物理/平面と空間,ベクトル

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(版間での差分)
(行列)
(行列)
443 行: 443 行:
2)も、$\vec u \triangleq \vec{c}\times \vec{d}$ とおけば、同様にして証明できる。<br/><br/>
2)も、$\vec u \triangleq \vec{c}\times \vec{d}$ とおけば、同様にして証明できる。<br/><br/>
-
== 行列 ==
+
===微分(全微分) ===
-
行列Aとは,
+
この§も、2変数関数で説明する。<br/>
-
mn個の数 $a_{i,j} (i=1,2,\cdots ,m \quad j=1,2,\cdots ,n)$ を m 行、n 列に並べた<br/>
+
二変数関数の微分可能性をどう定義したらよいだろうか?<br/>
-
$A=\begin{pmatrix}
+
一変数関数の微分の場合、それと同等の条件はいくつか知られているが、<br/>
-
  a_{1,1} & a_{1,2} & a_{1,3} & \dots & a_{1,n}\\
+
その中で二変数関数に容易に拡張できるものを採用するのが自然である。<br/>
-
  a_{2,1} & a_{2,2} & a_{2,3} & \dots & a_{2,n}\\
+
[[物理/解析入門(1)実数の性質、連続関数、導関数と微分#実数値関数の微分|1.4.1.1 微分係数の意味]] の命題の条件 3)の式(5)が、それに該当する。<br/><br/>
-
  a_{3,1} & a_{3,2} & a_{3,3} & \dots & a_{3,n}\\
+
'''定義1;微分可能性'''(全微分可能性)<br/>
-
  \vdots  & \vdots  & \vdots  & \ddots& \vdots\\
+
関数f(x,y)が、或る開集合U上で定義されているとする。<br/>
-
  a_{m,1} & a_{m,2} & a_{m,3} & \dots & a_{m,n}\\
+
fが 点$(x_0,y_0)\in U$ で'''微分可能'''(あるいは全微分可能)とは、<br/>
-
\end{pmatrix}$<br/>
+
ある定数$c_1,\ c_2$が存在して、<br/>
-
のことをいう。行と列の数を明示したいときは、m×n行列という。<br/>
+
$f(x,y) = f(x_0,y_0) + c_{1}(x-x_0) + c_{2}(y-y_0) + \delta(x,y;x_o,y_0)\qquad (a)$<br/>
-
$a_{i,j}$は、行列Aの第i行、第j列の要素という。<br/>
+
ここで、$\lim_{(x,y)\to (x_0,y_0)}\delta(x,y;x_o,y_0)/\|(x,y)-(x_0,y_0) \| = 0 \qquad (b)$ <br/>
-
ベクトルの各座標成分を横に並べて表示した<br/>
+
この時、 $\textbf{c} \triangleq (c_1, c_2)$ を、fの点$(x_0,y_0)$における'''導値'''(derivative)または'''微分係数'''といい、<br/>
-
n次元の横ベクトル$(a_1 \ a_2 \ \cdots \ a_n)$は1行n列の行列と同一である。<br/>
+
$f'(x_0,y_0), \ Df(x_0,y_0)$ などと書く。<br/><br/>
-
同じく、ベクトルの各座標成分を縦に表示した,n次元縦ベクトル<br/>
+
(注)このテキストの[[物理/平面と空間,ベクトルの性質#内積とノルム|「1.4.3  一般のノルムの定義とノルムの同等性」]]から、<br/>
-
$\begin{pmatrix} a_1 \\ a_{2} \\  \vdots \\ a_{n} \end{pmatrix}$<br/>
+
ノルムとしては、どのp-ノルムを用いても同等である。<br/><br/>
-
は、n行1列行列と同一である。<br/>
+
定理1<br/>
 +
fが 点$(x_0,y_0)\in U$ で微分可能ならば、<br/><br/>
 +
1)fは$(x_0,y_0)$ で偏微分可能で、<br/>
 +
式(a)の$ c_{1}, c_{2} $ はそれぞれ、$(x_0,y_0)$ でのx、yに関する偏微分係数である。<br/>
 +
すなわち、$f'(x_0,y_0)=(f_{x}(x_0,y_0),f_{y}(x_0,y_0))$<br/>
 +
2)$\textbf{e}$ を任意のベクトルとすると、<br/>
 +
fは$(x_0,y_0)$ で$\textbf{e}$方向に微分可能で、<br/>
 +
$ D_{\textbf{e}}f(x_0,y_0)=Df(x_0,y_0)\textbf{e}$<br/>
 +
証明<br/>
 +
1)を示そう。<br/>
 +
式(a) で、$y=y_0$ と固定すると<br/>
 +
$f(x,y_0) = f(x_0,y_0) + c_{1}(x-x_0) + \delta(x,y_0;x_o,y_0)\qquad (c)$<br/>
 +
$\lim_{(x,y_0) \to (x_0,y_0)}\delta(x,y_0;x_o,y_0)/\|(x,y_0)-(x_0,y_0) \|  $<br/>
 +
$= \lim_{x \to x_0}\delta(x,y_0;x_o,y_0)/|x - x_0| = 0 \qquad  \qquad \qquad (d)$<br/>
 +
式(c)の両辺を、$x-x_0(\neq 0)$ で割り、整頓すると、<br/>
 +
$ \frac{f(x,y_0) - f(x_0,y_0) - c_{1}(x-x_0)}{x-x_0)}=\frac{\delta(x,y_0;x_o,y_0)}{x-x_0}$<br/>
 +
この式の両辺の極限$x\to x_0$をとると、<br/>
 +
$\lim_{x\to x_0x\neq x_0}\frac{f(x,y_0) - f(x_0,y_0) }{x-x_0} = c_{1} $<br/>
 +
を得る。<br/>
 +
この左辺は、xに関する偏微分$\frac{\partial f}{\partial x}(x_0,y_0)$である。<br/>式(a) で、$x=x_0$ と固定すると,同様の議論で、<br/>
 +
$c_2=\frac{\partial f}{\partial y}(x_0,y_0)$ を得る。<br/>
 +
1)の証明終わり<br/>
 +
2)を証明しよう。<br/>
 +
$\textbf{e} = \textbf{0}$ の時は、$D_{\textbf{e}}f(x_0,y_0)=0$であることは、方向微分の定義から直ちにわかるので、2)は成り立つ。<br/>
 +
$\textbf{e} \neq \textbf{0}$ の時;<br/>
 +
方向微分の定義から<br/>
 +
$ D_{\textbf{e}}f(x_0,y_0)=\lim_{t\to 0,t\neq 0}\frac{f\Bigl((x_0,y_0)^{T} + t\textbf{e}\Bigr)-f\Bigl( (x_0,y_0)^{T} \Bigr)}{t}  \qquad (a)$<br/>
 +
他方、fが $(x_0,y_0)$ で全微分可能なので、<br/>
 +
$ f\Bigl( (x_0,y_0)^{T} + t\textbf{e}\Bigr)-f( (x_0,y_0)^{T} )=Df(x_0,y_0)t\textbf{e}+o(\|t\textbf{e}\|)  \qquad \qquad (b)$<br/>
 +
式(b)を式(a)の右辺の代入すると、<br/>
 +
$D_{\textbf{e}}f(x_0,y_0)=\lim_{t\to 0,t\neq 0}\Bigl(Df(x_0,y_0)\textbf{e}+\frac{o(\|t\textbf{e}\|}{t}\Bigr)=Df(x_0,y_0)\textbf{e}$<br/>
 +
これで2)が示せた。<br/>
 +
証明終わり<br/><br/>
 +
fが微分可能ならば、<br/>
 +
fの点$(x_0,y_0)$での値と、その近くの点$(x_0+h,y_0+k)$での値の差$f(x_0+h,y_0+k)-f(x_0,y_0)$ は、<br/>
 +
$ c_1 h + c_2 k = (c_1,c_2)(h,k)^{t}=\Bigl(f_{x}(x_0,y_0),f_{y}(x_0,y_0)\Bigr)(h,k)^{t}$<br/>
 +
で大変精度よく近似できることを意味する。<br/>
 +
定理2;<br/>
 +
2変数関数関数 $f(x,y)$ を考える。<br/>
 +
もし、偏導関数 $f_{x},f_{y}$ の少なくとも一方が $(x_0,y_0)$ で存在し、
 +
他方が、$(x_0,y_0)$ を中心とする半径$\delta$ の開球 $U_{\delta}(x_0,y_0)$上で存在し、$(x_0,y_0)$ で連続ならば、<br/>
 +
$f(x,y)$ は$(x_0,y_0)$ において、微分可能である。<br/>
 +
(注)$U_{\delta}(x_0,y_0)\triangleq \{(x,y)^{T}\in {\bf R^2}|\ \|(x,y)^{T}-(x_0,y_0)^{T}\|_{2}\lt \delta \}$<br/>
 +
$\delta$はどんなに小さくてもよい。<br/>
 +
また、$(x,y)^{T} = \begin{pmatrix} x \\ y\end{pmatrix}$ <br/>
 +
$(x,y)^{T}$の右肩のTは、<br/>
 +
行列やベクトルの行と列を入れ替える演算(転置)を表し、この演算を横ベクトル$(x,y)$ に施したことを表す。<br/>
 +
[[wikibooks_ja:線型代数学/行列概論#転置行列|線型代数学/行列概論(ウィキブックス)]]の、「5 転置行列」を参照のこと。<br/>
 +
証明<br/>
 +
$f_{x}$が $U_{\delta}(x_0,y_0)$上で存在し、$(x_0,y_0)$ で連続と仮定して、証明すればよい。(他の場合も同様に議論できるから)。<br/>
 +
そこで、$f_{x}$が$U_{\delta}(x_0,y_0)$上で存在し、$(x_0,y_0)$ で連続としよう。<br/>
 +
$\|\textbf{h}\|_{2}\lt \delta $ を満たす任意の2次元ベクトル$\textbf{h}=(h_{1},h_{2})^{T}$をとる。<br/>
 +
$f((x,y)^{T}+\textbf{h})-f((x,y)^{T}) $<br/>
 +
$= \Bigl(f\bigl((x+h_1,y+h_2)^{T}\bigr)-f\bigl((x,y+h_2)^{T}\bigr)\Bigr)+\Bigl(f\bigl((x,y+h_2)^{T}\bigr)-f\bigl((x,y)^{T}\bigr)\Bigr)  \qquad \qquad (a)$<br/>
 +
変数$h_1$の関数<br/>
 +
$\phi(h_1)\triangleq f\bigl((x+h_1,y+h_2)^{T}\bigr) \qquad (b)$<br/>
 +
を考えると、$\phi(0)=f\bigl((x,y+h_2)^{T}\bigr)$であり、<br/>
 +
$f_{x}$が$U_{\delta}(x_0,y_0)$上で存在するので、微分可能な関数である。<br/>
 +
一変数の微分可能な関数の平均値の定理から、ある正数$\theta \in (0,1)$ が存在して、<br/>
 +
$\phi(h_1)-\phi(0)=h_1{\phi}'(\theta h_1)$<br/>
 +
式(b)を用いて、この式を関数fを用いて表すと<br/>
 +
$f\bigl((x+h_1,y+h_2)^{T}\bigr)-f\bigl((x,y+h_2)^{T}\bigr)=h_{1}D_{x_1}f\bigl((x+\theta h_1,y+h_2)^{T}\bigr) \qquad (c)$<br/>
 +
式(a)の右辺の第2項$f\bigl((x,y+h_2)^{T}\bigr)-f\bigl((x,y)^{T}\bigr)$ を考える<br/>
 +
関数fの偏微分$D_{y}f$が$(x_0,y_0)$で存在することから、<br/>
 +
$f\bigl((x,y+h_2)^{T}\bigr)-f\bigl((x,y)^{T}\bigr)=h_2D_{y}f(x_0,y_0)+0(h_2)\qqad (d)$<br/>
 +
ここで$0(h_2)$は、$\lim_{h_2\to 0,h_2\neq 0}\frac{0(h_2)}{h_2}=0$<br/>
 +
式(a)の右辺に、式 (c),(d)を代入すると、<br/>
 +
$f((x+h_1,y+h_2)^{T})-f((x,y)^{T}) $<br/>
 +
$=h_{1}D_{x}f\bigl((x+\theta h_1,y+h_2)^{T}+h_2D_{y}f(x_0,y_0)+0(h_2)$<br/>
 +
$D_{x}f$は$(
-
行列を用いると、連立一次方程式の解は、一変数の一次方程式と同じ形式で与えられる。<br/>
+
 
