物理/静電気と静電場(その1)

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(「 5.1 静電気と静電場(1)  」)
(帯電と電気素量)
 
(間の153版分が非表示)
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=「 5.1 静電気と静電場(1)  」=
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=「 5.1 静電気と静電場(その1)」=
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== 電磁気現象の根源 ==
== 電磁気現象の根源 ==
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物質をつくっている原子は、いくつかの陽子と中性子が固く結合した原子核とその周りにある電子から出来ている。<br/>
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詳しいことは次章で学ぶが、物質をつくっている原子は、原子核とその周りを回る電子から出来ている。<br/>
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原子核を作る陽子は正の電荷+eをもち、<br/>
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原子核はいくつかの陽子と中性子からできている。 <br />
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中性子は電荷をもたない。<br/>
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陽子は正の電荷+eをもち、電子はこれと同じ大きさで符号が反対の負の電荷-eを持つ(注1)。<br/>
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電子は、陽子と逆符号の電荷-eを持つ(注1)。<br/>
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中性子は電荷をもたない。<br />
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この陽子と電子の電荷が電気の実体である。<br/>
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電荷の量を電荷量あるいは略して電荷という。<br/>
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電荷の間には電気力が働く。同符号の電荷は互いに反発し、異符号の電荷は互いに引き合う(注2)。  <br/>
電子の個数は陽子と同数であり、原子を巨視的な意味で離れて眺めると、<br/>
電子の個数は陽子と同数であり、原子を巨視的な意味で離れて眺めると、<br/>
正負の電荷が打ち消しあって電荷をもたない粒子に見える。<br />
正負の電荷が打ち消しあって電荷をもたない粒子に見える。<br />
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電荷の間には電気力が働く。同符号の電荷は互いに反発し、異符号の電荷は互いに引き合う。  <br/>
+
 
原子核と電子は引き合い、原子を作っている。<br/>
原子核と電子は引き合い、原子を作っている。<br/>
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また近くの原子同士も電気力で引き合い分子をつくり(注2)、気体や液体、固体をつくる。<br/><br/>
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また近くの原子同士も電気力で引き合い分子をつくり(注3)、気体や液体、固体をつくる。<br/><br/>
帯電、静電気、磁石、電流、電磁波など、すべての電磁気現象は、電子と陽子の存在と運動によって生じる。 <br/>
帯電、静電気、磁石、電流、電磁波など、すべての電磁気現象は、電子と陽子の存在と運動によって生じる。 <br/>
この章でこれらの電磁気現象とその法則について学ぶ。    <br/>
この章でこれらの電磁気現象とその法則について学ぶ。    <br/>
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陽子どうし、電子どうしは反発するが、陽子と電子は引き合う。従って陽子と電子はことなった電荷である。<br/>
陽子どうし、電子どうしは反発するが、陽子と電子は引き合う。従って陽子と電子はことなった電荷である。<br/>
さらに陽子と電子の個数が同じだと離れた所からみると、電荷がない粒子として振る舞う。<br/>
さらに陽子と電子の個数が同じだと離れた所からみると、電荷がない粒子として振る舞う。<br/>
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このため一方の電荷に+、他方にーをつけて和を取ると電荷が0になるようにする。<br/>
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このため一方の電荷に+、他方にーをつけて和を取ると電荷が0になるようにする。<br/>どちらにーをあててもよかったが歴史的に電子にーをあてた。<br />
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どちらにーをあててもよかったが歴史的に電子にーをあてた。<br />
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なお、原子核のなかで電気的に反発する複数の陽子がくっついているのは、<br/>
なお、原子核のなかで電気的に反発する複数の陽子がくっついているのは、<br/>
反発力より強い核力で引き合っているため(次章で簡単に説明する)。<br/>
反発力より強い核力で引き合っているため(次章で簡単に説明する)。<br/>
-
(注2);原子同士が引き合うメカニズムについては次章で簡単に紹介する。
+
(注2):電子は質量がはるかに大きい原子核に引き寄せられていくが、<br/>
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ごく近くまでくると量子力学的な斥力を受け、それ以上は近づけない。<br/>
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次章で簡単に説明する。<br/>
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(注3);原子同士が引き合い分子をつくるメカニズムについては次章で簡単に紹介する。
 +
== 古典電磁気学の前提について ==
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原子のことが良く分かっていない時代に作られ古典電磁気学では、<br/>
 +
各点のまわりに、原子よりはるかに大きいが物体からみれば一点とみなせる極小領域を考え、<br/>
 +
この微小領域での平均的な電荷や電場を測定し、<br/>
 +
それをその点の電荷や電場と考えて理論が作られた。<br/>
 +
このような巨視的な見方に立つと、<br/>
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物質中には正の電荷と負の電荷が重なり合って、<br/>
 +
(液体のように)連続して分布しているとみなせる。<br/>
 +
帯電していない(中性の)物体は、正負の電荷の密度が同じで、打ち消し合っているとみなせる。<br/>
 +
このように古典電磁気学はミクロ現象を平均化して滑らかな現象ととらえ、<br/>
 +
観測と実験をもとに理論を構築したものであり、<br/>
 +
原始的なスケールの現象に適用すると誤った結論を導き出すこともあるが、<br/>
 +
巨視的な現象については、正確で有効な理論になっている。
== 静電気==
== 静電気==
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この節では、まず、静止した電荷(静電気という)の性質を学ぶ。
+
この節では、電荷の位置が時間とともに変化しない時(静止した電荷)の電気現象,いわゆる静電気について学ぶ。
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+
=== 帯電と電気素量===
=== 帯電と電気素量===
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原子は通常、同数の電荷量eの陽子と-eの電子から構成されるので、<br/>
+
原子は通常、同数の陽子と電子から構成され、陽子の電荷量はe、電子の電荷量は-eなので、<br/>
離れた所から観測すれば、正と負の電荷の影響が打ち消しあって,電荷をもたない粒子として振る舞う。<br/>
離れた所から観測すれば、正と負の電荷の影響が打ち消しあって,電荷をもたない粒子として振る舞う。<br/>
このため原子からできている物質は、通常は電荷を持たない。<br/>
このため原子からできている物質は、通常は電荷を持たない。<br/>
-
物質が他の物質との摩擦などにより電子をいくつか失ったり、獲得すると、物質は電荷を帯びる。<br/>
+
物質が他の物質との摩擦などにより電子をいくつか失ったり、獲得すると、物質は電気を帯びる。<br/>
'''帯電'''するという。<br/>
'''帯電'''するという。<br/>
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このため全ての物質の電荷量は e の整数倍になる。e を'''電気素量'''という。
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このため全ての物質の電荷量は e の整数倍になる。e を'''電気素量'''あるいは'''素電荷'''という。
==== 点電荷====
==== 点電荷====
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大きさの無視できる小さな電荷を'''点電荷'''という。<br/>
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巨視的な観測では一点とみなせる微小な電荷を'''点電荷'''という。<br/>
力学で質点が果たした役割を、電磁気学では点電荷が果たす。<br/>
力学で質点が果たした役割を、電磁気学では点電荷が果たす。<br/>
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==== 電子の電荷、質量 ====
==== 電子の電荷、質量 ====
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電荷;$\quad -e=-1.602\times 10^{-19}[C]$<br/>
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電荷;$\quad -e=-1.602\times 10^{-19}C]$<br/>
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$\qquad $ [C] は電荷の単位クーロンである。
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ここで、 [C] は電荷の単位クーロンである。
これについては、[[物理/電流と磁場#.E9.9B.BB.E6.B5.81.E3.81.A8.E9.9B.BB.E8.8D.B7.E3.81.AE.E5.8D.98.E4.BD.8D|「5.4 電流と磁場 の1.3.2 電流と電荷の単位」]]を参照のこと。<br/>
これについては、[[物理/電流と磁場#.E9.9B.BB.E6.B5.81.E3.81.A8.E9.9B.BB.E8.8D.B7.E3.81.AE.E5.8D.98.E4.BD.8D|「5.4 電流と磁場 の1.3.2 電流と電荷の単位」]]を参照のこと。<br/>
質量;$\quad m_e=9.11 \times 10^{-31}[kg]$<br/> <br/> 
質量;$\quad m_e=9.11 \times 10^{-31}[kg]$<br/> <br/> 
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なお、電子は大きさのない点電荷と考えられている。
+
なお、電子は大きさのない電荷と考えられている。
詳しくは、
詳しくは、
*[[wikipedia_ja:電子|ウィキペディア(電子)]]
*[[wikipedia_ja:電子|ウィキペディア(電子)]]
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==== 陽子の電荷、質量、大きさ ====
==== 陽子の電荷、質量、大きさ ====
電荷;$\quad e=1.602\times 10^{-19}[C]$<br/>
電荷;$\quad e=1.602\times 10^{-19}[C]$<br/>
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*[[wikipedia_ja:電荷保存則|ウィキペディア(電荷保存の法則)]]
*[[wikipedia_ja:電荷保存則|ウィキペディア(電荷保存の法則)]]
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==== 導体、不導体、半導体====
+
=== クーロンの法則===
-
物質は、電気を通す性質に着眼すると、<br/>
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この節「5.1」では、以後ことわない限り電荷は全て静止(固定)しているとする。<br/>
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電気をよく通す導体と電気を通さない不導体、およびこの中間の半導体に分類できる。<br/>
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詳しくは、以下を参照のこと。<br/>
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導体(電気伝導体ともいう); [[Wikipedia_ja:電気伝導体|ウィキペディア(電気伝導体)]]  <br/>
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不導体(絶縁体ともいう); [[Wikipedia_ja:絶縁体|ウィキペディア(絶縁体)]]    <br/>
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半導体;  [[Wikipedia_ja:半導体|ウィキペディア(半導体)]]
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==== 摩擦電気====
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2つの不導体をこすりあわせると、このエネルギーで、電子が一方の物質から他方の物質に移動する。 <br />
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電子を失った不導体は、正の電荷の陽子が電子の個数より多くなるので正の電荷を帯び、<br />
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電子を得た不導体は、それと同じ大きさの負の電荷を帯びる。 <br />
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この帯電した電気を'''摩擦電気'''という。<br />
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*[[wikipedia_ja:摩擦電気|ウィキペディア(摩擦電気)]]
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==== クーロンの法則====
+
クーロンは実験の結果次の法則を発見した。<br/>
クーロンは実験の結果次の法則を発見した。<br/>
・同符号の2つの電荷間には斥力(反発力)、異符号の電荷間には引力が働く。<br/>
・同符号の2つの電荷間には斥力(反発力)、異符号の電荷間には引力が働く。<br/>
・その向きは、2つの電荷を結ぶ直線の方向と一致し、<br/>
・その向きは、2つの電荷を結ぶ直線の方向と一致し、<br/>
-
・その大きさ $f$ は、2つの電荷の積 $q_{1} q_{2}$ に比例し、その距離 $r$ の2乗に反比例する。
+
・その大きさ $f$ は、2つの電荷の積 $q_{1} q_{2}$ に比例し、その距離 $r$ の2乗に反比例する。<br/>
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$f=k\frac{q_{1} q_{2}}{r^2}$<br/>
+
$f=k\frac{q_{1} q_{2}}{r^2}\qquad \qquad (1)$<br/>
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なお、現在知られている比例定数は, $k=8.988\times 10^{9}[\frac{Nm^2}{C^2}]$ である。<br/>
+
なお、真空中での比例定数は, $k=8.988\times 10^{9}[\frac{Nm^2}{C^2}]$ である(注参照)。
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これを'''クーロンの法則'''という。<br />
+
<br/>
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これを'''クーロンの法則'''という。<br/>
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空気中でもこの値は殆ど変わらないので、通常この値を用いる。
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*[[wikipedia_ja:クーロンの法則|ウィキペディア(クーロンの法則)]]を参照のこと。
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(注)この比例定数は、物理量を[[物理/質点の運動の表し方#.E6.99.82.E9.96.93.E3.80.81.E9.95.B7.E3.81.95.E3.80.81.E9.80.9F.E5.BA.A6.E3.80.81.E5.8A.A0.E9.80.9F.E5.BA.A6.E3.81.AE.E5.8D.98.E4.BD.8D|SI国際単位系]](距離[m],電荷[C])$\ $で表示しているときの値である。<br/>
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*[[wikipedia_ja:クーロンの法則|ウィキペディア(クーロンの法則)]]を参照のこと。
+
==== 法則の適用可能な距離 ====
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===== 法則の適用可能な距離(RT)  =====
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どの位の距離までこの法則は成り立つのであろうか。<br />
どの位の距離までこの法則は成り立つのであろうか。<br />
小さい方では、原子核の大きさは約 $10^{-15}m$ であるが、<br />
小さい方では、原子核の大きさは約 $10^{-15}m$ であるが、<br />
89 行: 92 行:
大きい方は、どこまで正確に法則がなりたつかは、はっきりしていない。
大きい方は、どこまで正確に法則がなりたつかは、はっきりしていない。
しかし、宇宙観測などからの分析から、現在の所、この法則は、この宇宙で普遍的に成り立つと考えられている。<br/><br/>
しかし、宇宙観測などからの分析から、現在の所、この法則は、この宇宙で普遍的に成り立つと考えられている。<br/><br/>
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(注) $10^{-15}m$ 離れた陽子間に働くクーロン斥力は、<br/>
+
(注) <br/>
-
電気素量$ e = 1.6\times 10^{-19}[C] $を用いると、約 $f=230[N]$ となる。<br/>
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何故、正の電荷を持つ陽子同士が、互いに反発して飛散せず、固く結合して原子核を作っているのだろうか?
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これは質量 $m=1.67\times 10^{-27}$ の陽子に,<br/>
+
それは、次章で簡単に触れるように、陽子同士が、これよりはるかに大きい核力で引き合うからである。
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$\alpha = \frac{f}{m}\fallingdotseq 1.4\times 10^{29}[m/s^{2}]$ という巨大な加速度を与える。<br/>
+
-
しかし陽子同士は、これよりはるかに大きい核力で引き合うので、飛散せず固く結合し原子核を形成する。
+
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=====クーロンの法則のベクトル表示  =====
+
==== クーロンの法則のベクトル表示====
向きと大きさを同時に記述できるのでベクトル表示は便利である。<br/>
向きと大きさを同時に記述できるのでベクトル表示は便利である。<br/>
-
電荷$q_1$の位置ベクトルを$\vec{r_1}$、電荷$q_2$の位置ベクトルを$\vec{r_2}$、電荷$q_1$が電荷$q_2$から受けるクーロン力を$\vec{F_1}$とすると   <br />
+
電荷$q_1$の位置ベクトルを$\vec{r_1}$、電荷$q_2$のそれを$\vec{r_2}$、<br/>
-
$\vec{F_1}=k\frac{1}{||\vec{r_1}-\vec{r_2}||^2}\frac{\vec{r_1}-\vec{r_2}}{||\vec{r_1}-\vec{r_2}||}$    <br/>
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電荷$q_1$が電荷$q_2$から受けるクーロン力を$\vec{F_{1,2}}$とすると   <br />
 +
$\vec{F_{1,2}}=k\frac{q_1q_2}{||\vec{r_1}-\vec{r_2}||^2}\frac{\vec{r_1}-\vec{r_2}}{||\vec{r_1}-\vec{r_2}||}$    <br/>
この表現法に慣れておくとよい。ここで、$ k=\frac{1}{4 \pi \varepsilon_0} $ と表現することがある。 <br/>
この表現法に慣れておくとよい。ここで、$ k=\frac{1}{4 \pi \varepsilon_0} $ と表現することがある。 <br/>
107 行: 109 行:
(注)真空中の誘電率という用語について;<br/>
(注)真空中の誘電率という用語について;<br/>
真空は空虚な空間なので奇異に思うかもしれないが、歴史的にこう命名された。<br/>
真空は空虚な空間なので奇異に思うかもしれないが、歴史的にこう命名された。<br/>
-
誘電については後(2.5 電界中の不導体と誘電分極)で学ぶ。<br/>
+
誘電については後述「2.5 電界中の不導体と誘電分極」で学ぶ。<br/>
クーロン則は誘電されるものが無い状態で常になりたつ。<br/><br/>
クーロン則は誘電されるものが無い状態で常になりたつ。<br/><br/>
-
====運動する2つの電荷の間に働く力====
+
====  クーロン力の重ね合わせの原理====
-
運動する2つの電荷の間にも力が働くが、クーロンの法則は正確には成り立たなくなる。<br/>
+
N(>2)個の電荷$q_1,,,,q_N $ があるとき、$q_1$ に作用する電気力は、<br/>
-
その力は、電荷の運動に複雑に関係するため、導出は大変難しい。<br/>
+
$q_2,,,,q_N $ のそれぞれから$q_1$が受けるクーロン力(ベクトル表示)の和になることが<br/>
-
 
