物理/音と音波

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(版間での差分)
(音波の伝わり方)
((3)発音体の振動(その2) 気柱の振動)
 
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=音と音波=
=音と音波=
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自然には色々な音波が存在し、私たちはそれを耳で音として聞く。<br/>
+
音波とは、狭い意味では、空気の粗密の振動が伝わっていく縦波である。<br/>
 +
広義には、気体、液体、固体の中を伝わる縦波(粗密波)を音波という。<br/>
音波は波なので、反射、屈折、回折、干渉など、波に共通する特有の性質をもつ。<br/>
音波は波なので、反射、屈折、回折、干渉など、波に共通する特有の性質をもつ。<br/>
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そのため、4.1 波の性質で述べたことはすべて成立する。
+
そのため、「4.1 波の性質」で述べたことは、すべて成立する。<br/>
-
==音波の伝わり方==
+
-
音波とは、狭い意味では、空気の粗密の振動が伝わっていくものである。<br/>
+
-
例えばスピーカのコーン紙が前後に振動すると、<br/>
+
-
それに接する空気の部分がコーン紙によって押されたり引かれて粗密(と圧力)の振動を起こす。<br/>
+
-
この振動によって、この空気層にせっする空気層も押されたりひかれたりして粗密の振動がおこり、<br/>
+
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次々に空気の粗密の振動が伝わっていく。<br/>
+
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広義には、気体、液体の中を伝わる縦波(粗密波)も音波という。
+
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これらの波は粗密の振動方向が、波の進行方向と平行なので縦波である。<br/>
+
-
縦波では、変位量として、媒質の密度以外にも、圧力とか、媒質のマクロな位置の変位量をとることができるので、音波の場合も同様である。
+
-
*[[wikipedia_ja:音波|ウィキペディア(音波)]]
+
 +
==音波の伝わり方==
===音波の速さ===
===音波の速さ===
-
*[[wikipedia_ja:音速|ウィキペディア(音速)]]
+
乾燥した空気をつたわる音波の速さ $V$ は<br/>
 +
空気温度 t℃ が高くなると早くなり、<br/>
 +
$V=331.3+0.6 t  \qquad \qquad (1)$<br/>
 +
で表せる(注参照)。<br/>
 +
液体や固体中の音波の速さは、空気中よりずっと大きい。<br/>
 +
音速の測定や理論研究の歴史、種々の媒質中の音速については、
 +
*[[wikipedia_ja:音速 |ウィキペディア(音速)]]
 +
を参照のこと。<br/><br/>
 +
(注) 空気は静止していると仮定している。<br/>
 +
一定速度で動く空気中では、<br/>
 +
その空気に対する音の相対速度が、式(1)で表される。
 +
 
