物理/熱と熱現象(2)熱力学の第一法則
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熱と熱現象(2) 熱力学の第一法則
蒸気機関の発明、その効率を上げる試み・考察と、
永久機関の試みが失敗に終わっている事実から、
熱力学の基本法則である第一法則と次節で述べる第2法則が発見された。
永久機関への挑戦の失敗
外部からエネルギーを受け取ることなく、仕事を行い続ける装置ができればエネルギー問題など発生しない。
次の記事にあるように18~19世紀、多くの科学者や技術者がこれに挑んだが誰も成功しなかった。
第一種の永久機関
最初は、外部から何も受け取ることなく、仕事を外部に取り出し続けることのできる機関を作ろうとした。
永久に仕事をし続けるためには、
外部からエネルギーの補給なく仕事を取り出したのちに、
機関が再び元の状態に完全に戻り、
この動作を永久に繰り返せるようにしなけらばならない。
このような機関を第一種の永久機関(perpetual motion machine of the first kind) という。
その試みは失敗続きだった。
やがて熱も含めたエネルギーの保存則(熱力学の第一法則)が認識され、
それに反する試みなので、失敗したのだと理解されるようになった。
第二種の永久機関
次には、エネルギー保存則に反しない永久機関を作ろうとした。
外部の熱源から熱をとり、これを仕事に変えたのち、
仕事によって発生する熱をすべて熱源に回収し、
外部に対して全く変化を残さないで機械が元の状態に戻る装置である。
これを繰返せば、一つの熱源があれば、永久に仕事を取り出せる。
このような機関を、第二種の永久機関(perpetual motion machine of the first kind) という。
この装置は、エネルギー保存則を破らないので、
出来るのではないかと多くの人々が挑戦したが、すべて失敗であった。
この結果、熱力学の第二法則が認識されるようになった。
現在では、熱力学の第一法則と第二法則が自然の基本法則であり、
永久機関はこれに反するため不可能であると理解されている。
熱力学の第1法則
力学の分野では、次の事実が知られている。(「2.4.3 力学的エネルギーと力学的エネルギー保存則」を参照のこと)。
質点系の力学的エネルギーは保存力場では保存される。
さらに保存力以外の力を加えたとき、その力のなす仕事はこの質点系の力的学エネルギーの増加に等しい。
摩擦がある場合には、「2章 力学」で説明したように、物体は運動中に摩擦力を受けるので、摩擦力を含めた力は保存的でなくなり、力学的エネルギーの保存則は成立しない(注参照)。
力学的現象と同時に摩擦など熱エネルギーの移動を伴う現象でも
力学的エネルギーに熱現象に伴うエネルギーを合計すると、
エネルギーが保存されることを法則として認めたものが、
熱力学の第一法則である。
この法則を理解するのは物質の内部エネルギーについて理解する必要がある。
(注)物体の力学的エネルギーは運動中、摩擦熱となり失われていく。
物質の内部エネルギー
物体が静止している時は、巨視的に観測できる物体の運動エネルギーは零である。
しかし巨視的手段では観測できないが、その物質を構成している個々の分子・原子は、
絶えず熱運動をおこなっているため、運動エネルギーを持つ。
さらに保存力である分子間力で互いに引き合っているためポテンシャル(位置)エネルギーを持っている。
これらの和を物質の内部エネルギーという(注参照)。
理想気体の場合、
分子間力は働かないため位置エネルギーは0となり、
内部エネルギーは各気体分子の熱運動の運動エネルギーの和である。
物体の熱エネルギーの授受によって、内部エネルギーは変化するので、状態変数である。
(注)分子は、電気力によって互いに引き合っている。
互いに引き合っている物質を引き離すには、
それらに力を加えて強制的に動かす必要がある。
分子間力は保存力なので、引き離す力のなす仕事は、
その経路に関係なく、それら物質の初期位置と最終位置だけで決まる。
これが分子間力による(初期状態から最終状態を見た)ポテンシャル(位置)エネルギーである。
通常は互いに無限に離れた状態のポテンシャル・エネルギーを零と定める。
注の終わり。
広義の熱力学の第一法則
ある系が、ある変化を行うとき、
その系の最後のエネルギー E' と最初のエネルギー E との差 E'-E は、
