物理/多変数解析学
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(→微分(全微分) ) |
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大きさがrより小さい任意のn次元縦ベクトル h に対して<br/> | 大きさがrより小さい任意のn次元縦ベクトル h に対して<br/> | ||
f(x0+h)−f(x0)=Ch+δ(h1,h2,⋯,hn)(a)<br/> | f(x0+h)−f(x0)=Ch+δ(h1,h2,⋯,hn)(a)<br/> | ||
- | ここで、limh→bf0,h≠0δ(h1,h2,⋯,hn)‖h‖=0<br/> | + | ここで、$\lim_{{\bf h}\to {\bf 0},{\bf h}\neq {\bf 0}}\frac{\delta(h_1,h_2,\cdots,h_n)}{\|\bf{h}\|} = 0 $<br/> |
3)$C = Df({\bf x^{0}})\triangleq | 3)$C = Df({\bf x^{0}})\triangleq | ||
\begin{pmatrix} Df^{1}({\bf x^{0}}) \\ | \begin{pmatrix} Df^{1}({\bf x^{0}}) \\ | ||
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同様に、ノルムの十分小さい任意のm次元ベクトルkに対して、<br/> | 同様に、ノルムの十分小さい任意のm次元ベクトルkに対して、<br/> | ||
g(y0+k)=g(y0)+Dg(y0)k+δ′(k)(c)<br/> | g(y0+k)=g(y0)+Dg(y0)k+δ′(k)(c)<br/> | ||
- | ここで、limk→0δ′(k)‖k‖=0(d)<br/> | + | ここで、$\lim_{{\bf k}\to {\bf 0}}\frac{\delta'({\bf k})}{\|{\bf k} \|}= 0\qquad \qquad \qquad (d)$<br/> |
- | + | ||
g∘f(x0+h)=g(f(x0+h))<br/> | g∘f(x0+h)=g(f(x0+h))<br/> | ||
+ | 式(a)から、<br/> | ||
=g(f(x0)+Df(x0)h+δ(h))<br/> | =g(f(x0)+Df(x0)h+δ(h))<br/> | ||
- | そこで、k(h)=Df(x0)h+δ(h) とおくと<br/> | + | そこで、${\bf k(h)}=Df({\bf x^0}){\bf h} + \delta({\bf h}) \qquad (e)$ <br/> |
- | =g(f(x0)+k(h)) | + | $\qquad$ とおくと<br/> |
- | hが零ベクトル近づくときk | + | $=g\Bigl(f({\bf x^0}) + {\bf k(h)}\Bigr) = g\Bigl({\bf y^0} + {\bf k(h)}\Bigr) $<br/> |
- | + | $\qquad {\bf h}が零ベクトル近づくとき{\bf k(h)}$も零ベクトルに近づくので 式(c)を適用できて<br/> | |
+ | $=g({\bf y^0}) + Dg({\bf y^0}){\bf k(h)} + \delta'({\bf k(h)})$<br/> | ||
+ | =g(f(x0))+Dg(y0)k(h)+δ′(k(h))<br/> | ||
+ | 故に、<br/> | ||
g∘f(x0+h) <br/> | g∘f(x0+h) <br/> | ||
- | $=g({\bf y^0}) + Dg({\bf y^0}){\bf k(h)} + \delta'({\bf k(h)})\qquad ( | + | $=g\circ f({\bf x^0}) + Dg({\bf y^0}){\bf k(h)} + \delta'({\bf k(h)})$<br/> |
