物理/多変数解析学
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「9.1 多変数解析学」
序
本章の冒頭の偏微分の導入部については下記の本も参考にしてください。
それ以降の内容については、ウィキブックスには殆どないため、
このテクストで今後叙述していく予定です。
多変数の実数値関数の微分
Rn={(x1,x2,,,xn)∣xi∈R,i=1,2,⋯n} の開区間
In=∏ni=1(ai,bi)上で定義された実関数 y=f(x1,x2,,,xn) を考える。
一変数関数の議論から類推するために
以後、x:=(x1,x2,,,xn)とおき、 y=f(x) と書くこともある。
In上で定義された実数値関数 y=f(x)=f(x1,x2,,,xn) の微分について説明する。
一変数の微分から類推すると
微小なベクトル h=(h1,h2,,,hn) を考え、極限
lim→h→0,→h≠0f(x+→h)−f(x)h
が存在するとき、関数fは微分可能と定義することが考えられる。
しかし残念ながら、
→hはn次元ベクトルなので、割り算は不可能でありこの定義は無効である。
偏微分
関数f の変数 x の第i成分 xi だけを変数とし、
他の変数は任意の実数に固定(xj=aj(j≠i))して得られる関数
ϕxj=aj,j≠i(xi)≜f(a1,a2,,,ai−1,xi,ai+1,,,an)
を考える。
この関数は、一変数なので、任意の点xi での微分係数
dϕxj=aj,j≠idxi(xi)≜limh→0,h≠0ϕxj=aj,j≠i(xi+h)−ϕxj=aj,j≠i(xi)h
=limh→0,h≠0f(a1,a2,,,ai−1,xi+h,ai+1,,,an)−f(a1,a2,,,ai−1,xi,ai+1,,,an)h
を考えることができる。
定義(偏微分)
もし、一変数関数 ϕxj=aj,j≠i(xi)=f(a1,a2,,,ai−1,xi,ai+1,,,an) が、ある点xi=aiで微分可能ならば、
関数fは、点→a=(a1.a2,,,,an)で,xi について偏微分可能であると言い,
∂f∂xi(→a)≜dϕxj=aj,j≠idxi(ai)
を、f(x) の 点→a での変数 xi についての偏微分係数という。
定義(偏導関数)
f(x) がどの点xでも xi に関して偏微分可能であるならば、
任意の点x にその点における xi に関する偏微分係数∂f∂xi(x)を対応させると、新しい関数が得られる。
これを、f(x) の xi に関する偏導関数といい、記号
fxi(x),Dxif(x),∂f∂xi(x),∂f/∂xi
などで表示する。
以後、簡単のために2変数x,y の関数に限定して議論する。
定理 合成関数の微分(1)
R2 から R への関数f(x,y) と
R から R への関数g(t) の合成関数
h(x,y)=g(f(x,y))
を考える。
もし、f(x,y) が (x0,y0) で、xに関して偏微分可能で,
g(t) が、t0=f(x0,y0) において微分可能ならば、
h(x,y)=g(f(x,y)) は (x0,y0) で、xに関して偏微分可能であり,
hx(x0,y0)=g′(t0)fx(x0,y0)(1)
証明
yを y0 に固定して考えると、一変数関数の合成関数の微分になるので、合成関数の微分公式を適用すればよい。
定理
f(x,y) を
(x0,y0) を中心とするある半径rの開球体Br(x0,y0)上で、xについて偏微分可能とする。
