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物理/平面と空間,ベクトル

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(版間での差分)
(我々の住む空間の数学的モデル)
( 2-ノルムと内積の定義)
 
(間の85版分が非表示)
1 行: 1 行:
8.1  平面と空間のベクトル
8.1  平面と空間のベクトル
-
=平面と空間のベクトル =
+
=平面と空間,ベクトル =
-
平面や空間への直観を重視し、幾何学的な説明をする。<br/>
+
平面や空間への直観を重視し、幾何学的な説明をする。<br/><br/>
-
以下の説明では、集合についてのごく初歩的知識を使うので、<br/>
+
以後、物理数学の説明では、集合についての初歩的知識を使う。<br/>
-
なじみのない方は、下記を参考に、<br/>
+
また定理等の証明では、(数理的)論理とくに一階述語論理の初等的知識が必要になる。<br/>
-
集合の素朴な定義、集合の表記法、集合の和集合や共通集合、集合の包含関係<br/>
+
集合と論理の導入部については
-
などについて学習してほしい。
+
*[[wikibooks_ja:高等学校数学A/集合と論理 |高等学校数学A/集合と論理(ウィキブックス)]]
 +
この本では、不十分なので、以下に若干補足する。
 +
== (数理的)論理 ==
 +
数学的な議論は、(幾つかの)真の命題から他の真の命題を導く推論の連続である。<br/>
 +
ここで、'''命題'''(proposition)というのは、内容の真偽が客観的に確定する文(叙述、言明)あるいは式のこと。<br/>
 +
これらの推論に共通に用いられる論理的推論法を、<br/>
 +
記号を用いて表現し数学的に研究するのが、数理的論理学である。<br/>
 +
=== 命題論理 ===
 +
*[[wikipedia_ja:命題論理  |ウィキペディア(命題論理)]]
 +
=== 述語論理 ===
 +
*[[wikipedia_ja:述語論理|ウィキペディア(述語論理)]]
 +
== 集合について  ==
 +
以下の説明では、集合についてのごく初歩的知識を使うので、なじみのない方は、<br/>
 +
集合の素朴な定義と集合の表記法、<br/>
 +
集合Aの補集合 AC、<br/>
 +
2つの集合A,Bの包含関係すなわち, 
 +
AとBが等しい A=B, AはBの部分集合 ABあるいはAB、<br/>
 +
AはBの真の部分集合 AB <br/><br/>
 +
および、<br/>
 +
2つ以上の集合の演算(AとBの和集合AB、共通集合AB、差集合AB、対称差集合AB、直積A×B<br/>
 +
などについて、以下の記事で学習してほしい。
*[[wikipedia_ja:集合 |ウィキペディア(集合)]]
*[[wikipedia_ja:集合 |ウィキペディア(集合)]]
==平面と空間==
==平面と空間==
-
我々は、自分たちの暮らすこの世界は、縦、横、高さをもつ3次元の空間であると認識してきた。<br/>
+
我々は、太古の昔から自分たちの暮らすこの世界は、縦、横、高さをもつ3次元の空間であり、<br/>
-
また、この空間のなかの、縦、横をもち、高さのない平らな無限の拡がりを
+
この空間なかの、縦、横をもち、高さのない平らな無限の拡がりを平面として認識してきた。<br/>
-
平面として認識してきた。<br/>
+
-
この空間や平面、その中にある色々な図形の性質を厳密に理解しようとして、<br/>
+
-
平面幾何学や立体幾何学(ユークリッド幾何学)を生み出してきた。<br/>
+
この中で考えられた平面や空間は、2次元および3次元のユークリッド空間と呼ばれる。<br/>
この中で考えられた平面や空間は、2次元および3次元のユークリッド空間と呼ばれる。<br/>
下記の記事中の「序文」と「1. 直観的な説明」をお読みください。
下記の記事中の「序文」と「1. 直観的な説明」をお読みください。
*[[wikipedia_ja:ユークリッド空間 |ウィキペディア(ユークリッド空間)]]
*[[wikipedia_ja:ユークリッド空間 |ウィキペディア(ユークリッド空間)]]
-
また、この章の「1.5 我々の住む空間の数学的モデル」も御覧ください。
+
また、この章の「2. 我々の住む空間の数学的モデル(1)」も御覧ください。
== ベクトルの和と実数倍 ==
== ベクトルの和と実数倍 ==
-
空間の異なる2点、P,Qを通る直線は必ず一本あり、一本に限られる。<br/>
+
平面や空間の異なる2点、P,Qを通る直線は必ず一本あり、一本に限られる。<br/>
これを直線PQという。<br/>
これを直線PQという。<br/>
この直線で、PとQの間にある部分だけを考えるとき、線分PQという。<br/>
この直線で、PとQの間にある部分だけを考えるとき、線分PQという。<br/>
25 行: 42 行:
この有向線分と長さと方向・向きの等しい有向線分を全て同一なものとみなすと<br/>
この有向線分と長さと方向・向きの等しい有向線分を全て同一なものとみなすと<br/>
ベクトル[PQ]が得られる。<br/>
ベクトル[PQ]が得られる。<br/>
-
詳しくは、<br/>
+
このベクトルを空間ベクトルとも呼ぶ。<br/>
-
[[物理/質点の運動の表し方#有向線分からベクトルへ|2章力学の「有向線分からベクトルへ」]]を参照のこと。<br/><br/>
+
今後、ベクトル$[\vec{PQ}]$等は、ABというように略記する。<br/>
-
ベクトルの和や実数倍については2章力学の1節で説明したが、重要なので
+
-
証明は除いて、定義と性質だけを再度記載する。
+
-
===2つのベクトルの和===
+
-
====和の定義====
+
-
定義;2つのベクトル$\vec{A}$とベクトルBの和を、次のように定義する。<br/>
+
-
$\vec{A}=\vec{OP}$,$\vec{B}=\vec{PQ}$と表現して、<br/>
+
-
$\vec{A}+\vec{B}:=\vec{OP}+\vec{PQ}=\vec{OQ}$<br/>
+
-
・和の別の定義;<br/>
+
ベクトルの定義や和や実数倍については<br/>
-
A=OP,B=ORと表現する。  <br/>
+
[[物理/質点の運動の表し方#有向線分からベクトルへ|2章力学の「有向線分からベクトルへ」]]を参照のこと。<br/>
-
有向線分OPと有向線分ORを2辺とする平行四辺形OPQRを作る。<br/>すると、
+
また、ベクトルについては次の文献にもくわしい解説がある。
-
A+B=OQ;<br/>
+
*[[wikipedia_ja:空間ベクトル|ウィキペディア( 空間ベクトル )]]
-
が成り立つ。<br/>
+
-
この両者は同値である。
+
-
====和の性質====
+
-
A+B=B+A(1) ; 交換法則 <br/><br/>
+
-
$(\vec{A}+\vec{B})+\vec{C}=\vec{A}+(\vec{B}+\vec{C})\qquad \qquad (2)$ ;結合法則 
+
-
====零ベクトルの存在====
+
== 内積とノルム==
-
零ベクトル0が存在し、
+
-
すべてのベクトルAに対して、
+
-
A+0=A (3)<br/>
+
-
が成り立つ。<br/>
+
-
 
+
-
====逆元の存在====
+
-
任意のベクトルAは、A+B=0を満たすベクトルを<br/>
+
-
一つ、そして一つだけ持つ。<br/>
+
-
これをAの逆元(逆ベクトル)と言い、Aで表す。<br/>
+
-
それは、Aと大きさ、方向が同じで、向きが逆のベクトルである。<br/>
+
-
定義から、A+(A)=0 (4)
+
-
A+(B)を、ABで表す。<br/>
+
-
====ベクトルの実数倍====
+
-
aを任意の実数とする。 <br/>
+
-
Aが零ベクトルでない時、そのa倍、aAは次のように定義する。<br/>
+
-
aが正数のとき;aAは、Aと方向・向きは同じで、大きさがa倍であるベクトルで定義する。<br/>
+
-
a=0のとき;0A=0で定義する。<br/>
+
-
a<0のとき;aA=(a)A    <br/>
+
-
A=0のときは、a0=0とする。<br/>
+
-
このように定義すると、<br/>
+
-
ベクトルの実数倍がベクトルとして定まる。<br/>
+
-
次の諸法則が成り立つ。<br/>
+
-
a(A+B)=aA+aB (5)  <br/>
+
-
(a+b)A=aA+bA (6)  <br/>
+
-
(ab)A=a(bA) (7)  <br/>
+
-
1A=A (8) 
+
-
 
+
-
==  内積とノルム==
+
内積とノルムは物理学で良く使われる。<br/>
内積とノルムは物理学で良く使われる。<br/>
本テキストで必要となる命題と証明を紹介する。<br/>
本テキストで必要となる命題と証明を紹介する。<br/>
以下では、<br/>
以下では、<br/>
-
a,b,cは、すべて同じ次元(2か3)のベクトルとし、 αは実数とする。<br/>
+
a,b,cは、すべて同じ次元(2か3)の(空間)ベクトルとし、 αは実数とする。<br/>
-
なお、全ての命題は、4次元以上のベクトルに対しても成り立つが省略する(注参照)。<br/>
+
=== 2-ノルムと内積の定義===
-
座標成分表示が必要な命題では、直交座標系表示を用いる。<br/>
+
実ベクトルaの'''2-ノルム'''(あるいはユークリッドノルム)とは、<br/>
-
(注)n次元(>3)も含めた一般のn次元ベクトルの内積は、後述の命題2
+
$\|\vec a\|_{2}:=\sqrt{\sum_{i}a_{i}^2}$のことで、<br/>
-
 
