物理/熱と熱現象(2)熱力学の基本法則
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ピストンに外部から圧力 $P+\epsilon$ をかけると、<br|> | ピストンに外部から圧力 $P+\epsilon$ をかけると、<br|> | ||
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2016年1月31日 (日) 17:14時点における版
目次 |
熱と熱現象(2)熱力学の基本法則
蒸気機関の発明とその効率を上げる試みと考察と、
永久機関の試みが失敗に終わっている事実から、
熱力学の基本法則が発見された。
永久機関への挑戦の失敗
外部からエネルギーを受け取ることなく、仕事を行い続ける装置ができればエネルギー問題など発生しない。
次の記事にあるように18~19世紀、多くの科学者や技術者がこれに挑んだが誰も成功しなかった。
最初は、外部から何も受け取ることなく、仕事を外部に取り出すことができる機関を作ろうとした(第一種の永久機関)。
その試みは失敗続きだった。
やがて熱も含めたエネルギーの保存則(熱力学の第一法則)が認識され、
それに反する試みなので、失敗したのだとわかった。
次には、エネルギー保存則に反しない永久機関を作ろうとした。
ある熱源から熱エネルギーを取り出しこれを仕事に変換し、
仕事によって発生した熱をすべて熱源に回収する装置が考えられた。
これができれば、熱源から取出した仕事は、すべて熱エネルギーとして回収され熱源に返されるので、
熱源の熱エネルギーは失われず、永久に仕事が取り出せる(第2種永久機関)。
しかし多くの試みはすべて失敗であった。
この結果、熱力学の第2法則が認識されるようになった。
現在では、熱力学の第一法則と第二法則が自然の基本法則であり、
永久機関はこれに反するため不可能であると理解されている。
熱力学の第1法則
力学の分野では、
「2.4.3 力学的エネルギーと力学的エネルギー保存則」で説明したように
保存力場では、質点系の力学的エネルギーは保存される。
さらに保存力以外の力を加えたとき、その力のなす仕事はこの質点系の力的学エネルギーの増加に等しい。
摩擦がある場合には、「2章 力学」で説明したように、物体は運動中に摩擦力を受けるので、摩擦力を含めた力は保存的でなくなり、力学的エネルギーの保存則は成立しない(注参照)。
力学的現象と同時に摩擦など熱エネルギーの移動を伴う現象でも
力学的エネルギーに熱現象に伴うエネルギーを合計すると、
エネルギーが保存されることを法則として認めたものが、
熱力学の第一法則である。
この法則を理解するのは物質の内部エネルギーについて理解する必要がある。
(注)物体の力学的エネルギーは運動中、摩擦熱となり失われていく。
物質の内部エネルギー
物体が静止している時は、巨視的に観測できる物体の運動エネルギーは零である。
しかし巨視的手段では観測できないが、その物質を構成している個々の分子・原子は、
絶えず熱運動をおこなっているため、運動エネルギーを持つ。
さらに保存力である分子間力で互いに引き合っているためポテンシャル(位置)エネルギーを持っている。
これらの和を物質の内部エネルギーという(注参照)。
理想気体の場合、
分子間力は働かないため位置エネルギーは0となり、
内部エネルギーは各気体分子の熱運動のエネルギーの和である。
(注)分子は、電気力によって互いに引き合っている。
互いに引き合っている物質を引き離すには、
それらに力を加えて強制的に動かす必要がある。
分子間力は保存力なので、引き離す力のなす仕事は、
その経路に関係なく、それら物質の初期位置と最終位置だけで決まる。
これが分子間力による(初期状態から最終状態を見た)ポテンシャル(位置)エネルギーである。
通常は互いに無限に離れた状態のポテンシャル・エネルギーを零と定める。
注の終わり。
広義の熱力学の第一法則
ある系が、ある変化を行うとき、
その系の最後のエネルギーE'と最初のエネルギーEとの差E'-Eは、
その系に外部からくわえた仕事の総量 W と 外から加えた熱の総量 Q の和に等しい。
$E'- E = W +Q \qquad \qquad (1)$
系のエネルギーとは、系を分子の集まりと考えたときの、力学的エネルギー(各分子の運動エネルギーの総和と系のポテンシャルエネルギーの和)である。
剛体の場合には、剛体としての力学的エネルギーと内部エネルギーの和となる。
このエネルギーの構成成分と大きさは、
外からの仕事の与え方や熱の与え方により変わるため、これらを指定しなければ決まらない。
熱力学の第一法則
外からの仕事と熱が、
系の巨視的な力学的エネルギーを変えないように与えられるときは、
E'-E は 系の内部エネルギーの差U'ーU に等しくなる。
この場合の第一法則は
$U'- U = W + Q \qquad \qquad (2)$
通常の熱力学の本では、熱力学の第一法則は、
「系が静止し、熱平衡状態を保ちながら、
外部から非常にゆっくりと仕事や熱エネルギーを受ける
(準静的過程という)場合に、式(2)が成り立つ」と述べている(注参照)。
(注)熱力学の第2法則の所で詳しく述べるが、
熱平衡状態に厳密にあれば仕事やエネルギーの移動は起こりえず、
この記述は厳密には自己矛盾を含んでしまう。
このため、本テキストではその使用にあたっては、この概念を吟味して記述し、
また、その使用を最小限にする。
気体の体積を変える力がなす仕事について
