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物理/運動の法則の応用
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[[物理]] > [[物理/運動の法則の応用|運動の法則の応用]] = 解説 = 運動の3法則、万有引力の法則と力の法則を用いると、分子から銀河まであらゆる物体の運動を求めることが出来きる。<br/> その正しさは地上の物体や人工衛星、惑星の運動などで確かめられている。<br/> しかし、もっとはるかかなたの宇宙でもこれ等の法則は正しいのだろうか。<br/> 天体観測は、世界各地で行われ、年々新しい発見がされているが、現在のところ、この理論が間違っていることを示す観測結果は、得られていない。<br/> そこで、これらの法則は宇宙の全体を支配しているものと、現在は信じられている。<br/> 運動の3法則からはエネルギー保存則や運動量保存則などの重要な保存則を導く事が出来る。<br/> これらの保存則は、色々な運動を調べるとき、大変役立つ。これらについては次節で学ぶ。 == 質点の色々な運動== 最初に最も簡単な運動から考える。<br/> それは質点とみなせる物体の運動である。 === 質点の落体運動=== 地球上の物体は高いところから落とすと、時間とともに速度を増しながら落下する。<br/> 質点とみなせる物体の落下運動を、運動法則と力の法則を用いて、解析しよう。<br/> 質点の質量を$m$とすると、そこに作用する[[物理/力学(2)_力と運動の法則#.E3.80.80.E5.9C.B0.E7.90.83.E3.81.AE.E9.87.8D.E5.8A.9B.E3.81.A8.E9.87.8D.E5.8A.9B.E5.8A.A0.E9.80.9F.E5.BA.A6.E3.80.80|重力による力]]は、<br/> 真下(厳密には地球の[[wikipedia_ja:重心|重心]];後で学ぶ)の方向・向きに大きさ$Mg$である。<br/> 落下の向きを負にした落下方向の一次元座標を考えると、重力加速度は$-g$で、質点$m$に作用する力は$-mg$である。<br/> 落下の加速度を$\alpha$と置くと、運動の第2法則より$m\alpha=-mg$.<br/> ゆえに質点の落下加速度$\alpha$は負の重力加速度$-g$に等しい。<br/> $t$で微分して$-g$となる関数は$-gt+c$なので、質点の速度は$-gt+c$である。<br/> ここでcは定数で、初期時刻0における質点の速度であり、初期速度と呼ばれる。<br/> 微分して$-gt+c$となる関数を求めれば質点の位置$x(t)=-\frac{1}{2}gt^{2}+ ct + d$が得られる。<br/> ここで、$d$は定数で初期時刻0での質点の位置(高さ)である。<br/> これはガリレオが明らかにした落体法則である。<br/> 参考文献; *[[wikibooks_ja:高等学校理科_物理I_運動とエネルギー#.E3.83.8B.E3.83.A5.E3.83.BC.E3.83.88.E3.83.B3.E6.96.B9.E7.A8.8B.E5.BC.8F|ウィキブックス(高等学校理科 物理I 運動とエネルギーの2.4.1 ニュートン方程式)]] *[[wikibooks_ja:高等学校理科_物理I_運動とエネルギー#.E7.AD.89.E5.8A.A0.E9.80.9F.E5.BA.A6.E7.9B.B4.E7.B7.9A.E9.81.8B.E5.8B.95|ウィキブックス(高等学校理科 物理I 運動とエネルギーの1.8 等加速度直線運動)]] === 投射体の運動=== 質点を地面に対して角度$\theta$(ラジアン)、速さ$u$で投げたときの、質点はどのような運動を行うだろうか。<br/> ガリレオは、慣性法則と落体の法則を組み合わせて利用して、放物線を描いて飛ぶことを発見した。<br/> ニュートン力学を用いれば、運動の第2法則と質点に働く力(重力)から、以下のように、この運動を導ける。<br/> ====適切な座標系をいれる==== 質点が投げ出された場所を原点とし、飛んでいく方向に地面と水平に引いた半直線をx軸の正の側に、地面と直角で上方に向かう半直線をy軸の正の側とする座標を定める。図参照。 ====質点に作用する力を求める==== 空気抵抗を無視すれば、質点に作用する力は、地球からの重力だけである。この力は、質点の質量を$M$,重力加速度を$g$とすると、質点の位置に関係なく常に、$\vec F=(o,-Mg)$である。 ====運動の第2法則から質点の運動方程式をつくる==== 質点の位置ベクトルを$\vec r=(x,y)$で表すと<br/> 運動方程式は、$M(d^2/dt^2)\vec{r(t)}=\vec F$である。<br/> 座標成分表示すると<br/> $M(d^2/dt^2)x(t)=0$,$\quad$ $M(d^2/dt^2)y(t)=-Mg$ ====運動の初期状態の指定==== 投げ上げた瞬間を時刻$t=0$とおくと、質点の初期位置は$\vec{r}(0)=(0,0)$,$\quad$ 初期速度は$\vec{v}(0)=(u\cos{\theta},u\sin{\theta})$ ====運動方程式を初期状態を使って解く==== (1)x成分の式を解く<br/> $M(d^2/dt^2)x(t)=0$は、$M(d/dt)v_{x}(t)=0$なので$(d/dt)v_{x}(t)=0$。$\quad$ tで微分して零となるtの関数は定数なので$a$と書くと、$v_{x}(t)=a$<br/> 速度の定義より、$(d/dt)x(t)=v_{x}$なので、$(d/dt)x(t)=a$.$\quad$ $t$で微分して$a$となるのは$at+b$(bは未知定数)なので、$x(t)=at+b$<br/> 初期条件から、$a=v_{x}(0)=u\cos{\theta}$,$\quad$ また$x(0)=a0+b=0$なので$b=0$。<br/> 故に、$x(t)=(u\cos{\theta})t$ (2)y成分の式を解く <br/> $M(d^2/dt^2)y(t)=-Mg$は、$(d/dt)v_{y}(t)=-g$ $\quad$ tで微分して$-g$となる関数は$-gt+c$(cは未知定数)なので、<br/> $v_{y}(t)=-gt+c$ $\quad$故に$(d/dt)y(t)=-gt+c$ <br/> tで微分して$-gt+c$となる関数は、$-\frac{1}{2}gt^2+ct+d$なので、$y(t)=-\frac{1}{2}g^2t+ct+d$ <br/> 初期速度の条件から、$c=-g0+c=v_{y}(0)=u\sin{\theta}$ $\quad$ $d=-\frac{1}{2}g0+c0+d=y(0)=0$ <br/> 故に、$y(t)=-\frac{1}{2}gt^2+(u\sin{\theta})t$<br/> (3)運動の軌跡(xとyとの関係式)を求める <br/> $x(t)$の式から$t=x(t)/(u\cos{\theta})$ <br/> これを$y(t)=-\frac{1}{2}gt^2+(u\sin{\theta})t$に代入すると<br/> $y(t)=(-g/2u^2\cos^2{\theta})x^2(t)+(\tan{\theta})x(t)$<br/> これは上に凸な[[wikipedia_ja:放物線|放物線]]である。<br/> 参考文献は *[[wikibooks_ja:高等学校理科 物理I 運動とエネルギー|ウィキブックス(高等学校理科 物理I 運動とエネルギー)]]の2.4.1 ニュートン方程式 === 惑星運動=== 前述のようにケプラーは、火星と太陽の観測データをユークリッド幾何学を巧みに利用して分析し次の惑星運動の3法則を発見した。 *[[wikipedia_ja:ケプラーの法則|ウィキペディア(ケプラーの3法則)]] ====惑星運動の3法則を運動の第2法則と万有引力の法則から導く==== この3法則は、運動の第2法則と万有引力の法則から導くことが出来るが少し難しい数学が必要である。大学で学ぶ。<br/> 惑星の軌道を太陽を中心とする円運動に限定すると、高校の数学の知識で3法則を導ける。<br/> この場合ケプラーの第一法則は、仮定から、明白なので、第二法則から始める。 =====ケプラーの第2法則の導出 ===== [[File:GENPHY00010004 fig4-0d.jpg|right|frame|図 惑星の位置座標]] 第二法則は、太陽と惑星を結ぶ動径の単位時間に掃く面積が一定であることを主張する。円運動のばあい、これは等速円運動であることと同じである。<br/> そこで等速円運動であることを導こう。<br/> 太陽と惑星は質点として扱い、質量をそれぞれ$M,m$とする。<br/> 惑星の軌道面をxy平面にし、太陽をその原点にとる。円運動の半径を$r$, 太陽と時刻$t$における惑星を結ぶ線分が、x軸となす角度を$\theta =\theta(t)$とおく。 惑星Pの位置;$\vec{r}(t)=r(\cos\theta(t),\sin\theta(t))$ <br/> 惑星の速度;$\vec{v}(t)=d\vec{r}(t)/dt=r(d\cos\theta(t)/dt,d\sin\theta(t)/dt)$ <br/> $=r(- \sin\theta(t)\frac{d\theta(t)}{dt},\cos\theta(t)\frac{d\theta(t)}{dt})$ =$ r \frac{d\theta(t)}{dt}(- \sin\theta(t), \cos\theta(t)) $ <br/> 惑星の加速度;$\vec{\alpha}(t)=d\vec{v}(t)/dt=r(d^2\theta(t)/dt^2)(-\sin\theta(t),\cos\theta(t))$ <br/> $+r(d\theta(t)/dt)(-\cos\theta(t)\frac{ d\theta(t)}{dt},-\sin\theta(t)\frac{ d\theta(t)}{dt} )$ <br/> $= r(d^2\theta(t)/dt^2)(-\sin\theta(t),\cos\theta(t))-r( \frac{d\theta(t)}{dt})^2( \cos\theta(t), \sin\theta(t)) $ <br/> 惑星に働く力;万有引力の法則より、太陽の方向に向いた、大きさ$GMm/r^2$の力なので<br/> $\vec{F}(t)=-(GMm/r^2)(\cos\theta(t),\sin\theta(t))$ <br/> と表せる。<br/> この力が、惑星の運動を変化させ、上述の加速度を生じさせたのだから、運動の第2法則$\quad m\vec{\alpha}(t)=\vec{F}(t)\quad$より、<br/> $mr(d^2\theta(t)/dt^2)(-\sin\theta(t),\cos\theta(t))-mr( \frac{d\theta(t)}{dt})^2( \cos\theta(t), \sin\theta(t)$ <br/> $ =-(GMm/r^2)(\cos\theta(t),\sin\theta(t))$ <br/> 変形すると、<br/> $mr(d^2\theta(t)/dt^2)(-\sin\theta(t),\cos\theta(t))$ <br/> $ =(mr(\frac{d\theta(t)}{dt})^2-GMm/r^2)( \cos\theta(t), \sin\theta(t)) \qquad ------ \qquad (1)$ <br/> $(-\sin\theta(t),\cos\theta(t))$ と$( \cos\theta(t), \sin\theta(t))$は直交するベクトルなので、(1)式が成立する必要十分条件は、 <br/> $d^2\theta(t)/dt^2=0 \qquad ------ \qquad (2)$, <br/> $mr(\frac{d\theta(t)}{dt})^2-GMm/r^2=0 \qquad ------ \qquad (3)$ <br/> である。<br/> (2)式から、角速度$\omega(t)=\frac{d\theta(t)}{dt}=\omega_{0}$(定数)が<br/> (3)式から、$mr(\frac{d\theta(t)}{dt})^2=GMm/r^2$が<br/> 得られる。<br/> これらより、惑星は等角速度<br/> $\Large{\omega_{0}=\pm\sqrt{GM/r^3}}$ $\qquad ------ \qquad $ (4)<br/> で太陽の周りを回転することが分かり、ケプラーの第2法則が得られた。 =====ケプラーの第3法則の導出 ===== 惑星が太陽の周りを一周する時間$T$(周期という)は、$T=2\pi/\omega_0$なので、(4)式より、<br/> $T=2\pi/\sqrt{GM/r^3}=2\pi\sqrt{r^3/GM}$,<br/> 故に$T^2=4\pi^2r^3/GM$, $T^2/r^3=4\pi^2/GM$<br/> これは軌道が円の場合のケプラーの第3法則である。 ====万有引力の法則を,ケプラーの法則と運動の第2法則から導く==== 惑星が太陽の周りを円運動しているとき、太陽が惑星に及ぼしている力を計算する。<br/> ケプラーの第2法則より、円運動する惑星は角速度一定である。これを$\omega_0$とする。<br/> 太陽の位置を原点とし円の半径を$r$とすると、この惑星の加速度は$\vec{\alpha}(t)=-r( d\theta(t)/dt)^2( \cos\theta(t), \sin\theta(t)) =-r\omega_0^2( \cos\theta(t), \sin\theta(t))$ 。これは、太陽にむかう大きさ$r\omega_0^2$のベクトル。<br/> 運動の第2法則より、惑星に働く力$\vec F$は、太陽の方向に、大きさ$mr\omega_0^2$ <br/> ここで、$m$ は惑星の慣性質量である。<br/> $\omega_0^2$を$r$の関数で表すためケプラーの第3法則と用いる。<br/> 惑星の公転周期$T$と円の半径$r$の間には$T^2/r^3=C,\quad C$;定数<br/> $T=2\pi/\omega_0$なので $(2\pi/\omega_0)^2/r^3=C \quad $∴$\omega_0^2=4\pi^2/(Cr^{3})$<br/> それゆえ、力の大きさは<br/> $mr\omega_0^2=\frac{4\pi^2}{C} \frac{m}{r^2}$<br/> さらに、太陽の質量$M$が$k$倍になると、質量$M$の太陽が$k$個あり、それぞれが惑星に上記の力を与えると考えられる。<br/> すると惑星に働く力は$k$倍になるので力の比例部分$\frac{4\pi^2}{C}$は太陽の質量$M$に比例することが分かる。<br/> 比例定数を$G$とおくと、$\frac{4\pi^2}{C}=GM$ <br/> 従って惑星に働く力の大きさは、太陽の方向に、 $GM\frac{m}{r^2}=G\frac{mM}{r^2}$<br/> これは万有引力の法則である。<br/> (注)この式は万有引力の法則の式と同じだが、質量$m$は、慣性質量であり、対称性から太陽の質量$M$も慣性質量と考えられる。<br/> しかしニュートンは重力を生む質量は、慣性質量と完全には一致しない可能性もあると考え、重力質量という概念を生みだしと思われる。<br/> 既述のように、多くの実験の結果、両質量は同一であると考えられている。<br/> 重量質量を使わず、慣性質量だけを用いても、ニュートン力学を構成することが出来る。これを提唱する物理学者もいる。<br/> それには万有引力の法則のかわりに、次の法則を採用すればよい。<br/> 外力が働かないときは、どんな2質点も、お互いに相手に向かって, 加速度運動して近ずく。両者の加速度は、両者の距離の2乗$r^2$に反比例し、それぞれの慣性質量の比に反比例する。<br/> 式で書くと、<br/> 質点1の慣性質量と加速度の大きさを$m_1$,$\alpha_1$ <br/> 質点2の慣性質量と加速度の大きさを$m_2$,$\alpha_2$ <br/> とすると、$m_1\alpha_1=m_2\alpha_2$、$m_1\propto 1/r^2$,$m_2 \propto 1/r^2$ <br/> この法則と運動法則により2質点間に働く力(万有引力)を求めると、<br/> ニュートンの万有引力の法則と同じ式だが、質量は慣性質量になり、<br/> 重量質量を用いずニュートン力学が構成できる。<br/> === 振り子と単振動 === *[[wikipedia_ja:自由振動|ウィキペディア(単振動)]]の「振り子」の項を見てください。 === 質点のつり合い=== 質点に力F1,,Fnが作用し、質点が静止したまま(あるいは等速直線運動)であるとき、それらの力は釣り合っているという。<br/> 釣り合いの条件は、F1+ +Fn=0です(運動の第2法則と力の合成則から導出できる)。 ==仕事とエネルギー== ===仕事=== 物体に力を加えて動かす時、力はこの物体に仕事をするという。<br/> 仕事(の量)は力の大きさと動かした距離の積に比例する。<br/> 正確には、加えられる力$\vec F$ が一定で、<br/> 力の向きに対して角度$\theta$[rad] だけ傾いている直線上を $\vec s$ 移動したとき、<br/> ''仕事W'' は、<br/> $W=\|\vec F\|\|\vec s\| \cos\theta$ <br/> で定義する。<br/> ここで任意のヴェクトル$\vec a$に対して、$\|\vec{a}\|$はその大きさ$\sqrt{\sum_{i}a_i^2}$を表す。<br/> 特に、この式において$\theta=0$(すなわち $\cos\theta = 1$)とすると<br/> 「加えられる力が一定であり力の方向が運動の方向と一致している場合」になり、<br/> $W=\|\vec F\|\|\vec s\| $ である。<br/> また、$\theta=\pi/2$($\cos\theta = 0$)のとき、$W = 0$となる。<br/> すなわち、力が運動の方向と直角方向にはたらいている場合、その力は仕事をしない。 <br/> $W=\|\vec F\|(\|\vec s\| \cos\theta)$と表現すると、<br/> 仕事は、力の方向に$\|\vec s\| \cos\theta$だけ動かしたときの仕事に等しいことが分かる。<br/> $W=(\|\vec F\| \cos\theta)\|\vec s\|$と表現すると、<br/> 仕事は、<br/> 大きさ$\|\vec F\| \cos\theta$ の$\vec s$方向の力を加えて、$\vec s$だけ動かしたときの仕事に等しい<br/> ことが分かる。 *[[wikipedia_ja:仕事 (物理学)|ウィキペディア(仕事)]]を参照のこと。<br/> ===仕事の内積を用いた表現=== 内積は、仕事の記述や計算に便利な数学の概念である。 ====内積の定義と仕事の内積表現==== ベクトル$\vec a,\vec b$の内積$ \vec a \cdot \vec b $は、$\|\vec{a}\|\|\vec{b}\| \cos\theta$で定義する。<br/> ここで、$\theta$は、ベクトル$\vec a,\vec b$のなす角($0\le \theta \le \pi$ )である。 *[[wikibooks_ja:高等学校数学B ベクトル|ウィキブックス(高等学校数学B ベクトル)]] の1.1.6~ 1.1.8を参照のこと。<br/> ウィキブックスでは2次元のベクトルを中心にして説明しているが、<br/> 3次元ベクトルの場合にも、成り立つように修正することは容易である。<br/> 例えば、ベクトル$\vec a = (a _1,a _2,a_3)$の長さは、$\|\vec a\|= \sqrt {a _1^2 +a _2^2+a _3^2}$,<br/> ベクトルの内積は、この長さを使えば、全く同じ式で良い。 ===== 内積を使った 仕事の表現===== 内積 $\cdot $を用いると、<br/> 物体に力$\vec{F}$を加えて、$\vec{PQ}$(P点からQ点まで)動かした時の力のなす仕事は、<br/> $ W=\vec{F}\cdot\vec{PQ} $と表せる。<br/> ===== 内積の性質===== 仕事は、前述のように内積で表現できるので、内積の性質を調べておくと、仕事について考察する時に役に立つ。<br/> $\vec a,\vec b,\vec c$が、すべて同じ次元(2か3)のベクトルとし、 $\alpha$は実数とする。<br/> (1)$\vec a \cdot \vec b =\vec b \cdot \vec a$ <br/> (2)$\vec a \cdot \vec b =\sum_{i}a_ib_i$ 、<br/> ここで$a_1,b_1$はそれぞれ$\vec a,\vec b$のx座標成分、同様に、添え字2はy座標成分、3はz座標成分<br/> 直交座標系はどんなものでも良い。しかしすべてのベクトルは同じ座標系で座標成分表示しなければならない。<br/> (3)$(\vec a +\vec b) \cdot \vec c =\vec a \cdot \vec c+\vec b \cdot \vec c$ <br/> (4)$(\alpha \vec a)\cdot \vec b =\vec a \cdot (\alpha \vec b)=\alpha (\vec a \cdot \vec b)$ <br/> が成り立つ。 <br/> (証明) <br/> (1)は、内積の定義から明らか。 <br/> (2);次の三角形の余弦定理を利用する。<br/> 三角形の[[wikipedia_ja:余弦定理|第2余弦定理]];<br/> 図のような$\triangle {ABC}$を考える。<br/> 頂点A,B,Cの対辺の長さをそれぞれ$a,b,c$とし、$\angle{ACB}=\theta$とする。<br/> すると、$c^2=a^2+b^2-2ab\cos\theta$<br/> 余弦定理の証明;頂点$A$から対辺$BC$におろした垂線の足を$H$とする。<br/> [[wikipedia_ja:ピタゴラスの定理 |ピタゴラスの定理]]により、<br/> $c^2=\overline{BH}^2+\overline{AH}^2$。$\qquad$ 右辺の第2項に、再び、ピタゴラスの定理を適用して、<br/> $=\overline{BH}^2+(b^2-\overline{CH}^2)$ $\qquad$ $\overline{BH}=a-\overline{CH}$を代入すると、<br/> $=(a-\overline{CH})^2+(b^2-\overline{CH}^2)=a^2+b^2-2a\overline{CH}$,$\quad$ $\overline{CH}=b\cos\theta$なので、代入すると<br/> $=a^2+b^2-2ab\cos\theta$ <br/> 証明終わり。