- | + | $=g\circ f({\bf x^0}) + Dg({\bf y^0})\Bigl( Df( {\bf x^0}){\bf h} + \delta({\bf h})\Bigr) + \delta'\Bigl( {\bf k}({\bf h}) \Bigr)$<br/> | |
- | + | $=g\circ f({\bf x^0}) + Dg({\bf y^0})Df( {\bf x^0} ){\bf h}+Dg({\bf y^0})\delta({\bf h})+\delta'\Bigl({\bf k}({\bf h})\Bigr) $<br/> | |
+ | ここで、$\epsilon({\bf h}) \triangleq Dg({\bf y^0})\delta({\bf h}) | ||
+ | + \delta'\Bigl({\bf k}({\bf h})\Bigr)\qquad \qquad (f)$ とおくと、<br/> | ||
+ | $=g\circ f({\bf x^0}) + Dg({\bf y^0})Df({\bf x^0}){\bf h} + \epsilon({\bf h})$<br/> | ||
+ | 故に、 | ||
+ | g∘f(x0+h)=g∘f(x0)+Dg(y0)Df(x0)h+ϵ(h)(g)<br/> | ||
+ | もし<br/> | ||
+ | limh→0,h≠0‖ϵ(h)‖‖h‖=0(g)<br/> | ||
+ | が成り立てば定理6から、関数g∘fは、点x0で微分可能で、その導値はDg(y0)Df(x0)であることが分かる。<br/> | ||
+ | 式(g)を示そう。<br/> | ||
+ | $\frac{\|\epsilon({\bf h})\|}{\|{\bf h}\|}=\frac{\|Dg({\bf y^0})\delta({\bf h}) | ||
+ | + \delta'\Bigl({\bf k}({\bf h})\Bigr) \|}{\|{\bf h}\|}\qquad $ (式(f)利用)<br/> | ||
+ | ≤‖Dg(y0)δ(h)‖+‖δ′(k(h))‖‖h‖(ベクトルの和のノルムの性質を利用)<br/> | ||
+ | ここで、[[wikipedia_ja:行列ノルム#誘導されたノルム |行列のノルムとして、ベクトルのノルムから誘導されたノルム]]を用いると、<br/> | ||
+ | ‖Dg(y0)δ(h)‖≤‖Dg(y0)‖‖δ(h)‖ <br/> | ||
- | + | [[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%8C%E5%88%97%E3%83%8E%E3%83%AB%E3%83%A0#誘導されたノルム| 行列ノルムの誘導されたノルム]] | |
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=== 高階偏微分 === | === 高階偏微分 === |
2017年12月16日 (土) 10:28時点における版
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「9.1 多変数解析学」
序
本章の冒頭の偏微分の導入部については下記の本も参考にしてください。
それ以降の内容については、ウィキブックスには殆どないため、
このテクストで今後叙述していく予定です。
多変数の実数値関数の微分
Rn={(x1,x2,,,xn)∣xi∈R,i=1,2,⋯n} の開区間
In=∏ni=1(ai,bi)上で定義された実関数 y=f(x1,x2,,,xn) を考える。
一変数関数の議論から類推するために
以後、x:=(x1,x2,,,xn)とおき、 y=f(x) と書くこともある。
In上で定義された実数値関数 y=f(x)=f(x1,x2,,,xn) の微分について説明する。
一変数の微分から類推すると
微小なベクトル h=(h1,h2,,,hn) を考え、極限
lim→h→0,→h≠0f(x+→h)−f(x)h
が存在するとき、関数fは微分可能と定義することが考えられる。
