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物理/熱と熱現象(2)熱力学の基本法則

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(版間での差分)
(気体の断熱自由膨張 )
(熱と熱現象(2)熱力学の基本法則)
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「2.4.3 力学的エネルギーと力学的エネルギー保存則」で説明したように<br/>
「2.4.3 力学的エネルギーと力学的エネルギー保存則」で説明したように<br/>
保存力場では、質点系の力学的エネルギーは保存される。
保存力場では、質点系の力学的エネルギーは保存される。
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さらに保存力以外の力を力を加えたとき、その力のなす仕事はこの質点系の力的学エネルギーの増加に等しい。<br/>
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さらに保存力以外の力を加えたとき、その力のなす仕事はこの質点系の力的学エネルギーの増加に等しい。<br/>
摩擦がある場合には、「2章 力学」で説明したように、物体は運動中に摩擦力を受けるので、摩擦力を含めた力は保存的でなくなり、力学的エネルギーの保存則は成立しない(注参照)。<br/>
摩擦がある場合には、「2章 力学」で説明したように、物体は運動中に摩擦力を受けるので、摩擦力を含めた力は保存的でなくなり、力学的エネルギーの保存則は成立しない(注参照)。<br/>
力学的現象と同時に摩擦など熱エネルギーの移動を伴う現象でも<br/>
力学的現象と同時に摩擦など熱エネルギーの移動を伴う現象でも<br/>
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=== 物質の内部エネルギー ===
=== 物質の内部エネルギー ===
物体が静止している時は、巨視的に観測できる物体の運動エネルギーは零である。<br/>
物体が静止している時は、巨視的に観測できる物体の運動エネルギーは零である。<br/>
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しかし巨視的手段では観測できないが、その物質を構成している個々の分子・原子は、絶えず熱運動をおこなっているため、運動エネルギーを持つ。<br/>
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しかし巨視的手段では観測できないが、その物質を構成している個々の分子・原子は、
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さらに保存力である分子間力で互いに引き合っているためポテンシャル(位置)エネルギーを持っている。<br/>
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絶えず熱運動をおこなっているため、運動エネルギーを持つ。<br/>
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さらに保存力である[[wikipedia_ja:分子間力 |分子間力]]で互いに引き合っているためポテンシャル(位置)エネルギーを持っている。<br/>
これらの和を物質の内部エネルギーという(注参照)。<br|>
これらの和を物質の内部エネルギーという(注参照)。<br|>
[[wikipedia_ja:理想気体 |理想気体]]の場合、
[[wikipedia_ja:理想気体 |理想気体]]の場合、
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[[wikipedia_ja:分子間力 |分子間力]]は働かないため位置エネルギーは0となり、<br|>内部エネルギーは各気体分子の熱運動のエネルギーの和である。<br|>
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分子間力は働かないため位置エネルギーは0となり、<br|>内部エネルギーは各気体分子の熱運動のエネルギーの和である。<br|>
(注)分子は、電気力によって互いに引き合っている。<br|>
(注)分子は、電気力によって互いに引き合っている。<br|>
互いに引き合っている物質を引き離すには、<br|>
互いに引き合っている物質を引き離すには、<br|>
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これが分子間力による(初期状態から最終状態を見た)ポテンシャル(位置)エネルギーである。<br|>
これが分子間力による(初期状態から最終状態を見た)ポテンシャル(位置)エネルギーである。<br|>
通常は互いに無限に離れた状態のポテンシャル・エネルギーを零と定める。<br|>
通常は互いに無限に離れた状態のポテンシャル・エネルギーを零と定める。<br|>
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なお、万有引力は、電磁気的な分子間力にくらべて、圧倒的に小さく、<br|>
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注の終わり。<br|><br|>
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それによる位置エネルギーは無視できる。<br|>
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===広義の熱力学の第一法則   ===
===広義の熱力学の第一法則   ===
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ある系が、あるる変化を行うとき、<br|>
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ある系が、ある変化を行うとき、<br|>
その系の最後のエネルギーE'と最初のエネルギーEとの差E'-Eは、<br|>
その系の最後のエネルギーE'と最初のエネルギーEとの差E'-Eは、<br|>
その系に外部からくわえた仕事の総量 W と 外から加えた熱の総量 Q の和に等しい。<br|>
その系に外部からくわえた仕事の総量 W と 外から加えた熱の総量 Q の和に等しい。<br|>
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$E'- E = W +Q \qquad \qquad  (1)  <br|>
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$E'- E = W +Q \qquad \qquad  (1)$  <br|>
系のエネルギーとは、系を分子の集まりと考えたときの、力学的エネルギー(各分子の運動エネルギーの総和と系のポテンシャルエネルギーの和)である。<br|>
系のエネルギーとは、系を分子の集まりと考えたときの、力学的エネルギー(各分子の運動エネルギーの総和と系のポテンシャルエネルギーの和)である。<br|>
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剛体の場合には、剛体としての力学的エネルギーと内部エネルギーの和となる。
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剛体の場合には、剛体としての力学的エネルギーと内部エネルギーの和となる。 <br|>
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このエネルギーの構成成分と大きさは、外からの仕事の与え方や熱の与え方により変わるため、これらを指定しなければ決まらない。
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このエネルギーの構成成分と大きさは、 <br|>
