物理/静電気と静電場(その1)

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目次

「 5.1 静電気と静電場(1)  」

電磁気現象の根源

詳しいことは次章で学ぶが、物質をつくっている原子は、原子核とその周りを回る電子から出来ている。
原子核はいくつかの陽子と中性子からできている。 
陽子は正の電荷+eをもち、電子はこれと同じ大きさで符号が反対の負の電荷-eを持つ(注1)。
中性子は電荷をもたない。
電子の個数は陽子と同数であり、原子を巨視的な意味で離れて眺めると、
正負の電荷が打ち消しあって電荷をもたない粒子に見える。
電荷の間には電気力が働く。同符号の電荷は互いに反発し、異符号の電荷は互いに引き合う。  
原子核と電子は引き合い、原子を作っている。
また近くの原子同士も電気力で引き合い分子をつくり(注2)、気体や液体、固体をつくる。

帯電、静電気、磁石、電流、電磁波など、すべての電磁気現象は、電子と陽子の存在と運動によって生じる。 
この章でこれらの電磁気現象とその法則について学ぶ。    
(注1)電荷の正負について:
陽子どうし、電子どうしは反発するが、陽子と電子は引き合う。従って陽子と電子はことなった電荷である。
さらに陽子と電子の個数が同じだと離れた所からみると、電荷がない粒子として振る舞う。
このため一方の電荷に+、他方にーをつけて和を取ると電荷が0になるようにする。
どちらにーをあててもよかったが歴史的に電子にーをあてた。
なお、原子核のなかで電気的に反発する複数の陽子がくっついているのは、
反発力より強い核力で引き合っているため(次章で簡単に説明する)。
(注2);原子同士が引き合うメカニズムについては次章で簡単に紹介する。

静電気

この節では、まず、静止した電荷(静電気という)の性質を学ぶ。

帯電と電気素量

原子は通常、同数の電荷量eの陽子と-eの電子から構成されるので、
離れた所から観測すれば、正と負の電荷の影響が打ち消しあって,電荷をもたない粒子として振る舞う。
このため原子からできている物質は、通常は電荷を持たない。
物質が他の物質との摩擦などにより電子をいくつか失ったり、獲得すると、物質は電荷を帯びる。
帯電するという。
このため全ての物質の電荷量は e の整数倍になる。e を電気素量という。

点電荷

大きさの無視できる小さな電荷を点電荷という。
力学で質点が果たした役割を、電磁気学では点電荷が果たす。


電子の電荷、質量 

電荷;$\quad -e=-1.602\times 10^{-19}[C]$
$\qquad $ [C] は電荷の単位クーロンである。 これについては、「5.4 電流と磁場 の1.3.2 電流と電荷の単位」を参照のこと。
質量;$\quad m_e=9.11 \times 10^{-31}[kg]$
 
  なお、電子は大きさのない点電荷と考えられている。 詳しくは、

陽子の電荷、質量、大きさ 

電荷;$\quad e=1.602\times 10^{-19}[C]$
質量;$\quad m_p=1.67 \times 10^{-27}[kg]$
荷電半径;$\quad r_p=0.88 \times 10^{-15}[m]$
詳しくは、

電荷保存の法則

電荷は消滅も生成もしないことが、経験によって確かめられている。これを電荷保存法則という。

導体、不導体、半導体

物質は、電気を通す性質に着眼すると、
電気をよく通す導体と電気を通さない不導体、およびこの中間の半導体に分類できる。
詳しくは、以下を参照のこと。
導体(電気伝導体ともいう); ウィキペディア(電気伝導体)  
不導体(絶縁体ともいう); ウィキペディア(絶縁体)
半導体;  ウィキペディア(半導体)

摩擦電気

2つの不導体をこすりあわせると、このエネルギーで、電子が一方の物質から他方の物質に移動する。 
電子を失った不導体は、正の電荷の陽子が電子の個数より多くなるので正の電荷を帯び、
電子を得た不導体は、それと同じ大きさの負の電荷を帯びる。 
この帯電した電気を摩擦電気という。