しかし残念ながら、
→hはn次元ベクトルなので、割り算は不可能でありこの定義は無効である。
偏微分
関数f の変数 x の第i成分 xi だけを変数とし、
他の変数は任意の実数に固定(xj=aj(j≠i))して得られる関数
ϕxj=aj,j≠i(xi)≜f(a1,a2,,,ai−1,xi,ai+1,,,an)
を考える。
この関数は、一変数なので、任意の点xi での微分係数
dϕxj=aj,j≠idxi(xi)≜limh→0,h≠0ϕxj=aj,j≠i(xi+h)−ϕxj=aj,j≠i(xi)h
=limh→0,h≠0f(a1,a2,,,ai−1,xi+h,ai+1,,,an)−f(a1,a2,,,ai−1,xi,ai+1,,,an)h
を考えることができる。
定義1(偏微分)
もし、一変数関数 ϕxj=aj,j≠i(xi)=f(a1,a2,,,ai−1,xi,ai+1,,,an) が、ある点xi=aiで微分可能ならば、
関数fは、点→a=(a1.a2,,,,an)で,xi について偏微分可能であると言い,
∂f∂xi(→a)≜dϕxj=aj,j≠idxi(ai)
を、f(x) の 点→a での変数 xi についての偏微分係数という。
定義2(偏導関数)
f(x) がどの点xでも xi に関して偏微分可能であるならば、
任意の点x にその点における xi に関する偏微分係数∂f∂xi(x)を対応させると、新しい関数が得られる。
これを、f(x) の xi に関する偏導関数といい、記号
fxi(x),Dxif(x),∂f∂xi(x),∂f/∂xi
などで表示する。
以後、簡単のために2変数x,y の関数に限定して議論する。
定理1 合成関数の微分(1)
R2 から R への関数f(x,y) と
R から R への関数g(t) の合成関数
h(x,y)=g(f(x,y))
を考える。
もし、f(x,y) が (x0,y0) で、xに関して偏微分可能で,
g(t) が、t0=f(x0,y0) において微分可能ならば、
h(x,y)=g(f(x,y)) は (x0,y0) で、xに関して偏微分可能であり,
hx(x0,y0)=g′(t0)fx(x0,y0)(1)
証明
yを y0 に固定して考えると、一変数関数の合成関数の微分になるので、合成関数の微分公式を適用すればよい。
定理2
f(x,y) を
(x0,y0) を中心とするある半径rの開球体Br(x0,y0)上で、xについて偏微分可能とする。
もし(x,y) をBr(x0,y0)の点ならば
x0 と x の間の ξ が存在して、
f(x,y)−f(x,y0)−(f(x0,y)−f(x0,y0))=(x−x0)(fx(ξ,y)−fx(ξ,y0))(2)
(注)2次元の開球体Br(x0,y0)≜{(x,y)∈R2|‖(x,y)−(x0,y0)‖2<r} は、中心が点(x0,y0) で半径rの円周で囲まれる内部である。
証明
ϕ(x)≜f(x,y)−f(x,y0) とおくと、
式()の左辺=ϕ(x)−ϕ(x0)
ϕ(x) は、x0 の近傍で微分可能なので、平均値の定理から、
x0 と x の間の ξ が存在して、
=(x−x0)ϕ′(ξ)=(x−x0)(fx(ξ,y)−fx(ξ,y0))
定理3
f(x.y) を
(x0,y0) を中心とする開球体Br(x0,y0)上で、xについて偏微分可能とする。
もし(x,y)=(x0+h,y0+k)∈Br(x0,y0) ならば
f(x,y)=f(x0,y0)+hfx(x0+hθ,y)+kfy(x0,y0+kθ)
を満たす、θ=θ(h,k)∈(0,1) が存在する。
証明
g(t)≜f(x0+ht,y)+f(x0,y0+kt) というtの関数を導入する。
すると、
g(1)−g(0)=f(x,y)+f(x0,y)−(f(x0,y)+f(x0,y0))
=f(x,y)−f(x0,y0)
関数 g(t) は、閉区間[0,1] を含む開区間上で微分可能なので、
一変数の微分可能関数の平均値の定理から、
ある数 θ∈(0,1) が存在して、
g(1)−g(0)= g′(θ)(1−0)=g′(θ) (a)
故に、f(x,y)−f(x0,y0)=g(1)−g(0)=g′(θ)