===音の3要素  ===
===音の3要素  ===
-
音の3要素 とは次の3つである。
+
音の3要素 とは次の3つである。<br/>
-
(1)音の高さ;振動数の高い音ほど、高音に聞こえる。
+
(1)音の高さ;<br/>
-
        ちなみに、人間の耳に聞こえる音は、
+
振動数の高い音ほど、高音に聞こえる。<br/>
-
        振動数が20Hzから2万Hzの音である。
+
1オクターブ高い音とは、振動数が2倍になることをいう。<br/>
-
        可聴音という。
+
ちなみに、人間の耳に聞こえる音は、振動数が20Hzから2万Hzの音である。<br/>
-
(2)音の強さ音の3要素;音には強く聞こえる音と弱く聞こえる音がある。
+
可聴音という。<br/>
-
        音の強弱は、振動の振幅が関係している。
+
(2)音の強さ;<br/>
-
        同じ振動数ならば、振幅の大きな音ほど強く聞こえる。
+
音には強く聞こえる音と弱く聞こえる音がある。<br/>
-
(3)音色;発音体が違うと振動数と強さが同じ音でも、音の感じが違う。
+
音の強弱は、媒質の密度、波の振幅と振動数によって決まる。<br/>
-
      これを音色あるいは、ねいろという。
+
媒質密度と振動数が同じならば、振幅の大きな音ほど強く聞こえる。<br/>
-
      波の多くは、波形が正弦関数で表せないので、
+
(3)音色;<br/>
-
      振動数や振幅が同じでも、波形が異なるためである。
+
発音体が違うと振動数と強さが同じ音でも、音の感じが違う。<br/>
 +
これを音色あるいは、ねいろという。<br/>
 +
波の多くは、波形が正弦関数で表せないので、<br/>
 +
振動数や振幅が同じでも、波形が異なるため音色が異なる。<br/>
-
以下の項目については、
+
==音の性質==
-
[[wikibooks_ja:高等学校理科 物理I 波/音波と振動|高等学校理科 物理I 波/音波と振]]で学んでください。
+
以下の(1)から(7)までの音の性質については、<br/>
-
===音の反射と屈折 ===
+
*[[wikibooks_ja:高等学校理科 物理I 波/音波と振動|高等学校理科 物理I 波/音波と振]]で学んでください。<br/>
-
===音の干渉 ===
+
以下には、簡単に要点を補足をします。<br/>
-
===音の回折 ===
+
この節では、座標系を考えるときは、空気が静止してみえる慣性座標系を用いる。<br/><br/>
-
===音のうなり ===
+
==='''(1)音のうなり'''===
-
===ドップラー効果===
+
振動数(周波数)がわずかに異なり、変位の方向が等しい2つの音波(波)が干渉して、<br/>
-
===固有振動と共鳴・共振===
+
振動数が中間とみなせ、<br/>
-
*[[wikipedia_ja:固有振動|ウィキペディア(固有振動)]]
+
振幅がゆっくり周期的(振動数は2つの音波の振動数の差に等しい)に変わる合成波を生ずる現象を言う。<br/>
-
*[[wikipedia_ja:共鳴|ウィキペディア(共鳴)]]
+
音声波では、ウォーンウォーンという、うなりに似た音に聞こえるため、「うなり」と言われる。<br/>
 +
一般の波でも、うなりは当然生じる。<br/>
 +
*[[wikipedia_ja:うなり |ウィキペディア(うなり)]]
 +
<br/><br/>
 +
====うなりに関する命題  ====
 +
2つの波の変位の方向が同じなので、その方向を、変位量の座標軸(y軸)に選ぶ。すると<br/>
 +
音源1と音源2からの正弦波を個別に、ある地点Aで観測すると、<br/>
 +
その変位量は,時刻原点を適切に選べば、<br/>
 +
$y_1=A_1\sin (2\pi \nu _{1}t)$<br/>
 +
$y_2=A_2\sin (2\pi \nu _{2}t+\theta)$<br/>
 +
と書ける。<br/>
 +
ここで、 $|\nu _{1}-\nu _{2}|$ は微小数。<br/>
 +
この2つの波が同時にA地点にくる場合、その合成波は次の命題で与えられる。<br/><br/>
 +
'''命題'''<br/>
 +
適切に時間の原点を選び、<br/>
 +
$\nu:=\frac{\nu _{1}+\nu _{2}}{2}$、 $\Delta:=\frac{\nu _{1}-\nu _{2}}{2}$ とおけば、<br/>
 +
$y(s):=y_1(s)+y_2(s)$<br/>
 +
$=\sqrt{A_{1}^2+A_{2}^2+2A_1A_2\cos{(2\pi 2\Delta s+2\xi_1)}}
 +
\sin (2\pi \nu s+\xi) \qquad (a)$<br/>
 +
ここで、$\xi_1=\frac{\nu+\Delta}{2\Delta}\theta \qquad (b) $ <br/>
 +
$\qquad \xi$ は、 <br/>
 +
$\qquad \tan \xi=\frac{(A_1-A_2)\sin (2\pi \Delta s+\xi_1)}{(A_1+A_2)\cos (2\pi \Delta s+\xi_1)}\qquad (c)$<br/>
 +
で与えられる。<br/>
 +
注を参照のこと。<br/><br/>
 +
証明;<br/>
 +
$\nu_1=\nu+\Delta,\quad \nu_2=\nu-\Delta$ なので、<br/>
 +
$y_1=A_1\sin (2\pi \nu _{1}t)=A_1\sin (2\pi \nu t + 2\pi \Delta t)$<br/>
 +
$y_2=A_2\sin (2\pi \nu _{2}t +\theta)=A_2\sin (2\pi \nu t - 2\pi \Delta t +\theta)$<br/>
 +
両者の初期位相角が、絶対値が等しく、逆符号になるよう、時間の原点を変えよう。<br/>
 +
そのため、時間原点を a だけ移動させた時間を s とおくと、$t=s+a$ 。<br/>
 +
これを、上の2つの式に代入して、変形すると<br/>
 +
$y_1=A_1\sin \left(2\pi \nu s +2\pi \Delta s+(2\pi \nu a+2\pi \Delta a)\right)$<br/>
 +
$y_2=A_2\sin \left(2\pi \nu s -2\pi \Delta s+(2\pi \nu a-2\pi \Delta a +\theta)\right)$<br/>
 +
初期位相条件を満たすような a を求めるため、<br/>
 +
$(2\pi \nu a+2\pi \Delta a)=-(2\pi \nu a-2\pi \Delta a +\theta)$<br/>
 +
とおき、a を求めると、$a=\frac{-\theta}{4\pi \nu}$<br/>
 +
すると、それぞれの初期位相は、<br/>
 +
$\xi_1=(2\pi \nu +2\pi \Delta )\frac{-\theta}{4\pi \nu}=-\frac{\nu+\Delta}{2\nu}\theta $<br/>
 +
$\xi_2=-\left((2\pi \nu -2\pi \Delta)\frac{-\theta}{4\pi \nu}  +\theta\right)=-\xi_1$<br/>
 +
このため、<br/>
 +
$y_1=A_1\sin{\left(2\pi \nu s +(2\pi \Delta s+\xi_1)\right)}$<br/>
 +
$y_2=A_2\sin{\left(2\pi \nu s -(2\pi \Delta s+\xi_1)\right)}$<br/>
 +
これら2式に、三角関数の加法定理を適用すると、<br/>
 +
$y_1=A_1\sin{\left(2\pi \nu s +(2\pi \Delta s+\xi_1)\right)}$<br/>
 +
$=A_1\sin{(2\pi \nu s)} \cos{(2\pi \Delta s+\xi_1)}+A_1\cos{(2\pi \nu s)} \sin{(2\pi \Delta s+\xi_1)}$<br/>
 +
$y_2=A_2\sin{(2\pi \nu s)} \cos{(2\pi \Delta s+\xi_1)}-A_2\cos{(2\pi \nu s)} \sin{(2\pi \Delta s+\xi_1)}$<br/>
 +
従って<br/>
 +
$y=y_1+y_2$ <br/>
 +
$=(A_1+A_2)\sin{(2\pi \nu s)} \cos{(2\pi \Delta s+\xi_1)}+(A_1-A_2)\cos{(2\pi \nu s)} \sin{(2\pi \Delta s+\xi_1)}  \qquad (d)$<br/>
 +
最後に、この右辺が $A,\quad \xi$ を適切に決めれば $A\sin{(2\pi \nu s+\xi)}$ と表現できることを示そう。<br/>
 +
$A\sin{(2\pi \nu s+\xi)}$<br/> を加法定理を適用して書き直すと<br/>
 +
$A\sin{(2\pi \nu s+\xi)}=A\sin(2\pi \nu s) \cos(\xi) +A\cos(2\pi \nu s) \sin(\xi)$ <br/>
 +
この式を、式 (d) と比較すると<br/>
 +
$A\cos \xi=(A_1+A_2)\cos(2\pi \Delta s+\xi_1)$ <br/>
 +
$A\sin \xi=(A_1-A_2)\sin(2\pi \Delta s+\xi_1)$ <br/>
 +
この2つの式から、式(c)が得られる。<br/>
 +
さらに、$\sin^{2}x +\cos^{2}x=1$ を用いて $A^2$ を計算すると、<br/>
 +
$A^2=(A_1+A_2)^{2}\cos^{2}(2\pi \Delta s+\xi_1)+(A_1-A_2)^{2}\sin^{2}(2\pi \Delta s+\xi_1)$ <br/>
 +
$=(A_1+A_2)^{2}\cos^{2}(2\pi \Delta s+\xi_1)+(A_1-A_2)^{2}\left(1-\cos^{2}(2\pi \Delta s+\xi_1)\right)=(A_1-A_2)^{2}+4A_1A_2\cos^{2}(2\pi \Delta s+\xi_1)$<br/>
 +
$\quad $ ここで、加法定理から$\cos(2x)=\cos(x+x)=\cos^{2}x-\sin^{2}x=2\cos^{2}x-1$ なので、 $2\cos^{2}x=1+\cos(2x)$<br/>
 +
この式を用いると<br/>
 +
$A^2=(A_1-A_2)^{2}+4A_1A_2\cos^{2}(2\pi \Delta s+\xi_1)$ <br/>
 +
$=(A_1-A_2)^{2}+2A_1A_2(1+\cos(2\pi 2\Delta s+2\xi_1)$<br/>
 +
$=A_{1}^2+A_{2}^{2}+2A_1A_2\cos(2\pi 2\Delta s+2\xi_1)$<br/>
 +
これでAを得る。<br/><br/>
 +
(注)$A_1 \neq A_2$ のときは、<br/>
 +
$\quad \tan{\xi}=\frac{(A_1-A_2)\sin{(2\pi \Delta s+\xi_1)}}{(A_1+A_2)\cos{(2\pi \Delta s+\xi_1)}}\qquad (c)$<br/>
 +
から、$\xi$ は時刻 s とともに振動する。<br/>
 +
このため、合成波の形は振動数 $\nu$ の正弦波からずれる。<br/>
 +
このずれは、$A_1$と  $A_2$ が近いほど小さくなる。<br/>
 +
$A_1=A_2$ のときは、式cから、$\xi=0$ となり、式 a は、<br/>
 +
$y_1+y_2=\sqrt{A_{1}^2+A_{2}^2+2A_1A_2\cos{(2\pi 2\Delta s+2\xi_1)}}
 +
\sin{(2\pi \nu s)} \qquad (a')$<br/>
 +
となるので、<br/>
 +
合成波は、振動数 $\nu $ の正弦波が振幅をゆっくり周期的に変動させる波になる。<br/>
 +
これより2つの正弦波の合成波は、<br/>
 +
両者の振動数が近く、両者の振幅も近いならば、<br/>
 +
「振動数(周波数)が2つの元の波の振動数の中間で、<br/>
 +
その振幅が 振動数 $|2\Delta|=|\nu _{1}-\nu _{2}|$ で振動する波形」<br/>
 +
に近いことが分かる。<br/>
 +
これにより、ウォーンウォーンという、うなりを生じる理由が理解できる。
-
==ドップラー効果==
+
==='''(2)発音体の振動(その1)。弦の固有振動'''===
-
救急車などが通り過ぎる際、近付くときにはサイレンの音が高く聞こえ、遠ざかる時には低く聞こえる。このような現象をドップラー効果という。詳しくは
+
張った弦をこすったり、はじいて振動させると、波が起き、両側に進行し、固定端で反射する。<br/>
-
*[[wikipedia_ja:ドップラー効果|ウィキペディア(ドップラー効果)]]
+
反射波と進行波は重なり合って合成波である定常波ができる(注参照)。<br/>
-
ドップラー効果が何故生じるのか、考えてみよう。
+
弦は、図の実線と点線の間を往復運動する。
-
=== 固有振動と共鳴・共振 === 
+
弦の両端は固定され振動しないので、定常波の節になる。<br/>
 +
この定常波の振動を、弦の固有振動、その振動数を固有振動数という。<br/>
 +
[[File:GENPHY00010402-01.pdf|right|frame|図 弦の固有振動]]<br/><br/>
 +
'''(2-1)定常波の波長'''<br/>
 +
両端の変位が零であることから、定常波動の波長 $\lambda$ と弦の長さ $l$ の間には次の関係が成立つことが分かる。<br/>
 +
$l=\frac{\lambda}{2}n,\quad (n=1.2,3,,,)$ 変形すると<br/>
 +
$\lambda=\frac{2l}{n},\quad (n=1.2,3,,,)$ <br/>
 +
ここで、nは定常波の腹の数。<br/>
 +
上の式から、$\lambda$ は n の関数であることがわかるので、$\lambda_n$ とかく。<br/>
 +
すると    <br/>
 +
$\lambda_n=\frac{2l}{n},\quad (n=1.2,3,,,)  \qquad \qquad (2)$ <br/>
 +
腹の数が1の固有振動を基本振動(1倍振動)、$n \geq 2$の固有振動を、n倍振動と呼ぶ。<br/><br/>
 +
 