クーロンの法則

クーロンは実験の結果次の法則を発見した。
・同符号の2つの電荷間には斥力(反発力)、異符号の電荷間には引力が働く。
・その向きは、2つの電荷を結ぶ直線の方向と一致し、
・その大きさ $f$ は、2つの電荷の積 $q_{1} q_{2}$ に比例し、その距離 $r$ の2乗に反比例する。
$f=k\frac{q_{1} q_{2}}{r^2}\qquad \qquad (1)$
なお、比例定数は, $k=8.988\times 10^{9}[\frac{Nm^2}{C^2}]$ である(注参照)。
これをクーロンの法則という。

(注)この比例定数は、物理量をSI国際単位系で表示している(距離[m],電荷[C])ときの値である。

 法則の適用可能な距離(RT)

どの位の距離までこの法則は成り立つのであろうか。
小さい方では、原子核の大きさは約 $10^{-15}m$ であるが、
その中の陽子間にはクーロンの法則が成り立つと考えられている(注参照)。
大きい方は、どこまで正確に法則がなりたつかは、はっきりしていない。 しかし、宇宙観測などからの分析から、現在の所、この法則は、この宇宙で普遍的に成り立つと考えられている。

(注) $10^{-15}m$ 離れた陽子間に働くクーロン斥力は、
電気素量$ e = 1.6\times 10^{-19}[C] $を用いると、約 $f=230[N]$ となる。
これは質量 $m=1.67\times 10^{-27}$ の陽子に,
$\alpha = \frac{f}{m}\fallingdotseq 1.4\times 10^{29}[m/s^{2}]$ という巨大な加速度を与える。
しかし陽子同士は、これよりはるかに大きい核力で引き合うので、飛散せず固く結合し原子核を形成する。

クーロンの法則のベクトル表示  

向きと大きさを同時に記述できるのでベクトル表示は便利である。
電荷$q_1$の位置ベクトルを$\vec{r_1}$、電荷$q_2$のそれを$\vec{r_2}$、
電荷$q_1$が電荷$q_2$から受けるクーロン力を$\vec{F_1}$とすると   
$\vec{F_1}=k\frac{q_1q_2}{||\vec{r_1}-\vec{r_2}||^2}\frac{\vec{r_1}-\vec{r_2}}{||\vec{r_1}-\vec{r_2}||}$

この表現法に慣れておくとよい。ここで、$ k=\frac{1}{4 \pi \varepsilon_0} $ と表現することがある。
$\varepsilon_0 $は真空の誘電率と呼ばれる。
$k\fallingdotseq 9.0\times 10^{9}[\frac{N m^2}{C^2}]$なので 、
$\varepsilon_0\fallingdotseq 8.9\times 10^{-12} [\frac{C^2}{N m^2}]$ である。   

(注)真空中の誘電率という用語について;
真空は空虚な空間なので奇異に思うかもしれないが、歴史的にこう命名された。
誘電については後述「2.5 電界中の不導体と誘電分極」で学ぶ。
クーロン則は誘電されるものが無い状態で常になりたつ。

 3つ以上の電荷に働く力

N(>2)個の電荷$q_1,,,,q_N $ があるとき、$q_1$ に作用する電気力は、
$q_2,,,,q_N $ のそれぞれから$q_1$が受けるクーロン力(ベクトル表示)の和になることが
実験で確かめられている。
これを、クーロン力の重ね合わせ原理という。

 クーロン力は保存力

クーロン力は、
5章 力学(4) 運動量と力学的エネルギー保存則によれば、保存力であることが分かる。
保存力は位置エネルギをもつ。クーロン力の位置エネルギーを電位という。
詳しくは後述する。

電気力は重力よりはるかに大きいこと

陽子と電子の間に働く電気力と万有引力の大きさを比べてみよう。
以下では、両者の距離を $r[m]$ とする。
(1)電気力
クーロンの法則の比例定数は $k=9\times 10^{9}[\frac{Nm^2}{C^2}]$、電気素量は、$e=1.6\times 10^{-19}[C]$ なので、
  クーロンの法則から、$f_e=ke^2/r^2[N]\fallingdotseq 9\times 10^{9} \times (1.6\times10^{-19})^2/r^2 [N]\fallingdotseq 23\times 10^{-29}/r~2 [N]$

