物理/解析入門(1)実数の性質、連続関数,微分と導関数
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目次 |
7.3 解析入門(1)実数の性質、連続関数、微分と導関数
序
一変数関数の解析学を紹介する。
解析学は実数の連続性と極限の概念を用いる無限算法(微分、積分)を扱う
数学の基幹分野の一つである。
高校でならう解析学の概略だけを知りたい方は、以下の教科書で学習してください。
(1)関数や方程式の知識
$\quad$物理学では、指数関数をはじめ色々な関数をよく使う。
$\quad$これについては下記の本に要約が説明されている。
指数関数や対数関数の上記の本の解説は不十分なので、
興味ある方は、本テキストの
をご覧ください。
(2)ネイピア数 e の理解に必要な数学
微分や積分で重要な役割を演じる実数にネイピア数eがある。
本テキストでも頻繁に登場する。
この数は、$\lim_{n\to \infty}(1+\frac{1}{n})^{n}$ で定義される。
この極限が存在し、2と3の間の数になることを証明するには、2項定理が必要になる。
これについては
問題1
${}_5C_0,\quad {}_5C_1,\quad {}_5C_2,\quad {}_5C_3,\quad {}_5C_4,\quad {}_5C_5$ は、いくつか?
(3)微分・積分
物理の学習には微分と積分が必須である。
関数の微分は、極限を利用して定義される。
極限がよくわからない場合には、高等学校数学III/極限(ウィキブックス)を概略理解してから、
高等学校数学II 微分・積分の考え(ウィキブックス)に進むと良いだろう。
問題2
(3)大学教養課程程度の解析学の基礎
この節は、解析学の基礎(実数の連続性とリーマン積分)について、さらに知りたい方のために書かれている。
厳密さをかなり重視し、程度は大学専門課程の入り口に相当する。
多変数関数の解析学については次章の「9章 物理数学2」で紹介する。
実数の連続性と極限
実数の基本的性質
実数という数の集合${\bf R}$は極めて多くの性質をもつが、
解析学で扱う実数の全ての性質は、
ごくわずかな個数の基本的性質から論理的に導くことができる。
そこで、今後は、これから述べる
(1)演算、(2)順序 と(3)連続性に関する基本的性質を
実数の公理(Axiom)として認め、
これを仮定してすべての命題、定理等を証明していく。
(1)演算に関する基本的性質
${\bf R}$の任意の2元 $a,b$ に対して、
その和$a+b$、その積$a\cdot b$ と呼ばれる実数が唯一定まり、
次の条件を満たす。
1)${\bf R}$ は和に関して次の4条件を満たす。
(和の結合律)
$\qquad 任意の{\bf R}$の元 $a,b,c$ に対して、
$\qquad (a + b) + c = a + (b + c) \qquad \qquad ()$
(和に関する単位元0の存在)
$\qquad 元 0(\in {\bf R})が存在し、a + 0 = a \qquad \qquad ()$
(和に関する逆元の存在)
$\qquad$ 任意の${\bf R}$の元 $a$ に対して、
$\qquad a + b = 0$となる元 $b \in {\bf R}$が存在する。
(和の交換律)
$\qquad$ 任意の${\bf R}$の2元 $a , b $ に対して、
$\qquad a + b = b + a \qquad \qquad ()$
2)${\bf R}-\{0\}$ は非空集合で、積に関して次の4条件を満たす。
(積$\cdot$の結合律)
$\qquad 任意の{\bf R}-\{0\}$の元 $a,b,c$ に対して、
$\qquad (a\cdot b)\cdot \ c = a\cdot (b\cdot c) \qquad \qquad \qquad ()$
(積に関する単位元1の存在)
$\qquad 元 1(\in {\bf R}-\{0\})$が存在し、任意の $a \in {\bf R}-\{0\}$ に対して
$\qquad a\cdot 1 = a \qquad \qquad \qquad ()$
(積に関する逆元の存在)
$\qquad$ 任意の${\bf R}-\{0\}$の元 $a$ に対して、
$\qquad a\cdot b = 1$となる元 $b \in {\bf R}-\{0\}$が存在する。
(積の交換律)
$\qquad$ 任意の${\bf R}-\{0\}$の2元 $a , b $ に対して、
$\qquad a\cdot b = b\cdot a \qquad \qquad \qquad ()$
3)分配律
$\qquad {\bf R}$の任意の3つの元 $a,b,c$ に対して、
$\qquad a\cdot (b+c) = a\cdot b+a\cdot c \qquad \qquad ()$
定義1
1) 非空な集合$S$に,結合律を満たし単位元と逆元をもつ演算($\phi$)が定義されているとき、
$\quad $この集合と演算の対 $(S,\phi)$ を群(group)という。
$\quad $さらに演算が交換律を満たすとき可換群(あるいは、アーベル群)という。
2) 非空な集合 $S$ が、2つの演算(和+と積$\cdot$)をもち、
$\quad $これらの演算が1)、2)、3)で述べた基本的性質を全てみたすとき
$\quad $集合Sと演算の対$(S,+,\cdot )$を体と呼ぶ。
$({\bf R},+,\cdot )$ は体の一例である。
(2)順序の基本的性質
${\bf R}$ には
$\quad a \leq b \quad (a は b より小さいか、等しい)$
という順序関係が成り立つ2元が存在し、次の性質を満たす。
$\cdot$ (反射律)任意の元 $a\in {\bf R}$ に対して、$a \leq a$
$\cdot$ (反対称律)$ a \leq b$、$ b \leq a $ ならば $ a = b $
$\cdot$ (推移律)$ a \leq b$、$ b \leq c $ ならば $ a \leq c $
$\cdot$ (全順序性)任意の2元 $a,\ b$に対して、
$\qquad \qquad a \leq b $、$ b \leq a $の少なくとも一方が成立する。
定義2
一般に上記の反射律、反対称律、推移律を満たす2項関係 $\leq$の定義された集合を半順序集合という。
全順序性をもつ半順序集合を全順序集合と呼ぶ。
$\bigl({\bf R}、\leq \bigr)$ は全順序集合の一例である。
2)順序が体の演算である和、積と両立する(順序体)。
$\cdot$(和との両立)$ a \leq b $ ならば、任意の元$c$に対して $ a+c \leq b+c$