その系に外部からくわえた仕事の総量 W と 外から加えた熱の総量 Q の和に等しい。
$E'- E = W +Q \qquad \qquad (1)$
系のエネルギーとは、系を分子の集まりと考えたときの、力学的エネルギー(各分子の運動エネルギーの総和と系のポテンシャルエネルギーの和)である。
剛体の場合には、剛体としての力学的エネルギーと内部エネルギーの和となる。
熱力学の第一法則
外からの仕事と熱が、
系の巨視的な力学的エネルギーを変えないように与えられるときは、
E'-E は 系の内部エネルギーの差 U'ーU に等しくなる。
この場合の第一法則は
$U'- U = W + Q \qquad \qquad (2)$
通常の熱力学の本では、熱力学の第一法則は、
$\quad$「系が静止し、無限小の仕事や熱エネルギーを受け,
$\quad$熱平衡状態を保ちながら、無限にゆっくり変化する(準静的過程という) 時、
$\quad$式(2)が成り立つ」と述べている(注参照)。
(注)熱力学の第2法則の所で詳しく述べるが、
厳密に熱平衡状態にあれば仕事やエネルギーの移動は起こりえず、
この規定は自己矛盾を含んでいる。
このため、本テキストでは、この概念を必要とする、カルノー機関や第2法則の項で、意味を吟味して述べたうえで使用する。
系の体積を変えるために外から加える仕事について
熱力学の第一法則の適用に際して、
系の体積を少し変えるため、外から加える仕事Wを求める必要が生じることがある。
命題;
圧力 P の系の外部から力を加えて、
ゆっくりと、熱平衡に近い状態を保ちながら(注参照)、体積を微小量 $\delta V$ 変化させる時、
外力の行う仕事 W は、ほぼ $-P\delta V$ である。
外圧を気体の圧力に近づけ体積変化速度を小さくするに従い、
Wは $-P\delta V$ に収束していく。
但し、体積変化時に摩擦力は働かないとする。
略証;簡単な場合にこれを示そう。
図3-2-1のように摩擦のないピストンによる気体の圧縮・膨張を考える。
ピストンの断面積をS、質量をmとする。
x 座標を図のようにいれ、ピストンのO点の初期位置の座標を 0 とする。
外部から力を加えてピストンをゆっくり動かし
気体の体積を微小量$\delta V$ だけ変えよう。
ピストンの移動量$\delta l$ は
$\delta l=\delta V/S \qquad \qquad(1)$
これだけ移動させたのち平衡状態になるまで待つと、
体積変化量が微小なので、系の圧力は P に等しいと考えてよい。
気体がピストンを押す力は、$PS$ になる。
ゆっくりピストンを動かすには、
ピストンに外力 $-(P+\epsilon )S$ ($\epsilon$は微小数)を与える必要がある。
ピストンは、外力と気体からの力の合力$-\epsilon S$を受けて運動する。
$\epsilon>0$ ならば圧縮(ピストンはx軸の負方向に動く)、$\epsilon<0$ ならば膨張である。
説明を簡単にするため圧縮の場合を考察する(膨張でも同様にできる)。
$\epsilon>0$ として、
ピストンのO点の座標が0から$\frac{\delta l}{2}$ の間は
ピストンに与える外力を$-(P+\epsilon)S $にすると、
ピストンは、左方に加速度$\frac{-\epsilon S}{m}$の運動を始める。
$\epsilon$ が微小で、極めてゆっくりと加速して行ので、気体からピストンの受ける力は、静止しているとき受ける力 $PS$ とほぼ等しく、ピストンは等加速度に近い運動をする。
O点の座標が$\frac{\delta l}{2}$(移動中間点)になったら、
減速させて、O点の座標が $\delta l$ のところで、
ピストンが止まるように外部からの力を決めよう。
このために、中間点で外力を $-(P-\epsilon)S$ に切り替え、
ピストンに働く合力を $\epsilon S$ にする。
するとピストンは右方へ等加速度 $\frac{\epsilon S}{m}$ に近い運動を始めるので、
ピストンは速度を落としながら、左方に動いて行く。
前段の等加速度と後段の加速度は大きさはほぼ等しく、向きは逆なので、
O点の座標が $\delta l$ に達する (ピストンが$\delta l$移動する)と
ピストンは静止に近い。