(2)万有引力
電子の質量は $m_e\fallingdotseq 9\times 10^{-31}$、  陽子の質量は $m_p\fallingdotseq 1.67\times 10^{-27}$ なので
万有引力の法則から、
$f_g=Gm_em_p/r^2[N]\fallingdotseq 6.7\times 10^{-11}\times 9\times 10^{-31} \times 1.67\times10^{-27}/r^2 [N]\fallingdotseq 101\times 10^{-69}/r^2 [N]$

これらから、
$\frac{f_e}{f_g} \fallingdotseq 2.3 \times 10^{39}$

電気力が重力より桁違いに大きいことが分かる。

運動する2つの電荷の間に働く力

運動する2つの電荷の間にも力が働くが、クーロンの法則は正確には成り立たなくなる。
その力は、電荷の運動に複雑に関係するため、導出は大変難しい。
運動する電荷の作る電場を求め、電場中で動く電荷が受ける力を求める法則を用いて 導出するほうが、見通しよく、簡単である。(後述予定。RT)

電場(あるいは電界)

電荷間に作用する力を近接作用の考え方で考察して電場という重要な概念を得る。
クーロンの法則を電場の概念でいいかえると、電場にかんするガウスの法則が得られる。
電場から電位や電圧という重要な概念も得られる。
なお、電場は、工学の分野では、電界と呼ばれることが多い。

遠隔作用と近接作用

電荷の間のクーロン力はどのようにして働くのだろうか。 
遠隔作用と近接作用という二つの考え方がある。
遠隔作用では、離れた電荷が直接互いに力を及ぼしていると考える。
動いている電荷間に働く力を直接記述すると大変複雑であり、遠隔作用に基づく電磁気現象の記述や解析は困難である。

近接作用では、電荷は空間全体を電気的にひずませて電場を作り、
この電場の中におかれた他の電荷は、その場所の電場から力を受けると考える。 
この考え方に基づく現象の記述や解析は、遠隔作用にくらべ、簡明・容易となる。
現在の物理学では、近接作用に基づいて電磁気の基本法則は記述・解析されている。

電場の定義

電荷に静電気力(クーロン力)を及ぼす空間を電場[electric(al) field]と呼ぶ。
特に時間がたっても変化しない電場を静電場(electrostatic field)という。
クーロンの法則から、静止電荷は電場を作ることが分かる。

空間の任意の点Pの電場の強さと向きは、
その点に単位電荷を置いたときに作用する静電気力で定義する。 
正確には、単位電荷をおくと、この電荷が、空間の電場をつくっている電荷達に、力を及ぼし動かして、
単位電荷の場所Pの電場を変えてしまう恐れがあるので、
無限小の電荷qを置いた時作用する電気力を $\vec{f}$ とするとき、
$\vec{f}/q $ でP点での電場を決め, $ \vec{E(P)}$ で表す。

作用する電気力はベクトルで、それを電荷量というスカラーで割って定義する電場はベクトルである。
詳しくは

静止した点電荷の作る電場 

空間の位置$\vec{r}$の電荷$\mathit{q}$が位置$\vec{r'}$ に作る電場は、
クーロンの法則と電場の定義から、
$\vec{E_q(r')}=\frac{kq}{||\vec{r'}-\vec{r}||^2}\frac{\vec{r'}-\vec{r}}{||\vec{r'}-{r}||}$
(注)導出;
位置$\vec{r'}$ の電荷$q'$が、電荷$q$から受ける力$\vec{F}$は、クーロンの法則から 
$\vec{F}=k\frac{qq'}{||\vec{r'}-\vec{r}||^2}\frac{\vec{r'}-\vec{r}}{||\vec{r'}-\vec{r}||}\qquad \qquad (a)$
電場の定義から、位置$\vec{r'}$ の電場$\vec{E_q(r')}$は
$\vec{E_q(r')}=\vec{F}/q'$
この式に、式(a)を代入する。