+
実験で確かめられている。<br/>
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=====  3つ以上の電荷に働く力=====
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これを、'''クーロン力の重ね合わせの原理'''という。
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N 個(>2)の電荷$q_1,,,,q_N $ があるとき、$q_1$ に作用する電気力は、<br/>
+
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$q_2,,,,q_N $ のそれぞれから$q_1$が受けるクーロン力(ベクトル表示)の和になることが実験で確かめられている。    <br/>
+
-
これを、'''クーロン力の重ね合わせ原理'''という。
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=====  クーロン力は保存力=====
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クーロン力は、[[物理/力学(4) 運動量と力学的エネルギー保存則|5章 力学(4) 運動量と力学的エネルギー保存則]]によれば、保存力であることが分かる。<br/>
+
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保存力は位置エネルギをもつ。クーロン力の位置エネルギーを電位という。詳しくは後述する。
+
==== 電気力は重力よりはるかに大きいこと====
==== 電気力は重力よりはるかに大きいこと====
 +
電子や陽子など、非常に小さい(あるいは大きさのない)素粒子と呼ばれる粒子は、<br/>
 +
その位置が確率的にしか分からないが、<br/>
 +
ニュートン力学の質点ように、その位置が分かるとして、<br/>
陽子と電子の間に働く電気力と万有引力の大きさを比べてみよう。<br/>
陽子と電子の間に働く電気力と万有引力の大きさを比べてみよう。<br/>
以下では、両者の距離を $r[m]$ とする。<br/>
以下では、両者の距離を $r[m]$ とする。<br/>
137 行: 135 行:
$\frac{f_e}{f_g} \fallingdotseq 2.3 \times 10^{39}$<br/><br/>
$\frac{f_e}{f_g} \fallingdotseq 2.3 \times 10^{39}$<br/><br/>
電気力が重力より桁違いに大きいことが分かる。<br/>
電気力が重力より桁違いに大きいことが分かる。<br/>
 +
 +
====運動する2つの電荷の間に働く力====
 +
運動する2つの電荷の間にも力が働くが、クーロンの法則は正確には成り立たなくなる。<br/>
 +
その力は、電荷の運動に複雑に関係するため、導出は大変難しい。<br/>
 +
運動する電荷の作る電場を求め、電場中で動く電荷が受ける力を求める法則を用いて
 +
導出するほうが、見通しよく、簡単である。(後述予定。RT)
=== 電場(あるいは電界)===
=== 電場(あるいは電界)===
147 行: 151 行:
電荷の間のクーロン力はどのようにして働くのだろうか。 <br/>
電荷の間のクーロン力はどのようにして働くのだろうか。 <br/>
遠隔作用と近接作用という二つの考え方がある。<br/>
遠隔作用と近接作用という二つの考え方がある。<br/>
-
遠隔作用では、離れた電荷が直接互いに力を及ぼしていると考える。<br/>
+
遠隔作用では、離れた電荷が瞬時に直接互いに力を及ぼしあうと考える。<br/>
-
動いている電荷間に働く力を直接記述すると大変複雑であり、遠隔作用に基づく電磁気現象の記述や解析は困難である。<br/>
+
近接作用では、電荷はその周りの空間を電気的にひずませ、<br/>
 +
それが空間全体に及んで行き、
 +
この歪の中におかれた他の電荷は、その場所の歪から力を受けると考える。 <br/>
 +
この空間の電気的歪を電場と呼ぶ。<br/>
 +
電荷の大きさや場所が時間とともに変化しない電気現象(静電気)を考えるだけならば、両者は、単なる読み替えに過ぎず、同じ結論になる。<br/>
 +
しかし、電荷量が変化したり、電荷が動く場合には、遠隔力では説明できない現象が起こる。<br/>
 +
そこで現在、電磁現象は、近接作用の基づいて起こると考えられ、<br/>
 +
電磁気学は、この考え方で研究され、記述されている。<br/><br/>
 +
(注)真空は何もない空虚な空間と考えるのではなく、電磁気的な性質を持つ空間であると考える。<br/>
 +
これは、真空という空間の物理的性質の解明の一端となりえる認識の変革である。
-
近接作用では、電荷は空間全体を電気的にひずませて電場を作り、<br/>
 
-
この電場の中におかれた他の電荷は、その場所の電場から力を受けると考える。 <br/>
 
-
この考え方に基づく現象の記述や解析は、遠隔作用にくらべ、簡明・容易となる。<br/>
 
-
現在の物理学では、近接作用に基づいて電磁気の基本法則は記述・解析されている。
 
==== 電場の定義====
==== 電場の定義====
-
電荷に静電気力(クーロン力)を及ぼす空間を'''電場'''(electric field)と呼ぶ。<br/>
+
電荷に力を及ぼす空間を'''電場'''(electric(al) field)と呼ぶ。<br/>
-
特に時間がたっても変化しない電場を'''静電場'''という。<br/>
+
クーロンの法則から、静止電荷は電場を作ることが分かる。<br/><br/>
-
空間の任意の点Pの電場の強さと向きは、その点に単位電荷を置いたときに作用する静電気力で定義する。 <br/>
+
空間の任意の点Pの電場の強さと向きは、<br/>
-
正確には、単位電荷をおくと、この電荷が、空間の電場をつくっている電荷達に、力を及ぼし動かして、<br/>
+
その点に単位量の点電荷を置いたときに作用する静電気力で定義する。 <br/>
-
単位電荷の場所Pの電場を変えてしまう恐れがあるので、<br />
+
測定するときは、単位電荷をおくと、この電荷が、空間の電場をつくっている電荷達に、力を及ぼし動かして、<br/>
-
無限小の電荷qを置いた時作用する電気力を $\vec{f}$ とするとき、 $ \vec{f}/q $  でP点での電場を決め,
+
単位電荷の場所Pの電場を変えてしまう恐れがあるので、<br/>
-
$ \vec{E(P)} $  で表す。
+
電荷量qが非常に小さい電荷を置いた時作用する電気力を $\vec{f}$ とするとき、<br/>
 +
$\vec{f}/q $ で'''P点での電場'''とする。(注参照)
 +
<br/>
-
力はベクトルなので、作用する電気力をスカラーで割って定義する電場はベクトルである。<br />
+
作用する電気力はベクトルで、それを電荷量というスカラーで割って定義する電場はベクトルである。<br/>
詳しくは
詳しくは
*[[wikipedia_ja:電場|ウィキペディア(電場)]]
*[[wikipedia_ja:電場|ウィキペディア(電場)]]
 +
(注)電子を電場計測には使用できない。<br/>
 +
その理由は、次章で説明するように、<br/>
 +
量子力学的な効果のため、その位置を固定できないためである。<br/>
 +
電場の定義には、位置の確定できる電荷が必要であり、<br/>
 +
巨視的には点とみなせるが、<br/>
 +
原子レベルでみると、大きな電荷(点電荷という)を用いるしかない。<br/>
 +
従って電場とは、巨視的には点とみなせる領域の平均的な値を与えるだけである。<br/>
 +
電磁気学では、<br/>
 +
任意の時刻tの空間の各点$\vec x$に、<br/>
 +
この点の周りの巨視的には点とみなせる領域の<br/>
 +
平均的な場の値$E(\vec x,t)$を対応させ、電気現象を研究する。
==== 静止した点電荷の作る電場 ====
==== 静止した点電荷の作る電場 ====
-
空間の位置$\vec{r}$に置いた電荷$\mathit{q}$が位置ベクトル$\vec{r'}$ の場所に作る電場は、クーロンの法則と
+
空間の位置$\vec{r}$の電荷$\mathit{q}$が位置$\vec{r'}$ に作る電場は、<br/>
-
電場の定義から、<br />
+
クーロンの法則と電場の定義から、<br/>
-
$\vec{E_q(r')}=\frac{kq}{|\vec{r'}-\vec{r}|^2}\frac{\vec{r'}-\vec{r}}{|\vec{r'}-{r}|}$    <br />
+
$\vec{E_q(r')}=\frac{kq}{||\vec{r'}-\vec{r}||^2}\frac{\vec{r'}-\vec{r}}{||\vec{r'}-{r}||}\qquad \qquad (1)$    <br/>
-
 
+
この時、$\vec{F}=\vec{E_q(r')}q'\qquad \qquad (2)$<br/>
-
===== 電場によるクーロンの法則の表現=====
+
この電場は時間変化しない(時不変)なので、'''静電場'''と明示することがある。<br/>
-
場所$\vec{r}$の電荷$ \mathit{q} $と、場所$\vec{r'}$の電荷$ \mathit{q'} $の間に働く電気力は、<br />  
+
*[[wikipedia_ja:電場|ウィキペディア(電場)]] の2.1 クーロンの法則を参照のこと。
-
$\vec{F}=qk\frac{q'}{|\vec{r}-\vec{r'}|^2}\frac{\vec{r}-\vec{r'}}{|\vec{r}-{r'}|}=q\vec{E_{q'}(r)}$ ; 電荷$ \mathit{q} $  に働く力<br />
+
(注)電場の導出;<br/>
-
$\vec{F'}=q'k\frac{q}{|\vec{r'}-\vec{r}|^2}\frac{\vec{r'}-\vec{r}}{|\vec{r'}-\vec{r}|}=q'\vec{E_q(r')}$ ;電荷$ \mathit{q'} $ に働く力  <br />
+
位置$\vec{r'}$ の電荷$q'$が、電荷$q$から受ける力$\vec{F}$は、クーロンの法則から <br/>
-
 
