物理/電磁誘導と電磁波
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「 5.5 電磁誘導と電磁波 」
電磁誘導RT
電流が磁界を作ることを前章で学んだ。
逆に磁界は電流を作れるのではないか。
ファラデーは、こう考えて実験に取り組み、
遂に、重要な法則を発見した。
ファラデーの実験と発見
ファラデーは、鉄の環に絶縁された導線を巻きつけてコイルを2つ作り、
一方のコイル(コイル1と呼ぶ)に電流を流すと他方のコイル2に電流が流れるのではないかと考えた。
何故なら、コイル1の電流は鉄の輪に磁界を生み、
コイル2は磁界の中に置かれることになるからである。
しかし実験を行うとコイル2に電流はながれなかった。
多大な苦労の末、
コイル1に電流を流し始める時と電流をきるときの一瞬だけ
コイル2に電流が流れることを発見した。
その後の実験で、
空芯のコイルの中で磁石を動かしてもコイルに電流が流れること、
磁石を固定して導線の方を動かしても電流が流れることを発見。
これらの事から、磁場の変化によって電場が生ずるという電磁誘導の法則を明らかにした。
電磁誘導の法則
この法則を理解するには磁束(magnetic flux)の概念を理解する必要がある。
磁束
両端が一致する曲線を閉曲線という。
この節では、両端以外は、重なる点がない閉曲線を考える(注参照)。
この曲線に向きを付けたものを、向きつき閉曲線と呼ぶ。
定義;向き付きの閉曲線Cを貫く磁束(magnetic flux)
C を向き付きの閉曲線とする。
Cを縁とする閉局面Sを考え、これに次のように裏、表を入れる。
右ねじを曲線Cに沿わせて置き、
Cの向きにねじが進むように回転させるときの向きが、
Sの裏から表への向きと一致するように、Sの裏表を決める。
Sを裏から表に向けて貫く磁束線の本数のことを、向きつき閉曲線Cを貫く磁束という。
この値は、閉局面Sの取り方によらず一定である。
記号では通常 $\Phi$ と書く。
$\Phi$ は、磁束密度 $\vec B$ (単位面積当たりの磁束数)を局面S上で積分した値に等しい。
$\Phi=\int_{S}\vec{B(x)}\cdot \vec{n(x)} dS(x)\qquad \qquad (1)$
ここで、$\vec{n(x)}$ は、点 $x\in S$ における局面Sの単位長さの法線で、
向きは、局面Sの裏から表へむけた向きである。
磁束の単位は、磁束の定義から、
磁束密度の単位T(テスラ)に$m^2$(面積の単位)を掛けたもので、
$T\cdot m^2$
(注)単一閉曲線という。導線でつくった単一閉曲線を一巻のコイルという。
n巻コイルを貫く磁束
緊密に巻いたn巻きコイルは、n個の1巻きコイルで近似できるので、
これを貫く磁束は、一巻きコイルを貫く磁束 $\Phi$ のn倍の$n\Phi$ で近似できる。
ファラデー・ノイマンの電磁誘導法則
ファラデーの発見した電磁誘導法則はハインリヒ・レンツにより整備され、ノイマンによって数学的に定式化された。
ファラデー・ノイマンの電磁誘導法則
向きつきコイルCを考える。
この時、Cを貫く磁束の時間変化は、このコイルに発生する起電力に比例する。
比例係数は負の定数である。
数式では
$\phi^{e.m.}(t)=-k \frac{d\Phi(t)}{dt} ,k\gt 0 \qquad \qquad \qquad (2) $
ここで、$\phi^{e.m.}(t)$ はコイルに発生する時刻tの起電力で、コイルの向きを正とする。
これは、コイルに発生する電場 $\vec{E}(x,t)$ を用いると、
$\phi^{e.m.}(t)=\int_{C}\vec{E}(x,t)\cdot \vec{n}(x)dx)\qquad \qquad \qquad (3)$
なお、起電力の単位をV,磁束の単位を $T\cdot m^2=\frac{N}{A\cdot m}m^2$ とすると、
比例定数は k=1(無単位)となる。
$\phi^{e.m.}(t)^{[V]}=- \frac{d\Phi(t)^{[T\cdot m^2]}}{dt^{[s]}} \qquad \qquad \qquad (4) $
(注)磁束の変化の原因は、磁場の変動、コイルの運動、コイルの時間的に連続的な変形であってもよい。
コイルの変形の場合には、上式のCを $C_{t}$ に変える必要がある。
相互誘導
2つのコイル$C_1、C_2$があるとき、一方のコイル$C_1$ の電流が作る磁場は他方のコイルを貫く。
この電流が変動すれは、他方のコイルを貫く磁束は変動し、
電磁誘導法則により、起電力が発生する。
この現象を相互誘導(mutual induction)という。
$C_1$ を流れる電流 $I_1(\gt 0)$ によって作られる磁場が
$C_2$ を貫く磁束を $\Phi_2(\gt 0)$ とする(このような向きを$C_2$に入れておく)。
電流の作る磁場の重ね合わせの原理から、$\Phi_2(\gt 0)$ は電流 $I_1$ に比例する。
