物理/熱と熱現象(2)熱力学の基本法則
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これで定積熱容量を内部エネルギー関数 U=U(T,V) で表現する準備は整った。<br/><br/> | これで定積熱容量を内部エネルギー関数 U=U(T,V) で表現する準備は整った。<br/><br/> | ||
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式(4)で、δV=0 とおけば、体積を一定に保ちながら<br/> | 式(4)で、δV=0 とおけば、体積を一定に保ちながら<br/> | ||
温度をTから微小量 δT あげるときに必要な外部からの熱エネルギー δQ が求まる。<br/> | 温度をTから微小量 δT あげるときに必要な外部からの熱エネルギー δQ が求まる。<br/> | ||
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=\frac{\partial U}{\partial T}(T,V) \qquad \qquad (5)$<br/><br/> | =\frac{\partial U}{\partial T}(T,V) \qquad \qquad (5)$<br/><br/> | ||
- | 定圧熱容量 Cp の表現<br/> | + | '''定圧熱容量 Cp の表現'''<br/> |
系の圧力を一定値 p に保ちながら熱エネルギーをあたえると、この系は温度と体積を増していく。<br/> | 系の圧力を一定値 p に保ちながら熱エネルギーをあたえると、この系は温度と体積を増していく。<br/> | ||
このとき、δT と δV の間には、 を一定に保つため、ある関係が成り立つ。<br/> | このとき、δT と δV の間には、 を一定に保つため、ある関係が成り立つ。<br/> | ||
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故に<br/> | 故に<br/> | ||
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+ | 固体や液体では温度による体積変化がほとんどないため、<br/> | ||
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+ | ほぼ Cv=Cp となり、γ≈1(厳密には1よりわずかに大きい)<br/> | ||
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+ | 実測および気体のミクロ構造を用いた分子運動論によると<br/> | ||
+ | [[wikipedia_ja:単原子分子 |単原子気体]]ではγ≒5/3,二原子気体ではγ≒7/5,<br/>3原子以上の多原子気体ではγ≒4/3<br/> | ||
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2016年2月8日 (月) 14:42時点における版
目次[非表示] |
熱と熱現象(2)熱力学の基本法則
蒸気機関の発明とその効率を上げる試みと考察と、
永久機関の試みが失敗に終わっている事実から、
熱力学の基本法則が発見された。
永久機関への挑戦の失敗
外部からエネルギーを受け取ることなく、仕事を行い続ける装置ができればエネルギー問題など発生しない。
次の記事にあるように18~19世紀、多くの科学者や技術者がこれに挑んだが誰も成功しなかった。
最初は、外部から何も受け取ることなく、仕事を外部に取り出すことができる機関を作ろうとした(第一種の永久機関)。
その試みは失敗続きだった。
やがて熱も含めたエネルギーの保存則(熱力学の第一法則)が認識され、
それに反する試みなので、失敗したのだとわかった。
次には、エネルギー保存則に反しない永久機関を作ろうとした。
ある熱源から熱エネルギーを取り出しこれを仕事に変換し、