-
このほかにも行列は、多くの数理的な分野で欠かせない概念となっている。<br/>
+
 
-
以下の文献で学習のこと。
+
 
-
*[[wikibooks_ja: 高等学校数学C/行列|高等学校数学C/行列(ウィキブックス)]]
+
 
-
*[[wikibooks_ja:線型代数学/行列概論|線型代数学/行列概論(ウィキブックス)]]
+
(注)この定理はn変数関数の場合にも、次のように拡張できる。<br/>
-
さらに深く学びたい方は線形代数学をどうぞ。
+
 
-
ウィキブックスには未完成だが
+
系;$C^{1}$級の関数は微分可能<br/>
-
*[[wikibooks_ja: 線型代数学|線型代数学(ウィキブックス)]]
+
定理3 (合成関数の微分)<br/>
-
があります。参考にしてください。
+
2つの2変数の実関数$x_{1}=x_{1}(\xi_{1},\xi_{2}),\ x_{2}=x_{2}(\xi_{1},\xi_{2})$を、<br/>
 +
共に、点$(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0})$ において微分可能、<br/>
 +
2変数の実関数 $f(x_1,x_2)$ が、<br/>
 +
点 $(x_{1}^{0},x_{2}^0)=\Bigl( x_{1}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0}),x_{2}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0})\Bigr) $ において微分可能とする。<br/>
 +
すると、合成関数<br/>
 +
$\qquad \qquad g(\xi_{1},\xi_{2})\triangleq f\Bigl( x_{1}(\xi_{1},\xi_{2}),x_{2}(\xi_{1},\xi_{2})\Bigr) $<br/>
 +
は、$(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0})$ で微分可能であり、<br/>
 +
$g_{\xi_{1}}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0})$<br/>
 +
$=\frac{\partial f}{\partial x_1}(x_{1}^{0},x_{2}^0)\frac{\partial x_{1}}{\partial \xi_{1}}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0}) +
 +
\frac{\partial f}{\partial x_2}(x_{1}^{0},x_{2}^0)\frac{\partial x_{2}}{\partial \xi_{1}}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0}) $<br/>
 +
$g_{\xi_{2}}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0})$<br/>
 +
$=\frac{\partial f}{\partial x_1}(x_{1}^{0},x_{2}^0)\frac{\partial x_{1}}{\partial \xi_{2}}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0}) +
 +
\frac{\partial f}{\partial x_2}(x_{1}^{0},x_{2}^0)\frac{\partial x_{2}}{\partial \xi_{2}}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0}) $<br/><br/>
 +
$\vec{\xi}^{0}=(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0}),\ \vec{x}^{0}=(x_{1}^{0},x_{2}^{0})$ とおけば、上式は<br/>
 +
$g_{\xi_{j}}(\vec{\xi}^{0}) = \sum_{i=1}^{2}f_{x_i}(\vec{x}^{0})(x_i)_{\xi_{j}}(\vec{\xi}^{0}) \quad (j=1,2)$<br/>
 +
あるいは、<br/>
 +
$g_{\xi_{j}}(\vec{\xi}^{0}) = \sum_{i=1}^{2}\frac{\partial f}{\partial x_i}(\vec{x}^{0})\frac{\partial x_i}{\partial  \xi_{j}}(\vec{\xi}^{0}) \quad (j=1,2)$<br/>
 +
と書ける。<br/>
 +
これは、さらに容易にわかる、どの点の関数値かを省略すれば<br/>
 +
$g_{\xi_{j}} = \sum_{i=1}^{2}f_{x_i}\cdot (x_i)_{\xi_{j}} \quad (j=1,2)$<br/>
 +
あるいは<br/>
 +
$g_{\xi_{j}} = \sum_{i=1}^{2}\frac{\partial f}{\partial x_i}\frac{\partial x_i}{\partial  \xi_{j}} \quad (j=1,2)$<br/>
 +
と略記できる。<br/>
 +
証明<br/>
=☆☆ 我々の住む空間の数学的モデル=
=☆☆ 我々の住む空間の数学的モデル=

2017年12月11日 (月) 15:23時点における版

8.1 平面と空間のベクトル

目次

平面と空間,ベクトル

平面や空間への直観を重視し、幾何学的な説明をする。

集合について

以下の説明では、集合についてのごく初歩的知識を使うので、
なじみのない方は、下記を参考に、
集合の素朴な定義と集合の表記法、
集合Aの補集合 $A^C$、
2つの集合A,Bの包含関係(AとBが等しい A=B,AはBの部分集合 $A \subseteq B$あるいは$A \subset B$、
AはBの真の部分集合 $A \subsetneq B$ )、
2つ以上の集合の演算(AとBの和集合$A \cup B$、共通集合$A \cap B$、差集合$A - B$、対称差集合$A \triangle B$、直積$A\times B$)
などについて、以下の記事から学習してほしい。