電場によるクーロンの法則の表現

場所$\vec{r}$の電荷$ \mathit{q} $と、場所$\vec{r'}$の電荷$ \mathit{q'} $の間に働く電気力は、
$\vec{F}=qk\frac{q'}{||\vec{r}-\vec{r'}||^2}\frac{\vec{r}-\vec{r'}}{||\vec{r}-{r'}||}=q\vec{E_{q'}(r)}$ ; 電荷$ \mathit{q} $ に働く力
$\vec{F'}=q'k\frac{q}{||\vec{r'}-\vec{r}||^2}\frac{\vec{r'}-\vec{r}}{||\vec{r'}-\vec{r}||}=q'\vec{E_q(r')}$ ;電荷$ \mathit{q'} $ に働く力

点電荷のつくる電場

点電荷のつくる電場については

を参照のこと。静電荷の作る電場は、時間変動がなく、静電場と呼ばれる。 

2つ以上の点電荷の作る電場

クーロン力の重ね合わせの原理と電場の定義から、
それぞれの電荷がつくる電場のベクトル和を取れば良いことが分かる。
電場の重ね合わせの原理という。

電場の単位

$ \vec{F}=\mathit{q}\vec{E} $、電荷$\mathit{q}$の単位はC(クーロン)、力$ \vec{F} $の単位はN(ニュートン)なので、
電場$ \vec{E} $の単位はN/C である。

電気力線とガウスの法則

電気力線とは  

電場を目で見て理解できるように工夫したのが電気力線である。
電場内で正の電荷が電場から力を受けて
非常にゆっくりと動く時の向きのついた軌跡(曲線)を考え、電気力線(line of electric force)と呼ぶ。
正確には、曲線の各点における電場が、その曲線に接しているような曲線を電気力線という。

電気力線の本数と密度

ある点Pで電場の強さが$ \mathit{E}=|\vec{E}| $ であるとき、
その点の周りに電場と直交する微小な平面部分を考え、
  そこを$1m^2 $ あたり$ \mathit{E} $本の密度で
電気力線が通るように描いて、電場の強さを表示する。
  電場の強さが、負のときは向きを逆に、
  また電場の強さが整数でなく、例えば0.1単位で変わる時は、
一本の電気力線が0.1を表すとして、図示すればよい。

= ガウスの法則

● O点に置かれた一つの点電荷$q$がつくる電気力線の場合;
電気力線はO点を始点とする外向きの半直線となる。
その密度;O点を中心とし半径$r$ [m]の球面上での電場の大きさは、
$\mathit{E}=\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0}\frac{1}{r^2}=\frac{kq}{r^2}$ [N/C] なので、この球面を$1m^2 $ あたり$\mathit{E}=\frac{kq}{r^2}$ 本の電気力線が、中から外に向かって貫く。
但し、$q \lt 0$ のときは、$\frac{k|q|}{r^2}$ 本の電気力線が外から中に向かうと決める。

球面を貫く電気力線の総本数;球面の面積は$4 \pi r^2$ なので、
球面全体を貫く電気力線の総本数は$\frac{|q|}{\varepsilon_0} =4\pi k|q|$。
故に、球面の半径を変えてもこの本数は変わらないことが分かる。
大学で学ぶ少し高等な数学(注参照)を利用すると、
O点を含む任意の形状の立体の表面を貫く電気力線の総数も、
$\frac{q}{\varepsilon_0} $であることが示せる。
(注)ベクトル解析という。 興味のある方は

をご覧ください。
●O点を含まない任意の形状の立体の表面を貫く電気力線の総本数;
O点からの半直線である電気力線がこの面から立体の中にはいると、
必ず出ていくので、この立体に入る電気力線の本数は、出ていく本数と等しい。
前者は負の本数と取り決めると、立体を出ていく本数の合計は0本となる。
故にこの場合も、
立体の表面を貫いて出ていく電気力線の総数=$\frac{q}{\varepsilon_0} $が成立する。
ここで$q=0 $はこの立体の内部にある点電荷量。