もし(x,y) をBr(x0,y0)の点ならば
x0 と x の間の ξ が存在して、
f(x,y)−f(x,y0)−(f(x0,y)−f(x0,y0))=(x−x0)(fx(ξ,y)−fx(ξ,y0))(2)
(注)2次元の開球体Br(x0,y0)≜{(x,y)∈R2|‖(x,y)−(x0,y0)‖2<r} は、中心が点(x0,y0) で半径rの円周で囲まれる内部である。
証明
ϕ(x)≜f(x,y)−f(x,y0) とおくと、
式()の左辺=ϕ(x)−ϕ(x0)
ϕ(x) は、x0 の近傍で微分可能なので、平均値の定理から、
x0 と x の間の ξ が存在して、
=(x−x0)ϕ′(ξ)=(x−x0)(fx(ξ,y)−fx(ξ,y0))
定理
f(x.y) を
(x0,y0) を中心とする開球体Br(x0,y0)上で、xについて偏微分可能とする。
もし(x,y)=(x0+h,y0+k)∈Br(x0,y0) ならば
f(x,y)=f(x0,y0)+hfx(x0+hθ,y)+kfy(x0,y0+kθ)
を満たす、θ=θ(h,k)∈(0,1) が存在する。
証明
g(t)≜f(x0+ht,y)+f(x0,y0+kt) というtの関数を導入する。
すると、
g(1)−g(0)=f(x,y)+f(x0,y)−(f(x0,y)+f(x0,y0))
=f(x,y)−f(x0,y0)
関数 g(t) は、閉区間[0,1] を含む開区間上で微分可能なので、
一変数の微分可能関数の平均値の定理から、
ある数 θ∈(0,1) が存在して、
g(1)−g(0)= g′(θ)(1−0)=g′(θ) (a)
故に、f(x,y)−f(x0,y0)=g(1)−g(0)=g′(θ)
関数gの微分は,一変数関数の合成関数の微分公式から
g′(t)=fx(x0+ht,y)h+fy(x0,y0+kt)k(b)
式(a)、(b) から
f(x,y)−f(x0,y0)=fx(x0+hθ,y)h+fy(x0,y0+kθ)k(b)
証明終わり
方向微分
→ei を直交座標系のxi座標軸の正方向の方向・向きを持つ単位長さのベクトルとする(第i直交座標ベクトルと呼ぼう)。
多変数関数y=f(x1,x2,,,xn)の、点x=(x1,x2,,,xn)での偏微分係数 ∂f∂xi(x) は、
点x を、第i座標(座標ベクトル→ei)に平行に無限に小さい距離移動させるときの、関数fの変化率とみなせる。
式で書くと
∂f∂xi(x)=limh→0,h≠0f(x+h→ei)−f(x)h
このように考えると、点x=(x1,x2,,,xn)を、座標ベクトル→eiに平行ではなく、
任意に指定するベクトル→aに平行に微小量動かすときの関数fの変化率を考えることもできることが分かるだろう。
定義 方向微分
関数y=f(x1,x2,,,xn)の、点x=(x1,x2,,,xn)での,→a 方向の微分係数とは、
limh→0,h≠0f(x+h→a)−f(x)h
のことで、
∂f∂→a(x),f→a(x),D→af(x)
などと書く。
命題
(1) →ei 方向の微分は、→ei 座標軸(xi座標軸)に関する偏微分である。
ここで、→ei はxi座標軸の正方向向きの単位長さのベクトル。
式で書くと、
∂f∂→ei(x)=∂f∂xi(x)
(2)α を任意の実数とすると
∂f∂α→ei(x)=α∂f∂xi(x)
微分(全微分)
この§も、2変数関数で説明する。
二変数関数の微分可能性をどう定義したらよいだろうか?