<br/> (2)の証明 <br/> ベクトル$\vec a $と$\vec b $を、<br/> 始点が点$C$である有向線分で表現し、その終点を$B$,$C$で表す。<br/> すると$\vec a=\vec{CB}$, $\vec b=\vec{CA}$である。<br/> ベクトル$\vec c=\vec a-\vec b$を導入すると、<br/> $\vec c=\vec a-\vec b=\vec{CB}-\vec{CA}=\vec{CB}+\vec{AC}=\vec{AB}$<br/> 3角形$\triangle {ABC}$を考え、第2余弦定理を適用しよう。<br/> $\angle{ACB}=\theta$とおく。すると、<br/> $\|\vec c\|^2=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\|\vec a\|\|\vec b\|\cos{\theta}$<br/> $=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\vec a \cdot \vec b$が得られる。<br/> この式を変形して$\vec a \cdot \vec b$だけを左辺に置くと、<br/> $\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec c\|^2)/2$ 。<br/> $\vec c=\vec{AB}=\vec{AC}+\vec{CB}=-\vec b+\vec a$なので、<br/> $\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec a-\vec b\|^2)/2 $ <br/> この右辺を、ベクトルの直交座標成分で表すと、次式が得られる。 <br/> $\vec a \cdot \vec b=(\sum_{i}a_i^2+\sum_{i}b_i^2-\sum_{i}(a_i-b_i)^2 )/2 $<br/>$=\sum_{i}a_i b_i$ <br/> (2)の証明終わり。 <br/> (性質3)の証明;ある一つの直交座標系をさだめ、両辺を、性質(2)を利用して、座標成分であらわす。両辺が等しいことが分かる。<br/> (性質4)の証明;同様に、3つの式を、座標成分表示すれば、みな等しいことが、簡単に分かる。 ====物体が曲線運動するときの仕事量の求め方==== 力を受けた時の物体の運動は直線とは限らないが、運動の軌跡を細かく区切って眺めると、線分に近いので、物体の変位は、ごく短い線分をつなぎ合わせたものと考える。すると各線分毎に仕事を計算しそれをたせば、全体の仕事量を求めることができる。 ===エネルギー=== 物質の持っている仕事をする能力をエネルギーという。 *[[wikipedia_ja:エネルギー|エネルギー(ウィキペディア)]]の自然科学の項を参照のこと。 ===仕事の単位=== 仕事の定義$W=\|\vec F\|\|\vec s\| \cos\theta$から、仕事の単位は、力の大きさ$\|\vec F\|$の単位と長さ$\|\vec s\|$の単位を掛けたものになる($ \cos\theta$ は無単位なので )。<br/> MKSA単位系では、力の大きさの単位は$N$(ニュートン)、長さの単位は$m$(メートル)なので、仕事の単位は$Nm$ となる。<br/> これを$J$(ジュール)と呼ぶ。$J=Nm$である。 *[[wikipedia_ja:ジュール|ジュール(ウィキペディア)]] == 質点系の運動== 2個以上の質点が集まって出来ている系を質点系という。<br/> 質点系というときは、各質点は密集していても、離れ離れでも良い。互いに固着しようが、自由に動けようが構わない。<br/> すべての物質は、分子の集合と考えたり、細分化して極小部分に分け、それらの集合と考えれば、十分な精度で、質点系とみなすことができる。<br/> そのため質点系の運動の法則を、ニュートンの運動法則から導出すれば、その応用範囲は非常に広い。 === 質点系の運動と重心=== 系の任意の2つの質点間には作用・反作用の法則を満たす力が働いていてもよい。<br/> この力を質点系の”内力”という。 <br/> 質点系の各質点に外部から力(外力という)が加わる時、この質点系はどんな運動をするだろうか。<br/> 質点系の各質点の位置を$\vec{r_i}$、質量を$m_i $とし、<br/> 質点$m_i$ に作用する外力を$\vec{f_i}$、<br/> $m_i$ に、他の質点$m_j $から作用する内力を$\vec{f_{ij}}$とする($i,j=1 \ldots N$)。<br/> すると、各質点に対して、運動の第2法則により、<br/> $d (m_i \vec{v_i})/dt=\vec{f_i}+\sum_{j\neq i}\vec{f_{ij}} $ $\qquad$ ここで$\vec{v_i}=d\vec{r_i}/dt$、<br/> 各ベクトルを自由ベクトルとみなして$i=1 \ldots N$について加え合わせると、$\vec{f_{ij}}+\vec{f_{ji}}=0$なので、<br/> $\frac{d^2}{dt^2} \sum_i{ m_i \vec{r_i}} =\frac{d}{dt} \sum_i{ m_i \vec{v_i}} =\sum_i{\vec{f_i}} $ <br/> が得られる。<br/> 質点系の全質量$M= \sum_i{m_i} $と質点系に働く全外力$\vec{F}= \sum_i{\vec{f_i}} $を用いて書きなおすと、<br/> $M\frac{d^2}{dt^2}(\sum_i{ m_i \vec{r_i}}/M)= \vec{F} $ <br/> 質点系の重心$\vec{R}$を $\quad \vec{R}=\sum_i{ m_i \vec{r_i}}/M $ で定義すると、<br/> $M\frac{d^2}{dt^2}\vec R= \vec{F} $ <br/> この式は、力$\vec{F}$をうける質量$M$の質点の運動方程式と同じである。<br/> 以下の解説も参考にしてください。 *[[wikipedia_ja:質点|ウィキペディア(質点系の力学)]] ====複雑にみえる運動も重心の運動をみれば簡単である ==== 体操選手の運動は、跳躍や着地などで空中をまいながら、回転や体の屈伸、ひねりなどを行う。大変複雑である。<br/> しかし、導出した質点系の重心の運動法則から、体の重心の運動は、投射体の運動であり、放物線をえがいて移動することが分かる。<br/> 空中に飛び出た瞬間の速度(速さと方向・向き)で、その軌跡は完全に決まってしまうのである。 == 剛体の運動とつり合い== === 剛体=== 剛体(Rigid body)とは、<br/> 質点系であって、それらの、どの2質点の間の距離も変わらない,特殊な系のことを言う。<br/> どの2質点の間の距離も変わらなければ変形は起こらない。<br/> 固くて変形しにくい物体を理想化した概念である。<br/> === 剛体の運動 === 剛体は変形しない質点系なので、その運動は、重心の運動と、重心の周りの回転運動を合成したものになる。<br/> 重心の運動は前の節で説明したように、質点の運動と同じように簡単に扱える。<br/> 重心の周りの回転運動について解析するには、少し難しい数学が必要になる。<br/> *[[wikipedia_ja:剛体の力学|ウィキペディア(剛体の力学)]]を参照のこと。 このテキストでは、固定軸の周りの回転運動を中心に、 剛体運動の初歩と釣合の条件について学ぶ。<br/> ===固定軸のまわりの回転運動 === 剛体が、剛体の中を通る固定軸の周りを回転する運動(車輪の回転など)を考える。<br/> 応用も考え、回転軸は重心を通らなくてもよいように一般化しておく。<br/> (注)なお、軸が動かないようにするためには軸受が必要である。<br/> 工夫しても回転時に軸は軸受から多少の摩擦力を受け、回転にブレーキがかかる。<br/> しかし、これは無視出来るほど小さいと仮定する。<br/> すると軸が受ける力は、軸の変動を防ぎ、固定軸の周りの運動に限定させる作用を持ち、<br/> 回転を遅める作用は持たないことになる。 ====回転運動の表示法 ==== 固定軸まわりの剛体の運動はどのように表示したらよいだろうか。<br/> ・剛体の位置を表す変数;回転角<br/> 剛体が幾ら回転したか分かるように、剛体の、回転軸上にない一点$P_s$に印を付ける。<br/> 次に、角度を測る基準線をきめるため、座標系を決めよう。<br/> $P_s$から固定軸へ垂線をひき、その足を原点$O$とし,固定軸をz座標とする(静止した)3次元直交座標$O-xyz$を考える。<br/> 剛体が固定軸の周りを回転すると、印$P_s$はxy平面上を、原点$O$を中心に円を描いて動くことになる。<br/> その位置ベクトル$\vec{OP_s}$がx軸の正方向となす角度$\phi$を、回転角と呼ぶ。図参照。<br/> 但し、x軸から反時計回りの角を正にする。<br/> また一回転した後ならば、一回転の角$2\pi$を加え、逆周りに一回転した後なら$2\pi$を引き、<br/> 角度だけでなく回転数も分かるようにする。<br/> 回転角が指定されると、点$P_s$の位置が決まる。<br/> それだけでなく剛体は変形しないので、剛体のすべての点の位置がきまる。<br/> そこで回転角$\phi$の時間変化$\phi=\phi (t)$を明らかにすれば、剛体の回転運動は定まる。<br/> 固定軸のまわりの回転運動において回転角の果たし役割は、質点の運動において質点の位置が果たし役割に対応していることが分かる。<br/> ・回転の角速度と角加速度<br/> $\phi=\phi (t)$を時間で微分した$d\phi (t)/dt$を回転の角速度と呼ぶ。<br/> 直観的には、時刻$t$の瞬間の、回転の速さ(回転角の時間に対する変化率)を表す。<br/> さらにもう一回時間微分した$d^2\phi (t)/dt^2$を回転の角加速度と呼ぶ。<br/> ====回転力(トルク) ==== 質点の運動に倣って、剛体に作用する力によって、その位置(=回転角)がどう変化するかの法則を導出したい。<br/> しかし、剛体の回転の場合、ある方向の力は、剛体の回転に全く関係しない。 例えば、回転軸から放射状にでる半直線方向の力は全く回転の変化に寄与しない。<br/> そこで剛体の回転を変化させる力とはなにかという問題から考察する必要が起こる。<br/> 質点運動における力の定義(力と運動量の変化の関係)や力と仕事の関係など力の係っている式のなかから、<br/> 剛体の回転運動に容易に拡張出来るものを選び、その式から、回転に関する力を求めることを試みる。<br/> 力の定義からは、回転運動への拡張を、推測することは難しい。<br/> 力と仕事の関係の考察をしてみよう。 =====力と仕事の関係からの考察 ===== 適当な直交座標系をさだめ、ベクトルは、座標成分で表示する。<br/> 質点に、一定の力$\vec F=(F_x,F_y,F_z)$を作用させて、x軸方向に変位させる。<br/> 質点はこの軸の上でしか動けないように拘束され、摩擦はないと仮定する。<br/> 質点の変位ベクトルは一次元の変数$x$を使って$\vec s=(x,0,0)$と表せる。<br/> すると力のなす仕事は、$W=\vec F \cdot (x,0,0)=F_{x}x$である。 <br/> 逆に物体に一定の力を加え、x軸上で$x$だけ変位させた時の仕事$W$が分かれば、質点を動かした力は<br/> $F_x=W/x$<br/>で求められる。<br/> $F_y,F_z$は、質点をx軸上で動かすことには全く寄与せず、<br/> x軸に拘束された質点を動かす力は、$F_x$なのである。<br/> 固定軸まわりの回転もその変位は一次元の変数である回転角度で表わせるので、<br/> これに倣って、<br/> $W/$回転した角度 <br/> を、回転にかんする力であると考える。これを回転力と呼ぶ。'''トルク'''ともいう。<br/> この方針を実行して回転力を具体的に求めよう。<br/> =====剛体に力を加え微小角動かす時の、力のなす仕事の算出 ===== 図4.1のように剛体の任意の一点$P(x,y,z)$を考える。<br/> z座標の上方からxy平面を見下ろしているので、z座標は点になり$O$と書いてある。<br/> [[File:GENPHY00010004 fig4-1.jpg|right|frame|図4.1 ☆☆キャプションはココに書いて下さい☆☆]] まず一点$P(x,y,z)$に力$\vec F=(F_{x},F_{y},F_{z})$が作用して、微小角$\Delta\theta$だけ回転したときの<br/> 仕事$\Delta W$を計算し回転力を求めよう。<br/> $P$点から回転軸(z軸)に垂線を下ろし、その足を$O'=(0,0,z)$とする。<br/> $\vec{O'P}$の長さを$r$、x軸となす角を$\theta$(ラジアン)と置く。<br/> この角度は、<br/> 剛体につけた印の位置ベクトル$\vec{OP_s}$がx軸となす回転角$\phi$と<br/> このベクトルと$\vec{O'P}$(をxy平面に平行移動したベクトル)の間の角の和である。<br/> 後者は、剛体なので、運動しても変わらない定数である。そこで、$\theta=\phi+$定数,と書ける。<br/> 剛体がz軸の周りを微小角$\Delta\theta$回転して、点$P$が図の点$Q$に移動したとする。<br/> すると角$\angle OPQ$はほぼ直角(=$\pi /2$)で$\vec{PQ}$の長さ$PQ$は、$PQ=r(\Delta\theta)$。<br/> $\vec{PQ}$のx成分とy成分は、図4-1中に示したように、それぞれ、$-QR=-PQ*y/r$、$PR=PQ*x/r$。<br/> $PQ=r(\Delta\theta)$を代入すると、<br/> $\vec{PQ}_x=-y(\Delta\theta)$、$\vec{PQ}_y=x(\Delta\theta)$、$\vec{PQ}_z=0$<br/> 点$P(x,y,z)$に作用する力$\vec{F}=(F_{x},F_{y},F_{z})$が、物体を$\vec{PQ}$だけ動かしたので、<br/> その仕事は、$\Delta W=\vec{F} \cdot \vec{PQ}$(内積)。<br/> この右辺を内積の性質を用いて座標成分で表すと、<br/> $F_{x}*(-y)\Delta\theta+F_{y} x\Delta\theta+F_{z}* 0$<br/> $=(xF_{y}-yF_{x})*\Delta\theta$ <br/> =====z軸まわりの回転力の導出 ===== ゆえに、力$\vec{F}$のz軸まわりの回転力(トルク)$T_\vec{e_z}$は$\Delta W/\Delta\theta=xF_{y}-yF_{x}$ に等しい。<br/> これより、$\Delta W=T_\vec{e_z}\Delta\theta$が得られる。<br/> この式と、直線上に拘束された質点の運動における、力と仕事の関係式( 節 項)と対比させると、<br/> $T_\vec{e_z}$ は、拘束された直線の上を動かすときに、働いた力の成分が対応し、<br/> $\Delta\theta$ は、変位量 に対応していることが分かる。<br/> =====z軸まわりの回転力(トルク)の性質===== (1)力$\vec{F}$のz軸まわりの回転力は,$\vec{F}_z$には関係しない。<br/> 言いかえるとz軸を固定軸とする剛体にz軸の方向の力を加えても、z軸の周りの回転は起こらない。<br/> (2)剛体の1点$P(x,y,z)$に作用する力$\vec F$を考える。<br/> 点$P(x,y,z)$からz軸に下ろした垂線の足を$O'(0,0,z)$と書く。 力$\vec F$を、, $\vec{O'P}$方向の成分$\vec F_r$と、<br/> z軸まわりの回転により$P$の描く、$O'$を中心とする回転円の(左回りの)接線方向の成分$\vec F_t$<br/> および、これら2成分に直交する成分(z軸と平行)<br/> に分解する(図参照)。この時、<br/> ・力$\vec F_r$のz軸まわりの回転力は、零である。<br/> すなわち、動径方向の力は回転に寄与しない。 <br/> ・力$\vec F$のz軸まわりの回転力は、$\vec F_t$のz軸まわりの回転力に等しい。<br/> 数式で表すと、$xF_{y}-yF_{x}=x(F_t)_{y}-y(F_t)_{x}$<br/> (3)剛体に作用する力の作用点を、力の作用線上で動かす限り、回転力は変化しない。<br/> ここで、力の作用線とは、力の作用点を通り、力の方向と重なる直線のこと。<br/> <br/>これらはいずれも直観と合致する。<br/> 証明は、試みてほしい。 =====他の軸の周りの回転力===== 力$\vec{F}$のx軸、y軸まわりの回転力も同様に計算できる。結果は、<br/> x軸まわりの回転力;$yF_{z}-zF_{y}=y(F_t)_{z}-z(F_t)_{y}$<br/> y軸まわりの回転力;$zF_{x}-xF_{z}=z(F_t)_{x}-x(F_t)_{z}$ =====原点まわりの力のモーメント===== 位置ベクトル$\vec r=(x,y,z)$の剛体の点$P$に作用する力$\vec F$の原点まわりの力のモーメントを、<br/> $\vec N=($x軸まわりのトルク、y軸まわりのトルク、z軸まわりのトルク$)$で定義する。<br/> 数式で書くと、<br/> $\vec N=(yF_{z}-zF_{y},zF_{x}-xF_{z},xF_{y}-yF_{x})$,<br/> =====ベクトル積と力のモーメントのベクトル積表示===== 以上の結果は、ベクトル積(クロス積ともいう)を用いると簡潔、正確に表現でき、<br/> 回転運動の性質を調べるのが容易になる。<br/> 3次元ベクトル$\vec a,\vec b$ のベクトル積$\vec a \times \vec b$とは、3次元ベクトルであり,<br/> 大きさは$\vec a,\vec b$ を2辺とする平行四辺形の面積に等しく、<br/> 方向はこの四辺形に垂直で、向きは、$(\vec a,\vec b,\vec a \times \vec b)$が右手系をなすように定めたものである。<br/> *[[wikipedia_ja:クロス積|ウィキペディア(クロス積)]] 次の項で説明するベクトル積の性質6を用いると、<br/> 位置ベクトル$\vec r$の点に作用する$\vec F$ の<br/> 原点まわりの力のモーメントは、$\vec N = \vec r \times \vec F$ <br/> x軸まわりの回転力(トルク)は、$\vec N \cdot \vec e_x $ と表せることが分かる。<br/> y軸とz軸周りの回転力も、それぞれ <br/> $\vec N \cdot \vec e_y $ ,$\quad \vec N \cdot \vec e_z $で 表せる。 ====== ベクトル積の性質====== 力のモーメントやトルクの性質を調べるには、ベクトル積の性質についての知識が必要になる。<br/> $ \vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$を3次元ベクトル<br/> $\alpha$を実数とする。<br/> すると次の性質が成り立つ。<br/> 性質1. $ \quad \vec{a} $ を, $\vec{c} $と垂直な成分$ \vec{a_\perp}$ と,平行な成分$\vec{a_\parallel}$ の和に分解するとき、 <br/> $\quad \vec{a} \times \vec{c}= \vec{a_\perp} \times \vec{c}$ <br/> $\quad \vec{a_\parallel} \times \vec{c}= 0$ <br/> 性質2.$ \quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}$ <br/> 性質3.$ \quad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}$ <br/> 性質3の系. $ \quad \vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= \vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c}$<br/> $ \quad (\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}$<br/> 性質4.$ \quad (\alpha\vec{a})\times \vec{b}= \alpha(\vec{a} \times \vec{b})= \vec{a}\times (\alpha\vec{b})$ <br/> 性質5.$\quad (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3})$ を<br/> それぞれ大きさ(長さ)1で互いに直交し、[[wikipedia_ja:右手系|右手系]]をなす、ベクトル(右手系をなす正規直交基底)とする。<br/> この時、<br/> $ \quad \vec{e_1} \times \vec{e_2} = \vec{e_3}, \quad \vec{e_2} \times \vec{e_3} = \vec{e_1}, \quad \vec{e_3} \times \vec{e_1} = \vec{e_2}$<br/> 性質6.ベクトル$\vec a, \vec b$を,性質5で用いた基底$ (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3})$ で決まる座標の座標成分で表示しておく。<br/> すると$\vec a \times \vec b=(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x)$ <br/> 性質7.$ \quad (\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b} =(\vec{b} \times \vec{c})\cdot\vec{a}$ <br/> 性質8. $ \quad \vec{a(t)} $ と $\vec{b(t)} $を,$t$にかんして微分可能な、ベクトルに値をとる関数とする。