関数gの微分は,一変数関数の合成関数の微分公式から
g′(t)=fx(x0+ht,y)h+fy(x0,y0+kt)k(b)
式(a)、(b) から
f(x,y)−f(x0,y0)=fx(x0+hθ,y)h+fy(x0,y0+kθ)k(b)
証明終わり
方向微分
→ei を直交座標系のxi座標軸の正方向の方向・向きを持つ単位長さのベクトルとする(第i直交座標ベクトルと呼ぼう)。
多変数関数y=f(x1,x2,,,xn)の、点x=(x1,x2,,,xn)での偏微分係数 ∂f∂xi(x) は、
点x を、第i座標(座標ベクトル→ei)に平行に無限に小さい距離移動させるときの、関数fの変化率とみなせる。
式で書くと
∂f∂xi(x)=limh→0,h≠0f(x+h→ei)−f(x)h
このように考えると、点x=(x1,x2,,,xn)を、座標ベクトル→eiに平行ではなく、
任意に指定するベクトル→aに平行に微小量動かすときの関数fの変化率を考えることもできることが分かるだろう。
定義 方向微分
関数y=f(x1,x2,,,xn)の、点x=(x1,x2,,,xn)での,→a 方向の微分係数とは、
limh→0,h≠0f(x+h→a)−f(x)h
のことで、
∂f∂→a(x),f→a(x),D→af(x)
などと書く。
命題1
(1) →ei 方向の微分は、→ei 座標軸(xi座標軸)に関する偏微分である。
ここで、→ei はxi座標軸の正方向向きの単位長さのベクトル。
式で書くと、
∂f∂→ei(x)=∂f∂xi(x)
(2)α を任意の実数とすると
∂f∂α→ei(x)=α∂f∂xi(x)
微分(全微分)
この§も、記述を簡単にするため、2変数関数で説明する。
一般のn変数の場合への拡張は、記述は複雑になるが、容易である。
多変数実数値関数の微分可能性
二変数関数の微分可能性をどう定義したらよいだろうか?
一変数関数の微分の場合、それと同等の条件はいくつか知られているが、
その中で二変数関数に容易に拡張できるものを採用するのが自然である。
1.4.1.1 微分係数の意味 の命題の条件 3)の式(5)が、それに該当する。
定義3 微分可能性(全微分可能性)
関数f(x,y)が、或る開集合U(\subset {\bf R^2})上で定義されているとする。
fが 点(x0,y0)∈U で微分可能(あるいは全微分可能)とは、
ある定数c1, c2が存在して、
ノルムが微小な任意のベクトルh =(h1,h2)に対して
f(x0+h1,y0+h2)=f(x0,y0)+c1h1+c2h2+δ(h1,h2)(注1参照のこと)(a)
ここで、limh→0δ(h1,h2)/‖h‖=0(注2参照のこと)(b)
この時、 c≜(c1,c2) を、fの点(x0,y0)における導値(derivative)または微分係数といい、
f′(x0,y0), Df(x0,y0) などと書く。
(注1)(x0,y0)∈U で、Uが開集合なので、
‖h‖がある正数より小さければ(x0+h1,y0+h2)∈Uとなり、
関数fは、この点で定義されている。
δ(h1,h2)は、h1,h2 の関数である。
(注2)ノルムとしては、どのp-ノルムを用いても良い。
このテキストの「1.4.3 一般のノルムの定義とノルムの同等性」を参照のこと。
定理4
fが 点(x0,y0)∈U で微分可能ならば、
1)f は(x0,y0) で偏微分可能で、
式(a)のc1,c2 はそれぞれ、点(x0,y0) でのx、yに関する偏微分係数である。
すなわち、f′(x0,y0)=(fx(x0,y0),fy(x0,y0))
2)e=(e1,e2)T を任意のベクトルとすると、
f は 点(x0,y0) で e方向に微分可能で、
Def(x0,y0)=Df(x0,y0)e
証明
1)を示そう。
式(a) で、h2=0 とすると
f(x0+h1,y0)=f(x0,y0)+c1h1+δ(h1,0)(c)
ここで、
limh1→0,h1≠0δ(h1,0)|h1|=0(d)
式(c)の両辺を、h1(≠0) で割り、整頓すると、
f(x0+h1,y0)−f(x0,y0)h1=c1+δ(h1,0)h1
この式の両辺の極限h1→0をとると、式(d)から