仕事によって発生した熱をすべて熱源に回収する装置が考えられた。
これができれば、熱源から取出した仕事は、すべて熱エネルギーとして回収され熱源に返されるので、
熱源の熱エネルギーは失われず、永久に仕事が取り出せる(第2種永久機関)。
しかし多くの試みはすべて失敗であった。
この結果、熱力学の第2法則が認識されるようになった。
現在では、熱力学の第一法則と第二法則が自然の基本法則であり、
永久機関はこれに反するため不可能であると理解されている。
熱力学の第1法則
力学の分野では、
「2.4.3 力学的エネルギーと力学的エネルギー保存則」で説明したように
保存力場では、質点系の力学的エネルギーは保存される。
さらに保存力以外の力を加えたとき、その力のなす仕事はこの質点系の力的学エネルギーの増加に等しい。
摩擦がある場合には、「2章 力学」で説明したように、物体は運動中に摩擦力を受けるので、摩擦力を含めた力は保存的でなくなり、力学的エネルギーの保存則は成立しない(注参照)。
力学的現象と同時に摩擦など熱エネルギーの移動を伴う現象でも
力学的エネルギーに熱現象に伴うエネルギーを合計すると、
エネルギーが保存されることを法則として認めたものが、
熱力学の第一法則である。
この法則を理解するのは物質の内部エネルギーについて理解する必要がある。
(注)物体の力学的エネルギーは運動中、摩擦熱となり失われていく。
物質の内部エネルギー
物体が静止している時は、巨視的に観測できる物体の運動エネルギーは零である。
しかし巨視的手段では観測できないが、その物質を構成している個々の分子・原子は、
絶えず熱運動をおこなっているため、運動エネルギーを持つ。
さらに保存力である分子間力で互いに引き合っているためポテンシャル(位置)エネルギーを持っている。
これらの和を物質の内部エネルギーという(注参照)。
理想気体の場合、
分子間力は働かないため位置エネルギーは0となり、
内部エネルギーは各気体分子の熱運動の運動エネルギーの和である。
物体の熱エネルギーの授受によって、内部エネルギーは変化するので、状態変数である。
(注)分子は、電気力によって互いに引き合っている。
互いに引き合っている物質を引き離すには、
それらに力を加えて強制的に動かす必要がある。
分子間力は保存力なので、引き離す力のなす仕事は、
その経路に関係なく、それら物質の初期位置と最終位置だけで決まる。
これが分子間力による(初期状態から最終状態を見た)ポテンシャル(位置)エネルギーである。
通常は互いに無限に離れた状態のポテンシャル・エネルギーを零と定める。
注の終わり。
広義の熱力学の第一法則
ある系が、ある変化を行うとき、
その系の最後のエネルギーE'と最初のエネルギーEとの差E'-Eは、
その系に外部からくわえた仕事の総量 W と 外から加えた熱の総量 Q の和に等しい。
E′−E=W+Q(1)
系のエネルギーとは、系を分子の集まりと考えたときの、力学的エネルギー(各分子の運動エネルギーの総和と系のポテンシャルエネルギーの和)である。
剛体の場合には、剛体としての力学的エネルギーと内部エネルギーの和となる。
このエネルギーの構成成分と大きさは、
外からの仕事の与え方や熱の与え方により変わるため、これらを指定しなければ決まらない。
熱力学の第一法則
外からの仕事と熱が、
系の巨視的な力学的エネルギーを変えないように与えられるときは、
E'-E は 系の内部エネルギーの差U'ーU に等しくなる。
この場合の第一法則は
U′−U =W+Q(2)
通常の熱力学の本では、熱力学の第一法則は、
「系が静止し、熱平衡状態を保ちながら、
外部から非常にゆっくりと仕事や熱エネルギーを受ける
(準静的過程という)場合に、式(2)が成り立つ」と述べている(注参照)。
(注)熱力学の第2法則の所で詳しく述べるが、
熱平衡状態に厳密にあれば仕事やエネルギーの移動は起こりえず、
この記述は厳密には自己矛盾を含んでしまう。
このため、本テキストではその使用にあたっては、この概念を吟味して記述し、
また、その使用を最小限にする。
系の体積を変えるために外から加える仕事について
