物理/熱と熱現象(2)熱力学の基本法則

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目次

熱と熱現象(2)熱力学の基本法則

蒸気機関の発明とその効率を上げる試みと考察と、
永久機関の試みが失敗に終わっている事実から、
熱力学の基本法則が発見された。

永久機関への挑戦の失敗

外部からエネルギーを受け取ることなく、仕事を行い続ける装置ができればエネルギー問題など発生しない。
次の記事にあるように18~19世紀、多くの科学者や技術者がこれに挑んだが誰も成功しなかった。
最初は、外部から何も受け取ることなく、仕事を外部に取り出すことができる機関を作ろうとした(第一種の永久機関)。
その試みは失敗続きだった。
やがて熱も含めたエネルギーの保存則(熱力学の第一法則)が認識され、
それに反する試みなので、失敗したのだとわかった。
次には、エネルギー保存則に反しない永久機関を作ろうとした。
ある熱源から熱エネルギーを取り出しこれを仕事に変換し、
仕事によって発生した熱をすべて熱源に回収する装置が考えられた。
これができれば、熱源から取出した仕事は、すべて熱エネルギーとして回収され熱源に返されるので、
熱源の熱エネルギーは失われず、永久に仕事が取り出せる(第2種永久機関)。
しかし多くの試みはすべて失敗であった。
この結果、熱力学の第2法則が認識されるようになった。
現在では、熱力学の第一法則と第二法則が自然の基本法則であり、
永久機関はこれに反するため不可能であると理解されている。

熱力学の第1法則  

力学の分野では、
「2.4.3 力学的エネルギーと力学的エネルギー保存則」で説明したように
保存力場では、質点系の力学的エネルギーは保存される。
さらに保存力以外の力を加えたとき、その力のなす仕事はこの質点系の力的学エネルギーの増加に等しい。
摩擦がある場合には、「2章 力学」で説明したように、物体は運動中に摩擦力を受けるので、摩擦力を含めた力は保存的でなくなり、力学的エネルギーの保存則は成立しない(注参照)。
力学的現象と同時に摩擦など熱エネルギーの移動を伴う現象でも
力学的エネルギーに熱現象に伴うエネルギーを合計すると、
エネルギーが保存されることを法則として認めたものが、
熱力学の第一法則である。
この法則を理解するのは物質の内部エネルギーについて理解する必要がある。 (注)物体の力学的エネルギーは運動中、摩擦熱となり失われていく。

 物質の内部エネルギー 

物体が静止している時は、巨視的に観測できる物体の運動エネルギーは零である。
しかし巨視的手段では観測できないが、その物質を構成している個々の分子・原子は、 絶えず熱運動をおこなっているため、運動エネルギーを持つ。
さらに保存力である分子間力で互いに引き合っているためポテンシャル(位置)エネルギーを持っている。
これらの和を物質の内部エネルギーという(注参照)。
理想気体の場合、 分子間力は働かないため位置エネルギーは0となり、
内部エネルギーは各気体分子の熱運動の運動エネルギーの和である。
物体の熱エネルギーの授受によって、内部エネルギーは変化するので、状態変数である。
(注)分子は、電気力によって互いに引き合っている。
互いに引き合っている物質を引き離すには、
それらに力を加えて強制的に動かす必要がある。
分子間力は保存力なので、引き離す力のなす仕事は、
その経路に関係なく、それら物質の初期位置と最終位置だけで決まる。
これが分子間力による(初期状態から最終状態を見た)ポテンシャル(位置)エネルギーである。
通常は互いに無限に離れた状態のポテンシャル・エネルギーを零と定める。
注の終わり。

広義の熱力学の第一法則   

ある系が、ある変化を行うとき、
その系の最後のエネルギーE'と最初のエネルギーEとの差E'-Eは、
その系に外部からくわえた仕事の総量 W と 外から加えた熱の総量 Q の和に等しい。
$E'- E = W +Q \qquad \qquad (1)$  

系のエネルギーとは、系を分子の集まりと考えたときの、力学的エネルギー(各分子の運動エネルギーの総和と系のポテンシャルエネルギーの和)である。
剛体の場合には、剛体としての力学的エネルギーと内部エネルギーの和となる。 
このエネルギーの構成成分と大きさは、 
外からの仕事の与え方や熱の与え方により変わるため、これらを指定しなければ決まらない。