$\cdot$(積との両立)$0\leq a,\ 0\leq b $ ならば $0 \leq a\cdot b $
定義3
順序 $\leq$ によって全順序付けられた体$\bigl(F,+,\cdot)$ が、
順序体であるとは、
順序$\leq$ が体の演算(和と積)と両立することである。
実数体は順序体の一例である。
(3)連続の公理を満たす
実数の連続性は、様々な極限の存在に根拠を与えるもので、
連続の公理として述べることができる。
実数の持つ最も重要な性質といってもよい。
次項で詳しく説明する。
その前に体と順序(体)のいくつかの性質を説明する。
体の性質
命題1(零元と逆元の一意性)
任意の体$F$においては、
1)零元は唯一つである。
2)和に関する逆元は唯一つである。
$\quad a$の唯一の逆元を、$-a$ と書く。
3)積に関する逆元は唯一つである。
$\quad a(\neq 0)$の唯一の逆元を、$a^{-1}$ と書く。
証明
1) 任意の零元を$0'$とおく。
すると零元の定義から、任意の元 $a (\in F)$ に対して
$a + 0' = a $
上の式に$a = 0$を代入すると
$0 + 0' = 0 \qquad \qquad \qquad (a)$
0 は零元などで、同様に考えると
$0' + 0 = 0' \qquad \qquad \qquad (b)$
が得られる。
さらに和の交換律から
$0 + 0' = 0 + 0' \qquad \qquad \qquad (c)$
式(b),(c),(a)をこの順に用いると
$0' = 0' + 0 = 0 + 0' = 0$
従って零元は唯一つしかないことが分かった。
2) 任意の元 $a (\in F)$の和に関する逆元の一つを$-a$とおくと、
任意の逆元$b$は、$-a$ と一致することを示せばよい。
逆元の定義から、
$ a + (-a) = 0 \qquad \qquad \qquad (d)$
$ a + b = 0 \qquad \qquad \qquad (e)$
式(e)の両辺に $-a$ を加えると
$(-a)+( a + b) =(-a)+ 0 \qquad \qquad \qquad (f)$
この式の左辺は、和の結合則から、
$ = \bigl((-a)+ a\bigr) + b $
$ = 0 + b = b + 0 = b$
故に等式(f)の左辺は $b$である。
等式(f)の右辺は、零元の定義から$ -a$に等しい。
故に $b = -a$ が示せた。
3)も同様にして証明できる。
証明終わり $ \qquad \qquad \Box $
命題2
任意の体では以下が成立する。
$\quad 1)\ 0\cdot a = 0 \quad (積の交換律から a \cdot 0 = 0) \qquad
2)\ a\cdot b = 0 \Rightarrow a = 0 \ あるいは\ b = 0 $
$\quad 3)\ -(-a) = a \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \quad
4)\ (-a)\cdot (-b) = a\cdot b $
$\quad 5)\ a\cdot (-b) = -(a\cdot b) = (-a)\cdot b \quad \qquad \ \ \
6)\ (a^{-1})^{-1} = a \ $
$\quad 7)\ (-a)^{-1} = -(a^{-1}) \qquad \qquad \quad \qquad \qquad
8)\ (a\cdot b)^{-1}=b^{-1}\cdot a^{-1}$
証明
1)の証明
分配則から
$0\cdot a = (0+0)\cdot a \ $(零元の性質を利用)
$= 0\cdot a + 0\cdot a \ $(分配則を利用)
両辺に $-(0a)$ を加えると
$0\cdot a+\bigl(-(0\cdot a)\bigr) = (0\cdot a + 0\cdot a)+\bigl(-(0\cdot a)\bigr)$
$= 0\cdot a + \Bigl(0\cdot a+\bigl(-(0\cdot a)\bigr) \Bigr)$(結合則を利用)
$0\cdot a+\bigl(-(0\cdot a)\bigr) = 0$なので上式は
$0=0\cdot a + 0 =0\cdot a \qquad \qquad \Box $
2)の証明
$ b \neq 0 $ と仮定すると $a = 0$ となることを示せばよい。
$ b \neq 0 \Rightarrow b^{-1} が存在。$
$ a\cdot b = 0 の両辺に右から b^{-1} をかけると、$
$ (a\cdot b)\cdot b^{-1} = 0 \cdot b^{-1} \qquad \qquad \qquad (a)$
ここで、
$ \quad 式(a)の左辺 = a\cdot (b \cdot b^{-1}) \qquad (積の結合則から)$
$ \qquad \qquad = a\cdot 1 = a$
$ \quad 式(a)の右辺 = 0 \qquad \bigl(\quad 1)から\bigr)$
故に、式(a)から $ a = 0 $ が得られる。
3)の証明
$-(-a) + (-a) = 0 \quad \bigl( -(-a)は (-a) の逆元なので\bigr)$
$a + (-a) = 0 \quad \bigl( (-a)は a の逆元なので\bigr)$
故に、$-(-a) + (-a) =a + (-a)$
両辺に$a$を加えると所望の式が得られる。$ \qquad \qquad \Box $
その他の証明は各自試みてほしい。
順序(体)の性質
定義4
順序集合 $(S,\leq)$ の2元 $a,\ b (\in S)$ が $a \leq b$ であることを$b \geq a$ とも書く。
$a \lt b$ とは、$a \leq b$ かつ、$a \neq b$ であることをいう。
$b \gt a$ とも書く。
順序体において、その元 a が,
正とは$0 \lt a$であること,
負とは$a \lt 0$であること。
命題3
次の2条件は同値である。
(1)$ a \leq b $
(2)$ a \lt b $ あるいは$ a = b $
証明
$ a \leq b \Leftrightarrow ( a \leq b) かつ (a \neq b あるいは a=b)\qquad \bigl((a \neq b あるいは a=b)が恒真命題なので \bigr)$
$ \Leftrightarrow ( a \leq b かつ a \neq b ) あるいは ( a \leq b かつ a = b ) \qquad \bigl(P \land (Q \lor R)=(P\land Q) \lor (P\land R)を利用\bigr) $