ピストンが $\delta l$ 移動する間に、外力のなす仕事Wは
$W\approx-(P+\epsilon)S\frac{\delta l}{2}-(P-\epsilon)S\frac{\delta l}{2}$
$=-PS\delta l=-P\delta V$
$\epsilon$ を零にどんどん零に近づけていき、極限をとれば、
ピストンはO点の座標が$\delta l$ の点で静止し、その間外力のなす仕事は $-P\delta V$ になる。
これで、命題は証明された。
第一法則の応用
第1種永久機関の不可能性
熱力学の第一法則から、第1種永久機関が不可能であることが次のようにして示せる。
ある機関が、外部からエネルギーを受け取らず、外部に対し仕事をしたとする。
この機関は外部からはエネルギーの補給がないので、熱力学の第一法則から、
機関の内部エネルギーは、機関が外部にした仕事だけ減少する。
したがって、機関は元の状態に戻りえない。
第一種永久機関は不可能である。
気体の断熱自由膨張
ジュール は、
栓で仕切った2つの容器A,Bの片側Aに気体をいれ、容器Bは真空にし、
2つの容器と周囲の環境との間に熱のやり取りがないように工夫して、
栓を開く実験を行った。
栓を開くと、容器 A の気体は容器 B に流れ込み、しばらくすると2つの容器の気体は熱平衡状態になる。
この温度を計測したところ、実験開始前の容器 A の気体の温度とほぼ同じであった。
実験中、気体は、外部に対しては仕事はせず、また外部との熱の授受もないので、
熱力学の第一法則により、気体の内部エネルギーは変化しない。
この実験により、
気体の内部エネルギーが変わらなければ、気体の温度は、体積にかかわらず、一定である
という結論が得られる。
後の精密な実験により
気体の密度が小さく理想気体に近い状態では、体積変化による温度変化はほとんどないが、
密度が大きいときにはかなりの温度変化が生じることが分かった。
経験法則;理想気体では、その内部エネルギーは、温度だけの関数で体積にはよらない。
$\qquad $ 式で書くと、$U=U(T)$
理想気体の内部エネルギーの性質;
$\qquad $ 関数 $U=U(T)$ は、T の増加関数である。
(証明)気体に正の仕事を与えると内部エネルギーは増加するが、この時気体の温度は上がる。
気体に負の仕事を与えると内部エネルギーは減少するが、この時温度は下がる。
これらから、逆に温度が上がれば内部エネルギーは増加し
温度が下がれば内部エネルギーが減少することが分かる。
熱容量と比熱(その2)
すでに、熱容量と比熱(その1)で簡単な説明を行った。
ある系に、ΔQ の熱を加えたとき、温度がΔTだけ上がるとき、ΔQ/ΔT をその系の熱容量という。
熱容量には次の2種類ある。
定積熱容量($C_V$と記す);加熱の時、体積を一定に保つようにしたときの熱容量
定圧熱容量($C_p$と記す);加熱の時、圧力を一定に保つようにしたときの熱容量
$C_V$、$C_p$ を質量で割ったものが比熱 $c_V$、$c_p$ である。
この項では、$C_V$ と $C_p$ の関係を、系の状態方程式を用いて考察する。
状態方程式を用いた熱容量の表現
静止した状態で系に微小の仕事$\delta W$と熱エネルギー$\delta Q$を与えたときの
内部エネルギーの変化$\delta U$は、熱力学の第一法則から
$\delta U=\delta W + \delta Q \qquad \qquad (1)$
この系に、微小の熱エネルギー$\delta Q $をゆっくりと与えたとする。
このときの体積の変化量を$\delta V$ とすると、これも微小になる。
この系の変化は極めてゆっくりなので、この間系は熱平衡に極めて近い状態にある。
すると、「系の体積を変えるため外から加える仕事について」という項で説明したように、
外から加える仕事$\delta W$ は、
$\delta W \approx -p\delta V$ (系の変化を遅くしていけば、この値にいくらでも近づけられる)。
これを、式(1)に代入すると、
$\delta U \approx -p\delta V + \delta Q \qquad \qquad (2)$
ここで、内部エネルギーは状態量なので、
温度Tと体積の関数 $U=U(T,V)$ で表現できる。
温度と体積を微小量 $\delta T,\delta V$ 変化させたときの