 +
進行波の速さをVとし、n倍振動数を $f_n$ 、その波長を$\lambda_n$ とかくと、
 +
$V=f_n \lambda_n$  <br/>
 +
$f_n =\frac{V}{2l}n \quad (n=1.2,3,,,) \qquad \qquad (3)$ <br/>
 +
が成立つ。<br/><br/>
 +
(注)「1.4.6.3 定常波と進行波」を参照のこと。<br/><br/>
 +
'''(2-2)弦を伝わる波の速さ'''<br/>
 +
未完<br/>
 +
==='''(3)発音体の振動(その2) 気柱の振動'''===
 +
細長い管の中の柱状の空気のことを気柱という(注参照)。<br/>
 +
管中の波は、その両端で反射し、元の波と反射波は重ねあって合成波をつくる。<br/>
 +
この合成波は定常波になる。<br/>
 +
その波長や周波数(振動数)は、ある固有の値しか取れない。<br/>
 +
これらについて学ぶ。<br/>
 +
波の変位量としてなにを用いているかで、同じ端でも自由端にも固定端にもなるので注意してください。<br/><br/>
 +
(注)管の断面の大きさが音波の波長に比べて小さいと、<br/>
 +
管のなかの音波は、管の軸に沿って進む平面波になる。<br/>
 +
気柱ではこのような波を扱う。<br/><br/>
 +
参考文献;<br/>
 +
[[wikibooks_ja:高等学校理科 物理I 波/音波と振動|ウィキブックス(高等学校理科 物理I 波/音波と振動 1.3 気柱の振動)]]<br/><br/>
 +
$\quad $'''(3.1) 気柱の固有振動'''<br/>
 +
以下では、管の長さを $l$ ,音速を $V_s$ で表す。<br/><br/>
 +
$\qquad $'''(3.1.1) 閉管の場合'''<br/>
 +
図を参照のこと。
 +
[[File:GENPHY00010402-022.pdf|right|frame|図 閉環の中の気柱にできる定常波]]<br/><br/>
 +
$\qquad \quad $ 閉管とは、一方が閉じ他端が開放されている音響管のこと。<br/>
 +
$\qquad \quad $ この管の定常波は、片方の端が腹で他端が節になる。<br/>
 +
$\qquad \quad $ 音を空気の位置の振動とみると、閉端は固定端で定常波の節、開放端は自由端で、定常波の腹になる。<br/>
 +
$\qquad \quad $ 疎密波と考えると、閉端は自由端で定常波の腹、開放端は固定端で定常波の節になる。<br/>
 +
$\qquad \quad $ 波長が最も長い定常波は、<br/>
 +
$\qquad \quad $ 一方の端が腹で他端が節になり、他に腹も節もない波であり、<br/>
 +
$\qquad \quad $ '''基本振動'''という。この定常波は、気柱の長さ l の中に$\frac{1}{4}$ 波長あるので、<br/>
 +
$\qquad \quad $ 波長は $\lambda_1=4l$,周波数は $f_1=\frac{V_s}{\lambda_1}=\frac{V_s}{4l}$ である。<br/>
 +
$\qquad \quad $ 波長が2蕃目に長い定常波は、<br/>
 +
$\qquad \quad $ 節である固定端から $\frac{2l}{3}$ の所にも節をもち、この間は波長の2分の一、<br/>
 +
$\qquad \quad $ 残りの部分に波長の4分の一があるので、<br/>
 +
$\qquad \quad $ 気柱部分は $\frac{3}{4}$ 波長である。<br/>
 +
$\qquad \quad $ 故に波長は $\lambda_2=\frac{4l}{3}$,周波数は$f_2=\frac{V_s}{\lambda_2}=\frac{3V_s}{4l}=3f_1$で3倍振動である。<br/>
 +
$\qquad \quad $ 一般にn($\geq 1$)番目の振動は、長さlの気柱の中に <br/>
 +
$\frac{1}{2}(n-1)+\frac{1}{4}=\frac{2n-1}{4}$ 波長分あるので、<br/>
 +
$l=\frac{\lambda_{n}}{2}(n-1) +\frac{\lambda_{n}}{4} \qquad \qquad (a)$<br/>
 +
$\qquad \quad $  ここで、$\lambda_n$ はこの定常波の波長、$\frac{\lambda_{n}}{2}$ は、節と節の間の距離(=腹と腹の距離)を表す。<br/>
 +
$\qquad \quad $ 故に波長 $\lambda_n=\frac{4l}{2n-1}$、 周波数 $f_n=\frac{V_s}{\lambda_n}=\frac{(2n-1)V_s}{4l}=(2n-1)f_1$ で,(2n-1)倍振動。<br/><br/>
 +
 
 +
$\qquad$'''(3.1.2) 開管の場合'''<br/>
 +
図を参照のこと。
 +
[[File:GENPHY00010402-03.pdf|right|frame|図 開環の中の気柱の定常波]]<br/><br/>
 +
$\qquad \quad $ '''開管'''とは、両端とも開放された音響管のこと。<br/>
 +
$\qquad \quad $ 波を空気の位置の振動とみると、両端は自由端であり、<br/>
 +
$\qquad \quad $ この管の定常波は、両方とも腹になる。<br/>
 +
$\qquad \quad $ 波を粗密波とみると、両端は固定端であり、<br/>
 +
$\qquad \quad $ この管の定常波は、両方とも節になる。<br/>
 +
$\qquad \quad $  波長が最も長い定常波は、腹(ないし節)が両端にだけあるもので、<br/>
 +
$\qquad \quad $  '''基本振動'''と呼ぶ。長さlの気柱中に2分の一波長あるので、<br/>
 +
$\qquad \quad $ 波長は $\lambda_1=2l$、周波数(振動数)は $f_1=\frac{V_s}{\lambda_1}=\frac{V_s}{2l}$である。<br/>
 +
$\qquad \quad $  2番目に波長の長い定常波は、両端と管の真中に腹(あるいは節)がある波で、<br/>
 +
$\qquad \quad $  波長は $\lambda_2=l$、周波数は $f_2=\frac{V_s}{\lambda_2}=\frac{V_s}{l}=2f_1$であり、'''2倍振動'''という。<br/>
 +
$\qquad \quad $ 一般にn($\geq 1$)番目の振動は、長さlの気柱の中に 
 +
$\frac{1}{2}n$ 波長分あるので、<br/>
 +
$\qquad \quad $ $l=\frac{1}{2}n\lambda_n  \qquad \qquad (b)$<br/>
 +
$\qquad \quad $ 故に、波長は $\lambda_n=\frac{2l}{n}$ ,周波数は $f_n=\frac{nV_s}{2l}$ でn倍振動。<br/><br/>
 +
$\qquad$'''(3.1.3)両端閉管''' <br/>
 +
$\qquad \quad $ 両端とも閉じた音響管を'''両端閉管'''という。<br/>
 +
$\qquad \quad $ 管内の空気の疎密波の固有振動は<br/>
 +
$\qquad \quad $ 両端を節とする定常波の振動である。<br/><br/>
 +
$\quad$(3.1.4)開口端補正 <br/>
 +
$\qquad \quad $これまで開口端の圧力は大気圧と等しい一定値になると仮定し、<br/>
 +
$\qquad \quad $疎密波として考えると節、空気の位置の振動と考えると、腹になるとしてきた。<br/>
 +
$\qquad \quad $しかし厳密には、開口部から空気を吹き出そうとすると、<br/>
 +
$\qquad \quad $外の空気から圧力を受けるので、管の入り口は完全に自由に空気の移動ができるわけではない。<br/>
 +
$\qquad \quad $そのため、音を疎密波と考えると節、また空気の位置変動の振動と考えるときには腹は、開口部から少しはみ出す。<br/>
 +
$\qquad \quad $ そこで、腹の位置を一層正確に知るためには、この量を補正する必要がある。<br/>
 +
$\qquad \quad $ 本テキストでは、この問題は扱わない。<br/><br/>
 +
 