集合の演算規則

A,B,C,D等は集合とする。
命題1 (交換法則) 集合の和、共通部分、対称差 という演算は交換可能である。
$\quad $数式で書けば $A\cup B=B\cup A \quad  A\cap B=B\cap A \quad A \triangle B = B \triangle A$
命題2 (結合法則)$(A\cup B) \cup C = A\cup (B\cup C),\quad (A\cap B) \cap C = A\cap (B\cap C)$(注参照)
命題3(分配法則) $(A \cup B)\cap C=(A \cap C) \cup (B\cap C),\quad (A \cap B)\cup C=(A \cup C) \cap (B\cup C)$
命題4 $(A \cup B)^{c} = A^{c} \cap B^{c} \quad (A \cap B)^{c} = A^{c} \cup B^{c}$
命題5 $(A^{c})^{c} = A$
命題6 $A-B = A \cap B^{c}$

(注)対称差についても結合法則は成立する。興味ある方は証明して下さい。

平面と空間

我々は、太古の昔から自分たちの暮らすこの世界は、縦、横、高さをもつ3次元の空間であり、
この空間なかの、縦、横をもち、高さのない平らな無限の拡がりを平面として認識してきた。
この空間や平面、その中にある色々な図形の性質を厳密に理解しようとして、
平面幾何学や立体幾何学(ユークリッド幾何学)を生み出してきた。
この中で考えられた平面や空間は、2次元および3次元のユークリッド空間と呼ばれる。
下記の記事中の「序文」と「1. 直観的な説明」をお読みください。

また、この章の「1.5 我々の住む空間の数学的モデル」も御覧ください。

ベクトルの和と実数倍

空間の異なる2点、P,Qを通る直線は必ず一本あり、一本に限られる。
これを直線$PQ$という。
この直線で、PとQの間にある部分だけを考えるとき、線分$PQ$という。
この線分に向き(矢印で表示)をつけたものを有向線分$\vec{PQ}$という。
この有向線分と長さと方向・向きの等しい有向線分を全て同一なものとみなすと
ベクトル$[\vec{PQ}]$が得られる。
詳しくは、
2章力学の「有向線分からベクトルへ」を参照のこと。

ベクトルの和や実数倍については2章力学の1節で説明したが、重要なので 証明は除いて、定義と性質だけを再度記載する。

2つのベクトルの和

和の定義

定義;2つのベクトル$\vec{A}$とベクトル$\vec{B}$の和を、次のように定義する。
・$\vec{A}=\vec{OP}$,$\vec{B}=\vec{PQ}$と表現して、
$\vec{A}+\vec{B}:=\vec{OP}+\vec{PQ}=\vec{OQ}$;

・和の別の定義;
$\vec{A}=\vec{OP}$,$\vec{B}=\vec{OR}$と表現する。  
有向線分$\vec{OP}$と有向線分$\vec{OR}$を2辺とする平行四辺形$OPQR$を作る。
すると、 $\vec{A}+\vec{B}=\vec{OQ}$;
が成り立つ。
この両者は同値である。

和の性質

$\vec{A}+\vec{B}=\vec{B}+\vec{A}\qquad \qquad (1)$ ; 交換法則 

$(\vec{A}+\vec{B})+\vec{C}=\vec{A}+(\vec{B}+\vec{C})\qquad \qquad (2)$ ;結合法則 

零ベクトルの存在

零ベクトル$\vec{0}$が存在し、 すべてのベクトル$\vec{A}$に対して、 $\vec{A}+\vec{0}=\vec{A}\qquad \qquad \qquad (3)$
が成り立つ。

逆元の存在

任意のベクトル$\vec{A}$は、$\vec{A}+\vec{B}=\vec{0}$を満たすベクトルを
一つ、そして一つだけ持つ。
これを$\vec{A}$の逆元(逆ベクトル)と言い、$-\vec{A}$で表す。
それは、$\vec{A}$と大きさ、方向が同じで、向きが逆のベクトルである。
定義から、$\vec{A}+(-\vec{A})=\vec{0}\qquad \qquad \qquad (4)$
$\vec{A}=\vec{OP}$ と表現しておくと、$-\vec{A} = \vec{PO}$ と表現できる。

ベクトルの引算

任意のベクトル$\vec{A}$ から、任意のベクトル$\vec{B}$ を引いたベクトル$\vec{A}-\vec{B}$を、
$\vec{A}-\vec{B}\triangleq \vec{A}+(-\vec{B})$
で定義する。

ベクトルの実数倍

$a$を任意の実数とする。
$\vec{A}$が零ベクトルでない時、その$a$倍、$a\vec{A}$は次のように定義する。
・$a$が正数のとき;$a\vec{A}$は、$\vec{A}$と方向・向きは同じで、大きさが$a$倍であるベクトルで定義する。
・$a=0$のとき;$0\vec{A}=\vec{0}$で定義する。
・$a< 0$のとき;$a\vec{A}=-(-a)\vec{A}$
$\vec{A}=\vec{0}$のときは、$a\vec{0}=\vec{0}$とする。
このように定義すると、
ベクトルの実数倍がベクトルとして定まる。
次の諸法則が成り立つ。
$a(\vec{A}+\vec{B})=a\vec{A}+a\vec{B}\qquad \qquad \qquad (5)$
$(a+b)\vec{A}=a\vec{A}+b\vec{A}\qquad \qquad \qquad (6)$
$(ab)\vec{A}=a(b\vec{A})\qquad \qquad \qquad (7) $
$1\vec{A}=\vec{A}\qquad \qquad \qquad (8)$

内積とノルム

内積とノルムは物理学で良く使われる。
本テキストで必要となる命題と証明を紹介する。
以下では、
$\vec a,\vec b,\vec c$は、すべて同じ次元(2か3)のベクトルとし、 $\alpha$は実数とする。
なお、全ての命題は、4次元以上のベクトルに対しても成り立つが省略する(注参照)。
座標成分表示が必要な命題では、直交座標系表示を用いる。
(注)n次元(>3)も含めた一般のn次元ベクトルの内積は、後述の命題2

2-ノルムと内積の定義

ベクトル$\vec a$の2-ノルム(あるいはユークリッドノルム)とは、
$\|\vec a\|_{2}:=\sqrt{\sum_{i}a_{i}^2}$のことで、
ベクトルの長さ(大きさ)を表す。
ベクトル$\vec a,\vec b$の内積とは
$ \vec a \cdot \vec b:=\|\vec{a}\|_{2}\|\vec{b}\|_{2}\cos\theta$
ここで、$\theta$は、ベクトル$\vec a,\vec b$のなす角($0\le \theta \le \pi$ )である。
この定義から、
$\vec a \cdot \vec a=\|\vec{a}\|_{2}^2 $
であることが分かる。

以後、単にノルム、$\|\cdot \|$ とかけば、2-ノルムであるとする。

内積とノルムの性質

命題1
$\vec a \cdot \vec b =\vec b \cdot \vec a$
証明;内積の定義から明らか。

命題2
$\vec a \cdot \vec b =\sum_{i}a_ib_i$
ここで$a_1,b_1$はそれぞれ$\vec a,\vec b$のx座標成分、同様に、添え字2はy座標成分、3はz座標成分
直交座標系はどんなものでも良い。しかしすべてのベクトルは同じ座標系で座標成分表示しなければならない。
証明
次の三角形の余弦定理を利用する。
三角形の第2余弦定理;
図のような$\triangle {ABC}$を考える。
頂点A,B,Cの対辺の長さをそれぞれ$a,b,c$とし、$\angle{ACB}=\theta$とする。
すると、$c^2=a^2+b^2-2ab\cos\theta$
余弦定理の証明;頂点$A$から対辺$BC$におろした垂線の足を$H$とする。
ピタゴラスの定理により、
$c^2=\overline{BH}^2+\overline{AH}^2$。$\qquad$ 右辺の第2項に、再び、ピタゴラスの定理を適用して、
$=\overline{BH}^2+(b^2-\overline{CH}^2)$ $\qquad$ $\overline{BH}=a-\overline{CH}$を代入すると、
$=(a-\overline{CH})^2+(b^2-\overline{CH}^2)=a^2+b^2-2a\overline{CH}$,$\quad$ $\overline{CH}=b\cos\theta$なので、代入すると
$=a^2+b^2-2ab\cos\theta$
余弦定理の証明終わり。
命題2の証明  
ベクトル$\vec a $と$\vec b $を、
始点が点$C$である有向線分で表現し、その終点を$B$,$C$で表す。
すると$\vec a=\vec{CB}$, $\vec b=\vec{CA}$である。
ベクトル$\vec c=\vec a-\vec b$を導入すると、
$\vec c=\vec a-\vec b=\vec{CB}-\vec{CA}=\vec{CB}+\vec{AC}=\vec{AB}$
3角形$\triangle {ABC}$を考え、第2余弦定理を適用しよう。
$\angle{ACB}=\theta$とおく。すると、
$\|\vec c\|^2=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\|\vec a\|\|\vec b\|\cos{\theta}$
$=\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-2\vec a \cdot \vec b$が得られる。
この式を変形して$\vec a \cdot \vec b$だけを左辺に置くと、
$\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec c\|^2)/2$ 。
$\vec c=\vec{AB}=\vec{AC}+\vec{CB}=-\vec b+\vec a$なので、