+
-
===ノルムと内積の定義===
+
-
ベクトルaのノルムとは、<br/>
+
-
のことで、<br/>
+
ベクトルの長さ(大きさ)を表す。<br/>
ベクトルの長さ(大きさ)を表す。<br/>
-
ベクトル\vec a,\vec bの内積とは<br/>
+
ここで、a_iは,\vec aの第i座標成分を表す。ちなみに第1成分はx座標成分、第2成分はy座標成分、第3成分はz座標成分である。<br/>
-
\vec a \cdot \vec b:=\|\vec{a}\|\|\vec{b}\|\cos\theta<br/>
+
実ベクトル\vec a,\vec bの内積とは<br/>
 +
$ \vec a \cdot \vec b:=\|\vec{a}\|_{2}\|\vec{b}\|_{2}\cos\theta$<br/>
ここで、\thetaは、ベクトル\vec a,\vec bのなす角(0\le \theta \le \pi )である。<br/>
ここで、\thetaは、ベクトル\vec a,\vec bのなす角(0\le \theta \le \pi )である。<br/>
この定義から、<br/>
この定義から、<br/>
-
\vec a \cdot \vec a=\|\vec{a}\|^2 <br/>
+
$\vec a \cdot \vec a=\|\vec{a}\|_{2}^2 $<br/>
-
であることが分かる。
+
であることが分かる。<br/><br/>
-
===内積とノルムの性質===
+
以後、単にノルム、\|\cdot \| とかけば、2-ノルムであるとする。
-
命題1<br/>
+
 
 +
=== 内積とノルムの性質===
 +
'''命題1'''<br/>
\vec a \cdot \vec b =\vec b \cdot \vec a<br/>
\vec a \cdot \vec b =\vec b \cdot \vec a<br/>
証明;内積の定義から明らか。 <br/><br/>
証明;内積の定義から明らか。 <br/><br/>
-
命題2<br/>
+
'''命題2'''<br/>
-
\vec a \cdot \vec b =\sum_{i}a_ib_i  
+
\vec a \cdot \vec b =\sum_{i}a_ib_i <br/>
-
ここでa_1,b_1はそれぞれ$\vec a,\vec b$のx座標成分、同様に、添え字2はy座標成分、3はz座標成分<br/>
+
ここでa_1,b_1は,それぞれのベクトルのx座標成分を表す。<br/>
 +
同様に、$a_2,b_2$はそれぞれのベクトルのy座標成分<を表す。br/>
直交座標系はどんなものでも良い。しかしすべてのベクトルは同じ座標系で座標成分表示しなければならない。<br/>
直交座標系はどんなものでも良い。しかしすべてのベクトルは同じ座標系で座標成分表示しなければならない。<br/>
証明<br/>
証明<br/>
-
次の三角形の余弦定理を利用する。<br/>
+
三角形の余弦定理を利用する。<br/>
-
三角形の[[wikipedia_ja:余弦定理|第2余弦定理]];<br/>
+
*[[wikipedia_ja:余弦定理 |ウィキペディア( 余弦定理 )]]
-
図のような\triangle {ABC}を考える。<br/>
+
頂点A,B,Cの対辺の長さをそれぞれa,b,cとし、\angle{ACB}=\thetaとする。<br/>
頂点A,B,Cの対辺の長さをそれぞれa,b,cとし、\angle{ACB}=\thetaとする。<br/>
-
すると、c^2=a^2+b^2-2ab\cos\theta<br/>
+
すると、余弦定理により<br/>
-
余弦定理の証明;頂点Aから対辺BCにおろした垂線の足をHとする。<br/>
+
c^2=a^2+b^2-2ab\cos\theta<br/>
-
[[wikipedia_ja:ピタゴラスの定理 |ピタゴラスの定理]]により、<br/>
+
 
-
$c^2=\overline{BH}^2+\overline{AH}^2\qquad$ 右辺の第2項に、再び、ピタゴラスの定理を適用して、<br/>
+
 
-
=\overline{BH}^2+(b^2-\overline{CH}^2) \qquad \overline{BH}=a-\overline{CH}を代入すると、<br/>
+
-
=(a-\overline{CH})^2+(b^2-\overline{CH}^2)=a^2+b^2-2a\overline{CH},\quad \overline{CH}=b\cos\thetaなので、代入すると<br/>
+
-
$=a^2+b^2-2ab\cos\theta$ <br/>
+
-
余弦定理の証明終わり。<br/>
+
命題2の証明  <br/>
命題2の証明  <br/>
ベクトル\vec a \vec b を、<br/>
ベクトル\vec a \vec b を、<br/>
131 行: 103 行:
\vec a \cdot \vec b=(\sum_{i}a_i^2+\sum_{i}b_i^2-\sum_{i}(a_i-b_i)^2 )/2 <br/>=\sum_{i}a_i b_i <br/>
\vec a \cdot \vec b=(\sum_{i}a_i^2+\sum_{i}b_i^2-\sum_{i}(a_i-b_i)^2 )/2 <br/>=\sum_{i}a_i b_i <br/>
命題2の証明終わり。 <br/><br/>
命題2の証明終わり。 <br/><br/>
-
命題3<br/>
+
'''命題3'''<br/>
(\vec a +\vec b) \cdot \vec c =\vec a \cdot \vec c+\vec b \cdot \vec c   <br/>
(\vec a +\vec b) \cdot \vec c =\vec a \cdot \vec c+\vec b \cdot \vec c   <br/>
証明<br/>
証明<br/>
-
ある一つの直交座標系をさだめ、両辺を、命題(2)を利用して、座標成分であらわす。両辺が等しいことが分かる。<br/><br/>
+
ある一つの直交座標系をさだめ、両辺を、命題2を利用して、座標成分であらわす。両辺が等しいことが分かる。<br/><br/>
系; \vec a \cdot (\vec b+\vec c) =\vec a \cdot \vec b+\vec a \cdot \vec c   <br/>
系; \vec a \cdot (\vec b+\vec c) =\vec a \cdot \vec b+\vec a \cdot \vec c   <br/>
証明;命題1を利用して、左辺の項の順番を入れ替え、命題3を適用し、再び命題1を用いればよい。<br/><br/>
証明;命題1を利用して、左辺の項の順番を入れ替え、命題3を適用し、再び命題1を用いればよい。<br/><br/>
142 行: 114 行:
証明<br/>
証明<br/>
同様に、3つの式を、座標成分表示すれば、みな等しいことが、簡単に分かる。 <br/> <br/>
同様に、3つの式を、座標成分表示すれば、みな等しいことが、簡単に分かる。 <br/> <br/>
-
命題5 <br/>
+
'''命題5(シュワルツの不等式)''' <br/>
\|\vec a \cdot \vec b\| \leq \|\vec a\|\|\vec b\|<br/>
\|\vec a \cdot \vec b\| \leq \|\vec a\|\|\vec b\|<br/>
-
0\leq |\cos\theta|\leq 1なので内積の定義から、ただちに分かる。 <br/> <br/>
+
証明;0\leq |\cos\theta|\leq 1なので内積の定義から、ただちに分かる。 <br/> <br/>
-
命題6 ノルムの三角不等式 <br/>
+
'''命題6 ノルムの三角不等式''' <br/>
\|\vec a + \vec b\| \leq \|\vec a\| + \|\vec b\|<br/>
\|\vec a + \vec b\| \leq \|\vec a\| + \|\vec b\|<br/>
証明 <br/>
証明 <br/>
160 行: 132 行:
\vec{a}, \vec{b}, \vec{c}は3次元ベクトル<br/>
\vec{a}, \vec{b}, \vec{c}は3次元ベクトル<br/>
\alphaを実数とする。<br/><br/>
\alphaを実数とする。<br/><br/>
 +
'''定義'''
 +
\vec{a}, \vec{b}は3次元ベクトルとする。<br/>
 +
これらのベクトルのベクトル積(外積ともいう)\quad \vec{a} \times \vec{b}とは、<br/>
 +
\vec{a}, \vec{b}が平行の時は、零ベクトル、<br/>
 +
平行でないときは、これら2つのベクトルに直交し、大きさが  \vec{a}\vec{b}の作る平行四辺形の面積と等しいベクトル\vec{c}で、<br/>
 +
向きは、3つのベクトル<< \vec{a},\vec{b},\vec{c}>> が右手系をなす向きであるものをいう。<br/><br/>
 +
(注)<< \vec{a},\vec{b},\vec{c}>>は、この順番に3つのベクトルが並んでいることを表す。<br/>
 +
\quadこれら3つのベクトルの集合\{ \vec{a},\vec{b},\vec{c}\}とは異なる。<br/>
-
命題1. \quad \vec{a} を, \vec{c} と垂直な成分 \vec{a_\perp} と,平行な成分\vec{a_\parallel} の和に分解するとき、 <br/>
+
'''命題7'''<br/>
 +
\quad \vec{a} を, \vec{c} と垂直な成分 \vec{a_\perp} と,平行な成分\vec{a_\parallel} の和に分解するとき、 <br/>
\quad \vec{a} \times \vec{c}= \vec{a_\perp} \times \vec{c}  <br/>
\quad \vec{a} \times \vec{c}= \vec{a_\perp} \times \vec{c}  <br/>
\quad \vec{a_\parallel} \times \vec{c}= 0  <br/>
\quad \vec{a_\parallel} \times \vec{c}= 0  <br/>
167 行: 148 行:
2つのベクトルの作る平行四辺形の面積と方向・向きを考えれば良い。<br/>
2つのベクトルの作る平行四辺形の面積と方向・向きを考えれば良い。<br/>
-
命題2. \quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}  <br/>
+
'''命題8'''<br/>
 +
\quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}  <br/>
証明;2つのベクトルを入れ替えても、それらが作る平行四辺形の面積は変わらず、この四辺形に直交する直線の方向も変わらない。<br/>
証明;2つのベクトルを入れ替えても、それらが作る平行四辺形の面積は変わらず、この四辺形に直交する直線の方向も変わらない。<br/>
しかし、ベクトル積の向きは、逆向きになる。<br/>
しかし、ベクトル積の向きは、逆向きになる。<br/>
ベクトル積の定義から、\quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a} が示せた。<br/><br/>
ベクトル積の定義から、\quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a} が示せた。<br/><br/>
-
命題3 <br/>
+
'''命題9''' <br/>
(\alpha\vec{a})\times \vec{b}= \alpha(\vec{a} \times \vec{b})= \vec{a}\times (\alpha\vec{b}) <br/>
(\alpha\vec{a})\times \vec{b}= \alpha(\vec{a} \times \vec{b})= \vec{a}\times (\alpha\vec{b}) <br/>
証明;実数\alpha が正、零、負の場合に分けて考える。<br/>
証明;実数\alpha が正、零、負の場合に分けて考える。<br/>
177 行: 159 行:
ベクトル積の定義とベクトルと実数の積の命題から、容易に証明できる。<br/>
ベクトル積の定義とベクトルと実数の積の命題から、容易に証明できる。<br/>
-
命題4. \quad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c} <br/>
+
'''命題10'''
 +
\quad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c} <br/>
証明;<br/>
証明;<br/>
この証明には少し工夫が必要である。<br/>
この証明には少し工夫が必要である。<br/>
213 行: 196 行:
 