すると、<br/> $ \quad \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$ は、$t$にかんして微分可能で、<br/> $ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}) =(\frac{d}{dt}\vec{a(t)} )\times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times (\frac{d}{dt}\vec{b(t)})$ ======証明====== 性質1の証明;ベクトル積の定義から、容易に示せる。<br/> 2つのベクトルの作る平行四辺形の面積と方向・向きを考えれば良い。<br/> 性質2の証明;2つのベクトルを入れ替えても、それらが作る平行四辺形の面積は変わらず、この四辺形に直交する直線の方向も変わらない。しかし、右手系をなす方向は、逆向きになる。ベクトル積の定義から、$ \qquad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}$ が示せた。<br/> 性質3の証明;<br/> この証明には少し工夫が必要である。<br/> ベクトル積の性質の中でも、もっとも大切なものなので、詳しく説明しよう。<br/> ① $ \vec{a}, \quad \vec{b}$ と$ \vec{c}$ が直交する場合。図参照のこと<br/> ・議論をやさしくするため、ベクトルを、空間の原点$O$ を始点とする有向線分で代表させる。<br/> ・$ \vec{c}$ と直交し$O$ を通る平面を$H$とする。<br/> ・仮定より$ \vec{a},\quad \vec{b}$は、ともに平面$H$上のベクトルである。<br/> ・$\vec{a} \times \vec{c} ,\quad \vec{b} \times \vec{c}$も、<br/> ベクトル積の定義により、共に$ \vec{c}$ と直交するので、$H$上のベクトルである。<br/> これら四つのベクトルはすべて平面$H$上にあるので、今後の議論はこの平面上で進める。<br/> ⅰ)$\vec{a} \times \vec{c}, \vec{b} \times \vec{c}$ の張る平行四辺形は, <br/>$\vec{a}, \vec{b}$の張る平行四辺形を、$\| \vec{c}\|$倍し,原点周りに90度回転したものになることを、示そう。<br/><br/> ・$\vec{a} \times \vec{c} $は、ベクトル積の定義から、$ \vec{a}$ と直交する。<br/> そのため、$\vec{a}$ を平面$H$上で、原点まわりに、90度右回りか、左回りすれば、方向と向きが一致する。<br/> ・$\vec{b} \times \vec{c} $も、同様に考え、$\vec{b}$ を平面$H$上で、原点まわりに、90度右回りか、左回りすれば、方向と向きが一致することが分かる。<br/> ・どちら周りの回転になるかは、ベクトル積の定義によって決まるが、<br/> 後者の回転の向きが、前者の回転の向きと一致することが分かる。<br/> ・$\vec{a}\times \vec{c}$ の大きさは、<br/> $\|\vec{a}\times \vec{c}\|=\|\vec{a}\|\|\vec{c}\|\cos\pi/2=\|\vec{a}\|\|\vec{c}\|$ なので、$\vec{a}$ の大きさの$\|\vec{c}\|$倍になる。<br/> 同様に、$\vec{b}\times \vec{c}$ の大きさは、$\vec{a}$ の大きさの$\|\vec{c}\|$倍になる。<br/> ・以上の結果より、所望の結果は示された。<br/><br/> ⅱ)$ \qquad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}$を示そう。<br/> ・ ⅰ)と同じ議論により、<br/> $(\vec{a}+ \vec{b}) \times \vec{c}$は$\vec{a}, \vec{b}$の張る平行四辺形の対角線を、原点周りに90度、同じ向きに回転させ、$\|\vec{c}\|$倍させたものであることが分かる。<br/> ・すると、ⅰ)で示したことから、$(\vec{a}+ \vec{b}) \times \vec{c}$は<br/> $\vec{a} \times \vec{c}, \vec{b} \times \vec{c}$ の張る平行四辺形の対角線$\vec{a} \times \vec{c}+\vec{b} \times \vec{c}$ に等しいことが分かる。<br/> ・以上で①が示せた。<br/> ② 一般の場合。<br/> 性質1より、$\perp$ を$\vec{c}$と垂直な成分を表すとすると、 $ (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= (\vec{a}+ \vec{b})_\perp \times \vec{c} \qquad \qquad \qquad $(1)<br/> $(\vec{a}+ \vec{b})_\perp =\vec{a}_\perp +\vec{b}_\perp$なので、(1)式は、<br/> $ = (\vec{a}_\perp +\vec{b}_\perp) \times \vec{c}$ <br/> ①より、<br/> $ = \vec{a}_\perp \times \vec{c}+\vec{b}_\perp\times \vec{c}=\vec{a} \times \vec{c}+\vec{b} \vec{c}$ $ \qquad $ 性質3の証明終わり。<br/> 性質3の系の証明;<br/> 性質2より、<br/> $\vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= -(\vec{b}+ \vec{c})\times \vec{a} $<br/> 性質3より、 $= -(\vec{b} \times \vec{a}+ \vec{c} \times \vec{a})$ <br/> 再び性質2より、<br/> $=\vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c} \quad $前半の証明終わり <br/> 性質2より、<br/> $ \quad (\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=(\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{d}+\vec{c})\times \vec{d}$ <br/> 再び性質2より、<br/> $ =\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}$ $\quad$証明終わり。<br/> 性質4の証明;実数$\alpha$ が正、零、負の場合に分けて考える。いずれの場合にも ベクトル積の定義とベクトルと実数の積の性質から、容易に証明できる。<br/> 性質5の照明;ベクトル積と$(e_1,e_2,e_3)$ の定義から明らかである。<br/> 性質6の証明;$\vec a=a_x\vec{e_x}+a_y\vec{e_y}+a_z\vec{e_z}$, <br/> $\vec b=b_x\vec{e_x}+b_y\vec{e_y}+b_z\vec{e_z}$と表せるので、<br/> $\vec a \times \vec b=(a_x\vec{e_x}+a_y\vec{e_y}+a_z\vec{e_z})\times \vec b$ 性質3の系から<br/> $=a_x\vec{e_x}\times \vec b +a_y\vec{e_y}\times \vec b +a_z\vec{e_z}\times \vec b$ $\qquad$ (1)<br/> 式(1)の第1項 $a_x\vec{e_x}\times \vec b$ に $\vec b=b_x\vec{e_x}+b_y\vec{e_y}+b_z\vec{e_z}$ を代入して、性質3の系を使って変形すると、<br/> $a_x\vec{e_x}\times \vec b =a_x\vec{e_x}\times b_x\vec{e_x} +a_x\vec{e_x}\times b_y\vec{e_y} +a_x\vec{e_x}\times b_z\vec{e_z}$ $\qquad$ (2) <br/> 性質4と性質5を使うと、<br/> $a_x\vec{e_x}\times b_x\vec{e_x} =a_x b_x\vec{e_x}\times \vec{e_x} =\vec 0$ 。<br/> 同様の計算を行うと、<br/> $a_x\vec{e_x}\times b_y\vec{e_y} =a_x b_y\vec{e_x}\times \vec{e_y} =a_x b_y\vec{e_z}$ <br/> $a_x\vec{e_x}\times b_z\vec{e_z} =a_x b_z\vec{e_x}\times \vec{e_z} =-a_x b_z\vec{e_y}$ <br/> 式(2)にこれらを代入して、<br/> $a_x\vec{e_x}\times \vec b =a_x b_y\vec{e_z} - a_x b_z\vec{e_y} $ $\qquad$ (3)<br/> 式(1)の第2項、第3項も同様に計算すると、<br/> $a_y\vec{e_y}\times \vec b =a_y b_z\vec{e_x} - a_y b_x\vec{e_z} $ $\qquad$ (4)<br/> $a_z\vec{e_z}\times \vec b =a_z b_x\vec{e_y} - a_z b_y\vec{e_x} $ $\qquad$ (5)<br/> 式(3),(4),(5) を、式 (1)に代入すると、<br/> $\vec a \times \vec b =a_x b_y\vec{e_z} - a_x b_z\vec{e_y} +a_y b_z\vec{e_x} - a_y b_x\vec{e_z} +a_z b_x\vec{e_y} - a_z b_y\vec{e_x}$ <br/> $ =(a_y b_z - a_z b_y)\vec{e_x} +(a_z b_x - a_x b_z)\vec{e_y} +(a_x b_y - a_y b_x)\vec{e_z}$ <br/> 性質6の証明終わり。<br/> 性質7の証明;<br/> $ \quad (\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$を証明しよう。<br/> 残りも、同様に証明出来るので各自試みてください。<br/> 右手系をなす一つの直交座標を決める。<br/> 3つのベクトルを、この座標の成分で表示して、性質6と内積の性質を使えば、左右が等しいことが証明できる。<br/> 概略をスケッチしよう。<br/> $ \quad (\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c} =(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x) \cdot (c_x,c_y,c_z) =(a_yb_z-a_zb_y)c_x+(a_zb_x-a_xb_z)c_y+(a_xb_y-a_yb_x)c_z$ <br/> $ \quad (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$も、これと同じように計算する。<br/>これら両式を整頓すると、同じものであることが分かる。<br/> 性質7の証明終わり。 性質8の証明;<br/> 性質8. $ \quad \vec{a(t)} $ と $\vec{b(t)} $を,$t$にかんして微分可能な、ベクトルに値をとる関数とする。すると、<br/> $ \quad \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$ は、$t$にかんして微分可能で、<br/> $ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)})$ <br/> $ \quad =(\frac{d}{dt}\vec{a(t)} )\times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times (\frac{d}{dt}\vec{b(t)})$ すでにこのテキストで紹介した、ベクトル値関数の微分の定義を用いて証明する。<br/> $ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}) =\lim_{\delta t \to 0} (\vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)}- \vec{a(t)} \times \vec{b(t)})/\delta t$ $\qquad $ (1) <br/> この極限が存在し、<br/> $\frac{d}{dt}\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}+\vec{a(t)}\times \frac{d}{dt}\vec{b(t)}$<br/> になることを示せば性質8は証明できたことになる。<br/> 極限の計算が進むよう、右辺の式の分母は変形しよう。<br/> 関数の積の微分公式の証明と同じ技巧を用いる。<br/> $ \vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)} - \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$ <br/> $ = \vec a(t+\delta t)\times \vec{b(t+\delta t)} -\vec a(t)\times \vec{b(t+\delta t)} +\vec a(t)\times \vec{b(t+\delta t)} - \vec{a(t)} \times \vec{b(t)}$ <br/> ベクトル積の性質3を利用すると、 <br/> $ = \left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right) \times \vec b\left(t+\delta t\right) +\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right) $ この式を式(1)の右辺の分子の項に代入し整頓すると<br/> $ \quad \frac{d}{dt}(\vec{a(t)} \times \vec{b(t)}) =\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec a(t+\delta t)\times \vec b(t+\delta t)- \vec a(t) \times \vec b(t)} {\delta t}$ <br/> $=\lim_{\delta t \to 0} \frac{\left(\vec a\left(t+\delta t\right) -\vec a\left(t\right)\right) \times \vec b\left(t+\delta t\right) +\vec a\left(t\right)\times \left(\vec b\left(t+\delta t\right)- \vec b\left(t\right)\right) } {\delta t} $ <br/> ベクトル積の性質4を使い、<br/> $=\lim_{\delta t \to 0}\left( \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t} \times \vec b\left(t+\delta t\right) + \vec a(t)\times \frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)} {\delta t} \right)$ <br/> 極限の性質を使って、<br/> $=\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t} \times \lim_{\delta t \to 0}\vec b(t+\delta t) + \vec a(t)\times \lim_{\delta t \to 0}\frac{\vec b(t+\delta t)- \vec b(t)}{\delta t} $ <br/> 式中の極限は、$\vec a,\vec b$が、微分可能なので存在し、 <br/> $\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec a(t+\delta t) -\vec a(t)}{\delta t} =\frac{d\vec a(t)}{dt}$ <br/> $\lim_{\delta t \to 0} \frac{\vec b(t+\delta t) -\vec b(t)}{\delta t} =\frac{d\vec b(t)}{dt}$ <br/> また、$\lim_{\delta t \to 0}\vec b(t+\delta t)=\vec b(t) $ なので、 <br/> 所望の結果が得られた。性質8の証明終わり。 ===== 力のモーメントの性質 ===== ベクトル積の性質が分かったところで、再び、力のモーメントの考察に戻る。<br/> 剛体の一点 $P$ に加えられた力 $\vec F$ の、原点周りの力のモーメントは、<br/> $\vec N= \vec r \times \vec F= \vec{OP} \times \vec F$ で定義した。<br/> すると、<br/> x軸まわりの回転力(トルク)は、$T_{\vec e_x}=\vec N \cdot \vec e_x $ 、<br/> y軸とz軸周りの回転力も、それぞれ <br/> $T_{\vec e_y}=\vec N \cdot \vec e_y ,\quad T_{\vec e_z}=\vec N \cdot \vec e_z $ <br/> で表せることは、すでに説明した。<br/> ところが、もっと一般に、どんな軸の周りの回転力も、$\vec N$ から得られる。<br/> 定理;<br/> $\vec e$を、原点を始点とする大きさ1の任意のベクトルとする。<br/> すると、<br/> $\quad$ $\vec N \cdot \vec e$は、力$\vec{F}$の$\vec e$軸の周りの回転力になる。式で書くと、$T_{\vec e}=\vec N \cdot \vec e $ <br/> この式を、回転力の定義に基づいて言い換えると、<br/> 力$\vec{F}$のもとで、剛体を$\vec e$軸の右まわりに角度$\phi$だけ回転させたとき、 $\vec{F}$のなす仕事$W$は、$W=T_{\vec e} \phi=(\vec N \cdot \vec e) \phi$ <br/> 証明;<br/> 9つに分けて示す。<br/> ⅰ)準備 <br/> 図のように、剛体の点 $P$ から、$\vec e$ 軸に垂線を下ろし、その足を $Q$ とする。<br/> 力 $\vec F$ のもとで、剛体が $\vec e$ を固定軸にして、<br/> 微小時間に、微小角$\delta \phi$ だけ回転したとする。<br/> このとき、$P$ が移った先を、$P'$ とする。<br/> ⅱ)回転角 $\delta \phi$ が微小なので、<br/> この回転中の $P$ の軌跡(円弧の微小部分)は、有向線分$\vec{PP'}$ で精度高く、近似できる。<br/> ⅲ)この間に力 $\vec F$ がなした仕事 $\delta W$ は、$\delta W=\vec{PP'} \cdot \vec F$ <br/> この仕事を、回転角$\delta \phi$で割ると、力の $\vec e$ 軸周りの回転力が得られる。そこで、$\vec{PP'}$ を、この定理で与えられている諸量を使って表現し、これを用いて、仕事を計算しよう。<br/> ⅳ)有向線分$\vec{PP'}$の方向を求める。<br/> $\vec{PP'}$ は、$\vec e$ 軸と垂直で$Q$ を通る平面$H$上にあり、<br/> $Q$を中心とする円の弧の微小部分をなすので、線分$QP$ と直交する。$\vec{PP'}\perp QP$ <br/> また、$\vec e$ 軸と垂直で$Q$ を通る平面$H$上にあるので、 $\vec{PP'}$は$\vec e$ 軸とも直交し、従って線分$OQ$と直交する。$\vec{PP'}\perp OQ$ <br/> ゆえに、$\vec{PP'}$ は、3点O,Q,Pを通る平面 $OQP$ と直交する。<br/> すると、$\vec{PP'}$ は、平面 $OQP$ 上のすべての線分と直交する。<br/> ゆえに、$\vec{PP'}\perp \vec e$,$\quad \vec{PP'}\perp \vec{OP}$ <br/> これで、$\vec{PP'}$ の方向は、求まった。<br/> ⅴ)有向線分$\vec{PP'}$ の向き <br/> 点 $P$ は、$\vec e$ 軸の周りを右周りに回転するので、その向きは、 $\vec e \times \vec{OP}$ と同じ向きである。<br/> ⅵ)$\vec{PP'}$ の大きさ。<br/> $\vec{PP'}$は、 $Q$ を中心とする、半径 $\| \vec{QP} \|$ の円弧の一部なので、 その中心角$\delta \phi$ を用いて、$\| \vec{PP'}\|=\|\vec{QP}\|\delta \phi$ <br/> ⅶ)ⅳ)、ⅴ)、ⅵ)から $\vec{PP'}=\frac {\vec e \times \vec r}{\|\vec e \times \vec r \|}\|\vec{QP}\|\delta \phi$ <br/> ⅷ)$\vec{PP'}=\vec e \times \vec r \delta \phi$が成り立つ。<br/> なぜなら、<br/> $\|\vec e \times \vec r \|= \|\vec e \|\|\vec r \|\sin \theta =\|\vec r \|\sin \theta =\| \vec{QP} \| $ ,ここで $\theta$ は$\vec e$ と$\vec r$ の間の角。 <br/> この式をⅶ)で得られた式に代入すれば、所望の結果が得られる。