 +
==='''(4)固有振動と共鳴・共振'''===
 +
張った弦や気柱の空気の振動などは、それぞれ固有の定常振動数をもつことが分かった。一般に、振動する系は、それぞれ固有の振動数を持つ。<br/>
 +
これを系の'''固有振動'''という。<br/>
 +
振動系の固有振動数と等しい振動数の力をこの系に与えると<br/>
 +
この系は激しく振動し始める。この現象を'''共鳴'''または'''共振'''と呼ぶ。<br/>
 +
これについては下記もご覧ください。<br/>
*[[wikipedia_ja:固有振動|ウィキペディア(固有振動)]]  
*[[wikipedia_ja:固有振動|ウィキペディア(固有振動)]]  
*[[wikipedia_ja:共鳴|ウィキペディア(共鳴)]]
*[[wikipedia_ja:共鳴|ウィキペディア(共鳴)]]
 +
<br/>
 +
==='''(5)ドップラー効果'''===
 +
皆さんも、日ごろ<br/>
 +
救急車のサイレンは、近づいているときは高い音に聞こえ、通り過ぎた瞬間に<br/>
 +
低い音にかわることに気付いているでしょう。<br/>
 +
一般に、音源の音を、音源に対し動いている人が聞くと、
 +
元の音より高い周波数(=振動数)や低い周波数に聞こえる。
 +
これを「ドップラー効果」という。<br/>
 +
実用上重要な原理なので、やや詳細に議論しよう。<br/><br/>
 +
 +
'''命題1'''<br/>
 +
音速を $v_s$ とする。<br/>
 +
音源が周波数 f の音を出しながら、静止している観測者に速度 v$\gt 0$ で近づくとき、<br/>
 +
観測者が聞く音の周波数 $\tilde{f}$ は、<br/>
 +
$\tilde{f}=\frac{v_s}{v_s-v}f \qquad \qquad (4)$ <br/>
 +
である。 ここで、$v \lt v_s$ である。<br/>
 +
音源が通り過ぎて遠ざかるようになった瞬間に、観測周波数は急減し、<br/>
 +
$\tilde{f}=\frac{v_s}{v_s+v}f \qquad \qquad (4')$ <br/><br/>
 +
証明 <br/>
 +
音源から時刻 t=0 から一秒間だけ音を出すとする。<br/>
 +
時刻0での、音源と観測者との距離を $L$ とすると、<br/>
 +
この音が観測される時刻は $t_1=\frac{L}{v_s}$  <br/>
 +
最後(t=1)の音は、音源と観測者の距離が $L-v$ のとき発せられるので、<br/>
 +
観測される時刻は $t_2=1+\frac{L-v}{v_s}$ <br/>
 +
この間にf回の振動が観測されるので、一秒間あたりの振動数(周波数)は<br/>
 +
$\frac{f}{t_2-t_1}=\frac{v_s}{v_s-v}f$<br/><br/>
 +
'''命題2'''<br/>
 +
静止音源が周波数fの音を出している。<br/>
 +
観測者が速さ v($\gt 0$) で音源に近づいているときに聞くこの音の周波数 $\tilde{f}$ は、<br/>
 +
$\tilde{f}=\frac{v_s+v}{v_s}f \qquad \qquad (5)$<br/>
 +
ここで、 $v_s$ は、音速である。<br/>
 +
観測者が音源を通り過ぎた瞬間に、観測音の周波数は急減し、
 +
$\tilde{f}=\frac{v_s-v}{v_s}f \qquad \qquad (5')$<br/>
 +
に変わる。<br/>
 +
注を参照のこと。<br/><br/>
 +
証明<br/>
 +
音源から一秒間(時刻0から、時刻1まで)だけ周波数 f の音を出すとする。<br/>
 +
このときの観測者と音源の距離を L とおく。<br/>
 +
すると、速さ v で音源に近づく観測者が、<br/>
 +
$\quad $ 最初の音を聞く時間 $t_1$ は、<br/>
 +
$\qquad $ $L-vt_1=v_s t_1$<br/>
 +
$\quad $ 最後の音を聞く時間 $t_2$ は、<br/>
 +
$\qquad $ $L-vt_2=v_s (t_2-1)$<br/>
 +
これら2式から、<br/>
 +
$t_2-t_1=\frac{v_s}{v_s+v}$
 +
この間に、音は f 回 振動しているので、一秒当たりの振動の回数(周波数、振動数)は、<br/>
 +
$\tilde{f}=\frac{v_s+v}{v_s}f$<br/>
 +
同様に考えると、
 +
観測者が音源を通り過ぎた瞬間からは、音源から 速さ v で遠ざかるため、
 +
$\tilde{f}=\frac{v_s-v}{v_s}f$<br/>
 +
が、得られる。<br/><br/>
 +
次に、一つの直線上を、音源と観測者がともに等速度で運動している場合の<br/>
 +
ドップラー効果について考察する。<br/>
 +
色々なケースを統一的に扱うため、空気が静止して見える一次元の慣性座標系を
 +
用いる。<br/><br/>
 +
(注); 音源が動き、観測者が静止している場合(命題1)と結果が異なることに注意が必要である。<br/>
 +
その理由を考えると面白い。<br/><br/>
 +
音源も、観測者も、ある直線上を等速運動する場合に、そのドップラー効果を調べよう。<br/>
 +
'''命題3'''<br/>
 +
音源は、周波数(振動数) $f$ の音を出しながら、x軸上を速度 $v$ で等速運動している。<br/>
 +
観測者はx軸上を速度 $u $ で等速運動している。<br/>
 +
(1)観測者が音源の負側にいる場合<br/>
 +
観測者は、<br/>
 +
$\tilde{f}=\frac{v_s+u}{v_s+v}f  \qquad \qquad (6)$<br/>
 +
の周波数の音を聞く。  ここで、 $v_s$ は音速である。<br/>
 +
(2)観測者が音源の正側にいる場合<br/>
 +
観測者は、<br/>
 +
$\tilde{f}=\frac{v_s-u}{v_s-v}f\qquad \qquad (6')$<br/>
 +
の周波数の音を聞く。  ここで、 $v_s$ は音速である。<br/><br/>
 +
証明<br/>
 +
(1)の場合(図参照)<br/><br/>
 +
[[File:GENPHY00010402-04.pdf|right|frame|図 ]]<br/><br/>
 +
音源が時刻 $t \in [0,1]$ の間だけ、周波数fの音を出すと仮定する。<br/>
 +
時刻 t=0 における観測者と音源の距離を L とおく。<br/>
 +
すると、観測者が最初の音を聞く時刻 $t_1$ は<br/>
 +
$L-ut_1=v_st_1$<br/>
 +
を満たす。<br/>
 +
時刻t=1のときの、観測者と音源の距離は $L-u+v$ なので<br/>
 +
観測者が最後の音を聞く時刻 $t_2$ は、<br/>
 +
$L-u+v-u(t_2-1)=v_s(t_2-1)$<br/>
 +
を満たす。<br/>
 +
これら2式から<br/>
 +
$t_2-t_1=\frac{v_s+v}{v_s+u}$<br/>
 +
この間に、観測者の聞く音は、f回振動しているので、<br/>
 +
一秒間あたりの振動の回数(周波数あるいは振動数)は<br/>
 +
$\tilde{f}=f \div (t_2-t_1)=\frac{v_s+u}{v_s+v}f$<br/><br/>
 +
(2) 観測者が音源の正側にいる場合<br/>
 +
同様にして証明できるので省略。<br/>
 +
証明終わり<br/><br/>
 +
(注)この命題から、観測者が音源とすれ違うか追い越すと、その瞬間に観測周波数は急変することが分かる。<br/><br/>
 +
最後に、超音波による血流速度の測定などに応用される命題を説明する。<br/><br/>
 +
 +
'''命題4'''<br/>
 +
周波数fの音を出している固定音源に、観測者がいて、<br/>
 +
速さ v で近づく板からの反射音を観測すると、周波数は<br/>
 +
$\tilde{f}=\frac{v_s+v}{v_s-v}f=(1+\frac{2v}{v_s-v})f$<br/><br/>
 +
証明<br/>
 +
記述を簡単にするため、音源は、時刻0から一秒間だけ音を出すとする。<br/>
 +
時刻t=0 の、音源と板との距離を L とおくと、<br/>
 +
時刻 t における音源と板との距離は $L(t)=L-vt$ で表せる。<br/>
 +
(1)最初(t=0)にだした音の反射音が聞こえる時刻 $t_1$<br/>
 +
最初の音が出たときの音源と板との距離は $L(0)=L$<br/>
 +
最初の音が板に届く時刻を $t^{1}_{1}$ とする。<br/>
 +
この間、音は $v_{s}t^{1}_{1}$ だけ進み、
 +
板は 音源方向に $vt^{1}_{1}$ だけ近づくので、<br/>
 +
$\quad v_{s}t^{1}_{1}+vt^{1}_{1}=L(0)$<br/>
 +
故に、 $t^{1}_{1}=\frac{L(0)}{v_{s}+v} \qquad \qquad (7)$<br/>
 +
この時刻に最初の音の反響音が発生する。<br/>
 +
このときの反響音源と観測者の距離は、$L(t^{1}_{1})$ なので、<br/>
 +
観測者に到達するまでに要する時間は $\frac{L(t^{1}_{1})}{v_s}$<br/>
 +
故に、<br/>
 +
$t_1=t^{1}_{1}+\frac{L(t^{1}_{1})}{v_s}\qquad \qquad (8)$<br/>
 +
(2)最後(t=1)にだした音の反射音が聞こえる時刻 $t_2$<br/>
 +
最後(t=1)の音が出たときの音源と板との距離は $L(1)$ 。 <br/>
 +
最後の音が板に届く時刻を $t^{2}_{1}$ とする。<br/>
 +
この間、音は $v_{s}(t^{2}_{1}-1)$ だけ進み、
 +
板は 音源方向に $v(t^{2}_{1}-1)$ だけ近づくので、<br/>
 +
$\quad v_{s}(t^{2}_{1}-1)+v(t^{2}_{1}-1)=L(1)$<br/>
 +
故に、 $t^{2}_{1}=\frac{L(1)+v_s+v}{v_{s}+v}= \frac{L(0)+v_s}{v_{s}+v}\qquad \qquad (9)$<br/>
 +
この時刻に最初の音の反響音が発生する。<br/>
 +
このときの反響音源と観測者の距離は、$L(t^{2}_{1})$<br/>
 +
なので、観測者に到達するまでに要する時間は $\frac{L(t^{2}_{1})}{v_s}$<br/>
 +
故に、<br/>
 +
$t_2=t^{2}_{1}+\frac{L(t^{2}_{1})}{v_s}\qquad \qquad (10)$<br/>
 +
(3)観測者の聞く反響音の周波数<br/>
 +
最初の音の反響音から、最後の音の反響音までの時間は,式(8)、(10)から<br/>
 +
$T:=t_2-t_1=t^{2}_{1}-t^{1}_{1}+\frac{1}{v_s}(L(t^{2}_{1})-L(t^{1}_{1}))$<br/>
 +
$=(t_2-t_1)(1-\frac{v}{v_s})=\frac{v_s-v}{v_s+v}$<br/>
 +
この間にf回の振動があるので、周波数は<br/>
 +
$\tilde{f}=\frac{f}{T}=\frac{v_s+v}{v_s-v}f$<br/><br/>
 +
命題4を、観測者が固定音源にいないで、等速直線運動をしている場合に拡張する。<br/>命題5<br/>
 +
原点にある静止音源Oが、周波数 f で同位相の音を四方に出している。<br/>
 +
この音源を通る x 軸上を,<br/>
 +
観測者 $P_1$ と反射板 $P_2$ がそれぞれ等速 $v_1$、$v_2$ で運動している。<br/>
 +
前者の時刻 t の位置を $L_1(t)=L_{1,0}+v_{1}t$ と表わし、<br/>
 +
後者の時刻 t 位置を $L_2(t)=L_{2,0}+v_{2}t$  と表す。<br/>
 +
但し,考察時間[0,T]中は、 $0 \lt L_1(t) \lt L_2(t)$ と仮定し、<br/>
 +
音速は $v_s$ とする。 <br/>
 +
このとき、観測者 $P_1$ が聞く、<br/>
 +
反射板 $P_2$ による反射音の周波数は、<br/>
 +
$\tilde{f}=\frac{v_s+v_1}{v_s+v_2}\frac{v_s-v_2}{v_s}f$<br/><br/>
 +
証明;<br/>
 +
記述を簡単にするため、音源は時刻0から一秒間だけ音を出すと仮定する。<br/>
 +
この音が反射板で反射し、観測者に聞こえる時間区間<br/>
 +
 $[t^{0}_{P_1},t^{1}_{P_1}]$ を求めよう。<br/>
 +
(1) まず、t=0 に音源から出た音が反射して観測者に届く時刻 $t^{0}_{P_1}$ を求めよう。<br/>
 +
2段階にわけて計算する。<br/>
 +
1)、最初(t=0)の音が反射板で反射する時刻 $t^{0}_{P_2}$ 。<br/>
 +
音は x 軸の正方向にも速度 $v_s$ で進むので、時刻 $t^{0}_{P_2}$ には、<br/>座標 $v_{s}t^{0}_{P_2}$ の点に達する。<br/>
 +
時刻 $t^{0}_{P_2}$ における反射板の位置は、 $L_2(t^{0}_{P_2})=L_{2,0}+v_{2}t^{0}_{P_2}$ なので、<br/>
 +
$v_{s}t^{0}_{P_2}=L_{2,0}+v_{2}t^{0}_{P_2}$ <br/>
 +
これより、$t^{0}_{P_2}=\frac{L_{2,0}}{v_s-v_2} $<br/>
 +
2) 反射音が観測者に届く時刻 $t^{0}_{P_1}$ 。 <br/>
 +
反射板 $P_2$ で反射した音は、x軸 の負方向に $v_s$ の速さで進む。<br/>
 +
他方、観測者は x軸 の正方向に、速さ $v_1$ で進むので<br/>
 +
両者は $v_s+v_1$ の速さで近づく。<br/>
 +
音が反射した瞬間の、観測者と反射板の距離は $L_2(t^{0}_{P_2})-L_1(t^{0}_{P_2})$
 +
<br/>
 +
そこで、音が反射後、観測者に届くまでにかかる時間は、<br/>
 +
$\frac{L_2(t^{0}_{P_2})-L_1(t^{0}_{P_2})}{v_s+v_1}$<br/>
 +
$=\frac{(L_{2,0}-L_{1,0})+(v_2-v_1)t^{0}_{P_2}}{v_s+v_1}$<br/>
 +
故に、<br/>
 +
$t^{0}_{P_1}=t^{0}_{P_2}+\frac{(L_{2,0}-L_{1,0})+(v_2-v_1)t^{0}_{P_2}}{v_s+v_1}$<br/>
 +
$=\frac{L_{2,0}-L_{1,0}}{v_s+v_1}+(1+\frac{v_2-v_1}{v_s+v_1})t^{0}_{P_2}$<br/>
 +
$=\frac{L_{2,0}-L_{1,0}}{v_s+v_1}+\frac{v_S+v_2}{v_s+v_1}t^{0}_{P_2}\qquad \qquad (a)$<br/>
 +
(2) t=1 に音源から出た音が反射して観測者に届く時刻 $t^{0}_{P_1}$ を求めよう。<br/>
 +
t=0 の時と同様に考えればよいので、概略を示す。<br/>
 +
1)t=1 に音源から出た音が反射板に到達する時刻 $t^{1}_{P_2}$ ;<br/>
 +
$(t^{1}_{P_2}-1)v_s=L_2(t^{1}_{P_2})=L_{2,0}+v_{2}t^{1}_{P_2}$<br/>
 +
を満たす。<br/>
 +
これを解くと、<br/>
 +
$t^{1}_{P_2}=\frac{L_{2,0}+v_s}{v_s-v_2}$<br/><br/>
 +
2))t=1 に音源から出た音が反射して観測者に到達する時刻 $t^{1}_{P_1}$ ;
 +
<br/>
 +
反射した瞬間の観測者と反射板の距離は $L_2(t^{1}_{P_2})-L_1(t^{1}_{P_2})$<br/>
 +
反射後、反射音が観測者まで届くにに要する時間は $\frac{L_2(t^{1}_{P_2})-L_1(t^{1}_{P_2})}{v_s+v_1}$<br/>
 +
故に<br/>
 +
$t^{1}_{P_1}=t^{1}_{P_2}+\frac{L_2(t^{1}_{P_2})-L_1(t^{1}_{P_2})}{v_s+v_1}$
 +
<br/>
 +
$=\frac{(L_{2,0}-L_{1,0})}{v_s+v_1}+\frac{v_s+v_2}{v_s+v_1}t^{1}_{P_2}=\frac{(L_{2,0}-L_{1,0})}{v_s+v_1}+\frac{v_s+v_2}{v_s+v_1}\frac{L_{2,0}+v_s}{v_s-v_2}$<br/>
 +
(3) 観測者が聞く反射音の周波数<br/>
 +
以上から、観測者は<br/>
 +
時間間隔 $\delta t:=t^{1}_{P_2}-t^{0}_{P_2}$ の間に <br/>
 +
f 回の振動音を聞くことが分かった。<br/>
 +
従って、その周波数(振動数) $\tilde{f}$ は、<br/>
 +
 $\tilde{f}=\frac{f}{\delta t}=\frac{v_s+v_2}{v_s+v_1}\frac{v_s}{v_s-v_2}f$<br/><br/>
 +
最後に;ドップラー効果は色々応用範囲が広い現象である。<br/>
 +
興味がある方は、命題4を、音源も等速直線運動している場合に拡張してみてください。
 +
 +
==='''(7)音の干渉'''===
 +
音も波なので、波の重ね合わせの原理が成立つ。<br/>
 +
そのため一般の波でおこる干渉も起こる。<br/>