一変数関数の微分の場合、それと同等の条件はいくつか知られているが、
その中で二変数関数に容易に拡張できるものを採用するのが自然である。
1.4.1.1 微分係数の意味 の命題の条件 3)の式(5)が、それに該当する。
定義1;微分可能性(全微分可能性)
関数f(x,y)が、或る開集合U上で定義されているとする。
fが 点(x0,y0)∈U で微分可能(あるいは全微分可能)とは、
ある定数c1, c2が存在して、
f(x,y)=f(x0,y0)+c1(x−x0)+c2(y−y0)+δ(x,y;xo,y0)(a)
ここで、lim(x,y)→(x0,y0)δ(x,y;xo,y0)/‖(x,y)−(x0,y0)‖=0(b)
この時、 c≜(c1,c2) を、fの点(x0,y0)における導値(derivative)または微分係数といい、
f′(x0,y0), Df(x0,y0) などと書く。
(注)このテキストの「1.4.3 一般のノルムの定義とノルムの同等性」から、
ノルムとしては、どのp-ノルムを用いても同等である。
定理1
fが 点(x0,y0)∈U で微分可能ならば、
1)f は(x0,y0) で偏微分可能で、
式(a)のc1,c2 はそれぞれ、(x0,y0) でのx、yに関する偏微分係数である。
すなわち、f′(x0,y0)=(fx(x0,y0),fy(x0,y0))
2)e を任意のベクトルとすると、
f は (x0,y0) で e方向に微分可能で、
Def(x0,y0)=Df(x0,y0)e
証明
1)を示そう。
式(a) で、y=y0 と固定すると
f(x,y0)=f(x0,y0)+c1(x−x0)+δ(x,y0;xo,y0)(c)
ここで、
lim(x,y0)→(x0,y0)δ(x,y0;xo,y0)/‖(x,y0)−(x0,y0)‖=0(d)
(x,y0)→(x0,y0) ⇔x→x0、‖(x,y0)−(x0,y0)‖=|x−x0| なので
式(d)から、limx→x0δ(x,y0;xo,y0)/|x−x0|=0(e)
式(c)の両辺を、x−x0(≠0) で割り、整頓すると、
f(x,y0)−f(x0,y0)x−x0=c1+δ(x,y0;xo,y0)x−x0
この式の両辺の極限x→x0をとると、式(e)から
limx→x0,x≠x0f(x,y0)−f(x0,y0)x−x0=c1
を得る。
この左辺は、xに関する偏微分∂f∂x(x0,y0)の定義式である。
式(a) で、x=x0 と固定すると,同様の議論で、
c2=∂f∂y(x0,y0) を得る。
1)の証明終わり
2)を証明しよう。
e=0 の時は、Def(x0,y0)=0であることは、方向微分の定義から直ちにわかるので、2)は成り立つ。
e≠0 の時;
方向微分の定義から
Def(x0,y0)=limt→0,t≠0f((x0,y0)T+te)−f((x0,y0)T)t(a)
他方、fが (x0,y0) で全微分可能なので、
f((x0,y0)T+te)−f((x0,y0)T)=Df(x0,y0)te+o(‖te‖)(b)
式(b)を式(a)の右辺の代入すると、
Def(x0,y0)=limt→0,t≠0(Df(x0,y0)e+o(‖te‖)t)=Df(x0,y0)e
これで2)が示せた。
証明終わり
fが微分可能ならば、
fの点(x0,y0)での値と、その近くの点(x0+h,y0+k)での値の差f(x0+h,y0+k)−f(x0,y0) は、
c1h+c2k=(c1,c2)(h,k)T=(fx(x0,y0),fy(x0,y0))(h,k)T
で大変精度よく近似できることを意味する。
ここで、ベクトルの右肩についているTという記号は、転置演算を表す記号である。
本テキストの8.1 平面と空間,ベクトルの行列を参照のこと。
定理2;
2変数関数関数 f(x,y) を考える。
もし、偏導関数 fx,fy の少なくとも一方が (x0,y0) で存在し、
他方が、(x0,y0) を中心とする半径δ の開球体 Bδ(x0,y0)上で存在し、(x0,y0) で連続ならば、
f(x,y) は(x0,y0) において、微分可能である。
(注)δはどんなに小さくてもよい。
証明
fxが Bδ(x0,y0)上で存在し、(x0,y0) で連続と仮定して、証明すればよい。(他の場合も同様に議論できるから)。