熱力学の第一法則

外からの仕事と熱が、 
系の巨視的な力学的エネルギーを変えないように与えられるときは、 
E'-E は 系の内部エネルギーの差U'ーU に等しくなる。 
この場合の第一法則は 
$U'- U = W + Q \qquad \qquad (2)$  

通常の熱力学の本では、熱力学の第一法則は、 
「系が静止し、熱平衡状態を保ちながら、 
外部から非常にゆっくりと仕事や熱エネルギーを受ける (準静的過程という)場合に、式(2)が成り立つ」と述べている(注参照)。 (注)熱力学の第2法則の所で詳しく述べるが、
熱平衡状態に厳密にあれば仕事やエネルギーの移動は起こりえず、
この記述は厳密には自己矛盾を含んでしまう。
このため、本テキストではその使用にあたっては、この概念を吟味して記述し、
また、その使用を最小限にする。

系の体積を変えるために外から加える仕事について

熱力学の第一法則の適用に際して、
系の体積を少し変えるため、外から加える仕事Wを求める必要が生じることがある。
命題;
圧力Pの系を、
ゆっくりと、熱平衡に近い状態を保ちながら体積を微小量$\delta V$変化させる時、
力の行う仕事 W は、ほぼ$-P\delta V$ である。
外からの力を気体の圧力に近づけ体積変化速度を小さくするに従い、
Wは $-P\delta V$ に収束していく。

略証;簡単な場合にこれを示そう。
図3-2-1のように摩擦のないピストンによる気体の圧縮・膨張を考える。
ピストンの断面積をS、質量をmとする。

x座標を図のようにいれ、ピストンのO点の初期位置の座標を0とする。
外部から力を加えてピストンをゆっくり動かし
気体の体積を微小量$\delta V$ だけ変えよう。
ピストンの移動量$\delta l$ は 
$\delta l=\delta V/S \qquad \qquad(1)$
これだけ移動させたのち平衡状態になるまで待つと、
系の圧力は一定になるが、体積変化量が微小なので、ほぼ P に等しい。
しかも、ピストンはゆっくりと動くので、気体はゆっくり圧縮・膨張されるため、
平衡状態にきわめて近い状態を保つ。気圧は P と考えられる。
ゆっくりこのピストンを動かすには、
ピストンに外力 $-PS\pm \epsilon \quad $($\epsilon>0$は微小正数)を与える必要がある。
この時運動するピストンは、圧縮時には静止時より大きな力を気体からうけ、
膨張時には静止時より小さい力を受けるが、
ピストンの速度が小さければ、この差は無視できる。
そこで、運動時にもピストンは気体からPSという一定の力を受け続けることになる。
ピストンは、外力と気体からの力の合力$\pm \epsilon$を受けて運動する。
合力が$-\epsilon$ならば圧縮(ピストンはx軸の負方向に動く)、
$\epsilon$ならば膨張する。
説明を簡単にするため圧縮の場合を考察する(膨張でも同様にできる)。
ピストンのO点の座標が0から$\frac{\delta l}{2}$ の間は
ピストンに与える外力を$-PS-\epsilon)\quad $にすると、
ピストンは、左方に等加速度$\frac{-\epsilon}{m}$の運動を始める。
$epsilon$ が微小なので、極めてゆっくりと加速して行く。
O点の座標が$\frac{\delta l}{2}$(移動中間点)になったら、
減速させて、O点の座標が $\delta l$ のところで、
ピストンが止まるようにしよう。
このために、中間点で外力を$-PS+epsilon)\quad $に切り替え、
ピストンに働く合力を$\epsilon$にする。
するとピストンは右方へ等加速度$\frac{\epsilon}{m}$で運動し始めるので、
ピストンは速度を落としながら、左方に動いて行く。
前段の等加速度と後段の加速度は大きさは等しく、向きは逆なので、
O点の座標が$\delta l$ に達する(ピストンが$\delta l$移動する)と ピストンは静止する。
その瞬間に外力を$-PS$ にすれば
ピストンは$\delta l$だけゆっくり移動して、静止する(注参照のこと)。
 