熱力学の第一法則の適用に際して、
系の体積を少し変えるため、外から加える仕事Wを求める必要が生じることがある。
命題;
圧力Pの系を、
ゆっくりと、熱平衡に近い状態を保ちながら体積を微小量δV変化させる時、
力の行う仕事 W は、ほぼ−PδV である。
外からの力を気体の圧力に近づけ体積変化速度を小さくするに従い、
Wは −PδV に収束していく。
略証;簡単な場合にこれを示そう。
図3-2-1のように摩擦のないピストンによる気体の圧縮・膨張を考える。
ピストンの断面積をS、質量をmとする。
- ファイル:GENPHY00010302-01.jpg図3-2-1 ピストンによる気体圧縮
x座標を図のようにいれ、ピストンのO点の初期位置の座標を0とする。
外部から力を加えてピストンをゆっくり動かし
気体の体積を微小量δV だけ変えよう。
ピストンの移動量δl は
δl=δV/S(1)
これだけ移動させたのち平衡状態になるまで待つと、
系の圧力は一定になるが、体積変化量が微小なので、ほぼ P に等しい。
しかも、ピストンはゆっくりと動くので、気体はゆっくり圧縮・膨張されるため、
平衡状態にきわめて近い状態を保つ。気圧は P と考えられる。
ゆっくりこのピストンを動かすには、
ピストンに外力 −PS±ϵ (ϵ>0は微小正数)を与える必要がある。
この時運動するピストンは、圧縮時には静止時より大きな力を気体からうけ、
膨張時には静止時より小さい力を受けるが、
ピストンの速度が小さければ、この差は無視できる。
そこで、運動時にもピストンは気体からPSという一定の力を受け続けることになる。
ピストンは、外力と気体からの力の合力±ϵを受けて運動する。
合力が−ϵならば圧縮(ピストンはx軸の負方向に動く)、
ϵならば膨張する。
説明を簡単にするため圧縮の場合を考察する(膨張でも同様にできる)。
ピストンのO点の座標が0からδl2 の間は
ピストンに与える外力を−PS−ϵ)にすると、
ピストンは、左方に等加速度−ϵmの運動を始める。
epsilon が微小なので、極めてゆっくりと加速して行く。
O点の座標がδl2(移動中間点)になったら、
減速させて、O点の座標が δl のところで、
ピストンが止まるようにしよう。
このために、中間点で外力を−PS+epsilon)に切り替え、
ピストンに働く合力をϵにする。
するとピストンは右方へ等加速度ϵmで運動し始めるので、
ピストンは速度を落としながら、左方に動いて行く。
前段の等加速度と後段の加速度は大きさは等しく、向きは逆なので、
O点の座標がδl に達する(ピストンがδl移動する)と
ピストンは静止する。
その瞬間に外力を−PS にすれば
ピストンはδlだけゆっくり移動して、静止する(注参照のこと)。
ピストンがδl移動する間に、外力のなす仕事Wは
W=(−PS−ϵ))δl2+(−PS+ϵ))δl2
=−PSδl=−PδV
これで、命題は証明された。
第一法則の応用
第1種永久機関の不可能性
熱力学の第一法則から、第1種永久機関が不可能であることが次のようにして示せる。
もし、外部から仕事も熱も受け取らず、外部に対して永久に仕事をする機関ができたとする。
この機関は負の仕事を受け続けることになるので、
熱力学の第一法則から、系のエネルギーは、絶えず減り続け、
エネルギーが負になってしまう。
これはありえないことである。
したがって第一種永久機関は不可能である。
気体の断熱自由膨張
ジュール は、
栓で仕切った2つの容器A,Bの片側Aに気体をいれ、容器Bは真空にし、
2つの容器と周囲の環境との間に熱のやり取りがないように工夫して、
栓を開く実験を行った。
栓を開くと、容器 A の気体は容器 B に流れ込み、しばらくすると2つの容器の気体は熱平衡状態になる。
この温度を計測したところ、実験開始前の容器 A の気体の温度とほぼ同じであった。
実験中、気体は、外部に対しては仕事はせず、また外部との熱の授受もないので、
熱力学の第一法則により、気体の内部エネルギーは変化しない。
この実験により、気体の内部エネルギーが変わらなければ、気体の温度は、体積にかかわらず、一定であるという結論が得られる。