ガウスの法則

点電荷の作る電場では
  任意の形状の立体の表面を貫く電気力線の総本数は、
その内部の電荷量をqとすると、
$\frac{q}{\varepsilon_0} \qquad \qquad (1)$
を満たすことが分かった。
● 重ね合わせの原理をもちいると、上記の法則は次のように、一般化出来る。
電磁気学の基本法則の一つで,非常に重要な法則である。

ガウスの法則; 任意の形状の立体Vの表面Sを貫いて出ていく電気力線の総数=$\frac{Q}{\varepsilon_0} $。

ここで、$Q$はこの立体の内部にある全電荷量。

この法則の導出を吟味すると、ガウスの法則はクーロン則から導かれていることがわかる。
ところがクーロン力はあらゆる静止電荷間に作用するので
ガウスの法則は、電気力線(電場)を生み出している、立体Vの内部にある電荷をすべて考慮してQとすれば、どのような物質の中でも、常に成立している。
「2.5 電場中の不導体と誘電分極」で学ぶように電荷Qを置いたとき、それが作る電場で、自動的に電荷が誘導され、これのつくる電場がもとの電場に加わって変化した電場が観測される。
そこで観測電場の電気力線のガウスの法則の右辺の電荷は、立体V内の元の電荷と誘電された電荷を含めたものにしないといけない。 ● ガウスの法則は電磁気学の基本法則のひとつで、色々応用されるので、理解を深めるため別の表現を記しておく。
「任意の形状の立体Vの表面Sを貫いて出ていく電気力線の総数」を、電場$\vec E$とSの各点$\vec r$に立体Vの外部にむけて立てた長さ1の垂線$\vec n(\vec r)$(Sの点$\vec r$におけるVの単位外法線と呼ぶ)を用いて表現しよう。
$\vec n(\vec r)$と$\vec E(\vec r)$が方向も向きも一致するときは、面Sは、点$\vec r$の近くの小部分$dS(\vec r)$で、$\vec E(\vec r)$と直交するので、ここを貫いて出ていく電気力線の本数はE($\vec r$)×$dS(\vec r)$の面積=$\vec E(\vec r)$の外法線成分×$dS(\vec r)$の面積。
$\vec n(\vec r)$と$\vec E(\vec r)$が方向は一致するが向きは逆の時は、
点$\vec r$の近くの小部分$dS(\vec r)$で、$\vec E(\vec r)$と直交するが、電気力線は、この小部分から、立体Vに、流れ込む。
その本数はマイナスで数え、-E($\vec r$)×$dS(\vec r)$の面積=$\vec E(\vec r)$の外法線成分×$dS(\vec r)$の面積。
$\vec n(\vec r)$と$\vec E(\vec r)$ が角度 $\theta$のとき。
$\vec E(\vec r)$の、小部分$dS(\vec r)$に対する直交成分は、$\vec E(\vec r)$の外法線成分であるので、この部分を貫いて外部に出ていく電気力線の数は、この場合も、$\vec E(\vec r)$の外法線成分。
局面Sの微小部分$dS(\vec r)$を寄せ集めてS全体にすると、
「任意の形状の立体Vの表面Sを貫いて出ていく電気力線の総数」は、電場$\vec E$の外法線成分のS全体での平均値×面Sの面積となる。
従ってガウスの法則は、次のように言いかえることができる。
S上の電場$\vec E$の外法線成分のS全体での平均値×面Sの面積=$\frac{Q}{\varepsilon_0} $。
あるいは、$\varepsilon_0 \vec E$の外法線成分のS全体での平均値×面Sの面積=$Q$。

(注)これは真空中にある電荷について成立する。
不導体である流体、気体中では、
電荷$Q$により生じる電場から流体や気体の原子中の原子核と電子が逆向きの力を受けて位置を変え、
片側に+、反対側に-電荷が集まる(分極するという)。
この分極電荷により新たに生じる電場が加わって、
電気力線の数がかわってしまうので、ガウスの法則は成り立たない。
しかし分極電荷も電荷にくわえれば、ガウス法則は常に成り立つ。
これについては、[| 2.5 電場中の不導体と誘電分極]で学ぶ。