<br/> ⅸ)$\delta W=\vec{PP'} \cdot \vec F =(\vec e \times \vec r \delta \phi) \cdot \vec F =(\vec e \times \vec r) \cdot \vec F \delta \phi =(\vec r \times \vec F)\cdot \vec e \delta \phi$ <br/> ⅹ)$ T_\vec e = \frac{\delta W}{\delta \phi} =(\vec r \times \vec F)\cdot \vec e =\vec N \cdot \vec e $ <br/> 定理の証明終わり。<br/> <br/> (注)剛体が固定軸の周りでなく、自由に回転するときでも、<br/> ある瞬間には、ある軸の周りの回転になっている。<br/> 力のモーメントは、どんな軸周りの回転力の情報も含んでいることが証明されたので、<br/> 回転運動一般に有効な概念であることが分かる。<br/> ====剛体の複数個所に作用する力の回転力 ==== 次に剛体の多くの点に力を加えたときの回転力を求めよう。<br/> 力の作用点を$P_i(x_i,y_i,z_i)$、力を$\vec{F^i}\quad (i=1,2,,,n)$とする。<br/> これらの力のもとで剛体がz軸まわりを$\Delta\theta$だけ微小回転するときの、各力のなす仕事の合計は、<br/> $(\sum_{i=1}^{n}(x_{i}(\vec F^i)_{y}-y_{i}(\vec F^i)_{x})*\Delta\theta$ <br/> 従って、作用点$P_i(x_i,y_i,z_i)$の力$\vec{F^i}\quad (i=1,2,,,n)$の全体がもつz軸まわりの回転力は、<br/> $T_\vec{e_z}=\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_z} =\sum_{i=1}^{n}(x_{i}(F_{i})_{y}-y_{i}(F_{i})_{x}) \quad $ ここで$T^i_\vec{e_z}$は力$\vec F^i $のz軸まわりの回転力。<br/> 同様に、x軸まわりとy軸まわりの回転力も、それぞれ<br/> $T_{\vec e_x}=\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_x} =\sum_{i=1}^{n}(y_{i}(F^i)_{z}-z_{i}(F^i)_{y})$ <br/> $T_{\vec e_y}=\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_y} =\sum_{i=1}^{n}(z_{i}(F^i)_{x}-x_{i}(F^i)_{z})$ <br/> 力$\vec F^i $の原点周りに力のモーメント$\vec N^i$は$\vec N^i=(T^i_{\vec e_x},T^i_{\vec e_y},T^i_{\vec e_z})$で定義した。<br/> 全ての力の原点周りの力のモーメントも、同様に<br/> $\vec N=(T_{\vec e_x},T_{\vec e_y},T_{\vec e_z})$で定義する。すると、<br/> $\vec N=(\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_x},\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_y},\sum_{i=1}^{n}T^i_{\vec e_z})=\sum_{i=1}^{n}N^i$<br/> 全ての力の原点周りの力のモーメント$\vec N$も、上述の定理と同様の定理(定理の系と呼ぶ)が成り立つ。<br/> 定理の系 <br/> $\vec N$を剛体に作用する全ての力のモーメントとし、<br/> $\vec e$を、原点を始点とする大きさ1の任意のベクトルとする。<br/> すると、<br/> $\quad$ $\vec N \cdot \vec e$は、力$\vec{F}$の$\vec e$軸の周りの回転力になる。<br/> 式で書くと、$T_{\vec e}=\vec N \cdot \vec e $ <br/> この式を、回転力の定義に基づいて言い換えると、<br/> 力$\vec{F^i}\quad (i=1,2,,, n) $のもとで、剛体を$\vec e$軸の右まわりに角度$\phi$だけ回転させたとき、<br/> これらの力のなす仕事$W$は、$W=T_{\vec e} \phi=(\vec N \cdot \vec e) \phi$ <br/><br/> この系は、内積の性質を使えば、定理から、容易に導かれる。<br/> ===== 質点系に作用する重力のモーメント ===== n個の質点系を考える。<br/> 第i質点の質量を$m_i$、位置ベクトルを$\vec{r_{i}}$とする。<br/> 鉛直上方をz軸の正方向とする直交座標系$0-xyz$をいれる。<br/> この質点系に作用する重力の原点周りのモーメント$\vec N$を求めよう。<br/> 第i質点に働く重力は、<br/> $\vec{f^{i}}=(0,0,-m_{i}g)$<br/> なので、<br/> $\vec N=\sum_{i=1}^{n}\vec{r_{i}} \times \vec{f^{i}} =\sum_{i=1}^{n}\vec{r_{i}} \times (0,0,-m_{i}g)$<br/> $=\sum_{i=1}^{n}(m_{i}\vec{r_{i}} \times (0,0,-g)) =(\sum_{i=1}^{n}m_{i}\vec{r_{i}}) \times (0,0,-g))$<br/> すでに学んだことから、この質点系の重心は、<br/> $\vec{R}=\frac{\sum_{i=1}^{n}m_{i}\vec{r_{i}})}{M}$ <br/> であった。ここで、 $M=\sum_{i=1}^{n}m_{i}$ 。<br/> これを用いて、モーメントを書きなおすと、<br/> $\vec N=M \vec{R} \times (0,0,-g)=\vec{R} \times (0,0,-Mg)$<br/> となる。<br/> これは、質点系の重心の位置に質点系の全質量が集中している時の、 原点周りの重力のモーメントに等しい。<br/> ====回転運動の方程式 ==== $\vec N$ が、あらゆる回転軸にかんする回転力を表現していることがわかった。<br/> 力$F$と運動量の変化の関係をあたえるニュートンの運動方程式(第2法則)を変形して、<br/> 回転力$\vec N$にかんする方程式を導こう。<br/> 直交右手座標系$O-xyz$ を定める。原点 $O$ は、考察対象に都合のよい点を選ぶ。<br/> 剛体を$N$個の(質点と考えてよい)微小部分$P^i(i=1 \cdots N)$に分け、<br/> その質量を$m_i$、位置ベクトルを$\vec{r}^i(x_i,y_i,z_i)$とする。<br/> $P_i$が外部から受ける力を$\vec {F}^i$、<br/> $P_i$ が剛体の他の部分$P_j(j\neq i)$ から受ける力(内力)を$\vec {F}^{ij}$とおく。<br/> 後者は、剛体が変形しないよう、剛体の原子間に働かせる力に起因する。<br/> この原子間の力は、原子の電荷による電気力と、<br/> 原子同士が接近しすぎたときに作用する量子力学的力により生じる。<br/> 作用・反作用の法則(運動の第3法則)から、$\vec F^{ij}=-\vec F^{ji}$ 。<br/> さらに、剛体の2点間に働く内力の方向は、<br/> その2点を結ぶ直線の方向と同じだと、仮定する。<br/> =====各質点のニュートンの運動方程式 ===== 各質点ごとに、ニュートンの運動方程式を立てると、<br/> $m_i\frac{d^2\vec r^i}{dt^2}=\vec F^i+\sum_{j\neq i}\vec F^{i,j} \quad (i=1 \cdots N)$ <br/>これを変形して<br/> $\vec F^i=m_i\frac{d^2\vec r^i}{dt^2}-\sum_{j\neq i}\vec F^{i,j} \quad (i=1 \cdots N)$ $\qquad (1)$ <br/> この式から、<br/> 力$\vec F^i$の回転力$\vec N^i=\vec r^i \times \vec F^i$にかんする式を導こう。<br/> =====$\vec N^i=\vec r^i \times \vec F^i$にかんする式の誘導 ===== 式(1)の両辺に左側から、$\vec r^i$ のベクトル積を施すと、<br/> $\vec N^i=\vec r^i \times \vec F^i =\vec r^i \times (m_i\frac{d^2\vec r^i}{dt^2}-\sum_{j\neq i}\vec F^{i,j}) $ $(i=1 \cdots N) $ <br/> ベクトル積の性質3と性質4により、<br/> $=m_i\vec r^i \times \frac{d^2\vec r^i}{dt^2}-\sum_{j\neq i}\vec r^i \times\vec F^{i,j}$ $\qquad (2)$ <br/> ここで、ベクトル積の性質8より<br/> $\frac{d}{dt}(\vec r^i \times \frac{d \vec r^i}{dt}) = \frac{d \vec r^i}{dt} \times \frac{d \vec r^i}{dt} +\vec r^i \times \frac{d^2\vec r^i}{dt^2} =\vec r^i \times \frac{d^2\vec r^i}{dt^2}$ <br/> なので、 $\vec N^i=m_i\frac{d}{dt}(\vec r^i \times \frac{d \vec r^i}{dt}) -\sum_i\vec r^i\times \vec F^{i,j} <br/> = \frac{d}{dt}(\vec r^i \times m_i\frac{d \vec r^i}{dt}) -\sum_{j\neq i}\vec r^i\times \vec F^{i,j} \qquad (3)$ <br/> 質点$P_i$の運動量を$\vec P^i$と書くと、<br/> $P^i=m_i\vec v^i=m_i\frac{d\vec r^i}{dt}$なので、<br/> $\vec N^i=\frac{d}{dt}(\vec r^i \times \vec P^i) -\sum_{j\neq i} \vec r^i \times \vec F^{i,j} $ <br/> 定義;'''角運動量'''(運動量のモーメントともいう)<br/> 質点の位置ベクトルを$\vec r$、運動量を$\vec p$と書くとき、<br/> $\vec l=\vec r \times \vec p$を,この質点の角運動量と呼ぶ。<br/> これを用いると、<br/> $\vec N^i=\frac{d\vec l^i}{dt}-\sum_{j\neq i} \vec r^i \times \vec F^{i,j} $ <br/> ===== 回転の運動方程式の導出 ===== 故に、<br/> $\vec N=\sum_i\vec N^i=\frac{d\sum_i \vec l^i}{dt}-\sum_i \sum_{j\neq i} \vec r^i \times \vec F^{i,j} \qquad (4) $ <br/> ここで、<br/> $\sum_i \sum_{j\neq i} \vec r^i \times \vec F^{i,j}=\sum \sum_{i<j}\vec r^i \times \vec F^{i,j}+\sum \sum_{i>j}\vec r^i \times \vec F^{i,j} \qquad (5)$ <br/> 式(4)の右辺の第2項の上付き添え字i,jを、それぞれ、j'と i'でおきかえられるので、<br/> $ \sum \sum_{i>j}\vec r^i \times \vec F^{i,j} =\sum \sum_{j'>i'}\vec r^{j'} \times \vec F^{j',i'}$ <br/> 内力は作用反作用の法則が適用できると仮定しているので、<br/> $\vec F^{j',i'}=-\vec F^{i',j'}$ 。この式を上の式の右辺に代入すると、<br/> $ \sum \sum_{i>j}\vec r^i \times \vec F^{i,j} =-\sum \sum_{j'>i'}\vec r^{j'} \times \vec F^{i',j'}$ <br/> この式の右辺の和をとる変数i',j' を i,j におきかえると、<br/> $\sum \sum_{i>j}\vec r^i \times \vec F^{i,j}=-\sum \sum_{i<j}\vec r^{j} \times \vec F^{i,j}$ <br/> この式を、式(5)の右辺の第2項に代入して整頓すると、<br/> $\sum_i \sum_{j\neq i} \vec r^i \times \vec F^{i,j} =\sum \sum_{i<j}(\vec r^i - \vec r^{j}) \times \vec F^{i,j}$ <br/> さらに、内力に関する第2の仮定により、$\vec r^i - \vec r^{j}$ と$\vec F^{i,j}$は同じ方向なので、ベクトル積の定義より、この項は、零となることが分かる。<br/> 故に、式(4)の右辺の第2項は零となり、<br/> $\vec N=\frac{d\sum_i \vec l^i}{dt} \qquad (6) $ <br/> が得られる。全角運動量を$\vec L =\sum_i \vec l^i $とおけば、<br/> 式(6)は、次のように書ける。<br/> '''命題;回転運動の関するオイラーの運動方程式'''<br/> 剛体の内力に上述の2つの仮定を付ける。このとき、<br/> 剛体に作用する全ての外部力の原点周りの力のモーメント$\vec N=\sum_i\vec N^i=\sum_i\vec r^i \times \vec F^i$と、<br/> 全角運動量$\vec L =\sum_i \vec l^i =\sum_i \vec r^i \times \vec p^i$の間には、<br/> $\vec N=\frac{d\vec L}{dt} \qquad $ (7)<br/> <br/> この命題の導出までは詳しく述べたが、本テキストではこれ以上は深入りしない。<br/> この先にも興味がある方は、次の記事をご覧ください。 *[[wikipedia_ja:オイラーの運動方程式 |ウィキペディア(オイラーの運動方程式)]] 2014.1.23 構成大幅変更の原稿 ==== 固定軸の周りの剛体の回転運動の方程式==== 回転運動の運動方程式から、任意の軸の周りの回転運動の方程式が簡単に導出できる。<br/> z軸周りの場合を例にとり、説明する。<br/> z軸周りの回転力は$T_{\vec e_z}=\vec N \cdot \vec e_z$なので、<br/> 回転運動の方程式から<br/> $T_{\vec e_z}=\vec N \cdot \vec e_z =\frac{d\vec L}{dt} \cdot \vec e_z$<br/> この式の右辺に,$L=\sum_i \vec r^i \times \vec p^i$ を代入すると<br/> 右辺<br/> $=\frac{d\sum_i \vec r^i \times \vec p^i}{dt}\cdot \vec e_z \qquad$ 微分の加法性から <br/> $=(\sum_i \frac{d \vec r^i \times \vec p^i}{dt})\cdot \vec e_z \qquad$ 内積の加法性から <br/> $=\sum_i(\frac{d \vec r^i \times \vec p^i}{dt}\cdot \vec e_z) \qquad$ ベクトル積の性質8から <br/> $=\sum_i(\frac{dr^i}{dt}\times \vec p^i+\vec r^i \times \frac{d\vec p^i}{dt})\cdot \vec e_z$ $\qquad \vec p^i=m_i\frac{d\vec r^i}{dt} $を代入し、ベクトル積の性質を用いると、 <br/> $=\sum_i(\vec r^i \times \frac{d^2 \vec r^i}{dt^2})\cdot \vec e_z$<br/> 故に、<br/> $T_{\vec e_z}=\sum_i(m_i\vec r^i \times \frac{d^2 \vec r^i}{dt^2})\cdot \vec e_z\qquad (1) $<br/> 剛体はz軸の周りを回転するので、<br/> その各点$P_i$(位置ベクトル$\vec r^i=\vec{OP_i}$)は、<br/> z軸と直交する平面上を、z軸を中心とする円を描いて運動する。<br/> この拘束条件を考慮して、<br/> 時刻$t$の位置ベクトル$\vec r^i(t)$の座標成分を書きなおすと、<br/> $\vec r^i(t)=(x^i,y^i,z^i)=(\hat{r}_i\cos\theta_i(t),\hat{r}_i\sin\theta_i(t),z^i) \qquad (2)$<br/> ここで$\hat{r}_i$は、点$P_i$とz軸との距離、<br/> $\theta(t)$は、$\vec r^i(t)$をxy平面に正射影した像がx軸となす角度である。図参照。<br/> 剛体につけておいた印$P_s$の位置ベクトル$\vec{OP_s}$を<br/> xy平面に正射影した像がx軸となす角(回転角)$\phi$を用いると、<br/> $\theta_i(t)=\phi(t)+\phi_i \qquad (3)$<br/> ($\phi_i$は、$P_i$ごとに決まる、定数)と書ける。<br/> 式(1)の右辺を、式(2)を利用して、変形すると、<br/> $=\sum_i m_i\left((\hat{r}_i\cos\theta_i(t),\hat{r}_i\sin\theta_i(t),z^i) \times \hat{r}_i(-\cos\theta_i\dot{\theta_i}^2-\sin\theta_i\ddot{\theta_i}, -\sin \theta_i \dot{\theta_i}^2 +\cos \theta_i\ddot{\theta_i}, 0) \right)\cdot \vec e_z $<br/> $=\sum_i m_i\hat{r}_i\left((\hat{r}_i\cos\theta_i(t),\hat{r}_i\sin\theta_i(t), z^i) \times (-\cos\theta_i\dot{\theta_i}^2-\sin\theta_i\ddot{\theta_i}, -\sin \theta_i \dot{\theta_i}^2 +\cos \theta_i\ddot{\theta_i}, 0) \right)_3$ <br/> ベクトル積の性質6より、<br/> $=\sum_i m_i\hat{r}_i$ <br/> $\left(\hat{r}_i\cos\theta_i(t) (-\sin\theta_i(t)\dot{\theta_i}(t)^2 +\cos\theta_i(t)\ddot{\theta_i}(t)) -\hat{r}_i\sin\theta_i(t) (-\cos\theta_i(t)\dot{\theta_i}(t)^2 -\sin \theta_i(t)\ddot{\theta_i}(t) \right)$<br/> $=\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2\ddot{\theta_i}(t)$<br/> ここで、$\theta_i(t)=\phi(t)+\phi_i$を代入すると<br/> $=(\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2)\ddot{\phi}(t)$<br/> 以上により、<br/> $T_{\vec e_z}=\vec N \cdot \vec e_z$ <br/> $=(\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2)\ddot{\phi}(t)$<br/> が得られた。 $I=\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2$とおくと、この式は<br/> $T_{\vec e_z}=I \ddot{\phi}(t) \qquad (4)$ <br/> と書ける。ここで$I$を、'''剛体の軸まわりの慣性モーメント'''と呼ぶ。<br/> これがz軸を固定軸とする剛体の回転運動の運動方程式である。<br/> この方程式の変数$\phi$ は、一次元のスカラーなので、<br/> 質点がなめらかに拘束され、直線上を運動するときの運動方程式<br/> $F=m\ddot{x}$<br/> と、対比させる。すると、<br/> 質点に作用する力 $F$ <===> 剛体に作用する回転力$T_{\vec e_z}=\vec N \cdot \vec e_z$<br/> 質点の質量 $m$ <===> 剛体の軸まわりの慣性モーメント$I=\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2$<br/> 質点の位置変数 $x(t)$ <===> 剛体のz軸周りの回転角変数$\phi(t)$<br/> 質点の速度 $\dot{x}=\frac{dx(t)}{dt}$ <===>剛体の角速度$\dot{\phi}(t)$;<br/> 質点の運動量 $m\dot{x}$ <===> 剛体の角運動量$I\dot{\phi}$;<br/> という、対応関係があることが分かる。<br/> =====剛体の回転の運動エネルギー ===== 剛体の各微小部分(質量$m_i$)の速度を $v_i$と書くと、<br/> その運動エネルギーは $\frac{1}{2}m_i {v_i}^2,(i=1 \cdots n)$なので、<br/> 剛体全体の運動エネルギーは、$K=\sum_{i}\frac{1}{2}m_i {v_i}^2$ <br/> 回転運動している各微小部分の速度は、$v_i=\hat{r}_i\dot{\phi}$と書けるので、<br/>$K=\sum_{i}\frac{1}{2}m_i {\hat{r}_i}^2 {\dot{\phi} }^2=\frac{1}{2}I{\dot{\phi} }^2,\qquad (5)$ <br/> =====物理振り子=====<br/> 剛体は、重心を通らない水平軸の周りで、重力の作用を受け振動する。