後の精密な実験により
気体の密度が小さく理想気体に近い状態では、体積変化による温度変化はほとんどないが、密度が大きいときにはかなりの温度変化が生じることが分かった。
経験法則;理想気体では、その内部エネルギーは、温度だけの関数で体積にはよらない。 式で書くと、U=U(T)
熱容量と比熱(その2)
すでに、熱容量と比熱(その1)で簡単な説明を行った。
ある系に、ΔQ の熱を加えたとき、温度がΔTだけ上がるとき、ΔQ/ΔT をその系の熱容量という。
熱容量には次の2種類ある。
定積熱容量(CVと記す);加熱の時、体積を一定に保つようにしたときの熱容量
定圧熱容量(Cpと記す);加熱の時、圧力を一定に保つようにしたときの熱容量
CV、Cp を質量で割ったものが比熱 cV、cp である。
この項では、CV と Cp の関係を、系の状態方程式を用いて考察する。
状態方程式を用いた熱容量の表現
静止した状態で系に微小の仕事δWと熱エネルギーδQを与えたときの
内部エネルギーの変化δUは、熱力学の第一法則から
δU=δW+δQ(1)
この系に、微小の熱エネルギーδQをゆっくりと与えたとする。
このときの体積の変化量をδV とすると、これも微小になる。
この系の変化は極めてゆっくりなので、この間系は熱平衡に極めて近い状態にある。
すると、「系の体積を変えるため外から加える仕事について」という項で説明したように、
外から加える仕事δW は、
δW≈−pδV (系の変化を遅くしていけば、この値にいくらでも近づけられる)。
これを、式(1)に代入すると、
δU≈−pδV+δQ(2)
ここで、内部エネルギーは状態量なので、
温度Tと体積の関数 U=U(T,V) で表現できる。
温度と体積を微小量 δT,δV 変化させたときの
内部エネルギーの変化量 δU は、
δU:=U(T+δT,V+δV)−U(T,V)≈∂U∂T(T,V)δT+∂U∂V(T,V)δV(3)
式(3)を、式(2)に代入して、整頓すると、
δQ≈∂U∂T(T,V)δT+(p+∂U∂V(T,V)δV)(4)
これで定積熱容量を内部エネルギー関数 U=U(T,V) で表現する準備は整った。
定積熱容量 CV の表現
式(4)で、δV=0 とおけば、体積を一定に保ちながら
温度をTから微小量 δT あげるときに必要な外部からの熱エネルギー δQ が求まる。
δQ≈∂U∂T(T,V)δT
これより
δQδT≈∂U∂T(T,V)
故に、
CV(T):=limδT→0δQδT=∂U∂T(T,V)(5)
定圧熱容量 Cp の表現
系の圧力を一定値 p に保ちながら熱エネルギーをあたえると、この系は温度と体積を増していく。
このとき、δT と δV の間には、 を一定に保つため、ある関係が成り立つ。
この関係をT と の関数として求めて、式(4)に代入すれば、
定圧熱容量が求まるはずである。
そこで、体積 V を、T と の関数として表す状態方程式 V=V(T,p) を利用する。
δV:=V(T+δT,p+δp)−V(T,p)
≈∂V∂T(T,p)δT+∂V∂p(T,p)δp
圧力一定で温度を変えるときの体積変化は、δp=0 を代入して、
δV≈∂V∂T(T,p)δT
この関係式を、式(4)に代入すると
δQ≈(∂U∂T(T,V)+(p+∂U∂V(T,V))∂V∂T(T,p))δT
故に、
Cp:=limδT→0δQδT=∂U∂T(T,V)+(p+∂U∂V(T,V))∂V∂T(T,p)
式(5)から
Cp=CV+(p+∂U∂V(T,V))∂V∂T(T,p)
故に
Cp−CV=(p+∂U∂V(T,V))∂V∂T(T,p)(6)
比熱比
γ:=cpcv=CpCv
を比熱比 と呼ぶ。
固体や液体では温度による体積変化がほとんどないため、
低圧比熱に含まれる体積膨張に費やされるエネルギーは微小のため、
ほぼ Cv=Cp となり、γ≈1(厳密には1よりわずかに大きい)
しかし、気体の場合には、定圧の下では、
熱エネルギーをあたえると体積が大きく増加するため、
気体は外部に向けて仕事をして、エネルギーを使ってしまうため、
同じ温度を上げるためには、