$\vec a \cdot \vec b=(\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2-\|\vec a-\vec b\|^2)/2 $
この右辺を、ベクトルの直交座標成分で表すと、次式が得られる。
$\vec a \cdot \vec b=(\sum_{i}a_i^2+\sum_{i}b_i^2-\sum_{i}(a_i-b_i)^2 )/2 $
$=\sum_{i}a_i b_i$
命題2の証明終わり。

命題3
$(\vec a +\vec b) \cdot \vec c =\vec a \cdot \vec c+\vec b \cdot \vec c$   
証明
ある一つの直交座標系をさだめ、両辺を、命題(2)を利用して、座標成分であらわす。両辺が等しいことが分かる。

系; $\vec a \cdot (\vec b+\vec c) =\vec a \cdot \vec b+\vec a \cdot \vec c$   
証明;命題1を利用して、左辺の項の順番を入れ替え、命題3を適用し、再び命題1を用いればよい。

命題4
$(\alpha \vec a)\cdot \vec b =\vec a \cdot (\alpha \vec b)=\alpha (\vec a \cdot \vec b)$
が成り立つ。
証明
同様に、3つの式を、座標成分表示すれば、みな等しいことが、簡単に分かる。

命題5(シュワルツの不等式)
$\|\vec a \cdot \vec b\| \leq \|\vec a\|\|\vec b\|$
証明;$0\leq |\cos\theta|\leq 1$なので内積の定義から、ただちに分かる。

命題6 ノルムの三角不等式
$\|\vec a + \vec b\| \leq \|\vec a\| + \|\vec b\|$
証明
$\|\vec a + \vec b\|^2=(\vec a + \vec b)\cdot (\vec a + \vec b)$
命題3を使って計算すると、
$=\vec a \cdot \vec a +\vec b \cdot \vec b +2\vec a \cdot \vec b$
命題5より、
$\leq \vec a \cdot \vec a +\vec b \cdot \vec b +2\|\vec a\|\|\vec b\| =\|\vec a\|^2+\|\vec b\|^2+2\|\vec a\|\|\vec b\|=(\|\vec a\|+\|\vec b\|)^2$
故に$\|\vec a + \vec b\|^2 \leq (\|\vec a\|+\|\vec b\|)^2$
両辺の平方根をとれば所要の不等式を得る。

 一般のノルムの定義とノルムの同等性 

定義
n次元ベクトル$\textbf{a}$ に対し、実数値 $\|\textbf{a} \|$ を対応させる関数は、次の3つの条件を満たすならばノルムと呼ばれる。
1)$\|(\vec{a },\vec{b })\| \geq 0.\quad \|(\vec{a },\vec{b })\|=0 \Leftrightarrow (\vec{a },\vec{b })=(0,0)$ 
2)$\|(\vec{a },\vec{b })+(\vec{a }',\vec{b }')\| \leq \|(\vec{a },\vec{b })\|+\|(\vec{a }',\vec{b }')\|$ 
3)任意の実数$\alpha$に対し、$\|\alpha (\vec{a },\vec{b })\|=|\alpha|\|(\vec{a },\vec{b })\|$
ノルム条件を満たし、ノルムと呼ばれるものには、
p‐ノルム($p \geq 1$); $\|(\vec{a },\vec{b })\|_{p}\triangleq (|\vec{a }|^{p}+|\vec{b }|^{p})^{\frac{1}{p}}$
$\infty-ノルム$;$\|(\vec{a },\vec{b })\|_{\infty}\triangleq max(|\vec{a }|,|\vec{b }|)$
などがある。
2‐ノルムは、p=2の場合である。
これ等のノルムの間には次の順序関係が成り立つ。

定理
$\|(\vec{a },\vec{b })\|_{1} \geq \|(\vec{a },\vec{b })\|_{2} \geq \|(\vec{a },\vec{b })\|_{\infty} \geq \frac{1}{2}\|(\vec{a },\vec{b })\|_{1}$

系;
p をⅠより大きい実数、あるいは $\infty$ とする。
ベクトル列 (${\bf a_{n}})_{n\in N}$ が、p-ノルムでベクトル $\textbf{a}$ に収束する
必要十分条件は
1-ノルムで収束することである。式でかくと
$\lim_{n\to \infty}\|a_n - a \|_{p} =0 \Leftrightarrow \lim_{n\to \infty}\|a_n - a \|_{1} =0 $

次の定理は2-ノルムの場合のシュワルツの不等式の一般化である。
定理
$p \geq 1$ とする。qを $\frac{1}{p}+\frac{1}{q}=1$ を満たす実数とすると、
$ |\vec a \cdot \vec b| \leq \|\vec a \|_{p}\|\vec b\|_{q} $
である。
但し、$p=1 のときは、q=\infty$ とする。

ベクトル積 

本節での全ての命題で、
$ \vec{a}, \vec{b}, \vec{c}$は3次元ベクトル
$\alpha$を実数とする。

命題7
$ \quad \vec{a} $ を, $\vec{c} $と垂直な成分$ \vec{a_\perp}$ と,平行な成分$\vec{a_\parallel}$ の和に分解するとき、
$\quad \vec{a} \times \vec{c}= \vec{a_\perp} \times \vec{c}$
$\quad \vec{a_\parallel} \times \vec{c}= 0$
証明;ベクトル積の定義から、容易に示せる。
2つのベクトルの作る平行四辺形の面積と方向・向きを考えれば良い。

命題8
$ \quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}$
証明;2つのベクトルを入れ替えても、それらが作る平行四辺形の面積は変わらず、この四辺形に直交する直線の方向も変わらない。
しかし、ベクトル積の向きは、逆向きになる。
ベクトル積の定義から、$\quad \vec{a} \times \vec{b}= -\vec{b} \times \vec{a}$ が示せた。

命題9
$(\alpha\vec{a})\times \vec{b}= \alpha(\vec{a} \times \vec{b})= \vec{a}\times (\alpha\vec{b})$ 
証明;実数$\alpha$ が正、零、負の場合に分けて考える。
いずれの場合にも, ベクトル積の定義とベクトルと実数の積の命題から、容易に証明できる。

命題10 $ \quad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}$ 
証明;
この証明には少し工夫が必要である。
ベクトル積の命題の中でも、もっとも大切なものなので、詳しく説明しよう。
① $ \vec{a}, \vec{b}$ と$\quad \vec{c}\quad$ が直交する場合。図参照のこと
・議論をやさしくするため、ベクトルを、空間の原点$O$ を始点とする有向線分で代表させる。
・$ \vec{c}$ と直交し$O$ を通る平面を$H$とする。
・仮定より$ \vec{a},\quad \vec{b}$は、ともに平面$H$上のベクトルである。
・$\vec{a} \times \vec{c} ,\quad \vec{b} \times \vec{c}$も、
ベクトル積の定義により、共に$ \vec{c}$ と直交するので、$H$上のベクトルである。
これら四つのベクトルはすべて平面$H$上にあるので、今後の議論はこの平面上で進める。
 ⅰ)$\vec{a} \times \vec{c}, \vec{b} \times \vec{c}$ の張る平行四辺形は,
$\vec{a}, \vec{b}$の張る平行四辺形を、$\| \vec{c}\|$倍し,原点周りに90度回転したものになることを、示そう。

・$\vec{a} \times \vec{c} $は、ベクトル積の定義から、$ \vec{a}$ と直交する。
そのため、$\vec{a}$ を平面$H$上で、原点まわりに、90度右回りか、左回りすれば、方向と向きが一致する。
・$\vec{b} \times \vec{c} $も、同様に考え、$\vec{b}$ を平面$H$上で、原点まわりに、90度右回りか、左回りすれば、方向と向きが一致することが分かる。
・どちら周りの回転になるかは、ベクトル積の定義によって決まるが、
後者の回転の向きが、前者の回転の向きと一致することが分かる。
・$\vec{a}\times \vec{c}$ の大きさは、
$\|\vec{a}\times \vec{c}\|=\|\vec{a}\|\|\vec{c}\|\cos(\pi/2)=\|\vec{a}\|\|\vec{c}\|$ なので、$\vec{a}$ の大きさの$\|\vec{c}\|$倍になる。
同様に、$\vec{b}\times \vec{c}$ の大きさは、$\vec{a}$ の大きさの$\|\vec{c}\|$倍になる。
・以上の結果より、所望の結果は示された。