内部エネルギーの変化量 $\delta U$ は、
$\delta U:=U(T+\delta T,V+\delta V)-U(T,V)
\approx \frac{\partial U}{\partial T}(T,V)\delta T
+ \frac{\partial U}{\partial V}(T,V)\delta V \qquad \qquad (3)$
式(3)を、式(2)に代入して、整頓すると、
$\delta Q \approx
\frac{\partial U}{\partial T}(T,V)\delta T
+(p+\frac{\partial U}{\partial V}(T,V)\delta V)\qquad \qquad (4)$
これで定積熱容量を内部エネルギー関数 $U=U(T,V)$ で表現する準備は整った。
定積熱容量 $C_V$ の表現
式(4)で、$\delta V=0$ とおけば、体積を一定に保ちながら
温度をTから微小量 $\delta T$ あげるときに必要な外部からの熱エネルギー $\delta Q$ が求まる。
$\delta Q \approx
\frac{\partial U}{\partial T}(T,V)\delta T $
これより
$\frac{\delta Q}{\delta T}\approx \frac{\partial U}{\partial T}(T,V)$
故に、
$C_V(T):=\lim_{\delta T\to 0}\frac{\delta Q}{\delta T}
=\frac{\partial U}{\partial T}(T,V) \qquad \qquad (5)$
定圧熱容量 $C_p $ の表現
系の圧力を一定値 p に保ちながら熱エネルギーをあたえると、この系は温度と体積を増していく。
このとき、$\delta T$ と $\delta V$ の間には、p を一定に保つため、ある関係が成り立つ。
この関係をT と p の関数として求めて、式(4)に代入すれば、
定圧熱容量が求まるはずである。
そこで、体積 V を、T と p の関数として表す状態方程式 $V=V(T,p)$ を利用する。
$\delta V:=V(T+\delta T,p+\delta p)-V(T,p)$
$\approx \frac{\partial V}{\partial T}(T,p) \delta T
+ \frac{\partial V}{\partial p}(T,p) \delta p$
圧力一定で温度を変えるときの体積変化は、$\delta p=0$ を代入して、
$\delta V \approx \frac{\partial V}{\partial T}(T,p) \delta T$
この関係式を、式(4)に代入すると
$\delta Q \approx
\left(\frac{\partial U}{\partial T}(T,V)
+\left(p+\frac{\partial U}{\partial V}(T,V)\right)
\frac{\partial V}{\partial T}(T,p)\right) \delta T $
故に、
$C_p:=\lim_{\delta T \to 0}\frac{\delta Q }{\delta T }
=\frac{\partial U}{\partial T}(T,V)
+\left(p+\frac{\partial U}{\partial V}(T,V)\right)
\frac{\partial V}{\partial T}(T,p)$
式(5)から
$C_p=C_V+\left(p+\frac{\partial U}{\partial V}(T,V)\right)
\frac{\partial V}{\partial T}(T,p)$
故に
$C_p - C_V =\left(p+\frac{\partial U}{\partial V}(T,V)\right)
\frac{\partial V}{\partial T}(T,p) \qquad \qquad (6)$
比熱比
$\gamma:=\frac{c_p}{c_v}=\frac{C_p}{C_v}$
を比熱比 と呼ぶ。
固体や液体では温度による体積変化がほとんどないため、
低圧比熱に含まれる体積膨張に費やされるエネルギーは微小のため、