定積の場合より多くの多くの熱量を与える必要がある。
そのため、Cp>CV となり、γ>1
実測および気体のミクロ構造を用いた分子運動論によると
単原子気体ではγ≒5/3,二原子気体ではγ≒7/5,
3原子以上の多原子気体ではγ≒4/3
であることが分かっている。
次の節で単原子分子の理想気体の場合を説明する。
理想気体の断熱変化
(未完;2.8 夜、執筆予定)
熱力学の第2法則
第二種永久機関の失敗やカルノーの熱機関の効率の研究から,熱力学の第2法則が、熱現象の基本原理として採用された。
熱機関と効率
熱機関とは、
高温の熱源から熱エネルギーをもらってシリンダー内の気体(作業物質という)を膨張(この時外部に仕事をする)させ、
あまった熱を低温熱源に与えて作業物質を冷却・収縮させて元の状態に戻すことで、
シリンダーにはめたピストンを往復運動(1往復をサイクルという)させ、外部に仕事をさせる機械のことである。
高温の熱源から受け取った熱エネルギーを,
すべて外部への仕事に変換することは出来るであろうか。
できなければ最大効率はいくらで、どのような熱機関で実現できるのか。
この問題を解決したのはカルノーである。
カルノー機関、カルノーサイクル
カルノーが発見した最大効率の熱機関は、
①作業物質の温度を高温熱源と等しくしてから、高温熱源と接触させ熱平衡を保ったまま高温熱源から熱をもらい非常にゆっくりと作業物質を膨張させる(この時外部に仕事をする)
②作業物質を熱源から離し、作業物質をゆっくりと断熱膨張(この時も外部に仕事)させて作業物質の温度を下げ、
③低温の熱源の温度にひとしくなったら、作業物質を低温熱源に接触させ、今まで取り出した仕事の一部を用いて、作業物質をゆっくり圧縮して熱平衡を保ったまま作業物質の熱を低温熱源にもどし
④さらに、低温熱源から作業物質を離して、今まで取り出した仕事の一部を用いて、断熱圧縮して、作業物質の温度を上げ、もとの状態に戻す、
という4つの過程からなる装置であり、カルノー機関という。
この機関のサイクルを、カルノーサイクル
という。
準静的過程
可逆過程と可逆機関
外界に変化を残さずに、元の状態に戻すことのできる変化を、可逆変化という。但し、もどすときの経路は、最初の変化の逆を辿る必要はない。詳しくは、
カルノー機関は準静的なので、最初の経路で得た仕事を全て使って、最初の経路を逆に辿り元の状態に戻せるので、可逆機関である。
準静的過程と可逆過程の関係
カルノーの定理
熱力学の第2法則を用いると、
カルノーの定理「この機関の効率は作業物質によらず同じであり、両熱源の温度だけで決まる」、
「カルノー機関より高効率な熱機関は存在しない」
ことが論証できる。
カルノーの定理の証明
熱力学的絶対温度
カルノー機関の効率が両熱源の温度の関数であることを用いて熱力学的絶対温度(作業物質の特性を全く使わない温度)が定義できる。
これらの詳細については本テキストでは扱わない。
熱力学の第2法則
いくつかの異なった定式化があるが、いずれも等価であることが示せる。
トムソンの原理
クラジウスの原理
- ウィキペディア(熱力学) の 「2 熱力学の法則 」の3
および
不可逆過程とエントロピー
不可逆変化と具体例
可逆過程とは、外界に変化を残さずに最初の状態に戻せる過程のことであったが、現実の殆どの変化は可逆ではない。例えば高温物体から低温物体への熱の移動は、両者を接触させればおこるが、この逆の変化は起こらず、熱移動は不可逆過程である。他の例も考えてみてください。
不可逆な熱機関の効率
不可逆過程をふくむ熱機関の効率は、カルノー機関の効率よりも常に小さい(カルノーの第2定理)。
これも熱力学の第2法則から導ける。
エントロピー
高温熱源T1と低温熱源T2を用いたカルノーサイクルでは、
Q1T1=Q2T2
が成立する。
高温熱源T1と低温熱源T2を用いた不可逆過程の熱機関では
Q1T1<Q2T2
が成立する。
このことから、エントロピー QT という重要な概念が導入された。
熱はエントロピーが増大する方向に移行する(エントロピー増大則)。
これ以上は、本テキストだは扱わないが、興味のある方は以下を参照のこと。