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外からの仕事の与え方や熱の与え方により変わるため、これらを指定しなければ決まらない。
===熱力学の第一法則===
===熱力学の第一法則===
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外からの仕事と熱が、系の巨視的な力学的エネルギーを変えないように、与えられるときは、E'-E は 系の内部エネルギーの差U'ーU に等しくなる。
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外からの仕事と熱が、 <br|>
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そこで、この場合の第一法則は
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系の巨視的な力学的エネルギーを変えないように与えられるときは、 <br|>
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E'-E は 系の内部エネルギーの差U'ーU に等しくなる。 <br|>
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この場合の第一法則は <br|>
$U'- U = W + Q  \qquad \qquad (2)  <br|>
$U'- U = W + Q  \qquad \qquad (2)  <br|>
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静止した熱平衡系はこのケースの特殊例になる。
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通常の教科書には、この場合だけが記載されることが多い。
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通常の熱力学の本では、熱力学の第一法則は、 <br|>
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「系が静止し、熱平衡状態を保ちながら、 <br|>
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外部から非常にゆっくりと仕事や熱エネルギーを受ける
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(準静的過程という)場合に、式(2)が成り立つ」と述べている(注参照)。
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(注)熱力学の第2法則の所で詳しく述べるが、<br|>
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熱平衡状態に厳密にあれば仕事やエネルギーの移動は起こりえず、<br|>
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この記述は厳密には自己矛盾を含んでしまう。<br|>
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このため、本テキストではその使用にあたっては、この概念を吟味して記述し、<br|>
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また、その使用を最小限にする。
====気体の体積を変える力がなす仕事について====
====気体の体積を変える力がなす仕事について====
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熱力学の第一法則の適用に際して、しばしば、気体に圧力をかけて、圧縮(膨張)するとき、この圧力がなす仕事Wを求める必要が生じる。
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熱力学の第一法則の適用に際して、<br|>
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気体に圧力をかけて、圧縮(膨張)するとき、この圧力がなす仕事Wを求める必要が生じる。<br|>
命題;<br|>
命題;<br|>
圧力Pの気体を、その圧力よりほんのわずか(ϵ)だけ異なる圧力をかけて
圧力Pの気体を、その圧力よりほんのわずか(ϵ)だけ異なる圧力をかけて
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、ゆっくりと微小体積 δV だけ、圧縮(ϵ>0の時)あるいは膨張(ϵ<0の時) させた時、体積を変えるために外から加える仕事は
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、ゆっくりと微小体積 δV だけ、圧縮(ϵ>0の場合でδV<0となる)あるいは膨張(ϵ<0の場合でδV>0となる) させた時、体積を変えるために外から加える仕事は
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(P+ϵ)δVとなる。<br/><br|>
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$-(P+\epsilon)\delta V$となる。<br/><br|>
略証;簡単な場合にこれを示そう。<br/>
略証;簡単な場合にこれを示そう。<br/>
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図のようにピストンによる気体の圧縮・膨張を考える。
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図3-2-1のようにピストンによる気体の圧縮・膨張を考える。<br/>
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[[File: GENPHY00010302-01.jpg |right|frame|図3-2-1 ピストンによる気体圧縮]] 
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次の説明を読んで、その理由を考えよう。
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ピストンの断面積をSとし、x座標を図のようにいれると、<br|>
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*[[wikipedia_ja:仕事 (物理学)|ウィキペディア(仕事 (物理学)]] 
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ピストンの移動距離δlと、体積変化量  δV の間には<br|>
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δV= S \delta l$<br|>
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という関係がある。<br|>
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ピストンに外部から圧力 P+ϵ をかけると、ピストンには $-(P+\epsilon)S$という力が作用する。<br|>
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この力でピストンは δl 移動するので、力のなす仕事は 
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$-(P+\epsilon)S\delta l$<br|>
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δV= S \delta l$ なので<br|>
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=(P+ϵ)δV
===第一法則の応用===
===第一法則の応用===