ピストンが$\delta l$移動する間に、外力のなす仕事Wは
$W=(-PS-\epsilon))\frac{\delta l}{2}+(-PS+\epsilon))\frac{\delta l}{2}$
$=-PS\delta l=-P\delta V$
これで、命題は証明された。

第一法則の応用

第1種永久機関の不可能性

熱力学の第一法則から、第1種永久機関が不可能であることが次のようにして示せる。
もし、外部から仕事も熱も受け取らず、外部に対して永久に仕事をする機関ができたとする。
この機関は負の仕事を受け続けることになるので、
熱力学の第一法則から、系のエネルギーは、絶えず減り続け、
エネルギーが負になってしまう。
これはありえないことである。
したがって第一種永久機関は不可能である。

気体の断熱自由膨張 

ジュール は、
栓で仕切った2つの容器A,Bの片側Aに気体をいれ、容器Bは真空にし、
2つの容器と周囲の環境との間に熱のやり取りがないように工夫して、
栓を開く実験を行った。
栓を開くと、容器 A の気体は容器 B に流れ込み、しばらくすると2つの容器の気体は熱平衡状態になる。
この温度を計測したところ、実験開始前の容器 A の気体の温度とほぼ同じであった。
実験中、気体は、外部に対しては仕事はせず、また外部との熱の授受もないので、
熱力学の第一法則により、気体の内部エネルギーは変化しない。
この実験により、
気体の内部エネルギーが変わらなければ、気体の温度は、体積にかかわらず、一定である
という結論が得られる。
後の精密な実験により
気体の密度が小さく理想気体に近い状態では、体積変化による温度変化はほとんどないが、
密度が大きいときにはかなりの温度変化が生じることが分かった。

経験法則;理想気体では、その内部エネルギーは、温度だけの関数で体積にはよらない。
$\qquad $ 式で書くと、$U=U(T)$
理想気体の内部エネルギーの性質;
$\qquad $ 関数 $U=U(T)$ は、T の増加関数である。
(証明)気体に正の仕事を与えると内部エネルギーは増加するが、この時気体の温度は上がる。
気体に負の仕事を与えると内部エネルギーは減少するが、この時温度は下がる。
これらから、逆に温度が上がれば内部エネルギーは増加し
温度が下がれば内部エネルギーが減少することが分かる。

熱容量と比熱(その2) 

すでに、熱容量と比熱(その1)で簡単な説明を行った。
ある系に、ΔQ の熱を加えたとき、温度がΔTだけ上がるとき、ΔQ/ΔT をその系の熱容量という。
熱容量には次の2種類ある。
定積熱容量($C_V$と記す);加熱の時、体積を一定に保つようにしたときの熱容量
定圧熱容量($C_p$と記す);加熱の時、圧力を一定に保つようにしたときの熱容量
$C_V$、$C_p$ を質量で割ったものが比熱 $c_V$、$c_p$ である。

この項では、$C_V$ と $C_p$ の関係を、系の状態方程式を用いて考察する。

状態方程式を用いた熱容量の表現

静止した状態で系に微小の仕事$\delta W$と熱エネルギー$\delta Q$を与えたときの
内部エネルギーの変化$\delta U$は、熱力学の第一法則から
$\delta U=\delta W + \delta Q \qquad \qquad (1)$
この系に、微小の熱エネルギー$\delta Q $をゆっくりと与えたとする。
このときの体積の変化量を$\delta V$ とすると、これも微小になる。
この系の変化は極めてゆっくりなので、この間系は熱平衡に極めて近い状態にある。
すると、「系の体積を変えるため外から加える仕事について」という項で説明したように、
外から加える仕事$\delta W$ は、
$\delta W \approx -p\delta V$ (系の変化を遅くしていけば、この値にいくらでも近づけられる)。
これを、式(1)に代入すると、
$\delta U \approx -p\delta V + \delta Q \qquad \qquad (2)$
ここで、内部エネルギーは状態量なので、
温度Tと体積の関数 $U=U(T,V)$ で表現できる。
温度と体積を微小量 $\delta T,\delta V$ 変化させたときの
内部エネルギーの変化量 $\delta U$ は、
$\delta U:=U(T+\delta T,V+\delta V)-U(T,V) \approx \frac{\partial U}{\partial T}(T,V)\delta T + \frac{\partial U}{\partial V}(T,V)\delta V \qquad \qquad (3)$
式(3)を、式(2)に代入して、整頓すると、
$\delta Q \approx \frac{\partial U}{\partial T}(T,V)\delta T +(p+\frac{\partial U}{\partial V}(T,V)\delta V)\qquad \qquad (4)$
これで定積熱容量を内部エネルギー関数 $U=U(T,V)$ で表現する準備は整った。