$ \Leftrightarrow (a \lt b) あるいは a = b である。\quad (a = b \Rightarrow a\leq b を利用すると、( a \leq b かつ a = b )\Leftrightarrow a = b なので )$
命題4
全順序集合の任意の2元 $a,\ b$ に対して、次の3つのうち一つ、そして一つだけが成り立つ。
$ 1)\ a \lt b \quad 2)\ a = b \quad 3)\ a \gt b $
証明
全順序性から、次の命題は正しい。
$a \leq b あるいは b \leq a$
$\quad $ これに命題3を適用すると、
$ \Leftrightarrow $
$\bigl( (a \lt b) あるいは a=b \bigr)あるいは \bigl( (b \lt a) あるいは b=a \bigr)$
$ \Leftrightarrow a \lt b あるいは a=b あるいは b \lt a $
順序$\lt$ の定義から、これらの2つ以上が同時に成り立つことはない。
所望の結論が得られた。$\quad \qquad \Box $
命題5
順序体の元を考える。
$ 1)\ a \geq 0 \Leftrightarrow 0 \geq -a$
$ 2)\ a \gt 0 \Leftrightarrow 0 \gt -a$
$ 3)\ a^{2} = (-a)^{2} \geq 0 $
$ 4)\ a\neq 0 \Rightarrow a^{2} \gt 0 $
$ 5)\ 1 \gt 0 $
$ 6)\ a \gt 0 \Rightarrow a^{-1} \gt 0$
$ 7)\ 0 \lt a \leq b \Rightarrow a^{-1} \geq b^{-1}$
$ )\ a \leq b \Leftrightarrow 0 \leq b-a $
$ )\ a \leq b \Leftrightarrow -a \geq -b$
$ )\ a \leq b \quad c \geq 0 \Rightarrow \ a\cdot \ c \leq b\cdot \ c $
$ )\ a \lt b \quad c \gt 0 \Rightarrow \ a\cdot \ c \lt b\cdot \ c $
$ )\ a \lt b \quad c \gt 0 \Rightarrow \ a\cdot \ c \lt b\cdot \ c $
連続性の公理
連続の公理の準備をする。
上界、下界と有界集合
${\bf R}$を、全ての実数を要素とする集合とし、
$A$をその部分集合(A \subset R)とする。
実数$u$が$A$の上界(upper bound)とは、
任意の$a \in A$に対して、$a \leq u$がなりたつこと$\Bigl((\forall{a})(a\in A \to a \leq u)\Bigr)$。
実数$l$が$A$の下界(lower bound)とは、
任意の$a \in A$に対して、$l \leq a$がなりたつこと。
$U_A$を$A$の上界をすべて集めた集合$\Bigl(\{u \in R|(\forall{a})(a\in A \to a\leq u)\}\Bigr)$、
$L_A$を$A$の下界をすべて集めた集合とする。
$U_A$が空集合$\emptyset$でない(すなわち、$A$の上界が少なくとも一つ存在する)とき、
$A$は上に有界であるといい、
$L_A\neq \emptyset$の時、$A$は下に有界であるという。
上に有界で、下にも有界な集合($\subset {\bf R})$は、有界という。
実数の連続の公理と上限、下限
$A \subset {\bf R}$とする。
実数の連続性の公理
もし、$U_A \neq \emptyset$ならば、$U_A$は、最小元を持つ。
もし、$L_A \neq \emptyset$ならば、$L_A$は、最大元を持つ。
上限と下限の定義
$U_A$の最小元を$A$の上限(supremum)あるいは最小上界(least upper bound)という。
また、$L_A$の最大元を$A$の下限(infimum)あるいは最大下界(greatest lower bound)という。
命題1
$u$が$A(\subset {\bf R})$ の上限となるための必要十分条件は、
ⅰ)$u$は$A$の上界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$a \leq u$
ⅱ)$x<u$である任意の$x$は$A$の上界ではない。すなわち、$x<a$となる$a\in A$が存在
である。
同様に、$l$が$A$ の下限となるための必要十分条件は、
ⅰ)$l$は$A$の下界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$l\leq a$
ⅱ)$l<x$である任意の$x$は$A$の下界ではない。すなわち、$a<x$となる$a\in A$が存在
である。
$A$ の上限を$\sup A$、下限を$\inf A$と書く。
さらに、
$A$が最大値を持つ場合には、Aの上限はAの最大値と一致し、
$A$が最小値を持つ場合には、Aの下限はAの最小値と一致する。
証明は、上限、下限の定義から、明らかなので省略する。
例;$A=(0,1)$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。
これらは、ともに$A$の要素でないので、
上限1は$A$の最大元(最大値)ではなく、下限0は$A$の最小元(最小値)ではない。
$A=[0,1]$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。
これらは、ともに$A$の要素なので、
上限は最大限であり、下限は最小限となる。
命題2
$A \subset B \subset {\bf R}$で、$B$は有界集合とする。
このとき、$\inf B \leq \inf A \leq \sup A \leq \sup B$
証明は容易である。
実数列の極限
$x$ が、自然数全体のなす集合 $\bf{N}$から実数全体の作る集合$\bf{R}$への写像であるとき、
この写像 $x$ を実数列という。
$x$ による$ n(\in \bf{N})$の像を、通常は $x_{n}$ 時に$x(n) $ で表し、
数列 $x$ を、 $(x_{n})_{n \in \bf{N}}$ で表す。
$\bf{\large{定理1}}$
(ワイエルストラスの定理)
1) 単調増加で上に有界な数列$\bigl(x_{n}\bigr)_{n\in N}$ は収束する(極限値を持つ)。
2)単調減少で下に有界な数列は収束する。