limh1→0,h1≠0f(x0+h1,y0)−f(x0,y0)h1=c1
を得る。
この左辺は、xに関する偏微分∂f∂x(x0,y0)の定義式である。
式(a) で、x=x0 と固定すると,同様の議論で、
c2=∂f∂y(x0,y0) を得る。
1)の証明終わり
2)を証明しよう。
e=0 の時は、Def(x0,y0)=0であることは、方向微分の定義から直ちにわかるので、2)は成り立つ。
e≠0 の時;
方向微分の定義から
Def(x0,y0)=limt→0,t≠0f(x0+te1,y0+te2)−f(x0,y0)t(a)
他方、fが 点(x0,y0) で全微分可能なので、
f(x0+te1,y0+te2)−f(x0,y0)=Df(x0,y0)te+δ(te1,te2))(b)
ここで、δ(te1,te2)‖te‖→0(‖te‖→0 のとき)
式(b)を式(a)の右辺の代入すると、
Def(x0,y0)=limt→0,t≠0(Df(x0,y0)e+δ(te1,te2)t)=Df(x0,y0)e
これで2)が示せた。
証明終わり
fが微分可能ならば、
fの点(x0,y0)での値と、その近くの点(x0+h,y0+k)での値の差f(x0+h,y0+k)−f(x0,y0) は、
c1h+c2k=(c1,c2)(h,k)T=(fx(x0,y0),fy(x0,y0))(h,k)T
で大変精度よく近似できることを意味する。
ここで、ベクトルの右肩についているTという記号は、転置演算を表す記号である。
本テキストの8.1 平面と空間,ベクトルの行列を参照のこと。
定理5
2変数関数関数 f(x,y) を考える。
もし、偏導関数 fx,fy の少なくとも一方が (x0,y0) で存在し、
他方が、(x0,y0) を中心とする半径δ の開球体 Bδ(x0,y0)上で存在し、(x0,y0) で連続ならば、
f(x,y) は(x0,y0) において、微分可能である。
(注)δはどんなに小さくてもよい。
証明
fxが Bδ(x0,y0)上で存在し、(x0,y0) で連続と仮定して、証明すればよい。(他の場合も同様に議論できるから)。
そこで、fxがBδ(x0,y0)上で存在し、(x0,y0) で連続としよう。
‖h‖2<δ を満たす任意の2次元ベクトルh=(h1,h2)をとる。
f(x0+h1,y0+h2)−f(x0,y0)
=(f(x0+h1,y0+h2)−f(x0,y0+h2))+(f(x0,y0+h2)−f(x0,y0))(a)
一変数h1の関数
ϕ(h1)≜f(x0+h1,y0+h2)(b)
を考えると、ϕ(0)=f(x0,y0+h2)であり、
fxがUδ(x0,y0)上で存在するので、微分可能な関数である。
一変数の微分可能な関数の平均値の定理から、ある正数θ∈(0,1) が存在して、
ϕ(h1)−ϕ(0)=h1ϕ′(θh1)
式(b)を用いて、この式を関数fを用いて表すと
f(x0+h1,y0+h2)−f(x0,y0+h2)=h1Dx1f(x0+θh1,y0+h2)(c)
式(a)の右辺の第2項f(x0,y0+h2)−f(x0,y0) を考える
関数fのyについての偏微分Dyfが(x0,y0)で存在することから、
f(x0,y0+h2)−f(x0,y0)=h2Dyf(x0,y0)+δ(h2)(d)
ここでδ(h2)は、limh2→0,h2≠0δ(h2)|h2|=0をみたす関数。
式(a)の右辺に、式 (c),(d)を代入すると、
f(x0+h1,y0+h2)−f(x0,y0)
=h1Dxf(x0+θh1,y0+h2)+h2Dyf(x0,y0)+δ(h2)
=h1Dxf(x0,y0)+h2Dyf(x0,y0)+h1(Dxf(x0+θh1,y0+h2))−Dxf(x0,y0))+δ(h2)(e)
limh→0,h≠0h1(Dxf(x0+θh1,y0+h2))−Dxf(x0,y0))+δ(h2)‖h‖=0(f)
を示せば、微分可能性の定義から、所要の命題が証明できたことになる。
limh→0,h≠0δ(h2)‖h‖=0は明らか。
limh→0,h≠0h1(Dxf(x0+θh1,y0+h2))−Dxf(x0,y0))‖h‖