+
$\vec{F}=k\frac{qq'}{||\vec{r'}-\vec{r}||^2}\frac{\vec{r'}-\vec{r}}{||\vec{r'}-\vec{r}||}\qquad \qquad (a)$   <br/>
-
==== 点電荷のつくる電場====
+
電場の定義から、位置$\vec{r'}$ の電場$\vec{E_q(r')}$は<br/>
-
点電荷のつくる電場については
+
$\vec{E_q(r')}=\vec{F}/q'$<br/>
-
*[[wikipedia_ja:電場|ウィキペディア(電場)]] の2.1 クーロンの法則
+
この式に、式(a)を代入する。
-
を参照のこと。静電荷の作る電場は、時間変動がなく、静電場と呼ばれる。 
+
===== 電場の重ね合わせの原理=====
-
==== 2つ以上の点電荷の作る電場====
+
複数個の電荷$q_1,q_2,,,q_n \quad (n\ge 2)$ が作る電場$\vec{E}$は、<br/>
-
クーロン力の重ね合わせの原理と電場の定義から、それぞれの電荷がつくる電場のベクトル和を取れば良いことが分かる。'''電場の重ね合わせの原理'''という。
+
クーロン力の重ね合わせの原理と電場の定義から、<br/>
-
==== 電場の単位====
+
それぞれの電荷$q_i$がつくる電場$\vec{E_{q_i}}$のベクトル和に等しいことが分かる。<br/>
 +
$\vec{E}=\sum_{i=1}^{n}\vec{E_{q_i}}$<br/>
 +
'''[[wikipedia_ja:重ね合わせの原理 |電場の重ね合わせの原理]]'''という。
 +
===== 電場の単位=====
$ \vec{F}=\mathit{q}\vec{E} $、電荷$\mathit{q}$の単位はC(クーロン)、力$ \vec{F} $の単位はN(ニュートン)なので、<br />
$ \vec{F}=\mathit{q}\vec{E} $、電荷$\mathit{q}$の単位はC(クーロン)、力$ \vec{F} $の単位はN(ニュートン)なので、<br />
-
電場$ \vec{E} $の単位はN/C である。
+
'''電場$ \vec{E} $の単位はN/C''' である。
==== 電気力線とガウスの法則====
==== 電気力線とガウスの法則====
===== 電気力線とは  =====
===== 電気力線とは  =====
-
電場を目で見て理解できるように工夫したのが電気力線。<br />
+
電場を目で見て理解できるように工夫したのが電気力線である。<br/>
-
電場内で正の電荷が電場から力を受けて非常にゆっくりと動く時の向きのついた軌跡(曲線)を考え、電気力線と呼ぶ。<br />
+
電場内で正の電荷が電場から力を受けて非常にゆっくりと動く時<br/>
-
正確には、曲線の各点における電場が、その曲線に接しているような曲線を電気力線という。
+
その軌跡(曲線)に移動方向の向きをつけた有向曲線を考え、'''電気力線'''(line of electric force)と呼ぶ。<br/>
 +
正確には、曲線の各点における向きつき接線(注参照)の方向・向きが、<br/>
 +
その点における電場の方向・向きと等しいような曲線(電場の[[wikipedia_ja: 包絡線|包絡線]])を電気力線という。<br/>
 +
(注)向きつき曲線を、$\vec r=\vec{r}(t) \quad (t\in R)$ というベクトル式で表す。<br/>
 +
但し、tを増加させたときの曲線の向きを曲線の向きとする。<br/>
 +
曲線上の一点$\vec{r}_0=\vec{r}_(t_0)$における向きつき接線とは、<br/>
 +
その点を通り、<br/>
 +
方向・向きがその点の微係数<br/>
 +
$\frac{d\vec r}{dt}(t_0):=\lim_{t \to t_0,t\neq t_0}\frac{\vec{r}(t)-\vec{r}(t_0)}{t-t_0}$<br/>
 +
に等しい直線のことである。<br/>
 +
直線のパラメータsを、s=0の時接点$\vec{r}_0$を通るように選ぶと、<br/>
 +
$\vec r=\vec{r}_0+\frac{d\vec r}{dt}(t_0)s$<br/>
===== 電気力線の本数と密度=====
===== 電気力線の本数と密度=====
-
ある点Pで電場の強さが$ \mathit{E}=|\vec{E}| $ であるとき、<br />その点の周りに電場と直交する微小な平面部分を考え、<br /> そこを$1m^2 $ あたり$ \mathit{E} $本の密度で電気力線が通るように描いて、電場の強さを表示する(電場の強さが、負のときは向きを逆に、また整数でなく、例えば0.1のような時は、一つの電気力線が0.1本を表すとして、図示すればよい)。
+
ある点Pで電場の強さが$ \mathit{E}=|\vec{E}| $ であるとき、<br/>
-
 
+
その点の周りに電場と直交する微小な平面部分を考え、<br/> 
 +
そこを$1m^2 $ あたり$ \mathit{E} $本の電気力線が通るように描いて、電場の強さを表示する。<br/> 
 +
電場の強さが、負のときは向きを逆にする。<br/> 
 +
電場の強さが整数でなく、例えば0.1単位で変わる時に電気力線を図示するには、<br/>
 +
一本の電気力線が0.1を表すなど工夫すればよい。
-
===== ガウスの法則=====
+
===== ガウスの法則について=====
-
● O点に置かれた一つの点電荷$ +q $がつくる電気力線の場合;<br/>
+
● O点に置かれた一つの点電荷$q$がつくる電気力線の場合;<br/>
-
電気力線はO点を始点とする外向きの半直線となる。<br />
+
電気力線はO点を始点とする外向きの半直線となる。<br/>
-
その密度;O点を中心とし半径$r$ [m]の球面上での電場の大きさは、$\mathit{E}=\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0}\frac{1}{r^2}=\frac{kq}{r^2}$ [N/C] なので、この球面を$1m^2 $ あたり$\mathit{E}=\frac{kq}{r^2}$ 本の電気力線が、中から外に向かって、貫く。<br />
+
その密度;O点を中心とし半径$r$ [m]の球面上での電場の大きさは、<br/>
-
球面の中から外に向かう電気力線の総本数;球面の面積は$ 4 \pi r^2 $ なので、球面全体を貫いて出ていく電気力線の総本数は$\frac{q}{\varepsilon_0} =4\pi kq$。球面の半径を変えてもこの本数は変わらない。大学で学ぶ少し高等な数学を利用すると、O点を含む任意の形状の立体の表面を貫いて出ていく電気力線の総数も、$\frac{q}{\varepsilon_0} $であることが示せる。<br />
+
$\mathit{E}=\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0}\frac{1}{r^2}=\frac{kq}{r^2}$ [N/C] なので、<br/>
-
●O点を含まない任意の形状の立体の表面を考えると、O点からの半直線である電気力線がこの面から立体の中にはいると、必ず出ていくので、この立体に入る電気力線の本数は、出ていく本数と等しい。前者は負の本数と取り決めると、立体を出ていく本数の合計は0本となる。故に、電荷が内部にあろうとなかろうと任意の形状の立体の表面を貫いて出ていく電気力線の総数=$\frac{q}{\varepsilon_0} $が成立する。ここで$ q $はこの立体の内部にある点電荷。<br />
+
この球面を$1m^2 $ あたり$\mathit{E}=\frac{kq}{r^2}$ 本の電気力線が、中から外に向かって貫く。<br />
-
● 重ね合わせの原理をもちいると、上記の法則は次のように、一般化出来る。<br />
+
但し、$q \lt 0$ のときは、<br/>
 +
$\frac{k|q|}{r^2}$ 本の電気力線が外から中に向かうと決める。<br/><br/>
 +
球面を貫く電気力線の総本数;球面の面積は$4 \pi r^2$ なので、<br/>
 +
球面全体を貫く電気力線の総本数は$\frac{|q|}{\varepsilon_0} =4\pi k|q|$。<br/>
 +
故に、球面の半径を変えてもこの本数は変わらないことが分かる。<br/>
 +
大学で学ぶ少し高等な数学(注参照)を利用すると、<br/>
 +
O点を含む任意の形状の立体の表面を貫く電気力線の総数も、<br/>
 +
$\frac{q}{\varepsilon_0} $であることが示せる。<br/>
 +
(注)ベクトル解析という。
 +
興味のある方は本テキストの<br/>
 +
[[物理/物理数学(2) 多変数の解析学と常微分方程式#☆☆ベクトル解析|☆☆ベクトル解析]]や、 
 +
*[[wikipedia_ja:ベクトル解析|ウィキペディア(ベクトル解析)]]
 +
をご覧ください。<br/>
 +
●O点を含まない任意の形状の立体の表面を貫く電気力線の総本数;<br/>
 +
O点からの半直線である電気力線がこの面から立体の中にはいると、<br/>
 +
必ず出ていくので、この立体に入る電気力線の本数は、出ていく本数と等しい。<br/>
 +
前者は負の本数と取り決めると、立体を出ていく本数の合計は0本となる。<br/>
 +
故にこの場合も、<br/>
 +
立体の表面を貫いて出ていく電気力線の総数=$\frac{q}{\varepsilon_0} $が成立する。<br/>
 +
ここで$q=0 $はこの立体の内部にある点電荷量。<br/>
 +
======ガウスの法則 ======
 +
RT点電荷の作る電場では<br/>
 +
任意の形状の滑らかな境界を持つ立体の表面を貫く電気力線の総本数は、<br/>
 +
その内部の電荷量をqとすると、<br/>
 +
$\frac{q}{\varepsilon_0} \qquad \qquad (1)$<br/>
 +
を満たすことが分かった。<br/>
 +
● 重ね合わせの原理をもちいると、上記の法則は次のように、一般化出来る。<br/>
 +
電磁気学の基本法則の一つで,非常に重要な法則である。  <br/><br/>
 +
'''ガウスの法則''';
任意の形状の立体Vの表面Sを貫いて出ていく電気力線の総数=$\frac{Q}{\varepsilon_0} $。<br />
任意の形状の立体Vの表面Sを貫いて出ていく電気力線の総数=$\frac{Q}{\varepsilon_0} $。<br />
-
 