(注)数列が上に有界で単調増加ということを、一階述語論理で表現すると、
$(\exists{U\in R} )(\forall{m} \in N)(\forall{n} \in N)(
m\lt n \to x_{m} \leq x_{n} \leq U)$
証明
1)だけ示す。
$A \triangleq \{x_{n}|n\in N \}$とおくと、仮定からAは上に有界な集合なので、
実数の連続性から上限(最小上界)$u$ を持つ。
この $u$ が数列xの極限であることを示そう。
任意の小さい正数 $ \epsilon$ をとると、$u-\epsilon$ は集合Aの上界ではなくなるので
$(\exists{m}\in N)\bigl(x(m) \gt u-\epsilon \bigr) $
数列は単調増加なので、$(\forall{n})\bigl(n \gt m \to x_{n} \gt u-\epsilon \bigr) \qquad \qquad \qquad (1)$
他方、$u$ は数列xの上界なので、
$(\forall{n})\bigl(n\in N \to u \geq x_{n}\bigr) \qquad \qquad \qquad (2)$
式(1)と(2)から、
どんなに小さな正数 $ \epsilon$ をとってもある自然数mが定まり、
それより大きな自然数n に対して、$x_{n} \in [u-\epsilon,u+\epsilon]$ が示せた。
収束の定義から、数列xが$u$に収束することが示せた。
2)の証明も同様である。
数列$(x_{n})_{n \in N}$ の項の中から番号の小さい順に次々と無限個を取り出すことにより、
新しい数列が得られる。
このようにして作られる新しい数列を、元の数列の部分列という。
定義1 部分列
自然数の集合NからNの中への狭義の単調増加関数 $n; N \to N $ を用いて(注参照)
数列 $(x_{n})_{n \in N}$ からつくる数列 $(x_{n(k)})_{k\in N}$ を、数列 $(x_{n})_{n \in N}$ の部分列という。
(注)$n; N \to N $ が狭義単調増加とは、任意の自然数kと、それより大きい全ての自然数lに対して$n(k)\lt n(l)$
定理2
有界な数列 $(x_{n})_{n \in N}$ は、収束する部分列をもつ。
証明
数列が有界なので、2つの実数l,uが存在して、全ての自然数nに対し、
$ x_n \in [l,u] $
閉区間$I_0\triangleq [l,u] $ の中に、数列の無限個の項が含まれているので、
この区間を2等分した区間のいずれかには、数列の無限個の項が含まれる。
その区間を $I_1=[l_1,u_1]$ と書く。(注参照)
すると この区間は $[l_1,u_1] \subset [l,u] \quad $,長さは $u_1-l_1=\frac{1}{2}(u-l)$
この区間 $I_1$ を2等分しても、いずれかの部分区間は、数列の無限の項を含む。
そこでその部分区間を $I_2=[l_2,u_2]$ とする。 $I_2 \subset I_1$、$|I_2|=\frac{1}{2^2}(u-l)$
これを続けると閉区間の縮小列 $I_n=[l_n,u_n]$ を得る(n=1,2,3,4,,,,)。
すると、
数列 $\bigl(l_n \bigr)_{n\in N}$ は単調増加で有界な数列、
数列 $\bigl(u_n \bigr)_{n\in N}$ は単調減少で有界な数列、
定理1から、どちらの数列も収束する。
しかも、$ 0 \lt u_n -l_n \lt \frac{1}{2^n}(u-l)$ なので
それぞれの極限を $l_{\infty}$ ,$u_{\infty}$ とかくと、$l_{\infty} = u_{\infty}$
この点を $x_{\infty}$ とかく。
・最後に、$x_{\infty}$ に収束する、$(x_{n})_{n \in N}$ の部分列を選び出そう。
部分区間$I_1$ の中には数列$(x_{n})_{n \in N}$の無限の項があるので、その中で最小の項順$n(1)$を選び、部分列の初項$x_{n(1)}$ に選ぶ。
$I_2$ には$I_1$のなかの数列$(x_{n})_{n \in N}$の項が無限に含まれるので、
その中で、項順mが $n(1)\lt m$ を満たすものも無限にある。
その中で最小の項順のものを選び、第2項 $x_{n(2)}$ とする。
すると、$x_{n(2)} \in I_2 \quad n(1)\lt n(2) $
これを繰り返すと任意の自然数iに対して
$x_{n(i)} \in I_i $ であって、$n(i-1)\lt n(i)$ である,
数列$ \bigl( x_{n(i)}\bigr)_{i \in N}$を得る。
この数列が元の数列の部分列であり、$\lim_{i \to \infty}x_{n(i)}= x_{\infty}$
であることは明らかである。
(注)2つの部分区間のどちらも無限個の項を含むときは、どちらの部分区間を採用してもよい。
数列が収束するための条件を求めるためには、コーシー列という概念が必要になる。
定義
実数列$\bigl(x_{n}\bigr)_{n=1}^{\infty}$がコーシー列(または基本列)とは
任意の$ \epsilon\gt 0$ に対して、$ n_0 \in N$ が存在して、
$ m, n \geq n_0 (\in N )$ ならば $|x_{m}-x_{n}| \lt \epsilon $ となること。
定理3
(1)実数列 $\bigl(x_n \bigr)_{n\in N}$ がコーシー列ならば、収束する。
(2)逆に、$\bigl(x_n \bigr)_{n\in N}$ が収束するならば、コーシー列である。
証明
(1)を証明する。
ⅰ)$\bigl(x_n \bigr)_{n\in N}$ がコーシー列ならば、有界である。
∵ コーシー列なので、$ \epsilon = 1$ のとき、$ n_0 \in N$ が存在して、
$ m \geq n_0 (\in N )$ ならば $|x_{m}-x_{n_0}| \lt 1 $
故に、この数列の全ての項は、
$l\triangleq min\{x_1,x_2,x_3,,,,x_{n_0}-1 \}$と$u\triangleq max\{x_1,x_2,x_3,,,,x_{n_0}+1 \}$ の間にある。
ⅱ)$\bigl(x_n \bigr)_{n\in N}$ がコーシー列ならば、収束する。
∵
数列がコーシー列なので,
任意の正数 $ \epsilon$ に対して、ある自然数 $n_0$ が存在して、
$m, n \geq n_0$ ならば、$ |x_m-x_n| \lt \epsilon$