ガウスの法則の応用

例1:面密度(単位面積あたりの電荷量)$\sigma $ で、一様に電荷が分布する無限に広い平面の作る電場。
ヒント 平面から距離dの点の電場は、対称性から向きはこの平面に直行し、大きさはどのでも等しい。平面から距離d以内の点のつくる正方体を考え、ガウスの法則を適用する。
解:$E=\frac{\sigma}{2 \varepsilon_0} $
例2:平行板コンダンサー(2枚の金属の薄い平板を距離dをへだてて平行に置き電極をつけたもの。dに比べ極板面積は十分大きいとする)の1枚の極板に面密度 $+\sigma $、他方の極板に面密度$-\sigma $の電荷を帯電させた時、周りに生じる電場を求めよ。
解:例1と重ね合わせの原理より、極板間では$E=\frac{\sigma}{\varepsilon_0} $, 他では零。

電位と電圧

電界中で電荷は力を受ける。その力と逆向きで同じ大きさ(実際にはそれより無限小だけ大きい)の力を与えて、単位電荷を基準とするO点からA点に(電荷の運動エネルギーが無視できるほどに)ゆっくり動かすのに必要なエネルギーを、O点を基準点としたA点の電位(electric potential) という。
前述のように点電荷のクーロン力は保存力なので、O点からA点に動かす経路に関係なく,このエネルギーは一定なので、電位は定まる。  
複雑に配置された電荷のつくる電界の場合にも、重ね合わせの原理から、電界からうける力は保存力となり、電位は経路に関係なく定まる。  

電位については以下を参照のこと。

2点間の電位の差を、電位差あるいは電圧という。

また保存力については、

を参照のこと。

電界と直交する曲線上では等電位

曲線のどの場所でも電界と直交する曲線Cを考える。この上では電位は等しいことが次のようにして示せる。
曲線上の任意の点Aから、曲線上の他の点Bまで、単位電荷を曲線にそってゆっくり移動させよう。
この時電荷に加える力は、電界と逆むきで大きさの等しい力である(これ以外に、C上をゆっくり動かすために無限に小さな力を加えたもの。しかしこれはいくらでも小さくできるので無視できる)。
しかしC上を動くときは、動く方向は、常に電界と直交するので、電荷に加える力とも直交し、仕事は零となる。したがって電位は等しい。

電位・電圧の単位

電荷の単位を[C],仕事の単位を[J]にした時の電位を、ボルトという。すなわち[V]=[J/C]。

点電荷のつくる電界の電位

電位の基準点として無限の彼方をとる。A点に置かれた+q[C]の電荷のつくる電界の電位は、A点から距離r[m]の点Pで、$\mathit{V}=\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0 r}$ 。  これは単位の正電荷を無限遠点からP点まで、クーロン力に抗した力を加えゆっくり動かす時の力のなすエネルギーを積分計算して求めればよい。

2つ以上の点電荷の作る電界の電位

電界の重ね合わせの原理から、それぞれの点電荷のつくる電位を加えればよい。

 電気双極子 

電気双極子(electric dipole)とは、微小な距離だけ離れた、大きさの等しい正負一対の電荷のこと。  
後述するように電気双極子は自然界によく現れるので、双極子のつくる電位$\phi$を調べることは大切である。 
電荷をq,-qとし、-qからqへのベクトルを $\vec d$ とする。空間の原点を両電荷の中点に選ぶ。
位置ベクトル $\vec r$ の電位は、重ね合わせの原理より、

$\phi(\vec r)\,=\,\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0 r_q}\,-\,\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0 r_{-q}}\,=\,\frac{q}{4 \pi \varepsilon_0}(\frac{1}{r_q}-\frac{1}{r_{-q}})\hspace{150pt} (9-1)$
ここで、 $r_q$  は点電荷qと位置ベクトル$\vec r$ の点との距離、 $r_{-q}$  は点電荷-qと位置ベクトル$\vec r$ の点との距離。
次の説明も参考に。