 
-
命題4の系  <br/>  
+
'''命題10の系'''  <br/>  
\quad \vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= \vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c}<br/>
\quad \vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= \vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c}<br/>
\quad (\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}<br/>
\quad (\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}<br/>
証明;<br/>
証明;<br/>
-
命題2より、<br/>
+
命題8より、<br/>
-
\vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= -\left((\vec{b}+ \vec{c})\times \vec{a}\right)   命題3から     <br/>
+
\vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= -\left((\vec{b}+ \vec{c})\times \vec{a}\right)   命題9から     <br/>
=\left(-(\vec{b}+ \vec{c})\right)\times \vec{a}
=\left(-(\vec{b}+ \vec{c})\right)\times \vec{a}
命題4より、<br/>
命題4より、<br/>
= -(\vec{b} \times \vec{a}+ \vec{c} \times \vec{a})  <br/>
= -(\vec{b} \times \vec{a}+ \vec{c} \times \vec{a})  <br/>
-
再び命題2より、<br/>
+
再び命題8より、<br/>
=\vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c} \quad 前半の証明終わり <br/>
=\vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c} \quad 前半の証明終わり <br/>
-
命題2より、<br/>
+
命題8より、<br/>
(\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=(\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{d}+\vec{c})\times \vec{d}  <br/>
(\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=(\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{d}+\vec{c})\times \vec{d}  <br/>
-
再び命題2より、<br/>
+
再び命題8より、<br/>
=\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}
=\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}
\quad証明終わり。<br/> 
\quad証明終わり。<br/> 
-
命題5.\quad (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3}) を<br/>
+
'''命題11'''<br/>
 +
\quad (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3}) を<br/>
それぞれ大きさ(長さ)1で互いに直交し、[[wikipedia_ja:右手系|右手系]]をなす、ベクトル(右手系をなす正規直交基底)とする。<br/>
それぞれ大きさ(長さ)1で互いに直交し、[[wikipedia_ja:右手系|右手系]]をなす、ベクトル(右手系をなす正規直交基底)とする。<br/>
238 行: 222 行:
証明;ベクトル積と(e_1,e_2,e_3) の定義から明らかである。<br/>
証明;ベクトル積と(e_1,e_2,e_3) の定義から明らかである。<br/>
-
命題6.ベクトル\vec a, \vec bを,命題5で用いた基底 (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3}) で決まる座標の座標成分で表示しておく。<br/>
+
'''命題12'''<br/>
-
すると$\vec a \times \vec b=(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x)$ <br/>
+
ベクトル\vec a, \vec bを,命題5で用いた基底 (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3})で決まる座標を用いて<br/>
-
証明;$\vec a=a_x\vec{e_x}+a_y\vec{e_y}+a_z\vec{e_z}$, <br/>
+
\vec a=(a_1,a_2,a_3)^{t}, \vec b=(b_1,b_2,b_3)^{t} と表示しておく。<br/>
-
$\vec b=b_x\vec{e_x}+b_y\vec{e_y}+b_z\vec{e_z}$と表せるので、<br/>
+
すると$\vec a \times \vec b=(a_2b_3-a_3b_2,a_3b_1-a_1b_3,a_1b_2-a_2b_1)^{t}$ <br/>
-
$\vec a \times \vec b=(a_x\vec{e_x}+a_y\vec{e_y}+a_z\vec{e_z})\times \vec b$
+
証明;$\vec a=a_1\vec{e_1}+a_2\vec{e_2}+a_3\vec{e_3}$, <br/>
 +
$\vec b=b_1\vec{e_1}+b_2\vec{e_2}+b_3\vec{e_3}$と表せるので、<br/>
 +
$\vec a \times \vec b=(a_1\vec{e_1}+a_2\vec{e_2}+a_3\vec{e_3})\times \vec b$
命題3の系から<br/>
命題3の系から<br/>
-
$=a_x\vec{e_x}\times \vec b
+
$=a_1\vec{e_1}\times \vec b
-
+a_y\vec{e_y}\times \vec b
+
+a_2\vec{e_2}\times \vec b
-
+a_z\vec{e_z}\times \vec b  \qquad$          (1)<br/>
+
+a_3\vec{e_3}\times \vec b  \qquad$          (1)<br/>
式(1)の第1項
式(1)の第1項
-
$a_x\vec{e_x}\times \vec b$
+
$a_1\vec{e_1}\times \vec b$
-
$\vec b=b_x\vec{e_x}+b_y\vec{e_y}+b_z\vec{e_z}$
+
$\vec b=b_1\vec{e_1}+b_2\vec{e_2}+b_3\vec{e_3}$
を代入して、命題3の系を使って変形すると、<br/>
を代入して、命題3の系を使って変形すると、<br/>
-
$a_x\vec{e_x}\times \vec b
+
$a_1\vec{e_1}\times \vec b
-
=a_x\vec{e_x}\times b_x\vec{e_x}
+
=a_1\vec{e_1}\times b_1\vec{e_1}
-
+a_x\vec{e_x}\times b_y\vec{e_y}
+
+a_1\vec{e_1}\times b_2\vec{e_2}
-
+a_x\vec{e_x}\times b_z\vec{e_z}  \qquad$      (2) <br/>
+
+a_1\vec{e_1}\times b_3\vec{e_3}  \qquad$      (2) <br/>
-
命題4と命題5を使うと、<br/>
+
命題10と命題11を使うと、<br/>
-
$a_x\vec{e_x}\times b_x\vec{e_x}
+
$a_1\vec{e_1}\times b_1\vec{e_1}
-
=a_x b_x\vec{e_x}\times \vec{e_x}
+
=a_1 b_1\vec{e_1}\times \vec{e_1}
=\vec 0$  。<br/>
=\vec 0$  。<br/>
同様の計算を行うと、<br/>
同様の計算を行うと、<br/>
-
$a_x\vec{e_x}\times b_y\vec{e_y}
+
$a_1\vec{e_1}\times b_2\vec{e_2}
-
=a_x b_y\vec{e_x}\times \vec{e_y}
+
=a_1 b_2\vec{e_1}\times \vec{e_2}
-
=a_x b_y\vec{e_z}$ <br/>
+
=a_1 b_2\vec{e_3}$ <br/>
-
$a_x\vec{e_x}\times b_z\vec{e_z}
+
$a_1\vec{e_1}\times b_3\vec{e_3}
-
=a_x b_z\vec{e_x}\times \vec{e_z}
+
=a_1 b_3\vec{e_1}\times \vec{e_3}
-
=-a_x b_z\vec{e_y}$ <br/>
+
=-a_1 b_3\vec{e_2}$ <br/>
式(2)にこれらを代入して、<br/>
式(2)にこれらを代入して、<br/>
-
$a_x\vec{e_x}\times \vec b
+
$a_1\vec{e_1}\times \vec b
-
=a_x b_y\vec{e_z}  - a_x b_z\vec{e_y}   \qquad$ (3)<br/>
+
=a_1 b_2\vec{e_3}  - a_1 b_3\vec{e_2}   \qquad$ (3)<br/>
式(1)の第2項、第3項も同様に計算すると、<br/>
式(1)の第2項、第3項も同様に計算すると、<br/>
-
$a_y\vec{e_y}\times \vec b
+
$a_2\vec{e_2}\times \vec b
-
=a_y b_z\vec{e_x}  - a_y b_x\vec{e_z}     \qquad$ (4)<br/>
+
=a_2 b_3\vec{e_1}  - a_2 b_1\vec{e_3}     \qquad$ (4)<br/>
-
$a_z\vec{e_z}\times \vec b
+
$a_3\vec{e_3}\times \vec b
-
=a_z b_x\vec{e_y}  - a_z b_y\vec{e_x}     \qquad$ (5)<br/>
+
=a_3 b_1\vec{e_2}  - a_3 b_2\vec{e_1}     \qquad$ (5)<br/>
式(3),(4),(5) を、式 (1)に代入すると、<br/>
式(3),(4),(5) を、式 (1)に代入すると、<br/>
$\vec a \times \vec b
$\vec a \times \vec b
-
=a_x b_y\vec{e_z}  - a_x b_z\vec{e_y}
+
=a_1 b_2\vec{e_3}  - a_1 b_3\vec{e_2}
-
+a_y b_z\vec{e_x}  - a_y b_x\vec{e_z}
+
+a_2 b_3\vec{e_1}  - a_2 b_1\vec{e_3}
-
+a_z b_x\vec{e_y}  - a_z b_y\vec{e_x}$ <br/>
+
+a_3 b_1\vec{e_2}  - a_3 b_2\vec{e_1}$ <br/>
-
$ =(a_y b_z - a_z b_y)\vec{e_x}
+
$ =(a_2 b_3 - a_3 b_2)\vec{e_1}
-
+(a_z b_x - a_x b_z)\vec{e_y}
+
+(a_3 b_1 - a_1 b_3)\vec{e_2}
-
+(a_x b_y - a_y b_x)\vec{e_z}$ <br/>
+
+(a_1 b_2 - a_2 b_1)\vec{e_3}$ <br/>
-
命題6の証明終わり。<br/>
+
命題12の証明終わり。<br/>
-
命題7の証明;<br/>
+
'''命題13'''<br/>
-
$ \quad (\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$を証明しよう。<br/>
+
(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}=(\vec{b} \times \vec{c})\cdot\vec{a}=(\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}   <br/>
-
残りも、同様に証明出来るので各自試みてください。<br/>
+
-
右手系をなす一つの直交座標を決める。<br/>
+
-
3つのベクトルを、この座標の成分で表示して、命題6と内積の命題を使えば、左右が等しいことが証明できる。<br/>
+
-
概略をスケッチしよう。<br/>
+
-
$ \quad (\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}
+
-
=(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x)
+
-
\cdot (c_x,c_y,c_z)
+
-
=(a_yb_z-a_zb_y)c_x+(a_zb_x-a_xb_z)c_y+(a_xb_y-a_yb_x)c_z$ <br/>
+
-
$ \quad (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$も、これと同じように計算する。<br/>これら両式を整頓すると、同じものであることが分かる。<br/>
+
-
命題7.<br/>
+
-
$(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b} =(\vec{b} \times \vec{c})\cdot\vec{a}$  <br/>
+
証明<br/>
証明<br/>
(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}を証明しよう。<br/>
(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}を証明しよう。<br/>
残りも、同様に証明出来るので各自試みてください。<br/>
残りも、同様に証明出来るので各自試みてください。<br/>
-
右手系をなす一つの直交座標を決める。<br/>
+
右手系をなす一つの直交座標系を決める。<br/>
-
3つのベクトルを、この座標の成分で表示して、命題6と内積の命題を使えば、左右が等しいことが証明できる。<br/>
+
3つのベクトルを、この座標系で成分表示して、<br/>
-
概略をスケッチしよう。<br/>
+
\vec{a}=(a_1,a_2,a_3)^{t},\quad \vec{b}=(b_1,b_2,b_3)^{t},\quad \vec{c}=(c_1,c_2,c_3)^{t}  とする。<br/>
 +
命題12から、<br/>
$(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}
$(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}
-
=(a_yb_z-a_zb_y,a_zb_x-a_xb_z,a_xb_y-a_yb_x)
+
=(a_2b_3-a_3b_2,a_3b_1-a_1b_3,a_1b_2-a_2b_1)\cdot (c_1,c_2,c_3)$ <br/>
-
\cdot (c_x,c_y,c_z)
+
内積の定義から<br/>
-
=(a_yb_z-a_zb_y)c_x+(a_zb_x-a_xb_z)c_y+(a_xb_y-a_yb_x)c_z$ <br/>
+
$=(a_2b_3-a_3b_2)c_1+(a_3b_1-a_1b_3)c_2+(a_1b_2-a_2b_1)c_3$ <br/>
-
\quad (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}も、これと同じように計算する。<br/>これら両式を整頓すると、同じものであることが分かる。<br/>
+
これを整頓すると<br/>
-
命題7の証明終わり。<br/>
+
=(a_1b_2c_3+a_2b_3c_1+a_3b_1c_2)-(a_1b_3c_2+a_2b_1c_3+a_3b_2c_1)
-
=☆☆ 我々の住む空間の数学的モデル=
+
\quad (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}も、これと同じように計算すると同じ式になる。<br/>
-
概要だけを記述するので、イメージをつかめれば良い。<br/>
+
命題13の証明終わり。<br/><br/>
 +
 