ほぼ $C_v=C_p$ となり、$\gamma \approx 1$(厳密には1よりわずかに大きい)
しかし、気体の場合には、定圧の下では、
熱エネルギーをあたえると体積が大きく増加するため、
気体は外部に向けて仕事をして、エネルギーを使ってしまうため、
同じ温度を上げるためには、
定積の場合より多くの多くの熱量を与える必要がある。
そのため、$C_p > C_V$ となり、$\gamma > 1$
実測では
単原子気体ではγ≒5/3,二原子気体ではγ≒7/5,
3原子以上の多原子気体ではγ≒4/3
であることが分かっている。
気体のミクロ構造に着目すると、
理想気体(それに近い密度の低い気体)では、内部エネルギーは
気体のすべての分子の運動エネルギーの総和であり、気体温度はその平均値なので
内部エネルギーは温度の関数として簡単に求められる。
この関数を用いると、実測結果は合理的に説明できる。
これについては、次節の分子運動論で説明する。
例.1モルの理想気体の定積比熱と定圧比熱の関係
理想気体の内部エネルギーは $U=U(T)$ なので、
式(6)の 右辺
$=\left(p+\frac{\partial U}{\partial V}(T,V)\right)
\frac{\partial V}{\partial T}(T,p)$
$=p\frac{\partial V}{\partial T}(T,p)$
$\quad$1モルの理想気体の状態方程式 $pV=RT$ から、$V=\frac{RT}{p}$ 、
$\quad$これを T で(偏)微分すると $ \frac{\partial V}{\partial T}(T,p)=\frac{R}{p}$ なので、
$p\frac{\partial V}{\partial T}(T,p)=p\frac{R}{p}=R$
故に
式(6)の右辺=R
式(6)は、
$C_p - C_V =R \qquad \qquad (7)$
となる。
理想気体の断熱変化
nモルの理想気体を、断熱壁(注を参照)で作った器にいれて、
常に熱平衡状態にほぼ等しくなるように、非常にゆっくりと体積変化をさせたとき、
この気体の状態はどのように変化するか、調べてみよう。
(注)熱エネルギーが出入りできない壁のこと。
現実には、どんな高性能の断熱材も温度の高い側から低い側に熱エネルギーを通してしまう。
しかし、外界との意図しない熱の授受があると
、熱現象の解明は困難になるため
このような理想の素材が存在すると仮定する。
圧縮では温度が上がり、膨張では下がる
気体を圧縮するには、外から仕事 $\delta W (>0)$ を与える必要がある。
外部との熱エネルギーの授受はないので、熱力学の第一法則から、
気体の内部エネルギーは$\delta W (>0)$だけ増加し、温度が上がる。
膨張の場合には、、外から仕事は $\delta W <0$ となるので、
気体の内部エネルギーは減少し、温度は下がる。
定量的にいくら温度が変化するかをこれから調べる。
状態量の変化量の関係
nモルの理想気体の状態方程式は、$pV=nRT$ なので、
p、V、T が微小量変化して, それぞれ、$p+\delta p, V+\delta V,T+\delta T$ となると
$(p+\delta p)(V+\delta V)=nR(T+\delta T)$
変化が微小なので、 $\delta p \delta V$ は一層小さくなるので、上式は
$pV+p\delta V +V\delta p \approx nRT+nR\delta T$
$pV=nRT$ を考慮すると、この式から
$p\delta V +V\delta p \approx nR\delta T \qquad \qquad (1)$
が得られる。
断熱変化による内部エネルギーの変化
断熱変化における熱力学の第一法則は
$\delta U=\delta W\qquad \qquad (2)$
熱平衡状態に極く近い状態を保ちながら、
圧力pの気体の体積をゆっくりと$\delta V$ だけ変える時、
外部からなす仕事$\delta W$ は、すでに説明したとおり、
$\delta W \approx -p\delta V$(変化速度を遅くしていけば$\delta W$は $-p\delta V$ に収束)。
この式と式(2)から、
$\delta U \approx -p \delta V \qquad \qquad (3)$