 遠方に作る電位と双極モーメント 

双極子の電荷間の距離 d に比べて、ずっと離れた点 $\vec r$ の電位を簡略な式で近似しよう。
式(9.1)で $r_q$ は、点電荷 q と位置ベクトル$\vec r$ の点との距離なので、$r_q=||\vec r -\frac{\vec d}{2}||=\sqrt{\sum_{i=1}^3 |r_i-d_i/2|^2}$、同様に、$r_{-q}=||\vec r +\frac{\vec d}{2}||=\sqrt{\sum_{i=1}^3 |r_i+d_i/2|^2}$
$||\vec d|| \ll ||\vec r|| $ の時、まず、$\frac{1}{r_q}$ を簡略化する。
$\frac{1}{r_q}= 1/||\vec r -\frac{\vec d}{2}||= 1/||\vec r|| \times ||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-\frac{\vec d}{2||\vec r||}||= 1/||\vec r||\times ||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}\frac{\vec d}{||\vec d||}||$
$f(x)=1/{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}$ という関数を導入すると
$\frac{1}{r_q}=\frac{1}{||\vec r||}f(\frac{||\vec d||}{2||\vec r||})$
ここで $\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}$ は微小なので、$f(\frac{||\vec d||}{2||\vec r||})$ は、 $x=0$ での、$y=f(x)$ の接線の$x=\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}$ での値$y=f(0)+f'(0)\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}$ で精度良く近似できる。そのため、
$(9-2)\hspace{50pt} \frac{1}{r_q} \simeq \frac{1}{||\vec r||}(f(0)+f'(0)\frac{||\vec d||}{2||\vec r||}) $

ここで、
$(9-3)\hspace{150pt} f(0)=1$

$f'(0)=\lim_{x \to 0} \frac{f(x)-f(0)}{x}=\lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(\frac{1}{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}-1)=\lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(\frac{1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}) $

$=\lim_{x \to 0}\frac{\frac{1}{x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||)}{||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||}= \lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||)= \lim_{x \to 0}\frac{1}{x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||^2)/(1+||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||)$
$ =\lim_{x \to 0}\frac{1}{2x}(1-||\frac{\vec r}{||\vec r ||}-x\frac{\vec d}{||\vec d||}||^2) $ 、
上の式を $ ||\vec{a}- \vec{b}||^2=||\vec{a}||^2+||\vec{b}||^2-2\vec{a} \cdot \vec{b} $ (ここで、 $ \vec{a} \cdot \vec{b}=\sum_{n=1}^{3}a_{n}b_{n} $) 、実数αに対して$||\alpha \vec{a}||=\|\alpha \| ||\vec{a}||=$ を利用して変形すると
$ (9-4)\hspace{50pt} f'(0)=\lim_{x \to 0}\frac{1}{2x}(-x^{2}+2x \frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{||r||\times||d||}) =\frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{||r||\times||d||} $ 、
(9-2)式に、 (9-3),(9-4)式を代入して、
$(9-5)\hspace{50pt}\frac{1}{r_q} \simeq \frac{1}{||\vec r||}(1+\frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{2||r||^2}) $ 、
同様に計算すると
$(9-6)\hspace{50pt} \frac{1}{r_{-q}} \simeq \frac{1}{||\vec r||}(1-\frac{\vec{r}\cdot\vec{d}}{2||r||^2})$ 、
(9-1)式に、 (9-5),(9-6)式を代入すると、
$(9-7)\hspace{50pt}\phi(\vec r)=\frac{q \vec{r}\cdot\vec{d}}{4 \pi \varepsilon_0 ||r||^3} $
上の式で、$\vec{p}=q \vec{d}$ (-qからqへのベクトルを$\vec{d}$ とする) と置き一対の電荷-q、q の作る双極子モーメントと呼ぶ。これを用いると、双極子が離れた点$\vec{r}$に作る電位は、
  $ (9-8)\hspace{50pt} \phi(\vec r)=\frac{ \vec{r}\cdot\vec{p}}{4 \pi \varepsilon_0 ||r||^3} $

等電位面

電位の等しい点をつないで出来る面を等電位面という。等電位面と電気力線は直交していることが示せる。導体のすぐ外側の電界は、導体表面に垂直である。理由を考えてみてください。

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