=limh→0,h≠0h1‖h‖(Dxf(x0+θh1,y0+h2))−Dxf(x0,y0))
h1‖h‖ は絶対値が1以下の値で
Dxf は、仮定から (x0,y0) で連続なので
limh→0,h≠0(Dxf(x0+θh1,y0+h2))−Dxf(x0,y0))=0が成り立つので
=0
これで式(f) が示せた。定理2の証明終わり。
(注)この定理はn変数関数の場合にも、次のように拡張できる。
定理5d
n変数関数関数 f(x) を考える(x=(x1,x2,⋯xn−1,xn))。
もし、偏導関数 {fxi}ni=1 の少なくとも一つが x=x0 で存在し、
残りの全ての偏導関数がx0 を中心とする半径δ の開球体 Bδ(x0)上で存在し、x0 で連続ならば、
f はx0 において、微分可能である。
証明は、同じようにしてできるので省略する。
定義4
n次元空間Rn の開集合Uで定義される実数値関数
f(x) がC1級 とは、
全ての偏導関数{fxi}ni=1がU上で存在し、
かつ、それらがU上の連続関数であること。
U上で定義され実数値をとるC1級関数をすべて集めた集合を C1(U,R) と書く。
(注)n次元空間Rn の集合Uが開集合であるとは、
Uの任意の要素xに対して、十分小さな半径rを選ぶと、
xを中心とし半径rの開球体Br(x) がUに含まれること。
定理5d の系
C1級の関数は微分可能である。
ベクトル値の多変数関数の微分可能性
合成関数の微分を論ずるために、微分可能性をベクトル値関数の場合に拡張する。
本§では行列の初歩的知識が必要である。
y=f(x) をn次元空間Rnの開集合Uで定義され、m次元空間Rmに値をとる関数とする。
ベクトルy とx を座標成分表示した縦ベクトルも同じ記号で表示しておく。
y=(y1y2⋮ym)
x=(x1x2x3⋮xn)
関数y=f(x)を座標成分表示すると
yi=fi(x)(i=1,2,3,⋯m)
定義5 ベクトル値関数の微分可能性
n変数でm次元空間Rmに値をとる関数y=f(x)が点xで
微分可能(全微分可能ともいう)とは、
その関数を座標成分表示した、m個のn変数実数値関数
yi=fi(x)(i=1,2,3,⋯m)
が全て、xで微分可能(全微分可能)であること。
定理6
y=f(x) をn次元空間Rnの開集合Uで定義され、m次元空間Rmに値をとる関数とする。
この関数の座標成分表示を yi=fi(x)(i=1,2,3,⋯,n)(a)とする。
1.次の条件1)と 2)は等価である。
1)関数 f が、点 x0(∈U) で微分可能である。
2)あるm×n行列Cが存在し、
Br(x0)⊂Uとなるような正数rと、
大きさがrより小さい任意のn次元縦ベクトル h に対して
f(x0+h)−f(x0)=Ch+δ(h1,h2,⋯,hn)(a)
ここで、\lim_{{\bf h}\to {\bf 0},{\bf h}\neq {\bf 0}}\frac{\delta(h_1,h_2,\cdots,h_n)}{\|\bf{h}\|} = 0
3)C = Df({\bf x^{0}})\triangleq
\begin{pmatrix} Df^{1}({\bf x^{0}}) \\
Df^{2}({\bf x^{0}}) \\
\vdots\\
Df^{m}({\bf x^{0}})\\
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
\frac{\partial f^{1}}{\partial x_1}(\bf x) & \frac{\partial f^{1}}{\partial x_2}(\bf x) & \frac{\partial f^{1}}{\partial x_3}(\bf x) & \dots & \frac{\partial f^{1}}{\partial x_n}(\bf x)\\
\frac{\partial f^{2}}{\partial x_1}(\bf x) & \frac{\partial f^{1}}{\partial x_2}(\bf x) & \frac{\partial f^{2}}{\partial x_3}(\bf x) & \dots & \frac{\partial f^{2}}{\partial x_n}(\bf x)\\