この係数 $M_{1,1}(\gt 0)$ と書くと、
$\Phi_2 = M_{1,1}I_1\qquad \qquad \qquad (5)$
係数 $M_{1,1}$ は、2つのコイルの相互インダクタンスという。
もし、$C_1$ を流れる電流 $I_1$ が変化すると、コイル$C_2$に次のような誘導起電力$V_2$が生じる。
$V_2(t)=-\frac{d\Phi_2(t)}{dt}=- M_{1,1}\frac{dI_2(t)}{dt} \qquad \qquad (6)$
コイル$C_1$の巻き数が $N_1$、コイル$C_2$の巻き数が $N_2$のときは、
電流の作る磁場の重ね合わせの原理から、相互リアクタンスは
$M_{N_1,N_2}=N_1N_2 M_{1,1}\qquad \qquad \qquad (7)$
自己誘導
コイルの作る磁場は、他のコイルを貫くだけでなく、自分自身も貫く。
このため電流が変化すれば、その磁束が変化し、電流の変化を妨げる起電力が生じる。
これを自己誘導(self-induction)という。
コイルを流れる電流Iが作る磁場が自分自身を貫く磁束$\Phi$は,
Iに比例するから、ある比例定数 $L(\gt 0)$ を使って
$\Phi=LI \qquad \qquad \qquad (8)$
と表せる。$L$ を自己インダクタンスと呼ぶ。
電流が変化するとき、この磁束が変動し、
$V_2(t)=-L\frac{d\Phi(t)}{dt} \qquad \qquad \qquad (9)$
という起電力が発生する。
インダクタンスM,Lの単位 H
相互と自己のインダクタンスの式(5)、式(8)の各項の次元に注目すると、次元の関係式
$Tm^2=インダクタンスの単位・A$
が得られる。磁束密度の単位テスラは$T=\frac{N}{Am}$ なので、
インダクタンスの単位$=\frac{Tm^2}{A}=\frac{Nm}{A^2}=\frac{J}{A^2}$
これを、ヘンリーと呼び、記号はH。
$H = \frac{J}{A^2}\qquad \qquad \qquad (10)$
ローレンツ力と電磁誘導法則の関係
静磁場中をコイルが運動(変形も含む)するときの電磁誘導法則は、
以下のようにローレンツ力からも導ける。
RT
電磁誘導法則の応用
電磁誘導の法則は発電機、誘導電動機、変圧器など多くの電気機器の動作原理となっている。
発電機
起電力を生む機器を発電機という。回路の中に発電機があれば、この起電力でおこる電界によって導線中の自由電子は力を受け、動き出し、電流が流れる。
磁石の2つの極のあいだでコイルを回転させると、コイルを貫く磁束が(向きも大きさも)変化するのでコイルに+、-をくりかえす起電力(交流起電力)が発生するので、交流発電機となる。
コイルを一定の速さで回転させると、三角関数状の起電力となり、狭義の交流電気を発生する発電機となる。
コイルを固定し、磁石のほうを回転させてもコイルを貫く磁束が変化するので起電力が生じ、交流発電機となる。
コイル(あるいは磁石)を回転させるのに水力を使うのが水力発電機、水を暖め高温高圧で噴き出す水蒸気を使うのが、火力発電機や原子力発電機である。
コイル(あるいは磁石)が半回転して起電力の向きが変わるとき、電流も逆に流れるように整流子をつけて、
自動的に交流発電機をつなぎかえると、電流は一方向に流れるので広義の直流発電機が得られる。
発電機についての概説はウィキペディア(発電機)を参照のこと。
変圧器
電磁調理器
電磁波
変位電流(時間変化する電場)は磁界を生む
電流はその周りに磁場をつくる(アンペールの法則)。
電流が変化すれば、発生する磁場も変化する。
するとファラデーの電磁誘導則から変動磁場の周辺に変動電場が発生。
変動電場はその周辺に変動磁場を作りだすのではないか、と推測される。
マクスウェルは、アンペールの法則を数式で表現すると、
変動電場では成り立たないことを発見し、正しい等式に修正して、変動電場はその周辺に変動磁場を作りだすことを示した。
この結果、少数の連立方程式で、マクロな電磁気学の現象のすべてが、説明できるようになった。
この連立方程式は、マクスウェルの方程式と呼ばれる。
マクスウェルはこの方程式をもとに、電磁気現象を体系化する研究を行なった。
これについてはベクトル解析という少し難しい数学が必要なので、
上級者むけの「 5.8 ☆☆マクスウェル方程式」説明する。
実験による電磁波の発生;
マクスウェルは、電磁波の存在を予言した。
それを実証したのは、ヘルツである(1888年)。
高い周波数の交流電源にコンデンサーをつないで閉回路を作ると、
電荷はコンデンサーの2枚の極板の間を、この周波数で行ったり来たりする。
すると極板間の電場がこの周波数で激しく変動。
この時極板間にこの周期で変動する磁場が発生。
変動磁場は、電磁誘導法則から、変動電場を作る。
この交互作用で変動電場と磁場が次々と伝搬していくことが実験で確認された。
電磁波の発見である。