 +
定義<br/>
 +
$|\vec{a},\vec{b},\vec{c}|:=(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c} を3つのベクトル\vec{a},\vec{b},\vec{c}$ の'''行列式'''(determinant)という。<br/>
 +
[[File:GENPHY00010801-01.pdf|right|frame|図 3つのベクトルの張る平行6面体の体積]]<br/>
 +
この3つのベクトルの張る平行4面体の、符号付の体積である(図参照)。<br/><br/>
 +
 
 +
'''命題13の系1'''<br/>
 +
$|\vec{a},\vec{b},\vec{c}|=|\vec{b},\vec{c},\vec{a}|=|\vec{c},\vec{a},\vec{b}|$<br/>
 +
=-|\vec{b},\vec{a},\vec{c}|=-|\vec{c},\vec{b},\vec{a}|=-|\vec{a},\vec{c},\vec{b}|<br/><br/>
 +
'''命題13の系2'''<br/>
 +
3つの空間ベクトルを、ある右手系をなす直交座標系の成分で表示して<br/>
 +
\vec{a}=(a_1,a_2,a_3)^{t} \quad \vec{b}=(b_1,b_2,b_3)^{t},\quad \vec{c}=(c_1,c_2,c_3)^{t}  とする。<br/>
 +
この時、\vec{a},\vec{b},\vec{c} の行列式は<br/>
 +
|\vec{a},\vec{b},\vec{c}|:=(a_1b_2c_3+a_2b_3c_1+a_3b_1c_2)-(a_1b_3c_2+a_2b_1c_3+a_3b_2c_1) <br/><br/>
 +
この式は、命題13の証明のなかで導出されている。<br/><br/>
 +
'''命題13の系3'''<br/>
 +
行列式|\vec{a},\vec{b},\vec{c}| は、3つのベクトル\vec{a},\vec{b},\vec{c}の双線形関数である。すなわち<br/>
 +
|\alpha \vec{a^1}+\beta\vec{a^2},\vec{b},\vec{c}|=\alpha | \vec{a^1},\vec{b},\vec{c}|+ \beta | \vec{a^2},\vec{b},\vec{c}|<br/>
 +
|\vec{a},\alpha \vec{b^1}+\beta\vec{b^2},\vec{c}|=\alpha | \vec{a},\vec{b^1},\vec{c}|+ \beta | \vec{a},\vec{b^2},\vec{c}|<br/>
 +
|\vec{a},\vec{b},\alpha \vec{c^1}+\beta\vec{c^2}|=\alpha | \vec{a},\vec{b},\vec{c^1}|+ \beta | \vec{a},\vec{b},\vec{c^2}|<br/>
 +
ここで、\alpha,\ \beta は任意の実数、\vec{a^1},\ \vec{a^2}, \ \vec{b^1},\ \vec{b^2}, \ \vec{c^1},\ \vec{c^2}は任意の3次元ベクトルである。<br/><br/>
 +
'''命題14'''<br/>
 +
\vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c}) = (\vec{a}\cdot \vec{c})\vec{b}-(\vec{a}\cdot \vec{b})\vec{c}<br/>
 +
証明<br/>
 +
ベクトル積の定義を用いると、<br/>
 +
\vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c}) <br/>
 +
= (a_1,a_2,a_3)^{t}\times (b_2c_3-b_3c_2,\quad b_3c_1-b_1c_3,\quad b_1c_2-b_2c_1)^{t}<br/>
 +
=\Bigl( a_2(b_1c_2-b_2c_1)-a_3(b_3c_1-b_1c_3),\quad a_3(b_2c_3-b_3c_2)-a_1(b_1c_2-b_2c_1),\quad a_1(b_3c_1-b_1c_3)-a_2(b_2c_3-b_3c_2) \Bigr) ^{t}<br/>
 +
=\Bigl( (a_2b_1c_2+a_3b_1c_3)-(a_2b_2c_1+a_3b_3c_1),\quad (a_3b_2c_3+a_1b_2c_1)-(a_3b_3c_2+a_1b_1c_2),\quad (a_1b_3c_1+a_2b_3c_2)-(a_1b_1c_3+a_2b_2c_3) \Bigr) ^{t}<br/>
 +
=\Bigl( (\vec{a}\cdot \vec{c})b_1-a_1c_1b_1, \quad (\vec{a}\cdot \vec{c})b_2-a_2c_2b_2,\quad (\vec{a}\cdot \vec{c})b_3-a_3c_3b_3 \Bigr) ^{t}<br/>
 +
- \left( (\vec{a}\cdot \vec{b})c_1-a_1b_1c_1,\quad  (\vec{a}\cdot \vec{b})c_2-a_2b_2c_2,\quad (\vec{a}\cdot \vec{b})c_3-a_3b_3c_3 \right) ^{t}<br/>
 +
=(\vec{a}\cdot \vec{c})\vec{b}-(\vec{a}\cdot \vec{b})\vec{c}<br/>
 +
証明終わり<br/>
 +
(注) この公式の覚え方。<br/>
 +
\vec{b}\times \vec{c} は \vec{b}\vec{c}の両方に直交、<br/>
 +
\vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c}) は \vec{b}\times \vec{c} と直交。<br/>
 +
これから、\vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c}) は \vec{b} と \vec{c}が張る(一次結合)ベクトルであることが分かる。<br/>
 +
この係数が他の2つのベクトルの内積であることだけを記憶しておくと、<br/>
 +
$\vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c}) = \pm (\vec{a}\cdot \vec{c})\vec{b}
 +
\pm (\vec{a}\cdot \vec{b})\vec{c}$<br/>
 +
各項の符号は、<br/><br/>
 +
 
 +
'''命題14の系1'''<br/>
 +
(\vec{a}\times \vec{b})\times \vec{c} = (\vec{a}\cdot \vec{c})\vec{b}-(\vec{b}\cdot \vec{c})\vec{a}<br/>
 +
従って、一般に外積は結合法則を満たさない。<br/>
 +
\quad \vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c}) \neq (\vec{a}\times \vec{b})\times \vec{c}<br/>
 +
証明<br/>
 +
命題8から<br/>
 +
(\vec{a}\times \vec{b})\times \vec{c} =-\vec{c}\times (\vec{a}\times \vec{b})<br/>
 +
この右辺に命題14を適用すると、<br/>
 +
$=-\Bigl( (\vec{c}\cdot \vec{b})\vec{a}-(\vec{c}\cdot \vec{a})\vec{b}\Bigr)
 +
=(\vec{c}\cdot \vec{a})\vec{b}-(\vec{c}\cdot \vec{b})\vec{a}$<br/>
 +
証明終わり<br/><br/>
 +
'''命題14の系2'''<br/>
 +
1)$(\vec{a}\times \vec{b})\times (\vec{c}\times \vec{d})
 +
=[\vec{a},\vec{b},\vec{d}]\vec{c}-[\vec{a},\vec{b},\vec{c}] \vec{d}$<br/>
 +
2)$(\vec{a}\times \vec{b})\times (\vec{c}\times \vec{d})
 +
=[\vec{a},\vec{c},\vec{d}]\vec{b}-[\vec{b},\vec{c},\vec{d}] \vec{a}$<br/>
 +
証明<br/>
 +
1) \vec u \triangleq \vec{a}\times \vec{b} とおくと、<br/>
 +
$(\vec{a}\times \vec{b})\times (\vec{c}\times \vec{d})
 +
=\vec u \times (\vec{c}\times \vec{d})$<br/>
 +
命題14から<br/>
 +
$=(\vec u \cdot \vec d)\vec{c}-(\vec u \cdot \vec c)\vec{d}
 +
=\Bigl( (\vec{a}\times \vec{b})\cdot \vec d \Bigr) \vec{c}-\Bigl( (\vec{a}\times \vec{c})\cdot \vec d \Bigr) \vec{d}$<br/>
 +
行列式の定義から、<br/>
 +
=[\vec{a},\vec{b},\vec{d}]\vec{c}-[\vec{a},\vec{b},\vec{c}]\vec{d}<br/>
 +
故に、<br/>
 +
$(\vec{a}\times \vec{b})\times (\vec{c}\times \vec{d})
 +
=[\vec{a},\vec{b},\vec{d}]\vec{c}-[\vec{a},\vec{b},\vec{c}]\vec{d}$<br/>
 +
2)は、\vec u \triangleq \vec{c}\times \vec{d} とおくと,<br/>
 +
命題14の系1を用いて、同様にして証明できる。<br/><br/>
 +
 