2016年9月4日 (日) 15:10 時点における最新版

目次

音と音波

音波とは、狭い意味では、空気の粗密の振動が伝わっていく縦波である。
広義には、気体、液体、固体の中を伝わる縦波(粗密波)を音波という。
音波は波なので、反射、屈折、回折、干渉など、波に共通する特有の性質をもつ。
そのため、「4.1 波の性質」で述べたことは、すべて成立する。

音波の伝わり方

音波の速さ

乾燥した空気をつたわる音波の速さ $V$ は
空気温度 t℃ が高くなると早くなり、
$V=331.3+0.6 t \qquad \qquad (1)$
で表せる(注参照)。
液体や固体中の音波の速さは、空気中よりずっと大きい。
音速の測定や理論研究の歴史、種々の媒質中の音速については、

を参照のこと。

(注) 空気は静止していると仮定している。
一定速度で動く空気中では、
その空気に対する音の相対速度が、式(1)で表される。

音の3要素

音の3要素 とは次の3つである。

(1)音の高さ;
振動数の高い音ほど、高音に聞こえる。
1オクターブ高い音とは、振動数が2倍になることをいう。
ちなみに、人間の耳に聞こえる音は、振動数が20Hzから2万Hzの音である。
可聴音という。
(2)音の強さ;
音には強く聞こえる音と弱く聞こえる音がある。
音の強弱は、媒質の密度、波の振幅と振動数によって決まる。
媒質密度と振動数が同じならば、振幅の大きな音ほど強く聞こえる。
(3)音色;
発音体が違うと振動数と強さが同じ音でも、音の感じが違う。
これを音色あるいは、ねいろという。
波の多くは、波形が正弦関数で表せないので、
振動数や振幅が同じでも、波形が異なるため音色が異なる。

音の性質

以下の(1)から(7)までの音の性質については、

  • [[wikibooks_ja:高等学校理科 物理I 波/音波と振動|高等学校理科 物理I 波/音波と振]動]で学んでください。

以下には、簡単に要点を補足をします。
この節では、座標系を考えるときは、空気が静止してみえる慣性座標系を用いる。

(1)音のうなり

振動数(周波数)がわずかに異なり、変位の方向が等しい2つの音波(波)が干渉して、
振動数が中間とみなせ、
振幅がゆっくり周期的(振動数は2つの音波の振動数の差に等しい)に変わる合成波を生ずる現象を言う。
音声波では、ウォーンウォーンという、うなりに似た音に聞こえるため、「うなり」と言われる。
一般の波でも、うなりは当然生じる。



うなりに関する命題

2つの波の変位の方向が同じなので、その方向を、変位量の座標軸(y軸)に選ぶ。すると
音源1と音源2からの正弦波を個別に、ある地点Aで観測すると、
その変位量は,時刻原点を適切に選べば、
$y_1=A_1\sin (2\pi \nu _{1}t)$
$y_2=A_2\sin (2\pi \nu _{2}t+\theta)$
と書ける。
ここで、 $|\nu _{1}-\nu _{2}|$ は微小数。
この2つの波が同時にA地点にくる場合、その合成波は次の命題で与えられる。

命題
適切に時間の原点を選び、
$\nu:=\frac{\nu _{1}+\nu _{2}}{2}$、 $\Delta:=\frac{\nu _{1}-\nu _{2}}{2}$ とおけば、
$y(s):=y_1(s)+y_2(s)$
$=\sqrt{A_{1}^2+A_{2}^2+2A_1A_2\cos{(2\pi 2\Delta s+2\xi_1)}} \sin (2\pi \nu s+\xi) \qquad (a)$
ここで、$\xi_1=\frac{\nu+\Delta}{2\Delta}\theta \qquad (b) $ 
$\qquad \xi$ は、 
$\qquad \tan \xi=\frac{(A_1-A_2)\sin (2\pi \Delta s+\xi_1)}{(A_1+A_2)\cos (2\pi \Delta s+\xi_1)}\qquad (c)$
で与えられる。
注を参照のこと。