+
ここで、$Q$はこの立体の内部にある全電荷量。  <br/><br/>
-
ここで、$Q$はこの立体の内部にある全電荷量。  <br />
+
これまでの議論から分かるように、ガウスの法則はクーロン則から導かれたのである。 <br/>
-
これを'''ガウスの法則'''という。電磁気学の基本法則の一つで重要な法則である。  <br />
+
● ガウスの法則は電磁気学の基本法則のひとつで、色々応用される。<br/>
-
この法則の導出を吟味すると、ガウスの法則はクーロン則から導かれていることがわかる。 <br />
+
理解を深めるため別の表現を記しておく。<br/>
-
ところがクーロン力はあらゆる静止電荷間に作用するので <br />
+
「任意の形状の立体Vの表面Sを貫いて出ていく電気力線の総数」を、<br/>
-
ガウスの法則は、電気力線(電場)を生み出している、立体Vの内部にある電荷をすべて考慮してQとすれば、どのような物質の中でも、常に成立している。<br />
+
電場$\vec E$と<br/>
-
「2.5 電場中の不導体と誘電分極」で学ぶように電荷Qを置いたとき、それが作る電場で、自動的に電荷が誘導され、これのつくる電場がもとの電場に加わって変化した電場が観測される。 <br />
+
Sの各点$\vec r$におけるVの単位外法線$\vec n(\vec r)$(点$\vec r$に、Vの外部にむけて立てた長さ1の垂線)<br/>
-
そこで観測電場の電気力線のガウスの法則の右辺の電荷は、立体V内の元の電荷と誘電された電荷を含めたものにしないといけない。
+
を用いて表現しよう。<br />
-
● ガウスの法則は電磁気学の基本法則のひとつで、色々応用されるので、理解を深めるため別の表現を記しておく。<br />
+
'''$\vec n(\vec r)$と$\vec E(\vec r)$が方向も向きも一致するとき'''は、<br/>
-
「任意の形状の立体Vの表面Sを貫いて出ていく電気力線の総数」を、電場$\vec E$とSの各点$\vec r$に立体Vの外部にむけて立てた長さ1の垂線$\vec n(\vec r)$(Sの点$\vec r$におけるVの単位外法線と呼ぶ)を用いて表現しよう。<br />
+
面Sは、点$\vec r$の近くの小部分$dS(\vec r)$で、$\vec E(\vec r)$と直交するので、<br/>
-
'''$\vec n(\vec r)$と$\vec E(\vec r)$が方向も向きも一致するとき'''は、面Sは、点$\vec r$の近くの小部分$dS(\vec r)$で、$\vec E(\vec r)$と直交するので、ここを貫いて出ていく電気力線の本数はE($\vec r$)×$dS(\vec r)$の面積=$\vec E(\vec r)$の外法線成分×$dS(\vec r)$の面積。<br />
+
ここを貫いて出ていく電気力線の本数は<br/>
 +
E($\vec r$)×$dS(\vec r)$の面積=$\vec E(\vec r)$の外法線成分×$dS(\vec r)$の面積。<br />
'''$\vec n(\vec r)$と$\vec E(\vec r)$が方向は一致するが向きは逆の時'''は、 <br />
'''$\vec n(\vec r)$と$\vec E(\vec r)$が方向は一致するが向きは逆の時'''は、 <br />
-
点$\vec r$の近くの小部分$dS(\vec r)$で、$\vec E(\vec r)$と直交するが、電気力線は、この小部分から、立体Vに、流れ込む。 <br />
+
点$\vec r$の近くの小部分$dS(\vec r)$で、$\vec E(\vec r)$と直交するが、<br/>
-
その本数はマイナスで数え、-E($\vec r$)×$dS(\vec r)$の面積=$\vec E(\vec r)$の外法線成分×$dS(\vec r)$の面積。<br />
+
電気力線は、この小部分から、立体Vに、流れ込む。 <br />
 +
その本数はマイナスで数え、<br/>
 +
-E($\vec r$)×$dS(\vec r)$の面積=$\vec E(\vec r)$の外法線成分×$dS(\vec r)$の面積。<br />
'''$\vec n(\vec r)$と$\vec E(\vec r)$ が角度 $\theta$のとき。''' <br />
'''$\vec n(\vec r)$と$\vec E(\vec r)$ が角度 $\theta$のとき。''' <br />
-
$\vec E(\vec r)$の、小部分$dS(\vec r)$に対する直交成分は、$\vec E(\vec r)$の外法線成分であるので、この部分を貫いて外部に出ていく電気力線の数は、この場合も、$\vec E(\vec r)$の外法線成分。<br />
+
$\vec E(\vec r)$の、小部分$dS(\vec r)$に対する直交成分は、<br/>
 +
$\vec E(\vec r)$の外法線成分であるので、<br/>
 +
この部分を貫いて外部に出ていく電気力線の数は、この場合も、$\vec E(\vec r)$の外法線成分。<br />
局面Sの微小部分$dS(\vec r)$を寄せ集めてS全体にすると、<br />
局面Sの微小部分$dS(\vec r)$を寄せ集めてS全体にすると、<br />
-
「任意の形状の立体Vの表面Sを貫いて出ていく電気力線の総数」は、電場$\vec E$の外法線成分のS全体での平均値×面Sの面積となる。<br />
+
「任意の形状の立体Vの表面Sを貫いて出ていく電気力線の総数」は、<br/>
 +
電場$\vec E$の外法線成分のS全体での平均値×面Sの面積となる。<br />
従ってガウスの法則は、次のように言いかえることができる。<br />
従ってガウスの法則は、次のように言いかえることができる。<br />
S上の電場$\vec E$の外法線成分のS全体での平均値×面Sの面積=$\frac{Q}{\varepsilon_0} $。<br />
S上の電場$\vec E$の外法線成分のS全体での平均値×面Sの面積=$\frac{Q}{\varepsilon_0} $。<br />
あるいは、$\varepsilon_0 \vec E$の外法線成分のS全体での平均値×面Sの面積=$Q$。
あるいは、$\varepsilon_0 \vec E$の外法線成分のS全体での平均値×面Sの面積=$Q$。
-
(注)これは真空中にある電荷について成立する。不導体である流体、気体中では、電荷$Q$により、勝手に分極電荷という別の電荷が誘導され、これのつくる電場が加わって電気力線の数がかわってしまうので、ガウスの法則は成り立たない。しかし分極電荷も電荷にくわえれば、ガウス法則は常に成り立つ。これについては、[[http://ja.iwschool.org/wiki/%E7%89%A9%E7%90%86/%E9%9B%BB%E6%B0%97%E3%81%A8%E7%A3%81%E6%B0%97(%EF%BC%91)_%E9%9D%99%E9%9B%BB%E6%B0%97%E3%81%A8%E9%9B%BB%E7%95%8C%E3%80%81%E9%9D%99%E7%A3%81%E6%B0%97#.E9.9B.BB.E7.95.8C.E4.B8.AD.E3.81.AE.E4.B8.8D.E5.B0.8E.E4.BD.93.E3.81.A8.E8.AA.98.E9.9B.BB.E5.88.86.E6.A5.B5.E3.80.80 | 2.5 電場中の不導体と誘電分極]]で学ぶ。
+
(注)これは真空中にある電荷について成立する。<br/>
 +
不導体である流体、気体中では、<br/>
 +
電荷$Q$により生じる電場により<br/>
 +
流体や気体の原子中の原子核と電子が逆向きの力を受けて位置を変え、<br/>
 +
片側に+、反対側に-電荷が集まる(分極するという)。<br/>
 +
この分極電荷により新たに生じる電場が加わって、<br/>
 +
電気力線の数がかわってしまうので、ガウスの法則は成り立たない。<br/>
 +
しかし分極電荷も電荷にくわえれば、ガウス法則は常に成り立つ。<br/>
 +
これについては、
 +
[[物理/静電気と静電場(その2 静電誘導)#電場中の不導体と誘電分極(RT)|5.2 静電気と静電場(その2 静電誘導)#電場中の不導体と誘電分極]]で学ぶ。
===== ガウスの法則の応用=====
===== ガウスの法則の応用=====
-
例1:面密度(単位面積あたりの電荷量)$\sigma $ で、一様に電荷が分布する無限に広い平面の作る電場。 <br />
+
1:面密度(単位面積あたりの電荷量)$\sigma(\gt 0) $ で、<br/>
-
ヒント 平面から距離dの点の電場は、対称性から向きはこの平面に直行し、大きさはどのでも等しい。平面から距離d以内の点のつくる正方体を考え、ガウスの法則を適用する。<br />
+
一様に電荷が分布する無限に広い平面が周りの真空に作る電場$\vec E$ を求めよ。<br/><br/>
-
解:$E=\frac{\sigma}{2 \varepsilon_0} $         <br />
+
ヒント  <br/>
-
例2:平行板コンダンサー(2枚の金属の薄い平板を距離dをへだてて平行に置き電極をつけたもの。dに比べ極板面積は十分大きいとする)の1枚の極板に面密度 $+\sigma $、他方の極板に面密度$-\sigma $の電荷を帯電させた時、周りに生じる電場を求めよ。<br />
+
対称性から、平面から距離dの点の電場は、<br/>
-
解:例1と重ね合わせの原理より、極板間では$E=\frac{\sigma}{\varepsilon_0} $, 他では零。
+
方向・向きはこの平面に直交し電荷平面から放射される向きで、<br/>
 +
大きさはどの点でも等しい。<br/><br/>
 +
この大きさを求めるには、<br/>
 +
荷電平面から距離d内の点からできている直方体を考える。<br/>
 +
この直方体の表面にガウスの法則を適用する。<br/>
 +
 [[File:GENPHY00010501-01.pdf|right|frame|図 一様な電場]]
 +
解:$\vec E$の大きさは$E=\frac{\sigma}{2 \varepsilon_0} $ <br/>
 +
方向は極板に直交し、極板から 遠ざかる向きである。      <br/><br/>
 +
2:帯電した平行板の作る電場<br/>
 +
真空中に、2枚の無限に広い平板が距離dを隔てて平行に置かれている。<br/>
 +
一方の平板には面密度 $+\sigma $、他方の平板には面密度$-\sigma $の電荷が一様に帯電している。<br/>
 +
この時平板の周りに生じる電場を求めよ。<br/><br/>
 +
解:前記の例1と重ね合わせの原理より、<br/>
 +
・平板間の電場は、大きさは$E=\frac{\sigma}{\varepsilon_0} $,<br/>
 +
方向・向きは極板に直交し、正の平板から負の平板の向きであり、<br/>
 +
・2枚の平板の間と2枚の平板内を除く空間の電場は零である <br/>
 +
ことが分かる。<br/><br/>
 +
 
 +
3;一様に帯電した球体のつくる電場<br/>
 +
半径がaの一様に帯電した球体が作る電場を求めよ。<br/>
 +
但し、電荷密度(単位体積当たりの電荷量)を$\rho$とする。<br/><br/>
 +
解;対称性から空間の任意の点Pでの電場の大きさEは球体の中心Oからの距離r=OP だけで決まり、<br/>
 +
電場の方向は、直線OPと同じであることが分かる。<br/>
 +
(1)$r\leq a$ の時<br/>
 +
中心がOで半径rの球面にガウスの法則を適用すると,<br/>
 +
$4\pi r^{2}E=\frac{\frac{4}{3}\pi r^3 \rho}{\epsilon_0}$<br/>
 +
これより、$E=\frac{r\rho}{3\epsilon_0}$<br/>
 +
(2)$r\gt a$ の時<br/>
 +
同様にして、<br/>
 +
$4\pi r^{2}E=\frac{\frac{4}{3}\pi a^3 \rho}{\epsilon_0}$<br/>
 +
これより、$E=\frac{a^{3}\rho}{3\epsilon_0 r^2}$<br/>
 +
==== 静電場のエネルギー  ====
 +
 
 +
==== ☆☆自己力の問題RT ====
 +
点電荷の作る電場は、自己に力を及ぼさないのだろうか。
=== 電位と電圧===
=== 電位と電圧===
-
電界中で電荷は力を受ける。その力と逆向きで同じ大きさ(実際にはそれより無限小だけ大きい)の力を与えて、単位電荷を基準とするO点からA点に(電荷の運動エネルギーが無視できるほどに)ゆっくり動かすのに必要なエネルギーを、O点を基準点としたA点の'''電位'''(electric potential)
+
==== クーロン力は保存力で静電場は保存力場 ====
-
という。<br/>
+
静電荷が他の静電荷に及ぼす
-
前述のように点電荷のクーロン力は保存力なので、O点からA点に動かす経路に関係なく,このエネルギーは一定なので、電位は定まる。  <br/>
+
クーロン力は、<br/>
-
複雑に配置された電荷のつくる電界の場合にも、重ね合わせの原理から、電界からうける力は保存力となり、電位は経路に関係なく定まる。  <br/>
+
2章 力学 4節 エネルギーと保存則(その1) の
 +
[[物理/エネルギーと保存則(その1)#保存力の十分条件|保存力の十分条件]]
 +
によれば、<br/>
 +
保存力であることが分かる。<br/>
 +
従って、静電荷がつくる電場は保存力場であり、<br/>
 +
重ね合わせの原理から、多数の電荷の作る電場も保存力場。
 +
静電場は、多数の静電荷がつくった電場と考えられるので保存力場である。
 +
 
 +
==== 電位====
 +
保存力は位置エネルギをもつ。<br/>
 +
単位電荷あたりのクーロン力に関する位置エネルギーを電位という。(注1参照)<br/>
 +
具体的には、<br/>
 +
ある点Oを定め、この点の電位を零と定める。O点を電位の基準点と呼ぶ(注2参照)。<br/>
 +
電場中の任意の点Aの基準点Oからみた'''電位'''(electric potential)とは、<br/>
 +
単位電荷をO点からA点に、<br/>
 +
電場から受ける力を打ち消しながら、<br/>
 +
(電荷の運動エネルギーが無視できるほどに)ゆっくり動かす<br/>
 +
のに必要な仕事の量で定義する(注2参照)。<br/>
 +
電場は保存力場なので、<br/>
 +
O点からA点に動かす経路に関係なく仕事は一定なので、電位は一意に決まる。<br/>
 +
単位電荷をA点からO点まで移動させるときに、電場からの力がする仕事を、<br/>
 +
A点の(基準点Oからみた)電位と定義しても、同等である。<br/><br/>
 +
なお、電場をつくっている周りの電荷の位置が、<br/>
 +
単位電荷からの力で変化し電場が変わってしまう場合には、<br/>
 +
電荷量$q$ を無限に小さくして、これをA点からO点まで移動させるときに、<br/>
 +
電場からの力がする仕事$W_{q}$を求め、<br/>
 +
単位電荷あたりの仕事$\frac{W_{q}}{q}$を求め、A点の電位と決める。<br/><br/>
 +
複雑に配置された電荷のつくる電場の場合にも、<br/>
 +
重ね合わせの原理から電場からうける力は保存力となり、<br/>
 +
電位は経路に関係なく一意に定まる。 <br/>
 +
(注1)電位は電気力という保存力に関する位置エネルギーなので、<br/>
 +
第2章 力学の「2.4 エネルギーと保存則(その1)」の議論は、<br/>
 +
単位質量当たりの位置エネルギーを電位と読み替えれば、全て成立する。<br/>
 +
すると、殆ど説明なしで電位はすませるが、<br/>
 +
大変重要な概念なので重複をいとわず、本節では、ある程度詳しく述べる。<br/>
 +
(注2)通常、基準点Oは無限遠の点が選ばれる。<br/>
 +
 
 +
==== 2点間の電圧====
 +
任意の2点間の電位の差を、<br/>
 +
2点間の'''電位差'''(difference of electric potential)あるいは'''電圧'''(voltage)という。<br/>
 +
 
-
電位については以下を参照のこと。
+
なお電位については
*[[wikipedia_ja:電位|ウィキペディア(電位)]]
*[[wikipedia_ja:電位|ウィキペディア(電位)]]
-
2点間の電位の差を、電位差あるいは電圧という。
 