熱力学の第一法則の適用に際して、
気体に圧力をかけて、圧縮(膨張)するとき、この圧力がなす仕事Wを求める必要が生じる。
命題;
圧力Pの気体を、その圧力よりほんのわずか($\epsilon $)だけ異なる圧力をかけて、
ゆっくりと微小体積 $\delta V$ だけ、
圧縮($\epsilon >0$の場合で$\delta V<0$)
あるいは膨張($\epsilon < 0$の場合で$\delta V>0$) させた時、
体積を変えるために外から加える仕事は
$-(P+\epsilon)\delta V$となる。
略証;簡単な場合にこれを示そう。
図3-2-1のようにピストンによる気体の圧縮・膨張を考える。
ピストンの断面積をSとし、x座標を図のようにいれると、
ピストンの移動距離$\delta l$と、体積変化量 $\delta V$ の間には
$\delta V = S \delta l$
という関係がある。
ピストンに外部から圧力 $P+\epsilon$ をかけると、
ピストン全体には $-(P+\epsilon)S$という力が作用する。
ピストンの移動距離が微小の時は、ピストン内の気体の圧力Pは一定と考えても良いので、
ピストンを$\delta l$ 移動させるため力のなす仕事は
$-(P+\epsilon)S\delta l$
$\qquad \delta V = S \delta l$ なので
$=-(P+\epsilon)\delta V$
第一法則の応用
第1種永久機関の不可能性
熱力学の第一法則から、第1種永久機関が不可能であることを論証してください。
気体の断熱自由膨張
理想気体の断熱膨張
熱容量と比熱
熱力学の第2法則
第二種永久機関の失敗やカルノーの熱機関の効率の研究から,熱力学の第2法則が、熱現象の基本原理として採用された。
熱機関と効率
熱機関とは、
高温の熱源から熱エネルギーをもらってシリンダー内の気体(作業物質という)を膨張(この時外部に仕事をする)させ、
あまった熱を低温熱源に与えて作業物質を冷却・収縮させて元の状態に戻すことで、
シリンダーにはめたピストンを往復運動(1往復をサイクルという)させ、外部に仕事をさせる機械のことである。
高温の熱源から受け取った熱エネルギーを,
すべて外部への仕事に変換することは出来るであろうか。
できなければ最大効率はいくらで、どのような熱機関で実現できるのか。
この問題を解決したのはカルノーである。
カルノー機関、カルノーサイクル
カルノーが発見した最大効率の熱機関は、
①作業物質の温度を高温熱源と等しくしてから、高温熱源と接触させ熱平衡を保ったまま高温熱源から熱をもらい非常にゆっくりと作業物質を膨張させる(この時外部に仕事をする)
②作業物質を熱源から離し、作業物質をゆっくりと断熱膨張(この時も外部に仕事)させて作業物質の温度を下げ、
③低温の熱源の温度にひとしくなったら、作業物質を低温熱源に接触させ、今まで取り出した仕事の一部を用いて、作業物質をゆっくり圧縮して熱平衡を保ったまま作業物質の熱を低温熱源にもどし
④さらに、低温熱源から作業物質を離して、今まで取り出した仕事の一部を用いて、断熱圧縮して、作業物質の温度を上げ、もとの状態に戻す、
という4つの過程からなる装置であり、カルノー機関という。
この機関のサイクルを、カルノーサイクル
という。
準静的過程
可逆過程と可逆機関
外界に変化を残さずに、元の状態に戻すことのできる変化を、可逆変化という。但し、もどすときの経路は、最初の変化の逆を辿る必要はない。詳しくは、
カルノー機関は準静的なので、最初の経路で得た仕事を全て使って、最初の経路を逆に辿り元の状態に戻せるので、可逆機関である。
準静的過程と可逆過程の関係
カルノーの定理
熱力学の第2法則を用いると、
カルノーの定理「この機関の効率は作業物質によらず同じであり、両熱源の温度だけで決まる」、
「カルノー機関より高効率な熱機関は存在しない」
ことが論証できる。
カルノーの定理の証明
熱力学的絶対温度
カルノー機関の効率が両熱源の温度の関数であることを用いて熱力学的絶対温度(作業物質の特性を全く使わない温度)が定義できる。
これらの詳細については本テキストでは扱わない。
熱力学の第2法則
いくつかの異なった定式化があるが、いずれも等価であることが示せる。
トムソンの原理
クラジウスの原理
- ウィキペディア(熱力学) の 「2 熱力学の法則 」の3
および
不可逆過程とエントロピー
不可逆変化と具体例
可逆過程とは、外界に変化を残さずに最初の状態に戻せる過程のことであったが、現実の殆どの変化は可逆ではない。例えば高温物体から低温物体への熱の移動は、両者を接触させればおこるが、この逆の変化は起こらず、熱移動は不可逆過程である。他の例も考えてみてください。
不可逆な熱機関の効率
不可逆過程をふくむ熱機関の効率は、カルノー機関の効率よりも常に小さい(カルノーの第2定理)。
これも熱力学の第2法則から導ける。
エントロピー
高温熱源$T_1$と低温熱源$T_2$を用いたカルノーサイクルでは、
$\frac{Q_1}{T_1}=\frac{Q_2}{T_2} $
が成立する。
高温熱源$T_1$と低温熱源$T_2$を用いた不可逆過程の熱機関では
$\frac{Q_1}{T_1}<\frac{Q_2}{T_2} $
が成立する。
このことから、エントロピー $\frac{Q}{T}$ という重要な概念が導入された。
熱はエントロピーが増大する方向に移行する(エントロピー増大則)。
これ以上は、本テキストだは扱わないが、興味のある方は以下を参照のこと。