証明;
$\nu_1=\nu+\Delta,\quad \nu_2=\nu-\Delta$ なので、
$y_1=A_1\sin (2\pi \nu _{1}t)=A_1\sin (2\pi \nu t + 2\pi \Delta t)$
$y_2=A_2\sin (2\pi \nu _{2}t +\theta)=A_2\sin (2\pi \nu t - 2\pi \Delta t +\theta)$
両者の初期位相角が、絶対値が等しく、逆符号になるよう、時間の原点を変えよう。
そのため、時間原点を a だけ移動させた時間を s とおくと、$t=s+a$ 。
これを、上の2つの式に代入して、変形すると
$y_1=A_1\sin \left(2\pi \nu s +2\pi \Delta s+(2\pi \nu a+2\pi \Delta a)\right)$
$y_2=A_2\sin \left(2\pi \nu s -2\pi \Delta s+(2\pi \nu a-2\pi \Delta a +\theta)\right)$
初期位相条件を満たすような a を求めるため、
$(2\pi \nu a+2\pi \Delta a)=-(2\pi \nu a-2\pi \Delta a +\theta)$
とおき、a を求めると、$a=\frac{-\theta}{4\pi \nu}$
すると、それぞれの初期位相は、
$\xi_1=(2\pi \nu +2\pi \Delta )\frac{-\theta}{4\pi \nu}=-\frac{\nu+\Delta}{2\nu}\theta $
$\xi_2=-\left((2\pi \nu -2\pi \Delta)\frac{-\theta}{4\pi \nu} +\theta\right)=-\xi_1$
このため、
$y_1=A_1\sin{\left(2\pi \nu s +(2\pi \Delta s+\xi_1)\right)}$
$y_2=A_2\sin{\left(2\pi \nu s -(2\pi \Delta s+\xi_1)\right)}$
これら2式に、三角関数の加法定理を適用すると、
$y_1=A_1\sin{\left(2\pi \nu s +(2\pi \Delta s+\xi_1)\right)}$
$=A_1\sin{(2\pi \nu s)} \cos{(2\pi \Delta s+\xi_1)}+A_1\cos{(2\pi \nu s)} \sin{(2\pi \Delta s+\xi_1)}$
$y_2=A_2\sin{(2\pi \nu s)} \cos{(2\pi \Delta s+\xi_1)}-A_2\cos{(2\pi \nu s)} \sin{(2\pi \Delta s+\xi_1)}$
従って
$y=y_1+y_2$
$=(A_1+A_2)\sin{(2\pi \nu s)} \cos{(2\pi \Delta s+\xi_1)}+(A_1-A_2)\cos{(2\pi \nu s)} \sin{(2\pi \Delta s+\xi_1)} \qquad (d)$
最後に、この右辺が $A,\quad \xi$ を適切に決めれば $A\sin{(2\pi \nu s+\xi)}$ と表現できることを示そう。
$A\sin{(2\pi \nu s+\xi)}$
 を加法定理を適用して書き直すと
$A\sin{(2\pi \nu s+\xi)}=A\sin(2\pi \nu s) \cos(\xi) +A\cos(2\pi \nu s) \sin(\xi)$ 
この式を、式 (d) と比較すると
$A\cos \xi=(A_1+A_2)\cos(2\pi \Delta s+\xi_1)$
$A\sin \xi=(A_1-A_2)\sin(2\pi \Delta s+\xi_1)$
この2つの式から、式(c)が得られる。
さらに、$\sin^{2}x +\cos^{2}x=1$ を用いて $A^2$ を計算すると、
$A^2=(A_1+A_2)^{2}\cos^{2}(2\pi \Delta s+\xi_1)+(A_1-A_2)^{2}\sin^{2}(2\pi \Delta s+\xi_1)$
$=(A_1+A_2)^{2}\cos^{2}(2\pi \Delta s+\xi_1)+(A_1-A_2)^{2}\left(1-\cos^{2}(2\pi \Delta s+\xi_1)\right)=(A_1-A_2)^{2}+4A_1A_2\cos^{2}(2\pi \Delta s+\xi_1)$
$\quad $ ここで、加法定理から$\cos(2x)=\cos(x+x)=\cos^{2}x-\sin^{2}x=2\cos^{2}x-1$ なので、 $2\cos^{2}x=1+\cos(2x)$
この式を用いると
$A^2=(A_1-A_2)^{2}+4A_1A_2\cos^{2}(2\pi \Delta s+\xi_1)$
$=(A_1-A_2)^{2}+2A_1A_2(1+\cos(2\pi 2\Delta s+2\xi_1)$
$=A_{1}^2+A_{2}^{2}+2A_1A_2\cos(2\pi 2\Delta s+2\xi_1)$
これでAを得る。

(注)$A_1 \neq A_2$ のときは、
$\quad \tan{\xi}=\frac{(A_1-A_2)\sin{(2\pi \Delta s+\xi_1)}}{(A_1+A_2)\cos{(2\pi \Delta s+\xi_1)}}\qquad (c)$
から、$\xi$ は時刻 s とともに振動する。
このため、合成波の形は振動数 $\nu$ の正弦波からずれる。
このずれは、$A_1$と $A_2$ が近いほど小さくなる。
$A_1=A_2$ のときは、式cから、$\xi=0$ となり、式 a は、
$y_1+y_2=\sqrt{A_{1}^2+A_{2}^2+2A_1A_2\cos{(2\pi 2\Delta s+2\xi_1)}} \sin{(2\pi \nu s)} \qquad (a')$
となるので、
合成波は、振動数 $\nu $ の正弦波が振幅をゆっくり周期的に変動させる波になる。
これより2つの正弦波の合成波は、
両者の振動数が近く、両者の振幅も近いならば、
「振動数(周波数)が2つの元の波の振動数の中間で、
その振幅が 振動数 $|2\Delta|=|\nu _{1}-\nu _{2}|$ で振動する波形」
に近いことが分かる。
これにより、ウォーンウォーンという、うなりを生じる理由が理解できる。

(2)発音体の振動(その1)。弦の固有振動

張った弦をこすったり、はじいて振動させると、波が起き、両側に進行し、固定端で反射する。
反射波と進行波は重なり合って合成波である定常波ができる(注参照)。
弦は、図の実線と点線の間を往復運動する。 弦の両端は固定され振動しないので、定常波の節になる。
この定常波の振動を、弦の固有振動、その振動数を固有振動数という。
ファイル:GENPHY00010402-01.pdf

(2-1)定常波の波長
両端の変位が零であることから、定常波動の波長 $\lambda$ と弦の長さ $l$ の間には次の関係が成立つことが分かる。
$l=\frac{\lambda}{2}n,\quad (n=1.2,3,,,)$ 変形すると
$\lambda=\frac{2l}{n},\quad (n=1.2,3,,,)$
ここで、nは定常波の腹の数。
上の式から、$\lambda$ は n の関数であることがわかるので、$\lambda_n$ とかく。
すると
$\lambda_n=\frac{2l}{n},\quad (n=1.2,3,,,) \qquad \qquad (2)$
腹の数が1の固有振動を基本振動(1倍振動)、$n \geq 2$の固有振動を、n倍振動と呼ぶ。

進行波の速さをVとし、n倍振動数を $f_n$ 、その波長を$\lambda_n$ とかくと、 $V=f_n \lambda_n$ 
$f_n =\frac{V}{2l}n \quad (n=1.2,3,,,) \qquad \qquad (3)$
が成立つ。

(注)「1.4.6.3 定常波と進行波」を参照のこと。

(2-2)弦を伝わる波の速さ
未完

(3)発音体の振動(その2) 気柱の振動

細長い管の中の柱状の空気のことを気柱という(注参照)。
管中の波は、その両端で反射し、元の波と反射波は重ねあって合成波をつくる。
この合成波は定常波になる。
その波長や周波数(振動数)は、ある固有の値しか取れない。
これらについて学ぶ。
波の変位量としてなにを用いているかで、同じ端でも自由端にも固定端にもなるので注意してください。

(注)管の断面の大きさが音波の波長に比べて小さいと、
管のなかの音波は、管の軸に沿って進む平面波になる。
気柱ではこのような波を扱う。

参考文献;
ウィキブックス(高等学校理科 物理I 波/音波と振動 1.3 気柱の振動)