また、コーシー列は有界なので、定理2から、収束する部分列 $(x_{n(k)})_{k\in N}$ を持つ。
この極限値を $a$ とおくと、
$n(k_0) \geq n_0$ を満たす或る番号 $k_0 $ が定まって、$ k \geq k_0$ なる任意のkに対して
$|a - x_{n(k)}| \lt \epsilon $
すると任意の $n \bigl(\geq n(k_0)\bigr)$ に対して、
$|a - x_n| \leq |a - x_{n(k_0)}|+ |x_{n(k_0)}-x_n| \lt 2\epsilon $
故に、元の数列は $a$ に収束する。
(2)の証明は簡単なので、略す。
証明終わり。
収束に関連するさらなる情報は下記を参照のこと。
定理の応用1;ネイピア数 e
次の命題は、高等学校数学III/微分法(ウィキブックス)では証明せず利用しているものである。
命題
数列 $\{x_{n}\}_{n=1}^{\infty}\triangleq \{(1+\frac{1}{n})^{n}\}_{n=1}^{\infty}$ は、
2より大きく3より小さい実数 e に収束する。
$\lim_{n\to \infty}(1+\frac{1}{n})^{n}= e$
この e をネイピア数と呼ぶ。
練習問題
上の命題を証明してください。
ヒント;
$(1+\frac{1}{n})^{n}$ を2項展開して、nとともに単調に増大すること、
常に2と3の間の実数であることを示せばよい。
解答は、8.3 8章の付録の 問の解答
定理の応用2;オイラーの定数
数列 $ (a_{n})_{n\in {\bf N}},\quad a_{n} \triangleq 1+\frac{1}{2}+\cdots +\frac{1}{n}-log_{e}n$ は収束する。
$ \gamma = \lim_{n\to \infty}a_{n}$ をオイラーの定数という。
証明;
$ b_{n} \triangleq a_{n} - \frac{1}{n},\quad (n\in {\bf N})$
すると、$ b_{n} \lt a_{n}$
① 数列$(b_{n})_{n\in N}$は単調増加
② $ (a_{n})_{n\in N}$は1を上界として持つ。従って$(b_{n})_{n\in N}$は上に有界。
$\qquad \qquad \qquad \Box$
関数とその連続性
関数の定義
ある範囲内の任意の数値をとりえる文字を変数という。
2つの変数x、yがあって、xの値を定めれば、ある規則により、yの値が決まるようになっているとき、
yはxの関数といい、
xにより決まるyの値を、 関数記号 f,g などを用いて、y=f(x) ,y=g(x) などと書く。
変数xは独立変数、yは従属変数という。
実は、或るものに何かを対応させるという操作は社会に満ち溢れてる。
人々に名前を付ける、あるスーパーで売っている各食品に100g当たりの価格やカロリー量を対応させて表示する等。
そこで広くこうした場合にも対応できるように、上記の関数の概念を拡張する。
定義
2つの非空の集合A、Bを考える。
集合Aの非空の部分集合 $A_1$ の各要素に対して、
集合 B の一つの要素を定める規則を関数という。
この規則により $A_1$ の任意の要素 a に対応するBの要素bを、
この規則を表す関数記号(例えば)fを用いて、b=f(a) と表す(注1参照のこと)。
$A_1$ を関数fの定義域、Bを関数fの値域(注2参照)という。
スーパーの例では、そのスーパーで扱っている商品の種類の集合をAとし、
食品という商品の部分集合を $A_1$
各食品に100g当たりのエネルギーを対応させる規則を、
100gあたりのカロリー関数f、
値域Bは自然数の集合(円)とすればよい。
(注1)この定義は若干不明瞭である。厳密には、
関数fは、直積集合 $A_1\times B$ の部分集合 f であって、
任意の $a(\in A_1)$ に対して、唯一のB の要素 b が存在して、$<a,b>\in f$ を満たすものと定義する。
この唯一のbのことを、f(a) と書く。
(注2)本によっては 値域をBの部分集合 $\{f(a)|a\in A_1\}$ で定義することもあるので注意が必要である。
関数の極限と連続性
関数の極限
関数の極限は、解析学の最も基礎的な概念の一つである。
関数の連続性
(1) 定義域が全空間に等しい関数の連続性
定義域が、n次元実空間 $R^n \quad (n;自然数)$ に一致する関数を考える。
実数値関数 $f(x)$ がある点 $a (\in R^n)$で連続であるとは、
$x$が$a$ に限りなく近づくならば、$f(x)$ が $f(a)$ に限りなく近づく
ことを言う。
$\lim_{x\to a} f(x) = f(a)$と記す。
これはイプシロン-デルタ論法(ε-δ論法)を用いれば次のように定式化できる。
任意の(小さな)正の数 ε 与えられたとき、
(小さな)正の数 δ をうまくとってやれば、
$a$ と δ 以内の距離にあるどんな $x$ に対しても、
$f(a)$ と $f(x)$ の差が ε より小さくなる。
(2) 定義域$D$が全空間$ R^n \quad (n;自然数) $ の真の部分集合である関数の連続性
定義
$D$ を n次元空間${\bf R^n} $ の部分集合、
関数fを、定義域$D$の実数値関数とする。
関数fが、点 $ a (\in D)$ で連続とは
$D$の中の点$x$が$a$ に限りなく近づくならば、$f(x)$ が $f(a)$ に限りなく近づく
ことを言う(注参照)。
$\lim_{x\to a,x\in D} f(x) = f(a)$ と記す。
関数 $f(x)$ が連続であるとは、
$D$ のすべての点で連続であることを言う。
(注)ε-δ論法を用いれば次のように述べることができる。
任意の正数εに対して、ある正数δが存在して、
$a$ と δ 以内の距離にあるどんな$D$の中の点$x$ に対しても、
$f(a)$ と $f(x)$ の差が ε より小さくなる。
連続性は、2点間の距離が零に近づくにつれて、2点での関数値が零に近づくことを厳密化した概念である。
空間${\bf R}^{n}$の中の集合$D$のある要素 $a$ が、その近くに$a$以外の$D$の要素を含まないときは、
$a$との距離が零に近づく$D$内の点列$\{a_n\}_{n}$ は、ある番号$n_0$から先は$a_n = a \quad (n\geq n_0)$ となるため、
$D$を定義域とする関数はすべて、$a$で連続となってしまう。
このように連続性の定義は、ある状況下では日常の連続の概念と異なるの注意が必要である。
この例を厳密に述べておく。
定義
集合$D (\subset {\bf R}^n )$ を考える。
$D$の要素 $a$ が、$D$ の孤立点(isolated point)とは、