 +
'''命題14の系3'''<br/>
 +
1)(\vec{a}\times \vec{b})\cdot (\vec{c}\times \vec{d}) = (\vec{a} \cdot \vec{c})(\vec{b} \cdot \vec{d})-(\vec{b} \cdot \vec{c})(\vec{d} \cdot \vec{a})<br/>
 +
2)(\vec{a}\times \vec{b})\cdot (\vec{c}\times \vec{d}) = (\vec{a} \cdot \vec{b})(\vec{a} \cdot \vec{c})-(\vec{b} \cdot \vec{c})(\vec{d} \cdot \vec{a})<br/>
 +
証明<br/>
 +
1) \vec u \triangleq \vec{a}\times \vec{b} とおくと、<br/>
 +
(\vec{a}\times \vec{b})\cdot (\vec{c}\times \vec{d}) = \vec u \cdot (\vec{c}\times \vec{d})=[\vec{u}, \vec{c},\vec{d}]<br/>
 +
行列式の性質から、<br/>
 +
=[\vec{d},\vec{u}, \vec{c}]=\vec{d}\cdot (\vec{u}\times \vec{c})<br/>
 +
\vec u の定義式を代入して<br/>
 +
=\vec{d}\cdot \Bigl( (\vec{a}\times \vec{b})\times \vec{c}\Bigr)<br/>
 +
命題14の系1を適用して、<br/>
 +
=\vec{d}\cdot \Bigl((\vec{a}\cdot \vec{c})\vec{b}-(\vec{b}\cdot \vec{c})\vec{a} \Bigr) <br/>
 +
内積の性質から<br/>
 +
=(\vec{a} \cdot \vec{c})(\vec{b} \cdot \vec{d})-(\vec{b} \cdot \vec{c})(\vec{d} \cdot \vec{a})<br/>
 +
1)が示せた。<br/>
 +
2)も、\vec u \triangleq \vec{c}\times \vec{d} とおけば、同様にして証明できる。<br/><br/>
 +
 
 +
= 我々の住む空間の数学的モデル(1)=
 +
この節では概要だけを記述するので、イメージをつかめれば良い。<br/>
 +
詳しくは次節で説明する。<br/><br/>
(1)私たちの住む(宇宙)空間S^3を無限に点(場所)が集まってできる集合と考える。<br/>
(1)私たちの住む(宇宙)空間S^3を無限に点(場所)が集まってできる集合と考える。<br/>
この空間では、経験によると、以下の諸事実が成り立つ。<br/>
この空間では、経験によると、以下の諸事実が成り立つ。<br/>
320 行: 389 行:
その2点を通る直線は必ず一本あり、一本に限る(直線の公理。注参照)。<br/>
その2点を通る直線は必ず一本あり、一本に限る(直線の公理。注参照)。<br/>
直線<PQ>と書く。<br/>
直線<PQ>と書く。<br/>
-
2点P,Qは、この直線上にあるので、その長さ(距離)は物差しなどで測れる。<br/>
+
2点P,Qは、この直線上にあるので、その長さ(距離)は物差しなどで測れる。<br/><br/>
(注)公理とは、経験上自明と思われるが、それ以上簡単な事実から証明出来ないため、<br/>
(注)公理とは、経験上自明と思われるが、それ以上簡単な事実から証明出来ないため、<br/>
正しいと認めた命題のこと。<br/>
正しいと認めた命題のこと。<br/>
351 行: 420 行:
点Rは元の点Pから\vec{PR}の方向・向きおよび距離の位置にある。<br/>
点Rは元の点Pから\vec{PR}の方向・向きおよび距離の位置にある。<br/>
\vec{PQ}+\vec{QR}:=\vec{PR}で、2つの有向線分の和を定義すると<br/>
\vec{PQ}+\vec{QR}:=\vec{PR}で、2つの有向線分の和を定義すると<br/>
-
$R=P+\vec{PR}=P+(\vec{PQ}+\vec{QR})$<br/>
+
P+\vec{PR}=P+(\vec{PQ}+\vec{QR})<br/>
-
そこでP+(\vec{PQ}+\vec{QR})=(P+\vec{PQ})+\vec{QR}と決めておけば<br/>
+
\quad そこでP+(\vec{PQ}+\vec{QR})=(P+\vec{PQ})+\vec{QR}と決めておけば<br/>
-
=(P+\vec{PQ})+\vec{QR}=Q+\vec{QR}<br/>
+
$=(P+\vec{PQ})+\vec{QR}=Q+\vec{QR}=R$<br/>
となり、3点の位置関係が正しく表現出来ることが分かる。<br/>
となり、3点の位置関係が正しく表現出来ることが分かる。<br/>
⑥P点を始点とするすべての有向線分を要素とする集合を<br/>
⑥P点を始点とするすべての有向線分を要素とする集合を<br/>
436 行: 505 行:
ベクトルを直交座標表示して、数の計算に帰着すると、<br/>
ベクトルを直交座標表示して、数の計算に帰着すると、<br/>
座標の直交性が役立ち、計算が大変簡単になる。<br/>
座標の直交性が役立ち、計算が大変簡単になる。<br/>
-
線形空間については
 
-
*[[wikipedia_ja:ベクトル空間 |ウィキペディア(ベクトル空間)]]
 
-
計量線形空間については
 
-
*[[wikipedia_ja:計量ベクトル空間 |ウィキペディア(計量ベクトル空間)]]
 
-
 
-
(2)我々の住む空間の数学的モデル<br/>
 
-
 
-
==数空間{\bf R^3}と3次元区間{\bf I^3}==
 

2025年6月3日 (火) 19:02 時点における最新版

8.1 平面と空間のベクトル

目次

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平面と空間,ベクトル

平面や空間への直観を重視し、幾何学的な説明をする。

以後、物理数学の説明では、集合についての初歩的知識を使う。
また定理等の証明では、(数理的)論理とくに一階述語論理の初等的知識が必要になる。
集合と論理の導入部については

この本では、不十分なので、以下に若干補足する。

(数理的)論理

数学的な議論は、(幾つかの)真の命題から他の真の命題を導く推論の連続である。
ここで、命題(proposition)というのは、内容の真偽が客観的に確定する文(叙述、言明)あるいは式のこと。
これらの推論に共通に用いられる論理的推論法を、
記号を用いて表現し数学的に研究するのが、数理的論理学である。

命題論理

述語論理

集合について

以下の説明では、集合についてのごく初歩的知識を使うので、なじみのない方は、
集合の素朴な定義と集合の表記法、
集合Aの補集合 A^C
2つの集合A,Bの包含関係すなわち,  AとBが等しい A=B, AはBの部分集合 A \subseteq BあるいはA \subset B
AはBの真の部分集合 A \subsetneq B 

および、
2つ以上の集合の演算(AとBの和集合A \cup B、共通集合A \cap B、差集合A - B、対称差集合A \triangle B、直積A\times B
などについて、以下の記事で学習してほしい。

平面と空間

我々は、太古の昔から自分たちの暮らすこの世界は、縦、横、高さをもつ3次元の空間であり、
この空間なかの、縦、横をもち、高さのない平らな無限の拡がりを平面として認識してきた。
この中で考えられた平面や空間は、2次元および3次元のユークリッド空間と呼ばれる。
下記の記事中の「序文」と「1. 直観的な説明」をお読みください。

また、この章の「2. 我々の住む空間の数学的モデル(1)」も御覧ください。

ベクトルの和と実数倍

平面や空間の異なる2点、P,Qを通る直線は必ず一本あり、一本に限られる。
これを直線PQという。
この直線で、PとQの間にある部分だけを考えるとき、線分PQという。
この線分に向き(矢印で表示)をつけたものを有向線分\vec{PQ}という。
この有向線分と長さと方向・向きの等しい有向線分を全て同一なものとみなすと
ベクトル[\vec{PQ}]が得られる。
このベクトルを空間ベクトルとも呼ぶ。
今後、ベクトル[\vec{PQ}]等は、\vec{A}\vec{B}というように略記する。

ベクトルの定義や和や実数倍については
2章力学の「有向線分からベクトルへ」を参照のこと。
また、ベクトルについては次の文献にもくわしい解説がある。

 内積とノルム

内積とノルムは物理学で良く使われる。
本テキストで必要となる命題と証明を紹介する。
以下では、
\vec a,\vec b,\vec cは、すべて同じ次元(2か3)の(空間)ベクトルとし、 \alphaは実数とする。

 2-ノルムと内積の定義

実ベクトル\vec a2-ノルム(あるいはユークリッドノルム)とは、
\|\vec a\|_{2}:=\sqrt{\sum_{i}a_{i}^2}のことで、
ベクトルの長さ(大きさ)を表す。
ここで、a_iは,\vec aの第i座標成分を表す。ちなみに第1成分はx座標成分、第2成分はy座標成分、第3成分はz座標成分である。
実ベクトル\vec a,\vec bの内積とは
\vec a \cdot \vec b:=\|\vec{a}\|_{2}\|\vec{b}\|_{2}\cos\theta
ここで、\thetaは、ベクトル\vec a,\vec bのなす角(0\le \theta \le \pi )である。
この定義から、
\vec a \cdot \vec a=\|\vec{a}\|_{2}^2
であることが分かる。