そこで、fxがBδ(x0,y0)上で存在し、(x0,y0) で連続としよう。
‖h‖2<δ を満たす任意の2次元ベクトルh=(h1,h2)をとる。
f((x0,y0)+h)−f(x0,y0)
=(f(x0+h1,y0+h2)−f(x0,y0+h2))+(f(x0,y0+h2)−f(x0,y0))(a)
一変数h1の関数
ϕ(h1)≜f(x0+h1,y0+h2)(b)
を考えると、ϕ(0)=f(x0,y0+h2)であり、
fxがUδ(x0,y0)上で存在するので、微分可能な関数である。
一変数の微分可能な関数の平均値の定理から、ある正数θ∈(0,1) が存在して、
ϕ(h1)−ϕ(0)=h1ϕ′(θh1)
式(b)を用いて、この式を関数fを用いて表すと
f(x0+h1,y0+h2)−f(x0,y0+h2)=h1Dx1f(x0+θh1,y0+h2)(c)
式(a)の右辺の第2項f(x0,y0+h2)−f(x0,y0) を考える
関数fのyについての偏微分Dyfが(x0,y0)で存在することから、
f(x0,y0+h2)−f(x0,y0)=h2Dyf(x0,y0)+δ(h2)(d)
ここで0(h2)は、limh2→0,h2≠0δ(h2)|h2|=0をみたす関数
式(a)の右辺に、式 (c),(d)を代入すると、
f(x0+h1,y0+h2)−f(x0,y0)
=h1Dxf(x0+θh1,y0+h2)+h2Dyf(x0,y0)+δ(h2)
=h1Dxf(x0,y0)+h2Dyf(x0,y0)+h1(Dxf(x0+θh1,y0+h2))−Dxf(x0,y0))+δ(h2)(e)
ここで、limh→0,h≠0δ(h2)‖h‖=0は明らかなので、
limh→0,h≠0h1(Dxf(x0+θh1,y0+h2))−Dxf(x0,y0))+δ(h2)‖h‖=0(f)
を示せば、微分可能性の定義から、所要の命題が証明できたことになる。
limh→0,h≠0h1(Dxf(x0+θh1,y0+h2))−Dxf(x0,y0))‖h‖
=limh→0,h≠0h1‖h‖(Dxf(x0+θh1,y0+h2))−Dxf(x0,y0))
h1‖h‖ は絶対値が1以下の値で
Dxf は、仮定から (x0,y0) で連続なので
limh→0,h≠0(Dxf(x0+θh1,y0+h2))−Dxf(x0,y0))=0が成り立つので
=0
定理2の証明終わり。
(注)この定理はn変数関数の場合にも、次のように拡張できる。
系;C1級の関数は微分可能
定理3 (合成関数の微分)
2つの2変数の実関数x1=x1(ξ1,ξ2), x2=x2(ξ1,ξ2)を、
共に、点(ξ01,ξ02) において微分可能、
2変数の実関数 f(x1,x2) が、
点 (x01,x02)=(x1(ξ01,ξ02),x2(ξ01,ξ02)) において微分可能とする。
すると、合成関数
g(ξ1,ξ2)≜f(x1(ξ1,ξ2),x2(ξ1,ξ2))
は、(ξ01,ξ02) で微分可能であり、
gξ1(ξ01,ξ02)
=∂f∂x1(x01,x02)∂x1∂ξ1(ξ01,ξ02)+∂f∂x2(x01,x02)∂x2∂ξ1(ξ01,ξ02)
gξ2(ξ01,ξ02)
=∂f∂x1(x01,x02)∂x1∂ξ2(ξ01,ξ02)+∂f∂x2(x01,x02)∂x2∂ξ2(ξ01,ξ02)
→ξ0=(ξ01,ξ02), x0=(x01,x02) とおけば、上式は
gξj(→ξ0)=∑2i=1fxi(x0)(xi)ξj(→ξ0)(j=1,2)
あるいは、
gξj(→ξ0)=∑2i=1∂f∂xi(x0)∂xi∂ξj(→ξ0)(j=1,2)
と書ける。
これは、さらに容易にわかる、どの点の関数値かを省略すれば
gξj=∑2i=1fxi⋅(xi)ξj(j=1,2)
あるいは
gξj=∑2i=1∂f∂xi∂xi∂ξj(j=1,2)
と略記できる。
証明
高階偏微分
(1)二階偏微分
定義 二階偏微分
次は、大変有用な定理である。
定理
Rnの開集合Uで定義された実数値関数fに対し、
点a∈U の近傍W(注参照)で
fxi,xj fxj,xi
が共に存在し、aにおいて共に連続ならば、
fxi,xj(a)=fxj,xi(a)
二階偏微分可能な関数
議論を簡単にするため、この§でも2変数関数f(x) で考える。
ここでx=(x1,x2)T