定積熱容量 $C_V$ の表現
式(4)で、$\delta V=0$ とおけば、体積を一定に保ちながら
温度をTから微小量 $\delta T$ あげるときに必要な外部からの熱エネルギー $\delta Q$ が求まる。
$\delta Q \approx \frac{\partial U}{\partial T}(T,V)\delta T $
これより
$\frac{\delta Q}{\delta T}\approx \frac{\partial U}{\partial T}(T,V)$
故に、
$C_V(T):=\lim_{\delta T\to 0}\frac{\delta Q}{\delta T} =\frac{\partial U}{\partial T}(T,V) \qquad \qquad (5)$

定圧熱容量 $C_p $ の表現
系の圧力を一定値 p に保ちながら熱エネルギーをあたえると、この系は温度と体積を増していく。
このとき、$\delta T$ と $\delta V$ の間には、p を一定に保つため、ある関係が成り立つ。
この関係をT と p の関数として求めて、式(4)に代入すれば、 定圧熱容量が求まるはずである。
そこで、体積 V を、T と p の関数として表す状態方程式 $V=V(T,p)$ を利用する。
$\delta V:=V(T+\delta T,p+\delta p)-V(T,p)$ $\approx \frac{\partial V}{\partial T}(T,p) \delta T + \frac{\partial V}{\partial p}(T,p) \delta p$
圧力一定で温度を変えるときの体積変化は、$\delta p=0$ を代入して、
$\delta V \approx \frac{\partial V}{\partial T}(T,p) \delta T$
この関係式を、式(4)に代入すると
$\delta Q \approx \left(\frac{\partial U}{\partial T}(T,V) +\left(p+\frac{\partial U}{\partial V}(T,V)\right) \frac{\partial V}{\partial T}(T,p)\right) \delta T $

故に、
$C_p:=\lim_{\delta T \to 0}\frac{\delta Q }{\delta T } =\frac{\partial U}{\partial T}(T,V) +\left(p+\frac{\partial U}{\partial V}(T,V)\right) \frac{\partial V}{\partial T}(T,p)$
式(5)から
$C_p=C_V+\left(p+\frac{\partial U}{\partial V}(T,V)\right) \frac{\partial V}{\partial T}(T,p)$
故に
$C_p - C_V =\left(p+\frac{\partial U}{\partial V}(T,V)\right) \frac{\partial V}{\partial T}(T,p) \qquad \qquad (6)$


比熱比
$\gamma:=\frac{c_p}{c_v}=\frac{C_p}{C_v}$
比熱比 と呼ぶ。
固体や液体では温度による体積変化がほとんどないため、
低圧比熱に含まれる体積膨張に費やされるエネルギーは微小のため、
ほぼ $C_v=C_p$ となり、$\gamma \approx 1$(厳密には1よりわずかに大きい)
しかし、気体の場合には、定圧の下では、
熱エネルギーをあたえると体積が大きく増加するため、
気体は外部に向けて仕事をして、エネルギーを使ってしまうため、
同じ温度を上げるためには、
定積の場合より多くの多くの熱量を与える必要がある。
そのため、$C_p > C_V$ となり、$\gamma > 1$
実測では

