分$S_{i},i=1,2,,,N$に分割する。
水圧は、水面下の深さだけできまるので、
物体の水没部分Aの表面の微小部分$S_{i}$が
周りの水から受ける力(水圧×面積)$\vec{f}_i$は、
剛体A'の対応する表面$S_{i}$が周りの水から受ける力に等しい。
$S_{i}$は微小なので、水圧$\vec{f}_i$の作用点が定まる。
空間の任意の点Oを原点に選び、この作用点を位置ベクトル$\vec{r}_i$で表す。
剛体A'は静止しているので、釣り合っている。
すると、[|2.5 剛体と回転力]
の「剛体の釣合」の命題の系から、
浮力=水圧の合計=$\sum_{i}\vec{f}_i=-M\vec g$,
であり、原点周りの浮力のモーメントは
$\sum_{i}\vec{r}_i \times \vec{f}_i=-\overrightarrow{OG_{A'}} \times M\vec g$
である。
後者から、浮心$G_{A'}$周りの浮力のモーメントは零となることが導かれ、
剛体の運動に関する限り、作用点を浮心と考えてよいことが分かる。
何故ならば、
気体の圧力と大気圧
気体は圧力が増すと縮むので、命題3のⅱ)の結論は成立しない。
大気は静止していると仮定し、地表の大気圧から高度zでの大気圧を求めてみよう。
地表の一点を原点とし、鉛直上方をz軸の正方向になる座標$O-xyz$をいれる。
図のように、下底面が高さ$z$、上底面が高さ$z+h$の、単位断面積の角柱$V$を考える。
その部分の気体が受ける力の和は零となるので、
次式が成り立つ。
$p(z+h)+mg=p(z) \qquad \qquad (1)$
ここで
・$p(z)$は高さ$z$の地点の大気圧(命題3のⅰ)から、高度が同じ水平面上で圧力は一定)
・$m$は$V$の質量。$V$の体積$h$と平均質量密度$\rho$の積。
圧力が大きいと空気は縮み質量密度は高くなるので、両者の関係を求めねばならない。
空気体積の変動にともなう温度変化がないとすると、
ボイルの法則(3章1節 熱とエネルギー参照)から、
$p\frac{V}{m}=c$($c$は温度だけに依存する数)
質量密度$\rho=\frac{m}{V}$を代入すると、
$\frac{p}{\rho}=c$,ゆえに、$\rho=\frac{p}{c}$
$\frac{1}{c}$を、$c$とおくと、
$\rho=cp \qquad \qquad (2)$
この質量密度と圧力の関係を用いると、
$m=h\rho \approx hcp(z)$(hが小さいほど差は少なくなる)
この式を(1)式に代入して、
$p(z+h)+cgp(z)h\approx p(z) $、変形すると
$\frac{p(z+h)-p(z)}{h} \approx -cgp(z) $。これより
$\frac{dp(z)}{dz}=\lim_{h\to 0}\frac{p(z+h)-p(z)}{h}= -cgp(z) $
を得る。これを積分して
$p(z)=p_{0}e^{-cgz}$
を得る。
ここで$p_{0}$は、地表での圧力(大気圧)、$e$はネイピア数である。
地表での質量密度が$\rho_{0}$ならば,(2)式から、
$c=\frac{\rho_{0}}{p_{0}}$
地表の大気圧
場所や時刻により変動するが、標準では海面上で、1013hPa = 101300Paである。
これを一気圧という。記号では、1[atm] と書く。
なお、$[P_a]=[N/m^2]$である。hPa は 100Pa のことで、ヘクトパスカルと読む。
圧力の単位
圧力は、単位面積当たりの力なので、その単位は面積の単位$m^2$と力の単位$N$から得られる。
$Pa=N/m^2=kg\cdot m^{-1}\cdot s^{-2}$
が圧力の単位で、パスカルと呼ばれる。