体積変化と圧力変化の関係
定積比熱の定義から
$C_V=\lim_{\delta T \to 0}\frac{\delta U}{\delta T}$
なので、十分小さい $\delta U,\delta T$ に対して
$C_V \approx \frac{\delta U}{\delta T}$
故に
$\delta U \approx C_V \delta T \qquad \qquad (4)$
式(3)と式(4)から
$p \delta V+C_V \delta T \approx 0 \qquad \qquad (5)$
式(1)から
$\delta T \approx \frac{p\delta V +V\delta p}{nR} $
これを式(5)に代入し、整頓すると
$(1+\frac{C_V}{nR})p\delta V+\frac{C_V}{nR}V\delta p \approx 0$
両辺を $nR$ 倍すると
$(nR+C_V)p\delta V+C_VV\delta p \approx 0$
nモルの理想気体では、すでに説明したように、$C_p=C_V+nR$ なので
$C_p p\delta V+C_V V\delta p \approx 0$
両辺を $C_V p V $ で割り、
$\gamma =\frac{C_p}{C_V}$ を代入すると
$\gamma \frac{\delta V}{V}+\frac{\delta p}{p}\approx 0 \qquad \qquad (6)$
理想気体では、$\gamma$ は気体の状態にかかわらず一定である。
圧力と体積の関係
圧力と体積の変化量の間に成り立つ関係が式(6)で与えられることが分かった。
それでは圧力と体積にはどのような関係が成り立つのだろうか。
この未知の関係式を $f(V,p)=0$ とおく。すると
$0=f(V,p)=f(V+\delta V,p+\delta p) \qquad \qquad (7)$
微小な変化量 $\delta V,\delta p$ にたいして、上式の右辺は
$f(V+\delta V,p+\delta p) \approx \frac{\partial f}{\partial V}(V,p)\delta V+
\frac{\partial f}{\partial p}\delta p$
なので、式(7)の右辺に代入して、式を整頓すると
$\frac{\partial f}{\partial V}(V,p)\delta V
+\frac{\partial f}{\partial p}\delta p \approx 0 \qquad \qquad (8)$
式(8)が式(6)になるように関数fを決めねばならないので、
$\frac{\partial f}{\partial V}(V,p)=\frac{\gamma}{V} \qquad \qquad (9)$
$\frac{\partial f}{\partial p}(V,p)=\frac{1}{p} \qquad \qquad (10)$
を得る。
第8章の物理数学の初等関数の微分を参考にすると、
式(9)から、関数 f は、$f(V,p)=\gamma \log_{e}V+g(p)$($g(p)$は未知のpの関数)
式(10)から、関数 f は、$f(V,p)=\log_{e}p+h(V)$($h(V)$は未知のVの関数)
であることが分かる。
この両式から
$f(V,p)=\gamma \log_{e}V+\log_{e}p + const$( const は定数を表す)
が得られる。
この右辺は、対数の性質から
$\gamma \log_{e}V+\log_{e}p + const =\log_{e}V^{\gamma}p+const $
ゆえに体積と圧力の間には
$\log_{e}pV^{\gamma}=$定数
という関係が成り立つことが導かれた。
これより
$pV^{\gamma}=$定数$\qquad \qquad \qquad (11)$
これが所望の関係である。
温度の変化
nモルの理想気体の状態方程式 $pV=nRT$
と式(11)から、温度は
$T=\frac{const}{V^{\gamma -1}} \qquad \qquad \qquad (12)$
これで、断熱変化における体積と温度の関係が求められた。