<br/> これを物理振り子、あるいは実体振り子という。<br/> *[[wikipedia_ja:振り子 |ウィキペディア(振り子)]] 回転軸と垂直で、剛体の重心を通る平面を考え、<br/> 回転軸とこの平面の交点を原点$O$、重心を$G$と記す。図参照。<br/> 回転はなめらかで摩擦力は無視できるとする。<br/> すると、回転軸から、この剛体が受ける力は、剛体をこの軸に支える作用を持つだけで、剛体の振動に何の影響も与えない。<br/> そこで、剛体にかかる力は、重力だけと考えて良い。<br/> =====慣性モーメントの計算1(一次元の剛体) ===== 細長い棒$V$の、軸まわりの慣性モーメントを具体的に計算しよう。<br/> $V$は、ごく細い一様な質量密度のまっすぐな棒とする。<br/> 長さを$l$、質量を$M$とすると、単位長さ当たりの質量は$\rho=M/l$。<br/> 軸は棒と直角で、左端から$l_1$の場所$O$を通るとする。<br/> $O$を原点とし、棒と同じ方向の数直線を考え、これを座標系として採用。<br/> $V=[a=-{l_1},b=l-l_1]$と表現する。<br/> 剛体$V$の慣性モーメントは、<br/> 剛体を質点とみなせるほど細かい部分$V_i=[x_{i-1},x_i],(i=1,2,,,n)$に分割して、<br/> 各$V_i$の質量$m_i$と、$V_i$と$O$との距離$\hat{r}_i$を用いて、<br/> $I=\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2$で定義した。但し$x_0=a,x_n=b$<br/> ======'''慣性モーメントの近似式とリーマン和''' ====== $V_i$の質量$m_i$は、$V_i$の長さ$x_i-x_{i-1}$に質量密度$\rho$を掛ければ得られるので<br/> $m_i=\rho (x_i-x_{i-1})$となり、問題なく定まる。<br/> しかし、剛体$V=[a,b]$をいくら細かく分割しても、<br/> 各小区間$V_i=[x_{i-1},x_i]$は大きさ(長さ)をもつので、<br/> 原点との距離$\hat{r}_i$は、一つに定まらない。<br/> そこで、各小区間$V_i$から、代表点$\xi_i$を選びだし、その点の原点からの距離$|\xi_i|$、($\xi_i$絶対値)を、$\hat{r}_i$とみなす。<br/> すると、慣性モーメント$I$の式は<br/> $\sum_i m_i(\hat{r}_i)^2=\sum_i \rho(\xi_i)^2(x_i-x_{i-1})$<br/> で近似される。<br/> これは分割の仕方と分割小区間の代表点$\xi_i$の選び方によって変化する。<br/> そこで、この分割を<br/> $\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,,n\} $ と表し、 $I^{\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$<br/> で,慣性モーメントの近似式を表すことにする。<br/> すると、<br/> 分割$\Delta$とその小区間$V_i$から代表点$\xi_i$を選んだときの<br/> '''慣性モーメントの近似式'''は、<br/> $I^{\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\sum_{i=1}^{n}\rho(\xi_i)^2(x_i-x_{i-1})$<br/> と書ける。<br/> 関数$y=f(x)=\rho x^2$を使って表現すれば、<br/> $I^{\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\sum_{i=1}^{n}f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$<br/> 数学の分野では、この和の式は、<br/> 分割$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,,n\} $と$V_i$の代表点$\xi_i,(i=1,2,,,n)$に関する関数$y=f(x)$の'''リーマン和'''と呼ばれ、<br/> $I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$<br/> と表示する。<br/> 関数$y=f(x)$は任意にきめられるので、どの関数のリーマン和か分かるように、明示してある。<br/> ======慣性モーメントの近似式の意味 ====== 今後、関数$y=f(x)$は、$V=[a,b]$で定義された有界関数として、 議論を進める。<br/> 有界関数とは、十分大きな正数$M$を選べば、<br/> $V=[a,b]$の全ての点$x$に対して、$|f(x)| \leq M$となること。<br/> $y=f(x)=\rho x^2$を代入すれば、考察対象の剛体の慣性モーメントの話になる。<br/> リーマン和<br/> $I^{\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\sum_{i=1}^{n}f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$<br/> は、$y=f(x)$のグラフを、棒グラフで近似したときの棒グラフの作る面積(各角柱の面積和)であることが分かる。図参照。<br/> $y=f(x)$のグラフとx軸およびy軸と平行な直線$x=a$、$x=b$で囲まれる部分の面積を近似している。<br/> 分割を限りなく細かくしていくとき、この値が分割や代表点の選び方に関係ない数に収束するならば、 その極限値は、$y=f(x)$のグラフとx軸およびy軸と平行な直線$x=a$、$x=b$で囲まれる部分の面積と考えられる。<br/> ======可積分条件====== この節は、区間上で定義された関数の 積分可能な条件を紹介する。<br/> 大学の教養コース程度の数学を使うが、テキスト中で理解できるように説明する。<br/> 興味のない方は、とばしてください。<br/> <br/> '''(1)準備;集合論の初歩'''<br/> 集合論の初歩の知識は前提にして記述するので、<br/> なじみのない方は、下記を参考に、<br/> 集合の素朴な定義、集合の和集合や共通集合、集合の包含関係などについて学習してほしい。 *[[wikipedia_ja:集合 |ウィキペディア(集合)]] '''(2)区間上の関数のリーマン和'''<br/> '''定義;リーマン和 ''' <br/> 区間$V=[a,b]$で定義され、実数に値をとる関数$y=f(x)$を考える。<br/> この区間の分割<br/> $\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,n\},x_0=a,x_n=b$<br/> と、その代表点$\xi_i\in V_i(i=1,2,,,n)$に関する、$y=f(x)$のリーマン和とは、 $I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=$<br/> $\sum_i f(\xi_i)v(V_i)=\sum_i f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$ <br/> で定義する。<br/> リーマン和は、$y=f(x)$のグラフを、棒グラフで近似したときの棒グラフの作る面積(各角柱の面積和)であることが分かる。図参照。<br/> $y=f(x)$のグラフとx軸およびy軸と平行な直線$x=a$、$x=b$で囲まれる部分の面積を近似している。<br/> '''(3)リーマン和の不足リーマン和と過剰リーマン和による評価'''<br/> $V$を分割して得られた小区間$V_i=[x_{i-1},x_i]$を考える。<br/> 関数$y=f(x)$をこの小区間上に限定した時、<br/> 関数は、この区間上の点で最大値と最小値をとると仮定する(注参照)。<br/> 関数の最大値$max\{f(x)\mid x\in V_i\}$と最小値$min\{f(x)\mid x\in V_i\}$を、それぞれ、$m(f;V_i),M(f;V_i)$と書く。<br/> (注) 区間上で最大値、最小値を取らない関数では、<br/> [[wikipedia_ja:有界函数 |有界な関数]]でありさえすれば、常に存在し、しかも最大値、最小値と殆ど同じ性質をもつ、<br/> 上限、下限に置き換えれば以後の、議論は成り立つ。上限、下限については「(5)不足リーマン和の上限と過剰リーマン和の下限」で説明する。<br/><br/> すると、$V_i$の任意の点$\xi$ に対して、<br/> $m(f;V_i)\leq f(\xi) \leq M(f;V_i)$ <br/> 故に、<br/> '''補題1'''<br/> ⅰ)どのような代表点$\{\xi_i\}_{i}, (\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n)$に対しても<br/> $I_{m}(f,\Delta):=I^{f,\Delta}(\xi_{1}^m,,,\xi_{n}^m) =\sum_i m(f;V_i)v(V_i)$<br/> $\leq I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\sum_i f(\xi_i)v(V_i)$<br/> $\leq \sum_i M(f;V_i)v(V_i) =I_{M}(f,\Delta)=I^{f,\Delta}(\xi_{1}^M,,,\xi_{n}^M) \qquad (1)$ <br/> そこで、$I_{m}(f,\Delta)$を'''$\Delta)$に関する$f$の'''不足リーマン和'''、$I_{M}(\Delta)$を'''過剰リーマン和'''と呼ぶ。<br/> ⅱ)$I_{m}(f,\Delta)=\min_{\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n}I^{f,\Delta}(\xi_{1}^M,,,\xi_{n}^M)$ <br/> $I_{M}(f,\Delta)=\max_{\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n}I^{f,\Delta}(\xi_{1}^M,,,\xi_{n}^M)$ <br/> 証明は明らかなので省略。<br/> '''(4)分割の細分とリーマン和の評価式'''<br/> '''定義;分割の細分'''<br/> $V$の分割${\Delta}'$が分割$\Delta$の細分というのは、<br/> $\Delta$の分点の集合$\{x_0,x_1,,,,x_n\}$が、<br/> ${\Delta}'$の分点の集合$\{x'_0,x'_1,,,,x'_{n'}\}$に真に含まれることと定義する。<br/> 記号でかけば、$\{x_0,x_1,,,,x_n\}\subset \{x'_0,x'_1,,,,x'_{n'}\}, \{x_0,x_1,,,,x_n\}\neq \{x'_0,x'_1,,,,x'_{n'}\}$。 記号では、$\Delta \leq {\Delta}'$と記す。<br/><br/> '''補題2'''<br/> $\Delta \leq {\Delta}'$という分割に対し、<br/> $I_{m}(f,\Delta) \leq I_{m}(f,\Delta') \leq I_{M}(f,\Delta') \leq I_{M}(f,\Delta) \qquad (2)$ <br/> が成り立つ。 <br/> (証明)<br/> $\Delta$の小区間$V_i=[x_{i-1},x_i]$が分割${\Delta}'$では、<br/> $\{V'_j=[x_{i-1},x'_j],V'_{j+1}=[x'_j,x_i]\}$の2つに分割されたとする。<br/><br/> すると、区間上の関数の最大値と最小値の定義から、<br/> $m(f;V_i) \leq m(f;V'_j)$ $\quad m(f;V_i) \leq m(f;V'_{j+1})$<br/> $M(f;V_i) \geq M(f;V'_j)$ $\quad M(f;V_i) \geq M(f;V'_{j+1})$<br/> これらから、命題は成立することが分かる。<br/><br/> '''(5)不足リーマン和の上限と過剰リーマン和の下限''' 補題2から、分割の細分を繰り返していくと、その分割に対応する、<br/> 不足リーマン和は、広義増加(増加するか、同じ値にとどまる)し、<br/> 過剰リーマン和は、広義減少する。<br/> 分割を細かくしていったとき、これらの極限が一致すれば、補題1から、<br/> リーマン和の極限値は、代表点に無関係に、定まることになる。<br/> そこで色々な分割に対応する不足リーマン和のなかの最大値と過剰リーマン和の最小値を求めることが、重要になる。しかし一般にはこれらは存在しないことが示せる。<br/> そこで最大値に近い性質を持つ上限と最小値に近い下限という概念を利用する。<br/> '''定義;上界と下界'''<br/> ${\bf R}$を、全ての実数を要素とする集合とし、<br/> $A$をその部分集合とする。<br/> 実数$u$が$A$の上界(upper bound)とは、<br/> 任意の$a \in A$に対して、$a \leq u$がなりたつこと。<br/> 実数$l$が$A$の下界(lower bound)とは、<br/> 任意の$a \in A$に対して、$l \leq a$がなりたつこと。<br/> $U_A$を$A$の上界をすべて集めた集合、<br/> $L_A$を$A$の上界をすべて集めた集合とする。<br/> $U_A$が空集合$\emptyset$でない(すなわち、$A$の上界が少なくとも一つ存在する)とき、<br/> $A$は'''上に有界'''であるといい、<br/> $L_A\neq \emptyset$の時、$A$は'''下に有界'''であるという。<br/> 上に有界で、下にも有界な集合($\subset {\bf R})$は、'''有界'''という。<br/> '''実数の連続の公理'''<br/> 以下の性質は、色々な極限の存在の根拠を与えるもので、実数の持つ最も重要な性質の一つである。<br/> $A \subset {\bf R}$とする。<br/> もし、$U_A \neq \emptyset$ならば、$U_A$は、最小元を持つ。<br/> これを$A$の'''上限(supremum)'''あるいは'''最小上界(least upper bound)'''という。<br/> もし、$L_A \neq \emptyset$ならば、$L_A$は、最大元を持つ。<br/> これを$A$の'''下限(infimum)'''あるいは'''最大下界(greatest lower bound)'''というという。<br/><br/> 補題3<br/> $u$が$A(\subset {\bf R})$ の上限となるための必要十分条件は、<br/> ⅰ)$u$は$A$の上界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$a \leq u$ <br/> ⅱ)$x<u$である任意の$x$は$A$の上界ではない。すなわち、$x<a$となる$a\in A$が存在。<br/> ⅲ)$A$が最大値を持つ場合には、上限は最大値と一致する。<br/> 同様に、$l$が$A$ の下限となるための必要十分条件は、<br/> ⅰ)$l$は$A$の下界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$l\leq a$ <br/> ⅱ)$l<x$である任意の$x$は$A$の下界ではない。すなわち、$a<x$となる$a\in A$が存在。<br/> ⅲ)$A$が最小値を持つ場合には、下限は最小値と一致する。<br/><br/> $A$ の上限を$\sup A$、下限を$\inf A$と書く。<br/><br/> 証明は、上限、下限の定義から、明らかなので省略する。<br/> 例;$A=(0,1)$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。<br/> これらは、ともに$A$の要素でないので、<br/> 上限1は$A$の最大元(最大値)ではなく、下限0は$A$の最小元(最小値)ではない。<br/> $A=[0,1]$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。<br/> これらは、ともに$A$の要素なので、<br/> 上限は最大限であり、下限は最小限となる。<br/> 補題4. $A \subset B \subset {\bf R}$で、$B$は有界集合とする。<br/> このとき、$\inf B \leq \inf A \leq \sup A \leq \sup B$<br/> 証明は容易である。<br/><br/> 関数$y=f(x)$が連続でない時は、区間上で最大値や最小値を取らないことがある。 この場合も考慮して、最大値を上限に、最小値を下限に置き換えて、$m(f;V_i)=\inf\{f(x)\mid x\in V_i\},M(f;V_i)=\sup \{f(x)\mid x\in V_i\}$で定義すれば、 有界関数に対して、これらは常に定義され、今までの議論はすべて成り立つ。 ''' 2つの分割の共通の細分 '''<br/> 分割$\Delta$の分点の集合$\{x_j \mid j=1,2,,,m\}$と、<br/> 分割${\Delta}'$ の分点の集合$\{x'_j \mid j=1,2,,,n\}$の<br/> 和集合$\{x_j \mid j=1,2,,,m\} \cup \{x'_j \mid j=1,2,,,n\}$を分点とする分割を$\Delta \vee {\Delta}'$と書く。<br/> すると新しい分割は<br/> $\Delta \leq \Delta\vee {\Delta}' \qquad $ と ${\Delta}' \leq \Delta\vee {\Delta}' \quad $<br/> を満たす。<br/> これを用いると、不足リーマン和の上限$\mathscr{s}(f)$と過剰リーマン和の下限$\mathscr{S}(f)$が存在することが証明できる。<br/> 補題5<br/> $f$を区間$V=[a,b]$で定義され実数値をとる有界関数(すなわち、$\{f(x)\mid x\in V\}$が${\bf R}$の有界集合)とする。<br/> $V=[a,b]$の分割を全て集めて作った集合を$\mathscr{D}(V)$と書く。<br/> すると、<br/> ⅰ)任意の$\Delta,{\Delta}'\in \mathscr{D}(V)$に対して、 $I_m(f,\Delta) \leq I_M(f,{\Delta)}')$<br/> ⅱ)集合$\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は上に有界、<br/> 集合$\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は下に有界<br/> ⅲ)$\mathscr{s}(f):=\sup\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$と <br/> $\mathscr{S}(f):=\inf\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は存在し、<br/> $\mathscr{s}(f) \leq \mathscr{S}(f)$ <br/> 証明;<br/> ⅰ)$\Delta \leq \Delta\vee {\Delta}'$ なので、補題2から、<br/> $I_m(f,\Delta) \leq I_m(f,\Delta\vee {\Delta}') \leq I_M(f,\Delta\vee {\Delta}') \leq I_M(f,{\Delta}') $<br/> ⅱ)1)で証明した不等式で、分割${\Delta}'$ は固定する。<br/> すると全ての分割 $\Delta$に対して、$I_m(f,\Delta) \leq I_M(f,{\Delta)}')$なので<br/> 集合$\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は、上界$I_M(f,{\Delta)}')$を持ち、上に有界である。<br/> 後者も同様にして下に有界であることが示せる。<br/> ⅲ)従って、実数の連続性の公理から、<br/> 集合$\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は上限$\mathscr{s}(f)$をもち、<br/> 集合$\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は下限$\mathscr{S}(f)$をもつ。<br/> 上限は、上界の中の最小値なので、<br/> $\mathscr{s}(f)\leq I_M(f,{\Delta}')$<br/> この式は任意の${\Delta}'$について成立するので、<br/> $\mathscr{s}(f)$は、集合$\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$の下界である。<br/> 下限$\mathscr{S}(f)$は、下界のなかの最大値なので$\mathscr{s}(f) \leq \mathscr{S}(f)$を得る。<br/> '''(6)分割を細かくしていくと不足リーマン和はその上限$\mathscr{s}$に、過剰リーマン和はその下限$\mathscr{S}$に収束する'''<br/> この命題を正確に述べるには、 まず、分割$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,n\}$の大きさを、きちんと定める必要がある。<br/> 定義;$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,n\}$の大きさ$d(\Delta)$とは、<br/> この分割で得られた小区間の長さの、最大値で定義する。記号で書くと<br/> $d(\Delta)=max\{x_{i}-x_{i-1} \mid i=1,2,,,n\}$ 定理(ダルブー;Darboux)<br/> $V=[a,b]$<br/> $f$を、$V$で定義され、実数に値を取る有界関数とする。