-
 
また保存力については、
また保存力については、
*[[物理/力学(4) 運動量と力学的エネルギー保存則|力学(4) 運動量と力学的エネルギー保存則]]の位置エネルギーの項と
*[[物理/力学(4) 運動量と力学的エネルギー保存則|力学(4) 運動量と力学的エネルギー保存則]]の位置エネルギーの項と
*[[wikipedia_ja:電位|ウィキペディア(電位)]]
*[[wikipedia_ja:電位|ウィキペディア(電位)]]
-
を参照のこと。
+
を参照のこと。<br/><br/>
 +
===== 電位・電圧の単位=====
 +
電荷の単位をクーロン、仕事の単位をジュールとしたときの<br/>
 +
電位や電圧の単位を'''ボルト'''(記号V)という。<br/>
 +
すなわち、 $V=J/C$ 。<br/><br/>
 +
*[[wikipedia_ja:ボルト|ウィキペディア(ボルト)]]
-
==== 電界と直交する曲線上では等電位====
+
==== 電場と直交する曲線上では等電位====
-
曲線のどの場所でも電界と直交する曲線Cを考える。この上では電位は等しいことが次のようにして示せる。<br/>
+
曲線のどの場所でも電場と直交する曲線Cを考える。<br/>
-
曲線上の任意の点Aから、曲線上の他の点Bまで、単位電荷を曲線にそってゆっくり移動させよう。<br/>この時電荷に加える力は、電界と逆むきで大きさの等しい力である(これ以外に、C上をゆっくり動かすために無限に小さな力を加えたもの。しかしこれはいくらでも小さくできるので無視できる)。<br/>
+
この上では電位は等しいことが次のようにして示せる。<br/>
-
しかしC上を動くときは、動く方向は、常に電界と直交するので、電荷に加える力とも直交し、仕事は零となる。したがって電位は等しい。
+
曲線上の任意の点Aから曲線上の他の点Bまで、<br/>
 +
単位電荷を曲線にそってゆっくり移動させよう。<br/>
 +
この時電荷に加えなければならない力は、<br/>
 +
電荷が電場から受ける力で動かないようにするための力と、<br/>
 +
静止する電荷を曲線Cに沿って無限にゆっくりと移動させる力<br/>
 +
の和である。<br/>
 +
仮定から電荷は常に、電場方向と直角に動くので、前者の力がする仕事は零である。<br/>
 +
後者の力は無限に小さいので、<br/>
 +
この力で、単位電荷を点Aから点Bまで動かす時の仕事は無視できる。<br/>
 +
したがって単位電荷を点Aから点Bまで、<br/>
 +
無限にゆっくり動かす力のなす仕事が零であることが示せた。<br/><br/>
 +
(注)これ以外に曲線C上をゆっくり動かすために<br/>
 +
Cの接線方向に無限に小さな力を加える必要がある。<br/>
 +
しかし、この力のなす仕事は無限に小さく無視できる。
-
==== 電位・電圧の単位====
+
==== 点電荷のつくる電場の電位====
-
電荷の単位を[C],仕事の単位を[J]にした時の電位を、ボルトという。すなわち[V]=[J/C]。
+
電位の基準点として無限の彼方をとる。<br/>
-
*[[wikipedia_ja:ボルト|ウィキペディア(ボルト)]]
+
A点に置かれた+q[C]の電荷のつくる電場の電位は、A点から距離$r_0[m]$の点Pで、<br/>
 +
$\phi(r)=k\frac{q}{r_0}\qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad (9.1)$  <br/>
 +
である。<br/>
 +
これは単位の正電荷を無限遠点からP点まで、<br/>
 +
クーロン力に抗した力を加え限りなくゆっくり動かす時の力のする仕事である。<br/>
 +
単位の正電荷をP点から無限遠点まで動かすとき、電場が電荷に行う仕事に等しい。
 +
<br/>
 +
(注)式(9.1)の導出;<br/>
 +
電荷qの作る電場が、距離rにある単位電荷に与える力の大きさはクーロンの法則から<br/>
 +
$\frac{kq}{r^2}$なので、単位の正電荷をP点から無限遠点まで動かすとき、電場が電荷に行う仕事は、<br/>
 +
$\int_{r=r_0}^{\infty}\frac{kq}{r^2}=kq[-r^{-1}]_{r_0}^{\infty}=\frac{qk}{r_0}$
 +
 
 +
==== 電位の重ね合わせの原理====
 +
電場の重ね合わせの原理から、<br/> 
 +
それぞれの電荷のつくる電位を加えればよいことが分かる。<br/>
 +
すなわち、電荷$q_i$が、点Pに作る電位を$\phi_i(P)\quad (i=1,2,,,n)$と書くと、<br/>
 +
これらの電荷が同時に存在するときの点Pの電位は $\phi(P)=\sum_{i=1}^{n}\phi_i(P)$
-
==== 点電荷のつくる電界の電位====
 
-
電位の基準点として無限の彼方をとる。A点に置かれた+q[C]の電荷のつくる電界の電位は、A点から距離r[m]の点Pで、$\mathit{V}=\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0 r}$ 。  これは単位の正電荷を無限遠点からP点まで、クーロン力に抗した力を加えゆっくり動かす時の力のなすエネルギーを積分計算して求めればよい。
 
-
==== 2つ以上の点電荷の作る電界の電位====
 
-
電界の重ね合わせの原理から、それぞれの点電荷のつくる電位を加えればよい。
 
==== 電気双極子 ====
==== 電気双極子 ====
-
電気双極子(electric dipole)とは、微小な距離だけ離れた、大きさの等しい正負一対の電荷のこと。  <br/>
+
電気双極子(electric dipole)とは、 <br/>
-
後述するように電気双極子は自然界によく現れるので、双極子のつくる電位$\phi$を調べることは大切である。 <br/>
+
微小な距離だけ離れた、大きさの等しい正負一対の電荷のこと。  <br/>
-
電荷をq,-qとし、-qからqへのベクトルを $\vec d$ とする。空間の原点を両電荷の中点に選ぶ。 <br/>
+
後述するように電気双極子は自然界によく現れるので、<br/>
-
位置ベクトル $\vec r$ の電位は、重ね合わせの原理より、 <br/>
+
双極子のつくる電位$\phi$を調べることは大切である。 <br/>
-
<br/>
+
電荷をq,-qとし、-qの位置からqの位置へのベクトルを $\vec d$ とする。<br/>
-
 
+
空間の原点を両電荷の中点に選ぶ。 <br/>
-
$\phi(\vec r)\,=\,\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0 r_q}\,-\,\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0 r_{-q}}\,=\,\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0}(\frac{1}{r_q}-\frac{1}{r_{-q}})\hspace{150pt}          (9-1)$    <br/>
+
位置ベクトル $\vec r$ の点の電位は、重ね合わせの原理より、 <br/>
-
ここで、 $r_q$  は点電荷qと位置ベクトル$\vec r$ の点との距離、 $r_{-q}$  は点電荷-qと位置ベクトル$\vec r$ の点との距離。 <br/>
+
$\phi(\vec r)\,=\,\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0 r_q}\,-\,\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0 r_{-q}}\,=\,\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0}(\frac{1}{r_q}-\frac{1}{r_{-q}})\hspace{150pt}          (9-2)$    <br/>
-
次の説明も参考に。
+
$\quad$ここで、 $r_q$  は点電荷qと位置ベクトル$\vec r$ の点との距離、 <br/>
 +
$\quad$$r_{-q}$  は点電荷-qと位置ベクトル$\vec r$ の点との距離。 <br/>
 +
$\quad \frac{1}{4 \pi \varepsilon_0}\triangleq k$<br/>
 +
$\qquad$ 面積が$4 \pi$である単位球の表面にわたって積分するとき積分結果が簡潔になるので、<br/>
 +
$\qquad$ 今後はkの代わりに使うことが多い。<br/>
 +
電気双極子については次の説明も参考に。
*[[wikipedia_ja:電気双極子|ウィキペディア(電気双極子)]]
*[[wikipedia_ja:電気双極子|ウィキペディア(電気双極子)]]
-
===== 遠方に作る電位と双極モーメント =====
+
===== 遠方に作る電位と双極子モーメント =====
双極子の電荷間の距離 d に比べて、ずっと離れた点 $\vec r$  の電位を簡略な式で近似しよう。 <br/>
双極子の電荷間の距離 d に比べて、ずっと離れた点 $\vec r$  の電位を簡略な式で近似しよう。 <br/>
-
式(9.1)で $r_q$ は、点電荷 q と位置ベクトル$\vec r$ の点との距離なので、$r_q=||\vec r -\frac{\vec d}{2}||=\sqrt{\sum_{i=1}^3 |r_i-d_i/2|^2}$、同様に、$r_{-q}=||\vec r +\frac{\vec d}{2}||=\sqrt{\sum_{i=1}^3 |r_i+d_i/2|^2}$  <br/>
+
式(9.1)で $r_q$ は、点電荷 q と位置ベクトル$\vec r$ の点との距離なので、<br/>
-
$||\vec d|| \ll ||\vec r|| $ の時、まず、$\frac{1}{r_q}$ を簡略化する。<br/>
+
$r_q=||\vec r -\frac{\vec d}{2}||=\sqrt{\sum_{i=1}^3 |r_i-d_i/2|^2}$、<br/>
-
$\frac{1}{r_q}=
+
同様に、$r_{-q}=||\vec r +\frac{\vec d}{2}||=\sqrt{\sum_{i=1}^3 |r_i+d_i/2|^2}$  <br/>
-
1/||\vec r -\frac{\vec d}{2}||=
+
$||\vec d|| \ll ||\vec r|| $ の時、まず $\frac{1}{r_q}$ を簡略化する。<br/>
-
1/||\vec r|| \times ||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-\frac{\vec d}{2||\vec r||}||=
+
$\frac{1}{r_q}=1/||\vec r -\frac{\vec d}{2}||=
-
1/||\vec r||\times ||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}\frac{\vec d}{||\vec d||}||$    <br/>
+
1/||\vec r|| \times ||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-\frac{\vec d}{2||\vec r||}||$  <br/>
 +
$=1/||\vec r||\times ||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}\frac{\vec d}{||\vec d||}||$    <br/>
$f(x)=1/{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}$ という関数を導入すると    <br/>
$f(x)=1/{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}$ という関数を導入すると    <br/>
-
$\frac{1}{r_q}=\frac{1}{||\vec r||}f(\frac{||\vec d||}{2||\vec r||})$
+
$\frac{1}{r_q}=\frac{1}{||\vec r||}f(\frac{||\vec d||}{2||\vec r||})$<br/>
-
<br/>
+
ここで $\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}$ は微小なので、$f(\frac{||\vec d||}{2||\vec r||})$ は<br/>
-
ここで $\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}$ は微小なので、$f(\frac{||\vec d||}{2||\vec r||})$ は、 $x=0$ での、$y=f(x)$ の接線の$x=\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}$ での値$y=f(0)+f'(0)\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}$ で精度良く近似できる。そのため、<br/>
+
$x=0$ での$y=f(x)$ の接線 $y=f(0)+f'(0)x$ の$x=\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}$での値$y=f(0)+f'(0)\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}$ <br/>
-
$(9-2)\hspace{50pt} \frac{1}{r_q} \simeq \frac{1}{||\vec r||}(f(0)+f'(0)\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}) $    <br/>     
+
で精度良く近似できる。そのため、<br/>
-
 
+
$\frac{1}{r_q} \simeq \frac{1}{||\vec r||}(f(0)+f'(0)\frac{||\vec d||}{2||\vec r||})\hspace{50pt} (9-3) $    <br/>     
ここで、 <br/>  
ここで、 <br/>  
-
$(9-3)\hspace{150pt} f(0)=1$        <br/>  
+
$ f(0)=1 \hspace{150pt} (9-4)$        <br/>  
-
 
+
$f'(0)=\lim_{x \to 0} \frac{f(x)-f(0)}{x}=\lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(\frac{1}{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}-1)$<br/>
-
$f'(0)=\lim_{x \to 0} \frac{f(x)-f(0)}{x}=\lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(\frac{1}{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}-1)=\lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(\frac{1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||})  $   <br/>
+
$=\lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(\frac{1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||})  $ <br/>
-
 