$\quad $(3.1) 気柱の固有振動
以下では、管の長さを $l$ ,音速を $V_s$ で表す。

$\qquad $(3.1.1) 閉管の場合
図を参照のこと。 ファイル:GENPHY00010402-022.pdf

$\qquad \quad $ 閉管とは、一方が閉じ他端が開放されている音響管のこと。
$\qquad \quad $ この管の定常波は、片方の端が腹で他端が節になる。
$\qquad \quad $ 音を空気の位置の振動とみると、閉端は固定端で定常波の節、開放端は自由端で、定常波の腹になる。
$\qquad \quad $ 疎密波と考えると、閉端は自由端で定常波の腹、開放端は固定端で定常波の節になる。
$\qquad \quad $ 波長が最も長い定常波は、
$\qquad \quad $ 一方の端が腹で他端が節になり、他に腹も節もない波であり、
$\qquad \quad $ 基本振動という。この定常波は、気柱の長さ l の中に$\frac{1}{4}$ 波長あるので、
$\qquad \quad $ 波長は $\lambda_1=4l$,周波数は $f_1=\frac{V_s}{\lambda_1}=\frac{V_s}{4l}$ である。
$\qquad \quad $ 波長が2蕃目に長い定常波は、
$\qquad \quad $ 節である固定端から $\frac{2l}{3}$ の所にも節をもち、この間は波長の2分の一、
$\qquad \quad $ 残りの部分に波長の4分の一があるので、
$\qquad \quad $ 気柱部分は $\frac{3}{4}$ 波長である。
$\qquad \quad $ 故に波長は $\lambda_2=\frac{4l}{3}$,周波数は$f_2=\frac{V_s}{\lambda_2}=\frac{3V_s}{4l}=3f_1$で3倍振動である。
$\qquad \quad $ 一般にn($\geq 1$)番目の振動は、長さlの気柱の中に 
$\frac{1}{2}(n-1)+\frac{1}{4}=\frac{2n-1}{4}$ 波長分あるので、
$l=\frac{\lambda_{n}}{2}(n-1) +\frac{\lambda_{n}}{4} \qquad \qquad (a)$
$\qquad \quad $ ここで、$\lambda_n$ はこの定常波の波長、$\frac{\lambda_{n}}{2}$ は、節と節の間の距離(=腹と腹の距離)を表す。
$\qquad \quad $ 故に波長 $\lambda_n=\frac{4l}{2n-1}$、 周波数 $f_n=\frac{V_s}{\lambda_n}=\frac{(2n-1)V_s}{4l}=(2n-1)f_1$ で,(2n-1)倍振動。

$\qquad$(3.1.2) 開管の場合
図を参照のこと。 ファイル:GENPHY00010402-03.pdf

$\qquad \quad $ 開管とは、両端とも開放された音響管のこと。
$\qquad \quad $ 波を空気の位置の振動とみると、両端は自由端であり、
$\qquad \quad $ この管の定常波は、両方とも腹になる。
$\qquad \quad $ 波を粗密波とみると、両端は固定端であり、
$\qquad \quad $ この管の定常波は、両方とも節になる。
$\qquad \quad $  波長が最も長い定常波は、腹(ないし節)が両端にだけあるもので、
$\qquad \quad $  基本振動と呼ぶ。長さlの気柱中に2分の一波長あるので、
$\qquad \quad $ 波長は $\lambda_1=2l$、周波数(振動数)は $f_1=\frac{V_s}{\lambda_1}=\frac{V_s}{2l}$である。
$\qquad \quad $ 2番目に波長の長い定常波は、両端と管の真中に腹(あるいは節)がある波で、
$\qquad \quad $ 波長は $\lambda_2=l$、周波数は $f_2=\frac{V_s}{\lambda_2}=\frac{V_s}{l}=2f_1$であり、2倍振動という。
$\qquad \quad $ 一般にn($\geq 1$)番目の振動は、長さlの気柱の中に  $\frac{1}{2}n$ 波長分あるので、
$\qquad \quad $ $l=\frac{1}{2}n\lambda_n  \qquad \qquad (b)$
$\qquad \quad $ 故に、波長は $\lambda_n=\frac{2l}{n}$ ,周波数は $f_n=\frac{nV_s}{2l}$ でn倍振動。

$\qquad$(3.1.3)両端閉管 
$\qquad \quad $ 両端とも閉じた音響管を両端閉管という。
$\qquad \quad $ 管内の空気の疎密波の固有振動は
$\qquad \quad $ 両端を節とする定常波の振動である。

$\quad$(3.1.4)開口端補正 
$\qquad \quad $これまで開口端の圧力は大気圧と等しい一定値になると仮定し、
$\qquad \quad $疎密波として考えると節、空気の位置の振動と考えると、腹になるとしてきた。
$\qquad \quad $しかし厳密には、開口部から空気を吹き出そうとすると、
$\qquad \quad $外の空気から圧力を受けるので、管の入り口は完全に自由に空気の移動ができるわけではない。
$\qquad \quad $そのため、音を疎密波と考えると節、また空気の位置変動の振動と考えるときには腹は、開口部から少しはみ出す。
$\qquad \quad $ そこで、腹の位置を一層正確に知るためには、この量を補正する必要がある。
$\qquad \quad $ 本テキストでは、この問題は扱わない。

(4)固有振動と共鳴・共振

張った弦や気柱の空気の振動などは、それぞれ固有の定常振動数をもつことが分かった。一般に、振動する系は、それぞれ固有の振動数を持つ。
これを系の固有振動という。
振動系の固有振動数と等しい振動数の力をこの系に与えると
この系は激しく振動し始める。この現象を共鳴または共振と呼ぶ。
これについては下記もご覧ください。


(5)ドップラー効果

皆さんも、日ごろ
救急車のサイレンは、近づいているときは高い音に聞こえ、通り過ぎた瞬間に
低い音にかわることに気付いているでしょう。
一般に、音源の音を、音源に対し動いている人が聞くと、 元の音より高い周波数(=振動数)や低い周波数に聞こえる。 これを「ドップラー効果」という。
実用上重要な原理なので、やや詳細に議論しよう。

命題1
音速を $v_s$ とする。
音源が周波数 f の音を出しながら、静止している観測者に速度 v$\gt 0$ で近づくとき、
観測者が聞く音の周波数 $\tilde{f}$ は、
$\tilde{f}=\frac{v_s}{v_s-v}f \qquad \qquad (4)$ 
である。 ここで、$v \lt v_s$ である。
音源が通り過ぎて遠ざかるようになった瞬間に、観測周波数は急減し、
$\tilde{f}=\frac{v_s}{v_s+v}f \qquad \qquad (4')$ 

証明 
音源から時刻 t=0 から一秒間だけ音を出すとする。
時刻0での、音源と観測者との距離を $L$ とすると、
この音が観測される時刻は $t_1=\frac{L}{v_s}$
最後(t=1)の音は、音源と観測者の距離が $L-v$ のとき発せられるので、
観測される時刻は $t_2=1+\frac{L-v}{v_s}$ 
この間にf回の振動が観測されるので、一秒間あたりの振動数(周波数)は
$\frac{f}{t_2-t_1}=\frac{v_s}{v_s-v}f$

命題2
静止音源が周波数fの音を出している。
観測者が速さ v($\gt 0$) で音源に近づいているときに聞くこの音の周波数 $\tilde{f}$ は、
$\tilde{f}=\frac{v_s+v}{v_s}f \qquad \qquad (5)$
ここで、 $v_s$ は、音速である。
観測者が音源を通り過ぎた瞬間に、観測音の周波数は急減し、 $\tilde{f}=\frac{v_s-v}{v_s}f \qquad \qquad (5')$
に変わる。
注を参照のこと。

証明
音源から一秒間(時刻0から、時刻1まで)だけ周波数 f の音を出すとする。
このときの観測者と音源の距離を L とおく。
すると、速さ v で音源に近づく観測者が、
$\quad $ 最初の音を聞く時間 $t_1$ は、
$\qquad $ $L-vt_1=v_s t_1$
$\quad $ 最後の音を聞く時間 $t_2$ は、
$\qquad $ $L-vt_2=v_s (t_2-1)$
これら2式から、
$t_2-t_1=\frac{v_s}{v_s+v}$ この間に、音は f 回 振動しているので、一秒当たりの振動の回数(周波数、振動数)は、
$\tilde{f}=\frac{v_s+v}{v_s}f$
同様に考えると、 観測者が音源を通り過ぎた瞬間からは、音源から 速さ v で遠ざかるため、 $\tilde{f}=\frac{v_s-v}{v_s}f$
が、得られる。

次に、一つの直線上を、音源と観測者がともに等速度で運動している場合の
ドップラー効果について考察する。
色々なケースを統一的に扱うため、空気が静止して見える一次元の慣性座標系を 用いる。

(注); 音源が動き、観測者が静止している場合(命題1)と結果が異なることに注意が必要である。
その理由を考えると面白い。

音源も、観測者も、ある直線上を等速運動する場合に、そのドップラー効果を調べよう。
命題3
音源は、周波数(振動数) $f$ の音を出しながら、x軸上を速度 $v$ で等速運動している。
観測者はx軸上を速度 $u $ で等速運動している。
(1)観測者が音源の負側にいる場合
観測者は、
$\tilde{f}=\frac{v_s+u}{v_s+v}f \qquad \qquad (6)$
の周波数の音を聞く。 ここで、 $v_s$ は音速である。
(2)観測者が音源の正側にいる場合
観測者は、
$\tilde{f}=\frac{v_s-u}{v_s-v}f\qquad \qquad (6')$
の周波数の音を聞く。 ここで、 $v_s$ は音速である。

証明
(1)の場合(図参照)

ファイル:GENPHY00010402-04.pdf

音源が時刻 $t \in [0,1]$ の間だけ、周波数fの音を出すと仮定する。
時刻 t=0 における観測者と音源の距離を L とおく。
すると、観測者が最初の音を聞く時刻 $t_1$ は
$L-ut_1=v_st_1$
を満たす。
時刻t=1のときの、観測者と音源の距離は $L-u+v$ なので
観測者が最後の音を聞く時刻 $t_2$ は、
$L-u+v-u(t_2-1)=v_s(t_2-1)$
を満たす。
これら2式から
$t_2-t_1=\frac{v_s+v}{v_s+u}$
この間に、観測者の聞く音は、f回振動しているので、
一秒間あたりの振動の回数(周波数あるいは振動数)は
$\tilde{f}=f \div (t_2-t_1)=\frac{v_s+u}{v_s+v}f$