 ⅱ)$ \qquad (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= \vec{a} \times \vec{c} + \vec{b} \times \vec{c}$を示そう。
・ ⅰ)と同じ議論により、
$(\vec{a}+ \vec{b}) \times \vec{c}$は$\vec{a}, \vec{b}$の張る平行四辺形の対角線を、原点周りに90度、同じ向きに回転させ、$\|\vec{c}\|$倍させたものであることが分かる。
・すると、ⅰ)で示したことから、$(\vec{a}+ \vec{b}) \times \vec{c}$は
$\vec{a} \times \vec{c}, \vec{b} \times \vec{c}$ の張る平行四辺形の対角線$\vec{a} \times \vec{c}+\vec{b} \times \vec{c}$ に等しいことが分かる。
・以上で①が示せた。

② 一般の場合。
命題1より、$\perp$ を$\vec{c}$と垂直な成分を表すとすると、 $ (\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{c}= (\vec{a}+ \vec{b})_\perp \times \vec{c} \qquad \qquad \qquad $(1)
$(\vec{a}+ \vec{b})_\perp =\vec{a}_\perp +\vec{b}_\perp$なので、(1)式は、
$ = (\vec{a}_\perp +\vec{b}_\perp) \times \vec{c}$
①より、
$ = \vec{a}_\perp \times \vec{c}+\vec{b}_\perp\times \vec{c}=\vec{a} \times \vec{c}+\vec{b} \vec{c}$ $ \qquad $ 命題4の証明終わり。
 

命題10の系  
   $ \quad \vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= \vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c}$
$ \quad (\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}$
証明;
命題8より、
$\vec{a} \times (\vec{b}+ \vec{c})= -\left((\vec{b}+ \vec{c})\times \vec{a}\right) $ 命題9から
$=\left(-(\vec{b}+ \vec{c})\right)\times \vec{a}$ 命題4より、
$= -(\vec{b} \times \vec{a}+ \vec{c} \times \vec{a})$
再び命題8より、
$=\vec{a} \times \vec{b} + \vec{a} \times \vec{c} \quad $前半の証明終わり
命題8より、
$ (\vec{a}+ \vec{b}+\vec{c})\times \vec{d}=(\vec{a}+ \vec{b})\times \vec{d}+\vec{c})\times \vec{d}$
再び命題8より、
$ =\vec{a}\times \vec{d}+\vec{b}\times \vec{d}+\vec{c}\times \vec{d}$ $\quad$証明終わり。
  命題11
$\quad (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3})$ を
それぞれ大きさ(長さ)1で互いに直交し、右手系をなす、ベクトル(右手系をなす正規直交基底)とする。

この時、
$ \quad \vec{e_1} \times \vec{e_2} = \vec{e_3}, \quad \vec{e_2} \times \vec{e_3} = \vec{e_1}, \quad \vec{e_3} \times \vec{e_1} = \vec{e_2}$
証明;ベクトル積と$(e_1,e_2,e_3)$ の定義から明らかである。

命題12
ベクトル$\vec a, \vec b$を,命題5で用いた基底$ (\vec{e_1},\vec{e_2}, \vec{e_3})$で決まる座標を用いて
$\vec a=(a_1,a_2,a_3)^{t}, \vec b=(b_1,b_2,b_3)^{t}$ と表示しておく。
すると$\vec a \times \vec b=(a_2b_3-a_3b_2,a_3b_1-a_1b_3,a_1b_2-a_2b_1)^{t}$ 
証明;$\vec a=a_1\vec{e_1}+a_2\vec{e_2}+a_3\vec{e_3}$,
$\vec b=b_1\vec{e_1}+b_2\vec{e_2}+b_3\vec{e_3}$と表せるので、
$\vec a \times \vec b=(a_1\vec{e_1}+a_2\vec{e_2}+a_3\vec{e_3})\times \vec b$ 命題3の系から
$=a_1\vec{e_1}\times \vec b +a_2\vec{e_2}\times \vec b +a_3\vec{e_3}\times \vec b$ $\qquad$ (1)
式(1)の第1項 $a_1\vec{e_1}\times \vec b$ に $\vec b=b_1\vec{e_1}+b_2\vec{e_2}+b_3\vec{e_3}$ を代入して、命題3の系を使って変形すると、
$a_1\vec{e_1}\times \vec b =a_1\vec{e_1}\times b_1\vec{e_1} +a_1\vec{e_1}\times b_2\vec{e_2} +a_1\vec{e_1}\times b_3\vec{e_3}$ $\qquad$ (2)
命題10と命題11を使うと、
$a_1\vec{e_1}\times b_1\vec{e_1} =a_1 b_1\vec{e_1}\times \vec{e_1} =\vec 0$ 。
同様の計算を行うと、
$a_1\vec{e_1}\times b_2\vec{e_2} =a_1 b_2\vec{e_1}\times \vec{e_2} =a_1 b_2\vec{e_3}$

$a_1\vec{e_1}\times b_3\vec{e_3} =a_1 b_3\vec{e_1}\times \vec{e_3} =-a_1 b_3\vec{e_2}$
式(2)にこれらを代入して、
$a_1\vec{e_1}\times \vec b =a_1 b_2\vec{e_3} - a_1 b_3\vec{e_2} $ $\qquad$ (3)

式(1)の第2項、第3項も同様に計算すると、
$a_2\vec{e_2}\times \vec b =a_2 b_3\vec{e_1} - a_2 b_1\vec{e_3} $ $\qquad$ (4)

$a_3\vec{e_3}\times \vec b =a_3 b_1\vec{e_2} - a_3 b_2\vec{e_1} $ $\qquad$ (5)

式(3),(4),(5) を、式 (1)に代入すると、
$\vec a \times \vec b =a_1 b_2\vec{e_3} - a_1 b_3\vec{e_2} +a_2 b_3\vec{e_1} - a_2 b_1\vec{e_3} +a_3 b_1\vec{e_2} - a_3 b_2\vec{e_1}$
$ =(a_2 b_3 - a_3 b_2)\vec{e_1} +(a_3 b_1 - a_1 b_3)\vec{e_2} +(a_1 b_2 - a_2 b_1)\vec{e_3}$
命題12の証明終わり。
命題13
$(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}=(\vec{b} \times \vec{c})\cdot\vec{a}=(\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b} $
証明
$(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}= (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$を証明しよう。
残りも、同様に証明出来るので各自試みてください。
右手系をなす一つの直交座標系を決める。
3つのベクトルを、この座標系で成分表示して、
$\vec{a}=(a_1,a_2,a_3)^{t},\quad \vec{b}=(b_1,b_2,b_3)^{t},\quad \vec{c}=(c_1,c_2,c_3)^{t}$  とする。
命題12から、
$(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c} =(a_2b_3-a_3b_2,a_3b_1-a_1b_3,a_1b_2-a_2b_1)\cdot (c_1,c_2,c_3)$
内積の定義から
$=(a_2b_3-a_3b_2)c_1+(a_3b_1-a_1b_3)c_2+(a_1b_2-a_2b_1)c_3$ 
これを整頓すると
$=(a_1b_2c_3+a_2b_3c_1+a_3b_1c_2)-(a_1b_3c_2+a_2b_1c_3+a_3b_2c_1)$ $ \quad (\vec{c} \times \vec{a})\cdot\vec{b}$も、これと同じように計算すると同じ式になる。
命題13の証明終わり。

定義
$[\vec{a},\vec{b},\vec{c}]:=(\vec{a} \times \vec{b})\cdot \vec{c}$ を3つのベクトル$\vec{a},\vec{b},\vec{c}$ の行列式という。

ファイル:GENPHY00010801-01.pdf
図 3つのベクトルの張る平行6面体の体積

この3つのベクトルの張る平行4面体の、符号付の体積である(図参照)。

命題13の系1
$[\vec{a},\vec{b},\vec{c}]=[\vec{b},\vec{c},\vec{a}]=[\vec{c},\vec{a},\vec{b}]$
$=-[\vec{b},\vec{a},\vec{c}]=-[\vec{c},\vec{b},\vec{a}]=-[\vec{a},\vec{c},\vec{b}]$

命題13の系2
3つの空間ベクトルを、ある右手系をなす直交座標系の成分で表示して $\vec{a}=(a_1,a_2,a_3)^{t}\vec{b}(b_1,b_2,b_3)^{t},\vec{c}(c_1,c_2,c_3)^{t}$  とする。
この時、$\vec{a},\vec{b},\vec{c}$ の行列式は
$[\vec{a},\vec{b},\vec{c}]:=(a_1b_2c_3+a_2b_3c_1+a_3b_1c_2)-(a_1b_3c_2+a_2b_1c_3+a_3b_2c_1)$