以後、単にノルム、\|\cdot \| とかけば、2-ノルムであるとする。

 内積とノルムの性質

命題1
\vec a \cdot \vec b =\vec b \cdot \vec a
証明;内積の定義から明らか。

命題2
\vec a \cdot \vec b =\sum_{i}a_ib_i
ここでa_1,b_1は,それぞれのベクトルのx座標成分を表す。
同様に、a_2,b_2はそれぞれのベクトルのy座標成分<を表す。br/> 直交座標系はどんなものでも良い。しかしすべてのベクトルは同じ座標系で座標成分表示しなければならない。
証明
三角形の余弦定理を利用する。

頂点A,B,Cの対辺の長さをそれぞれa,b,cとし、\angle{ACB}=\thetaとする。
すると、余弦定理により
c^2=a^2+b^2-2ab\cos\theta


命題2の証明  
ベクトル\vec a \vec b を、
始点が点Cである有向線分で表現し、その終点をB,Cで表す。
すると\vec a=\vec{CB}, \vec b=\vec{CA}である。
ベクトル\vec c=\vec a-\vec bを導入すると、
\vec c=\vec a-\vec b=\vec{CB}-\vec{CA}=\vec{CB}+\vec{AC}=\vec{AB}
3角形\triangle {ABC}を考え、第2余弦定理を適用しよう。
\angle{ACB}=\thetaとおく。すると、
\|\vec c\|^2=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\|\vec a\|\|\vec b\|\cos{\theta}
=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\vec a \cdot \vec bが得られる。
この式を変形して\vec a \cdot \vec bだけを左辺に置くと、
\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec c\|^2)/2 。
\vec c=\vec{AB}=\vec{AC}+\vec{CB}=-\vec b+\vec aなので、

\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec a-\vec b\|^2)/2
この右辺を、ベクトルの直交座標成分で表すと、次式が得られる。
\vec a \cdot \vec b=(\sum_{i}a_i^2+\sum_{i}b_i^2-\sum_{i}(a_i-b_i)^2 )/2
=\sum_{i}a_i b_i
命題2の証明終わり。

命題3
(\vec a +\vec b) \cdot \vec c =\vec a \cdot \vec c+\vec b \cdot \vec c   
証明
ある一つの直交座標系をさだめ、両辺を、命題2を利用して、座標成分であらわす。両辺が等しいことが分かる。

系; \vec a \cdot (\vec b+\vec c) =\vec a \cdot \vec b+\vec a \cdot \vec c   
証明;命題1を利用して、左辺の項の順番を入れ替え、命題3を適用し、再び命題1を用いればよい。

命題4
(\alpha \vec a)\cdot \vec b =\vec a \cdot (\alpha \vec b)=\alpha (\vec a \cdot \vec b)
が成り立つ。
証明
同様に、3つの式を、座標成分表示すれば、みな等しいことが、簡単に分かる。

命題5(シュワルツの不等式)
\|\vec a \cdot \vec b\| \leq \|\vec a\|\|\vec b\|
証明;0\leq |\cos\theta|\leq 1なので内積の定義から、ただちに分かる。

命題6 ノルムの三角不等式
\|\vec a + \vec b\| \leq \|\vec a\| + \|\vec b\|
証明
\|\vec a + \vec b\|^2=(\vec a + \vec b)\cdot (\vec a + \vec b)
命題3を使って計算すると、
=\vec a \cdot \vec a +\vec b \cdot \vec b +2\vec a \cdot \vec b
命題5より、
\leq \vec a \cdot \vec a +\vec b \cdot \vec b +2\|\vec a\|\|\vec b\| =\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2+2\|\vec a\|\|\vec b\|=(\|\vec a\|+\|\vec b\|)^2
故に\|\vec a + \vec b\|^2 \leq (\|\vec a\|+\|\vec b\|)^2
両辺の平方根をとれば所要の不等式を得る。

ベクトル積 

本節での全ての命題で、
\vec{a}, \vec{b}, \vec{c}は3次元ベクトル
\alphaを実数とする。

定義 \vec{a}, \vec{b}は3次元ベクトルとする。
これらのベクトルのベクトル積(外積ともいう)\quad \vec{a} \times \vec{b}とは、
\vec{a}, \vec{b}が平行の時は、零ベクトル、
平行でないときは、これら2つのベクトルに直交し、大きさが  \vec{a}\vec{b}の作る平行四辺形の面積と等しいベクトル\vec{c}で、
向きは、3つのベクトル<< \vec{a},\vec{b},\vec{c}>> が右手系をなす向きであるものをいう。

(注)<< \vec{a},\vec{b},\vec{c}>>は、この順番に3つのベクトルが並んでいることを表す。
\quadこれら3つのベクトルの集合\{ \vec{a},\vec{b},\vec{c}\}とは異なる。

命題7
\quad \vec{a} を, \vec{c} と垂直な成分 \vec{a_\perp} と,平行な成分\vec{a_\parallel} の和に分解するとき、
\quad \vec{a} \times \vec{c}= \vec{a_\perp} \times \vec{c}
\quad \vec{a_\parallel} \times \vec{c}= 0
証明;ベクトル積の定義から、容易に示せる。
2つのベクトルの作る平行四辺形の面積と方向・向きを考えれば良い。

命題8
\quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}
証明;2つのベクトルを入れ替えても、それらが作る平行四辺形の面積は変わらず、この四辺形に直交する直線の方向も変わらない。
しかし、ベクトル積の向きは、逆向きになる。
ベクトル積の定義から、\quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a} が示せた。

命題9
(\alpha\vec{a})\times \vec{b}= \alpha(\vec{a} \times \vec{b})= \vec{a}\times (\alpha\vec{b}) 
証明;実数\alpha が正、零、負の場合に分けて考える。
いずれの場合にも, ベクトル積の定義とベクトルと実数の積の命題から、容易に証明できる。

命題10 \quad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c} 
証明;
この証明には少し工夫が必要である。
ベクトル積の命題の中でも、もっとも大切なものなので、詳しく説明しよう。
①  \vec{a}, \vec{b}\quad \vec{c}\quad が直交する場合。図参照のこと
・議論をやさしくするため、ベクトルを、空間の原点O を始点とする有向線分で代表させる。
\vec{c} と直交しO を通る平面をHとする。
・仮定より \vec{a},\quad \vec{b}は、ともに平面H上のベクトルである。
\vec{a} \times \vec{c} ,\quad \vec{b} \times \vec{c}も、
ベクトル積の定義により、共に \vec{c} と直交するので、H上のベクトルである。
これら四つのベクトルはすべて平面H上にあるので、今後の議論はこの平面上で進める。
 ⅰ)\vec{a} \times \vec{c}, \vec{b} \times \vec{c} の張る平行四辺形は,
\vec{a}, \vec{b}の張る平行四辺形を、\| \vec{c}\|倍し,原点周りに90度回転したものになることを、示そう。

\vec{a} \times \vec{c} は、ベクトル積の定義から、 \vec{a} と直交する。
そのため、\vec{a} を平面H上で、原点まわりに、90度右回りか、左回りすれば、方向と向きが一致する。
\vec{b} \times \vec{c} も、同様に考え、\vec{b} を平面H上で、原点まわりに、90度右回りか、左回りすれば、方向と向きが一致することが分かる。
・どちら周りの回転になるかは、ベクトル積の定義によって決まるが、
後者の回転の向きが、前者の回転の向きと一致することが分かる。
\vec{a}\times \vec{c} の大きさは、
\|\vec{a}\times \vec{c}\|=\|\vec{a}\|\|\vec{c}\|\cos(\pi/2)=\|\vec{a}\|\|\vec{c}\| なので、\vec{a} の大きさの\|\vec{c}\|倍になる。
同様に、\vec{b}\times \vec{c} の大きさは、\vec{a} の大きさの\|\vec{c}\|倍になる。
・以上の結果より、所望の結果は示された。

 ⅱ) \qquad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}を示そう。
・ ⅰ)と同じ議論により、
(\vec{a}+ \vec{b}) \times \vec{c}\vec{a}, \vec{b}の張る平行四辺形の対角線を、原点周りに90度、同じ向きに回転させ、\|\vec{c}\|倍させたものであることが分かる。
・すると、ⅰ)で示したことから、(\vec{a}+ \vec{b}) \times \vec{c}
\vec{a} \times \vec{c}, \vec{b} \times \vec{c} の張る平行四辺形の対角線\vec{a} \times \vec{c}+\vec{b} \times \vec{c} に等しいことが分かる。
・以上で①が示せた。

② 一般の場合。
命題1より、\perp\vec{c}と垂直な成分を表すとすると、 (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= (\vec{a}+ \vec{b})_\perp \times \vec{c} \qquad \qquad \qquad (1)
(\vec{a}+ \vec{b})_\perp =\vec{a}_\perp +\vec{b}_\perpなので、(1)式は、
= (\vec{a}_\perp +\vec{b}_\perp) \times \vec{c}
①より、
= \vec{a}_\perp \times \vec{c}+\vec{b}_\perp\times \vec{c}=\vec{a} \times \vec{c}+\vec{b} \vec{c} \qquad 命題4の証明終わり。
 

命題10の系  
   \quad \vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= \vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c}
\quad (\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}
証明;
命題8より、
\vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= -\left((\vec{b}+ \vec{c})\times \vec{a}\right) 命題9から
=\left(-(\vec{b}+ \vec{c})\right)\times \vec{a} 命題4より、
= -(\vec{b} \times \vec{a}+ \vec{c} \times \vec{a})
再び命題8より、
=\vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c} \quad 前半の証明終わり
命題8より、
(\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=(\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{d}+\vec{c})\times \vec{d}
再び命題8より、
=\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d} \quad証明終わり。
  命題11
\quad (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3})
それぞれ大きさ(長さ)1で互いに直交し、右手系をなす、ベクトル(右手系をなす正規直交基底)とする。

この時、
\quad \vec{e_1} \times \vec{e_2} = \vec{e_3}, \quad \vec{e_2} \times \vec{e_3} = \vec{e_1}, \quad \vec{e_3} \times \vec{e_1} = \vec{e_2}
証明;ベクトル積と(e_1,e_2,e_3) の定義から明らかである。