+
$=\lim_{x \to 0}\frac{\frac{1}{x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||)}{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}$<br/>
-
$=\lim_{x \to 0}\frac{\frac{1}{x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||)}{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}=
+
$=\lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||)$<br/>
-
\lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||)=
+
$=\lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||^2)/(1+||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||)$<br/>
-
\lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||^2)/(1+||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||)$   <br/>
+
$=\lim_{x \to 0}\frac{1}{2x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||^2)$ 、 <br/>
-
$
+
上の式を変形する。<br/>
-
=\lim_{x \to 0}\frac{1}{2x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||^2)
+
$||\vec{a}- \vec{b}||^2=||\vec{a}||^2+||\vec{b}||^2-2\vec{a} \cdot \vec{b}$ <br/>
-
$ 、     <br/>
+
(ここで、$\vec{a} \cdot \vec{b}=\sum_{n=1}^{3}a_{n}b_{n}$) 、 <br/>
-
上の式を
+
実数αに対して$||\alpha \vec{a}||=\|\alpha \| ||\vec{a}||$<br/>
-
$
+
-
||\vec{a}- \vec{b}||^2=||\vec{a}||^2+||\vec{b}||^2-2\vec{a} \cdot \vec{b}
+
-
$ (ここで、
+
-
$
+
-
\vec{a} \cdot \vec{b}=\sum_{n=1}^{3}a_{n}b_{n}
+
-
$) 、実数αに対して$||\alpha \vec{a}||=\|\alpha \| ||\vec{a}||=$
+
を利用して変形すると<br/>
を利用して変形すると<br/>
-
$ (9-4)\hspace{50pt}
+
$ f'(0)=\lim_{x \to 0}\frac{1}{2x}(-x^{2}+2x \frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{||r||\times||d||})
-
f'(0)=\lim_{x \to 0}\frac{1}{2x}(-x^{2}+2x \frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{||r||\times||d||})
+
=\frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{||r||\times||d||} \hspace{100pt(9-5)$ <br/>
-
=\frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{||r||\times||d||}  $ <br/>
+
(9-3)式に、 (9-4),(9-5)式を代入して、<br/>
-
(9-2)式に、 (9-3),(9-4)式を代入して、<br/>
+
$\frac{1}{r_q} \simeq \frac{1}{||\vec r||}(1+\frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{2||r||^2}) \hspace{150pt} (9-6)$ <br/>
-
$(9-5)\hspace{50pt}\frac{1}{r_q} \simeq \frac{1}{||\vec r||}(1+\frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{2||r||^2})     $ <br/>
+
同様に計算すると<br/>
同様に計算すると<br/>
-
$(9-6)\hspace{50pt} \frac{1}{r_{-q}} \simeq \frac{1}{||\vec r||}(1-\frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{2||r||^2})$ <br/>
+
$\frac{1}{r_{-q}} \simeq \frac{1}{||\vec r||}(1-\frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{2||r||^2})\hspace{150pt} (9-7)$ <br/>
-
(9-1)式に、 (9-5),(9-6)式を代入すると、
+
(9-2)式に、 (9-6),(9-7)式を代入すると、
<br/>
<br/>
-
$(9-7)\hspace{50pt}\phi(\vec r)=\frac{q \vec{r}\cdot\vec{d}}{4 \pi \varepsilon_0 ||r||^3} $    <br/>
+
$\phi(\vec r)=\frac{q \vec{r}\cdot\vec{d}}{4 \pi \varepsilon_0 ||r||^3} \hspace{150pt}(9-8)$    <br/>
-
上の式で、$\vec{p}=q \vec{d}$ (-qからqへのベクトルを$\vec{d}$ とする)
+
上の式で、<br/>
-
と置き一対の電荷-q、q の作る'''双極子モーメント'''と呼ぶ。これを用いると、双極子が離れた点$\vec{r}$に作る電位は、<br/> 
+
$\vec{p}=q \vec{d} \hspace{200pt}(9-9)$ <br/>
-
$ (9-8)\hspace{50pt} \phi(\vec r)=\frac{ \vec{r}\cdot\vec{p}}{4 \pi \varepsilon_0 ||r||^3}   $
+
と置き,一対の電荷-q、q の作る'''双極子モーメント'''と呼ぶ。<br/>
 +
これを用いると、双極子が離れた点$\vec{r}$に作る電位は、<br/> 
 +
$\phi(\vec r)=\frac{ \vec{r}\cdot\vec{p}}{4 \pi \varepsilon_0 ||\vec r||^3}\hspace{150pt}  (9-10)$<br/> 
 +
この式から、位置 $\vec r$ に双極子の作る電位は、<br/>
 +
双極子の向きによって、正にも負にも、零にもなることが分かる。<br/>
 +
物質を構成している原子の向きは、通常の状態では、バラバラなので、<br/>
 +
それらが位置 $\vec{r}$ に作る電位の和は、打ち消し合って限りなく零に近くなる。<br/>
 +
これが物質を外部から見ると、電荷をもたないようにみえる理由である。<br/><br/>
 +
さらに、<br/>
 +
$|\vec{r}\cdot\vec{p}|\leq \|\vec{r}\|\|\vec{p}\|$ なので、<br/>
 +
電気双極子がつくる電位は、距離の増加により、急速に($\|\vec{r}\|^2$に反比例して)減少することが分かる。<br/>
 +
一方、電荷の作る電位は、(9.19)式;$\phi(\vec r)=\frac{ q}{4 \pi \varepsilon_0r}$から、<br/>
 +
距離の増加により それに反比例して減少するので、減少の仕方がずっと緩やかである。
==== 等電位面 ====
==== 等電位面 ====
-
電位の等しい点をつないで出来る面を等電位面という。等電位面と電気力線は直交していることが示せる。導体のすぐ外側の電界は、導体表面に垂直である。理由を考えてみてください。
+
電位の等しい点をつないで出来る面を等電位面という。<br/>
 +
等電位面と電気力線は直交していることが示せる。<br/>
 +
導体表面の電界は、導体表面に垂直である。<br/>
 +
これらの理由を考えてみてください。
 +
=== 電荷量qの電荷の位置エネルギー(ポテンシャル・エネルギー)  ===
 +
単位電荷を電場からうける力に抗して<br/> 
 +
位置Aから位置Bに(無限にゆっくりと)移動させるのに必要なエネルギーで、<br/>
 +
位置Aからみた位置Bの電位$V(B,A)$を定義し,その性質を調べてきた。<br/>
 +
電位$V(B,A)$は、位置Bにある単位電荷の位置Aからみた位置エネルギー(ポテンシャル・エネルギー)である。<br/>
 +
この定義から、<br/>
 +
位置Bにある電荷qの位置Aからみた位置エネルギーは、$V(B,A)q$であることが分かる。

2018年6月22日 (金) 16:51 時点における最新版

目次

「 5.1 静電気と静電場(その1)」

電磁気現象の根源

物質をつくっている原子は、いくつかの陽子と中性子が固く結合した原子核とその周りにある電子から出来ている。
原子核を作る陽子は正の電荷+eをもち、
中性子は電荷をもたない。
電子は、陽子と逆符号の電荷-eを持つ(注1)。
この陽子と電子の電荷が電気の実体である。
電荷の量を電荷量あるいは略して電荷という。
電荷の間には電気力が働く。同符号の電荷は互いに反発し、異符号の電荷は互いに引き合う(注2)。  
電子の個数は陽子と同数であり、原子を巨視的な意味で離れて眺めると、
正負の電荷が打ち消しあって電荷をもたない粒子に見える。

原子核と電子は引き合い、原子を作っている。
また近くの原子同士も電気力で引き合い分子をつくり(注3)、気体や液体、固体をつくる。

帯電、静電気、磁石、電流、電磁波など、すべての電磁気現象は、電子と陽子の存在と運動によって生じる。 
この章でこれらの電磁気現象とその法則について学ぶ。    
(注1)電荷の正負について:
陽子どうし、電子どうしは反発するが、陽子と電子は引き合う。従って陽子と電子はことなった電荷である。
さらに陽子と電子の個数が同じだと離れた所からみると、電荷がない粒子として振る舞う。
このため一方の電荷に+、他方にーをつけて和を取ると電荷が0になるようにする。
どちらにーをあててもよかったが歴史的に電子にーをあてた。
なお、原子核のなかで電気的に反発する複数の陽子がくっついているのは、
反発力より強い核力で引き合っているため(次章で簡単に説明する)。
(注2):電子は質量がはるかに大きい原子核に引き寄せられていくが、
ごく近くまでくると量子力学的な斥力を受け、それ以上は近づけない。
次章で簡単に説明する。
(注3);原子同士が引き合い分子をつくるメカニズムについては次章で簡単に紹介する。

古典電磁気学の前提について

原子のことが良く分かっていない時代に作られ古典電磁気学では、
各点のまわりに、原子よりはるかに大きいが物体からみれば一点とみなせる極小領域を考え、
この微小領域での平均的な電荷や電場を測定し、
それをその点の電荷や電場と考えて理論が作られた。
このような巨視的な見方に立つと、
物質中には正の電荷と負の電荷が重なり合って、
(液体のように)連続して分布しているとみなせる。
帯電していない(中性の)物体は、正負の電荷の密度が同じで、打ち消し合っているとみなせる。
このように古典電磁気学はミクロ現象を平均化して滑らかな現象ととらえ、
観測と実験をもとに理論を構築したものであり、
原始的なスケールの現象に適用すると誤った結論を導き出すこともあるが、
巨視的な現象については、正確で有効な理論になっている。

静電気

この節では、電荷の位置が時間とともに変化しない時(静止した電荷)の電気現象,いわゆる静電気について学ぶ。

帯電と電気素量

原子は通常、同数の陽子と電子から構成され、陽子の電荷量はe、電子の電荷量は-eなので、
離れた所から観測すれば、正と負の電荷の影響が打ち消しあって,電荷をもたない粒子として振る舞う。
このため原子からできている物質は、通常は電荷を持たない。
物質が他の物質との摩擦などにより電子をいくつか失ったり、獲得すると、物質は電気を帯びる。
帯電するという。
このため全ての物質の電荷量は e の整数倍になる。e を電気素量あるいは素電荷という。

点電荷

巨視的な観測では一点とみなせる微小な電荷を点電荷という。
力学で質点が果たした役割を、電磁気学では点電荷が果たす。

電子の電荷、質量 

電荷;$\quad -e=-1.602\times 10^{-19}C]$
ここで、 [C] は電荷の単位クーロンである。 これについては、「5.4 電流と磁場 の1.3.2 電流と電荷の単位」を参照のこと。
質量;$\quad m_e=9.11 \times 10^{-31}[kg]$
 
  なお、電子は大きさのない電荷と考えられている。 詳しくは、

陽子の電荷、質量、大きさ 

電荷;$\quad e=1.602\times 10^{-19}[C]$
質量;$\quad m_p=1.67 \times 10^{-27}[kg]$
荷電半径;$\quad r_p=0.88 \times 10^{-15}[m]$
詳しくは、

電荷保存の法則

電荷は消滅も生成もしないことが、経験によって確かめられている。これを電荷保存法則という。

クーロンの法則

この節「5.1」では、以後ことわない限り電荷は全て静止(固定)しているとする。
クーロンは実験の結果次の法則を発見した。
・同符号の2つの電荷間には斥力(反発力)、異符号の電荷間には引力が働く。
・その向きは、2つの電荷を結ぶ直線の方向と一致し、
・その大きさ $f$ は、2つの電荷の積 $q_{1} q_{2}$ に比例し、その距離 $r$ の2乗に反比例する。
$f=k\frac{q_{1} q_{2}}{r^2}\qquad \qquad (1)$
なお、真空中での比例定数は, $k=8.988\times 10^{9}[\frac{Nm^2}{C^2}]$ である(注参照)。
これをクーロンの法則という。
空気中でもこの値は殆ど変わらないので、通常この値を用いる。

(注)この比例定数は、物理量をSI国際単位系(距離[m],電荷[C])$\ $で表示しているときの値である。

 法則の適用可能な距離

どの位の距離までこの法則は成り立つのであろうか。
小さい方では、原子核の大きさは約 $10^{-15}m$ であるが、
その中の陽子間にはクーロンの法則が成り立つと考えられている(注参照)。
大きい方は、どこまで正確に法則がなりたつかは、はっきりしていない。 しかし、宇宙観測などからの分析から、現在の所、この法則は、この宇宙で普遍的に成り立つと考えられている。

(注) 
何故、正の電荷を持つ陽子同士が、互いに反発して飛散せず、固く結合して原子核を作っているのだろうか? それは、次章で簡単に触れるように、陽子同士が、これよりはるかに大きい核力で引き合うからである。

 クーロンの法則のベクトル表示

向きと大きさを同時に記述できるのでベクトル表示は便利である。
電荷$q_1$の位置ベクトルを$\vec{r_1}$、電荷$q_2$のそれを$\vec{r_2}$、
電荷$q_1$が電荷$q_2$から受けるクーロン力を$\vec{F_{1,2}}$とすると   
$\vec{F_{1,2}}=k\frac{q_1q_2}{||\vec{r_1}-\vec{r_2}||^2}\frac{\vec{r_1}-\vec{r_2}}{||\vec{r_1}-\vec{r_2}||}$

この表現法に慣れておくとよい。ここで、$ k=\frac{1}{4 \pi \varepsilon_0} $ と表現することがある。
$\varepsilon_0 $は真空の誘電率と呼ばれる。
$k\fallingdotseq 9.0\times 10^{9}[\frac{N m^2}{C^2}]$なので 、
$\varepsilon_0\fallingdotseq 8.9\times 10^{-12} [\frac{C^2}{N m^2}]$ である。   

(注)真空中の誘電率という用語について;
真空は空虚な空間なので奇異に思うかもしれないが、歴史的にこう命名された。
誘電については後述「2.5 電界中の不導体と誘電分極」で学ぶ。
クーロン則は誘電されるものが無い状態で常になりたつ。

 クーロン力の重ね合わせの原理

N(>2)個の電荷$q_1,,,,q_N $ があるとき、$q_1$ に作用する電気力は、
$q_2,,,,q_N $ のそれぞれから$q_1$が受けるクーロン力(ベクトル表示)の和になることが
実験で確かめられている。
これを、クーロン力の重ね合わせの原理という。

電気力は重力よりはるかに大きいこと

電子や陽子など、非常に小さい(あるいは大きさのない)素粒子と呼ばれる粒子は、
その位置が確率的にしか分からないが、
ニュートン力学の質点ように、その位置が分かるとして、
陽子と電子の間に働く電気力と万有引力の大きさを比べてみよう。
以下では、両者の距離を $r[m]$ とする。
(1)電気力
クーロンの法則の比例定数は $k=9\times 10^{9}[\frac{Nm^2}{C^2}]$、電気素量は、$e=1.6\times 10^{-19}[C]$ なので、
  クーロンの法則から、$f_e=ke^2/r^2[N]\fallingdotseq 9\times 10^{9} \times (1.6\times10^{-19})^2/r^2 [N]\fallingdotseq 23\times 10^{-29}/r~2 [N]$