この式は、命題13の証明のなかで導出されている。

命題14
$\vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c}) = (\vec{a}\cdot \vec{c})\vec{b}-(\vec{a}\cdot \vec{b})\vec{c}$
証明
ベクトル積の定義を用いると、
$\vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c}) $
$= (a_1,a_2,a_3)^{t}\times (b_2c_3-b_3c_2,\quad b_3c_1-b_1c_3,\quad b_1c_2-b_2c_1)^{t}$
$=\Bigl( a_2(b_1c_2-b_2c_1)-a_3(b_3c_1-b_1c_3),\quad a_3(b_2c_3-b_3c_2)-a_1(b_1c_2-b_2c_1),\quad a_1(b_3c_1-b_1c_3)-a_2(b_2c_3-b_3c_2) \Bigr) ^{t}$
$=\Bigl( (a_2b_1c_2+a_3b_1c_3)-(a_2b_2c_1+a_3b_3c_1),\quad (a_3b_2c_3+a_1b_2c_1)-(a_3b_3c_2+a_1b_1c_2),\quad (a_1b_3c_1+a_2b_3c_2)-(a_1b_1c_3+a_2b_2c_3) \Bigr) ^{t}$
$=\Bigl( (\vec{a}\cdot \vec{c})b_1-a_1c_1b_1, \quad (\vec{a}\cdot \vec{c})b_2-a_2c_2b_2,\quad (\vec{a}\cdot \vec{c})b_3-a_3c_3b_3 \Bigr) ^{t}$
$- \left( (\vec{a}\cdot \vec{b})c_1-a_1b_1c_1,\quad (\vec{a}\cdot \vec{b})c_2-a_2b_2c_2,\quad (\vec{a}\cdot \vec{b})c_3-a_3b_3c_3 \right) ^{t}$
$=(\vec{a}\cdot \vec{c})\vec{b}-(\vec{a}\cdot \vec{b})\vec{c}$
証明終わり
(注) この公式の覚え方。
$\vec{b}\times \vec{c}$ は $\vec{b}$、$\vec{c}$の両方に直交、
$\vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c})$ は $\vec{b}\times \vec{c}$ と直交。
これから、$\vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c})$ は $\vec{b}$ と $\vec{c}$が張る(一次結合)ベクトルであることが分かる。
この係数が他の2つのベクトルの内積であることだけを記憶しておくと、
$\vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c}) = \pm (\vec{a}\cdot \vec{c})\vec{b} \pm (\vec{a}\cdot \vec{b})\vec{c}$
各項の符号は、

命題14の系1
$(\vec{a}\times \vec{b})\times \vec{c} = (\vec{a}\cdot \vec{c})\vec{b}-(\vec{b}\cdot \vec{c})\vec{a}$
従って、一般に外積は結合法則を満たさない。
$\quad \vec{a}\times (\vec{b}\times \vec{c}) \neq (\vec{a}\times \vec{b})\times \vec{c}$
証明
命題8から
$(\vec{a}\times \vec{b})\times \vec{c} =-\vec{c}\times (\vec{a}\times \vec{b})$
この右辺に命題14を適用すると、
$=-\Bigl( (\vec{c}\cdot \vec{b})\vec{a}-(\vec{c}\cdot \vec{a})\vec{b}\Bigr) =(\vec{c}\cdot \vec{a})\vec{b}-(\vec{c}\cdot \vec{b})\vec{a}$
証明終わり

命題14の系2
1)$(\vec{a}\times \vec{b})\times (\vec{c}\times \vec{d}) =[\vec{a},\vec{b},\vec{d}]\vec{c}-[\vec{a},\vec{b},\vec{c}] \vec{d}$
2)$(\vec{a}\times \vec{b})\times (\vec{c}\times \vec{d}) =[\vec{a},\vec{c},\vec{d}]\vec{b}-[\vec{b},\vec{c},\vec{d}] \vec{a}$
証明
1) $\vec u \triangleq \vec{a}\times \vec{b}$ とおくと、
$(\vec{a}\times \vec{b})\times (\vec{c}\times \vec{d}) =\vec u \times (\vec{c}\times \vec{d})$
命題14から
$=(\vec u \cdot \vec d)\vec{c}-(\vec u \cdot \vec c)\vec{d} =\Bigl( (\vec{a}\times \vec{b})\cdot \vec d \Bigr) \vec{c}-\Bigl( (\vec{a}\times \vec{c})\cdot \vec d \Bigr) \vec{d}$
行列式の定義から、
$=[\vec{a},\vec{b},\vec{d}]\vec{c}-[\vec{a},\vec{b},\vec{c}]\vec{d}$
故に、
$(\vec{a}\times \vec{b})\times (\vec{c}\times \vec{d}) =[\vec{a},\vec{b},\vec{d}]\vec{c}-[\vec{a},\vec{b},\vec{c}]\vec{d}$
2)は、$\vec u \triangleq \vec{c}\times \vec{d}$ とおくと,
命題14の系1を用いて、同様にして証明できる。

命題14の系3
1)$(\vec{a}\times \vec{b})\cdot (\vec{c}\times \vec{d}) = (\vec{a} \cdot \vec{c})(\vec{b} \cdot \vec{d})-(\vec{b} \cdot \vec{c})(\vec{d} \cdot \vec{a})$
2)$(\vec{a}\times \vec{b})\cdot (\vec{c}\times \vec{d}) = (\vec{a} \cdot \vec{b})(\vec{a} \cdot \vec{c})-(\vec{b} \cdot \vec{c})(\vec{d} \cdot \vec{a})$
証明
1) $\vec u \triangleq \vec{a}\times \vec{b}$ とおくと、
$(\vec{a}\times \vec{b})\cdot (\vec{c}\times \vec{d}) = \vec u \cdot (\vec{c}\times \vec{d})=[\vec{u}, \vec{c},\vec{d}]$
行列式の性質から、
$=[\vec{d},\vec{u}, \vec{c}]=\vec{d}\cdot (\vec{u}\times \vec{c})$
$\vec u$ の定義式を代入して
$=\vec{d}\cdot \Bigl( (\vec{a}\times \vec{b})\times \vec{c}\Bigr)$
命題14の系1を適用して、
$=\vec{d}\cdot \Bigl((\vec{a}\cdot \vec{c})\vec{b}-(\vec{b}\cdot \vec{c})\vec{a} \Bigr) $
内積の性質から
$=(\vec{a} \cdot \vec{c})(\vec{b} \cdot \vec{d})-(\vec{b} \cdot \vec{c})(\vec{d} \cdot \vec{a})$
1)が示せた。
2)も、$\vec u \triangleq \vec{c}\times \vec{d}$ とおけば、同様にして証明できる。

微分(全微分) 

この§も、2変数関数で説明する。
二変数関数の微分可能性をどう定義したらよいだろうか?
一変数関数の微分の場合、それと同等の条件はいくつか知られているが、
その中で二変数関数に容易に拡張できるものを採用するのが自然である。
1.4.1.1 微分係数の意味 の命題の条件 3)の式(5)が、それに該当する。

定義1;微分可能性(全微分可能性)
関数f(x,y)が、或る開集合U上で定義されているとする。
fが 点$(x_0,y_0)\in U$ で微分可能(あるいは全微分可能)とは、
ある定数$c_1,\ c_2$が存在して、
$f(x,y) = f(x_0,y_0) + c_{1}(x-x_0) + c_{2}(y-y_0) + \delta(x,y;x_o,y_0)\qquad (a)$
ここで、$\lim_{(x,y)\to (x_0,y_0)}\delta(x,y;x_o,y_0)/\|(x,y)-(x_0,y_0) \| = 0 \qquad (b)$
この時、 $\textbf{c} \triangleq (c_1, c_2)$ を、fの点$(x_0,y_0)$における導値(derivative)または微分係数といい、
$f'(x_0,y_0), \ Df(x_0,y_0)$ などと書く。