\frac{\partial f^{3}}{\partial x_1}(\bf x) & \frac{\partial f^{3}}{\partial x_2}(\bf x) & \frac{\partial f^{3}}{\partial x_3}(\bf x) & \dots & \frac{\partial f^{3}}{\partial x_n}(\bf x)\\
\vdots & \vdots & \vdots & \ddots& \vdots\\
\frac{\partial f^{m}}{\partial x_1}(\bf x) & \frac{\partial f^{m}}{\partial x_2}(\bf x) & \frac{\partial f^{m}}{\partial x_3}(\bf x) & \dots & \frac{\partial f^{m}}{\partial x_n}(\bf x)\\
\end{pmatrix}
証明
容易なので省略する。
定義6
\bf{y} = f({\bf x})が点{\bf x}で微分可能のとき
C = Df({\bf x^{0}}) を、関数fの{\bf x^{0}} での導値(あるいは微分係数)と呼ぶ。
定理7 合成関数の微分
{\bf y} = f({\bf x}) を{\bf R^l} の開集合U から\bf{R^m}への関数
{\bf z} = g(\bf{y}) を\bf{R^m} の開集合V から{\bf R^n}への関数とする。
もし関数fが点\bf{x^0}(\in U)で微分可能で、
{\bf y^0}\triangleq f({\bf x^0}) \in Vであり
関数gが点{\bf y^0}で微分可能であるならば
合成関数
{\bf z} = g\circ f({\bf x})\triangleq g(f({\bf x}))
は、点{\bf x^0}で微分可能で
その点の導値 D(g\circ f)({\bf x^0})は
D(g\circ f)({\bf x^0}) = Dg({\bf y^0})Df({\bf x^0}) \quad (注参照のこと)\qquad (a)
である。
(注)右辺はn×m行列Dg({\bf y^0}) とm×l行列Df({\bf x^0})の行列としての積である。
証明
関数fが点{\bf x^0}で微分可能なので、微分可能の定義から
ノルムの十分小さい任意のl次元ベクトル{\bf h}に対して、
f({\bf x^0}+{\bf h}) = f({\bf x^0}) + Df({\bf x^0}){\bf h} + \delta(\bf{h})\qquad (a)
ここで、\lim_{{\bf h}\to {\bf 0}}\frac{\delta({\bf h})}{\|{\bf h} \|}= 0\qquad (b)
同様に、ノルムの十分小さい任意のm次元ベクトル{\bf k}に対して、
g({\bf y^0}+{\bf k}) = g({\bf y^0}) + Dg({\bf y^0}){\bf k} + \delta'(\bf{k})\qquad (c)
ここで、\lim_{{\bf k}\to {\bf 0}}\frac{\delta'({\bf k})}{\|{\bf k} \|}= 0\qquad \qquad \qquad (d)
g\circ f({\bf x^0}+{\bf h}) = g\Bigl(f({\bf x^0}+{\bf h})\Bigr)
\qquad 式(a)から、
=g\Bigl(f({\bf x^0}) + Df({\bf x^0}){\bf h} + \delta({\bf h})\Bigr)
\qquad そこで、{\bf k(h)}=Df({\bf x^0}){\bf h} + \delta({\bf h}) \qquad (e)
\qquad とおくと
=g\Bigl(f({\bf x^0}) + {\bf k(h)}\Bigr) = g\Bigl({\bf y^0} + {\bf k(h)}\Bigr)