(2)万有引力
電子の質量は $m_e\fallingdotseq 9\times 10^{-31}$、  陽子の質量は $m_p\fallingdotseq 1.67\times 10^{-27}$ なので
万有引力の法則から、
$f_g=Gm_em_p/r^2[N]\fallingdotseq 6.7\times 10^{-11}\times 9\times 10^{-31} \times 1.67\times10^{-27}/r^2 [N]\fallingdotseq 101\times 10^{-69}/r^2 [N]$

これらから、
$\frac{f_e}{f_g} \fallingdotseq 2.3 \times 10^{39}$

電気力が重力より桁違いに大きいことが分かる。

運動する2つの電荷の間に働く力

運動する2つの電荷の間にも力が働くが、クーロンの法則は正確には成り立たなくなる。
その力は、電荷の運動に複雑に関係するため、導出は大変難しい。
運動する電荷の作る電場を求め、電場中で動く電荷が受ける力を求める法則を用いて 導出するほうが、見通しよく、簡単である。(後述予定。RT)

電場(あるいは電界)

電荷間に作用する力を近接作用の考え方で考察して電場という重要な概念を得る。
クーロンの法則を電場の概念でいいかえると、電場にかんするガウスの法則が得られる。
電場から電位や電圧という重要な概念も得られる。
なお、電場は、工学の分野では、電界と呼ばれることが多い。

遠隔作用と近接作用

電荷の間のクーロン力はどのようにして働くのだろうか。 
遠隔作用と近接作用という二つの考え方がある。
遠隔作用では、離れた電荷が瞬時に直接互いに力を及ぼしあうと考える。
近接作用では、電荷はその周りの空間を電気的にひずませ、
それが空間全体に及んで行き、 この歪の中におかれた他の電荷は、その場所の歪から力を受けると考える。 
この空間の電気的歪を電場と呼ぶ。
電荷の大きさや場所が時間とともに変化しない電気現象(静電気)を考えるだけならば、両者は、単なる読み替えに過ぎず、同じ結論になる。
しかし、電荷量が変化したり、電荷が動く場合には、遠隔力では説明できない現象が起こる。
そこで現在、電磁現象は、近接作用の基づいて起こると考えられ、
電磁気学は、この考え方で研究され、記述されている。

(注)真空は何もない空虚な空間と考えるのではなく、電磁気的な性質を持つ空間であると考える。
これは、真空という空間の物理的性質の解明の一端となりえる認識の変革である。

電場の定義

電荷に力を及ぼす空間を電場(electric(al) field)と呼ぶ。
クーロンの法則から、静止電荷は電場を作ることが分かる。

空間の任意の点Pの電場の強さと向きは、
その点に単位量の点電荷を置いたときに作用する静電気力で定義する。 
測定するときは、単位電荷をおくと、この電荷が、空間の電場をつくっている電荷達に、力を及ぼし動かして、
単位電荷の場所Pの電場を変えてしまう恐れがあるので、
電荷量qが非常に小さい電荷を置いた時作用する電気力を $\vec{f}$ とするとき、
$\vec{f}/q $ でP点での電場とする。(注参照)。

作用する電気力はベクトルで、それを電荷量というスカラーで割って定義する電場はベクトルである。
詳しくは

(注)電子を電場計測には使用できない。
その理由は、次章で説明するように、
量子力学的な効果のため、その位置を固定できないためである。
電場の定義には、位置の確定できる電荷が必要であり、
巨視的には点とみなせるが、
原子レベルでみると、大きな電荷(点電荷という)を用いるしかない。
従って電場とは、巨視的には点とみなせる領域の平均的な値を与えるだけである。
電磁気学では、
任意の時刻tの空間の各点$\vec x$に、
この点の周りの巨視的には点とみなせる領域の
平均的な場の値$E(\vec x,t)$を対応させ、電気現象を研究する。

静止した点電荷の作る電場 

空間の位置$\vec{r}$の電荷$\mathit{q}$が位置$\vec{r'}$ に作る電場は、
クーロンの法則と電場の定義から、
$\vec{E_q(r')}=\frac{kq}{||\vec{r'}-\vec{r}||^2}\frac{\vec{r'}-\vec{r}}{||\vec{r'}-{r}||}\qquad \qquad (1)$
この時、$\vec{F}=\vec{E_q(r')}q'\qquad \qquad (2)$
この電場は時間変化しない(時不変)なので、静電場と明示することがある。

(注)電場の導出;
位置$\vec{r'}$ の電荷$q'$が、電荷$q$から受ける力$\vec{F}$は、クーロンの法則から 
$\vec{F}=k\frac{qq'}{||\vec{r'}-\vec{r}||^2}\frac{\vec{r'}-\vec{r}}{||\vec{r'}-\vec{r}||}\qquad \qquad (a)$
電場の定義から、位置$\vec{r'}$ の電場$\vec{E_q(r')}$は
$\vec{E_q(r')}=\vec{F}/q'$
この式に、式(a)を代入する。

電場の重ね合わせの原理

複数個の電荷$q_1,q_2,,,q_n \quad (n\ge 2)$ が作る電場$\vec{E}$は、
クーロン力の重ね合わせの原理と電場の定義から、
それぞれの電荷$q_i$がつくる電場$\vec{E_{q_i}}$のベクトル和に等しいことが分かる。
$\vec{E}=\sum_{i=1}^{n}\vec{E_{q_i}}$
電場の重ね合わせの原理という。

電場の単位

$ \vec{F}=\mathit{q}\vec{E} $、電荷$\mathit{q}$の単位はC(クーロン)、力$ \vec{F} $の単位はN(ニュートン)なので、
電場$ \vec{E} $の単位はN/C である。

電気力線とガウスの法則

電気力線とは  

電場を目で見て理解できるように工夫したのが電気力線である。
電場内で正の電荷が電場から力を受けて非常にゆっくりと動く時
その軌跡(曲線)に移動方向の向きをつけた有向曲線を考え、電気力線(line of electric force)と呼ぶ。
正確には、曲線の各点における向きつき接線(注参照)の方向・向きが、
その点における電場の方向・向きと等しいような曲線(電場の包絡線)を電気力線という。
(注)向きつき曲線を、$\vec r=\vec{r}(t) \quad (t\in R)$ というベクトル式で表す。
但し、tを増加させたときの曲線の向きを曲線の向きとする。
曲線上の一点$\vec{r}_0=\vec{r}_(t_0)$における向きつき接線とは、
その点を通り、
方向・向きがその点の微係数
$\frac{d\vec r}{dt}(t_0):=\lim_{t \to t_0,t\neq t_0}\frac{\vec{r}(t)-\vec{r}(t_0)}{t-t_0}$
に等しい直線のことである。
直線のパラメータsを、s=0の時接点$\vec{r}_0$を通るように選ぶと、
$\vec r=\vec{r}_0+\frac{d\vec r}{dt}(t_0)s$

電気力線の本数と密度

ある点Pで電場の強さが$ \mathit{E}=|\vec{E}| $ であるとき、
その点の周りに電場と直交する微小な平面部分を考え、
  そこを$1m^2 $ あたり$ \mathit{E} $本の電気力線が通るように描いて、電場の強さを表示する。
  電場の強さが、負のときは向きを逆にする。
  電場の強さが整数でなく、例えば0.1単位で変わる時に電気力線を図示するには、
一本の電気力線が0.1を表すなど工夫すればよい。

ガウスの法則について

● O点に置かれた一つの点電荷$q$がつくる電気力線の場合;
電気力線はO点を始点とする外向きの半直線となる。
その密度;O点を中心とし半径$r$ [m]の球面上での電場の大きさは、
$\mathit{E}=\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0}\frac{1}{r^2}=\frac{kq}{r^2}$ [N/C] なので、
この球面を$1m^2 $ あたり$\mathit{E}=\frac{kq}{r^2}$ 本の電気力線が、中から外に向かって貫く。
但し、$q \lt 0$ のときは、
$\frac{k|q|}{r^2}$ 本の電気力線が外から中に向かうと決める。

球面を貫く電気力線の総本数;球面の面積は$4 \pi r^2$ なので、
球面全体を貫く電気力線の総本数は$\frac{|q|}{\varepsilon_0} =4\pi k|q|$。
故に、球面の半径を変えてもこの本数は変わらないことが分かる。
大学で学ぶ少し高等な数学(注参照)を利用すると、
O点を含む任意の形状の立体の表面を貫く電気力線の総数も、
$\frac{q}{\varepsilon_0} $であることが示せる。
(注)ベクトル解析という。 興味のある方は本テキストの
☆☆ベクトル解析や、 

をご覧ください。
●O点を含まない任意の形状の立体の表面を貫く電気力線の総本数;
O点からの半直線である電気力線がこの面から立体の中にはいると、
必ず出ていくので、この立体に入る電気力線の本数は、出ていく本数と等しい。
前者は負の本数と取り決めると、立体を出ていく本数の合計は0本となる。
故にこの場合も、
立体の表面を貫いて出ていく電気力線の総数=$\frac{q}{\varepsilon_0} $が成立する。
ここで$q=0 $はこの立体の内部にある点電荷量。

ガウスの法則

RT点電荷の作る電場では
任意の形状の滑らかな境界を持つ立体の表面を貫く電気力線の総本数は、
その内部の電荷量をqとすると、
$\frac{q}{\varepsilon_0} \qquad \qquad (1)$
を満たすことが分かった。
● 重ね合わせの原理をもちいると、上記の法則は次のように、一般化出来る。
電磁気学の基本法則の一つで,非常に重要な法則である。

ガウスの法則; 任意の形状の立体Vの表面Sを貫いて出ていく電気力線の総数=$\frac{Q}{\varepsilon_0} $。
ここで、$Q$はこの立体の内部にある全電荷量。

これまでの議論から分かるように、ガウスの法則はクーロン則から導かれたのである。
● ガウスの法則は電磁気学の基本法則のひとつで、色々応用される。
理解を深めるため別の表現を記しておく。
「任意の形状の立体Vの表面Sを貫いて出ていく電気力線の総数」を、
電場$\vec E$と
Sの各点$\vec r$におけるVの単位外法線$\vec n(\vec r)$(点$\vec r$に、Vの外部にむけて立てた長さ1の垂線)
を用いて表現しよう。
$\vec n(\vec r)$と$\vec E(\vec r)$が方向も向きも一致するときは、
面Sは、点$\vec r$の近くの小部分$dS(\vec r)$で、$\vec E(\vec r)$と直交するので、
ここを貫いて出ていく電気力線の本数は
E($\vec r$)×$dS(\vec r)$の面積=$\vec E(\vec r)$の外法線成分×$dS(\vec r)$の面積。
$\vec n(\vec r)$と$\vec E(\vec r)$が方向は一致するが向きは逆の時は、
点$\vec r$の近くの小部分$dS(\vec r)$で、$\vec E(\vec r)$と直交するが、
電気力線は、この小部分から、立体Vに、流れ込む。
その本数はマイナスで数え、
-E($\vec r$)×$dS(\vec r)$の面積=$\vec E(\vec r)$の外法線成分×$dS(\vec r)$の面積。
$\vec n(\vec r)$と$\vec E(\vec r)$ が角度 $\theta$のとき。
$\vec E(\vec r)$の、小部分$dS(\vec r)$に対する直交成分は、
$\vec E(\vec r)$の外法線成分であるので、
この部分を貫いて外部に出ていく電気力線の数は、この場合も、$\vec E(\vec r)$の外法線成分。
局面Sの微小部分$dS(\vec r)$を寄せ集めてS全体にすると、
「任意の形状の立体Vの表面Sを貫いて出ていく電気力線の総数」は、
電場$\vec E$の外法線成分のS全体での平均値×面Sの面積となる。
従ってガウスの法則は、次のように言いかえることができる。
S上の電場$\vec E$の外法線成分のS全体での平均値×面Sの面積=$\frac{Q}{\varepsilon_0} $。
あるいは、$\varepsilon_0 \vec E$の外法線成分のS全体での平均値×面Sの面積=$Q$。

(注)これは真空中にある電荷について成立する。
不導体である流体、気体中では、
電荷$Q$により生じる電場により
流体や気体の原子中の原子核と電子が逆向きの力を受けて位置を変え、
片側に+、反対側に-電荷が集まる(分極するという)。
この分極電荷により新たに生じる電場が加わって、
電気力線の数がかわってしまうので、ガウスの法則は成り立たない。
しかし分極電荷も電荷にくわえれば、ガウス法則は常に成り立つ。
これについては、 5.2 静電気と静電場(その2 静電誘導)#電場中の不導体と誘電分極で学ぶ。

ガウスの法則の応用

1:面密度(単位面積あたりの電荷量)$\sigma(\gt 0) $ で、
一様に電荷が分布する無限に広い平面が周りの真空に作る電場$\vec E$ を求めよ。

ヒント 
対称性から、平面から距離dの点の電場は、
方向・向きはこの平面に直交し電荷平面から放射される向きで、
大きさはどの点でも等しい。

この大きさを求めるには、
荷電平面から距離d内の点からできている直方体を考える。
この直方体の表面にガウスの法則を適用する。

 