単原子気体ではγ≒5/3,二原子気体ではγ≒7/5,
3原子以上の多原子気体ではγ≒4/3
であることが分かっている。
気体のミクロ構造に着目すると、
理想気体(それに近い密度の低い気体)では、内部エネルギーは
気体のすべての分子の運動エネルギーの総和であり、気体温度はその平均値なので
内部エネルギーは温度の関数として簡単に求められる。
この関数を用いると、実測結果は合理的に説明できる。
これについては、次節の分子運動論で説明する。
例.1モルの理想気体の定積比熱と定圧比熱の関係 
理想気体の内部エネルギーは $U=U(T)$ なので、 
式(6)の 右辺
$=\left(p+\frac{\partial U}{\partial V}(T,V)\right) \frac{\partial V}{\partial T}(T,p)$  $=p\frac{\partial V}{\partial T}(T,p)$  
$\quad$1モルの理想気体の状態方程式 $pV=RT$ から、$V=\frac{RT}{p}$ 、
$\quad$これを T で(偏)微分すると $ \frac{\partial V}{\partial T}(T,p)=\frac{R}{p}$ なので、

$p\frac{\partial V}{\partial T}(T,p)=p\frac{R}{p}=R$  
故に
式(6)の右辺=R
式(6)は、
$C_p - C_V =R \qquad \qquad (7)$ 
となる。

理想気体の断熱変化 

nモルの理想気体を、断熱壁(注を参照)で作った器にいれて、
常に熱平衡状態にほぼ等しくなるように、非常にゆっくりと体積変化をさせたとき、
この気体の状態はどのように変化するか、調べてみよう。
(注)熱エネルギーが出入りできない壁のこと。
現実には、どんな高性能の断熱材も温度の高い側から低い側に熱エネルギーを通してしまう。
しかし、外界との意図しない熱の授受があると 、熱現象の解明は困難になるため このような理想の素材が存在すると仮定する。

圧縮では温度が上がり、膨張では下がる  

気体を圧縮するには、外から仕事 $\delta W (>0)$ を与える必要がある。
  外部との熱エネルギーの授受はないので、熱力学の第一法則から、
  気体の内部エネルギーは$\delta W (>0)$だけ増加し、温度が上がる。
  膨張の場合には、、外から仕事は $\delta W <0$ となるので、
  気体の内部エネルギーは減少し、温度は下がる。
定量的にいくら温度が変化するかをこれから調べる。

状態量の変化量の関係  

nモルの理想気体の状態方程式は、$pV=nRT$ なので、
  p、V、T が微小量変化して, それぞれ、$p+\delta p, V+\delta V,T+\delta T$ となると
  $(p+\delta p)(V+\delta V)=nR(T+\delta T)$
  変化が微小なので、 $\delta p \delta V$ は一層小さくなるので、上式は
  $pV+p\delta V +V\delta p \approx nRT+nR\delta T$
  $pV=nRT$ を考慮すると、この式から
  $p\delta V +V\delta p \approx nR\delta T \qquad \qquad (1)$
  が得られる。
 

断熱変化による内部エネルギーの変化

断熱変化における熱力学の第一法則は
  $\delta U=\delta W\qquad \qquad (2)$
  熱平衡状態に極く近い状態を保ちながら、
  圧力pの気体の体積をゆっくりと$\delta V$ だけ変える時、
  外部からなす仕事$\delta W$ は、すでに説明したとおり、
  $\delta W \approx -p\delta V$(変化速度を遅くしていけば$\delta W$は $-p\delta V$ に収束)。
  この式と式(2)から、
$\delta U \approx -p \delta V \qquad \qquad (3)$ 

体積変化と圧力変化の関係  

定積比熱の定義から
$C_V=\lim_{\delta T \to 0}\frac{\delta U}{\delta T}$
なので、十分小さい $\delta U,\delta T$ に対して
$C_V \approx \frac{\delta U}{\delta T}$
故に
$\delta U \approx C_V \delta T \qquad \qquad (4)$
式(3)と式(4)から
$p \delta V+C_V \delta T \approx 0 \qquad \qquad (5)$
式(1)から
$\delta T \approx \frac{p\delta V +V\delta p}{nR} $
これを式(5)に代入し、整頓すると
$(1+\frac{C_V}{nR})p\delta V+\frac{C_V}{nR}V\delta p \approx 0$
両辺を $nR$ 倍すると
$(nR+C_V)p\delta V+C_VV\delta p \approx 0$
nモルの理想気体では、すでに説明したように、$C_p=C_V+nR$ なので
$C_p p\delta V+C_V V\delta p \approx 0$
両辺を $C_V p V $ で割り、
$\gamma =\frac{C_p}{C_V}$ を代入すると
$\gamma \frac{\delta V}{V}+\frac{\delta p}{p}\approx 0 \qquad \qquad (6)$
理想気体では、$\gamma$ は気体の状態にかかわらず一定である。