<br/> このとき、<br/> ⅰ)$\lim_{d(\Delta) \to 0}I_m(f,\Delta)=\mathscr{s}(f)$<br/> ⅱ)$\lim_{d(\Delta) \to 0}I_M(f,\Delta)=\mathscr{S}(f)$<br/> 証明;<br/> ⅰ)を示す。ⅱ)は同じようにして証明できるので略す。<br/> これを示すには、どんなに小さい正の実数$\epsilon$に対しても、それに応じた、小さい正の実数$\delta_{\epsilon}$を適切に選べば、分割の大きさが$\delta_{\epsilon}$より小さい、どんな分割$\Delta$も、$\mathscr{s}(f)-I_m(f,\Delta)<\epsilon$であることを示せばよい。以下に、数段階に分けて、これを証明する。<br/> $\quad 1)<br/> $上限の性質(補題3)から、<br/> ある分割<br/> $D=\{{V^D}_i=[{x^D}_{i-1},{x^D}_i] \mid i=1,2,,,n\}in \mathscr{D}(V)$<br/> が存在して、<br/> $\mathscr{s}(f)-I_m(f,D)<\frac{\epsilon}{2} \qquad (1)$<br/> 今後この$D$を使って、証明を進める。<br/> $\quad 2)$<br/> 分割$D$の小区間${V^D}_i$の長さ$({x^D}_i-{x^D}_{i-1})(i=1,2,,,n)$の 最小値を$e$とおくと<br/> $e=min_{i=1}^{n}({x^D}_i-{x^D}_{i-1})$ <br/> $e$に比べて非常に小さい大きさを持つ分割、<br/> $\Delta=\{V^{\Delta}_i=[{x^{\Delta}}_{i-1},{x^{\Delta}}_i] \mid i=1,2,,,N\}$、 <br/> $d(\Delta)=max_{i=1,2,,,N}({x^{\Delta}}_i-{x^{\Delta}}_{i-1}) \ll e$<br/> <br/> を考える。<br/> もし、$D \leq \Delta$ならば補題2より、$I_m(f,D) \leq I_m(f,\Delta)$、<br/> すると$\mathscr{s}(f)-I_m(f,\Delta)\leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,D) \leq \frac{\epsilon}{2}\leq \epsilon$ <br/> 通常、分割$\Delta$は、$D$の細分になっていない。<br/> この場合は、いくつか(高々n-1個)の$\Delta$の小区間が、$D$の小区間には含まれず、<br/> $D$の分点${x^D}_i(i=1,2,,,n-1)$をまたぐことになる。図参照のこと。<br/> 議論を簡単にするため、$D$の分点${x^D}_i(i=1,2,,,n-1)$が全て、$\Delta$の小区間によって跨がれていると仮定し、議論を進める。<br/> 他のケースでも、証明はおなじようにできるので、このように仮定しても何の問題も起こらない。<br/> $D$の分点${x^D}_i$を跨ぐ$\Delta$の小区間を$V^{\Delta}_{m_i}$とする(i=1,2,,,n-1)。<br/> $\quad 3)$ <br/> 2つの分割$D、\Delta$から${\Delta}':=D \vee \Delta$を作る。<br/> すると<br/> ${\Delta}'=\{V^{\Delta}_1,V^{\Delta}_2,,,,,,,,,V^{\Delta}_{m_{1}-1},$<br/> $\qquad \quad [x^{\Delta}_{m_{1}-1},x^{D}_1],[x^{D}_1,x^{\Delta}_{m_{1}}],$<br/> $\qquad \quad V^{\Delta}_{m_{1}+1},V^{\Delta}_{m_{1}+2},,,,,,,,,V^{\Delta}_{m_{2}-1},$<br/> $\qquad \quad [x^{\Delta}_{m_{2}-1},x^{D}_2],[x^{D}_2,x^{\Delta}_{m_{2}}],$<br/> $\qquad \quad V^{\Delta}_{m_{2}+1},V^{\Delta}_{m_{2}+2},,,V^{\Delta}_{m_{3}-1},$<br/><br/> $\qquad \quad ,,,,,,,,,$<br/><br/> $\qquad \quad V^{\Delta}_{m_{n-1}+1},V^{\Delta}_{m_{n-1}+2},,,,,,,,,V^{\Delta}_N\} \qquad (2)$<br/> と書ける。<br/> $\Delta \leq {\Delta}'$で、 $D \leq {\Delta}'$ なので、<br/> $I_m(f,\Delta) \leq I_m(f,{\Delta}')$, $\quad I_m(f,D) \leq I_m(f,{\Delta}')$<br/> 後者の式から、<br/> $0 \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,{\Delta}') \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,D)$<br/> この式と(1)式から、<br/> $0 \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,{\Delta}')<\frac{\epsilon}{2}$<br/> そこで、<br/> 「$d(\Delta) \to 0 $ならば、$I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)<\frac{\epsilon}{2}$ <br/> が示せれば、<br/> $0 \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,\Delta)$<br/> $=(\mathscr{s}(f)-I_m(f,{\Delta}')+(I_m(f,{\Delta}'-I_m(f,\Delta)\leq \epsilon$<br/> が示され、証明が終わる。<br/> $\quad 4)$ <br/> $I_{m}(f,\Delta)=\sum_{i=1}^{N} m(f;V^{\Delta}_i)v(V^{\Delta}_i)$ であり、<br/> (2)式から、<br/> $I_m(f,{\Delta}')$<br/> $=\sum_{i\notin \{m_1,m_2,,,,m_{n-1}\}} m(f;V^{\Delta}_i)v(V^{\Delta}_i)$<br/> $+\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])v([x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])$<br/> $+\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])v([x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])$<br/> なので、<br/> $I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)$<br/> $=\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])v([x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])$<br/> $+\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])v([x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])$<br/> $-\sum_{i\in \{m_1,m_2,,,,m_{n-1}\}} m(f;V^{\Delta}_i)v(V^{\Delta}_i)$<br/> 関数は$V$上で有界なので、適切に正の実数$M$を選ぶと、$x$が$V$の要素ならば<br/> $|f(x)|\leq M$が成立する。<br/> すると$|m(f;[x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])|, |m(f;[x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])| \leq M$<br/> が成り立つ。また<br/> $v(V^{\Delta}_{m_k}) =v([x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])+v([x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])$で、<br/> $v(V^{\Delta}_i)\leq d(\Delta) $<br/> なので<br/> $|I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)|\leq 2M\sum_{i\in \{m_1,m_2,,,,m_{n-1}\}} v(V^{\Delta}_i)\leq 2M(n-1)d(\Delta)$<br/> そこで、<br/> $\delta_{\epsilon}=\frac{\epsilon}{4Mn}$ と選べば、<br/> $d(\Delta)\leq \delta_{\epsilon}$をみたすどのような分割$\Delta$も、<br/> $0\leq I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)|\leq \frac{\epsilon}{2}$<br/> を満たすことが証明できた。証明終わり。<br/> '''(7)可積分条件'''<br/> 定理;可積分条件 <br/> $V=[a,b]$<br/> $f$を、$V$で定義され、実数に値を取る有界関数とする。<br/> 次の条件のうち1つが成立すれば、残り2つは成立する(互いに同値という)。 ⅰ)$f$は$V$上で(リーマン)可積分<br/> ⅱ)$\lim_{d(\Delta) \to 0}(I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta))=0$<br/> ⅲ)$\mathscr{S}(f)=\mathscr{s}(f)$<br/> <br/> 証明<br/> ⅰ)を仮定する。ⅱ)が成立することを示そう。<br/> $f$の積分値を$\alpha$とおくと、可積分の定義から、<br/> 任意の$\epsilon>0$に対して、$\delta>0$が存在して、<br/> $d(\Delta)<\delta$である任意の分割と、その分割の任意の代表点$\xi_i,(i=1,2,,,)$に対し,<br/> $|I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)-\alpha |<\frac{1}{2}\epsilon$<br/> が成立する。<br/> 変形すると<br/> $\alpha-\frac{1}{2}\epsilon <I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n) <\alpha+\frac{1}{2}\epsilon \qquad (1) $<br/> ここで、補題1のⅱ)から、<br/> $\inf_{\{\xi_i\}}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n) =I_{m}(f,\Delta)$<br/> $\sup_{\{\xi_i\}}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n) =I_{M}(f,\Delta)$<br/> なので、<br/> (1)式から、<br/> $\alpha-\frac{1}{2}\epsilon \leq I_{m}(f,\Delta) \leq I_{M}(f,\Delta) \leq \alpha+\frac{1}{2}\epsilon$<br/> これより、任意の$\epsilon>0$に対して、$\delta>0$が存在して、<br/> $d(\Delta)<\delta \implies (0\leq I_{M}(f,\Delta)-I_{m}(f,\Delta)\leq \epsilon)$<br/> ⅱ)が示せた。<br/> ⅱ)を仮定する。 ⅲ)が成り立つことを示す。<br/> $I_{m}(f,\Delta) \leq \mathscr{s}(f):=\sup_{\Delta}I_{m}(f,\Delta) \leq \mathscr{S}(f):=\inf_{\Delta}I_{M}(f,\Delta) \leq I_{M}(f,\Delta)$<br/> なので、<br/> $0 \leq \mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f) \leq I_{M}(f,\Delta)-I_{m}(f,\Delta)$<br/> 故に、分割を細かくしていき、極限をとると、<br/> $0 \leq \mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f) \leq \lim_{d(\Delta)\to 0}(I_{M}(f,\Delta)-I_{m}(f,\Delta))$<br/> ⅱ)が成立するので、<br/> $=0$<br/> ⅲ)が示せた。<br/> ⅲ)を仮定する。 $\alpha=\mathscr{S}(f)=\mathscr{s}(f)$とおく。<br/> ⅰ)が成り立つことを示そう。<br/> 補題1のⅰ)から、どのような分割$\Delta$と、その代表点$\{\xi_i\}_{i}, (\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n)$に対しても<br/> $I_{m}(f,\Delta) \leq I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n) \leq I_{M}(f,\Delta)$<br/> ここで、ダルブーの定理から、<br/> $\lim_{d(\Delta) \to 0}I_{m}(f,\Delta)=\mathscr{s}(f)=\alpha$,<br/> $\lim_{d(\Delta) \to 0}I_{M}(f,\Delta)=\mathscr{S}(f)=\alpha$<br/> が成り立つので、<br/> $\lim_{d(\Delta) \to 0}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\alpha$ <br/> が成り立つ。<br/> ⅰ)が示せた。<br/> '''(8)有限個の点を除いて連続な閉区間上の関数は積分可能'''<br/> 色々な関数のグラフを書くとつながっているところを、跳んでいるところが出来る。<br/> $y=X$のグラフはずっとつながっている。<br/> $x<0$のとき $y=0$, $0\leq x$のとき $y=1$ で関数を定義すると、$x=0$のところで そのグラフは跳んでいる。<br/> 連続や不連続は関数の非常に重要な性質であり、それを調べることはとても豊かな知識をもたらす。<br/> しかし正確に議論するには、連続とは何かをきちんと定義する必要がある。<br/> 関数の連続性の定義;<br/> 実数値関数 $f(x)$ がある点''' $x_0$で連続'''であるとは、<br/> $x$が$x_0$ に限りなく近づくならば、$f(x)$ が $f(x_0)$ に限りなく近づくことを言う。$\lim_{x\to x_0} f(x) = f(x_0)$と記す。<br/> これはイプシロン-デルタ論法(ε-δ論法)を用いれば次のように定式化できる。<br/> (小さな)正の数 ε が任意に与えられたとき、<br/> (小さな)正の数 δ をうまくとってやれば、<br/> $x_0$ と δ 以内の距離にあるどんな $x$ に対しても、<br/> $f(x)$ と $f(x)$ の差が ε より小さいようにすることができる。<br/> 関数 $f(x)$ がある区間$I$ で連続であるとは、<br/> $I$ に属するそれぞれの点において連続であることを言う。<br/> 定理 <br/> 有界閉区間上$V=[a,b]$で定義され、実数に値を取る連続関数$f$は、V上で可積分である。<br/> 略証;<br/> 有界閉区間上の連続関数は[[wikipedia_ja:一様連続 |一様連続]]なので、<br/> 任意の$\epsilon>0$に対して、$\delta>0$が存在して、<br/> $|x-x'|\leq \delta$を満たす$V$の任意の2点に対して、<br/> $|f(x)-f(x')|< \frac{\epsilon}{b-a}$<br/> が成立する。<br/> $V=[a,b]$の分割$\Delta$を細かくして、<br/> $d(\Delta)<\delta$<br/> を満たすようにする。<br/> すると、その分割によって得られた小区間$V_i(i=1,2,,,n)$の長さは、<br/> 全て$\delta$より小さくなるので、<br/> $\sup \{f(x)\mid x\in V_i\}-\inf\{f(x)\mid x\in V_i\}<\frac{\epsilon}{b-a}$<br/> $M(f;V_i),m(f;V_i)$の定義から<br/> $M(f;V_i)-m(f;V_i)<\frac{\epsilon}{b-a}, (i=1,2,,,n)$ これを用いると、<br/> $I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta)=\sum_{i=1}^{n} M(f;V_i)v(V_i)-\sum_i m(f;V_i)v(V_i)$<br/> $=\sum_i(M(f;V_i)- m(f;V_i))v(V_i) \leq \sum_i \frac{\epsilon}{b-a}v(V_i) =\frac{\epsilon}{b-a}\sum_{i=1}^{n}v(V_i) =\frac{\epsilon}{b-a}(b-a) =\epsilon$<br/> 故に、<br/> 任意の$\epsilon>0$に対して、$\delta>0$が存在して、<br/> $d(\Delta)<\delta$を満たす任意の分割$\Delta$にたいして、<br/> $I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta)\leq \epsilon$が示せた。<br/> $\mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f)\leq I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta)$<br/> なので<br/> $\mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f)\leq \epsilon$<br/> が任意の$\epsilon>0$にたいして成立する。故に<br/> $\mathscr{S}(f)=\mathscr{s}(f)$<br/> 可積分条件のⅲ)が示せた。証明終わり。<br/><br/> 定理の系;有限個の不連続点をもつ、有界閉区間上の関数は積分可能である。<br/> ====== 積分の性質 ====== 定理(積分の線形性)<br/> $f, g \quad$を、区間$I$上で定義された、任意の実数値関数であり、<br/> $c, d \quad$を任意の実数とする。<br/> このとき、<br/> (1)$f,\quad g \quad$が$I$上で可積分ならば、$cf+dg \quad$も$I$上で可積分<br/> (2)このとき、$ \int_{I}(cf+dg)=c\int_{I}f+d\int_{I}g $<br/><br/> 証明;リーマン和の定義から、区間$I$の任意の分割$\Delta=\{I_1,,,,I_n\} $と 分割区間の任意の代表点$\xi\in V_i(i=1,2,,,,n) $($\xi$は$V_i$に含まれる意)に対して、<br/> $S(cf+dg,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n}) =cS(f,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n}) +dS(g,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n}) \qquad (1)$<br/> $f,\quad g \quad$は可積分なので、その定義から、<br/> $\lim_{d(\Delta) \to 0}S(f,\Delta,\{\xi_i\})=\int_{I}f $<br/> $\lim_{d(\Delta) \to 0}S(g,\Delta,\{\xi_i\})=\int_{I}g $<br/> (1)式の両辺の極限$\lim_{d(\Delta) \to 0}$ をとろう。 <br/> 右辺の極限<br/> $=\lim_{d(\Delta) \to 0} \left(cS(f,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n}) +dS(g,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n}\right) $ <br/> 極限の性質から、<br/> $=c\lim_{d(\Delta) \to 0}S(f,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n}) +d\lim_{d(\Delta) \to 0}S(g,\Delta,\{\xi_i\}_{i=1}^{n} $ <br/> $=c\int_{I}f+d\int_{I}g $<br/> 従って(1)式の左辺の極限$ \int_{I}(cf+dg)$ も存在して、右辺の極限と一致する。 証明終わり。<br/><br/> ======慣性モーメントの計算(1)リーマン和の極限を求める方法====== $V$は、先述の、ごく細い一様な質量密度$\rho=M/l$のまっすぐな棒で、<br/> 座標系を入れて、$V=[a=-{l_1},b=l-l_1]$と表現しておく。