2016年1月31日 (日) 16:49時点における版

目次

[非表示]

熱と熱現象(2)熱力学の基本法則

蒸気機関の発明とその効率を上げる試みと考察と、
永久機関の試みが失敗に終わっている事実から、
熱力学の基本法則が発見された。

永久機関への挑戦の失敗

外部からエネルギーを受け取ることなく、仕事を行い続ける装置ができればエネルギー問題など発生しない。
次の記事にあるように18~19世紀、多くの科学者や技術者がこれに挑んだが誰も成功しなかった。
最初は、外部から何も受け取ることなく、仕事を外部に取り出すことができる機関を作ろうとした(第一種の永久機関)。
その試みは失敗続きだった。
やがて熱も含めたエネルギーの保存則(熱力学の第一法則)が認識され、
それに反する試みなので、失敗したのだとわかった。
次には、エネルギー保存則に反しない永久機関を作ろうとした。
ある熱源から熱エネルギーを取り出しこれを仕事に変換し、
仕事によって発生した熱をすべて熱源に回収する装置が考えられた。
これができれば、熱源から取出した仕事は、すべて熱エネルギーとして回収され熱源に返されるので、
熱源の熱エネルギーは失われず、永久に仕事が取り出せる(第2種永久機関)。
しかし多くの試みはすべて失敗であった。
この結果、熱力学の第2法則が認識されるようになった。
現在では、熱力学の第一法則と第二法則が自然の基本法則であり、
永久機関はこれに反するため不可能であると理解されている。

熱力学の第1法則  

力学の分野では、
「2.4.3 力学的エネルギーと力学的エネルギー保存則」で説明したように
保存力場では、質点系の力学的エネルギーは保存される。 さらに保存力以外の力を加えたとき、その力のなす仕事はこの質点系の力的学エネルギーの増加に等しい。
摩擦がある場合には、「2章 力学」で説明したように、物体は運動中に摩擦力を受けるので、摩擦力を含めた力は保存的でなくなり、力学的エネルギーの保存則は成立しない(注参照)。
力学的現象と同時に摩擦など熱エネルギーの移動を伴う現象でも
力学的エネルギーに熱現象に伴うエネルギーを合計すると、
エネルギーが保存されることを法則として認めたものが、
熱力学の第一法則である。
この法則を理解するのは物質の内部エネルギーについて理解する必要がある。 (注)物体の力学的エネルギーは運動中、摩擦熱となり失われていく。

 物質の内部エネルギー 

物体が静止している時は、巨視的に観測できる物体の運動エネルギーは零である。
しかし巨視的手段では観測できないが、その物質を構成している個々の分子・原子は、 絶えず熱運動をおこなっているため、運動エネルギーを持つ。
さらに保存力である分子間力で互いに引き合っているためポテンシャル(位置)エネルギーを持っている。
これらの和を物質の内部エネルギーという(注参照)。
理想気体の場合、 分子間力は働かないため位置エネルギーは0となり、
内部エネルギーは各気体分子の熱運動のエネルギーの和である。
(注)分子は、電気力によって互いに引き合っている。
互いに引き合っている物質を引き離すには、
それらに力を加えて強制的に動かす必要がある。
分子間力は保存力なので、引き離す力のなす仕事は、
その経路に関係なく、それら物質の初期位置と最終位置だけで決まる。
これが分子間力による(初期状態から最終状態を見た)ポテンシャル(位置)エネルギーである。
通常は互いに無限に離れた状態のポテンシャル・エネルギーを零と定める。
注の終わり。

広義の熱力学の第一法則   

ある系が、ある変化を行うとき、
その系の最後のエネルギーE'と最初のエネルギーEとの差E'-Eは、
その系に外部からくわえた仕事の総量 W と 外から加えた熱の総量 Q の和に等しい。
EE=W+Q(1)  

系のエネルギーとは、系を分子の集まりと考えたときの、力学的エネルギー(各分子の運動エネルギーの総和と系のポテンシャルエネルギーの和)である。
剛体の場合には、剛体としての力学的エネルギーと内部エネルギーの和となる。 
このエネルギーの構成成分と大きさは、 
外からの仕事の与え方や熱の与え方により変わるため、これらを指定しなければ決まらない。

熱力学の第一法則

外からの仕事と熱が、 
系の巨視的な力学的エネルギーを変えないように与えられるときは、 
E'-E は 系の内部エネルギーの差U'ーU に等しくなる。 
この場合の第一法則は 
UU =W+Q(2)    ()2使使========()W(\epsilon )\delta V(\epsilon >0\delta V<0)(\epsilon < 0\delta V>0) -(P+\epsilon)\delta V321[[File:GENPHY0001030201.jpg|right|frame|321 ]] Sx\delta l\delta V\delta V = Sδl
という関係がある。
ピストンに外部から圧力 P+ϵ をかけると、ピストンには (P+ϵ)Sという力が作用する。
この力でピストンは δl 移動するので、力のなす仕事は  (P+ϵ)Sδl
δV= S \delta l=-(P+\epsilon)\delta V================== ======== ======== ======2 ==,2===  ===,========[[wikipediaja:|]]=====  ========== =====辿[[wikipediaja:|]]使辿=====  =============2[[wikipediaja:()|()]]=====  ===============使===2 ===[[wikipediaja:|]]  2[[wikipediaja:2|2]]======================22========T_1T_2\frac{Q_1}{T_1}=\frac{Q_2}{T_2} T_1T_2\frac{Q_1}{T_1}<\frac{Q_2}{T_2} \frac{Q}{T}$ という重要な概念が導入された。
熱はエントロピーが増大する方向に移行する(エントロピー増大則)。
これ以上は、本テキストだは扱わないが、興味のある方は以下を参照のこと。

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