圧力と体積の関係  

圧力と体積の変化量の間に成り立つ関係が式(6)で与えられることが分かった。
それでは圧力と体積にはどのような関係が成り立つのだろうか。
この未知の関係式を $f(V,p)=0$ とおく。すると
$0=f(V,p)=f(V+\delta V,p+\delta p) \qquad \qquad (7)$
微小な変化量 $\delta V,\delta p$ にたいして、上式の右辺は
$f(V+\delta V,p+\delta p) \approx \frac{\partial f}{\partial V}(V,p)\delta V+ \frac{\partial f}{\partial p}\delta p$
なので、式(7)の右辺に代入して、式を整頓すると
$\frac{\partial f}{\partial V}(V,p)\delta V +\frac{\partial f}{\partial p}\delta p \approx 0 \qquad \qquad (8)$
式(8)が式(6)になるように関数fを決めねばならないので、
$\frac{\partial f}{\partial V}(V,p)=\frac{\gamma}{V} \qquad \qquad (9)$
$\frac{\partial f}{\partial p}(V,p)=\frac{1}{p} \qquad \qquad (10)$
を得る。
第8章の物理数学の初等関数の微分を参考にすると、
式(9)から、関数 f は、$f(V,p)=\gamma \log_{e}V+g(p)$($g(p)$は未知のpの関数)
式(10)から、関数 f は、$f(V,p)=\log_{e}p+h(V)$($h(V)$は未知のVの関数) であることが分かる。
この両式から
$f(V,p)=\gamma \log_{e}V+\log_{e}p + const$( const は定数を表す)
が得られる。
この右辺は、対数の性質から
$\gamma \log_{e}V+\log_{e}p + const =\log_{e}V^{\gamma}p+const $
ゆえに体積と圧力の間には
$\log_{e}pV^{\gamma}=$定数
という関係が成り立つことが導かれた。
これより
$pV^{\gamma}=$定数$\qquad \qquad \qquad (11)$
これが所望の関係である。

温度の変化

nモルの理想気体の状態方程式 $pV=nRT$
と式(11)から、温度は
$T=\frac{const}{V^{\gamma -1}} \qquad \qquad \qquad (12)$
これで、断熱変化における体積と温度の関係が求められた。

熱力学の第2法則 

第二種永久機関の失敗やカルノーの熱機関の効率の研究から, 熱力学の第2法則が、熱現象の基本原理として採用された。

 熱機関と効率 

熱機関とは、熱エネルギーを利用して外部に仕事をおこない続ける機関である。
1)高温の熱源からの熱エネルギーで、
シリンダー内の気体や液体(作業物質という)を加熱・膨張(液体の場合は気化)させ、
作業物質の膨張する力で、シリンダーにはめたピストンを押し出し、外部への仕事をさせる。
2)この作業物質を、低温熱源で冷却・収縮させて元の状態に戻す(気化した液体の場合液体に戻す)。
この時、シリンダーにはめたピストンは作業物質の収縮力により、引き込まれる。
この時もピストンは外部に仕事をする。 こうして、ピストンは1往復してもとの位置に戻る。1往復をサイクルという。
3)これを繰り返し、サイクル運動を続ける。

初期の熱機関は効率が大変悪かった。
効率のよい熱機関を作るにはどうすればよいか。
効率はどこまで上げられるか。
高温の熱源から受け取った熱エネルギーを, すべて外部への仕事に変換出来ないだろうか(熱力学の第一法則には違反しない)。
これらは喫緊の関心事になった。
この問題を根本的に解決したのはカルノーであった。
彼は、このような機関は不可能であること、
熱機関の最大効率は、高温熱源と低温熱源で決まること発見した。