<br/> 原点を通りこの棒と直交する軸のまわりの(この棒の)慣性モーメントを、<br/> リーマン和の極限を取って求めよう。<br/> 区間$V=[-{l_1},l-l_1]$をn等分して得られる点列,<br/> ${x^n }_0=-l_1, {x^n }_1={-l_1}+l/n, {x^n }_i={-l_1}+i(l/n),,,{x^n }_n=l-{l_1}$<br/> を分点とする分割を${\Delta}^n$と記す。すると、<br/> ${x^n }_i-{x^n }_{i-1}=l/n,\quad(i=1,2,,,n)$, $d({\Delta}^n)=l/n$であり、<br/> ${\Delta}^n=\{{V^n}_j=[{x^n}_{j-1},{x^n}_j] \mid j=1,2,,,n\}$ <br/> $\{{\Delta}^n \mid n=2,,,,n\}$という分割の列は、$\lim_{n\to\infty} d({\Delta}^n)=\lim_{n\to\infty}\frac{l}{n}=0$を満たす。<br/> $y=f(x)=\rho x^2$がリーマン可積分であることを認めれば、<br/> 可積分の定義から、どんな代表点${{\xi}^n}_j\in {V^n}_j$を選んでも、<br/> $\lim_{n\to \infty}I^{{\Delta}^n}({{\xi}^n}_1,{{\xi}^n}_2,,,{{\xi}^n}_n)=I$となる。<br/> そこで、代表点を${{\xi}^n}_j={x^n}_j=-l_1+j(l/n) \quad (n=2,,,),(j=1,2,,,,n)$と選ぶ。<br/> 関数$y=f(x)=\rho x^2$を用いると、 分割$\Delta^n$を用いた慣性モーメントの近似値は次のようになる。<br/> $I^{{\Delta}^n}({x^n}_1,{x^n}_2,,,,{x^n}_n) =\sum_j f({x^n}_j)1/n =\sum_j f(-{l_1}+j(1/n))\frac{l}{n} =\rho\sum_{j=1}^{n} (-{l_1}+j(1/n))^2\frac{l}{n} $ <br/> ここで、 $\sum_{j=1}^{n} j=\frac{1}{2}n(n+1),\quad \sum_{j=1}^{n} j^2=\frac{1}{6}n(n+1)(2n+1)$(注参照)を利用して、この式を計算すると、<br/> $=\rho l ({l_1}^2-{l_1}l\frac{n+1}{n}+\frac{l^2}{6} \frac{n+1}{n} \frac{2n+1}{n})$<br/> $\rho=M/l$なので、<br/> $=M({l_1}^2-{l_1}l\frac{n+1}{n}+\frac{l^2}{6} \frac{n+1}{n} \frac{2n+1}{n})$<br/> 故に、<br/> $I=\lim_{n\to \infty}I^{{\Delta}^n}({x^n}_1,{x^n}_2,,,,{x^n}_n) =\frac{M}{3}(l^2-3{l_1}l+3{l_1}^2)$<br/><br/> (注)$S_{1}:=\sum_{j=1}^{n} j=\frac{1}{2}n(n+1)$の証明<br/> $(j+1)^{2}-j^{2}=2i+1$ なので、両辺のj=1,2,,,n に関する和を取る。<br/> 左辺の和は$\sum_{j=1}^{n}((j+1)^{2}-j^{2})=(n+1)^{2}-1$<br/> 右辺の和は$\sum_{j=1}^{n}(2j+1)=2\sum_{j=1}^{n}j+n=2S_{1}+n$<br/> 故に、$(n+1)^{2}-1=2S_{1}+n$ $(n+1)^{2}-1-n=2S_{1}$ $S_{1}=\frac{1}{2}\left((n+1)^{2}-1-n\right)=\frac{1}{2}n(n+1)$<br/> $S_{2}:=\sum_{j=1}^{n} j^2=\frac{1}{6}n(n+1)(2n+1)$の略証<br/> $(j+1)^{3}-j^{3}=3j^2+3j+1$なので、この両辺のj=1,2,,,nに関する和を取る。<br/> 左辺の和は$(n+1)^{3}-1$、右辺の和は$3S_{2}+3S_{1}+n$,故に$3S_{2}+3S_{1}+n=(n+1)^{3}-1$<br/> ======慣性モーメントの計算(2)原始関数を利用する方法====== 積分可能な関数の積分をリーマン和の極限から求める計算は煩雑であり、複雑な形状の剛体の慣性モーメントを求めるにはふさわしくない。<br/> 次の定理が強力な計算法を提供する。<br/> 定理<br/> $V=[a,b]$を数直線上の区間、<br/> $f$を$V$上可積分な実数値関数<br/> とする。<br/> もし$F$が、<br/> $V$上で微分可能で<br/> 全ての$V$の点$x$で、$\frac{d}{dx}F(x)=f(x)$<br/> を満たす関数ならば(注参照)、<br/> $\int_{[a,b]}f=F(b)-F(a)$<br/> 上記の条件を満たす関数$F$を、$f$の'''原始関数'''という。<br/> (注)関数$F$は、$V$上でしか定義されていないので、<br/> 端点$a,b$では、通常の微分は定義できない。そこで、<br/> $\frac{d}{dx}F(a):=\lim_{h \to 0,h\geq 0}\frac{F(a+h)-F(a)}{h}$ <br/> $\frac{d}{dx}F(b):=\lim_{h \to 0,h\leq 0}\frac{F(b+h)-F(b)}{h}$ <br/> と定義する。<br/> 証明;<br/> 区間$[a,b]$の任意の分割<br/> $\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i]\mid 1 \leq i \leq n,x_0=a,x_n=b\}$<br/> に対して、<br/> 代表点を$\xi_i\in V_i$($\xi_i$は$V_i$の点の意)とすると、 $f$のリーマン和は<br/> $I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)$<br/> $=\sum_i f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$ <br/> 小区間$V_i=[x_{i-1},x_i]$での関数$F$の平均勾配<br/> $\frac{F(x_i)-F(x_{i-1})}{x_i-x_{i-1}}$<br/> は、平均値の定理により、<br/> $V_i=[x_{i-1},x_i]$の中のある一点$\eta_i$における$y=F(x)$の接線の勾配<br/> $\frac{d}{dt}F(\eta_i)$に等しので、<br/> $\frac{F(x_i)-F(x_{i-1})}{x_i-x_{i-1}}=\frac{d}{dt}F(\eta_i)=f(\eta_i)$<br/> 故に、$f(\eta_i)(x_i-x_{i-1})=F(x_i)-F(x_{i-1})$<br/> そこで、各小区間$V_i$の代表点を$\eta_i,(i=1,2,,,n)$と選べば、<br/> $I^{f,\Delta}(\eta_1,,,\eta_n)$<br/> $=\sum_i f(\eta_i)(x_i-x_{i-1})$ <br/> $=\sum_{i=1}^{n}\left(F(x_i)-F(x_{i-1})\right)$<br/> $=F(x_n)-F(x_0)=F(b)-F(a)$<br/> $f$は可積分なので、 $\int_{[a,b]}f=\lim_{d(\Delta)\to 0}I^{f,\Delta}(\eta_1,,,\eta_n)$<br/> $=\lim_{d(\Delta)\to 0}(F(b)-F(a))=F(b)-F(a)$<br/> 証明終わり。<br/><br/> さて、慣性モーメントを求めたい剛体では、<br/> $f(x)=\rho x^2$なので、その原始関数は、<br/> $F(x)=\frac{1}{3}\rho x^3$<br/> 従って、慣性モーメントは、定理を適用して、<br/> $I=\int_{[a,b]}\rho x^2=\frac{1}{3}\rho (b^3-a^3)$<br/> $\rho=M/l$,$a=-l_1,b=l-l_1$を代入して、整頓すると、<br/> $=\frac{M}{3}(l^2-3l_{1}l+3{l_1}^2)$ <br/><br/> ======可積分条件====== この節は、区間上で定義された関数の 積分可能な条件を紹介する。<br/> 大学の教養コース程度の数学を使うが、テキスト中で理解できるように説明する。<br/> 興味のない方は、とばしてください。<br/> <br/> '''(1)準備;集合論の初歩'''<br/> 集合論の初歩の知識は前提にして記述するので、<br/> なじみのない方は、下記を参考に、<br/> 集合の素朴な定義、集合の和集合や共通集合、集合の包含関係などについて学習してほしい。 *[[wikipedia_ja:集合 |ウィキペディア(集合)]] '''(2)区間上の関数のリーマン和'''<br/> '''定義;リーマン和 ''' <br/> 区間$V=[a,b]$で定義され、実数に値をとる関数$y=f(x)$を考える。<br/> この区間の分割<br/> $\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,n\},x_0=a,x_n=b$<br/> と、その代表点$\xi_i\in V_i(i=1,2,,,n)$に関する、$y=f(x)$のリーマン和とは、 $I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=$<br/> $\sum_i f(\xi_i)v(V_i)=\sum_i f(\xi_i)(x_i-x_{i-1})$ <br/> で定義する。<br/> リーマン和は、$y=f(x)$のグラフを、棒グラフで近似したときの棒グラフの作る面積(各角柱の面積和)であることが分かる。図参照。<br/> $y=f(x)$のグラフとx軸およびy軸と平行な直線$x=a$、$x=b$で囲まれる部分の面積を近似している。<br/> '''(3)リーマン和の不足リーマン和と過剰リーマン和による評価'''<br/> $V$を分割して得られた小区間$V_i=[x_{i-1},x_i]$を考える。<br/> 関数$y=f(x)$をこの小区間上に限定した時、<br/> 関数は、この区間上の点で最大値と最小値をとると仮定する(注参照)。<br/> 関数の最大値$max\{f(x)\mid x\in V_i\}$と最小値$min\{f(x)\mid x\in V_i\}$を、それぞれ、$m(f;V_i),M(f;V_i)$と書く。<br/> (注) 区間上で最大値、最小値を取らない関数では、<br/> [[wikipedia_ja:有界函数 |有界な関数]]でありさえすれば、常に存在し、しかも最大値、最小値と殆ど同じ性質をもつ、<br/> 上限、下限に置き換えれば以後の、議論は成り立つ。上限、下限については「(5)不足リーマン和の上限と過剰リーマン和の下限」で説明する。<br/><br/> すると、$V_i$の任意の点$\xi$ に対して、<br/> $m(f;V_i)\leq f(\xi) \leq M(f;V_i)$ <br/> 故に、<br/> '''補題1'''<br/> ⅰ)どのような代表点$\{\xi_i\}_{i}, (\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n)$に対しても<br/> $I_{m}(f,\Delta):=I^{f,\Delta}(\xi_{1}^m,,,\xi_{n}^m) =\sum_i m(f;V_i)v(V_i)$<br/> $\leq I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\sum_i f(\xi_i)v(V_i)$<br/> $\leq \sum_i M(f;V_i)v(V_i) =I_{M}(f,\Delta)=I^{f,\Delta}(\xi_{1}^M,,,\xi_{n}^M) \qquad (1)$ <br/> そこで、$I_{m}(f,\Delta)$を'''$\Delta)$に関する$f$の'''不足リーマン和'''、$I_{M}(\Delta)$を'''過剰リーマン和'''と呼ぶ。<br/> ⅱ)$I_{m}(f,\Delta)=\min_{\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n}I^{f,\Delta}(\xi_{1}^M,,,\xi_{n}^M) <br/> $I_{M}(f,\Delta)=\max_{\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n}I^{f,\Delta}(\xi_{1}^M,,,\xi_{n}^M) <br/> 証明は明らかなので省略。<br/> '''(4)分割の細分とリーマン和の評価式'''<br/> '''定義;分割の細分'''<br/> $V$の分割${\Delta}'$が分割$\Delta$の細分というのは、<br/> $\Delta$の分点の集合$\{x_0,x_1,,,,x_n\}$が、<br/> ${\Delta}'$の分点の集合$\{x'_0,x'_1,,,,x'_{n'}\}$に真に含まれることと定義する。<br/> 記号でかけば、$\{x_0,x_1,,,,x_n\}\subset \{x'_0,x'_1,,,,x'_{n'}\}, \{x_0,x_1,,,,x_n\}\neq \{x'_0,x'_1,,,,x'_{n'}\}$。 記号では、$\Delta \leq {\Delta}'$と記す。<br/><br/> '''補題2'''<br/> $\Delta \leq {\Delta}'$という分割に対し、<br/> $I_{m}(f,\Delta) \leq I_{m}(f,\Delta') \leq I_{M}(f,\Delta') \leq I_{M}(f,\Delta) \qquad (2)$ <br/> が成り立つ。 <br/> (証明)<br/> $\Delta$の小区間$V_i=[x_{i-1},x_i]$が分割${\Delta}'$では、<br/> $\{V'_j=[x_{i-1},x'_j],V'_{j+1}=[x'_j,x_i]\}$の2つに分割されたとする。<br/><br/> すると、区間上の関数の最大値と最小値の定義から、<br/> $m(f;V_i) \leq m(f;V'_j)$ $\quad m(f;V_i) \leq m(f;V'_{j+1})$<br/> $M(f;V_i) \geq M(f;V'_j)$ $\quad M(f;V_i) \geq M(f;V'_{j+1})$<br/> これらから、命題は成立することが分かる。<br/><br/> '''(5)不足リーマン和の上限と過剰リーマン和の下限''' 補題2から、分割の細分を繰り返していくと、その分割に対応する、<br/> 不足リーマン和は、広義増加(増加するか、同じ値にとどまる)し、<br/> 過剰リーマン和は、広義減少する。<br/> 分割を細かくしていったとき、これらの極限が一致すれば、補題1から、<br/> リーマン和の極限値は、代表点に無関係に、定まることになる。<br/> そこで色々な分割に対応する不足リーマン和のなかの最大値と過剰リーマン和の最小値を求めることが、重要になる。しかし一般にはこれらは存在しないことが示せる。<br/> そこで最大値に近い性質を持つ上限と最小値に近い下限という概念を利用する。<br/> '''定義;上界と下界'''<br/> ${\bf R}$を、全ての実数を要素とする集合とし、<br/> $A$をその部分集合とする。<br/> 実数$u$が$A$の上界(upper bound)とは、<br/> 任意の$a \in A$に対して、$a \leq u$がなりたつこと。<br/> 実数$l$が$A$の下界(lower bound)とは、<br/> 任意の$a \in A$に対して、$l \leq a$がなりたつこと。<br/> $U_A$を$A$の上界をすべて集めた集合、<br/> $L_A$を$A$の上界をすべて集めた集合とする。<br/> $U_A$が空集合$\emptyset$でない(すなわち、$A$の上界が少なくとも一つ存在する)とき、<br/> $A$は'''上に有界'''であるといい、<br/> $L_A\neq \emptyset$の時、$A$は'''下に有界'''であるという。<br/> 上に有界で、下にも有界な集合($\subset {\bf R})$は、'''有界'''という。<br/> '''実数の連続の公理'''<br/> 以下の性質は、色々な極限の存在の根拠を与えるもので、実数の持つ最も重要な性質の一つである。<br/> $A \subset {\bf R}$とする。<br/> もし、$U_A \neq \emptyset$ならば、$U_A$は、最小元を持つ。<br/> これを$A$の'''上限(supremum)'''あるいは'''最小上界(least upper bound)'''という。<br/> もし、$L_A \neq \emptyset$ならば、$L_A$は、最大元を持つ。<br/> これを$A$の'''下限(infimum)'''あるいは'''最大下界(greatest lower bound)'''というという。<br/><br/> 補題3<br/> $u$が$A(\subset {\bf R})$ の上限となるための必要十分条件は、<br/> ⅰ)$u$は$A$の上界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$a \leq u$ <br/> ⅱ)$x<u$である任意の$x$は$A$の上界ではない。すなわち、$x<a$となる$a\in A$が存在。<br/> ⅲ)$A$が最大値を持つ場合には、上限は最大値と一致する。<br/> 同様に、$l$が$A$ の下限となるための必要十分条件は、<br/> ⅰ)$l$は$A$の下界。すなわち任意の$a\in A$にたいして$l\leq a$ <br/> ⅱ)$l<x$である任意の$x$は$A$の下界ではない。すなわち、$a<x$となる$a\in A$が存在。<br/> ⅲ)$A$が最小値を持つ場合には、下限は最小値と一致する。<br/><br/> $A$ の上限を$\sup A$、下限を$\inf A$と書く。<br/><br/> 証明は、上限、下限の定義から、明らかなので省略する。<br/> 例;$A=(0,1)$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。<br/> これらは、ともに$A$の要素でないので、<br/> 上限1は$A$の最大元(最大値)ではなく、下限0は$A$の最小元(最小値)ではない。<br/> $A=[0,1]$のとき、$\sup A=1$,$\inf A=0$。<br/> これらは、ともに$A$の要素なので、<br/> 上限は最大限であり、下限は最小限となる。<br/> 補題4. $A \subset B \subset {\bf R}$で、$B$は有界集合とする。<br/> このとき、$\inf B \leq \inf A \leq \sup A \leq \sup B$<br/> 証明は容易である。<br/><br/> 関数$y=f(x)$が連続でない時は、区間上で最大値や最小値を取らないことがある。 この場合も考慮して、最大値を上限に、最小値を下限に置き換えて、$m(f;V_i)=\inf\{f(x)\mid x\in V_i\},M(f;V_i)=\sup \{f(x)\mid x\in V_i\}$で定義すれば、 有界関数に対して、これらは常に定義され、今までの議論はすべて成り立つ。 ''' 2つの分割の共通の細分 '''<br/> 分割$\Delta$の分点の集合$\{x_j \mid j=1,2,,,m\}$と、<br/> 分割${\Delta}'$ の分点の集合$\{x'_j \mid j=1,2,,,n\}$の<br/> 和集合$\{x_j \mid j=1,2,,,m\} \cup \{x'_j \mid j=1,2,,,n\}$を分点とする分割を$\Delta \vee {\Delta}'$と書く。<br/> すると新しい分割は<br/> $\Delta \leq \Delta\vee {\Delta}' \qquad $ と ${\Delta}' \leq \Delta\vee {\Delta}' \quad $<br/> を満たす。<br/> これを用いると、不足リーマン和の上限$\mathscr{s}(f)$と過剰リーマン和の下限$\mathscr{S}(f)$が存在することが証明できる。<br/> 補題5<br/> $f$を区間$V=[a,b]$で定義され実数値をとる有界関数(すなわち、$\{f(x)\mid x\in V\}$が${\bf R}$の有界集合)とする。<br/> $V=[a,b]$の分割を全て集めて作った集合を$\mathscr{D}(V)$と書く。<br/> すると、<br/> ⅰ)任意の$\Delta,{\Delta}'\in \mathscr{D}(V)$に対して、 $I_m(f,\Delta) \leq I_M(f,{\Delta)}')$<br/> ⅱ)集合$\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は上に有界、<br/> 集合$\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は下に有界<br/> ⅲ)$\mathscr{s}(f):=\sup\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$と <br/> $\mathscr{S}(f):=\inf\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は存在し、<br/> $\mathscr{s}(f) \leq \mathscr{S}(f)$ <br/> 証明;<br/> ⅰ)$\Delta \leq \Delta\vee {\Delta}'$ なので、補題2から、<br/> $I_m(f,\Delta) \leq I_m(f,\Delta\vee {\Delta}') \leq I_M(f,\Delta\vee {\Delta}') \leq I_M(f,{\Delta}') $<br/> ⅱ)1)で証明した不等式で、分割${\Delta}'$ は固定する。