(注)このテキストの「1.4.3  一般のノルムの定義とノルムの同等性」から、
ノルムとしては、どのp-ノルムを用いても同等である。

定理1
fが 点$(x_0,y_0)\in U$ で微分可能ならば、

1)fは$(x_0,y_0)$ で偏微分可能で、
式(a)の$ c_{1}, c_{2} $ はそれぞれ、$(x_0,y_0)$ でのx、yに関する偏微分係数である。
すなわち、$f'(x_0,y_0)=(f_{x}(x_0,y_0),f_{y}(x_0,y_0))$
2)$\textbf{e}$ を任意のベクトルとすると、
fは$(x_0,y_0)$ で$\textbf{e}$方向に微分可能で、
$ D_{\textbf{e}}f(x_0,y_0)=Df(x_0,y_0)\textbf{e}$
証明
1)を示そう。
式(a) で、$y=y_0$ と固定すると
$f(x,y_0) = f(x_0,y_0) + c_{1}(x-x_0) + \delta(x,y_0;x_o,y_0)\qquad (c)$
$\lim_{(x,y_0) \to (x_0,y_0)}\delta(x,y_0;x_o,y_0)/\|(x,y_0)-(x_0,y_0) \| $
$= \lim_{x \to x_0}\delta(x,y_0;x_o,y_0)/|x - x_0| = 0 \qquad  \qquad \qquad (d)$
式(c)の両辺を、$x-x_0(\neq 0)$ で割り、整頓すると、
$ \frac{f(x,y_0) - f(x_0,y_0) - c_{1}(x-x_0)}{x-x_0)}=\frac{\delta(x,y_0;x_o,y_0)}{x-x_0}$
この式の両辺の極限$x\to x_0$をとると、
$\lim_{x\to x_0x\neq x_0}\frac{f(x,y_0) - f(x_0,y_0) }{x-x_0} = c_{1} $
を得る。
この左辺は、xに関する偏微分$\frac{\partial f}{\partial x}(x_0,y_0)$である。
式(a) で、$x=x_0$ と固定すると,同様の議論で、
$c_2=\frac{\partial f}{\partial y}(x_0,y_0)$ を得る。
1)の証明終わり
2)を証明しよう。
$\textbf{e} = \textbf{0}$ の時は、$D_{\textbf{e}}f(x_0,y_0)=0$であることは、方向微分の定義から直ちにわかるので、2)は成り立つ。
$\textbf{e} \neq \textbf{0}$ の時;
方向微分の定義から
$ D_{\textbf{e}}f(x_0,y_0)=\lim_{t\to 0,t\neq 0}\frac{f\Bigl((x_0,y_0)^{T} + t\textbf{e}\Bigr)-f\Bigl( (x_0,y_0)^{T} \Bigr)}{t} \qquad (a)$
他方、fが $(x_0,y_0)$ で全微分可能なので、
$ f\Bigl( (x_0,y_0)^{T} + t\textbf{e}\Bigr)-f( (x_0,y_0)^{T} )=Df(x_0,y_0)t\textbf{e}+o(\|t\textbf{e}\|) \qquad \qquad (b)$
式(b)を式(a)の右辺の代入すると、
$D_{\textbf{e}}f(x_0,y_0)=\lim_{t\to 0,t\neq 0}\Bigl(Df(x_0,y_0)\textbf{e}+\frac{o(\|t\textbf{e}\|}{t}\Bigr)=Df(x_0,y_0)\textbf{e}$
これで2)が示せた。
証明終わり

fが微分可能ならば、
fの点$(x_0,y_0)$での値と、その近くの点$(x_0+h,y_0+k)$での値の差$f(x_0+h,y_0+k)-f(x_0,y_0)$ は、
$ c_1 h + c_2 k = (c_1,c_2)(h,k)^{t}=\Bigl(f_{x}(x_0,y_0),f_{y}(x_0,y_0)\Bigr)(h,k)^{t}$
で大変精度よく近似できることを意味する。
定理2;
2変数関数関数 $f(x,y)$ を考える。
もし、偏導関数 $f_{x},f_{y}$ の少なくとも一方が $(x_0,y_0)$ で存在し、 他方が、$(x_0,y_0)$ を中心とする半径$\delta$ の開球 $U_{\delta}(x_0,y_0)$上で存在し、$(x_0,y_0)$ で連続ならば、
$f(x,y)$ は$(x_0,y_0)$ において、微分可能である。
(注)$U_{\delta}(x_0,y_0)\triangleq \{(x,y)^{T}\in {\bf R^2}|\ \|(x,y)^{T}-(x_0,y_0)^{T}\|_{2}\lt \delta \}$
$\delta$はどんなに小さくてもよい。
また、$(x,y)^{T} = \begin{pmatrix} x \\ y\end{pmatrix}$ 
$(x,y)^{T}$の右肩のTは、
行列やベクトルの行と列を入れ替える演算(転置)を表し、この演算を横ベクトル$(x,y)$ に施したことを表す。
線型代数学/行列概論(ウィキブックス)の、「5 転置行列」を参照のこと。
証明
$f_{x}$が $U_{\delta}(x_0,y_0)$上で存在し、$(x_0,y_0)$ で連続と仮定して、証明すればよい。(他の場合も同様に議論できるから)。
そこで、$f_{x}$が$U_{\delta}(x_0,y_0)$上で存在し、$(x_0,y_0)$ で連続としよう。
$\|\textbf{h}\|_{2}\lt \delta $ を満たす任意の2次元ベクトル$\textbf{h}=(h_{1},h_{2})^{T}$をとる。
$f((x,y)^{T}+\textbf{h})-f((x,y)^{T}) $
$= \Bigl(f\bigl((x+h_1,y+h_2)^{T}\bigr)-f\bigl((x,y+h_2)^{T}\bigr)\Bigr)+\Bigl(f\bigl((x,y+h_2)^{T}\bigr)-f\bigl((x,y)^{T}\bigr)\Bigr) \qquad \qquad (a)$
変数$h_1$の関数
$\phi(h_1)\triangleq f\bigl((x+h_1,y+h_2)^{T}\bigr) \qquad (b)$
を考えると、$\phi(0)=f\bigl((x,y+h_2)^{T}\bigr)$であり、
$f_{x}$が$U_{\delta}(x_0,y_0)$上で存在するので、微分可能な関数である。
一変数の微分可能な関数の平均値の定理から、ある正数$\theta \in (0,1)$ が存在して、
$\phi(h_1)-\phi(0)=h_1{\phi}'(\theta h_1)$
式(b)を用いて、この式を関数fを用いて表すと
$f\bigl((x+h_1,y+h_2)^{T}\bigr)-f\bigl((x,y+h_2)^{T}\bigr)=h_{1}D_{x_1}f\bigl((x+\theta h_1,y+h_2)^{T}\bigr) \qquad (c)$
式(a)の右辺の第2項$f\bigl((x,y+h_2)^{T}\bigr)-f\bigl((x,y)^{T}\bigr)$ を考える
関数fの偏微分$D_{y}f$が$(x_0,y_0)$で存在することから、
$f\bigl((x,y+h_2)^{T}\bigr)-f\bigl((x,y)^{T}\bigr)=h_2D_{y}f(x_0,y_0)+0(h_2)\qqad (d)$
ここで$0(h_2)$は、$\lim_{h_2\to 0,h_2\neq 0}\frac{0(h_2)}{h_2}=0$
式(a)の右辺に、式 (c),(d)を代入すると、
$f((x+h_1,y+h_2)^{T})-f((x,y)^{T}) $
$=h_{1}D_{x}f\bigl((x+\theta h_1,y+h_2)^{T}+h_2D_{y}f(x_0,y_0)+0(h_2)$
$D_{x}f$は$( (注)この定理はn変数関数の場合にも、次のように拡張できる。
系;$C^{1}$級の関数は微分可能
定理3 (合成関数の微分)
2つの2変数の実関数$x_{1}=x_{1}(\xi_{1},\xi_{2}),\ x_{2}=x_{2}(\xi_{1},\xi_{2})$を、
共に、点$(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0})$ において微分可能、
2変数の実関数 $f(x_1,x_2)$ が、
点 $(x_{1}^{0},x_{2}^0)=\Bigl( x_{1}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0}),x_{2}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0})\Bigr) $ において微分可能とする。
すると、合成関数
$\qquad \qquad g(\xi_{1},\xi_{2})\triangleq f\Bigl( x_{1}(\xi_{1},\xi_{2}),x_{2}(\xi_{1},\xi_{2})\Bigr) $
は、$(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0})$ で微分可能であり、
$g_{\xi_{1}}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0})$
$=\frac{\partial f}{\partial x_1}(x_{1}^{0},x_{2}^0)\frac{\partial x_{1}}{\partial \xi_{1}}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0}) + \frac{\partial f}{\partial x_2}(x_{1}^{0},x_{2}^0)\frac{\partial x_{2}}{\partial \xi_{1}}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0}) $
$g_{\xi_{2}}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0})$
$=\frac{\partial f}{\partial x_1}(x_{1}^{0},x_{2}^0)\frac{\partial x_{1}}{\partial \xi_{2}}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0}) + \frac{\partial f}{\partial x_2}(x_{1}^{0},x_{2}^0)\frac{\partial x_{2}}{\partial \xi_{2}}(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0}) $