命題12
ベクトル\vec a, \vec bを,命題5で用いた基底 (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3})で決まる座標を用いて
\vec a=(a_1,a_2,a_3)^{t}, \vec b=(b_1,b_2,b_3)^{t} と表示しておく。
すると\vec a \times \vec b=(a_2b_3-a_3b_2,a_3b_1-a_1b_3,a_1b_2-a_2b_1)^{t} 
証明;\vec a=a_1\vec{e_1}+a_2\vec{e_2}+a_3\vec{e_3},
\vec b=b_1\vec{e_1}+b_2\vec{e_2}+b_3\vec{e_3}と表せるので、
\vec a \times \vec b=(a_1\vec{e_1}+a_2\vec{e_2}+a_3\vec{e_3})\times \vec b 命題3の系から
=a_1\vec{e_1}\times \vec b +a_2\vec{e_2}\times \vec b +a_3\vec{e_3}\times \vec b \qquad (1)
式(1)の第1項 a_1\vec{e_1}\times \vec b\vec b=b_1\vec{e_1}+b_2\vec{e_2}+b_3\vec{e_3} を代入して、命題3の系を使って変形すると、
a_1\vec{e_1}\times \vec b =a_1\vec{e_1}\times b_1\vec{e_1} +a_1\vec{e_1}\times b_2\vec{e_2} +a_1\vec{e_1}\times b_3\vec{e_3} \qquad (2)
命題10と命題11を使うと、
a_1\vec{e_1}\times b_1\vec{e_1} =a_1 b_1\vec{e_1}\times \vec{e_1} =\vec 0
同様の計算を行うと、
a_1\vec{e_1}\times b_2\vec{e_2} =a_1 b_2\vec{e_1}\times \vec{e_2} =a_1 b_2\vec{e_3}

a_1\vec{e_1}\times b_3\vec{e_3} =a_1 b_3\vec{e_1}\times \vec{e_3} =-a_1 b_3\vec{e_2}
式(2)にこれらを代入して、
a_1\vec{e_1}\times \vec b =a_1 b_2\vec{e_3} - a_1 b_3\vec{e_2} \qquad (3)

式(1)の第2項、第3項も同様に計算すると、
a_2\vec{e_2}\times \vec b =a_2 b_3\vec{e_1} - a_2 b_1\vec{e_3} \qquad (4)

a_3\vec{e_3}\times \vec b =a_3 b_1\vec{e_2} - a_3 b_2\vec{e_1} \qquad (5)

式(3),(4),(5) を、式 (1)に代入すると、
\vec a \times \vec b =a_1 b_2\vec{e_3} - a_1 b_3\vec{e_2} +a_2 b_3\vec{e_1} - a_2 b_1\vec{e_3} +a_3 b_1\vec{e_2} - a_3 b_2\vec{e_1}
=(a_2 b_3 - a_3 b_2)\vec{e_1} +(a_3 b_1 - a_1 b_3)\vec{e_2} +(a_1 b_2 - a_2 b_1)\vec{e_3}
命題12の証明終わり。
命題13
(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}=(\vec{b} \times \vec{c})\cdot\vec{a}=(\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}
証明
(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}を証明しよう。
残りも、同様に証明出来るので各自試みてください。
右手系をなす一つの直交座標系を決める。
3つのベクトルを、この座標系で成分表示して、
\vec{a}=(a_1,a_2,a_3)^{t},\quad \vec{b}=(b_1,b_2,b_3)^{t},\quad \vec{c}=(c_1,c_2,c_3)^{t}  とする。
命題12から、
(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c} =(a_2b_3-a_3b_2,a_3b_1-a_1b_3,a_1b_2-a_2b_1)\cdot (c_1,c_2,c_3)
内積の定義から
=(a_2b_3-a_3b_2)c_1+(a_3b_1-a_1b_3)c_2+(a_1b_2-a_2b_1)c_3 
これを整頓すると
=(a_1b_2c_3+a_2b_3c_1+a_3b_1c_2)-(a_1b_3c_2+a_2b_1c_3+a_3b_2c_1) \quad (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}も、これと同じように計算すると同じ式になる。
命題13の証明終わり。

定義
|\vec{a},\vec{b},\vec{c}|:=(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c} を3つのベクトル\vec{a},\vec{b},\vec{c} の行列式(determinant)という。

ファイル:GENPHY00010801-01.pdf
図 3つのベクトルの張る平行6面体の体積

この3つのベクトルの張る平行4面体の、符号付の体積である(図参照)。

命題13の系1
|\vec{a},\vec{b},\vec{c}|=|\vec{b},\vec{c},\vec{a}|=|\vec{c},\vec{a},\vec{b}|
=-|\vec{b},\vec{a},\vec{c}|=-|\vec{c},\vec{b},\vec{a}|=-|\vec{a},\vec{c},\vec{b}|

命題13の系2
3つの空間ベクトルを、ある右手系をなす直交座標系の成分で表示して
\vec{a}=(a_1,a_2,a_3)^{t} \quad \vec{b}=(b_1,b_2,b_3)^{t},\quad \vec{c}=(c_1,c_2,c_3)^{t}  とする。
この時、\vec{a},\vec{b},\vec{c} の行列式は
|\vec{a},\vec{b},\vec{c}|:=(a_1b_2c_3+a_2b_3c_1+a_3b_1c_2)-(a_1b_3c_2+a_2b_1c_3+a_3b_2c_1)

この式は、命題13の証明のなかで導出されている。

命題13の系3
行列式|\vec{a},\vec{b},\vec{c}| は、3つのベクトル\vec{a},\vec{b},\vec{c}の双線形関数である。すなわち
|\alpha \vec{a^1}+\beta\vec{a^2},\vec{b},\vec{c}|=\alpha | \vec{a^1},\vec{b},\vec{c}|+ \beta | \vec{a^2},\vec{b},\vec{c}|
|\vec{a},\alpha \vec{b^1}+\beta\vec{b^2},\vec{c}|=\alpha | \vec{a},\vec{b^1},\vec{c}|+ \beta | \vec{a},\vec{b^2},\vec{c}|
|\vec{a},\vec{b},\alpha \vec{c^1}+\beta\vec{c^2}|=\alpha | \vec{a},\vec{b},\vec{c^1}|+ \beta | \vec{a},\vec{b},\vec{c^2}|
ここで、\alpha,\ \beta は任意の実数、\vec{a^1},\ \vec{a^2}, \ \vec{b^1},\ \vec{b^2}, \ \vec{c^1},\ \vec{c^2}は任意の3次元ベクトルである。

命題14
\vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c}) = (\vec{a}\cdot \vec{c})\vec{b}-(\vec{a}\cdot \vec{b})\vec{c}
証明
ベクトル積の定義を用いると、
\vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c})
= (a_1,a_2,a_3)^{t}\times (b_2c_3-b_3c_2,\quad b_3c_1-b_1c_3,\quad b_1c_2-b_2c_1)^{t}
=\Bigl( a_2(b_1c_2-b_2c_1)-a_3(b_3c_1-b_1c_3),\quad a_3(b_2c_3-b_3c_2)-a_1(b_1c_2-b_2c_1),\quad a_1(b_3c_1-b_1c_3)-a_2(b_2c_3-b_3c_2) \Bigr) ^{t}
=\Bigl( (a_2b_1c_2+a_3b_1c_3)-(a_2b_2c_1+a_3b_3c_1),\quad (a_3b_2c_3+a_1b_2c_1)-(a_3b_3c_2+a_1b_1c_2),\quad (a_1b_3c_1+a_2b_3c_2)-(a_1b_1c_3+a_2b_2c_3) \Bigr) ^{t}
=\Bigl( (\vec{a}\cdot \vec{c})b_1-a_1c_1b_1, \quad (\vec{a}\cdot \vec{c})b_2-a_2c_2b_2,\quad (\vec{a}\cdot \vec{c})b_3-a_3c_3b_3 \Bigr) ^{t}
- \left( (\vec{a}\cdot \vec{b})c_1-a_1b_1c_1,\quad (\vec{a}\cdot \vec{b})c_2-a_2b_2c_2,\quad (\vec{a}\cdot \vec{b})c_3-a_3b_3c_3 \right) ^{t}
=(\vec{a}\cdot \vec{c})\vec{b}-(\vec{a}\cdot \vec{b})\vec{c}
証明終わり
(注) この公式の覚え方。
\vec{b}\times \vec{c} は \vec{b}\vec{c}の両方に直交、
\vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c}) は \vec{b}\times \vec{c} と直交。
これから、\vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c}) は \vec{b} と \vec{c}が張る(一次結合)ベクトルであることが分かる。
この係数が他の2つのベクトルの内積であることだけを記憶しておくと、
\vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c}) = \pm (\vec{a}\cdot \vec{c})\vec{b} \pm (\vec{a}\cdot \vec{b})\vec{c}
各項の符号は、

命題14の系1
(\vec{a}\times \vec{b})\times \vec{c} = (\vec{a}\cdot \vec{c})\vec{b}-(\vec{b}\cdot \vec{c})\vec{a}
従って、一般に外積は結合法則を満たさない。
\quad \vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c}) \neq (\vec{a}\times \vec{b})\times \vec{c}
証明
命題8から
(\vec{a}\times \vec{b})\times \vec{c} =-\vec{c}\times (\vec{a}\times \vec{b})
この右辺に命題14を適用すると、
=-\Bigl( (\vec{c}\cdot \vec{b})\vec{a}-(\vec{c}\cdot \vec{a})\vec{b}\Bigr) =(\vec{c}\cdot \vec{a})\vec{b}-(\vec{c}\cdot \vec{b})\vec{a}
証明終わり