解:$\vec E$の大きさは$E=\frac{\sigma}{2 \varepsilon_0} $ 、
方向は極板に直交し、極板から 遠ざかる向きである。

2:帯電した平行板の作る電場
真空中に、2枚の無限に広い平板が距離dを隔てて平行に置かれている。
一方の平板には面密度 $+\sigma $、他方の平板には面密度$-\sigma $の電荷が一様に帯電している。
この時平板の周りに生じる電場を求めよ。

解:前記の例1と重ね合わせの原理より、
・平板間の電場は、大きさは$E=\frac{\sigma}{\varepsilon_0} $,
方向・向きは極板に直交し、正の平板から負の平板の向きであり、
・2枚の平板の間と2枚の平板内を除く空間の電場は零である
ことが分かる。

3;一様に帯電した球体のつくる電場
半径がaの一様に帯電した球体が作る電場を求めよ。
但し、電荷密度(単位体積当たりの電荷量)を$\rho$とする。

解;対称性から空間の任意の点Pでの電場の大きさEは球体の中心Oからの距離r=OP だけで決まり、
電場の方向は、直線OPと同じであることが分かる。
(1)$r\leq a$ の時
中心がOで半径rの球面にガウスの法則を適用すると,
$4\pi r^{2}E=\frac{\frac{4}{3}\pi r^3 \rho}{\epsilon_0}$
これより、$E=\frac{r\rho}{3\epsilon_0}$
(2)$r\gt a$ の時
同様にして、
$4\pi r^{2}E=\frac{\frac{4}{3}\pi a^3 \rho}{\epsilon_0}$
これより、$E=\frac{a^{3}\rho}{3\epsilon_0 r^2}$

 静電場のエネルギー

☆☆自己力の問題RT 

点電荷の作る電場は、自己に力を及ぼさないのだろうか。

電位と電圧

クーロン力は保存力で静電場は保存力場

静電荷が他の静電荷に及ぼす クーロン力は、
2章 力学 4節 エネルギーと保存則(その1) の 保存力の十分条件 によれば、
保存力であることが分かる。
従って、静電荷がつくる電場は保存力場であり、
重ね合わせの原理から、多数の電荷の作る電場も保存力場。 静電場は、多数の静電荷がつくった電場と考えられるので保存力場である。

 電位

保存力は位置エネルギをもつ。
単位電荷あたりのクーロン力に関する位置エネルギーを電位という。(注1参照)
具体的には、
ある点Oを定め、この点の電位を零と定める。O点を電位の基準点と呼ぶ(注2参照)。
電場中の任意の点Aの基準点Oからみた電位(electric potential)とは、
単位電荷をO点からA点に、
電場から受ける力を打ち消しながら、
(電荷の運動エネルギーが無視できるほどに)ゆっくり動かす
のに必要な仕事の量で定義する(注2参照)。
電場は保存力場なので、
O点からA点に動かす経路に関係なく仕事は一定なので、電位は一意に決まる。
単位電荷をA点からO点まで移動させるときに、電場からの力がする仕事を、
A点の(基準点Oからみた)電位と定義しても、同等である。

なお、電場をつくっている周りの電荷の位置が、
単位電荷からの力で変化し電場が変わってしまう場合には、
電荷量$q$ を無限に小さくして、これをA点からO点まで移動させるときに、
電場からの力がする仕事$W_{q}$を求め、
単位電荷あたりの仕事$\frac{W_{q}}{q}$を求め、A点の電位と決める。

複雑に配置された電荷のつくる電場の場合にも、
重ね合わせの原理から電場からうける力は保存力となり、
電位は経路に関係なく一意に定まる。 
(注1)電位は電気力という保存力に関する位置エネルギーなので、
第2章 力学の「2.4 エネルギーと保存則(その1)」の議論は、
単位質量当たりの位置エネルギーを電位と読み替えれば、全て成立する。
すると、殆ど説明なしで電位はすませるが、
大変重要な概念なので重複をいとわず、本節では、ある程度詳しく述べる。
(注2)通常、基準点Oは無限遠の点が選ばれる。

 2点間の電圧

任意の2点間の電位の差を、
2点間の電位差(difference of electric potential)あるいは電圧(voltage)という。


なお電位については

また保存力については、

を参照のこと。

電位・電圧の単位

電荷の単位をクーロン、仕事の単位をジュールとしたときの
電位や電圧の単位をボルト(記号V)という。
すなわち、 $V=J/C$ 。

電場と直交する曲線上では等電位

曲線のどの場所でも電場と直交する曲線Cを考える。
この上では電位は等しいことが次のようにして示せる。
曲線上の任意の点Aから曲線上の他の点Bまで、
単位電荷を曲線にそってゆっくり移動させよう。
この時電荷に加えなければならない力は、
電荷が電場から受ける力で動かないようにするための力と、
静止する電荷を曲線Cに沿って無限にゆっくりと移動させる力
の和である。
仮定から電荷は常に、電場方向と直角に動くので、前者の力がする仕事は零である。
後者の力は無限に小さいので、
この力で、単位電荷を点Aから点Bまで動かす時の仕事は無視できる。
したがって単位電荷を点Aから点Bまで、
無限にゆっくり動かす力のなす仕事が零であることが示せた。

(注)これ以外に曲線C上をゆっくり動かすために
Cの接線方向に無限に小さな力を加える必要がある。
しかし、この力のなす仕事は無限に小さく無視できる。

点電荷のつくる電場の電位

電位の基準点として無限の彼方をとる。
A点に置かれた+q[C]の電荷のつくる電場の電位は、A点から距離$r_0[m]$の点Pで、
$\phi(r)=k\frac{q}{r_0}\qquad \qquad \qquad \qquad \qquad \qquad (9.1)$  
である。
これは単位の正電荷を無限遠点からP点まで、
クーロン力に抗した力を加え限りなくゆっくり動かす時の力のする仕事である。
単位の正電荷をP点から無限遠点まで動かすとき、電場が電荷に行う仕事に等しい。
(注)式(9.1)の導出;
電荷qの作る電場が、距離rにある単位電荷に与える力の大きさはクーロンの法則から
$\frac{kq}{r^2}$なので、単位の正電荷をP点から無限遠点まで動かすとき、電場が電荷に行う仕事は、
$\int_{r=r_0}^{\infty}\frac{kq}{r^2}=kq[-r^{-1}]_{r_0}^{\infty}=\frac{qk}{r_0}$

電位の重ね合わせの原理

電場の重ね合わせの原理から、
  それぞれの電荷のつくる電位を加えればよいことが分かる。
すなわち、電荷$q_i$が、点Pに作る電位を$\phi_i(P)\quad (i=1,2,,,n)$と書くと、
これらの電荷が同時に存在するときの点Pの電位は $\phi(P)=\sum_{i=1}^{n}\phi_i(P)$


 電気双極子 

電気双極子(electric dipole)とは、 
微小な距離だけ離れた、大きさの等しい正負一対の電荷のこと。  
後述するように電気双極子は自然界によく現れるので、
双極子のつくる電位$\phi$を調べることは大切である。 
電荷をq,-qとし、-qの位置からqの位置へのベクトルを $\vec d$ とする。
空間の原点を両電荷の中点に選ぶ。
位置ベクトル $\vec r$ の点の電位は、重ね合わせの原理より、
$\phi(\vec r)\,=\,\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0 r_q}\,-\,\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0 r_{-q}}\,=\,\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0}(\frac{1}{r_q}-\frac{1}{r_{-q}})\hspace{150pt} (9-2)$
$\quad$ここで、 $r_q$  は点電荷qと位置ベクトル$\vec r$ の点との距離、 
$\quad$$r_{-q}$  は点電荷-qと位置ベクトル$\vec r$ の点との距離。
$\quad \frac{1}{4 \pi \varepsilon_0}\triangleq k$
$\qquad$ 面積が$4 \pi$である単位球の表面にわたって積分するとき積分結果が簡潔になるので、
$\qquad$ 今後はkの代わりに使うことが多い。
電気双極子については次の説明も参考に。

 遠方に作る電位と双極子モーメント 

双極子の電荷間の距離 d に比べて、ずっと離れた点 $\vec r$ の電位を簡略な式で近似しよう。
式(9.1)で $r_q$ は、点電荷 q と位置ベクトル$\vec r$ の点との距離なので、
$r_q=||\vec r -\frac{\vec d}{2}||=\sqrt{\sum_{i=1}^3 |r_i-d_i/2|^2}$、
同様に、$r_{-q}=||\vec r +\frac{\vec d}{2}||=\sqrt{\sum_{i=1}^3 |r_i+d_i/2|^2}$
$||\vec d|| \ll ||\vec r|| $ の時、まず $\frac{1}{r_q}$ を簡略化する。
$\frac{1}{r_q}=1/||\vec r -\frac{\vec d}{2}||= 1/||\vec r|| \times ||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-\frac{\vec d}{2||\vec r||}||$
$=1/||\vec r||\times ||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}\frac{\vec d}{||\vec d||}||$
$f(x)=1/{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}$ という関数を導入すると
$\frac{1}{r_q}=\frac{1}{||\vec r||}f(\frac{||\vec d||}{2||\vec r||})$
ここで $\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}$ は微小なので、$f(\frac{||\vec d||}{2||\vec r||})$ は
$x=0$ での$y=f(x)$ の接線 $y=f(0)+f'(0)x$ の$x=\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}$での値$y=f(0)+f'(0)\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}$
で精度良く近似できる。そのため、
$\frac{1}{r_q} \simeq \frac{1}{||\vec r||}(f(0)+f'(0)\frac{||\vec d||}{2||\vec r||})\hspace{50pt} (9-3) $
ここで、
$ f(0)=1 \hspace{150pt} (9-4)$
$f'(0)=\lim_{x \to 0} \frac{f(x)-f(0)}{x}=\lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(\frac{1}{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}-1)$
$=\lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(\frac{1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}) $
$=\lim_{x \to 0}\frac{\frac{1}{x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||)}{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}$
$=\lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||)$
$=\lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||^2)/(1+||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||)$
$=\lim_{x \to 0}\frac{1}{2x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||^2)$ 、
上の式を変形する。
$||\vec{a}- \vec{b}||^2=||\vec{a}||^2+||\vec{b}||^2-2\vec{a} \cdot \vec{b}$
(ここで、$\vec{a} \cdot \vec{b}=\sum_{n=1}^{3}a_{n}b_{n}$) 、
実数αに対して$||\alpha \vec{a}||=\|\alpha \| ||\vec{a}||$
を利用して変形すると
$ f'(0)=\lim_{x \to 0}\frac{1}{2x}(-x^{2}+2x \frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{||r||\times||d||}) =\frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{||r||\times||d||} \hspace{100pt} (9-5)$
(9-3)式に、 (9-4),(9-5)式を代入して、
$\frac{1}{r_q} \simeq \frac{1}{||\vec r||}(1+\frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{2||r||^2}) \hspace{150pt} (9-6)$
同様に計算すると
$\frac{1}{r_{-q}} \simeq \frac{1}{||\vec r||}(1-\frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{2||r||^2})\hspace{150pt} (9-7)$
(9-2)式に、 (9-6),(9-7)式を代入すると、
$\phi(\vec r)=\frac{q \vec{r}\cdot\vec{d}}{4 \pi \varepsilon_0 ||r||^3} \hspace{150pt}(9-8)$
上の式で、
$\vec{p}=q \vec{d} \hspace{200pt}(9-9)$
と置き,一対の電荷-q、q の作る双極子モーメントと呼ぶ。
これを用いると、双極子が離れた点$\vec{r}$に作る電位は、
  $\phi(\vec r)=\frac{ \vec{r}\cdot\vec{p}}{4 \pi \varepsilon_0 ||\vec r||^3}\hspace{150pt} (9-10)$
  この式から、位置 $\vec r$ に双極子の作る電位は、
双極子の向きによって、正にも負にも、零にもなることが分かる。
物質を構成している原子の向きは、通常の状態では、バラバラなので、
それらが位置 $\vec{r}$ に作る電位の和は、打ち消し合って限りなく零に近くなる。
これが物質を外部から見ると、電荷をもたないようにみえる理由である。

さらに、
$|\vec{r}\cdot\vec{p}|\leq \|\vec{r}\|\|\vec{p}\|$ なので、
電気双極子がつくる電位は、距離の増加により、急速に($\|\vec{r}\|^2$に反比例して)減少することが分かる。
一方、電荷の作る電位は、(9.19)式;$\phi(\vec r)=\frac{ q}{4 \pi \varepsilon_0r}$から、
距離の増加により それに反比例して減少するので、減少の仕方がずっと緩やかである。

等電位面

電位の等しい点をつないで出来る面を等電位面という。
等電位面と電気力線は直交していることが示せる。
導体表面の電界は、導体表面に垂直である。
これらの理由を考えてみてください。

 電荷量qの電荷の位置エネルギー(ポテンシャル・エネルギー)

単位電荷を電場からうける力に抗して
  位置Aから位置Bに(無限にゆっくりと)移動させるのに必要なエネルギーで、
位置Aからみた位置Bの電位$V(B,A)$を定義し,その性質を調べてきた。
電位$V(B,A)$は、位置Bにある単位電荷の位置Aからみた位置エネルギー(ポテンシャル・エネルギー)である。
この定義から、
位置Bにある電荷qの位置Aからみた位置エネルギーは、$V(B,A)q$であることが分かる。

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