$\vec{\xi}^{0}=(\xi_{1}^{0},\xi_{2}^{0}),\ \vec{x}^{0}=(x_{1}^{0},x_{2}^{0})$ とおけば、上式は
$g_{\xi_{j}}(\vec{\xi}^{0}) = \sum_{i=1}^{2}f_{x_i}(\vec{x}^{0})(x_i)_{\xi_{j}}(\vec{\xi}^{0}) \quad (j=1,2)$
あるいは、
$g_{\xi_{j}}(\vec{\xi}^{0}) = \sum_{i=1}^{2}\frac{\partial f}{\partial x_i}(\vec{x}^{0})\frac{\partial x_i}{\partial \xi_{j}}(\vec{\xi}^{0}) \quad (j=1,2)$
と書ける。
これは、さらに容易にわかる、どの点の関数値かを省略すれば
$g_{\xi_{j}} = \sum_{i=1}^{2}f_{x_i}\cdot (x_i)_{\xi_{j}} \quad (j=1,2)$
あるいは
$g_{\xi_{j}} = \sum_{i=1}^{2}\frac{\partial f}{\partial x_i}\frac{\partial x_i}{\partial \xi_{j}} \quad (j=1,2)$
と略記できる。
証明
=☆☆ 我々の住む空間の数学的モデル= 概要だけを記述するので、イメージをつかめれば良い。
(1)私たちの住む(宇宙)空間$S^3$を無限に点(場所)が集まってできる集合と考える。
この空間では、経験によると、以下の諸事実が成り立つ。
①この空間のどのような2点$P,Q$をとっても、
その2点を通る直線は必ず一本あり、一本に限る(直線の公理。注参照)。
直線$<PQ>$と書く。
2点$P,Q$は、この直線上にあるので、その長さ(距離)は物差しなどで測れる。
(注)公理とは、経験上自明と思われるが、それ以上簡単な事実から証明出来ないため、
正しいと認めた命題のこと。
「点」や「直線」、「通る」などの言葉は
意味が分かっているという前提に立ち、その意味を定義しないで用いる。
点や直線、通るなどの表現がでてくる公理をすべて満たすものとして、
その性質が正確に規定される。無定義語という。
②直線$<PQ>$は空間全体を覆わないので、直線外の空間の点$R$をとれる。
3点$P,Q,R$を通る平面が常に唯一つ存在する(平面の公理1)。
これを平面$<PQR>$と書こう。
平面は、この面上にある2点を通る直線を含む(平面の公理2)。
空間の中のどの平面上でもユークリッドの平面幾何学は成り立つ(空間$S^3$の性質)。
直線$<PQ>$と直線$<PR>$は、平面$<PQR>$上の直線であり、角度$\angle QPR$がきまる。
③空間の中の異なる2直線$l$と$m$の間には次の3つの関係のうちのいずれか一つ(しかも一つだけ)が成り立つ。
 ⅰ)交わる(この時は2直線は同一平面上にあることが、
直線と平面の公理から簡単に証明出来る。
 ⅱ)同一平面上にあるが交わらない(平行という)。
 ⅲ)同一平面上にない。
平行な2直線は、同じ方向であるという。
④平面$<PQR>$も空間全体を覆わないので、空間にはこの平面外の点$S$が存在する。
⑤空間の2点$P,Q$を結ぶ線分$[PQ]$(直線$<PQ>$の、点PとQの間の部分)に
PからQに向けた向きを付けた有向線分$\vec{PQ}$を考える。
これはP点からみたQ点の位置を、
P点からQ点を見たときの方向・向きと距離で表したもの。
Q点が、P点から見て、$\vec{PQ}$の方向・向きおよび距離の点であることを
$P+\vec{PQ}=Q$と表す。
次にQ点から$\vec{QR}$の方向・向きおよび距離にある点$R=Q+\vec{QR}$を考える 。
点Rは元の点Pから$\vec{PR}$の方向・向きおよび距離の位置にある。
$\vec{PQ}+\vec{QR}:=\vec{PR}$で、2つの有向線分の和を定義すると
$R=P+\vec{PR}=P+(\vec{PQ}+\vec{QR})$
そこで$P+(\vec{PQ}+\vec{QR})=(P+\vec{PQ})+\vec{QR}$と決めておけば
$=(P+\vec{PQ})+\vec{QR}=Q+\vec{QR}$
となり、3点の位置関係が正しく表現出来ることが分かる。
⑥P点を始点とするすべての有向線分を要素とする集合を
$V_{P}:=\{\vec{PQ}\mid Q \in S^3\}$
と記す。すると$\{P+\vec a \mid \vec a \in V_{P}\}=S^3$
$V_{P}$と$V_{Q}$はどのような関係にあるだろうか。
$V_{P}$の任意の要素$\vec{PP_1},(P\neq P_1)$と
方向・向きと大きさが等しく、始点がQである有向線分を作ってみよう。
異なる3点$P,P_{1},Q$を通る平面は常に唯一つ存在する。
この平面上で、ユークリッド幾何学を使い、
平行四辺形$PP_{1}Q_{1}Q$を作ることが出来る。
すると$\vec{QQ_1}\in V_{Q}$であり、
$\vec{QQ_1}$は$\vec{PP_1}$と方向・向きは同じで、大きさ(長さ、距離)も等しい。
2つの有向線分が、方向・向きと大きさが同じならば、 ある点からみた他の点の位置を、有向線分の方向・向きと大きさで指定するかぎり、 2つの有向線分は同じ点を指定する。そこで方向・向きと大きさが等しい2つの有向ベクトルは同一視して、
$\vec{QQ_1} \cong \vec{PP_1}$と書く。
すると経験上、空間$S^3$はつぎの性質を持つことが分かっている。
空間$S^3$の公理;
空間$S^3$の任意の2点P,Qを考える。 $V_{P}$の任意の要素には、
それと$\cong$の関係にある、$V_{Q}$の要素が一つ対応する。
逆に
$V_{Q}$の任意の要素には、
それと$\cong$の関係にある、$V_{P}$の要素が一つ対応する。

そこで、$\cong$関係のある有向線分を、おなじものと考えると
$V_{P}$と$V_{Q}$は同じ集合になる。
すなわち$\cong$関係のある有向線分を、おなじものと考えると
どの点から空間を見た時も、
空間のすべての点を表すのに必要な、有向線分(方向・向きと距離の集まり)は、
皆同じである。 定義: 方向・向きと長さの等しい有向線分を(始点は異なっても、) 同じものとみなした時、有向線分をベクトルと呼ぶ。
記号で書くと、
有向線分$\vec{QQ_1} \cong $ 有向線分$\vec{PP_1}$ 
<==>
ベクトル$\vec{QQ_1} = $ ベクトル$\vec{PP_1}$

今後は$\vec{PQ}$を有向線分とみなすときは、有向線分$\vec{PQ}$ と書き、
ベクトルとみなす時は単に$\vec{PQ}$と書いて区別する。
空間の性質から、ベクトルの集合とみた$V_{P}$は皆等しくなる。
これをベクトル集合$V$で表す。
⑦空間の性質1
$V$の2つのベクトル${\bf a},{\bf b}$を、
${\bf a}=\vec{PQ},{\bf b}=\vec{QR}$と表現すると、
ベクトル${\bf a},{\bf b}$の和は
${\bf a}+{\bf b}=\vec{PR}$で定義する。
この和はP点に関係なく、唯一つのベクトルを定めることが証明できる。
和の交換則と結合則が成り立つ。
ベクトルの実数倍も定義出来る。
$V$は[[wikipedia_ja:線形空間 |線形空間(ベクトル空間ともいう)]]になる。
これ等はユークリッド幾何学を用いて証明出来る。
⑧ 線形空間$V$は3次元空間
P点から空間を眺めると、②で述べたように
Pを通る平面$<PQR>$が存在する。
この平面上には、P点で交わる2本の直線$<PQ>$と$<PR>$が存在する。
そこで2つのベクトル$\vec{PQ}\in V$と$\vec{PR}\in V$を考える。
すると,平面上の任意の点RをP点から見たときの方向・向き、距離$\vec{PR}$は、
$\vec{PQ}$と$\vec{PR}$の線形結合$\alpha \vec{PQ}+\beta \vec{PR}$
で表せる。ここで、$\alpha,\beta $は、適当な実数である。
逆に、任意の線形結合$\alpha \vec{PQ}+\beta \vec{PR}$に対し、
平面上に点Rが定まり、
$\alpha \vec{PQ}+\beta \vec{PR}=\vec{PR}$
この事実はユークリッド幾何学を用いて容易に示すことができる。
平面は、このように2つのベクトルで表せるので2次元と呼ぶ。
空間は、平面$<PQR>$で覆われないので、平面外の点Sがとれる。
$\vec{PS}$は線形結合$\alpha \vec{PQ}+\beta \vec{PR}$では表せない。
我々の住む空間の公理2
$V=\{\alpha\vec{PQ}+\beta \vec{PR}+\gamma \vec{PS}\mid \alpha,\beta,\gamma$は実数$\}$
空間$S^3$を点をすべて記述するには
3つの独立なベクトルを用いなければならないので
$S^3$は3次元空間とも呼ばれる。
⑩3次元空間の座標と座標表示
この空間には座標系を考えるができる。
ベクトルの座標表示をすると、ベクトル演算を数の計算に帰着でき便利である。
ベクトルを直交座標表示して、数の計算に帰着すると、
座標の直交性が役立ち、計算が大変簡単になる。
線形空間については *[[wikipedia_ja:ベクトル空間 |ウィキペディア(ベクトル空間)]] 計量線形空間については *[[wikipedia_ja:計量ベクトル空間 |ウィキペディア(計量ベクトル空間)]] (2)我々の住む空間の数学的モデル
==数空間${\bf R^3}$と3次元区間${\bf I^3}$==

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