(2) 観測者が音源の正側にいる場合
同様にして証明できるので省略。
証明終わり

(注)この命題から、観測者が音源とすれ違うか追い越すと、その瞬間に観測周波数は急変することが分かる。

最後に、超音波による血流速度の測定などに応用される命題を説明する。

命題4
周波数fの音を出している固定音源に、観測者がいて、
速さ v で近づく板からの反射音を観測すると、周波数は
$\tilde{f}=\frac{v_s+v}{v_s-v}f=(1+\frac{2v}{v_s-v})f$

証明
記述を簡単にするため、音源は、時刻0から一秒間だけ音を出すとする。
時刻t=0 の、音源と板との距離を L とおくと、
時刻 t における音源と板との距離は $L(t)=L-vt$ で表せる。
(1)最初(t=0)にだした音の反射音が聞こえる時刻 $t_1$
最初の音が出たときの音源と板との距離は $L(0)=L$
最初の音が板に届く時刻を $t^{1}_{1}$ とする。
この間、音は $v_{s}t^{1}_{1}$ だけ進み、 板は 音源方向に $vt^{1}_{1}$ だけ近づくので、
$\quad v_{s}t^{1}_{1}+vt^{1}_{1}=L(0)$
故に、 $t^{1}_{1}=\frac{L(0)}{v_{s}+v} \qquad \qquad (7)$
この時刻に最初の音の反響音が発生する。
このときの反響音源と観測者の距離は、$L(t^{1}_{1})$ なので、
観測者に到達するまでに要する時間は $\frac{L(t^{1}_{1})}{v_s}$
故に、
$t_1=t^{1}_{1}+\frac{L(t^{1}_{1})}{v_s}\qquad \qquad (8)$
(2)最後(t=1)にだした音の反射音が聞こえる時刻 $t_2$
最後(t=1)の音が出たときの音源と板との距離は $L(1)$ 。 
最後の音が板に届く時刻を $t^{2}_{1}$ とする。
この間、音は $v_{s}(t^{2}_{1}-1)$ だけ進み、 板は 音源方向に $v(t^{2}_{1}-1)$ だけ近づくので、
$\quad v_{s}(t^{2}_{1}-1)+v(t^{2}_{1}-1)=L(1)$
故に、 $t^{2}_{1}=\frac{L(1)+v_s+v}{v_{s}+v}= \frac{L(0)+v_s}{v_{s}+v}\qquad \qquad (9)$
この時刻に最初の音の反響音が発生する。
このときの反響音源と観測者の距離は、$L(t^{2}_{1})$
なので、観測者に到達するまでに要する時間は $\frac{L(t^{2}_{1})}{v_s}$
故に、
$t_2=t^{2}_{1}+\frac{L(t^{2}_{1})}{v_s}\qquad \qquad (10)$
(3)観測者の聞く反響音の周波数
最初の音の反響音から、最後の音の反響音までの時間は,式(8)、(10)から
$T:=t_2-t_1=t^{2}_{1}-t^{1}_{1}+\frac{1}{v_s}(L(t^{2}_{1})-L(t^{1}_{1}))$
$=(t_2-t_1)(1-\frac{v}{v_s})=\frac{v_s-v}{v_s+v}$
この間にf回の振動があるので、周波数は
$\tilde{f}=\frac{f}{T}=\frac{v_s+v}{v_s-v}f$

命題4を、観測者が固定音源にいないで、等速直線運動をしている場合に拡張する。
命題5
原点にある静止音源Oが、周波数 f で同位相の音を四方に出している。
この音源を通る x 軸上を,
観測者 $P_1$ と反射板 $P_2$ がそれぞれ等速 $v_1$、$v_2$ で運動している。
前者の時刻 t の位置を $L_1(t)=L_{1,0}+v_{1}t$ と表わし、
後者の時刻 t 位置を $L_2(t)=L_{2,0}+v_{2}t$  と表す。
但し,考察時間[0,T]中は、 $0 \lt L_1(t) \lt L_2(t)$ と仮定し、
音速は $v_s$ とする。 
このとき、観測者 $P_1$ が聞く、
反射板 $P_2$ による反射音の周波数は、
$\tilde{f}=\frac{v_s+v_1}{v_s+v_2}\frac{v_s-v_2}{v_s}f$

証明;
記述を簡単にするため、音源は時刻0から一秒間だけ音を出すと仮定する。
この音が反射板で反射し、観測者に聞こえる時間区間
 $[t^{0}_{P_1},t^{1}_{P_1}]$ を求めよう。
(1) まず、t=0 に音源から出た音が反射して観測者に届く時刻 $t^{0}_{P_1}$ を求めよう。
2段階にわけて計算する。
1)、最初(t=0)の音が反射板で反射する時刻 $t^{0}_{P_2}$ 。
音は x 軸の正方向にも速度 $v_s$ で進むので、時刻 $t^{0}_{P_2}$ には、
座標 $v_{s}t^{0}_{P_2}$ の点に達する。
時刻 $t^{0}_{P_2}$ における反射板の位置は、 $L_2(t^{0}_{P_2})=L_{2,0}+v_{2}t^{0}_{P_2}$ なので、
$v_{s}t^{0}_{P_2}=L_{2,0}+v_{2}t^{0}_{P_2}$ 
これより、$t^{0}_{P_2}=\frac{L_{2,0}}{v_s-v_2} $
2) 反射音が観測者に届く時刻 $t^{0}_{P_1}$ 。 
反射板 $P_2$ で反射した音は、x軸 の負方向に $v_s$ の速さで進む。
他方、観測者は x軸 の正方向に、速さ $v_1$ で進むので
両者は $v_s+v_1$ の速さで近づく。
音が反射した瞬間の、観測者と反射板の距離は $L_2(t^{0}_{P_2})-L_1(t^{0}_{P_2})$
そこで、音が反射後、観測者に届くまでにかかる時間は、
$\frac{L_2(t^{0}_{P_2})-L_1(t^{0}_{P_2})}{v_s+v_1}$
$=\frac{(L_{2,0}-L_{1,0})+(v_2-v_1)t^{0}_{P_2}}{v_s+v_1}$
故に、
$t^{0}_{P_1}=t^{0}_{P_2}+\frac{(L_{2,0}-L_{1,0})+(v_2-v_1)t^{0}_{P_2}}{v_s+v_1}$
$=\frac{L_{2,0}-L_{1,0}}{v_s+v_1}+(1+\frac{v_2-v_1}{v_s+v_1})t^{0}_{P_2}$
$=\frac{L_{2,0}-L_{1,0}}{v_s+v_1}+\frac{v_S+v_2}{v_s+v_1}t^{0}_{P_2}\qquad \qquad (a)$
(2) t=1 に音源から出た音が反射して観測者に届く時刻 $t^{0}_{P_1}$ を求めよう。
t=0 の時と同様に考えればよいので、概略を示す。
1)t=1 に音源から出た音が反射板に到達する時刻 $t^{1}_{P_2}$ ;
$(t^{1}_{P_2}-1)v_s=L_2(t^{1}_{P_2})=L_{2,0}+v_{2}t^{1}_{P_2}$
を満たす。
これを解くと、
$t^{1}_{P_2}=\frac{L_{2,0}+v_s}{v_s-v_2}$

2))t=1 に音源から出た音が反射して観測者に到達する時刻 $t^{1}_{P_1}$ ;
反射した瞬間の観測者と反射板の距離は $L_2(t^{1}_{P_2})-L_1(t^{1}_{P_2})$
反射後、反射音が観測者まで届くにに要する時間は $\frac{L_2(t^{1}_{P_2})-L_1(t^{1}_{P_2})}{v_s+v_1}$
故に
$t^{1}_{P_1}=t^{1}_{P_2}+\frac{L_2(t^{1}_{P_2})-L_1(t^{1}_{P_2})}{v_s+v_1}$
$=\frac{(L_{2,0}-L_{1,0})}{v_s+v_1}+\frac{v_s+v_2}{v_s+v_1}t^{1}_{P_2}=\frac{(L_{2,0}-L_{1,0})}{v_s+v_1}+\frac{v_s+v_2}{v_s+v_1}\frac{L_{2,0}+v_s}{v_s-v_2}$
(3) 観測者が聞く反射音の周波数
以上から、観測者は
時間間隔 $\delta t:=t^{1}_{P_2}-t^{0}_{P_2}$ の間に
f 回の振動音を聞くことが分かった。
従って、その周波数(振動数) $\tilde{f}$ は、
 $\tilde{f}=\frac{f}{\delta t}=\frac{v_s+v_2}{v_s+v_1}\frac{v_s}{v_s-v_2}f$

最後に;ドップラー効果は色々応用範囲が広い現象である。
興味がある方は、命題4を、音源も等速直線運動している場合に拡張してみてください。

(7)音の干渉

音も波なので、波の重ね合わせの原理が成立つ。
そのため一般の波でおこる干渉も起こる。

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