\qquad {\bf h}が零ベクトル近づくとき{\bf k(h)}も零ベクトルに近づくので 式(c)を適用できて
=g({\bf y^0}) + Dg({\bf y^0}){\bf k(h)} + \delta'({\bf k(h)})
=g\Bigl(f({\bf x^0})\Bigr) + Dg({\bf y^0}){\bf k(h)} + \delta'({\bf k(h)})
故に、
g\circ f({\bf x^0}+{\bf h})
=g\circ f({\bf x^0}) + Dg({\bf y^0}){\bf k(h)} + \delta'({\bf k(h)})
=g\circ f({\bf x^0}) + Dg({\bf y^0})\Bigl( Df( {\bf x^0}){\bf h} + \delta({\bf h})\Bigr) + \delta'\Bigl( {\bf k}({\bf h}) \Bigr)
=g\circ f({\bf x^0}) + Dg({\bf y^0})Df( {\bf x^0} ){\bf h}+Dg({\bf y^0})\delta({\bf h})+\delta'\Bigl({\bf k}({\bf h})\Bigr)
\qquad ここで、\epsilon({\bf h}) \triangleq Dg({\bf y^0})\delta({\bf h})
+ \delta'\Bigl({\bf k}({\bf h})\Bigr)\qquad \qquad (f) とおくと、
=g\circ f({\bf x^0}) + Dg({\bf y^0})Df({\bf x^0}){\bf h} + \epsilon({\bf h})
故に、
g\circ f({\bf x^0}+{\bf h})=g\circ f({\bf x^0}) + Dg({\bf y^0})Df({\bf x^0}){\bf h} + \epsilon({\bf h})\qquad \qquad (g)
もし
\lim_{{\bf h} \to {\bf 0},{\bf h} \neq {\bf 0}}\frac{\|\epsilon({\bf h})\|}{\|{\bf h}\|} = 0 \qquad \qquad (g)
が成り立てば定理6から、関数g\circ fは、点{\bf x^0}で微分可能で、その導値はDg({\bf y^0})Df({\bf x^0})であることが分かる。
式(g)を示そう。
\frac{\|\epsilon({\bf h})\|}{\|{\bf h}\|}=\frac{\|Dg({\bf y^0})\delta({\bf h})
+ \delta'\Bigl({\bf k}({\bf h})\Bigr) \|}{\|{\bf h}\|}\qquad (式(f)利用)
\leq \frac{\| Dg({\bf y^0})\delta({\bf h})\|+\|\delta'\Bigl({\bf k}({\bf h})\Bigr) \|}{\|{\bf h}\|}\qquad (ベクトルの和のノルムの性質を利用)
\qquad ここで、行列のノルムとして、ベクトルのノルムから誘導されたノルムを用いると、
\qquad \| Dg({\bf y^0})\delta({\bf h})\| \leq \| Dg({\bf y^0})\|\|\delta({\bf h})\|
高階偏微分
(1)二階偏微分
定義 二階偏微分
次は、大変有用な定理である。
定理
{\bf R^n}の開集合Uで定義された実数値関数fに対し、
点\textbf{a} \in U の近傍W(注参照)で
\qquad \qquad f_{x_i,x_j} \ f_{x_j,x_i}
が共に存在し、\textbf{a}において共に連続ならば、
\qquad \qquad f_{x_i,x_j}(\textbf{a}) = f_{x_j,x_i}(\textbf{a})
二階偏微分可能な関数
議論を簡単にするため、この§でも2変数関数f(\textbf{x}) で考える。
ここで\textbf{x}=(x_1,x_2)^{T}