命題14の系2
1)(\vec{a}\times \vec{b})\times (\vec{c}\times \vec{d}) =[\vec{a},\vec{b},\vec{d}]\vec{c}-[\vec{a},\vec{b},\vec{c}] \vec{d}
2)(\vec{a}\times \vec{b})\times (\vec{c}\times \vec{d}) =[\vec{a},\vec{c},\vec{d}]\vec{b}-[\vec{b},\vec{c},\vec{d}] \vec{a}
証明
1) \vec u \triangleq \vec{a}\times \vec{b} とおくと、
(\vec{a}\times \vec{b})\times (\vec{c}\times \vec{d}) =\vec u \times (\vec{c}\times \vec{d})
命題14から
=(\vec u \cdot \vec d)\vec{c}-(\vec u \cdot \vec c)\vec{d} =\Bigl( (\vec{a}\times \vec{b})\cdot \vec d \Bigr) \vec{c}-\Bigl( (\vec{a}\times \vec{c})\cdot \vec d \Bigr) \vec{d}
行列式の定義から、
=[\vec{a},\vec{b},\vec{d}]\vec{c}-[\vec{a},\vec{b},\vec{c}]\vec{d}
故に、
(\vec{a}\times \vec{b})\times (\vec{c}\times \vec{d}) =[\vec{a},\vec{b},\vec{d}]\vec{c}-[\vec{a},\vec{b},\vec{c}]\vec{d}
2)は、\vec u \triangleq \vec{c}\times \vec{d} とおくと,
命題14の系1を用いて、同様にして証明できる。

命題14の系3
1)(\vec{a}\times \vec{b})\cdot (\vec{c}\times \vec{d}) = (\vec{a} \cdot \vec{c})(\vec{b} \cdot \vec{d})-(\vec{b} \cdot \vec{c})(\vec{d} \cdot \vec{a})
2)(\vec{a}\times \vec{b})\cdot (\vec{c}\times \vec{d}) = (\vec{a} \cdot \vec{b})(\vec{a} \cdot \vec{c})-(\vec{b} \cdot \vec{c})(\vec{d} \cdot \vec{a})
証明
1) \vec u \triangleq \vec{a}\times \vec{b} とおくと、
(\vec{a}\times \vec{b})\cdot (\vec{c}\times \vec{d}) = \vec u \cdot (\vec{c}\times \vec{d})=[\vec{u}, \vec{c},\vec{d}]
行列式の性質から、
=[\vec{d},\vec{u}, \vec{c}]=\vec{d}\cdot (\vec{u}\times \vec{c})
\vec u の定義式を代入して
=\vec{d}\cdot \Bigl( (\vec{a}\times \vec{b})\times \vec{c}\Bigr)
命題14の系1を適用して、
=\vec{d}\cdot \Bigl((\vec{a}\cdot \vec{c})\vec{b}-(\vec{b}\cdot \vec{c})\vec{a} \Bigr)
内積の性質から
=(\vec{a} \cdot \vec{c})(\vec{b} \cdot \vec{d})-(\vec{b} \cdot \vec{c})(\vec{d} \cdot \vec{a})
1)が示せた。
2)も、\vec u \triangleq \vec{c}\times \vec{d} とおけば、同様にして証明できる。

 我々の住む空間の数学的モデル(1)

この節では概要だけを記述するので、イメージをつかめれば良い。
詳しくは次節で説明する。

(1)私たちの住む(宇宙)空間S^3を無限に点(場所)が集まってできる集合と考える。
この空間では、経験によると、以下の諸事実が成り立つ。
①この空間のどのような2点P,Qをとっても、
その2点を通る直線は必ず一本あり、一本に限る(直線の公理。注参照)。
直線<PQ>と書く。
2点P,Qは、この直線上にあるので、その長さ(距離)は物差しなどで測れる。

(注)公理とは、経験上自明と思われるが、それ以上簡単な事実から証明出来ないため、
正しいと認めた命題のこと。
「点」や「直線」、「通る」などの言葉は
意味が分かっているという前提に立ち、その意味を定義しないで用いる。
点や直線、通るなどの表現がでてくる公理をすべて満たすものとして、
その性質が正確に規定される。無定義語という。

②直線<PQ>は空間全体を覆わないので、直線外の空間の点Rをとれる。
3点P,Q,Rを通る平面が常に唯一つ存在する(平面の公理1)。
これを平面<PQR>と書こう。
平面は、この面上にある2点を通る直線を含む(平面の公理2)。
空間の中のどの平面上でもユークリッドの平面幾何学は成り立つ(空間S^3の性質)。
直線<PQ>と直線<PR>は、平面<PQR>上の直線であり、角度\angle QPRがきまる。
③空間の中の異なる2直線mの間には次の3つの関係のうちのいずれか一つ(しかも一つだけ)が成り立つ。
 ⅰ)交わる(この時は2直線は同一平面上にあることが、
直線と平面の公理から簡単に証明出来る。
 ⅱ)同一平面上にあるが交わらない(平行という)。
 ⅲ)同一平面上にない。
平行な2直線は、同じ方向であるという。
④平面<PQR>も空間全体を覆わないので、空間にはこの平面外の点Sが存在する。
⑤空間の2点P,Qを結ぶ線分[PQ](直線<PQ>の、点PとQの間の部分)に
PからQに向けた向きを付けた有向線分\vec{PQ}を考える。
これはP点からみたQ点の位置を、
P点からQ点を見たときの方向・向きと距離で表したもの。
Q点が、P点から見て、\vec{PQ}の方向・向きおよび距離の点であることを
P+\vec{PQ}=Qと表す。
次にQ点から\vec{QR}の方向・向きおよび距離にある点R=Q+\vec{QR}を考える 。
点Rは元の点Pから\vec{PR}の方向・向きおよび距離の位置にある。
\vec{PQ}+\vec{QR}:=\vec{PR}で、2つの有向線分の和を定義すると
P+\vec{PR}=P+(\vec{PQ}+\vec{QR})
\quad そこでP+(\vec{PQ}+\vec{QR})=(P+\vec{PQ})+\vec{QR}と決めておけば
=(P+\vec{PQ})+\vec{QR}=Q+\vec{QR}=R
となり、3点の位置関係が正しく表現出来ることが分かる。
⑥P点を始点とするすべての有向線分を要素とする集合を
V_{P}:=\{\vec{PQ}\mid Q \in S^3\}
と記す。すると\{P+\vec a \mid \vec a \in V_{P}\}=S^3
V_{P}V_{Q}はどのような関係にあるだろうか。
V_{P}の任意の要素\vec{PP_1},(P\neq P_1)
方向・向きと大きさが等しく、始点がQである有向線分を作ってみよう。
異なる3点P,P_{1},Qを通る平面は常に唯一つ存在する。
この平面上で、ユークリッド幾何学を使い、
平行四辺形PP_{1}Q_{1}Qを作ることが出来る。
すると\vec{QQ_1}\in V_{Q}であり、
\vec{QQ_1}\vec{PP_1}と方向・向きは同じで、大きさ(長さ、距離)も等しい。
2つの有向線分が、方向・向きと大きさが同じならば、 ある点からみた他の点の位置を、有向線分の方向・向きと大きさで指定するかぎり、 2つの有向線分は同じ点を指定する。そこで方向・向きと大きさが等しい2つの有向ベクトルは同一視して、
\vec{QQ_1} \cong \vec{PP_1}と書く。

すると経験上、空間S^3はつぎの性質を持つことが分かっている。
空間S^3の公理;
空間S^3の任意の2点P,Qを考える。 V_{P}の任意の要素には、
それと\congの関係にある、V_{Q}の要素が一つ対応する。
逆に
V_{Q}の任意の要素には、
それと\congの関係にある、V_{P}の要素が一つ対応する。

そこで、\cong関係のある有向線分を、おなじものと考えると
V_{P}V_{Q}は同じ集合になる。
すなわち\cong関係のある有向線分を、おなじものと考えると
どの点から空間を見た時も、
空間のすべての点を表すのに必要な、有向線分(方向・向きと距離の集まり)は、
皆同じである。

定義: 方向・向きと長さの等しい有向線分を(始点は異なっても、) 同じものとみなした時、有向線分をベクトルと呼ぶ。

記号で書くと、
有向線分\vec{QQ_1} \cong  有向線分\vec{PP_1} 
<==>
ベクトル\vec{QQ_1} =  ベクトル\vec{PP_1}

今後は\vec{PQ}を有向線分とみなすときは、有向線分\vec{PQ} と書き、
ベクトルとみなす時は単に\vec{PQ}と書いて区別する。

空間の性質から、ベクトルの集合とみたV_{P}は皆等しくなる。
これをベクトル集合Vで表す。
⑦空間の性質1
Vの2つのベクトル{\bf a},{\bf b}を、
{\bf a}=\vec{PQ},{\bf b}=\vec{QR}と表現すると、
ベクトル{\bf a},{\bf b}の和は
{\bf a}+{\bf b}=\vec{PR}で定義する。
この和はP点に関係なく、唯一つのベクトルを定めることが証明できる。
和の交換則と結合則が成り立つ。
ベクトルの実数倍も定義出来る。
V線形空間(ベクトル空間ともいう)になる。
これ等はユークリッド幾何学を用いて証明出来る。
⑧ 線形空間Vは3次元空間
P点から空間を眺めると、②で述べたように
Pを通る平面<PQR>が存在する。
この平面上には、P点で交わる2本の直線<PQ><PR>が存在する。
そこで2つのベクトル\vec{PQ}\in V\vec{PR}\in Vを考える。
すると,平面上の任意の点RをP点から見たときの方向・向き、距離\vec{PR}は、
\vec{PQ}\vec{PR}の線形結合\alpha \vec{PQ}+\beta \vec{PR}
で表せる。ここで、\alpha,\beta は、適当な実数である。
逆に、任意の線形結合\alpha \vec{PQ}+\beta \vec{PR}に対し、
平面上に点Rが定まり、
\alpha \vec{PQ}+\beta \vec{PR}=\vec{PR}
この事実はユークリッド幾何学を用いて容易に示すことができる。
平面は、このように2つのベクトルで表せるので2次元と呼ぶ。
空間は、平面<PQR>で覆われないので、平面外の点Sがとれる。
\vec{PS}は線形結合\alpha \vec{PQ}+\beta \vec{PR}では表せない。
我々の住む空間の公理2
V=\{\alpha\vec{PQ}+\beta \vec{PR}+\gamma \vec{PS}\mid \alpha,\beta,\gammaは実数\}
空間S^3を点をすべて記述するには
3つの独立なベクトルを用いなければならないので
S^3は3次元空間とも呼ばれる。

⑩3次元空間の座標と座標表示
この空間には座標系を考えるができる。
ベクトルの座標表示をすると、ベクトル演算を数の計算に帰着でき便利である。

ベクトルを直交座標表示して、数の計算に帰着すると、
座標の直交性が役立ち、計算が大変簡単になる。

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