$a$を中心とする、十分小さな半径$r$の開球体$B_{r}(a)$が存在して、
$B_{r}(a)\cap D =\{a\} \quad \bigl(B_{r}(a)$には$a$以外の$D$の点はない\bigr)が成り立つこと。
集合$D(\subset {\bf R}^n )$ が離散集合(discrete set)であるとは、
$D$の全ての要素が、$D$ の孤立点であること。
命題
集合$D(\subset {\bf R}^n )$ を定義域とする関数を考える。
1)もし、 $D$の要素 $a$ が$D$の孤立点ならば、関数は$a$で連続である。
2)$D$が離散集合ならば、関数は$D$上で連続である。
関数の連続性は大変重要な概念なので、それと等価な条件を述べる。
そのためには、開集合という概念が必要である。
定義
n次元空間$ {\bf R^n} $ の部分集合 $D$ が 開集合とは
$D$ の任意の点 $x$ に対して、
$x$ を中心とする充分小さな半径rの開球体$B_{r}(x)$ は、 $D$ の部分集合になること。
述語論理式で書くと、
$(\forall x\in D)(\exists r \gt 0)(B_{r}(x) \subset D)$
(注)一次元の場合、$x$を中心とする半径rの開球体$B_{r}(x)$ は
開区間$(x-r,x+r)$である。
定理1
${\bf R}$の開区間$I$上で定義された関数 $y=f(x)$を考える。
このとき、次の条件は等価である。
1)$f$ は$a \in I$ で連続である。
2)$f(a)$ を含む任意の開区間$U(f(a))$に対して、そのfによる逆像
$f^{-1}\Bigl(U\bigl(f(a)\bigr)\Bigr)\triangleq \Bigl\{x \in I \ \Big|\ f(x) \in U\bigl(f(a)\bigr)\Bigr \}$
は開集合である。
(注)n次元の場合に容易に拡張できる。
証明
RT
証明終わり $\qquad \qquad \Box $
関数の定義域を一般化した場合にも同じ定理が成り立つ。
定理2
${\bf R}$の集合$D$上で定義された関数 $y=f(x)$を考える。
このとき、次の条件は同等である。
1)$f$ は$a \in D$ で連続である。
2)$f(a)$ を含む任意の開区間$U(f(a))$に対して、そのfによる逆像
$f^{-1}\Bigl(U\bigl(f(a)\bigr)\Bigr)\triangleq \Bigl\{x \in D \ \Big|\ f(x) \in U\bigl(f(a)\bigr)\Bigr \}$
は、${\bf R}$のある開集合$U$と$D$の共通部分$U \cap D $ である。
RT
連続関数は多くの重要な性質を持つ。
定理3
有界閉区間 $I=[a,b]$ 上で連続な関数fは、この上で最大値と最小値をとる。
中間値の定理
定理4
有界閉区間 $I=[a,b]$ 上で連続な関数fを考える。
1)$f(a) \lt f(b)$ ならば、
fは、$f(a)$と$ f(b)$ の任意の中間値 $v \in (f(a),f(b))$ の値をとる。
すなわち、$\bigl(\forall v\in (f(a),f(b))\bigr)(\exists c\in I)(f(c)=v)$
2)$f(a) \gt f(b)$ の場合も同様である。
証明
RT
一変数の実数値関数とベクトル値関数の微分
このテキストを理解するための必要最小限のことを記述する。
以下の文献も必要に応じて参考にしてください。
一冊では不十分なので色々あげておく。
実数値関数の微分
実数の開区間$I=(a,b)$上で定義された実数値関数$y=f(x)$を考える。
定義;微分可能性
関数$f$が$s\in I$で微分可能であるとは、極限
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f(s)}{h}=c \qquad \qquad (1)$
が存在することである。
この時$c$を$f$の$s$における微分係数あるいは導値といい、
$f'(s)、\frac{df}{dt}(s)、(Df)(s)$
などと書く。
$I=(a,b)$の各点で$f$が微分可能であるとき、$f$は微分可能関数(あるいは
微分可能)という。
この時、任意の$s\in I$に対して、$f'(s)\in I$が定まるので、
関数$f'$が定まる。これを$f$の${\bf 導関数}$(derivative)という。
命題
関数 $f$ が微分可能ならば、連続である。
微分係数の意味
(1)$\frac{f(s+h)-f(s)}{h}$は、区間$[s,s+h]$における関数値の平均変化率である。
その極限である微分係数$f'(s)$は、関数値の$s$における瞬間的な変化率と考えられる。
(2)2次元空間(平面のこと)に直交座標座標系$O-xy$をいれ、
関数$y=f(x)$のグラフ$G=\{(x,y)\mid x\in I,y=f(x)\}$を書く。
すると、
$f'(s)$が存在することは、$x=s$においてグラフ$G$が接線をもつことと同等であり、
接線の方程式は
$y=f'(s)(x-s)+f(s)$である。
これは、接線の定義からただちに分かる。
(3)$h$を零に近づけていったときの極限の意味をさらに深めるため
微分可能の定義を、それと同等の別の表現に変換しよう。
(1)式の右辺の定数を左辺に移行すると
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{f(s+h)-f(s)-ch}{h}=0$
次に、
$\epsilon_{s}(h):=\frac{f(s+h)-f(s)-ch}{h}\qquad \qquad (2)$
という、変数hの関数を定義する。
すると関数$f$が$s\in I$で微分可能で、微分係数が$c$である必要十分条件は
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\epsilon_{s}(h)=0$
である。
(2)式を変形すると
$f(s+h)=f(s)+ch+\epsilon_{s}(h)h$
ゆえに次の命題が証明できた。
命題;
次の4つの条件は同等である。
1)関数$f$は$s\in I$で微分可能で、微分係数は$c$である
2)関数$f$は、
$f(s+h)=f(s)+ch+\epsilon_{s}(h)h \qquad \qquad (3)$
と表現できる。
ここで、$\epsilon_{s}(h)$は
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\epsilon_{s}(h)=0 \qquad \qquad (4)$
を満たす関数
3)関数$f$は、