準静的過程  

カルノーサイクルの4つの過程は、
いずれも 系の全体は静止(マクロの物体として静止)にきわめて近く、 さらには熱平衡にも極めて近い状態を保ちながら、
変化させ、その変化速度をどんどん遅くして行きときの、極限の過程を考えている。 これを準静的過程(quasi-static process) という。
この過程は、
「マクロには静止し、熱平衡を保ちながら、無限の時間をかけて状態変化していく過程」
と考えられる。
熱平衡のある系は温度や圧力などの状態量がさだまるので、この過程は状態量の推移で 正確に記述できることになる。

しかし、厳密には、常に静止し、熱平衡状態を完全に保つならば系は
力学的にも熱的にも全く変化は起こることはない。
そのため、準静的過程は、厳密には矛盾を含む表現であり、もちろん実現不可能である。
マクロな観測では検出できない程度の非平衡状態を持ちながら、長時間かけて変化していく過程と考えればよいだろう。
この過程を想定した系の挙動は、大変簡潔となり、
しかも仮想の挙動は、必要な時間をかけて、ゆっくり状態変化させれば任意の精度で実現できるので、
熱機関の挙動や効率を調べるのに大変有用である。
カルノーの熱機関の研究では、要の概念になっている。
準静的に系を変化させるには、
系には無限小(注1を参照のこと)の力や
無限小の仕事、熱エネルギーを与える必要がある(注2を参照のこと)。

(注1)すでに説明したように、
どんな正の実数より小さく、どんな負の実数よりも大きい数のこと。
もちろん、実数の中にはこのような数は存在しない。
物理学ではこの数を自由に使ってきたが、厳密性を重んじる数学では否定してきた。
しかし、近年、実数に無限小の数を加えた、数の体系が合理的に導入された。
無限小の数はたくさんあり、これと実数を集めた数の体系では、実数と同じ4則演算ができる。
無限小の数を用いると、微積分学は、収束や極限といった煩わしい手順をとらないで 再構築できる。
微積分の発見当初は、直感的に無限小の数を利用していたが、厳密性がなく、
現在は、収束と極限概念に基づく微積分が広く使われている。
無限小を利用した微積分学の再構築は、超準解析と呼ばれる。

(注2)系の体積を準静的に変えるには、系の圧力と無限小異なる外力を作用させる。
外力が無限小だけ小さい場合には、系は、無限にゆっくりと膨張し、
無限小だけ大きいと、無限にゆっくりと圧縮する。

系に準静的に熱を与えるには、系の温度と無限小だけ異なる熱源と接触させればよい。

準静的という概念を用いると、すでに述べたいくつかの命題の表現が簡潔になる。
例えば、
「1.2.3.1 系の体積を変えるために外から加える仕事について」の命題は次のように記述できる。
命題;
圧力Pの系を、準静的に体積を無限小dV変化させる時、
力の行う仕事は W=ーPdV である。

今後、カルノー機関の4つの過程はすべて摩擦のない準静的な過程であると仮定する。

 可逆過程

ある過程が、外界に何の変化も残さずに、無限小のエネルギーで逆の過程をたどって、 元の状態に戻すことができる時、可逆過程(reversible process)という。
詳しくは、

準静的過程と可逆過程の関係  

命題;準静的で摩擦のない過程は、可逆である。
証明;
系に準静的な変化をさせるためには、
ⅰ)系の圧力と無限小異なる圧力を外部からかけて、
無限にゆっくりと体積変化をさせるか、
ⅱ)系の温度と無限小異なる外部熱源と接触させる
必要がある。
準静的な過程は、これらを組み合わせた過程である。
そこで、準静的過程が可逆である事を示すには、上記の2つがいずれも可逆であることを示せばよい。
ⅰ)は、体積変化の際に摩擦がなければ、可逆である。
系の圧力Pと無限小だけ異なる圧力 $P+\epsilon$ を外部から、かける。
摩擦がなければ、系は無限にゆっくりと体積を変える。
体積変動量を$\delta V$とすると、この間外力のなす仕事は $-P\delta V$である。
次に外圧を $P-\epsilon$ に変えると、逆の体積変化がおこるので、
その量が$-\delta V$になるまでこの外圧を保ち、
$-\delta V$ に達したら、外圧を $P$ にして変化を止める。
この間に外力のなす仕事は $-P\delta V$ である。
すると、系は元の状態は戻り、
しかも外力のなす仕事は合計0なので、外部に何の影響も残していない。
従ってこの過程は可逆である。
ⅱ)は可逆である。
何故なら、
系を、系の温度と無限小量だけ温度の高い熱源に接触させ、
熱エネルギーを非常にゆっくりと系に移動させたとする。
次に、系に無限小の熱エネルギーを与えて系の温度を熱源より無限小高くすれば、 熱エネルギーは、系から熱源にむけて流れ、もとの状態に戻すことができる。
従ってこの過程は可逆である。