<br/> すると全ての分割 $\Delta$に対して、$I_m(f,\Delta) \leq I_M(f,{\Delta)}')$なので<br/> 集合$\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は、上界$I_M(f,{\Delta)}')$を持ち、上に有界である。<br/> 後者も同様にして下に有界であることが示せる。<br/> ⅲ)従って、実数の連続性の公理から、<br/> 集合$\{I_m(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は上限$\mathscr{s}(f)$をもち、<br/> 集合$\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$は下限$\mathscr{S}(f)$をもつ。<br/> 上限は、上界の中の最小値なので、<br/> $\mathscr{s}(f)\leq I_M(f,{\Delta}')$<br/> この式は任意の${\Delta}'$について成立するので、<br/> $\mathscr{s}(f)$は、集合$\{I_M(f,\Delta) \mid \Delta \in \mathscr{D}(V)\}$の下界である。<br/> 下限$\mathscr{S}(f)$は、下界のなかの最大値なので$\mathscr{s}(f) \leq \mathscr{S}(f)$を得る。<br/> '''(6)分割を細かくしていくと不足リーマン和はその上限$\mathscr{s}$に、過剰リーマン和はその下限$\mathscr{S}$に収束する'''<br/> この命題を正確に述べるには、 まず、分割$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,n\}$の大きさを、きちんと定める必要がある。<br/> 定義;$\Delta=\{V_i=[x_{i-1},x_i] \mid i=1,2,,,n\}$の大きさ$d(\Delta)$とは、<br/> この分割で得られた小区間の長さの、最大値で定義する。記号で書くと<br/> $d(\Delta)=max\{x_{i}-x_{i-1} \mid i=1,2,,,n\}$ 定理(ダルブー;Darboux)<br/> $V=[a,b]$<br/> $f$を、$V$で定義され、実数に値を取る有界関数とする。<br/> このとき、<br/> ⅰ)$\lim_{d(\Delta) \to 0}I_m(f,\Delta)=\mathscr{s}(f)$<br/> ⅱ)$\lim_{d(\Delta) \to 0}I_M(f,\Delta)=\mathscr{S}(f)$<br/> 証明;<br/> ⅰ)を示す。ⅱ)は同じようにして証明できるので略す。<br/> これを示すには、どんなに小さい正の実数$\epsilon$に対しても、それに応じた、小さい正の実数$\delta_{\epsilon}$を適切に選べば、分割の大きさが$\delta_{\epsilon}$より小さい、どんな分割$\Delta$も、$\mathscr{s}(f)-I_m(f,\Delta)<\epsilon$であることを示せばよい。以下に、数段階に分けて、これを証明する。<br/> $\quad 1)<br/> $上限の性質(補題3)から、<br/> ある分割<br/> $D=\{{V^D}_i=[{x^D}_{i-1},{x^D}_i] \mid i=1,2,,,n\}in \mathscr{D}(V)$<br/> が存在して、<br/> $\mathscr{s}(f)-I_m(f,D)<\frac{\epsilon}{2} \qquad (1)$<br/> 今後この$D$を使って、証明を進める。<br/> $\quad 2)$<br/> 分割$D$の小区間${V^D}_i$の長さ$({x^D}_i-{x^D}_{i-1})(i=1,2,,,n)$の 最小値を$e$とおくと<br/> $e=min_{i=1}^{n}({x^D}_i-{x^D}_{i-1})$ <br/> $e$に比べて非常に小さい大きさを持つ分割、<br/> $\Delta=\{V^{\Delta}_i=[{x^{\Delta}}_{i-1},{x^{\Delta}}_i] \mid i=1,2,,,N\}$、 <br/> $d(\Delta)=max_{i=1,2,,,N}({x^{\Delta}}_i-{x^{\Delta}}_{i-1}) \ll e$<br/> <br/> を考える。<br/> もし、$D \leq \Delta$ならば補題2より、$I_m(f,D) \leq I_m(f,\Delta)$、<br/> すると$\mathscr{s}(f)-I_m(f,\Delta)\leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,D) \leq \frac{\epsilon}{2}\leq \epsilon$ <br/> 通常、分割$\Delta$は、$D$の細分になっていない。<br/> この場合は、いくつか(高々n-1個)の$\Delta$の小区間が、$D$の小区間には含まれず、<br/> $D$の分点${x^D}_i(i=1,2,,,n-1)$をまたぐことになる。図参照のこと。<br/> 議論を簡単にするため、$D$の分点${x^D}_i(i=1,2,,,n-1)$が全て、$\Delta$の小区間によって跨がれていると仮定し、議論を進める。<br/> 他のケースでも、証明はおなじようにできるので、このように仮定しても何の問題も起こらない。<br/> $D$の分点${x^D}_i$を跨ぐ$\Delta$の小区間を$V^{\Delta}_{m_i}$とする(i=1,2,,,n-1)。<br/> $\quad 3)$ <br/> 2つの分割$D、\Delta$から${\Delta}':=D \vee \Delta$を作る。<br/> すると<br/> ${\Delta}'=\{V^{\Delta}_1,V^{\Delta}_2,,,,,,,,,V^{\Delta}_{m_{1}-1},$<br/> $\qquad \quad [x^{\Delta}_{m_{1}-1},x^{D}_1],[x^{D}_1,x^{\Delta}_{m_{1}}],$<br/> $\qquad \quad V^{\Delta}_{m_{1}+1},V^{\Delta}_{m_{1}+2},,,,,,,,,V^{\Delta}_{m_{2}-1},$<br/> $\qquad \quad [x^{\Delta}_{m_{2}-1},x^{D}_2],[x^{D}_2,x^{\Delta}_{m_{2}}],$<br/> $\qquad \quad V^{\Delta}_{m_{2}+1},V^{\Delta}_{m_{2}+2},,,V^{\Delta}_{m_{3}-1},$<br/><br/> $\qquad \quad ,,,,,,,,,$<br/><br/> $\qquad \quad V^{\Delta}_{m_{n-1}+1},V^{\Delta}_{m_{n-1}+2},,,,,,,,,V^{\Delta}_N\} \qquad (2)$<br/> と書ける。<br/> $\Delta \leq {\Delta}'$で、 $D \leq {\Delta}'$ なので、<br/> $I_m(f,\Delta) \leq I_m(f,{\Delta}')$, $\quad I_m(f,D) \leq I_m(f,{\Delta}')$<br/> 後者の式から、<br/> $0 \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,{\Delta}') \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,D)$<br/> この式と(1)式から、<br/> $0 \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,{\Delta}')<\frac{\epsilon}{2}$<br/> そこで、<br/> 「$d(\Delta) \to 0 $ならば、$I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)<\frac{\epsilon}{2}$ <br/> が示せれば、<br/> $0 \leq \mathscr{s}(f)-I_m(f,\Delta)$<br/> $=(\mathscr{s}(f)-I_m(f,{\Delta}')+(I_m(f,{\Delta}'-I_m(f,\Delta)\leq \epsilon$<br/> が示され、証明が終わる。<br/> $\quad 4)$ <br/> $I_{m}(f,\Delta)=\sum_{i=1}^{N} m(f;V^{\Delta}_i)v(V^{\Delta}_i)$ であり、<br/> (2)式から、<br/> $I_m(f,{\Delta}')$<br/> $=\sum_{i\notin \{m_1,m_2,,,,m_{n-1}\}} m(f;V^{\Delta}_i)v(V^{\Delta}_i)$<br/> $+\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])v([x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])$<br/> $+\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])v([x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])$<br/> なので、<br/> $I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)$<br/> $=\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])v([x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])$<br/> $+\sum_{k=1}^{n-1} m(f;[x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])v([x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])$<br/> $-\sum_{i\in \{m_1,m_2,,,,m_{n-1}\}} m(f;V^{\Delta}_i)v(V^{\Delta}_i)$<br/> 関数は$V$上で有界なので、適切に正の実数$M$を選ぶと、$x$が$V$の要素ならば<br/> $|f(x)|\leq M$が成立する。<br/> すると$|m(f;[x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])|, |m(f;[x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])| \leq M$<br/> が成り立つ。また<br/> $v(V^{\Delta}_{m_k}) =v([x^{\Delta}_{m_{k}-1},x^{D}_k])+v([x^{D}_k,x^{\Delta}_{m_{k}}])$で、<br/> $v(V^{\Delta}_i)\leq d(\Delta) $<br/> なので<br/> $|I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)|\leq 2M\sum_{i\in \{m_1,m_2,,,,m_{n-1}\}} v(V^{\Delta}_i)\leq 2M(n-1)d(\Delta)$<br/> そこで、<br/> $\delta_{\epsilon}=\frac{\epsilon}{4Mn}$ と選べば、<br/> $d(\Delta)\leq \delta_{\epsilon}$をみたすどのような分割$\Delta$も、<br/> $0\leq I_m(f,{\Delta}')-I_m(f,\Delta)|\leq \frac{\epsilon}{2}$<br/> を満たすことが証明できた。証明終わり。<br/> '''(7)可積分条件'''<br/> 定理;可積分条件 <br/> $V=[a,b]$<br/> $f$を、$V$で定義され、実数に値を取る有界関数とする。<br/> 次の条件のうち1つが成立すれば、残り2つは成立する(互いに同値という)。 ⅰ)$f$は$V$上で(リーマン)可積分<br/> ⅱ)$\lim_{d(\Delta) \to 0}(I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta))=0$<br/> ⅲ)$\mathscr{S}(f)=\mathscr{s}(f)$<br/> <br/> 証明<br/> ⅰ)を仮定する。ⅱ)が成立することを示そう。<br/> $f$の積分値を$\alpha$とおくと、可積分の定義から、<br/> 任意の$\epsilon>0$に対して、$\delta>0$が存在して、<br/> $d(\Delta)<\delta$である任意の分割と、その分割の任意の代表点$\xi_i,(i=1,2,,,)$に対し,<br/> $|I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)-\alpha |<\frac{1}{2}\epsilon$<br/> が成立する。<br/> 変形すると<br/> $\alpha-\frac{1}{2}\epsilon <I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n) <\alpha+\frac{1}{2}\epsilon \qquad (1) $<br/> ここで、補題1のⅱ)から、<br/> $\inf_{\{\xi_i\}}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n) =I_{m}(f,\Delta)$<br/> $\sup_{\{\xi_i\}}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n) =I_{M}(f,\Delta)$<br/> なので、<br/> (1)式から、<br/> $\alpha-\frac{1}{2}\epsilon \leq I_{m}(f,\Delta) \leq I_{M}(f,\Delta) \leq \alpha+\frac{1}{2}\epsilon$<br/> これより、任意の$\epsilon>0$に対して、$\delta>0$が存在して、<br/> $d(\Delta)<\delta \implies (0\leq I_{M}(f,\Delta)-I_{m}(f,\Delta)\leq \epsilon)$<br/> ⅱ)が示せた。<br/> ⅱ)を仮定する。 ⅲ)が成り立つことを示す。<br/> $I_{m}(f,\Delta) \leq \mathscr{s}(f):=\sup_{\Delta}I_{m}(f,\Delta) \leq \mathscr{S}(f):=\inf_{\Delta}I_{M}(f,\Delta) \leq I_{M}(f,\Delta)$<br/> なので、<br/> $0 \leq \mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f) \leq I_{M}(f,\Delta)-I_{m}(f,\Delta)$<br/> 故に、分割を細かくしていき、極限をとると、<br/> $0 \leq \mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f) \leq \lim_{d(\Delta)\to 0}(I_{M}(f,\Delta)-I_{m}(f,\Delta))$<br/> ⅱ)が成立するので、<br/> $=0$<br/> ⅲ)が示せた。<br/> ⅲ)を仮定する。 $\alpha=\mathscr{S}(f)=\mathscr{s}(f)$とおく。<br/> ⅰ)が成り立つことを示そう。<br/> 補題1のⅰ)から、どのような分割$\Delta$と、その代表点$\{\xi_i\}_{i}, (\xi_i \in V_i,i=1,2,,,n)$に対しても<br/> $I_{m}(f,\Delta) \leq I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n) $\leq I_{M}(f,\Delta)$<br/> ここで、ダルブーの定理から、<br/> $\lim_{d(\Delta) \to 0}I_{m}(f,\Delta)=\mathscr{s}(f)=\alpha$,<br/> $\lim_{d(\Delta) \to 0}I_{M}(f,\Delta)=\mathscr{S}(f)=\alpha$<br/> が成り立つので、<br/> $\lim_{d(\Delta) \to 0}I^{f,\Delta}(\xi_1,,,\xi_n)=\alpha$ <br/> が成り立つ。<br/> ⅰ)が示せた。<br/> '''(8)有限個の点を除いて連続な閉区間上の関数は積分可能'''<br/> 色々な関数のグラフを書くとつながっているところを、跳んでいるところが出来る。<br/> $y=X$のグラフはずっとつながっている。<br/> $x<0$のとき $y=0$, $0\leq x$のとき $y=1$ で関数を定義すると、$x=0$のところで そのグラフは跳んでいる。<br/> 連続や不連続は関数の非常に重要な性質であり、それを調べることはとても豊かな知識をもたらす。<br/> しかし正確に議論するには、連続とは何かをきちんと定義する必要がある。<br/> 関数の連続性の定義;<br/> 実数値関数 $f(x)$ がある点''' $x_0$で連続'''であるとは、<br/> $x$が$x_0$ に限りなく近づくならば、$f(x) が $f(x_0)$ に限りなく近づくことを言う。$\lim_{x\to x_0} f(x) = f(x_0)$と記す。<br/> これはイプシロン-デルタ論法(ε-δ論法)を用いれば次のように定式化できる。<br/> (小さな)正の数 ε が任意に与えられたとき、<br/> (小さな)正の数 δ をうまくとってやれば、<br/> $x_0$ と δ 以内の距離にあるどんな $x$ に対しても、<br/> $f(x)$ と $f(x)$ の差が ε より小さいようにすることができる。<br/> 関数 $f(x)$ がある区間$I$ で連続であるとは、<br/> $I$ に属するそれぞれの点において連続であることを言う。<br/> 定理 <br/> 有界閉区間上$V=[a,b]$で定義され、実数に値を取る連続関数$f$は、V上で可積分である。<br/> 略証;<br/> 有界閉区間上の連続関数は[[wikipedia_ja:一様連続 |一様連続]]なので、<br/> 任意の$\epsilon>0$に対して、$\delta>0$が存在して、<br/> $|x-x'|\leq \delta$を満たす$V$の任意の2点に対して、<br/> $|f(x)-f(x')|< \frac{\epsilon}{b-a}$<br/> が成立する。<br/> $V=[a,b]$の分割$\Delta$を細かくして、<br/> $d(\Delta)<\delta$<br/> を満たすようにする。<br/> すると、その分割によって得られた小区間$V_i(i=1,2,,,n)$の長さは、<br/> 全て$\delta$より小さくなるので、<br/> $\sup \{f(x)\mid x\in V_i\}-\inf\{f(x)\mid x\in V_i\}<\frac{\epsilon}{b-a}$<br/> $M(f;V_i),m(f;V_i)$の定義から<br/> $M(f;V_i)-m(f;V_i)<\frac{\epsilon}{b-a}, (i=1,2,,,n)$ これを用いると、<br/> $I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta)=\sum_{i=1}^{n} M(f;V_i)v(V_i)-\sum_i m(f;V_i)v(V_i)$<br/> $=\sum_i(M(f;V_i)- m(f;V_i))v(V_i) \leq \sum_i \frac{\epsilon}{b-a}v(V_i) =\frac{\epsilon}{b-a}\sum_{i=1}^{n}v(V_i) =\frac{\epsilon}{b-a}(b-a) =\epsilon$<br/> 故に、<br/> 任意の$\epsilon>0$に対して、$\delta>0$が存在して、<br/> $d(\Delta)<\delta$を満たす任意の分割$\Delta$にたいして、<br/> $I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta)\leq \epsilon$が示せた。<br/> $\mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f)\leq I_M(f,\Delta)-I_m(f,\Delta)$<br/> なので<br/> $\mathscr{S}(f)-\mathscr{s}(f)\leq \epsilon$<br/> が任意の$\epsilon>0$にたいして成立する。故に<br/> $\mathscr{S}(f)=\mathscr{s}(f)$<br/> 可積分条件のⅲ)が示せた。証明終わり。<br/><br/> 定理の系;有限個の不連続点をもつ、有界閉区間上の関数は積分可能である。<br/> ==== てこの原理と力のモーメント==== てこの原理については、 *[[wikipedia_ja:てこ|ウィキペディ(てこ)]] ==== 作用線の定理==== 剛体の場合、作用線に沿って力の作用点を移動しても、力の作用は変わらない。何故かは、考えてみましょう。<br/> *[[wikipedia_ja:作用線の定理|ウィキペディア(作用線の定理)]] === 剛体のつり合い=== いくつかの力が作用し、剛体が静止したままであるか、<br/> 重心が等速直線運動を続け、重心の周りの回転が変化しない場合に、剛体(に作用している力)は釣り合っているという。<br/> == 気体や液体の圧力と浮力== = CAIテスト = *<span class="pops"> [[cai_ja:GENPHY00010002|CAIテストのページへ(新しいWindowが開きます)]] </span>
物理/運動の法則の応用
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