$f(s+h)=f(s)+ch+\delta(s,h)\qquad \qquad (5)$
と表現できる。
ここで、$\delta(s,h)$は
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\frac{\delta(s,h)}{h} = 0 \qquad \qquad (6)$
を満たす関数。ランダウの記号では、$\delta(s,h)=o(h),(h\to 0)$
3') 関数$f$は、
$s$の近傍の点$x$で
$f(x)=f(s)+c(x-s)+\epsilon_{s}(x-s)\cdot (x-s) \qquad \qquad (3')$
ここで、$\epsilon_{s}(x-s)$は
$\lim_{x \to s,x\neq s}\epsilon_{s}(x-s)=0 \qquad \qquad (4')$
を満たす関数
証明
条件1)から条件2)はすでに説明した。
条件2)から条件3)は、$\delta(s,h)\triangleq \epsilon_{s}(h)h$ と置けば良い。
条件3)から条件1)は容易に導ける。
この定理の3)あるいは4)により、
「関数が$s$で微分可能であり、微分係数がcであること」は、
「この関数が$s$の近傍の点$x$で直線$y=f(s)+c(x-s)$で近似でき、
誤差$|f(x)-(f(s)+c(x-s))|=|\left(\epsilon_{s}(x-s)\right)(x-s)| $が,
$x$を$s$に近づけていくとき、$h=x-s$より高次で0に収束する(注参照)
ことと同等であることが分かる。
(注)$\lim_{x\to s,x\neq s}\frac{\epsilon_{s}(x-s)\cdot (x-s)}{x-s}=0$
命題の系;関数が$s$で微分可能であれば、$s$で連続である。
証明;命題の2)を用いると、
$f(s+h)=f(s)+ch+\epsilon_{s}(h)h $
この式から、$|f(s+h)-f(s)|=|(c+\epsilon_{s}(h))h|$
$\lim_{h \to 0,h\neq 0}\epsilon_{s}(h)=0$なので$\lim_{h \to 0,h\neq 0}|(c+\epsilon_{s}(h))h|=0$。
ゆえに、$\lim_{h \to 0,h\neq 0}|f(s+h)-f(s)|=0$
これは、関数が$s$で連続であることの定義そのものである。
導関数の性質
$I=(a,b)$を開区間とする。
定理1(線形性)
f、gをI上で定義された微分可能な実数値関数で、$\alpha,\beta$は任意の実数とする。
それらの線形結合関数$(\alpha f+\beta g)(x)\triangleq \alpha f(x) + \beta g(x)$は微分可能で
$(\alpha f+\beta g )'=\alpha f'+\beta g'$
定理2 (積の導関数)
2つの関数$f,g$がI上で微分可能ならば、それらの積 $fg$ もI上で微分可能で
$(fg)'=f'g+fg'$
定理3(商の導関数)
2つの関数$f,g$がI上で微分可能とする。すると、
(1)$J\triangleq \{x\in I|g(x)\neq 0\}$ はIに含まれる開集合となる。
(2)J上で定義されるそれらの商 $\frac{f}{g}(x)\triangleq \frac{f(x)}{g(x)}$ は微分可能であり、
$(\frac{f}{g})'(x) = \frac{f'(x)g(x)-f(x)g'(x)}{g(x)^2}$
定理4 (合成関数の導関数)
これらの証明は、微分の定義式と極限の性質から容易に導ける。
を参照のこと。
三角関数の導関数
- \((\sin x )' = \cos x\)
- \((\cos x )' = -\sin x\)
- \((\tan x )' = \frac{1}{\cos{x^2}}\)
となる。
を参照のこと。
対数関数の導関数
\((\log _a x)'= \frac{1}{x} \log _a e\)
特に\(a=e\)のとき、
\((\log _e x)'=\frac{1}{x}\)
eを底とする対数を自然対数という。
数学では、\(\log _e x\)のeを省略してlog xと書く。
数学以外の分野では、常用対数と区別するために、ln xが用いられることもある。
逆三角関数の導関数
- \((\sin^{-1} x )' = \frac{1}{\sqrt{1-x^2}}\)
- \((\cos^{-1} x )' = \frac{-1}{\sqrt{1-x^2}}\)
- \((\tan^{-1} x )' = \frac{1}{1 + x^2}\)
となる。
導出
平均値の定理
平均値の定理(へいきんちのていり、英: mean-value theorem)または有限増分の定理とは、
実函数に対して有界な領域上の積分に関わる大域的な値を、微分によって定まる局所的な値として実現する点が領域内に存在することを主張する。
平均値の定理にはいくつかバリエーションがあるが、単に 「平均値の定理」 と言った場合は、ラグランジュの平均値の定理と呼ばれる微分に関する平均値の定理のことを指す場合が多い。
平均値の定理は微積分学の他の定理の証明(例えば、テイラーの定理、微分積分学の基本定理)にしばしば利用される、大変有用なものである(ウィキペディア;平均値の定理 より)。
ロルの定理
平均値の定理の準備として、ロルの定理を用いる。
この定理自体も有用である。
平均値の定理
$C^{1}$級の関数
$I=(a,b)$上の関数 $f$ が連続的微分可能(continuously differentiable)であるとは,
$I$上で導関数 $f'$ が存在して、しかも$f'$ が$I$上で連続であることをいう。
$I=(a,b)$上で連続的微分可能である関数を$C^{1}$級関数という。
ベクトル値関数の微分
実数の開区間$I=(a,b)$上で定義され,n次元の実ベクトル($\in {\bf R^n}$)に
値をとる関数$\vec f$を考える。
この関数の微分可能性は、実数値関数の微分と同じように定義される。
定義;ベクトル値関数の微分可能性
ベクトル値関数 $\vec f$ が、$x\in I$ で微分可能とは、
あるn次元ベクトル $\vec c$ が存在して
ユークリッド・ノルムのもとで
$\lim_{h\to 0,h\neq 0}\frac{\vec f(x+h)-\vec f(x)}{h}=\vec c$
となること。
言い換えると
$\lim_{h\to 0,h\neq 0}
\| \frac{\vec f(x+h)-\vec f(x)}{h}-\vec c \|_{2} = 0$
(注)ベクトル $\vec a$ のユークリッドノルムとは、
$\|\vec a \|_{2}\triangleq \sqrt{\sum_{i=1}^{n}a_{i}^2}$