命題;準静的でなくても可逆の過程は存在する。
何故なら、ニュートン力学に支配される運動は可逆である。
例えば、摩擦のない理想的環境下の振り子運動は、同じ振動を永遠に続けるので 可逆である。
しかし、物体として動いており、準静的でない。

カルノー機関、カルノーサイクル

カルノーが発見した熱機関は、
①作業物質として理想気体(nモルとする)の温度を高温熱源の温度 $T_2$ と等しくしてから、準静的な等温膨張をさせる。 この時作業物質は外部に仕事をする。
その仕事と等しい熱エネルギーが高音熱源から気体に流れる。 ②気体を熱源から離し、準静的に断熱膨張させる。 この間も、作業物質は外部に仕事をする。 この仕事だけ気体は内部エネルギーを失い温度を下げる。 ③気体の温度が低温熱源の温度 $T_1$ に等しくなったら、作業物質を低温熱源に接触させ、今まで取り出した仕事の一部を用いて、気体を準静的に等温圧縮して行く。 圧縮によって作業物質の温度が、低温熱源より無限小大きくなると熱エネルギーが気体から低温熱源に流れて行く。
準静的な断熱圧縮をすると①の初めの温度と体積に戻るような、体積になるまで続ける。 ④低温熱源から作業物質を離して、今まで取り出した仕事の一部を用いて、 準静的に断熱圧縮して、気体の温度と体積を①の初めの温度と体積に戻す
という4つの過程からなるサイクルをくりかえす装置であり、 カルノー機関と呼ばれる。
この機関のサイクルを、カルノーサイクル という。

最初の過程の気体の仕事

カルノーの定理

熱力学の第2法則を用いると、
カルノーの定理「この機関の効率は作業物質によらず同じであり、両熱源の温度だけで決まる」、
「カルノー機関より高効率な熱機関は存在しない」
ことが論証できる。

カルノーの定理の証明  
熱力学的絶対温度

カルノー機関の効率が両熱源の温度の関数であることを用いて熱力学的絶対温度(作業物質の特性を全く使わない温度)が定義できる。
これらの詳細については本テキストでは扱わない。

熱力学の第2法則 

いくつかの異なった定式化があるが、いずれも等価であることが示せる。 トムソンの原理
クラジウスの原理

および

不可逆過程とエントロピー

不可逆変化と具体例

可逆過程とは、外界に変化を残さずに最初の状態に戻せる過程のことであったが、現実の殆どの変化は可逆ではない。例えば高温物体から低温物体への熱の移動は、両者を接触させればおこるが、この逆の変化は起こらず、熱移動は不可逆過程である。他の例も考えてみてください。

不可逆な熱機関の効率

不可逆過程をふくむ熱機関の効率は、カルノー機関の効率よりも常に小さい(カルノーの第2定理)。
これも熱力学の第2法則から導ける。

エントロピー

高温熱源$T_1$と低温熱源$T_2$を用いたカルノーサイクルでは、
$\frac{Q_1}{T_1}=\frac{Q_2}{T_2} $
が成立する。
高温熱源$T_1$と低温熱源$T_2$を用いた不可逆過程の熱機関では
$\frac{Q_1}{T_1}<\frac{Q_2}{T_2} $
が成立する。
このことから、エントロピー  $\frac{Q}{T}$ という重要な概念が導入された。
熱はエントロピーが増大する方向に移行する(エントロピー増大則)。
これ以上は、本テキストだは扱わないが、興味のある方は以下を参照のこと。

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