のことで、2ーノルムとも呼ばれる。
任意のp-ノルム $\|\quad \|_{p},\quad 1\leq p \leq \infty$ の等価性から
極限は、どのp-ノルムでとっても、等価である。
本テキストの「8.1 平面と空間,ベクトル」の
「1.4.3 一般のノルムの定義とノルムの同等性」 を参照のこと。
導関数の線形性の性質も成り立つ。
ベクトル値関数の微分とその成分関数の微分の関係
関数値$\vec f(s)$は${\bf R^n}$の要素なので
$\vec f(s)=(f_1(s),f_2(s),\cdots f_n(s))$
と表示できる。
すると$\vec f$のn個の成分関数
$f_i,(i=1,2,\cdots n)$
が得られる。
命題;
$\vec f$が$s\in I$で微分可能$\Leftrightarrow$$f_i(i=1,2,\cdots n)$が$s\in I$で微分可能。
この時、${\vec f}'(s)=({f_1}'(s),{f_2}'(s)\cdots {f_n}'(s))$
証明は、ベクトルの収束を1-ノルムで考えれば容易なので略す。
ベクトル積の微分
命題
$ \vec{a(t)} $ と $\vec{b(t)} $は、開区間I上で定義され、
微分可能なベクトル値関数とする。すると、
$ \quad \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$ は微分可能で、
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}) =(\frac{d}{dt}\vec{a(t)} )\times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times (\frac{d}{dt}\vec{b(t)})$
証明
すでにこのテキストで紹介した、ベクトル値関数の微分の定義
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)})
=\lim_{\delta t \to 0}
(\vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}- \vec{a(t)} \times \vec{b(t)})/\delta t$ $\qquad $ (1)
を用いて証明する。
この極限が存在し、
$\frac{d}{dt}\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times \frac{d}{dt}\vec{b(t)}$
になることを示せば命題は証明できたことになる。
極限の計算が進むよう、右辺の式の分母は変形しよう。
関数の積の微分公式の証明と同じ技巧を用いる。
$ \vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}
- \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$
$ = \vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}
-\vec a(t)\times \vec{b(t+\delta t)}
+\vec a(t)\times \vec{b(t+\delta t)}
- \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$
ベクトル積の命題3を利用すると、
$ = \left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right)
\times
\vec b\left(t+\delta t\right)
+\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right) $
この式を式(1)の右辺の分子の項に代入し整頓すると
$ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)})
=\lim_{\delta t \to 0}
\frac{\vec a(t+\delta t)\times \vec b(t+\delta t)- \vec a(t) \times \vec b(t)}
{\delta t}$
$=\lim_{\delta t \to 0}
\frac{\left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right)
\times
\vec b\left(t+\delta t\right)
+\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right) }
{\delta t}
$
ベクトル積の命題9を使い、
$=\lim_{\delta t \to 0}\left(
\frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t}
\times
\vec b\left(t+\delta t\right)
+
\vec a(t)\times \frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)}
{\delta t}
\right)$
極限の命題を使って、
$=\lim_{\delta t \to 0}
\frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t}
\times
\lim_{\delta t \to 0}\vec b(t+\delta t)
+
\vec a(t)\times
\lim_{\delta t \to 0}\frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)}{\delta t} \qquad (2)
$
式中の極限は、$\vec a,\vec b$が微分可能なので存在し、
$\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t}
=\frac{d\vec a(t)}{dt}$
$\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec b(t+\delta t) -\vec b(t)}{\delta t}
=\frac{d\vec b(t)}{dt}$
微分可能ならば連続になるので
$\lim_{\delta t \to 0}\vec b(t+\delta t) = \vec b(t)$
これ等を式(2)に代入すれば、所与の式が得れれる。
証明終わり。